説明

フッ素樹脂包みガスケット

【課題】 圧壊特性に優れ、かつ、良好なシール特性を有する非石綿系フッ素樹脂包みガスケットを提供すること。
【解決手段】 フッ素樹脂包みガスケットとして、フッ素樹脂外被の環状溝内に、単層または複数の環状部材を積層してなる環状中芯体が嵌入されたフッ素樹脂包みガスケットを用い、前記環状中芯体を構成する少なくとも1層の環状部材が、有機繊維、無機繊維、無機粉体およびバインダーを含み、前記無機粉体が、環状部材中に一様に分散、あるいは、偏在している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クッション材である中芯体の外周をフッ素樹脂フィルムで被覆したフッ素樹脂包みガスケットに関し、さらに詳しくは、常温での圧壊特性と高温下の気密特性に優れているフッ素樹脂包みガスケットに関する。
【背景技術】
【0002】
耐薬品性に優れたガスケットとしては、従来よりフッ素樹脂単体からなるガスケット、フッ素樹脂包みガスケット等が知られている。
フッ素樹脂単体からなるガスケットは、優れた耐薬品性を有している反面、クリープや応力緩和が大きいため、単体でガスケットとして用いる場合には、フランジに溝部を設け、該溝部内にガスケットを配置し、配管内側へのガスケット端部の膨出を阻止し、またフッ素樹脂単体からなるガスケットには過大な応力負荷を与えないなど応力負荷管理を行うことが必要であり、また、フッ素樹脂単体からなるガスケットは、高温時には応力緩和が著しいなど、使用上の制約が多く、使用上問題がある。
【0003】
一方、フッ素樹脂包みガスケットは、例えば、図8に示すように、ジョイントシート、石綿等の環状中芯体1をクッション材とし、この環状中芯体1の外周を四フッ化エチレン樹脂(PTFE)、四フッ化エチレン−パーフルオロアルコキシエチレン共重合樹脂(PFA)のような耐熱性、耐薬品性に優れた厚さ0.5mm以下のフッ素樹脂フィルム2で被覆した構造となっている。
【0004】
従って、この種のガスケットの多くは配管のフランジ間を密封するガスケットとして従来使われ、特に腐食性の強い薬液流体用、あるいは汚染を嫌う食品産業用または純水用ガスケットとして広く使われていた。
【0005】
さらに使用目的によっては、図9に示すように、環状中芯体1が複数の環状シート3,4、3を積層して構成されることがある。そしてこの環状ジョイントシート3には、石綿系または非石綿系のジョイントシートが用いられ、環状シート4には、例えば、石綿系または非石綿系のフェルトシートが用いられていた。
【0006】
このようなフッ素樹脂包みガスケットは、中芯材を、通常、厚さ0.5mm以下のフッ素樹脂外被で被覆してなる構造を有しているため、ガスケットとしての弾性や強度は主として中芯材に依存し、その結果、前記フッ素樹脂単体からなるガスケットに比してクリープや応力緩和が小さくなるので、耐薬品性が求められる用途で多用されている(なお、従来のフッ素樹脂包みガスケットの一般的な使用条件は、最高使用温度が200℃程度であり、最高圧力が20kgf/cm2 程度である。)。
【0007】
これに対して、近年では、環境への配慮から、中芯材であるジョイントシートやフェルト材としては、石綿材料に代わり、非石綿材料が用いられるようになってきている。
しかしながら、フッ素樹脂包みガスケットでは、外被となるフッ素樹脂の摩擦係数が小さいため、過剰な荷重が負荷された場合には、中芯材とフッ素樹脂外被との間で滑りが生じ、中芯材であるジョイントシートやフェルト材が圧壊することがあった。
【0008】
この圧壊現象は、初期締め付けが過剰になった場合に生じ、フッ素樹脂外被の破壊の前に中芯材がクリープ現象を起こし、ガスケット応力が極端に低下してしまうために、ガスケットが本来有しているシール性能を発揮できなくなってしまう現象である。
【0009】
また、このような圧壊現象は、中芯強度の低い非石綿系ガスケットにおいて、特に顕著であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記のような従来技術に伴う問題点を解決しようとするものであって、圧壊特性に優れ、かつ、良好なシール特性を有する非石綿系フッ素樹脂包みガスケットを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るフッ素樹脂包みガスケットは、フッ素樹脂外被の環状溝内に、単層(1層)または複数の環状部材を積層してなる環状中芯体が嵌入されたフッ素樹脂包みガスケットであって、前記環状中芯体を構成する少なくとも1層の環状部材(a)が、有機繊維、無機繊維、無機粉体およびバインダーを含むことを特徴としている。
【0012】
本発明においては、この環状部材(a)が1層または2層以上含まれる場合、該1層、または2層以上の環状部材のうちの2層がそれぞれフッ素樹脂外被と密接していることが好ましい。換言すれば、フッ素樹脂外被と接する環状部材としては、有機繊維、無機繊維、無機粉体およびバインダーを含むものが好ましい。
【0013】
本発明においては、この環状部材中に含まれる上記無機粉体は、均一分散していてもよく、環状部材のフッ素樹脂外被側表面に偏在していてもよいが、無機粉体が偏在してなる粉体層(粉体の偏在している表面)は、フッ素樹脂外被と密接していることが好ましい。この環状部材(b)が1層のみの場合はその粉体表面が、また複数の(b)が用いられる場合には、2枚の(b)の粉体側表面がそれぞれフッ素樹脂外被と接していることが好ましい。
【0014】
本発明においては、前記無機粉体が、硫酸バリウム、タルク、クレー、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、ケイ酸、二酸化珪素、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、水酸化カルシウム、炭酸マグネシウムのうちから選択される少なくとも1種の化合物であることが好ましく、さらには硫酸バリウムであることが望ましい。
【0015】
本発明に係るフッ素樹脂包みガスケット用の環状部材は、フッ素樹脂外被の環状溝内に嵌入される環状中芯体を構成する1層または複数の層からなる環状部材であって、前記環状中芯体を構成する1層または複数層の環状部材のうち少なくとも1つの環状部材が、有機繊維、無機繊維、無機粉体およびバインダーを含むことを特徴としている。
【0016】
本発明の上記フッ素樹脂包みガスケット用環状中芯体においては、前記無機粉体が、硫酸バリウム、タルク、クレー、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、ケイ酸、二酸化珪素、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、水酸化カルシウム、炭酸マグネシウムのうちから選択される少なくとも1種の化合物であることが好ましく、さらには硫酸バリウムであることが望ましい。
【0017】
本発明においては、上記無機粉体の平均粒径が1.5μm以下であることが好ましい。本発明に係る上記フッ素樹脂包みガスケットは、常温での圧壊特性と高温下の気密特性に優れている。
【0018】
本発明においては、上記環状部材中に上記有機繊維が5〜40重量%、無機繊維が20〜85重量%、無機粉体が10重量%以上、およびバインダーが残部量(但し、各環状部材重量を100重量%とする。)で含まれていることが望ましい。
【0019】
本発明においては、上記無機繊維の繊維径が20μm以下、繊維長が0.01mm以上であることが好ましい。
本発明に係るフッ素樹脂包みガスケット用中芯材(非石綿系フェルト材)あるいは該中芯材用の環状部材は、常温での圧壊特性と高温下の気密特性に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明に係るフッ素樹脂包みガスケットおよび該ガスケット用の中芯材(フェルト)について、図面に示す好ましい実施態様を参照しつつ具体的に説明する。なお、本明細書および添付図面では、同一部材には、同一符号を付している。
【0021】
図1は、本発明の一実施態様に係るフッ素樹脂包みガスケットの要部断面を含む部分斜視図である。図2は、本発明の他の実施態様に係るフッ素樹脂包みガスケットの要部断面を含む部分斜視図である。
【0022】
図1に示す第1のフッ素樹脂包みガスケット10は、環状中芯体14と、この環状中芯体14が装着されるフッ素樹脂外被12とを有している。そしてこのフッ素樹脂外被12の環状溝19内に、複数、特に3層の環状部材18a,16,18bを順次積層してなる上記環状中芯体14が嵌入されている。
【0023】
<フッ素樹脂外被>
まずフッ素樹脂外被12は、主としてガスケットの耐薬品性向上に寄与し、変性ポリテトラフルオロエチレン(特公平3−39105号公報参照)、四フッ化エチレン樹脂(PTFE)、四フッ化エチレン-パーフロロアルキルビニルエーテル共重合樹脂(PFA)、四フッ化エチレン-六フッ化プロピレン共重合樹脂(FEP)、四フッ化エチレン-六フッ化プロピレン-パーフロロアルキルビニルエーテル共重合樹脂(EPE)、四フッ化エチレン-エチレン共重合樹脂(ETEE)、フッ化ビニリデン樹脂(PVDF)などのフッ素樹脂で構成されている。
【0024】
これらのフッ素樹脂は1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
<環状部材>
このフッ素樹脂包みガスケット10においては、前記環状中芯体14は、主としてガスケットの弾性や強度向上を受け持ち、上述したように複数の環状シート(環状部材)18a,16,18bを積層して構成されている。この環状中芯体14を構成する環状部材18a,16,18bのうち外被12と密接する環状部材18a,18bは、有機繊維、無機繊維、無機粉体およびバインダーを含んでいる。
【0025】
この環状部材18a,18b中に含まれる無機粉体は、図1に示すように該環状部材中に一様に分散していてもよく、図2に示すように環状部材27,28の外被側表面27b、28bに偏在していてもよい。
【0026】
特に、含まれる無機粉体が、図1に示すように該環状部材中に一様に分散していていると繊維表面に無機粉体が付着することで有機繊維−有機繊維、有機繊維−無機繊維、無機繊維−無機繊維など繊維の付着力が向上することで、圧壊特性に優れたガスケットが得られるという効果が得られ、また図2に示すように環状部材27,28の外被側表面27b、28bに偏在しているとフッ素樹脂外被と環状部材との付着力が向上し、外被のクリープをおさえてシール特性に優れたガスケットが得られるという効果が得られる。なお、図2において、付番27a、28aは、有機繊維、無機繊維およびバインダーからなるフェルト層を示し、付番27b、28bは、主に無機粉体およびバインダーからなる無機粉体層を示す。
【0027】
このようなフェルト層27aと無機粉体層27bとが積層されて環状部材27が形成され、フェルト層28aと無機粉体層28bとが積層されて環状部材28が形成されている。
【0028】
なお、これら環状部材では、環状部材の外被12側表面11b、13bから環状シート16側に向かって層の厚み方向に連続的に無機粉体含量が低下していてもよい。
【0029】
環状シート(環状部材)16は、ゴム板、コルク板、ジョイントシート材から構成され、好ましくはジョイントシート材にて構成されている。ジョイントシート材としては、特に限定されず、例えば、(i)アラミド繊維とゴムからなるもの、(ii)図1の環状部材18a、18b等と同様に、アラミド繊維等の有機繊維と、無機繊維と無機粉体とゴム等のバインダーとからなり、その組成比が前記図1の環状部材18a、18b等とは異なるもの等が挙げられる。この環状シート(環状部材)16には、環状溝奥部5内の気体、液体を外部に排出しうるように、前記環状溝奥部5と外部とを径方向に連通する連通孔などの連通手段が設けられていてもよい。
【0030】
以下、環状部材18a,18bについて詳説する。この環状部材18a,18bには、上記のように有機繊維、無機繊維、無機粉体およびバインダーが含まれている。
【0031】
有機繊維としては、200℃で100時間の加熱後も初期の50%以上の強度を有している有機繊維(耐熱性有機繊維)が好ましい。このような耐熱性有機繊維としては、例えば、アラミド繊維、カーボン繊維、テフロン繊維等が挙げられ、これらの有機繊維は1種または2種以上組み合わせて用いることができる。これら有機繊維のうちでも、特にフィブリル化可能でありパルプ形状(分岐形状)になる繊維が望ましい。
【0032】
無機繊維としては、ガラス繊維、ジルコニア繊維、セラミックス繊維、ロックウールなど従来より公知のものを広く使用可能であり、これらの無機繊維は1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0033】
これら無機繊維のうちでも比較的繊維径が小さく(繊維径が20μm以下、好ましくは0.1〜5μm)、しかも繊維長が0.01mm以上、好ましくは0.1〜10mmのものが望ましく、このように繊維径が比較的小さく、繊維長が上記範囲にあるような望ましい無機繊維としては、ロックウールが挙げられる。
【0034】
無機粉体としては、タルク、クレー、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、ケイ酸、二酸化珪素、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、水酸化カルシウム、炭酸マグネシウムが挙げられ、これら無機粉体は1種または2種以上組み合わせて用いることができる。これらの無機粉体のうちでは、硫酸バリウムが好ましい。上記無機粉体のうちでも、その平均粒径が通常1.5μm以下、好ましくは0.5μm以下、さらに好ましくは0.2μm以下のものが望ましい。このような粒子径の無機粉体を用いると、無機粉体の表面エネルギーを利用して繊維間の付着性を強め環状部材(フェルト材)強度を向上させることができ、環状部材に適度の柔軟性と緻密性とを付与でき、シール特性と圧壊特性を向上させることが可能となるため好ましい。
【0035】
バインダーとしては、特に限定されず従来より公知のものを広く使用でき、天然ゴム、NBRなどのゴム系バンダー;アクリル樹脂等の樹脂系のバインダー;などが挙げられ、好ましくはアクリル樹脂が用いられる。
【0036】
このような環状部材18a,18bには、上記有機繊維は通常5〜40重量%、好ましくは、10〜40重量%の量で、無機繊維は通常20〜85重量%、好ましくは、30〜70重量%の量で、無機粉体は通常10重量%以上、好ましくは30重量%以上の量で、およびバインダーは残部量(但し、各環状部材重量を100重量%とする。)で含まれていることが望ましい。
【0037】
上記量で有機繊維が含まれていると、得られるガスケットは、高温での応力緩和が適度の範囲にあり、高温時の気密性も良好に保持され、常温での破壊強度に優れる傾向があり、また上記量で無機繊維が含まれていると、該無機繊維の繊維径が比較的大きく(例:繊維径5〜10μmφ)、また剛直であっても、得られるガスケットは、高温での応力緩和が小さくなり、柔軟性の低下も少なく、高温での気密特性に優れる傾向がある。
【0038】
また無機粉体が上記量で環状部材中に一様に分散して含まれていると、無機繊維と有機繊維、有機繊維同士あるいは、無機繊維同士の付着力を高めることができ、無機繊維と有機繊維との両者を配合したことによる環状部材の強度をより効果的に高めることができ、また繊維間の密着強度を高めることができるため、得られるガスケットは、該ガスケットを構成する環状部材18a,18bの強度(フェルト部強度)が高くなり、応力緩和を小さくでき、高温時におけるガスケットのシール性能を安定化させることができ、また、該環状部材(フェルト材)18a,18bの表面層11b、13bに存在する無機粉体によって、フェルト材18a,18bとフッ素樹脂外被12の摩擦抵抗が大きくなるため、ガスケットの圧壊強度が向上する傾向がある。
【0039】
<環状部材の製造>
このような無機粉体が一様に分散した環状部材18a,18bを製造するには、従来より公知の方法を利用することができ、例えば、それぞれ上記量の有機繊維、無機繊維、無機粉体および未加硫バインダーを配合し、水に分散させ、多段に抄き上げた後、100℃〜200℃の熱ロールで乾燥させる抄紙工程によって製造できる。
【0040】
また図2に示すように、無機粉体が環状部材27の外被22a側すなわち27b、環状部材28の外被22b側すなわち28bにのみ偏在した環状部材を製造するには、従来より公知の方法を利用することができ、例えば、それぞれ上記量の有機繊維、無機繊維および未加硫バインダーを配合し、上記の抄紙工程と同様の工程により抄紙した後、水に分散させた無機粉体を吹き付け散布することによって製造できる。
【0041】
<ガスケットの製造>
また図1に示すようなフッ素樹脂包みガスケット10を製造するには、下記のようにすればよい。
【0042】
環状シート16の両面に環状部材18a,18bを例えば樹脂やゴムを主剤とする接着剤を用いて張り合わせ、環状中芯体14を形成する。さらに、この環状中芯体14の表面(特に内周面及び上下両面)を、図1に示すように、所定サイズのフッ素樹脂スリーブから施盤加工によって切り出したフッ素樹脂外被12にて被覆する。このような形状のフッ素樹脂外被12は、フッ素樹脂スリーブの外径側から切削バイトを押しつけて切り出されるが、環状溝19を形成するには、外径側から押しつけた切削バイトを6のところまでで止め、内径側端部15aを残すように加工すればよい。また、環状中芯体14は、上記のように環状シート16及び環状部材18a,18bを張り合わせても良く、またそれぞれ環状に加工する前のシート状物を図1に示すような層構成となるように張り合わせた後で、所定サイズの環状に打ち抜くこともできる。
【0043】
このようなフッ素樹脂包みガスケット10では、初期締め付け時に、荷重が過剰に負荷された場合にも、環状中芯材が圧壊することがない。すなわち、初期締め付けが過剰になった場合に、フッ素樹脂外被12の破壊の前に中芯材14がクリープ現象を起こすこともなく、ガスケット応力が適度に保持されるために、ガスケットが本来有しているシール性能が良好に発揮される。
【0044】
また、このようなガスケット10は、後述する図6、図7に示すような、環状中芯体64、74が1層の環状シート(環状部材)68,78のみから構成されており、図1のジョイントシート層16を有しないものに比して、特に圧壊強度の点で優れている。また、環状中芯体14を2枚のフッ素樹脂外被12a,12bにてサンドイッチするように挟持し、その内周側端部同士を接合して製造することもできるため、断面U字型(後述する図4の42参照)、断面コ字型(後述する図3の32参照)の外被を有するガスケットに比して製造容易であるという効果を有する。
【0045】
本発明に係るフッ素樹脂包みガスケットは、上述した実施態様に限定されるものではなく、種々に改変することができる。例えば、図3において付番32で示すように、フッ素樹脂外被の形状は、断面コ字状であってもよく、図4において付番42で示すように、フッ素樹脂外被の形状は、断面U字状であってもよい。このうち、図3に示すようなフッ素樹脂外被32では、ガスケット内径をフランジ内径に合わせることにより、使用時に流体が滞留することを防止できるという効果を有し、またこの図4に示すようなフッ素樹脂外被42では、環状溝奥部5内に外部の流体(液体、気体の両者を含む)が浸入して該部に閉じこめられても、図1に示すガスケット10のように環状溝奥部5の鋭角部6を有しないため、フッ素樹脂外被42の最奥部6cは破損しにくいという効果を有する。
【0046】
また、図5において付番52で示すように、フッ素樹脂外被の形状は、内径側端部55aおよび外径側端部55bが封止され、袋状となっていてもよい。このようなフッ素樹脂包みガスケット50は、図1に示すフッ素樹脂包みガスケット10の外径側端部15b開口部をも封止した構造のものであり、このようなフッ素樹脂包みガスケット50では、外部の流体が該ガスケット50の環状中芯体54内に浸入するのを防止でき、環状部材54が濡れることによる強度低下を防止することができるため好ましい。
【0047】
フッ素樹脂包みガスケットの形状は、図1の形状に限らず図3や図4のような外被形状であってもよいし、外径側の開口部を封鎖した図5の構造のものであってもよい。
【0048】
上記説明では、何れも環状中芯体が複数(3層)の環状部材にて構成されている態様を示したが、本発明に係るフッ素樹脂包みガスケットは、上記態様に限定されず、その環状中芯体は、例えば、図6、図7に示すように1層(1枚)の環状部材68,78から構成されていてもよい。すなわち、図6には、図1に示す3層構成の環状中芯体14に代えて、1枚の環状部材68からなる環状中芯体64がフッ素樹脂外被62の環状溝69内に嵌入された態様が示されている。また、図7には、図4に示す3層構成の環状中芯体44に代えて、1枚の環状部材78からなる環状中芯体74がフッ素樹脂外被72の環状溝79内に嵌入された態様が示されている。このような環状部材(環状中芯体)では、その外被側表裏面に硫酸バリウムに代表される無機粉体が偏在していてもよい(図示せず)。
【0049】
これら環状部材68,78の材料は、前記図1等における環状部材18a、18b等とその厚みの点を除いて同一である。以上詳述したように、本発明では、フッ素樹脂包みガスケットの環状中芯材を構成する環状部材は、有機繊維、非石綿系無機繊維、無機粉体(好ましくは硫酸バリウム)、およびバインダーを含んでなっているため、環境への安全性に優れ、圧壊特性に優れている。該環状部材を環状中芯材用の構成材として1枚(1層)以上組み込んだ本発明のフッ素樹脂包みガスケットでは、常温で使用する場合には勿論のこと、高温(200℃程度)で使用する場合にも応力緩和がほとんど増加せず、適度の柔軟性を有し、気密性が良好に保持され、高温での使用にも耐えることができる。
【0050】
これに対して非石綿フェルト材を中芯材として使用した従来の非石綿系フッ素樹脂包みガスケットにおいては、圧壊現象が顕著であった。その原因は、次のように考えられる。従来、フッ素樹脂包みガスケットに用いられていた石綿フェルト材は、石綿繊維に少量のゴムバインダーを配合したものであって、石綿繊維は繊維径が小さく、それぞれの繊維が縮れて複雑に絡み合った形態であるため、比較的強度が高かった。
【0051】
これに対して、石綿フェルト材に代わる、中芯部材用の非石綿フェルト材としては、従来、無機繊維を主成分とし、無機系粉体と少量の有機バインダーが配合されたものが使われていた。すなわち、従来の石綿フェルト材の配合成分のうち、石綿繊維を、無機粉体と無機繊維とで置き換えたものである。
【0052】
しかしながらこれらの非石綿フェルト材は、一般的に剛直で径の大きい無機繊維と、無機粉体とが主体となるため、これらの非石綿フェルト材は、繊維同士のからみ合いが少なく、強度が低い。
【0053】
本発明によれば、常温での圧壊特性と高温下の気密特性に優れたフッ素樹脂包みガスケットが提供される。
【0054】
本発明に係るフッ素樹脂包みガスケット用中芯材(非石綿系フェルト材)、該中芯材用の環状部材は、常温での圧壊特性と高温下の気密特性に優れている。特に、上記フッ素樹脂包みガスケットにおいて、外被材料として、変性PTFEや、不安定末端基量が低減されており−CF3 末端基のみからなるPFA樹脂などを用いることで、フッ素樹脂包みガスケットにおいては外被破壊強度が向上するだけでなく、中芯材の圧壊強度も向上し、ガスケット締め付け時の過剰締め付けに対する安全性も改善されており、しかも、高温の管体内部流体の流通、遮断の繰り返し等に伴う圧力サイクルに対する耐屈曲性や高温下でのシール保持特性も著しく改善される。
【0055】
特に環状中芯材表面(フェルト面)に無機粉体、好ましくは硫酸バリウムが偏在しているフッ素樹脂包みガスケットでは、高温時における、気密性能が高くなる。
【実施例】
【0056】
以下、本発明について実施例に基づき、さらに具体的に説明するが、本発明はかかる実施例により何ら限定されるものではない。
【0057】
<圧壊応力(乾燥時)の測定法>
試料ガスケットをフランジ間に装着し、ガスケット応力が10MPaとなるように油圧式圧縮試験機で荷重を負荷し5分間荷重を保持した。その後ガスケットを取り出し、中芯材の表面に微少な亀裂が発生していないかを目視によって確認した。その後ガスケット応力を5MPaごとに上げていき、中芯表面に微少亀裂が発生するまでガスケット応力を上げながら上記確認試験を繰り返した。
【0058】
<圧壊応力(湿潤時)の測定法>
湿潤時の圧壊測定は、ガスケットをあらかじめ24時間水中に浸漬しておくほかは、乾燥時の圧壊測定と同じである。
【0059】
[実施例1]
外被材料として一般的に用いられるPTFE(商品名「ポリフロンM12」、ダイキン工業(株))を使用し、中芯材として下記3層構成の非石綿中芯を使用し、ガスケット寸法:「JIS 10K 100A」のフッ素樹脂包みガスケットを製造した(図1)。
【0060】
各層の厚さは以下の通り。外被:0.4mm厚中芯:環状部材/ジョイントシート/環状部材=0.8mm/0.8mm/0.8mmの3層構成、中芯全体の厚み2.4mm
(イ)2枚の環状部材:
(1)耐熱性有機繊維(アラミド繊維、商品名「コーネックス」(帝人(株)製)
(2)無機繊維(ロックウール、商品名「エスファイバー繊維」(新日鐵化学(株)製)
(3)無機粉末(硫酸バリウム、平均粒径0.1〜0.2μm)
(4)バインダー(NBRラテックス)
(1)/(2)/(3)/(4)の配合比(重量部)=20/50/26/4
(ロ)ジョイントシート(アラミド繊維10重量%/ゴム40重量%/無機充填剤50重量%、厚み0.8mm)上記フッ素樹脂包みガスケットを複数個作成した。フッ素樹脂包みガスケットを、フランジ(フランジ材質:「SUS 304」、フランジ表面粗さ:Rmax18〜25μm)に取り付け、種々のガスケット面圧を印加して各面圧毎に5分間保持した後に取り出し、中芯材の表面に微少な亀裂が発生した面圧をもって、中芯圧壊面圧とした。
【0061】
得られたフッ素樹脂包みガスケットの中芯圧壊面圧は、乾燥時120MPa、湿潤時100MPaとなった。結果を併せて表1に示す。
【0062】
また、上記と同様のフランジにこのフッ素樹脂包みガスケットを取り付け、気密内圧(200℃で100時間加熱後、窒素ガスを加圧して測定)を測定したところ、3.5MPaとなった。
【0063】
[実施例2]
外被材料として変性PTFE(商品名「ポリフロンM−112」、ダイキン工業(株))を使用した以外は実施例1と同様にしてフッ素樹脂包みガスケットを製造した。
【0064】
その結果、実施例2で得られたフッ素樹脂包みガスケットの中芯圧壊面圧は、乾燥時130MPa、湿潤時120MPaとなった。また、気密内圧は、3.0MPaとなった。
結果を併せて表1に示す。
【0065】
[比較例1]
実施例1において、配合組成を表1に示すようにロックウール65重量部、セピオライト31重量部、バインダー4重量部に代えた以外は、実施例1と同様にしてフッ素樹脂包みガスケットを作成した。
【0066】
得られたフッ素樹脂包みガスケットの圧壊応力(乾燥時)は、70MPa、圧壊応力(湿潤時)は40MPaとなった。また、上記と同様のフランジにこのフッ素樹脂包みガスケットを取り付け、気密内圧(200℃で100時間加熱後、窒素ガスを加圧して測定)を測定したところ、3.0MPaとなった。
結果を併せて表1に示す。
【0067】
[比較例2]
実施例1において、配合組成を表1に示すように石綿繊維80重量部、セピオライト16重量部、バインダー4重量部に代えた以外は、実施例1と同様にしてフッ素樹脂包みガスケットを作成した。
【0068】
得られたフッ素樹脂包みガスケットの圧壊応力(乾燥時)は、110MPa、圧壊応力(湿潤時)は60MPaとなった。また、上記と同様のフランジにこのフッ素樹脂包みガスケットを取り付け、気密内圧(200℃で100時間加熱後、窒素ガスを加圧して測定)を測定したところ、3.0MPaとなった。
結果を併せて表1に示す。
【0069】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】図1は、本発明の一実施態様に係るフッ素樹脂包みガスケットの要部断面を含む部分斜視図である。
【図2】図2は、本発明の他の実施態様に係るフッ素樹脂包みガスケットの要部断面を含む部分斜視図である。
【図3】図3は、本発明の他の実施態様に係るフッ素樹脂包みガスケットの要部断面を含む部分斜視図である。
【図4】図4は、本発明の他の実施態様に係るフッ素樹脂包みガスケットの断面図である。
【図5】図5は、本発明の他の実施態様に係るフッ素樹脂包みガスケットの要部断面を含む部分斜視図である。
【図6】図6は、本発明の他の実施態様に係るフッ素樹脂包みガスケットの要部断面を含む部分斜視図である。
【図7】図7は、本発明の他の実施態様に係るフッ素樹脂包みガスケットの断面図である。
【図8】図8は、従来例に係るフッ素樹脂包みガスケットの断面図である。
【図9】図9は、従来例に係るフッ素樹脂包みガスケットの断面図である。
【符号の説明】
【0071】
5・・・・・環状溝奥部
6・・・・・環状溝奥部の鋭角部
6c・・・・・環状溝奥部の最奥部
10、20、30、40、50、60、70・・・・・フッ素樹脂包みガスケット
11a、21a、31a、41a、51a、61a、71a・・・・・環状部材の上部外被側面(表面)
11b、21b、31b、41b、51b、61b、71b・・・・・環状部材の下部外被側面(表面)
12、22、32、42、52、62、72・・・・・フッ素樹脂外被
12a、22a、32a、42a、52a、62a、72a・・・・・下側フッ素樹脂外被(下部外被)
12b、22b、32b、42b、52b、62b・・・・・上側フッ素樹脂外被(上部外被)
13a、23a、33a、43a、53a、63a・・・・・環状部材あるいは環状中芯体の外被側面(表面)
13b、23b、33b、43b、53b、63b、73b・・・・・環状部材あるいは環状中芯体の外被側面(表面)
14、24、34、44、54、64、74・・・・・環状中芯体
15b・・・・・ガスケットの外径側端部
16、26、36、46、56・・・・・環状シート(ジョイントシート)
27・・・・・無機粉体が外被側表面に偏在した環状部材
27a、28a・・・・・有機繊維、無機繊維およびバインダーを主成分とする層
28・・・・・無機粉体が外被側表面に偏在した環状部材
27b、28b・・・・・無機粉体(硫酸バリウム)とバインダーを主成分 とする層
18a、38a、48a、58a、68a、78a・・・・・環状部材(下面側環状部材)
18b、38b、48b、58b、68b、78b・・・・・環状部材(上面側環状部材)
19、29、39、49、59、69、79・・・・・環状溝
55a・・・・・フッ素樹脂外被の内径側端部
15b、25b、35b、45b、55b・・・・・フッ素樹脂外被あるいはガスケットの外径側端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素樹脂外被の環状溝内に、単層または複数の環状部材を積層してなる環状中芯体が嵌入されたフッ素樹脂包みガスケットであって、
前記環状中芯体を構成する少なくとも1層の環状部材が、有機繊維、無機繊維、無機粉体およびバインダーを含み、
前記無機粉体が環状部材中に一様に分散していることを特徴とするフッ素樹脂包みガスケット。
【請求項2】
フッ素樹脂外被の環状溝内に、単層または複数の環状部材を積層してなる環状中芯体が嵌入されたフッ素樹脂包みガスケットであって、
前記環状中芯体を構成する少なくとも1層の環状部材が、有機繊維、無機繊維、無機粉体およびバインダーを含み、
前記無機粉体が環状部材中に、前記フッ素樹脂外被側表面に偏在していることを特徴とするフッ素樹脂包みガスケット。
【請求項3】
前記無機粉体が、硫酸バリウム、タルク、クレー、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、ケイ酸、二酸化珪素、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、水酸化カルシウム、炭酸マグネシウムのうちから選択される少なくとも1種の化合物である請求項1、2何れかに記載のフッ素樹脂包みガスケット。
【請求項4】
前記無機粉体の平均粒径が1.5μm以下である請求項1〜3の何れかに記載のフッ素樹脂包みガスケット。
【請求項5】
前記環状部材中に環状部材重量を100重量%とした場合に、前記有機繊維が5〜40重量%、前記無機繊維が20〜85重量%、前記無機粉体が10重量%以上、およびバインダーが残部の量で含まれていることを特徴とする請求項1〜4何れかに記載のフッ素樹脂包みガスケット。
【請求項6】
前記無機繊維の繊維径が20μm以下、繊維長が0.01mm以上であることを特徴とする請求項1〜5何れかに記載のフッ素樹脂包みガスケット。
【請求項7】
フッ素樹脂外被の環状溝内に嵌入される環状中芯体を構成する単層または複数の層からなるフッ素樹脂包みガスケット用の環状部材であって、
前記環状部材のうち少なくとも1つの環状部材が、有機繊維、無機繊維、無機粉体およびバインダーを含むことを特徴とするフッ素樹脂包みガスケット用の環状部材。
【請求項8】
前記無機粉体が、硫酸バリウム、タルク、クレー、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、ケイ酸、二酸化珪素、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、水酸化カルシウム、炭酸マグネシウムのうちから選択される少なくとも1種の化合物である請求項7に記載のフッ素樹脂包みガスケット用の環状部材。
【請求項9】
前記無機粉体の平均粒径が1.5μm以下である請求項7、8の何れかに記載のフッ素樹脂包みガスケット用の環状部材。
【請求項10】
前記環状部材中に環状部材重量を100重量%とした場合に前記有機繊維が5〜40重量%、前記無機繊維が20〜85重量%、前記無機粉体が10重量%以上、およびバインダーが残部の量で含まれていることを特徴とする請求項7〜9何れかに記載のフッ素樹脂包みガスケット用の環状部材。
【請求項11】
前記無機繊維の繊維径が20μm以下、繊維長が0.01mm以上であることを特徴とする請求項7〜10何れかに記載のフッ素樹脂包みガスケット用の環状部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−24877(P2009−24877A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−208970(P2008−208970)
【出願日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【分割の表示】特願平10−274878の分割
【原出願日】平成10年9月29日(1998.9.29)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成10年9月15日 日本バルカー工業株式会社発行の「バルカーレビュー Vol.42 No.9」に発表
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000229564)日本バルカー工業株式会社 (145)
【Fターム(参考)】