説明

フッ素ゴム組成物及びゴム金属積層体

【課題】メタケイ酸カルシウムを配合しても、微振動や、熱膨張および熱収縮に追従でき、金属との接着が維持できるフッ素ゴム組成物及び、それを用いたゴム金属積層体を提供すること。
【解決手段】フッ素ゴムポリマーと、架橋剤と、架橋促進剤と、メタケイ酸カルシウムと、カーボンブラックと、を少なくとも含むフッ素ゴム組成物において、前記メタケイ酸カルシウムを、前記フッ素ゴムポリマー100重量部に対して、1重量部以上10重量部未満含有することを特徴とするフッ素ゴム組成物、及び、該フッ素ゴム組成物をゴム層形成成分として用いて、金属板の片面又は両面に、ゴム層を形成させたゴム金属積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素ゴム組成物及びゴム金属積層体に関し、より詳しくは、微振動や、熱膨張および熱収縮に追従でき、金属との接着が維持できるフッ素ゴム組成物及び、それを用いたゴム金属積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用のシリンダーヘッドガスケットは、ゴム金属積層体が使用されており、ゴム金属積層体のゴムとしては使用環境が高温になることからフッ化ビニリデン系フッ素ゴム(FKM)が広く使用されている。
【0003】
鋳鉄性エンジンのシリンダーヘッドガスケットは、鋳鉄の剛性を生かして、ガスケットを高い面圧で圧縮することで、燃焼ガスや油、LLC(Long Life Coolant;自動車用冷却水)等をシールしていた。
【0004】
よって、鋳鉄製エンジンのシリンダーヘッドガスケットとして用いられるゴム金属積層体には、耐圧縮性が必要不可欠であり、MTカーボンやシリカなどを充填し耐圧縮性を得ている。
【0005】
特許文献1の実施例3には、フッ素ゴム100重量部に対し、MTカーボンブラックを40重量部、シリカを20重量部、メタケイ酸カルシウムを10重量部添加し、非常に優れた耐圧縮性をもつゴム金属積層体が記載されている。
【0006】
しかしながら、昨今は、エンジン軽量化のため、鋳鉄製エンジンに代えてアルミ製エンジンを導入する動きが進んでいる。
【0007】
アルミ製エンジンは、鋳鉄製エンジンに比べ剛性が落ちるので、シリンダー内の燃焼圧でヘッドブロックが持ち上がり、シリンダーブロックとの間に隙間が発生することで、微振動(タタキ現象)が発生したり、熱による膨張と収縮が大きいという特徴がある。
【0008】
したがって、アルミ製エンジンに対するシリンダーヘッドガスケットには、ハウジングの微振動や熱収縮に追従する性質が求められている。
【0009】
特許文献1のゴム金属積層体は、耐圧縮性が高いので鋳鉄製エンジンに向いているが、ハウジングの微振動や熱収縮が大きいアルミ製エンジンに応用した場合には、ハウジングの微振動や熱収縮に追従しきれないことによりゴム剥がれが発生する懸念がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007−186536号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者らは、微振動や熱収縮といったわずかな動きに対して、基材となるフッ素ゴムは追従できるのに対し、メタケイ酸カルシウムは繊維状の充填剤である故に追従できず、基材であるゴムと充填剤との間でずれが生じ、そのずれが起点となってゴム剥がれが起きることを見出した。
【0012】
しかし、ゴム剥がれを防止するためメタケイ酸カルシウムを配合しないフッ素ゴム組成物は、耐圧縮性が落ちるので、ガスケットとして用いるゴム金属積層体には適さない。
【0013】
そこで、本発明の課題は、メタケイ酸カルシウムを配合しても、微振動や、熱膨張および熱収縮に追従でき、金属との接着が維持できるフッ素ゴム組成物及び、それを用いたゴム金属積層体を提供することにある。
【0014】
また本発明の他の課題は、以下の記載によって明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題は、以下の各発明によって解決される。
【0016】
(請求項1)
フッ素ゴムポリマーと、架橋剤と、架橋促進剤と、メタケイ酸カルシウムと、カーボンブラックと、を少なくとも含むフッ素ゴム組成物において、
前記メタケイ酸カルシウムを、前記フッ素ゴムポリマー100重量部に対して、1重量部以上10重量部未満含有することを特徴とするフッ素ゴム組成物。
【0017】
(請求項2)
シリカを更に含むことを特徴とする請求項1記載のフッ素ゴム組成物。
【0018】
(請求項3)
請求項1又は2のいずれかに記載のフッ素ゴム組成物をゴム層形成成分として用いて、金属板の片面又は両面に、ゴム層を形成させたゴム金属積層体。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、メタケイ酸カルシウムを配合しても、微振動や、熱膨張および熱収縮に追従でき、金属との接着が維持できるフッ素ゴム組成物及び、それを用いたゴム金属積層体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】微振動・熱収縮評価試験の方法を示す図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0022】
<フッ素ゴム組成物>
本発明に用いることが可能なフッ素ゴムポリマーとしては、1種又は2種以上の含フッ素オレフィンの重合体又は共重合体を用いることができる。
【0023】
フッ素オレフィンとしては、具体的には、例えば、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン、ペンタフルオロプロピレン、トリフルオロエチレン、トリフルオロクロロエチレン、テトラフルオロエチレン、フッ化ビニル、パーフルオロアクリル酸エステル、アクリル酸パーフルオロアルキル、パーフルオロメチルビニルエーテル、パーフルオロプロピルビニルエーテル等が挙げられる。これらの含フッ素オレフィンは1種又は2種以上組み合わせて用いることもできる。
【0024】
本発明において、フッ素ゴムポリマーとして好ましいのは、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン2元共重合体(略称:VDF−HFP)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン3元共重合体(略称:VDF−HFP−TFE)などが挙げられる。これらのポリマーは、従来公知の方法により、溶液重合、懸濁重合または乳化重合させることにより得られ、市販品として入手できる(例えばデュポン社製バイトンA、バイトンBなど)。
【0025】
架橋系としては、アミン架橋、ポリオール架橋のどちらか一方または併用して用いることができる。
【0026】
アミン架橋の架橋剤としては、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)カーバメート、ヘキサメチレンジアミンカーバメート、N,N´−ジシンナミリデン−1,6−ヘキサンジアミンなどが用いられる。
【0027】
ポリオール架橋の架橋剤としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン[ビスフェノールA]、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)パーフルオロプロパン[ビスフェノールAF]、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン[ビスフェノールS]、ビスフェノールA−ビス(ジフェニルホフェート)、4,4’−ジヒドロキシジフェニル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン等のポリヒドロキシ芳香族化合物が挙げられ、好ましくはビスフェノールA、ビスフェノールAF等が用いられる。これらはアルカリ金属塩あるいはアルカリ土類金属塩の形であってもよい。
【0028】
架橋剤の配合量は、フッ素ゴムポリマー100重量部あたり1〜10重量部の範囲が好ましく、より好ましくは3〜9重量部の範囲である。
【0029】
ポリオール系架橋剤が使用された場合には、架橋促進剤として、第4級アンモニウム塩または、第4級ホスホニウム塩またはそれと活性水素含有芳香族化合物との等モル分子化合物などの第4級オニウム塩が用いられ、好ましくは第4級ホスホニウム塩が用いられる。
【0030】
第4級ホスホニウム塩としては、〔PRで示される化合物が挙げられる。
式中、R〜Rは、炭素数1〜25のアルキル基、アルコキシル基、アリール基、アルキルアリール基、アラルキル基またはポリオキシアルキレン基であり、あるいはこれらの内2〜3個がPと共に複数環構造を形成することもできる。
はCl、Br、I、HSO、HPO、RCOO、ROSO又はCO−−等のアニオンを表す。
【0031】
具体的には、テトラフェニルホスホニウムクロライド、ベンジルトリフェニルホスホニウムブロマイド、ベンジルトリフェニルホスホニウムクロライド、トリフェニルメトキシメチルホスホニウムクロライド、トリフェニルメチルカルボニルメチルホスホニウムクロライド、トリフェニルエトキシカルボニルメチルホスホニウムクロライド、トリオクチルベンジルホスホニウムクロライド、トリオクチルメチルホスホニウムクロライド、トリオクチルエチルホスホニウムアセテート、テトラオクチルホスホニウムクロライド、トリオクチルエチルホスホニウムジメチルホスフェートなどが用いられる。
【0032】
また、第4級アンモニウム塩は、一般式〔NR(ここで、R〜RおよびXは上記と同じである)で表わされる化合物、例えば1−アルキルピリジニウム塩、5−アラルキル−1,5−ジアザビシクロ[4,3,0]−5−ノネニウム塩、8−アラルキル−l,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウム塩などが用いられる。
【0033】
これらの第4級オニウム塩は、フッ素ゴム100重量部当り、約1〜10重量部、好ましくは約2〜8重量部の割合で、1種または2種以上を併用して用いられる。
【0034】
<メタケイ酸カルシウム>
メタケイ酸カルシウムとしては、平均径(繊維径)が約1〜50μm、好ましくは約5〜35μmでかつアスペクト比が3以上、好ましくは3〜15のものが用いられる。アスペクト比は、(繊維長)÷(繊維径)から求められる。
【0035】
市販品としては、NYCO社製「NYAD400」、「NYAD325」等が挙げられる。
【0036】
メタケイ酸カルシウムは、フッ素ゴム100重量部当り、1重量部以上〜10重量部未満、好ましくは2重量部以上〜8重量部以下、より好ましくは4重量部以上〜7重量部以下の割合で用いられる。
【0037】
1重量部以上〜10重量部未満の範囲で用いることにより、耐はみ出し性(耐圧縮性)と、微振動、熱収縮に対する追従性の双方を得ることができる。
【0038】
メタケイ酸カルシウムの配合量が1重量部未満であると、高温、高面圧下での圧縮によりゴムがはみ出す(流れる)ことを防止することができず(比較例1)、が10重量部以上となると、微振動や熱収縮に追従できず、ゴム剥がれが発生する(比較例2、4)。
【0039】
<カーボンブラック>
カーボンブラックとしては、平均粒径が大きいカーボンブラックが好ましく用いられ、サーマルブラック、中でもMTカーボンが好ましい。
【0040】
カーボンブラックを配合する事により、メタケイ酸カルシウムの配合を1重量部以上〜10重量部未満としても、ガスケットとして望ましい耐圧縮性を備えることができる。また、ゴム生地の粘着性を抑え、ゴムの混練性を良くする効果もある。
【0041】
カーボンブラックは、フッ素ゴム100重量部当り、15〜40重量部とすることが好ましく、より好ましくは20〜35重量部、さらに好ましくは20〜30重量部で用いられる。カーボンブラックの配合量が15重量部より少ないと補強効果が得られず、40重量部より多いと微振動や熱収縮への追従性が低下する。
【0042】
本発明は、さらに、シリカを配合することが好ましい。
【0043】
シリカとしては、ハロゲン化珪酸または有機珪素化合物の熱分解法やけい砂を加熱還元し、気化したSiOを空気酸化する方法等で製造される乾式法シリカ、けい酸ナトリウムの熱分解法などで製造される湿式法シリカなどであって、非晶質シリカを用いることができ、市販品、例えば東ソー・シリカ工業社製品Nipsil(ニップシール)LPなどがそのまま用いられる。また、その比表面積が約20〜250m/g、好ましくは約30〜100m/g程度のものが用いられる。また、天然シリカとしては、平均粒径が約20μm以下の天然シリカ、好ましくはシランカップリング剤などで表面処理された天然シリカなどを用いても同様な効果が得られる。
【0044】
シリカは、高温浸漬時の接着剤層の剥がれ防止に有効であり、耐水性向上といった効果を示す。
【0045】
シリカは、フッ素ゴム100重量部当り、5〜30重量部とすることが好ましく、より好ましくは10〜25重量部、さらに好ましくは10〜15重量部で用いられる。
【0046】
以上の各成分以外に、ステアリン酸、ヘプタン酸などの脂肪酸の金属塩、ハイドロタルサイト等の充填剤、加工助剤、老化防止剤、受酸剤などのゴム工業で一般的に用いられている各種配合剤が適宜添加されて用いられる。
【0047】
本発明のフッ素ゴム組成物の調製は、インタミックス、加圧式ニーダ、バンバリーミキサ等の混練機あるいはオープンロールなどを用いて混練することによって行われる。
【0048】
また、本発明のフッ素ゴム組成物をゴム金属積層体のゴム層として利用する場合には、混練を行わず、あるいは一部の原料のみをインタミックス、ニーダ、バンバリーミキサ等の混練機あるいはオープンロールなどを用いて混練した後フッ素ゴム組成物を沸点250℃以下の溶剤、例えば芳香族炭化水素類、ケトン類またはこれらの混合溶剤などに溶解または分散させて、コーティング溶液として調製される。
【0049】
<ゴム金属積層体>
本発明のゴム金属積層体は、金属板の片面又は両面に、必要によりプライマー層、接着剤層を介して、本発明のフッ素ゴム組成物をゴム層として形成させたものである。
【0050】
金属板としては、表面が粗面化していないステンレス鋼板、SPCC鋼板、アルミニウム板などや、ショットブラスト、スコッチブラスト、ヘアーライン、ダル仕上げなどで表面を粗面化させたステンレス鋼板、SPCC鋼板、アルミニウム板などが、一般に溶剤脱脂、アルカリ脱脂した後、そのまま使用する場合や無機系、有機系防錆皮膜を形成させる化成処理を施した上で使用する場合がある。
【0051】
高温の不凍液や油に長時間潰せき後のゴム層に剥れやふくれを防止するには、上記化成処理が必要となり、上記化成処理により形成される膜としては、リン酸亜鉛被膜、リン酸鉄被膜、クロメート被膜、バナジウム、ジルコニウム、チタニウム、モリブデン、タングステン、マンガン、亜鉛、セリウム等の金属の化合物、特にこれら金属の酸化物等の無機系被膜、シラン、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン等の有機系被膜などが挙げられる。
【0052】
SPCC鋼板の場合には、リン酸亜鉛皮膜、リン酸鉄皮膜を形成させることも行われる。
【0053】
本発明において、金属板は、アルカリ脱脂処理等で脱脂した後、クロメート系防錆処理、もしくはノンクロメート系防錆処理によって防錆被膜を形成した金属板が好ましく用いられ、SPCC鋼板ではリン酸亜鉛、リン酸鉄被膜、あるいはそれと同様な被膜が形成されてもよい。
【0054】
金属板の厚さは、ガスケット材料用途には、厚さ約0.1〜1mm程度の金属板が好ましく用いられ、約0.2〜0.8mm程度がより好ましく用いられる。
【0055】
接着剤溶液は、接着性樹脂、硬化樹脂及び未加硫の接着剤用ゴム組成物を一般的な手法で有機溶媒に溶解させて得られ、接着剤溶液を金属板上に塗布し、乾燥及び焼付け処理をおこなって接着剤層を形成する。
【0056】
接着性樹脂としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、キシレン樹脂から選ばれる一種または二種以上の樹脂を組み合わせて用いることが好ましい。
【0057】
フェノール樹脂としては、クレゾールノボラック型、クレゾールレゾール型、アルキル変性型などの任意の熱硬化性フェノール樹脂が挙げられる。
【0058】
エポキシ樹脂としては、一般にクレゾールノボラック変性エポキシ樹脂が挙げられ、その硬化剤としてはビスフェノールノボラック型フェノール樹脂が、硬化触媒としてはイミダゾール化合物がそれぞれ好適に用いられる。
【0059】
キシレン樹脂は、フェノール変性型などの任意の変性キシレン樹脂が挙げられる。
【0060】
接着剤用ゴム組成物は、フッ素ゴム組成物が用いられ、好ましくは、ゴム層形成に用いるものと同じフッ素ゴム組成物を用いる。プライマーの乾操および焼付温度に左右されることなく、ゴムコート層との良好な接着性が確保されるようになる。
【0061】
有機溶剤は、上記接着性樹脂と架橋剤、架橋促進剤、未加硫の接着剤用ゴム組成物を同時に溶解させるものであれば制限はない。例えば、トルエン等の芳香族炭化水素とメチルエチルケトンやメチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒、イソプロピルアルコール等のアルコール系有機溶剤や、これら二種以上の混合溶媒などが挙げられる。
【0062】
接着剤溶液は、有機溶媒によって固形分濃度が0.5〜20%となるように調製され、金属板上、好ましくはプライマー層を形成させた金属板上に塗布される。その後、室温下で風乾させ、さらに約100〜250℃で約5〜30分間程度の乾燥(架橋反応を行ってもよい)を行うことにより接着剤層が形成される。
【0063】
本発明のフッ素ゴム組成物は、有機溶媒に溶解させてコーティング溶液とし、このコーティング溶液を金属板、好ましくは金属板上に形成された接着剤層上に塗布し、プレス架橋或いはオーブン架橋してゴム層とする。
【0064】
本発明のフッ素ゴム組成物は、混練を行わず、あるいは一部の原料のみをインタミックス、ニーダ、バンバリーミキサ等の混練機あるいはオープンロールなどを用いて混練した後、有機溶媒に溶解または分散させて、コーティング溶液として調製される。
【0065】
有機溶剤はフッ素ゴム組成物を溶解させるものであれば制限はない。例えばメタノールやn−ブタノール等のアルコールと、メチルエチルケトンやメチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒等との、2種以上の混合溶媒によってフッ素ゴム組成物を溶解させ、固形分濃度が固形分濃度約10〜40重量%、好ましくは約10〜30重量%のコーティング溶液とする。
【0066】
コーティング溶液は、乾燥後の厚みが20〜150μmになるようにコーティングする。必要に応じて複数回のコーティングを行ってもよい。
【0067】
コーティング方式としては、ロールコート、ダイコート、ナイフコートなどのほか、スクリーン印刷やディスペンサーやインクジェットによる部分塗布も可能である。コーティング液は、各コーティング方式にそれぞれ適した粘度に調製される。例えば、ロールコートでは粘度が200〜500cps程度が好ましく、気温や液温に応じて固形分濃度が適宜調整される。
【0068】
フッ素ゴム組成物の架橋は、コーティング溶液を塗布した後乾燥させ、プレス架橋の場合には、約160〜230℃、約20〜100Kgf/cm(約1.96〜9.8MPa)、約0.5〜30分間の条件下で、また加熱空気による場合(オーブン架橋)には、常圧下で約160〜230℃、約5〜30分間の条件下で熱処理し、架橋させる。
【0069】
架橋ゴム層上には、グラファイト、PTFE、二酸化モリブデン、カーボンブラック、パラフィンワックスなどの潤滑成分を主成分とし、これにバインダーとしてセルロース樹脂、アクリル樹脂、ポリブタジエン樹脂、ウレタン樹脂などを添加して、トルエンなどの有機溶媒中あるいは水中に分散させた分散液が塗布され、厚さ約1〜10μmの非粘着層を形成させることにより、焼付防止および付着防止が図られる。
【0070】
このようにして得られたゴム金属積層体(ガスケット素材)は、例えばパンチ等により所望の形状に加工され、ガスケットとして好適に用いられる。
【実施例】
【0071】
以下に、本発明の実施例を説明するが、本発明はかかる実施例によって限定されない。
【0072】
(実施例1)
・フッ素ゴム組成物
2元系フッ素ゴムポリマー(デュポン・ダウ・エラストマー社製「バイトンA−500」;ムーニー粘度ML1+10(121℃)45) 100重量部
MTカーボン(キャンカーブ社製品「サーマックスN990」) 20重量部
シリカ(東ソー・シリカ社製 「ニップシールLP」一次粒径16nm) 10重量部
メタケイ酸カルシウム(NYCO社製「Nyad400」) 5重量部
ハイドロタルサイト(協和化学社製「DHT−4A」) 2重量部
ステアリン酸ナトリウム(日油社製) 0.5重量部
酸化マグネシウム(協和化学社製「キョウワマグ30」) 6重量部
架橋剤:
ビスフェノールAF(デュポン・ダウ・エラストマー社製「キュラティブVC#30」;50wt%とフッ素ゴム〔バイトンE−45〕50wt%のマスターバッチ)
5重量部(ロール投入)
架橋促進剤:
トリフェニルベンジルホスホニウムクロライド(デュポン・ダウ・エラストマー社製「キュラティブVC#20」;架橋促進剤33wt%とフッ素ゴム〔バイトンE−45〕67wt%のマスターバッチ) 2重量部(ロール投入)
【0073】
以上の各配合成分を密閉式加圧ニーダーとオープンロールを用いて混練した。なお、この際の混練性について、後述の基準にしたがって評価した。
【0074】
フッ素ゴム組成物は、メチルエチルケトン:メタノール=8:2混合溶剤に溶解させて、フッ素ゴム組成物濃度が25重量%のコーティング溶液を調製した。
【0075】
・ゴム金属積層体
アルカリ脱脂したステンレス鋼板(日新製鋼製品SUS301、厚さ0.2mm)に、Zr/Al系プライマー(日本パーカーライジング製品)を塗布して下部プライマー層を形成させた。
【0076】
接着剤溶液(エポキシフェノール樹脂(大日本インキ化学工業製品クレゾールノボラック変性エポキシ樹脂)のメチルエチルケトン溶液を主剤とし、これにビスフェノールノボラックフェノール樹脂硬化剤(同社製品)および2−エチル−4−メチルイミダゾール硬化触媒(四国化成製品)を添付したもの7重量%、上記のフッ素ゴム組成物3重量%およびメチルエチルケトン90重量%よりなる)を、鋼板の両面に浸せき塗布し、150℃のオーブン中で5分間程度加熱処理して、片面厚さ2.5μmの上記接着剤層を両面に形成させた。
【0077】
形成された両面接着剤層上に、上記のコーティング溶液を、ロールコータを用い、片面厚さ25μmで塗布し、60℃で10分間乾燥させた後、220℃、1分間、35kgf/cm(3.43MPa)の条件下でプレス架橋を行った。
【0078】
その後、架橋ゴムの粘着防止を目的として、ポリブタジエン樹脂バインダーを添加したポリエチレンワックスのトルエン分散液を塗布し、200℃で3分間加熱処理して、厚さ5μmの粘着防止層(表面コート層)を形成した。
【0079】
以上のように調製、製造したフッ素ゴム組成物、及びゴム金属積層体について、以下の評価を行った。
【0080】
1.ゴム混練性
生地調製時の混練し易さについて以下の基準で評価した。
(評価基準)
◎:良好に混練ができる
○:ロールに粘着した
×:混練ができなかった
【0081】
2.微振動・熱収縮評価(追従性)
図1に示すように、ゴム金属積層体1を平面に対し斜め45°となるように治具A(符合2)と治具B(符合3)で挟んだ。200℃の温度環境下で、加振機4によってゴム金属積層体に対し面圧100MPa〜300MPaの間で変化させながら加圧し、かつ周波数100Hzの微振動を与え、10分後の状態を以下の基準で評価した。
(評価基準)
◎:ゴムの剥がれなし
○:若干のゴムの剥がれがあるが問題なし
×:大きくゴムが剥がれている
【0082】
3.耐はみ出し性:ガスケット素材の高温・高圧下での耐フロー性
150℃に加熱したプレス内でガスケット素材にステンレス製凸形状治具で300MPaの面圧を与え、10分後の状態を以下の基準で評価した。
剥がれとはみ出しが少ないほど、圧縮性が良いと判断できる。
(評価基準)
◎:ゴムの剥がれとはみ出しが見られないもの
○:若干剥がれとはみ出しがあるものの、金属板の露出がなく、実用上問題ないもの
×:ゴムが剥がれとはみ出しがひどく、金属板が露出してしまっているもの
【0083】
4.耐LLC性
ゴム金属積層体を、耐圧容器中120℃で500時間 50%LLC溶液に浸せきした後、JIS K5600に準じて碁盤目試験を行い、以下の基準で評価した。
(評価基準)
◎:ゴムの残存率が100%
○:ゴムの残存率が65%以上100%未満
×:ゴムの残存率が65%未満
【0084】
5.耐油性
ゴム金属積層体を、IRM903油中に150℃で500時間浸せきした後、耐LLC試験と同様に碁盤目試験を行い、同じ基準で評価した。
【0085】
6.耐熱性
ゴム金属積層体を、200℃の恒温槽内に500時間置いた後、耐LLC試験と同様に碁盤目試験を行い、同じ基準で評価した。
【0086】
評価結果を表1に示す。
【0087】
【表1】

【0088】
(実施例2)
実施例1において、MTカーボンを30重量部、シリカを20重量部とした以外は同様にしてゴム金属積層体を得た。
【0089】
(比較例1)
実施例1において、メタケイ酸カルシウムを配合しない以外は同様にしてゴム金属積層体を得た。
【0090】
(比較例2)
実施例1において、MTカーボンを40重量部、シリカを20重量部、メタケイ酸カルシウムを10重量部とした以外は、実施例1と同様にしてゴム金属積層体を得た。
【0091】
(比較例3)
実施例1において、MTカーボンを10重量部、メタケイ酸カルシウムを10重量部とした以外は、実施例1と同様にしてゴム金属積層体を得た。
【0092】
(比較例4)
実施例1において、メタケイ酸カルシウムを10重量部とした以外は、実施例1と同様にしてゴム金属積層体を得た。
【0093】
(比較例5)
比較例2において、メタケイ酸カルシウムを配合しない以外は同様にしてゴム金属積層体を得た。
【0094】
実施例2、比較例1〜5は実施例1と同様に評価し、その評価結果は表1に示す。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明に係るフッ素ゴム組成物は、ガスケット等の架橋成形材料として好適に用いられ、本発明に係るゴム金属積層体は、ガスケット、特にエンジンのシリンダーヘッドガスケット、コンプレッサー用ガスケットなどとして好適に用いられる。
【符号の説明】
【0096】
1:ゴム金属積層体
2:治具A
3:治具B
4:加振機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素ゴムポリマーと、架橋剤と、架橋促進剤と、メタケイ酸カルシウムと、カーボンブラックと、を少なくとも含むフッ素ゴム組成物において、
前記メタケイ酸カルシウムを、前記フッ素ゴムポリマー100重量部に対して、1重量部以上10重量部未満含有することを特徴とするフッ素ゴム組成物。
【請求項2】
シリカを更に含むことを特徴とする請求項1記載のフッ素ゴム組成物。
【請求項3】
請求項1又は2のいずれかに記載のフッ素ゴム組成物をゴム層形成成分として用いて、金属板の片面又は両面に、ゴム層を形成させたゴム金属積層体。


【図1】
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【公開番号】特開2012−224654(P2012−224654A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−90453(P2011−90453)
【出願日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【Fターム(参考)】