説明

フッ素樹脂成形品

【課題】 熱溶融性フッ素樹脂を含む組成物を射出成形して得られる大型射出成形品を提供すること、特に従来のPFAに比べて低い射出圧で成形可能であって、金型からの離型性に優れる組成物を成形して得られる、基板処理装置用として特に耐熱性と耐薬液性に優れ、且つ寸法精度にも優れた大型射出成形品を提供すること。
【解決手段】 熱溶融性フッ素樹脂を含む組成物を射出成形して得られる射出方向の投影面積が1100cm以上の射出成形品。
熱溶融性フッ素樹脂を含む組成物が、MFRが60g/10分を超える溶融成形性テトラフルオロエチレン/フルオロアルコキシトリフルオロエチレン共重合体を含む組成物である態様は好ましい態様である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板、液晶表示装置用ガラス基板、フォトマスク用ガラス基板、光ディスク用基板等(以下、単に「基板」と称することがある)に処理液や不活性ガスを供給して、洗浄清浄化処理を行う基板処理装置に用いられる射出成形品(容器状物品)に関するもので、特にテトラフルオロエチレン/フルオロアルコキシトリフルオロエチレン共重合体を含む組成物を射出成形することで得られる容器状物品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体製造装置や液晶製造装置などの電子基板の製造工程では、フォトレジストの残渣、有機溶剤の残渣、合成ワックス、人体からの脂肪酸などの有機系残渣や、ナトリウム、カリウム、金、鉄、銅などの無機系汚染物や、その他微細なパーティクルが発生するが、続く次工程に持ち込まれないよう、これらを除去することが必要である。そのため、基板表面を高度に清浄に保ち、パーティクルや汚染物を効果的に除去する技術として、薬液による薬液処理及び純水などのリンス液によるリンス処理からなる洗浄乾燥処理工程が重要となっている。
【0003】
特許文献1に記載の装置は、基板を洗浄するための基板洗浄装置であって、基板を保持し回転させる基板回転保持手段と、この基板回転保持手段に保持されている基板に洗浄液やリンス液を処理液として供給する洗浄液供給手段と、基板回転手段によって回転される基板から飛び散る洗浄液と接触する部材とを含むものである。特許文献1では、基板保持部および雰囲気遮断板を回転しながら、基板に対して薬液による薬液処理および純水によるリンス処理等が行われる。
【0004】
この様な基板の洗浄を行う装置では、基板保持部に保持された基板に向けて、純水や、硝酸水、塩酸水、フッ酸水、混合フッ酸水(過酸化水素水をフッ酸水に混合)等の酸性溶液や、アンモニア水、SC-1(アンモニア水と過酸化水素水との混合液)等のアルカリ性溶液等の薬液(以下、酸性溶液やアルカリ性溶液を総称して「薬液」と呼ぶことがある、また、純水や薬液を総称して「処理液」と呼ぶことがある)を供給することにより、基板に付着した汚染物の除去を行っている。そのため、薬液が基板保持部や不活性ガスの流路に付着し、薬液付着部分の腐食が基板の処理不良の原因となることが知られている。
【0005】
そこで、このような薬液の腐食による基板の処理不良を解決するため、当該薬液が付着する処理装置の部材は、耐熱性及び耐薬液性を有する樹脂で形成することが提案され、そのような樹脂としては、例えば、四フッ化エチレン樹脂(PTFE)、テトラフルオロエチレン/フルオロアルコキシトリフルオロエチレン共重合体(PFA)等のフッ素樹脂が挙げられている(特許文献1及び2)。特に、溶融成形性を有し、耐熱性、耐薬液性にも優れるPFAを溶融押出成形して得られるボトルやチューブは、それぞれ半導体製造用高純度薬液の容器や、薬液や超純水の移送用の配管として利用されている(特許文献3)。
【0006】
しかしながら近年、複数の処理液供給を受けて行う基板処理装置における処理槽等は、ウエハーサイズの大型化に伴う大型化に加え、洗浄や清浄処理機能の複合化に伴う形状の複雑化や部品点数の増加が進んでいる一方で、高い寸法精度が要求されている。
それらの要求を満たすため、上記処理槽等は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の大型素材を切削することにより製作されているが、この方法によって処理槽完成品を得るには、素材ブロックの圧縮成形、焼成、切削及びアニール処理等の長い工程を経る必要があるため、生産効率が低く、且つ、素材の大部分を切削廃棄物とせざるを得ないという問題を抱えている。
【0007】
このPTFEの切削ロスを低減する為に、液圧成形(アイソスタティック成形)等を用い最終形状に可能な限り近い形状の素材を得ることも試みられているが、それをもってしても素材ブロックの圧縮成形、焼成、切削及び伴うアニール処理等の成形加工工程には数ヶ月を要し、切削ロス(切削廃棄物の量)も5割を超えるものとなっている。
【0008】
また、PTFEと同等の耐薬液性、耐熱性を備え、且つ溶融成形可能なPFA、例えば得られる成形品の耐久性をあげるため、特開2002−53620号公報に記載されるような分子量分布、及びASTM D−3307に準じて測定される372℃におけるメルトフローレート(MFR)を特定の範囲(35〜60g/10分)としたPFA、或いは特開平10−86205号公報に記載されるような特定の容量流速を有するPFAを用い、上述のような大型の処理槽を射出成形にて得ようとした場合には、射出圧力が成形金型末端まで維持できないため、射出成形により大型の成形品を得ることは困難であった。
また、他のエンジニアリングプラスチックに比して高いその溶融粘度に起因する大きな射出圧力と型締付け圧力が必要となるため、非常に大型の射出成形機が必要となるという問題を抱えている。そのため、初期導入コスト及び製品コストが嵩み、結果として採算に乗せることが困難となることに加え、実用的な大きさの物品を得ることは困難であった。
【0009】
上述のような大型処理槽等の部品を、既存のPFA射出成形機にて成形可能な大きさに細分化し、これを射出機にて成形し、その後、溶着ないし溶接することで製品を得た場合には、高温雰囲気下で製品が使用された際の熱膨張によって、溶着ないし溶接部への応力集中することによる変形が生じるという問題があった。
【0010】
更に、トランスファー成形、回転成形、ブロー成形など他の溶融成形方法も試みられて来たが、例えば上述のような処理槽等を回転成形にて得ようとした場合には、要求される高い寸法精度を満たすことができず、結果として追加工を多く要してしまうことになり、コスト低減効果に乏しく生産効率が低いという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平11−297652号公報
【特許文献2】特許第4703944号公報
【特許文献3】特許第3559062号公報
【特許文献4】特開2002−53620号公報
【特許文献5】特開平10−86205号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、以上の事実に鑑み、熱溶融性フッ素樹脂を含む組成物を射出成形して得られる大型射出成形品を提供するものである。
本発明は、従来のPFAに比べて低い射出圧で成形可能であって、金型からの離型性に優れる組成物を成形して得られる、基板処理装置用として特に耐熱性と耐薬液性に優れ、且つ寸法精度にも優れた大型射出成形品を提供する。
本発明はまた、PFAを含む組成物を射出成形することにより、複雑な形状を有する大型射出成形品を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
熱溶融性フッ素樹脂を含む組成物を射出成形して得られる投影面積1100cm以上の射射出成形品を提供する。
【0014】
射出方向に対する垂直方向への射出面積拡散比が3000以上である前記の射出成形品は、本発明の好ましい態様である。
【0015】
射出成形品が、円筒形状、角槽形状、容器形状、箱型形上、籠形状である前記した射出成形品は、本発明の好ましい態様である。
【0016】
半導体製造装置または基板洗浄処理装置用の部材またはそれらのハウジングとして用いられる前記の射出成形品は、本発明の好ましい態様である。
【0017】
熱溶融性フッ素樹脂が、テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン/クロロトリフルオロエチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライドから選ばれる少なくとも1種である前記の射出成形品は、本発明の好ましい態様である。
【0018】
熱溶融性フッ素樹脂を含む組成物が、熱溶融性フッ素樹脂としてMFRが60g/10分を超えるテトラフルオロエチレン/フルオロアルコキシトリフルオロエチレン共重合体を含み、さらに結晶化温度が305℃以上で、結晶化熱が50J/g以上であるポリテトラフルオロエチレンを組成物に対して0.05〜10重量%含む組成物である前記の射出成形品は、本発明の好ましい態様である。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、金型からの離型性に優れる組成物(PFAを含む組成物)を、従来のPFAに比べて低い成形圧力で成形することが可能となり、基板処理装置用として特に耐熱性・耐薬液性に優れ、且つ寸法精度にも優れた大型射出成形品の提供が可能となる。
また、本発明により、複雑な形状を有する大型成形品を、射出成形することができる為、切削廃棄物が減量することに加え、製品の製造工程が短縮することにより、生産効率を上げることができる。
本発明の大型射出成形品は、耐熱性、耐薬液に優れ、生産コストが抑えられているため、半導体製造装置用部材を始めとして、化学防食用途、OA用途、摺動材用途、自動車用途、及び建築材用途などに広く適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の射出成形品を得るための金型の1例を示す断面図である。
【図2】図1の金型から得られる射出成形品を示す斜視概略図である。
【図3】図2の射出成形品の断面図である。
【図4】本発明の射出成形品を得る金型の他の例を示す断面図である。
【図5】図4の金型から得られる射出成形品を示す斜視概略図である。
【図6】図5の射出成形品の断面図である。
【図7】本発明の椀型形状成形品の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
本発明における熱溶融性フッ素樹脂は、溶融成形可能なフッ素樹脂である。その好ましい例として、テトラフルオロエチレン/フルオロアルコキシトリフルオロエチレン共重合体、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体、及びポリビニリデンフルオライドから選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。この中でもより好ましいものとして、テトラフルオロエチレン/フルオロアルコキシトリフルオロエチレン共重合体が挙げられる
【0022】
本発明におけるテトラフルオロエチレン/フルオロアルコキシトリフルオロエチレン共重合体は、共重合体中のフルオロアルコキシトリフルオロエチレン含有量が1〜10重量%のものである。コモノマーとして使用できるフルオロアルコキシトリフルオロエチレンとしては、炭素数3以上、好ましくは炭素数3〜6個のパーフルオロアルケン、炭素数1〜6個のパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)等が挙げられ、好ましくは、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)(以下PMVEと略記する)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)(以下PEVEと略記する)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)(以下PPVEと略記する)等が挙げられる。
本発明におけるテトラフルオロエチレン/フルオロアルコキシトリフルオロエチレン共重合体は、テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(以下PFAと略記する)であることが好ましい。
【0023】
本発明のテトラフルオロエチレン/フルオロアルコキシトリフルオロエチレン共重合体は、溶融押出し成形、射出成形等の溶融成形が可能なものであり、372℃±1℃におけるメルトフローレート(MFR)が60g/10分を超え100g/10分以下であることが好ましく、より好ましくは70〜80g/10分のメルトフローレート(MFR)を有するものである。MFRが60g/10分以下の場合には、射出圧力が成形金型末端まで維持するのが困難になる傾向にあるため、本発明の様な投影面積1100cm以上の成形品を射出成形により得るのが難しくなる。またMFRが100g/10分を超える場合には、成形品の形状の維持が難しくなる。該共重合体は、溶液重合、乳化重合、懸濁重合等公知の方法によって製造することができるものであり、少なくとも1,000以上のフレックスライフ値を有するものを選択することが望ましい。
【0024】
また、本発明のテトラフルオロエチレン/フルオロアルコキシトリフルオロエチレン共重合体は、MFRが異なる数種の該共重合体を、372℃±1℃において60g/10分を超え100g/10分以下、より好ましくは70〜80g/10分のメルトフローレート(MFR)となるように、混合して用いることもできる。例えばMFR が60g/10分未満のPFAとMFRが60g/10分を超えるのPFAを混合して、PFA混合物のMFRを上記の範囲内に調整して使用することも可能である。
【0025】
本発明において、MFRが60g/10分を超える溶融成形性テトラフルオロエチレン/フルオロアルコキシトリフルオロエチレン共重合体を含む組成物は、PTFEを含んでいてもよい。混合されるPTFEは、テトラフルオロエチレンのホモポリマー、及び/又は1重量%以下の微量のコモノマーを含む変性PTFEである(以下変性PTFEを含めて「PTFE」と総称することがある)。微量のコモノマーとしては、炭素数3以上、好ましくは炭素数3〜6個のパーフルオロアルケン、炭素数1〜6個のパーフルオロ( アルキルビニルエーテル)、クロロトリフルオロエチレンなどが挙げられる。含フッ素単量体の具体例としては、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)(PMVE)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)(PEVE)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PPVE)、およびパーフルオロ(ブチルビニルエーテル)(PPVE)、クロロトリフルオロエチレンを挙げることができるが好適である。中でもヘキサフルオロプロピレン(HFP)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)(PEVE)およびパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PPVE)が好ましく、特には、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)が挙げられる。
【0026】
このようなPTFEとしては、例えば、「PTFEマイクロパウダー」あるいは「PTFEワックス」と称されるMFRが0.01〜1.0g/10分のPTFEが好ましい。 PTFEのMFRが0.01g/10分未満の場合には、PFA組成物のMFRの極端な低下が起こる恐れがあり、1.0g/10分を超える場合には、PTFEの添加によるPFAの結晶化に対する効果が減少し、得られる射出成形品の耐久性が悪くなることに加え、表面がスムースでなくなる恐れがある。
【0027】
また、本発明において混合されるPTFEは、後記する方法により示差走査熱量計(DSC)で測定した結晶化温度が305℃以上、且つ結晶化熱が50J/g以上という二つの条件を満足させるものであることが好ましい。PTFEの結晶化温度は305℃以上、好ましくは310℃以上、より好ましくは312℃以上であることが望ましい。PTFE結晶化温度が305℃未満の場合には、PFAの結晶化促進効果が少なくなる恐れがある。また、結晶化熱が50J/g未満の場合にも、PFAの結晶化促進効果が少なくなる恐れがある。そのため、本発明の目的は達成するためには、結晶化熱が50J/g以上のPTFEを含むPFA組成物を射出成形に使用するのが好ましい。
【0028】
このようなPTFEは、「モールディングパウダー」や「ファインパウダー」と呼ばれる非溶融流動性の高分子量PTFEの放射線や熱による分解、あるいは連鎖移動剤存在下でテトラフルオロエチレンを重合することにより直接得ることができる。
具体的な製造方法は、放射線分解法については、例えば特公昭47−19609または特公昭52−38870を、直接重合法については例えば米国特許第3067262号、米国特許第6060167号、特公昭57−22043または特開平7−90024を参照することができる。
【0029】
本発明のテトラフルオロエチレン/フルオロアルコキシトリフルオロエチレン共重合体を含む組成物は、溶融押出し成形、射出成形等の溶融成形が可能なものであり、372℃±1℃におけるMFRが60g/10分を超え100g/10分以下であることが好ましく、より好ましくは70〜80g/10分のMFRを有するものである。MFRが60g/10分以下の場合には、射出圧力が成形金型末端まで維持するのが困難になる傾向にあるため、本発明の様な投影面積1100cm以上の成形品を射出成形により得るのが難しくなる。またMFRが100g/10分を超える場合には、成形品の形状の維持が難しくなる。
【0030】
本発明のMFRが60g/10分を超える溶融成形性テトラフルオロエチレン/フルオロアルコキシトリフルオロエチレン共重合体を含む組成物の射出機による成形性を向上させるためには、混合するPTFEをできるだけ少なくすることが望ましいが、PTFEの添加量の上限値は限定的なものではない。一般的にPTFE含有量の増加と共に射出成形性は減少する傾向があり、PTFEの含有量が10重量%を超えると、含有量の増加に伴い得られる射出成形品の耐薬液性は向上するが、機械的強度(フレックスライフの低下)、PTFEとPFAの分離、PTFEの凝集、デラミネーションが起こる恐れがある。
【0031】
一方、PTFE含有量の増加と共に組成物の結晶性は高くなる傾向が見られるため、PTFEの含有量は、テトラフルオロエチレン/フルオロアルコキシトリフルオロエチレン共重合体のMFRによっても異なるが、PTFEの含有量は、0.01〜50重量%、好ましくは0.01〜30重量%、より好ましくは0.01〜10重量%、さらに好ましくは0.05〜5重量%である。PTFEの添加量が0.01重量%未満の場合には、射出成形品が突き出し難くなる金型から射出成形品を離型し難くなる。
【0032】
本発明において混合されるPTFEは、溶融状態においてテトラフルオロエチレン/フルオロアルコキシトリフルオロエチレン共重合体と極めて高い相溶性を有するため、溶融混練時や溶融押し出し時に容易に該共重合体中に分散し、極めて均質な組成物を与える。したがって、混合するPTFEの形状は特に限定されないが、作業性を考慮して平均粒径が0.05〜1.0ミクロンの微粒子の分散液や数ミクロンから数十ミクロンの粉末であることが好ましい。
【0033】
本発明におけるPTFEの混合方法としては、溶融混練法、テトラフルオロエチレン/フルオロアルコキシトリフルオロエチレン共重合体のペレット又は粉末と、PTFE粉末とのドライブレンド法、該共重合体の分散液と、PTFE粉末及び/又はPTFE分散液との湿式ブレンド法等の公知の方法をいずれも利用することができる。
また、予めPFAの重合槽内の重合媒体中にPTFEの粒子を分散してPFAの重合を開始させ、PTFEを含有するPFA粒子として組成物を得るなどの方法も取り得る。
【0034】
例えば、特開2007−320267に記載されているような、融点の異なるPTFE及びPFAからなる多層構造を有し、かつ最外層のフッ素樹脂より融点の高いフッ素樹脂からなる層を、内層に少なくとも1 層有する多層構造を有するフッ素樹脂粒子を用いてもよい。融点の異なる少なくとも2種のフッ素樹脂による多層構造を有するフッ素樹脂は、最外層のフッ素樹脂が90〜5重量% 、内層の高融点フッ素樹脂が10〜95重量%からなることが好ましい。最外層と内層の割合は、所望する耐薬液・ガス透過性、線膨張係数、最大強度、伸びなどを考慮して選択することができる。フッ素樹脂射出成形品の結晶化度を保つ観点から、高融点フッ素樹脂が10重量%以上であることが好ましい。また、得られるフッ素樹脂射出成形品の機械的強度(最大強度、伸びなど)の観点から、低融点フッ素樹脂が5重量%以上であることが好ましい。
【0035】
本発明の溶融成形性テトラフルオロエチレン/フルオロアルコキシトリフルオロエチレン共重合体を含む組成物のMFRは、60g/10分を超え100g/10分以下、より好ましくは70g/10分以上100g/10分以下である。MFRが小さいほど組成物の耐久性は優れたものとなるが、組成物のMFRが60g/10分以下の場合には、複雑な形状で且つ奥行が深い製品を射出成形する際、金型への射出成形品の抱きつき等により型離が難しいことに加え、薄肉部をエジェクターで破損する等の不具合も多く発生し、溶融成形することが困難となる恐れがある。また、良好な耐久性を維持できる組成物のMFRの上限は100g/10分であり、これを超えるMFRではフレックスライフの低下が見られ、得られる射出成形品の耐久性が悪くなる恐れがある。
【0036】
本発明のMFRが60g/10分を超える溶融成形性テトラフルオロエチレン/フルオロアルコキシトリフルオロエチレン共重合体を含む組成物は、従来のPFAに比べて低い射出圧で成形可能であり、且つ金型からの離型性に優れるため、該組成物を用い、基板処理装置用として特に耐熱性・耐薬液性に優れ、且つ寸法精度にも優れた複雑な形状を有する大型射出成形品を射出成形にて成形することができる。例えば、型締圧800トンクラスの射出成形機で肉厚4mmt、射出面積拡散比3000以上の射出成形品を得ることができる。
【0037】
射出成形を行う場合、射出圧力はおおよそ400kg/cm以上、800kg/cm以下に抑えることが望ましい。射出圧力が800kg/cmを超える場合には、バリが発生したりオーバーパッキングする可能性が高くなったりする。また、射出圧力が400kg/cm未満の場合には、ショート、寸法バラツキが大きくなる恐れがある。
【0038】
本発明の射出成形品の投影面積は、1100cm以上であることが好ましい。本発明における投影面積とは、射出成形品を射出成形機のノズル方向から見たときに見える面積、すなわちノズルの方向の投影面積である。従来公知のフッ素樹脂溶融射出成形品の投影面積は、1100cm未満の成形品であって、投影面積1100cm以上のフッ素樹脂溶融射出成形品は知られていない。投影面積が1100cm以上である本発明の射出成形品は、クラックが発生し難く、寸法安定性、突き出し性に優れた大型射出成形品である。
【0039】
本発明の射出成形品は、さらに射出面積拡散比が3000以上であることが好ましい。本発明における射出面積比とは、射出方向と直交する方向への射出面積拡散比、即ち、ノズル部先端の開口面積と射出成形品の投影面積の比である。射出面積拡散比が3000未満の場合には、射出成形品重量の安定性が悪く、即ち、寸法バラツキが大きくなるため好ましくない。
【0040】
以下に本発明における射出投影面積比を求めるために用いるノズル先端部の開口面積と射出成形品の投影面積を、図を用いて説明する。
図1は、本発明の射出成形品を得るための金型の1例で、閉じた状態の金型の断面図を示している。図1には、射出成形機の加熱シリンダーの先端に取り付けられた射出口金であるノズル1も含めて表示されている。ノズル先端部の開口部は、ノズル1の先端部aであって、ノズル先端部の開口面積は、先端部aの内側開口部の面積をいう。ノズル1から射出された溶融フッ素樹脂組成物はスプルー6を経てゲート2を通過して金型4内のキャビティ5に充填される。図1のx−yは中心線である。
【0041】
図2は、射出成形後に金型4を開放して得られた成形品の斜視図の概略図を示したものである。
図3は得られた成形品8の断面図である。図3にはスプルー及びゲートで固化した樹脂が存在する。通常スプルー及びゲートで固化した樹脂も、それぞれスプルー及びゲートと呼ばれているので、図3では、固化樹脂のスプルーを9、ゲートを10と表示する。スプルー9及びゲート10は、最終成形品とするときには削除され、図7に示されたような成形品となる。図3において、射出成形機のノズル方向は矢印cの方向であるから、矢印cの方向から見たときに見える成形品の投影面は図2の3で示される部分で形成される。図2では3で示される部分を明確にするため周辺部を黒く彩色してある。投影面はA−Bの範囲である。投影面が占める面積が射出投影面積であり、射出投影面積とノズル1の先端部aの開口面積との比が射出面積拡散比として算出される。
【0042】
図4は、本発明の射出成形品を得るための金型の別の1例を示すもので、閉じた状態の金型の断面図である。図4では、ノズル1から射出された溶融フッ素樹脂組成物は、スプルー6からランナー7を経て二つのゲート2を通過して金型4内のキャビティ5に充填される。図4のx−yは中心線である。
【0043】
図5には、図4の射出成形方法で得られた成形品の斜視図が示され、図6には得られた成形品8の断面図が示されている。図6には固化樹脂のスプルー9、ランナー11及びゲート10が存在するが、最終成形品とするときには削除される。
ゲートが二つある場合であっても射出投影面積比は、投影面の面積である投影面積と、ノズル先端部の開口面積から求める。図6の成形品では投影面積は面3によって形成される。なお、図6においても、投影面はA−Bの範囲である。射出投影面積比はゲートの数に関係無くノズル先端部の開口面積を対象として算出されるものである。
図3及び図6における固化樹脂のスプルー9における先端部分bは、ノズル先端部開口部に対応する部分である。
【0044】
本発明の投影面積が1100cm以上の大型射出成形品の形状としては、円筒形状、角槽形状、碗型形状などの容器形状、箱型形上、籠形状などが挙げられる。従来PTFE射出成形品の切削により製造されている製品を置き換えることができ、コスト削減等の経済性に優れるものである。
【0045】
本発明の射出成形品は、結晶化度が高く、耐薬液浸透性に優れることから、前記処理槽のほか、薬液使用環境下で使用される製品においては極めて有利であって、半導体製造装置もしくは基板洗浄処理装置用の部材、またはそれらのハウジングとして用いることができる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例および比較例を挙げて、本発明を更に詳しく説明するが、本発明は、これらの例に限定されるものではない。
なお本発明の物性の測定方法、並びに実施例および比較例において用いた原料は下記のとおりである。
【0047】
A.物性の測定
(1)メルトフローレート(MFR):
ASTM D−1238−95に準拠した耐食性のシリンダー、ダイ、ピストンを備えた東洋精機製メルトインデクサーを使用し、5gの試料を372℃±1℃に保持された内径9.53mmのシリンダーに充填し5分間保持した後、5kgの荷重(ピストン及び重り)下に内径2.1mm、長さ8mmのオリフィスを通して押し出し、この時の押し出し速度(g/10分)をMFRとして求めた。
【0048】
(2)結晶化温度(Tc)及び結晶化熱(Hc):
示差走査熱量計を使用し、試料を200℃から380℃まで10℃/分で昇温し、380℃で1分間保持した後、200℃まで10℃/分で降温して得られる結晶化曲線における結晶化ピーク温度を結晶化温度とする。
上記結晶化曲線において結晶化ピーク前後で曲線がベースラインから離れる点とベースラインに戻る点とを直線で結んで定められるピーク面積から結晶化熱を求める。
【0049】
(3)融点
(MDFで追記)
(示差走査熱量計(Pyris1型DSC、パーキンエルマー社製)を用いた。試料粉末10mgを秤量して専用のアルミパンに入れ、専用のクリンパーによってクリンプした後、DSC本体に収納し、150℃から360℃まで10℃/分で昇温をする。この時得られる融解曲線から融解ピーク温度(Tm)を求めた。)
【0050】
(4)突き出し(離型性)
成形金型のエジェクタピンとエアーエジェクター(エアー圧0.35MPa以上)を併用して製品を突き出す(離型する)。その際に目視にて離型の可否を離型性として、下記の基準で判定する。
○:金型から正常な形状を維持して射出成形品が離型できる。
×:金型に射出成形品の一部が付着し、射出成形品が離型できないか、射出成形品の形状が変形もしくは破損した。
【0051】
(5)クラック性
偏光顕微鏡を用い、ゲートの中心から5cm以内で3箇所の射出成形品の表面(1cm×1cm)および断面を100倍と500倍で各々観察して、下記の基準で判定する。
○:3箇所の表面及び断面のいずれにもクラック(割れ、裂け目)が発生していない。
×:3箇所の表面及び断面のいずれかにクラックが発生している。
【0052】
(6)寸法安定性
(株)ミツトヨ製三次元測定器BRT−A710を使用して、天面を8点測定する、その最大、最小高さの差を比較し寸法安定性とする。寸法安定性を下記の基準で判定する。
○:最大と最小の高さの差が1mm以下である。
×:最大と最小の高さの差が1mmを超える。
【0053】
(7)真円度
射出成形法によって、外形サイズφ400〜600程度の椀型形状の成形品を成形して、直径の最大値と最小値を測定する。直径の最大値と最小値の差を真円度として下記の基準によって判定する。
○:直径の最大値と最小値の差が1mm以下である。
×:直径の最大値と最小値の差が1mmを超える。
【0054】
B.原料
本発明の実施例、及び比較例で用いた原料は下記の通りである。
(1)PFA1
95重量%のPFA粉末(平均粒径300μm、融点305℃、メルトフローレート70g/10min)、及び0.5重量%のPTFE粉末(平均粒径10μm、融点327℃、メルトフローレート0.15g/10分、結晶化熱50J/g)からなる組成物を、380℃に昇温加熱された押出成形機((株)プラ技研 径40mm二軸押出機)のホッパーに投入し、φ2mm×長さ2mmのペレット状に加工した。得られたペレットをPFA1(融点311℃、メルトフローレート68g/10分)とした。
(2)PFA2
テトラフルオロエチレン/フルオロアルコキシトリフルオロエチレン共重合体(PFA)。
(融点308℃、メルトフローレート61g/10分、φ2mm×長さ2mmのペレット状)
(3)PFA3
テトラフルオロエチレン/フルオロアルコキシトリフルオロエチレン共重合体 (PFA)
三井・デュポンフロロケミカル社製 PFA 420HPJ(融点307℃、メルトフローレート 26g/10分、φ2mm×長さ2mmのペレット状)
(4)PFA4
テトラフルオロエチレン/フルオロアルコキシトリフルオロエチレン共重合体(PFA)
三井・デュポンフロロケミカル社製 PFA 440HPJ(融点308℃、メルトフローレート14g/10分、φ2mm×長さ3mmのペレット状)
【0055】
C.成形方法
下記実施例及び比較例に示す樹脂を用いて、型締圧力850t及び1300tの射出成形機を用い、シリンダー温度375〜400℃、金型温度160〜220℃、射出速度15〜25mm/秒にて、下記表1に示す条件で射出成形し、図7に示すような外形サイズ
φ400〜600程度の椀型形状の射出成形品を得て、射出面積拡散比を算出した。
【0056】
【表1】

【0057】
(実施例1及び2、比較例1及び2)
表2に示す樹脂及び混合割合で、同表に記載された成形条件にて射出成形品を得た。
得られた射出成形品の射出成形性、突き出し性(離型性)、クラック性及び寸法安定性を測定した。結果を表2に示した。
【0058】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、射出成形によって、基板処理装置用として特に耐熱性・耐薬液性に優れ、且つ寸法精度にも優れた複雑な形状を有する大型射出成形品の提供を可能としたものである。
【0060】
本発明により提供される大型射出成形品は、複数種の処理液の供給を受けて処理を行う半導体処理装置における処理槽等のような従来PTFEの大型素材を切削して得られていたような製品を、射出成形によって得ることを可能としたもので、射出成形品を得るまでに掛かる工程を大幅に短縮し、廃棄物を大幅に低減させることが可能であるので、従来製品と比較して製品コストの大幅軽減化が可能となる。
【0061】
また、本発明の大型射出成形品の射出成形方法によって、低い射出圧力での成形が可能となったことにより、成形機サイズ及び金型サイズを小さくすることも可能となり、製品コストの更なる軽減化が可能となる。
【符号の説明】
【0062】
1.ノズル
a.ノズル先端開口部
2.ゲート
3.成形品の面
4.金型
5.キャビティ
6.スプルー
7.ランナー
8.成形品
9.スプルー
10.ゲート
11.ランナー
b.スプルー9の先端部分
c.ノズルの方向
A−B.投影面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱溶融性フッ素樹脂を含む組成物を射出成形して得られる射出方向の投影面積1100cm以上の射出成形品。
【請求項2】
射出方向と直交する方向の射出面積拡散比が3000以上である請求項1に記載の射出成形品。
【請求項3】
射出成形品が、円筒形、御碗形状、箱型形または籠状の物品である請求項1または2に記載の射出成形品。
【請求項4】
半導体製造装置または基板洗浄処理装置用の部材またはそれらのハウジングとして用いられる請求項1〜3のいずれかに記載の射出成形品。
【請求項5】
熱溶融性フッ素樹脂が、テトラフルオロエチレン/フルオロアルコキシトリフルオロエチレン共重合体、エチレン/クロロトリフルオロエチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライドから選ばれる少なくとも1種である請求項1〜4のいずれかに記載の射出成形品。
【請求項6】
熱溶融性フッ素樹脂を含む組成物のメルトフローレートが、60g/10分を超える組成物である請求項1〜5のいずれかに記載の射出成形品。
【請求項7】
熱溶融性フッ素樹脂を含む組成物が、熱溶融性フッ素樹脂としてメルトフローレートが60g/10分を超えるテトラフルオロエチレン/フルオロアルコキシトリフルオロエチレン共重合体を含み、さらに結晶化温度が305℃以上で、結晶化熱が50J/g以上であるポリテトラフルオロエチレンを組成物に対して0.05〜10重量%含む組成物である請求項1〜6のいずれかに記載の射出成形品。
【請求項8】
前記テトラフルオロエチレン/フルオロアルコキシトリフルオロエチレン共重合体が、メルトフローレートが60g/10分を超えるテトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体である請求項6または7の射出成形品。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2013−71341(P2013−71341A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−212653(P2011−212653)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000174851)三井・デュポンフロロケミカル株式会社 (59)
【出願人】(000110804)ニチアス株式会社 (432)
【Fターム(参考)】