説明

フッ素樹脂の被膜の形成方法及び該被膜を表面に有する金属基材

【課題】金属基材の表面に、金属基材との接着性に優れたフッ素樹脂の被膜を形成する方法の提供。
【解決手段】酸素を含む雰囲気下に200〜600℃で金属基材の表面を加熱処理し、ついで該表面上にアミノ基を有するシランカップリング剤、その部分加水分解物、又はそれらの混合物からなるプライマーを塗布してプライマー層を形成し、ついで該プライマー層上にフッ素樹脂の被膜を形成する、金属基材表面にフッ素樹脂の被膜の形成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属基材の表面にフッ素樹脂の被膜を形成する方法及び表面に該被膜を有する金属基材に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素樹脂は、耐熱性、摺動性、耐候性、耐薬品性、非粘着性、撥水性、撥油性等に優れることから、種々の工業製品に使用されている。また、種々の物品の表面にフッ素樹脂の被膜を形成し、フッ素樹脂の優れた特性を付与することも実施されている。
【0003】
特に、腐食性流体を扱ったり、化学薬品に接触したりする、パイプ、容器、板、タンク、治具、バルブ、撹拌翼、タンクローリ等の金属基材表面を有する成形体(以下、金属成形体ともいう。)においては、粉体塗装や回転成形等の方法により、その表面にフッ素樹脂の被膜を形成することにより、表面に耐薬品性、耐蝕性、非粘着性、耐熱性等が付与される。しかし、一般にフッ素樹脂は金属基材との接着性が低いため、フッ素樹脂の被膜との接着耐久性が充分でない場合があり、フッ素樹脂と金属成形体との接着性を向上することが重要な課題である。
【0004】
特許文献1には、溶融接着性を有するフッ素樹脂をあらかじめ金属成形体の形状に合わせた被覆部材に形成し、該被覆部材で金属成形体の表面を被覆し、ついで加熱溶融させることにより、金属成形体とフッ素樹脂の被膜との接着性を向上する方法が記載されている。この方法は、複雑な形状の金属成形体への適用性が充分でない。
【0005】
特許文献2には金属基材上に含フッ素重合体プライマー層及びフッ素樹脂の最外層を設け、含フッ素重合体プライマー層が、金属酸化物の重縮合物と官能基含有含フッ素エチレン性重合体とからなる多層被膜が記載されている。この方法は、官能基含有含フッ素エチレン性重合体の水性ディスパージョン等を用いることから、プライマーの分散性が充分でなく、プライマーの塗布作業性が充分でない。
【0006】
【特許文献1】特開2001−121606号公報
【特許文献2】特開2002−19052号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記のような従来の方法を改善し、金属基材との接着性に優れ、さらにプライマーの塗布作業性にも優れるフッ素樹脂の被膜の形成方法及び該被膜を有する金属基材を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、金属基材の表面にフッ素樹脂の被膜を形成する方法であって、酸素を含む雰囲気下に200〜600℃で金属基材の表面を加熱処理し、ついで該表面上にアミノ基を有するシランカップリング剤、その部分加水分解物、又はそれらの混合物からなるプライマーを塗布してプライマー層を形成し、ついで該プライマー層上にフッ素樹脂の被膜を形成することを特徴とするフッ素樹脂の被膜の形成方法を提供する。
また、本発明は、該被膜の形成方法で形成されたフッ素樹脂の被膜を有する金属基材を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のフッ素樹脂の被膜の形成方法によれば、形成作業性に優れ、金属基材への接着性に優れるフッ素樹脂の被膜を形成できる。また、形成されたフッ素樹脂の被膜は、金属基材への接着性に優れ、かつその耐久性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のフッ素樹脂の被膜の形成方法において、金属基材の表面の加熱処理は、酸素を含む雰囲気下に200〜600℃で実施される。この範囲より温度が低い場合、及び、温度が高い場合のいずれでも、フッ素樹脂の被膜と金属基材の接着性が充分でない。好ましくは300〜500℃である。加熱処理の時間としては、10分〜5時間が好ましく、30分〜2時間がより好ましい。酸素を含む雰囲気としては、特別な設備が不要であることから空気であることが好ましい。
【0011】
本発明におけるプライマーは、アミノ基を有するシランカップリング剤及びその部分加水分解物、又はそれらの混合物からなる。アミノ基を有するシランカップリング剤の具体例としては、一般式、RN−R−Si(R(OR3−n(ここで、Rは炭素数2〜8のアルキレン基、フェニレン基、Rは炭素数1〜6のアルキル基、フェニル基、Rは、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、フェニル基、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜6の有機基、nは0又は1、を表す。以下同じ)、及びRN−R−NR−R−Si(R(OR3−n(ここで、Rは炭素数2〜6のアルキレン基、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、を表す。)で示されるシランカップリング剤が挙げられる。
【0012】
としては、アルキレン基が好ましく、(CH、(CH、(CHがより好ましく、(CHが最も好ましい。Rとしては、メチル基又はフェニル基が好ましく、メチル基がより好ましい。Rとしては、炭素数1〜3のアルキル基が好ましく、メチル基又はエチル基がより好ましい。nとしては、0又は1であるが、0がより好ましい。R又はRとしては、水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基が好ましい。Rとしては、アルキレン基が好ましく、(CH、(CH、(CHがより好ましく、(CHが最も好ましい。R又はRとしては、水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基が好ましく、水素原子がより好ましい。
【0013】
具体的化合物としては、以下があげられる。3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N−メチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−メチル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−メチル−3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N,N'−ジメチル−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N,N'−ジメチル−3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、
2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、2−アミノエチル−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、2−アミノエチル−3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、(N−メチル−2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、(N−メチル−2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、(N−メチル−2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、(N,N'−ジメチル−2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、(N,N'−ジメチル−2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、(N,N'−ジメチル−2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、3−アミノエチルトリメトキシシラン、2−アミノエチルトリエトキシシラン、
4−アミノブチルトリメトキシシラン、6−アミノヘキシルトリエトキシシラン、8−アミノオクチルトリエトキシシラン、4−アミノフェニルトリメトキシシラン。
なかでも、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、2−アミノエチル−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン及び2−アミノエチル−3−アミノプロピルメチルジエトキシシランが好ましい。アミノ基を有するシランカップリング剤およびその部分加水分解物は、1種単独で用いてもよく、又は2種以上を併用してもよい。
【0014】
アミノ基を有するシランカップリング剤の部分加水分解物は、アミノ基を有するシランカップリング剤と所定量の水とを、酸等の触媒の存在下に反応させることにより容易に製造できる。使用する水の量により、生成する部分加水分解物の分子量を制御できる。
アミノ基を有するシランカップリング剤、その部分加水分解物、又はそれらの混合物は、水又はアルコール等の溶剤に希釈して使用することが好ましい。その濃度は、0.1〜10質量%が好ましく、0.5〜7質量%がより好ましく、1〜5質量%が最も好ましい。濃度がこの範囲より小さいと、フッ素樹脂の被膜の接着性が低く、この範囲より大きいと、プライマーの分散性が充分でなく塗布作業性が低い。
【0015】
プライマーには、アミノ基を有しないシランカップリング剤、テトラアルコキシシラン類、TiやAlのアルコキシド類を混合して用いてもよく、アミノ基を有するシランカップリング剤と共加水分解し、その部分の共加水分解物として用いてもよい。
プライマー層は、アミノ基を有するシランカップリング剤、その部分加水分解物、又はその混合物の溶液を、ディッピング、スピンコート、スプレー、ハケ塗り、ロールコート等の方法で金属基材の表面に塗布した後、乾燥して形成される。乾燥は、室温〜150℃、好ましくは室温〜130℃程度で実施する。乾燥時間は、0〜60分が好ましく、10〜40分がより好ましい。
【0016】
本発明におけるフッ素樹脂としては、特に限定されるものでないが、含フッ素モノマーの単独又は共重合体が用いられる。含フッ素モノマーとしては、テトラフルオロエチレン(以下、TFEという。)、CF=CFCl、CF=CH(以下、VdFという。)等のフルオロエチレン類、CF=CFCF(以下、HFPという。)等のフルオロプロピレン類、CH=CHCFCF、CH=CHCFCFCFCF、CH=CFCFCFCFH、CH=CFCFCFCFCFH等のペルフルオロアルキル基の炭素数が2〜8の(ペルフルオロアルキル)エチレン類、R(OCFXCFOCF=CF(式中、Rは炭素数1〜6のペルフルオロアルキル基、Xはフッ素原子又はトリフルオロメチル基、mは0〜5の整数を表す。)等のペルフルオロビニルエーテル類、CF=CFOCHCF等の部分フッ素化ビニルエーテル類が挙げられる。含フッ素モノマーは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。含フッ素モノマーの単独又は共重合体としては、TFEの単独及びコモノマーとの共重合体が好ましい。コモノマーとしては、上記の含フッ素モノマーの他に、エチレン、プロピレン、イソブチレン等のオレフィン類、酢酸ビニル等のビニルエステル等が挙げられる。
【0017】
フッ素樹脂の具体例としては、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEという。)、TFE/エチレン系共重合体(以下、ETFEという。)、TFE/ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)系共重合体(以下、PFAという。)、TFE/HFP系共重合体(以下、FEPという。)、TFE/HFP/VdF系共重合体、クロロトリフルオロエチレン/エチレン系共重合体、VdF重合体、HFP/VdF系共重合体等が挙げられる。PFAとしては、TFE/ペルフルオロ(プロピルビニルエーテル)系共重合体が好ましい。フッ素樹脂としては、PTFE、ETFE、PFA及びHFPから選ばれる少なくとも1種が好ましく、ETFEがより好ましい。ETFEは、成形性及び被膜の機械特性に優れる。
【0018】
本発明におけるフッ素樹脂が、TFE/プロピレン系共重合ゴム、VdF/HFP系共重合ゴム、VdF/HFP/TFE系共重合体等のフッ素ゴムの1〜50質量%を含有することも好ましい。フッ素樹脂がフッ素ゴムを含有すると、金属基材との接着性及びフッ素樹脂の被膜の耐衝撃性に優れる。フッ素ゴムのフッ素含有量は35〜74質量%が好ましく、50〜74質量%がより好ましく、55〜74質量%が最も好ましい。
【0019】
本発明におけるフッ素樹脂は、無機フィラーを含有することも好ましい。無機フィラーとしては、シリカ、クレー、タルク、炭酸カルシウム、マイカ、珪藻土、アルミナ、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化鉄、酸化錫、酸化アンチモン、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、塩基性炭酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、炭酸バリウム、ドーソナイト、ハイドロタルサイト、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、珪酸カルシウム、モンモリロナイト、ベントナイト、活性白土、セピオライト、イモゴライト、セリサイト、ガラス繊維、ガラスビーズ、シリカ系バルーン、カーボンブラック、グラファイト、炭素繊維、フラーレン、木粉、ホウ酸亜鉛等が挙げられる。無機フィラーを含有すると、耐摩耗性、摺動性等に優れる。無機フィラーは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。無機フィラーの含有量はフッ素樹脂に対して1〜100質量%が好ましい。
【0020】
本発明におけるフッ素樹脂は、帯電防止剤を0.1〜2質量%含有することも好ましい。帯電防止剤を含有すると帯電防止性に優れる。帯電防止剤としては、ノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性イオン界面活性剤等の界面活性剤が挙げられる。
【0021】
本発明において、フッ素樹脂の被膜及びプライマー層の厚さは用途によって適宜選択できる。プライマー層の厚さは、0.01〜500μmが好ましく、0.1〜100μmがより好ましい。フッ素樹脂の被膜の厚さは、5〜5000μmが好ましく、5〜3000μmがより好ましく、5〜1000μmが最も好ましい。
【0022】
本発明におけるフッ素樹脂の被膜は、通常、以下の(1)〜(5)の工程で形成することが好ましい。(1)金属基材の表面のフッ素樹脂の被膜を形成する面をブラスト処理等により粗面化する工程、(2)アルコール等の溶剤で洗浄し、該表面を洗浄する工程、(3)酸素を含む雰囲気下に200〜600℃で該表面を加熱処理する工程、(4)室温〜100℃の温度で該表面上にアミノ基を有するシランカップリング剤、その部分加水分解物、又はそれらの混合物からなるプライマーを塗布し、乾燥し、プライマー層を形成する工程、(5)該プライマー層上にフッ素樹脂の被膜を形成する工程。
【0023】
フッ素樹脂の被膜を形成する方法としては、回転成形法、ブロー成形法、静電塗装法及び流動浸漬塗装法からなる群から選ばれる1種以上であることが好ましい。回転成形法は、パイプ、チューブ、ロール、容器、タンク、オートクレーブ、蒸留塔、治具類、タンクローリ、ポンプやブロワのケーシング、遠心分離機等に、ブロー成形は、パイプ、チューブ、ロール、容器、タンク、オートクレーブ、治具類、バルブ、タンクローリ等に適する。
【0024】
静電塗装法は、パイプ、チューブ、ロール、容器、板、タンク、オートクレーブ、熱交換器、蒸留塔、治具類、バルブ、撹拌翼、タンクローリ、ポンプやブロワのケーシング、遠心分離機等に適する。流動浸漬塗装法は、ロール、容器、板、熱交換器、蒸留塔、治具類、バルブ、撹拌翼、ポンプやブロワのケーシング、遠心分離機等に適する。
【0025】
本発明における金属基材としては、特に限定するものではなく、鉄、ステンレス鋼、アルミニウム、黄銅、銅、チタン、錫、等が挙げられる。
前記金属基材は、めっき、金属箔のフィルムへのラミネート等で表面に形成された基材であってもよい。金属基材としては、種々の形状の物品を用いることができる。その具体例としては、板、フィルム、パイプ、チューブ、タンク、エルボー、ベッセル等が挙げられる。金属成形体の具体的には、ロール、容器、タンク、オートクレーブ、熱交換器、蒸留塔、治具類、バルブ、撹拌翼、タンクローリ、ポンプやブロワのケーシング、遠心分離機等が挙げられる。
【0026】
本発明のフッ素樹脂の被膜の形成方法によって、金属基材とフッ素樹脂の被膜が接着性に優れる機構は必ずしも明確ではないが、金属基材を酸素を含有する雰囲気下に200〜600℃で加熱処理することによって、金属基材表面に何らかの変化を生起することにより、プライマー層と金属基材との接着性が向上し、その結果、フッ素樹脂の被膜と金属基材の接着力が向上するものと考えられる。
【実施例】
【0027】
以下に実施例を挙げて、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。例1〜4が実施例であり、例5、6が比較例である。なお、接着性評価及び静電塗装法は、以下に記載の方法にしたがった。
【0028】
[接着性評価]表面にフッ素樹脂の被膜を形成した、50mm×100mm、厚さ2mmの金属基材の試験片に、フッ素樹脂の被膜と金属基材の間にカッターナイフで端部から幅10mmに切り込みを入れ、剥離した。剥離した端部をチャックに固定し、引張り試験機を用いて、該試験片の長さ方向の端から50mmの位置までフッ素樹脂の被膜と金属基材とを剥離した。引張り速度は50mm/分で、金属基材とフッ素樹脂の被膜とを90度剥離し、最大荷重を剥離強度(N/10mm)とした。剥離強度が大きいほど、接着性に優れることを示す。
【0029】
[静電塗装法]粉体スプレーガンを用いて、印加電圧−60kVで粉体を金属表面に吹きつけ、所定の温度、時間でオーブンにて焼成した。所定の膜厚が得られるまで塗装を繰り返した。
【0030】
[例1]
金属基材として、50mm×100mm、厚さ2mmのSS400製の鉄板1を用い、その表面をブラスト処理した後、エアーガンでブラスト粉を除去し、エタノールに30分間浸漬した。その後、空気中400℃で1時間加熱処理した。次いで、2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシランの3g、蒸留水の3g、メタノールの94gをビーカーに入れ、23℃で1時間撹拌し、プライマー溶液を得た。該プライマー溶液を、鉄板1の表面に、乾燥膜厚が1μmになるように室温で塗布し、風乾した後、120℃にて30分間乾燥し、プライマー層を形成した。プライマー溶液は均一で、塗布作業性に優れていた。プライマー層上に、ETFE1(旭硝子社製フルオンETFE/TL−081)を厚さ600μmになるように静電塗装し、ETFE1の被膜を形成した。ETFE1の被膜と鉄板1との剥離強度は、68.6N/10mmであり、充分な接着力を示した。
【0031】
[例2]
金属基材として、50mm×100mm、厚さ2mmのSuS304製のステンレス鋼板2を用いる以外は例1と同様にして、金属基材表面にプライマー層を形成し、プライマー層上にETFE1の被膜を形成した。ETFE1の被膜とステンレス鋼板2との剥離強度は、55.0N/10mmであり、充分な接着力を示した。
【0032】
[例3]
フッ素樹脂として、ETFE2(旭硝子社製フルオンLM−ETFE/LM−2150)を用いる以外は例1と同様にして、鉄板1の表面にプライマー層を形成し、プライマー層上にETFE2の被膜を形成した。プライマー溶液は均一に分散しており、塗布時の作業性に優れていた。ETFE2の被膜と鉄板1との剥離強度は、107.8N/10mmであり、充分な接着力を示した。
【0033】
[例4]
金属基材として、ステンレス鋼板2を用いる以外は例3と同様にして、ステンレス鋼板2の表面にプライマー層を形成し、その上にETFE2の被膜を形成した。ETFE2の被膜とステンレス鋼板2との剥離強度は、60.8N/10mmであり、充分な接着力を示した。
【0034】
[例5(比較例)]
ステンレス鋼板2を用い、その表面をブラスト処理した後、エアーガンでブラスト粉を除去し、エタノールに30分間浸漬した。ステンレス鋼板2を加熱処理しないで、2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシランの3g、蒸留水の3g、メタノールの94gをビーカーに入れ、23℃で1時間撹拌し、プライマー溶液を得た。該プライマー溶液を、ステンレス鋼板2の表面に、乾燥膜厚が1μmになるように室温で塗布し、風乾した後、120℃にて30分間乾燥し、プライマー層を形成した。プライマー溶液は均一で、塗布作業性に優れていた。プライマー層上に、ETFE2を厚さ600μmになるように静電塗装し、ETFE2の被膜を形成した。ETFE2の被膜とステンレス鋼板2との剥離強度は、27.7N/10mmであり、接着性は不充分であった。
【0035】
[例6(比較例)]
鉄板1を用い、その表面をブラスト処理した後、エアーガンでブラスト粉を除去し、エタノールに30分間浸漬した。鉄板1を加熱処理しないで、かつプライマー層を形成せずに、ETFE1を厚さ600μmになるように静電塗装し、鉄板1上にETFE1の被膜を形成した。ETFE1の被膜と鉄板1との剥離強度は、19.6N/10mmであり、接着性は不充分であった。
【0036】
[例7(比較例)]
金属基材として、ステンレス鋼板2を用いる以外は例5と同様にして、ETFE1の被膜を形成した。ETFE1の被膜とステンレス鋼板2との剥離強度は、14.7N/10mmであり、接着性は不充分であった。
【0037】
[例8(比較例)]
プライマーとして、テトラエトキシシランの27g、メチルトリエトキシシランの23g、エタノールの50gをビーカーに入れ、23℃で1時間撹拌して得たプライマー溶液を用いる以外は例1と同様にして、ステンレス鋼1の表面にプライマー層を形成し、プライマー層上にETFE1の被膜を形成した。ETFE1の被膜とステンレス鋼1との剥離強度は、107.5N/10mmであり、充分な接着力を示したが、プライマー溶液は、均一でなく、分散性に劣る粒子が含まれたので、プライマー溶液の塗布作業性が悪かった。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の方法で形成された、フッ素樹脂の被膜を有する金属基材は、フッ素樹脂の被膜を最外層に有するので、耐薬品性、耐蝕性、非粘着性、耐熱性等の特性に優れる。また、耐久性にも優れる。具体例としては、板、フィルム、パイプ、チューブ、パイプ、容器、板、タンク、治具、バルブ、撹拌翼、タンクローリ、調理機器等が挙げられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基材の表面にフッ素樹脂の被膜を形成する方法であって、酸素を含む雰囲気下に200〜600℃で金属基材の表面を加熱処理し、ついで該表面上にアミノ基を有するシランカップリング剤、その部分加水分解物、又はそれらの混合物からなるプライマーを塗布してプライマー層を形成し、ついで該プライマー層上にフッ素樹脂の被膜を形成することを特徴とするフッ素樹脂の被膜の形成方法。
【請求項2】
前記フッ素樹脂が、テトラフルオロエチレン/エチレン系共重合体、テトラフルオロエチレン/ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)系共重合体、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン系共重合体及びポリテトラフルオロエチレンから選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載のフッ素樹脂の被膜の形成方法。
【請求項3】
前記被膜を形成する方法が、回転成形法、ブロー成形法、静電塗装法及び流動浸漬塗装法からなる群から選ばれる1種以上である請求項1又は2に記載のフッ素樹脂の被膜の形成方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の形成方法で形成されたフッ素樹脂の被膜を有する金属基材。

【公開番号】特開2006−167689(P2006−167689A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−367711(P2004−367711)
【出願日】平成16年12月20日(2004.12.20)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】