説明

フッ素含有芳香族系重合体含有組成物

【課題】電子材料分野において用いられる回路基板上に耐熱性及び基板との密着性に優れ、基板の保護層や接着剤として使用することができる組成物等を提供する。
【解決手段】フッ素含有芳香族系重合体、エポキシ化合物及び開始剤を含んでなるフッ素含有芳香族系重合体含有組成物。該フッ素含有芳香族系重合体としては、フッ素含有アリールエーテル系重合体が好適に使用される。また該開始剤はエポキシ化合物(エポキシ樹脂)を硬化させる目的で使用され、特にカチオン開始剤が好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素含有芳香族系重合体含有組成物等に関する。より詳しくは、電子材料分野等の用途に用いられるフッ素含有芳香族系重合体含有組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、多くの電気製品が電子制御されるようになるに従い、これらの電子制御を支える回路基板も、より多くの様々な製品に用いられているようになってきている。このような回路基板の一種であるフレキシブルプリント回路基板は、ポリイミド等のプラスチックフィルムと銅箔等の金属とを接着させて形成される回路基板であるが、フレキシブルプリント回路基板は、比較的高温にさらされることになるため、回路基板の形成に用いられる接着剤組成物には、優れた接着性に加えて、耐熱性も要求されることになる。
【0003】
従来、このフレキシブルプリント回路基板用の接着剤組成物としては、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ゴム−エポキシ樹脂等が用いられてきたが、これらの接着剤組成物は、用いる樹脂自身の耐熱性が低く、フレキシブルプリント回路基板用の接着剤組成物に必要なハンダリフローを充分に満足させるものではなかった。これに対し、近年、比較的高い耐熱性を有する芳香族ポリアミド系樹脂、芳香族ポリイミド系樹脂等を用いた接着剤組成物が用いられ始めている。しかしながら、これら耐熱性を考慮して芳香族ポリアミド系樹脂、芳香族ポリイミド系樹脂等を用いた接着剤組成物接着剤組成物は、樹脂自身が高い吸湿性を有するために、ハンダ付けが行われるときに、接着剤組成物中の吸湿水分が加熱され、接着剤にフクレを生じ、接着力が劣化する場合があった。
【0004】
このような接着剤組成物に用いることができる樹脂組成物に関し、フッ素化ポリエーテルニトリルおよび/またはフッ素含有ポリエーテルケトンと、エポキシ樹脂および/またはフェノール樹脂とを特定の配合割合で含むフッ素化合物含有樹脂組成物が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、この樹脂組成物の耐熱性を低下させることなく基材への密着性を更に高め、各種基材により好適に用いることができる接着剤組成物を与える樹脂組成物とする工夫の余地があった。
【特許文献1】特開2003−183495号公報(第1−3頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、電子材料分野において用いられる回路基板上に耐熱性及び基板との密着性に優れ、基板の保護層や接着剤として使用することができる組成物等を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、回路基板等の基材上に耐熱性及び基材との密着性に優れ、接着剤としても使用することができる組成物について種々検討し、そのような組成物とするために、(1)組成物の構成成分として用いる重合体に密着性を向上させる官能基を導入する、(2)耐熱性を発現させる成分と密着性を発現させる成分とを組成物に含有させる、(3)組成物が含む熱可塑性重合体の融点以上の温度で組成物を処理することで密着性を発現させる、の3つを行うことを考えた。しかしながら、(1)に関し、重合体に、水酸基、アミノ基等の密着性を向上させる官能基を導入すると、重合体が吸湿しやすくなり、回路基板をハンダ付けする際にフクレが生じる場合があった。また、(2)に関し、密着性を発現させる成分として、例えば、エポキシ化合物の硬化物体があるが、エポキシ化合物の硬化物成分を増やすと密着性は向上するが、硬化物が固脆くなり、エポキシ化合物の硬化物成分を減らすと密着性が低下するという問題があった。更に、(3)に関し、通常、熱可塑性重合体を用いてデバイス上に積層体や接着フィルムを形成する場合、重合体の融点以上の温度で処理し、デバイスに密着させることになるが、デバイスを作製する工程における温度が重合体の融点以上の温度である場合には、重合体を含む層が液状となって流れやすくなることに起因して積層体や接着フィルムの位置が大きくずれる可能性があった。
【0007】
本発明者等は、フッ素含有芳香族系重合体が耐熱性を有する化合物であることに着目し、エポキシ化合物の硬化体の耐熱性を上げると密着性が低下し、密着性がよいと耐熱性が不足する背反の関係を、フッ素含有芳香族系重合体を加えることによって改善し、耐熱性と密着性とを両立した組成物を得ることが可能となることを見いだした。また、本発明者等は、フッ素含有芳香族系重合体と開始剤とをエポキシ化合物に加えた組成物とすると、従来知られていたエポキシ化合物とフェノール樹脂との硬化系の組成物等に比べて少量のエポキシ化合物の使用で基材に対する密着性を確保することができることから、フッ素含有芳香族系重合体の配合割合を高くすることができ、これにより耐熱性に加え、低吸湿性等にも優れ、基材との密着性を確保しながら固脆さを解消できる組成物とすることができることを見いだした。このような組成物とすることにより、重合体に密着性を向上させるための官能基の導入をすることなしに充分な密着性を発現することから、重合体の吸湿に起因して回路基板上に形成した組成物の層がハンダ付け時にフクレを生じることを防止することができる。これにより、本発明者等は、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
【0008】
すなわち本発明は、フッ素含有芳香族系重合体、エポキシ化合物及び開始剤を含んでなるフッ素含有芳香族系重合体含有組成物である。
以下に本発明を詳述する。
【0009】
本発明のフッ素含有芳香族系重合体含有組成物は、フッ素含有芳香族系重合体、エポキシ化合物及び開始剤を含んでなるものであり、これらの配合割合は、組成物の用途等により適宜選択されることになるが、フッ素含有芳香族系重合体/エポキシ化合物の割合は、20/80〜98/2であることが好ましい。より好ましくは、40/60〜95/5である。フッ素含有芳香族系重合体/エポキシ化合物の割合が98/2を超えると、組成物を硬化させて得られる硬化物が基材に対して充分な密着性を発現しなくなるおそれがあり、20/80未満であると、硬化物が充分な耐熱性を発現しないおそれがある。また、開始剤は、エポキシ化合物に対して0.5〜10%の割合であることが好ましい。より好ましくは、1〜7%の割合である。
組成物中に含まれるフッ素含有芳香族系重合体、エポキシ化合物及び開始剤は、それぞれ1種ずつでもよく、2種以上でもよい。また、フッ素含有芳香族系重合体含有組成物は、これら3つの成分を含むものである限り、その他の成分を含んでいてもよい。
【0010】
上記フッ素含有芳香族系重合体は、フッ素含有アリールエーテル系重合体であることが好ましい。フッ素含有アリールエーテル系重合体を用いると、フッ素含有アリールエーテル系重合体が耐熱性や低吸湿性に加え、可溶性が付加され、エポキシ化合物や開始剤等との混合が容易であり更に電気特性にも優れた化合物であることから、フッ素含有芳香族系重合体含有組成物を耐熱性、基材への密着性、低吸湿性に加え、電気的特性にも優れた組成物とすることが可能となる。
【0011】
上記フッ素含有芳香族系重合体含有組成物が含むエポキシ化合物としては、構造中にエポキシ基を有し、開始剤によって硬化するものであればよく、ポリイミドや銅箔等の基材に対して密着性を発現しやすいものが好ましい。また、エポキシ化合物の中でも、分子量が3000以上の高分子量エポキシ化合物よりも、分子量が3000未満の低〜中分子量のエポキシ化合物が好ましい。低〜中分子量のエポキシ化合物を用いると、組成物を基材に塗布した場合に、基材面上を流れていきながら重合していくことで高い密着性を発現することができる。
本発明におけるエポキシ化合物としては、各種のエポキシ樹脂等を用いることができ、例えば、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、ビスフェノールSジグリシジルエーテル、レゾールフェノールジグリシジルエーテル、臭素化ビスフェノールAジグリシジルエーテル、フッ素化ビスフェノールAジグリシジルエーテル、フェノールノボラックグリシジルエーテル、クレゾールノボラックグリシジルエーテル、臭素化ノボラックグリシジルエーテル等のグリシジルエーテル類、ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、フタル酸ジグリシジルエステル、ダイマー酸ジグリシジルエステル等のグリシジルエステル類、トリグリシジルイソシアヌレート、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、テトラグリシジルメタキシレンジアミン等のグリシジルアミン類、エポキシ化ポリブタジエン、エポキシ化大豆油等の線状脂肪族エポキサイト類、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチルカルボキシレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチルカルボキシレート等の脂環族エポキサイト類を用いることができる。
【0012】
本発明のフッ素含有芳香族系重合体含有組成物としては、上記エポキシ樹脂等のエポキシ樹脂を1種又は2種以上含むことができるが、2官能以上の多官能エポキシ化合物を1種以上含むものが好ましい。フッ素含有芳香族系重合体含有組成物が1官能エポキシ樹脂のみを含むものである場合、充分な耐熱性が発現しないおそれがある。
【0013】
上記開始剤としては、エポキシ化合物を硬化させることができるものであれば、特に制限されないが、カチオン開始剤であることが好ましい。開始剤がカチオン開始剤であると、紫外線(UV)や熱によりエポキシ化合物がカチオン硬化する過程において、低分子から重合していくため、得られる硬化物がポリイミドや銅箔に対して高い密着性を発現するものとなる。
カチオン開始剤は、カチオン重合を開始できるものであれば特に限定されるものではなく、下記一般式(1)で表されるジアゾニウム塩化合物、下記一般式(2)で表されるヨードニウム塩化合物、下記一般式(3)で表されるスルホニウム塩化合物等が挙げられる。
【0014】
【化1】

【0015】
(上記式中、Rは、アルキル基、芳香族基を表す。MXnは、カウンターアニオンを表す。)
カウンターアニオンとしては、BF、PF、AsF、SbF等が挙げられる。
本発明のフッ素含有芳香族重合体含有組成物が含む開始剤としては、具体的にはアデカオプトマーSPシリーズやアデカオプトンCPシリーズ(旭電化社製)やサンエイドSIシリーズ(三新化学工業社製)等が挙げられる。
【0016】
本発明のフッ素含有芳香族系重合体含有組成物は、また、膜の形態として用いることができる。このような本発明のフッ素含有芳香族系重合体含有組成物を含む膜もまた、本発明の1つである。
【0017】
本発明はまた、フッ素含有芳香族系重合体含有組成物を基材上に積層して得られる積層体でもある。
上述したように、フッ素含有芳香族系重合体、エポキシ化合物及び開始剤を含んでなる組成物において、フッ素含有芳香族系重合体を含有し、エポキシ化合物を硬化させて得られる材は、耐熱性、低吸湿性に優れ、基材に対して高い密着性を示すものであることから、フッ素含有芳香族系重合体、エポキシ化合物及び開始剤を含む組成物は、基材上にこれらの各種特性を有する硬化物層を形成する層形成材として用いることができる。
【0018】
本発明のフッ素含有芳香族系重合体含有組成物を含む層形成材の層を基材上に形成する方法としては、層形成材を溶媒に溶解した後、基材に塗布して塗膜を形成し、加熱乾燥して塗膜の溶媒を除去する方法等を用いることができる。
フッ素含有芳香族系重合体の様々な溶媒への溶解性が高いことに起因して、本発明の層形成材の溶解には、様々な溶媒を用いることができ、例えば、クロロホルム、ジクロロメタン、四塩化炭素、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、クロロベンゼン、オルソジクロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素類、フェノール、p−クロロフェノール、o−クロロフェノール、m−クレゾール、o−クレゾール、p−クレゾール等のフェノール類、ベンゼン、トルエン、キシレン、メトキシベンゼン、1,2−ジメトキシベンゼン等の芳香族炭化水素類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン等のケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒、アセトニトリル、ブチロニトリル等のニトリル系溶媒、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒や二硫化炭素、エチルセルソルブ、ブチルセルソルブ等を用いることができる。これらの溶媒は1種を用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0019】
本発明のフッ素含有芳香族系重合体含有組成物を含む層形成材を溶解する溶媒としては、上記溶媒の中でも、ハロゲン系や芳香族系の炭化水素溶媒、エステル系溶媒やエーテル系溶媒等が好ましい。極性溶媒は溶解性が高いために濃度調整がし易いが吸湿性がある場合もあり、極性溶媒を用いる場合は、疎水性溶媒の併用が好ましい。より好ましくは、疎水性溶媒として、極性溶媒よりも沸点の高いものを用いることである。また、両者の混合比率は、求められる層形成材溶液の濃度等により適宜選択されることになる。
【0020】
上記層形成材を溶媒に溶かした溶液中におけるフッ素含有芳香族系重合体の濃度としては、1質量%以上であることが好ましく、また、50質量%以下であることが好ましい。50質量%を超えると、フッ素含有芳香族系重合体が溶媒に充分に溶解せず、1質量%未満であると、充分な厚みをもつ硬化物層を作成できないおそれがある。より好ましくは、5質量%以上であり、また40質量%以下である。
【0021】
上記基材上に形成される本発明のフッ素含有芳香族系重合体含有組成物の層の厚みとしては、1μm以上が好ましく、100μm以下が好ましい。より好ましくは、3μm以上、60μm以下である。本発明のフッ素含有芳香族系重合体含有組成物は、溶媒に可溶化しキャストできることから膜厚の調整が任意で、任意な層形成材の層を形成できる。
【0022】
上記基材上に層形成材溶液を塗布する方法としては、スピンコート法、ロールコート法、プリント法、浸漬引き上げ法、カーテンコート法、ワイヤーバーコート法、ドクターブレード法、ナイフコート法、ダイコート法、グラビアコート法、マイクログラビアコート法、オフセットグラビアコート法、リップコート法、スプレーコート法等を用いることができる。
【0023】
上記基材上に塗布した層形成材溶液の塗膜を乾燥させて本発明のフッ素含有芳香族系重合体含有組成物の層を得る方法としては、溶媒の除去と硬化の促進を同時に行うために高温で加熱乾燥してもよく、溶媒の除去と硬化の促進のための加熱とを分けて行ってもよい。溶媒の除去及び硬化促進のための加熱温度は、基材上に形成される層の厚みや使用する溶媒の種類によって適宜設定される。また、夫々の加熱乾燥において、1回でも多段にわけて行ってもよい。加熱時の温度としては120℃以上が好ましく、加熱時間としては5分以上が好ましい。より好ましくは10分以上である。
【0024】
本発明のフッ素含有芳香族系重合体含有組成物を基材上に積層して得られる積層体を基材上に形成する場合に用いられる基材は、上記加熱処理によって変形等しないものであれば特に制限されず、電子材料分野において、回路基板として用いられる各種材料等を用いることができ、基材の厚み、大きさ等も特に制限されない。
本発明の積層体に用いられる基材としては、フレキシブルプリント回路基板に用いられるポリイミドや銅箔等が好ましい。銅箔上に本発明のフッ素含有芳香族系重合体含有組成物の層を形成した積層体は、絶縁層を有する銅箔として用いることができる。
【0025】
本発明のフッ素含有芳香族系重合体組成物を含む層形成材は、接着剤として用いられることが好ましい。本発明のフッ素含有芳香族系重合体組成物を含む層形成材は、エポキシ化合物をカチオン硬化させることにより回路基板等の基材との密着性に優れたものになり、フッ素含有芳香族系重合体を含むことから耐熱性を付与することができることから、基材の保護層としてだけでなく、耐熱性と低吸湿性とを兼ね備えた接着剤として好適に用いることができる。
【0026】
上記フッ素含有芳香族系重合体は、フッ素含有アリールエーテル系重合体であることが好ましい。フッ素含有アリールエーテル系重合体は、耐熱性及び低吸湿性を有する重合体であるが、通常、フレキシブルプリント回路基板に使用されるポリイミドや銅箔への密着性が充分ではないものである。しかしながら、フッ素含有芳香族系重合体とエポキシ化合物と開始剤とを含んだ組成物とすることにより、耐熱性や低吸湿性を損なうことなく、フレキシブルプリント回路基板の材料として用いられるポリイミドや銅箔に対しても優れた密着性を有するものとすることができることから、フレキシブルプリント回路基板にも好適に用いることができる層形成材とすることが可能となる。
【0027】
また上述したように、本発明のフッ素含有芳香族系重合体組成物を含む層形成材は、接着剤として用いることができるものであることから、本発明の積層体は、接着層を有するものとなり、その上に銅箔やポリイミド等を貼り合わせることができる。例えば、ポリイミドや銅箔に積層した材はカバーレイフィルムや樹脂つき銅箔のようなものになる。このような本発明のフッ素含有芳香族系重合体組成物を用いてなり、銅箔、フッ素含有芳香族系重合体組成物を含む層及びポリイミドの層構造を有する銅張板もまた、本発明の1つである。このような銅張板は、本発明のフッ素含有芳香族系重合体組成物を含む層形成材が耐熱性、低吸湿性及び電気絶縁性を有していることから、高い信頼性が期待できる。
【0028】
フッ素含有芳香族系重合体とエポキシ化合物の割合によるが、本発明のフッ素含有芳香族系重合体含有組成物を含む層形成材において、フッ素含有芳香族系重合体を多く含む層形成材から形成される接着層は、再度溶媒に浸漬するとフッ素含有芳香族系重合体が溶媒に可溶であることに起因して基材から剥離することが可能となる。エポキシ化合物を多く含む層形成材から形成される接着層は、溶剤浸漬により剥離は起こらない。このことから、本発明のフッ素含有芳香族系重合体含有組成物を含む層形成材から形成される接着層は、含有量によるが仮止め材としても用いることができる。
【0029】
本発明のフッ素含有芳香族系重合体含有組成物が含むフッ素含有芳香族系重合体としては、上述したようにフッ素含有アリールエーテル系重合体が好ましいが、フッ素含有アリールエーテル系重合体は、フッ素原子を含有し、繰り返し単位の主鎖がアリールエーテル構造を必須とする繰り返し単位を含むものである限り、重合体中にその他の構造を有していてもよい。また、異なるフッ素含有アリールエーテル構造を有する2種類以上の繰り返し単位を有していてもよく、その場合、繰り返し単位はブロック状、ランダム状のいずれの形態で重合していてもよい。繰り返し単位中におけるフッ素原子の数や、フッ素原子が結合している部位には制限はないが、アリールエーテル構造中の芳香環にフッ素原子が置換した構造であることが好ましい。より好ましくは、アリールエーテル構造中に全ての水素原子がフッ素原子に置換された芳香環を有していることである。アルキルフッ素は、溶媒との相溶性に影響を及ぼしやすいが、アリール基のフッ素は、相溶性に影響を及ぼし難いためである。
【0030】
上記フッ素含有アリールエーテル系重合体の数平均分子量(Mn)としては、要求される特性、用途等に合わせて適宜設定すればよいが、5000以上であることが好ましく、また500000以下であることが好ましい。より好ましくは、10000以上、200000以下である。数平均分子量は、GPC(東ソー社製、HLC−8120GPC)を用いて、標準サンプルにポリスチレン、展開溶媒にTHFを用いて測定することができる。
【0031】
本発明におけるフッ素含有アリールエーテル系重合体は、芳香環及びエーテル結合を有する重合体であって、フッ素原子を必須とするものであればよく、その結合順序やフッ素原子の結合している位置には特に制限はないが、芳香環、エーテル結合により構成される繰り返し単位を必須として、該繰り返し単位における芳香環の少なくとも一つにフッ素原子を有する重合体が好ましい。
これらのなかで、下記式(4);
【0032】
【化2】

【0033】
(式中のZは、2価の有機基又は直接結合を示す。mは、同一又は異なって、芳香環に付加しているフッ素原子の数を表し、1〜4の整数である。式中のRは、2価の有機基である。)及び/又は、下記式(5);
【0034】
【化3】

【0035】
(式中のRは、2価の有機基である。またRは、同一又は異なって、置換基を有してもよい炭素原子数1〜12のアルキル基、置換基を有してもよい炭素原子数1〜12のアルコキシル基、置換基を有してもよい炭素原子数1〜12のアルキルアミノ基、置換基を有してもよい炭素原子数6〜20のアリールオキシ基、置換基を有してもよい炭素原子数6〜20のアリールアミノ基、置換基を有してもよい炭素原子数6〜20のアリールチオ基を表す。)で表される構造の繰り返し単位を有する重合体であることがより好ましい。
これらの繰り返し単位は、同一であっても異なっていてもよく、異なる繰り返し単位により構成される場合には、ブロック状、ランダム状等のいずれの形態であってもよい。
これらの繰り返し単位を必須とするフッ素含有アリールエーテル系重合体を含む層形成材は、高い耐熱性、低吸湿性等の各種特性に優れたものとなる。フッ素含有アリールエーテル系重合体がフッ素含有アリールエーテルケトン構造を含む繰り返し単位、フッ素含有アリールエーテルニトリル構造を含む繰り返し単位の両方を有するものである場合、両者の構成比率は特に制限されない。
【0036】
上記一般式(4)で表されるものについて以下に説明する。
上記一般式(4)中、Rで示す2価の有機基としては、下記に示す(6−1)〜(6−19)等がある。
【0037】
【化4】

【0038】
上記(6−1)〜(6−19)中、Y、Y、Y及びYにおける置換基として、例えば、置換基を有してもよいアルキル基、アルコキシル基が好適である。より好ましくは、炭素原子数1〜30であって、置換基を有してもよいアルキル基、アルコキシル基である。
これらの中でもRとしては、下記(7−1)〜(7〜20)がより好ましい。
【0039】
【化5】

【0040】
上記一般式(4)中、Zとしては、2価の有機基又はベンゼン環が直接結合していることを表す。2価の有機基としては、C、S、N、及び/又は、O原子を含むことが好ましい。より好ましくは、カルボニル基、メチレン基、スルフィド基、スルホン基、複素環等を含有することである。より好ましくは、例えば、下記の(8−1)〜(8−17)である。
【0041】
【化6】

【0042】
上記(8−1)〜(8〜17)中、Xは、例えば、上記(6−1)〜(6−19)である。
本発明におけるフッ素含有アリールエーテル系重合体としては、上述したものの中でも、フッ素含有ポリアリールエーテルケトン構造の繰り返し単位を有するものであることが好ましい。より好ましくは、下記一般式(9)で表される構造の繰り返し単位を有するものである。
【0043】
【化7】

【0044】
次に上記一般式(5)に表されるものについて以下に説明する。
上記一般式(5)中、Rで示す2価の有機基としては、上記(6−1)〜(6−19)等があり、(6−1)〜(6−19)中、Y、Y、Y及びYにおける置換基として、例えば、置換基を有してもよいアルキル基、アルコキシル基が好適である。より好ましくは、炭素原子数1〜30であって、置換基を有してもよいアルキル基、アルコキシル基である。これらの中でもRとしては、上記(7−1)〜(7〜20)がより好ましい。
【0045】
上記一般式(5)中、Rは、同一又は異なって、置換基を有してもよい炭素原子数1〜12のアルキル基、置換基を有してもよい炭素原子数1〜12のアルコキシル基、置換基を有してもよい炭素原子数1〜12のアルキルアミノ基、置換基を有してもよい炭素原子数6〜20のアリールオキシ基、置換基を有してもよい炭素原子数6〜20のアリールアミノ基、置換基を有してもよい炭素原子数6〜20のアリールチオ基を表す。
上記アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、2−エチルヘキシル基等が好適である。
上記アルコキシル基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、ノニルオキシ基、デシルオキシ基、ウンデシルオキシ基、ドデシルオキシ基、フルフリルオキシ基、アリルオキシ基等が好適である。
上記アルキルアミノ基としては、メチルアミノ基、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、プロピルアミノ基、n−ブチルアミノ基、sec−ブチルアミノ基、tert−ブチルアミノ基等が好適である。
【0046】
上記アリールオキシ基としては、フェノキシ基、ベンジルオキシ基、ヒドロキシ安息香酸及びそのエステル類(例えば、メチルエステル、エチルエステル、メトキシエチルエステル、エトキシエチルエステル、フルフリルエステル及びフェニルエステル等)由来の基、ナフトキシ基、o−、m−又はp−メチルフェノキシ基、o−、m−又はp−フェニルフェノキシ基、フェニルエチニルフェノキシ基、、クレソチン酸及びそのエステル類由来の基等が好適である。
上記アリールアミノ基としては、アニリノ基、o−、m−又はp−トルイジノ基、1,2−又は1,3−キシリジノ基、o−、m−又はp−メトキシアニリノ基、アントラニル酸及びそのエステル類由来の基等が好適である。
上記アリールチオ基としては、フェニルチオ基、フェニルメタンチオ基、o−、m−又はp−トリルチオ基、チオサリチル酸及びそのエステル類由来の基等が好適である。
上記Rとしては、これらのうち、置換基を有してもよいアルコキシル基、アリールオキシ基、アリールアミノ基、アリールチオ基が好ましい。ただし、Rには、2重結合若しくは3重結合が含まれていてもよいし、含まれていなくてもよい。
【0047】
上記Rにおける置換基としては、上述のような炭素原子数1〜12のアルキル基;フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子;シアノ基、ニトロ基、カルボキシエステル基等が好適ある。また、これら置換基の水素がハロゲン化されていてもよいし、されていなくてもよい。これらの中でも、好ましくは、ハロゲン原子、水素がハロゲン化されていてもよいし、されていなくてもよいメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基及びカルボキシエステル基である。
【0048】
本発明における上記一般式(4)で表される繰り返し単位及び/又は、上記式(5)で表される繰り返し単位を必須とするフッ素含有アリールエーテル系重合体は、特開2001−64226号公報や、特開2002−12662号公報に記載の方法等により製造することができる。
【発明の効果】
【0049】
本発明のフッ素含有芳香族系重合体含有組成物は、上述の構成よりなり、各種溶媒への溶解性が高く、この組成物を用いて基材上に形成される膜は、低吸湿性であって、耐熱性、電気絶縁性、及び、基材への密着性に優れたものであることから、電子材料分野において用いられる各種の回路基板の保護層として、また、接着剤として好適に用いることができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0050】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0051】
実施例1〜2及び比較例1〜2
フッ素含有ポリアリールエーテルケトンA(F・PEK−A)、エポキシ樹脂であるYD−128(商品名、東都化成社製)、セロキサイド2021(商品名、ダイセル化学工業社製)及び開始剤であるサンエイドSI−60(商品名、三新化学工業社製)を表1に示す配合で混合した組成物のトルエン溶液をポリイミドフィルムであるカプトンフィルム(商品名、東レ・デュポン株式会社製)(50μm)にバーコーターを用いて塗布した。80℃で10分加熱乾燥した後、170℃で60分加熱乾燥し、実施例1の組成物を載せたポリイミドフィルムを得た。実施例2及び比較例2の組成物を載せたポリイミドフィルムにおいては、80℃で10分加熱乾燥した後、150℃で60分加熱乾燥した以外は、実施例1の組成物を載せたポリイミドフィルムの場合と同様にして表1に示す配合で実施例2及び比較例1、2の組成物を載せたポリイミドフィルムを得た。なお、F・PEK−A、及び、フッ素含有ポリアリールエーテルニトリルB(F・PEN−B)とは、以下の繰り返し単位を必須とする重合体であり、DSCで測定したTgは夫々242℃、160℃である。
これらのフィルムの密着性をセロテープ(登録商標)剥離を行い評価した。結果を表1に示す。
別に、実施例1及び2の組成物のフィルムを作製し、膜厚及び吸水率の測定を行った。これらのフィルムは、主成分がF・PEK−B及びF・PEN−Cであり、吸水率を測定したところ何れも0.1%以下であったことから耐熱性に優れ、低吸水性の組成物であることがいえる。膜厚、耐熱性及び吸水率の測定方法は以下に示す。
【0052】
【化8】

【0053】
【表1】

【0054】
〔膜厚〕
マイクロメーター(ERICHSEN社製)を用いて測定した。測定は、F・PEK−A等の組成物を載せたポリイミドフィルムについて行い、ここから、基材であるポリイミドフィルムの厚み(50μm)を差し引いて基材上の組成物の膜厚を得た。
〔耐熱性(ガラス転移温度)〕
示差走査型熱量計(セイコー電子工業社製 DSC6200)を用いて窒素雰囲気下20℃/分で測定した。
〔吸水率〕
実施例記載の組成物のトルエン溶液をポリイミドフィルムに塗工して80℃で10分加熱乾燥し、そのフィルムを剥離した。その後、F・PEK−Aは、170℃、F・PEN−Bは150℃で1時間加熱硬化させて、実施例記載のフィルムを得た。
得られたフィルムの乾燥重量を測定後、脱イオン水に3日浸漬し、浸漬後のフィルム重量を測定し、フィルムの吸水率を求めた。
【0055】
実施例3及び比較例3
実施例1の組成物のトルエン溶液を銅箔にバーコーターを用いて塗布した。80℃で10分加熱乾燥した後、170℃で60分加熱乾燥し、実施例1の組成物を載せた銅箔を得た。同様にして、比較例1の組成物を載せた銅箔を得た。
その密着性をセロテープ(登録商標)剥離を行い評価した。結果を表2に示す。
【0056】
【表2】

【0057】
実施例4
実施例1の組成物を載せたカプトンに圧延銅箔の粗面を重ねて、240℃で1時間で熱圧着した。得られたカプトン/混合組成物/銅箔の構成の材料について、銅箔/カプトンの90°方向の剥離性を評価したところ、ポリイミドフィルムが破断した。
【0058】
実施例5
実施例4で得られたカプトン/混合組成物/銅箔の構成の材料をアセトンに浸漬した。少し放置した後引き剥がしたところ、カプトンと銅箔がきれいに剥がれた。
【0059】
上記実施例の結果から、本発明のフッ素含有芳香族含有組成物を用いると、低吸湿性であり、基材への密着性の良好な硬化物層を作成することができること、及び、硬化物層は、基材の接着剤として用いることができることが確認された。また、実施例1で調製したフッ素含有芳香族系重合体含有組成物の層を溶剤に浸漬することにより、容易に剥離することができたことから、本発明のフッ素含有芳香族含有組成物は、フッ素含有芳香族系重合体とエポキシ化合物との割合を適宜設定することにより、材料の仮止め剤としても用いることができることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素含有芳香族系重合体、エポキシ化合物及び開始剤を含んでなることを特徴とするフッ素含有芳香族系重合体含有組成物。
【請求項2】
前記フッ素含有芳香族系重合体は、フッ素含有アリールエーテル系重合体であることを特徴とする請求項1記載のフッ素含有芳香族系重合体含有組成物。
【請求項3】
請求項1又は2記載のフッ素含有芳香族系重合体含有組成物を含むことを特徴とする膜。
【請求項4】
請求項1又は2記載のフッ素含有芳香族系重合体含有組成物を基材上に積層して得られることを特徴とする積層体。
【請求項5】
ポリイミド又は銅箔を基材として用いてなることを特徴とする請求項4記載の積層体。
【請求項6】
請求項1又は2記載のフッ素含有芳香族系重合体組成物を用いてなり、銅箔、フッ素含有芳香族系重合体組成物を含む層及びポリイミドの層構造を有することを特徴とする銅張板。

【公開番号】特開2006−328385(P2006−328385A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−124156(P2006−124156)
【出願日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】