説明

フッ素化シランを水性送達するための組成物

【課題】フッ素化シランを水性送達するための組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、基材にフッ素化シランを水性送達するために使用される希釈可能な非水性濃縮物および水性希釈液、前記水性希釈液組成物を用いて基材を処理して基材に撥油性および撥水性を付与する方法、および前記水性希釈液から製造されるコーティングを有する物品を提供する。より具体的には、(a)式(I):Rf1−[−Q−[SiY3-x1xzyの少なくとも1種のフッ素化シラン;および(b)少なくとも1種のフッ素化界面活性剤を含む希釈可能な非水性均一混合物を含む組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素化シランを基材に水性送達(aqueous delivery)することに関する。より詳しくは、本発明は、少なくとも1種のフッ素化シランおよび少なくとも1種のフッ素化界面活性剤を含む希釈可能な非水性濃縮物(concentrate)であって、それは水または水性溶媒混合物と共に使用して、基材の上にコーティングして、硬化させることが可能な、水性希釈液(dilution)を形成する。
【背景技術】
【0002】
溶融状態または揮発性有機溶媒に溶解させたフッ素化シランを基材に塗布することによって、ある種の基材に良好な撥油性および撥水性を与えることが可能である。塗布されたフッ素化シランは、触媒を共存させて加熱することによって硬化され、その基材にフッ素化シランが化学的に付着される。(たとえば、米国特許第3,012,006号明細書(ホルブルック(Holbrook)ら)参照)。しかしながら、揮発性有機溶媒を使用することは一般に環境に対して有害であり、また溶媒に可燃性があるために危険でもある。したがって、基材にフッ素化シランを塗布するための代わりの手段が開発されたが、それが水性送達を使用するものである。(たとえば、米国特許第5,274,159号明細書(ペレライト(Pellerite)ら)、米国特許第5,702,509号明細書(ペレライト(Pellerite)ら)、および米国特許第5,550,184号明細書(ホーリング(Halling))参照)。
【0003】
基材にフッ素化シランを水性送達するための公知の組成物における問題点の1つは、その貯蔵寿命が長くないということである。もう1つの問題点は、基材にコーティングする前に高剪断混合をしなければならないということである。公知の組成物は固形分含量が高く、そのために、得られるコーティングが厚くなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
基材にフッ素化シランを水性送達することは当分野においては公知であるが、次のようなフッ素化シランを水性送達するための組成物を提供することが依然として望まれている:1)比較的長い期間貯蔵が可能であり;2)高剪断混合やその他の機械的エネルギーを必要とせず;3)比較的に固形分含量が低く、そのためにガラスやその他の基材により薄くコーティングすることが容易であり;そして4)同時に、基材に塗布して硬化させれば、耐久性のあるコーティングが得られるもの。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、フッ素化シランを水性送達するための組成物を提供する。組成物の1つのタイプは希釈可能な非水性濃縮物であり、もう1つのタイプは希釈可能な非水性濃縮物と水または水性溶媒混合物を含む希釈媒体とを含む水性希釈液である。
【0006】
この希釈可能な非水性濃縮物には以下のものを含む非水性、均一混合物を含む:(a)式Iの少なくとも1種のフッ素化シラン:
f1−[−Q−[SiY3-x1xzy (I)
(ここで、Rf1は、単官能または2官能フッ素化基を表し;Qは独立して、有機の2官能または3官能結合基を表し;R1は独立して、C1〜C4アルキル基を表し;Yは独立して、加水分解性基を表し;xは0または1であり;yは1または2であり;そしてzは1または2である);および、(b)少なくとも1種のフッ素化界面活性剤。この希釈可能な非水性濃縮物には、任意に、少なくとも1種の共溶媒と少なくとも1種の添加剤との一方または両方をさらに含むことができる。
【0007】
この希釈可能な非水性濃縮物は、基材にコーティングする前に、水または水性溶媒混合物を用いて希釈しなければならない。有利なことには、この希釈可能な非水性濃縮物は、適当な貯蔵条件下では、約1日よりは長く、好ましくは約14日よりは長く、最も好ましくは約6ヶ月より長い、比較的長い貯蔵寿命を有している。この希釈可能な非水性濃縮物は、希釈した形の場合よりも、費用をかけずに出荷や貯蔵をすることができる。この希釈可能な非水性濃縮物はそれをコーティングする現場で希釈することが可能で、そのために好適なことには希釈液の選択と、その結果、塗布するコーティングの厚みに関する自由度が増す。この希釈可能な非水性濃縮物は、希釈可能な非水性濃縮物と、水または水性溶媒混合物のいずれかとの混合物を手で振盪するだけで簡単に、水または水性溶媒混合物中に分散(水性希釈液を形成)させることができる。高剪断混合や超音波混合などの機械的な処理をさらに行う必要はない。
【0008】
この水性希釈液に含まれるのは、以下のものである:(a)水および少なくとも1種の水混和性共溶媒を含む水または水性溶媒混合物を含む希釈媒体;および(b)以下のものを含む非水性、均一混合物を含む希釈可能な非水性濃縮物:(i)式Iの少なくとも1種のフッ素化シラン:
f1−[−Q−[SiY3-x1xzy (I)
(ここで、Rf1は、単官能または2官能フッ素化基を表し;Qは独立して、有機の2官能または3官能結合基を表し;R1は独立して、C1〜C4アルキル基を表し;Yは独立して、加水分解性基を表し;xは0または1であり;yは1または2であり;そしてzは1または2である);および、(ii)少なくとも1種のフッ素化界面活性剤。
【0009】
この水性希釈液を基材の上にコーティングして、耐久性コーティングを得ることができる。有利なことには、本発明の水性希釈液の固形分含量が比較的低いために、たとえば、厚みの影響を受けやすい光学的性質を有するガラスや他のケイ素質の基材の上に、薄くコーティングすることがより容易となる。本発明の水性希釈液を使用することによって、可燃性および/または環境に有害となりうる有機溶媒の使用を、排除または実質的に削減可能となる。さらにこの水性希釈液は、適当な保存条件下におけば、少なくとも数時間の貯蔵寿命を有している。
【0010】
本発明のその他の実施態様には、基材を処理する方法、および、基材と前記水性希釈液をコーティングし硬化させることにより形成されるコーティングとを含む物品、が含まれる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
希釈可能な非水性濃縮物
本発明の希釈可能な非水性濃縮物には、少なくとも1種のフッ素化シランおよび少なくとも1種のフッ素化界面活性剤を含む、非水性、均一混合物が含まれる。この希釈可能な非水性濃縮物には、任意に、少なくとも1種の共溶媒、および/または少なくとも1種の添加剤をさらに含むことができる。
【0012】
希釈可能な非水性濃縮物について述べる場合の「均一混合物」という用語は、この希釈可能な非水性濃縮物が安定、すなわち、少なくともこの希釈可能な非水性濃縮物から水性希釈液を調製するのに必要な時間の間では、実質的な沈殿や実質的な相分離が起きないものと定義されるが、しかしながら好ましくは、実際に商品とするためには、この希釈可能な濃縮物は、適当な貯蔵条件下(密閉容器、無水、室温)に置いた場合には、少なくとも約1時間、好ましくは約6ヶ月までまたはそれ以上の安定性を保つ。この希釈可能な非水性濃縮物は透明あるいは幾分かの濁りがあるものとすることができる。
【0013】
「非水性」という用語は、希釈可能な非水性濃縮物の成分として水を添加することはない、ということを意味する。しかしながら、組成物の他の成分から偶然に入ってくる水分が存在する可能性はあるが、水の合計量が、貯蔵寿命や希釈可能な非水性濃縮物の安定性に悪影響を及ぼす量ではない(すなわち、好ましくは希釈可能な非水性濃縮物の約0.1重量%未満)。
【0014】
フッ素化シラン
希釈可能な非水性濃縮物のフッ素化シランは次式で表され、
f1−[−Q−[SiY3-x1xzy (I)
ここで、Rf1は、単官能または2官能フッ素化基で、任意に1つまたは複数のエーテル酸素原子を有し、Qは独立して、有機の2官能または3官能結合基を表し、R1は独立して、C1〜C4アルキル基を表し、Yは独立して、加水分解性基を表し、xは0または1であり、yは1または2であり、そしてzは1または2である。式Iのフッ素化シランは水とは非相溶性であり(このフッ素化シランを水と実質的に組み合わせた場合に単一相ブレンド物を形成できない、ということを意味する)、また水とは非混和性である(このフッ素化シランを水と実質的に組み合わせた場合に、単一のTgまたはTmを示すような組合せまたはブレンド物が得られない、ということを意味する)。
【0015】
単官能または2官能フッ素化基のRf1には、直鎖状、分岐状および/または環状構造が含まれ、それらは飽和であっても不飽和であってもよい。それがペルフルオロ化基(すなわち、すべてのC−H結合がC−F結合に置換されている)であるのが好ましい。しかしながら、フッ素に代えて水素または塩素が置換基として存在していてもよいが、ただし、それぞれ2つの炭素原子あたり、それらのいずれかが1つを超えて存在することなく、また、水素および/または塩素が存在するならば、Rf1基が、少なくとも1つのペルフルオロメチル基末端となっているのが好ましい。
【0016】
1つの実施態様において、Rf1には単官能および/または2官能ペルフルオロポリエーテルを含むが、それには、−(Cn2n)−、−(Cn2nO)−、−(CF(Z))−、(CF(Z)O)−、−(CF(Z)Cn2nO)−、−(Cn2nCF(Z)O)−、およびそれらの組合せからなる群より選択されるペルフルオロ化繰り返し単位が含まれる。これらの繰り返し単位の中で、Zは、フッ素原子、ペルフルオロアルキル基、酸素置換ペルフルオロアルキル基、ペルフルオロアルコキシ基、または酸素置換ペルフルオロアルコキシ基であって、それらはすべて直鎖状、分岐状または環状であってよく、また約1〜約9個の炭素原子および0〜約4個の酸素原子を有しているのが好ましい。繰り返し単位からできているポリマー部分を含むペルフルオロポリエーテルの例は、米国特許第6,277,485号明細書(インビー(Invie)ら)に開示されている(その特許を参考として引用し本明細書に組み入れる)。単官能のペルフルオロポリエーテル基では、その末端基が、(Cn2n+1)−、(Cn2n+1O)−または(X’Cn2nO)−であってよく、ここでX’はたとえば、H、ClまたはBrである。これらの末端基がペルフルオロ化されているのが好ましい。これらの繰り返し単位または末端基においては、nは1〜6、好ましくは1〜3である。
【0017】
2官能のペルフルオロポリエーテル基の近似平均(approximate average)構造として好ましいものとしては、−CF2O(CF2O)m(C24O)pCF2−;−CF(CF3)(OCF2CF(CF3))mO(Cn2n)O(CF(CF3)CF2O)pCF(CF3)− (nは2〜4の範囲);−CF2O(C24O)pCF2−;
および−(CF23O(C48O)p(CF23−などが挙げられるが、ここで、mおよびpの平均値は0〜50の範囲であるが、ただしmとpが同時にゼロになることはない。これらの内で、特に好ましい近似平均構造は、−CF2O(CF2O)m(C24O)pCF2−、−CF2O(C24O)pCF2−、および−CF(CF3)(OCF2CF(CF3))mO(Cn2n)O(CF(CF3)CF2O)pCF(CF3)−で、ここでnは2〜4の範囲であり、そしてm+pの平均値は、約4〜約20である。
【0018】
単官能のペルフルオロポリエーテル基の近似平均構造で特に好ましいものとしては、C37O(CF(CF3)CF2O)pCF(CF3)−およびCF3O(C24O)pCF2−が挙げられるが、ここで、pの平均値は4〜50である。合成したままでは、これらの化合物は典型的には、オリゴマーおよび/またはポリマーの分布を含んでいるので、pおよびmは整数でなくてもよい。近似平均構造とは、この分布の近似平均である。
【0019】
これらの分布の中には、その合成に使用した方法によっては、官能基を有さないペルフルオロ化鎖(不活性流体)、または2つを超える末端基有するペルフルオロ化鎖(分岐構造)が含まれていてもよい。典型的には、約10重量%未満の官能基非含有化合物(たとえばシラン基を含まないもの)を含む分布なら使用することができる。
【0020】
本明細書の全体にわたって、分布(m、nおよびp)に言及する場合、たとえば「pの平均値」という表現は、「pのための平均値」、「数平均p」、および符合の「pavg」および「pav」と同義に使用することができる。上述のように、分布に関して別な表現をとっても、同じことを意味している。
【0021】
また別の実施態様においては、Rf1にはそれぞれCn2n+1−および−Cn2n−(ここでnは3〜20、好ましくは4〜10)の式で表される、単官能および2官能のペルフルオロアルキルおよびペルフルオロアルキレン基が含まれる。これらの基は、直鎖状、分岐状またはそれらの混合したものであってもよい。
【0022】
好適な結合基、Qとしては、2官能または3官能の有機結合基が挙げられ、任意にヘテロ原子(たとえば、硫黄、酸素、窒素など)および/または官能基(たとえば、アミド、エステル、スルホンアミド、カーボネートなど)を含んでいてもよい。
【0023】
Qの基の例をあげれば、これらに限定されるわけではないが、2官能の基では、−C(O)NH(Ck2k)−、−SO2NR(Ck2k)−、−(Ck2k)−、−CH2O(Ck2k)−、−C(O)S(Ck2k)−、および−CH2OC(O)N(R)(Ck2k)−(ここで、Rは水素またはC1〜C4アルキル基、そしてここでkは2〜25);および下記の3官能基などがある。
【0024】
【化1】

【0025】
好適な結合基(Q)の例を挙げれば、Rf1がペルフルオロポリエーテルの場合には、−C(O)NH(CH23−、−CH2O(CH23−、および−CH2OC(O)N(R)(CH23−などが挙げられる。Rf1がペルフルオロアルキルまたはペルフルオロアルキレンの場合には、その他の好適な結合基(Q)としては、−SO2NR(Ck2k)−、−Ck2k−(ここでkは、2以上)、および−CH2O(CH23−などが挙げられる。
【0026】
Yは独立して、式I中の加水分解性基を表す。加水分解性基の具体的な好ましい例を挙げれば、メトキシ基、エトキシ基、任意に1つのエーテル酸素を含むC3〜C6アルコキシ基、およびそれらの混合物などがある。フッ素化シランの中に2つ以上のタイプのYが存在する場合には、それぞれのYが加水分解性基であるが、必ずしもそれらが同一の加水分解性基である必要はない。
【0027】
1は独立して、C1〜C4アルキル基を表す。好適なアルキル基の例としては、メチル基およびエチル基がある。
【0028】
式Iのフッ素化シランは通常、少なくとも約300グラム/モル、好ましくは少なくとも約500グラム/モル、最も好ましくは少なくとも約1000グラム/モルから3000グラム/モルの間、の分子量(数平均)を有する。
【0029】
式Iに関しては、フッ素化シランとして好ましい基としては以下のものを含む:
f1としては:
(a)−CF(CF3)(OCF2CF(CF3))mO(Cn2n)O(CF(CF3)CF2O)pCF(CF3)−、ここで、mおよびpの平均値は1〜20であり、m+p20、より好ましくはm+p=約4〜約12、そしてnは1〜4の範囲;または
(b)−CF2O(CF2O)m(CF2CF2O)pCF2−、ここで、m+pの平均値は16〜24;
(c)C37O(CF(CF3)CF2O)pCF(CF3)−、ここでpの平均値は4〜15;
(d)CF3O(CF2CF2O)pCF2−、ここでpの平均値は5〜20;または
(e)CF3CF2CF2O(CF2CF2CF2O)n−、ここで、navg=1〜20である。
【0030】
Qは独立して、有機の2官能または3官能結合基であって、任意にヘテロ原子または官能基を含んでいても良く;
1は独立して、C1〜C4アルキル基であり;
Yは独立して、メトキシ基、エトキシ基、任意に1つのエーテル酸素を含むC3〜C6アルコキシ基、およびそれらの混合物からなる群より選択され;
xは0または1であり;
yは1または2であり;そして
zは1または2である。
【0031】
f1がペルフルオロアルキルまたはペルフルオロアルキレン基の場合、Rf1は直鎖状、分岐状または環状構造であってよく、またそれらが飽和であっても不飽和であってもよい。Rf1は、ペルフルオロアルキル基ならば式−Ck’2k’+1、またはペルフルオロアルキレン基ならば式−Ck’2k’−で表すことができるが、ここでk’は、約3〜約20、より好ましくは約6〜約12、最も好ましくは約7〜約10である。式Iに関しては、2官能または3官能のQ基は、直鎖状、分岐状または環状構造であってよく、またそれらが飽和であっても不飽和であってもよい。
【0032】
典型的には、好適なフッ素化シランには異性体の混合物(たとえば、直鎖状および分岐状のペルフルオロアルキル基を含む化合物の混合物)が含まれる。k’の値が異なるフッ素化シランの混合物を使用することも可能である。
【0033】
好適なフッ素化ペルフルオロアルキルシランの例を、これらに限定されるわけではないが、以下に挙げれば:C715CH2OCH2CH2CH2Si(OCH33;C715CH2OCH2CH2CH2Si(CH3)(OCH32;C715CH2OCH2CH2CH2Si(OC253;C817SO2N(Et)CH2CH2CH2Si(OCH33;C49SO2N(Me)CH2CH2CH2Si(OCH33;C817CH2CH2Si(OCH33;C37CH2OCH2CH2CH2Si(OCH33;C613CH2CH2Si(OCH2CH33;およびC817CH2CH2Si(OCH2CH33などがある。これらのフッ素化ペルフルオロアルキルシランの混合物も、所望により使用することができる。
【0034】
式Iのフッ素化シランは、標準的な方法により合成することができる。たとえば、米国特許第3,810,874号明細書(ミッチ(Mitsch)ら)および米国特許第3,646,085号明細書(バートレット(Bartlett))記載の教示に従って、市販されているかまたは容易に合成できるペルフルオロポリエーテルエステルを、3−アミノプロピルトリシランのような官能性シランと組み合わせることができる(これらの特許を参考として引用し本明細書に組み入れる)。それらの原料は、希釈可能な非水性濃縮物で使用する前に、精製を行っても、未精製でもよい。
【0035】
フッ素化シランは一般に、希釈可能な非水性濃縮物組成物中に、希釈可能な非水性濃縮物の約10重量%〜約80重量%、好ましくは約20重量%〜約75重量%、最も好ましくは約25重量%〜約50重量%の量で含まれる。
【0036】
フッ素化界面活性剤
界面活性剤とは、「系中に低濃度で存在する場合に、系の表面または界面の上に吸着し、これらの物質の表面または界面の自由エネルギーを著しく変化させる性質を有する物質」と定義される。(ミルトン・J・ローゼン(Milton J. Rosen)、「サーファクタンツ・アンド・インターフェーシャル・フェノメナ(Surfacants and Interfacial Phenomena)」第2版(ジョン・ワイリー・アンド・サンズ(John Wiley & Sons)、ニューヨーク州ニューヨーク(New York、NY))、1989年、p.1)。それらの界面活性剤は、「溶媒に対して非常に親和性の弱い構造基、すなわち疎液性基と、溶媒に対して非常に親和性の強い構造基、すなわち親液性基からなる、特徴的な分子構造」を有する。(ミルトン・J・ローゼン(Milton J. Rosen)、「サーファクタンツ・アンド・インターフェーシャル・フェノメナ(Surfacants and Interfacial Phenomena)」第2版(ジョン・ワイリー・アンド・サンズ(John Wiley & Sons)、ニューヨーク州ニューヨーク(New York、NY))、1989年)、p.3〜4)。この溶媒が水系である場合には、その疎液性基は典型的にはアルキルまたはフッ素化アルキルのような非極性基であり、それに対して親液性基は極性基である。
【0037】
「フッ素化界面活性剤」という用語で使用するような場合)「フッ素化」という用語は、アルキル部分の水素原子の、少なくとも約75パーセント、好ましくは少なくとも約85パーセント、より好ましくは少なくとも約95パーセントがフッ素原子によって置換されているものを指す。任意に、残っている水素原子を他のハロゲン原子、たとえば塩素原子によって置換することもできる。
【0038】
フッ素化界面活性剤は、エマルション(すなわち、1つの液相の液滴が、もう1つの液相の中に分散されている)を安定化する作用を有し、また、その希釈可能な非水性濃縮物のフッ素化シラン(類)と有機共溶媒(類)(1種または複数の有機共溶媒(類)が存在するならば)の溶解性または相溶性を促進させることができる。
【0039】
本発明において有用なフッ素化界面活性剤は両親媒性の物質で、1つまたは複数の疎水性のフルオロケミカルセグメントと、1つまたは複数の可溶化および親水性セグメントとを含んでいる。そのような物質については、E・キッサ(E. Kissa)編「フルオリネーテッド・サーファクタンツ・アンド・リペレンツ(Fluorinated Surfactants and Repellents)」第2版(サーファクタント・サイエンス・シリーズ(Surfactant Science Series)第97巻(マーセル・デッカー・インコーポレーテッド(Marcel Dekker, Inc.)、ニューヨーク(New York))、2001年、p.1〜21)に記載されている。このフッ素化界面活性剤は、少なくとも10重量%のフッ素含量を有している。これらのフッ素化界面活性剤は、モノマー性であってもポリマー性であってもよいが、その分子量は、約300〜約100,000グラム/モル、好ましくは約400〜約20,000グラム/モルである。疎水性のフルオロケミカル基は、たとえば、約3〜約20の炭素原子を含むペルフルオロアルキルであるか、または、分子量約300〜約10,000グラム/モルの1価または2価のペルフルオロポリエーテル基とすることができる。フッ素化界面活性剤上の親水性基は、アニオン性(たとえばカルボキシレート)、カチオン性(たとえば4級アンモニウム)、ノニオン性(たとえばオリゴ(オキシエチレン))または両性(たとえばアミンオキシド)であってよいが、ただし、本発明の濃縮物に不安定さをもたらすような官能基、たとえば強酸の基、強塩基の基、またはフッ素イオンによる汚染などがあってはならない。
【0040】
代表的なフッ素化界面活性剤の例を挙げれば、これらに限定されるわけではないが、以下のようなものがある:
715CO2-NH4+
817SO2N(C25)(C24O)7CH3
817(C24O)10
(C49SO22-NH4+
49SO2N(CH3)(C24O)nCH3(ここで、navg〜7)
37O(CF(CF3)CF2O)nCF(CF3)CO2-NH4+(ここで、navg〜13)。
【0041】
本発明のこれらおよびその他のフッ素化界面活性剤の例は、たとえば、米国特許第3,772,195号明細書(フランセン(Francen))、同第4,090,967号明細書(フォーク(Falk))、同第4,099,574号明細書(クーパー(Cooper)ら)、同第4,242,516号明細書(ミューラー(Mueller))、同第4,359,096号明細書(ベルガー(Berger))、同第4,383,929号明細書(ベルトッキオ(Bertocchio)ら)、同第4,472,286号明細書(フォーク(Falk))、同第4,536,298号明細書(カメイ(Kamei)ら)、同第4,795,764号明細書(アルム(Alm)ら)、同第4,983,769号明細書(ベルトッキオ(Bertocchio)ら)、および同第5,085,786号明細書(アルム(Alm)ら)、などに記載されている(これらの特許を参考として引用し本明細書に組み入れる)。これらのフッ素化界面活性剤の多くは、ミネソタ州セントポール(St. Paul、MN)のミネソタ・マイニング・アンド・マニュファクチャリング・カンパニー(Minnesota Mining and Manufacturing Company)からの商品名フルオラッド(FLUORAD)(商標)、またはデラウェア州ウィルミントン(Wilmington、DE)のイー・アイ・デュポン・ドゥ・ヌムール・アンド・カンパニー(E.I. DuPont de Nemours and Co.)から商品名ゾニル(ZONYL)(商標)として市販されている。
【0042】
ポリマー性のフッ素化界面活性剤もまた、本発明において使用できる。本発明において使用可能なポリマー性のフッ素化界面活性剤の例は、米国特許第3,787,351号明細書(オルソン(Olson))、米国特許第4,668,406号明細書(チャン(Chang))、および国際公開第01/30873号パンフレットに見出すことができる(これらの特許を参考として引用し本明細書に組み入れる)。
【0043】
使用可能なポリマー性のフッ素化界面活性剤の例としては、ランダムコポリマーフッ素化界面活性剤を挙げることができる。ランダムコポリマーフッ素化界面活性剤の例には、次式のものも含まれる:
【0044】
【化2】

【0045】
ここで、a:b:cのモル比は、約30:約1:約32であり、そしてここで、この界面活性剤の分子量は、約1,000〜約4,000グラム/モルであり;そして
【0046】
【化3】

【0047】
ここで、a’:b’:c’のモル比は約3:約3:約1であり、そしてここで、この界面活性剤の分子量は、約5,000〜約40,000グラム/モルである。
【0048】
フッ素化界面活性剤は一般に、希釈可能な非水性濃縮物中に、希釈可能な非水性濃縮物の約50重量%まで、好ましくは約30重量%まで、最も好ましくは約15重量%までの量で含まれる。
【0049】
任意成分の有機共溶媒
本発明の希釈可能な非水性濃縮物には、任意に1種または複数の有機共溶媒を含んでいてもよい。有機共溶媒は、有機の液状成分であって、界面活性剤(類)とフッ素化シラン(類)が有機共溶媒無しでは相溶しない場合には、それらに相溶性を与えると共に、希釈可能な非水性濃縮物の粘度を低下させる。
【0050】
好適な有機共溶媒は、有機溶媒または複数の有機溶媒の混合物であって、その例を挙げれば、これらに限定されるわけではないが、脂肪族アルコール類たとえば、メタノール、エタノール、およびイソプロピルアルコール;ケトン類たとえば、アセトンまたはメチルエチルケトン;エステル類たとえば、酢酸エチルまたはギ酸メチル;エーテル類たとえば、ジイソプロピルエーテル、1,4−ジオキサン、およびジエチレングリコールジメチルエーテル;ならびにアミド類たとえば、N−メチルピロリジノン、およびN,N−ジメチルホルムアミドなどがある。フッ素化有機溶媒たとえば、ヘプタフルオロブタノール、トリフルオロエタノールおよびヘキサフルオロイソプロパノールは、単独で、または非フッ素化有機共溶媒と組み合わせて使用することができる。
【0051】
好適な有機共溶媒は脂肪族アルコール類である。好適な脂肪族アルコール類の例をいくつか挙げれば、エタノール、メタノールおよびイソプロピルアルコールなどがある。その他の例としては、ドワノール(DOWANOL)(商標)PnP(ウィスコンシン州ミルウォーキー(Milwaukee、WI)のシグマ・アルドリッチ(Sigma−Aldrich)から入手可能)およびドワノール(DOWANOL)(商標)PM(シグマ・アルドリッチ(Sigma−Aldrich)から入手可能)などが挙げられる。
【0052】
この有機共溶媒は水と混和性であるのが好ましい。さらにこの有機共溶媒は、200℃未満の沸点を有しているのが好ましい。
【0053】
有機共溶媒を使用するならば、希釈可能な非水性濃縮物中に、希釈可能な非水性濃縮物の約75重量%まで、好ましくは約50重量%までの量でそれを通常存在させる。
【0054】
任意成分の添加剤
この希釈可能な非水性濃縮物には、1種または複数の任意成分の添加剤を含むことができる。
【0055】
任意成分の添加剤のいくつかの例としては、希釈可能な非水性濃縮物を希釈して基材の上にコーティングした場合に、その硬化および/または架橋に役立つ触媒がある。硬化用の添加剤は、硬化を促進させる必要が生じた場合に添加すればよい。そのような硬化用の添加剤は、酸前駆体の形態をとることもでき、それは、加熱、紫外線露光、可視光線露光、電子ビーム照射、または高周波照射などによって酸を放出する。酸前駆体に含まれるものとしては、たとえば、スルホニウムおよびヨードニウム塩や、アルカン−またはフルオロアルカンスルホン酸のアルキルエステルなどがあり、それらは、米国特許第6,204,350号明細書(リウ(Liu)ら)に記載されている。
【0056】
ある種の添加剤、たとえば、酸たとえば、ペルフルオロカルボン酸、アルキルスルホン酸、アリールスルホン酸、ペルフルオロアルキルスルホン酸などのアンモニウム塩や、ペルフルオロアルキルスルホンイミドなどは、潜在的または加熱によって活性化される硬化用添加剤として機能すると同時に、界面活性剤としても機能することができる。したがって、この希釈可能な非水性濃縮物には、これらの二重機能性界面活性剤の1種を含ませておいて、別個の触媒を必要としないようにすることもできる。
【0057】
その他使用可能な任意の添加剤としては、これらに限定されるわけではないが、炭化水素系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、抗菌剤、紫外線吸収剤、炭化水素系シラン、および無機物質たとえばシリカやチタニアのミクロン粒子またはナノ粒子などを挙げることができる。
【0058】
任意成分である1種または複数の添加剤は、希釈可能な非水性濃縮物中に、希釈可能な非水性濃縮物の約50重量%まで、より好ましくは約5重量%までの量で存在させることができる。
【0059】
この希釈可能な非水性濃縮物調製するには、それらの成分をどのような順序で組み合わせてもよいし、また当業者公知のどのような方法を使用してもよい。少なくとも1種のフッ素化シラン、少なくとも1種のフッ素化界面活性剤および少なくとも1種の共溶媒を含む実施態様においては、界面活性剤(類)と有機共溶媒(類)を最初に混合し、次いでその混合物にフッ素化シラン(類)を添加するのが好ましい。
【0060】
各成分を混合した直後には、希釈可能な非水性濃縮物が均一にならなくても、その濃縮物は時間が経過すれば均一となる可能性はある。しかしながら、均一化を促進させるために、希釈可能な非水性濃縮物を加温してもよい。
【0061】
製造その他を容易にするために、この希釈可能な非水性濃縮物は典型的には、使用直前に希釈媒体で希釈する(または典型的には水性希釈液組成物を調製する)。
【0062】
本発明の希釈可能な非水性濃縮物においては、強酸(すなわち、スルホン酸、鉱酸、リン酸およびペルフルオロ化酸)およびフッ素イオンなどの化学種のようなある種の化学的官能性を有するものが、対応する水性希釈液および/または希釈可能な非水性濃縮物そのものに不安定性を与えるようならば、それらの存在は避けるようにするのが好ましい。
【0063】
水性希釈液
本発明のまた別の実施態様は水性希釈液であって、それに含まれるのは:上述の希釈可能な非水性濃縮物と、水と水混和性共溶媒を含む水または水性溶媒混合物と、を含む希釈媒体である。この水性希釈液にはさらに任意の添加剤が含まれていてもよい。
【0064】
希釈媒体
水性希釈液の希釈媒体には、水または水性溶媒混合物が含まれる。その水性溶媒混合物には水と水混和性共溶媒とを含む。
【0065】
水混和性共溶媒の例としては、これらに限定されるわけではないが、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ドワノール(DOWANOL)(商標)PM、およびN−メチルピロリジノンなどが挙げられる。
【0066】
(水性溶媒混合物を使用するならば)水性希釈液の中に含まれる水混和性共溶媒の量は、その水性希釈液をコーティングするために使用されるコーティング方法に依存すると共に、得られるコーティングした基材に必要とされる性能特性にも依存する。
【0067】
任意成分の添加剤
水性希釈液には、任意に、少なくとも1種の添加剤をさらに含むことができる。いくつかの添加剤の例は先に説明した。水性希釈液の任意の添加剤(類)は、希釈可能な非水性濃縮物中の添加剤(類)に追加する形となってもよい。希釈可能な非水性濃縮物のところでも説明したように、水性希釈液の安定性に悪影響を及ぼすような添加剤は避けるのが好ましい。そのような添加剤には、強酸性の化学種およびフッ素イオンなどが含まれる。水性希釈液のpHは、約2〜約11の範囲、最も好ましくは約4〜約8である。
【0068】
この水性希釈液は、まず希釈可能な非水性濃縮物の各成分を合わせてから、その希釈可能な非水性濃縮物を希釈媒体に添加する。しかしながら、この水性希釈液は希釈媒体を希釈可能な非水性濃縮物に添加することにより調製するのが好ましい。
【0069】
水性希釈液中における希釈可能な非水性濃縮物の典型的な量は、水性希釈液の約0.05重量%〜約10重量%、好ましくは約0.1重量%〜約2重量%である。この水性希釈液は透明な溶液であっても、ある程度濁りのある溶液であってもよい。
【0070】
任意成分の1種または複数の添加剤は、希釈可能な非水性濃縮物を希釈した後で、水性希釈液に添加することができる。好適な任意成分の添加剤の1つは、先にも述べたような硬化用の添加剤であって、水性希釈液に、水性希釈液の約3重量%までの量で添加することができる。
【0071】
この水性希釈液は一般に、基材(基材については、以下において、方法に関連させて詳細に述べる)に対して、撥水性および撥油性のコーティングが生成するのに充分な量で塗布する。このコーティングは極端に薄く、たとえば、約1〜約2ナノメートルの厚みとすることもできるが、実際には、コーティングをもっと厚く、たとえば厚み約50ナノメートルまでとしてもよい。
【0072】
別な方法として、基材をまず水性希釈液を用いて処理し、その後で酸を使用した処理によりシランの硬化を促進させることもできる。この酸はニートで塗布することもできるが、水溶液または有機溶媒溶液として塗布するのが好ましい。
【0073】
本発明の水性希釈液は好都合なことには、基材全体の上に広がりやすいので、処理する基材の面全体にわたって均一な性能を得ることができる。それに加えて、水性希釈をするために、揮発性有機化合物(VOC)の使用を最小限にするかまたは使用せずにすますことができ、それによって、汚染や、有害の可能性がありまた引火性のある溶媒蒸気への暴露を減らすことが可能となる。
【0074】
方法
本発明はさらに基材を処理するための方法も提供し、それには、先に説明したような本発明の水性希釈液を基材に塗布する工程と、水性希釈液を硬化させて処理した基材を形成させる工程とが含まれる。
【0075】
本発明の水性希釈液を用いて処理することが可能な好適な基材としては、これに限定されるわけではないが、硬い表面を有し、好ましくは、たとえばケイ素質の基材にある−OH基のような、シランと反応することができる官能基を有する、基材が挙げられる。基材の表面のそのような反応性は、−OHのような活性水素原子を有する官能基によって与えられているのが好ましい。そのような活性水素原子が存在しない場合には、その基材をまず酸素を含むプラズマ中か、コロナ雰囲気中で処理して、フッ素化シランに対する反応性を付与することもできる。
【0076】
基材を処理することによって、その処理表面の汚れに対する保持力を低下させ、その処理表面の持つ撥油性および撥水性のために、より容易に清浄化することができるようになる。これらの望ましい性質は、長期間の暴露や使用、さらには清浄化を繰り返しても保持されるが、それはこの処理表面が高い耐久性を有しているためである。
【0077】
好ましくは、本発明の水性希釈液を塗布する前に基材を清浄化して、最高の特性、特に耐久性が得られるようにする。すなわち、コーティングする前に、コーティングする表面から有機汚染物を実質的に無くしておくのが好ましい。清浄化のための方法は、基材のタイプによって異なるが、たとえば、アセトンやエタノールのような有機溶媒を使用した溶媒洗浄工程や、あるいは、エアープラズマまたはUV/オゾンのような反応性気相処理に暴露する工程などが挙げられる。
【0078】
有用な基材を挙げれば、これらに限定されるわけではないが、布地、衣類、皮革、紙、ボール紙、カーペット、セラミックス、化粧セラミックス、磁器、板ガラス、中空ガラス、金属(たとえばアルミニウム、鉄、ステンレススチール、銅など)、金属酸化物、天然および人造石材、熱可塑性物質(たとえば、ポリ(メタ)アクリレート、ポリカーボネート、ビニル、ポリスチレン、スチレンコポリマーたとえばスチレン/アクリロニトリルコポリマー、およびポリエステルたとえばポリエチレンテレフタレート)、ペイント(たとえばアクリル樹脂系のもの)、粉体コーティング(たとえばポリウレタン、エポキシ、またはハイブリッド粉体コーティング)、および木材などである。
【0079】
好適な基材としては、金属ならびに、セラミックス、化粧セラミックス、ガラス、コンクリート、モルタル、グラウトならびに天然および人造石材などのケイ素質の基材を挙げることができる。特に好ましい基材としては、化粧セラミックスおよびガラスが挙げられる。少なくとも1種の基材を含む各種の物品を、本発明の水性希釈液を用いて処理することによって、その上に撥水性および撥油性のコーティングを与えることができる。例を挙げれば、化粧セラミックスタイル、琺瑯引きの浴槽または洗面台、ガラス製シャワーパネル、建築用ガラス、自動車の各種部品(たとえばミラーやフロントガラス)、および化粧セラミックスまたは釉薬付き陶器類などである。
【0080】
また別の特に好ましい基材には、その上に反射防止(AR)膜を有する基材がある。ガラスまたはプラスチック製の基材の上に金属酸化物薄膜を真空スパッタリングすることにより製造される反射防止(AR)膜は、電子機器のディスプレイデバイスには特に有用である。そのような金属酸化物膜は、比較的多孔質で、粒子のクラスターからなり、比較的粗い形状となっている。AR膜は、まぶしさや反射を抑制するのに役立つ。AR膜が導電性であれば、それらは静電放電や電磁放射を抑制するのにも役立つ。したがって、AR膜に一次塗布(primary application)することによって、コントラストの増強と反射防止性を付与し、たとえばコンピュータのモニターのようなディスプレイデバイスの可読性を改善することができる。AR膜については米国特許第5,851,674号明細書(ペレライト(Pellerite)ら)に記載がある(この特許を参考として引用し本明細書に組み入れる)。
【0081】
スパッターした金属酸化物反射防止膜は一般に耐久性があり、均一である。さらにそれらの光学的な性質は調節することが可能で、そのため非常に望ましいものとなっている。それらはさらに、非常に高い表面エネルギーと屈折率を有している。しかしながら、スパッターした金属酸化物の表面が高い表面エネルギーを有しているために、有機系不純物(たとえばスキンオイルなど)による汚染を受けやすくなっている。表面に汚染物質が存在すると、金属酸化物コーティングの反射防止性能の低下の大きな原因となる。さらに、屈折率が高いために、表面が汚染されると使用者はすぐに気づく。本発明の方法は、反射防止膜の上に保護コーティングを与えるもので、比較的耐久性があり、反射防止膜そのものよりも汚染に対する抵抗性があり、またより容易に清浄化することができる。
【0082】
好ましくは、反射防止物品上で水性希釈液を乾燥させたコーティング(「ドライ・ダウン・コーティング」)の全体のコーティング厚みは、(典型的には、約1.5ナノメートル(nm)よりも厚い)単分子膜よりは厚い。すなわち好ましくは、水性希釈液からのコーティングの厚みは、AR膜を有する物品の汚れを防止する目的では、少なくとも約2.0nm、より好ましくは、少なくとも約3.0nmである。厚みが約10.0nmより薄いのが好ましく、約5.0nmより薄ければより好ましい。この水性希釈液によるコーティングは典型的には、その反射防止物品の反射防止特性に実質的に変化を与えないような量で存在させる。
【0083】
この水性希釈液を基材に塗布するための方法を挙げてみれば、これらに限定されるわけではないが、スプレーコーティング法、スピンコーティング法、浸漬コーティング法、フローコーティング法、およびロールコーティング法などがある。水性希釈液を塗布する好適なコーティング方法としてはスプレー塗布が挙げられる。スプレーでは、加圧した水性希釈液を適切なジェット、ノズルまたはオリフィスを通過させて、液流(stream)または噴霧ミストの形で基材の表面に到達させることができる。
【0084】
コーティングする基材は典型的には、その水性希釈液に室温(典型的には約20℃〜約25℃)で接触させることができる。あるいは、予備加熱してたとえば60℃〜150℃の間の温度とした基材に、水性希釈液を塗布することも可能である。これは、たとえばセラミックタイルを、その生産ラインの最後で焼成炉から出た直後に処理することが可能となるような場合には、工業生産の面で特に関心をもたれることである。塗布した後で、その処理を行った基材を、常温または昇温下で乾燥または硬化させるのに充分な時間をかけて、乾燥、硬化させることができる。
【0085】
基材の上に生成したコーティングは、UV照射または加熱によって硬化させることができる。UV硬化では、硬化用の添加剤(たとえば先に説明した任意成分の添加剤)を加えてもよい。加熱硬化は、約40〜約300℃の昇温下で実施するが、必ず昇温しなければならないということではない。硬化に必要な熱を供給するには、硬化のための熱を蓄えるだけの充分な熱容量を有する基材を最初に予備加熱しておいてもよいし、あるいは、コーティングした後にそのコーティングした基材を外部熱源を用いて加熱してもよい。
【0086】
物品
本発明のまた別の実施態様は、以下のものをふくむ物品である:(a)基材(先に説明したようなもの);および、(b)前記基材の上に水性希釈液(上述)を塗布し、前記水性希釈液を硬化させることによって得られる、前記基材の上のコーティング。
【実施例】
【0087】
本発明を以下の実施例によりさらに説明するが、ただし、それらの実施例の中に記載される特定の物質およびそれらの量、さらにはその他の条件および詳細は、本発明を不当に限定するものと考えてはならない。
【0088】
【表1】

【0089】
【表2】

【0090】
【表3】

【0091】
試験方法
摩耗/スクラブ試験(scrub test)
コーティングの耐久性をポール・ガートナー(PAUL GARDNER)(商標)モデル16VFI直線式摩耗試験器(linear abrader)(フロリダ州ポンパノビーチ(Pompano Beach、FL)のポール・N・ガードナー・カンパニー(Paul N. Gardner Co.)製)を使用して試験した。その上に硬化させた水性希釈液の相を有するそれぞれのスライドを、ソフト・スクラブ(SOFT SCRUB)(商標)、カリフォルニア州オークランド(Oakland、CA)のクロロックス・カンパニー(Clorox Co.)製)の穏やかな摩耗性を有し多目的硬質表面クレンザーに浸漬させたポール・ガードナー(PAUL GARDNER)(商標)WA−2225摩耗ボートを、3M(商標)ハイ・パフォーマンス(HIGH PERFORMANCE)(商標)ワイプ(ミネソタ州セントポール(St. Paul、MN)のミネソタ・マイニング・アンド・マニュファクチャリング(Minnesota Mining and Manufacturing)から入手可能)で覆って、100、250、および500回のスクラブを行った。
【0092】
ペン試験
汚れ防止特性を、黒色パーマネント・マーキングペンからのインキを塗布することにより実証したが、このペンは、イリノイ州ベルウッド(Bellwood、IL)のサンフォード・カンパニー(Sanford Co.)からシャーピー(SHARPIE)(商標)の商品名で入手可能なものである。「合格」とは、インキが球状になって独立した小さな液滴となり、ジョージア州ロズウェル(Roswell、GA)のキンバリー・クラーク(Kimberly Clark)からキムワイプ(KIMWIPE)(商標)の商品名で入手可能な、乾燥したティッシューで拭き取ることが可能で、微量の残分も残らず、基材の光学的性質に全く変化がないことを示している。「ぎりぎりの合格」とは、インキを付けた領域で部分的または全く球状化が認められず、そしてそのインキは除去することが可能ではあるが、そのためには、乾燥したキムワイプ(KIMWIPE)(商標)を用いて摩耗領域をこするときに、余計な力を加える必要があったことを意味している。「不合格」とは、インキが基材を濡らしてしまい、摩耗領域を乾燥したキムワイプ(KIMWIPE)(商標)でこすっても除去することが不可能であったことを示している。したがって、不合格となった試料は、このパーマネントインキを完全に受け入れるものである。このインキ試験の1「サイクル」とは、インキの付着とぬぐい取り(インキ/乾燥ワイプサイクル)を含めたものである。
【0093】
接触角の測定
静的接触角は、水とヘキサデカンの両方について、クルス(KRUSS)(商標)G120/G140MKIゴニオメーター(ノースカロライナ州シャーロット(Charlotte、NC)のクルス・USA(Kruss USA)製)を使用して測定した。特に断らない限り、接触角は、摩耗の前(初期)と摩耗の直後(摩耗)に測定した。数値は4回の測定の平均値で、報告している単位は度である。接触角の測定可能な最小値は20である。数値が<20となっているものは、液が表面上に広がったことを意味している。前進および後退接触角は、VCA−2500XEビデオ接触角分析器(マサチューセッツ州ビルリカ(Billerica、MA)のAST・プロダクツ(AST Products)製)を使用して測定した。接触角の値が大きいほど、撥水・撥油性が良好なことを表している。
【0094】
コーティング方法
コーティングは、フローコート法、ディップコート法、スプレーコート法またはスピンコート法のいずれかを用いて実施した。
【0095】
フローコート法:
試験対象の水性希釈液それぞれの数ミリリットルを、プラスチックピペットを使用して、予め洗浄した顕微鏡ガラススライドの表面に流した。次いでこのガラススライドを120℃の炉で30分かけて熱硬化させた。
【0096】
ディップコート法:
手製の(locally constructed)ディップコート機を使用して、試験対象の各種の水性混合物を、顕微鏡スライドにディップコーティングした。それぞれのスライドを溶液中に浸漬し、5秒間その状態を保持した。次いでそれらのスライドを溶液から、約10cm/分の速度で抜き出した。これらコーティングしたスライドを、120℃で30分または室温で16時間かけて硬化させてから、試験にかけた。
【0097】
スプレーコート法:
第1工程として、基材を洗浄し、アセトンを用いて脱脂した。洗浄後、それぞれの実施例に記載する水性希釈液を、スプレー塗布速度約20mL/分で、基材に塗布した。それらの基材は、コーティングの前には室温に維持した。別な方法では、それらの基材を予備加熱してから、コーティングした。コーティングしたサンプルは、室温または、強制循環空気炉で120℃で30分かけて乾燥させた。次いで、乾燥したペーパークロスを用いて余分な生成物を磨き落とした。
【0098】
スピンコート法:
スピンコーティングは、ミズーリ州ローラ(Rolla、MO)のブリューワー・サイエンス(Brewer Science)から入手可能なCEE(商標)モデル100スピナー(300rpmで5秒、次いで2000rpmで15秒)を用いて実施した。
【0099】
ペルフルオロブタンスルホン酸アンモニウム(PBS−NH4)の調製:
3Lの3つ口丸底フラスコの中で、767g(2.56モル)のペルフルオロブタンスルホン酸に、206g(3.16モル)の水酸化アンモニウム水溶液(NH3含量23重量%)を徐々に添加した。NH4OHの添加速度を落として、溶液の温度が60℃未満に保たれるようにした。NH4OHを添加する際には、pHを測定しながら、混合物を激しく攪拌した。その混合物のpHが10に達したら、その反応が完了してそれ以上NH4OHを添加する必要はないとみなした。その生成物であるPBS−NH4から蒸発により水を部分的に除去すると、白色の塊状固形物が得られた。その生成物をさらに120℃の炉で1夜乾燥させると、812g(収率>99%)の白色粉末状固形分が得られた。
【0100】
ペルフルオロブタンスルホン酸は、L.コンテ(Conte)、M.ナポリ(Napoli)、A.シピオーニ(Scipioni)、ジャーナル・オブ・フルオライン・ケミストリー(J.Fluorine Chem.)1991年、53巻、p.277〜283に記載の方法により、調製することができる。
【0101】
調製法1.メタノール中10重量%のクライトックス(KRYTOX)(商標)157FSLのアンモニウム塩:
メタノール(9.0g)の入った30mLのねじ蓋付きガラスバイアルに、クライトックス(KRYTOX)(商標)157FSL(1.0g)と1滴の水酸化アンモニウム濃縮水溶液を添加した。この混合物を数秒間手で振盪すると、透明で泡を含んだ溶液が得られた。
【0102】
比較濃縮物C1:
30mLのねじ蓋付きガラスバイアルに、メタノール(4.5g)とPFPEジシラン(2.0g)とを仕込んだ。そのバイアルを手で振盪した後、バイアルを数分間静置すると、透明ではっきりと2相に分かれた液相が得られた。
【0103】
濃縮物1、16.7%PFPEジシラン:
30mLのねじ蓋付きガラスバイアルに、メタノール中10重量%のクライトックス(KRYTOX)(商標)157FSLのアンモニウム塩(5.0g;調製法1より)およびPFPEジシラン(1.0g)を仕込んだ。そのバイアルを手で振盪すると、16.7重量%PFPEジシランを含む透明な単一相液体が得られた。
【0104】
濃縮物2、28.6%PFPEジシラン:
30mLのねじ蓋付きガラスバイアルに、10重量%のクライトックス(KRYTOX)(商標)157FSLのアンモニウム塩(5.0g;調製法1より)およびPFPEジシラン(2.0g)を仕込んだ。そのバイアルを手で振盪すると、28.6重量%PFPEジシランを含む透明な単一相液体が得られた。
【0105】
水性希釈液:実施例1および2
濃縮物1(実施例1)および濃縮物2(実施例2)の水性希釈液を、該当する濃縮物(0.5g)を脱イオン水(10.0g)と混合し、振盪することによって調製した。いずれの希釈液も透明な溶液となり、かき混ぜるとわずかに発泡性があった。室温で1夜静置しても、それらの溶液は透明で、相分離や沈降物の生成は認められなかった。
【0106】
調製直後に、それらの水性希釈液の数滴を通常のガラス顕微鏡スライドの上にピペットで落とすと、液はピペットの先端から広がるので、それらのスライドを室温で1夜静置した。取り出したスライドを見ると、最初に溶液があった部分がフィルムでコーティングされていた。冷たい水道水で洗い流してもこのコーティングは剥がれず、この物質を除いてきれいなガラスを露出させるには、キムワイプ(KIMWIPE)(商標)ティッシューで激しくこすらねばならなかった。ペン試験を実施して、黒色シャーピー(SHARPIE)(商標)パーマネント・ペンマーカーからのインキをそれらの領域に塗布すると、優れたインキの球状化と乾燥ワイプによるインキ除去性が認められた。さらに、この試験を数回繰り返しても、それらのサンプルでは、良好な球状化と除去性を示した。それとは対照的に、未処理のスライドの上にインキを塗布すると、球状化も見られないし、乾燥ワイプでも除去できず、完全に除去しようとすると、イソプロピルアルコール(IPA)またはアセトンのような溶媒で洗う必要があった。
【0107】
水性希釈液を、濃縮物1(0.1g)と脱イオン水(10.0g)とから調製した。その透明な溶液をガラス顕微鏡スライドの上にスピンコーティングし、次いで強制空気循環炉中に120℃、35分間置いた。このコーティング法により、極端に均一な外観を有するコーティングが得られた。冷却後、このコーティングしたスライドを上述のペン試験にかけると、優れたインキの球状化と乾燥ワイプによるインキ除去性が認められた。次いでこのサンプルについて水の接触角の測定を行うと次のような結果が得られた:静的接触角95(範囲93〜100);前進接触角101(範囲93〜108);後退接触角73(範囲66〜86)(単位は度)。報告したこれらの数値は、少なくとも3滴を落とした、両側の測定値の平均値である。
【0108】
濃縮物3(3:1:4のPFPEジシラン:DBI NH4:IPA)
8mLのねじ蓋付きバイアルにDBI NH4(1.0g)とIPA(4.0g)を仕込んだ。この溶液を振盪して、塩をほとんど溶解させると、無色でわずかに濁りのある溶液が得られた。この混合物にPFPEジシラン(3.0g)を添加した。手で振盪すると、ほぼ透明な黄色の溶液が得られた。
【0109】
濃縮物4(3:2:3のPFPEジシラン:乳化剤218:IPA)
8mLのねじ蓋付きバイアルに、PFPEジシラン(3.0g)、乳化剤218(2.0g)、およびIPA(3.0g)を仕込んだ。この溶液を手で振盪すると、均一で透明な黄色の溶液が得られた。
【0110】
濃縮物5(3:3:2のPFPEジシラン:乳化剤029:IPA)
8mLのねじ蓋付きバイアルに、PFPEジシラン(3.0g)、乳化剤029(3.0g)、およびIPA(2.0g)を仕込んだ。この溶液を手で振盪すると、均一で透明で、わずかに赤色の溶液が得られた。
【0111】
濃縮物6(3:1:4のF−MPEGアミドシラン:DBI NH4:IPA)
8mLのねじ蓋付きバイアルにDBI NH4(1.0g)とIPA(4.0g)を仕込んだ。この溶液を手で振盪して、塩をほとんど溶解させると、無色でわずかに濁りのある溶液が得られた。この混合物に、F−MPEGアミドシラン(3.0g)を添加して混合すると、ほぼ透明で黄色の溶液が得られた。
【0112】
濃縮物7(3:1:4のHFPOシラン:DBI NH4:IPA)
8mLのねじ蓋付きバイアルにDBI NH4(1.0g)とIPA(4.0g)を仕込んだ。この溶液を振盪して、DBI NH4をほとんど溶解させると、無色でわずかに濁りのある溶液が得られた。この混合物にHFPOシラン(3.0g)を添加し、手で振盪すると、わずかに濁りのある無色の溶液が得られた。
【0113】
濃縮物8(3:1:4のPFPEジシラン:クライトックス(KRYTOX)(商標)157FSLのアンモニウム塩:IPA)
クライトックス(KRYTOX)(商標)157FSLカルボン酸を対応するアンモニウム塩に転換させるために、液にアンモニアガスを、発熱しなくなるまで吹き込み、次いでアスピレータの減圧で過剰のアンモニアを除去した。その結果、無色透明で、極端に粘度の高い液体が得られた。8mLのねじ蓋付きバイアルに、PFPEジシラン(3.0g)、上記のカルボン酸アンモニウム塩(1.0g)、およびIPA(4.0g)を仕込んだ。そのバイアルを手で振盪すると、無色透明な液状濃縮物が得られた。
【0114】
濃縮物9(3:1:4のC10テロマーシラン:DBI NH4:IPA)
8mLのねじ蓋付きバイアルにDBI NH4(1.0g)とIPA(4.0g)を仕込んだ。この溶液を振盪して、DBI NH4をほとんど溶解させると、無色でわずかに濁りのある溶液が得られた。この混合物にC10テロマーシラン(3.0g)を添加した。得られた混合物を振盪すると、わずかに濁りのある無色の溶液が得られた。
【0115】
濃縮物10(3:1:4のPFPEジシラン:乳化剤4171:IPA)
希釈可能な非水性濃縮物を、PFPEジシラン(3.0g)、乳化剤4171(1.0g)、およびIPA(4.0g)を8mLのねじ蓋付きバイアル中で混合して調製すると、無色透明な溶液が得られた。
【0116】
濃縮物11(3:1のPFPEジシラン:乳化剤4171)
希釈可能な非水性濃縮物を、PFPEジシラン(3.0g)と乳化剤4171(1.0g)とを8mLのねじ蓋付きバイアル中で混合して調製すると、均一で無色透明な溶液が得られた。
【0117】
実施例3〜16
いくつかの水性希釈液を、濃縮物3〜11を使用し、先に述べた方法によって調製した。それらの分散液を調製するために使用する一般的な手順では、ガラス容器の中に少量の濃縮物を入れ、次いで水、1%NH4OH水溶液、または5%HCl水溶液のいずれかを用いて希釈した。水性希釈液の外観を記録した。予め洗浄しておいたガラススライドにフローコーティングし、次いで前述のペン試験を行って評価した。結果を表2に示す。
【0118】
【表4】

【0119】
比較例C1およびC2ならびに実施例17〜26
予め洗浄しておいたガラススライドを、表3に示す希釈液中でディップコーティングし、そのコーティングを表に示した条件で硬化させた。水およびヘキサデカンにおける静的接触角を、それぞれのシリーズについて測定した。比較例C1およびC2は溶媒で希釈し、実施例17〜26は水で希釈した。結果を表3にまとめた。
【0120】
【表5】

【0121】
【表6】

【0122】
比較例C3〜C9
PFPEホスフェートNH4の調製
1部のPFPEホスフェートと4部のIPAの混合物を、ねじ蓋付きバイアルに仕込んで、振盪してPFPEホスフェートを溶解させた。アンモニアの過剰量をその溶液に吹き込むと、わずかに濁り、粘度が上昇した。
【0123】
表4に示した比較例は、表に示した比率で、PFPEホスフェートまたはPFPEホスフェートNH4のいずれかとIPAとをねじ蓋付きバイアルに仕込んで、振盪して溶解させ、最後にPFPEジシランを添加することにより、調製した。PFPEホスフェートNH4と共溶媒としてのメタノールを使用しているサンプルでは、アンモニア処理の後でアスピレータの減圧によってIPAを除去し、次いでメタノールとPFPEジシランを添加した。すべての濃縮物について、調製直後の初期の外観は、表4の左から6列目に記載してある。サンプルの観察をそれ以後も続けて、その外観を記録したものを、左から7列目に示した。最後に、それらが透明である間に、濃縮物のいくつかを、ねじ蓋付きバイアル中で、0.1gの濃縮物に10gの脱イオン化した水道水を加え、その混合物を手で振盪して、水希釈した。その水性希釈液の外観を最後の列(左から8列目)に記載している。
【0124】
【表7】

【0125】
実施例27〜29
濃縮物4の化粧セラミックタイルへの塗布
濃縮物4(0.3g)を脱イオン水(100g)と混合して水性希釈液を調製すると、無色透明な溶液が得られた。4インチ×4インチの白色の予め洗浄した化粧セラミックタイル(ブライト・スノウホワイト(Bright snowwhite)、オハイオ州イースト・スパルタ(East Sparta、Ohio)のUSセラミック・タイル・カンパニー(US Ceramic Tile Co.)から入手可能)に、スプレーコーティングした。コーティングを、強制空気循環炉中で30分間120℃で硬化させた。そのコーティングの性能を、初期静的接触角と、回数を変えて行った摩耗の後での静的接触角を測定することによって、求めた。結果を以下の表5にまとめた(実施例27)。
【0126】
濃縮物12(添加剤としてのPBS−NH4
希釈可能な濃縮物を、8mLのねじ蓋付きバイアル中で、PFPEジシラン(3.0g)、乳化剤218(2.0g)、IPA(3.0g)、およびPBS−NH4(0.5g)を混合することにより調製すると、無色透明な溶液が得られた。その濃縮物(0.3g)を脱イオン水(100g)と混合して水性希釈液を調製すると、無色透明な溶液が得られた。この溶液を、予め洗浄した化粧セラミックタイル(ブライト・スノウホワイト(Bright snowwhite)、USセラミック・タイル・カンパニー(US Ceramic Tile Co.)から入手可能)の上にスプレーコーティングした。コーティングを、強制空気循環炉中で30分間120℃で硬化させた。初期性能および、耐久性試験の結果を以下の表5に示す(実施例28)。
【0127】
濃縮物13(添加剤としてのDBI NH4
希釈可能な濃縮物を、8mLのねじ蓋付きバイアル中で、PFPEジシラン(3.0g)、乳化剤218(2.0g)、IPA(3.0g)、およびDBI−NH4(0.5g)を混合することにより調製すると、わずかに濁りのある無色の溶液が得られた。水性希釈液を、この濃縮物0.3gを100gの脱イオン水と混合することによって調製すると、無色透明な溶液が得られた。この溶液を、上に述べたようにして、予め洗浄した化粧セラミックタイル(ブライト・スノウホワイト(Bright snowwhite)、USセラミック・タイル・カンパニー(US Ceramic Tile Co.)から入手可能)の上にスプレーコーティングした。コーティングを、強制空気循環炉中で30分間120℃で硬化させた。初期性能および、耐久性試験の結果を以下の表5に示す(実施例29)。
【0128】
【表8】

【0129】
実施例30〜35、水性希釈液の安定性
濃縮物3〜6、8および10から、それぞれの濃縮物(0.3g)と脱イオン水(100g)を8オンスのガラス容器の中で混合していくつかの水性希釈液を調製すると、いずれの場合も無色透明な溶液が得られた。それぞれの水性希釈液を調製してから数分以内に、予め洗浄したガラス顕微鏡スライドをそれぞれの溶液でディップコーティングした。コーティングを、強制空気循環炉中で30分間120℃で硬化させた。それぞれのスライドについて、静的接触角を求めた。それらの水性希釈液を、時間を各種変えて静置しておいてから、ガラス顕微鏡スライドを、それらの経時希釈液の中にディップコーティングした。経時水性希釈液から得られたコーティングの性能を、静的接触角を測定することによって求めた。結果を以下の表6にまとめた(実施例30〜35)。
【0130】
【表9】

【0131】
実施例36:ディップコーティングしたガラススライドにおける水の動的接触角の測定
ねじ蓋付きバイアル中で、3部のPFPEジシラン、1部のDBI NH4、および4部のドワノール(DOWANOL)(商標)PnPを混合することによって、濃縮物を調製した。初期には濁りのある液体も、室温で1夜静置すると、バイアルの底に少量の白色沈殿物ができて、実質的に透明な液体が得られた。透明な液体(0.4g)を100gの脱イオン水道水で希釈して、振盪すると、振盪による泡を有する透明な溶液が得られた。標準のガラス顕微鏡スライドを、UV/オゾン室に5分間入れて清浄化し、次いで水性希釈液の中でディップコーティングした。このコーティングしたスライドを、強制空気循環炉中で120℃、30分間加熱した。冷却してから、そのスライドについて、水に対する静的、前進および後退接触角を測定した。それぞれの測定では、両側で2滴について測定し、それらの結果を平均した。接触角は表7に列記した。
【0132】
実施例37〜38および比較例C10:ARガラス上へのPFPEジシラン膜の水性送達
濃縮物8の0.1gおよび0.5gのサンプルを、脱イオン化水道水とドワノール(DOWANOL)(商標)PnPの3:1(w/w)混合物100gで希釈して、コーティング溶液を調製した。これによって透明な希釈液(それぞれ、PFPEジシランが0.038および0.19重量%)が得られ、それは振盪すると泡だった。さらに比較例の溶液も、HFE7100中にPFPEジシランを0.1重量%に希釈することによって調製した。
【0133】
TDAR/なし(TDAR/none)反射防止ガラスの3枚のガラス片(材料のガラス板から切断、それぞれのおよその寸法は、5cm×10cm)(ミネソタ州ファリボー(Faribault、MN)のビラテック・シン・フィルムス(Viratec Thin Films)から入手)を、IPA:クロロホルムが1:1(w/w)(シグマ・アルドリッチ(Sigma−Aldrich)から入手可能)の浴の中で数分間超音波処理して洗浄し、次いで5分間UV/オゾン室に暴露した。実施例37は0.1重量%水性希釈液でコーティングしたが、それには自動ディップコーティング装置を使用しその引き上げ速度を1.4mm/秒としたが、一方実施例38は、0.5重量%水性希釈液をスピンコーティング法によってコーティングした。比較例C10は、先に挙げた比較例溶液(HFE−7100中)中で、その引き上げ速度を3.4mm/秒としてディップコーティングすることにより調製した。コーティングしたサンプルはすべて、強制空気循環炉で120℃で30分間加熱してから放冷した。3種のサンプルはすべて、水性ディップコートしたサンプルの縁に近いところで、小さな液滴のリングがあったことを除いて、優れた光学的均一性を示したが。水に対する静的、前進および後退接触角を、先に述べたようにしてこれら3種のサンプルについて測定した。結果は少なくとも3つの液滴の測定値を平均し、表7に示した。
【0134】
【表10】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)式Iの少なくとも1種のフッ素化シラン、
f1−[−Q−[SiY3-x1xzy (I)
(ここで、Rf1は、単官能または2官能ペルフルオロポリエーテル基を表し;Qは独立して、有機の2官能または3官能結合基を表し;R1は独立して、C1〜C4アルキル基を表し;Yは独立して、加水分解性基を表し;xは0または1であり;yは1または2であり;そしてzは1または2である);および
(b)少なくとも1種のフッ素化界面活性剤であって、
(i)C715CO2-NH4+
(ii)C817SO2N(C25)(C24O)7CH3
(iii)C817(C24O)10H;
(iv)(C49SO22-NH4+
(v)C49SO2N(CH3)(C24O)nCH3(ここで、navg〜7);
(vi)C37O(CF(CF3)CF2O)nCF(CF3)CO2-NH4+(ここで、navg〜13);
(vii)ランダムコポリマーフッ素化界面活性剤であって、
【化1】

(式中、
a:b:cのモル比は、約30:約1:約32であり、該ランダムコポリマーフッ素化界面活性剤は、約1,000〜約4,000グラム/モルの分子量を有する)
を含む前記ランダムコポリマーフッ素化界面活性剤;
(viii)ランダムコポリマーフッ素化界面活性剤であって、
【化2】

(式中、
a’:b’:c’のモル比は、約3:約3:約1であり、該ランダムコポリマーフッ素化界面活性剤は、約5,000〜約40,000グラム/モルの分子量を有する)
を含む前記ランダムコポリマーフッ素化界面活性剤;及び
(iv)それらの組合せ
から選択される前記フッ素化界面活性剤
を含む希釈可能な非水性均一混合物を含む組成物。
【請求項2】
a.水を含むか、または、水および少なくとも1種の水混和性共溶媒を含む水性溶媒混合物を含む希釈媒体;および
b.以下のものを含む非水性、均一混合物を含む希釈可能な非水性濃縮物:
i.式Iの少なくとも1種のフッ素化シラン:
f1−[−Q−[SiY3-x1xzy (I)
(ここで、Rf1は、単官能または2官能ペルフルオロポリエーテル基を表し;Qは独立して、有機の2官能または3官能結合基を表し;R1は独立して、C1〜C4アルキル基を表し;Yは独立して、加水分解性基を表し;xは0または1であり;yは1または2であり;そしてzは1または2である);および、
ii.少なくとも1種のフッ素化界面活性剤であって、
(i)C715CO2-NH4+
(ii)C817SO2N(C25)(C24O)7CH3
(iii)C817(C24O)10H;
(iv)(C49SO22-NH4+
(v)C49SO2N(CH3)(C24O)nCH3(ここで、navg〜7);
(vi)C37O(CF(CF3)CF2O)nCF(CF3)CO2-NH4+(ここで、navg〜13);
(vii)ランダムコポリマーフッ素化界面活性剤であって、
【化3】

(式中、
a:b:cのモル比は、約30:約1:約32であり、該ランダムコポリマーフッ素化界面活性剤は、約1,000〜約4,000グラム/モルの分子量を有する)
を含む前記ランダムコポリマーフッ素化界面活性剤;
(viii)ランダムコポリマーフッ素化界面活性剤であって、
【化4】

(式中、
a’:b’:c’のモル比は、約3:約3:約1であり、該ランダムコポリマーフッ素化界面活性剤は、約5,000〜約40,000グラム/モルの分子量を有する)
を含む前記ランダムコポリマーフッ素化界面活性剤;及び
(iv)それらの組合せ
から選択される前記フッ素化界面活性剤
を含む、水性希釈液。
【請求項3】
a.基材と、
b.前記基材の上に請求項2に記載の水性希釈液を塗布し、前記水性希釈液を硬化させることによって得られる、前記基材の上のコーティングと、
を含む、物品。

【公開番号】特開2009−167429(P2009−167429A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−112463(P2009−112463)
【出願日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【分割の表示】特願2003−545709(P2003−545709)の分割
【原出願日】平成14年10月25日(2002.10.25)
【出願人】(599056437)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (1,802)
【Fターム(参考)】