説明

フッ素化方法

水性反応溶媒中で実施することができる、ヨードニウム塩をフッ素イオンでフッ素化する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヨードニウム塩のフッ素化に関する。具体的には、本発明は、水の存在下で反応が進行するヨードニウム塩のフッ素化に関する。本発明は、ヨードニウム塩の放射性フッ素化の実施にも適している。本発明の方法で得られる放射性フッ素化合物は、医薬組成物に配合するのに有用である。さらに、本発明は、本発明の方法の実施を容易にするためのキットに関する。
【背景技術】
【0002】
フッ化物による求核置換は、有機化合物にフッ素を導入するための最も魅力的な方法の一つとみなされている。フッ化物の反応性を増大させ、併せて水の存在に起因するヒドロキシル化副生成物の生成を避けるため、水は反応前にフッ化物から除去され、フッ素化反応は無水反応溶媒を用いて実施される(Aigbirhio et al 1995 J.Fluor.Chem.70 pp 279−87)。フッ素イオンからの水の除去は、「裸の」フッ素イオンにするといわれる。これは、求核フッ素化に関する従来技術において、フッ化物の反応性を増大させ、併せて水の存在に起因するヒドロキシル化副生成物の生成を避けるのに必要な段階とみなされている(Moughamir et al 1998 Tett.Letts.39 pp 7305−6)。
【0003】
フッ素化反応でのフッ素イオンの反応性を高めるために用いられる追加の段階は、水の除去後にカチオン対イオンを添加することである。対イオンは、無水反応溶媒中で、フッ素イオンの溶解性を維持するのに十分な溶解度をもつべきである。従って、従前使用されてきた対イオンとしては、ルビジウムやセシウムのような大きいがソフトな金属イオン、Kryptofix(登録商標)のようなクリプタンドと錯形成したカリウム、又はテトラアルキルアンモニウム塩が挙げられる。フッ素化反応に好ましい対イオンは、無水溶媒中での溶解性が高く、フッ化物の反応性を向上させることから、Kryptofix(登録商標)のようなクリプタンドと錯形成したカリウムである。
【0004】
18F]フッ素イオンは、通例、[18O]水ターゲットの放射線照射の生成物である水溶液として得られる。[18F]フッ化物を、求核性放射標識反応での使用に適するように、反応性求核試薬に変換するために様々な段階を実施することが、広く行き渡った慣行となっていた。非放射性フッ素化と同様に、これらの段階は、[18F]フッ素イオンから水を除去すること、及び適当な対イオンを用意することを含む(Handbook of Radiopharmaceuticals 2003 Welch & Redvanly eds.ch.6 pp 195−227)。次いで、無水溶媒を用いて求核性放射性フッ素化反応を実施する(Aigbirhio et al 1995 J.Fluor.Chem.70,pp 279−87)。非放射性フッ素化とは対照的に、放射性フッ素化ではさらに時間が重要な要因となる。[18F]の半減期が109.7分と比較的短いからである。
【0005】
18F]フッ化アリールの製造が、Pike及びAigbirhioによって報告されている(1995 J.Chem.Soc.Chem.Comm.pp 2215−6)。その方法は、[18]フッ化物Kryptofix(登録商標)錯体をアセトニトリル中でジアリールヨードニウム塩と反応させる芳香族求核置換反応である。窒素蒸気下での加熱によって[18]フッ化物Kryptofix(登録商標)錯体から水が除去される。水を含まないアセトニトリルが反応に用いられている。反応からの水の厳密な除去が良好な収率のために必要であると考えられていた。Shah他(1998 J.Chem.Soc.,Perkin Trans.1,pp2043−6)は、様々な無水溶媒中で無水[18F]フッ化物を用いて、ジアリールヨードニウム塩の放射性フッ素化について検討している。検討された溶媒(ジクロロメタン、クロロホルム、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン及びアセトニトリル)のうち、アセトニトリルを使用すると最も高い収率が得られ、アセトニトリルがジアリールヨードニウム塩の最も良い溶媒であることも見出されている。この研究で、クリプタンドと錯形成した[18F]−KFの使用と[18F]−CsFの使用の比較も行われ、クリプタンドと錯形成した[18F]−KFを放射性フッ素化剤として使用したときに収率が向上することが見出されている。
【0006】
フッ化アリールの別の製造法が、Van der Puy(1982,J.Fluorine Chem.,21 385−392)によって用いられ、溶媒を用いずにアリールヨードニウム塩をフッ化カリウムと加熱する。このアリールヨードニウム塩は非求核性対イオンを有するといわれている。
【非特許文献1】Aigbirhio et al 1995 J.Fluor.Chem.70 pp 279−87
【非特許文献2】Moughamir et al 1998 Tett.Letts.39 pp 7305−6
【非特許文献3】Handbook of Radiopharmaceuticals 2003 Welch & Redvanly eds.ch.6 pp 195−227
【非特許文献4】1995 J.Chem.Soc.Chem.Comm.pp 2215−6
【非特許文献5】1998 J.Chem.Soc.,Perkin Trans.1,pp2043−6
【非特許文献6】1982,J.Fluorine Chem.,21 385−392
【非特許文献7】Protecting proups in organic synthesis,Theodora W.Greene and peter G.M.Wuts,Published by John Wiley & Sons Inc
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0007】
驚くべきことに、従来技術の教示とは対照的に、本発明は、ヨードニウム塩の求核性フッ素化が水の存在下で首尾よく実施でき、無水溶媒を用いて実施される反応に比べて改善された収率が得られることを実証する。放射性フッ素化に関連した更なる利益は、フッ化物の乾燥段階を省くと時間が節約され、その結果、放射化学収率が改善されることである。Kryptofix(登録商標)も、フッ素イオンの反応性を増加させるために、この反応においてもはや必要ではなくなる。本発明は、本発明の方法で得られる化合物を含む医薬組成物、及び本発明の方法を実施するためのキットも提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
第一の態様では、本発明は、フッ素イオン源でヨードニウム塩をフッ素化することを含む、芳香族又は複素環式芳香族のフッ素で標識した化合物を生成する方法であって、反応溶媒が水を含むことを特徴とする方法に関する。
【0009】
反応溶媒が100%水のとき、フッ素化生成物が得られたが、反応溶媒が水と水混和性溶媒との混合物であるとき、最良の収率が得られた。
【0010】
本発明においては、「水混和性溶媒」とは、水と一様に混合することができる溶媒である。本発明の適当な水混和性溶媒の例には、アセトニトリル、エタノール、メタノール、テトラヒドロフラン並びにジメチルホルムアミド及びジメチルスルホキシドがある。本発明の好ましい水混和性溶媒はアセトニトリルである。
【0011】
好ましくは、水:水混和性溶媒の体積:体積比は、1:99〜1:1であり、最も好ましくは10:90〜30:70である。
【0012】
最も驚くべきことに、水の存在のもとに反応が十分に進むばかりか、反応混合物中での水の存在が実際に生成物の収率を改善することを本発明者らは見出した。様々なフッ化物の対イオンの場合にそうであることが示された。
【0013】
無水条件下で実施された従来技術のフッ素化反応において、好ましい対イオンは、Kryptofix(登録商標)と錯形成したカリウムであるといわれている。しかし、カリウムが、Kryptofix(登録商標)が無くても、反応溶媒中に水が存在する場合、対イオンとしてうまく作用しうることを本発明者らは見出した。セシウムやナトリウムなど他の金属イオンも、本発明の方法において適当な対イオンである。
【0014】
錯体として対イオンを用意する必要がないのは、それによって、対イオンをKryptofix(登録商標)のような錯化剤と錯形成させる段階がプロセスから除かれるので、このプロセスの追加の利益である。
【0015】
好ましくは、本発明の方法では、以下の式(I)又は(II)のヨードニウム塩のフッ素化によって下記の一般式(III)の生成物を得る。
【0016】
【化1】

式中、Qは電子欠乏性芳香族又は複素環式芳香族部分であり、
、R、R、R及びRは各々独立に水素、−O(C1−10アルキル)又はC1−10アルキルであり、
はトリフルオロメタンスルホン酸イオン(トリフレート)、ペルフルオロC〜C10アルキルスルホン酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、メタンスルホン酸イオン(メシレート)、トルエンスルホン酸イオン(トシレート)、テトラフェニルホウ酸イオンのような対イオンである。
【0017】
Q−F (III)
式中、Qは一般式(I)及び(II)で定義した通りである。
【0018】
本明細書においては、「C〜C10アルキル」という用語は、炭素原子数10個以下の完全に飽和した直鎖又は枝分れ炭化水素鎖を意味する。例としては、メチル、エチルイソプロピル、n−ブチル、tert−ブチル、n−オクチル及びn−デシルが含まれる。
【0019】
本明細書においては、「芳香族」という用語は、1以上の環を含み、それらの環の1個以上が芳香族性を有し、環炭素原子数5〜14の基を意味する。芳香族基の環は縮合していてもよいし、単結合で連結していてもよい。
【0020】
「複素環式芳香族」という用語は、1以上の環上炭素原子がN、O又はSで置換されている点を除いて、上記で定義した芳香族基を意味する。
【0021】
「電子欠乏性」という用語は、非置換芳香族又は複素環式芳香族系と比べたとき、π結合系電子の欠乏した置換芳香族又は複素環式芳香族系を意味する。
【0022】
芳香族環系の効率的な求核置換を実施するためには、その芳香族環系が確実に電子欠乏性でなければならないことは、化学の技術者にはよく理解されている。本発明の方法でもそうであり、従って芳香族又は複素環式芳香族環系[一般式(I)及び(II)のQ]が電子欠乏性であることが不可欠である。どの芳香族及び複素環式芳香族系が本発明の方法によってフッ素化できるはずであり、どれがそうではないかは、化学の技術者なら容易に認識することができよう。
【0023】
従って、R〜Rは、全体として、芳香族環Qが置換ベンゼン環よりも電子欠乏性となり、環Qが確実にフッ素化され、ヨードニウム塩がQのフッ素化の有用な前駆体となるのに十分安定となるように選択される。
【0024】
最も好ましい本発明のR〜R基は、水素、C1−3アルキル、−O−(C〜Cアルキル)、とりわけ水素、メチル及びメトキシである。
【0025】
式IIの化合物において、「固体担体」は、プロセスで使用される溶媒に不溶であるが、リンカーがそれと共有結合できる適当な固相の担体でよい。適当な固体担体の例としては、ポリスチレン(例えばポリエチレングリコールのブロックとグラフトされていてもよい)、ポリアクリルアミド、ポリプロピレン、又ははこれらのポリマーでコートされたガラス又はシリコンが含まれる。固体担体は、ビーズやピンのような小さい離散粒子の形態、又は例えばカートリッジや微細加工容器のような反応容器の内面のコーティングでもよい。こうした固体担体で本発明の方法を実施することによって、フッ素化の生成物が、追加の分離段階を必要とせずに純粋な形で得られる。こうするのが、フッ素化が放射性フッ素化のときは、特に有利である。というのは、製造方法で時間が節約されると、放射化学収率がより高くなるからである。
【0026】
式IIの化合物において、「リンカー」は、反応性が最高になるように反応サイトを固体担体構造から十分に離しておく働きをする適当な有機基でよい。適切には、リンカーは、合成しやすいように、アミドエーテル又はスルホンアミド結合で樹脂に結合したC1−20アルキル、C1−20アルコキシを含む。リンカーは適切には、ポリエチレングリコール(PEG)リンカーでもよい。このようなリンカーの例は、固相化学の技術者には周知である。
【0027】
前述の通り、基Qは電子欠乏性であり、従って、芳香族環系は、OHやアミノ基のような電子供与性置換基を有する場合、1以上の電子求引性基も含まなければならない。基Qが電子供与性置換基を含む場合は、それが一般式(I)及び(II)のIに対してメタ位にあることも好ましい。
【0028】
基Qの適当な置換基の例は、C1−10アルキル、−O(C1−10アルキル)、−C(=O)C1−10アルキル、−C(=O)NR(C1−10アルキル)、−(C〜Cアルキル)−O−(C〜Cアルキル)、C5−14アリール、−O(C5−14アリール)、−C(=O)C5−14アリール、−C(=O)NR(C5−14アリール)、C5−14ヘテロアリール、−O(C5−14ヘテロアリール)、−C(=O)C5−14ヘテロアリール、−C(=O)NR(C5−14ヘテロアリール)、C3−10シクロアルキル、−O(C3−10シクロアルキル)、−C(=O)(C3−10シクロアルキル)、−C(=O)NR(C3−10シクロアルキル)、C3−10ヘテロシクリル、−O(C3−10ヘテロシクリル)、−C(=O)(C3−10ヘテロシクリル)、−C(=O)NR(C5−14ヘテロシクリル)(式中、RはH、C〜Cアルキル、C〜C10シクロアルキル、C〜C10ヘテロシクリル、C〜C10アリール又はC〜C10ヘテロアリールである。)であり、これらのいずれも、適宜、OH、NHR、COOH又はこれらのいずれかの基の保護形で置換されていてもよいし、或いは2つの隣接した置換基が四乃至六員炭素環又は複素環を形成してもよく、該四乃至六員炭素環又は複素環適宜追加の芳香族環、複素環式芳香族環、炭素環又は複素環と縮合していてもよい。
【0029】
芳香族部分Qは、電子求引性置換基も存在する場合のみ、OH、NHR、ハロゲンのような他の電子供与性置換基を有することもできる。
【0030】
Qの特に好ましい例を以下の表1に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
【表2】

【0033】
【表3】

本発明の方法を溶液中で実施しようと、固相で実施しようと、フッ素標識化合物は[18F]標識化合物であることが好ましく、フッ素イオン源は18源であることが好ましい。最も好ましくは、[18F]標識化合物が、[18F]標識放射性トレーサー、即ち対象内の特定の生体内標的のPET画像処理による検出に適した[18F]標識化合物である。
【0034】
18F]標識トレーサーは、好ましくは表1の第一列に列挙した化合物から選択される。これらの[18F]標識トレーサーの各前駆体を、表1の第二列に載せたが、P〜Pは各々独立に水素又は保護基である。保護は、Protecting proups in organic synthesis,Theodora W.Greene and peter G.M.Wuts,Published by John Wiley & Sons Incに記載されているような常法で実施される。
【0035】
本発明の方法が、[18F]標識化合物を製造するものである場合、
(i)過剰な18を例えばイオン交換クラマトグラフィーで除去する段階、及び/又は
(ii)保護基を除去する段階、及び/又は
(iii)有機溶媒を除去する段階、及び/又は
(iv)得られる化合物を水溶液として処方する段階
の1以上の段階を任意の順序でさらに含んでいてもよい。
【0036】
本発明の方法は、キットを用いて実施することもでき、従って、第二の態様では、本発明は、本発明の第一の態様の方法に従って芳香族フッ素標識化合物の製造用キットに関し、このキットは以下のものを含む。
(i)フッ素イオン源を溶解するための水性溶媒を収容したバイアル、
(ii)ヨードニウム塩を収容した反応容器。
【0037】
ヨードニウム塩は、上記に定義された一般式(I)又は(II)の化合物でよい。ヨードニウム塩が、一般式(II)の化合物である場合、固体担体は反応容器表面のコーティングを含んでいてもよい。
【0038】
適当な反応容器としては、カートリッジ及び微細加工容器が挙げられ、これらはいずれも当業者に周知である。
【0039】
キットはフッ素イオン源を含むこともでき、これはバイアル中で水性溶媒に溶解して提供されてもよく、或いは別の容器に入れて提供されてもよい。
【0040】
好ましい溶媒及びフッ素イオン源は、上記で本発明の第一の態様に関して説明した通りである。
【0041】
本発明の方法の生成物が、例えば表1の列1に示す化合物のような、[18F]放射性トレーサー又は造影剤である場合、造影剤は、患者の画像を得る方法において有用であり、この方法は、本発明の方法で得られる[18F]標識造影剤を患者に投与すること、及び患者の身体内での[18F]標識造影剤の存在を検出することによって患者の像を得ることを含む。
【0042】
本発明の方法で得られる[18F]造影剤は、医薬組成物に使用できる。
【0043】
「医薬組成物」とは、本発明では、本発明の造影剤又はその塩を人体への投与に適した形態で含む処方物であると定義される。この医薬組成物は、非経口的に、即ち注射によって投与することができ、水溶液であることが最も好ましい。かかる組成物は適宜緩衝剤、薬学的に許容される可溶化剤(例えば、シクロデキストリン、Pluronic、Tweenのような界面活性剤、又はリン脂質)、薬学的に許容される安定剤又は酸化防止剤(アスコルビン酸、ゲンチジン酸、パラアミノ安息香酸など)などの追加成分を含んでいてもよい。
【実施例】
【0044】
水の存在下でのヨードニウム塩のフッ素化を評価するために、多くの実験を実施した。
【0045】
比較例1:カリウム/Kryptofix対イオンを用いたジフェニルヨードニウムトリフレートの放射性フッ素化
18O濃縮水(〜0.3ml)中の[18F]フッ化物を反応容器に仕込み、これにアセトニトリル中のKryptofix222(11.4mg)及び炭酸カリウム(0.1M溶液0.2ml)を添加した。フッ化物を共沸乾燥によって乾燥させた。乾燥プロセスの完了後、ジフェニルヨードニウムトリフレート(Sigma−Aldrich Chemicals社製、22.5mg)の無水アセトニトリル(1ml)溶液を、乾燥フッ化物に添加した。混合物を95℃で15分間加熱したのち圧縮気流中で冷却した。生成物を密封式回収バイアルに移し、反応物を、Phenomenex Luna3μC18カラム(150×4.6mm)を用いた高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で、水中0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)に対するアセトニトリル中0.1%TFAの割合を15分かけて5%から95%に変化させる1ml/分の勾配溶出を用いて分析した。
【0046】
実施例2:カリウム/Kryptofix対イオンを用いた9:1アセトニトリル−水混合溶媒中のジフェニルヨードニウムトリフレートの放射性フッ素化
18O濃縮水(〜0.3ml)中の[18F]フッ化物を反応容器に仕込み、これにアセトニトリル中のKryptofix222(11.4mg)及び炭酸カリウム(0.1M溶液0.2ml)を添加した。フッ化物を共沸乾燥によって乾燥させた。乾燥プロセスの完了後、無水アセトニトリル(0.9ml)と水(0.1ml)の混合物中のジフェニルヨードニウムトリフレート(Sigma−Aldrich Chemicals社製、23.0mg)の溶液を、乾燥フッ化物に添加した。混合物を100℃で15分間加熱したのち圧縮気流中で冷却した。生成物を密封式回収バイアルに移し、反応物を実施例1に記載の通りHPLCで分析した。
【0047】
実施例3:未乾燥のフッ化物をカリウム/Kryptofix対イオンと共に用いた3:1アセトニトリル−水中のジフェニルヨードニウムトリフレートの放射性フッ素化
18O濃縮水(〜0.1ml)中の[18F]フッ化物を反応容器に仕込み、これにアセトニトリル(0.9ml)及びジフェニルヨードニウムトリフレート(Sigma−Aldrich Chemicals社製、21.7mg)中のKryptofix222(11.4mg)及び炭酸カリウム(0.1M溶液0.2ml)を添加した。この混合物を100℃で15分間加熱した後、圧縮気流中で冷却した。生成物を密封式回収バイアルに移し、反応物を実施例1に記載の通りHPLCで分析した。
【0048】
実施例4:未乾燥のフッ化物をカリウム対イオンと共に用いた3:1アセトニトリル−水中のジフェニルヨードニウムトリフレートの放射性フッ素化
18O濃縮水(〜0.1ml)中の[18F]フッ化物を反応容器に仕込み、これにアセトニトリル(0.9ml)中の炭酸カリウム(0.1M溶液0.2ml)及びジフェニルヨードニウムトリフレート(Sigma−Aldrich Chemicals社製、23.2mg)を添加した。この混合物を100℃で15分間加熱した後、圧縮気流中で冷却した。生成物を密封式回収バイアルに移し、反応物を実施例1に記載の通りHPLCで分析した。
【0049】
実施例5:炭酸カリウム対イオンを用いた9:1アセトニトリル−水中のジフェニルヨードニウムトリフレートの放射性フッ素化
18O濃縮水(〜0.3ml)中の[18F]フッ化物を反応容器に仕込み、これにアセトニトリル中の炭酸カリウム(0.1M溶液0.2ml)を添加した。フッ化物を共沸乾燥によって乾燥させた。乾燥プロセスの完了後、無水アセトニトリル(0.9ml)及び水(0.1ml)の混合物中のジフェニルヨードニウムトリフレート(Sigma−Aldrich Chemicals社製、28.7mg)の溶液を、乾燥フッ化物に添加した。混合物を100℃で15分間加熱したのち圧縮気流中で冷却した。生成物を密封式回収バイアルに移し、反応物を実施例1に記載の通りHPLCで分析した。
【0050】
比較例6:セシウム対イオンを用いたジフェニルヨードニウムトリフレートの放射性フッ素化
18O濃縮水(〜0.3ml)中の[18F]フッ化物を反応容器に仕込み、これに炭酸セシウム(24mg)、水(0.2ml)及びアセトニトリル(1ml)を添加した。フッ化物を共沸乾燥によって乾燥させた。乾燥プロセスの完了後、ジフェニルヨードニウムトリフレート(Sigma−Aldrich Chemicals社製、22.5mg)の無水アセトニトリル(1ml)溶液を、乾燥フッ化物に添加した。混合物を95℃で15分間加熱したのち圧縮気流中で冷却した。生成物を密封式回収バイアルに移し、反応物を実施例1に記載の通りHPLCで分析した。
【0051】
実施例7:炭酸セシウム対イオンを用いた99:1アセトニトリル−水中のジフェニルヨードニウムトリフレートの放射性フッ素化
18O濃縮水(〜0.3ml)中の[18F]フッ化物を反応容器に仕込み、これに炭酸セシウム(27.7mg)、水(0.2ml)及びアセトニトリル(1ml)を添加した。フッ化物を共沸乾燥によって乾燥させた。乾燥プロセスの完了後、無水アセトニトリル(0.99ml)と水(0.01ml)の混合物中のジフェニルヨードニウムトリフレート(Sigma−Aldrich Chemicals社製、24.8mg)の溶液を乾燥フッ化物に添加した。混合物を100℃で20分間加熱したのち圧縮気流中で冷却した。生成物を密封式回収バイアルに移し、反応物を実施例1に記載の通りHPLCで分析した。
【0052】
実施例8:炭酸セシウム対イオンを用いた9:1アセトニトリル−水中のジフェニルヨードニウムトリフレートの放射性フッ素化
18O濃縮水(〜0.3ml)中の[18F]フッ化物を反応容器に仕込み、これに炭酸セシウム(27.7mg)、水(0.2ml)及びアセトニトリル(1ml)を添加した。フッ化物を共沸乾燥によって乾燥させた。乾燥プロセスの完了後、無水アセトニトリル(0.9ml)と水(0.1ml)の混合物中のジフェニルヨードニウムトリフレート(Sigma−Aldrich Chemicals社製、24.9mg)の溶液を、乾燥フッ化物に添加した。混合物を100℃で20分間加熱したのち圧縮気流中で冷却した。生成物を密封式回収バイアルに移し、反応物を実施例1に記載の通りHPLCで分析した。
【0053】
実施例9:未乾燥のフッ化物を炭酸セシウム対イオンと共に用いた7:3アセトニトリル−水中のジフェニルヨードニウムトリフレートの放射性フッ素化
18O濃縮水(〜0.6ml)中の[18F]フッ化物を反応容器に仕込み、これに炭酸セシウム(〜27mg)、アセトニトリル(0.7ml)及びジフェニルヨードニウムトリフレート(Sigma−Aldrich Chemicals社製、26.5mg)を添加した。この混合物を100℃で15分間加熱した後、圧縮気流中で冷却した。生成物を密封式回収バイアルに移し、反応物を実施例1に記載の通りHPLCで分析した。
【0054】
実施例10:未乾燥のフッ化物を炭酸セシウム対イオンと共に用いた1:1アセトニトリル−水中のジフェニルヨードニウムトリフレートの放射性フッ素化
18O濃縮水(〜0.3ml)中の[18F]フッ化物を反応容器に仕込み、これに炭酸セシウム(〜27mg)、アセトニトリル(0.5ml)、水(0.2ml)及びジフェニルヨードニウムトリフレート(Sigma−Aldrich Chemicals社製、25.3mg)を添加した。この混合物を100℃で15分間加熱した後、圧縮気流中で冷却した。生成物を密封式回収バイアルに移し、反応物を実施例1に記載の通りHPLCで分析した。
【0055】
実施例1〜10で得られた結果を以下の表IIにまとめた。(RCPは放射化学的純度、収率は崩壊補正済み)
【0056】
【表4】

実施例11:4−[18F]フルオロフェニルメチルケトンの調製
【0057】
【化2】

(4−カルボキシメチルフェニル)、(4−メトキシフェニル)ヨードニウムトリフレートを、実施例1〜10に記載した方法に従って、溶媒中でフッ素イオン源と反応させた。フッ素イオン源と溶媒の様々な組合せについての結果を表IIIに示す。
【0058】
【表5】

表IIIの結果は、生成物の全収率が、比較例で用いた従来方法から得られた全収率に匹敵し、多くの場合により高いことを示している。
【0059】
実施例12:4−[18F]フルオロ−2−メトキシ−5−メチルフェニルメチルケトンの調製
【0060】
【化3】

(4−カルボキシメチル−3−メトキシ−6−メチルフェニル)、(4−メトキシフェニル)ヨードニウムトリフレートを、実施例1〜10に記載した方法に従って、溶媒中でフッ素イオン源と反応させた。フッ素イオン源と溶媒の様々な組合せについての結果を表IVに示す。
【0061】
【表6】

表IIIに示す結果は、反応での水の存在が収率を改善し、本発明の方法を用いると複雑な分子についても同じく効率的に調製できることを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素イオン源でヨードニウム塩をフッ素化することを含む芳香族又は複素環式芳香族フッ素標識化合物の製造方法であって、反応溶媒が水を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
反応溶媒が100%水である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
反応溶媒が水と水混和性溶媒との混合物である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
水混和性溶媒がアセトニトリル、エタノール、メタノール、テトラヒドロフラン又はジメチルホルムアミドである、請求項3記載の方法。
【請求項5】
水:水混和性溶媒の体積:体積比が1:99〜1:1である、請求項3又は請求項4記載の方法。
【請求項6】
水:水混和性溶媒の体積:体積比が10:90〜30:70である、請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記フッ素イオン源がフッ化カリウム、フッ化セシウム又はフッ化ナトリウムである、請求項1乃至請求項6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
以下の式(I)又は(II)のヨードニウム塩のフッ素化によって下記の一般式(III)の生成物を得るための請求項1乃至請求項7のいずれか1項記載の方法。
【化1】

式中、Qは電子欠乏性芳香族又は複素環式芳香族部分であり、
、R、R、R及びRは各々独立に水素、−O(C1−10アルキル)又はC1−10アルキルであり、
はトリフルオロメタンスルホン酸イオン(トリフレート)、ペルフルオロC−C10アルキルスルホン酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、メタンスルホン酸イオン(メシレート)、トルエンスルホン酸イオン(トシレート)、テトラフェニルホウ酸イオンのような対イオンである。
Q−F (III)
式中、Qは一般式(I)及び(II)で定義した通りである。
【請求項9】
〜Rが各々独立に水素、C1〜3アルキル及び−O−(C〜Cアルキル)から選択される、請求項8記載の方法。
【請求項10】
式IIの化合物において、前記「固体担体」がポリスチレン、ポリアクリルアミド、ポリプロピレン、又はこれらのポリマーでコートされたガラス又はシリコンである、請求項8又は請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記固体担体が、小さい離散粒子の形態、又は反応容器の内面のコーティングである、請求項8乃至請求項10のいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
式IIの化合物において、前記「リンカー」が、アミドエーテル又はスルホンアミド結合で樹脂に結合したC1−20アルキル、C1−20アルコキシ、或いはポリエチレングリコール(PEG)リンカーである、請求項8乃至請求項11のいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
前記芳香族基Qが、C1−10アルキル、−O(C1−10アルキル)、−C(=O)C1−10アルキル、−C(=O)NR(C1−10アルキル)、−(C〜Cアルキル)−O−(C〜Cアルキル)、C5−14アリール、−O(C5−14アリール)、−C(=O)C5−14アリール、−C(=O)NR(C5−14アリール)、C5−14ヘテロアリール、−O(C5−14ヘテロアリール)、−C(=O)C5−14ヘテロアリール、−C(=O)NR(C5−14ヘテロアリール)、C3−10シクロアルキル、−O(C3−10シクロアルキル)、−C(=O)(C3−10シクロアルキル)、−C(=O)NR(C3−10シクロアルキル)、C3−10ヘテロシクリル、−O(C3−10ヘテロシクリル)、−C(=O)(C3−10ヘテロシクリル)、−C(=O)NR(C5−14ヘテロシクリル)(式中、RはH、C〜Cアルキル、C〜C10シクロアルキル、C〜C10ヘテロシクリル、C〜C10アリール又はC〜C10ヘテロアリールである。)から選択される1以上の置換基で置換され、これらの置換基はいずれも適宜OH、NHR、COOH又はこれらのいずれかの基の保護形で置換されていてもよいし、或いは2つの隣接した置換基が四乃至六員炭素環又は複素環を形成してもよく、該四乃至六員炭素環又は複素環適宜追加の芳香族環、複素環式芳香族環、炭素環又は複素環と縮合していてもよい、請求項8乃至請求項12のいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
芳香族部分Qが、OH、NHR又はハロゲンから選択される追加の置換基を有する、請求項13記載の方法。
【請求項15】
Q基が以下のいずれかである、請求項8乃至請求項14のいずれか1項記載の方法。
【化2】

【化3】

【請求項16】
前記フッ素標識化合物が[18F]標識化合物であり、前記フッ素イオン源が18源である、請求項1乃至請求項18のいずれか1項記載の方法。
【請求項17】
前記F標識化合物が以下のものから選択される、請求項15又は請求項16記載の方法。
【化4】

【化5】

【請求項18】
過剰な18を例えばイオン交換クラマトグラフィーで除去する段階、及び/又は
(i)保護基を除去する段階、及び/又は
(ii)有機溶媒を除去する段階、及び/又は
(iii)得られる化合物を水溶液として処方する、段階
の1以上の段階を任意の順序でさらに含む、請求項1乃至請求項17のいずれか1項記載の方法。
【請求項19】
芳香族フッ素標識化合物の製造用キットであって、
(i)フッ素イオン源を溶解するための水性溶媒を収容したバイアル、及び
(ii)ヨードニウム塩を収容した反応容器
を備えるキット。
【請求項20】
前記溶媒が100%水である、請求項19記載のキット。
【請求項21】
前記溶媒が水と水混和性溶媒との混合物である、請求項19記載のキット。
【請求項22】
前記水混和性溶媒が、アセトニトリル、エタノール、メタノール、テトラヒドロフラン又はジメチルホルムアミドである、請求項21記載のキット。
【請求項23】
水−水混和性溶媒の体積:体積比が1:99〜1:1である、請求項21又は請求項22記載のキット。
【請求項24】
水−水混和性溶媒の体積:体積比が10:90〜30:70である、請求項23記載のキット。
【請求項25】
前記ヨードニウム塩が請求項8乃至請求項15のいずれか1項で定義した一般式(I)又は(II)の化合物である、請求項19乃至請求項24のいずれか1項記載のキット。
【請求項26】
前記ヨードニウム塩が請求項8乃至請求項15のいずれか1項で定義した一般式(II)の化合物であり、前記固体担体が反応容器の表面のコーティングを有する、請求項20記載のキット。
【請求項27】
前記反応容器が、カートリッジ又は微細加工容器である、請求項19乃至請求項26のいずれか1項記載のキット。
【請求項28】
フッ素イオン源をさらに含む、請求項19乃至請求項27のいずれか1項記載のキット。

【公表番号】特表2007−532524(P2007−532524A)
【公表日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−506837(P2007−506837)
【出願日】平成17年4月6日(2005.4.6)
【国際出願番号】PCT/GB2005/001344
【国際公開番号】WO2005/097713
【国際公開日】平成17年10月20日(2005.10.20)
【出願人】(305040710)ジーイー・ヘルスケア・リミテッド (99)
【Fターム(参考)】