説明

フッ素および有害物質を除去する処理方法と処理装置

【課題】フッ素濃度の高い排水などからフッ素を排水基準値以下または環境基準値まで短時間に低コストで除去することができ、有害物質なども同時に除去することができる処理方法と処理装置を提供する。
【解決手段】フッ素を含む原水にカルシウム塩を添加してフッ化カルシウム沈澱を生成させ、該沈澱を固液分離する一次処理工程、この一次処理後の処理水(一次処理水)に、難溶性金属酸化物と可溶性金属化合物とを添加してアルカリ性下で反応させることによって、該難溶性金属酸化物の表面に層状複水酸化物が形成された汚泥を生成させ、この汚泥を沈降させて固液分離する二次処理工程を有することを特徴とするフッ素および有害物質を除去する処理方法と処理装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフッ素濃度の高い排水などからフッ素を排水基準以下〔8mg/L(海域以外の公共用水域)、15mg/L(海域)〕または環境基準(0.8mg/L以下)まで短時間に低コストで除去することができる処理方法と処理装置に関する。本発明は、より詳しくは、フッ素を排水基準値以下または環境基準値まで低コストで除去することができ、かつ重金属類などの有害物質も同時に除去することができる処理方法と処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特開2003−285076号公報(特許文献1)には、フッ素を含む排水に2価金属イオンと3価金属イオンを添加して層状複水酸化物を生成させ、該層状複水酸化物の層間にフッ素を取り込ませる処理方法が記載されている。
【0003】
国際公開WO2005−087664号公報(特許文献2)には、アルミニウムイオンとマグネシウムイオンを含む酸性溶液とアルカリを含むアルカリ性溶液を混合し、酸性溶液とアルカリ性溶液の混合が完了した後、時間を置かずに直ちに水分を除去または中和することによって、一般式:Mg2+1-xAl3+x(OH)2(An-)x/n・mH2O(An-はアニオン)で表されるハイドロタルサイト様物質を形成し、該物質にフッ素などを取り込ませて固定する処理方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−285076号公報
【特許文献2】国際公開WO2005−087664号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の上記処理方法は、ハイドロタルサイトなどの層状複水酸化物を生成させてフッ素を除去する方法であるが、生成した汚泥の沈降性に劣り、処理時間が長引く問題がある。また、特許文献2の処理方法は、薬剤添加から脱水・中和までの処理条件を整えるのが面倒であり、しかもフッ素濃度が高い場合には薬剤コストの負担が大幅に増大し、また汚泥発生量が多くなると云う問題がある。
【0006】
本発明は、従来の処理方法における上記問題を解決したものであり、フッ素に対する吸着効果および生成した汚泥の沈降性に優れており、汚泥の処理が容易であって、フッ素濃度が高い場合にも低コストで排水基準値以下または環境基準値までフッ素を低減することができ、かつ同時に重金属類等の有害物質をも除去することができる処理方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の構成からなる処理方法に関する。
〔1〕フッ素を含む原水にカルシウム塩を添加してフッ化カルシウム沈澱を生成させ、該沈澱を固液分離する一次処理工程、この一次処理後の処理水(一次処理水)に、難溶性金属酸化物と可溶性金属化合物とを添加してアルカリ性下で反応させることによって、該難溶性金属酸化物の表面に層状複水酸化物が形成された汚泥を生成させ、この汚泥を沈降させて固液分離する二次処理工程を有することを特徴とするフッ素および有害物質を除去する処理方法。
〔2〕難溶性金属酸化物が酸化マグネシウムであり、可溶性金属化合物が可溶性アルミニウム塩であり、一次処理後の処理水に酸化マグネシウムと可溶性アルミニウム塩を添加してアルカリ性下で反応させることによって酸化マグネシウムの表面にハイドロタルサイトを形成させると共に、該ハイドロタルサイトにフッ素および有害物質が取り込まれた汚泥を生成させ、該汚泥を固液分離してフッ素および有害物質を除去する上記[1]に記載するフッ素および有害物質を除去する処理方法。
〔3〕フッ素濃度30mg/L以上の原水について、一次処理によってフッ素濃度を10〜20mg/Lに低減し、二次処理によってフッ素濃度を8mg/L以下に低減する上記[1]または上記[2]に記載するフッ素および有害物質を除去する処理方法。
〔4〕フッ素濃度30mg/L以上の原水について、一次処理によってフッ素濃度を10〜20mg/Lに低減し、二次処理によってフッ素濃度を0.8mg/L以下に低減する上記[1]または上記[2]に記載するフッ素および有害物質を除去する処理方法。
〔5〕二次処理において生成する汚泥スラリーの30分静置後の安定容積が40%以下である上記[1]〜上記[4]の何れかに記載するフッ素および有害物質を除去する処理方法。
〔6〕一次処理において固液分離したフッ化カルシウム沈澱からフッ素を回収する上記[1]〜上記[5]の何れかに記載するフッ素および有害物質を除去する処理方法。
〔7〕二次処理において固液分離した汚泥の一部または全部を二次処理の反応工程に返送し、返送した汚泥を層状複水酸化物の形成に利用する上記[1]〜上記[6]の何れかに記載するフッ素および有害物質を除去する処理方法。
〔8〕反応工程に返送しない余剰汚泥をセメント原料または浄化材または一次処理のpH調整剤として利用する上記[1]〜上記[7]の何れかに記載するフッ素および有害物質を除去する処理方法。
【0008】
また、本発明は、以下の構成からなるフッ素を除去する処理装置に関する。
〔9〕フッ素を含有する原水にカルシウム塩を添加してフッ化カルシウムを沈澱させる反応槽A、該沈澱を固液分離する分離槽B、分離槽Bから抜き出した一次処理水に可溶性金属化合物を添加する添加槽C、可溶性金属化合物を添加した一次処理水に難溶性金属酸化物を加えて反応させ、フッ素および有害物質を取込んだ汚泥を生成させる反応槽D、反応槽DにpH調整剤を供給する手段E、反応槽Dから抜き出したスラリーに凝集剤を供給する手段F、凝集剤を添加したスラリーを固液分離する分離槽Gを備えることを特徴とするフッ素および有害物質を除去する処理装置。
〔10〕分離槽Gから反応槽Dに汚泥を返送する管路に第二添加槽Hが設けられており、第二添加槽Hで汚泥に難溶性金属酸化物が添加され、難溶性金属酸化物が添加された汚泥が反応槽Dに供給される上記[8]に記載するフッ素および有害物質を除去する処理装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明の処理システム(処理方法および処理装置)は、一次処理工程においてフッ化カルシウム沈澱を生成させ、該沈澱を系外に分離するので、フッ素濃度の高い原水でも、一次処理工程でフッ素濃度を低減することができ、二次処理において容易にフッ素濃度を排水基準以下まで低減することができる。さらに、分離した汚泥を反応工程に返送することによって、フッ素の除去効果を高めることができ、排水中のフッ素濃度を容易に環境基準まで低減することができる。
【0010】
一次処理において使用するカルシウム塩は、消石灰、炭酸カルシウム、塩化カルシウム、酸化カルシウム、カーバイドなど安価な材料を使用することができるので、低コストでフッ素濃度を低減することができる。
【0011】
また、二次処理工程で生成される汚泥は沈降性に優れており、例えば、30分静置後の安定容積が40%以下であり、短時間に沈降するので、短時間で固液分離することができ、かつ固液分離槽を小型化することができる。
【0012】
さらに、二次処理工程の汚泥はフッ素と同時に有害物質を取り込むので、フッ素と共に有害物質を除去することができ、例えば、重金属類、ホウ素、窒素化合物、リンなどの有害物質を取り込んで除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の処理方法を示す工程図
【図2】本発明の処理方法において第二添加槽を設けた工程図
【図3】本発明の処理方法において二次処理の余剰汚泥を一次処理に利用した工程図
【図4】本発明の二次処理工程で生じる汚泥のSEM写真
【図5】図3の汚泥内部(図4イ)の成分分析図
【図6】図3汚泥表面付近(図4ロ)の成分分析図
【図7】図4の汚泥と従来の処理方法の汚泥について、30分静置後の状態を示す写真
【図8】本発明の二次処理工程で生じる汚泥のXRD解析チャート
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施形態に基づいて具体的に説明する。
本発明の処理方法は、フッ素を含む原水にカルシウム塩を添加してフッ化カルシウム沈澱を生成させ、該沈澱を固液分離する一次処理工程、この一次処理後の処理水(一次処理水)に、難溶性金属酸化物と可溶性金属化合物とを添加してアルカリ性下で反応させることによって、該難溶性金属酸化物の表面に層状複水酸化物が形成された汚泥を生成させ、この汚泥を沈降させて固液分離する二次処理工程を有することを特徴とするフッ素および有害物質を除去する処理方法である。図1、図2、および図3に本発明の処理工程を示す。
【0015】
本発明の処理方法は、自然発生的および人為的に生じた各種の廃水や排水などであってフッ素を含有するもの(フッ素を含む原水と云う)に広く適用することができる。例えば、工場排水や下水、海水、河川水、湖沼や池の水、地表の溜り水、河川等の堰止域の水、地下の流水や溜り水、暗渠の水等であってフッ素濃度の高いものに適用することができる。さらに、有害物質によって汚染された土壌の浄化排水、海水や最終処分場からの浸出水などの塩類濃度の高い排水を逆浸透膜および電気透析などを利用して清澄水(淡水)と濃縮水に分離(脱塩処理)した後の濃縮水などについて、フッ素濃度の高いものにも適用することができる。
【0016】
本発明の処理方法において、有害物質とはフッ素以外の物質であり、例えば、重金属類、ホウ素、窒素、リンなどである。重金属類はカドミウム、鉛、銅、亜鉛、鉄、ニッケル、セレン、六価クロム、ヒ素、マンガン、アンチモンなどである。さらに、有害物質には、ハロゲン化物イオン、各種のハロゲン酸(ハロゲン酸、過ハロゲン酸、亜ハロゲン酸、次亜ハロゲン酸など)、ヘキサフルオロリン酸イオン(PF6-)、ホウフッ化物イオン(BF4-)、珪フッ化物イオン(SiF62-)、有機酸、浮遊物質(SS)および有機物などがある。本発明の処理システムによれば、フッ素と共にフッ素以外の有害物質を含む原水についても優れた除去効果を有する。
【0017】
〔一次処理工程〕
フッ素を含む原水にカルシウム塩を添加してフッ化カルシウム沈澱を生成させ、該沈澱を固液分離する。カルシウム塩は消石灰、炭酸カルシウム、塩化カルシウム、酸化カルシウム、カーバイドなど安価な材料を使用することができる。カルシウム塩の添加量は原水のフッ素濃度に応じて定めればよい。
【0018】
図1および図2の処理フローにおいて、反応槽Aに原水を供給し、原水を撹拌しながらカルシウム塩を添加してpHを調整し、数分間反応させてフッ化カルシウム沈澱(CaF2沈澱)を生成させる。次いで、凝集剤を加えて緩く撹拌し、沈澱のフロックを形成させ、該フロックを含有する状態で分離槽Bに導入し、固液分離してCaF2沈澱を系外に取り出す。
【0019】
反応槽AはpH4〜9に調整し、好ましくはpH5.5〜7に調整する。pH調整剤として、硫酸、塩酸、硝酸などの酸、あるいは消石灰、生石灰、水酸化ナトリウムなどのアルカリを用いることができる。また、二次処理の分離槽Gから抜き出した余剰汚泥を利用してもよい(図3参照)。生成したスラリーに無機凝集剤(硫酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、塩化第二鉄など)や、高分子凝集剤を添加して沈降を促進してもよい。
【0020】
この一次処理によれば、高フッ素濃度の原水(例えばフッ素濃度30mg/L以上)について、一次処理後のフッ素濃度を10〜20mg/Lまで低減することができる。分離した沈澱は主にCaF2であり、脱水処理して処分することができる。CaF2純度が85wt%以上のものは蛍石代替品として再利用することができる。また、一次処理によりフッ素以外の有害物質も、pHの調整により水酸化物沈澱を生成し、該沈殿を分離することにより、低減できる場合もある。
【0021】
〔二次処理工程〕
一次処理後の処理水に、難溶性金属酸化物と可溶性金属化合物とを添加してアルカリ性下で反応させることによって、該難溶性金属酸化物の表面に層状複水酸化物が形成された汚泥を生成させ、この汚泥を沈降させて固液分離する。
【0022】
図1、図2、および図3の処理フローにおいて、一次処理水を添加槽Cに導入し、これに可溶性金属化合物を加えた後に、反応槽Dに導入する。反応槽Dには難溶性金属酸化物が添加される。図2のフローに示すように、難溶性金属酸化物を返送汚泥に加え、この汚泥を反応槽Dに供給してもよい。なお、添加槽Cまたは反応槽Dに難溶性金属酸化物と可溶性金属化合物を添加してもよい。また、添加槽Cに可溶性金属化合物を添加したとき、完全に溶解しない場合がある。その際はpH調整剤を添加して可溶性金属化合物を完全に溶解してもよいし、そのまま反応槽Dに導入してもよい。また、必要に応じて反応槽DにpH調整剤を添加してもよい。
【0023】
難溶性金属酸化物は、その表面が一部溶解して層状複水酸化物の成分源になると共に大部分は未溶解部分として残り、溶解した難溶性金属酸化物と可溶性金属化合物とが反応し、難溶性金属酸化物の表面に層状複水酸化物が形成される。また、溶解した難溶性金属酸化物は層状複水酸化物の成分源になると共にアルカリ剤としての役割を果たす。
【0024】
難溶性金属酸化物としては酸化マグネシウムや酸化カルシウムなどが用いられる。なお、層状複水酸化物のハイドロタルサイトを形成させるには酸化マグネシウムが好ましい。この酸化マグネシウムは、ドロマイト〔CaMg(CO3)2〕の焼成物のように、成分の一部に酸化マグネシウムを含むもの、あるいはCaに限らず他の成分と共に酸化マグネシウムを含むものを用いることができる。
【0025】
可溶性金属化合物として可溶性アルミニウム塩や可溶性鉄塩などを用いることができる。このなかで、ハイドロタルサイトを形成させるには可溶性アルミニウム塩が好ましい。具体的には、ポリ塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム(硫酸バンド)、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウムなどが好ましい。なお、可溶性アルミニウム塩として、アルミニウムを高濃度に含有する廃液(貴金属触媒の回収廃液、金属アルミニウムを溶解した液など)を利用することができる。
【0026】
可溶性アルミニウム塩の添加量は、フッ素濃度1〜50mg/Lの一次処理水1Lに対して水中のアルミニウム濃度が10〜1000mg/Lになる量が適当である。また、酸化マグネシウムの添加量は、フッ素濃度1〜50mg/Lの一次処理水1Lに対して0.05〜10g/Lになる量が適当である。
【0027】
例えば、難溶性金属酸化物として酸化マグネシウムを用い、可溶性金属化合物として可溶性アルミニウム塩を用い、これらを一次処理水に添加し、アルカリ性下(pH7〜11が好ましい)で反応させると、酸化マグネシウムは溶け難いので大部分は未溶解部分として残るが、表面は部分的に溶解し、溶出したマグネシウムがアルミニウムと反応して酸化マグネシウム表面に層状複水酸化物が形成される。具体的には、酸化マグネシウム表面にマグネシウムとアルミニウムが反応してハイドロタルサイト〔一般式:Mg2+1-xAl3+x(OH)2(An-)x/n・mH2O(An-はアニオン)〕が形成される。
【0028】
この状態の汚泥を図4に示す。図4の汚泥内部(イ)のEDX分析チャートを図5に示す。図示するように、圧倒的にマグネシウム成分が多く、酸化マグネシウムであることを示している。一方、図4の汚泥表面付近(ロ)のEDX分析チャートを図6に示す。図示するように、マグネシウムとアルミニウムのピークが検出され、ハイドロタルサイトを形成していることが分かる。
【0029】
上記層状複水酸化物は、層間に水分子を含む層状構造を有しており、電気的中性を保つために層間に陰イオンを取り込む性質があり、一次処理水に残留しているフッ素は層間に取り込まれる。また、フッ素と共に有機酸、オキシアニオン系のホウ素、窒素、リン、セレン、六価クロム、ヒ素、アンチモンなどの陰イオンも層間に取り込まれる。さらに、層状複水酸化物を形成している2価金属(マグネシウムなど)や3価金属(アルミニウムなど)の一部が陽イオンの重金属類と置換することによって、カドミウム、鉛、銅、亜鉛、鉄、ニッケル、マンガンなどの有害重金属類が取り込まれる。また、浮遊物質(SS)は層状複水酸化物を含む汚泥と凝集して取り込まれ、有機物は層状複水酸化物を含む汚泥の表面に吸着して取り込まれる。このようにフッ素および有害物質が層状複水酸化物に取り込まれ、この層状複水酸化物を含む汚泥が沈降し、これを固液分離することによってフッ素および有害物質を同時に除去することができる。
【0030】
反応槽Dには必要に応じてpH調整剤を添加することができる。pH調整剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウムなどのアルカリや硫酸、塩酸などの酸を用いることができる。反応槽DをpH7〜11に調整するとよい。pHの調整は反応前、反応中、または反応後の何れでもよいが、層状複水酸化物の形成を促進するには反応中もしくは反応後が好ましい。
【0031】
生成した汚泥を含むスラリーを分離槽Gに導いて沈降させ、固液分離する。本発明の処理方法によって生成した汚泥は、未溶解の難溶性金属酸化物(酸化マグネシウム等)の表面に層状複水酸化物が形成された構造を有しているので沈降性が良い。
【0032】
例えば、図7に示すように、本発明の処理方法によって生成した汚泥スラリーをメスシリンダーに入れて30分間静置すると、静置開始時の汚泥スラリーの容積は2300mLであったものが、静置後の汚泥スラリー部分の容積は約550mLとなり、安定容積が短時間に40%以下、好ましくは25%以下になる。ここで安定容積とは次式[1]によって算出される指標である。安定容積の小さい方が汚泥を短時間に固液分離することができることを示す。
(一定時間経過後の汚泥スラリー容積)/(初期の汚泥スラリー容積)×100…[1]
【0033】
一方、難溶性の酸化マグネシウムに代えて、可溶性のマグネシウム塩(塩化マグネシウムなど)を用い、これを可溶性アルミニウム塩と共に有害物質含有水に添加し、さらに水酸化ナトリウムを添加してアルカリ性に調整する従来の処理方法によって生成した汚泥スラリーは、この汚泥スラリーをメスシリンダーに入れて30分間静置すると、図7に示すように、例えば静置開始時の初期汚泥スラリー容積が2300mLであったものは、静置後の汚泥スラリー容積が約2200mLであり、30分程度では殆ど沈降しない。
【0034】
本発明の処理方法は汚泥を短時間に固液分離することができので、分離槽Gを小型化することができる。なお、汚泥スラリーを分離槽Gに導入する前に凝集剤を添加すれば、さらに短時間で固液分離することができる。凝集剤は無機凝集剤やアニオン性、カチオン性、ノニオン性、両性の高分子凝集剤を用いることができる。
【0035】
本発明の処理方法において、好ましくは、固液分離した汚泥の一部または全部を反応槽Dに返送し、返送した汚泥を層状複水酸化物の形成に利用すると良い。汚泥の一部または全部を反応工程に戻すことによって、層状複水酸化物の生成が促進し、フッ素および重金属類、さらにはホウ素、窒素化合物、リン等の有害物質が汚泥中に多く取り込まれるようになり、これらの除去効果が向上する。
【0036】
なお、固液分離した汚泥について、重量や比重あるいは沈降速度の違いを利用して難溶性金属酸化物量の多いものに濃縮した汚泥を反応工程に返送するとよい。例えば、難溶性金属酸化物量の多い汚泥は他の汚泥よりも重いために速く沈降するので、沈降初期の汚泥を集めて難溶性金属酸化物量の多い汚泥に濃縮することができる。反応工程に難溶性金属酸化物量の多い汚泥を返送することによって、層状複水酸化物の生成を促進することができる。例えば、難溶性金属酸化物として酸化マグネシウムを使用したとき、酸化マグネシウム量の多い汚泥を濃縮して反応工程に返送することによって、ハイドロタルサイトの生成を促進することができる。
【0037】
一方、反応工程に返送しない余剰の汚泥は、これを回収してセメント原料として再資源化することができる。また、余剰汚泥を土壌汚染や廃水処理の浄化材として利用することができる。あるいは、余剰汚泥を一次処理のpH調整剤として反応槽Aに導入することができる。二次処理の余剰汚泥を一次処理に利用した工程図を図3に示す。
【0038】
本発明の処理方法は、汚泥を分離した液分(二次処理水)を後処理する工程を設けることができる。二次処理水に有機物や浮遊物質、窒素化合物が残留し、あるいは処理水のpHが9以上の場合があるので、二次処理水を後処理するとよい。
【0039】
二次処理水に含まれる有機物は、生物処理法(活性汚泥法など)や促進酸化法(紫外線酸化や光触媒など)などによって除去することができる。浮遊物質(SS)は、無機凝集剤や高分子凝集剤を添加して浮遊物質を沈澱分離すればよい。窒素化合物は、生物処理(硝化脱窒素法など)によって低減することができる。pHが高い場合には硫酸や塩酸などを添加して中和処理するとよい。
【0040】
〔処理装置〕
本発明の処理装置(処理システム)を図1、図2、および図3に示す。
図1に示す処理装置には、フッ素を含有する原水にカルシウム塩を添加してフッ化カルシウムを沈澱させる反応槽A、該沈澱を固液分離する分離槽B、分離槽Bから抜き出した一次処理水に可溶性金属化合物を添加する添加槽C、可溶性金属化合物を添加した一次処理水に難溶性金属酸化物を加えて反応させ、フッ素および重金属類を取込んだ汚泥を生成させる反応槽D、反応槽DにpH調整剤を供給する手段E、反応槽Dから抜き出したスラリーに凝集剤を供給する手段F、凝集剤を添加したスラリーを固液分離する分離槽Gが設置されている。
【0041】
反応槽A、分離槽B、添加槽C、反応槽D、および分離槽Gは管路50によって接続されており、二次処理水は管路51を通じて系外に排水される。分離槽Gの汚泥は管路52を通じて抜き出され、その一部または全部は管路53を通じて反応槽Dに返送される。
【0042】
図2に示す処理装置には、管路53に第二添加槽Hが設けられている。第二添加槽Hに返送汚泥が導入され、ここに難溶性金属酸化物が添加され、難溶性金属酸化物が添加された汚泥が反応槽Dに供給される。
【0043】
図3に示す処理装置には、二次処理の余剰汚泥を一次処理のpH調整剤として反応槽Aに供給する返送管路54が設置されている。
【0044】
反応槽Dは、二酸化炭素を吸収すると有害物質の取り込みが影響される懸念があるので、二酸化炭素を吸収し難い構造が好ましく、密閉系の反応槽が好ましい。添加槽Cを省略して管路内で原水に可溶性金属化合物を添加してもよい。
【0045】
上記処理装置は、例えば、車載可能にし、あるいは添加槽や反応槽および固液分離槽などのユニットに分離可能にした可搬型装置にすることができる。
【実施例】
【0046】
以下、本発明の実施例を比較例と共に示す。なお、フッ素濃度はイオン電極法により測定した。Cr、鉄、Niの濃度はICP発光分光分析法によって測定した。
【0047】
〔実施例1〕
<一次処理工程>
図2に示す処理工程に従い、フッ素含有水を以下のように処理した。まず、フッ素含有水(フッ素濃度80mg/L、pH2.9)を反応槽Aに供給し、撹拌しながら水酸化カルシウムを添加してpH7.0に調整した。30分間反応させた後に、アニオン性高分子凝集剤を2mg/L添加し、緩やかに撹拌して沈澱のフロックを形成した。これを分離槽Bに導き沈降分離した。このときの一次処理水のフッ素濃度は20mg/Lであった。
【0048】
<二次処理工程>
一次処理水を添加槽Cに導入し、ポリ塩化アルミニウムをアルミニウム濃度が200mg/Lになるように添加した後に反応槽Dに導入した。一方、分離槽Gから抜き出した汚泥の全量を第二添加槽Hに導入し、ここで酸化マグネシウムを0.9mg/L添加した。この汚泥を反応槽Dに加えてポリ塩化アルミニウムを添加した一次処理水と混合し、30分間撹拌し、温度20℃下、30分間反応させた。反応後、pH調整剤として水酸化ナトリウムを添加してpH8.5〜9.5に調整した後、生成した汚泥を分離槽Gに入れ、20時間静置して汚泥を沈降させた。分離槽Gに導入する前にアニオン系高分子凝集剤2mg/Lを添加した。沈降した汚泥を分離槽Gから抜き出し、汚泥全量を第二添加槽Hに導入し、酸化マグネシウムを添加して反応層Dに戻し、汚泥の生成を17回繰り返した。
この結果を表1、表2に示す。また、汚泥のX線解析チャートを図8に示した。図8において1st〜10thは繰返し回数である。
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】

【0051】
表1および表2に示すように、一次処理によって原水のフッ素濃度は80mg/Lから20mg/Lに低減され、さらに二次処理において、1回目の処理で排水基準値以下の6.7mg/Lまで減少し、処理回数の繰り返しに応じてフッ素濃度が減少する。さらに、繰り返し回数を増加させるとフッ素濃度は0.6mg/Lまで減少し、環境基準値まで処理できる。原水に含まれている鉄、Cr、Niも除去されている。
【0052】
また、汚泥のX線解析チャートに示すように、酸化マグネシウムと共にハイドロタルサイトのピークが現れており、酸化マグネシウム表面にハイドロタルサイトが形成されていることが分かる。繰返し回数が1回ではハイドロタルサイトのピークは小さいが、繰返し回数が5回以降になるとハイドロタルサイトのピークは大きくなり、繰返し回数に比例して成長している。
【符号の説明】
【0053】
A−反応槽、B−分離槽、C−添加槽、D−反応槽、G−分離槽、H−第二添加槽、50−管路、51、52−排出管路、53−返送管路、54−返送管路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素を含む原水にカルシウム塩を添加してフッ化カルシウム沈澱を生成させ、該沈澱を固液分離する一次処理工程、この一次処理後の処理水(一次処理水)に、難溶性金属酸化物と可溶性金属化合物とを添加してアルカリ性下で反応させることによって、該難溶性金属酸化物の表面に層状複水酸化物が形成された汚泥を生成させ、この汚泥を沈降させて固液分離する二次処理工程を有することを特徴とするフッ素および有害物質を除去する処理方法。
【請求項2】
難溶性金属酸化物が酸化マグネシウムであり、可溶性金属化合物が可溶性アルミニウム塩であり、一次処理後の処理水に酸化マグネシウムと可溶性アルミニウム塩を添加してアルカリ性下で反応させることによって酸化マグネシウムの表面にハイドロタルサイトを形成させると共に、該ハイドロタルサイトにフッ素および有害物質が取り込まれた汚泥を生成させ、該汚泥を固液分離してフッ素および有害物質を除去する請求項1に記載するフッ素および有害物質を除去する処理方法。
【請求項3】
フッ素濃度30mg/L以上の原水について、一次処理によってフッ素濃度を10〜20mg/Lに低減し、二次処理によってフッ素濃度を8mg/L以下に低減する請求項1または請求項2に記載するフッ素および有害物質を除去する処理方法。
【請求項4】
フッ素濃度30mg/L以上の原水について、一次処理によってフッ素濃度を10〜20mg/Lに低減し、二次処理によってフッ素濃度を0.8mg/L以下に低減する請求項1または請求項2に記載するフッ素および有害物質を除去する処理方法。
【請求項5】
二次処理において生成する汚泥スラリーの30分静置後の安定容積が40%以下である請求項1〜請求項4の何れかに記載するフッ素および有害物質を除去する処理方法。
【請求項6】
一次処理において固液分離したフッ化カルシウム沈澱からフッ素を回収する請求項1〜請求項5の何れかに記載するフッ素および有害物質を除去する処理方法。
【請求項7】
二次処理において固液分離した汚泥の一部または全部を二次処理の反応工程に返送し、返送した汚泥を層状複水酸化物の形成に利用する請求項1〜請求項6の何れかに記載するフッ素および有害物質を除去する処理方法。
【請求項8】
反応工程に返送しない余剰汚泥をセメント原料または浄化材または一次処理のpH調整剤として利用する請求項1〜請求項7の何れかに記載するフッ素および有害物質を除去する処理方法。
【請求項9】
フッ素を含有する原水にカルシウム塩を添加してフッ化カルシウムを沈澱させる反応槽A、該沈澱を固液分離する分離槽B、分離槽Bから抜き出した一次処理水に可溶性金属化合物を添加する添加槽C、可溶性金属化合物を添加した一次処理水に難溶性金属酸化物を加えて反応させ、フッ素および有害物質を取込んだ汚泥を生成させる反応槽D、反応槽DにpH調整剤を供給する手段E、反応槽Dから抜き出したスラリーに凝集剤を供給する手段F、凝集剤を添加したスラリーを固液分離する分離槽Gを備えることを特徴とするフッ素および有害物質を除去する処理装置。
【請求項10】
分離槽Gから反応槽Dに汚泥を返送する管路に第二添加槽Hが設けられており、第二添加槽Hで汚泥に難溶性金属酸化物が添加され、難溶性金属酸化物が添加された汚泥が反応槽Dに供給される請求項8に記載するフッ素および有害物質を除去する処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図4】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−75260(P2013−75260A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−216629(P2011−216629)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】