説明

フッ化金属単結晶体用原料のリサイクル方法

【課題】チョクラルスキー法によるフッ化金属単結晶体の製造方法において、単結晶引き上げ完了後、単結晶体とされずに坩堝内に残存した原料フッ化金属のリサイクル方法を提供する。
【解決手段】好ましくは四フッ化炭素などのフッ素系ガスからなる気体スカベンジャーを用いて、回収した原料フッ化金属の精製を行う。該精製は、フッ素系ガスの存在下に原料フッ化金属の溶融後、一旦、真空排気し、その後再度のフッ素系ガスの導入と真空排気との繰り返しによって行うことが特に好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学材料等に用いられるフッ化金属単結晶体を製造するための原料のリサイクル方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ化カルシウムやフッ化バリウム等のフッ化金属の単結晶体は、広範囲の波長帯域にわたって高い透過率を有し、低分散で化学的安定性にも優れることから、紫外波長または真空紫外波長のレーザーを用いた各種機器、カメラ、CVD装置等のレンズ、窓材等の光学材料として需要が広がってきている。とりわけ、フッ化カルシウム単結晶体は、ArFレーザー(193nm)やFレーザー(157nm)での光源の窓材、光源系レンズ、投影系レンズとして用いられている。
【0003】
従来、こうしたフッ化金属の単結晶体は、坩堝降下法(ブリッジマン法)や単結晶引上げ法(チョクラルスキー法)により製造するのが一般的である。ここで、坩堝降下法とは、坩堝中の単結晶製造原料の溶融液を、坩堝ごと徐々に下降させながら冷却することにより、坩堝中に単結晶を育成させる方法である。一方、単結晶引上げ法とは、坩堝中の単結晶製造原料の溶融液面に、目的とする単結晶からなる種結晶を接触させ、次いで、その種結晶を坩堝の加熱域から徐々に引上げて冷却することにより、該種結晶の下方に単結晶を育成させる方法である。
【0004】
単結晶引き上げ法は、製造される単結晶体が坩堝壁に接触することなく育成できる(成長する)ため、多結晶化してしまう可能性が低く、また大型で歪の少ない単結晶体を効率よく製造することができる優れた方法である(例えば、特許文献1、2参照)。
【0005】
このような融液凝固法によりフッ化金属のアズグロウン単結晶体を製造する際、結晶成長過程で取り込まれる不純物の影響で、真空紫外領域の光透過率が低下するのみならず、レーザー光の照射によりこの透過率そのものが徐々に低下していく(レーザー耐性に劣る)という問題がある。
【0006】
そのため、通常はスカベンジャーと呼ばれる酸素除去剤を用いることが行われる。このスカベンジャーとしては、四フッ化炭素等のフッ素化炭化水素からなる気体スカベンジャー(常温で気体のスカベンジャー、スカベンジャーガスともいう)や、フッ化鉛、フッ化亜鉛等の固体スカベンジャー(常温で固体のスカベンジャー)が用いられている(例えば、特許文献1〜9参照)。
【0007】
固体スカベンジャーを用いる場合には、原料フッ化金属とよく混ぜ合わせて坩堝に収容し、スカベンジ反応が生じる温度(フッ化金属の融点よりも低い)まで昇温して脱酸素を行い、その後さらに昇温して原料フッ化金属を溶融、ついで単結晶化が行われる。
【0008】
この場合、スカベンジ反応により生じた生成物を除去するために、昇温開始から単結晶化開始までは、断続的に系内を排気することが通常行われる。さらには、ブリッジマン法で単結晶を製造する場合には、結晶成長中も高真空排気下に行われる場合が多い。
【0009】
他方、チョクラルスキー法でフッ化金属単結晶を製造する場合、高真空下で結晶成長を行わせようとすると様々な問題が生じる可能性が高くなるため、常圧もしくは0.5kPa程度までの減圧下で行われる(例えば、特許文献8参照)。しかしながら、0.5kPa〜常圧という圧力下では、高真空下で行うブリッジマン法と比較して、より不純物やスカベンジャーとの反応生成物が残存しやすく、よって、アズグロウン単結晶体において真空紫外領域の光透過率が低い、及びレーザー耐性に劣るものが生じやすくなる場合があった。
【0010】
さらに結晶引き上げ完了後、単結晶体とされずに坩堝内に残存した原料フッ化金属には、アズグロウン単結晶体と比較して、より不純物やスカベンジャーとの反応生成物が残存しやすく、よって、該坩堝内に残存した原料フッ化金属において真空紫外領域の光透過率が低い、及びレーザー耐性に劣るものが生じる場合が多くあった。該坩堝内に残存した原料フッ化金属を回収した後、再度、チョクラルスキー法でフッ化金属単結晶体を製造すると汚染の危険を伴うため、今まではこれを廃棄していたが、原料コストが高くなる要因だった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2004−182588号公報
【特許文献2】特開2005−029455号公報
【特許文献3】特開2003−221297号公報
【特許文献4】特開平11−157982号公報
【特許文献5】特開2004−315255号公報
【特許文献6】特開2001−19586号公報
【特許文献7】特開2006−199577号公報
【特許文献8】特開2006−347792号公報
【特許文献9】特開2007−106662号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って本発明は、チョクラルスキー法によるフッ化金属単結晶体の製造方法において、単結晶引き上げ完了後、単結晶体とされずに坩堝内に残存した原料フッ化金属のリサイクル方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねてきた。その結果、フッ素系ガスからなるスカベンジャーガスを用いて、回収した原料フッ化金属の精製を行えば、該回収した原料フッ化金属の光学特性を改質することを見出し、さらに検討を行うことで本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち本発明は、チョクラルスキー法によるフッ化金属単結晶体の製造方法において、単結晶引き上げ完了後、単結晶体とされずに坩堝中に残存した原料フッ化金属を回収、精製した後、再度、フッ化金属単結晶体の製造原料として用いる、フッ化金属のリサイクル方法である。
【0015】
また、前記精製が、回収したフッ化金属を溶融後、固化する工程を含み、且つ該溶融中は、フッ素系ガスからなるスカベンジャーガスの精製炉内への供給と排出とを交互に行いながら精製を行うリサイクル方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、単結晶引上げ完了後、単結晶体とされずに坩堝中に残存した原料フッ化金属の光学特性を改質し、再度、フッ化金属単結晶体の製造原料として用いることができるため、原料コストを大幅に削減できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】精製炉の模式図
【図2】原料と、それを用いて単結晶引き上げ後坩堝内に残存した原料、その残存原料をリサイクルした実施例のVUVスペクトル図。
【図3】原料と、それを用いて単結晶引き上げ後坩堝内に残存した原料、その残存原料をリサイクルした実施例のVUVスペクトル図。
【図4】原料と、それを用いて単結晶引き上げ後坩堝内に残存した原料、その残存原料をリサイクルした実施例のVUVスペクトル図。
【図5】原料と、それを用いて単結晶引き上げ後坩堝内に残存した原料、その残存原料をリサイクルした実施例のVUVスペクトル図。
【図6】原料と、それを用いて単結晶引き上げ後坩堝内に残存した原料、その残存原料をリサイクルした実施例のLIAスペクトル図。
【図7】原料と、それを用いて単結晶引き上げ後坩堝内に残存した原料、その残存原料をリサイクルした実施例のLIAスペクトル図。
【図8】原料と、それを用いて単結晶引き上げ後坩堝内に残存した原料、その残存原料をリサイクルした実施例のLIAスペクトル図。
【図9】原料と、それを用いて単結晶引き上げ後坩堝内に残存した原料、その残存原料をリサイクルした実施例のLIAスペクトル図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、チョクラルスキー法で単結晶化が可能な如何なるフッ化金属単結晶の製造方法にも適用できる。このようなフッ化金属の具体例としては、フッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化ルビジウム、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、フッ化バリウム、フッ化ストロンチウム、フッ化アルミニウム、フッ化バリウムリチウム、フッ化マグネシウムカリウム、フッ化アルミニウムリチウム、フッ化カルシウムストロンチウム、フッ化カリウムマグネシウム、フッ化ストロンチウムリチウム、フッ化セシウムカルシウム、フッ化リチウムカルシウムアルミニウム、フッ化リチウムストロンチウムアルミニウム、及びフッ化ランタノイド類等が挙げられる。これらのフッ化金属のなかでも、フッ化カルシウムを対象とすると本発明の効果が特に顕著である。
【0019】
これらフッ化金属単結晶の製造をする際、水、酸素などの不純物が結晶に取り込まれると、得られた単結晶の真空紫外領域の光透過率が低下するなどの問題が生じる。このような問題を解決するため、前述したように固体スカベンジャーや気体スカベンジャーを用いて不純物を除去する方法が採用されている。しかしながら高真空下で結晶成長を行うことが困難なチョクラルスキー法では、より不純物やスカベンジャーとの反応生成物が残存しやすく、よって、アズグロウン単結晶体において真空紫外領域の光透過率が低い、及びレーザー耐性に劣るものが生じやすくなる場合があった。
【0020】
さらに結晶引き上げ完了後、単結晶体とされずに坩堝内に残存した原料フッ化金属には、アズグロウン単結晶体と比較して、より不純物やスカベンジャーとの反応生成物が残存しやすく、よって、該坩堝内に残存した原料フッ化金属において真空紫外領域の光透過率が低い、及びレーザー耐性に劣るものが生じる場合が多くあった。該坩堝内に残存した原料フッ化金属を再利用してチョクラルスキー法でフッ化金属単結晶体を製造すると汚染の危険を伴うため、今まではこれを廃棄していた。
【0021】
本発明においては、上記坩堝内に残存した原料フッ化金属を回収し、精製炉に装入した後、精製してフッ化金属単結晶体の製造原料として再度利用する。当該精製は、原料フッ化金属を溶融させた後、精製炉内へのスカベンジャーガスの供給と排出とを交互に行いながら実施することにより、原料中に取り込まれた不純物を効率的に除去することができる。このような操作を行うことにより、不純物やスカベンジャーとの反応生成物が効率的に除去され、真空紫外領域の光透過率とレーザー耐性が良好な原料フッ化金属が再現性良くリサイクルできるようになるものと推測される。
【0022】
以下、このような特徴を有する本発明のリサイクル方法を工程順に説明する。
【0023】
本発明のリサイクル方法で用いる精製炉は、原料フッ化金属の前処理(不純物や水分などを除去する)に使用される一般的な前処理炉を特に制限無く使用できるが、例えば特開平10−330192号広報等に提案されている多段坩堝を用いた前処理炉が好ましい。より具体的に、図1に精製炉の模式図を示す。
【0024】
図1に示した精製炉では、チャンバー(4)内に置いて、支持棒(6)に支えられた受け台(5)上に、内部にフッ化金属原料が収容される多段坩堝(1)が載置されており、該多段坩堝の周囲にはヒーター(3)が設けられ、さらに、ヒーター(3)を環囲して断熱材壁(2)が設けられており、多段坩堝(1)の上方には上断熱材(8)が設けられており、多段坩堝(1)の下方には底断熱材(9)が設けられている。
【0025】
さらに図示した態様では、精製に際してフッ素系ガスをスカベンジャーとして用いる場合に、該スカベンジャーガスを供給するためのガス導入管(7)が設けられている。精製に際してフッ化亜鉛などの固体スカベンジャーを採用する際は、当該ガス導入管は必ずしも必須ではないが、固体スカベンジャーを用いる際にも炉内圧を変化させることが一般的であり、そのための復圧ガス(アルゴン等が汎用される)の導入のために、ガス導入管を設けられたものであることが好ましい。当該ガス導入管はチャンバー(4)の上面から上熱材壁(8)を貫通して設置されている。これは、一例であり、チャンバー及び/または断熱材壁の側面や下面から導入管を貫通させてもよく、精製炉の構造などに合わせて適宜設定すればよい。なお、ガス導入の際はホットゾーン(断熱材で環囲されたゾーン)の中まで導入管を敷設し、該ホットゾーン中に直接導入できるようにしておくことが最も好ましい。
【0026】
導入管の材質は、融液の温度で変形、劣化しないものであることが必要であり、グラファイトカーボンなどカーボン系の素材や、白金、モリブデンなどの高融点金属を使用することが好ましい。相対的に安価な点でカーボン系の素材が特に好ましい。
【0027】
導入管の口径は、スカベンジャーガスの供給量に合わせて適宜設定すればよいが、一般的には先端の断面積が0.5〜7cm程度である。
【0028】
また図示しないが、当該精製炉には、炉内を真空ポンプ等により排気できるガス排出口を設けることが好ましい。
【0029】
本発明において、精製に際して使用するスカベンジャーは公知の固体スカベンジャー、気体スカベンジャーが使用できるが、精製効率、再現性に優れるなどの点で気体スカベンジャーが好ましい。気体スカベンジャーとしては、四フッ化炭素、三フッ化炭素、六フッ化エタン等のフッ素系ガスがより好ましく、四フッ化炭素を用いるのが最も好ましい。また、固体スカベンジャーと気体スカベンジャーを併用することも可能である。以下では、フッ素系ガスをスカベンジャーとして使用する場合の例を挙げて、精製工程を具体的に説明する。
【0030】
まず上述の如き精製炉の坩堝内に、原料フッ化金属を装入する。投入する原料フッ化金属としては、公知の方法、例えば、特開2009−102194号公報、特開2007−106662号公報等に記載の方法に従ってフッ化金属の単結晶引き上げ完了後、単結晶体とされずに坩堝内に残存した原料フッ化金属を回収したものを用いればよい。
【0031】
精製炉内に上述の回収した原料フッ化金属(以下、単に「原料フッ化金属」と称す)を装入後、まず真空排気しつつ、200℃以上、用いるフッ素系ガスがスカベンジャーとしての作用を開始する温度未満の温度まで昇温することが好ましい。〔なおここで「真空排気」するとは、炉内圧力が10−3Pa以下となるまで排気することをいう。〕
該工程をより詳しく述べると、真空ポンプなどで1×10−3Pa以下になるまで排気した後、ヒーターによる加熱を開始すればよい。この工程での昇温は一度に行ってもよいが、より効率的に水分除去を行うためには段階的に昇温を行うことが好ましい。好ましい具体例を示せば、温度200〜300℃まで昇温した後、この温度で10〜24時間保持する。その後、温度500〜800℃まで昇温後、この温度で10〜24時間保持する。
【0032】
その後、フッ素系ガスがスカベンジャーとしての作用を開始する(スカベンジ反応を起こす)温度以上、原料フッ化金属の融点未満の温度まで昇温し、この温度で1〜24時間保持する方法である。また、各々の昇温速度は適宜決定すればよいが一般的には50〜500℃/h程度である。
【0033】
この工程により原料フッ化金属や結晶成長炉内に吸着していた水分の大部分が除去される。しかしながら、通常は加熱処理のみでは水分を完全に除去できないため、続いてフッ素系ガスを結晶成長炉内に導入する(第一次ガス供給工程)ことで、該フッ素系ガスにスカベンジャーとしての作用を開始させる(スカベンジ反応を起こす)。
【0034】
用いるフッ素系ガスとしては、前記した通りである。なお、フッ素系ガスがスカベンジャーとしての作用を開始する温度は、例えば四フッ化炭素であれば900℃程度である。
【0035】
当該操作を行うことにより、前記した真空排気と加熱とによっても除去しきれなかった水分等(未除去水分)と気体スカベンジャー(フッ素系ガス)とが反応して反応生成物を生じる。該フッ素系ガスの導入量は、ガス圧が0.5〜70kPa、好ましくは40〜60kPa程度の量であればよい。なお該フッ素系ガスはアルゴンなどの不活性ガスにより希釈して精製炉内に導入してもよい。
【0036】
当該フッ素系ガスの導入後、スカベンジ反応を確実に行わせるため、該温度で好ましくは1〜24時間、より好ましくは4〜12時間保持する。
【0037】
本発明においては、上記の気体スカベンジャーと不純物との反応生成物を除去するために、原料フッ化金属を溶融させる前に一旦真空排気を行うことが好ましい(第一次排出工程)。ここで溶融前に真空排気を行うのは、反応生成物が融液中に溶け込むことを抑止するためである。
【0038】
該真空排気により精製炉内圧が10−3Pa以下の圧力となったならば直ぐに、次の溶融工程に進んでもよいが、真空排気された低圧状態でしばらく保持することも好ましい態様である。保持する場合、その時間は30分〜10時間程度である。
【0039】
上述の第一次ガス供給工程と第一次排出工程は実施せずともよいが、実施した方がより効率よく、再現性よく精製を行うことができる。
【0040】
上記真空排気完了後、原料フッ化金属が溶融する以上の温度まで昇温した後、1〜10時間保持することが好ましい(溶融工程)。このときの温度は、好ましくは融点より30〜130℃程度高い温度とする。例えば、フッ化金属がフッ化カルシウムであれば1450〜1550℃まで昇温する。昇温速度は特に限定されないが一般的には50〜200℃/h程度である。
【0041】
上記減圧下で溶融状態で保持した後、フッ素系ガスを精製炉内に導入する(第二次ガス供給工程)。ここで、溶融後にフッ素系ガスを導入するのは、原料フッ化金属中に取り込まれていた不純物とフッ素系ガスを反応させるためである。
【0042】
該フッ素系ガスの導入量は、ガス圧が0.5〜70kPa、好ましくは40〜60kPa程度の量であればよい。
【0043】
当該ガス圧下での溶融状態の保持時間は好ましくは0.5〜10時間であり、より好ましくは1〜5時間である。
【0044】
当該ガス圧下で溶融状態で保持した後、再度、精製炉内を真空排気することが好ましい(第二次排出工程)。ここで、真空排気を行うのは、原料フッ化金属に取り込まれていた不純物とフッ素系ガスとの反応で生じた反応生成物を取り除くためである。
【0045】
本第二次排出工程においても、精製炉内圧が10−3Pa以下の圧力となったならば直ぐに次の工程に進んでも良いが、真空排気された低圧状態でしばらく保持することも好ましい態様である。保持する場合、その時間は30分〜10時間程度である。
【0046】
本発明では、上記真空排気完了後、さらに第二次ガス供給工程と第二次排出工程を交互に繰り返して行うことが好ましい。このような工程を行うことにより、不純物やスカベンジャーとの反応生成物がより効率的に除去され、真空紫外領域の光透過率とレーザー耐性が良好な原料フッ化金属が再現性良くリサイクルできるようになるものと推測される。繰り返し回数としては、1〜2回程度で十分である。
【0047】
なお、ガスの導入速度は、所望の圧となるまでの時間が20〜40分程度となるようにすることが好ましい。ガス導入速度があまりに速いと、精製炉内の局所的な冷却が生じたり、あるいは炉内の微少不純物成分を巻きあげたりする可能性がある。一方、遅すぎると時間当たりの生産性を低下させる要因となる。
【0048】
所望の回数、スカベンジャーガスの精製炉内への供給と排出を繰り返した後、最終的に不活性ガスに置換して常圧にするとともに、炉内から取り出せる程度の温度まで降温する。当該不活性ガスへの置換は、好ましくは原料フッ化金属の凝固後、より好ましくは室温付近まで降下した後に炉内へアルゴンガス、窒素ガスなどを導入することにより行う。特に好ましくは、室温まで降下させた後、1〜24時間程度経過後に不活性ガスの導入を行う。また該不活性ガスの導入までは、前記真空排気状態を維持しておくことが好ましい。降温速度は特に限定されないが20〜1500℃/min程度である。
【0049】
本発明により得られた原料は、通常、後述するようなVUV透過率及びLIAの測定を行い、固体スカベンジャー及び/又は不純物由来で悪化したVUV透過率が単結晶育成用原料と同程度まで回復しており、かつレーザー照射後のカラーセンターが単結晶育成用原料と同程度まで回復している。従って、再度フッ化金属単結晶体の製造原料として用いることができる。またもしVUV透過率及び/又はLIAが回復していない場合には、再度本発明を実施することにより原料の再精製を行うことが可能である。
【実施例】
【0050】
以下、本発明を実施例によりさらに説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、実施例の中で説明されている特徴の組み合わせ全てが本発明の解決手段に必須のものとは限らない。
【0051】
真空紫外領域の光透過率(以下、単にVUV透過率と称す)、およびレーザー耐性の指標となるレーザー誘起吸収(以下、単にLIAと称す)の各評価方法は、以下の通りである。
(1)VUV透過率の測定
表面粗さがRMSで0.5nm以下になるまで表面研磨して、厚さ10mmの試料を作製した。これをアセトン中で2分間超音波洗浄し、乾燥させた後、低圧水銀ランプを光源とする紫外線オゾン洗浄装置(テクノビジョン杜製UV−208)を用いて、出力7mW/cmで15分間の紫外線洗浄を行った。続いて、洗浄した試料をVUV透過率測定装置(目本分光杜製 KV−201;酸素含有量0.2ppm以下の窒素雰囲気中で測定)を用い、その透過率を120〜210nmの範囲で測定した。
(2)LIAの測定
上記VUV透過率測定を実施した同じ試料について、再度、上記の紫外線オゾン洗浄処理を行った後、紫外可視分光光度計(島津製作所杜製 UV−1800)を用い、レーザー照射前の透過率を200〜800nmの範囲で測定した。続いて、ArFエキシマーレーザーの光源装置(コヒレント杜製:LPX Pro 220)を用いて、エネルギー密度30mJ/cmのレーザーを、パルス繰返し周波数100Hzで10万パルス照射し、レーザー照射後の200〜800nmの範囲の透過率を、前記装置を用いて測定した。レーザー照射前後の透過率差を吸光度に変換したものが、LIAスペクトルとなる。LIAスペクトルの小さなものほど、レーザー照射前後の透過率の変化が少ないことを示し、レーザー耐久性に優れたものとなる。
【0052】
実施例1
<装置構造>
図1に示された構造の精製炉を用いて、チョクラルスキー法にて単結晶引き上げ完了後に単結晶体とされずに坩堝内に残存した原料フッ化金属の精製を行った。この精製炉において、チャンバー内に設置された高純度グラファイト製の多段坩堝は、14段の多段坩堝であり、その1段が内直径48cm(外直径51cm)であり、高さ7cmのものであった。なお、図示していないが、多段坩堝の各段の側壁に、上から12.5mmの高さの位置の円周上にガス抜きのための穴が設けてあり、直径8mmのものを均等間隔で8個設けたものであった。断熱材壁は、ピッチ系グラファイト成型断熱材であり、厚み方向の放熱能力は9W/m・Kのものであった。
【0053】
<初期昇温工程>
上記多段坩堝内に、チョクラルスキー法にて単結晶引き上げ完了後に単結晶体とされずに坩堝内に残存した原料フッ化カルシウム塊を1段につき10kg、14段で計140kg投入した。そして、チャンバー内を油回転ポンプと油拡散ポンプで1×10−3Pa以下になるまで排気した後、加熱を開始した。温度300℃まで昇温した後、この温度で10時間保持した。その後、温度800℃まで昇温後、この温度で10時間保持した。その後、温度1200℃まで昇温した後、この温度で5時間保持した。
【0054】
<第一次ガス供給工程>
続いて、四フッ化炭素を60kPa供給した。
【0055】
<第一次排出工程>
該温度で4時間保持した後、油回転ポンプと油拡散ポンプで1×10−3Pa以下になるまで排気し、5時間保持した。
【0056】
<溶融工程>
該真空排気終了後、1450℃まで昇温し、原料フッ化カルシウムを溶融し、溶融状態で4時間保持した。
【0057】
<第二次ガス供給工程>
その後、四フッ化炭素を60kPa供給した後、この温度で4時間保持した。
【0058】
<第二次排出工程>
その後、油回転ポンプと油拡散ポンプで1×10−3Pa以下になるまで排気し、4時間保持した。
【0059】
<第二次ガス供給工程:2回目>
その後、四フッ化炭素を60kPa供給した後、この温度で4時間保持した。
【0060】
<第二次排気工程:2回目>
その後、油回転ポンプと油拡散ポンプで1×10−3Pa以下になるまで排気し、10時間保持した。
【0061】
<冷却工程>
その後、冷却速度1450℃/minにて降温した。
【0062】
以上により、1段につき直径約48cm、厚み約19mm、9.7kgであるフッ化カルシウム原料(多結晶体)を、14段で計135.2kg得た。この結晶を表面粗さがRMSで0.5mm以下になるまで表面研磨して、厚さ10mmの試料を作製し、VUV透過率とLIAの測定を行った。結果を表1と図2、図6に示す。
【0063】
また、比較として、実施例1で使用した原料(結晶引き上げ後残存原料例1)と、結晶引き上げ後残存原料例1を作る際使用した原料(単結晶育成用原料例1)のVUV透過率とLIAの結果も合わせて表1と図2、図6に示す。
【0064】
実施例2
実施例1と同様の方法で、回収した原料フッ化金属の精製を行った。得られたフッ化カルシウム原料は、1段につき直径約48cm、厚み約19mm、9.7kgであり、14段で計135.2kgだった。この結晶を表面粗さがRMSで0.5mm以下になるまで表面研磨して、厚さ10mmの試料を作製し、VUV透過率とLIAの測定を行った。結果を表1と図3、図7に示す。
【0065】
また、比較として、実施例2で使用した原料(結晶引き上げ後残存原料例2)と、結晶引き上げ後残存原料例2を作る際使用した原料(単結晶育成用原料例2)のVUV透過率とLIAの結果も合わせて表1と図3、図7に示す。
【0066】
実施例3
実施例1と同様の方法で、回収した原料フッ化金属の精製を行った。得られたフッ化カルシウム原料は、1段につき直径約48cm、厚み約19mm、9.7kgであり、14段で計135.2kgだった。この結晶を表面粗さがRMSで0.5mm以下になるまで表面研磨して、厚さ10mmの試料を作製し、VUV透過率とLIAの測定を行った。結果を表1と図4、図8に示す。
【0067】
また、比較として、実施例3で使用した原料(結晶引き上げ後残存原料例3)と、結晶引き上げ後残存原料例3を作る際使用した原料(単結晶育成用原料例3)のVUV透過率とLIAの結果も合わせて表1と図4、図8に示す。
【0068】
実施例4
実施例1と同様の方法で、回収した原料フッ化金属の精製を行った。得られたフッ化カルシウム原料は、1段につき直径約48cm、厚み約19mm、9.7kgであり、14段で計135.2kgだった。この結晶を表面粗さがRMSで0.5mm以下になるまで表面研磨して、厚さ10mmの試料を作製し、VUV透過率とLIAの測定を行った。結果を表1と図5、図9に示す。
【0069】
また、比較として、実施例4で使用した原料(結晶引き上げ後残存原料例4)と、結晶引き上げ後残存原料例4を作る際使用した原料(単結晶育成用原料例4)のVUV透過率とLIAの結果も合わせて表1と図5、図9に示す。
【0070】
実施例1〜4、単結晶育成用原料例1〜4、結晶引き上げ後残存原料例1〜4で得られた193nmにおける透過率及びLIAスペクトルを比較することにより、以下のことが確認でき、本発明の精製方法が、原料フッ化金属のリサイクル方法に好適であることが判る。
【0071】
透過率:
VUV透過率に関しては、単結晶引き上げ後の残存原料では193nmの透過率は良好であるが、130nm付近の透過率が悪化している。これを本発明の精製を行うことで、大きく増加させることができた。この透過率の増加は、透過率悪化の原因となる不純物を除去できたことを示す。本発明により、残存していた不純物を取り除くことができたものと推察される。
【0072】
LIA:
LIAは、単結晶引き上げ後の残存原料では400nm以下に不純物由来のカラーセンターが発生している。これを本発明の精製を行うことで、大きく低減することができた。この値の低減は、レーザー照射後のカラーセンターの発生を抑制できたことを示す。本発明により、カラーセンターの発生原因となる不純物を除去できたものと推察される。
【0073】
【表1】

【符号の説明】
【0074】
1.多段坩堝
2.断熱材壁
3.ヒーター
4.チャンバー
5.受け台
6.支持軸
7.スカベンジャーガスを供給するためのガス導入管
8.上断熱材
9.底断熱材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チョクラルスキー法によるフッ化金属単結晶体の製造方法において、単結晶引き上げ完了後、単結晶体とされずに坩堝中に残存した原料フッ化金属を回収、精製した後、再度、フッ化金属単結晶体の製造原料として用いる、フッ化金属のリサイクル方法。
【請求項2】
前記精製が、回収したフッ化金属を溶融後、固化する工程を含み、且つ該溶融中は、フッ素系ガスからなるスカベンジャーガスの精製炉内への供給と排出とを交互に行いながら精製を行う請求項1記載のリサイクル方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2012−25615(P2012−25615A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−165166(P2010−165166)
【出願日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【Fターム(参考)】