説明

フッ素化ポリトリアジン化合物およびその製造方法

【課題】高い耐熱性を有する含フッ素エラストマーの合成等に有用な、2以上のトリアジン環を1分子中に有するフッ素化ポリトリアジンの製造方法を提供する。
【解決手段】式−COXで表わされる基をn個有する化合物(A)と、下式(b)で表される化合物を反応させることにより、2以上のトリアジン環とフッ素原子とを必須とするフッ素化ポリトリアジン化合物を得ることを特徴とする、フッ素化ポリトリアジン化合物の製造方法(ただし、nは1以上の整数、mは0以上の整数を示し、(n+m)は2以上の整数であり、Rはフッ素化1価炭化水素基、またはエーテル性酸素原子を有するフッ素化1価炭化水素基を示し、Rはフッ素化2価炭化水素基またはエーテル性酸素原子を有するフッ素化2価炭化水素基を示す。)
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2以上のトリアジン環とフッ素原子とを必須とする新規のフッ素化ポリトリアジン化合物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
含フッ素エラストマーは、優れた耐熱性、耐薬品性、耐プラズマ性などを有しており、電気、化学、機械など各種の分野において、シール材やOリング、ガスケット、パッキン、ホースなどの成形材料として広く使用されている。特に半導体製造分野において使用される材料には、更なる耐熱性の向上が求められている。耐熱性を向上させるためには、ポリマー分子間に架橋を掛けることが有効であるが、現在主流に用いられている架橋剤のトリアリルイソシアヌレート(商業品名:TAIC)は、架橋部位の耐熱性が不十分であった。
架橋部位の耐熱性を向上させるために、架橋部位を含めたポリマー全体をペルフルオロ構造とする検討がなされている。特に、シアノ基を有するペルフルオロビニルエーテルを共重合させ、該シアノ基を触媒存在下、加熱反応によってトリアジン架橋させる例が提示されている(非特許文献1、特許文献1)。
しかし、全てのニトリル基が反応してトリアジン環を形成させることは困難であり、トリアジン環を形成する前の中間体が残存しうる問題があった。また、シアノ基を有するペルフルオロビニルエーテルのポリマー中における含有量は1mol%程度と少なく、全てのニトリル基がトリアジン環を形成した場合でも、トリアジン環のポリマー中における密度は極めて小さくなるため、効率的に耐熱性を向上させることは困難であった。
ポリマー中に高密度でトリアジン架橋を導入するために、一旦、2つ以上の重合性不飽和基を有するトリアジン化合物を合成し、それを共重合させる例が報告されている(特許文献2および3)。2つのペルフルオロビニルエーテル基を有するトリアジン化合物としては、下式(x)で表される化合物が示されており、3つのペルフルオロビニルエーテル基を有するトリアジン化合物としては、下式(y)で表される化合物が示されている。
【0003】
【化1】

【0004】
しかし、分子中で複数のトリアジン環が連結し、より高密度で架橋部位をポリマー中に導入できる、ペルフルオロトリアジン化合物は、知られていない。
【特許文献1】米国特許第4,281,092号
【特許文献2】特開平6−340640号
【特許文献3】特許第3463318号
【非特許文献1】ジャーナル・オブ・フルオリン・ケミストリー(Journal of Fluorine Chiemistry)、2003年、第122巻、p.113−119
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、高い耐熱性を有する含フッ素エラストマーの合成に有用な化合物である、2以上のトリアジン環とフッ素原子とを必須とするフッ素化ポリトリアジン化合物の製造方法および新規なフッ素化ポリトリアジンを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下の通りである。
1)式−COXで表わされる基をn個有する化合物(A)と、下式(b)で表される化合物を反応させることにより、2以上のトリアジン環とフッ素原子とを必須とするフッ素化ポリトリアジン化合物を得ることを特徴とする、フッ素化ポリトリアジン化合物の製造方法。
【0007】
【化2】

【0008】
(ただし、、Xはハロゲン原子を示し、nは1以上の整数、mは0以上の整数を示し、(n+m)は2以上の整数であり、Rはフッ素化1価炭化水素基、またはエーテル性酸素原子を有するフッ素化1価炭化水素基を示し、Rはフッ素化2価炭化水素基またはエーテル性酸素原子を有するフッ素化2価炭化水素基を示す。)
2)化合物(A)が、下式(a)で表される化合物である上記1)に記載の製造方法。
【0009】
【化3】

【0010】
(ただし、nおよびXは前記と同じ意味を示し、Rはフッ素化n価炭化水素基、またはエーテル性酸素原子を有するフッ素化n価炭化水素基を示す。)
3)nが1以上の整数である式(a)で表される化合物と、mが1以上の整数である式(b)で表される化合物とを反応させる上記2)に記載のフッ素化ポリトリアジン化合物の製造方法。
4)下式(a−1)で表わされる化合物と、下式(b−1)で表わされる化合物とを反応させることを特徴とする、下式(c−1)で表される化合物の製造方法。
【0011】
【化4】

【0012】
(ただし、R11はフッ素化1価炭化水素基、またはエーテル性酸素原子を有するフッ素化1価炭化水素基を示し、Xはハロゲン原子、−OR(ただし、Rは、水素原子、またはアルキル基を示す。)、−SCOR20、−OC(O)R20、−OSO20、−NR40(COR20)、または−NH(SO30)(ただし、R20、R30、およびR40はそれぞれ独立に、1価炭化水素基またはハロゲン化1価炭化水素基を示し、R40は水素原子であってもよい。)で表される基を示し、Rはフッ素化1価炭化水素基、またはエーテル性酸素原子を有するフッ素化1価炭化水素基を示し、R31はフッ素化2価炭化水素基またはエーテル性酸素原子を有するフッ素化2価炭化水素基を示す。)
5)nが2以上の整数である式(a)で表される化合物と、mが0以上の整数である式(b)で表される化合物とを反応させる上記2)に記載のフッ素化ポリトリアジン化合物の製造方法。
6)下式(a−2)で表される化合物と、下式(b−2)で表される化合物とを反応させることを特徴とする下式(c−2)で表される化合物の製造方法。
【0013】
【化5】

【0014】
(ただし、R12はフッ素化2価炭化水素基、またはエーテル性酸素原子を有するフッ素化2価炭化水素基を示し、Xはハロゲン原子を示し、Rはフッ素化1価炭化水素基、またはエーテル性酸素原子を有するフッ素化1価炭化水素基を示す。)
7)式(b)で表される化合物における下式(B’)で表される構造の総量に対して、式(a)で表される化合物における−COX基の総量が0.8〜1.2倍モルとなる量で反応を行う上記1)〜6)のいずれかに記載の製造方法。
【0015】
【化6】

【0016】
8)下式(c−1)で表される化合物。
【0017】
【化7】

【0018】
(ただし、R11はフッ素化1価炭化水素基、またはエーテル性酸素原子を有するフッ素化1価炭化水素基を示し、Rはフッ素化1価炭化水素基またはエーテル性酸素原子を有するフッ素化1価炭化水素基を示し、R31はフッ素化2価炭化水素基、エーテル性酸素原子を有するフッ素化2価炭化水素基を示す。)
9)RおよびR11は、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ、独立に炭素数1〜10のフッ素化1価炭化水素基、または炭素数1〜10のエーテル性酸素原子を有するフッ素化1価炭化水素基を示し、RおよびR11から選ばれる2個以上の基は、重合性不飽和基を含む基を示し、R31は炭素数1〜10のフルオロアルキレン基、または炭素数1〜10のエーテル性酸素原子を有するフルオロアルキレン基を示す、上記8)に記載の化合物。
10)下式(c−1−1)で表される化合物。
【0019】
【化8】

【0020】
(ただし、R31は、炭素数1〜10のペルフルオロアルキレン基、または炭素数1〜10のエーテル性酸素原子を有するペルフルロアルキレン基を示す。)
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明においては、式(a)で表される化合物を化合物(a)と記す。他の式で表される化合物も同様に記す。
本発明の化合物の表記において、式(B’)で表される部分構造における二重結合は共役しており、下式(B’−1)で表される構造および下式(B’−2)で表される構造の両構造が平衡状態で存在していることを意味する。本明細書においては、両構造を区別することなく、式(B’−1)で表される構造、または式(B’−2)で表される構造として表記する。同様に、本明細書におけるトリアジン環の表記においても、二重結合の位置は特定されない。
【0022】
【化9】

【0023】
本発明における炭化水素基とは、炭素原子と水素原子からなる基をいい、飽和基、不飽和基のいずれであってもよい。また、炭化水素基は、芳香族炭化水素基または脂肪族炭化水素基のいずれでもよく、脂肪族炭化水素基が好ましい。脂肪族炭化水素基の構造は、直鎖状であってもよく、分岐状であってもよく、環状であってもよく、部分的に環状構造を有する構造であってもよい。炭化水素基の炭素数は、特に記載しない限り1〜10が好ましく、3〜10が特に好ましい。脂肪族炭化水素基が、1価の基である場合の例としては、アルキル基、アルケニル基、又はアルキニル基が挙げられる。脂肪族炭化水素基が2価の基である場合の例としては、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基が挙げられる。
【0024】
本発明において、エーテル性酸素原子を有する炭化水素基とは、炭化水素基の炭素原子−炭素原子間にエーテル性酸素原子が挿入された基、または炭化水素基の末端にエーテル性酸素原子が結合した基をいう。エーテル性酸素原子の個数は特に限定されない。
【0025】
本発明において、フッ素化n価炭化水素基とは、n価炭化水素基中の水素原子の1以上がフッ素原子に置換された基をいう。n価炭化水素基中の水素原子の全てがフッ素原子に置換(ペルフルオロ化ともいう)された基をペルフルオロn価炭化水素基と記載する。アルキル基がペルフルオロ化された基をペルフルオロアルキル基、2価炭化水素基がペルフルオロ化された基をペルフルオロ2価炭化水素基と記す。エーテル性酸素原子を有するn価炭化水素基がフッ素化された基においても同様に、エーテル性酸素原子を有するフッ素化n価炭化水素基のように記す。
【0026】
本発明において、ハロゲン原子とは、フッ素原子、塩素原子、ヨウ素原子、臭素原子をいい、特に記載しない限り、フッ素原子または塩素原子が好ましく、フッ素原子が特に好ましい。
ハロゲン化1価炭化水素基とは、1価炭化水素基の水素原子の1以上がハロゲン原子に置換された基をいう。ハロゲン原子がフッ素原子である場合には、フッ素化1価炭化水素基になる。
【0027】
本発明は、式−COXで表わされる基をn個有する化合物(A)と、下式(b)で表される化合物を反応させることによる、2以上のトリアジン環とフッ素原子とを必須とするフッ素化ポリトリアジン化合物の製造方法を提供する。
式−COXで表わされる基をn個有する化合物(A)としては、後述する化合物(a)のほか、式−COXで表わされる基を有する重合性化合物のモノマー単位を含む重合体が挙げられる。
式−COXで表わされる基を有する重合性化合物としては、CF=CFO(CFCOF(tは1〜5の整数)等が挙げられる。
【0028】
化合物(A)としては、式R(COX)で表される化合物(a)が好ましい。化合物(a)におけるnは、Rに結合した基(−COX)の個数をいい、nは1以上の整数を示し、1〜10の整数が好ましく、1〜4の整数が特に好ましく、1または2がとりわけ好ましい。
は、nが1である場合には、フルオロアルキル基、フルオロアルケニル基およびフルオロアルキニル基から選ばれる基、またはエーテル性酸素原子を有する該選ばれる基が好ましい。重合性の化合物を生成物として得たい場合には、Rがフルオロアルケニル基またはエーテル性酸素原子を有するフルオロアルケニル基が特に好ましく、炭素数1〜20のこれらの基がとりわけ好ましく、さらに炭素数1〜10のこれらの基が好ましい。
が重合性基または重合性基を部分構造として有する基である場合には、CF=CFR−、CF=CFOR−、またはCF=CFCFOR−(ただし、Rは、ペルフルオロ2価炭化水素基を示す)が好ましい。ペルフルオロ2価炭化水素基とは、2価炭化水素基中の炭素原子に結合する水素原子のすべてがフッ素原子に置換された基、または該基の炭素−炭素結合間にエーテル性酸素原子が挿入された基である。Rは、炭素数1〜10のペルフルオロアルキレン基、またはエーテル性酸素原子を有する炭素数1〜10のペルフルオロアルキレン基が特に好ましい。Rは、nが2である場合には、フルオロアルキレン基、フルオロアルケニレン基、エーテル性酸素原子を含むフルオロアルキレン基、エーテル性酸素原子を含むフルオロアルケニレン基が好ましい。nが2であるRの炭素数は、1〜20が好ましく、1〜8が特に好ましい。
【0029】
化合物(A)の−COX部分のXについては、Xがハロゲン原子である場合には、塩素原子またはフッ素原子が好ましく、フッ素原子が特に好ましい。化合物(a)の具体例は、後述する。
【0030】
化合物(b)において、mは()内の構造単位の数を示し、mは0以上の整数を示す。mが0である場合は()内の構造単位が存在しないことを示し、mが1以上である場合には、()内の構造単位が1個以上連なっていることを意味する。mは0〜7が好ましく、0〜3が特に好ましく、0または1がとりわけ好ましい。
がフッ素化2価炭化水素基またはエーテル性酸素原子を有するフッ素化2価炭化水素基である場合の態様は、nが2である場合のRの態様と同じである。Rは、炭素数1〜10のフルオルアルキレン基またはエーテル性酸素原子を含む炭素数1〜10のフルオルアルキレン基が好ましく、炭素数1〜10のペルフルオルアルキレン基、またはエーテル性酸素原子を含む炭素数1〜10のペルフルオルアルキレン基が特に好ましい。
がフッ素化1価炭化水素基、またはエーテル性酸素原子を有するフッ素化1価炭化水素基である場合の好ましい態様は、Rにおいて記載した態様と同じである。さらに、Rは、CF=CFR−、CF=CFOR−、またはCF=CFCFOR−等が好ましい(Rは前記と同じ意味を示す。)。
化合物(b)の例は、後述する。
【0031】
本発明においては、式−COXで表わされる基をn個有する化合物(A)と化合物(b)とを反応させて、フッ素化ポリトリアジン化合物を生成させる。フッ素化されたポリトリアジン化合物とは、構造中に2以上のトリアジン環を有し、トリアジン環に結合する基の1つ以上がフッ素原子を必須とする基である化合物をいう。本発明の製造方法により得られるフッ素化ポリトリアジン化合物は、トリアジン環に結合する基として、Rを必須とし、Rは含フッ素の基である。また、トリアジン環に結合する他の基が存在する場合には、該他の基はフッ素原子を含む基であっても、含まない基であってもよいが、生成物の有用性の観点からは、含フッ素の基であることから、トリアジン環に結合する全ての基は、含フッ素の基が好ましく、ペルフルオロ化された基が特に好ましい。
本発明の反応を、構造中に2個のトリアジン環を有し、かつ、1以上のフッ素原子を有するジトリアジン化合物の製造方法において、まず説明する。
【0032】
ジトリアジン化合物の製造方法としては、下記方法1と方法2が挙げられる。方法1は、nが1である下記化合物(a−1)と、mが1である下記化合物(b−1)を反応させて、下記化合物(c−1)を得る方法である。
【0033】
【化10】

【0034】
化合物(a−1)におけるR11は、炭素数1〜10のペルフルオロアルキル基、または炭素数1〜10のエーテル性酸素原子を有するペルフルオロアルキル基、CF=CFR−、CF=CFOR−、またはCF=CFCFOR−(ただし、Rは前記と同じ意味を示す。)であり、R31はR11と同一の基、炭素数1〜10のペルフルオロアルキレン基、または炭素数1〜10のエーテル性酸素原子を有するペルフルロアルキレン基であることが特に好ましい。R11の具体例は、後述する化合物の具体例のなかに示される。
化合物(a−1)におけるXがハロゲン原子である場合の例は、Xと同じである。
がハロゲン原子以外である場合の態様としては、Xが−OR(ただし、Rは、水素原子、またはアルキル基を示す。)である場合には、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基が好ましく、−SCOR20である場合には−SCOCFが好ましく、−OC(O)R20である場合には−OC(O)CFCFが好ましく、−OSO20である場合には−OSOCFが好ましく、−NR40(COR20)である場合には−N(CF)COCFCFが好ましく、−NH(SO)である場合には−NH(SOCFCF)が好ましい。Xはハロゲン原子または−OC(O)R20が好ましい。
化合物(a−1)のXがハロゲン原子である例:CFCOF、CFCOCl、CFCOBr、CFCOI、CFCFCOF、CFCFCFCOF、(CFCFCOF、CyCFCOF(Cyはペルフルオルシクロヘキシル基を示す)、CFCFOCFCOF、CFCFOCFCFOCFCFOCFCOF、CF=CFOCFCFCFCOF、CF=CFOCFCF(CF)OCFCFCFCOF、CF=CFCFCOF、CF=CFCFOCFCFCOF。
化合物(a−1)のXが−ORである例:CFCOOCH、CFCOOCF、CFCFCOOCFCF等の化合物。
化合物(a−1)のXが−SCOR20である例:CFC(O)SCOCF
化合物(a−1)のXが−OC(O)R20である例:(CFCO)O、(CFCFCO)O、CFC(O)OC(O)CFCF
化合物(a−1)のXが−OSO20である例:CFC(O)OSOCF等の化合物
化合物(a−1)のXが−NR40(COR20)である例:CFC(O)N(CF)COCFCF、(CFCO)NCH、(CFCO)NH。
化合物(a−1)のXが−NH(SO)である例:CFC(O)NHSOCFCF
【0035】
さらに、R11およびRの少なくとも一方の基が、CF=CFR−、CF=CFOR−、およびCF=CFCFOR−から選ばれる重合性不飽和基(ただし、Rは前記と同じ意味を示す。)であり、他方の基は、該重合性不飽和、または素数1〜10のペルフルオロアルキル基、または炭素数1〜10のエーテル性酸素原子を有するペルフルオロアルキル基であることが更に好ましい。
31は、ペルフルオロ2価炭化水素基、またはエーテル性酸素原子を含むペルフルオロ2価炭化水素基が好ましく、ペルフルオロ2価飽和炭化水素基、またはエーテル性酸素原子を含むペルフルオロ2価飽和炭化水素基が特に好ましい。R31の炭素数は1〜20が好ましく、1〜8が特に好ましい。
【0036】
化合物(b−1)の具体例としては、下記化合物が挙げられる。
【0037】
【化11】

化合物(c−1)としては、下記化合物(c−1−1)が有用性の観点から好ましい(ただし、R31は、炭素数1〜10のペルフルオロアルキレン基、または炭素数1〜10のエーテル性酸素原子を有するペルフルロアルキレン基を示し、−CFO(CFOCF−が好ましい。)。化合物(c−1−1)は文献未記載の新規化合物である。
【0038】
【化12】

【0039】
ジトリアジン化合物の別の製造方法(方法2)としては、nが2である化合物(a−2)とmが0の場合である化合物(b−2)を反応させる方法が挙げられる(ただし、式中の記号は、前記と同じ意味を示す。)。
【0040】
【化13】

【0041】
化合物(a−2)のR12としては、R31と同様の基が好ましい。Xはハロゲン原子であり、式(A)と同じである。化合物(c−2)におけるRの好ましい態様は、化合物(c−1)のR11およびRと同じである。
【0042】
方法1でジトリアジン化合物を製造する場合には、ジトリアジン環に結合する2つの基(RおよびR11)が同一であっても異なっていてもよい化合物(c−1)が製造できる。方法2でジトリアジン化合物を(c−2)製造する場合には、ジトリアジン環に結合する2つの基(R)は同一の基になる。
本発明の製造方法は、ジトリアジン化合物を製造する方法だけでなく、3以上のトリアジン環を有する化合物の製造方法として用いうる。3以上のトリアジン環化合物を有する生成物を製造できる。
たとえば、nが1である化合物(a)と、mが2である化合物(b)とを反応させた場合には、下記化合物(c−30)が生成する。
【0043】
【化14】

【0044】
nが3である化合物(a)と、mが0である化合物(b)とを反応させた場合には、下記化合物(c−31)が生成する。ただし、Rはフッ素化3価炭化水素基またはエーテル性酸素原子を有する3価炭化水素基を示す。
【0045】
【化15】

【0046】
nが2以上の整数であり、mが1以上の整数である場合の化合物(c)を、化学式で示すことは困難であるが、生成しうる化合物(c)を模式的に表現して説明する。
たとえば、nが2の整数である化合物(a−2)とmが1の整数である化合物(b−1)とを反応させた場合には、トリアジン環を2個以上有する下記化合物等の混合物が生成しうる。ただし、下式において三角の記号で示した部分は、トリアジン−トリイル基であることを示し、Rに結合したCOXは未反応の基(−COX)を示す。
【0047】
【化16】

【0048】
別の例として、nが3である化合物(a)とmが1である化合物(b)とを反応させた場合においては、下式で示されるポリトリアジン化合物が生成しうる。ただし、下式において三角の記号で示した部分は、トリアジン−トリイル基であることを示し、Rから伸びる波線の結合手は、該結合手に結合する基の構造が限定されないことを示し、[]で囲まれる基、または下式で示される構造中にRに結合する基として記載される基、が結合していることを示す。またRに結合したCOXは未反応の基(−COX)を示す。
【0049】
【化17】

【0050】
本発明の製造方法において、反応生成物中に存在するトリアジン環の数は2個以上である。たとえば、−COX基をn個(ただし、nは1以上の整数を示す。)有する化合物(A)と、前記式(B’)で表される構造を2個以上有する化合物(b)(すなわち、m+1は2以上の整数。)との反応において、化合物(A)中のCOX基と化合物(B)中の式(B’)で表される構造とが、同じ分子間で全て反応してトリアジン環を生成させた場合には、生成物中のトリアジン環の数は、n>m+1である場合にはn個、n<m+1である場合にはm+1個になりうる。たとえば、nが10である化合物(a)と、m+1が5である化合物(b)を反応させた場合には、生成物は、トリアジン環を10個有する化合物となりうる。実際には、全て反応しない場合もありうることから、生成物中のトリアジン環の最大数は10個になると考えられる。
また、化合物(A)中のCOX基と化合物(B)中の式(B’)で表される構造とが、それぞれ異なる分子間で反応することもありうる。その場合には、生成物中のトリアジン環の数は無限大となる。ただし、理論的なトリアジン環の最大数は、反応系中に存在する化合物(A)中のCOX基の数と式(B’)で表される構造の数うち、多い数である。
【0051】
nが2以上の整数、m+1が2以上の整数である場合の化合物(b)の構造は、1種とはならず、通常は、2種以上になりうる。よって、化合物(c)の構造は、化合物(A)中のCOX基の数(化合物(a)を用いた場合にはRの構造。)、化合物(b)の構造(B’)の数、Rの構造、および、化合物(a)と化合物(b)の量比や、反応条件を変更することにより、変更されうる。
【0052】
化合物(c)がトリアジン環が2つであるフッ素化ジトリアジンである場合の例としては、つぎの例が挙げられる。
【0053】
【化18】

【0054】
【化19】

【0055】
【化20】

【0056】
【化21】

【0057】
【化22】

【0058】
化合物(c)がトリアジン環が3個であるフッ素化トリトリアジンである場合の例としてはつぎの例が挙げられる。
化合物(a)がCF[(CFCFO)a1CFCOF]であり、化合物(b)がmが0、RがCF=CFO(CF−である場合の下記化合物(c−30)の製造例。
【0059】
【化23】

【0060】
化合物(a)がCF[(CFCFO)a1CFCOF]であり、化合物(b)がmが1以上の整数、RがCF=CFO(CF−、Rが−CFO(CFOCF−である場合の化合物(c−31)の製造例。
【0061】
化合物(c)がトリアジン環が3以上である場合の例としては、化合物(a)がCF=CFO(CFCOFを重合させた−(CF−CF(O(CFCOF))−単位を2以上有する重合体であり、化合物(b)がmが0、RがCF=CFO(CF−である場合に生成する下記繰り返し単位を必須とする下記化合物(c−32a)の製造例。
【0062】
【化24】

【0063】
化合物(a)がCF=CFO(CFCOFを重合させた−(CF−CF(O(CFCOF))−単位を2以上有する重合体であり、化合物(b)がmが0、RがCF(CFb4−である場合に生成する下記繰り返し単位を必須とする下記化合物(c−32b)の製造例。
【0064】
【化25】

【0065】
化合物(a)がCF=CFO(CFCOFであり、化合物(b)がmが1以上の整数、RがF(CFb1−、Rが−(CFb2−である下記化合物(c−33a)の製造例。
【0066】
【化26】

【0067】
化合物(a)がCF(CFb4COFであり、化合物(b)がmが1以上の整数、RがF(CFb1−、Rが−(CFb2−である下記化合物(c−33b)の製造例。
【0068】
【化27】

【0069】
化合物(A)と化合物(b)との反応条件は、化合物の構造により適宜変更されうるが通常の場合、反応温度は−60℃から100℃で行うのが好ましく、0℃から40℃で行うのがより好ましい。反応は無溶媒で行ってもよいが、原料が固体である場合には、溶媒の存在下で行っても良く、選択される溶媒は、原料となる化合物と反応しなければ特に限定されないが、ベンゼン、トルエン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ターシャリーブチルメチルエーテル、クロロホルム、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、クロロフルオロカーボン、ハイドロクロロフルオロカーボン、四塩化炭素、アセトン、アセトニトリル、酢酸エチル、などが好ましい。反応時間は短いほど生産性が高いが、通常10分〜48時間程度で行うのが好ましい。
【0070】
本発明の反応は、反応基質となる化合物のみでも進行するが、必要に応じて反応系中に反応を促進する他の成分を存在させてもよい。他の成分の例としては、発生する酸を除く目的で用いる、NaF、KFなどのアルカリ金属塩、トリエチルアミンなどの塩基性有機化合物が挙げられる。また触媒として塩化水素、硫酸などの酸性化合物、三塩化アルミニウム、四塩化チタンなどのルイス酸化合物等が挙げられる。
【0071】
化合物(A)と化合物(b)の量比は、化合物(A)をk1モル用いた場合のCOX基の総量(n×k1)モルに対する、化合物(b)の構造Aの総量[(m+1)×k2]モル[すなわち、(n×k1)/[(m+1)×k2]を0.8〜1.2倍モルとするのが好ましく、0.9〜1.1倍モルが特に好ましく、0.95〜1.05倍モルとするのがとりわけ好ましい。
化合物(A)として、化合物(a−1)、化合物(b)として化合物(b−1)を用いる場合の量比は、k1/k2を0.8〜1.2倍モルとするのが好ましく、0.9〜1.1倍モルが特に好ましく、0.95〜1.05倍モルとするのがとりわけ好ましい。
【0072】
上記で説明した本発明の製造方法及び本発明の化合物における基の例としては、下記基が挙げられる。
【0073】
フッ素化1価炭化水素基のうち、飽和基の例:F(CF−(pは2〜8が好ましい。)、F(CF(C2x+1))−(xは1〜2、pは1が好ましい。)、およびF(C(C2x+1)(C2y+1))−(xおよびyは、それぞれ独立に1〜2が好ましい)から選ばれる基、またはこれらの基が連結してなる基。ペルフルオロ(1−アダマンチル)基、または該基中のフッ素原子の1個以上を炭素数1〜6のペルフルオロアルキル基またはペルフルオロアルコキシ基で置換した基。
【0074】
フッ素化1価炭化水素基のうち、重合性の基の例:CF=CFR−、CF=CFOR−、CF=CFCFOR−、BrCF−、ICF−(ただし、Rは、前記と同じ意味を示す。)。
ペルフルオロアルキレン基の例(ただし、x、y、pは1以上の整数を示す。以下、同様。):−(CF−(pは2〜8が好ましい。)、−(CF(C2x+1))−(xは1〜2、pは1が好ましい。)、および−(C(C2x+1)(C2y+1))−(xおよびyは、それぞれ独立に1〜2が好ましい)から選ばれる基、またはこれらの基が連結してなる基。
【0075】
下式で表されるペルフルオロシクロペンチレン基および下式で表されるペルフルオロシクロヘキシレン基から選ばれる基、または該選ばれる基中のフッ素原子の1個以上を炭素数1〜5のペルフルオロアルキル基で置換した基。
【0076】
【化28】

【0077】
エーテル性酸素原子を含むペルフルオロアルキレン基の例(ただし、qは0以上の整数を示す。):−(CFO(CF−(pは1〜7、pは1〜3が好ましい)、−(CF(OCFCFOCF−(pは1、pは1〜2が好ましい)、−(CFO(CF(C2x+1)CFO)CF(C2x+1)−(pは1、xは1〜2、qは0〜1が好ましい)、−(CFO(CFO(CF(C2x+1)CFO)CF(C2x+1)−(pは1、xは1〜2、qは0〜1が好ましい)、−CF(C2x+1)(OCFCF(C2x+1))O(CFO(CF(C2x+1)CFO)CF(C2x+1)−(pは1〜7、xは1〜2、qは0〜1が好ましい)、または−CF(C2x+1)(OCFCF(C2x+1))O(CFO(CFO(CF(C2x+1)CFO)CF(C2x+1)−(s、pは1〜7、qは0〜1、rは0〜1、xは1〜2が好ましい)。
【0078】
下式で示される基、または該基の環に結合するフッ素原子の1個以上を炭素数1〜5のペルフルオロアルキル基または炭素数1〜5のペルフルオロアルコキシ基で置換した基。
【0079】
【化29】

【0080】
本発明の製造方法に用いられる化合物(A)は、公知の製造方法を用いて製造できる。
一方、化合物(b)の入手方法については、たとえば、mが1である化合物(b)は、下記スキームに沿って合成できる。置換基の符号の意味は、前記と同義である。他の本発明の化合物も下記に準じて合成することができる。
【0081】
【化30】

【0082】
化合物(h)としては、市販のもの、または国際公開00/56694号パンフレットに記載の方法等にしたがって合成したペルフルオロエステル体から、公知の方法によって誘導化したものが挙げられる。
【0083】
化合物(h)から、化合物(g)を経て、化合物(f)へ変換する方法としては、たとえば、Journal of Organic Chemistry、1969年、第34巻、p.1841−1844に記載の方法が挙げられる。
【0084】
化合物(f)とアンモニアとの反応によって化合物(e)を合成する方法としては、たとえば、Journao of Fluorine Chemistry、1980年、第15巻、p.327−331に記載の方法が挙げられる。
化合物(d)は、特開平9−3027号公報に記載の方法によって合成できる。
化合物(b−1)は、化合物(e)と化合物(d)とを反応させることによって合成できる。
化合物(e)と化合物(d)との反応は、化合物(d)に化合物(e)を添加することによって行うことが好ましい。化合物(d)に化合物(e)を添加すれば、化合物(d)の割合が常に化合物(e)よりも上回るため、化合物(d)のRが重合性不飽和基の場合、その重合性不飽和基と化合物(e)のアミジン基が反応しにくくなり、収率の低下が抑えられる。
また、該観点から、化合物(d)の量は、化合物(e)に対して2〜5当量が好ましく、2〜2.2当量がより好ましい。過剰に用いた化合物(d)は、反応終了後、蒸留操作等によって回収できる。
【0085】
化合物(e)と化合物(d)との反応は、無溶媒で行ってもよく、化合物(d)および化合物(e)に不活性な溶媒を用いて行ってもよい。化合物(e)は固体であることが多いため、反応プロセスの点から、化合物(e)を溶媒に溶解させ、滴下することが好ましい。
該溶媒としては、たとえば、エーテル、tert−ブチルメチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、モノグライム、ジグライム、トリグライム、テトラグライム、ジエチレングリコールジエチルエーテル、クロロホルム、ジクロロメタン、四塩化炭素、CClH等が挙げられる。
化合物(e)と化合物(d)との反応における温度は、通常−60℃〜室温であり、0℃〜20℃が好ましい。加熱しても構わない。
【0086】
化合物(b)と化合物(A)とを反応させることにより、本発明のフッ素化ポリトリアジン化合物が生成できる。化合物(A)としては、市販のもの、または国際公開00/56694号パンフレットに記載の方法等にしたがって合成したペルフルオロエステル体から、公知の方法によって誘導化したものが挙げられる。
また、mが2以上である場合の化合物(b)の製造方法としては、前記の出発物質(h)を対応する構造に変更して同様に製造する方法が挙げられる。またmが3以上である化合物(b)の製造は、化合物(d)のシアノ基が2以上である化合物(d’)を用いて以下の反応を実施する例が挙げられる。すなわち、2分子の化合物(e)と、化合物(d’)を反応させ、つぎに式R−CNで表わされる化合物(d)と反応させて、化合物(b−2)を得る方法である。
【0087】
【化31】

【0088】
本発明の製造方法によって製造する化合物は、複数のトリアジン環を有する新規化合物である。特にトリアジン環化合物に重合性不飽和基を有する化合物は、架橋反応によってエラストマー中に高密度でトリアジン環架橋点を導入することができ、耐熱性を向上させることができる。また、ペルフルオロ体であることから、さらに高耐熱の含フッ素エラストマーが得られる。
【実施例】
【0089】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
ガスクロマトグラフィー分析はGCと、質量スペクトル分析はMSと、赤外吸収分光法は、IRと、CClFCClFは、R−113と、CFClCFCHClFとCHClCFCFとの混合液は、R−225と、テトラヒドロフランは、THFと記す。
【0090】
〔例1〕
化合物(c−1−1)を下記合成スキームに沿って合成した。
【0091】
【化32】

【0092】
化合物(j−1−1)の合成:
温度計、滴下漏斗を備えた丸底フラスコに、トリエチレングリコールの50g、フッ化ナトリウム粉末の84g、R−225の100gを投入し、氷冷しながら激しく撹拌した。フラスコ内にCOCF(CF)COFの245gを、内温が10℃を超えないようにゆっくり滴下した。COCF(CF)COFの全量を滴下した後、室温で1.5時間撹拌を続けた。GCにより、トリエチレングリコールの消失を確認し、反応を停止した。得られた溶液から加圧ろ過でフッ化ナトリウム粉末を除去し、エバポレーターで濃縮してR−225および過剰のCOCF(CF)COFを除去し、濃縮液を得た。該濃縮液を減圧蒸留して、GC純度99%の留分(251g)を得た。留分を分析した結果、化合物(j−1−1)の生成を確認した。
【0093】
化合物(i−1−1)の合成:
オートクレーブ(ニッケル製、内容積500mL)を用意し、オートクレーブのガス出口に、20℃に保持した冷却器、NaFペレット充填層、および−10℃に保持した冷却器を直列に設置した。また−10℃に保持した冷却器から凝集した液をオートクレーブに戻す液体返送ラインを設置した。
オートクレーブにR−113の312gを投入し、20℃に保持しながら撹拌した。オートクレーブに窒素ガスを20℃で1時間吹き込んだ後、窒素ガスで20体積%に希釈したフッ素ガス(以下、20%フッ素ガスと記す。)を、20℃、流速17.0L/hで1時間吹き込んだ。ついで、20%フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながら、オートクレーブに、化合物(j−1−1)の124gをR−113の497gに溶解した溶液を、24時間かけて注入した。
【0094】
ついで、20%フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながら、オートクレーブの内圧を0.15MPa(ゲージ圧)まで加圧した。オートクレーブ内に、R−113中に0.01g/mLのベンゼンを含むベンゼン溶液の9mLを、25℃から40℃にまで加熱しながら注入し、オートクレーブのベンゼン溶液注入口を閉めた。ベンゼンの注入総量は0.09gであった。
さらに、20%フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながら、1時間撹拌を続けた。ついで、オートクレーブ内の圧力を大気圧にして、窒素ガスを1時間吹き込んだ。オートクレーブの内容物をNMRにより分析した結果、化合物(i−1−1)(NMR収率98%)の生成を確認した。
【0095】
化合物(h−1−1)の合成:
温度計、滴下漏斗を備えた丸底フラスコに、化合物(i−1−1)の150g、フッ化ナトリウム粉末の39g、R−225の150gを投入し、フラスコを氷浴に漬けながら激しく撹拌した。フラスコ内に、メタノールの22gを、内温が10℃を超えないように滴下した。メタノールの全量を滴下した後、氷浴を外して室温でさらに2時間撹拌し、GCにより化合物(i−1−1)の消失を確認した。得られた溶液から、加圧ろ過でフッ化ナトリウム粉末を除去し、エバポレーターで濃縮してR−225および過剰のメタノールを除去し、濃縮液を得た。濃縮液を単蒸留し、副生するCOCF(CF)COOCHを分取して、無色液体を54g得た。NMR、GC−MSにより分析した結果、化合物(h−1−1)(GC純度98%、収率98%)の生成を確認した。
【0096】
化合物(g−1−1)の合成:
温度計、滴下漏斗、コールドトラップ、ガス導入管を備えた丸底フラスコに、R−225の210gを投入し、フラスコを氷浴に浸しながら、フラスコ内にアンモニアガスを吹き込んだ。しばらく撹拌を続けた後、フラスコ内に、化合物(h−1−1)の54gを、内温が10℃を超えないようにゆっくりと滴下した。化合物(h−1−1)の全量を滴下した後、さらに1時間撹拌を続け、GCにより化合物(h−1−1)の消失を確認したところで反応終了とした。フラスコ内に窒素ガスを2時間吹き込み、過剰のアンモニアを除去してから溶媒を除去し、さらに真空ポンプで減圧乾燥して、白色粉末を49g得た。NMR、IRにより分析した結果、化合物(g−1−1)が定量的に生成していることを確認した。
【0097】
化合物(f−1−1)の合成:
丸底フラスコに、化合物(g−1−1)の49g、P粉末の65gを投入し、激しく振り混ぜてよく混合した。フラスコ頭頂部から順に、留出器、トラップ管、真空ポンプを取り付け、フラスコをマントルヒーターに設置した。フラスコ内を真空ポンプで66kPaに減圧しながら、フラスコを270℃に加熱し、30分加熱した。さらに50kPaに減圧したところで、液体の留出が始まった。13〜50kPaに減圧しながら液体を留出させ、24gの無色液体を得た。また、トラップ管からも7gの無色液体を回収した。GC、GC−MSにより分析した結果、それぞれGC純度97%、95%で化合物(f−1−1)が生成していることを確認した。
【0098】
化合物(f−1−1)の19F−NMRのスペクトルデータを示す。
19F−NMR(282.6MHz、溶媒:CDCl、基準:CFCl)、δ(ppm):−58.4(4F)、−88.4(4F)。
【0099】
化合物(e−1−1)の合成:
温度計、滴下漏斗、コールドトラップ、ガス導入管を備えた丸底フラスコに、tert−ブチルメチルエーテルの10gを投入し、−50℃に冷却しながらフラスコ内にアンモニアガスを吹き込んだ。しばらく撹拌を続けた後、フラスコ内に、化合物(f−1−1)の15gをtert−ブチルメチルエーテル17gで希釈した溶液をゆっくりと滴下した。フラスコ内は徐々に白濁し、固形物の析出を確認した。化合物(f−1−1)の全量を滴下した後、tert−ブチルメチルエーテルの10gを追加し、アンモニアガスの供給を停止して、徐々に室温まで昇温しながら6時間撹拌を続けた。GCにより、化合物(f−1−1)の消失を確認したところで反応を停止し、溶媒を除去することで白色固体の16gを得た。NMR、IRにより分析した結果、化合物(e−1−1)がほぼ定量的に生成していることを確認した。IRでは、アミジン基に帰属される吸収が、1668cm−1に観測された。
【0100】
化合物(e−1−1)の19F−NMRのスペクトルデータを示す。
19F−NMR(282.6MHz、溶媒:THF、外部基準:アセトン−d6/CFCl)、δ(ppm):−78.6(4F)、−91.3(4F)。
【0101】
化合物(b−1−1)の合成:
温度計、滴下漏斗を備えた丸底フラスコに、化合物(d−1)25.5g、THF50gを投入し、フラスコを氷浴に浸して撹拌しながら、フラスコ内に、化合物(e−1−1)の13.5gをTHFの20gで希釈した溶液を、ゆっくりと滴下した。化合物(e−1−1)の全量を滴下した後、さらに室温で1時間撹拌を続けた。GC、NMRにより反応の進行を確認し、溶媒を除去して化合物(b−1−1)の無色粘性溶液を得た。
【0102】
化合物(c−1−1)の合成:
化合物(b−1−1)を含む前記溶液に、R−225の100g、フッ化ナトリウム粉末の11gを投入し、フラスコを氷浴に浸して撹拌しながら、フラスコ内に、化合物(a−1−2)の27.3gをゆっくり滴下した。氷浴を外して、さらに終夜撹拌を続け、NMR、IRにより反応の進行を確認したところで終了とした。得られた溶液から、加圧ろ過でフッ化ナトリウムを除去し、エバポレーターで濃縮してR−225および過剰の化合物(a−1−2)を除去し、無色液体の化合物(c−1−1)を得た。シリカゲルカラム(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=95/5)で精製し、無色液体の化合物(c−1−1)19.2g(NMR純度96%、収率27%)を得た。IRでは、トリアジン環による吸収が1558cm−1に、不飽和結合による吸収が1839cm−1に、それぞれ観測された。
【0103】
化合物(c−1−1)の19F−NMRのスペクトルデータを示す。
19F−NMR(282.6MHz、溶媒:CDCl、基準:CFCl)、δ(ppm):−75.4(4F)、−85.4(8F)、−88.6(4F)、−115.2(4F)、−117.3(8F)、−122.9(4F)、−126.1(8F)、−136.2(4F)。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明によれば、2以上のトリアジン以上のトリアジン環を有しフッ素化されたポリトリアジン化合物を効率的に製造できる。また本発明によれば、該ポリトリアジン化合物として重合性不飽和基を有する新規化合物を提供する。該新規化合物は、高い耐熱性を有する含フッ素エラストマーの架橋剤として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式−COXで表わされる基をn個有する化合物(A)と、下式(b)で表される化合物を反応させることにより、2以上のトリアジン環とフッ素原子とを必須とするフッ素化ポリトリアジン化合物を得ることを特徴とする、フッ素化ポリトリアジン化合物の製造方法。
【化1】

(ただし、Xはハロゲン原子を示し、nは1以上の整数、mは0以上の整数を示し、(n+m)は2以上の整数であり、Rはフッ素化1価炭化水素基、またはエーテル性酸素原子を有するフッ素化1価炭化水素基を示し、Rはフッ素化2価炭化水素基またはエーテル性酸素原子を有するフッ素化2価炭化水素基を示す。)
【請求項2】
化合物(A)が、下式(a)で表される化合物である請求項1に記載の製造方法。
【化2】


(ただし、nおよびXは前記と同じ意味を示し、Rはフッ素化n価炭化水素基、またはエーテル性酸素原子を有するフッ素化n価炭化水素基を示す。)
【請求項3】
nが1以上の整数である式(a)で表される化合物と、mが1以上の整数である式(b)で表される化合物とを反応させる請求項2に記載のフッ素化ポリトリアジン化合物の製造方法。
【請求項4】
下式(a−1)で表わされる化合物と、下式(b−1)で表わされる化合物とを反応させることを特徴とする、下式(c−1)で表される化合物の製造方法。
【化3】

(ただし、R11はフッ素化1価炭化水素基、またはエーテル性酸素原子を有するフッ素化1価炭化水素基を示し、Xはハロゲン原子、−OR(ただし、Rは、水素原子、またはアルキル基を示す。)、−SCOR20、−OC(O)R20、−OSO20、−NR40(COR20)、または−NH(SO30)(ただし、R20、R30、およびR40はそれぞれ独立に、1価炭化水素基またはハロゲン化1価炭化水素基を示し、R40は水素原子であってもよい。)で表される基を示し、Rはフッ素化1価炭化水素基、またはエーテル性酸素原子を有するフッ素化1価炭化水素基を示し、R31はフッ素化2価炭化水素基またはエーテル性酸素原子を有するフッ素化2価炭化水素基を示す。)
【請求項5】
nが2以上の整数である式(a)で表される化合物と、mが0以上の整数である式(b)で表される化合物とを反応させる請求項2に記載のフッ素化ポリトリアジン化合物の製造方法。
【請求項6】
下式(a−2)で表される化合物と、下式(b−2)で表される化合物とを反応させることを特徴とする下式(c−2)で表される化合物の製造方法。
【化4】

(ただし、R12はフッ素化2価炭化水素基、またはエーテル性酸素原子を有するフッ素化2価炭化水素基を示し、Xはハロゲン原子を示し、Rはフッ素化1価炭化水素基、またはエーテル性酸素原子を有するフッ素化1価炭化水素基を示す。)
【請求項7】
式(b)で表される化合物における下式(B’)で表される構造の総量に対して、式(a)で表される化合物における−COX基の総量が0.8〜1.2倍モルとなる量で反応を行う請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
【化5】

【請求項8】
下式(c−1)で表される化合物。
【化6】

(ただし、R11はフッ素化1価炭化水素基、またはエーテル性酸素原子を有するフッ素化1価炭化水素基を示し、Rはフッ素化1価炭化水素基またはエーテル性酸素原子を有するフッ素化1価炭化水素基を示し、R31はフッ素化2価炭化水素基、エーテル性酸素原子を有するフッ素化2価炭化水素基を示す。)
【請求項9】
およびR11は、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ、独立に炭素数1〜10のフッ素化1価炭化水素基、または炭素数1〜10のエーテル性酸素原子を有するフッ素化1価炭化水素基を示し、RおよびR11から選ばれる2個以上の基は、重合性不飽和基を含む基を示し、R31は炭素数1〜10のフルオロアルキレン基、または炭素数1〜10のエーテル性酸素原子を有するフルオロアルキレン基を示す、請求項8に記載の化合物。
【請求項10】
下式(c−1−1)で表される化合物。
【化7】


(ただし、R31は、炭素数1〜10のペルフルオロアルキレン基、または炭素数1〜10のエーテル性酸素原子を有するペルフルロアルキレン基を示す。)

【公開番号】特開2010−18571(P2010−18571A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−181914(P2008−181914)
【出願日】平成20年7月11日(2008.7.11)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】