説明

フッ素ポリマー含有ゾルゲルコーティング

フッ素ポリマー粒子を有するゾルゲルコーティング組成物が開示される。フッ素ポリマー粒子は、コーティングにおいて均一に分散され、例えば電気及び非電気の家庭的器具に適した、耐ひっかき性、非粘着、そして低摩擦のコーティングにつながる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゾルゲル前駆体に基づき、且つ、実質的に均一に分散されたフッ素ポリマー粒子を有する、ゾルゲルコーティングに関する。
【背景技術】
【0002】
スチームアイロン又はフライパン等の中高温アプリケーションに非粘着特性及び低摩擦特性を与えるフッ素ポリマーコーティングは、通常、バインダとして働く或る量の耐熱ポリマー(例えばポリアミドイミド)を含む。これらのコーティングの機械的特性(例えば耐引っかき性及び耐磨耗性)は、ゾルゲルバインダ材料を含むものよりも劣っている。
【0003】
コーティングの耐磨耗性及び耐引っかき性はゾルゲルバインダの使用によって改善されるが、ゾルゲル調合物中のフッ素ポリマーの非粘着特性は、期待を満たすものではない。非粘着特性の便利な判断基準は、水との接触角である。接触角は、コーティング中のフッ素ポリマー粒子の体積分率及び粒子分布に依存する。粒子が凝集すると、これらを界面において発見する可能性はほとんどない。その結果、バインダが主として接触角を決定することになる。フッ素ポリマーと混合される既知のゾルゲル調合物は、相当な程度のフッ素ポリマー粒子の凝集を有する傾向がある。この結果、最大でも約85°の接触角しか達成されることができない。より高い接触角を得るためにフッ素ポリマー粒子の体積分率を増加することは、バインダによって与えられる耐摩耗性に負の影響を及ぼす。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、比較的高い非粘着特性を提供する、プリアンブルによるゾルゲルコーティングを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このために、本発明は、少なくとも1つのゾルゲル前駆体及びフッ素ポリマー粒子を有するコーティング組成に基づくゾルゲルコーティングを提供し、このコーティングは、その表面における水の接触角が、少なくとも88°であり、好適には少なくとも90°であり、より好適には少なくとも94°であるような疎水性を有する。このような高い接触角は、コーティングの高い非粘着特性を生じる。この非粘着特性は、フッ素ポリマー粒子の凝集が発生する、ゾルゲルバインダ及びフッ素ポリマー粒子の既知のコーティングの非粘着特性よりも相当に高い。
【0006】
好適な実施例において、ゾルゲルコーティング組成は、少なくとも1つのゾルゲル前駆体及びフッ素ポリマー粒子の安定化された水性分散液を有する。本発明の特定の実施例では、フッ素ポリマー粒子は、ポリシロキサン−ポリオキシアルキレン共重合体によって安定化される。
【0007】
安定剤のポリシロキサン部分は、分散されたフッ素ポリマー粒子に引きつけられる安定剤の疎水性の部分を提供し、安定剤のオキシアルキレン部分は、安定剤の親水性部分を提供して安定剤が水性媒体で分散することを可能にし、これらの2つの部分の存在が、安定剤が分散液において安定剤として機能することを可能にする。本発明において使用されるポリシロキサン−ポリオキシアルキレン共重合体は、非イオン性である、即ち電荷がなく、安定化効果は、安定剤の疎水性及び親水性部分の存在下で達成される。
【0008】
好適には、本発明によるゾルゲルコーティングは、更に、フィラー粒子、特にシリカ粒子を有する。このような粒子は、水性シリカゾルから生じてもよい。
【0009】
ゾルゲル材料は、硬化の際に大幅に収縮し、従って、有利には、これらは、アプリケーションにとって十分な層厚さを達成するために、他の粒子(多くの場合シリカ粒子)で充填される。
【0010】
特定の実施例において、ゾルゲルコーティングのフッ素ポリマー粒子の体積分率は、50%より低い。
【0011】
50%を超える粒子の体積分率については、バインダが不十分であり、多孔質のコーティングが結果として得られる。従って、粒子の体積分率が50%を超える場合には、非常に貧弱な耐摩耗性が予想される。
【0012】
好適には、ゾルゲルコーティング中のフッ素ポリマー粒子の体積分率は、15〜30%の範囲である。
【0013】
本発明の好適な実施例において、コーティング中のフッ素ポリマー粒子は、380℃で少なくとも1×10のPa・sの溶融粘性を持つポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粒子を有し、これは、フッ素ポリマーの中で最も高い熱安定性を持つ。このようなPTFEは、更に、焼成(フュージング)の最中の薄膜形成機能を改善する少量のコモノマー修飾剤を含んでもよく、これは例えば、ペルフルオロオレフィンであり、特にヘキサフルオロプロピレン(HFP)又はペルフルオロ(アルキルビニル)エーテルであり、特に、ここでアルキル基は1〜5個の炭素原子を含み、ペルフルオロ(エチル又はプロピルビニルエーテル)(PEVE又はPPVE)が好ましい。このような修飾剤の量は、一般的には多くとも0.5モル%であり、PTFEに溶融生成性(melt fabricability)を与えるには不十分である。PTFEは、更に、連鎖移動剤が低分子量PTFEを生成するために水性重合媒体中に存在する、微細粉末型であってもよく、372℃において0.1〜100×10Pa・sの溶融粘性によって特徴付けられる。このようなPTFEは、溶融流動可能(melt-flowable)であるが、溶融生成可能(melt-fabricable)ではない。即ち、溶融体から生成されると、このようなPTFEの生成された物品は、保全性を欠き、自然に、又は僅かな応力を受けると、破壊される。
【0014】
PTFEが好適なフッ素ポリマーであるが、フッ素ポリマー成分は、溶融生成可能なフッ素ポリマーであってもよい。このような溶融生成可能なフッ素ポリマーの例は、テトラフルオロエチレン(TFE)と、共重合体の融点をPTFEホモポリマーの融点より大幅に下に、例えば315℃より低い融点に、低下させるのに充分な量でポリマー中に存在する少なくとも1つのフッ素化された共重合可能なモノマー(コモノマー)と、の共重合体を含む。TFEを有する好適なコモノマーは、3〜6個の炭素原子を有するペルフルオロオレフィンと、アルキル基が1〜5個の炭素原子、特に1〜3個の炭素原子を含むペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)と等のペルフルオロモノマーを含む。特に好適なコモノマーは、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、ペルフルオロ(エチルビニルエーテル)(PEVE)、ペルフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PPVE)及びペルフルオロ(メチルビニルエーテル)(PMVE)を含む。好適なTFE共重合体は、FEP(TFE/HFP共重合体)、PFA(TFE/PAVE共重合体)、PAVEがPEVE及び/又はPPVEであるTFE/HFP/PAVE及びMFA(PAVEのアルキル基が少なくとも2つの炭素原子を有するTFE/PMVE/PAVE)を含む。溶融生成可能なテトラフルオロエチレン共重合体の分子量は、薄膜を形成するのに十分であり、保全性を有して成形された形状を維持することが可能である(即ち溶融生成可能である)のに十分であること以外は、重要でない。典型的には、溶融粘性は、ASTM D−1238によって372℃で算出される値によれば、少なくとも1×10Pa・sであって、約60〜100×10Pa・sまでに至ることができる。
【0015】
ゾルゲル調合物を含むフッ素ポリマー粒子は、好適には、オルガノシラン化合物を有する複合型ゾルゲル前駆体から生成される。好適なゾルゲル前駆体は、メチルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、グリシドオキシプロピル−トリエトキシシラン、グリシドオキシプロピル−トリメトキシシラン、又はこの組合せを含む。テトラエトキシシラン又はテトラメトキシシラン等の少量の非複合型ゾルゲル前駆体材料が加えられてもよい。
【0016】
特に、本発明によるゾルゲルコーティングは、最高400℃までの温度耐性がある。
【0017】
本発明によれば、フッ素ポリマー粒子の水性分散液と混合されるゾルゲル調合物が、フッ素ポリマー粒子の凝集の発生無しに得られる。これらの調合物によって作られるコーティングは、フッ素ポリマー粒子のより良い分散のために、改善された疎水性を有する。好適には、フッ素ポリマー粒子の少なくとも80%は、コーティング内で実質的に独立した凝集していない粒子として存在する。
【0018】
有利には、本発明によるゾルゲルコーティングは、基板に堆積される。基板は、高い焼成温度に耐えることができる如何なる材料(例えば金属及びセラミック)であってもよい。この例は、アルミニウム又はアルミニウム合金、冷延鋼板、ステンレス鋼、エナメル、ガラス及び耐熱セラミックを含む。
【0019】
(スチーム)アイロンのアルミニウムソールプレートが、例として言及されてもよい。これらのソールプレートは、本発明によるゾルゲルコーティングが塗布される前に、陽極処理されて、ゾルゲルベースコートでコーティングされる。
【0020】
好適には、本発明によるゾルゲルコーティングは、家庭用器具に塗布され、コーティングされた物品、例えば、スチームアイロン、トースター、サンドイッチメーカー、ヤカン及びコーヒーメーカー、掃除機、扇風機及び家庭的空気処理装置、ミキサー及びフードプロセッサ、アイスクリームメーカー、フライ鍋、グリル及び電気料理セット並びに中華鍋を形成する。
【0021】
ゾルゲルコーティングは、調理器具、フライパン及び他の調理ポット及び器具、耐熱皿、オーブンライナー、炊飯器、並びにその挿入物等の物品に更なるアプリケーションがある。加えて、本発明のゾルゲルコーティングは、切断ブレード、バルブ、ワイヤ、靴の型、除雪用シャベル及び鋤、船底、樋、コンベヤ、ローラ面、ダイス、ツール、産業コンテナ、モールド、裏張り反応容器(lined reactor vessel)、自動車パネル、熱交換器、管等の物品への多くの工業的用途を有する。
【0022】
本発明は、更に、フッ素ポリマー粒子が凝集しておらず、大部分が個々の粒子として存在するゾルゲルコーティングを得る方法に関する。
【0023】
このために、本発明は、フッ素ポリマー粒子を有するゾルゲルコーティングを作製する方法であって、
−シリカゾルを約3のpH価に酸性化するステップと、
−ゾルゲル前駆体の全体量のうち、シリカ粒子を安定化するのに十分な一部を加えるステップと、
−混合物を加水分解して安定化するステップと、
−前記全体量のゾルゲル前駆体のうちの残りを加えるステップと、
−前記混合物を加水分解するステップと、
−フッ素ポリマー分散液を加えるステップと、
を有する方法を提供する。
【0024】
本発明による方法を適用することによって、フッ素ポリマー粒子が凝集しておらず、個々の粒子として存在する、コーティング液体を作製することが可能である。この場合、フッ素ポリマー粒子は、コーティング中で均一に分散されて、コーティングの疎水性にずっと大きな寄与を有する。この手法によって、94°以上の水接触角が、ゾルゲルマトリクスを有するコーティングの20体積%だけのフッ素ポリマー粒子によって達成されることができる。
【0025】
上述のように、ゾルゲル調合物を含むこれらのフッ素ポリマー粒子は、メチルトリメトキシシラン又はメチルトリエトキシシラン(MTMS、MTES)等のゾルゲル前駆体から作製されることができ、これは、多くの場合、(例えば洗濯物用アイロンのソールプレートの)耐引っかき及び耐熱性のコーティングに用いられる。これらの前駆体は、塗布の前に加水分解されなければならない。加水分解反応のために水が必要とされ、酸が触媒として通常用いられる。ゾルゲル前駆体は水に可溶でないので、一般的な手法によれば、多くの場合、加水分解反応の最初から単相の系を得るために、アルコールが加えられる。
【0026】
低pHを含むゾルゲルコーティング液体の作製のためのこれらの要件、(アルコール及び水の存在並びに他の粒子の添加)は、ゾルゲルコーティング液体の調合物に制約を課す。フッ素ポリマー分散液が加えられると、凝集が容易に発生し、コーティング液体にフッ素ポリマー粒子の凝集を与え、その結果、フッ素ポリマー粒子はコーティング中で均一に分布しない。
【0027】
コーティング調合物のコロイド安定性を改善するために、フッ素ポリマー分散液は、ゾルゲルコーティング液体との改善された融和性を与えるために修飾されてもよく、又は、フルオロカーボン分散液とのより良い融和性を得るようにゾルゲル塗料調合物が調整されてもよい。実際には、これらの2つの方法の組合せが、最も有用であると判明する。
【0028】
水性分散液中でフルオロカーボン粒子を安定させることは、フッ素ポリマー粒子の疎水性のために、困難である。狭い濃度領域内で用いられなければならない特定の表面活性剤が、非常に安定化された水性分散液を達成するために開発された。有利には、フッ素ポリマー粒子は、ポリシロキサン−ポリオキシアルキレン共重合体によって安定する。これらの分散液へのアルコールの添加は、界面活性剤分子の吸着量及び配向性に関する吸着界面活性体の層における変化を容易に生じる可能性があり、これは、コロイド安定性の損失につながる可能性がある。
【0029】
従って、ゾルゲル製法の修正の第1の目的として、使用されるアルコールの量は、最小化されることが必要である。アルコールは、ゾルゲル前駆体の加水分解及びアルコール縮合反応において形成される。これは、ゾルゲル処理において不可避である。しかし、加水分解反応の最初から単一相を保証するためのアルコールの添加は、前駆体が入念に水と混合させられたら、必要ではない。
【0030】
加水分解の間に、未反応のゾルゲル前駆体を溶解するのに充分なアルコールが形成され、これは、単一の非散乱性相の形成によって視覚的に容易に観察可能である。アルコールの添加によるコーティングの表面張力の低減及び乾燥性の改善は、必要でない。フルオロカーボン分散液は、表面張力を低下させ、乾燥段階の間にコーティング中の不均質性の形成を効果的に抑制するのに十分な量の界面活性剤を含むからである。
【0031】
粒子の無いゾルゲル層の最大層厚さは通常制限されるので、多くの場合、乾燥及び硬化段階における収縮を低減するために、粒子が加えられ、この結果、最大のクラックフリー層厚の増加を結果として生じる。
【0032】
この目的のため、多くの場合、水性シリカゾルが用いられる。最終的な調合物中の高い固形分を維持するために、ゾルゲル前駆体を加水分解するために水性ゾルからの水を使用することが有利である。ゾルゲル前駆体の加水分解の最中のシリカゾルの凝集は、好適にはマレイン酸等の固体酸を溶解し、続いて、非常に少量のゾルゲル前駆体(例えばメチルトリメトキシシラン)を添加することによって、そのpH価を約3に調整することによって回避することができる。実際は、ゾルゲル前駆体の量は、最終的に加えられるゾルゲル前駆体の全部の量の約0.01〜1%である。この少ない量は、ゾル中で加水分解されて、シリカ粒子の表面に吸着する。
【0033】
このような処理は、シリカのコロイド安定性の、シランのバルクの加水分解の際に生成されるアルコールの量への依存度を低下させ、これは、凝集を生じ得る。ゾルゲル前駆体の添加の際に、シリカゾルは、最初に、凝集を示す濁度の増加を示し、これに、再安定化を示す濁度の低下が続くことは度々述べられていた。安定化が完了しておらず追加のフィルタリングステップが必要とされる可能性があるので、これは望ましくない。ゾルゲル前駆体の段階的な添加はこれを防止することができる。
【0034】
上記の方法は、Handbook of Advanced Electronic and Photonic Materials 5(pp.219-262)2000, Academic Pressに説明された、ゾルゲル前駆体が前加水分解されてより希釈な調合物を生じる方法とは異なる。前加水分解ステップは、また、部分的に縮合した生成物の形成を生じ、これはシリカ面にずっと低い親和性を持ち、凝集の発生無しにMTMSの2回目の添加に耐えるには不十分なシリカ粒子の安定化に至る可能性がある
【0035】
ゾルゲル前駆体の2回目の追加の加水分解が完了された後、フッ素ポリマー分散液は加えられることができ、凝集は発生しない。次に、生じる調合物は、スプレーコーティングによって塗布されることができる。硬化の後、フッ素ポリマー粒子が均一に分散された、10μmの厚さのコーティングが得られることができ、水との高い接触角を生じる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
本発明は、図面を参照して更に示される。
【0037】
図面の一部は、模式的であり、一定の比率で描かれていない。明確にするため、類似した成分は、同じ参照番号で示される。
【0038】
図1は、接触角の定義を図式的に表す。参照番号1は、コーティング表面を示す。このコーティング表面1上の水滴が、参照番号3で示される。線4は、表面1との交点における水滴3の外面の接線である。接触角は、線4と表面1との間の角度として定義される。接触角は、Rame−Hart Inc(USA)によって製造された表面接触角ゴニオメータを使用して測定された。以下の例は、本発明によるフッ素ポリマー含有ゾルゲルコーティング及びその作製方法を、従来技術によるゾルゲルコーティング及びその作製方法と比較して示す。
【0039】
例1
反応容器中で、5.5gのマレイン酸が、380gのLudox AS40に溶解された。酸性化シリカゾルの測定されたpH価は、2.5〜2.9であった。次に0.95gのMTMSが加えられ、混合物は45分間撹拌された。続いて、391gのMTMSが、酸性化され表面修飾されたシリカゾルに入れられ撹拌された。60分後に、混合物は196gの水で希釈され、その後、適切な脱泡剤及びポリシロキサン−ポリオキシアルキレン共重合体(SILWET L77(登録商標))によって安定化された315gの30%ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の水分散液が徐々に追加された。PTFEの追加が完了された後、30gのマイカベース顔料が加えられた。
【0040】
コーティングは、陽極酸化アルミニウム板に塗布された前もって乾燥させられていたゾルゲル層に噴霧され、300℃で硬化された。硬化したコーティングのPTFE粒子の量は、約18体積%であった。硬化したコーティングの水接触角は、94±2°と確認された。
【0041】
PTFE粒子は、コーティングを通じて均一に分散され、走査型電子顕微鏡によって得られた断面画像から、凝集の兆候は観察されることができなかった。例えば、典型的な断面写真が、図2に与えられる。
【0042】
噴霧コーティングの特性は、光沢、耐ひっかき及び水接触角に関して、調製の直後に噴霧されたコーティングと、コーティング液体の形成の完了の8時間後に噴霧されたコーティングとで、同じであった。この期間に亘って、コーティングラッカーの粘性は、一定であった。
【0043】
例2
この例は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粒子に対するシリカ粒子の比が、最終コーティング中のPTFEの体積分率を増加するように調整されていること以外は、例1に相当する。
【0044】
反応容器中で、2.2gのマレイン酸が、124gのLudox AS40及び110gの水に溶解された。酸性化シリカゾルの測定されたpH価は、2.5〜2.9であった。次に0.31gのMTMSが加えられ、混合物は45分間撹拌された。続いて、308gのMTMSが、酸性化され表面修飾されたシリカゾルに入れられ撹拌された。60分後に、混合物は154gの水で希釈され、これに続き、適切な脱泡剤及びポリシロキサンポリオキシアルキレン共重合体(SILWET L77(登録商標))によって安定化された460gの30%ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の水分散液が徐々に追加された。PTFEの追加が完了された後、35gのマイカベース顔料が加えられた。
【0045】
コーティングは、陽極酸化アルミニウム板に塗布された前もって乾燥させられていたゾルゲル層に噴霧され、300℃で硬化された。硬化したコーティングのPTFE粒子の量は、約30体積%であった。硬化したコーティングの水接触角は、98±2°と確認された。
【0046】
例3
この例は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粒子に対するシリカ粒子の比が、最終コーティング中のPTFEの体積分率を低下するように調整されていること以外は、例1に相当する。
【0047】
反応容器中で、7.5gのマレイン酸が、425gのLudox AS40に溶解された。酸性化シリカゾルの測定されたpH価は、2.5〜2.9であった。次に1.1gのMTMSが加えられ、混合物は45分間撹拌された。続いて、385gのMTMSが、酸性化され表面修飾されたシリカゾルに入れられ撹拌された。60分後に、混合物は193gの水で希釈され、その後、適切な脱泡剤及びポリシロキサンポリオキシアルキレン共重合体(SILWET L77(登録商標))によって安定化された194gの30%ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の水分散液が徐々に追加された。PTFEの追加が完了された後、37gのマイカベース顔料が加えられた。コーティングは、陽極酸化アルミニウム板に塗布された前もって乾燥させられていたゾルゲル層に噴霧され、300℃で硬化された。硬化したコーティングのPTFE粒子の量は、約10体積%であった。硬化したコーティングの水接触角は、89±3°と確認された。
【0048】
比較例1
この例では、アルキルフェノールエトキシレート界面活性剤で安定化させられたポリテトラフルオロエチレン(PTFE)分散液が使用される。
【0049】
348gのMTMSが、18gのマイカベースの顔料、5gのマレイン酸及び174gのエタノールと混合された。加水分解は、345gのLudox AS40の追加によって開始された。1時間の連続攪拌の後、適切な消泡剤が加えられ、続いて、アルキルフェノールエトキシレート界面活性剤で安定化された62重量%PTFE粒子と、3.5gのペルフルオロアルキルスルフォンアミドオキシエチレン界面活性剤とからなる107gの市販のPTFE分散液が追加された。PTFE一次粒子サイズは、約250nmであった。少なくとも15分間の混合の後、このコーティング液体は、スチームアイロンの陽極酸化アルミニウムアイロンプレートに塗布された、前もって乾燥されていたゾルゲル層に噴霧され、300℃で硬化された。
【0050】
コーティングの断面の走査型電子顕微鏡写真が図3に与えられる。写真は、PTFE粒子の凝集によって生じるコーティングの不均質性を示す。X線のエネルギー分散分析は、不均質性がフッ素において大きいことを明らかにし、凝集したPTFE粒子を表す。
【0051】
PTFE粒子の凝集は、表面のPTFE量を低減して、84±2°しかない水接触角という結果を生じる。
【0052】
比較例2
100gのMTMS、50gのエタノール及び1.4gのマレイン酸の混合物に、100gのLudox AS40が、ゆっくりと加えられた。60分後に、ポリシロキサン−ポリオキシアルキレン共重合体によって安定化された75gの30%のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の水の懸濁液が、ゆっくりと加えられ、この後に、30gのマイカベースの顔料が加えられた。
【0053】
コーティングは、前に乾燥させられていた陽極酸化アルミニウム板に塗布されたゾルゲル層に噴霧され、300℃で硬化された。噴霧された第1のコーティングの光沢は、コーティング液体の調製完了2時間後に噴霧されたコーティングの光沢よりも非常に高かった。粘性は、2時間経たないうちに容認できないほど高い値まで増加した。硬化したコーティングのPTFE粒子の量は、約18体積%であったが、硬化したコーティングの水接触角は、82±3°しかないと確認された。
【0054】
図4は、本発明によるアイロンの模式的な側面図である。このアイロンは、ハウジング5を有し、これは合成樹脂材料でできていてよい。ハウジングの底面は、金属ソールプレート6を備えている。本実施例において、ソールプレートは、アルミニウムの薄いプレート8が固定されたダイキャストアルミニウムのブロック7でできている。この薄いプレート8は、アイロンプレートとも呼ばれる。上述したように、アルミニウムプレートは、アルミニウムと同様にアルミニウム合金も有してよい。本発明による均一に分散されたフッ素ポリマー粒子を有するゾルゲルコーティング10は、薄いプレート8上に塗布される。前記ゾルゲルコーティングは、非常に良い耐磨耗性及び耐ひっかき性、更に、高い非粘着特性を提供し、これは、ソールプレートの滑り特性にとって非常に有利である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】接触角の定義を図式的に表す。
【図2】例1に従って作製されたゾルゲル/PTFEトップコート層を備えたゾルゲルベースコート層の断面を示す走査型電子顕微鏡画像である。
【図3】比較例1に従って作製されたゾルゲル/PTFEトップコート層を備えたゾルゲルベースコート層の断面を示す走査型電子顕微鏡画像である。
【図4】ソールプレートが、均一に分散されたフッ素ポリマー粒子を有するゾルゲルコーティングを備えた、アイロンを図式的に示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素ポリマー粒子を有するゾルゲル前駆体に基づくゾルゲルコーティングであって、当該コーティングの表面の水の接触角が少なくとも88°であるような疎水性を持つコーティング。
【請求項2】
請求項1に記載のゾルゲルコーティングにおいて、当該コーティングの前記表面の水の前記接触角が少なくとも90°であることを特徴とするコーティング。
【請求項3】
請求項1に記載のゾルゲルコーティングにおいて、当該コーティングの前記表面の水の前記接触角が少なくとも94°であることを特徴とするコーティング。
【請求項4】
請求項1に記載のゾルゲルコーティングにおいて、前記フッ素ポリマー粒子はポリシロキサン−ポリオキシアルキレン共重合体によって安定化されることを特徴とするコーティング。
【請求項5】
請求項1に記載のゾルゲルコーティングにおいて、フィラー粒子を有することを特徴とするコーティング。
【請求項6】
請求項5に記載のゾルゲルコーティングにおいて、前記フィラー粒子は水性シリカゾルから生じるシリカ粒子を有することを特徴とするコーティング。
【請求項7】
請求項1乃至4の何れか1項に記載のゾルゲルコーティングにおいて、フッ素ポリマー粒子の体積分率は50%未満であることを特徴とするコーティング。
【請求項8】
請求項7に記載のゾルゲルコーティングにおいて、フッ素ポリマー粒子の体積分率は15〜30%であることを特徴とするコーティング。
【請求項9】
請求項1乃至8の何れか1項に記載のゾルゲルコーティングにおいて、フルオロカーボン粒子は、ポリテトラフルオロエチレン粒子であることを特徴とするコーティング。
【請求項10】
請求項1に記載のゾルゲルコーティングにおいて、オルガノシラン化合物を有する複合ゾルゲル前駆体に基づくことを特徴とするコーティング。
【請求項11】
請求項1に記載のゾルゲルコーティングにおいて、前記ゾルゲル前駆体は、メチルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、グリシドオキシプロピル−トリエトキシシラン、グリシドオキシプロピル−トリメトキシシラン、又はこの組合せを有することを特徴とするコーティング。
【請求項12】
請求項1乃至11の何れか1項に記載のゾルゲルコーティングにおいて、400℃までの耐熱性を持つことを特徴とするコーティング。
【請求項13】
請求項1乃至12の何れか1項に記載のゾルゲルコーティングにおいて、金属基板に堆積されることを特徴とするコーティング。
【請求項14】
請求項13に記載のゾルゲルコーティングにおいて、アルミニウム又はアルミニウム合金に堆積されることを特徴とするコーティング。
【請求項15】
請求項1乃至14の何れか1項に記載のゾルゲルコーティングによってコーティングされた基板を有するコーティングされた物品。
【請求項16】
請求項15に記載の物品において、家庭用器具を有することを特徴とする物品。
【請求項17】
請求項15に記載の物品において、スチームアイロン、掃除機、扇風機及び家庭用空気処理装置、ヤカン及びコーヒーメーカー、ミキサー及びフードプロセッサ、トースター及びサンドイッチメーカー、アイスクリームメーカー、フライ鍋、グリル、電気料理セット及び中華鍋、炊飯器、ポット及びフライパン並びに調理器具を有する群に属することを特徴とする物品。
【請求項18】
請求項1乃至17の何れか1項に記載のゾルゲルコーティングを作製する方法において、
−シリカゾルを約3のpH価に酸性化するステップと、
−ゾルゲル前駆体の全体量のうち、シリカ粒子を安定化するのに十分な一部を加えるステップと、
−混合物を加水分解して安定化するステップと、
−前記全体量のゾルゲル前駆体のうちの残りを加えるステップと、
−前記混合物を加水分解するステップと、
−フッ素ポリマー分散液を加えるステップと、
を有することを特徴とする方法。
【請求項19】
請求項18に記載の方法において、前記フッ素ポリマー粒子はポリシロキサン−ポリオキシアルキレン共重合体によって安定化されることを特徴とする方法。
【請求項20】
ゾルゲル前駆体及びフッ素ポリマー粒子の安定化された水性分散液を有するゾルゲルコーティング組成物であって、安定剤は、ポリシロキサン−ポリオキシアルキレン共重合体である、ゾルゲルコーティング組成物。
【請求項21】
ゾルゲル前駆体及びフッ素ポリマー粒子の安定化された水性分散液を有するコーティング組成物に基づくゾルゲルコーティングでコーティングされた基板であって、安定剤は、ポリシロキサン−ポリオキシアルキレン共重合体である、基板。

【図4】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2006−519290(P2006−519290A)
【公表日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−502607(P2006−502607)
【出願日】平成16年2月20日(2004.2.20)
【国際出願番号】PCT/IB2004/050136
【国際公開番号】WO2004/076570
【国際公開日】平成16年9月10日(2004.9.10)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【氏名又は名称原語表記】Koninklijke Philips Electronics N.V.
【住所又は居所原語表記】Groenewoudseweg 1,5621 BA Eindhoven, The Netherlands
【出願人】(505291066)イー アイ デュポン デ ネモウルス アンド カンパニー (2)
【Fターム(参考)】