説明

フッ化金属単結晶の製造方法

【課題】大口径且つ長尺の育成結晶体の上部域から下部域の全域に亘って、レーザー光照射による透過率の低下が抑制された、即ちレーザー耐性の高い高品質の光学特性を有する結晶を、歩止まりが高く、しかも大型の結晶を製造できる工業的価値が高い方法を提供する。
【解決手段】炉内に原料フッ化金属と固体含金属スカベンジャとを収容し、炉内を昇温し原料フッ化金属を溶融させ、次いで溶融したフッ化金属を単結晶化するフッ化金属単結晶の製造方法において、前記固体含金属スカベンジャを、原料フッ化金属の融点以上の温度に保持される炉内の高温部位と、溶融したフッ化金属を単結晶化する工程を通じて、固体含金属スカベンジャの融点以上乃至原料フッ化金属の融点未満、例えば「原料フッ化金属の融点−150℃」以下の保持される炉内の低温部位とに分割して収容、好ましくは、低温部位/高温部位の質量比率が0.3〜1.0となるように収容することを特徴とするフッ化金属単結晶の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体リソグラフィー用光学レンズ等の光学材料などに用いられるフッ化金属単結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ化カルシウム等の単結晶は、真空紫外から赤外領域までの広範囲の波長帯域にわたって高い透過性と低屈折率・低分散を有し、化学的安定性にも優れていることから、広範囲な領域での光学材料として、窓材、レンズ、プリズムなどに用いられている。とりわけ、光リソグラフィー技術において、次世代の短波長光源として開発が進められているArFレーザ(193nm)やF2レーザ(157nm)光源を使用するステッパー(縮小投影型露光装置)などの、窓材、光源系レンズ、照明系レンズ、投影系レンズとして期待が寄せられている。
【0003】
このような高精細ステッパーに用いるレンズには、高い結像性能(解像度、焦点深度)が求められる。このため、レンズに用いる材料は、残留応力・歪(複屈折分布)が小さい、光線透過率が高い、レーザー耐性が高い、光散乱点が少ないなど高度の光学特性が要求される。
残留応力・歪が大きい場合は、これに起因して応力複屈折や屈折率の面内のばらつきが大きくなり、ステッパーの投影系レンズなどの極めて厳密な光学特性を要求される用途には適さなくなる。光散乱点が多いと、光散乱による透過率の低下、コントラストの低下、フレアやゴーストの発生に繋がり、材料の特性を大きく低下させ、同様に、高度の光学特性を要求される光学材料には適さなくなる。また、光源系レンズには、レーザーの繰返し照射による透明性の低下防止(レーザー耐性)が要求される。
【0004】
上記フッ化金属単結晶の光学特性を損なわせる原因の一つに、溶融原料、結晶育成炉内の様々な部材等に付着した、或いはリークに起因する酸素や水の存在が考えられている。例えば、フッ化金属単結晶中に不純物として酸素が存在すると短波長側に吸収を生じる。特に真空紫外域で使用する場合には、単に透過率が低下するのみならず、レーザー光の照射によりこの透過率そのものが徐々に低下していく(レーザー耐性が劣る)という問題が生じ、光学特性への影響が極めて大きいとされている。
このような水や酸素等の不純物を除去する目的でスカベンジャなるものがフッ化金属単結晶の製造工程において使用され、種々の工夫がなされている。例えば、溶融育成前に原料フッ化金属をフッ素含有ガスと接触させて原料表面に吸着されている不純物をフッ素で置換する技術(特許文献1)、原料フッ化金属の前処理工程およびこの前処理原料を使用して結晶育成する工程において、沸点が比較的低いフッ化銅やフッ化銀をスカベンジャとして用いる技術(特許文献2)、原料精製、結晶育成およびアニール工程において、固体スカベンジャと気体スカベンジャを併用する技術(特許文献3)、更にはフッ化カルボニルからなる新たな気体スカベンジャも開発されている(特許文献4)。
【0005】
これらスカベンジャのうち、フッ素化炭化水素等のフッ素含有ガスを気体スカベンジャとして用いた場合、フッ素化炭化水素は高温で分解して炭素ポリマーを生じ、該炭素ポリマーが原料溶融液の上に付着(浮遊)などして単結晶成長を阻害するという問題が起きやすいという課題がある。
一方、固体含金属スカベンジャは結晶育成炉の坩堝内において原料フッ化金属と混合した状態で使用されるため、スカベンジャ由来の金属が製品のフッ化金属単結晶中に残存することが避けられない。この残存は、真空紫外域での透過率の低下やレーザー光照射にともなう透過率の徐々なる低下を生じさせ、特にステッパーなどのレンズ材として使用する場合には大きな問題であった。
上記問題を解決する手段の一つとして、高真空下に結晶育成して余剰の固体含金属スカベンジャやスカベンジャとの反応生成物が単結晶中に取り込まれることを防ぐ方法がある。しかしながら、結晶育成法の一つであるチョクラルスキー法(単結晶引上げ法)は様々な要因により高真空下での結晶育成が困難であり、通常常圧〜0.5kPa程度の圧力下で育成されるため好適な解決手段とはなりえなかった。
【0006】
そこで、本願発明者らは、固体含金属スカベンジャをフッ化金属原料と一緒に溶融して使用するのではなく、育成炉内のフッ化金属溶融液の近傍のホットゾーンと称される場所に独立して固体含金属スカベンジャを存在させて、結晶育成する技術を提案した(特許文献5)。しかしながら、当該技術においては、結晶育成初期の段階で固体含金属スカベンジャが消費されやすくスカベンジャの除去効果が必ずしも持続せず、得られた育成結晶の下部域(育成後半)の結晶が特にレーザー耐性が十分でないという現象が生じやすいことが分かった。除去効果を持続するために、固体含金属スカベンジャの使用量を多くすると結晶中にスカベンジャ由来の金属が残存しやすくなり、初期の問題に立ち返ってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−315255
【特許文献2】特開2001−19586
【特許文献3】特開2003−221297
【特許文献4】WO2009/139473
【特許文献5】特開2009−40630
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本願発明者らは、上記固体含金属スカベンジャをフッ化金属と一緒に混合、溶融せずに、別個に存在させて結晶育成を行う技術を更に追求し、先に提案した技術の上記問題点を解決することを試みた。その結果、固体含金属スカベンジャを炉内の高温部位と低温部位に分割して存在させることにより、当該課題を解決しうることを見出し、本願発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0009】
即ち、本発明により、
炉内に原料フッ化金属と固体含金属スカベンジャとを収容し、炉内を昇温し原料フッ化金属を溶融させ、次いで溶融したフッ化金属を単結晶化するフッ化金属単結晶の製造方法において、前記固体含金属スカベンジャを、原料フッ化金属の融点以上の温度に保持される炉内の高温部位と、溶融したフッ化金属を単結晶化する工程を通じて、固体含金属スカベンジャの融点以上乃至原料フッ化金属の融点未満に保持される炉内の低温部位とに分割して収容することを特徴とするフッ化金属単結晶の製造方法
が提供される。
上記発明において、
(1)溶融したフッ化金属を単結晶化する工程を通じて、前記低温部位の温度が、固体含金属スカベンジャの融点以上乃至「原料フッ化金属の融点−150℃」以下の範囲であること、
(2)低温部位の温度変化が50℃以下であること、
(3)フッ化金属単結晶の製造に使用される固体含金属スカベンジャの総量が、原料フッ化金属100質量部に対して0.01〜0.1質量部の範囲であり、且つ、高温部位と低温部位とに分割して収容される固体含金属スカベンジャの収容質量比率〔低温部位/高温部位〕が0.3〜1.0の範囲にあること
が好適である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法によれば、大口径且つ長尺の育成結晶体の上部域から下部域の全域に亘って、レーザー光照射による透過率の低下が抑制された、即ちレーザー耐性の高い高品質の光学特性を有する結晶を得ることができる。その結果、結晶育成の歩止まりが高く、しかも大型の結晶を製造でき、その工業的価値は極めて高い。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】代表的な結晶育成炉の概略断面図である。
【図2】固体含金属スカベンジャの高温部位収納容器の一例を示す図である。
【図3】固体含金属スカベンジャの高温部位収納態様の一例を示す図である。
【図4】固体含金属スカベンジャの高温部位収納態様の一例を示す図である。
【図5】固体含金属スカベンジャの高温部位収納態様の一例を示す図である。
【図6】固体含金属スカベンジャの高温部位収納態様の一例を示す図である。
【図7】固体含金属スカベンジャの低温部位収納態様の一例を示す図である。
【図8】固体含金属スカベンジャの低温部位収納態様の一例を示す図である。
【図9】固体含金属スカベンジャの低温収納容器の代表的な例を示す図である。
【図10】実施例1の吸光度の差スペクトル図である。
【図11】実施例2の吸光度の差スペクトル図である。
【図12】実施例3の吸光度の差スペクトル図である。
【図13】実施例4の吸光度の差スペクトル図である。
【図14】実施例5の吸光度の差スペクトル図である。
【図15】比較例1の吸光度の差スペクトル図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
〔対象フッ化金属単結晶〕
本発明の製造方法は、固体含金属スカベンジャによって酸素等の不純物の除去を目的とするフッ化金属単結晶に適用可能である。当該フッ化金属としては、フッ化カルシウム、フッ化マグネシウム、フッ化ストロンチウム、フッ化バリウム、フッ化リチウム、フッ化アルミニウム、フッ化セリウム、フッ化ランタンなどの単金属からなるフッ化金属;BaLiF、KMgF、LiCaAlF、LiSrAlFなどの複数の金属元素を含むフッ化金属が挙げられる。これらの中で、本発明の効果が顕著に発揮され、且つ得られた単結晶の工業的価値が高いという点で、フッ化アルカリ土類金属、なかでもフッ化カルシウムおよびフッ化バリウムの単結晶の製造に好適に採用される。
【0013】
〔固体含金属スカベンジャ〕
本発明において使用する固体含金属スカベンジャ(常温で固体状のスカベンジャを云う)は、製造対象のフッ化金属に合わせて公知の固体含金属スカベンジャから適宜選択される。
該固体含金属スカベンジャとしては、フッ化アルミニウム(AlF)、フッ化亜鉛(PbF)、フッ化鉛(ZnF)、フッ化銀(AgF)、フッ化銅(CuF)、フッ化マンガン(MnF)フッ化ナトリウム(LiNa)、フッ化リチウム(LiF)などが挙げられる。具体的には、例えば、フッ化カルシウムやフッ化マグネシウムの単結晶を製造する場合は、フッ化亜鉛、フッ化鉛、フッ化銀、フッ化銅などが使用され、酸素等の除去効果と取り扱いの容易性の観点から、フッ化亜鉛或いはフッ化鉛が好ましく、特にフッ化亜鉛が好ましく使用される。これらの固体含金属スカベンジャは、必要に応じて二種以上を併用してもよい。
【0014】
〔結晶育成〕
本発明の製造方法は、溶融した原料フッ化金属を単結晶化する結晶育成工程において、 前記固体含金属スカベンジャを、原料フッ化金属の融点以上の温度に保持される炉内の高温部位と、原料フッ化金属の融点未満乃至固体含金属スカベンジャの融点以上に保持される炉内の低温部位とに分割して収容することに特徴がある。
当該結晶育成方法としては、前出の単結晶引上げ法(チョクラルスキー法)、坩堝降下法(ブリッジマン法)などがあり何ら制限されるものではないが、本発明は、固体含金属スカベンジャ由来金属の除去が困難なチョクラルスキー法においてより好ましく適用できる。
【0015】
以下、チョクラルスキー法によってフッ化金属単結晶を製造する方法を例として、具体的に説明する。
図1に、チョクラルスキー法に使用する単結晶育成炉の断面模式図を示す。図1に示す育成炉では、原料フッ化金属を溶融させる坩堝が外坩堝(1)と内坩堝(2)からなる二重構造坩堝であり、該内坩堝(2)の壁部(底壁及び/又は側壁)には、該壁部を貫通して内坩堝内と外坩堝内との間で原料フッ化金属溶融液の流通が可能な貫通孔(3)が設けられている。結晶を引き上げると、引き上げた結晶量に相当する分だけ、坩堝内の原料溶融液が減少、即ち、坩堝内における原料溶融液面が低下する。図示した態様では内坩堝は所定の位置(高さ)に固定されており、原料溶融液面の相対的な下降分に相当するだけ外坩堝を上昇させる。これにより内坩堝内の原料溶融液を一定とし、原料溶融液面(=結晶成長界面)位置が変化しないようにすることが可能である。
【0016】
外坩堝の上昇は、上下動及び回転が可能な外坩堝支持軸(4)により行われる(該上下動及び回転を可能とする機構は図示せず)。なお図1においては、外坩堝(1)は受け台(5)上に設置されており、外坩堝支持軸(4)は、直接には該受け台(5)を上下動及び回転させる。坩堝の加熱は、ヒーター(6)により行われる。通常、単結晶育成炉のチャンバー(7)と該ヒーター(6)の間には、断熱材壁(8)が、ヒーター(6)を環囲するように配置され、さらに通常は、断熱材壁は坩堝の下方にも設けられ、また上方には天井板(8a)が設けられる。図1の育成炉においては、外坩堝(1)の外壁面とヒーター(6)の間には、ヒーターからの輻射熱を均一化する目的で、隔離壁(9)が周設されている。そして、該ヒーター(6)の熱が上方に逃失するのを防止するために、隔離壁(9)の上端をヒーター(6)の上端よりも高くし、該上端と断熱材壁(8)との間に、隔離壁(9)と断熱材壁(8)との間隙を閉塞するリッド材(10)を横架して、この間隙を閉塞させている。
坩堝の中心軸上には、種結晶(11)を保持する種結晶保持具(12)と、該保持具を上下動かつ回転可能に支持する結晶引き上げ軸(13)が配置されている。チョクラルスキー法では通常、坩堝内の十分に溶融した原料に、該保持具(12)に保持された種結晶(11)を接触させた後、回転させながら徐々に引き上げて単結晶体(14)を成長させる。
【0017】
一般にチョクラルスキー法でフッ化金属単結晶を製造する場合には、まず坩堝内に原料フッ化金属を装入・配置し、該原料フッ化金属をヒーター(6)で加熱して原料フッ化金属溶融液とするが、酸素不純物を除去するため、該原料フッ化金属に加えて固体含金属スカベンジャも炉内に装入される。
従来、固体含金属スカベンジャ(20)を用いる場合には、原料フッ化金属と混合して用いられてきた。また混合しない場合でも坩堝底に置き、揮発したスカベンジャガスが原料フッ化金属と接触しやすいようにしていた。坩堝底に置いた場合には、原料フッ化金属が溶融する温度まで昇温した時点で固体含金属スカベンジャが揮発しきっていない(通常は溶融状態にある)と、溶融した原料フッ化金属が底部まで流入してくるために残存している固体含金属スカベンジャ(の溶融液)と接触してしまう。このように従来の固体含金属スカベンジャの使用方法では、固体含金属スカベンジャ又はその溶融液と、原料フッ化金属又はその溶融液とが接触する状態で用いられているため、得られたフッ化金属単結晶中に固体含金属スカベンジャを構成していた金属元素が取り込まれてしまうという問題を生じやすい。
【0018】
これに対し本発明においては、以下に示す通り、固体含金属スカベンジャ又はその溶融液と原料フッ化金属又はその溶融液とが直接触しない状態で行うため、上記問題は回避しやすく、高品質のフッ化金属結晶を得ることが容易となる。即ち、本願発明においては、固体含金属スカベンジャを、原料フッ化金属の融点以上の温度に保持される炉内の高温部位と、原料フッ化金属の融点未満乃至固体含金属スカベンジャの融点以上に保持される炉内の低温部位とに分割して収容して結晶育成を行うことに特徴がある。
本発明において高温部位とは、炉内の雰囲気温度が原料フッ化金属の融点以上の温度に保持される部位であれば特に制限されず、結晶育成の対象となるフッ化金属の種類や結晶育成炉の構造等などからその部位が決定される。
しかしながら、高温部位の温度が高すぎると、原料フッ化金属が溶融する前、すなわち、フッ化金属の結晶育成を行う前にスカベンジャが揮発して枯渇してしまうおそれがある。このため、該温度は、「原料フッ化金属の融点」以上乃至「原料フッ化金属の融点+30℃」以下の温度範囲に設定することが好ましい。
【0019】
図1に示される結晶育成炉の場合、上記高温部位として具体的には、結晶育成時に原料フッ化金属が溶融液状態となって保持されている外坩堝(1)および内坩堝(2)の近傍箇所である。当該高温部位に固体含金属スカベンジャの一部が収納される。以下、高温部位と当該部位における固体含金属スカベンジャの収納方法について具体的に説明するが、その目的を達し得る限り何ら制限されるものではない。
図1は外坩堝の上端に収納凹部(21)を設けた例である。このような収納凹部(21)に固体含金属スカベンジャ(20)を収容しておくことにより、加熱によって固体含金属スカベンジャ成分が揮発し、そのガスが坩堝(1)内の原料フッ化金属と接触して酸素除去反応(スカベンジ反応)を生じる(固体含金属スカベンジャは図示せず)。さらに昇温すると原料フッ化金属は溶融するが、スカベンジャは坩堝上端の凹部に収容されているため、溶融した原料フッ化金属と固体含金属スカベンジャとが接触することはない。なお、通常、原料フッ化金属が溶融する温度では、固体含金属スカベンジャ(20)も溶融する。したがって収納凹部を設ける場合には、固体含金属スカベンジャの溶融液が流れ出して原料フッ化金属と接触しない構造にする必要がある。図1は、外坩堝に直接収納凹部(21)を設けた例であるが、図2に示すように、外坩堝に着脱可能な収納容器を別途作製しておき、原料フッ化金属の装入作業と前後して、固体含金属スカベンジャを投入した当該収納容器を装着する態様が、作業効率の観点から好ましい。この高温部位収納容器(22)の形状や構造は上記目的を達する限り何ら制限されないが、代表的には、底部に外坩堝上端部に脱着可能なような段差部、或いは凸部または凹部を設けられ、且つ上部に固体含金属スカベンジャが収納可能な穴(又は溝)が設けられたリング状の収納容器が挙げられる。
【0020】
図3は、外坩堝の内側壁の上方に、収納凹部(21)となる穴(又は溝)を開けた例を示す。図4は、外坩堝の内側上方に収納凹部を有する高温部位収納容器(22)を設けた例である(いづれも固体含金属スカベンジャは図示せず)。このような態様とする場合には、該収納凹部或いは高温部位収納容器(22)の開口部は、坩堝の上方、具体的には、溶融した原料フッ化金属が到達する最も高い位置よりも上方に設ける必要がある。この高温部位収容容器(22)の形状は、上出のリング状の容器であってもよいし、坩堝の一部に装着可能な円柱状容器或いは角柱状容器であってもよい。後者の場合は、使用する固体含金属スカベンジャの量に従って複数個装着することができる。
【0021】
ところで、二重構造坩堝とする場合、結晶育成中のフッ化金属の抑制し、更に揮発或いは昇華して炉内上部に付着した付着物の落下を防ぐために、外坩堝と内坩堝との間の開口部を閉塞するための開口部遮蔽部材(15)を、内坩堝外側壁及び/又は外坩堝内側壁に設けることが好ましい。当該開口部遮蔽部材については特開2007−106662号公報等に詳細に記載されている。当該開口部遮蔽部材は、固体含金属スカベンジャの収容位置を適切に設定することにより、スカベンジャガスと原料フッ化金属或いはその溶融液との接触効率を高くする効果を更に発現し得る。例えば、前出の図3、図4に示すように、固体含金属スカベンジャを収容する収納凹部(21)又は高温部位収納容器(22)を、開口部遮蔽部材(15)よりも下方となる場所に設けて、外坩堝内側壁、内坩堝外側壁及び開口部遮蔽部材によって形成される略密閉空間内に収納凹部または高温部位収納容器の開口部が存在するようにする。この結果、これら開口部から揮発してきたスカベンジャガスが該略密閉空間内で長時間滞留するため、原料フッ化金属或いはその溶融液との接触を効率的に行うことが可能となる。なお収納凹部を外坩堝上端に開口部を上方に向けて設けた場合においても(図1)、原料フッ化金属が溶融するまでは開口部遮蔽部材が該収納凹部よりも上方に位置するように、内坩堝が相対的に高い位置になる状態にしておくことが、接触効率の観点から好ましい。
【0022】
前述の通り、揮発したスカベンジャガスの接触効率の観点から、開口部遮蔽部材(15)を設け、更に収納凹部または高温収納容器の開口部が開口部遮蔽部材の下方に位置させることが好ましいが、更に、常にこれら開口部が開口部遮蔽部材の下方に位置し、しかも開口遮蔽部材との位置関係が不変でスカベンジャのスカベンジ反応環境をほぼ一定にできる態様とすることが好ましい。例えば、図5に示すような、内坩堝(2)外側壁に設けられた開口部遮蔽部材(15)の下面に高温部位収納容器(22)が設けられた態様、図6に示すような、内坩堝(2)外側壁であって開口部遮蔽部材(15)の下面よりも下方の位置に高温部位収納容器(22)が設けられた態様が挙げられる。これらの態様では、固体含金属スカベンジャを収容させるための高温部位収納容器を坩堝本体とは別部材としているが、前記図3の如く、坩堝本体に穴や溝を設けても構わない。しかしながら、坩堝の耐久性や補修の容易性、固体含金属スカベンジャの収容のし易さ等の点から、高温部位収納容器を設置する方が好ましい。
図4の如く、高温部位収納容器を、開口部遮蔽部材を取り付けた坩堝と対になる坩堝に突出した状態で設ける場合には、外坩堝を上下動させる場合に、該収納容器と開口部遮蔽部材との接触を考慮して設計や上下動をする必要があるが、図5、6の態様の如く、開口部遮蔽部材を接合した坩堝側に高温部位収納容器を設ける場合には、フッ化金属原料の溶融液面の高さは考慮する必要があるものの、両者の接触を考慮する必要はない。
【0023】
上記のごとく、結晶育成炉内の高温部位に固体含金属スカベンジャを収納しておくことにより、原料フッ化金属或いはその溶融液と固体含金属スカベンジャが直接接触することはなく、揮発したスカベンジャガスと効率的に接触してスカベンジ機能を発揮できる。しかしながら、固体含金属スカベンジャが育成炉内の高温部位に収納、設置されているので、比較的早い段階で固体含金属スカベンジャが揮発してしまい、そのスカベンジ機能を結晶育成の後半まで持続できないという問題を生じるケースがあった。
本願発明においては、固体含金属スカベンジャの一部を結晶育成炉内の低温部位にも分割して収納しておくことを必須とする。本願発明において、低温部位とは、育成炉内において原料フッ化金属の融点未満であって固体含金属スカベンジャの融点以上の雰囲気温度を有する部位である。従って、当該低温部位は、結晶育成の対象となるフッ化金属、固体含金属スカベンジャ、育成炉の構造等により変化するので、これらを勘案してその部位が決定される。図1に示す構造の結晶育成炉における低温部位は、内坩堝(2)とその内部に存在する溶融液の上部空間であって、断熱材壁(8)および天井壁(8a)によって囲まれた空間にある。
【0024】
この空間内の低温部位に、固体含金属スカベンジャを分割して収納する具体的態様としては、低温部位収納容器(23)を使用し、例えば、図1に示すように、連結部材(18)上に低温部位収納容器(23)を設置する態様や、図7に示すように、天井壁(8a)に低温部位収納容器(23)を吊り下げる態様等が挙げられる。特に、前者の態様は、必要な量の固体含金属スカベンジャを任意の箇所に設置でき、しかも安定して設置できる点で、好ましい態様である。なお、この連結部材(18)は、通常、ドーナツ型円盤状であって坩堝の周囲を固定されて覆っているので、低温部位収納容器(23)は、連結部材(18)の上面の任意の場所に任意の数設置可能であり、基本的に振動などで倒置することもない。更に、内坩堝吊下げ棒に低温部位収納容器(23)を装着する態様は、揮発したスカベンジャが育成結晶に作用しやすいため好ましい(図8参照)。
【0025】
低温部位収納容器(23)の構造や形状は何ら制限はなく、基本的に、平らな底面、固体含金属スカベンジャを収納可能な穴または溝、および開口部を有する容器であれば、円柱状でも四角柱でも構わない。とりわけ、揮発したスカベンジャガスの放出量を制御するため、少なくとも一個の孔を有する蓋が装着可能な容器であることが好ましい(図9参照)。
前記育成炉を用いて、フッ化金属単結晶を育成を行う場合、育成工程を通じて、炉内の圧力はほぼ一定に保持されるため、低温部位に収容された固体含金属スカベンジャのガス化、及び放出速度は固体含金属スカベンジャが収容された箇所の雰囲気温度に大きく依存する。従って、上記低温部位収納容器に形成される孔の数、孔の場所、孔の口径などは、孔の加工のしやすさや、用いる固体含金属スカベンジャの種類等を勘案して適宜決定すればよい。通常、低温部位収納容器1個に対し、孔の数としては、1〜3個、孔の口径は、0.3〜1mmの範囲で設定すれば十分である。
低温部位収納容器は、後述する低温部位に設置されるのであれば、その個数については、特に制限されず、複数の収容容器を設置することも、或いは、複数の収容容器を、低温部位内の異なる温度部位に各々設置することも可能である。しかしなから、低温部位収納容器を複数設置することは、反応炉内の構造が複雑になりやすく、育成工程における装置のハンドリングが困難になる傾向にあるため、通常1〜3個程度で十分である。
【0026】
本発明の製造方法では、固体含金属スカベンジャが収容される低温部位が、溶融したフッ化金属を単結晶化する工程を通じて、固体含金属スカベンジャの融点以上乃至原料フッ化金属の融点未満の範囲であることが重要である。前述のとおり、固体含金属スカベンジャのガス化、及び放出速度は固体含金属スカベンジャが収容された箇所の雰囲気温度に大きく依存する。従って、本発明の製造方法では、上記炉内の比較的低温の部位に固体含金属スカベンジャを収容させて、単結晶の育成を行う事で、単結晶の育成の中盤から終盤においても固体含金属スカベンジャを炉内に残存させ、該スカベンジャによるスカベンジ効果を発現させることが可能となる。
特に上記低温部位の温度が、固体含金属スカベンジャの融点以上乃至「原料フッ化金属の融点−150℃」以下の範囲である場合には、単結晶の育成終了時点まで固体含金属スカベンジャによるスカベンジ効果を発現させることが可能である点で好適である。
【0027】
単結晶の育成の中盤から終盤においても一定のスカベンジ効果を発現させるためには、低温部位の温度を上記の範囲に保持することに加えて、育成工程を通じて低温部位の雰囲気温度変化を極力小さくすることがさらに好ましい。
一般的にチョクラルスキー法による単結晶の育成では、安定的な結晶育成を行うためには、坩堝内の融液の温度を一定の範囲に調整することが不可欠である。単結晶の育成が進むにつれて、坩堝内の融液から揮発したフッ化金属のチャンバー内表面への付着・堆積が進むと、チャンバーから外部への放熱量が増えるため、低温部位の雰囲気温度は育成を通じて下降する傾向にある。従って、低温部位の固体含金属スカベンジャのガス化、及び放出速度を一定の範囲に調整し、単結晶の育成の中盤から終盤においても一定のスカベンジ効果を発現させると言う観点から、低温部位の雰囲気温度変化を50℃以下となるようにすることが好ましい。
結晶育成中の低温部位の雰囲気温度の温度変化の制御方法として具体的には、温度変化が少ない箇所に収容する態様、或いは、前記収容容器に、該容器を加熱する加熱手段を設置し、加熱手段により、収容容器の温度を調整する態様等が挙げられる。
【0028】
チョクラルスキー法単結晶育成炉を構成する部材は、フッ化金属製の造に際して用いられる公知の材質のものを適宜選択して使用すればよい。具体的にはフッ素系ガスに対する耐久性、耐熱性、フッ化金属への不純物の混入の可能性等を考慮して選択すればよい。このような材料としては黒鉛やダイヤモンド等の炭素系材料や白金、白金−ロジウム合金、イリジウム等の高融点金属が挙げられる。なかでも安価な点で、主に黒鉛系の材料で炉を構成することが好ましい。
【0029】
チョクラルスキー法単結晶育成炉を用いてフッ化金属単結晶を製造する方法は、固体含金属スカベンジャの収容位置を除けば公知の方法を適用すればよい。以下、簡単にその代表的な製造方法を説明する。
単結晶製造に際しては、炉内に原料フッ化金属と固体含金属スカベンジャを装入するが、これに先立って、炉内を高真空下に高温で空焼きして清浄化しておくことが好ましい。この空焼きは、固体又は気体スカベンジャの存在下に行ってもよい。原料フッ化金属としては、できる限り不純物の少ないものが好ましく、各種スカベンジャ存在下に加熱溶融して酸化物や水分等の不純物の大部分を除去しておくことが望ましい。このような原料フッ化金属と固体含金属スカベンジャとを前述したような部位関係で炉内に収容する。
用いる固体含金属スカベンジャの量は、十分なスカベンジ効果が発現させる量であれば特に制限されない。用いる固体含金属スカベンジャの総量は、通常、原料フッ化金属100質量部に対して、0.01〜0.1質量部程度あれば十分である。また、上記固体含金属スカベンジャを高温部位と低温部位との収容質量比率は、単結晶の育成の中盤から終盤においても固体含金属スカベンジャを炉内に残存させ、該スカベンジャによるスカベンジ効果を発現させることが可能であれば特に制限されず、炉内の構造や、固体含金属スカベンジャを収容する容器の形状や容積を勘案して決定すれば良い。好適には、低温部位/高温部位の質量比で0.3〜1の範囲で適宜決定すればよい。
【0030】
原料フッ化金属を坩堝に収容した後に昇温を行う。この昇温過程においては、炉内を排気減圧下におくことが好ましい。これによりスカベンジ反応を生じる温度までは原料フッ化金属表面や炉内に存在する吸着水等を除去し、またスカベンジ反応が生じる温度以上では、揮発したスカベンャーガスと残存水分等とが反応して生じた反応生成物等を装置外に排出させることができる。
溶融した原料フッ化金属の溶融液面に種結晶を接触させ、徐々に引上げて単結晶を成長させる。結晶引上げ中の雰囲気はアルゴンなどの不活性ガスであることが好ましい。単結晶引上げは常圧〜減圧下に行うことができる。種結晶および成長中の結晶は、引上げ軸を中心として回転させることが好ましく、回転速度は5〜30回/分であることが好ましい。また、上記種結晶の回転に併せて、坩堝も反対方向に同様の回転速度で回転させても良い。好適な結晶の引上げ速度は、1〜10mm/時間である。
結晶引上げの終了後、単結晶体を炉から取り出すまでの冷却は通常、10℃/min以下の降温速度で行われるが、得られたアズグロウン単結晶体を加工する際にクラックが入ったり欠けたりすることを防止するために、0.5℃/min以下、好ましくは0.1〜0.3℃/min程度の降温速度で冷却するとよい。また、微細ボイドの発生を抑制するために、降温中は炉内圧が10−3〜10−5Pa程度となる真空排気下で行うことがより好ましい。
【0031】
単結晶引上げに用いる種結晶は、成長するフッ化金属と同材質の単結晶体を用いるのが好ましい。種結晶の成長面は任意に選択することができるが、フッ化カルシウムの種結晶を用いる場合は、{111}面、{100}面、または{110}面及びこれらの等価面を好適に用いることができる。
育成されたアズグロウン単結晶体は、通常、残留歪おの或いは透過性を損なう微細なボイドを有しているので、アニール(加熱)処理して製品に仕上げられる。アニール処理の方法は従来公知の方法が採用される。更にまた、必要に応じて表面研磨その他の加工を行ってもよい。
【実施例】
【0032】
以下、本発明を実施例によりさらに説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。また、実施例の中で説明されている特徴の組み合わせすべてが本発明の解決手段に必須のものとは限らない。
【0033】
実施例1
図1に示すような二重構造坩堝を使用した単結晶育成炉(引き上げ装置)を用いて、フッ化カルシウム単結晶の製造を行った。
二重構造坩堝は、外坩堝(1)が深さ30cm、内径50cmであり、内坩堝(2)が深さ15cm、内径36cm、坩堝底は中心に向かって内角120°で傾斜するV字状(すり鉢状)である。この内坩堝の外壁には上端から2cmの位置に、厚さ6mmで、外坩堝内壁との間隔が1.5mmとなるドーナツ板状の開口部遮蔽部材が取り付けられている。内坩堝は、その下端部に一個と、その上方に25mmの高さの位置の円周上の均等間隔で8個、口径が4mmの円筒状の貫通孔(3)が形成されている。
断熱材壁(8)は、ピッチ系グラファイト成型断熱材であり、厚み方向の放熱能力は9W/m2・Kのものであり、他方、天井壁(8a)は、グラファイト製であり、厚み方向の放熱能力は5kW/m2・Kのものであった。
フッ化亜鉛の存在下に炉内を十分に空焼きした後、内坩堝外壁、外坩堝内壁及び遮蔽部材とで構成される空間内に原料フッ化カルシウム(融点1420℃)塊70kgと、スカベンジャとしてのフッ化亜鉛(融点872℃)を外坩堝上端の凹部に15g、連結部材(18)上に設置した内径40mm、深さ29mmの低温部位収納容器(23)に20g装填した。低温部位収納容器は、その蓋に口径が0.8mmの円筒状の貫通孔一個が形成されている。さらに、低温部位収納容器の設置箇所の温度を測定するために、該容器の隣にB熱電対を設置した。
【0034】
チャンバー内を真空引きし、内圧が5×10−3Pa以下に達した時点で、真空引きを継続しながらヒーターに通電し原料の加熱を開始した。約50℃/Hrで坩堝底部の温度が250℃になるまで昇温し、この温度で24時間保持した。そのときのチャンバー内の真空度は5×10−4Paであった。その後、約50℃/Hrで再び昇温を開始し、600℃に達した後、さらに12時間保持し、その後に真空排気ラインを遮断して高純度アルゴンをチャンバー内に供給し、内圧(炉内雰囲気圧力)を30kPa(abs)まで復圧して、引上げが終了して室温付近に降温するまでガスの導入を行わなかった。
30kPaへの復圧後、1,500℃付近まで昇温して3時間保持して原料を溶融させた。この状態で外坩堝の位置を上昇させて溶融液の一部を内坩堝の内空に流入させ、外坩堝および内坩堝内にフッ化カルシウム原料の溶融液が収容された状態とした。
融液の温度を育成できる状態まで下げて、種結晶を溶融液表面に接触させ、4mm/Hrでシード棒を引上げて育成を行った。育成中の内圧は40〜50kPaとなるように調整しながら、直胴部の直径250mm、長さが250mmの単結晶体を育成し、結晶を融液から切り離し、常温まで降温した。育成中の低温部位収納容器の設置箇所の温度は、1260〜1220℃の範囲であった。
【0035】
降温後、チャンバー内を開放し製造した単結晶体の取り出しを行った。連結部材(18)上に設置した低温部位収納容器内には溶融凝固したスカベンジャが少量残っていた。
上記の条件で製造した単結晶から、直径20mm厚さ30mmの柱上の試験片を、直胴部の上端中央部および下端中央部から切り出した。
切り出した試験片の両端を研磨した後、波長193nmにおける内部透過率を測定したところ、直胴部の上端および下端いずれの試験片も99.9%/cmと非常に良好であった。また、この試験片に30mJ/cmArFレーザー(波長193nm)を10ショット照射し、照射前後の可視・紫外光波長領域(190〜800nm)における吸光度(試験片の厚み[cm]で割って規格化)を測定し、照射前後の吸光度の差スペクトルを測定した。各試験片の差スペクトルを図10に示す。
図10の差スペクトルからも明らかなように、直胴部の上端および下端いずれの試験片も270〜350nm付近でスカベンジャ残存起因による吸光度の上昇が見られたが、470〜800nmの範囲において吸光度の上昇はほとんどみられなかった。すなわち、本実施例で製造した単結晶は、直胴部の上部域から下部域の全域に亘って、レーザー耐性に優れていると評価できる。
【0036】
実施例2
実施例1で使用した単結晶体製造用引き上げ装置において、連結部材(18)上に設置した低温部位収納容器(23)の蓋に形成されている貫通孔の口径を0.2mm、孔の数を2個とした以外は、実施例1と同様にしてフッ化カルシウム単結晶体の引き上げを行い、ほぼ同じ形状の単結晶体を得た。連結部材(18)上に設置した低温部位収納容器内には実施例1と同様に溶融凝固したスカベンジャが少量残っていた。
得られた単結晶の直胴部の上端中央部および下端中央部から、実施例1と同様に試験片を切り出し、該試験片の両端を研磨した後、実施例1と同様の評価を行った。
波長193nmにおける内部透過率については、直胴部の上端および下端いずれの試験片も99.9%/cmと非常に良好であった。また、この試験片に30mJ/cmのArFレーザー(波長193nm)を10ショット照射し、照射前後の可視・紫外光波長領域(190〜800nm)における吸光度(試験片の厚み[cm]で割って規格化)を測定し、照射前後の吸光度の差スペクトルを測定した。各試験片の差スペクトルを図11に示す。いずれの試験片も実施例1とほぼ同様の吸光度スペクトルを示し、470〜800nmの範囲において吸光度の上昇はほとんどみられなかった。
【0037】
実施例3
実施例1で使用した単結晶体製造用引き上げ装置において、連結部材(18)上に直径50mm、高さ100mmの柱状のブロックを置き、その上に低温部位収納容器(23)を設置した以外は、実施例1と同様にしてフッ化カルシウム単結晶体の引き上げを行い、ほぼ同じ形状の単結晶体を得た。育成中の低温部位収納容器の設置箇所の温度は、1223〜1175℃の範囲であった。連結部材(18)上に設置した低温部位収納容器内には溶融凝固したスカベンジャが実施例1および2より若干多く残っていた。
得られた単結晶の直胴部の上端中央部および下端中央部から、実施例1と同様に試験片を切り出し、該試験片の両端を研磨した後、実施例1と同様の評価を行った。
波長193nmにおける内部透過率については、直胴部の上端および下端いずれの試験片も99.9%/cmと非常に良好であった。また、この試験片に30mJ/cmArFレーザー(波長193nm)を10ショット照射し、照射前後の可視・紫外光波長領域(190〜800nm)における吸光度(試験片の厚み[cm]で割って規格化)を測定し、照射前後の吸光度の差スペクトルを測定した。各試験片の差スペクトルを図12に示す。いずれの試験片も実施例1とほぼ同様の吸光度スペクトルを示し、470〜800nmの範囲において吸光度の上昇はほとんどみられなかった。
【0038】
実施例4
実施例1で使用した単結晶体製造用引き上げ装置において、図8に示すように、内径30mm、深さ25mm、上部の蓋に口径が0.8mmの円筒状の貫通孔一個が形成されている低温部位収納容器を内坩堝吊下げ棒(17)に取り付けた受け台の上に設置した以外は、実施例1と同様にしてフッ化カルシウム単結晶体の引き上げを行い、ほぼ同じ形状の単結晶体を得た。育成中の低温部位収納容器の設置箇所の温度は、1338〜1315℃の範囲であった。内坩堝吊下げ棒(17)に設けた受け台の上に設置した低温部位収納容器内にスカベンジャは残っていなかった。
得られた単結晶の直胴部の上端中央部および下端中央部から、実施例1と同様に試験片を切り出し、該試験片の両端を研磨した後、実施例1と同様の評価を行った。
波長193nmにおける内部透過率については、直胴部の上端および下端いずれの試験片も99.9%/cmと非常に良好であった。また、この試験片に30mJ/cmArFレーザー(波長193nm)を10ショット照射し、照射前後の可視・紫外光波長領域(190〜800nm)における吸光度(試験片の厚み[cm]で割って規格化)を測定し、照射前後の吸光度の差スペクトルを測定した。各試験片の差スペクトルを図13に示す。いずれの試験片も実施例1とほぼ同様の吸光度スペクトルを示し、470〜800nmの範囲において吸光度の上昇はほとんどみられなかった。ただし、270〜350nm付近の吸光度がいずれの試験片も若干増加した。
【0039】
実施例5
実施例1で使用した単結晶体製造用引き上げ装置において、連結部材(18)上に設置した低温部位収納容器(23)にスカベンジャガスの放出量を制御するための孔を有する蓋を装着しなかった以外は、実施例1と同様にしてフッ化カルシウム単結晶体の引き上げを行い、ほぼ同じ形状の単結晶体を得た。チャンバー内を開放した際、連結部材(18)上に設置した低温部位収納容器内にスカベンジャは残っていなかった。
得られた単結晶の直胴部の上端中央部および下端中央部から、実施例1と同様に試験片を切り出し、該試験片の両端を研磨した後、実施例1と同様の評価を行った。
波長193nmにおける内部透過率については、直胴部の上端の試験片については99.9%/cmと非常に良好であったが、直胴部下端の試験片については99.5%/cmであった。また、この試験片に30mJ/cmArFレーザー(波長193nm)を10ショット照射し、照射前後の可視・紫外光波長領域(190〜800nm)における吸光度(試験片の厚み[cm]で割って規格化)を測定し、照射前後の吸光度の差スペクトルを測定した。各試験片の差スペクトルを図14に示す。いずれの試験片も実施例1に近い吸光度スペクトルを示したが、直胴部下端の試験片については470〜800nmの範囲において若干吸光度の上昇がみられた。
【0040】
比較例1
実施例1で使用した単結晶体製造用引き上げ装置において、スカベンジャとしてのフッ化亜鉛を外坩堝上端の凹部にのみセットし、連結部材(18)上の低温部位収納容器を設置しなかった以外は実施例1と同様にしてフッ化カルシウム単結晶体の引き上げを行い、ほぼ同じ形状の単結晶体を得た。
得られた単結晶の直胴部の上端中央部および下端中央部から、実施例1と同様に試験片を切り出し、該試験片の両端を研磨した後、実施例1と同様の評価を行った。
波長193nmにおける内部透過率については、直胴部上端の試験片については99.9%/cmと非常に良好であったが、直胴部下端の試験片については99.6%/cmであった。また、この試験片に30mJ/cmArFレーザー(波長193nm)を10ショット照射し、照射前後の可視・紫外光波長領域(190〜800nm)における吸光度(試験片の厚み[cm]で割って規格化)を測定し、照射前後の吸光度の差スペクトルを測定した。各試験片の差スペクトルを図15に示す。いずれの試験片も全域にわたって吸光度の上昇がみられた。
【符号の説明】
【0041】
1 外坩堝
2 内坩堝
3 貫通孔
4 外坩堝支持軸
5 受け台
6 ヒーター
7 チャンバー
8 断熱材壁
8a 天井壁
9 隔離壁
10 リッド材
11 種結晶
12 種結晶保持具
13 結晶引上げ軸
14 単結晶体
15 開口部遮蔽部材
16 鉤部
17 内坩堝吊下げ棒
18 連結部材
19 溶融フッ化金属
20 固体含金属スカベンジャ
21 スカベンジャ収納凹部
22 高温部位スカベンジャ収納容器
23 低温部位スカベンジャ収納容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉内に原料フッ化金属と固体含金属スカベンジャとを収容し、炉内を昇温し原料フッ化金属を溶融させ、次いで溶融したフッ化金属を単結晶化するフッ化金属単結晶の製造方法において、
前記固体含金属スカベンジャを、原料フッ化金属の融点以上の温度に保持される炉内の高温部位と、溶融したフッ化金属を単結晶化する工程を通じて、固体含金属スカベンジャの融点以上乃至原料フッ化金属の融点未満に保持される炉内の低温部位とに分割して収容することを特徴とするフッ化金属単結晶の製造方法。
【請求項2】
前記低温部位の温度が、固体含金属スカベンジャの融点以上乃至「原料フッ化金属の融点−150℃」以下の範囲であることを特徴とする請求項1に記載のフッ化金属単結晶の製造方法。
【請求項3】
溶融した原料フッ化金属を単結晶化する工程を通じて、低温部位の温度変化が50℃以下である請求項1又は2のいずれかに記載のフッ化金属単結晶の製造方法。
【請求項4】
フッ化金属単結晶の製造に使用される固体含金属スカベンジャの総量が、原料フッ化金属100質量部に対して、0.01〜0.1質量部の範囲であり、且つ、高温部位と低温部位とに分割して収容される固体含金属スカベンジャの収容質量比率〔低温部位/高温部位〕が0.3〜1.0の範囲にある請求項1〜3のいずれかに記載のフッ化金属単結晶の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−36054(P2012−36054A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−179654(P2010−179654)
【出願日】平成22年8月10日(2010.8.10)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【Fターム(参考)】