説明

フッ素化エチレンカーボネートの製造方法

フッ素化剤、例えばアルカリ金属フッ化物、フッ化アンチモンおよび特にアミンのHF付加物を用いて、ジクロロエチレンカーボネート、トリクロロエチレンカーボネートおよびテトラクロロエチレンカーボネートから、ジフルオロエチレンカーボネート、トリフルオロエチレンカーボネートおよびテトラフルオロエチレンカーボネートが合成される。フッ素化カーボネートはリチウムイオン電池における添加剤として適している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
その開示内容全体が参照により本明細書に組み込まれる、2009年10月21日出願の欧州特許出願第09173594.4号の利益を請求する本発明は、ハロゲン−フッ素交換、好ましくは塩素−フッ素交換によってジフルオロエチレンカーボネート、トリフルオロエチレンカーボネートおよびテトラフルオロエチレンカーボネートを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(特許文献1)に、有機溶媒中でアミンのフッ化水素酸付加塩とハロゲン化有機カーボネートを反応させることによる、フッ素化カーボネートの製造が記述されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際特許出願公開第2009/107449号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、ジフルオロエチレンカーボネート、トリフルオロエチレンおよびテトラフルオロエチレンカーボネートを製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この課題は、特許請求の範囲に記載の方法によって解決される。
【0006】
本発明の方法に従って、ジフルオロエチレンカーボネート、トリフルオロエチレンカーボネートおよびテトラフルオロエチレンカーボネートが、フッ素化剤を用いたハロゲン−フッ素交換反応によって、ジクロロエチレンカーボネート、トリクロロエチレンカーボネートおよびテトラクロロエチレンカーボネートから製造される。
【0007】
好ましくは、本発明の方法に従って、ジフルオロエチレンカーボネート、トリフルオロエチレンカーボネートおよびテトラフルオロエチレンカーボネートは、フッ素化剤を用いた塩素−フッ素交換反応によって、トリクロロエチレンカーボネートおよびテトラクロロエチレンカーボネートから製造される。
【0008】
「ハロゲン」という用語は本発明において、塩素、臭素およびヨウ素を意味する。好ましくは、「ハロゲン」という用語は塩素を意味する。
【0009】
臭素置換エチレンカーボネートおよびヨウ素置換エチレンカーボネートは、エチレンカーボネートの臭素化またはヨウ素化によって提供することができる。これらの反応は光化学的に補助することができる。ヨウ素置換エチレンカーボネートは、エチレンカーボネートおよびN−ヨード化合物、例えばN−ヨード−アセトアミドまたはN−ヨード−スクシンイミドを反応させることによっても製造することができる。
【0010】
本発明は、非常に好ましい実施形態である塩素−フッ素交換に鑑みて、さらに詳細に説明される。
【0011】
ジクロロエチレンカーボネートは、熱的または光化学的塩素化によってエチレンカーボネートおよびモノクロロエチレンカーボネートから製造することができる。主にジクロロエチレンカーボネートを製造することが意図される場合、塩素と、置換される各水素原子とのモル比は好ましくは、(0.8:1〜1.2:1)と置換される水素原子の数とを掛けた範囲である。したがって、エチレンカーボネートが出発原料として適用される場合、塩素とエチレンカーボネートの比は好ましくは、1.6:1〜2.4:1の範囲である。モノクロロエチレンカーボネートが出発原料として適用される場合には、塩素とモノクロロエチレンカーボネートのモル比は好ましくは、0.8:1〜1.2:1の範囲である。塩素と、任意の塩素化カーボネートの混合物との好ましい比は、容易に計算することができる。
【0012】
トリクロロエチレンカーボネートおよびテトラクロロエチレンカーボネートは、熱的または光化学的塩素化によって、エチレンカーボネート、モノクロロエチレンカーボネートおよびジクロロエチレンカーボネート(シス−4,5−トリクロロエチレンカーボネート、トランス−4,5−ジクロロエチレンカーボネート、4,4−ジクロロエチレンカーボネートおよびその混合物)から製造することができる。この反応において、トリクロロエチレンカーボネートは塩素化反応において低級塩素化エチレンカーボネートと競合するため、トリクロロエチレンカーボネートおよびテトラクロロエチレンカーボネートは通常、同時に生成されることを留意しなければならない。主にトリクロロエチレンカーボネートを製造することが意図される場合には、塩素と、置換される各水素原子とのモル比は好ましくは、(0.8:1〜1.2:1)と置換される水素原子の数とを掛けた範囲である。したがって、エチレンカーボネートが出発原料として適用される場合、塩素とエチレンカーボネートの比は好ましくは、2.4:1〜3.6:1の範囲である。モノクロロエチレンカーボネートが出発原料として適用される場合には、塩素とモノクロロエチレンカーボネートのモル比は好ましくは、1.6:1〜2.4:1の範囲である。ジクロロエチレンカーボネート(任意のその異性体またはその混合物を使用することができる)が出発原料として適用される場合、塩素とジクロロエチレンカーボネートのモル比は好ましくは、0.8:1〜1.2:1である。塩素と、任意の塩素化カーボネートの混合物との好ましい比は、容易に計算することができる。
【0013】
主にテトラクロロエチレンカーボネートが製造されるべき場合には、塩素と、出発原料中に存在する水素原子との好ましい比は、0.9:1〜1.1:1である。したがって、エチレンカーボネートが出発原料として適用される場合、塩素とエチレンカーボネートの比は好ましくは、3.6:1〜4.4:1の範囲である。モノクロロエチレンカーボネートが出発原料として適用される場合、塩素とモノクロロエチレンカーボネートのモル比は好ましくは、2.7:1〜3.3:1の範囲である。ジクロロエチレンカーボネート(任意のその異性体またはその混合物を使用することができる)が出発原料として適用される場合、塩素とジクロロエチレンカーボネートのモル比は好ましくは、1.8:1〜2.2:1である。トリクロロエチレンカーボネートが出発原料として適用される場合、塩素とトリクロロエチレンカーボネートのモル比は好ましくは、0.9:1〜1.1:1である。さらに、塩素と、任意の塩素化カーボネートの混合物との好ましい比は、上記の説明に基づいて容易に計算することができる。
【0014】
光化学的塩素化によるトリクロロエチレンカーボネートおよびテトラクロロエチレンカーボネートの製造が好ましい。
【0015】
この実施形態は、エチレンカーボネートである好ましい出発原料に鑑みて、さらに詳細に説明される。エチレンカーボネートは、40℃以上にそれを温めることによって、または溶媒を添加することによって、例えばクロロエチレンカーボネートまたはフルオロ置換エチレンカーボネートを添加することによって液相で維持される。その代わりとして、またはさらに、他の溶媒、例えばHFまたは過フッ素化炭素化合物を添加することができる。不活性ガス、例えば窒素で任意選択により希釈された塩素ガスが、紫外線照射下にてガス状で液体に導入される。所望の場合には、米国特許出願公開第2009/0082586号明細書に記載のように光反応器内に追加の不活性ガス流として導入することができる。
【0016】
所望の場合には、適切な溶媒、例えば塩素化炭化水素、例えばCCl、CHCl、CHClまたはテトラクロロエタンでエチレンカーボネートを希釈することができる。好ましくは、反応は溶媒の非存在下にて行われる。紫外線の供給源は重要ではない。例えば、国際公開第2009/013198号パンフレットに記載のように、高圧水銀ランプならびに紫外線発光LEDを適用することができる。光源は、石英ガラスまたはホウケイ酸ガラスによって反応混合物から離される。所望の場合には、ポリフッ素化または過フッ素化ポリマーから作られた収縮包装によってガラス表面を保護することができる。
【0017】
米国特許出願公開第2009/0082586号明細書に記載のように、例えば接触表面を増加するためにループ反応器を含む手段に反応混合物の一部分を循環させることによって、反応混合物を不活性ガス、例えば窒素と接触させることが有利である場合がある。かかる手段は、例えばランダムパッキングまたは構造化パッキングである。
【0018】
反応器内の液相の温度は好ましくは、20〜140℃の範囲に維持され;エチレンカーボネートが出発原料として適用され、溶媒、例えばクロロエチレンカーボネートまたはフルオロ置換エチレンカーボネートが使用されない場合、反応開始時点の温度は少なくとも約45℃、つまりエチレンカーボネートの融点を超える温度であるべきである。塩素化の初期段階において、中程度の温度、例えば80℃までの温度が推奨される。後期段階において、反応はそれより上の温度範囲、例えば80〜140℃の範囲で行われる。
【0019】
具体的には、米国特許第4,535,175号明細書に記載のようにトリクロロエチレンカーボネートを製造することができる。窒素でパージした後、ランプでの照射下にて、エチレンカーボネートを乾燥塩素ガスと接触させる。塩素導入の速度は、液体がわずかな黄色を維持するように調節される。初期温度は35℃であり、反応の後半部分の間には115℃までの温度であった。4−クロロエチレンカーボネートがすべて消費された(ガスクロマトグラフィー分析によって示される)時に反応が停止される。生成物は、主にトリクロロエチレンカーボネートと、それより少ない量のジクロロエチレンカーボネートおよびテトラクロロエチレンカーボネートである。
【0020】
テトラクロロエチレンカーボネートは欧州特許出願公開第A−0080187号明細書に記載のように製造することができる。溶融エチレンカーボネートを反応器に装入し、窒素でパージした後、液体が黄色のままであるように塩素を導入する。初期反応温度は塩素化の最初の1時間、80℃未満に維持され;後に、100〜120℃に上昇させることができる。不完全に塩素化された中間体が存在しないことがガスクロマトグラフィー分析によって明らかになるまで、塩素化が続けられる。
【0021】
上記のように、反応混合物はしばしば、トリクロロエチレンカーボネートおよびテトラクロロエチレンカーボネート、あるいはジクロロエチレンカーボネートも含有する。所望の場合には、トリクロロエチレンカーボネートおよびテトラクロロエチレンカーボネートを特に蒸留によって単離することができる。フルオロカーボネートを形成するためクロロカーボネートをさらに反応させるために、中間体を単離する必要はない。テトラクロロエチレンカーボネートの沸点は666Paで46℃である。
【0022】
反応生成物であるHClの一部または大部分を除去することが好ましい。これは、反応混合物からHClをストリッピングすることによって、例えば不活性ガス、特に熱い不活性ガスをそれに通すことによって行うことができる。ストリッピングカラムが非常に適しており、反応混合物がカラムの頂部または頂部付近で導入され、かつストリッピングガスがカラムの底部または底部付近で導入される。
【0023】
フッ素化反応はカラム反応器で行われる。攪拌反応器が非常に適している。反応生成物、ジフルオロエチレンカーボネート、トリフルオロエチレンカーボネートおよびテトラフルオロエチレンカーボネートは加水分解を受けやすいことから、水を排除する。例えば、反応が行われる前、乾燥した不活性ガス、特に窒素で反応器をパージする。
【0024】
一般に、塩素−フッ素交換反応に適していることが知られている試薬を適用することができる。例えば、金属フッ化物またはそのHF付加物を適用することができる。一般式MF・nHF(式中、Mは、アルカリ金属のカチオンであり、nは、1、2、3またはそれ以上である)のアルカリ金属フッ化物およびそのHF付加物が適している。この種類の化合物の中で、KF、KF・HF、CsF、CsF・HF、KF・2HFおよびCsF・2HFが特に好ましい。アルカリ土類金属付加物およびV族金属フッ化物、ならびに遷移金属フッ化物およびそのHF付加物も適している。この種類の非常に適している化合物は、例えば、CaF、SbF、SbF、AsF、AsF、およびAgFである。所望の場合には、水以外の溶媒を適用することができる。COFもフッ素化剤として適している。フッ化アンモニウムおよびフッ化アミンおよびそのHF付加物、例えば、NH・nHF(nは1〜10、好ましくは、1〜3である)も適している。
【0025】
アミンのHF付加物を適用することが好ましい。アミンのHF付加物は好ましくは、式(I)、RN・nHFの付加物である。式中、nは、1〜10、好ましくは、1〜4である。さらに好ましくは、nは、1以上であり、かつ4以下である。R、R、およびRのうちの少なくとも1つは有機基、特にアルキル基、フェニル基、ベンジル基であるか、あるいは2つまたは3つすべてのR、R、およびR基が、窒素原子を含む4〜7員環を形成する。
【0026】
好ましくは、式(I)のアミンのHF付加物において、R、R、およびRは、同一または異なり、かつH、炭素原子1〜10個を有するアルキル、フェニルまたはベンジルを示し;その代わりとして、R、R、およびRのうちの2つの置換基または3つすべての置換基が、窒素原子を含む環を形成し;R、R、およびRのうちの少なくとも1つが、水素ではなく、前記有機基のうちの1つである。任意選択により、RおよびRは、窒素原子を含む環を形成し;その環は好ましくは、4員環、5員環または6員環である。それは飽和環または不飽和環であってもよい。それは、炭素原子または更なるヘテロ原子を含有することができ、例えば、合計2個または3個のN原子を含有し得る。例えば、ピリジン、アニリン、またはキノリンのHF付加物がフッ素化剤として適している。
【0027】
好ましくは、式(I)において、R、R、およびRは、同一または異なり、R、R、およびRのうちの少なくとも1つが炭素1〜4個を有するアルキルであるという条件で、H、炭素原子1〜4個を有するアルキルを示し;nは、1以上かつ4以下である。さらに好ましくは、R、R、およびRは、同一または異なり、かつメチル、エチル、n−プロピルまたはイソプロピルを示す。特に好ましくは、R、R、およびRは同一であり、かつメチル、エチル、n−プロピルまたはイソプロピルを示す。
【0028】
最も好ましくは、nは、2.5以上である。
【0029】
最も好ましくは、nは、3.5以下である。
【0030】
トリエチルアミンのHF付加物、特に式EtN・nHF(Etはエチル基を示し、nは2.5〜3.5である)を有する付加物が特に適している。この付加物は周囲温度で液体であり、蒸留によって容易に精製することができる。
【0031】
HF付加物のHF内容分は、フッ素化エチレンカーボネートおよびHClの形成下にて塩素化エチレン化合物と反応することが知られている。HF付加物からのHFの一部がフッ素化反応で消費される場合、nが1を超えるときに、HF付加物から更なるHFが遊離されると考えられる。したがって、好ましい一実施形態に従って、1を超えるフッ素/アミン比を有するアミンのHF付加物、つまり、式(I)の化合物(nが1を超える)の付加物が適用される場合、反応の過程に同時に、それぞれの遊離アミンが添加される。あらゆる遊離したHFが添加されたアミンによって捕えられ、塩素−フッ素交換に用いられると考えられる。アミンの添加は、HFが反応混合物から蒸気として離れるのを防ぐ。
【0032】
添加されたアミンの量は、一般式RN・nHFを有するアミンのHF付加物におけるnのそれぞれの値の(n−1)に相当する。したがって、例えば、式(I)の最も好ましい化合物であるEtN・3HFが1モル適用され、EtNが(3−2)モル添加される。
【0033】
式(I)(nは2.5以上かつ3.5以下である)のアミン付加物が適用される場合に、この実施形態は特に好ましい。
【0034】
反応混合物中にあらゆるガス状成分を保持する圧力下にて、例えば自己圧力下でのバッチ反応器において反応が行われる場合、または冷却器を適用し、反応混合物から蒸気として離れるHFがそこで凝縮されて反応混合物に戻される場合、アミンを添加する必要はない。
【0035】
アミンのHF付加物の大部分は液体である。したがって、先験的に溶媒を適用する必要はない。
【0036】
所望の場合には、水以外の溶媒を適用することができる。好ましい溶媒は非プロトン性有機溶媒である。例えば、エーテル、例えばジエチルエーテル、ケトン、例えば、アセトンまたはブチルメチルケトン、ハロゲン化炭化水素、例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、テトラクロロメタン、テトラクロロエタン、ニトリル、例えば、アセトニトリルまたはアジポニトリル、またはアミド、例えばホルムアミド、エーテル、例えば、グリコールまたはポリグリコールのエーテル、例えば、ジグライムまたはトリグライムを溶媒として適用することができる。
【0037】
溶媒が存在する場合、反応混合物中のその含有率は好ましくは、10〜80重量%の範囲であり、反応混合物の総量は100重量%に設定されている。
【0038】
フッ素化混合物の温度は、適切な反応速度でフッ素化が起こるように選択される。反応は好ましくは、60℃以上の温度で行われる。好ましくは、反応温度は200℃以下である。
【0039】
圧力は広い範囲で変動する。反応がアミンのHF付加物を使用して行われる場合、HClが反応生成物である。反応が開放システムで行われる場合、かつガス状生成物、主にHClがパージされる場合、ジフルオロエチレンカーボネート、トリフルオロエチレンカーボネートおよびテトラフルオロエチレンカーボネートはやや低い沸点を有し、ガス状生成物に含まれた状態で反応器から離れ得ることを認識することが賢明である。反応器を離れるガスを冷却トラップに通すべきであり、または冷却器を適用して、反応器から離れるガスから有機成分を凝縮すべきである。あらゆるジフルオロエチレンカーボネート、トリフルオロエチレンカーボネートまたはテトラフルオロエチレンカーボネートは、蒸留または分留凝縮、沈殿または結晶化によって分離することができ;あるいはそれらは反応混合物に戻される。範囲1〜30バールの圧力(絶対)が好ましい。その圧力は、少なくとも、有機成分が本質的に液相のままであるほど高い圧力であるべきである。
【0040】
反応はオートクレーブでも行うことができる。これは、反応中に低沸点生成物の損失が生じないという利点を有する。
【0041】
金属フッ化物またはHF付加物におけるフッ素と、クロロ置換エチレンカーボネートにおいて置換される塩素原子とのモル比は、好ましくは1:1以上である。1:1より低いモル比であることができるが、収率が低下する。好ましくは、その比は2:1以下である。より高い比、例えば3:1までの比であり得るが、回収されない限り、またはその後のフッ素化バッチに使用されない限り、フッ素化反応物の一部は無駄になることがある。
【0042】
粗生成物は、ジフルオロエチレンカーボネート、トリフルオロエチレンカーボネートおよび/またはテトラフルオロエチレンカーボネート、あるいはクロロフッ素化中間体および/または未反応出発原料、金属塩化物またはアミン塩酸塩、あるいはHClおよび/またはHFを含有する。ジフルオロエチレンカーボネート、トリフルオロエチレンカーボネートおよびテトラフルオロエチレンカーボネートは、一般に知られている方法で単離することができる。反応混合物の水性ワークアップを行わないことが好ましい。反応混合物を気化させ、HClを通過させる冷却トラップにその蒸気を通すことによって、反応混合物からHClを除去することができ、成分、特にジフルオロエチレンカーボネート、トリフルオロエチレンカーボネートおよび/またはテトラフルオロエチレンカーボネートが凝縮される。0℃〜−180℃に冷却されたトラップが非常に適している。金属フッ化物、特にフッ化ナトリウムまたはフッ化カリウム上に反応混合物または未精製留出物を通すことによって、HFが除去される。トラップおよび/またはHF除去からの、反応混合物または予め精製された粗生成物を分留凝縮にかけることができる。反応混合物またはその任意の留分からのジフルオロエチレンカーボネート、トリフルオロエチレンカーボネートおよび/またはテトラフルオロエチレンカーボネートの分離は、蒸留、特に加圧蒸留または深部温度蒸留(deep temperature distillation)によって可能である。
【0043】
アミンのHF添加剤を適用する場合、アミンのそれぞれの塩酸塩が反応生成物として形成される。これらのアミンは、HFをそれに通すことによって再生することができる。ジフルオロエチレンカーボネート、トリフルオロエチレンカーボネートまたはテトラフルオロエチレンカーボネートは、溶媒として、エッチング剤として、消火剤として、特にリチウムイオン電池用の溶媒または溶媒添加剤として適している。
【0044】
単離トリクロロエチレンカーボネートは、新規であり、本発明の主題でもある。この化合物は、さらに上述される塩素化によって、得られる反応混合物から単離することができる。トリクロロエチレンカーボネートは、トリフルオロエチレンカーボネートの前駆物質であり、さらに塩素化した後、テトラフルオロエチレンカーボネートの前駆物質であり、例えばリチウムイオン電池用の溶媒または溶媒添加剤として価値のある化合物である。
【0045】
本発明の方法の利点は、技術的に簡単な手法でジフルオロエチレンカーボネート、トリフルオロエチレンカーボネートおよびテトラフルオロエチレンカーボネートを製造することができることである。
【0046】
ジフルオロエチレンカーボネート、トリフルオロエチレンカーボネートおよびテトラフルオロエチレンカーボネートは、電気フッ素化によってエチレンカーボネートから製造することもできる。エチレンカーボネートまたはフルオロ置換エチレンカーボネート前駆物、例えば、ジフルオロエチレンカーボネートの異性体のいずれか、またはテトラフルオロエチレンカーボネートの製造のために、トリフルオロエチレンカーボネートもまた、セル電圧5〜6Vにて液体HF中で電解される。HFにおける出発原料の濃度は、1〜50重量%の範囲であるべきである。好ましくは、HFにおける出発原料の濃度は、15重量%以下である。良く攪拌することが推奨される。最適収率が得られるように、電流密度が調節される。電流密度20〜50mA/cmによって、良い収率が得られる。同一速度のフッ素化反応で、更なるHFおよび更なる出発原料を添加することが得策である。交互のニッケル陰極および陽極の1パックと陽極有効面積630cmを有する900mlステンレス鋼円柱形セルを備えた適切な装置が、Lino ConteおよびGianPaolo Gambarettoにより、出版物J. Fluorine Chem.125(2004),139−144の142ページの「3.Experimental details」に記述されている。このセルは液面計と、セルから出るガス流中のフッ化水素および含まれるフルオロ置換有機生成物を凝縮するために−40℃に維持される凝縮器を備えている。その結果、液体HFにおける電気フッ素化によって、エチレンカーボネートまたはフルオロ置換エチレンカーボネート前駆物質からジフルオロエチレンカーボネート、トリフルオロエチレンカーボネートおよびテトラフルオロエチレンカーボネートを製造する方法は、本発明のもう1つの態様である。セル電圧は好ましくは、5〜6Vの範囲である。前駆物質の濃度は、HF溶液中で好ましくは5〜15重量%の範囲に維持される。
【0047】
反応の停止後、例えばHF捕捉剤、例えばNaFを添加することによって、HFが除去される。残りの有機粗生成物を蒸留によって分離して、目的のジフルオロエチレンカーボネート、トリフルオロエチレンカーボネートおよびテトラフルオロエチレンカーボネートを得ることができる。
【0048】
以下の実施例は、限定することを意図すると共に、さらに詳細に反応を説明することを意図するものである。参照により本明細書に組み込まれる、特許、特許出願、および出版物の開示内容は、用語があいまいになり得る程度まで、本出願の明細書と矛盾するはずであるが、本明細書が優先されるべきである。
【実施例】
【0049】
実施例1:トリクロロエチレンカーボネートおよびテトラクロロエチレンカーボネートの製造
【0050】
この反応は主に、米国特許出願公開第2009/0082586号明細書の[0042]に記載のように行われる。
【0051】
この装置は、光化学的反応器、受け取り容器および充填カラムを含む。エチレンカーボネートを受け取り容器に入れ、それが融解するまで加熱し、次いで光反応器を通してポンピングする。塩素ガスを光反応器内に導入し、その中で液相と接触させる。光反応器は紫外線ランプ、例えばHeraeusの150W高圧水銀ランプを備える。反応器の底の液相に塩素ガスを連続的に供給する。窒素800l/hを照射反応器の上部領域の液相に供給し、受け取り容器の底部の液相中に供給した。照射反応器における液相の温度は初期には、40〜45℃の範囲、後に80℃までに維持される。最後に、反応混合物の温度を約120℃に維持する。液相をポンピングして、範囲2〜3l/分の流量で循環させる。塩素ガス18kgを導入した後、反応を止める。液相は、本質的にトリクロロエチレンカーボネートとテトラクロロエチレンカーボネートのみを含有する。
【0052】
実施例2:KF・HFを用いた、トリフルオロエチレンカーボネートおよびテトラフルオロエチレンカーボネートへの、トリクロロエチレンカーボネートおよびテトラクロロエチレンカーボネートのフッ素化
さらに精製することなく、フッ素化反応器としての役割を果たす攪拌オートクレーブに、実施例1の液体反応混合物33重量%を移す。得られる液相中のアセトニトリルの濃度が約50体積%となるように、無水アセトニトリルを添加する。
【0053】
置換される塩素原子1個当たりKF・HFが約0.5モル適用されるように、KF・HFを添加する。オートクレーブを閉じ、攪拌を開始し、反応混合物を約120℃に加熱する。試料を反応混合物から採取し、トリフルオロエチレンカーボネートおよびテトラフルオロエチレンカーボネートへの、トリクロロエチレンカーボネートおよびテトラクロロエチレンカーボネートの転化を制御する。所望の転化度が達成されるまで、反応を続ける。
【0054】
濾過によって固形分を除去し、得られた濾液を圧力下で蒸留する。テトラフルオロエチレンカーボネートの沸点は、圧力666Paで約46℃である。
【0055】
実施例3:SbFを用いた、トリクロロエチレンカーボネートおよびテトラクロロエチレンカーボネートのフッ素化
さらに精製することなく、フッ素化反応器としての役割を果たす攪拌オートクレーブに、実施例1の液体反応混合物33重量%を移す。得られる液相中のアセトニトリルの濃度が約50体積%となるように、無水アセトニトリルを添加する。
【0056】
置換される塩素原子1個当たりSbF約0.4モルが適用されるように、新たに乾燥SbFを添加する。オートクレーブを閉じ、攪拌を開始し、反応混合物を約150℃に加熱する。試料を反応混合物から採取し、トリフルオロエチレンカーボネートおよびテトラフルオロエチレンカーボネートへの、トリクロロエチレンカーボネートおよびテトラクロロエチレンカーボネートの転化を制御する。所望の転化度が達成されるまで、反応を続ける。
【0057】
得られた反応混合物を圧力下で蒸留する。SbClは融点約74℃、沸点約223℃を有し、フッ素化反応生成物から容易に分離することができる。
【0058】
実施例4:EtN・3HFを用いた、トリクロロエチレンカーボネートおよびテトラクロロエチレンカーボネートのフッ素化
さらに精製することなく、フッ素化反応器としての役割を果たす攪拌オートクレーブに、実施例1の液体反応混合物33重量%を移す。溶媒は添加しない。
【0059】
凝縮器が取り付けられた反応器で反応を行う。凝縮器を−58℃に冷却して、ガス状または蒸気状化合物を凝縮し、次いでそれを反応器に戻す。
【0060】
新たに蒸留されたEtN・3HF(Sigma−Aldrichから、またはモル比3:1でHFとEtNを反応させることによって入手可能である;15mmHgにて沸点77℃)をゆっくり添加する。反応混合物を80〜100℃の範囲に維持する。反応が開始すると、塩酸塩が形成される。HFも遊離される。この遊離したHFを結合させるために、反応混合物にトリエチルアミンもゆっくりと添加する。EtN・3HFの総量は、置換される塩素1モルにつきEtN・3HF約0.4モルが添加されるように選択される。トリエチルアミンとEtN・3HFのモル比は約2:1である。反応混合物から試料を採取し、トリフルオロエチレンカーボネートおよびテトラフルオロエチレンカーボネートへの、トリクロロエチレンカーボネートおよびテトラクロロエチレンカーボネートの転化が制御される。所望の転化度が達成されるまで、反応を続ける。
【0061】
得られた反応混合物を圧力下で蒸留する。濾過によって、固形物が予め除去される。
【0062】
実施例5:電気フッ素化によるトリフルオロエチレンカーボネートの製造
容積900mlおよびニッケル電極を有する、上述のConteおよびGambarettoによって記述される反応器において、エチレンカーボネート(EC)を無水HFに溶解し、EC12重量%を含有する溶液が得られる。セルは、−40℃に維持された凝縮器を備える。電圧を5.4〜5.7Vに維持する。液面計に従って、反応過程中にHFおよびECを反応器に導入した。定期的に、反応混合物から試料を採取し、分析した。
【0063】
ECおよびHFの添加を止め、ECの転化が所望のレベルに達した後に、HFの吸着剤、例えばNaFと反応混合物を接触させる。未精製有機相を固形塩から分離し、圧力下で蒸留し、純粋なテトラフルオロエチレンカーボネートが単離される。
【0064】
実施例6:アセトニトリルにおけるトランス−ジフルオロエチレンカーボネートの製造
還流冷却器に連結された250mLパーフルオロアルコキシエチレン(PFA)フラスコにおいて、トランス−4,5−ジクロロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(ジクロロエチレンカーボネート)15gを無水アセトニトリル100mLに溶解した。フッ化カリウム22gを添加した後、還流下にて混合物を18時間攪拌した。不溶性成分が濾過によって除去される前に、反応混合物を室温に冷却し、アセトニトリル20mLで濾過ケークを洗浄した。生成物(トランス−ジフルオロエチレンカーボネート、「トランス−F2EC」)を蒸留によって単離した。無色の液体(6.2g)として生成物を得た。
【0065】
実施例7:メチル−t−ブチルエーテルにおけるトランス−ジフルオロエチレンカーボネートの製造
250mL PFAフラスコ内のメチル−t−ブチルエーテル50mL中のトランス−4,5−ジクロロ−1,3−ジオキソラン−2−オン5gの溶液に、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノン−5−エン(DBN)・2.6HF 10gを添加した。室温にて48時間、激しく攪拌した後、ガスクロマトグラフィー(GC)およびガスクロマトグラフ質量分析(GCMS)によって、トランス−F2ECを証明することができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素化剤を用いたハロゲン−フッ素交換反応によって、またはエチレンカーボネートもしくはより低いフッ素化度を有するフルオロ置換エチレンカーボネート前駆物質の電気フッ素化によって、それぞれ、ジクロロエチレンカーボネート、トリクロロエチレンカーボネートまたはテトラクロロエチレンカーボネートから、ジフルオロエチレンカーボネート、トリフルオロエチレンカーボネートまたはテトラフルオロエチレンカーボネートを製造する方法。
【請求項2】
フッ素化剤を用いた塩素−フッ素交換反応によって、それぞれ、ジクロロエチレンカーボネート、トリクロロエチレンカーボネートまたはテトラクロロエチレンカーボネートから、ジフルオロエチレンカーボネート、トリフルオロエチレンカーボネートまたはテトラフルオロエチレンカーボネートを製造するための、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記フッ素化剤が、金属フッ化物、フッ化アンモニウム、フッ化水素アミン、およびそのHF付加物からなる群から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記フッ素化剤が、アルカリ金属フッ化物のHF付加物である、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記フッ素化剤が、KF・HF、CsF・HF、KF・2HFおよびCsF・2HFからなる群から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記金属フッ化物が、SbF、SbFおよびそのHF付加物からなる群から選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記フッ素化剤が、一般式RN・nHF(式中、nは1〜10であり、R、R、およびRは同一または異なり、かつH、炭素原子1〜10個を有するアルキル、フェニルまたはベンジルであり;またはR、R、およびRのうちの2つの置換基もしくは3つすべての置換基R、R、およびRが窒素原子を含む環を形成する)を有するアミンのHF付加物から選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項8】
nが1〜4である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
、R、およびRが同一または異なり、かつメチル、エチル、n−プロピルまたはイソプロピルを示す、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
前記フッ素化剤が、トリエチルアミンtris−ヒドロフルオリドである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
式RN(式中、R、R、およびRは上記の意味を有する)のアミンが同時に適用され、かつ前記アミンが、一般式RN・nHF(式中、nは1を超えることを条件として)を有するアミンのHF付加物におけるアミン基に相当する、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
添加されるアミンの量が、一般式RN・nHFを有するアミンのHF付加物におけるnのそれぞれの値の(n−1)に相当する、請求項2に記載の方法。
【請求項13】
トリクロロエチレンカーボネートまたはテトラクロロエチレンカーボネートが、エチレンカーボネート、モノクロロエチレンカーボネート、ジクロロエチレンカーボネート、またはそのいずれかの混合物を塩素と光誘起液相反応させることによって生成される、請求項2に記載の方法。
【請求項14】
トリフルオロエチレンカーボネートまたはテトラフルオロエチレンカーボネーが製造される、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
単離されたトリクロロエチレンカーボネート。

【公表番号】特表2013−508330(P2013−508330A)
【公表日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−534650(P2012−534650)
【出願日】平成22年10月18日(2010.10.18)
【国際出願番号】PCT/EP2010/065642
【国際公開番号】WO2011/048053
【国際公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(592165314)ゾルファイ フルーオル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (55)
【氏名又は名称原語表記】Solvay Fluor GmbH
【住所又は居所原語表記】Hans−Boeckler−Allee 20,D−30173 Hannover,Germany