説明

フッ素樹脂成形品及びその製造方法

【課題】ソリやタワミを生じさせにくい残留応力の少ないフッ素樹脂成形品及びその製造方法を提供する。
【解決手段】フッ素樹脂成形品の製造方法は、フッ素樹脂粉末2と、前記フッ素樹脂粉末2中に埋め込まれ、互いに隙間を隔てた状態で接合パイプ4により連結された複数の補強材3とを含む予備成形品に、焼成を施す工程を具備することを特徴とする。得られた成形品のうち、角槽などの一体層が半導体や液晶の薬液戦場工程で使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素樹脂成形品及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
四フッ化エチレン樹脂(PTFE)のようなフッ素樹脂は、耐薬品性と耐熱性を有する。このため、PTFEから得られる成形品のうち、角槽などの一体槽が半導体や液晶の薬液洗浄工程で使用されたり、リング状等の丸ものがシリコンウェハーを1枚ずつ洗浄するカップに使用される等、多岐に亘って使用されている。
【0003】
フッ素樹脂はソリやタワミが生じ易いという特性を有する。このため、特許文献1に開示されているような、アルミニウムインサートの表面にフッ素系樹脂の膜をコーティングするフッ素系樹脂の射出成形が検討されている。
【0004】
しかしながら、フッ素樹脂成形品をインサート成形で作製すると、焼成時のフッ素樹脂の収縮率が芯材に比して大きいことから、フッ素樹脂に残留応力が生じる。その結果、フッ素樹脂の肉厚を薄くすると、フッ素樹脂の破断が生じ、反対に肉厚を厚くすると、芯材が曲がったり、フッ素樹脂の残留応力が拡大する。また、一体槽のように大きいプレートをインサート成形で作製することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平2−36917号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、残留応力の少ないフッ素樹脂成形品及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るフッ素樹脂成形品の製造方法は、フッ素樹脂粉末と、前記フッ素樹脂粉末中に埋め込まれ、互いに隙間を隔てた状態で接合パイプにより連結された複数の補強材とを含む予備成形品に、焼成を施す工程を具備することを特徴とする。
【0008】
本発明に係るフッ素樹脂成形品は、前記製造方法により製造されたものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、残留応力の少ないフッ素樹脂成形品及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】第1の実施形態に係る方法で用いられる予備成形品のリブ構造を示す平面図。
【図2】第1の実施形態に係る方法で用いられる予備成形品の側面図。
【図3】図2のリブ構造の補強材の拡大断面図。
【図4】図2のリブ構造の補強材の焼結後の拡大断面図。
【図5】第2の実施形態に係る方法で用いられる予備成形品の平面図。
【図6】図5の補強材の拡大断面図。
【図7】図5の補強材の焼結後の拡大断面図。
【図8】比較例1のフッ素樹脂成形品における焼結前及び焼結後の状態を示す断面図。
【図9】比較例2のフッ素樹脂成形品における焼結前及び焼結後の状態を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1の実施形態)
第1の実施形態に係るフッ素樹脂成形品の製造方法を以下に説明する。第1の実施形態は、角槽に適用した例である。
【0012】
リブ付き角槽の金型に、フッ素樹脂粉末を充填する。フッ素樹脂粉末は、例えば、四フッ化エチレン樹脂(PTFE)を挙げることができる。リブ用金型部に充填されたフッ素樹脂粉末に、丸棒からなる補強材を複数本埋め込む。リブ用金型部の各辺それぞれに、3本の補強材を一列に配置する。隣り合う補強材の端部を接合パイプに挿入することにより、3本の補強材を2個の接合パイプを用いて連結する。接合パイプの一方から挿入された補強材の端部と、接合パイプの他方から挿入された補強材の端部は、互いに接せず、隙間を開けて配置されている。接合パイプは、補強材間の隙間部分にフッ素樹脂粉末を充填しないため、及び強度を補う役割をしている。
【0013】
金型に充填されたフッ素樹脂粉末及び補強材からなる充填物に、加圧圧縮を施すことにより、図1及び図2に示す予備成形品を得る。加圧圧縮は、液圧(アイソスタティック)成形法等の全方向水圧成形で行うことが可能である。
【0014】
図1及び図2に示すように、角槽1の4枚の側板の周囲を囲むようにリブ2が設けられている。リブ2の長辺それぞれに、2個の接合パイプ4を用いて一列に連結された3本の丸棒からなる補強材3が配置されている。角槽1の長辺方向の側板の中央付近の反りが大きくなるため、リブ2の長辺の中央付近に補強材3が位置することが望ましい。また、リブ2の短辺それぞれに、2個の接合パイプ4を用いて一列に連結された3本の丸棒からなる補強材3が配置されている。図3に示すように、接合パイプ4の一方から挿入された補強材3の端部と、接合パイプ4の他方から挿入された補強材3の端部は、互いに接せず、隙間5を開けて配置されている。
【0015】
得られた予備成形品に焼成を施す。焼成を施すと、フッ素樹脂に収縮が生じる。この収縮は、補強材3の長手方向に主に生じるが、図4に示すように、補強材3の間に設けられた隙間5が収縮分減るため、フッ素樹脂の残留応力の発生を防止することができる。その結果、焼成による成形品の変形を防止することができると共に、残留応力によるクラックの発生を防止することができる。
【0016】
前述した図1〜図4の角槽では、リブの数を1つにしたが、複数設けることが可能である。また、補強材が挿入されたリブを用いる代わりに、側板に補強材を挿入することが可能である。
【0017】
(第2の実施形態)
第2の実施形態に係るフッ素樹脂成形品の製造方法を以下に説明する。第2の実施形態は、リングに適用した例である。
【0018】
リング用金型に、四フッ化エチレン樹脂(PTFE)などのフッ素樹脂粉末を充填する。金型に充填されたフッ素樹脂粉末に、円弧状に湾曲した丸棒からなる補強材を複数(例えば4本)埋め込む。補強材は、金型と同心円状に配置されている。隣り合う補強材の端部が接合パイプに挿入されることにより、4本の補強材が4個の接合パイプを用いて連結されている。接合パイプの一方から挿入された補強材の端部と、接合パイプの他方から挿入された補強材の端部は、互いに接せず、隙間を開けて配置されている。接合パイプは、補強材間の隙間部分にフッ素樹脂粉末を充填しないため、及び強度を補う役割をしている。
【0019】
金型に充填されたフッ素樹脂粉末及び補強材からなる充填物に、加圧圧縮を施すことにより、図5に示す予備成形品を得る。加圧圧縮は、プレス圧縮法、液圧(アイソスタティック)成形法等の全方向水圧成形で行うことが可能である。
【0020】
図5に示すように、リング状の予備成形品6に、円弧状に湾曲した丸棒からなる補強材7が、成形品と同心円状に配置されている。隣り合う補強材7の端部が接合パイプ8に挿入されることにより、4つ補強材7が4個の接合パイプを用いて連結されている。図6に示すように、接合パイプ8の一方から挿入された補強材7の端部と、接合パイプ8の他方から挿入された補強材7の端部は、互いに接せず、隙間9を開けて配置されている。
【0021】
得られた予備成形品に焼成を施す。焼成を施すと、フッ素樹脂に収縮が生じる。この収縮は、予備成形品の円周方向に主に生じるが、図7に示すように、補強材7の間に設けられた隙間9が収縮に伴って減少するため、フッ素樹脂の残留応力の発生を防止することができる。その結果、焼成による成形品の変形を防止することができると共に、残留応力によるクラックの発生を防止することができる。
【0022】
前述した図5〜図7のリングでは、リングの高さ方向の中央付近に補強材を設けたが、補強材は、リングの高さ方向の上下端付近等の複数箇所に設けることが可能である。
【0023】
第1及び第2の実施形態において、加圧圧縮のための成形圧は、特に限定されるものではないが、20MPa程度で、成形サイクルは1.5時間程度にすることができる。また、焼成温度は、特に限定されるものではないが、例えば、PTFEの未焼成ポリマーの融点340℃以上、好ましくは360℃以上380℃以下にすることができる。
【0024】
フッ素樹脂に四フッ化エチレン樹脂(PTFE)を用いる場合、焼成時の収縮率が3〜6%(300mmで約10mm収縮)であるため、この収縮分が吸収され、かつ収縮後も補強材3,7の間に隙間が残るように隙間の大きさDを設定することが好ましい。収縮後も補強材3,7間に隙間を残すのは、補強材同士の衝突による応力の発生並びに補強材3,7の破損を防止するためである。隙間に存在する空気は、焼成後の検査においてボイド発生の要因にならず、何ら悪影響を及ぼさないことを検証した。
【0025】
補強材3,7及び接合パイプ4,8は、焼成時の熱及び加圧圧縮時の成形圧に耐え得る材料から形成することが望ましい。このような材料は、たとえば、ステンレス鋼やチタン等の金属、石英ガラス類、アルミナやチタニア等のセラミックス等が挙げられる。石英ガラス類あるいはセラミックスからなる補強材3,7は、薬液の侵食による腐食を防止することが可能である。
【0026】
なお、前述した第1の実施形態及び第2の実施形態では、補強材を一列に配置したが、複数列にして配置することが可能である。
【0027】
また、フッ素樹脂成形品を切削加工する際、成形品中の補強材の位置は、超音波厚さ測定器で調べることが可能である。
【0028】
また、前述した第1の実施形態及び第2の実施形態は、金型にフッ素樹脂粉末と、接合パイプを用いて連結された補強材とを充填する工程と、充填物に加圧圧縮を施す工程と、前記充填物に焼成を施す工程とを具備するものであるが、必要に応じて他の工程(例えば、焼成後の冷却工程等)を含むことを許容する。
【0029】
フッ素樹脂は、四フッ化エチレン樹脂に限られるものではなく、例えば、四ふっ化エチレンパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合樹脂(PFA)、四ふっ化エチレン−六ふっ化プロピレン共重合樹脂(FEP)等を挙げることができる。
【実施例】
【0030】
以下、本発明の実施例を前述した図面を参照して詳細に説明するが、本発明は以下に掲載される実施例に限定されるものでない。
【0031】
(実施例1)
700mm×700mm×500mmHのPTFE製の角型一体槽を第1の実施形態で説明した方法により作製した。リブの各辺に配置するステンレス鋼製丸棒からなる補強材は3本とし、3本の補強材を2個のステンレス鋼製接合パイプを用いて一列に連結し、リブの各辺に配置した。上記サイズの角型一体槽では、PTFEの収縮幅が約25mmなので、予備成形品の補強材間の隙間の大きさD(接合パイプ内の隙間)を13mmとした。加圧圧縮のための成形圧は20MPaで、成形サイクルは1.5時間で、焼成温度は370℃とした。
【0032】
得られた角型一体槽は、外形に変形がなかった。また、補強材と接合パイプを用いず、PTFEのみを使用して実施例1と同様な条件で加圧圧縮及び焼成を行うことにより作製した角型一体槽(参考例1)のPTFEの残存応力と、実施例1の角型一体槽のPTFEの残留応力とを比較したところ、その差はほとんどなかった。ここで、PTFEの残留応力は、PTFEの残存歪を意味する。
【0033】
角型一体槽の寸法を300mm×500mm×400mmHに変更したところ、得られた角型一体槽は、外形に変形がなく、また、PTFEの残留応力は、参考例1のPTFEの残存応力との差がほとんどなかった。
【0034】
(実施例2)
外径が500mmのPTFE製リングを第2の実施形態で説明した方法により作製した。リングに設ける補強材に、円弧状に湾曲したステンレス鋼製丸棒を使用し、図5に示すように4つの補強材を4個のステンレス鋼製接合パイプを用いて一列に連結した。上記外径のリングでは、PTFEの収縮幅が約50mmなので、予備成形品の補強材間の隙間の大きさD(接合パイプ内の隙間)を13mmとした。加圧圧縮のための成形圧は20MPaで、成形サイクルは1.5時間で、焼成温度は370℃とした。
【0035】
得られたリングは、外形に変形がなかった。また、補強材と接合パイプを用いず、PTFEのみを使用して実施例2と同様な条件で加圧圧縮及び焼成を行うことにより作製したリング(参考例2)のPTFEの残存応力と、実施例2のリングのPTFEの残留応力とを比較したところ、その差はほとんどなかった。
【0036】
リングの外径を400〜600mmの範囲で変更したところ、得られたリングは、外形に変形がなく、また、PTFEの残留応力は、参考例2のPTFEの残存応力との差がほとんどなかった。
【0037】
(比較例1)
円板状の金型にPTFE粉末11を充填し、充填されたPTFE粉末11中に円板状のステンレス鋼製補強板12を埋め込んだ。次いで、成形圧が20MPaで、成形サイクルが1.5時間の加圧圧縮を施すことにより、図8の(a)に示す予備成形品を得た。得られた予備成形品に370℃で焼成を施したところ、PTFEの収縮により、図8の(b)に示すように、円周方向の側面13が外側に湾曲した。また、PTFEの残留応力は、実施例1のPTFEの残存応力に比して3%以上大きかった。
【0038】
(比較例2)
リング状の金型にPTFE粉末14を充填し、充填されたPTFE粉末14中にステンレス鋼製補強リング15を埋め込んだ。次いで、成形圧が20MPaで、成形サイクルが1.5時間の加圧圧縮を施すことにより、図9の(a)に示す予備成形品を得た。得られた予備成形品に370℃で焼成を施したところ、PTFEの収縮により、図9の(b)に示すように、円周方向の側面16が外側に湾曲した。また、PTFEの残留応力は、実施例2のPTFEの残存応力に比して3%以上大きかった。
【0039】
上記実施例1,2に示す通りに、本願発明によると、補強材間に設けられた隙間が、焼成時のPTFEの収縮を吸収するため、補強材の変形を防止することができると共に、成形品のPTFEに応力が残存するのを回避することができる。
【0040】
これに対し、比較例1,2のように、PTFE成形品に一本物の補強板もしくは補強リングを挿入すると、PTFEが径方向に収縮するのに伴って変形し、図8(b)及び図9(b)に示すように円周方向の側面が太鼓状に膨れた。また、PTFEの収縮分が残留応力として蓄積されたため、PTFEの残留応力が実施例1,2に比して大きくなった。
【0041】
以上詳述した通りに本願発明によれば、大型槽やリング状の成形品にも補強材を挿入することが可能となる。また、ウエハーバスケットにシリコンウエハーを収容し、スピンドライヤーをかける場合の遠心力による膨らみを防止することが可能となる。さらに、本願発明は、枚葉式洗浄装置カップや、スプラッシュガード等にも適用可能である。
【符号の説明】
【0042】
1…角槽、2…リブ、3,7…補強材、4,8…接合パイプ、5,9…隙間、11,14…PTFE粉末、12…補強板、13,16…PTFEリングの円周方向の側面、15…補強リング、D…隙間の大きさ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素樹脂粉末と、前記フッ素樹脂粉末中に埋め込まれ、互いに隙間を隔てた状態で接合パイプにより連結された複数の補強材とを含む予備成形品に、焼成を施す工程を具備することを特徴とするフッ素樹脂成形品の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法により製造されることを特徴とするフッ素樹脂成形品。
【請求項3】
前記補強材間に隙間が存在することを特徴とする請求項2記載のフッ素樹脂成形品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−20304(P2011−20304A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−165937(P2009−165937)
【出願日】平成21年7月14日(2009.7.14)
【出願人】(000211156)中興化成工業株式会社 (37)
【Fターム(参考)】