説明

フッ素含有土壌の有効利用方法

【課題】本発明は、フッ素含有土壌を処理することにより土壌中に含まれるフッ素の溶出量を低減する際に生成する処理土壌を有効に利用する方法を提供する。
【解決手段】本発明は、リン酸水素カルシウム二水和物を添加したフッ素含有土壌を有効利用する方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素含有土壌の有効利用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環境保全等の立場から、フッ素含有汚泥やフッ素含有土壌等(以下、フッ素含有土壌という)からのフッ素の溶出量は、土壌環境基準により0.8mg/L以下と規定され、厳しく規制されている。また、フッ素含有土壌は植物の生育が悪い傾向にある。
【0003】
従来、フッ素含有土壌からのフッ素の溶出量を低減する処理方法として、カルシウム化合物及びリン酸化合物を用いる方法(例えば、特許文献1参照。)、リン酸水素カルシウムを用いる方法(例えば、特許文献2又は非特許文献1参照。)等が知られている。また、非特許文献2及び3では、リン酸水素カルシウムとフッ化物イオンとの反応について開示されている。
【0004】
上述の処理方法は、フッ素土壌中のフッ素と、カルシウム化合物及びリン酸化合物とを反応させてフルオロアパタイトとして不溶化するので、処理土壌はフルオロアパタイトを含有するものであるが、上記フルオロアパタイトを含有する処理土壌を有効に利用することについては何ら開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−305387号公報
【特許文献2】特開2007−216156号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】袋布昌幹、豊嶋剛司、高松さおり、丁子哲治、「リン酸カルシウムの水溶液中反応を利用した環境修復技術」、セラミックス、2009年、第44巻、第8号、p.635−638
【非特許文献2】Masamoto Tafu, Tetsuji Chohji, “Reaction between calcium phosphate and fluoride in phosphogypsum”, Journal of the European Ceramic Society, 2006,Vol.26, p.767−770
【非特許文献3】袋布昌幹(Masamoto Tafu)、丁子哲治(Tetsuji Chohji)、「リン酸水素カルシウム二水和物(DCPD)と水溶液中低濃度フッ化物イオンとの反応(Reaction of Calcium Hydrogenphosphate Dihydrate(DCPD) with a Solution Containing a small Amount of fluoride)」、Journal of the Ceramic Society of Japan、2005年、第113巻、p.363−367
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、フッ素含有土壌を処理することにより土壌中に含まれるフッ素の溶出量を低減する際に生成する処理土壌を有効に利用する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、リン酸水素カルシウム二水和物を添加したフッ素含有土壌を有効利用する方法である。
本発明はまた、フッ素含有土壌に、リン酸水素カルシウム二水和物を添加して得られる処理土壌を含む肥料でもある。
以下に本発明を詳細に説明する。
【0009】
本発明のフッ素含有土壌の有効利用方法は、リン酸水素カルシウム二水和物を添加することでフッ素含有土壌中のフッ素が不溶化することを利用し、従来活用されていなかったフッ素の溶出が問題となり得る種々の用途に有効利用するものである。フッ素が不溶化された土壌は、例えば、植物を生育するための土や肥料として有効利用することができる。
【0010】
本発明の肥料は、フッ素含有土壌に、リン酸水素カルシウム二水和物を添加して得られる処理土壌を含むものである。リン酸水素カルシウム二水和物を土壌中に添加すると、可溶性のフッ素イオンと反応して、Ca10(POで表されるフルオロアパタイトを土壌中で形成する。
上記フルオロアパタイトは、分子中にリンを含むので、土壌中に存在する場合、植物の肥料として有用である。従って、上記処理土壌を肥料に用いることにより、従来のフッ素含有土壌の処理方法では放置されていた処理土壌を肥料として有効に利用することができる。すなわち、本発明の肥料は、植物を育てるための土壌に添加されるものであってもよいし、植物を育てるための培土としてそのまま用いてもよい。
【0011】
上記フッ素含有土壌は、土壌中にフッ素を含有するものであれば特に限定されない。
【0012】
上記フッ素含有土壌のフッ素溶出濃度は、フッ素含有土壌に対して0.8ppm以上であることが好ましい。上記範囲のフッ素溶出濃度のフッ素含有土壌であると、通常であれば、環境基準を超える量のフッ素が溶出するおそれがあるが、リン酸水素カルシウム二水和物を添加することで土壌中のフッ素の溶出を抑制することができる。すなわち、本発明の肥料を製造することが、環境保全にも役立つものとなる。なお、フッ素溶出濃度は、JIS K 0102 34.2(1986年)に準拠して測定することができる。
【0013】
上記フッ素含有土壌には、リン酸化合物とカルシウム化合物とを併用して添加することも考えられるが、肥料として用いる場合、リン酸水素カルシウム二水和物(CaHPO・2HO、以下「DCPD」ともいう。)を添加することで、溶出を防止するのみならず、優れた肥料としても用いることができる。
【0014】
上記DCPDは、フッ素含有土壌に粉状で添加してもよいし、粉状粒子を水に懸濁処理してその粒子表面を活性化したものを添加してもよい。
【0015】
上記DCPDの添加量は、フッ素含有土壌(乾燥物)100質量部に対して2〜5質量部であることが好ましい。2質量部未満であると、フッ素含有土壌中のフッ素を十分に処理できず、肥料として用いるのに十分なフルオロアパタイトを形成できないおそれがある。5質量部を超えると、経済性に劣るおそれがある。
【0016】
本発明の肥料は、腐葉土等を含有するものであってもよい。腐葉土等を含有することで、より有用な肥料とすることができる。
【0017】
本発明の肥料は、また、赤玉土を含有するものであってもよい。赤玉土を含有することにより、より有用な肥料を得ることができる。
【0018】
本発明はまた、フッ素含有土壌に、リン酸水素カルシウム二水和物を添加する工程を含む肥料の製造方法でもある。フッ素含有土壌に、リン酸水素カルシウム二水和物を添加することで、上述したように、フルオロアパタイトが生成するため、フッ素を含有する土壌中のフッ素を不溶化し、フッ素の流出を抑制することができる。フッ素含有土壌に、リン酸水素カルシウム二水和物を添加する方法としては、通常の方法を用いることができる。例えば、一般的な混合機を用いてフッ素含有土壌とリン酸水素カルシウム二水和物とを混合してもよいし、スコップ等で混合してもよい。
【0019】
本発明は更に、上記肥料を用いて植物を生育させることを特徴とする育苗方法でもある。上記育苗方法は、従来、植物を生育するための土として活用されていなかった処理土壌を有効に活用することができる。
上記育苗方法は、上記肥料を用いること以外は、通常の育苗方法により行うことができる。例えば、育苗用の容器に少なくとも上記肥料を充填し、該肥料を含む培土により植物を生育させることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、上述した構成よりなるので、フッ素含有土壌を処理することにより土壌中に含まれるフッ素の溶出量を低減し、処理する際に生成するフルオロアパタイトを含む処理土壌を、肥料等として有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、生育実施例1で用いたプランターの模式図である。(a)は上面図、(b)は断面模式図である。
【図2】図2は、生育比較例1で用いたプランターの断面模式図である。
【図3】図3は、生育実施例2で用いたプランターの断面模式図である。
【図4】図4は、生育実施例1〜2及び生育比較例1において生育させたマリーゴールドの植え付け直後と、植え付けから1ヶ月後の写真である。(a)は、生育実施例1の植え付け直後、(b)は生育実施例1の1ヶ月後、(c)は、生育比較例1の植え付け直後、(d)は生育比較例1の1ヶ月後、(e)は、生育実施例2の植え付け直後、(f)は生育実施例2の1ヶ月後である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に実施例を示し、本発明を具体的に説明する。
【実施例】
【0023】
本実施例では、フッ素を含有する土壌として、フッ素溶出濃度が5ppmである蛍石から副生した石膏を含む土を用いた。なお、フッ素溶出濃度は、後述する溶出試験比較例1により算出した値である。
【0024】
実施例1
蛍石から副生した石膏を含む土(以下、石膏土)27.44kgとDCPD 0.56kg(太平化学産業株式会社製)とを容器に入れ、スコップにて混合することにより試験土を得た。
【0025】
溶出試験例1及び溶出試験比較例1
実施例1により得られた試験土、及び、石膏土に対して、JIS K 0102 34.2(1986年)に準拠して溶出試験を行い、フッ素溶出濃度を測定した。その結果を下記表1に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
表1に示されるように、実施例1で得られた試験土では、石膏土と比較してフッ素溶出量が充分に抑制されている。この結果から、フルオロアパタイトが形成され、フッ素の不溶化が行われていることを確認した。
【0028】
[生育試験]
上記試験土及び石膏土を用いて、実際に植物の生育を行った。試験には、土に対する耐性が比較的強い、マリーゴールドを用いた。
生育実施例1〜2及び生育比較例1では、実質的に同様の条件で生育させたマリーゴールドの苗を、各生育実施例及び生育比較例に対応するプランターに2苗ずつ植え付け、灌水は土の表面が乾燥しない程度の頻度でプランターの上側から行い、1ヶ月間生育させた。
【0029】
生育実施例1
図1は、生育実施例1で用いたプランターを示す模式図である。(a)は上面図、(b)は断面模式図である。
図1に示すように、プランター1に、鉢底石3を1kg投入し、その後、実施例1で得られた試験土4を12kg投入した。このプランターにマリーゴールドの苗2を2苗ずつ植え付けて生育試験を行った。
【0030】
生育比較例1
図2は、生育比較例1で用いたプランターの長径方向の断面模式図である。
図2に示すように、プランター1に、鉢底石3を1kg投入し、その後蛍石の精製副生成物を含む土壌4aを12kg投入した。このプランターにマリーゴールドを2苗ずつ植え付けて生育試験を行った。
【0031】
生育実施例2
図3は、生育実施例2で用いたプランターの長径方向の断面模式図である。
図3に示すように、プランター1に、鉢底石3を1kg投入し、その後、実施例1で得られた試験土4を12kg投入し、更に、培養土5を500g投入した。培養土としては、コーナン商事株式会社製の有機培養土 園芸の土を用いた。このプランターにマリーゴールドを2苗ずつ植え付けて生育試験を行った。
【0032】
図4は、生育実施例1〜2及び生育比較例1において生育させたマリーゴールドの植え付け直後と、植え付けから1ヶ月後の写真である。(a)は、生育実施例1の植え付け直後、(b)は生育実施例1の1ヶ月後、(c)は、生育比較例1の植え付け直後、(d)は生育比較例1の1ヶ月後、(e)は、生育実施例2の植え付け直後、(f)は生育実施例2の1ヶ月後である。
【0033】
生育実施例1と生育比較例1とを対比すると、生育実施例1ではマリーゴールドが順調に生育しているが、生育比較例1では花も萎み、生育が充分でないことがわかる。また、生育実施例1と生育実施例2とを対比した結果、何れにおいても充分にまた、同等に生育が進んでいることが確認され、実施例1で得られた試験土は、培養土と同等の効果を発揮することがわかった。
【0034】
フッ素を不溶化してフルオロアパタイトを形成した試験土では、生育が充分に進行するが、不溶化を行っていない石膏土では充分な生育が行うことができないことが示された。上記結果より、フッ素を不溶化してフッ素アパタイトを形成した土壌は、肥料としても充分に機能することが立証されたといえる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の肥料は、フッ素を含んでいる土地において、好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0036】
1:プランター
2:苗
3:鉢底石
4:試験土
4a:石膏土
5:培養土

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸水素カルシウム二水和物を添加したフッ素含有土壌を有効利用する方法。
【請求項2】
フッ素含有土壌に、リン酸水素カルシウム二水和物を添加して得られる処理土壌を含む肥料。
【請求項3】
前記リン酸水素カルシウム二水和物の添加量は、フッ素含有土壌の100質量部に対して2〜5質量部である請求項2記載の肥料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−104540(P2011−104540A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−263296(P2009−263296)
【出願日】平成21年11月18日(2009.11.18)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【出願人】(000199245)チヨダウーテ株式会社 (23)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】