説明

フッ素化不飽和炭化水素の検出方法及び検出センサー

【課題】高温を使用せず室温付近で検出でき、さらにフッ素系液体等からの妨害ガスの干渉も受けず、簡便にC58やC46等のフッ素化不飽和炭化水素を検出する方法及び検出センサーを提供する。
【解決手段】下記の一般式(I)で表される、グアニジン骨格を有する化合物との反応を用いたフッ素化不飽和炭化水素の検出方法、及び検出部に下記の一般式(I)で表される、グアニジン骨格を有する化合物を用いたフッ素化不飽和炭化水素の検出センサー。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素化炭化水素の検出方法及び検出センサーに関し、特に、オクタフルオロシクロペンテン、ヘキサフルオロブタジエンなどの分子内に炭素の不飽和結合を有するフッ素化炭化水素化合物の検出方法及び検出センサーに関する。
【背景技術】
【0002】
含フッ素化合物は、地球温暖化物質として京都議定書における協議以来、その削減が求められており、地球環境の保全、多くの生物種や人類の存続のため、その微量検出や除去、分解、使用量の削減、回収技術が求められている。
特に、ドライエッチングガスとして用いられてきた四フッ化炭素、オクタフルオロシクロブタンなどの飽和フルオロカーボン類は地球温暖化への悪影響から使用が制限されており、これらの代替物として、オクタフルオロシクロペンテン(C58)、ヘキサフルオロブタジエン(C46)、ヘキサフクオロシクロブテン(C46)などの分子内に炭素の不飽和結合を有するフッ化炭化水素化合物が開発されてきている。これらの炭素の不飽和結合を有するフッ化炭化水素化合物(以下、「フッ素化不飽和炭化水素」という)は、選択比が高く微細加工のための高性能なマテリアルとして知られ、各半導体プロセスにおいて一部使用されている。これらは、地球温暖化係数は改善されているものの、元来その蒸気圧の高さや毒性の課題から管理基準濃度2ppmの規制が布かれている。さらには、現存する環境負荷の観点から、またプロセス現場において環境中のガスコンタミ源ともなり、高感度に検出する技術等が求められている。
【0003】
フッ素化不飽和炭化水素の検出手法としては、現在までに、過マンガン酸塩を用いた手法と熱分解を用いた手法が開発されている。
前者の手法は、C58やC46と過マンガン酸塩との反応により、過マンガン酸塩の消色を利用した方法である(例えば、特許文献1参照)。
しかしながら、以下のデメリットがある。
(1)反応が鈍く、測定する濃度は50ppm以上の濃い条件でないと感知が難しい、(2)検出するまでの時間が50ppmで平均約19分以上と長くかかる、(3)無機物を使用しているため加工性に難点があり、検出のための形態が制限される、(4)強い酸化剤である過マンガン酸塩を使用するため、ボロン誘導体などの水素化物や錯化物などの試剤により消色が起こり誤報の原因となる。
【0004】
後者の手法は、C58やC46の熱分解を用いた方法であって、気体中に存在するC58やC46を熱分解炉において熱分解し、その際発生する酸性ガスを敏速に光学的に検出する方法である(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、以下のデメリットがある。
(1)熱分解を行うため大きなエネルギーを消費する、(2)高温における熱分解を行うため、洗浄剤、絶縁体等で多用されるフッ素系液体などのガスからも同様の酸性ガスが発生し誤報の原因となる、(3)高温における熱分解を行うため、非常に危険な酸性ガスHFを発生させてしまう、(4)最終的にはその非常に危険な酸性ガスを検出しているので、他の類似の酸性ガスそのものが混入した場合に、これも誤報の原因となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−324492号公報
【特許文献2】特開2001−324491号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、これまでのフッ素化不飽和炭化水素の検出方法には、種々の問題があるため、これまでの手法とは原理の全く異なる、新たな方法を用いた、高性能で、より経済的な検出方法が必要とされている。
本発明は、上記の従来の技術における実状に鑑みてなされたものであって、高温熱分解や強い酸化剤を使用せずに室温付近で検出でき、簡便にC58やC46等のフッ素化不飽和炭化水素の検出方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、C58やC46等のフッ素化不飽和炭化水素の選択的な反応を利用することにより、上記の目的を達成しうるという知見を得た。すなわち、C58やC46等のフッ素化不飽和炭化水素との選択的な反応について鋭意検討を重ねた結果、特定の窒素化合物群を用いた反応を見出し、対象とするフッ素化不飽和炭化水素を見分けて検出することが可能となることが判明した。
【0008】
本発明はこれらの知見に基づいて完成に至ったものであり、本発明によれば、以下の発明が提供される。
[1] フッ素化不飽和炭化水素と、下記の一般式(I)で表される、グアニジン骨格を有する化合物との反応を用いて、前記フッ素化不飽和炭化水素を検出することを特徴とするフッ素化不飽和炭化水素の検出方法。
【化1】

[式中において、R1〜R5は、一般的なアミン基、もしくは炭化水素基(すなわち、有機化学におけるすべての官能基;炭素をベースとしたアルキル、芳香族、ヘテロ原子、典型元素、遷移金属、アルカリ金属、アルカリ土類金属、およびそれらのイオンから選ばれるコンポーネントも含み、複素環の場合もある)やそれらを有するポリマーから形成される置換基が存在する場合も含む。またそれらの置換基が各Rの間で環状部分を形成する場合も含む。ただし、R2−R3とR1−R5間で同時に、もしくはR2−R3とR4−R5間で同時に環状にはならない。]
[2] 前記反応による光学的変化を検出することを特徴とする[1]に記載の検出方法。
[3] 前記反応による発光状態変化を検出することを特徴とする[1]に記載の検出方法。
[4] 前記一般式(I)で表される、グアニジン骨格を有する化合物以外の有機物が共存する態様を用いて検出することを特徴とする[1]〜[3]のいずれか一項に記載の検出方法。
[5] 前記フッ素化不飽和炭化水素が、C58又はC46或いはこれらの混合物であることを特徴とする請求項[1]〜[4]のいずれか一項に記載の検出方法。
[6] 前記C58がオクタフルオロシクロペンテンである[5]に記載の検出方法。
[7] 前記C46がヘキサフルオロブタジエン又はヘキサフクオロシクロブテン或いはこれらの混合物である[5]に記載の検出方法。
[8] 前記反応における、吸光度、反射率、赤外振動、発光、蛍光、燐光、屈折率、液晶状態、及びX線による光電子運動エネルギーの変化から選ばれる1つ又は2つ以上の光学的変化を検出することを特徴とする[1]〜[7]のいずれか一項に記載の検出方法。
[9] 前記光学的変化として、発光状態の変化を用いることにより、濃度が0.1%以下のフッ素化不飽和炭化水素を検出することを特徴とする[8]に記載の検出方法。
[10] 前記反応による質量変化を検出することを特徴とする[1]に記載の検出方法。
[11] 前記グアニジン骨格を有する化合物を一定の周波数で振動する表面に少なくとも吸着させ、それにより形成された膜表面と前記フッ素化不飽和炭化水素との反応による質量変化を、当該表面における振動の一定の周波数からの変化でとらえることを特徴とする[10]に記載の検出方法。
[12] フッ素化不飽和炭化水素を検出する検出剤であって、下記一般式(I)で表される、グアニジン骨格を有する化合物を有効成分とすることを特徴とするフッ素化不飽和炭化水素の検出剤。
【化2】

[式中において、R1〜R5は、一般的なアミン基、もしくは炭化水素基(すなわち、有機化学におけるすべての官能基;炭素をベースとしたアルキル、芳香族、ヘテロ原子、典型元素、遷移金属、アルカリ金属、アルカリ土類金属、およびそれらのイオンから選ばれるコンポーネントも含み、複素環の場合もある)やそれらを有するポリマーから形成される置換基が存在する場合も含む。またそれらの置換基が各Rの間で環状部分を形成する場合も含む。ただし、R2−R3とR1−R5間で同時に、もしくはR2−R3とR4−R5間で同時に環状にはならない。]
[13] フッ素化不飽和炭化水素を検出するためのセンサーであって、検出部に、下記の一般式(I)で表される、グアニジン骨格を有する化合物を用いたことを特徴とするフッ素化不飽和炭化水素の検出センサー。
【化3】

[式中において、R1〜R5は、一般的なアミン基、もしくは炭化水素基(すなわち、有機化学におけるすべての官能基;炭素をベースとしたアルキル、芳香族、ヘテロ原子、典型元素、遷移金属、アルカリ金属、アルカリ土類金属、およびそれらのイオンから選ばれるコンポーネントも含み、複素環の場合もある)やそれらを有するポリマーから形成される置換基が存在する場合も含む。またそれらの置換基が各Rの間で環状部分を形成する場合も含む。ただし、R2−R3とR1−R5間で同時に、もしくはR2−R3とR4−R5間で同時に環状にはならない。]
[14] 前記グアニジン骨格を有する化合物を含む液体が多孔質材に含浸されていることを特徴とする[13]に記載のフッ素化炭化水素の検出センサー。
[15] 前記多孔質材が、セルロース又はポリマー又は多孔質アルミナである[14]に記載のフッ素化炭化水素の検出センサー。
[16] 前記グアニジン骨格を有する化合物を含有するポリマーを用いることを特徴とする[13]〜[15]のいずれか一項に記載のフッ素化炭化水素の検出センサー。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高温を使用せず、室温付近で簡便に迅速に、C58やC46等のフッ素化不飽和炭化水素を検出でき、さらにフッ素系液体からの妨害ガスの干渉を受けず、それらを検出することができる。また、本発明の方法は、C58やC46等のフッ素化不飽和炭化水素を効率よく検出する、センサー、警報装置、測定機器等に適用でき、さらには選択的な除去分解技術に応用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、C58やC46等のフッ素化不飽和炭化水素を、下記一般化学式(I)で表される化合物に接触させることで、反応を起こさせ、前記フッ素化炭化水素の検出を行うことを特徴とするものである。
【0011】
【化4】

【0012】
上記の一般式(I)で表される化合物において、R1〜R5は、一般的なアミン基、もしくは炭化水素基(すなわち、有機化学におけるすべての官能基;炭素をベースとしたアルキル、芳香族、ヘテロ原子、典型元素、遷移金属、アルカリ金属、アルカリ土類金属、およびそれらのイオンから選ばれるコンポーネントも含み、複素環の場合もある)やそれらを有するポリマーから形成される置換基が存在する場合も含む、またそれらの置換基が各Rの間で環状部分を形成する場合も含む。
【0013】
すなわち、上記の一般式(I)において、R1〜R5のそれぞれは、一般式(I)中の化学結合をする始点を表わしており、基本的にアミノ基もしくはメチレン基(CH2)もしくはベンゼンなどのSP2軌道を有する炭素であって、他のヘテロ原子で置換されてもよい。
1〜R5の先には、一般的な炭化水素基やそれらを有するポリマーから形成される置換基が結合するもしくは挿入される場合もあり、また、隣どうしのR間で環状の構造をとり、それらの置換基がさらなる環状部分を形成する場合を含む。
ここで、一般的な炭化水素基とは、有機化学における一般的な官能基;ヘテロ原子、典型元素、遷移金属、アルカリ金属、アルカリ土類金属、およびそれらのイオンから選ばれるコンポーネントも含み、複素環の場合もある。例えば一例として、アルキル、アルケン、アルキン、フェニル、ナフチル、アントラセニル、ヒドロキシ、アルコキシ、アルデヒド、ケトン、エーテル、クラウンエーエル、ポリエチレングリコール、カルボン酸エステル、カルボン酸塩、アセタール、エポキシ、アミノ、アミド、イミノ、ニトロ、シアノ、イソシアノ、チオイソシアノ、アゾ、アゾキシ、ポルフィリン、チオール、スルフィド、ジスルフィド、スルフィン酸エステル、スルホン酸エステル、それら酸の塩、ピリジン、ピロール、ピロリジン、ピペリジン、モルフォリン、ピペラジン、キノリン、アルリジン、チオフェン、フラン、遷移金属錯体などの置換基が結合もしくは途中に入り込む形で結合し、またそれらを介して有機ポリマーが結合した化合物群を意味する。
【0014】
一般式(I)で表される、グアニジン骨格を有する化合物の例を実施例で記述しているが、これらに限定されるものではない。これらの化合物は、有機合成などで用いられる塩基性試薬として既に公知のもの、或いは、それらから誘導される化合物である。例えば、1,3−ジ−o−トリルグアジニン(1,3-di-o-tolylguanidine)、1,3−ジフェニルグアニジン(1,3-diphenylguanidine)、1−(o−トリル)ビグアニド(1-(o-tolyl)biguanide)などがある。
【0015】
本発明における検出対象であるフッ素化不飽和炭化水素は、少なくとも炭素とフッ素から成り、分子内に炭素−炭素二重及び/又は炭素−炭素三重結合化合物を少なくとも有する不飽和炭化水素のフッ化物であり、グアニジン骨格を有する化合物との反応による光学的変化を引き起こす。これらの中には、塩素、臭素、ヨウ素、酸素、硫黄、窒素など他の原子が置換されている化合物も含み、京都議定書において、評価した一連のガス状化合物であるフッ化炭化水素が一部属する。
例えば一例として、C24、C36、C46、c−C48、c−C58、CF3OCF=CF2、C25OCF=CF2(c−はcyclic:環状を表し、c-C58は、前述のC5F8と同じである、C4F6には前述の2種類がある)等がある。またこれらの一部は、半導体プロセスでエッチングガスとして使われることが多い。
【0016】
一般式(I)で表される、グアニジン骨格を有する化合物は、それ以外の有機物と共存させて、混合物として使用できる。
混合する有機物としては、一般的な有機溶媒(例えば、エタノールやエチレングリコールやグリセリンなどのアルコール類、ジメチルホルムアミド(DMF)やN−メチル−2−ピロリドン(NMP)やヘキサメチルリン酸トリアミド(HMPA)などのアミド類、テトラヒドロフラン(THF)やジオキサンなどのエーテル類)、ジイソプロピルアミン(LDA用)やトリイソブチルアミンやジシクロヘキシルメチルアミンやペンタメチルピペリドンなどの有機液体、ウレア類などの有機固体、セルロースやポリエチレンやポリブタジエンやポリエチレンアクリレートやポリイミドポリ安息香酸などの有機ポリマー、などが挙げられる。
一般式(I)で表される、グアニジン誘導体の含有量は、0.1〜99.9質量%の範囲である。好ましくは、10〜80質量%の範囲である。
【0017】
検出のための反応は、グアニジン骨格を有する化合物と、検出対象とする前述のフッ化物が接触すればよく、該化合物の使用形態は、有機溶剤に溶解して液体として用いる、該液体を基材に塗布する、該液体を多孔質材に含浸させる、或いは、該化合物を含有するポリマーを基板に塗布する等、どんな態様であってもよい。
これらの種々の形態を用いた検出の形態としては、例えば、
(1)検出対象とするフッ素化不飽和炭化水素を、グアニジン骨格を有する化合物を含んだ液体へ接触させる態様、
(2)検出対象とするフッ素化不飽和炭化水素を、グアニジン骨格を有する化合物を含んだポリマー膜に接触させる態様、
(3)検出対象とするフッ素化不飽和炭化水素を、グアニジン骨格を有する化合物を含んだセルロースに接触させる態様、
(4)検出対象とするフッ素化不飽和炭化水素を、グアニジン骨格を有する化合物を含んだテープ上もしくはシート上に接触させる態様、
(5)検出対象とするフッ素化不飽和炭化水素を、グアニジン骨格を有する化合物を含んだビーズもしくは粒子を内包した筒の内部に接触させる態様、
(6)検出対象とするフッ素化不飽和炭化水素を、グアニジン骨格を有する化合物を含んだビーズもしくは粒子を固定したテープに接触させる態様
などがあり、あらゆる態様を含む。例えば、検出対象とするフッ素化不飽和炭化水素をグアニジン骨格を有する化合物を含んだ液体へバブリングする態様や、検出対象とするフッ素化不飽和炭化水素をグアニジン骨格を有する化合物を含んだセルロースに通過させる態様のように、検知対象とするフッ素化不飽和炭化水素物があらゆる基材に物質に接触する。尚、グアニジン骨格を有する化合物を含有するポリマーとは、有機ポリマー中に物理的にグアニジン誘導体が混合されている場合、もしくは、グアニジン誘導体が化学的な結合形態をとっている場合を意味する。
検出対象とする流体を接触させる態様の際に、検出対象とする流体を流す速度、すなわち流量が設定されるが、これに限定されることはない。反応を促進させる観点からは、流量は800mL/分以上が好ましい。装置の観点からは、200〜2000mL/分が好ましい。省エネの観点からは、20〜500mL/分が好ましい。
【0018】
本発明は、グアニジン骨格を有する化合物を利用したスムーズに進行する反応により対象とするガスを検出することができる。設定される反応温度は、摂氏100度以下であり、0〜60度が好ましい。室温付近(摂氏20度±10度)が最も好ましい。
【0019】
本発明において、光学的な変化は、分子の反応に伴うすべての光学的変化を使うことができる。
吸光度の変化は、紫外可視光領域における波長の光の透過率の変化に起因するもので、本発明における紫外可視光領域とは、真空紫外線含む紫外光領域から紫、青、緑、黄、橙、赤色を含む可視光領域の光の領域を意味し、波長では200〜800nmの範囲が好ましい。光源の観点から特に300〜700nmの範囲が最も好ましい。可視光においては、それを目視し、比色によっても検出ができる。また、紫外可視光において、機械を用いて光学的変化の検出も可能である。
【0020】
また、反射率の変化は、紫外可視光領域における波長の光の透過率の変化や散乱の変化による表面の反射率変化に起因するもので、吸光度の変化と強い関連がある。吸光度の変化と同様に、紫外可視光領域とは、真空紫外線含む紫外光領域から紫、青、緑、黄、橙、赤色を含む可視光領域の光の領域を意味し、波長では200〜800nmの範囲が好ましい。光源の観点から特に300〜700nmの範囲が最も好ましい。
【0021】
赤外振動の変化は、赤外線領域における分子内の各結合における伸縮や振動の変化に起因するもので、本発明における赤外振動とは、近赤外から赤外、さらには遠赤外の領域における振動である。カイザーでは、10〜4000cm-1の範囲が好ましい。測定の観点から特に1000〜1500cm-1の範囲が最も好ましい。
【0022】
発光や燐光の変化は、分子の反応に伴って変化する分子の励起状態から基底状態へのエネルギー移動の際放出される光の変化であり、本発明において、励起状態は励起光により生成される。従って使用する光の領域は、吸光度や反射率の変化において用いられた領域と同じである。発光や燐光の変化は、その強度が増大する場合と減少する場合がある。屈折率の変化は、分子の反応に伴って変化する部分の誘電率の変化に起因する。測定は空気中で行われることが多く、使用する光は紫外可視光領域のものが好ましく、値は0.1〜3.2の範囲における変化が好ましい。液晶状態の変化は分子の反応に伴って変化する分子の配向状態の変化に起因するもので、特に等方的液体状態とネマティック液晶もしくはスメクティック液晶との間の変化を用いる。偏光した紫外可視光領域の光を用いる。
【0023】
X線による光電子運動エネルギーの変化は、分子の反応に伴って変化する分子内の原子状態の変化に起因するもので、観測される光電子運動エネルギーの変化を測定する。光源として、MgKαやAlKαのX線を用いるのが好ましい。反応の観点から測定する光電子運動エネルギーの変化は200〜800eVの範囲を測定することが好ましい。以上の1つもしくは2つ以上の組み合わせの光学的変化を用いることで、感度よく、検出対象とするフッ素化炭化水素を検出できる。
【0024】
本発明を用いることで、感度よく、検出対象とするフッ素化不飽和炭化水素を検出できる。例えば、0.1〜10%の検出対象のフッ素化不飽和炭化水素の検出ができる。実用化の観点から、5ppmの濃度の検出が望ましくそれが可能である。管理基準濃度の観点からは、2ppmの濃度の検出が望ましくそれが可能である。事業化および信頼性の向上のためには、1分以内で0.1ppm以下の濃度の検出が望ましい。
【0025】
本発明は、グアニジン誘導体を利用した室温付近でスムーズに進行する反応により、光学的変化を測定するが、有機分子特有の反応群を利用するため、特徴的な選択性が発揮される。すなわち、空気中の二酸化炭素などの影響を受けない。
【0026】
本発明は、グアニジン誘導体を利用した室温付近でスムーズに進行する特殊な反応により、光学的変化を測定するが、そのシグナルの処理は、装置、パソコン、ソフトを組み合わせることで測定でき、それらの機種や種類、形態に限定されることはなく、現存するもしくは作製されたものを工夫して用いることで十分に測定できる。光学的変化は、各スペクトルの特定の波長のピーク強度の変化やある波長域の積分値の変化やスペクトル形状の変化で捉えることができる。その際、基準となる各スペクトルの特定の波長のピーク強度やある波長域の積分値やスペクトル形状を設定することでより正確な変化を捉えることができる。これらの組み合わせにより、最終的に、検出対象とするフッ素化不飽和炭化水素を、選択的に感度よく検出できる。
【0027】
また、本発明において、反応による質量変化を用いることもでき、グアニジン骨格を有する化合物を、一定の周波数で振動する表面、例えば、QCM(Quarts Crystal Microbalance:水晶天秤)基板上に少なくとも吸着させ、その膜表面とフッ素化炭化水素との反応による質量変化を、QCMの周波数変化でとらえることで、検出対象とするフッ素化不飽和炭化水素を検出できる。一定の周波数で振動する表面はQCMに限られることはなく他の態様のものでもよい。振動の周波数はあらゆる値をとることができる。精度の観点からkHzからMHzのオーダーが好ましい。また、その他の手法で質量変化を測定できる天秤を用いることもできる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。本発明の技術思想の範囲内での変更及び他の態様又は実施例は、全て本発明に含まれる。尚、紫外可視光吸収スペクトルおよび発光スペクトルの測定は市販の装置を用いて行った。
(実施例1)
1,3−ジ−o−トリルグアニジン(1,3-di-o-tolylguanidine)95mgを有機溶媒の1種であるN−メチル−2−ピロリドン(NMP)1mLに溶解した。そこへドライ窒素ベースのガス状の濃度約10%のC5810mLを注射器でとり、該溶液にバブリングすると、黄褐色の変化が紫外可視吸収450nm前後±100nmにおいて確認できた。
【0029】
(実施例2)
1,3−ジ−o−トリルグアニジン(1,3-di-o-tolylguanidine)95mgをN−メチル−2−ピロリドン(NMP)1mLに溶解した。そこへ濃度約0.5MのC58のアセトン溶液を加えると黄色の変化が紫外可視吸収400nm前後±100nmにおいて確認できた。
【0030】
(実施例3)
1,3−ジフェニルグアニジン(1,3-diphenylguanidine)89mgを有機溶媒の1種であるN−メチル−2−ピロリドン(NMP)1mLに溶解した。そこへドライ窒素ベースのガス状の濃度約10%のC5810mLを注射器でとり、該溶液にバブリングすると、黄褐色の変化が紫外可視吸収400nm前後±100nmにおいて確認できた。
【0031】
(実施例4)
1−(o−トリル)ビグアニド(1-(o-tolyl) biguanide)97mgを有機溶媒の1種であるN−メチル−2−ピロリドン(NMP)1mLに溶解した。そこへドライ窒素ベースのガス状の濃度約10%のC5810mLを注射器でとり、該溶液にバブリングすると、黄褐色の変化が紫外可視吸収450nm前後±100nmにおいて確認できた。
以上、光学的変化の手法の一つを使うことにより、フッ素化不飽和炭化水素の一種であるC58ガスを検出できた。
【0032】
(実施例5)
金を蒸着してあるQCM(Quarts Crystal Microbalance:水晶天秤)の表面を6−ヒドロキシヘキサンチオール(6-hydroxyhexanethiol)のエタノール溶液に浸漬した。得られた表面に1,3−ジフェニルグアニジンのエタノール溶液をキャストし、窒素雰囲気下、乾燥させた。その膜表面をチャンバー内のQCM装置に表面温度を約55度に昇温した状態でセットし、10%のC58のガスを流入すると、QVCM上に形成した該膜表面の質量変化に伴い、QCMの周波数の変化(基準となる周波数=6MHz)が確認できた。
以上、グアニジン骨格を有する化合物の反応による質量変化を用いて、フッ素化不飽和炭化水素の一種であるC58を検出できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素化不飽和炭化水素と、下記の一般式(I)で表される、グアニジン骨格を有する化合物との反応を用いて、前記フッ素化不飽和炭化水素を検出することを特徴とするフッ素化炭化水素の検出方法。
【化1】

[式中において、R1〜R5は、一般的なアミン基、もしくは炭化水素基(すなわち、有機化学におけるすべての官能基;炭素をベースとしたアルキル、芳香族、ヘテロ原子、典型元素、遷移金属、アルカリ金属、アルカリ土類金属、およびそれらのイオンから選ばれるコンポーネントも含み、複素環の場合もある)やそれらを有するポリマーから形成される置換基が存在する場合も含む。またそれらの置換基が各Rの間で環状部分を形成する場合も含む。ただし、R2−R3とR1−R5間で同時に、もしくはR2−R3とR4−R5間で同時に環状にはならない。]
【請求項2】
前記反応による光学的変化を検出することを特徴とする請求項1に記載の検出方法。
【請求項3】
前記反応による発光状態変化を検出することを特徴とする請求項1に記載の検出方法。
【請求項4】
前記一般式(I)で表される、グアニジン骨格を有する化合物以外の有機物が共存する態様を用いて検出することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の検出方法。
【請求項5】
前記フッ素化不飽和炭化水素が、C58又はC46或いはこれらの混合物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の検出方法。
【請求項6】
前記C58が、オクタフルオロシクロペンテンである請求項5に記載の検出方法。
【請求項7】
前記C46が、ヘキサフルオロブタジエン又はヘキサフクオロシクロブテン或いはこれらの混合物である請求項5に記載の検出方法。
【請求項8】
前記反応における、吸光度、反射率、赤外振動、発光、蛍光、燐光、屈折率、液晶状態、及びX線による光電子運動エネルギーの変化から選ばれる1つ又は2つ以上の光学的変化を検出することを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の検出方法。
【請求項9】
前記光学的変化として、発光状態の変化を用いることにより、濃度が0.1%以下のフッ素化不飽和炭化水素を検出することを特徴とする請求項8に記載の検出方法。
【請求項10】
前記反応による質量変化を検出することを特徴とする請求項1に記載の検出方法。
【請求項11】
前記グアニジン骨格を有する化合物を一定の周波数で振動する表面に少なくとも吸着させ、それにより形成された膜表面と前記フッ素化不飽和炭化水素との反応による質量変化を、当該表面における振動の一定の周波数からの変化でとらえることを特徴とする請求項10に記載の検出方法。
【請求項12】
フッ素化不飽和炭化水素を検出する検出剤であって、下記一般式(I)で表される、グアニジン骨格を有する化合物を有効成分とすることを特徴とするフッ素化不飽和炭化水素の検出剤。
【化2】

[式中において、R1〜R5は、一般的なアミン基、もしくは炭化水素基(すなわち、有機化学におけるすべての官能基;炭素をベースとしたアルキル、芳香族、ヘテロ原子、典型元素、遷移金属、アルカリ金属、アルカリ土類金属、およびそれらのイオンから選ばれるコンポーネントも含み、複素環の場合もある)やそれらを有するポリマーから形成される置換基が存在する場合も含む。またそれらの置換基が各Rの間で環状部分を形成する場合も含む。ただし、R2−R3とR1−R5間で同時に、もしくはR2−R3とR4−R5間で同時に環状にはならない。]
【請求項13】
フッ素化不飽和炭化水素を検出するためのセンサーであって、検出部に、下記の一般式(I)で表される、グアニジン骨格を有する化合物を用いたことを特徴とするフッ素化不飽和炭化水素の検出センサー。
【化3】

[式中において、R1〜R5は、一般的なアミン基、もしくは炭化水素基(すなわち、有機化学におけるすべての官能基;炭素をベースとしたアルキル、芳香族、ヘテロ原子、典型元素、遷移金属、アルカリ金属、アルカリ土類金属、およびそれらのイオンから選ばれるコンポーネントも含み、複素環の場合もある)やそれらを有するポリマーから形成される置換基が存在する場合も含む。またそれらの置換基が各Rの間で環状部分を形成する場合も含む。ただし、R2−R3とR1−R5間で同時に、もしくはR2−R3とR4−R5間で同時に環状にはならない。]
【請求項14】
前記グアニジン骨格を有する化合物を含む液体が多孔質材に含浸されていることを特徴とする請求項13に記載のフッ素化炭化水素の検出センサー。
【請求項15】
前記多孔質材が、セルロース又はポリマー又は多孔質アルミナである請求項14に記載のフッ素化炭化水素の検出センサー。
【請求項16】
前記グアニジン骨格を有する化合物を含有するポリマーを用いることを特徴とする請求項13〜15のいずれか一項に記載のフッ素化炭化水素の検出センサー。

【公開番号】特開2012−207980(P2012−207980A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−72922(P2011−72922)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000190301)新コスモス電機株式会社 (112)
【Fターム(参考)】