説明

フッ素化ポリマーマトリクス中に分散したナノチューブを含む複合材料

(a)少なくとも一種のフッ素化されたホモポリマーまたはコポリマーと(b)少なくとも一種のカルボン酸極性官能基がグラフトされた少なくとも一種のフッ素化されたホモポリマーまたはコポリマーとを含むポリマーマトリクス中に周期表のIIIa、IVaおよびVa族元素の化合物の中から選択される化学元素のナノチューブが分散した複合材料。この複合材料の使用。少なくとも一種のカルボン酸極性官能基がグラフトされた少なくとも一種のフッ素化されたホモポリマーまたはコポリマーの、フッ素化ポリマーマトリクス中に分散したナノチューブを含む複合材料の引張強度を増加させるための使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(a)少なくとも一種のフッ素化されたホモポリマーまたはコポリマーと(b)少なくとも一種のカルボン酸極性官能基がグラフトされた少なくとも一種のフッ素化されたホモポリマーまたはコポリマーとを含むポリマーマトリクス中に周期表のIIIa、IVaおよびVa族元素の中から選択される少なくとも一種の化学元素のナノチューブが分散している複合材料に関するものである。
本発明はさらに、この複合材料の使用と、少なくとも一種のカルボン酸極性官能基がグラフトされた少なくとも一種のフッ素化されたホモポリマーまたはコポリマーの、フッ素化ポリマーマトリクス中に分散したナノチューブを含む上記複合材料の引張強度を増加させるための使用とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
複合材料は研究は集中的に行なわれており、多くの用途で金属を代替できる多くの機能上の利点(軽量性、機械強度、耐薬品性、形態の自由度)を有している。
【0003】
複合材料は一般に強化用繊維、例えばガラス繊維、炭素繊維またはアラミド繊維が分散したポリマーマトリクスを有している。マトリクスおよび強化剤は用途に応じて得ることが望まれる特性の種類によって選択される。
【0004】
沖合の油田から採掘された炭化水素を輸送するためのパイプは優れた機械強度、耐熱性および耐薬品性の他に少なくとも130℃の温度および約700バールの圧力で使用できなければならない。高温および/または腐食性の化学流体、例えば約140℃の硫酸、約90℃の水酸化ナトリウムの40%溶液または高温硝酸の輸送に用いるパイプにも同じことが言える。
【0005】
これらの用途では種々のメーカーからポリ(フッ化ビニリデン)のようなフッ素化ポリマーをベースにした材料の使用が提案されているが、この材料は応力を受けた時に高温では必ずしも十分な寿命を有するとは限らない。
【0006】
この問題点を解決するために、本発明者はナノチューブ、特にカーボンナノチューブをポリマー材料(フッ素化または非フッ素化ポリマー材料)に添加してポリマー材料、の高温耐クリープ性を増加させるとしたが、フッ素化ポリマーの場合、得られた複合材料の周囲温度での破断点引張伸びが非強化ポリマーよりも低くなるということが分かった。
【0007】
さらに、フッ素化ポリマーはその強化に用いるカーボンナノチューブとの相溶性に問題があるため、フッ素化ポリマーとナノチューブとの界面に凝集力がなく、ポリマーマトリクスに応力が加わった時に、顕微鏡スケールで弱い所が生じる。さらに、フッ素化ポリマー中へのナノチューブの分散性が必ずしも十分でないため凝集体が形成され、この凝集体が最終複合材料の特性を損なうことになる。
【0008】
従って、高温耐クリープ性だけでなく、周囲温度で優れた引張強度を有する均一性に優れ且つ凝集性(cohesifs)に優れた複合材料、特にオフショア用可撓性パイプの圧力シースの製造で用いる複合材料に対するニーズが依然としてある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者は、多くの研究を行なって上記ニーズを満たすことのできる複合材料を開発した。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の対象は、(a)少なくとも一種のフッ素化されたホモポリマーまたはコポリマーと(b)少なくとも一種のカルボン酸極性官能基がグラフトされた少なくとも一種のフッ素化されたホモポリマーまたはコポリマーを含むポリマーマトリクス中に、周期表のIIIa、IVaおよびVa族元素の中から選択される少なくとも一つの化学元素のナノチューブが分散した複合材料にある。
本発明の別の対象は、少なくとも一種のカルボン酸極性官能基がグラフトされた少なくとも一種のフッ素化されたホモポリマーまたはコポリマーの、フッ素化ポリマーマトリクス中に分散した周期表のIIIa、IVaおよびVa族元素の中から選択される少なくとも一つの化学元素のナノチューブを含む複合材料の引張強度を増加させるための使用にある。
本明細書で「〜」という表現は両限界値を含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】グラフト化フッ素化ポリマーを含むまたは含まない複合材料の試験片の引張強度(応力の関数としての変形量)を示す図。
【図2】同じ試験片の高温耐クリープ性を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の複合材料は、第1成分として、少なくとも一種のフッ素化されたホモポリマーまたはコポリマー(以下、「フッ素化ポリマー」ともいう)を含むポリマーマトリクスを含む。
【0013】
このフッ素化ポリマーは、少なくとも50モル%の下記式(I)のモノマーを含み、好ましくは式(I)のモノマーから成るのが好ましい:
CFX=CHX' (I)
(ここで、XおよびX'は独立して水素またはハロゲン原子(特にフッ素または塩素)または過ハロゲン化(特に過フッ素化)アルキル基を表す)。式(I)でX=FおよびX'=Hであるのが好ましい。
【0014】
フッ素化ポリマーの例としては、特に下記が挙げられる:
(1)ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、好ましくはα型のもの、
(2)フッ化ビニリデンと例えばヘキサフルオロプロピレン(HFP)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、トリフルオロエチレン(VF3)またはテトラフルオロエチレン(TFE)とのコポリマー、
(3)トリフルオロエチレン(VF3)のホモポリマーおよびコポリマー、
(4)フルオロエチレン/プロピレン(FEP)コポリマー、
(5)エチレンとフルオロエチレン/プロピレン(FEP)、テトラフルオロエチレン(TFE)、ぺルフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)またはヘキサフルオロプロピレン(HFP)とのコポリマー、
(6)上記の混合物。
【0015】
これらのポリマーのいくつかはアルケマ(ARKEMA)社から商品名カイナー(Kynar、登録商標)で市販されており、好ましいポリマーは射出成形または押出し成形に適したグレードのもの、好ましくは細管レオメターを用いて100s-1の剪断速度で230℃で測定した粘度が100Pa.s〜2000Pa.s、さらに好ましくは300Pa.s〜1200Pa.sの範囲であるもの、例えば射出成形グレードカイナー(Kynar、登録商標)710、711または720または押出しグレードカイナー(Kynar、登録商標)740、760、50HDまたは400HD、またはカイナー(Kynar、登録商標)2800および3120〜50の名称で市販のVDF/HFPコポリマーである。
【0016】
本発明では、フッ素化ポリマーはポリ(フッ化ビニリデン)(PVDF)であるのが好ましい。
本発明の複合材料のポリマーマトリクスは、このフッ素化ポリマーの他に、少なくとも一種のカルボン酸極性官能基がグラフトされた少なくとも一種のフッ素化されたホモポリマーまたはコポリマー(以下、グラフトされたフッ素化ポリマーまたはグラフト化フッ素化ポリマー)を含む。
【0017】
このグラフト化フッ素化ポリマーは、例えば少なくとも一種のカルボン酸または無水カルボン酸官能基を有する少なくとも一種のカルボン酸極性モノマーをフッ素化ポリマーにグラフトして得ることができる。
【0018】
具体的には、このグラフト化フッ素化ポリマーは下記(a)〜(d)を含む方法に従って調製できる:(a)フッ素化ポリマーと、カルボン酸または無水カルボン酸官能基を有する極性モノマーとを例えば押出機またはミキサーで好ましくは溶融状態で混合し、(b)必要に応じて、この混合物を顆粒、粉末、フィルムまたはシートにし、(c)この混合物に、場合によっては酸素の非存在下で(例えばポリエチレン袋の中で)、光子線または電子線を1〜15Mradで照射して、極性モノマーをフッ素化ポリマーにグラフトし、(d)必要に応じてフッ素化ポリマーと反応しなかった残留極性モノマーを除去する。この種の調製方法は下記文献に記載されている。
【特許文献1】欧州特許出願第1,484,346号公報
【0019】
グラフト化フッ素化ポリマーが得られるフッ素化ポリマーは上記のフッ素化ポリマーのいずれか一つ、特に好ましくは少なくとも50重量%のVDF単位を含むポリ(フッ化ビニリデン)(PVDF)またはVDFとHFPとのコポリマーにすることができる。
【0020】
カルボン酸官能基を有する極性モノマーとしては、特に、2〜20個、特に4〜10個の炭素原子を有する不飽和モノカルボン酸およびジカルボン酸、例えばアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、アリル琥珀酸、4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、4−メチル−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、ビシクロ[2,2,1]へプト−5−エン−2,3−ジカルボン酸、x−メチルビシクロ[2,2,1]へプト−5−エン−2,3−ジカルボン酸、ウンデシレン酸、およびこれらの無水物が挙げられる。
【0021】
従って、グラフト化フッ素化ポリマーはこれらのモノマーの少なくとも一種から得ることができる。このフッ素化ポリマーは無水マレイン酸がグラフトされるのが好ましい。
このようなグラフト化フッ素化ポリマーは特にアルケマ社から商品名カイナー(Kynar、登録商標)ADX 710、711、720または721で市販されている。
【0022】
グラフト化フッ素化ポリマーの製造で用いるフッ素化ポリマーと極性モノマーとの重量比率は通常90:10〜99.9:0.1である。
グラフト化フッ素化ポリマーは、ポリマーマトリクスの重量の5〜99重量%、好ましくは10〜50重量%にすることができる。
フッ素化ポリマーとグラフト化フッ素化ポリマーとを粉末状態で混合するか、配合後に造粒し、顆粒を粉砕することができる。
【0023】
本発明で用いるポリマーマトリクスは種々の添加剤、例えば可塑剤、酸化防止剤、光安定剤、着色剤、衝撃改質剤、静電防止剤、難燃剤、潤滑剤およびこれらの混合物をさらに含むことができる。
本発明の複合材料は、上記のポリマーマトリクスの他に、周期表のIIIa、IVaおよびVa族の化学元素の中から選択される少なくとも一種の化学元素のナノチューブを含む。
このナノチューブは炭素、ホウ素、リンおよび/または窒素をベースにすることができ(ホウ化物、窒化物、炭化物、リン化物)、例えば窒化炭素、窒化ホウ素、炭化ホウ素、リン化ホウ素、窒化リンおよび窒化ホウ素炭素で構成することができる。
本発明ではカーボンナノチューブ(以下、CNT)を用いるのが好ましい。
【0024】
本発明で使用可能なナノチューブは単一壁、二重壁または多重壁型にすることができる。二重壁ナノチューブは非特許文献1に記載の方法に従って製造でき、多重壁ナノチューブは下記特許文献2に記載の方法に従って製造できる。
【非特許文献1】Flahaut et al. in Chem. Com.(2003),1442
【特許文献2】国際特許第03/02456号公報
【0025】
ナノチューブは一般に平均直径が0.1〜200nm、好ましくは0.1〜100nm、さらに好ましくは0.4〜50nm、さらに好ましくは1〜30nmで、長さは0.1〜10μmであるのが有利である。長さ/直径比は10以上、大抵は100以上であるのが好ましい。比表面積は例えば100〜300m2/gで、見掛け密度は0.05〜0.5g/cm3、さらに好ましくは0.1〜0.2g/cm3にすることができる。多重壁ナノチューブは例えば5〜15枚、さらに好ましくは7〜10枚のシートを含むことができる。
【0026】
粗カーボンナノチューブの例としては特にアルケマ(ARKEMA)社から商品名グラフィストレングス(Graphistrength、登録商標)C100で市販のものが挙げられる。
ナノチューブは、本発明の方法で用いる前に精製および/または処理(例えば酸化)および/または粉砕および/または官能化することができる
【0027】
ナノチューブの粉砕は特に高温または低温で行うことができ、ボールミル、ハンマーミル、パグミル、ナイフミル、ガスジェットミルや、絡み合ったナノチューブ網の寸法を縮小できるその他任意の粉砕設備で公知の方法を用いて実施できる。この粉砕はガスジェット粉砕、特にエアジェットミルで行なうのが好ましい。
【0028】
粗ナノチューブまたは粉砕済みナノチューブの精製は硫酸の溶液を用いて洗浄することで製造プロセスで生じる可能性のある残留無機および金属不純物をナノチューブから除去することで行なうことができる。ナノチューブの硫酸に対する重量比は特に1:2〜1:3にすることができる。精製操作は90〜120℃の温度で例えば5〜10時間行なうことができる。この操作の後に精製ナノチューブを水で洗浄し、乾燥する段階を行なうのが有利である。
【0029】
ナノチューブの酸化は0.5〜15重量%のNaOCl、好ましくは1〜10重量%のNaOClを含む次亜塩素酸ナトリウム溶液と接触させて行なうのが有利である。ナノチューブの次亜塩素酸ナトリウムに対する重量比は例えば1:0.1〜1:1にする。この酸化は60℃以下の温度、好ましくは室温で数分〜24時間行なうのが有利である。この酸化操作の後に酸化したナノチューブを濾過および/または遠心分離、洗浄および乾燥する段階を行なうのが有利である。
【0030】
ナノチューブの官能化はナノチューブの表面に反応性単位、例えばビニルモノマーをグラフトして行なうことができる。ナノチューブの構成材料を酸素を含まない無水媒体中で900℃以上で熱処理してその表面から酸素化基を除去した後に、ラジカル重合開始剤として用いる。従って、特にポリマーマトリクス中の分散を容易にするために、カーボンナノチューブの表面でメチルメタクリレートまたはヒドロキシエチルメタクリレートを重合することができる。
【0031】
本発明では、粗ナノチューブ、必要に応じて粉砕したナノチューブ、すなわち、酸化も精製も官能化もせず、且つその他の任意の化学的処理をしていないナノチューブを用いるのが好ましい。
ナノチューブはフッ素化ポリマーとグラフト化フッ素化ポリマーとの混合物の全重量の0.5〜30%、好ましくは0.5〜10%、さらに好ましくは1〜5%にすることができる。
ナノチューブとポリマーマトリクスとを一般的な装置、例えば二軸押出機またはコニーダを用いて混合するのが好ましい。この方法では、一般にポリマー顆粒をナノチューブと溶融混合する。
【0032】
変形例では、溶剤中の溶液にしたポリマーマトリクス中に任意の適当な手段によってナノチューブを分散することができる。この場合、特定の分散システムまたは特定の分散剤を使用して分散を本発明の一つの有利な実施例に従って改善することができる。
溶剤を用いる分散の場合、本発明方法は超音波またはロータ−ステータシステムによってポリマーマトリクス中にナノチューブを分散する段階を含むことができる。
【0033】
このようなロータ−ステータシステムは特にシルバーソン(Silverson)社から商品名Silverson(登録商標)L4RTで市販されている。別のタイプのロータ−ステータシステムがイケベルケ(Ika-Werke)社から商品名Ultra-Turrax(登録商標)で市販されている。
さらに別のロータ−ステータシステムにはコロイドミル、解膠タービンおよびロータ−ステータタイプの高せん断ミキサー、例えばイケベルケ(Ika-Werke)社またはアドミックス(Admix)社から市販されている機器が含まれる。
【0034】
分散剤は特に下記(a)〜(k)からなる群の中から選択できる可塑剤の中から選択できる:
(a)ヒドロキシ安息香酸(1〜20個の炭素原子を含む直鎖のアルキル基が好ましい)、ラウリン酸、アゼライン酸またはペラルゴン酸のホスフェートアルキルエステル、
(b)フタレート、特にジアルキルまたはアルキルアリールフタレート、特に各々が1〜12個の炭素原子を含む直鎖または分岐鎖のアルキル基を有するアルキルベンジルフタレート、
(c)アジペート、特にジアルキルアジペート、
(d)セバケート、特にジアルキルセバケート、および、特にジオクチルセバケート、特にポリマーマトリクスがフルオロポリマーを含む場合、
(e)グリコールベンゾエートまたはグリセリルベンゾエート、
(f)ジベンジルエーテル、
(g)クロロパラフィン、
(h)プロピレンカーボネート、
(i)スルホンアミド、特にポリマーマトリクスがポリアミド、特にアリール基が1〜6個の炭素原子を含む少なくとも一種のアルキル基で置換されていてもよいアリールスルホンアミド、例えば1〜20個の炭素原子を含む好ましくは直鎖の少なくとも一種のアルキル基でN−置換またはN,N−二置換されていてもよいベンゼンスルホンアミドおよびトルエンスルホンアミドを含む場合、
(j)グリコール、
(k)上記の混合物。
【0035】
変形例では、分散剤は少なくとも一種のアニオン性親水性モノマーと、少なくとも一種の芳香族環を含む少なくとも一種のモノマーとを含むコポリマー、例えばフランス国特許第2,766,106号公報に記載のコポリマーにすることができ、分散剤とナノチューブとの重量比は0.6:1〜1.9:1である。
【特許文献3】フランス国特許第2,766,106号公報
【0036】
別の実施例では分散剤はビニルピロリドンのホモポリマーまたはコポリマーにすることができ、ナノチューブと分散剤の重量比は好ましくは、この場合は0.1〜2以下である。
【0037】
さらに別の実施例では、ナノチューブを少なくとも一種の化合物Aと接触させてポリマーマトリクス中のナノチューブの分散を改善することができる。化合物Aは種々のポリマー、モノマー、可塑剤、乳化剤、カップリング剤および/またはカルボン酸の中から選択でき、2つの成分(ナノチューブと化合物A)を固体状態で混合するか、混合物を微粉状にして混合する(必要な場合には溶剤除去後に)。
【0038】
上記の複合材料は種々の用途で重要である。
本発明の別の対象は、中空部品、例えば、特に、高温で場合によっては加圧および/または腐食性流体を収容または輸送するためのチューブ、シースまたはコネクタ、特に炭化水素を輸送するパイプ、例えばオフショアフレキシブルパイプ用のシース、化学工場で製造されたまたは使用される流体を輸送するためのパイプ、または加圧配管工事用噴射コネクタの製造でのこの複合材料の使用にある。
【0039】
上記のパイプおよび中空部品は、例えば、本発明の複合材料を押出または射出成形して製造できる。
上記の使用では、本発明の複合材料は貯蔵または輸送される流体と接する多層管の内層を構成することができる。この多層管の外層、任意層としての中間層である他の層はポリオレフィンまたはポリアミドのような他の材料からなる。
【0040】
オフショアフレキシブルパイプ用の圧力シースとしての使用では、本発明の複合材料はフッ素化ポリマーとして、製造の中断に関連する急速減圧(一般に、例えば減圧速度が70mbar/分の場合には130℃、750〜2500バール)の場合に良好な高温耐クリープおよびブリスター性を得るためには、融点が140〜170℃、好ましくは160〜170℃、例えば約165℃のフッ素化コポリマーを含むのが好ましく、特に良好な低温機械強度(耐衝撃性、耐疲労性)を得るためには、100s-1および232℃(ASTM D3835)で測定した粘度が12キロポアズ(kp)で、有利には押出グレードである、好ましくはコア−シェル系によって可塑化且つ耐衝撃性が強化されたVDFホモポリマーを含むのが好ましい。
【0041】
内圧を受けるおよび/または場合によっては腐食性の高温流体(一般に90℃)、例えば水酸化ナトリウムを輸送する平滑管または射出成形コネクタとしての使用では、VDFホモポリマー、好ましくは押出グレード(粘性)のものを例えばチューブ製造用のフッ素化ポリマーとして選択し、射出グレード(流体)VDFホモポリマーを例えばコネクタ製造用のフッ素化ポリマーとして選択する。
以下、添付図面を参照して本発明の実施例を説明するが、本発明が下記実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0042】
実施例1
カーボンナノチューブを含むフッ素化ポリマーマトリクスの引張強度に対するグラフト化フッ素化ポリマー添加の影響
DMF(ジメチルホルムアミド)に溶かしたVDFホモポリマー(アルケマ社の製品カイナー(Kynar、登録商標)710)の溶液と、無水マレイン酸をグラフトしたフッ素化ポリマー(カイナー(Kynar、登録商標)710)とを、PVDFとグラフト化フッ素化ポリマーとの重量比率を75:25にして混合した。次いで、カーボンナノチューブ(CNT)(グラフィストレングス(Graphistrength、登録商標)C100)をポリマー混合物の重量の2.5%重量の比率でこの混合物に添加した。
この混合物から、溶剤を蒸発させて得た粉末を圧縮することによって、試験片を製造し、1BA,25mm/分の条件下でISO規格527に従って23℃で引張試験を行なった。
この試験片をポリマーマトリクスがそれぞれCNTを含むフッ素化ポリマーおよびCNTを含まないフッ素化ポリマーのみで構成された同様の試験片と比較した。
この引張試験の結果は[図1]に示してある。この図から下記のことがわかる:
(1)破断点伸びが約20%から10%になるので、CNTの添加によってフッ素化ポリマーは脆くなる、
(2)グラフト化フッ素化ポリマーの導入によってポリマーマトリクスを強化でき、引張強度を改善できる。このことは破断点伸びが20%から38%に上がることでわかる。
【0043】
実施例2
カーボンナノチューブを含むフッ素化ポリマーマトリクスの耐クリープ性に対するグラフト化フッ素化ポリマー添加の影響
手順:
実施例1の方法で調製した試験片の耐クリープ性を測定した。
この試験の一般的手順は以下の通り。この試験は試験材料に一定の張力を加え、生じる経時的変形の変化を測定することにある。一定張力では、材料の耐クリープ性が大きければ大きいほど、経時的変形は小さい。この力は応力で表され、試験片の初期断面に関連し、用いる試験片の幾何形状の影響を排除するようになっている。この試験片は一般にISO 529−型の引張試験片である。変形は引張試験片のカラムに取り付けられた変位センサー(一般にLVDT型)によって測定し、プロセスの経時的減速を考慮に入れ且つ収集システムを不必要に飽和させないように一般的な対数の周波数で、経時的変形をコンピュータに記録する。用いる試験機は動力計、例えば標準的引張試験に用いる動力計にすることができる。ただし、経時的に一定力を与えながら試験を実施できるように、試験片が取り付けられた機械の可動横木を移動させるシステムを正確にサーボ制御することができなければならない。すなわち、試験片の伸びを補償するために、機械の横木の移動は連続的且つ均一でなければならない。試験片にデッドウェイトを置く別のより単純なシステムを用いることができる。
【0044】
結果
[図2]に示すように、CNTは130℃でフッ素化ポリマーマトリクスの耐クリープ性を大きく増大させる。グラフト化フッ素化ポリマーを混和してもCNTの高温有効性は変わらない。
従って、これらの実施例から、グラフト化フッ素化ポリマーを添加することによって、ナノチューブによってフッ素化ポリマーに与えられた高温条件下での有利な特性を失うことなく、周囲温度でのフッ素化ポリマーの機械的特性を維持、さらには改善できることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)少なくとも一種のフッ素化されたホモポリマーまたはコポリマーと(b)少なくとも一種のカルボン酸極性官能基がグラフトされた少なくとも一種のフッ素化されたホモポリマーまたはコポリマーとから成るポリマーマトリクス中に、周期表のIIIa、IVaおよびVa族元素の中から選択される少なくとも一つの化学元素のナノチューブが分散している複合材料。
【請求項2】
フッ素化されたホモポリマーまたはコポリマーが少なくとも50モル%の下記式(I)のモノマーを含み、好ましくは式(I)のモノマーから成る請求項1に記載の複合材料:
CFX=CHX' (I)
(ここで、XおよびX'は独立して水素またはハロゲン原子(特にフッ素または塩素)または過ハロゲン化(特に過フッ素化)アルキル基を表す)
【請求項3】
フッ素化されたホモポリマーまたはコポリマーが下記の中から選択される請求項1または2に記載の複合材料:
(1)ポリ(フッ化ビニリデン)(PVDF)、好ましくはα型のもの、
(2)フッ化ビニリデンと例えばヘキサフルオロプロピレン(HFP)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、トリフルオロエチレン(VF3)またはテトラフルオロエチレン(TFE)とのコポリマー、
(3)トリフルオロエチレン(VF3)のホモポリマーおよびコポリマー、
(4)フルオロエチレン/プロピレン(FEP)コポリマー、
(5)エチレンとフルオロエチレン/プロピレン(FEP)、テトラフルオロエチレン(TFE)、ぺルフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)またはヘキサフルオロプロピレン(HFP)とのコポリマー、
(6)上記の混合物。
【請求項4】
フッ素化されたホモポリマーまたはコポリマーがポリ(フッ化ビニリデン)である請求項3に記載の複合材料。
【請求項5】
グラフトされたフッ素化されたホモポリマーまたはコポリマーが、請求項2〜4のいずれか一項に記載のフッ素化ポリマーから得られる請求項1〜4のいずれか一項に記載の複合材料。
【請求項6】
グラフトされたフッ素化されたホモポリマーまたはコポリマーが2〜20個、特に4〜10個の炭素原子を有する不飽和モノカルボン酸およびジカルボン酸、例えばアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、アリル琥珀酸、4-シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、4−メチル−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、ビシクロ[2,2,1]へプト−5−エン−2,3−ジカルボン酸、x−メチルビシクロ[2,2,1]へプト−5−エン−2,3−ジカルボン酸、ウンデシレン酸、およびこれらの無水物の中から選択される少なくとも一種のモノマーの中から得られる請求項1〜5のいずれか一項に記載の材料。
【請求項7】
カルボン酸極性官能基がグラフトされたフッ素化されたホモポリマーまたはコポリマーが、無水マレイン酸がグラフトされたものである請求項1〜6のいずれか一項に記載の複合材料。
【請求項8】
グラフトされたフッ素化ポリマーが、ポリマーマトリクスの重量の5〜99重量%、好ましくは10〜50重量%である請求項1〜7のいずれか一項に記載の複合材料。
【請求項9】
ナノチューブが窒化炭素、窒化ホウ素、炭化ホウ素、リン化ホウ素、窒化リンまたは窒化ホウ素炭素から成る請求項1〜8のいずれか一項に記載の複合材料。
【請求項10】
ナノチューブがカーボンナノチューブである請求項9に記載の複合材料。
【請求項11】
ナノチューブがフッ素化されたホモポリマーまたはコポリマーと、グラフトされたフッ素化ポリマーとの合計重量の0.5〜30%、好ましくは0.5〜10%である請求項1〜10のいずれか一項に記載の複合材料。
【請求項12】
中空部品、特に高温で場合によっては加圧および/または腐食性流体を収容または輸送するためのチューブ、シースまたはコネクタ、特に炭化水素を輸送するパイプ、例えばオフショアフレキシブルパイプ用のシース、化学工場で製造されまたは使用される流体を輸送するためのパイプ、または加圧配管工事用コネクタの製造での請求項1〜11のいずれか一項に記載の複合材料の使用。
【請求項13】
少なくとも一種のカルボン酸極性官能基がグラフトされた少なくとも一種のフッ素化されたホモポリマーまたはコポリマーの、フッ素化ポリマーマトリクス中に分散した周期表のIIIa、IVaおよびVa族元素の中から選択される少なくとも一つの化学元素のナノチューブを含む複合材料の引張強度を増加させるための使用。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2010−531380(P2010−531380A)
【公表日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−514069(P2010−514069)
【出願日】平成20年6月27日(2008.6.27)
【国際出願番号】PCT/FR2008/051185
【国際公開番号】WO2009/007615
【国際公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【出願人】(505005522)アルケマ フランス (335)
【Fターム(参考)】