説明

フッ素含有モノイソシアネート化合物およびその用途

【課題】基材表面に固定化することが可能で、かつ表面撥水化能力の高い、安価な新規化合物およびこの有効な用途を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で示されるフッ素含有モノイソシアネート化合物、フッ素含有モノイソシアネート化合物を含有する表面処理剤。


(式中、nが2〜3の整数でAがジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)からイソシアネート基を除いた2価の有機基、または、nが1〜3の整数でAがトリレンジイソシアネート(TDI)、ナフタレン1,5−ジイソシアネート(NDI)、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ノルボルネンジイソシアネート(NBDI)などの中から選択される化合物からイソシアネート基を除いた2価の有機基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素含有モノイソシアネート化合物およびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素原子の低い表面エネルギーを利用した、含フッ素化合物を用いた撥水性コーティング材料が数多く知られている。中でもPTFEなどのフッ素樹脂または半フッ素樹脂はよく利用され、これらのコーティング材料により処理された被着体は、表面が50%以上の高いフッ素含有率を有することにより高い撥水性を発現する。ところがこの方法は基材表面に物理的に密着している状態であり、適当な溶剤によって容易に溶出する。撥水性や撥油性を持続させる目的で例えば金属の表面に固定化させるには、200度以上の高温で焼付け処理を繰返す必要がある。
【0003】
一方、ジイソシアネート化合物に一価の含フッ素アルコール化合物を等モル反応させることにより得た、フッ素含有モノイソシアネート化合物が知られている(特許文献1)。この方法では、化合物中のイソシアネート基を基材表面の活性水素含有官能基と反応させることにより基材に固定化することが可能とされる。しかしながら、特許文献1の実施例では、等モル反応により得た化合物の組成やフッ素含有モノイソシアネートの純度に関する記載がないため、撥水性のうちのフッ素含有モノイソシアネート化合物による寄与度評価が困難である。また、実施例に記載された表面処理方法は、処理液への基材浸漬と乾燥のみであり、基材に固定化されているか確認できていない。更に記載される一価の含フッ素アルコール化合物は高価な種類のもの、または生体蓄積性の疑いのある物質であり、工業的に有用なものとは言い難い。
【0004】
また、特許文献1に関連する技術として、ジイソシアネート化合物を基材表面の活性水素含有官能基と反応させることにより基材に固定化させた後、未反応イソシアネート基を一価の含フッ素アルコール化合物を用いて封鎖する方法が知られている(特許文献2および特許文献3)。しかしながら、この方法は表面処理のために2工程必要である上に工程間に洗浄処理を必要とするため、煩雑な方法である。更に特許文献2および特許文献3で記載される一価の含フッ素アルコール化合物も高価な種類のもの、若しくは生体蓄積性の疑いのある物質であり、工業的に有用なものとは言い難い。
【0005】
更に、フッ素含有モノイソシアネート化合物に対する貧溶剤中で、ジイソシアネート化合物と一価の含フッ素アルコール化合物を反応させることによる、高選択的なフッ素含有モノイソシアネート化合物の製造法が知られている(特許文献4)。しかしながら、特許文献4で記載される一価の含フッ素アルコール化合物も高価な種類のものであり、工業的に有用であるとは言い難い。また特許文献4中にはジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)とトリフルオロエタノールの反応によるフッ素含有モノイソシアネート化合物が、高選択的合成が困難な比較例として挙げられている。
【0006】
【特許文献1】特開昭61−63646号公報
【特許文献2】特許第2537580号公報
【特許文献3】特開平11−179706号公報
【特許文献4】特表2007−517033号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その主な課題は、工業的に安価なフッ素原料およびイソシアネート原料を用いて、耐久性の高い表面固定化をさせることが可能な、高い撥水化能を有する表面処理剤およびそれに用いられる化合物を提供することである。本発明におけるもう一つの課題は、上記表面処理剤の調製において、プロセスが簡便で工業的に有利な方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明者らが鋭意検討した結果、目的とする解決手段を見出した。すなわち、工業的に入手容易かつ安価なトリフルオロメチル基のみ有する炭素数2〜4の直鎖一級アルコールと、工業的に入手容易かつ安価なジイソシアネート化合物とからなるフッ素含有モノイソシアネート化合物を基材表面に固定化させたところ、フッ素の含有率が低いにもかかわらず表面の撥水性を大幅に向上させることを見出し、さらに、アルコールとジイソシアネートを反応させて高純度モノイソシアネート体を得るには通常、濃縮、蒸留、晶析、濾過などの精製操作が不可欠であるが、精製操作を行わずに基材表面を処理した場合においても非常に高い撥水性向上効果を示すことを見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は、所定の一般式で示されるフッ素含有モノイソシアネート化合物、当該フッ素含有モノイソシアネート化合物を含有する表面処理剤、および表面処理方法である。
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0010】
本発明は、下記一般式(1)で示されるフッ素含有モノイソシアネート化合物である。
【0011】
【化1】

(式中、nが2〜3の整数でAがジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)からイソシアネート基を除いた2価の有機基、または、nが1〜3の整数でAがトリレンジイソシアネート(TDI)、ナフタレン1,5−ジイソシアネート(NDI)、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ノルボルネンジイソシアネート(NBDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、水添キシリレンジイソシアネート(HXDI)、テトラメチルキシレンジイソシアネート(TMXDI)の中から選択される化合物からイソシアネート基を除いた2価の有機基を表す。)
一般式(1)で示されるフッ素含有モノイソシアネート化合物としては、上記定義に該当する化合物であれば特に限定するものではないが、より安価に化合物を製造するため、nが1または3であるものが工業的に原料を入手可能な点で好ましく、nが1であるものが最も好ましい。
【0012】
一般式(1)で示されるフッ素含有モノイソシアネート化合物としては、例えば、4−[4−(3,3,3−トリフルオロプロポキシカルボニル)アミノ]フェニルメチル フェニルイソシアネート、4−[4−(4,4,4−トリフルオロブトキシカルボニル)アミノ]フェニルメチル フェニルイソシアネート、
4−[2−(3,3,3−トリフルオロプロポキシカルボニル)アミノ]フェニルメチル フェニルイソシアネート、4−[2−(4,4,4−トリフルオロブトキシカルボニル)アミノ]フェニルメチル フェニルイソシアネート、
2−[4−(2,2,2−トリフルオロエトキシカルボニル)アミノ]フェニルメチル] フェニルイソシアネート、2−[4−(3,3,3−トリフルオロプロポキシカルボニル)アミノ]フェニルメチル フェニルイソシアネート、2−[4−(4,4,4−トリフルオロブトキシカルボニル)アミノ]フェニルメチル フェニルイソシアネート、
3−(2,2,2−トリフルオロエトキシカルボニル)アミノ−2−メチル フェニルイソシアネート、3−(3,3,3−トリフルオロプロポキシカルボニル)アミノ−2−メチル フェニルイソシアネート、3−(4,4,4−トリフルオロブトキシカルボニル)アミノ−2−メチル フェニルイソシアネート、
3−(2,2,2−トリフルオロエトキシカルボニル)アミノ−4−メチル フェニルイソシアネート、3−(3,3,3−トリフルオロプロポキシカルボニル)アミノ−4−メチル フェニルイソシアネート、3−(4,4,4−トリフルオロブトキシカルボニル)アミノ−4−メチル フェニルイソシアネート、
4−(2,2,2−トリフルオロエトキシカルボニル)アミノ−2−メチル フェニルイソシアネート、4−(3,3,3−トリフルオロプロポキシカルボニル)アミノ−2−メチル フェニルイソシアネート、4−(4,4,4−トリフルオロブトキシカルボニル)アミノ−2−メチル フェニルイソシアネート、
4−[4−(2,2,2−トリフルオロエトキシカルボニル)アミノ]シクロヘキシルメチル シクロヘキシルイソシアネート、4−[4−(3,3,3−トリフルオロプロポキシカルボニル)アミノ]シクロヘキシルメチル シクロヘキシルイソシアネート、4−[4−(4,4,4−トリフルオロブトキシカルボニル)アミノ]シクロヘキシルメチル シクロヘキシルイソシアネート、
4−[2−(2,2,2−トリフルオロエトキシカルボニル)アミノ]シクロヘキシルメチル シクロヘキシルイソシアネート、4−[2−(3,3,3−トリフルオロプロポキシカルボニル)アミノ]シクロヘキシルメチル シクロヘキシルイソシアネート、4−[2−(4,4,4−トリフルオロブトキシカルボニル)アミノ]シクロヘキシルメチル シクロヘキシルイソシアネート、
2−[4−(2,2,2−トリフルオロエトキシカルボニル)アミノ]シクロヘキシルメチル シクロヘキシルイソシアネート、2−[4−(3,3,3−トリフルオロプロポキシカルボニル)アミノ]シクロヘキシルメチル シクロヘキシルイソシアネート、2−[4−(4,4,4−トリフルオロブトキシカルボニル)アミノ]シクロヘキシルメチル シクロヘキシルイソシアネート、
6−(2,2,2−トリフルオロエトキシカルボニル)アミノ ヘキシルイソシアネート、6−(3,3,3−トリフルオロプロポキシカルボニル)アミノ ヘキシルイソシアネート、6−(4,4,4−トリフルオロブトキシカルボニル)アミノ ヘキシルイソシアネート、
6−(2,2,2−トリフルオロエトキシカルボニル)アミノ トリメチルヘキシルイソシアネート、6−(3,3,3−トリフルオロプロポキシカルボニル)アミノ トリメチルヘキシルイソシアネート、6−(4,4,4−トリフルオロブトキシカルボニル)アミノ トリメチルヘキシルイソシアネート、
3−(2,2,2−トリフルオロエトキシカルボニル)アミノ−1,5,5−トリメチル シクロヘキシルメチルイソシアネート、3−(3,3,3−トリフルオロプロポキシカルボニル)アミノ−1,5,5−トリメチル シクロヘキシルメチルイソシアネート、3−(4,4,4−トリフルオロブトキシカルボニル)アミノ−1,5,5−トリメチル シクロヘキシルメチルイソシアネート、
3−(2,2,2−トリフルオロエトキシカルボニル)アミノメチル−3,5,5−トリメチル シクロヘキシルイソシアネート、3−(3,3,3−トリフルオロプロポキシカルボニル)アミノメチル−3,5,5−トリメチル シクロヘキシルイソシアネート、3−(4,4,4−トリフルオロブトキシカルボニル)アミノメチル−3,5,5−トリメチル シクロヘキシルイソシアネート、等が挙げられる。
【0013】
本発明においては、一般式(1)で示されるフッ素含有モノイソシアネート化合物と、フッ素含有アルコールとジイソシアネート化合物との反応により得られる、未反応のジイソシアネート化合物および/またはジイソシアネート化合物のNCO基が全てフッ素含有アルコールによって封鎖されたビスウレタン化合物などが混合したもの(フッ素含有モノイソシアネート化合物の混合物)でも良い。このとき基材末端にトリフルオロメチル基を固定化させるという目的を考慮すると、フッ素含有モノイソシアネート化合物が高い純度で存在していることが好ましい。このため、場合によりフッ素含有モノイソシアネート反応生成物に精製操作を加えても良い。精製操作には、余剰ジイソシアネート化合物の蒸留による留去や貧溶剤を用いた固液分離など公知の方法を用いることができる。
【0014】
一般式(1)で示されるフッ素含有モノイソシアネート化合物は、フッ素含有アルコールとジイソシアネート化合物をおおよそ1:1〜3:1のモル比で反応させることによって製造することができる。ここに、使用されるフッ素含有アルコールとしては、例えば、2,2,2−トリフルオロエタノール、3,3,3−トリフルオロプロパノール、4,4,4−トリフルオロブタノール等があげられ、ジイソシアネート化合物としては、例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)、ナフタレン1,5−ジイソシアネート(NDI)、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ノルボルネンジイソシアネート(NBDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、水添キシリレンジイソシアネート(HXDI)、テトラメチルキシレンジイソシアネート(TMXDI)等があげられる。
【0015】
一般式(1)で示される化合物の製造において、フッ素含有アルコールとジイソシアネート化合物を1:1のモル比で仕込んだ場合、一般式(1)で示される化合物のほかに、ジイソシアネート化合物1分子に対してフッ素含有アルコールが2分子付加したビスウレタン化合物が副生するとともに、副生ビスウレタン化合物と同モル分の未反応ジイソシアネート化合物原料が系内に残留する。この混合物中に含まれる一般式(1)で示される化合物の純度は、フッ素含有アルコールまたはジイソシアネート化合物の種類、溶剤の有無と種類、触媒の有無と種類、反応温度などの各反応条件の組み合わせにより異なるが、およそ30モル%〜99モル%の間である。
【0016】
一般式(1)で示される化合物の製造においては、両原料の仕込み比により、生成物中における組成が変化する。ジイソシアネート化合物を過剰に加えた場合には、ビスウレタン化合物の副生を抑制することができ、一般式(1)で示される化合物とジイソシアネート化合物原料の2種類の化合物が主に得られる。通常、ビスウレタン化合物の副生低減を期待する場合、フッ素含有アルコールに対してジイソシアネート化合物を1.5倍モル量程度以上使用する。
【0017】
一般式(1)で示される化合物の製造においては、溶剤は使用しなくても良いが、一方で、急激な反応進行の抑制や生成物の低粘度化などの目的から、反応に不活性なものを用いても良い。使用可能な溶剤の種類としては、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン化合物、酢酸メチル、酢酸エチルなどのエステル化合物、ジクロロメタン、クロロホルムなどの塩素系化合物、トルエン、エチルベンゼンなどの芳香族系化合物、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素系化合物などを用いることができる。使用する溶剤量に制限はないが、使用効果を奏した上で経済性のため、好ましくは、反応させる基質が5重量%〜80重量%となる範囲である。
【0018】
一般式(1)で示される化合物の製造においては、反応温度は−10℃〜150℃の温度で行うことができる。なお、一般式(1)で示される化合物を高い選択率で得るためには、出来るだけ温和な条件で反応を行うことが好ましい。また場合により加圧条件で反応を行うことも可能である。
【0019】
一般式(1)で示される化合物の製造においては、反応時間は通常、72時間以内で完結するが、経済的な観点から1時間〜20時間の間に反応終了を迎えるのが好ましい。
【0020】
一般式(1)で示される化合物の製造においては、系内に触媒を添加して反応を促進させることができる。添加する触媒の種類は、ジアルキル錫系化合物、鉛系化合物、ジルコニウム系化合物、第三級アミン化合物などが挙げられる。触媒の使用量は、反応させる基質の総重量に対して0.001重量%〜0.5重量%で十分に反応が促進される。
【0021】
一般式(1)で示される化合物の製造においては、精製操作を加えて該化合物の純度を向上させることができる。薄膜蒸留装置を用いて比較的低沸点のジイソシアネート化合物を留去したり、ウレタン化合物に対する貧溶剤中でフッ素含有アルコールとジイソシアネート化合物を反応させることにより、反応生成物を優先的に反応系中から晶出させて固液分離する方法などがある。また本発明の化合物が結晶性である場合、再結晶などの晶析操作を行うことによっても高純度品を製造することができる。
【0022】
本発明においては、フッ素含有モノイソシアネート化合物、フッ素含有モノイソシアネート化合物の混合物、これらを溶剤(例えば、メチルエチルケトン,ヘプタン等)に溶解させたフッ素含有モノイソシアネート化合物の溶液は、表面に活性水素を有する各種基材に対して、共有結合を介する化学結合型の表面処理剤として用いることができる。プロセスを簡略化させる観点から、副生物を含んだ反応溶液をそのまま表面処理剤として用いても良い。
【0023】
本発明の表面処理剤が適用可能な基材の種類は、表面に活性水素を有するものであれば特に限定されるものではないが、フッ素に起因する撥水性を十分に発現させる目的を考慮すると、基材表面において活性水素を有する官能基の占める比率が一定以上あるものが好ましい。具体的には、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体や、紙、木材などセルロース系の基材などを挙げることができる。
【0024】
本発明において、基材を表面処理する方法には、スプレー法、スピンコート法、浸漬法、蒸着法など本発明の表面処理剤を基材表面に隈なく接触させるために必要なあらゆる方法を適用することができる。必要に応じて、基材への固定化を確実にするため触媒を添加したり、熱を加えたりしても良い。また、基材表面に固定化されなかった成分については、適当な溶剤で洗浄除去させても良いし、そのまま表面に付着させておいても良い。
【発明の効果】
【0025】
本発明により、安価な原料を用いた簡易プロセスによる、フッ素含有モノイソシアネート化合物、撥水性表面処理剤およびこれを用いた表面処理方法を提供できる。
【実施例】
【0026】
以下実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0027】
参考例1(1,6−ビス−(2,2,2−トリフルオロエトキシカルボニル)アミノヘキサンの調製)
ヘキサメチレンジイソシアネート(東京化成製)8.41g(50mmol)、ジラウリル酸ジブチル錫(アルドリッチ製)63.2mg(0.1mmol)のメチルエチルケトン(100mL)溶液に、2,2,2−トリフルオロエタノール(東ソー・エフテック製)20.0g(200mmol)を室温下で10分かけて滴下した。同温で3時間撹拌後、溶剤を留去し、1,6−ビス−(2,2,2−トリフルオロエトキシカルボニル)アミノヘキサンの白色固体18.6gを得た。
【0028】
参考例2(1,6−ビス−[(N,N−ジシクロヘキシル)アミノカルボニル]アミノヘキサンの調製)
ヘキサメチレンジイソシアネート(東京化成製)3.36g(20mmol)のメチルエチルケトン(40mL)溶液に、ジシクロヘキシルアミン(キシダ化学製)7.3g(40mmol)を室温下で10分かけて滴下した。同温で3時間撹拌後、生成したスラリーをろ過、乾燥し、1,6−ビス−[(N,N−ジシクロヘキシル)アミノカルボニル]アミノヘキサンの白色固体9.9gを得た。
【0029】
実施例1(6−(2,2,2−トリフルオロエトキシカルボニル)アミノ ヘキシルイソシアネートの調製)
ヘキサメチレンジイソシアネート(東京化成製)8.41g(50mmol)、ジラウリル酸ジブチル錫(アルドリッチ製)63.2mg(0.1mmol)のメチルエチルケトン(100mL)溶液に、2,2,2−トリフルオロエタノール(東ソー・エフテック製)5.0g(50mmol)を室温下で10分かけて滴下した。同温で3時間撹拌し、反応液を得た。反応を確認するため、反応液を少量サンプリングし窒素気流に晒すことにより、溶剤のメチルエチルケトンと未反応のトリフルオロエタノールを除去し、残渣を得た。
【0030】
この残渣のプロトンNMRスペクトルを測定しトリフルオロエタノールのメチレンピークの積分値をヘキサメチレンジイソシアネートのメチレンピークの積分値と比較することにより、加えたトリフルオロエタノールのほぼ全量が反応で消費されたことを確認した。
【0031】
反応液の組成は以下の方法により確認した。すなわち上記方法で得た反応液に、ジシクロヘキシルアミン9.1g(50mmol)を滴下により添加し室温で終夜撹拌後、溶剤を留去し白色の固体を得た。この化合物は液体クロマトグラフィー(カラム;Inertsil/GLサイエンス社製、溶剤;メタノール:テトラヒドロフラン=9:1)で主に3つのピークのみ与え、参考例1及び参考例2の生成物の保持時間との比較から、最初に溶出したピークが参考例1の生成物、最後に溶出したピークが参考例2の生成物と同定した。従って2番目に溶出したピークが、目的とする化合物[6−(2,2,2−トリフルオロエトキシカルボニル)アミノ ヘキシルイソシアネート]のイソシアネート基にジシクロヘキシルアミンが付加した化合物[(N−(ジシクロヘキシルアミノカルボニル)−N’−(2,2,2−トリフルオロエトキシカルボニル−ヘキサメチレンジアミン)]と推定した。
【0032】
内部標準物質を用いた定量から、目的とする化合物[6−(2,2,2−トリフルオロエトキシカルボニル)アミノ ヘキシルイソシアネート]の純度は56%であった。
【0033】
実施例2(6−(2,2,2−トリフルオロエトキシカルボニル)アミノ ヘキシルイソシアネートの高純度品調製)
ヘキサメチレンジイソシアネートの使用量を2倍モルにし、更に溶剤としてメチルエチルケトンの替わりにヘプタンを用いた以外は実施例1と同じ方法で、6−(2,2,2−トリフルオロエトキシカルボニル)アミノ ヘキシルイソシアネートおよびヘキサメチレンジイソシアネートの1:1混合物溶液を調製した。調製終了後、上澄み液をデカント操作にて除き、更にヘプタンで反応容器底部の析出物の洗浄する操作を3回繰り返した後、系内に残存したヘプタンを真空下乾燥させたところ、9.9gの標題化合物が白色非晶質化合物として得られた。
【0034】
同定は、NMR測定により行い、6−(2,2,2−トリフルオロエトキシカルボニル)アミノ ヘキシルイソシアネートであることを確認した。純度は88%であった。
【0035】
H−NMR(200MHz、CDCl):1.25−1.74(8H,m)、3.09−3.41(4H,m)、4.45(2H,q,J=8.6Hz)、4.80−5.18(1H,br−s)
13C−NMR(50MHz、CDCl):26.0,26.2,29.7,31.1,41.2,42.9,60.8(q,J=37Hz),121.9,123.1(q,J=275Hz),154.4
実施例3(4−[4−(2,2,2−トリフルオロエトキシカルボニル)アミノ]フェニルメチル フェニルイソシアネートの調製)
ヘキサメチレンジイソシアネートの替わりに4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートを用いた以外は、実施例1と同じ反応スケールおよび反応時間で、4−[4−(2,2,2−トリフルオロエトキシカルボニル)アミノ]フェニルメチル フェニルイソシアネートを調製した。
【0036】
実施例4(4−[4−(2,2,2−トリフルオロエトキシカルボニル)アミノ]シクロヘキシルメチル シクロヘキシルイソシアネートの調製)
ヘキサメチレンジイソシアネートの替わりに4,4’−メチレンビス(シクロへキシルイソシアネートを用いた以外は、実施例1と同じ反応スケールおよび反応時間で、4−[4−(2,2,2−トリフルオロエトキシカルボニル)アミノ]シクロヘキシルメチル シクロヘキシルイソシアネートを調製した。
【0037】
実施例5(4−[4−(2,2,2−トリフルオロエトキシカルボニル)アミノ]シクロヘキシルメチル シクロヘキシルイソシアネートの高純度品調製)
ヘキサメチレンジイソシアネートの替わりに4,4’−メチレンビス(シクロへキシルイソシアネートを用いた以外は、実施例2と同じ反応スケールおよび反応時間で、4−[4−(2,2,2−トリフルオロエトキシカルボニル)アミノ]シクロヘキシルメチル シクロヘキシルイソシアネートを調製した。
【0038】
比較例1(6−エトキシカルボニルアミノ ヘキシルイソシアネートの調製)
2,2,2−トリフルオロエタノールの代わりに、モレキュラーシーブス3Aで脱水乾燥したエタノール(2.3g、50mmol)を用いた以外は実施例1と同じ方法で、6−エトキシカルボニルアミノ ヘキシルイソシアネートを調製した。実施例1と同じ方法で6−エトキシカルボニルアミノ ヘキシルイソシアネートを定量した結果、純度は50%であった。
【0039】
評価例1〜評価例4(フッ素含有モノイソシアネート化合物を用いたPVA膜の化学結合型表面処理)
実施例1で調製した反応液に、PVAフィルム片(35mm×10mm、厚み1mm)3枚を加え、更に触媒(60mg)を添加した。反応液を65℃に加熱し、15時間熟成させてからフィルム片を取り上げた。メチルエチルケトンでフィルム片の表面を良くすすいだ後、30mLのメチルエチルケトン中で超音波を10分間かけ、最後に大気中でフィルム表面を乾燥した。触媒には、ジラウリルジブチル錫(Sn、評価例2)、オレイン酸鉛(Pb、評価例3)、トリス(2,4−ペンタジオネート)フェノキシジルコニウム(Zr、評価例4)の3種類を選択した。
【0040】
また、比較のために、未処理のPVAフィルム片(評価例1)を用意した。
【0041】
<PVA膜表面の撥水性評価>
上記のPVAフィルム片表面について、純水に対する接触角を測定した。接触角の測定は、接触角計(協和界面科学株式会社製:CA−X150)を使用して行った。また、表面のフッ素含量は、X線光分光分析装置(XPS、島津製作所製ESCA−3400)を使用してターゲットはマグネシウムを用い、管電圧=12kV、管電流=20mAの条件で分析した。結果を表1に示す。
【0042】
【表1】

評価例5〜評価例6(フッ素含有モノイソシアネート化合物を用いたPVA膜の化学結合型表面処理)
実施例3,実施例4で調製した反応液について、評価例2と同じ条件でPVAフィルム片の表面処理を行った。これらのPVAフィルム片表面について、純水に対する接触角を測定した。結果を表1に示す。
【0043】
評価例7(フッ素非含有モノイソシアネート化合物を用いた化学結合型表面処理)
比較例1で調製した反応液を用いて、実施例1と同様の方法(触媒にはジラウリルジブチル錫を使用)でPVAフィルムの表面処理を行った。
【0044】
このPVAフィルム片表面について、評価例1〜評価例4と同様にして純水に対する接触角を測定した。結果を表1に示す。
【0045】
評価例8(フッ素系スプレーを用いた非共有結合型表面処理)
フッ素系撥水スプレー(ヘンケルジャパン製)を上記と同じPVAフィルム片に1秒間×3回スプレーし、そのまま一晩室温下で乾燥した。
【0046】
このPVAフィルム片表面について、評価例1〜評価例4と同様にして純水に対する接触角を測定した。結果を表1に示す。
【0047】
評価例9(非共有結合型表面処理膜の洗浄)
評価例8で調製した非共有結合型表面処理を施したPVAフィルム片の表面を、メチルエチルケトンで良くすすいだ後、30mLのメチルエチルケトン中で超音波を10分間かけ、最後に大気中でフィルム表面を乾燥した。
【0048】
このPVAフィルム片表面について、評価例1〜評価例4と同様にして純水に対する接触角を測定した。結果を表1に示す。
【0049】
評価例2および評価例7での処理品の結果から、フッ素非含有型の処理剤では未処理のフィルム(評価例1)と比較して10度しか接触角が向上しなかったのに比べ、フッ素含有型処理剤は接触角が約30度向上した。また、評価例5および評価例6は評価例2相当の撥水性は示さなかったが、少なくとも評価例7で示した以上の接触角を示した。評価例8のフッ素系スプレーコーティング品は更に接触角を約10度向上させたが、固定化されていないためにメチルエチルケトンで容易に洗浄除去され、未処理品と同等の接触角にまで低下した(評価例9)。
【0050】
評価例10〜評価例13(フッ素含有モノイソシアネート化合物を用いたろ紙の化学結合型表面処理)
実施例1,実施例3,実施例4で調製した反応液について、評価例2と同様の条件でろ紙(東洋濾紙製、φ55mm)の表面処理を行った。評価例2と同じ後処理および乾燥ののち、これらの表面処理ろ紙について、純水一滴に対する吸水性および接触角を測定した。また、比較のために、未処理のろ紙(評価例10)を用意した。結果を表2に示す。
【0051】
【表2】

評価例14(フッ素非含有モノイソシアネート化合物を用いたろ紙の化学結合型表面処理)
比較例1で調製した反応液を用いて、評価例10〜評価例13と同様の方法(触媒にはジラウリルジブチル錫を使用)によるろ紙の表面処理、後処理および乾燥を行ったのち、これらの表面処理ろ紙について、純水一滴に対する吸水性および接触角を測定した。結果を表2に示す。
【0052】
評価例15(フッ素系スプレーを用いた非共有結合型表面処理)
フッ素系撥水スプレー(ヘンケルジャパン製)を上記と同じろ紙に1秒間×3回スプレーし、そのまま一晩室温下で乾燥した。
【0053】
このろ紙について、評価例10〜評価例13と同様にして純水に対する接触角を測定した。結果を表2に示す。
【0054】
評価例16(非共有結合型表面処理膜の洗浄)
評価例8で調製した非共有結合型表面処理を施したろ紙の表面を、メチルエチルケトンで良くすすいだ後、30mLのメチルエチルケトン中で超音波を10分間かけ、最後に大気中でフィルム表面を乾燥した。
【0055】
このろ紙表面について、評価例10〜評価例13と同様にして純水に対する接触角を測定した。結果を表2に示す。
【0056】
評価例11〜評価例13および評価例14の結果から、フッ素含有型の処理剤はフッ素非含有型処理剤よりも20度以上接触角が向上した。評価例15のフッ素系スプレーコーティング品は更に接触角を約10度以上向上させたが、ろ紙に固定化されていないためにメチルエチルケトンで容易に洗浄除去され、未処理品と同様、水滴を吸収した(評価例16)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示されることを特徴とするフッ素含有モノイソシアネート化合物。
【化1】

(式中、nが2〜3の整数でAがジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)からイソシアネート基を除いた2価の有機基、または、nが1〜3の整数でAがトリレンジイソシアネート(TDI)、ナフタレン1,5−ジイソシアネート(NDI)、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ノルボルネンジイソシアネート(NBDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、水添キシリレンジイソシアネート(HXDI)、テトラメチルキシレンジイソシアネート(TMXDI)の中から選択される化合物からイソシアネート基を除いた2価の有機基を表す。)
【請求項2】
nが1であることを特徴とする請求項1に記載のフッ素含有モノイソシアネート化合物。
【請求項3】
Aがヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)からイソシアネート基を除いた2価の有機基であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のフッ素含有モノイソシアネート化合物。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれかの項に記載のフッ素含有モノイソシアネート化合物を含有することを特徴とするフッ素含有モノイソシアネート化合物の混合物。
【請求項5】
請求項1〜請求項3のいずれかの項に記載のフッ素含有モノイソシアネート化合物又は請求項4に記載のフッ素含有モノイソシアネート化合物の混合物を含有することを特徴とするフッ素含有モノイソシアネート化合物の溶液。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれかの項に記載のフッ素含有モノイソシアネート化合物、その混合物またはその溶液を含有することを特徴とする表面処理剤。
【請求項7】
請求項1〜請求項5のいずれかの項に記載のフッ素含有モノイソシアネート化合物、その混合物またはその溶液を基材表面の活性水素を有する官能基と反応させることを特徴とする基材の表面処理方法。

【公開番号】特開2009−292778(P2009−292778A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−148884(P2008−148884)
【出願日】平成20年6月6日(2008.6.6)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】