説明

フッ素とリン酸を含有する排水からリン酸を選択的に除去する方法

【課題】排水中のフッ素を資源として再利用できるように、フッ素とリン酸を含有する排水からリン酸を選択的に除去する方法を提供するものである。
【解決手段】フッ素とリン酸を含有する排水にジルコニウム化合物を添加し、該排水を7を超えるpHに維持するをことにより排水からリン酸を選択的に除去する。特にジルコニウム化合物を添加した排水のpHを一旦7以下に維持した後に7を超えるpHとすることにより、フッ素をほとんど除去せず、90%以上のリン酸を除去できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフッ素とリン酸を含有する排水からリン酸を選択的に除去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素を含有する排水は、電子部品や半導体、ガラス製品、金属製品など種々の工場や、あるいは火力発電所やごみ焼却場などの燃焼・焼却施設の洗煙排水などから排出されている。
【0003】
フッ素含有排水の処理方法としては、カルシウム化合物を添加してフッ素をフッ化カルシウムとして沈殿させて固液分離する凝集沈殿法が一般的である。排出されるフッ化カルシウムを含むスラッジはフッ酸原料として再利用することができる。しかしながら、排水中にリン酸が共存していると、カルシウム化合物によるフッ素処理の際にヒドロキシアパタイトなどのリン酸カルシウム化合物が副生するため、発生するスラッジをフッ酸原料として再利用することを困難としており、フッ素排水からリン酸を除去することが望まれている。
【0004】
ジルコニウム化合物を用いてリン酸を凝集沈殿除去する方法は従来から知られている。(例えば特許文献1)しかし、従来の実施条件(pH3.5〜7の範囲)ではフッ素が除去されてしまい、フッ素とリン酸を含有する排水からリン酸のみを選択的に除去することはできなかった。
【0005】
さらに、特許文献1に記載された各pHにおけるリン酸及びフッ素の除去性能からは、各成分の除去率にある程度の選択性は見られるものの、フッ素を全く除去しないでリン酸を高度に除去できるものではなかった。
【0006】
【特許文献1】特開2004−827号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、排水中のフッ素を有効資源として再利用できるように、フッ素とリン酸を含有する排水からリン酸を選択的に除去する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するために、フッ素とリン酸を含有する排水からジルコニウム化合物を用いてリン酸を高度に選択して除去する方法であり、特に排水中のリン酸をほとんど除去し、フッ素の除去率が10%以下にまで抑えることができるリン酸の除去方法である。
【0009】
以下に本発明について詳細に説明する。
【0010】
本発明では処理排水のpHの管理がきわめて重要であり、ジルコニウム化合物を排水に添加後、排水を7を超えるpHに維持することにより、フッ素に対してリン酸を選択的に除去することができる。
【0011】
pHの調整方法は、特に限定されるものではなく、必要に応じて、酸またはアルカリを添加してpH調整を行えばよい。好ましいpHは7を超える範囲、さらに好ましくは7.5〜10の範囲である。7以下のpHではジルコニウム化合物の一部がフッ素と反応し、フッ素が吸着されるためリン酸の選択率が悪化する。また10を超えるpHではリン酸の選択率は非常に高いが、吸着されるリン酸の量が低下し、リン酸除去効率が低下する。
【0012】
本発明のリン酸除去方法では、ジルコニウム化合物を排水に添加後、排水のpHを一旦pH7以下とした後にpHを7を超える範囲とすることにより、特に選択性を高めることができる。
【0013】
一旦pH7以下とすることにより、選択性が向上する理由は必ずしも定かではないが、前述のように7未満のpHではジルコニウム化合物の一部がフッ素と反応しフッ素が吸着されるものの、より多量のリン酸を吸着され、多量のリン酸を吸着した後に排水を7を超えるpHとすることでフッ素が脱離され、結果的にリン酸の除去率が増大し、選択性が向上することが考えられる。
【0014】
ジルコニウム化合物を添加後、排水のpHを7以下とする場合のpHとしては、3〜6の範囲が特に好ましい。
【0015】
一旦pH7以下とした後、7を超えるpHとする本発明の方法では、7を超えるpHが8では、リン酸をほとんど除去できる上にフッ素の除去率は10%以下に抑えられ、pH9ではフッ素をほとんど除去しない上にリン酸の除去率90%以上が達成されており、7を超えるpHとしては8以上、特に9以上が好ましい。
【0016】
排水のpHの調整には硫酸、塩酸、硝酸などの無機酸、或いは水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの無機アルカリが有用に使用できる。ただし、アルカリとして水酸化カルシウムを用いることは好ましくない。水酸化カルシウムはアルカリ剤として作用するだけでなく、フッ素イオンと反応して不溶性のフッ化カルシウムを形成するためフッ素が除去されてしまい、フッ素とリン酸を含有する排水からリン酸を選択的に除去するという目的が達成できなくなる恐れがある。
【0017】
本発明で用いられるジルコニウム化合物としては、硫酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、塩化ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム、水酸化ジルコニウム、水和酸化ジルコニウムなどが挙げられ、これらの一種または二種以上用いてもよい。その中でも溶解度が高いオキシ塩化ジルコニウムが特に好ましく、オキシ塩化ジルコニウムを用いると、高濃度溶液として供給することが可能となる。使用に際しては、水に溶解させた液体として使用することが操作上取り扱い易く好ましいが、固体のまま使用することも可能である。
【0018】
上記のジルコニウム化合物は被処理排水に添加後、攪拌、振とうなどの操作により十分に排水中に拡散させることが好ましい。拡散が不十分であると十分なリン酸除去効果が得られない。
【0019】
ジルコニウム化合物の添加量は、排水中のリン酸のモル量に対し半分量から5倍量程度添加することが好ましい。添加量が排水中のリン酸のモル量の半分より少ないとリン酸を十分に除去することができない。また添加量が5倍量より多いとリン酸を高度に除去するという目的は達成できるが、フッ素の除去量が増加し、資源として回収できるフッ素の量を低下させる。
【0020】
上記のようにして生成させたリン酸不溶化物は固液分離後廃棄される。固液分離には、例えば、沈降分離、浮上分離、圧搾、濾過などの一般的な固液分離法が有用に適用される。この際に、本発明の処理方法で得られたリン酸不溶化物は凝集してフロック状になっていて固液分離し易いものであるが、必要に応じて硫酸バンドや塩化第二鉄などの一般的な無機凝集剤またはアクリル系ポリマーなどの高分子凝集剤を併用してより固液分離を容易にする方法が適宜採用される。
【0021】
このようにしてフッ素とリン酸を含有する排水からリン酸を選択的に除去した後に消石灰凝集法、硫酸バンド凝集法、フッ素吸着法などの一般的なフッ素処理方法によりフッ素処理をおこなえば、リン酸含有量の少ない高純度のフッ素を回収することができ。
【発明の効果】
【0022】
本発明の方法では、フッ素とリン酸を含む排水中からリン酸を選択的に除去できるため、不純物としてリン酸含有量の少ない高純度のフッ素を効率よく回収でき、廃棄物として処分されていた排水中のフッ素の再資源化が可能となる。
【実施例】
【0023】
次に、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何等限定されるものではない。
【0024】
実施例1
フッ素を79mg/リットル、リン酸を80mg/リットル含有する工場排水(pH11.6)を用いてリン酸の選択的処理試験をおこなった。この工場排水1リットルに、攪拌下、ジルコニウムとして14重量%の濃度のオキシ塩化ジルコニウム水溶液1.5gを添加し(添加後pH11.1)、塩酸で7を超えるpHから11の範囲で一定のpHに維持しながら10分間攪拌した後、懸濁物を濾過し、濾液中のフッ素、リン酸をイオンクロマトグラフにより定量分析を行った。その結果を図1に示す。
【0025】
7を超えるpHの範囲で排水中のフッ素をほとんど除去せずにリン酸のみを除去することができた。特にpHを9以上に維持した処理条件下においてはフッ素を全く除去することなくリン酸のみを選択的に除去することができた。
【0026】
比較例1
実施例1と同様の処理を、処理pHを4〜6の範囲で一定のpHに維持しながら10分間攪拌した後、懸濁物を濾過し、濾液中のフッ素、リン酸をイオンクロマトグラフにより定量分析を行った。その結果を図1に実施例1の結果とともに示す。
【0027】
リン酸の除去率は高いものの同時にフッ素も多量除去され、資源として再利用できるフッ素の量が大きく減少した。
【0028】
実施例2
実施例1と同じの工場排水1リットルに、攪拌下、ジルコニウムとして14重量%の濃度のオキシ塩化ジルコニウム水溶液1.5gを添加し(添加後pH11.1)、塩酸でpHを5に維持して10分間攪拌した後、水酸化ナトリウムで7を超えるpHから10まで変化させ、このpHを維持しながらさらに10分間攪拌した。その後懸濁物を濾過し、濾液中のフッ素、リン酸をイオンクロマトグラフにより定量分析を行った。その結果を図2に示す。
【0029】
いずれもジルコニウム化合物を同じ量添加した実施例1と比較して高いリン酸除去率を示しており、特に効率の良い選択的リン酸除去性能を示した。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】実施例1および比較例1の選択的リン酸処理のフッ素、リン酸の除去率を示すグラフである。
【図2】実施例2の選択的リン酸処理のフッ素、リン酸の除去率を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素とリン酸を含有する排水にジルコニウム化合物を添加し、該排水を7を超えるpHに維持することを特徴とするフッ素とリン酸を含有する排水からリン酸を選択的に除去する方法。
【請求項2】
フッ素とリン酸を含有する排水にジルコニウム化合物を添加し、該排水のpHを7以下に維持した後に7を超えるpHとすることを特徴とするフッ素とリン酸を含有する排水からリン酸を選択的に除去する方法。
【請求項3】
7を超えるpHが8以上である請求項1乃至2に記載の方法。
【請求項4】
ジルコニウム化合物がオキシ塩化ジルコニウムである請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のフッ素とリン酸を含有する排水からリン酸を選択的に除去する方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−155102(P2008−155102A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−345318(P2006−345318)
【出願日】平成18年12月22日(2006.12.22)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】