説明

フッ化物蛍光体及びそれを用いた発光装置

【課題】 発光強度の高い赤色発光のフッ化物蛍光体及びそれを用いた発光装置を提供することを目的とする。
【解決手段】 4価Mnで付活された、KNa[M1−aMn4+][BF(ただし、Kはカリウム、Naはナトリウム、Bはホウ素、Fはフッ素であり、MはTi、Zr、Hfの第4族元素及びC、Si、Ge、Snの第14族元素から選ばれる少なくとも1種以上である。x、y、a、bは、0.6≦x≦1.5、0.9≦y≦1.6、0<a≦0.2、0.2≦b≦1.0である。)で表されるフッ化物蛍光体である。フッ化物蛍光体は、CuのKα線を用いた粉末X線回折測定(XRD)において、21.6°〜22.1°、27.7°〜28.2°、29.3°〜29.8°、39.0〜39.5°のいずれかに最大ピークを示し、かつ、それぞれの強度が最大ピークの1/3以上の強度を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光ダイオード、ディスプレイ、液晶用バックライト等に使用されるフッ化物蛍光体及びそれを用いた発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
発光ダイオード(Light emitting diode:LED)は、白熱灯のような他の光源の代用品としてよく使用される発光装置である。発光ダイオードはディスプレイ灯、警告灯、表示用、照明用灯として有用である。またレーザー(Laser diode:LD)も発光ダイオードと同様に蛍光体と組み合わせた発光装置が種々提案されている。発光ダイオードもレーザーもともに窒化ガリウム(GaN)のようなIII−V族合金から生産される半導体発光素子である。この半導体発光素子と蛍光体とを組み合わせて白色や電球色、橙色等に発光する発光装置が種々開発されている。これらの白色等に発光する発光装置は、光の混色の原理によって得られる。白色光を放出する方式としては、紫外線を発光する発光素子とRGBに発光する3種の蛍光体とを用いる方式と、青色を発光する発光素子と黄色等を発光する蛍光体とを用いる方式とがよく知られている。青色を発光する発光素子と黄色等を発光する蛍光体とを用いる方式の発光装置は、蛍光ランプ等の照明、車載照明、ディスプレイ、液晶用バックライト等の幅広い分野で求められている。このうち、ディスプレイ用途に用いる蛍光体としては、色度座標上の広範囲の色を再現するために、発光効率と共に色純度が良いことも求められている。特にディスプレイ用途に用いる蛍光体は、フィルターとの組合せの相性が求められ、発光ピークの半値幅の狭い蛍光体が求められている。
【0003】
例えば、青色域に励起帯を有し、発光ピークの半値幅の狭い赤色発光蛍光体として、KTiF、:Mn4+、BaTiF:Mn4+、NaTiF:Mn4+、KZrF:Mn4+等の組成を有するフッ化物蛍光体が知られている(例えば、特許文献1参照)。またKSiF、:Mn4+のフッ化物蛍光体も知られている(例えば、特許文献2参照)。さらにMn4+のフッ化物錯体蛍光体の励起・発光スペクトルと発光機構も知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−528429号公報
【特許文献2】特開2010−209311号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】A. G. Paulusz著 「Effective Mn(IV) Emission in Fluoride Coordination」 J. Electrochemical Soc., 120 N7, 1973, p.942-947
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来においては、発光ピークの半値幅が狭く発光強度の高い赤色発光蛍光体が知られていない。特にディスプレイ用途に好適とされる、発光ピークの半値幅が狭い赤色発光のMn4+付活のフッ化物蛍光体およびそれを用いた発光装置の実用化が望まれているが、従来品では充分な発光特性が得られていない。
【0007】
以上のことから、本発明は従来の問題を解決すべく、発光ピークの半値幅が狭い発光強度の高い赤色発光の蛍光体及びそれを用いた発光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の問題点を解決すべく、本発明者は鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成するに到った。本明細書において、可視光の短波長領域の光は、特に限定されないが400nm〜500nmの領域をいう。
【0009】
本発明は、Mnで付活され、K、Na、M、B、F(Kはカリウム、Naはナトリウム、Bはホウ素、Fはフッ素である。MはTi、Zr、Hfの第4族元素及びC、Si、Ge、Snの第14族元素から選ばれる少なくとも1種である。)を少なくとも含み、CuのKα線を用いた粉末X線回折測定(XRD)において、21.6°〜22.1°、27.7°〜28.2°、29.3°〜29.8°、39.0〜39.5°のいずれかに最大ピークを示し、かつ、それぞれの強度が前記最大ピークの1/3以上の強度を有するフッ化物蛍光体に関する。これにより、可視光の短波長側の光に励起されて赤色域に発光する、発光強度の高いフッ化物蛍光体を提供することができる。また、発光ピークの半値幅の狭い発光スペクトルを有するフッ化物蛍光体を提供することができる。
【0010】
本発明は、4価Mnで付活された、以下の一般式で表されるフッ化物蛍光体。
【0011】
Na[M1−aMn4+][BF
(ただし、Kはカリウム、Naはナトリウム、Bはホウ素、Fはフッ素であり、MはTi、Zr、Hfの第4族元素及びC、Si、Ge、Snの第14族元素から選ばれる少なくとも1種以上である。x、y、a、bは、0.6≦x≦1.5、0.9≦y≦1.6、0<a≦0.2、0.2≦b≦1.0である。)
これにより、可視光の短波長側の光に励起されて赤色域に発光する、発光強度の高いフッ化物蛍光体を提供することができる。また、発光ピークの半値幅の狭い発光スペクトルを有するフッ化物蛍光体を提供することができる。
【0012】
前記フッ化物蛍光体は、空間群Imm2に属する斜方晶系の結晶構造を有することが好ましい。これにより発光強度の高いフッ化物蛍光体を提供することができる。
【0013】
前記Mは、Si、又は、Si及びGe、であることが好ましい。これにより発光強度の高いフッ化物蛍光体を提供することができる。
【0014】
本発明は、可視光の短波長側の光を発する光源と、該光を吸収して赤色に発光する前記フッ化物蛍光体と、を有する発光装置に関する。特に、ディスプレイ用途において、発光ピークの半値幅が狭く、発光強度の高いフッ化物蛍光体を用いるのが好ましい。これにより、より鮮明な赤色を発光する発光装置を提供することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、以上説明したように構成されているので、発光特性の良い、発光強度に優れた赤色発光蛍光体を得ることができる。また、発光ピークの半値幅が狭い赤色発光蛍光体を提供することができる。さらに、フッ化物蛍光体を用いることで、従来よりも色再現範囲が広く、発光特性に優れた発光装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る発光装置の概略断面図を示す。
【図2】本発明に係る発光装置の概略平面図を示す。
【図3】比較例1に係るフッ化物蛍光体のX線回折図を示す。
【図4】比較例2に係るフッ化物蛍光体のX線回折図を示す。
【図5】実施例1に係るフッ化物蛍光体のX線回折図を示す。
【図6】実施例4に係るフッ化物蛍光体のX線回折図を示す。
【図7】実施例4に係るフッ化物蛍光体の発光スペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係るフッ化物蛍光体及びその製造方法を、実施の形態及び実施例を用いて説明する。だたし、本発明は、この実施の形態及び実施例に限定されない。
【0018】
<第1の実施の形態>
<発光装置>
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。ただし、以下に示す実施の形態は、本発明の技術思想を具体化するための、蛍光体及びこれを用いた発光装置並びに蛍光体の製造方法を例示するものであって、本発明は、蛍光体及びこれを用いた発光装置並びに蛍光体の製造方法を以下のものに特定しない。なお、特許請求の範囲に示される部材を、実施の形態の部材に特定するものでは決してない。特に実施の形態に記載されている構成部材の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。なお、各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため誇張していることがある。さらに以下の説明において、同一の名称、符号については同一もしくは同質の部材を示しており、詳細説明を適宜省略する。さらに、本発明を構成する各要素は、複数の要素を同一の部材で構成して一の部材で複数の要素を兼用する態様としてもよいし、逆に一の部材の機能を複数の部材で分担して実現することもできる。また、一部の実施例、実施形態において説明された内容は、他の実施例、実施形態等に利用可能なものもある。
【0019】
なお色名と色度座標との関係、光の波長範囲と単色光の色名との関係等は、JIS Z8110に従う。具体的には、380nm〜455nmが青紫色、455nm〜485nmが青色、485nm〜495nmが青緑色、495nm〜548nmが緑色、548nm〜573nmが黄緑色、573nm〜584nmが黄色、584nm〜610nmが黄赤色、610nm〜780nmが赤色である。本明細書において、可視光の短波長領域の光は、特に限定されないが400nm〜500nmの領域をいう。
【0020】
実施の形態に係る蛍光体を用いた発光装置について説明する。本発明に係るフッ化物蛍光体は、従来の発光装置に使用することができる。従来の発光装置には、例えば蛍光ランプ等の照明器具、ディスプレイやレーダ等の表示装置、液晶用バックライト等が挙げられるが、本発明に係るフッ化物蛍光体はディスプレイ用途に用いることが好ましい。このうち、励起光源として可視光の短波長領域の光を放つ発光素子を備えた発光装置を使用することができる。励起光源を蛍光体が含有された封止樹脂で覆う発光装置では、励起光源から出射された光が蛍光物質に吸収されずに透過し、この透過した光が封止樹脂から外部に放出される。励起光源に可視光の短波長側の光を用いると、この外部に放射される光を有効に利用することができる。よって発光装置から出射される光の損失を少なくすることができ、高効率の発光装置を提供することができる。
【0021】
発光素子を搭載した発光装置には、砲弾型や表面実装型など種々の形式がある。一般に砲弾型とは、外面を構成する樹脂の形状を砲弾型に形成したものを指す。また表面実装型とは、凹状の収納部内に発光素子及び樹脂を充填して形成されたものを示す。さらに平板状の実装基板上に発光素子を実装し、その発光素子を覆うように、蛍光体を含有した封止樹脂をレンズ状等に形成したものなどもある。
【0022】
一例として、フッ化物蛍光体を用いた発光装置を説明する。図1は、本発明に係る発光装置の概略断面図を示す。図2は、本発明に係る発光装置の概略平面図を示す。この発光装置は、表面実装型発光装置の一例である。
【0023】
発光装置100は、可視光の短波長側の光を発する窒化ガリウム系化合物半導体の発光素子10と、発光素子10を載置する成形体40と、を有する。成形体40は第1のリード20と第2のリード30とを有しており、熱可塑性樹脂若しくは熱硬化性樹脂により一体成形されている。成形体40は底面と側面を持つ凹部が形成されており、凹部の底面に発光素子10が載置されている。発光素子10は一対の正負の電極を有しており、その一対の正負の電極は第1のリード20及び第2のリード30とワイヤ60を介して電気的に接続されている。発光素子10は封止部材50により封止されている。封止部材50はエポキシ樹脂やシリコーン樹脂、エポキシ変性シリコーン樹脂、変成シリコーン樹脂等の熱硬化性樹脂を用いることが好ましい。封止部材50は発光素子10からの光を波長変換するフッ化物蛍光体70を含有している。
【0024】
以下、各構成要素について説明する。
【0025】
(発光素子)
発光素子は、可視光の短波長領域の光を発するものを使用することができる。特に、420nm〜485nmの範囲が好ましい。一層好ましくは440nm〜480nmに発光ピーク波長を有するものである。これにより、フッ化物蛍光体を効率よく励起し、可視光を有効活用することができるからである。当該範囲の励起光源を用いることにより、発光強度の高いフッ化物蛍光体を提供することができるからである。また、励起光源に発光素子を利用することによって、高効率で入力に対する出力のリニアリティが高く、機械的衝撃にも強い安定した発光装置を得ることができる。可視光の短波長側領域の光は、主に青色光領域となる。
【0026】
(蛍光体)
フッ化物蛍光体は、Mnで付活され、K、Na、M、B、F(Kはカリウム、Naはナトリウム、Bはホウ素、Fはフッ素である。MはTi、Zr、Hfの第4族元素及びC、Si、Ge、Snの第14族元素から選ばれる少なくとも1種である。)を少なくとも含み、CuのKα線を用いた粉末X線回折測定(XRD)において、21.6°〜22.1°、27.7°〜28.2°、29.3°〜29.8°、39.0〜39.5°のいずれかに最大ピークを示し、かつ、それぞれの強度が前記最大ピークの1/3以上の強度、より好ましくは1/2以上の強度、を有するものである。
【0027】
また、フッ化物蛍光体は、4価Mnで付活され、KNa[M1−aMn4+][BF(ただし、Kはカリウム、Naはナトリウム、Bはホウ素、Fはフッ素であり、MはTi、Zr、Hfの第4族元素及びC、Si、Ge、Snの第14族元素から選ばれる少なくとも1種以上である。x、y、a、bは、0.6≦x≦1.5、0.9≦y≦1.6、0<a≦0.2、0.2≦b≦1.0である。)で表されるものである。また、x、y、a、bは、それぞれ1.0≦x≦1.4、1.2≦y≦1.5、0<a≦0.05、0.3≦b≦0.6とすることが好ましい。
【0028】
これらのフッ化物蛍光体は、空間群Imm2に属する斜方晶系の結晶構造を有するものが好ましい。この斜方晶系の結晶構造を有するフッ化物蛍光体は、封止部材中のフッ化物蛍光体に対し、70質量%、好ましくは80質量%以上含有することが好ましい。
【0029】
また、Mは、Si、又は、Si及びGe、であることが好ましい。ただし、Si、Geの一部をTi、Zr、Hfの第4族元素及びC、Snの第14族元素で置換することもできる。
【0030】
(発光スペクトル)
フッ化物蛍光体は、可視光の短波長側の光を吸収して、励起光の発光ピーク波長よりも長波長側に蛍光体の発光ピーク波長を有する。可視光の短波長側領域の光は、主に青色光領域が好ましい。具体的には400nm〜500nmに発光ピーク波長を有する励起光源からの光により励起され、610nm〜650nmの波長の範囲に発光ピーク波長を有し、その発光スペクトルの半値幅は2nm以上,10nm以下であることが好ましい。励起光源には420nm〜485nmに主発光ピーク波長を有する光源を用いることが好ましく、更に440nm〜480nmに発光ピーク波長を有する光源を用いることが好ましい。
【0031】
(X線回折測定)
フッ化物蛍光体は、CuのKα線を用いた粉末X線回折測定(XRD)において、21.6°〜22.1°、27.7°〜28.2°、29.3°〜29.8°、39.0〜39.5°のいずれかに最大ピークを示し、かつ、それぞれの強度が前記最大ピークの1/3以上の強度、より好ましくは1/2以上の強度、を有するものである。
【0032】
(他の蛍光体)
本発明に係るフッ化物蛍光体は、単独で用いることもできるが、他の蛍光体と組み合わせて使用することもできる。他の蛍光体は、発光素子からの光を吸収し異なる波長の光に波長変換するものであればよい。例えば、Eu、Ce等のランタノイド系元素で主に付活される窒化物系蛍光体・酸窒化物系蛍光体・サイアロン系蛍光体、Eu等のランタノイド系、Mn等の遷移金属系の元素により主に付活されるアルカリ土類ハロゲンアパタイト蛍光体、アルカリ土類金属ホウ酸ハロゲン蛍光体、アルカリ土類金属アルミン酸塩蛍光体、アルカリ土類ケイ酸塩、アルカリ土類硫化物、アルカリ土類チオガレート、アルカリ土類窒化ケイ素、ゲルマン酸塩、又は、Ce等のランタノイド系元素で主に付活される希土類アルミン酸塩、希土類ケイ酸塩又はEu等のランタノイド系元素で主に付活される有機及び有機錯体等から選ばれる少なくともいずれか1以上であることが好ましい。例えば、(Ca,Sr,Ba)SiO:Eu、(Y,Gd)(Ga,Al)12:Ce、(Ca,Sr)Si:Eu、CaAlSiN:Eu、(Ca,Sr)AlSiN:Euなどである。
【0033】
これにより種々の色調の発光装置を提供することができる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例1〜11、比較例1、2に係るフッ化物蛍光体について説明する。
【0035】
表1は、実施例1〜5、比較例1、2に係るフッ化物蛍光体の原料の仕込み量を示す。表2は、実施例1〜5、比較例1、2に係るフッ化物蛍光体の輝度特性、分析値(mol比)、XRDのピーク強度比(%)を示す。図3は、比較例1に係るフッ化物蛍光体のX線回折図を示す。図4は、比較例2に係るフッ化物蛍光体のX線回折図を示す。図5は、実施例1に係るフッ化物蛍光体のX線回折図を示す。図6は、実施例4に係るフッ化物蛍光体のX線回折図を示す。図7は、実施例4に係るフッ化物蛍光体の発光スペクトルを示す。
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【0038】
(比較例1)
比較例1に係るフッ化物蛍光体を、以下の方法により作製した。
【0039】
表に示す仕込み組成比となるように、まずKMnFを2.34g秤量し、47%HF水溶液200gに溶解した後、40%HSiF水溶液30.67g及び42%HBF水溶液19.79gを添加し溶液Aを作成した。一方でKHFを20.68g秤量し、それを47%HF水溶液150gに溶解させ溶液Bを作成した。仕込み組成比においてSi+Mn=2.0molとする。溶液Aを撹拌しながら溶液Bを加えていき、得られた沈殿物を分離後、IPA洗浄を行い、70℃で10時間乾燥することで比較例1のフッ化物蛍光体を作製した。
【0040】
得られた比較例1のフッ化物蛍光体のX線回折パターンより、KSiF:MnとKBF:Mnの混合物であることが確認出来た。
【0041】
(比較例2)
比較例2に係るフッ化物蛍光体は、以下の方法により作製した。
【0042】
表に示す仕込み組成比となるように、まずKMnFを2.34g秤量し、47%HF水溶液200gに溶解した後、40%HSiF水溶液30.67g及び42%HBF水溶液19.79gを添加し溶液Aを作成した。一方でNaHFを16.42g秤量し、それを47%HF水溶液200gに溶解させ溶液Bを作成した。仕込み組成比においてSi+Mn=2.0molとする。溶液Aを撹拌しながら溶液Bを加えていき、得られた沈殿物を分離後、IPA洗浄を行い、70℃で10時間乾燥することで比較例2のフッ化物蛍光体を作製した。
【0043】
得られた比較例2のフッ化物蛍光体のX線回折パターンより、NaSiF:Mnであることが確認出来た。
【0044】
(実施例1)
実施例1に係るフッ化物蛍光体は、以下の方法により作製した。
【0045】
表に示す仕込み組成比となるように、まずKMnFを2.34g秤量し、47%HF水溶液200gに溶解した後、40%HSiF水溶液30.67g及び42%HBF水溶液19.79gを添加し溶液Aを作成した。一方でKHFを9.60g及びNaHFを8.80g秤量し、それを47%HF水溶液150gに溶解させ溶液Bを作成した。仕込み組成比においてSi+Mn=2.0molとする。溶液Aを撹拌しながら溶液Bを加えていき、得られた沈殿物を分離後、IPA洗浄を行い、70℃で10時間乾燥することで実施例1のフッ化物蛍光体を作製した。
【0046】
得られた実施例1のフッ化物蛍光体のX線回折パターンにより、KBF:MnやKSiF:Mnなどの副相を含むものの、KNaSiF:Mnとも異なる結晶相を有していることが確認出来た。
【0047】
実施例1のフッ化物蛍光体について組成分析を行った結果、K1.31Na0.99[Si0.99Mn4+0.01][BF0.66であると推測される。また、Bが検出されたことからBFを含む組成であることが示唆された。
【0048】
(実施例2)
表に示す仕込み組成比、仕込み量を変えた以外、実施例2のフッ化物蛍光体は実施例1のフッ化物蛍光体と同様の方法で作製した。仕込み組成比においてSi+Mn=2.0molとする。
【0049】
得られた実施例2のフッ化物蛍光体のX線回折パターンにより、わずかにKBF:Mn相を含むものの、単一相に近いXRDパターンとなっていた。
【0050】
実施例2のフッ化物蛍光体について組成分析を行った結果、K1.36Na1.33[Si0.99Mn4+0.01][BF0.60であると推測される。また、Bが検出されたことからBFを含む組成であることが示唆された。
【0051】
(実施例3)
表に示す仕込み組成比、仕込み量を変えた以外、実施例3のフッ化物蛍光体は実施例1のフッ化物蛍光体と同様の方法で作製した。仕込み組成比においてSi+Mn=3.0molとする。
【0052】
得られた実施例3のフッ化物蛍光体のX線回折パターンにより、わずかにKSiF:Mn相などの副相を含むXRDパターンとなっていた。
【0053】
実施例3のフッ化物蛍光体について組成分析を行った結果、K1.40Na1.27[Si0.99Mn4+0.01][BF0.56であると推測される。また、Bが検出されたことからBFを含む組成であることが示唆された。
【0054】
(実施例4)
表に示す仕込み組成比、仕込み量を変えた以外、実施例4のフッ化物蛍光体は実施例1のフッ化物蛍光体と同様の方法で作製した。仕込み組成比においてSi+Mn=3.0molとする。
【0055】
得られた実施例4のフッ化物蛍光体のX線回折パターンにより、副相をほとんど含まない、単一相に近いXRDパターンとなっていた。
【0056】
実施例4のフッ化物蛍光体について組成分析を行った結果、K1.22Na1.41[Si0.99Mn4+0.01][BF0.46であると推測される。また、Bが検出されたことからBFを含む組成であることが示唆された。
【0057】
(実施例5)
表に示す仕込み組成比、仕込み量を変えた以外、実施例5のフッ化物蛍光体は実施例1のフッ化物蛍光体と同様の方法で作製した。仕込み組成比においてSi+Mn=3.0molとする。
【0058】
得られた実施例5のフッ化物蛍光体のX線回折パターンにより、わずかにKSiF:Mn相を含むものの、単一相に近いXRDパターンとなっていた。
【0059】
実施例5のフッ化物蛍光体について組成分析を行った結果、K0.67Na1.55[Si0.99Mn4+0.01][BF0.23であると推測される。また、Bが検出されたことからBFを含む組成であることが示唆された。
【0060】
(実施例6〜8)
表3は、実施例6〜8に係るフッ化物蛍光体の原料の仕込み量を示す。表4は、実施例6〜8に係るフッ化物蛍光体の輝度特性、分析値(mol比)、XRDのピーク強度比(%)を示す。仕込み組成比においてSi+Ge+Mn=3.0molとする。実施例6においてSiに対するGeの比率はGe/(Si+Ge)=0.1、実施例7においてSiに対するGeの比率はGe/(Si+Ge)=0.25、実施例8においてSiに対するGeの比率はGe/(Si+Ge)=0.50である。
【0061】
【表3】

【0062】
【表4】

【0063】
実施例1における溶液Aの40%HSiF水溶液の代わりに一部40%HGeF水溶液を用いた。表に示す仕込み組成比、仕込み量を変えた以外、実施例6〜8のフッ化物蛍光体は実施例1のフッ化物蛍光体と同様の方法で作製した。
【0064】
実施例6〜8のフッ化物蛍光体について組成分析を行った結果、母体中にGeが一部導入されていることが確認された。実施例6のフッ化物蛍光体は、K1.15Na1.35[Si0.94Ge0.05Mn4+0.01][BF0.43、実施例7のフッ化物蛍光体は、K1.13Na1.30[Si0.89Ge0.10Mn4+0.01][BF0.47、実施例8のフッ化物蛍光体は、K1.33Na1.40[Si0.73Ge0.25Mn4+0.02][BF0.83であると推測される。また、Bが検出されたことからBFを含む組成であることが示唆された。
【0065】
(実施例9〜11)
表5は、実施例9〜11に係るフッ化物蛍光体の原料の仕込み量を示す。表6は、実施例9〜11に係るフッ化物蛍光体の輝度特性、分析値(mol比)、XRDのピーク強度比(%)を示す。仕込み組成比においてSi+Mn=2.0molとする。
【0066】
【表5】

【0067】
【表6】

【0068】
表に示す仕込み組成比、仕込み量を変えた以外、実施例9〜11のフッ化物蛍光体は実施例1のフッ化物蛍光体と同様の方法で作製した。
【0069】
実施例9〜11のフッ化物蛍光体について組成分析を行った結果、実施例9のフッ化物蛍光体は、K1.26Na1.31[Si0.99Mn4+0.01][BF0.44、実施例10のフッ化物蛍光体は、K1.30Na1.29[Si0.97Mn4+0.03][BF0.51、実施例11のフッ化物蛍光体は、K1.22Na1.35[Si0.98Mn4+0.02][BF0.53であると推測される。また、Bが検出されたことからBFを含む組成であることが示唆された。
【0070】
(測定結果)
得られた実施例1〜11、比較例1、2に係るフッ化物蛍光体について、発光輝度の測定を行った。その発光輝度の測定結果は上記表の通りである。実施例1〜11に係るフッ化物蛍光体を発光ピーク波長が約460nmの光で励起させたところ、比較例1、2とは異なる、色度座標(x、y)において(x、y)=(0.675、0.314)付近の赤色領域に発光を示した。
【0071】
また、LY(%)はYAG基準品(100%)に対する相対輝度を示す。
【0072】
また、CuのKα線を用いた粉末X線回折測定(XRD)において、実施例1〜12のフッ化物蛍光体は、21.6°〜22.1°、27.7°〜28.2°、29.3°〜29.8°、39.0〜39.5°のいずれかに最大ピークを示している。実施例1では27.7°〜28.2°に最大ピークを示しているのに対し、実施例2では21.6°〜22.1°に最大ピークを有している。また、実施例1〜12のフッ化物蛍光体は、21.6°〜22.1°、27.7°〜28.2°、29.3°〜29.8°、39.0〜39.5°のそれぞれの強度が最大ピークの1/3以上の強度、特に1/2以上の強度を有している。一方、比較例1、2は21.6°〜22.1°、27.7°〜28.2°、29.3°〜29.8°、39.0〜39.5°のいずれにもピークを有していないため、実施例とは異なる結晶構造をしている。
【0073】
実施例1〜11のフッ化物蛍光体は、空間群Imm2に属する斜方晶系の結晶構造を有している。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明に係るフッ化物蛍光体及びこれらを用いた発光装置は、蛍光表示管、ディスプレイ、PDP、CRT、FL、FEDおよび投射管等、特に青色発光ダイオードを光源とする発光特性に極めて優れたバックライト光源、LEDディスプレイ、白色の照明用光源、信号機、照明式スイッチ、各種センサ及び各種インジケータ等に利用でき、特にディスプレイ用途において優れた発光特性を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mnで付活され、K、Na、M、B、F(Kはカリウム、Naはナトリウム、Bはホウ素、Fはフッ素である。MはTi、Zr、Hfの第4族元素及びC、Si、Ge、Snの第14族元素から選ばれる少なくとも1種である。)を少なくとも含み、
CuのKα線を用いた粉末X線回折測定(XRD)において、21.6°〜22.1°、27.7°〜28.2°、29.3°〜29.8°、39.0〜39.5°のいずれかに最大ピークを示し、かつ、それぞれの強度が前記最大ピークの1/3以上の強度を有するフッ化物蛍光体。
【請求項2】
4価Mnで付活された、以下の一般式で表されるフッ化物蛍光体。
Na[M1−aMn4+][BF
(ただし、Kはカリウム、Naはナトリウム、Bはホウ素、Fはフッ素であり、MはTi、Zr、Hfの第4族元素及びC、Si、Ge、Snの第14族元素から選ばれる少なくとも1種以上である。x、y、a、bは、0.6≦x≦1.5、0.9≦y≦1.6、0<a≦0.2、0.2≦b≦1.0である。)
【請求項3】
空間群Imm2に属する斜方晶系の結晶構造を有する請求項1又は2に記載のフッ化物蛍光体。
【請求項4】
前記Mは、Si、又は、Si及びGe、である請求項1乃至3のいずれか一項に記載のフッ化物蛍光体。
【請求項5】
可視光の短波長側の光を発する光源と、該光を吸収して赤色に発光する請求項1乃至4のいずれか一項に記載のフッ化物蛍光体と、を有する発光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−60506(P2013−60506A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−198942(P2011−198942)
【出願日】平成23年9月13日(2011.9.13)
【出願人】(000226057)日亜化学工業株式会社 (993)
【Fターム(参考)】