説明

フッ素化剤としてフッ化カルバモイルを使用する方法

【課題】フッ化カルバモイルをフッ素化源として用いてフッ素化化合物を合成する方法を提供する。
【解決手段】本発明は、フッ素化剤としてフッ化カルバモイルを用いる方法に関する。上記方法は、ハロゲン含有炭素を担持する誘導体を、温度70℃以上においてフッ化水素酸(HF)およびフッ化カルバモイルの総数と、交換可能なハロゲン原子、イソシアン酸官能基、およびフッ化カルバモイルの総数との間の比((HF+フッ化カルバモイル)/(交換可能なハロゲン原子+イソシアン酸+フッ化カルバモイル))を1.2以下の値に保ちながらフッ化カルバモイルで処理し、次いでスズ、アンチモン、および/またはチタンの塩で触媒作用工程を行うことにある。本発明はフッ素化誘導体の合成に応用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の主題は、イソシアネートおよびフッ化水素酸と平衡状態にあるフッ化カルバモイルをフッ素供給源として用いてフッ素化化合物を合成する方法である。
【0002】
本発明は、より詳細には全フッ素化炭素またはいずれにせよ全ハロゲン化炭素と、イソシアネート官能基、特にアニリン官能基から誘導されるイソシアネート官能基とを同時に示す化合物の合成を対象とする。
【背景技術】
【0003】
全ハロゲン化炭素、一般には全フッ素化炭素は脂肪性の炭素、すなわちsp3混成軌道を有するものである。
【0004】
用語「全ハロゲン化炭素」は、水素を持たず、かつイソシアネート官能基を持つ分子の部分との結合に加えて2個以下のラジカル、有利には1個以下のラジカルを含み、他のすべての原子がハロゲンであるsp3の性質の炭素を意味するものと理解されたい。前記ラジカルは有利には電子求引性基から選択され、特にそれらが2個存在する場合にはそうである。たとえ厳密な意味で全ハロゲン化されていなくとも2個のハロゲンと1個の水素を持つ炭素は、厳密な意味での全フッ素化化合物と同様に処理することが可能である。しかしながらそれらは反応がより遅い。交換可能な、または交換されたハロゲンを持つ炭素もまた、用語「ハロゲン担送炭素(halophoric carbon)」によって表される。
【0005】
最近の数十年の間に、特に過去十年間に全ハロゲン化、特に全フッ素化脂肪族原子を持つ化合物は、農芸化学および製剤の分野で重要性を増すようになった。これは、通常ペルフルオロメチルラジカルまたはペルフルオロエチルラジカルを含むこれらの全フッ素化生成物が、それらを構成する分子を特に活性にする生理的特性を有するためである。
【0006】
その結果、前記生成物をもたらす方法に関して多くの提案が活発になされるようになった。一般にフッ素化剤は液状のフッ化水素酸であり、一方中間基質または出発用基質はイソシアネートである。
【0007】
したがってトリフルオロメチル基を持つアニリンの場合、オクシデンタル・ケミカル・コーポレーション(Occidental Chemical Corporation)の欧州特許出願公開第A-129 214号、およびこの出願申請会社の法律上の前身の特許、すなわちローヌ・プーラン特殊化学(Rhone-Poulenc Specialites Chimiques)の代理で出願され、欧州特許出願公開第B-152 310号として付与された欧州特許を挙げることができる。
【0008】
より最近ではヘキスト株式会社(Hoechst A. G.)の代理による特許が欧州特許出願公開第A-639 556号として公開された。
【0009】
これらの文献は、フッ化水素酸ルートによる様々な代替処理形態について記述し、しばしばこのルートの限界を評価するためのよい手段である。
【0010】
この技術によれば出発点は、イソシアネート官能基による、例えばホスゲン化によるアミン官能基の保護である。次いで最終段階で全フッ素化形態であらねばならないはずの炭素を、一般には遊離基ルートによって塩素化する。最後にこうして得られた塩素化化合物を、無水フッ化水素酸媒質中で塩素/フッ素交換の段階にかける。
【0011】
交換後に得られるフッ化カルバモイルからのアミンの放出では2つの代替形態の可能性が探られており、それらは大幅に過剰なフッ化水素酸の存在下で加熱してフルオロホスゲンを得る手段によって、あるいは比較的少量の水によりフッ化水素酸媒質中で加水分解することによってアミンを放出させる。
【0012】
このフッ化カルバモイルのフルオロホスゲンへの分解を用いる技術は、付随してフルオロホスゲンの放出をもたらすという疑問の余地のない短所を有し、その毒性は第一次世界大戦中に毒ガスとして用いられたホスゲン固有の毒性よりもはるかに激しい。
【0013】
この技術の別の短所はフッ化水素酸の消費が大きいことであり、フッ化水素酸は大幅に過剰に用いられなければならないので比較的高価な反応物である。
【0014】
記載されている他の技術、すなわちフッ化カルバモイルのin-situでの加水分解を用いる技術は、すぐれていると云うには程遠い収率を与える。
【0015】
これらの低収率は最終製品の原価、したがって完全に操業した場合の収益性に深刻な負担をかける。
【0016】
さらに、大幅に過剰なフッ化水素酸の使用は、特に工場が内陸に位置する場合には経済的な理由または環境上の理由でその後の回収を必要とし、その回収は具体的には次のいずれかである可能性がある。
(1)より費用のかからないリサイクルとその後の脱水。これは操業の原価に関係するので回収をきわめて不利にする。
(2)中和とそれに続いてこうして得られた塩の価値の回復。
【0017】
最後に、分子の芳香環の電子が減損している場合でさえ、フッ化カルバモイルの反応性はきわめて高く、転化収率、すなわち転化の選択性に害を与える多くの種類からなる副産物をもたらすことが本発明につながった研究の間に明らかになった。アニリンへの利用を容易にする依然として開かれている実行可能なルートの一つは、イソシアネートに戻すことである。こうして本発明につながった研究の間に、特に厳密な手順が守られるという条件でフッ化カルバモイルからフッ化イソシアネートに進むことが可能であることが明らかになった。
【0018】
研究のこの部分は、フランス特許出願第9908647号として出願されたフランス出願の優先権主張のもとで国際出願PCT/FR00/01912号としてフランスで出願された国際特許出願の主題を形成した。これらの出願は公開されている。
【0019】
この技術は著しい前進の代表例であったが、まだ大量のフッ化水素酸のリサイクルを必要とした。これがこの研究を続行して、著しい量のイソシアネート官能基が存在した場合、それに従えばフッ化カルバモイルが多数の副産物の原因にはならないという発見を用いることが可能かどうかを試験した理由である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
これが、本発明の目的の一つが大幅に過剰なフッ化水素酸を必要としないフッ素化の方法を提供することである理由である。本発明の別の目的は、高い転化収率および高い反応収率を達成することを可能にする方法を提供することである。
【0021】
本発明の別の目的は、フルオロホスゲンの放出を防止するまたは少なくとも放出を制限することを可能にする前出のタイプの方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
これらの目的および後に明らかになる他の目的は、有利にはベンジルまたはアリル位に全ハロゲン化炭素を有する誘導体、あるいは自由ダブレットを示す原子、有利にはカルコゲンにより担持された全ハロゲン化炭素を有する誘導体を、フッ化カルバモイル、有利には芳香族フッ化カルバモイル(すなわち、その窒素原子が芳香環に結合している)によって処理する方法により達成され、当方法は前記全ハロゲン化炭素を有する誘導体および前記フッ化カルバモイルを70℃以上の温度、有利には90℃以上の温度にさらすこと、および前記70℃以上の温度において一方の交換可能なハロゲン、イソシアネート官能基、およびフッ化カルバモイルの総数に対するもう一方のフッ化水素酸(HF)およびフッ化カルバモイルの総数の比Qを反応の期間を通じて1.2以下、有利には1以下、また実際には最後の交換の最後の三分の一では0.9の値にさえ維持することを特徴とする。
【発明を実施するための形態】
【0023】
上記の比Qは次のように書き表すことができる。
(HF+フッ化カルバモイル)/(交換可能なハロゲン+イソシアネート+フッ化カルバモイル)
【0024】
この比は、気相で存在しようと液相で存在しようと反応器中に存在するすべての存在物を対象にする。操作が開放型(開いたままの)反応器中で行われる場合、気相のHFの量は簡単に求めることができず、液相または各液相のHFの量のみが計算に入れられることになる。
【0025】
ハロゲン担送炭素によって担持されるフッ素より重いハロゲンはすべて交換可能とみなされる(交換可能なハロゲンは、100℃の温度の自然圧下で10時間、大幅に過剰な(化学量論量の4倍以上)液状フッ化水素酸を作用させることによって交換することができるものである)。
【0026】
上記に示した値は当量(基質分子の)として、または官能基が単官能性の場合はモルとして表される値である。
【0027】
完全反応に対する最低の総合値、したがって経済的観点での最適値は、比Qが比、
(交換可能なハロゲン)/(交換可能なハロゲン+イソシアネート)
に近い場合である。
【0028】
この最低値は、反応の始めにすべての反応物が導入される場合に観察されなければならない。
【0029】
しかしながら本発明によれば、反応の初期段階において時間ごとにずっと低い値にずれるように反応物、特にフッ化水素酸を徐々に導入することが可能であり、それが望ましくさえある。
【0030】
本発明は、特に炭素原子50個以下、有利には30個以下、好ましくは20個以下の炭素数を有する軽い基質を対象とする。
【0031】
したがって本発明によれば塩素をフッ素で交換することを可能にするフッ素供給源としてフッ化カルバモイル(類)のフッ化物を使用することできることが明らかになった。
【0032】
したがっていくつかの制約が認められるという条件で、この技術がはなはだしく大量の副産物の形成の防止を可能にすることを実証することができた。
【0033】
本発明が実施される条件下では、イソシアネート、フッ化カルバモイル、および溶存HFの間に平衡が存在する(しかし後者は気体形態と平衡状態にある)。これが、反応混合物中のフッ化水素酸の部分を識別することが困難な理由である。これが、比が総和比の形で表示される理由である。
【0034】
反応は、有利には溶媒の存在下で行われるがこれは不可欠ではなく、具体的には溶媒として過剰のイソシアネートを使用することが可能である。これは、イソシアネートがフリーデル−クラフツ反応を引き起こすには電子が余りにも減損している場合、特に当てはまる。
【0035】
したがって芳香族の存在物は媒質中で電子が減損した環のみを示すことが好ましい。環が減損しているほどそれらが副反応を起こす可能性は小さい。したがって指標としては、いくつかの存在するベンゼン環に対してハメット定数σpの総和が0.2以上、有利には0.4以上、好ましくは0.7以上であることが望ましい。
【0036】
本発明によれば、すべての交換が必ずしも高温(70℃以上)で起こるのではなく、比Q’が0.8未満、好ましくは1未満である反応の一部のみが有利にはこれらの高温で起こるべきである。
【0037】
Q’は比、
(HF+フッ化カルバモイル)/(イソシアネート+フッ化カルバモイル)
である。
【0038】
比較的高温で操作することが可能であるが、特に媒質中のフッ化水素酸の溶解度が過度に低くならないように、反応は170℃以下、有利には150℃以下の温度で起こることが好ましい。この溶解度の欠如は、はなはだしく遅い反応速度の原因になる。
【0039】
溶媒の沸騰が気体フッ化水素酸を友連れにするのを防止するには、この沸点が操作条件下で作業温度より高くなるように比較的高い沸点を有する溶媒を選択することが好ましい。100℃以上、有利には120℃以上の大気圧における沸点(混合溶媒の場合は始発沸点)を有する溶媒を選択するのが妥当である。
【0040】
溶媒を基質から、また配送される最終製品から容易に分離することができるように選択する方がまた賢明である。
【0041】
よい結果をもたらす溶媒はしばしば、フッ化水素酸と少なくとも一部混和しうるもの、特にフッ化カルバモイルと反応しないハロゲン化芳香族誘導体からのものであることが多い。溶媒が芳香族溶剤の場合、出発用基質とその溶媒との間の副反応を避けるためにそれらの環を不活性にすることが望ましく、本発明の実施形態の一つに従ってルイス酸を基材とする触媒が用いられる場合は特にそうである。触媒の活性成分は、ルイス酸およびルイス酸の混合物から選択される。一般には単一のルイス酸のみが用いられる。
【0042】
本発明は、フッ素化剤として用いられるフッ化カルバモイルが出発用基質から作られ、次いでイソシアン酸官能基とフッ素で交換されることになるハロゲン原子を持つ官能基との両方を含む場合に特に有利である。これらの条件下においてハロゲン化、より具体的にはin situでのハロゲンの交換によるフッ素化に用いられることになるフッ化カルバモイルまたは各フッ化カルバモイルを形成する、すなわち導入は反応中間体として形成される、または気体フッ化水素酸の添加によって得られる最終生成物として形成される、当初のイソシアン酸エステルを含む媒質中へ行うのがより現実的である。
【0043】
これは、イソシアネートが芳香族イソシアネートである場合、すなわち芳香環に直接結合したイソシアネートの場合に特に有利である。
【0044】
反応が行われやすいように、イソシアネートで交換されることになるフッ素より重いハロゲンを持つ炭素は活性化されていることが好ましい。この活性化は一般に一対の電子で共役することによるものであり、したがって
(1)不飽和化合物、または
(2)それ自体が任意選択で不飽和化合物と結合したダブレットを有する原子の存在、
のいずれかによることができる。
【0045】
これは、その少なくとも1個がフッ素より大きい原子番号を有するハロゲンである少なくとも2個のハロゲンを担持するsp3混成状態のハロゲン担送炭素を基質が含むことを示すことによって表すことができる。このハロゲン担送炭素は、不飽和化合物を担持する低い混成状態の少なくとも1個の原子と結合するか、または当方法の操作条件下で前記ハロゲン担送炭素を活性化することができるダブレットを持つ原子と結合する。
【0046】
前記ダブレットを持つ原子は有利にはカルコゲンである。カルコゲンの効果はその順位が増すのに比例して大きくなる。したがってハロゲン担送炭素の活性化の観点から硫黄は酸素よりも効果的なカルコゲンである。
【0047】
ハロゲン担送炭素は有利には式、-CX12-EWGに対応する。ただし、X1、X2、およびEWG基の少なくとも1つ、有利には2つがフッ素以外のハロゲンであるという条件で、X1およびX2は同じまたは異なるハロゲンを表し、またEWGラジカルはハロゲンまたは炭化水素の基、有利には電子求引基X3(ハメット定数σpが0より大きい)を表す基を表し、またハロゲン担送炭素を、それを活性化させるX1、X2、およびEWGラジカルに結合する遊離価を指すハイフンは後に定義する。不飽和化合物を担持する低い混成状態の前記原子が炭素−炭素結合(アセチレン結合、好ましくはエチレン結合であって、有利にはこのエチレン結合自体が芳香族の性質を有する環に関与する)に関与する場合を別にすれば、有利には不飽和化合物を担持する低い混成状態の前記原子が下記の二重結合の一つに関与する原子であることを教示の目的で例によって示すことができる(上式で*Cがハロゲン担送炭素である)。
【0048】
【表1】

【0049】
反応はハロゲン担送炭素原子の活性が増すのに比例していっそう良く進行する。最善の活性化は、上記の表に示すように炭素とイオウの間の二重結合が存在するため、あるいは好ましくは後に本明細書中で示すようにカルコゲンおよび/またはフェニル環が存在することによる。
【0050】
副反応を避けるために反応媒質中に存在する潜在的なフッ化カルバモイルの量を制限することが好ましい。この制約条件は、一方のイソシアネートおよびフッ化カルバモイルに対するもう一方のフッ化水素酸およびフッ化カルバモイルのモル比、((HF+フッ化カルバモイル)/(イソシアネート+フッ化カルバモイル))が1.5以下、有利には1.2以下、好ましくは1以下、より好ましくは0.8以下であることによって表されるが、フッ化水素酸またはフッ化カルバモイルの添加は、選択された反応温度にした溶媒および前記誘導体の下端へ徐々に行うことが好ましく、さらに溶媒の存在は随意である。
【0051】
これらの条件下で反応は、より厳しい制約条件、すなわち添加を、100℃未満、有利には90℃未満の状態の反応持続期間の最後の90%において、一方のイソシアネートおよびフッ化カルバモイルに対するもう一方のフッ化水素酸およびフッ化カルバモイルの比、((HF+フッ化カルバモイル)/(イソシアネート+フッ化カルバモイル))がいつも0.5以下、有利には0.3以下、好ましくは0.1以下であるような速度で行うという条件で行うことができる。
【0052】
反応は、脂肪族ハロゲン担送炭素により担持されるハロゲンのうちのフッ素、すなわちsp3混成状態の割合が減少するにつれてそれに対応して容易になり、また反応混合物中のイソシアネートの割合が増加するにつれてそれに対応して容易になる。
【0053】
この文書の主題である反応を用いてハロゲン担送炭素上にフッ素よりも重い最後のハロゲンを残す選択的交換を行うことができ、または特に、過剰なフッ化水素酸を制限して完全な交換を行うことができる。
【0054】
したがって本発明の有利な形態によれば、特にいくつかの交換を行う場合、反応を数段階または数工程で行うことができる。第一段階において低温条件、すなわち温度60℃未満、有利には50℃未満、好ましくは40℃未満、より好ましくは30℃未満で第一の交換または各交換(1つまたは2つの交換)が行われ、第二段階において70℃以上、有利には90℃以上の温度に加熱することによって完全な交換が得られる。反応は、その温度が上記条件に対応する反応器のカスケード中で並流様式または向流様式で連続して容易に行うことができる。栓流式反応器の使用を考えることもできる。
【0055】
ルイス酸タイプの触媒の存在が役立つ可能性のあるのは、特にこの第二工程である。この触媒は、1〜20%のモル比(触媒/基質)で存在することができる。触媒が交換を通じてずっと存在する場合、その存在量はモル比の値を0.1%以下、実際には5%以下、有利には0.5〜5%、好ましくは1〜3%に限定することが好ましい。触媒の使用が70℃を超えるプロセスの一部、または「最後の交換」を意味するハロゲン担送炭素の最後の重ハロゲンに限定される場合、それは前記範囲の最高部、すなわちモル比1〜20%の存在量に定めることができる。
【0056】
触媒または複数の触媒を上記で指定した比率の計算で混合物中に重ハロゲン化物の形で導入する場合、触媒の重ハロゲン化物がすべてフッ化水素酸のフッ化物で置換されていることがその計算の前に考慮に入れられることになり、触媒由来の前記重ハロゲン化物を置換するために用いられた一部のフッ化水素酸はもはや交換には利用できない。これは、操作条件下でアニオンと関連する酸が揮発性である塩についても同じである。
【0057】
最も有用な触媒はアンチモン(V)、スズ(IV)、およびチタン(IV)の塩である。アンチモンおよび特にスズが好ましい。チタンもまた優秀な結果を可能にする。これらの塩は、単独または混合物として用いることができる。一般に最も実用的なものとしては単一元素の塩が触媒として用いられる。
【0058】
上記で述べたが別の方法でも表されるように、反応は基質およびフッ化カルバモイルが同じ系統の反応中間体に属する場合ますます有利になる。これは、前記フッ化カルバモイルが、少なくとも2個のハロゲン、有利にはその少なくとも1個、好ましくは2個がフッ素であるハロゲンを有する脂肪族炭素、すなわちsp3混成状態のものを含むことを示すことによって表すことができる。上記で述べたように1または複数個のフッ素を有する前記脂肪族炭素は、有利にはベンジル炭素、すなわちそれが芳香環に直接結合しているものであり、この芳香環は有利にはカルバモイル官能基の窒素を担持するものである。換言すれば化合物が2個の芳香環を含む場合、ハロゲン担送炭素原子はカルバモイル官能基またはイソシアン酸官能基の窒素を担持するものと同じ芳香環によって担持されることが好ましい。
【0059】
上記でたった今述べたことは、交換されるハロゲン原子を担持するフッ化カルバモイルが、有利には次式に対応することを示すことによって表すことができる。
(R)m-Ar(-Z-(CX2)p-EWG)-NH-CO-F
上式で、
(1)Arは有利には6個の環員を有する芳香環、好ましくは単素環であり、
(2)各X基は同じまたは異なっており、フッ素または式Cn2n+1のラジカル(ただしnは5以下、好ましくは2以下の整数)を表し、
(3)pは大きくても2の整数を表し、
(4)EWGは炭化水素の基または電子求引基を表し、そのありうる官能基は反応の条件下で不活性で、有利にはフッ素または式Cn2n+1(ただしnは8以下、有利には5以下の整数)の全フッ素化残基であり、また-(CX2)p-EWGの炭素の総数は有利には1〜15、好ましくは1〜10であり、
(5)mは0、または1〜4の限定された範囲内で選択される整数(すなわちその限界値を含む)であり、また有利にはmは2以下であり、
(6)Rは有利には、ハロゲン、有利には軽ハロゲン(すなわち塩素およびフッ素)と、炭化水素ラジカル、好ましくはアルキル、アリール、アルキルカルコゲニル(アルキロキシルなど)、およびアリールカルコゲニル(アリーロキシルなど)とから選択される操作条件下で不活性な置換基であり、また
(7)Zは単結合またはカルコゲン原子、有利には軽カルコゲン原子(硫黄および酸素)を表す。
【0060】
Arは有利には単環、好ましくは6個の環員を有する単環である。
【0061】
基質は、より好ましくは次式に対応する。
【化1】

上式で、X1、X2、およびX3基の少なくとも1つ、有利には2つがフッ素以外のハロゲンであるという条件で、
(1)Zは単結合またはカルコゲン原子を表し、
(2)X1およびX2は、少なくとも一方、有利には両方がフッ素以外のハロゲンであるという条件で、同じまたは異なるハロゲンを表し、
(3)R1およびR2はハロゲン、アルキル、アリール、またはニトリルからの置換基であり、また
(4)X3ラジカルはハロゲン、または反応の邪魔をしない、特にこの技術領分野で一般に「Rf」によって表される全フッ素化型の基であることができる電子求引基(σp定数が0よりも大きい)である。
【0062】
溶媒の使用を選択した場合、満足な結果をもたらす溶媒のなかではクロロベンゼン、特にモノクロロベンゼン、ジクロロベンゼン、またはトリクロロベンゼン、およびそれらの混合溶媒を挙げることができる。
【0063】
反応は、有利には交換されるハロゲン原子の当初存在する100個のうちせいぜい1個のみが残る時、好ましくは交換される少なくとも1個のハロゲン原子を担持する分子のせいぜい1%が残る時にのみ停止する。
【0064】
以下の非限定的実施例は本発明を例示するものである。
【実施例】
【0065】
(検証される反応の原理)
下記の概念図に従ってフッ化水素酸の反応によりパラ−(トリフルオロメチル)ベンゼンイソシアネート(pTFMI)からパラ−(トリクロロメチル)ベンゼンイソシアネート(pTCMI)を調製することを可能にする方法の開発。
【化2】

【0066】
ここには現れないが、第一反応ではフッ化水素酸をイソシアネートに加えてフッ化カルバモイルを形成する。
【0067】
例1
(1)クロロベンゼン90.2g
(2)HF = 31.5g (3.86 / pTCMI)
(3)pTCMI 97.2g (0.407モル)
を装入した。
【0068】
クロロベンゼンを装入し、次いでオートクレーブを閉じ0℃に冷却した。HFを0℃で攪拌しながら導入した。オートクレーブは圧力の調整を可能にする堰を装備する。圧力を2/3バール(約0.67×105Pa)に調整し、反応媒質を10℃に加熱し、次いでpTCMIを約10分かけて導入し、次いで反応媒質を25℃において2.5バール(約2.5×105Pa)で7時間加熱した。反応器を25℃で脱ガス(堰の開放)し、次いで0℃に冷却して夜通し放置した。
【0069】
反応媒質を120℃で自然圧力下で6時間加熱した(試験の終わりの時点での圧力は9.4バール(約9.4×105Pa))。分析はガスクロマトグラフィ(GC)によって行った。
【0070】
25℃でのフッ素化の終わりの時点における結果
(1)フッ化カルバモイル/イソシアン酸の比=24 / 1
(2)クロマトグラムのピーク面積%としての化合物の分布
(2-1)化合物CF3 11%
(2-2)化合物CF2Cl 71.5%
(2-3)化合物CFCl2 9.8%
(2-4)化合物CCl3 2%
【0071】
120℃でのフッ素化の終わりの時点における結果
(1)フッ化カルバモイル/イソシアン酸の比=77 / 21
(2)クロマトグラムのピーク面積%としての化合物の分布
(2-1)化合物CF3 79%
(2-2)化合物CF2Cl 20%
(2-3)化合物CFCl2 0.5%
(2-4)化合物CCl3 0%
収率の推定(定量的に求めた有機化合物の合計)は67%。
【0072】
例2
(1)クロロベンゼン90.2g
(2)HF = 32g (3.88 / pTCMI)
(3)pTCMI 98.4g (0.412モル)
(4)SbCl5 9.38g (9.9モル%)
を装入した。
【0073】
クロロベンゼンおよびSbCl5を装入し、次いでオートクレーブを閉じ0℃に冷却した。HFを0℃で攪拌しながら導入した。オートクレーブは圧力の調整を可能にする堰を装備する。圧力を2/3バールに調整し、次いでpTCMIを約10分かけて導入し、次いで反応媒質を25℃で7時間加熱した。反応器を25℃で脱ガス(堰の開放)し、次いで0℃に冷却して夜通し放置した。
【0074】
反応媒質を120℃で自然圧力下で6時間加熱した。
25℃でのフッ素化の終わりの時点における結果
(1)フッ化カルバモイル/イソシアン酸の比=16
(2)クロマトグラムのピーク面積%としての化合物の分布
(2-1)化合物CF3 19.5%
(2-2)化合物CF2Cl 68.1%
(2-3)化合物CFCl2 8.5%
(2-4)化合物CCl3 2.7%
【0075】
120℃での処理の終わりの時点における結果
(1)フッ化カルバモイル/イソシアン酸の比=1.5
(2)クロマトグラムのピーク面積%としての化合物の分布
(2-1)化合物CF3 84.3%
(2-2)化合物CF2Cl 14.4%
(2-3)化合物CFCl2 0.4%
(2-4)化合物CCl3 0%
収率の推定(定量的に求めた有機化合物の合計)は86%。
【0076】
例3
(1)クロロベンゼン90.3g
(2)HF = 34.8g (4.36 / pTCMI)
(3)pTCMI 95.3g (0.399モル)
(4)SbCl5 8.97g (9.4モル%)
を装入した。
【0077】
クロロベンゼンおよびSbCl5を装入し、次いでオートクレーブを閉じ0℃に冷却した。HFを0℃で攪拌しながら導入した。オートクレーブは圧力の調整を可能にする堰を装備する。圧力を22バール(約22×105Pa)に調整し、次いでpTCMIを約10分かけて導入し、次いで反応媒質を120℃で5時間加熱した。
【0078】
120℃でのフッ化処理の終わりの時点における結果
(1)フッ化カルバモイル/イソシアン酸の比=4.2
(2)クロマトグラムのピーク面積%としての化合物の分布
(2-1)化合物CF3 90.5%
(2-2)化合物CF2Cl 0.6%
(2-3)化合物CFCl2 0%
(2-4)化合物CCl3 0%
収率の推定(定量的に求めた有機化合物の合計)は85%。
【0079】
例4〜10
触媒の役割
これらは同一手順に従って行った。
(1)溶媒/pTCMI/触媒をオートクレーブに導入する
(2)混合物をT1に加熱する
(3)HFをX時間かけて導入し(2 / 3g当たり)、圧力を2バール(約2×105Pa)に調整する(T = T1で最後の2時間)
(4)混合物を大気圧の状態まで持っていく
(5)混合物をT2に加熱する
(6)最後の2時間はT = T2
(7)反応物質を冷却し、残留HFを窒素でスパージングして除去する
(8)反応物質を塩化メチレンで希釈し、次いで速やかに水で洗浄する
(9)塩化メチレンに溶かした溶液上で分析を行う
【0080】
(操作条件)
【表2】

【0081】
(分析結果)
GCによる分析。pTCMIのフッ化カルバモイルとpTCMIは分離できない。最終生成物は大部分がpTCMIから構成される。
【0082】
【表3】

【0083】
例11〜13
触媒の性質および最終温度の影響
実施例11〜13は同一手順に従って行った。
(1)溶媒/pTCMI/触媒をオートクレーブに導入する
(2)混合物をT1に加熱する
(3)HFを2時間かけて導入し(2 / 3g当たり)、圧力を2バールに調整する(T = T1で最後の2時間)
(4)混合物を大気圧の状態まで持っていく
(5)混合物をT2に加熱する
(6)最後のX時間はT = T2
(7)反応物質を冷却し、残留HFを窒素でスパージングして除去する
(8)反応物質を塩化メチレンで希釈し、次いで速やかに水で洗浄する
(9)塩化メチレンに溶かした溶液上で分析を行う
【0084】
(操作条件)
【表4】

【0085】
(分析結果)
収率はGC分析により求めた(pTCMIのフッ化カルバモイルとpTCMIは分離できない)。
pTCMI組成物のpTCMI/フッ化カルバモイルは、赤外分析法により求めた。
【0086】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式
【化1】

(上式中、Zは単結合または酸素もしくは硫黄を表し、ここでX1、X2、およびX3は少なくとも2つのハロゲンがフッ素以外のハロゲンであるという条件で同じまたは異なるハロゲンを表し、
1およびR2はハロゲン、アルキル、アリール、またはニトリルから選ばれる置換基であり、
3ラジカルはフッ素またはCF3基より選ばれる電子求引基である)
で表される誘導体を、フッ化カルバモイルを介して処理する方法であって、前記誘導体および前記フッ化カルバモイルを70℃以上の温度にさらし、かつ前記70℃以上の温度において一方の交換可能なハロゲン、イソシアネート官能基、およびフッ化カルバモイルの総数に対するもう一方のフッ化水素酸(HF)およびフッ化カルバモイルの総数の比((HF+フッ化カルバモイル)/(交換可能なハロゲン+イソシアネート+フッ化カルバモイル))を1.2以下の値に維持し、反応媒体が触媒を含み、その活性成分がルイス酸およびその混合物から選択されることを特徴とする、方法。
【請求項2】
1、X2、およびX3が塩素であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記誘導体がパラ-(トリクロロメチル)ベンゼンイソシアネートであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
一方の交換可能なハロゲン、イソシアネート官能基、およびフッ化カルバモイルの総数に対するもう一方のフッ化水素酸(HF)およびフッ化カルバモイルの総数の比((HF+フッ化カルバモイル)/(交換可能なハロゲン+イソシアネート+フッ化カルバモイル))が1以下の値に維持されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記温度が90℃以上であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記温度が150℃以下であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記誘導体が溶媒中で反応されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記溶媒が少なくとも100℃の沸点を示すことを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記溶媒がフッ化水素酸と混和性であるもの、有利にはフッ化カルバモイルと反応しないハロゲン化芳香族誘導体より選ばれることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記溶媒がクロロベンゼン、有利にはモノクロロベンゼン、ジクロロベンゼンおよびトリクロロベンゼンより選ばれることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記フッ化カルバモイルが、芳香族イソシアネートを含む反応混合物中へ無水フッ化水素酸を導入することにより現場で形成されることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項12】
フッ化水素酸の、有利には溶液の形態での添加が、選択された反応温度にした溶媒および前記誘導体の下端へ徐々に行うことを特徴とする、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
反応を以下の2段階
重ハロゲンの第1の交換(1つもしくは2つの交換)を、60℃未満、有利には50℃未満、好ましくは40℃未満、さらに好ましくは30℃未満の冷条件において行う第1段階、
70℃以上、有利には90℃以上で加熱することにより完全に交換する第2段階
で行うことを特徴とする、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
フッ化水素酸の添加を、100℃未満の状態にある反応時間の最後の90%において、一方のイソシアネートとフッ化カルバモイルに対するもう一方のフッ化水素酸とフッ化カルバモイルの比((HF+フッ化カルバモイル)/(イソシアネート+フッ化カルバモイル))が常に、0.5以下であるような速度で行うことを特徴とする、請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
反応を、反応混合物がまだ交換されるべき重ハロゲン原子(フッ素以外)を示す分子を1%未満含む時に停止することを特徴とする、請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
触媒が第1の段階において、0.1〜5%の(触媒/基質)モル比で導入されることを特徴とする、請求項13記載の方法。
【請求項17】
触媒が第2の段階において、1〜20%の(触媒/基質)モル比で導入されることを特徴とする、請求項13記載の方法。
【請求項18】
反応媒体が温度70℃、有利には90℃に達した時にのみ前記触媒が反応媒体中に導入されることを特徴とする、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
基質がフッ素と交換されるべきわずか一個のハロゲンを有する時にのみ前記触媒が反応媒体中に導入されることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項20】
前記触媒がアンチモン化合物、有利には5価アンチモン化合物、好ましくはアンチモン(V)塩を含むことを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項21】
前記触媒がスズ化合物、有利には4価スズ化合物、好ましくはスズ(IV)塩を含むことを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項22】
前記触媒がチタン化合物、有利には4価チタン化合物、好ましくはチタン(IV)塩を含むことを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項23】
前記触媒がハロゲン化物またはハロゲン化物の混合物の形態であることを特徴とする、請求項20〜22のいずれか1項に記載の方法。

【公開番号】特開2010−77165(P2010−77165A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−7030(P2010−7030)
【出願日】平成22年1月15日(2010.1.15)
【分割の表示】特願2002−556160(P2002−556160)の分割
【原出願日】平成14年1月10日(2002.1.10)
【出願人】(390023135)ロディア・シミ (146)
【Fターム(参考)】