説明

フッ素樹脂系成形物の表面改質方法

【課題】 処理の危険性、環境負荷が小さく、活性点の導入、親水膜の形成を、同一装置で行うことができて、処理の煩雑性という問題が生じないとともに、充分な易接着性を付与することができ、かつ、この易接着性を経時的にも安定して発揮させることのできる、フッ素樹脂系成形物の表面改質方法を提供することである。
【解決手段】 本発明にかかるフッ素樹脂系成形物の表面改質方法は、フッ素樹脂系成形物表面にプラズマ照射することにより、成形物表面に活性点を導入する工程(1)と、不飽和結合を有する水溶性モノマーを必須とする雰囲気ガス中でプラズマ照射することにより、前記成形物表面の活性点で前記モノマーをグラフト重合させる工程(2)と、グラフト重合後の成形物表面に堆積した、前記モノマー由来のホモポリマーを除去する工程(3)と、を含む、ことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不活性なフッ素樹脂系成形物の表面を改質し、他の素材などとの易接着性を付与するための表面改質方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などを主成分とするフッ素樹脂系成形物は、耐熱性、耐薬品性、耐候性、電気絶縁性などの優れた性質を有するため、種々の分野での応用が検討されている一方で、表面が不活性であり、接着剤、塗料、インクなどが付着し難く、他の素材との複合物を得ることが難しいという問題があった。
上記問題を解消するべく、従来、フッ素樹脂系成形物の表面を改質して、易接着性を付与する試みが行われてきた。
そのような技術の1つとして金属ナトリウムをアンモニア水に溶解した溶液中に、フッ素樹脂系成形物を浸漬して、その表面に親水基を導入することによって活性化する方法が知られている。しかし、この方法では、金属ナトリウムを使用することによって火災を誘発する危険性、表面活性化処理後の廃液による環境への悪影響の問題があった。
【0003】
金属ナトリウム処理に代えて、フッ素樹脂成形物に1.5〜25Paの圧力下でのプラズマ照射処理を施すことにより、表面改質する技術が知られている(特許文献1参照)。この技術では、表面改質を行う際に金属ナトリウムを用いることがないため、安全面、環境面における問題を生じさせることなく、優れた易接着性を付与することができる。しかし、このプラズマ照射処理方法では、活性化された部位が経時的に失活してしまい、次第に易接着性が低下してしまうという問題があった。
フッ素樹脂系成形品に、紫外線を照射してラジカルを生成させたのち、モノマーガス雰囲気下で放電重合することにより、二重結合を有するラジカル重合性モノマー残基のグラフト層を有するフッ素樹脂複合体を得る技術も知られている(特許文献2参照)。この技術では、前記モノマー残基のグラフト層からなる親水膜が成形物表面に形成されるため、単にプラズマ照射によって表面改質を行う上記方法と比較すると、経時的な失活の起きることがない。しかし、この技術では、紫外線照射とモノマーガス雰囲気下での放電重合とで異なる装置を用いる必要がある点で、処理が煩雑であるという問題があった。
【特許文献1】特開2003−261698号公報
【特許文献2】特開平10−226728号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、安全面、環境面における上記問題が生じることなく、活性点の導入、親水膜の形成を全て同一装置で行って、処理の煩雑性という問題を解消するとともに、十分な易接着性を付与することができ、かつ、この易接着性を経時的にも安定して発揮させることのできる、フッ素樹脂系成形物の表面改質方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記課題を解決するため、鋭意検討を行った。その結果、活性点の導入、親水膜の形成を同一装置で行って処理の煩雑性を解消するために、活性点の導入、親水膜の形成をプラズマ照射により行うことを考えた。しかし、この場合、成形物表面に充分な易接着性を付与することができなかった。そこで、さらなる検討を行った結果、プラズマ照射による活性点導入、親水膜形成を行っても、未だ充分な易接着性が発現しないのは、成形物表面に堆積したホモポリマーが原因となっていることが分かった。かかる知見から、成形物表面に堆積したホモポリマーを除去するようにすれば、充分な易接着性を発現し、該易接着性の経時安定性にも優れた成形物を得ることができることを見出し、それを確認して、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明にかかるフッ素樹脂系成形物の表面改質方法は、フッ素樹脂系成形物表面にプラズマ照射することにより、成形物表面に活性点を導入する工程(1)と、不飽和結合を有する水溶性モノマーを必須とする雰囲気ガス中でプラズマ照射することにより、前記成形物表面の活性点で前記モノマーをグラフト重合させる工程(2)と、グラフト重合後の成形物表面に堆積した、前記モノマー由来のホモポリマーを除去する工程(3)と、を含む、ことを特徴とする。
前記工程(1)のプラズマ照射は、ヘリウム、アルゴン、窒素、二酸化炭素、アンモニア、酸素および水素から選ばれる少なくとも1種の雰囲気ガス中で行う、ことが好ましい。
【0007】
不飽和結合を有する水溶性モノマーが、カルボキシル基、アミノ基、スルホン基、水酸基およびアミド基から選ばれる少なくとも1種の官能基を有するものである、ことが好ましい。
ホモポリマーの除去は、グラフト重合後の成形物表面を溶媒で洗浄することにより行う、ことが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明にかかるフッ素樹脂系成形物の表面改質方法によれば、処理の危険性、環境負荷が小さく、活性点の導入、親水膜の形成を、同一装置で行うことができるため、処理の煩雑性という問題がないという利点を有するとともに、十分な易接着性を付与することができ、かつ、この易接着性を経時的にも安定して発揮させることができる。
工程(1)のプラズマ照射は、ヘリウム、アルゴン、窒素、二酸化炭素、アンモニア、酸素および水素から選ばれる少なくとも1種の雰囲気ガス中で行うようにすれば、優れたエッチング効率が発揮される。
不飽和結合を有する水溶性モノマーが、カルボキシル基、アミノ基、スルホン基、水酸基およびアミド基から選ばれる少なくとも1種の官能基を有するものであれば、フッ素樹脂系成形物表面に高い親水性が付与され、易接着性がさらに向上するため好ましい。
【0009】
ホモポリマーの除去を、グラフト重合後の成形物表面を溶媒で洗浄することにより行うようにすれば、簡易に、安全に、かつ、低コストにホモポリマーの除去を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明にかかるフッ素樹脂系成形物の表面改質方法について詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらに拘束されることなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更実施し得る。
本発明が対象とするフッ素樹脂系成形物は、フッ素樹脂を主たる成分とする成形物であり、前記フッ素樹脂としては、特に限定されず、フッ素を含有するモノマーの単独重合体や、他のモノマーとの共重合体を用いれば良い。具体的には、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−ビニリデンフルオライド系(THV)、ポリビニリデンフルオライド系(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン系(PCTFE)、クロロトリフルオロエチレン−エチレン系(ECTFE)、テトラフルオロエチレン−エチレン系(ETFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン系(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル系(PFA)などが挙げられる。
【0011】
前記フッ素樹脂系成形物の成形形態としては、特に限定されず、例えば、シート状、フィルム状、板状などの成形物が挙げられる。
本発明にかかるフッ素樹脂系成形物の表面改質方法は、上記したようなフッ素樹脂系成形物の表面を改質する方法であって、活性点導入工程(工程(1))と、グラフト重合工程(工程(2))と、ホモポリマー除去工程(工程(3))を含む。それぞれの工程について、具体的に以下に説明する。
〔工程(1):活性点導入工程〕
工程(1)は、フッ素樹脂系成形物表面に活性点を導入する工程であって、これを達成するための具体的手段としてプラズマ照射(以下、工程(2)におけるプラズマ照射と区別するため、「第1のプラズマ照射」と称することとする)を採用する。この第1のプラズマ照射による活性点導入の際に、エッチングが行われ、表面に凹凸形成(粗面化)がなされるようにすれば、フッ素樹脂系成形物の機械的接着力が増すため、より好ましい。
【0012】
第1のプラズマ照射に用いる雰囲気ガスとしては、特に限定されないが、例えば、ヘリウム、アルゴン、窒素、二酸化炭素、アンモニア、酸素、水素、空気、水蒸気、四フッ化炭素などが挙げられる。エッチング効率の点から、ヘリウム、アルゴン、窒素、二酸化炭素、アンモニア、酸素および水素から選ばれる少なくとも1種の雰囲気ガスが好ましい。
第1のプラズマ照射時の圧力としては、特に限定するわけではないが、例えば、1〜100Paとすることが好ましい。1Pa未満では、減圧と大気開放の繰り返しに時間を要して、生産効率が悪くなるおそれがあり、100Paを超えると、活性点導入の観点から処理効率が低下するおそれがある。より好ましくは5〜70Pa、さらに好ましくは10〜50Paである。
【0013】
第1のプラズマ照射時の電源出力としては、特に限定するわけではないが、例えば、10〜1000Wとすることが好ましい。10W未満では、処理時間が長くなるおそれがあり、1000Wを超えると、処理基材表面の材料強度が劣化するおそれがある。より好ましくは10〜600Wであり、さらに好ましくは20〜400Wである。
第1のプラズマ照射の電源のプラズマ励起電界周波数は、特に限定されず、直流、交流、ラジオ波、マイクロ波などを利用することができる。中でも、13.56MHzのRF電源が好ましく利用できる。
第1のプラズマ照射の時間は、圧力、雰囲気ガス、温度によって様々であるが、上述した範囲の圧力、雰囲気ガス、温度を採用した場合、通常、5秒〜60分である。好ましくは10秒〜20分である。5秒未満では活性点導入を充分に達成できないおそれがあり、60分を超えると処理基材表面の材料強度が劣化するおそれがある。
【0014】
このような第1のプラズマ照射により、フッ素樹脂系成形物表面に活性点が形成される。前記活性点とは、不活性なフッ素樹脂系成形物表面に形成され、後述する工程(2)で使用する水溶性モノマーと反応性を示す部位である。
〔工程(2):グラフト重合工程〕
工程(2)は、前記工程(1)でフッ素樹脂系成形物表面に導入された活性点に、水溶性モノマーを必須とするモノマーをグラフト重合させる工程であって、これを達成するための具体的手段として、不飽和結合を有する水溶性モノマーを必須とする雰囲気ガス中でのプラズマ照射(以下、工程(1)におけるプラズマ照射と区別するため、「第2のプラズマ照射」と称することとする)を採用する。
【0015】
第2のプラズマ照射に用いる雰囲気ガスは、不飽和結合を有する水溶性モノマーを必須とする。このモノマーがフッ素樹脂系成形物表面の活性点と化学結合するとともに重合することにより、前記成形物表面で前記モノマーがグラフト重合する。これにより、前記グラフト重合物からなる親水膜が成形物表面に形成され、フッ素樹脂系成形物表面が親水化されて、易接着性が発現する。グラフト重合の速度・効率を向上させるために、アルゴンやヘリウムなどの希ガスを雰囲気ガスとして混合しても良い。また、水蒸気などを雰囲気ガスとして混在させれば、親水性をより向上させることができるため、好ましい。
前記水溶性モノマーとしては、易接着性の発現のため、親水性の官能基を有しているものであれば、特に限定されないが、例えば、カルボキシル基、アミノ基、スルホン基、水酸基およびアミド基から選ばれる少なくとも1種の官能基を有するものであることが好ましい。具体的には、2−プロピン−1−オール、2−プロペン−1−オール、2−メチル−3−ブチン−2−オール、アクリル酸、メタクリル酸、アリルアルコール、メチルメタクリレート、アリルアミン、アクリルアミドなどを例示することができる。また、モノマー中の不飽和結合は、二重結合であるよりも三重結合である方が、比較的緩和な条件で重合し、架橋構造の構築も行えることから好ましい。三重結合を有するモノマーとしては、特に限定されないが、例えば、2−プロピン−1−オールなどを例示することができる。モノマーはこれらの1種または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0016】
第2のプラズマ照射時の圧力としては、特に限定するわけではないが、例えば、1〜100Paとすることが好ましい。1Pa未満では、親水膜形成に時間が掛かり過ぎるおそれがあり、100Paを超えると、親水膜の形成効率が低くなり過ぎるおそれがある。より好ましくは10〜75Pa、さらに好ましくは25〜75Pa、特に好ましくは35〜50Paである。35〜50Paでは、後述するホモポリマー除去工程によって、接着強度の顕著な向上が期待できる。
第2のプラズマ照射時の重合モノマー温度としては、特に限定するわけではないが、例えば、0〜100℃とすることが好ましい。0℃未満であっても100℃を超えてもモノマーが液体であるために、気化速度が安定せず、一定の器内圧力となるまでに時間を要するおそれがある。より好ましくは20〜40℃である。20〜40℃であれば、安定したガス流量を得ることができる。
【0017】
第2のプラズマ照射時の電源出力としては、特に限定するわけではないが、例えば、10〜300Wとすることが好ましい。10W未満では安定したプラズマが発生しないおそれがあり、300Wを超えると生産コストが高くなり好ましくない。より好ましくは15〜200Wであり、さらに好ましくは15〜100Wである。
第2のプラズマ照射の電源のプラズマ励起電界周波数は、特に限定されず、直流、交流、ラジオ波、マイクロ波などを利用することができる。中でも、13.56MHzのRF電源が好ましく利用できる。
第2のプラズマ照射の時間は、圧力、雰囲気ガス、温度によって様々であるが、上述した範囲の圧力、雰囲気ガス、温度を採用した場合、通常、10秒〜20分である。好ましくは1〜20分である。10秒未満では成形物表面に充分な量のグラフト重合物を形成させることができないおそれがあり、20分を超えると後述する工程(3)におけるホモポリマーの除去において時間を要し、生産効率が悪くなるおそれがある。
【0018】
なお、この工程(2)で使用されるモノマーガスは、例えば、ガス排気の際、処理容器とガス排気ポンプの間にトラップを組み込んだり、より簡便には、メタノールとドライアイスを利用するなどしてガスを冷却して液化させたりすることにより、大気中に放出されることを防止することができる。
〔工程(3):ホモポリマー除去工程〕
工程(3)は、グラフト重合後の成形物表面に堆積した、前記モノマー由来のホモポリマーを除去する工程である。すなわち、工程(2)で使用したモノマーは、フッ素樹脂系成形物の活性点と化学結合し、かつ、重合されるのであるが、このようなグラフト重合以外に、自己重合してホモポリマーを生成するものも存在する。このホモポリマーは、グラフト重合後の成形物表面に堆積するが、成形物の表面活性化、すなわち易接着性に寄与しないばかりか、却って、表面活性化を妨げる。
【0019】
この工程(3)では、ホモポリマーを除去するが、成形物表面に堆積したホモポリマー全てを完全することは必要でなく、ホモポリマーによる表面活性化の低下を抑制する目的に適した程度の除去で良い。具体的には、下記に示すような条件でホモポリマー除去を行えば良い。
ホモポリマーを除去するための方法としては、特に限定されないが、グラフト重合後の成形物表面を溶媒で洗浄することにより行うことが、簡易かつ高効率であるため好ましい。
溶媒で洗浄する方法の場合において、特に限定するわけではないが、例えば、溶媒中にグラフト重合後の成形物を浸漬する、という簡易な方法が採用できる。さらに、加温、超音波処理などを施せば、洗浄効率が向上する。特に限定するわけではないが、例えば、洗浄温度25〜100℃、洗浄時間1分以上の条件であれば、効率良く洗浄することができる。
【0020】
前記溶媒としては、特に限定されないが、例えば、水やアルコール類などの極性溶媒が好ましく使用できる。後に溶媒を除去することを考慮すれば、乾燥によって容易に除去できる低沸点溶媒が好ましい。
上記のような工程(1)、(2)、(3)を経たフッ素樹脂系成形物は、表面が活性化され、易接着性が付与されている。そのため、接着剤、塗料、インクなどと容易に接着し、特に接着剤を介して種々の素材との複合物を得ることができる。
前記接着剤としては、特に限定されず、被着体に適当なものを適宜選択すれば良い。例えば、耐熱性を重視する場合には、エポキシ系やポリイミド系のものが好ましい。
【実施例】
【0021】
以下、実施例および比較例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明する。
実施例における測定方法を以下に示す。
<接着強度>
表面処理されたフッ素樹脂系成形物について、他の素材との接着強度を以下のようにして測定した。
表面改質後のフッ素樹脂系成形物の表面に、エポキシ系接着剤(商品名「ボンドEセット」、コニシ社製)を塗付し、SUS304と貼り合わせ、100℃で30分間処理することにより接着剤を加熱硬化させた。これを、25℃の温度で90度剥離強さ試験に供し、接着強度を測定した。
【0022】
〔実施例1〕
フッ素樹脂系成形物として、縦25mm×横60mm×厚み1mmのシート状に成形したポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を準備した。この成形物表面に、下記条件で、図1に示す構成によって、第1および第2のプラズマ照射を行った。
<第1のプラズマ照射条件>
圧力:27Pa、雰囲気ガス:酸素、プラズマ発生用RF電源:ノダRFテクノロジーズ社製、電源出力:300W、照射時間:10分
<第2のプラズマ照射条件>
圧力:40Pa、雰囲気ガス:2−プロピン−1−オール、プラズマ発生用RF電源:サムコ社製、電源出力:20W、照射時間:10秒
次に、第2のプラズマ照射によるグラフト重合後の成形物を、25℃の水に20分間浸漬することにより洗浄し、成形物表面に堆積したホモポリマーを除去した。
【0023】
水洗後20分風乾し、本発明の表面改質方法が適用されたフッ素樹脂系成形物を得た。
〔実施例2〕
第2のプラズマ照射条件のうち、照射時間を1分に変更したこと以外は実施例1と同様にして、本発明の表面改質方法が適用されたフッ素樹脂系成形物を得た。
〔実施例3〕
第2のプラズマ照射条件のうち、照射時間を10分に変更したこと以外は実施例1と同様にして、本発明の表面改質方法が適用されたフッ素樹脂系成形物を得た。
〔実施例4〕
第2のプラズマ照射条件のうち、照射時間を20分に変更したこと以外は実施例1と同様にして、本発明の表面改質方法が適用されたフッ素樹脂系成形物を得た。
【0024】
〔比較例1〜4〕
グラフト重合後の成形物を、25℃の水に20分間浸漬することにより洗浄し、成形物表面に堆積したホモポリマーを除去する工程を行わなかった点以外は、実施例1〜4と同様の表面改質を行い、比較例1〜4のフッ素樹脂系成形物を得た。
〔比較例5〕
フッ素樹脂系成形物表面に、実施例1と同様の条件で第1のプラズマ照射のみを行ったものを比較例5とした。
〔比較例6〕
フッ素樹脂系成形物表面に、実施例4と同様の条件で第2のプラズマ照射のみを行ったものを比較例6とした。
【0025】
〔評価〕
実施例1〜4および比較例1〜6にかかるフッ素樹脂系成形物の接着強度を上述した方法で測定し、その結果を、第1のプラズマ照射の有無、第2のプラズマ照射の照射時間、ホモポリマー除去工程の有無とともに表1に示した。
【0026】
【表1】

【0027】
表1に示す結果から以下のことが分かる。
(1)実施例1〜4と比較例1〜4を比較すれば明らかなように、ホモポリマーの除去を行うか否かにより、接着強度に差がある。特に第2のプラズマ照射の照射時間が1分〜20分の場合、すなわち、実施例2〜4と比較例2〜4との比較では、その差が顕著である。また、活性点の導入のみを行った比較例5、二重結合を有する水溶性モノマーガス中でのフッ素樹脂系成形物表面へのプラズマ照射のみを行った比較例6は、実施例1〜4と比べて接着強度が小さく、実用性に欠けるものである。
(2)上記の結果を総合すれば、本発明にかかるフッ素樹脂系成形物の表面改質方法のように、プラズマ照射を利用した活性点の導入およびグラフト重合と、ホモポリマーの除去という一連の工程を全て経たフッ素樹脂系成形物だけが優れた接着強度を示すということが分かり、各工程を組み合わせたことによる顕著な相乗効果が認められる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明にかかるフッ素樹脂系成形物の表面改質方法は、例えば、接着剤、塗料、インクなどと接着し難いフッ素樹脂系成形物の表面を改質し、易接着性を付与することにより、他素材との複合化も容易なフッ素樹脂系成形物を得るための方法として好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】実施例におけるプラズマ照射を行うための構成を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素樹脂系成形物表面にプラズマ照射することにより、成形物表面に活性点を導入する工程(1)と、不飽和結合を有する水溶性モノマーを必須とする雰囲気ガス中でプラズマ照射することにより、前記成形物表面の活性点で前記モノマーをグラフト重合させる工程(2)と、グラフト重合後の成形物表面に堆積した、前記モノマー由来のホモポリマーを除去する工程(3)と、を含む、フッ素樹脂系成形物の表面改質方法。
【請求項2】
工程(1)のプラズマ照射は、ヘリウム、アルゴン、窒素、二酸化炭素、アンモニア、酸素および水素から選ばれる少なくとも1種の雰囲気ガス中で行う、請求項1に記載のフッ素樹脂系成形物の表面改質方法。
【請求項3】
不飽和結合を有する水溶性モノマーが、カルボキシル基、アミノ基、スルホン基、水酸基およびアミド基から選ばれる少なくとも1種の官能基を有するものである、請求項1または2に記載のフッ素樹脂系成形物の表面改質方法。
【請求項4】
ホモポリマーの除去は、グラフト重合後の成形物表面を溶媒で洗浄することにより行う、請求項1から3までのいずれかに記載のフッ素樹脂系成形物の表面改質方法。


【図1】
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【公開番号】特開2009−13310(P2009−13310A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−177603(P2007−177603)
【出願日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【出願人】(000229564)日本バルカー工業株式会社 (145)
【出願人】(000205627)大阪府 (238)
【Fターム(参考)】