説明

フッ素化アダマンタン化合物の製造方法

【課題】橋頭位の炭素原子に結合したフッ素原子を有するフッ素化アダマンタン化合物を、効率よくかつ高い選択性をもって製造する方法を提供する。
【解決手段】橋頭位の炭素原子に結合した水素原子を有するアダマンタン誘導体およびアダマンタンから選ばれるアダマンタン化合物を電解フッ素化し、実質的に当該水素原子のみ、その一部または全部をフッ素原子に置換することを特徴とするフッ素化アダマンタン化合物の製造方法。特に、橋頭位の炭素原子に結合した有機基を1〜2個有する(上記水素原子を2〜3個有する)アダマンタン誘導体から、フッ素原子を1〜3個有するフッ素化アダマンタン化合物の製造方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋頭位の炭素原子に結合したフッ素原子を有するアダマンタン化合物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アダマンタン(C1016)は3環系の有橋炭化水素であり、1位、3位、5位および7位の4個の炭素原子が橋頭位の炭素原子であり、それぞれに水素原子が1個結合している。非橋頭位の6個の炭素原子にはそれぞれ2個の水素原子が結合しており、以下この炭素原子を非橋頭炭素原子という。アダマンタンの水素原子の1個以上が水素原子以外の原子、原子団、有機基などに置換された化合物を、以下、アダマンタン誘導体という。また、アダマンタンおよびアダマンタン誘導体を、以下、アダマンタン化合物と総称する。
【0003】
アダマンタン環を構成する炭素原子にフッ素原子が結合しているフッ素化アダマンタン化合物が知られている。フッ素化アダマンタン化合物は、医薬や農薬などの生理活性物質やその合成中間体として有用である。また、アダマンタン環を有するポリマーやモノマーはレジスト剤などの電子部材製造プロセスに使用される材料として使用されており、この材料のアダマンタン環にフッ素原子を導入すると透明性などの光学的特性を向上させる効果があることが知られている。さらに、アダマンタン環の橋頭位の炭素原子のみにフッ素原子を有するフッ素化アダマンタン化合物は、医薬やその合成中間体として有用であることが知られている(特許文献1、特許文献2参照)。
【0004】
アダマンタン化合物の橋頭位の炭素原子にフッ素原子を導入する方法として以下の方法が知られている。
(1)SF、CFOF、元素状フッ素などのフッ素化剤を用いてアダマンタン化合物の橋頭位の炭素原子に結合した水素原子をフッ素原子に置換する方法(非特許文献1、特許文献1参照)。
(2)(CNSF[DAST]などを用いて、アダマンタン化合物の橋頭位の炭素原子に結合した水酸基をフッ素原子に置換する方法(特許文献2、特許文献3参照)。
(3)フッ素ガスを用いてアダマンタン化合物の橋頭位の炭素原子に結合した臭素原子やヨウ素原子をフッ素原子に置換する方法(非特許文献2参照)。
【0005】
しかしながら、上記のフッ素化法にはそれぞれ下記の課題がある。
(1)の方法は、用いるフッ素化剤の毒性が強くまた、取り扱いが難しい。また、原料化合物中に橋頭位の炭素原子に結合した水素原子を複数含む場合、選択的に任意の個数のフッ素原子で置換することは困難である。
(2)および(3)の方法は、あらかじめ水酸基、臭素原子、ヨウ素原子などをアダマンタン環に導入しておく必要があり、複数のフッ素を導入するためには、多くの工程を必要とする。
【0006】
一方、有機化合物の電解フッ素化による、炭素原子に結合した水素原子をフッ素原子に置換する方法が知られている。しかし、電解フッ素化は通常選択性の低いフッ素化方法であり、フッ素原子に置換されるべき水素原子以外の水素原子までフッ素原子に置換されやすく、このため目的とするフッ素化物以外の種々の化合物が副生しやすい。このため、フッ素原子に置換されるべき水素原子が結合した炭素原子やそれに隣接した炭素原子にフッ素化を容易にする官能基を有する化合物などの特定の化合物が電解フッ素化の対象とされていた(特許文献4、特許文献5参照)。しかし、アダマンタン化合物の電解フッ素化は知られていない。
【特許文献1】特表2003−512342号公報
【特許文献2】特開平10−298135号公報
【特許文献3】特開2000−26367号公報
【特許文献4】特開平6−263724号公報
【特許文献5】特開平7−292490号公報
【非特許文献1】Zhurnal Organicheskoi Khimii, 1977, 22(1), 116-118
【非特許文献2】J. Am. Chem. Soc., 1981, 46, 733-736
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、アダマンタン化合物の橋頭位の炭素原子に結合した水素原子を選択的にフッ素原子に置換する方法を提供する。また、アダマンタン化合物が橋頭位の炭素原子に結合した水素原子を複数有する場合、該水素原子が置換されるフッ素原子の数を制御して、橋頭位の炭素原子に結合したフッ素原子の数が所望の数であるフッ素化アダマンタン化合物を製造する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、下記のフッ素化アダマンタン化合物の製造方法である。
<1>橋頭位の炭素原子に結合した水素原子を1〜4個有するアダマンタン誘導体およびアダマンタンから選ばれるアダマンタン化合物を電解フッ素化し、実質的に橋頭位の炭素原子に結合した水素原子のみ、その一部ないし全部をフッ素原子に置換することを特徴とするフッ素化アダマンタン化合物の製造方法。
<2>橋頭位の炭素原子に結合した水素原子を2〜3個有するアダマンタン誘導体から、フッ素原子を1〜3個有するフッ素化アダマンタン化合物を製造する、上記<1>に記載の製造方法。
<3>アダマンタン化合物が、橋頭位の炭素原子に結合した不活性置換基を1〜2個有するアダマンタン誘導体である、上記<1>または<2>に記載の製造方法。
<4>不活性置換基が、アルコキシカルボニル基、アシルオキシ基、アシルオキシアルキル基およびアルコキシ基から選ばれる少なくとも1種の基である、上記<3>に記載の製造方法。
<5>橋頭位の炭素原子に結合した水素原子を2〜4個有するアダマンタン化合物を用い、電解フッ素化における電位を制御して該水素原子が置換されるフッ素原子の数を制御する、上記<1>〜<4>のいずれかに記載の製造方法。
<6>電解フッ素化におけるフッ素化剤が、トリアルキルアミンのポリフッ化水素酸塩およびテトラアルキルアンモニウムフルオリドのポリフッ化水素酸塩から選ばれる少なくとも1種である、上記<1>〜<5>のいずれかに記載の製造方法。
<7>フッ素化剤が常温で液体であるフッ素化剤であり、該フッ素化剤を電解フッ素化における溶媒の少なくとも一部として使用する、上記<6>に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法によれば、橋頭位の炭素原子に結合したフッ素原子を有するフッ素化アダマンタン化合物を選択的かつ効率的に製造することができる。また、このフッ素化アダマンタン化合物における橋頭位の炭素原子に結合したフッ素原子の数を目的に応じて選択的に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明において、アダマンタン化合物は、橋頭位の炭素原子に結合した水素原子を1〜4個有するアダマンタン誘導体およびアダマンタンから選ばれる化合物である。アダマンタン誘導体は、アダマンタンの水素原子の1個以上が水素原子以外の原子、原子団、有機基などに置換された化合物であり、置換される水素原子は橋頭位の炭素原子に結合した水素原子であっても、他の炭素原子に結合した水素原子であってもよい。また、置換される水素原子は1個であってもよく、2個以上であってもよい。2個以上の場合、置換される原子、原子団、有機基などは互いに異なっていてもよい。
【0011】
水素原子以外の原子としてはハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子)が好ましい。原子団としてはニトロ基、シアノ基、カルボキシ基などが好ましい。有機基としては、アルキル基、ハロアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルコキシカルボニル基、アシルオキシ基、アシルオキシアルキル基、アルコキシ基などがある。有機基の炭素数は20以下が好ましく、10以下がより好ましい。
【0012】
アダマンタン誘導体としては、橋頭位の炭素原子に結合した水素原子の1〜2個が、アルキル基、ハロアルキル基、アルコキシカルボニル基、アシルオキシ基、アシルオキシアルキル基、アルコキシ基から選ばれる有機基に置換された化合物が好ましい。これら有機基の炭素数は10以下が好ましく、特に6以下が好ましい。ハロアルキル基としてはフッ素原子を1個以上有するフルオロアルキル基が好ましい。より好ましい置換基は、アルコキシカルボニル基、アシルオキシ基、アシルオキシアルキル基およびアルコキシ基から選ばれる少なくとも1種の基である。
【0013】
より好ましい置換基としてのアルコキシカルボニル基は、炭素数9以下、特に炭素数5以下、のアルコキシ基を有するアルコキシカルボニル基であり、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−プロポキシカルボニル基、i−プロポキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基などが挙げられる。より好ましい置換基としてのアシルオキシ基は、炭素数10以下、特に炭素数6以下、のアシル基を有するアシルオキシ基であり、例えば、アセトキシ基、プロピオニルオキシ基、n−ブチリルオキシ基などが挙げられる。より好ましい置換基としてのアシルオキシアルキル基としては、炭素数6以下のアシル基と炭素数4以下のアルキレン基を有するアシルオキシアルキル基があり、特に炭素数4以下のアシル基と炭素数1または2のアルキレン基とを有するアシルオキシアルキル基がさらに好ましい。例えば、アセトキシメチル基、2−アセトキシエチル基、プロピオニルオキシメチル基、2−プロピオニルオキシエチル基、n−ブチリルオキシメチル基などが挙げられる。より好ましい置換基としてのアルコキシ基としては、炭素数10以下、特に炭素数6以下、のアルコキシ基であり、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基、n−ブトキシ基、t−ブトキシ基などが挙げられる。
【0014】
アダマンタン化合物の電解フッ素化により、橋頭位の炭素原子に結合したフッ素原子を有するフッ素化アダマンタン化合物が得られる。具体的には、例えば、下記式(A)で表されるアダマンタンの電解フッ素化により、下記式(A−1F)〜(A−4F)で表されるフッ素化アダマンタンが得られる。また、例えば、下記式(B)で表されるアダマンタン誘導体の電解フッ素化により、下記式(B−1F)〜(B−3F)で表されるフッ素化アダマンタン誘導体が得られ、記式(C)で表されるアダマンタン誘導体の電解フッ素化により、下記式(C−1F)および(C−2F)で表されるフッ素化アダマンタン誘導体が得られる。なお、下記化学式におけるR、Rは上記水素原子が置換された置換される原子、原子団または有機基を表す。
【0015】
【化1】

【0016】
【化2】

【0017】
【化3】

【0018】
本発明における出発アダマンタン化合物は、橋頭位の炭素原子に結合した水素原子を2〜3個有するアダマンタン誘導体であることが好ましく、この出発原料からフッ素原子を1〜3個有するフッ素化アダマンタン化合物が得られる。また、同様に、出発アダマンタン化合物は、橋頭位の炭素原子に結合した不活性置換基を1〜2個有するアダマンタン誘導体であることが好ましく、この出発原料からフッ素原子を1〜2個有するフッ素化アダマンタン化合物が得られる。上記のように、式(B)で表されるアダマンタン誘導体から上記式(B−1F)〜(B−3F)で表されるフッ素化アダマンタン誘導体を製造すること、および、式(C)で表されるアダマンタン誘導体から上記式(C−1F)および(C−2F)で表されるフッ素化アダマンタン誘導体を製造すること、が好ましい。なお、上記化学式におけるRおよびRはいずれも前記有機基であることが好ましい。
【0019】
本発明の電解フッ素化におけるフッ素化剤としては、脂肪族第3級アミン、ピリジン等の芳香族性複素環状アミンなどの第3級アミンのポリフッ化水素酸塩、および、第4級アンモニウムフルオリドのポリフッ化水素酸塩が使用される。好ましくは、トリアルキルアミンまたはピリジンのポリフッ化水素酸塩、および、テトラアルキルアンモニウムフルオリドのポリフッ化水素酸塩が使用される。トリアルキルアミンとしては、炭素数4以下のアルキル基を3個有するトリアルキルアミンが好ましい。テトラアルキルアンモニウムフルオリドとしては、炭素数4以下のアルキル基を4個有するテトラアルキルアンモニウムフルオリドが好ましい。これらアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基などがあり、メチル基とエチル基が特に好ましい。本発明におけるフッ素化剤としては、特に、トリアルキルアミンのポリフッ化水素酸塩およびテトラアルキルアンモニウムフルオリドのポリフッ化水素酸塩から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0020】
上記フッ素化剤の窒素原子に結合した3個または4個のアルキル基は互いに異なっていてもよいが、窒素原子に結合した3個または4個のアルキル基は通常同一のアルキル基である。このアルキル基が同一の場合には、トリアルキルアミンのポリフッ化水素酸塩は下記式(1)で表される化合物であり、第4級アンモニウムフルオリドのポリフッ化水素酸塩は下記式(2)で表される化合物である。ただし、R、Rは炭素数4以下のアルキル基を表す。下記化学式におけるmおよびnはそれぞれ2以上の整数であり、それぞれ3〜7の整数が好ましい。好ましいmおよびnはそれぞれ3〜6の整数である。
(RN・mHF ・・・(1)
(RNF・nHF ・・・(2)
【0021】
上記フッ素化剤の具体例としては、例えば、下記の化合物が挙げられる。なお、下記Prはピリジンを表す。
(CHN・3HF、(CHN・4HF、(CHN・5HF、(CHN・6HF、(CN・3HF、(CN・4HF、(CN・5HF、(CN・6HF、(CN・7HF、(n−CN・5HF、(n−CN・6HF、(i−CN・6HF、(n−CN・5HF、(t−CN・6HF、Pr・5HF、Pr・6HF、(CHNF・4HF、(CHNF・5HF、(CHNF・6HF、(CNF・3HF、(CNF・4HF、(CNF・5HF、(CNF・6HF、(CNF・7HF、(n−CNF・5HF、(t−CNF・6HF。
【0022】
上記のようなフッ化水素塩は支持電解質を兼ねるため、本発明の電解フッ素化においては特に支持電解質を使用する必要はない。また、反応温度下で液状のフッ素化剤は反応溶媒を兼ねることができる。特に、常温で液体のフッ素化剤を用いることにより、不活性溶媒なしに反応を行うことができる。本発明においては、常温で液体であるフッ素化剤を使用して、該フッ素化剤を電解フッ素化における溶媒の少なくとも一部として使用することが好ましい。また、本発明において、不活性溶媒を使用して反応を行うこともできる。不活性溶媒としては非プロトン性溶媒が好ましい。例えば、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネートなどのカーボネート系溶媒、ジメトキシエタンなどのエーテル系溶媒、アセトニトリル、スルホランなどの溶媒を不活性溶媒として上げることができる。
【0023】
原料アダマンタン化合物に対するフッ素化剤の使用量は、少なくとも目的とするフッ素化アダマンタン化合物におけるフッ素原子の数(以下、kで表す)に対応する量を必要とするが、通常は過剰量使用される。好ましくは、原料アダマンタン化合物1モルに対して1.5kモル以上、特に2kモル以上が好ましい。フッ素化剤が溶媒としても作用することより、その使用量の上限は特に限定されるものではないが、反応装置の容積効率等の面から通常は原料アダマンタン化合物1モルに対して100モル程度が好ましく、特に50モルが好ましい。
【0024】
本発明の電解フッ素化において使用する電解槽としては、無隔膜式あるいは隔膜式いずれの電解槽も使用可能である。電解方式としては定電流電解、定電位電解いずれも有効である。通常は、定電位電解を行うのが純粋に製品を得るためには好ましい。電極として白金電極、炭素電極、二酸化鉛電極、銀電極、銅電極等の種々の材料の電極が使用できる。特に陽陰極に白金電極を用いて電解反応を行うことが収率よく製品を得るためには有効である。
電解反応は通常、−50℃〜+50℃で行うことができるが、特に−10℃〜+40℃で行うのが好ましい。また電位は1〜3.0V、好ましくは1.5〜3.0V、電流密度は1〜100mA/cm、好ましくは5〜50mA/cmである。
【0025】
本発明の製造方法は、橋頭位の炭素原子に結合した水素原子を2〜4個有するアダマンタン化合物を用い、電解フッ素化における電位を制御して該水素原子が置換されるフッ素原子の数を制御することができる。電解フッ素化における電位は、用いるアダマンタン化合物のサイクリックボルタモグラムを測定することにより決定される。用いるアダマンタン化合物のサイクリックボルタモグラムは、上記のようなフッ化水素塩中において、橋頭位の炭素原子に有する水素原子の数に応じて、複数のピークを示す。それぞれのピーク近辺の電位において、定電位電解を行うことにより、橋頭位の炭素原子に有する水素原子の数に応じて、モノフルオロ、ジフルオロ、トリフルオロ、テトラフルオロ化体がそれぞれ高選択的に得られる。
【0026】
具体的には、例えば、1−アダマンタンカルボン酸メチルは、(CN・5HF中でサイクリックボルタモグラムの測定を行うと、2.5、2.7および2.9(V vs.Ag/Ag)近辺にピークを示す。したがって、それぞれの電位で定電位電解反応を行うことにより、モノフルオロ、ジフルオロ、トリフルオロ化体を高選択的に得ることができる。
【実施例】
【0027】
本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0028】
[例1]
白金電極(2×2cm)をアノード、カソードに持つフッ素樹脂製1室型電解槽に、EtN−5HF(12ml)、1−アセトキシメチルアダマンタン(199mg、0.95mmol)を入れた。室温、定電位(2.54V vs.Ag/Ag)で2.65F/molの電流を流し反応を行った。反応混合物を水に注ぎ、塩化メチレンで抽出した。有機層を混合し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥し、濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで生成することにより、3−フルオロ−1−アセトキシメチルアダマンタンを収率86%で得た。
H−NMR(400MHz、溶媒:CDCl、基準:TMS)δ(ppm):1.47〜1.59(6H,m)、1.69〜1.87(6H,m)、3.02(3H,s)、2.32(2H,s)。
19F−NMR(376MHz、溶媒CDCl、基準:CFCl)δ(ppm):−132.6(1F,s)。
【0029】
[例2]
1−アセトキシメチルアダマンタンを[例1]と同条件下、2.7V vs.Ag/Agで5.2F/molの電流を流し反応を行った。通電後、[例1]と同様に後処理を行い、得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで生成することにより、3,5−ジフルオロ−1−アセトキシメチルアダマンタンを収率85%で得た。
H−NMR(400MHz、溶媒:CDCl、基準:TMS)δ(ppm):1.40(2H,s)、1.68〜1.83(10H,m)、2.08(3H,s)、2.49(1H,s)、3.86(2H,s)。
19F−NMR(376MHz、溶媒CDCl、基準:CFCl)δ(ppm):−137.5(2F,s)。
【0030】
[例3]
1−アダマンタンカルボン酸メチルを[例1]と同条件下、2.45V vs.Ag/Agで2.8F/molの電流を流し反応を行った。通電後、[例1]と同様に後処理を行い、得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで生成することにより、3−フルオロ−1−アダマンタンカルボン酸メチルを収率84%で得た。
H−NMR(400MHz、溶媒:CDCl、基準:TMS)δ(ppm):1.60(2H,s)、1.80〜1.89(8H,m)、2.03(d,2H,5.72Hz)、2.34(2H,s)、3.68(3H,s)。
19F−NMR(376MHz、溶媒CDCl、基準:CFCl)δ(ppm):−133.0(1F,s)。
【0031】
[例4]
1−アダマンタンカルボン酸メチルを[例1]と同条件下、2.6V vs.Ag/Agで6.57F/molの電流を流し反応を行った。通電後、[例1]と同様に後処理を行い、得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで生成することにより、3,5−ジフルオロ−1−アダマンタンカルボン酸メチルを収率72%で得た。
H−NMR(400MHz、溶媒:CDCl、基準:TMS)δ(ppm):1.71(2H,bs)、1.83(4H,m)、2.01(4Hbs)、2.10(2H,m)、2.52(1H,bs)、3.71(3H,s)。
19F−NMR(376MHz、溶媒CDCl、基準:CFCl)δ(ppm):−137.6(2F,s)。
【0032】
[例5]
1−アダマンタンカルボン酸メチルを[例1]と同条件下、2.8V vs.Ag/Agで10.3F/molの電流を流し反応を行った。通電後、[例1]と同様に後処理を行い、得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで生成することにより、3,5,7−トリフルオロ−1−アダマンタンカルボン酸メチルを収率92%で得た。
H−NMR(400MHz、溶媒:CDCl、基準:TMS)δ(ppm):1.99〜2.15(12H,m)、3.74(3H,s)。
19F−NMR(2376MHz、溶媒CDCl、基準:CFCl)δ(ppm):−143.9(3F,s)。
【0033】
[例6]
1,3−アダマンタンジカルボン酸ジメチルエステルを[例1]と同条件下、2.53V vs.Ag/Agで3.1F/molの電流を流し反応を行った。通電後、[例1]と同様に後処理を行い、得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで生成することにより、5−フルオロ−1,3−アダマンタンジカルボン酸ジメチルエステルを収率76%で得た。
H−NMR(400MHz、溶媒:CDCl、基準:TMS)δ(ppm):1.79(4H,s)、1.87〜2.06(8H,m)、2.44〜2.48(1H,m)、3.69(6H,s)。
19F−NMR(376MHz、溶媒CDCl、基準:CFCl)δ(ppm):−136.3(1F,s)。
【0034】
[例7]
1,3−アダマンタンジカルボン酸ジメチルエステルを[例1]と同条件下、2.8V vs.Ag/Agで6.4F/molの電流を流し反応を行った。通電後、[例1]と同様に後処理を行い、得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで生成することにより、5,7−ジフルオロ−1,3−アダマンタンジカルボン酸ジメチルエステルを収率86%で得た。
H−NMR(400MHz、溶媒:CDCl、基準:TMS)δ(ppm):1.93(2H,s)、1.98〜2.05(8H,m)、2.12(2H,t,5.36Hz)、3.72(6H,s)。
19F−NMR(376MHz、溶媒CDCl、基準:CFCl)δ(ppm):−140.2(2F,s)。
【0035】
[例8]
アダマンタンを[例1]で用いたのと同じ電解槽を用いて、EtN−5HF(6ml)、塩化メチレン(6ml)中、35℃で、2.3V vs.Ag/Agで2.2F/molの電流を流し反応を行った。通電後、[例1]と同様に後処理を行い、得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで生成することにより、1−フルオロアダマンタンを収率74%で得た。
H−NMR(400MHz、溶媒:CDCl、基準:TMS)δ(ppm):1.56〜1.66(6H,m)、1.88〜1.90(6H,m)、2.23(3H,bs)。
19F−NMR(376MHz、溶媒CDCl、基準:CFCl)δ(ppm):−129.1〜−129.0(1F,m)。
【0036】
[例9]
アダマンタンを[例1]で用いたのと同じ電解槽を用いて、EtN−5HF(6ml)、塩化メチレン(6ml)中、35℃で、2.5V vs.Ag/Agで4.4F/molの電流を流し反応を行った。通電後、[例1]と同様に後処理を行い、得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで生成することにより、1,3−ジフルオロアダマンタンを収率79%で得た。
H−NMR(400MHz、溶媒:CDCl、基準:TMS)δ(ppm):1.50(2H,bs)、1.84〜1.90(8H,m)、2.09(2H,t,5.56Hz)、2.44(2H,bs)。
19F−NMR(376MHz、溶媒CDCl、基準:CFCl)δ(ppm):−134.5(2F,m)
【0037】
[例10]
アダマンタンを[例1]で用いたのと同じ電解槽を用いて、EtN−5HF(12ml)中、45℃で、2.7V vs.Ag/Agで14F/molの電流を流し反応を行った。通電後、[例1]と同様に後処理を行い、得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで生成することにより、1,3,5−トリフルオロアダマンタンを収率61%で得た。
H−NMR(400MHz、溶媒:CDCl、基準:TMS)δ(ppm):1.79〜1.83(6H,m)、2.04〜2.15(6H,m)、2.49〜2.56(1H,m)。
19F−NMR(376MHz、溶媒CDCl、基準:CFCl)δ(ppm):−141.4(3F,s)。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明により得られるフッ素化アダマンタン化合物は、医薬や農薬などの生理活性物質やその合成中間体として有用である(前記特許文献1、特許文献2参照)。また、本発明により得られるフッ素化アダマンタン化合物は光学材料の原料として有用である。例えば、フッ素化アダマンタン環を有するポリマーやモノマーはレジスト剤などの電子部材製造プロセスに使用される材料として透明性などの光学的特性を向上させる効果が期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
橋頭位の炭素原子に結合した水素原子を1〜4個有するアダマンタン誘導体およびアダマンタンから選ばれるアダマンタン化合物を電解フッ素化し、実質的に橋頭位の炭素原子に結合した水素原子のみ、その一部ないし全部をフッ素原子に置換することを特徴とするフッ素化アダマンタン化合物の製造方法。
【請求項2】
橋頭位の炭素原子に結合した水素原子を2〜3個有するアダマンタン誘導体から、フッ素原子を1〜3個有するフッ素化アダマンタン化合物を製造する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
アダマンタン化合物が、橋頭位の炭素原子に結合した不活性置換基を1〜2個有するアダマンタン誘導体である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
不活性置換基が、アルコキシカルボニル基、アシルオキシ基、アシルオキシアルキル基およびアルコキシ基から選ばれる少なくとも1種の基である、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
橋頭位の炭素原子に結合した水素原子を2〜4個有するアダマンタン化合物を用い、電解フッ素化における電位を制御して該水素原子が置換されるフッ素原子の数を制御する、請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
電解フッ素化におけるフッ素化剤が、トリアルキルアミンのポリフッ化水素酸塩およびテトラアルキルアンモニウムフルオリドのポリフッ化水素酸塩から選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
フッ素化剤が常温で液体であるフッ素化剤であり、該フッ素化剤を電解フッ素化における溶媒の少なくとも一部として使用する、請求項6に記載の製造方法。

【公開番号】特開2009−91608(P2009−91608A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−262038(P2007−262038)
【出願日】平成19年10月5日(2007.10.5)
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】