説明

フッ素化ポリイミド多層膜の製造方法

【課題】 着色が少なく光導波路を製造したときの光損失が低く、且つ多層化した際にクラックや界面の乱れが生じないフッ素化ポリイミド多層膜の製造方法を提供する。
【解決手段】 基板上に、C−H結合を含まないフッ素化ポリアミド酸を塗布し焼成を行うフッ素化ポリイミド膜製造工程を、2回以上繰り返すことにより、フッ素化ポリイミド多層膜を製造する方法において、該焼成を、最高温度380℃未満で行うと共に、焼成時間を1時間以上とすることを特徴とするフッ素化ポリイミド多層膜の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性、耐薬品性、撥水性、誘電特性、電気特性および光学特性に優れるフッ素化ポリイミドフィルムの製造方法に関し、より詳細には、フッ素化ポリイミド前駆体による被膜形成の際の焼成を、380℃未満の温度で一定時間以上行うことにより、透明性に優れ、残留応力を低減したフッ素化ポリイミド多層膜(フィルム)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
情報化社会における基幹産業として、エレクトロニクス産業が現在興隆を極めており、特に、絶縁用および微細加工用高分子なくしては今日のエレクトロニクス時代はない。このように電気を流さないことを主たる特徴として、エレクトロニクス時代の産業・技術の進展を支えてきた高分子材料は、その分子および集合体構造に適切な条件が整えば、強誘電性、電子やイオンの高導電性、超伝導性、さらに強磁性など、従来金属や半導体、さらには無機材料の特徴とされた諸機能を発現できる。近年では、トランジスタ、サイリスタ、ICなどの層間絶縁膜やパッシベーション材、シリコーン樹脂に代表されるジャンクションコート材、モールドストレスを緩和するチッピコート用バッファ材、メモリー素子のソフトエラー対策としてのα線シールド材、ダイボンディング材、レジスト材、半導体封止材料、ハイブリッドICの防湿コート材、TAB(Tape Automated Bonding)用チップキャリヤーテープ、多層回路基板など、様々な用途に使用されている。このような有機材料の一つに、電子材料用ポリイミドがあり、多層プリント基板、液晶の配向膜、LSIのα線保護コート、パッシベーション膜などに使用されている。
【0003】
一般に、対象物上にポリイミド膜をコーティングするには、前駆体であるポリアミド酸を、スピンコート法、キャスト法などでコーティングし、その後に焼成する方法が行われている。しかし、ポリイミド膜の微細パターンを形成する場合、通常のポリイミドを用いると、ポリイミド膜上へのレジストの塗布、剥離、ポリイミド膜のエッチングなどの煩雑な工程が必要となるため、最近は、感光性ポリイミドが利用され始めている。しかし、感光性ポリイミドは、現像後の膜にクラックが発生し易いという問題があるので、例えば、特許文献1には、感光性ポリイミドフィルムにおける現像後のクラック発生などの不都合を防止するため、感光性ポリイミド前駆体を用いて被膜形成する際の膜形成領域の湿度を制御して、ポリイミド前駆体膜を形成する技術が開示されている。
【0004】
また、他の高分子材料として、その優れた機能や耐熱性などの点でフッ素含有ポリイミドも注目されており、例えば、炭素−水素結合(C−H結合)の代わりに炭素−フッ素結合(C−F結合)のみを含む繰り返し単位から構成される全フッ素化ポリイミドが光学材料として有用であることが開示されている(特許文献2)。この全フッ素化ポリイミドは、光電子集積回路を作製するのに充分な耐熱性を有し、近赤外域光、特に光通信波長域(1.0〜1.7μm)における光透過損失が極めて少ない。光電子集積回路は光導波路構造を持つことが必要であるが、フッ素含有ポリイミドを用いて光導波路構造を製造するには、ポリイミドの前駆体であるフッ素含有ポリアミド酸ワニスを基板上に塗布し焼成する工程を2回以上繰り返して多層膜を製造する手法が採られる。ここで、1回目のポリイミド膜製造工程において焼成が不十分であると、2回目のポリアミド酸を塗布した直後に、1層目のポリイミドがポリアミド酸ワニスに含まれる溶媒に溶解し、1層目と2層目の界面に乱れが生じたり、1層目のポリイミドにクラックが入るという問題があったが、1層目のポリイミド膜に380℃以上での熱処理を行うことで溶媒に不溶なポリイミド膜とすることで、クラックの発生を防止する技術が開示されている(特許文献3)。
【特許文献1】特開平8−8170号公報
【特許文献2】特開平5−1148号公報
【特許文献3】特許第3019166号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、本発明者らが検討したところ、焼成温度を高くするとポリイミド膜の着色が大きくなり光導波路の光損失が増大すること、基板との線熱膨張係数の違いから焼成後のポリイミド膜に生じる残留応力が増大し、その後の導波路製造工程が難しくなり、結果として歩留まりが低下するという問題があった。フッ素含有ポリイミド多層膜は、耐熱性、耐薬品性、誘電特性、電気特性、光学特性などに優れるため各種の光材料の用途に使用されている。このため、該ポリイミド多層膜の歩留まりの低下は、単に該多層膜の製造コストという意味に限られず、光学部品、光電子集積回路(OEIC)、光電子混載実装配線板における光導波路などの様々な光学材料の歩留まりの低下につながり、価格の上昇に直結してしまう。このため、信頼性の高いフッ素含有ポリイミド多層膜の製造方法、特に、品質の向上のために、製膜条件を最適化することが求められていた。
【0006】
そこで、本発明が解決すべき課題は、フッ素含有ポリイミドに代表されるフッ素化ポリイミドを製造するために用いられるものであって、着色が少なく光導波路を製造したときの光損失が低く、且つ多層化した際にクラックや界面の乱れが生じないフッ素化ポリイミド多層膜の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記諸目的を達成すべく鋭意検討を行った結果、炭素−フッ素結合(C−F結合)を含むフッ素化ポリイミド前駆体から多層膜を形成する際に、焼成温度を380℃以上とする代わりに380℃未満とし、かつ焼成時間を1時間以上とすることで、溶媒に不溶で、しかもクラックの入らない多層膜が得られること、そしてその結果、この多層膜から形成された導波路の光損失が減少することといった知見を得て、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち本発明にかかるフッ素化ポリイミド多層膜の製造方法は、基板上に、C−H結合を含まないフッ素化ポリアミド酸を塗布し焼成を行うフッ素化ポリイミド膜製造工程を、2回以上繰り返すことにより、フッ素化ポリイミド多層膜を製造する方法において、該焼成を最高温度380℃未満で行うと共に、焼成時間を1時間以上とするところに特徴を有する。なお、上記焼成は、雰囲気中の酸素濃度を10%(体積)以下にして行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、焼成時の最高温度を下げることで、フッ素化ポリイミド膜の着色を抑制することができたので、導波路構造での光損失を低下させることができた。また、焼成時間を1時間以上とすることで、多層膜形成時のクラックの発生を抑制することにも成功した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、フッ素化ポリイミド前駆体をコーティングした後、380℃未満の温度で1時間以上熱処理(焼成)する製膜工程を2回以上行い、フッ素化ポリイミド多層膜を形成することを特徴とするフッ素化ポリイミドフィルムの製造方法である。該前駆体を用いて被膜を形成する方法は種々存在し、特定基板上への被膜形成方法も各種存在するが、以下では、フッ素化ポリイミド前駆体をシリコンウエハなどの基板上に被膜形成してフッ素化ポリイミドフィルムを製造する方法を用いて、本発明を説明する。
【0011】
本発明法の特徴は、380℃未満で1時間以上、ポリイミド前駆体を焼成するところにある。フッ素化ポリイミド前駆体は、焼成温度を380℃未満に下げても、焼成時間を1時間以上にすることで溶媒に不溶な膜になるため、1層目(下層)の上にフッ素化ポリイミド前駆体を塗布し同様の熱処理をしても1層目に悪影響を与えることがなく、界面の乱れが無くクラックが入らない多層膜を得ることができるようになった。そこで、本発明法では380℃未満で1時間以上焼成することとした。より好ましい焼成温度の上限は360℃であり、さらに好ましい上限は340℃である。焼成温度が低すぎると、膜の不溶化までに時間がかかりすぎるため、焼成温度の下限は250℃が好ましく、より好ましい下限は300℃である。また、焼成時間は、1時間以上で10時間以下、より好ましくは3時間以上で10時間以下、特に好ましくは5時間以上で10時間以下である。
【0012】
一般に、基板上に樹脂膜を形成するには、キャスト法、スピンコート法、ロールコート法、スプレイコート法、バーコート法、フレキソ印刷法、およびディップコート法などの公知の方法があるが、フッ素化ポリイミド前駆体をこれらの公知の方法で塗布して被膜を形成した後に、該被膜を、窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気中で焼成すれば、基板上にポリイミドフィルムを形成することができる。本発明では、被膜形成方法には特に制限はなく、該フィルムの被覆対象となる基板の有無やその種類、被膜を形成するフッ素化ポリイミド前駆体の種類などに応じて適宜選択することができる。シリコンなどの基板上にフッ素化ポリイミド前駆体の被膜を形成する場合には、基板上にのみ均一な厚さの薄膜を短時間で形成できる点でスピンコート法が好ましい。なお、基板としては、無機材料、有機材料を問わず、公知の材料を使用することができるが、ポリイミド焼成温度において熱変形を抑えるという観点から、シリコン;石英、パイレックス(登録商標)等のガラス基板;Al、Cu等の金属基板;金属酸化物基板;ポリイミド、ポリエーテルケトン等の樹脂基板;有機・無機ハイブリッド基板等を使用することが好ましい。
【0013】
上記フッ素化ポリイミド前駆体の被膜形成時には、この前駆体を溶媒に溶解しまたは分散している状態で塗工してもよい。使用可能な溶媒として、例えば、N−メチル−2−ピロリジノン、N,N−ジメチルアセトアミド、アセトニトリル、ベンゾニトリル、ニトロベンゼン、ニトロメタン、ジメチルスルフォキシド、アセトン、メチルエチルケトン、イソブチルケトンおよびメタノールなどの極性溶媒や、トルエンやキシレンなどの非極性溶媒などが挙げられる。これらのうち好ましいものは、N−メチル−2−ピロリジノン、N,N−ジメチルアセトアミドである。また、これらの溶媒は、単独でまたは2種類以上の混合物の形態で使用されてよい。なお、該溶媒中の該前駆体濃度は、10〜50質量%であることが好ましい。また、被膜形成はフッ素化ポリイミド前駆体の粘度にも関連し、10ポイズ〜1000ポイズであることが好ましく、より好ましくは25ポイズ〜150ポイズである。
【0014】
基板上にフッ素化ポリイミド前駆体の被膜を形成した後に、該前駆体被膜に熱処理(焼成)を行うと、前駆体は加熱閉環反応によってフッ素化ポリイミドとなり、フッ素化ポリイミド膜第1層を形成する。ここで、第1層とは基板上に最初に形成したフッ素化ポリイミド膜をさし、第2層は第1層の上に形成したフッ素化ポリイミド膜をさす。該前駆体の加熱処理(焼成)に用いる加熱炉は、汎用の炉が選択可能であるが、焼成中の酸素濃度を下げるためには、イナートオーブンか真空焼成炉を使用することが好ましい。イナートオーブンを使用する時には、窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガスを導入しながら焼成することが好ましく、不活性ガス雰囲気中の酸素濃度を10%以下(体積%)にして焼成するとよい。より好ましい酸素濃度は5%以下、特に好ましくは3%以下である。
【0015】
前記したように、焼成は380℃未満で1時間以上行う。室温から焼成最高温度までの温度上昇速度は特に制限されるものではなく、フッ素化ポリイミド前駆体に含まれる溶媒が揮発し、所望のポリイミド膜が製造できる条件であればよく、連続的に温度上昇させても、段階的に温度上昇を行っても良い。膜形成直後の温度から室温までの温度下降速度も特に制限されるものではなく、所望のポリイミド膜が製造できる条件であればよく、段階的に行っても連続的に行っても良い。
【0016】
本発明では、基板上にフッ素化ポリイミド膜第1層を形成した後、フッ素化ポリイミド前駆体の被膜を再度形成し、該前駆体に熱処理を行い、フッ素化ポリイミド膜第2層を形成することでフッ素化ポリイミド多層膜を形成する。第2層の組成は所望するポリイミド多層膜の用途によって適宜選択でき、第1層と同一組成であっても、異なった組成であっても特に制限はない。第2層形成の際も、上記した温度、時間、雰囲気条件下で、フッ素化ポリイミド前駆体の塗布・焼成を行えばよい。なお、上記した温度、時間、雰囲気条件下であれば、第1層と第2層以降の層の形成条件が異なっていても構わない。
【0017】
本発明で使用するフッ素化ポリイミド前駆体としては特に制限はないが、耐熱性、耐薬品性、撥水性、誘電特性、電気特性、光学特性に優れる点で、下記式(1)で示すフッ素化ポリアミド酸を好ましく使用することができる。
【0018】
【化1】

【0019】
(式中、Xは4価の有機基、Yは2価の有機基であり、Xおよび/またはYは少なくとも1個のフッ素原子を有する基である。)
Xは4価の有機基であり、該4価の有機基としては、環状アルキル、鎖状アルキル、オレフィン、グリコール等に由来するハロゲン含有脂肪族有機基;ベンゼンビフェニル、ビフェニルエーテル、ビスフェニルベンゼン、ビスフェノキシベンゼン等に由来する4価のハロゲン含有芳香族有機基が挙げられる。これらの化合物は、いずれも、C−H結合を有しておらず、C−H結合の水素が全てハロゲン原子(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素のいずれか)に置換されているものでなければならない。耐熱性、耐薬品性、撥水性および低誘電性を考慮すると、フッ素化ポリイミド多層膜中にC−H結合が存在しないことが好ましいため、本発明では、フッ素化ポリイミド前駆体としてC−H結合を含まないものを用いるのである。ハロゲン原子の種類は、化合物中において、同一でも異なっていてもよい。4価のハロゲン含有芳香族有機基、より好ましくは4価の全フッ素化芳香族有機基が、上記式(1)における「X」として好ましい。これらのうち、上記式(1)における「X」として特に好ましい4価の有機基の例としては、下記式:
【0020】
【化2】

で示される4価の基が挙げられる。
【0021】
上記3種の一般式で表される化合物におけるR1およびR2は、ハロゲン原子、すなわち、フッ素、塩素、臭素またはヨウ素原子を表し、水素原子は含まれない。R1およびR2は、同一であってもまたは異なるものであってもよいが、好ましくはいずれか1つがフッ素であり、より好ましくは全てがフッ素である。
【0022】
また、上記式において、Zは下記式
【0023】
【化3】

【0024】
で示される2価の基である。上記「Z」を表す式において、Y’およびY”は、ハロゲン原子、すなわち、フッ素、塩素、臭素またはヨウ素原子を表し、好ましくはいずれか1個がフッ素原子であり、より好ましくは全てがフッ素原子である。上記「Z」を表す式において、Y’およびY”双方が存在する際には、Y’およびY”は、同一であってもまたは異なるものであってもよく、それぞれ、各ベンゼン環中で同一であってもまたは異なるものであってもよい。これらのうち、Zは、下記式:
【0025】
【化4】

で示される2価の基であることが好ましい。
【0026】
上記式(1)において、Yは2価の有機基であり、Xがフッ素を有しない場合には、Yは必ずフッ素を含む。Yの例としては、i)炭素−ハロゲン原子結合のみからなる直鎖または分岐、環を含んでいてもよい2価のハロゲン含有脂肪族基;ハロゲン含有芳香族基;2以上の該脂肪族基や芳香族基が、酸素原子、窒素原子、硫黄原子等の炭素原子以外の異種原子で結合した2価のハロゲン含有有機基が好ましい。ハロゲン原子としては全て同一である必要はなく、「Y」中に異なるハロゲン原子を含んでいてもよい。上記i)のハロゲン含有脂肪族基としては、環状アルキル、鎖状アルキル、オレフィン、グリコール等に由来する2価のハロゲン含有脂肪族有機基;ベンゼンビフェニル、ビフェニルエーテル、ビスフェニルベンゼン、ビスフェノキシベンゼン等由来の2価のハロゲン含有芳香族有機基等がある。この「Y」においても、いずれもがC−H結合を有しておらず、C−H結合の水素が全てハロゲン原子(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素のいずれか)に置換されているものでなければならない。
【0027】
上記式(1)における「Y」としてより好ましい2価の有機基の例としては、下記に示すi)またはii)の2価の有機基であることが好ましく、耐熱性、耐薬品性、撥水性および低誘電性を考慮すると、最も好ましいのはii)である。
【0028】
【化5】

【0029】
【化6】

【0030】
本発明においてはこれまで説明したように、上記式(1)で示すポリアミド酸がフッ素原子を含むことを必須とする。上記式(1)で示される繰り返し単位を有するポリアミド酸は、この繰り返し単位の存在によって、これから形成される本発明のフッ素化ポリイミドにおいて所望の屈折率(すなわち、既存のフッ素化ポリイミドに対する屈折率差Δn)を達成することができる。本発明では、該ポリアミド酸として、近赤外域光、特に光通信波長域(1.0〜1.7μm)における光透過損失を考慮して、炭素−水素結合(C−H結合)は存在しないもの、すなわち、上記式(1)を構成する炭素に結合する水素原子の全てがハロゲン原子(F、Cl、Br、I)のいずれかに置換されており、少なくともフッ素原子を含むものを用いる。すなわちこれによって、耐熱性、耐薬品性、撥水性、誘電特性、電気特性および光学特性に優れるフッ素化ポリイミドフィルムの原料となり得る。
【0031】
なお、上記式(1)で示すポリアミド酸の製造方法については以下に詳述する。この記載から、該ポリアミド酸の末端は、ジアミン化合物およびテトラカルボン酸誘導体の添加量(モル比)によって異なるものの、アミン末端または酸誘導体末端のいずれかであると考えられる。なお、該ポリアミド酸は、同一の繰り返し単位からなるものであってもまたは異なる繰り返し単位からなるものであってもよく、後者の場合には、その繰り返し単位はブロック状であってもまたはランダム状であってもよい。
【0032】
該ポリアミド酸は、公知の技術の組み合わせによって製造でき、その製造方法は、特に制限されるものではない。一般的には、有機溶媒中で、下記式(2)で示されるジアミン化合物を、下記式(3)で示すテトラカルボン酸、その酸無水物もしくは酸塩化物、またはそのエステル化物などと反応させる方法が好ましく使用される。なお、下記式(2)における「Y」、ならびに下記式(3)における「X」は、上記式(1)における定義と同様である。
【0033】
【化7】

【0034】
【化8】

【0035】
上記式(2)で示すジアミン化合物としては、上記式(3)で示すテトラカルボン酸などと反応して上記式(1)で示すポリアミド酸が製造できるような構造を有するものであれば、特に制限されるものではない。したがって好ましいポリアミド酸の構造から、
i):4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、2,2−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、
ii):5−クロロ−1,3−ジアミノ−2,4,6−トリフルオロベンゼン、2,4,5,6−テトラクロロ−1,3−ジアミノベンゼン、2,4,5,6−テトラフルオロ−1,3−ジアミノベンゼン、4,5,6−トリクロロ−1,3−ジアミノ−2―フルオロベンゼン、5−ブロモ−1,3−ジアミノ−2,4,6−トリフルオロベンゼン、2,4,5,6−テトラブロモ−1,3−ジアミノベンゼンが好ましく、5−クロロ−1,3−ジアミノ−2,4,6−トリフルオロベンゼンが好ましい。これらの中でも、2,4,5,6−テトラフルオロ−1,3−ジアミノベンゼン、5−クロロ−1,3−ジアミノ−2,4,6−トリフルオロベンゼンが特に好ましい。なお、これらのジアミン化合物は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
【0036】
一方、上記式(3)で示すテトラカルボン酸、その酸無水物もしくは酸塩化物としては、特に制限されるものではなく、特開平11−147955号公報に記載の方法など、公知の技術またはその組み合わせによって製造できる。具体的には、ヘキサフルオロ−3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、ヘキサクロロ−3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、ヘキサフルオロ−3,3’,4,4’−ビフェニルエーテルテトラカルボン酸、ヘキサクロロ−3,3’,4,4’−ビフェニルエーテルテトラカルボン酸、ビス(3,4−ジカルボキシトリフルオロフェニル)スルフィド、ビス(3,4−ジカルボキシトリクロロフェニル)スルフィド、1,4−ビス(3,4−ジカルボキシトリフルオロフェノキシ)テトラフルオロベンゼン、1,4−ビス(3,4−ジカルボキシトリクロロフェノキシ)テトラフルオロベンゼン、1,4−ビス(3,4−ジカルボキシトリフルオロフェノキシ)テトラクロロベンゼン、1,4−ビス(3,4−ジカルボキシトリクロロフェノキシ)テトラクロロベンゼン、3,6−ジフルオロピロメリット酸、3,6−ジクロロピロメリット酸、3−クロロ−6−フルオロピロメリット酸などの、上記式(3)のハロゲン化テトラカルボン酸;対応する酸二無水物;対応する酸塩化物;メチルエステル、エチルエステルなどの対応するエステル化物などが挙げられる。これらのうち、ヘキサフルオロ−3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、ヘキサフルオロ−3,3’,4,4’−ビフェニルエーテルテトラカルボン酸、1,4−ビス(3,4−ジカルボキシトリフルオロフェノキシ)テトラフルオロベンゼン、1,4−ビス(3,4−ジカルボキシトリフルオロフェノキシ)テトラクロロベンゼン、ならびにこれらの対応する酸二無水物および酸塩化物が好ましく、ヘキサフルオロ−3,3’,4,4’−ビフェニルエーテルテトラカルボン酸、1,4−ビス(3,4−ジカルボキシトリフルオロフェノキシ)テトラフルオロベンゼン、1,4−ビス(3,4−ジカルボキシトリフルオロフェノキシ)テトラクロロベンゼン、およびこれらの酸二無水物が特に好ましい。なお、これらのハロゲン化テトラカルボン酸誘導体は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
【0037】
有機溶媒中で、上記式(2)で示されるジアミン化合物を上記式(3)のテトラカルボン酸類と反応させる方法によって、所望のポリアミド酸が製造できる。なお、生成するポリアミド酸が、フッ素原子を含むように、これらの原料を選択する必要がある。
【0038】
該ジアミン化合物の添加量は、テトラカルボン酸類と効率よく反応できる量であればよく、特に制限されない。具体的には、該ジアミン化合物の添加量は、化学量論的には、該テトラカルボン酸類と等モルであるが、好ましくは該テトラカルボン酸類などの全モル数を1モルとした場合に、0.8〜1.2モル、より好ましくは0.9〜1.1モルである。この際、ジアミン化合物の添加量が0.8モル未満であると、該テトラカルボン酸類が多量に残存してしまい精製工程が複雑になる恐れがあり、また、重合度が大きくならない場合があり、逆に1.2モルを超えると、該ジアミン化合物が多量に残存してしまい精製工程が複雑になる恐れがあり、また、重合度が大きくならない場合がある。
【0039】
反応は有機溶媒中で行うことができ、該ジアミン化合物および該テトラカルボン酸類との反応が効率よく進行でき、かつこれらの原料に対して不活性であれば、特に制限されるものではない。例えば、N−メチル−2−ピロリジノン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン、メチルイソブチルケトン、アセトニトリル、ベンゾニトリルなどの極性有機溶媒が挙げられる。これらの有機溶媒は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。また、有機溶媒の量は、ジアミン化合物およびテトラカルボン酸類との反応が効率よく進行できる量であれば特に制限されないが、有機溶媒中のジアミン化合物の濃度が1〜80質量%、より好ましくは5〜50質量%となるような量であることが好ましい。
【0040】
ジアミン化合物およびテトラカルボン酸類との反応条件は、これらの反応が十分進行できる条件であれば特に制限されるものではない。例えば、反応温度は、好ましくは0〜100℃、より好ましくは20〜50℃である。また、反応時間は、通常、1〜72時間、好ましくは2〜48時間である。また、反応は、加圧下、常圧下または減圧下のいずれの圧力下で行ってもよいが、好ましくは常圧下で行われる。また、ジアミン化合物およびテトラカルボン酸類との反応は、反応効率および重合度などを考慮すると、乾燥した不活性ガス雰囲気下で行われることが好ましく、この際の反応雰囲気における相対湿度は、好ましくは10RH%以下、より好ましくは1RH%以下であり、不活性ガスとしては、窒素、ヘリウム、アルゴンなどが使用できる。
【0041】
該ポリアミド酸を加熱処理すると対応するポリイミドが得られる。この際、ポリアミド酸の加熱処理は、溶剤中で行われても、あるいは溶剤の不存在下で行われてもよいが、反応効率などを考慮すると、溶剤中で行われることが好ましい。この際、ポリアミド酸は、上述したポリアミド酸の製造工程によりジアミン化合物とテトラカルボン酸などとの反応で得られた溶液の形態で加熱処理されても、またはこれからポリアミド酸を固体として分離した後、溶剤に再溶解して加熱処理されてもよい。
【0042】
上記ポリアミド酸を熱処理して得たポリイミドフィルムは、耐熱性、耐薬品性、撥水性、誘電特性、電気特性および光学特性に優れるため、該フィルムは、プリント基板、LSI用層間絶縁膜、半導体部品用封止材料、光学部品、光電子集積回路(OEIC)、光電子混載実装配線板における光導波路など、様々な光学材料に有用である。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を、その実施例により具体的に説明する。
【0044】
合成例1
50ml容の三ツ口フラスコに、1,3−ジアミノ−2,4,5,6−テトラフルオロベンゼン 1.80g(10ミリモル)、下記式:
【0045】
【化9】

【0046】
で示される4,4’−[(2,3,5,6−テトラフルオロ−1,4−フェニレン)ビス(オキシ)]ビス(3,5,6−トリフルオロフタル酸無水物)5.82g(10ミリモル)、およびN,N−ジメチルアセトアミド 10.3gを仕込んだ。この混合液を、窒素雰囲気中で、室温で2日間撹拌することによって、ポリアミド酸溶液(ポリアミド酸38質量%溶液)を得た。
【0047】
合成例2
50ml容の三ツ口フラスコに、5−クロロ−1,3−ジアミノ−2,4,6−トリフルオロベンゼン 1.97g(10ミリモル)、合成例1で使用した4,4’−[(2,3,5,6−テトラフルオロ−1,4−フェニレン)ビス(オキシ)]ビス(3,5,6−トリフルオロフタル酸無水物) 5.82g(10ミリモル)、およびN,N−ジメチルアセトアミド 11.7gを仕込んだ。この混合液を、窒素雰囲気中で、室温で2日間撹拌することによって、ポリアミド酸溶液(ポリアミド酸33.0質量%溶液)を得た。
【0048】
実施例1
合成例1で得たポリアミド酸38質量%溶液をシリコンウエハの基板上に滴下し、加熱後の膜厚が15μmになるようにスピンコートした。次いで、該被膜を窒素で置換された焼成炉で300℃で10時間熱処理した。焼成炉中の酸素濃度は3%であった。
【0049】
ついで合成例2で得たポリアミド酸33質量%溶液を滴下し、加熱後の膜厚が10μmになるようにスピンコートした。次いで、該被膜を窒素で置換された焼成炉で300℃で10時間熱処理した。焼成炉中の酸素濃度は3%であった。
【0050】
作製したフッ素化ポリイミド多層膜を目視にて観察したところ、第1層と第2層の界面での乱れおよびクラックは確認されず良好な膜を得た。
【0051】
実施例2
合成例1で得たポリアミド酸38質量%溶液をシリコンウエハの基板上に滴下し、加熱後の膜厚が15μmになるようにスピンコートした。次いで、該被膜を窒素で置換された焼成炉で300℃で5時間熱処理した。焼成炉中の酸素濃度は3%であった。
【0052】
ついで合成例2で得たポリアミド酸33質量%溶液を滴下し、加熱後の膜厚が10μmになるようにスピンコートした。次いで、該被膜を窒素で置換された焼成炉で300℃で5時間熱処理した。焼成炉中の酸素濃度は3%であった。
【0053】
作製したフッ素化ポリイミド多層膜を目視にて観察したところ、第1層と第2層の界面での乱れおよびクラックは確認されず良好な膜を得た。
【0054】
実施例3
第1層および第2層形成時の焼成条件を、340℃、1時間とした以外は、実施例1と同様に操作して焼成膜を得た。第1層と第2層の界面での乱れおよびクラックは確認されず良好な膜を得た。
【0055】
実施例4
実施例1で作製したフッ素化ポリイミド多層膜から直線導波路構造をRIE(反応性イオンエッチング)にて作製した後、合成例1で得たポリアミド酸38質量%溶液をシリコンウエハの基板上に滴下し、加熱後の膜厚が15μmになるようにスピンコートした。次いで、該被膜を窒素で置換された焼成炉で300℃で10時間熱処理して、埋め込み型直線導波路を得た。焼成炉中の酸素濃度は3%であった。得られた直線導波路の光損失を測定したところ、1550nmの波長において0.2dB/cmであった。
【0056】
実施例5
焼成条件を340℃で1時間とした以外は、実施例4と同様にして、埋め込み型直線導波路を得た。焼成炉中の酸素濃度は3%であった。得られた直線導波路の光損失を測定したところ、1550nmの波長において0.2dB/cmであった。
【0057】
比較例1
第1層および第2層形成時の焼成条件を300℃で0.5時間とした以外は、実施例1と同様に操作して焼成膜を得た。該多層膜には多数のクラックが確認できた。
【0058】
比較例2
第1層および第2層形成時の焼成条件を340℃で0.5時間とした以外は、実施例1と同様に操作して焼成膜を得た。該多層膜には多数のクラックが確認できた。
【0059】
比較例3
各層の形成時の焼成条件を380℃で1時間とした以外は実施例4と同様に操作して埋め込み型直線導波路を得た。得られた直線導波路の光損失を測定したところ、1550nmの波長において2dB/cmであった。
【0060】
参考例
各層の形成時の焼成の際の酸素濃度を15%とした以外は実施例4と同様に操作して埋め込み型直線導波路を得た。得られた直線導波路の光損失を測定したところ、1550nmの波長において1dB/cmであった。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明法で得られるフッ素化ポリイミド多層膜は、通信波長全域における高い光透過性と耐熱性を同時に満足できるものであり、また、耐薬品性、撥水性、誘電特性、電気特性および光学特性に優れるため、プリント基板、LSI用層間絶縁膜、半導体部品用封止材料、光学部品、光電子集積回路(OEIC)、光電子混載実装配線板における光導波路など、様々な光学材料に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、C−H結合を含まないフッ素化ポリアミド酸を塗布し焼成を行うフッ素化ポリイミド膜製造工程を、2回以上繰り返すことにより、フッ素化ポリイミド多層膜を製造する方法において、該焼成を、最高温度380℃未満で行うと共に、焼成時間を1時間以上とすることを特徴とするフッ素化ポリイミド多層膜の製造方法。
【請求項2】
雰囲気中の酸素濃度を10%以下にして焼成を行う請求項1に記載のフッ素化ポリイミド多層膜の製造方法。

【公開番号】特開2006−289194(P2006−289194A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−110173(P2005−110173)
【出願日】平成17年4月6日(2005.4.6)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】