説明

フッ素ポリマーのバリア材料

水蒸気透過性が約0.015g・mm/m2/日以下であり、好ましくは直交する2方向でのマトリクス引張強度が少なくとも10000psi(68.9MPa)である、新規の高密度化フッ素ポリマー物品を記載する。この物品は、気孔が消滅する圧力、温度及び時間で多孔質延伸PTFEを圧縮し、続いて結晶溶融温度を超える温度でストレッチすることにより作られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフッ素ポリマーのバリア材料に関する。好ましくは、水蒸気透過性が非常に低く、長さと幅の両方の次元(すなわち方向)で引張特性が改良された高密度ポリテトラフルオロエチレンシート又はフィルムを含むフッ素ポリマーのバリア材料に関し、及びポリテトラフルオロエチレンの高密度化、焼結及びストレッチ(stretch)の組み合わせを含む、そのバリアの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
幅広い範囲の用途で使用するために、優れたバリア特性に加えて良好な機械的特性を備えた熱安定性ポリマーフィルムを探す挑戦は研究者たちを様々な方向に向かわせてきた。モノリシックフィルム及び多成分・多層フィルムの両方が作られてきたが、熱安定性、強度、薄さ、及び水蒸気透過に対する抵抗性によって示される最も重要なバリア特性の、類のない組み合わせを提供するのに適当な材料は今までに得られていない。
【0003】
この問題を解決する一つの試みはTsaiらの米国特許第6465103号に教示されている。それは、PCTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン)フッ素ポリマーの少なくとも1層、ポリオレフィンホモポリマー又はコポリマーの少なくとも1層、及び不飽和カルボン酸又はその酸無水物の少なくとも1つの官能基部分を有するポリオレフィンからなる中間接着層を共押出又は積層することによって製造される、高度に配向した多層フィルムを示している。そのポリオレフィン層によってフッ素ポリマー層はその長さの最大10倍までストレッチすることができ、フッ素ポリマーフィルムが配向されてフィルムの機械的特性及び水蒸気特性が改良される。この構造の市販フィルムは、Honeywell CorporationからACLAR(登録商標)の商品名で販売されている。しかしながら最終フィルムが望ましくない厚さになることや処理中のコストを上乗せすることに寄与する、ポリオレフィン及び接着層が存在していることを含む制約がこれらの材料に関しては存在する。その上これらのフィルムには耐薬品性及び耐熱性に限界があり(例えば、ACLAR(登録商標)フィルムについて報告されている最高の熱安定性は約215℃)、耐水蒸気透過性にも限界がある。
【0004】
他の材料についてもバリア用途で要求される適性が評価されている。例えばDow Chemical Company(Midland, MI)からSARANの商品名で販売されている、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)コポリマーフィルムは、酸素、湿気及び化学的な攻撃から食品を保護することに加えて他のバリア用途向けのバリアフィルムとしても広く知られている。しかしながらこのPVDCフィルムには薬品及び温度範囲に制限があり(すなわち溶融温度が約160℃)、耐水蒸気透過性にも限界がある。
【0005】
厳しい化学的環境において及び幅広い温度範囲に渡って、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を使用する利点は周知である。PTFEは他のポリマーがすぐさま劣化する厳しい化学的環境で使用する材料として有用である。また、PTFEの可使温度範囲は260℃といった高温から−273℃付近の低温にまで及ぶ。しかしながらPTFEには、引張強度が低く、耐低温流動性又は耐クリープ性に乏しく、カットスルー抵抗及び耐摩耗性に乏しく、並びに多くの材料工学用途への検討の妨げとなる、一般的な機械的結合性が低いなどの機械的特性が劣るといった特徴がある。
【0006】
固体のPTFEフィルムを厚い予備成形品から分割するか薄く削るスカイビング処理を用いることによって、低空隙率のPTFE物品が過去に作られている。これらの物品には、強度が低く、耐低温流動性に乏しく、及びフィルムの長さと幅の両方向で耐荷重能力が低いという特徴がある。またPTFE微粉末をペースト押出することを含む方法が低空隙率のPTFE物品を製造するのに使用されているが、これらも機械的特性が比較的低いという特徴がある。長さの次元でストレッチして低空隙率のPTFEフィルムを強化する試みもなされている。強度の利得はごく僅かであり、処理の性質上その利得は単一の次元においてのみ得られるため、フィルムの有用性を非常に狭めてしまう。
【0007】
PTFE材料、特に延伸(expanded)ポリテトラフルオロエチレンは米国特許第3953566号に教示されているように作ることができる。この多孔質延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)はフィブリルによって相互連結されたノードからなる微細構造を有している。その強度は延伸していないPTFEよりも高く、延伸していないPTFEの持つ化学的不活性さ及び幅広い可使温度範囲は保持されている。
【0008】
しかしながらePTFEは多孔質であって、表面張力が50dyn・cm(mN/m)未満の低表面張力流体は膜の気孔を通り抜けるために、そのような流体に対するバリア層として使用できない。圧縮したePTFEの物品が米国特許第3953566号に教示されており、加熱してあるいは加熱せずにePTFEの薄いシートを高密度化するのに定盤プレスが使用されている。しかしながらプレス中に低温流動が起こり、不均一な部分が生じ、及び2.1g/cc(g/cm3)を超える密度は実現されていない。米国特許第3953566号で使用したePTFEシートは1方向のみにストレッチ又は強化されたため、出来上がった物品の有用性は大変限られていた。
【0009】
同様にCooperらの米国特許第4732629号には、PTFEで絶縁された伝導体のカットスルー抵抗を増加する方法が記載されている。未焼結のPTFEを延伸及び圧縮してその後伝導体に適用する。しかしながら2.1g/cc(g/cm3)以上の密度は実現されず、出来上がった物品で得られた引張強度は長さ又は幅方向のいずれについても報告されていない。
【0010】
Katayamaの米国特許第5061561号にはePTFEから高密度繊維を製造する方法が記載されている。しかしながら本方法から得られる物品は本発明とは大きく異なり、微細フィラメントにのみ適用可能であってシートには適用できない。
【0011】
Knoxらの米国特許第5374473号には高密度化したePTFE物品の製造方法が記載されており、その方法は、2層以上の多孔質ePTFEを耐熱・耐圧の可撓性容器の中に置き、チャンバから気体を排気し、チャンバの圧力を150〜350psi(1.03〜2.41MPa)及び温度を368〜400℃にし、その後減圧しながら容器を冷却することによるものである。得られた高密度化構造体は、可撓性の支持体に積層したポンプのダイアフラムのようなバリア用途に有用であると記載されている。上述の用途についてKnoxらの材料のバリア特性は改良されているが、教示されている方法及び物品により、均一で良好なバリア特性(例えば水蒸気透過係数が0.10g・mm/m2/日のオーダー)を備えた、薄く、柔軟なPTFEフィルムを作るのに制約がある。
【0012】
Fuhrらの米国特許第5792525号には、1層以上の高密度化された延伸ポリテトラフルオロエチレンからなる原材料から形状化した耐クリープ性物品を形成することが教示されている。高密度化した延伸PTFE材料にはフィブリル及びノード構造が残存し、得られた物品は高温かつ高荷重下で耐クリープ性である。原材料は前述したKnoxらの米国特許第5374473号に教示された方法で形成するのが好ましい。成形された物品はその後、熱成形法又は機械成形法のような任意の適当な方法により形成される。圧縮成形及び木摺打ちが成形方法として詳細に記載されている。Fuhrらは良好なバリア特性を備えた薄いPTFEフィルムを形成する可能性を教示又は示唆していない。
【0013】
国際公開02/102572はPTFE樹脂のブロー成形物品及び樹脂のブロー成形法を示している。PTFEに結晶性及び非結晶性の両方の領域が存在する温度である、PTFEが溶融し始める温度又はそれを超える温度で、ブロー成形によってPTFE出発原料を引き出して非孔質構造を形成する。この教示によればこの方法及び製品の処理及び製品特性は大幅にばらついてしまい、材料のバッチ毎に引出温度及び引出比を決定するために試行錯誤が必要である。加えて教示された処理技術に基づくと、材料の大きさ及び強度に顕著な限界が生ずることがある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
W. L. Gore and Associates, Inc.から現在入手できる2つの製品には、バリア特性を示す高密度フッ素ポリマーフィルムが含まれる。第1の製品は2つの多孔質PTFE膜の間に接着されたPTFEバリア層を含む。第2の製品は、FEP(フルオロエチレンプロピレン)、PFA(パーフルオロアクリレート)又はTHV(テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン及びフッ化ビニリデンのポリマー)のような、熱可塑性層に片面が接着されたPTFEバリア層を含む。これら市販製品のバリア層は高い耐水蒸気性(すなわち低水蒸気透過性)のPTFEフィルムであり、幅及び長さの直交方向における引張特性が良好である。当業者に理解されることだが材料のバリア性能及びバルク密度には正の相関がある。このバリア層については、バルク密度が2.11g/cc(g/cm3)以上であり、実質的に気孔がなく、幅と長さの両方向でマトリクス引張強度が10000psi(68.9MPa)以上であって、水蒸気透過係数が0.018g・mm/m2/日である。良好な耐薬品性及び耐水蒸気透過性を備えた柔軟な薄い材料を必要とする数多くの用途にこれらの材料はうまく使用されてはいるものの、さらにより要求の厳しいバリア用途のために性能がさらに改良された材料が依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の目的の1つは、これまで先行技術で実現されなかった、卓越した耐水蒸気透過性(材料の水蒸気透過係数として報告される)及び強度を含むバリア特性が強化された、改良されたフッ素ポリマーバリア材料を提供することである。当業者に理解されることであるが、所与の材料の耐水蒸気透過性は幅広い種類の透過性物質に対する透過抵抗の強力な指標であるが、本発明はそのことによって決して限定されない。そのように改良されたバリア特性は苛酷な条件下で様々な透過性物質に対する抵抗性が望まれる多くの用途において価値がある。本発明は改良されたフッ素ポリマーバリア材料を提供し、好ましくは高密度PTFEシート又はフィルムを含み、水蒸気透過係数は約0.015g・mm/m2/日以下であり、より好ましくは約0.010g・mm/m2/日以下、さらにより好ましくは約0.003g・mm/m2/日以下と低い。前述したようにPTFE材料を含むフッ素ポリマーへ与えられる重要な利点には、他のポリマーがすぐさま劣化する厳しい化学的環境に対して抵抗性があり、可使温度範囲が260℃といった高温から−273℃付近の低温にまで及ぶことが含まれる。
【0016】
本発明の他の目的は、直交(すなわち長さと幅など)方向の引張強度を改良することによって、そのようなフッ素ポリマーバリア材料、好ましくは高密度PTFEシート又はフィルムを含む材料の有用性を高めることにある。この改良は、屈曲寿命、耐荷重性、耐衝撃性及び破断抵抗、引裂伝播抵抗、耐カットスルー性及び耐摩耗性の改良が必要とされる用途に有用である。長さと幅の両方向における引張強度の改良は、出来上がった物品の化学的性能について妥協することになる強化材料を必要とせずに、高密度PTFEシートで実現できる。本発明は、従来の高密度PTFEシート又はフィルムの優れた化学的及び熱的特性に加えて、フッ素ポリマーバリア材料に低水蒸気透過性のみならず、直交方向でのより大きな引張強度及びより大きな靭性をも付与する。本発明のシート及びフィルムは非常に薄い形状に作ることができる。
【0017】
従って本発明は、熱安定性、強度、薄さ及び最も重要である優れたバリア特性の、他にはない組み合わせを有するフッ素ポリマーバリア材料をここに提供する。本発明のバリア材料の望ましい厚さは3mm以下のオーダーであり、より好ましくは0.5mm以下であり、さらにより好ましくは18μmと低いか、さらに約2μm以下にまで至る。本発明の材料の好ましい引張強度は、幅と長さの両方向(すなわち直行する2方向)において少なくとも10000psi(68.9MPa)のオーダーであり、より好ましくは少なくとも1方向において少なくとも15000psi(103MPa)であり、最も好ましくは少なくとも1方向において少なくとも25000psi(172MPa)である。この明細書全体では「幅」及び「長さ」はそれぞれx及びy方向と同等である。水蒸気透過に対する抵抗力で示される本発明の新規フッ素ポリマー材料のバリア特性は、約0.015g・mm/m2/日以下、より好ましくは約0.010g・mm/m2/日以下、さらにより好ましくは約0.003g・mm/m2/日以下と低い。
【0018】
本発明は製品及び方法の両方を対象としている。その方法とは、低水蒸気透過性を備えかつ長さと幅の両方向で高い引張強度を有する高密度PTFE、高密度充填PTFE及び高密度PTFEと他の材料との複合体の、所望のシート又はフィルムを作る方法である。
【0019】
これらの方法には、定盤プレスのような適当なバッチプレスで、又はその代わりに、気孔を実質的に消滅させるのに十分な線速度及び圧力にて、通常の室温(約20℃)を超える温度でローラー又は他の適当な圧縮装置の間で圧縮することによる連続法のいずれかで、多孔質ePTFEの(複数の)シートを圧縮することが含まれる。得られた高密度材料は引き続きPTFEの結晶溶融温度を超える温度でストレッチされる。
【0020】
好ましい態様の1つでは、その製品は改良された透過特性及び引張特性を有する高密度PTFEを含むシートである。詳細には、その製品の水蒸気透過係数は、約0.015g・mm/m2/日以下、より好ましくは約0.010g・mm/m2/日以下、さらにより好ましくは約0.003g・mm/m2/日以下と低い。またその製品のマトリクス引張強度は少なくとも1方向において少なくとも15000psi(103MPa)である。
【0021】
本発明の他の態様では、その製品は少なくとも1種のフィラーが組み込まれており、改良されたバリア特性及び前述の他の特性を有する高密度PTFEシートを含んでもよい。
【0022】
他の好ましい実施態様では、その製品は他の基材に積層した低透過性PTFEフィルムを含むシートである。積層は、例えば熱的、化学的又は機械的に材料を接着することによる他の材料との接着又は共接合によって行ってもよい。詳細には他の基材には、FEP、PFA、PTFE、THV及び他の適当なフッ素ポリマーのような、1種以上のフッ素ポリマーシート又はフィルムが含まれてもよい。同様に他のポリマー基材の材料には、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリアミド、エチレンビニルアルコール(EVOH)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)などが含まれてもよいがこれらに限定されない。さらに基材は、金属、ガラス、無機シート、感圧接着剤などであってもよい。追加層(例えば布地など)とのさらなる接着を促進又は強化する様々な積層構造を作ってもよい。この製品のバリア構成部分の水蒸気透過係数は、約0.015g・mm/m2/日以下、より好ましくは約0.010g・mm/m2/日以下、さらにより好ましくは約0.003g・mm/m2/日以下と低い。さらにより好ましい構造には、xとyの両方向で10000psi(68.9MPa)以上の引張強度を伴って優れたバリア特性を備えた材料が組み込まれている。
【0023】
本方法は、改良された水蒸気透過性、及びxとyの両方向で改良された引張強度を有する、高密度PTFE、充填PTFE又はPTFE積層体のシートを作る方法である。そのような方法の1つには以下が含まれる。
(a)Knoxらの米国特許第5374473号の教示に従い、焼結済みの又は未焼結の状態のいずれかの、少なくとも1つの延伸された多孔質PTFEシート又は重ねられたシートの束を高密度化する。
(b)その高密度化されたPTFEを、PTFEの結晶溶融温度を超える温度に予備加熱する。
(c)加熱したPTFE膜を、幅方向に、長さ方向に、又は幅と長さの両方向においていずれかの順序で逐次的にもしくは同時に、少なくとも1%/秒、より好ましくは少なくとも3%/秒、さらにより好ましくは5%/秒以上の速度で、かつ4:1より大きいストレッチ比でストレッチする。
【0024】
前駆体の機械的特性と結晶溶融温度より高温で行われたストレッチにおけるストレッチ速度及び/又はストレッチ比との相互作用が得られる材料のバリア性能に影響を与えうることは、本明細書の詳細な説明及び実施例にてより詳細に説明するように当然に理解されることである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明の目的は、Knoxらの米国特許第5374473号(「Knox '473」)に記載されているような、初期工程でポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の(複数の)シートを延伸し、バルクPTFEの密度が2.11g/cc(g/cm3)以上になるようにその(複数の)シートをx−y面の法線方向に圧縮することを含む方法によって達成される。圧縮後さらなる処理工程で、圧縮された(複数の)シートはPTFEの結晶溶融温度を超える温度に加熱され、続いてストレッチされる。得られたシートはストレッチ方向の引張強度が出発材料である圧縮された前駆体よりも高く、耐水蒸気透過性の増加から示されるようにバリア特性が改善され、並びに施されたストレッチ操作で決まるように厚さは減少し、幅及び/又は長さは増加している。本発明のこの態様は、特性の組み合わせに類がなく、それらを備えたPTFE材料がこれまで作られてこなかったという点で新規なものである。
【0026】
延伸PTFEのシート又はフィルムは米国特許第3953566号の教示に従い作られる。本発明の実施態様の1つでは、一定分量のポリテトラフルオロエチレン微粉末(PTFE 601A,DuPont, Wilmington, DE)を入手し、次に潤滑剤(Isopar K 脂肪族炭化水素,Exxon, Houston, TX)と合わせる。混合した後、潤滑された粉末を円筒形のペレットに圧縮し、18時間熱処理する。その後ペレットを長方形のダイを通して押出比70:1で押出する。ペースト押出の方向はy方向、すなわち機械方向とする。次いで得られたテープを乾燥する。その後乾燥したPTFEテープを、線速度を10%/秒より大きくし、ドラム温度を約225℃、ストレッチ量を約400%になるようにして、加熱したドラムの間でy方向に延伸する。次にそのテープを、線速度を10%/秒より大きくし、温度を約295℃、ストレッチ量を約700%になるようにしてx方向に延伸する。当然理解されることだがこの延伸は、パンタグラフ装置を用いて、又はテンターもしくは同様の装置上で連続的に、いずれかの方向又は両方向に、逐次的又は同時のいずれかで行ってもよい。適当な延伸比は様々な延伸速度において、1:1〜100:1又はそれ以上であるように非常に多様であってよい。代表的な延伸速度及び延伸比は以下の例に含まれているが決してこれらに限定されない。次にフィルムをKnox '473の教示に従って圧縮する。
【0027】
その後高密度化されたフィルムはPTFEの結晶溶融温度を超える温度でストレッチされる。12:1と高いストレッチ比は5%/秒を含むがこれに限定されないストレッチ速度にて達成される。当然理解されることだがこのストレッチ処理は、パンタグラフ装置を用いて、又はテンターもしくは同様の装置上で連続的に、いずれかの方向又は両方向に、逐次的又は同時のいずれかで行ってもよい。より詳細な内容は個々の例に記載する。
【0028】
xとyの両方向において12:1以上と高いストレッチ比は実現可能であると考えられており、ストレッチ量に関連する制限は元々の圧縮された前駆体に関係することが当業者には認識されている。より詳細にはストレッチ比は、圧縮された前駆体の元々の機械的特性及び厚さによって制限されると考えられている。圧縮された前駆体がePTFEの結晶溶融温度を超える温度でストレッチされる場合、圧縮された前駆体のバルク密度が増加するため、圧縮された前駆体の厚さは高いストレッチ量を達成する可能性に直接影響する。このストレッチにより単位質量及び厚さが減少し、また(複数の)シートのマトリクス引張強度の顕著な増大が観察される。以下の例で説明するように、水蒸気透過性の減少を示しながらPTFEの(複数の)シートのバルク密度の増加を伴って80000psi(551MPa)より大きいマトリクス引張強度が達成された。また大きいマトリクス引張強度は、ストレッチ量を大きくすることによって達成できると考えられている。
【0029】
本発明は、非常に低い水蒸気透過係数、及びxとyの両方向で高い引張強度を備えた、非常に薄く、高いPTFEバルク密度のフィルムを初めて製造可能にした点で新規である。例えば得ることのできる好ましい厚さは250μm未満、より好ましくは150μm未満、さらに50μm未満、最も好ましくはさらに10μm未満である。高密度PTFE材料をストレッチして、低い水蒸気透過性と増大した強度を備えバルク密度は減少していない最終物品を製造可能であるといったことは直観的に明らかではない。
【0030】
前述の新規処理技術は新しく他には類のない新規PTFEシートの作製を可能にする。以下の例にさらに記載するようにこの新しい材料は、約0.015g・mm/m2/日以下、より好ましくは約0.010g・mm/m2/日以下、さらにより好ましくは約0.003g・mm/m2/日以下と低い水蒸気透過係数を有するPTFEである。加えてこれらの材料のマトリクス引張強度は、好ましくはxとyの両方向において少なくとも10000psi(68.9MPa)、より好ましくは少なくとも1方向において少なくとも15000psi(103MPa)、最も好ましくは少なくとも1方向において少なくとも25000psi(172MPa)である。この材料は様々な長さと幅で製造でき、実現される厚さは3.5×10-5インチ(0.9μm)以下と薄い。加えて新規PTFEシートは1種以上のフィラーで充填されてもよく、複合シート又は複数の複合シートに組み込んでもよい。
【0031】
処理という観点から見て本技術は独特であって低透過性フィルムの製造に対する従来の制約を克服する手段を提供する。まとめると本処理技術の価値は、(複数の)シートの水蒸気透過性を大幅に低下させ、そのマトリクス引張強度を大幅に増大させ、さらに厚さを減少させることが可能となることにある。
【0032】
以下の例において、本方法又はそこから得られる材料の範囲を限定することは意図されていない。
【実施例】
【0033】
[水蒸気透過性試験及び水蒸気透過係数の測定]
材料の水蒸気透過性の測定はASTM F−1249に従いMOCON, Inc.(Minneapolis, MN)により行われた。
【0034】
詳細には材料の水蒸気透過性を試験するのに使用した装置は、MOCON Permatran W 3/31(MOCON/Modern Controls, Inc., Minneapolis, MN)であった。使用した透過性物質は100%RHの水蒸気(49.157mmHg、6.55KPa)であり、キャリアガスは乾燥した周囲圧力の100%窒素であり、試験を行った温度は37.8℃であった。
【0035】
試験サンプルはおよそ10cm×10cmに切断し、装置の拡散セルの中に取り付けて、MOCON Permatran W 3/31の説明書に従い条件を整えた。水蒸気透過率、すなわち水蒸気透過性はg/m2/日で装置に記録された。
【0036】
各サンプルの水蒸気透過係数は水蒸気透過率に試験サンプルの厚さを乗じて計算した。結果をg・mm/m2/日として報告する。
【0037】
[マトリクス引張強度試験]
全ての試験片をASTM D882−90に従い試験した。クロスヘッド速度を20インチ/分(508mm/分)、ゲージ長を2インチ(51mm)とし、長方形の試験片は長さを少なくとも5インチ(127mm)とした。
【0038】
マトリクス引張強度の量は試験片における材料の横断面積の関数として試験中に展開した最大荷重を表す手段である。これは最大荷重での応力をサンプルに含まれるPTFEの横断面積に関して規格化することによって、様々な密度又は気孔率のPTFE系試験片同士について正確に引張強度を比較する手段を提供する。
【0039】
詳細には以下の通りである。
マトリクス引張強度(psi)=最大荷重(ポンド)/PTFEの横断面積(平方インチ)
最大荷重=試験中、試験片に生じた最大荷重
PTFEの横断面積(平方インチ)=フィート当たりグラム/(12×P×2.543)=フィート当たりグラム×2.3×10-3
フィート当たりグラム=1フィート当たりの試験片の単位質量(グラム)
P=PTFEの平均固有密度=2.18g/cc
従って、マトリクス引張強度(psi)=最大荷重(ポンド)/(フィート当たりグラム×2.3×10-3
同様に、マトリクス引張強度(MPa)=マトリクス引張強度(psi)×6.89×10-3
【0040】
[示差走査熱量測定(DSC)]
この試験はQ1000DSC(TA Instruments)及びDSC用標準アルミニウムパンとふた(TA Instruments)を用いて行った。サンプル封入プレス(TA Instruments)を用い、ふたをパンに押しつけて圧着した。質量測定はMC210P微量天秤(Sartorius)の上で行った。
【0041】
1つのパン及びふたを天秤上で0.01mgの精度で秤量した。6.0mmのダイパンチを用い、6mgとなるのに十分な量の試験サンプル材料の円盤をパンに加え、再び0.01mgの精度で記録した。これらの値をQ1000のThermal Advantage制御ソフトウェアに入力した。ふたをパンの上に置き、プレスを用いて圧着した。サンプル材料をふたとパンの間の圧着部分に挟んでいないことが確実であるよう注意を払った。サンプル物品を含まない対照用の同様のパンを用意して、その質量もソフトウェアに入力した。サンプル物品を含むパンをQ1000の中のサンプルセンサーの上に乗せ、空のパンを対照センサーの上に乗せた。その後サンプルは以下の熱サイクル工程を経た。
1)−50.00℃での平衡状態
2)20.00℃/分で360.00℃まで昇温
3)5.00分間等温
4)サイクル終了を記録
5)20.00℃/分で−50.00℃まで降温
6)サイクル終了を記録
7)20.00℃/分で420.00℃まで昇温
8)サイクル終了を記録
9)測定終了
【0042】
Universal Analysis 2000 v.3.9A(TA Instruments)を用いてデータを変えずに分析した。工程7で示されるスキャンデータを分析した。
【0043】
例1:一定分量のPTFE微粉末(PTFE 601A,DuPont, Wilmington, DE)240ポンド(109kg)を、潤滑剤(Isopar K,Exxon, Houston, TX)44.16ポンド(20.0kg)と合わせ、続いて混合し、円筒形のペレットに圧縮し、さらに49℃で18時間熱的に状態を整えた。その後円筒形のペレットを長方形のダイを通して押出比70:1で押出した。次いで潤滑剤を除去するため得られたテープを乾燥した。
【0044】
次に乾燥したPTFEテープを、線速度を10%/秒より大きくし、ドラム温度を225℃、ストレッチ量を400%になるようにして、加熱したドラムの間でy方向に延伸した。その後そのテープを、線速度を10%/秒より大きくし、温度を約295℃、ストレッチ量を700%になるようにしてx方向に延伸した。得られた製品は未焼結のePTFE膜であった。
【0045】
膜の水蒸気透過性における焼結の効果を測定する目的で、1枚は焼結済みで1枚は未焼結の2枚の膜に次の処理を行うことができるよう、この未焼結のePTFE膜の一部を固定し続いて焼結した。「焼結」とは材料をPTFEの結晶溶融温度を超える温度にすることを意味する。炉を通過させて膜を375℃の温度に220秒さらすことによって1枚の膜を焼結した。焼結操作の最中に追加の延伸は施さなかった。
【0046】
1枚は焼結済みで1枚は未焼結の、2枚の得られた膜前駆体をKnoxらの米国特許第5374473号に従って高密度化した。詳細には呼び厚さが0.013インチ(330μm)の未焼結の膜を4枚重ねたものと、呼び厚さが0.008インチ(203μm)の焼結済みの膜を5枚重ねたものを、ポリイミドフィルム(DuPontのKAPTON(登録商標))から組み立てたオートクレーブバッグ中の2枚の当て板の間に置いた。この組み立てたものをオートクレーブ(Vacuum Press International Series 24)の中に置き、バッグの中を真空にし、図1にまとめた温度及び圧力条件に基づいてオートクレーブの圧力及び温度を徐々に上げた。1枚は焼結済みで1枚は未焼結の、得られた圧縮ePTFEシートはおよそ0.010インチ(254μm)厚であった。焼結済みの及び未焼結の状態の、この中間体PTFEの各サンプルについて水蒸気透過性を試験したところ、それぞれ0.1及び0.127g・mm/m2/日であることが分かった。
【0047】
次に得られた圧縮物品をパンタグラフ装置の中に置き、温度が約370℃の空気に20分間さらすことによって、その材料をPTFEの結晶溶融温度を超えて加熱した。その後、加熱された状態のサンプルを、x方向に、又はxとyの両方向に同時に、各方向についてストレッチ量を最大1100%、ストレッチ速度を5%/秒としてストレッチした。処理条件を表1にまとめる。表1に示すように焼結済み及び未焼結の膜のそれぞれについて2つの条件で溶融ストレッチを行った。焼結条件及び溶融ストレッチ処理の各組み合わせから得られた4つの試験片を分析した。第1の溶融ストレッチ操作の結果物を第2のストレッチの前駆体として使用する、2パス処理を用いてこれらの実施態様を行ったことに留意する。
【0048】
次いで前述の手順を用いてサンプルの水蒸気透過性試験を行った。表2には様々なサンプルについての水蒸気透過係数、マトリクス引張強度、厚さ及び結晶化度(%)がまとめてある。
【0049】
表2と同一の、処理条件「D」に従って処理したサンプルを示差走査熱量測定を用いて熱的に評価し、このサンプルについて得られたスキャンを図2に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【0052】
例2:高密度PTFEとパーフルオロアクリレート(PFA)の積層体を以下の方法で作製した。詳細には例1に記載の「A」サンプルと表記した処理条件に従い、2パスストレッチ操作を用いてPTFE材料を作った。第2パスのストレッチ後ヒーターをパンタグラフから取り外した。ストレッチされたPTFEバリアフィルムをパンタグラフのピン本体に残した状態で、PFAフィルム(製品番号100LP、0.001インチ(25μm)厚、DuPont, Wilmington, DEより入手)をそのPTFEバリアフィルムの片面に置いた。その後2枚のフィルムを5分間、370℃の温度にして、PTFEバリアフィルムとPFAの積層体を形成した。
【0053】
例3:未焼結材料を1枚だけ高密度化工程に通した他は、例1に記載されているようにKnoxらの米国特許第5374473号に従って、未焼結の延伸PTFE材料を作り高密度化した。次いで得られた高密度化材料を例1に記載の処理条件「A」に従いストレッチした。得られたPTFEバリアフィルムの厚さは0.1ミル(2.5μm)であって、水蒸気透過係数は0.007g・mm/m2/日であった。
【0054】
例4:未焼結材料を2枚だけ重ねたものを高密度化工程に通した他は、例1に記載されているようにKnoxらの米国特許第5374473号に従って、未焼結の延伸PTFE材料を作り高密度化した。次いで得られた高密度化材料を例1に記載の処理条件「B」に従いストレッチした。得られたPTFEバリアフィルムの厚さは0.1ミル(2.5μm)であって、水蒸気透過係数は0.003g・mm/m2/日であった。
【0055】
比較例:市販のフッ素ポリマー材料に対する本発明の材料の相対水蒸気透過係数を大まかに見積もることを試みて、一連の市販のフッ素ポリマーフィルムを評価した。水蒸気透過係数を測定するために以下のフィルムのそれぞれについて4枚のサンプルをMOCON, Inc.に送った。結果を図3にグラフで示す。図3では例1のサンプルD−4と比較した。
材料(供給元)
ACLAR ULTREX(登録商標)2000フィルム(Honeywell Corporation)
ACLAR ULTREX(登録商標)3000フィルム(Honeywell Corporation)
DEWAL 200T(登録商標)フィルム(2ミル)(DeWAL Industries)
DEWAL 220T(登録商標)フィルム(2ミル)(DeWAL Industries)
DEWAL 502T(登録商標)フィルム(2ミル)(DeWAL Industries)
FEP(2ミル)(DuPont)
PFA(2ミル)(DuPont)
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】例1の膜の高密度化についての温度及び圧力条件のチャートである。
【図2】例1で作ったサンプルの示差走査熱量測定(DSC)のスキャンである。
【図3】本発明の材料及び一連の市販材料についての水蒸気透過係数を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水蒸気透過係数が約0.015g・mm/m2/日以下であり、直交する2方向でのマトリクス引張強度が少なくとも10000psi(68.9MPa)である、延伸PTFEフィルムを含む物品。
【請求項2】
前記フィルムのマトリクス引張強度が少なくとも1方向において少なくとも15000psi(103MPa)である、請求項1に記載の物品。
【請求項3】
前記フィルムのマトリクス引張強度が少なくとも1方向において少なくとも25000psi(172MPa)である、請求項1に記載の物品。
【請求項4】
前記フィルムの水蒸気透過係数が約0.010g・mm/m2/日以下である、請求項1に記載の物品。
【請求項5】
前記フィルムの水蒸気透過係数が約0.003g・mm/m2/日以下である、請求項1に記載の物品。
【請求項6】
前記フィルムがフィラーをさらに含む、請求項1に記載の物品。
【請求項7】
前記延伸PTFEフィルムの厚さが250マイクロメートル(μm)以下である、請求項1に記載の物品。
【請求項8】
前記延伸PTFEフィルムの厚さが150マイクロメートル(μm)以下である、請求項1に記載の物品。
【請求項9】
前記延伸PTFEフィルムの厚さが50マイクロメートル(μm)以下である、請求項1に記載の物品。
【請求項10】
前記延伸PTFEフィルムの厚さが10マイクロメートル(μm)以下である、請求項1に記載の物品。
【請求項11】
前記延伸PTFEフィルムの厚さが5マイクロメートル(μm)以下である、請求項1に記載の物品。
【請求項12】
前記延伸PTFEフィルムの厚さが1マイクロメートル(μm)以下である、請求項1に記載の物品。
【請求項13】
水蒸気透過係数が約0.015g・mm/m2/日以下であり、直交する2方向でのマトリクス引張強度が少なくとも10000psi(68.9MPa)である延伸PTFEフィルム、及び
少なくとも1つの基材
を含む積層体。
【請求項14】
前記フィルムの水蒸気透過係数が約0.010g・mm/m2/日以下である、請求項13に記載の積層体。
【請求項15】
前記基材がフッ素ポリマーを含む、請求項13に記載の積層体。
【請求項16】
前記基材がPFAを含む、請求項13に記載の積層体。
【請求項17】
前記基材がFEPを含む、請求項13に記載の積層体。
【請求項18】
前記基材がTHVを含む、請求項13に記載の積層体。
【請求項19】
前記基材がPTFEを含む、請求項13に記載の積層体。
【請求項20】
前記積層体が2つの基材の間に配置された前記延伸PTFEフィルムを含む、請求項13に記載の積層体。
【請求項21】
前記基材がPCTFEを含む、請求項13に記載の積層体。
【請求項22】
前記基材が、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリアミド、EVOH及びPVDCからなる群から選択される少なくとも1種の材料を含む、請求項13に記載の積層体。
【請求項23】
前記基材が少なくとも1種の感圧接着剤を含む、請求項13に記載の積層体。
【請求項24】
前記基材が少なくとも1種の布地を含む、請求項13に記載の積層体。
【請求項25】
前記基材が金属を含む、請求項13に記載の積層体。
【請求項26】
前記基材がガラスを含む、請求項13に記載の積層体。
【請求項27】
前記基材が無機シートを含む、請求項13に記載の積層体。
【請求項28】
水蒸気透過係数が約0.015g・mm/m2/日以下のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルムを作る方法であって、
(a)2軸延伸PTFEフィルムを用意し、
(b)該延伸PTFEフィルムを高密度化し、及び
(c)その高密度化した延伸PTFEフィルムを、PTFEの結晶溶融温度を超える温度でストレッチする
工程を含む方法。
【請求項29】
前記延伸PTFEフィルムを工程(b)の前に焼結する、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記2軸延伸PTFEフィルムが延伸PTFEを2枚以上重ねたものを含む、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
前記工程が連続的な方法で行われる、請求項28に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公表番号】特表2007−534523(P2007−534523A)
【公表日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−509720(P2007−509720)
【出願日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【国際出願番号】PCT/US2005/014114
【国際公開番号】WO2005/105434
【国際公開日】平成17年11月10日(2005.11.10)
【出願人】(598123677)ゴア エンタープライズ ホールディングス,インコーポレイティド (279)
【Fターム(参考)】