説明

フッ素の汚染土壌からの溶出を低減する方法、フッ素の汚染土壌からの溶出を低減するための組成物およびキット

【課題】複雑な装置および煩雑な操作を必要とせず、処理費用が低廉で、現位置処理が可能で、二次汚染の虞がなく、フッ素の汚染土壌からの溶出を低減する方法を提供する。
【解決手段】本発明に係るフッ素の汚染土壌からの溶出を低減する方法は、フッ素で汚染された汚染土壌に、リン酸化合物、カルシウム化合物、および下記式(1)
Ca(7−1.5x)Fe(OH)14・yHO・・・(1)
(式(1)において1.7 ≦ x ≦ 2.3、1≦ y ≦6)
で示される化合物を混合する混合工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素の汚染土壌からの溶出を低減する方法、組成物およびキット関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素で汚染された土壌は、フッ素が溶出して地下水などの周辺環境に悪影響を及ぼすため、当該土壌からフッ素が溶出することを防止するための処理が行なわれている。そのような処理方法として、薬剤を土壌に添加・混合することによってフッ素を不溶化し、周辺環境へのフッ素の汚染拡大を防止する汚染土壌の不溶化処理方法がある。
【0003】
従来、フッ素で汚染された土壌中のフッ素を化学的に不溶化して、フッ素の溶出を防止する方法が知られている。例えば、カルシウム化合物またはアルミニウム化合物を単独または両者を併用して汚染土壌に混合添加する方法(特許文献1)、リン酸化合物およびカルシウム化合物を添加する方法(特許文献2)、カルシウム化合物およびマグネシウム化合物を添加する方法(特許文献3)、石膏、石灰、硫酸鉄およびリン酸化合物、さらに必要に応じて非晶質水酸化アルミニウムを添加する方法(特許文献4)、鉱酸を添加してpH2〜4に調節した後、鉄塩またはアルミニウム塩を添加し、次いでアルカリを添加してpHを3〜10に調節することにより水酸化物を形成する方法(特許文献5)、ならびに希土類元素の化合物を添加する方法(特許文献6)などがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−236521号公報(2003年8月26日公開)
【特許文献2】特開2002−331272号公報(2002年11月19日公開)
【特許文献3】特開2007−216077号公報(2007年8月30日公開)
【特許文献4】特開2007−330884号公報(2007年12月27日公開)
【特許文献5】特開2002−326081号公報(2002年11月12日公開)
【特許文献6】特開2004−305935号公報(2004年11月4日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のフッ素不溶化技術では、次の問題がある。
【0006】
すなわち、特許文献1に記載の方法では、カルシウム化合物を添加することによって生成するフッ化カルシウムの溶解度に起因して、フッ素の溶出量を土壌環境基準(環境庁告示第46号)まで低下することができない。また、特許文献1,3のように、アルミニウム化合物またはマグネシウム化合物を添加してフッ素を水酸化物等に吸着固定化する方法では、低濃度領域までフッ素を固定化することはできず、これらの化合物をカルシウム化合物などと併用しても、同様に固定化できない。
【0007】
特許文献2の方法では、リン酸化合物およびカルシウム化合物を添加してフルオロアパタイトとしてフッ素を固定しているが、土壌のpHの低下に伴ってフッ素の再溶出が生じる。よって、自然界では酸性雨の影響などによって土壌のpHを維持することは困難であるため、再溶出を抑えることができない。
【0008】
特許文献5の方法では、上述したように操作が煩雑であり、現場での作業には適さない。また、特許文献6の方法では、希少資源であり、高価である希土類元素を使用するため、経済的に好ましくない。また、不溶化剤として知られるハイドロカルマイトはアルツハイマー病の原因物質といわれているアルミニウムを構成元素としているため、地下水へのアルミニウム汚染の原因となり不溶化剤として好ましいものではない。
【0009】
したがって、汚染土壌中のフッ素を不溶化するための従来の技術では十分ではなく、さらなる技術の開発が求められている。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、複雑な装置および煩雑な操作を必要とせず、処理費用が低廉で、現位置処理が可能で、二次汚染の虞がない、フッ素の汚染土壌からの溶出を低減する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、フッ素で汚染された汚染土壌に、リン酸化合物、カルシウム化合物、および下記式(1)
Ca(7−1.5x)Fe(OH)14・yHO・・・(1)
(式(1)において1.7 ≦ x ≦ 2.3、1≦ y ≦6)
で示される化合物を混合することで、汚染土壌中のフッ素を化学的に不溶化して、フッ素の溶出を低濃度まで防止することを見出し、経済的且つ効率的な処理方法を開発するに至った。
【0012】
すなわち、本発明に係るフッ素の汚染土壌からの溶出を低減する方法は、フッ素で汚染された汚染土壌に、リン酸化合物、カルシウム化合物、および下記式(1)
Ca(7−1.5x)Fe(OH)14・yHO・・・(1)
(式(1)において1.7 ≦ x ≦ 2.3、1≦ y ≦6)
で示される化合物を混合する混合工程を含むことを特徴としている。
【0013】
本発明に係るフッ素の汚染土壌からの溶出を低減する方法では、上記汚染土壌は、フッ素で汚染された汚染土壌であり、上記混合工程では、上記リン酸化合物、上記カルシウム化合物、および上記式(1)で示される化合物の混合物のスラリーおよび水溶液の少なくともいずれかを、地盤の汚染された領域に注入することがより好ましい。
【0014】
本発明に係るフッ素の汚染土壌からの溶出を低減する方法では、上記リン酸化合物が、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二カリウムおよびリン酸二水素カリウムからなる群より選ばれる少なくとも一つのリン酸化合物であることがより好ましい。
【0015】
本発明に係るフッ素の汚染土壌からの溶出を低減する方法では、上記カルシウム化合物が、塩化カルシウム、水酸化カルシウムおよび酸化カルシウムからなる群より選ばれる少なくとも一つのカルシウム化合物であることがより好ましい。
【0016】
また、本発明に係るフッ素の汚染土壌からの溶出を低減するための組成物は、リン酸化合物、カルシウム化合物、および上記式(1)で示される化合物を含むことを特徴としている。
【0017】
また、フッ素の汚染土壌からの溶出を低減するためのキットは、リン酸化合物、カルシウム化合物、および上記式(1)で示される化合物を含むことを特徴としている。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、複雑な装置および煩雑な操作を必要とせず、処理費用が低廉で、現位置処理が可能で、二次汚染の虞がなく、フッ素の汚染土壌からの溶出を低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
〔本発明に係るフッ素の汚染土壌からの溶出を低減する方法〕
本発明に係るフッ素の汚染土壌からの溶出を低減する方法(以下、単に「本発明に係る方法」という)は、リン酸化合物、カルシウム化合物および上記式(1)で示される化合物を汚染土壌に混合する混合工程を含めばよい。これにより、汚染土壌に含まれるフッ素を難溶化させて、当該フッ素の溶出を好適に低減することができる。また、汚染土壌、リン酸化合物、カルシウム化合物、および上記式(1)で示される化合物を混合すればよいので、複雑な装置及び煩雑な操作を必要としない。また、上記式(1)で示される化合物は低コストで合成できるので処理費用が低廉である。また、汚染土壌等のある現位置でリン酸化合物、カルシウム化合物、および上記式(1)で示される化合物を当該汚染土壌等に混合すればよいので、現位置処理が可能である。また、上述したハイドロカルマイトのような二次汚染の虞が無い。
【0020】
本発明において処理対象となる汚染土壌とは、フッ素に汚染されている土壌であればよい。このような土壌にリン酸化合物およびカルシウム化合物を混合することにより不溶性のフルオロアパタイトが形成されて、土壌からフッ素溶出濃度を低減させ得ることは知られているが、当該フルオロアパタイトは土壌のpHの低下に伴ってフッ素の再溶出が始まる。これに対し、本発明の方法ではリン酸化合物およびカルシウム化合物に加えて上記式(1)で示される化合物を共存させることによって、土壌のpHの低下を抑制することができる。これにより、酸性雨などの影響を受けることなく、長期にわたってフッ素固定効果を発揮する。
【0021】
すなわち、本発明に係る方法では、カルシウム化合物による不溶性のフッ化カルシウム形成によるフッ素固定作用、リン酸化合物とカルシウム化合物とのフルオロアパタイト形成によるフッ素固定作用、ならびに上記式(1)で示される化合物によるフッ素固定作用およびpH緩衝作用を複合的に機能させることによって、汚染土壌からのフッ素の溶出を低濃度まで防止することができる。
【0022】
本発明に係る方法において使用するリン酸化合物としてはリン酸、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、リン酸のマグネシウム塩、リン酸のカルシウム塩、ヒドロキシアパタイト、過リン酸石灰等が例示でき、特にリン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウムリン酸水素二カリウムおよびリン酸二水素カリウムからなる群より選ばれる少なくとも一種のリン酸化合物を使用することが好ましい。
【0023】
本発明に係る方法において使用するカルシウム化合物はとしては水酸化カルシウム、カルシウムの塩化物、硝酸塩、リン酸塩、炭酸塩、ヒドロキシアパタイト、過リン酸石灰、セメント等が例示でき、特に塩化カルシウム、水酸化カルシウムおよび酸化カルシウムからなる群より選ばれる少なくとも一種のカルシウム化合物を使用することが好ましい。
【0024】
上記式(1)で示される化合物は、化学合成によって低コストで簡単に合成することができる。化学合成方法は、例えば次のように行なうことができる。
【0025】
まず、反応器に炭酸塩の水溶液を仕込み、攪拌下、pHを9〜14に制御しながら、目的とするxの値に応じた水酸化カルシウムもしくはカルシウム塩の水溶液またはスラリーと、鉄(III)塩の水溶液と、アルカリ溶液とを徐々に添加し、生じたスラリーの沈殿物を熟成する。
【0026】
次いで沈殿の洗浄を行ない、乾燥・粉砕した後、300℃〜600℃の温度で焼成して、次いで水中で分散させるなど水と反応させることによって上記式(1)で示される化合物を合成することができる。ここに例示した化学合成方法等により得られる化合物は、「カルシウム鉄複合含水酸化物」ということもできる。なお、得られた粉体をX線回折法または化学分析による組成分析によって、上記式(1)で示される化合物であることを確認することができる。
【0027】
上記式(1)で示される化合物の合成に使用する炭酸塩としては炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム等が例示でき、カルシウム源としては塩化カルシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム等が例示でき、鉄(III)源としては塩化物、硫酸塩、硝酸塩等が例示でき、アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が例示できる。
【0028】
上記式(1)で示される化合物は、ハイドロカルマイトと類似の層状結晶を有するが、金属成分がアルミニウムとカルシウムとからなるハイドロカルマイトとは組成が異なる物質である。また、上記式(1)で示される化合物はカルシウム含水酸化物と鉄含水酸化物との単なる混合物とは異なる物質である。
【0029】
本発明に係る方法において使用する上記式(1)で示される化合物では、xが1.7以上2.3以下である。この範囲を外れると層状結晶を有する化合物にならない。また、上記式(1)においてyは1以上6以下である。なお、yの範囲は結晶水であるため、この範囲は特に限定されるものではない。
【0030】
本発明に係る方法では、リン酸化合物、カルシウム化合物および上記式(1)で示される化合物を、粉末にして使用してもよく、水に分散させたスラリーまたは水溶液にして使用してもよい。
【0031】
本発明に係る方法において、リン酸化合物、カルシウム化合物および上記式(1)で示される化合物を汚染土壌に添加する方法としては、例えば、これらの材料を同時に添加して混合してもよいし、リン酸化合物およびカルシウム化合物を予め汚染土壌に混合した後、次いで上記式(1)で示される化合物を当該汚染土壌に混合してもよい。
【0032】
また、混合工程では、フッ素で汚染された汚染土壌に、リン酸化合物、カルシウム化合物および上記式(1)で示される化合物を混合すればよく、その具体的な方法は様々な方法を採用することができる。例えば、リン酸化合物、カルシウム化合物および上記式(1)で示される化合物と汚染土壌とを、不溶化の目的の程度に応じた比率で混練してもよい。
【0033】
また、例えば、リン酸化合物、カルシウム化合物および上記式(1)で示される化合物を汚染土壌に散布したのち、重機を用いて攪拌する方法を採用してもよいし、汚染土壌と、リン酸化合物、カルシウム化合物および上記式(1)で示される化合物とを攪拌装置に入れ、攪拌混合する方法等を採用してもよい。
【0034】
また、汚染土壌とリン酸化合物、カルシウム化合物および上記式(1)で示される化合物とを混練等によって接触させる場合には、水を添加して行なってもよいし、予め水でリン酸化合物、カルシウム化合物および上記式(1)で示される化合物をスラリー化させたもの、または水溶液にしたものを汚染土壌と接触させてもよい。
【0035】
例えば、汚染地盤から掘削した、フッ素による汚染土壌に、リン酸化合物、カルシウム化合物および上記式(1)で示される化合物を直接混合するか、そのスラリーおよび水溶液の少なくともいずれかを混合することによってフッ素溶出を低減する方法を採用できる。リン酸化合物、カルシウム化合物および上記式(1)で示される化合物の粉体を汚染土壌に混合する場合には、フッ素の溶出を低減させる効果を促進させるために水を添加することが好ましい。
【0036】
また、混合工程では、リン酸化合物、カルシウム化合物および上記式(1)で示される化合物のスラリーおよび水溶液の少なくともいずれかを、汚染土壌の地盤の汚染された領域に注入してもよい。このスラリーは、例えばリン酸化合物、カルシウム化合物および上記式(1)で示される化合物を水等に分散させたスラリーでよい。汚染された地盤の汚染領域にリン酸化合物、カルシウム化合物および上記式(1)で示される化合物をスラリー化して注入する方法は特に限定されるものではない。例えば、汚染地盤の浄化対象位置において、例えば、深層混合処理工法に用いられる土壌に貫入しつつ当該貫入部分の攪拌が可能な処理機で、当該貫入部分からリン酸化合物、カルシウム化合物および上記式(1)で示される化合物のスラリーおよび水溶液の少なくともいずれかを注入する方法を採用してもよい。
【0037】
本発明に係る方法の混合工程では、リン酸化合物、カルシウム化合物および上記式(1)で示される化合物に加えて他の処理剤を併用してもよい。他の処理剤としては、例えば、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硫酸アンモニウム、塩化アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄、塩化第二鉄、酸性硫酸ナトリウム、ゼオライト、ベントナイト、モンモリロナイト、ハロイサイト、カオリン等が挙げられる。
【0038】
混合工程におけるリン酸化合物の使用量は、汚染土壌の重金属汚染の程度によって任意に調節可能であるが、例えば、汚染土壌100重量部に対して、リン酸化合物を1〜30重量部混合することにより優れた効果を発揮する。つまり、1重量部以上であれば効果が十分に発揮され、30重量部以下とすることにより、十分な効果を発揮しつつコストを低く抑えることができる。
【0039】
混合工程におけるカルシウム化合物の使用量は、汚染土壌の重金属汚染の程度によって任意に調節可能であるが、例えば、汚染土壌100重量部に対して、カルシウム化合物を1〜30重量部混合することにより優れた効果を発揮する。つまり、1重量部以上であれば効果が十分に発揮され、30重量部以下とすることにより、十分な効果を発揮しつつコストを低く抑えることができる。
【0040】
混合工程における上記式(1)で示される化合物の使用量は、汚染土壌の重金属汚染の程度によって任意に調節可能であるが、例えば、汚染土壌100重量部に対して、上記式(1)で示される化合物を1〜30重量部混合することにより優れた効果を発揮する。つまり、1重量部以上であれば効果が十分に発揮され、30重量部以下とすることにより、十分な効果を発揮しつつコストを低く抑えることができる。
【0041】
なお、リン酸化合物、カルシウム化合物および上記式(1)で示される化合物のスラリーを使用する場合は、固形物濃度換算として添加量を決定する。
【0042】
〔本発明に係るフッ素の汚染土壌からの溶出を低減するための組成物〕
本発明に係るフッ素の汚染土壌からの溶出を低減するための組成物(以下、単に「本発明に係る組成物」という。)も本発明の範疇である。
【0043】
本発明に係る組成物は、リン酸化合物、カルシウム化合物および上記式(1)で示される化合物を含めばよい。例えば、予めリン酸化合物、カルシウム化合物および上記式(1)で示される化合物を水に溶解または分散させたスラリーであってもよい。この場合、水に対するリン酸化合物、カルシウム化合物および上記式(1)で示される化合物の量は、目的とする不溶化の効率等に応じて適宜設定できる。例えば、水100質量部に対して、リン酸化合物は5〜30重量部、カルシウム化合物は5〜30重量部、および上記式(1)で示される化合物は5〜30重量部の範囲が好ましい。水100質量部に対して、リン酸化合物、カルシウム化合物および上記式(1)で示される化合物の総量は15〜40質量部が好ましい。
【0044】
〔本発明に係るフッ素の汚染土壌からの溶出を低減するためのキット〕
本発明に係るフッ素の汚染土壌からの溶出を低減するためのキット(以下、単に「本発明に係るキット」という。)は、少なくともリン酸化合物、カルシウム化合物および上記式(1)で示される化合物を備えていればよい。
【0045】
また、本発明に係るキットの構成としては上述したものに限定されるものではなく、他の薬剤、器具等を含んでもよい。例えば、本発明に係るキットは、上述した他の処理剤を備えてもよいし、汚染土壌に効率よく混合するための機材等を備えていてもよい。
【0046】
また、本発明に係るキットには、本発明に係る方法を行なうための手順等を記載した説明書を含んでもよい。
【0047】
上記の何れの構成であっても、本発明に係る方法を行なうために好ましい組成物等が備えられている。そのため、本発明に係るキットを用いることで、本発明に係る方法を実施することができ、フッ素の汚染土壌からの溶出を低減することができる。
【実施例】
【0048】
〔上記式(1)で示される化合物の合成例1〕
反応器に炭酸ナトリウム(NaCO)30gを入れて2リットルの水を加えて溶解した。該溶解液(溶液A)を攪拌しながら、塩化カルシウム・二水和物(CaCl・2HO)110gを水5リットルに溶解した液(溶液B)と、塩化第二鉄・六水和物(FeCl・6HO)120gを水5リットルに溶解した液(溶液C)とを、反応器に連続的に添加するとともに、水酸化ナトリウム(NaOH)120gを水10リットルに溶解した液(溶液D)で、反応器内の液のpHが10〜12になるように調整しながら徐々に添加した。溶液Bおよび溶液Cの全量を添加した後、さらに24時間攪拌を継続して熟成させた。得られたスラリーをろ過し、ろ液を分離・除去、水添加、攪拌の操作を繰り返して、ろ液の水酸基濃度が10−3モル/リットル以下になるまで洗浄した。洗浄後スラリーをろ過・乾燥・粉砕し、350℃で加熱後、水中に分散した後乾燥して粉末を得た(粉末E)。粉末Eの一部をX線回折法および化学分析で測定した結果、粉末Eが上記式(1)で示される化合物であることを確認できた。
【0049】
〔上記式(1)で示される化合物の合成例2〕
反応器に炭酸ナトリウム(NaCO)30gを入れて2リットルの水を加えて溶解した。該溶解液(溶液F)を攪拌しながら、塩化カルシウム・二水和物(CaCl・2HO)130gを水5リットルに溶解した液(溶液G)と、塩化第二鉄・六水和物(FeCl・6HO)90gを水5リットルに溶解した液(溶液H)とを、反応器に連続的に添加するとともに、水酸化ナトリウム(NaOH)120gを水10リットルに溶解した液(溶液I)で、反応器内の液のpHが10〜12になるように調整しながら徐々に添加した。溶液Gおよび溶液Hの全量を添加した後、さらに24時間攪拌を継続して熟成させた。得られたスラリーをろ過し、ろ液を分離・除去、水添加、攪拌の操作を繰り返して、ろ液の水酸基濃度が10−3モル/リットル以下になるまで洗浄した。洗浄後スラリーをろ過・乾燥・粉砕し、450℃で加熱して粉末Jを得た。粉末Jの一部をX線回折法および化学分析で測定した結果、粉末Jが上記式(1)で示される化合物であることを確認できた。そして、粉末Jを水に分散してスラリーK(固形分含量25%)を得た。
【0050】
〔比較例1〜4〕
千葉県千葉市から算出した土壌(蒸発減量12%)にフッ素の含有量が50mg/kgになるようにフッ化ナトリウム(NaF)を添加し、均一になるまで混合して模擬汚染土壌を調整した(汚染土壌L)。
【0051】
汚染土壌Lの100重量部に対して、リン酸化合物および/またはカルシウム化合物の5〜30重量部、水20重量部を加えて混合し、21日間放置した。ここで、リン酸化合物としては(1)リン酸水素二ナトリウム、(2)リン酸二水素ナトリウム、(3)リン酸水素二カリウム、(4)リン酸二水素カリウムのいずれかを使用し、カルシウム化合物としては(5)塩化カルシウム、(6)水酸化カルシウム、(7)酸化カルシウムのいずれかを使用した。このようにして得られた処理土壌に対して、環境庁告示第46号に示された溶出試験を行なった。
【0052】
〔実施例1〜11〕
比較例1〜4で調製した汚染土壌Lの100重量部に対して、リン酸化合物を2〜30重量部、カルシウム化合物を2〜30重量部、および合成例1で得られた粉末Eまたは合成例2で得られたスラリーKを2〜30重量部添加し、水20重量部を加えて混合して21日間放置した。このようにして得られた処理土壌に対して、環境庁告示第46号に示された溶出試験を行なった。その結果を表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
〔実施例12〕
比較例1〜4で調製した汚染土壌Lの100重量部に対して、リン酸水素二ナトリウムを10重量部、塩化カルシウムを20重量部および水20重量部を添加して混合した後、合成例1で得られた粉末Eを10重量部加えて混合し、21日間放置した。このようにして得られた処理土壌1kgに対して、pH4の酸性水10Lを接触させた。次いでpH4の酸性水10Lを1回/週の頻度で交換処理を行なった。1月毎に処理土壌を採取して、環境庁告示第46号に示された溶出試験を行なった。その結果、フッ素の溶出濃度は1ヶ月後の処理土壌で0.7mg/L、2ヶ月後の処理土壌で0.7mg/L、3ヶ月後の処理土壌で0.7mg/Lであった。このことから、本発明に係る処理方法によれば、酸性水の存在下でも長期にわたってフッ素溶出低減効果を維持できることが認められた。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、フッ素で汚染された土壌等の処理に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素で汚染された汚染土壌に、リン酸化合物、カルシウム化合物、および下記式(1)で示される化合物を混合する混合工程を含む、フッ素の汚染土壌からの溶出を低減する方法。
Ca(7−1.5x)Fe(OH)14・yHO・・・(1)
(式(1)において1.7 ≦ x ≦ 2.3、1≦ y ≦6)
【請求項2】
上記汚染土壌は、フッ素で汚染された汚染土壌であり、
上記混合工程では、上記リン酸化合物、上記カルシウム化合物、および上記式(1)で示される化合物の混合物のスラリーおよび水溶液の少なくともいずれかを、地盤の汚染された領域に注入する、請求項1に記載のフッ素の汚染土壌からの溶出を低減する方法。
【請求項3】
上記リン酸化合物が、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二カリウムおよびリン酸二水素カリウムからなる群より選ばれる少なくとも一つのリン酸化合物である、請求項1または2に記載のフッ素の汚染土壌からの溶出を低減する方法。
【請求項4】
上記カルシウム化合物が、塩化カルシウム、水酸化カルシウムおよび酸化カルシウムからなる群より選ばれる少なくとも一つのカルシウム化合物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のフッ素の汚染土壌からの溶出を低減する方法。
【請求項5】
リン酸化合物、カルシウム化合物、および下記式(1)で示される化合物を含む、フッ素の汚染土壌からの溶出を低減するための組成物。
Ca(7−1.5x)Fe(OH)14・yHO・・・(1)
(式(1)において1.7 ≦ x ≦ 2.3、1≦ y ≦6)
【請求項6】
リン酸化合物、カルシウム化合物、および下記式(1)で示される化合物を含む、フッ素の汚染土壌からの溶出を低減するためのキット。
Ca(7−1.5x)Fe(OH)14・yHO・・・(1)
(式(1)において1.7 ≦ x ≦ 2.3、1≦ y ≦6)

【公開番号】特開2012−135728(P2012−135728A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−290173(P2010−290173)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(508376166)株式会社エンバイロ・ソリューション (3)
【出願人】(390000686)株式会社住化分析センター (72)
【Fターム(参考)】