説明

フッ素樹脂系繊維構造物およびその製造方法

【課題】繊維強度を低下させることなく、酸性ガスやダイオキシンなどの有害物質を分解する機能や悪臭を消去する機能に優れたフッ素樹脂系繊維構造物およびその製造方法を提供する。
【解決手段】フッ素樹脂のディスパージョンと触媒粒子、さらにマトリックス液とを混合して分散する工程と、該混合液を紡出して繊維化する工程と、該繊維を焼成して炭素化しつつ延伸する工程とを通すか、または、フッ素樹脂のパウダーと触媒粒子、ワックス状潤滑剤とを混合して分散する工程と、該混合体をペースト押し出しして棒状に成型加工して延伸する工程とを通すかのいずれかによって、フッ素樹脂系繊維を製造した後、該フッ素樹脂系繊維で繊維構造物を構成した後、該繊維構造物に物理的衝撃を与えて、該フッ素樹脂系繊維をフィブリル化し、かつ、このフィブリルで該繊維構造物の表面を被覆することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強度を低下させることなく、酸性ガスやダイオキシンなどの有害物質を分解する機能や悪臭を消去する機能に優れたフッ素樹脂系繊維構造物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、酸性ガスやダイオキシンなどの有害物質を分解する方法として、消石灰や苛性ソーダ、アンモニア等による無害化や、酸性ガス分解触媒による無害化、あるいはダイオキシン分解触媒による無害化が知られている。消石灰や苛性ソーダ、アンモニアの場合には、ごみ焼却場で発生する酸性ガスに直接噴霧して無害化がなされ、後段にある集塵機で中和された粉じんを捕集するものであった(例えば、特許文献1参照)。また酸性ガス分解触媒の場合には、触媒であるチタニアを成形してハニカム状や格子状にしたものに、アンモニアを含んだ酸性ガスを通過させて触媒の作用で無害化する方法が知られている(例えば特許文献2参照)。また、ダイオキシン分解触媒の場合には、化学合成繊維をフェルト状に織り上げたバグフィルタ本体に該触媒をスラリー状として担持させる方法が知られている(例えば特許文献3参照)。
【0003】
しかしながら従来の方法、すなわち消石灰や苛性ソーダ、アンモニア等の噴霧による無害化では、薬剤の投入費用が相当量必要であり、かつ、薬剤投入後に無害化されて発生する残渣の処理費用も必要であることから、より少ない費用で無害化できる方法が求められている。あるいはまた、分解触媒をスラリー状としてバグフィルタ本体に担持させる方法においては、触媒がスラリーを構成する物質、例えば熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂そのものを分解してしまうために、触媒効果を充分高めるために多量の触媒を担持させることは実質的に不可能なものであった。
【0004】
さらにまた、酸性ガス分解触媒やダイオキシン分解触媒による無害化では、触媒そのものを簡便にフィルターとして加工することが要望されており、フィルターを形成する有機繊維にあらかじめ触媒を担持させる技術が提案されている(例えば特許文献4参照)。この特許文献4には、二酸化チタンを主成分とする光触媒をフッ素繊維の単繊維内に含有した光触媒担持体が提案されているが、フッ素繊維の単繊維内に含まれる光触媒は単繊維の全体にわたって分布しているため、繊維表面の光触媒しか対象となる化学物質と接触することができず、必然的に十分な触媒効率を発現するものではなかった。あるいはまた、繊維内部に含まれる光触媒には触媒作用を励起させる紫外光が到達せず、必然的に十分な触媒効率を発現するものではなかった。例えば実施例で得られているポリテトラフルオロエチレン繊維が1000dtex(235μmの繊維径、比重2.30で試算)と太く、一方で光触媒の粒子が100nm以下ということからもわかるように、極めて太い繊維の表面に存在する一部の光触媒粒子だけが触媒作用に寄与し、繊維の内部に含有された触媒粒子の触媒作用を十分に発揮する光触媒担持体を提供するものではなかった。あるいはまた、触媒効果を十分に発現させるために、より多くの触媒粒子を混合してフッ素繊維の単繊維内に含有させる方法があるが、紡出して繊維化する工程で工程通過性が大きく低下する問題や、かろうじて繊維化したとしても、繊維構造物に加工する工程、すなわち織工程や編み工程でガイドロールとの擦り切れが発生し、工程通過性が極めて低下することから更なる改善が求められているものであった。
【0005】
あるいはまた、窒素酸化物や硫黄酸化物を集塵するフィルターそのものに、上述の脱硫や脱硝の機能を持たせるという試みがなされている(例えば特許文献5)。この特許文献5には、延伸膨張ポリテトラフルオロエチレンポリマーの結節とフィブリルの構造の中に触媒粒子を付着させて組み合わせ、まとまった触媒フィルター材料を形成した多数の繊維と、そのまとまった触媒フィルター材料の少なくとも一方の面に取り付けられた微細多孔質膜のシート、とを備えた触媒フィルターが提案されている。この特許文献5には、触媒充填物をPTFEの水性分散液中に混合し、ミネラルスピリット類またはグリコール類のような通常のペースト押出し潤滑剤でなめらかにし、ペースト押出しを行い、圧延、延伸した後、回転しているピンホイールで加工してトウヤーンを製造し、切断してステープルファイバーとすること、さらに、そのステープルファイバーをニードルパンチによってフェルトを製造することが記載されている。しかしながらこの技術においては、回転しているピンホイールで加工して細い繊維からなる“クモの巣状ウェブ”が形成され、そのトウヤーンをニードルパンチによってフェルト化するために、カード装置によってトウヤーンを均一な不織布状にする必要がある。該カード装置による加工を実施するためには、一般的には1dtex(繊維径7.4μm、比重2.30で試算、フッ素繊維換算)未満の繊維は細すぎるために、加工が困難である。また、回転しているピンホイールで加工したり、延伸して得られる繊維では、繊維が充分に細くなっておらず、繊維の表面積は充分なものとはできなかった。したがって、触媒をポリテトラフルオロエチレン繊維の表面に十分露出させて触媒機能を効果的に発現させることができず、不満足な触媒フィルター材料しか得られなかったものであった。
【特許文献1】特開平1−135519号公報
【特許文献2】特開平6−334号公報
【特許文献3】特開2001−104728号公報
【特許文献4】特開平10−57816号公報
【特許文献5】特開2003−190721号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術における背景に鑑み、繊維強度を低下させることなく、酸性ガスやダイオキシンなどの有害物質を分解する機能や悪臭を消去する機能に優れたフッ素樹脂系繊維およびその製造方法を提供せんとするものである。
【0007】
すなわち、本発明によれば、触媒の分解効率と繊維強力が共に優れた、つまり、優れた触媒分解効果を持つとともに、繊維構造物を製造する工程が極めて安定に実施可能な繊維強力の高いフッ素樹脂系繊維を提供することができるものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、かかる課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。すなわち、本発明のフッ素樹脂系繊維構造物は、少なくとも一部がフィブリル化した構造を有する、触媒粒子を含有するフッ素樹脂系繊維からなる繊維構造物であって、該繊維構造物の表面が、該フィブリルによって被覆されている形態を有しており、かつ、該フィブリルは、該触媒粒子の少なくとも一部が露出していることを特徴とするものである。
【0009】
また、かかるフッ素樹脂系繊維の製造方法は、フッ素樹脂のディスパージョンと触媒粒子、さらにマトリックス液とを混合して分散する工程と、該混合液を紡出して繊維化する工程と、該繊維を焼成して炭素化しつつ延伸する工程とを通すか、または、フッ素樹脂のパウダーと触媒粒子、ワックス状潤滑剤とを混合して分散する工程と、該混合体を押し出し成型加工して延伸する工程とを通すかのいずれかによって、フッ素樹脂系繊維を製造した後、該フッ素樹脂系繊維で繊維構造物を構成した後、該繊維構造物に物理的衝撃を与えて、該フッ素樹脂系繊維をフィブリル化し、かつ、このフィブリルで該繊維構造物の表面を被覆することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、優れた触媒分解効果を持つとともに、繊維強力の高いフッ素樹脂系繊維を得ることが出来る。また、触媒粒子を含むフッ素樹脂系繊維は物理的衝撃を与えることで、触媒粒子部分から選択的に分割が進むので、触媒粒子が極めて効率的に繊維表面に露出し、高い触媒分解効果を発現することができる。さらにまた、繊維構造物を製造する工程が極めて安定に実施可能のため、安定した高い触媒効果を有するフッ素樹脂系繊維構造物を提供するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、前記課題、つまり繊維強度を低下させることなく、酸性ガスやダイオキシンなどの有害物質を分解する機能や悪臭を消去する機能に優れたフッ素樹脂系繊維について、鋭意検討し、触媒粒子を含有するフッ素樹脂系繊維からなる繊維構造物に物理的衝撃を与えて、該繊維構造物を構成する繊維をフィブリル化し、かつ、このフィブリルで、該繊維構造物の表面を被覆してみたところ、かかる課題を一挙に解決することを究明したものである。
【0012】
すなわち、本発明のフッ素樹脂系繊維は、まず、触媒粒子を含有するフッ素樹脂系繊維をフィブリル化しないで、丸断面又は長方形断面の繊維のままで布帛に成形加工して後、それから高圧水流でフィブリル化し、繊維内部の触媒粒子を表面に露出させるものである。
【0013】
つまり、かかる手段を採用したことにより、触媒粒子を含有するフッ素樹脂系繊維のみを選択的にフィブリル化することができたものである。すなわち、たとえば、触媒粒子を含有しない通常のフッ素樹脂系繊維と混繊、混紡またはその他の混用した形態にしたとしても、物理的衝撃の大きさを調整することにより、触媒粒子を含有するフッ素樹脂系繊維のみを選択的にフィブリル化することができることを究明して、初めて本発明に到達したものである。
【0014】
いずれにしても、物理的衝撃は、丸断面又は長方形断面の繊維のままで布帛に成形加工して後に施すので、布帛加工における加工性が、従来の繊維と同等に安定に実施可能で、かつ、その後のフィブリル加工によって、触媒粒子を含有するフッ素樹脂系繊維のみフィブリル化し、その繊維内部に埋没していた触媒を表面に露出させて、触媒効率を最大限に引き出すことができたものである。
【0015】
本発明のフッ素樹脂系繊維構造物は、触媒粒子を含有するフッ素樹脂系繊維の少なくとも一部がフィブリル化した構造を有するフッ素樹脂系繊維で構成されているものである。しかも、該フィブリルで、該フッ素樹脂系繊維構造物の表面が被覆されている構造を有することが重要である。つまり、フッ素繊維をフィブリル化したことで極めて多くの表面積とすることができるため、該フィブリルの表面は、触媒粒子の少なくとも一部が露出しているものであるが、この構造が本発明の効果に極めて重要な機能を発揮するものである。すなわち、かかるフィブリルで該フッ素樹脂系繊維構造物の表面を被覆した構造とすることにより、該繊維構造物の表面層に、大量の触媒粒子を存在させることができ、その結果、酸性ガスやダイオキシンなどの有害物質や悪臭を放つ物質に接触する頻度が極めて高く、それだけかかる物質を分解することができる優れた機能を発揮せしめ得たものである。
【0016】
ここでいうフィブリル化した構造とは、触媒粒子を含有するフッ素樹脂系繊維が繊維の長さ方向に沿って複数本に分割している状態で、かつ、分割した繊維の太さに分布があることが好ましい。
【0017】
また本発明の繊維構造物は、丸断面または長方形断面の繊維が4000〜6000本に分割してフィブリル化したフッ素樹脂系繊維が、繊維構造物の表面に存在し、かつ、丸断面または長方形断面の繊維が2〜50本に分割してフィブリル化したフッ素樹脂系繊維が、繊維構造物の内部に存在するものが好ましい。なぜなら繊維構造物の表面には4000〜6000本に分割してフィブリル化したフッ素樹脂系繊維が存在するので、触媒粒子の表面への露出が特に効果的に発現し、触媒効果が高く得られるので好ましい。さらにまた、繊維構造物の内部には2〜50本に分割してフィブリル化したフッ素樹脂系繊維が存在するので、触媒粒子の露出こそ少ないものの、繊維構造物の強度を高く維持できることから、より好適である。
【0018】
分割した繊維の分割本数は、電子顕微鏡写真(倍率1000倍)で撮影し、丸断面又は長方形断面のフィブリル化する前の繊維の断面積と、分割した繊維の繊維径から求めた断面積との比から算出する。
【0019】
本発明のフッ素樹脂系繊維構造物は、フッ素樹脂系繊維のフィブリルで被覆されていることが必要である。また、かかるフィブリルは、好ましくは互いに絡合されているのがよい。かかる絡合によって繊維強力の高い繊維が得られるのに加え、フィブリルで繊維構造物を被覆することで、該繊維構造物表面の露出触媒粒子を飛躍的に増大させることができ、フッ素樹脂系繊維表面に付着した有害ガス成分と極めて効率良く接触し、無害化反応が極めて迅速に進行させることができる。
【0020】
本発明のフッ素樹脂系繊維構造物を構成するフィブリルは、その表面に触媒粒子の少なくとも一部が露出していることが必要である。該触媒粒子は有害ガス成分と接触しないかぎり触媒作用を発現しないため、該フッ素樹脂系繊維をフィブリル化させて、繊維内部に含まれていた触媒粒子の少なくとも一部を繊維表面に露出させることが必要である。
【0021】
ここでいう触媒粒子とは、金属酸化物が好ましい。かかる触媒粒子としては、ゼオライトや白金、長石等も用いることもできるが、金属酸化物が、有害ガス成分を無害化する触媒作用に優れることから好適に用いられる。かかる金属酸化物としては、バナジウムやアルミニウム、タングステン、マンガン、亜鉛、コバルト、モリブデン等の金属酸化物が好ましく用いられるが、触媒粒子の均一な分散性や高い触媒作用の点で、二酸化チタンがより好ましく使用される。
【0022】
かかる二酸化チタンとしては、アナターゼ型のものが触媒活性の効率から好適であり、中でも平均粒径が10nm〜100nmの範囲内にあるものが好ましい。平均粒径が10nmより小さいものを用いると、フッ素樹脂系繊維をフィブリル化した時の繊維表面からの脱落が多くなり、触媒粒子を担持できなくなるので好ましくない。また、二酸化チタンの平均粒径が100nmよりも大きいものを用いると、フッ素樹脂系繊維の原料であるフッ素樹脂と混合する際に均一な分散性が得られないこと、また、フッ素樹脂を紡出して繊維化する際に紡出性が悪くなるので好ましくない。より好適には二酸化チタンの平均粒径は50nm〜80nmであるものが、フィブリル化した時にも繊維表面に充分残り、かつ、二酸化チタン粒子の分散性も優れることから、特に好ましく用いられる。
【0023】
また、触媒粒子は、金属酸化物と吸着粒子とを含むものも好ましい。なぜなら吸着粒子が存在すると、この吸着粒子に有害ガス成分を高効率で吸着・捉えることができるので、金属酸化物による有害ガスの無害化反応が、更に確実に、効率よく進行することから好ましい。
【0024】
かかる吸着粒子としては、粒子の表面に微細な孔を有するものであれば特に制限無く用いることができるが、多くの表面積と安定した吸着性能という点から、活性炭などの炭素で構成された吸着粒子を好適に用いることができる。
【0025】
本発明のフッ素樹脂系繊維の製造方法は、フッ素樹脂のディスパージョンと触媒粒子、さらにマトリックス液とを混合して分散する工程と、該混合液を紡出して繊維化する工程と、該繊維を焼成して、該繊維を炭素化しつつ延伸する工程とでフッ素樹脂系繊維を製造した後、該フッ素樹脂系繊維で繊維構造物を構成した後、該繊維構造物に物理的衝撃を与えて、該フッ素樹脂系繊維をフィブリル化し、かつ、このフィブリルで該繊維構造物の表面を被覆するものである。いわゆる湿式紡糸法により製糸するプロセスを採用するものである。
【0026】
かかるフッ素樹脂のディスパージョンは適当な分散剤を用いてイオン交換水に分散されたポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEという)系樹脂であれば問題なく用いることができる。PTFE系樹脂の含有量は50重量%〜90重量%であるディスパージョンが好適に用いられる。かかるPTFE系樹脂の含有量が50重量%よりも少ないと、焼成して炭素化しつつ延伸する工程で十分な繊維強力が得られないため好ましくない。また、PTFE系樹脂の含有量が90重量%を越えるとディスパージョンの粘度が高くなり、紡出することが困難になるので好ましくない。
【0027】
また、触媒粒子は、平均粒径が10nm〜100nmの範囲内にある二酸化チタン等の粉末をイオン交換水に分散させたもの(触媒分散液)であれば問題なく用いることができる。触媒粒子の含有量は30重量%〜80重量%であるものが好ましい。触媒粒子の含有量が30重量%未満の場合には、フッ素樹脂系繊維に含まれる触媒粒子の含有量を触媒効果が充分発現するものとするために、非常に多くの触媒分散液を必要とするので、紡出性が悪くなるので好ましくない。また、触媒粒子の含有量が80重量%を越える場合には、触媒粒子の分散性が不均一化し、紡出性を悪化させるので好ましくない。
【0028】
前記マトリックス液は、セルロースを主成分としてイオン交換水と混合したものであれば問題なく用いることができる。
【0029】
フッ素樹脂のディスパージョンと触媒粒子を含んだ触媒分散液、さらに該マトリックス液とを混合して分散する工程では、攪拌機能を備えた混合器であれば問題なく用いることができる。
【0030】
次に、フッ素樹脂のディスパージョンと触媒粒子、マトリックス液の混合液を紡出して繊維化する工程では、直径が0.06mm〜0.35mmの間にある紡出孔を有する口金から紡出する。紡出孔の直径は所望とするフッ素樹脂系繊維の太さによって適宜選択して使用する。
【0031】
次に得られた繊維を焼成して該繊維を炭素化しつつ延伸する工程では、得られた繊維を360℃〜410℃の範囲内にある加熱ロールに接触して該繊維を炭素化し、二対のロール間で延伸する。炭素化した繊維は微細な孔を有するので表面積が大きいことからガス成分の吸着性能向上に寄与する。また、延伸することでフッ素樹脂系繊維の強力が向上し、実用可能な繊維強力をすることができる。
【0032】
次に得られたフッ素樹脂系繊維で繊維構造物を構成するが、かかる繊維構造物としては、編織物および不織布から選ばれた少なくとも1種の形態に構成し、この繊維構造物の状態にしてから、物理的衝撃を与えることで、被覆も絡合も好適に施すことができる。
【0033】
本発明では、かかる繊維構造物に物理的衝撃を与えて、構成するフッ素樹脂系繊維をフィブリル化して、このフィブリルで繊維構造物を被覆する。かかる繊維構造物に物理的衝撃を与えるという特定なプロセスを採用することで、効率的に繊維構造物の表面に選択的に、該フィブリルからなる絡合や被覆を同時に形成することができたものである。
【0034】
ここで「物理的衝撃を与えてフッ素樹脂系繊維をフィブリル化する」とは、前記したように、触媒粒子を含有するフッ素樹脂系繊維のみを選択的にフィブリル化することを意味するものであるが、必要により、その他の混用しているフッ素樹脂系繊維を多少フィブリル化してもさしつかえない。
【0035】
ここでいう物理的衝撃とは、パンチング加工処理や表面を研磨剤で擦るバフィング処理等を意味するが、本発明の前記効果の上から、好ましくは高圧水流処理が、効果の確実性に優れており、さらには繊維強度や絡合性、被覆性などの観点から好ましい。特に高圧水流処理においては、高圧水流が噴出する孔のピッチが0.5〜0.8mmの範囲内にあるものが好適に使用され、該ピッチ間隔を採用することで、フィブリル化した部分とフィブリル化していない部分とが分布を持って存在するフッ素樹脂系繊維構造物を得ることが出来る。
【0036】
かかる繊維構造物を構成するフッ素樹脂系繊維のフィブリル化を所望の程度とするために、高圧水流処理は9MPa〜26MPaの圧力で実施するのが、触媒粒子を含有するフッ素樹脂系繊維のみを選択的にフィブリル化する上から好ましい。高圧水流処理が9MPa未満の場合にはフッ素樹脂系繊維のフィブリル化が十分に進まず、フッ素樹脂系繊維内部の触媒粒子の少なくとも一部が露出しないため好ましくない。また、高圧水流処理が26MPaを越える場合にはフッ素樹脂系繊維のほとんどの部分がフィブリル化してしまうため、繊維強力、布帛強力が低下するので好ましくない。
【0037】
また、本発明のフッ素樹脂系繊維の別の製造方法は、フッ素樹脂のパウダーと触媒粒子、ワックス状潤滑剤とを混合して分散する工程と、該混合体を押し出し成型加工して延伸し繊維状に加工する工程とで、フッ素樹脂系繊維を製造した後、該フッ素樹脂系繊維で繊維構造物を構成した後、該繊維構造物に物理的衝撃を与えて、該フッ素樹脂系繊維をフィブリル化し、かつ、このフィブリルで該繊維構造物の表面を被覆するものである。
【0038】
ここでいうフッ素樹脂のパウダーは精製されたファインパウダーなど市販されているものが問題なく使用することができ、また、触媒粒子は平均粒径が10nm〜100nmの範囲内にある二酸化チタン等の粉末をイオン交換水に分散させたもの(触媒分散液)であれば問題なく用いることができる。ワックス状潤滑剤としてはミネラルスピリットやグリコール類が問題なく使用することができる。
【0039】
かかるフッ素樹脂のパウダーと触媒粒子、ワックス状潤滑剤とを混合して分散する工程では、攪拌機能を備えた混合器であれば問題なく用いることができる。
【0040】
また、フッ素樹脂のパウダーと触媒粒子、ワックス状潤滑剤に加えて炭素を混合して原料とすることも好ましい。なぜならフッ素繊維の原料中に含まれる炭素は、物理的衝撃を与えて繊維をフィブリル化する工程で、フィブリル化した繊維の表面に多く存在し、対象となるガスを高効率で吸着し、触媒による無害化がさらに確実に、効率良く分解することができるためである。用いる炭素は市販の活性炭であれば問題なく用いることができる。
【0041】
次に、フッ素樹脂のパウダーと触媒粒子、ワックス状潤滑剤の混合体を押し出し成型加工して延伸し繊維状に加工して、フッ素樹脂系繊維を製造する工程では、押し出し成型加工した後に360℃〜410℃の温度で延伸し、2倍〜30倍に延伸することで繊維強力を発現させることができる。かかる製造方法で得られるフッ素樹脂系繊維はいわゆる湿式紡糸法により得られるフッ素樹脂系繊維に比較して、繊維の強力が優れること、及び、物理的衝撃により分割しやすい傾向にあることから、より好適に採用できる。
【0042】
次に得られたフッ素樹脂系繊維で繊維構造物を構成するが、かかる繊維構造物としては、編織物および不織布から選ばれた少なくとも1種の形態に構成し、この繊維構造物の状態にしてから、物理的衝撃を与えることで、被覆も絡合も好適に施すことができる。
【0043】
本発明では、かかる繊維構造物に物理的衝撃を与えて、構成するフッ素樹脂系繊維をフィブリル化して、このフィブリルで繊維構造物を被覆する。かかる繊維構造物に物理的衝撃を与えるという特定なプロセスを採用することで、効率的に繊維構造物の表面に選択的に、該フィブリルからなる絡合や被覆を同時に形成することができたものである。
【0044】
ここでいう高圧水流処理は、前記湿式紡糸法により製糸して繊維構造物を構成した場合に、採用したと同様の条件を採用することができる。すなわち、フッ素樹脂系繊維のフィブリル化を所望の程度とするために、高圧水流処理は9MPa〜26MPaの圧力で実施するのが好ましい。高圧水流処理が9MPa未満の場合にはフッ素樹脂系繊維のフィブリル化が十分に進まず、フッ素樹脂系繊維内部の触媒粒子の少なくとも一部が露出しないため好ましくない。また、高圧水流処理が26MPaを越える場合にはフッ素樹脂系繊維のほとんどの部分がフィブリル化してしまうため、繊維強力が低下するので好ましくない。
【0045】
本発明のフッ素樹脂系繊維はフィルター用途に好適に用いることができる。なぜなら本発明のフッ素樹脂系繊維は少なくとも一部がフィブリル化した構造をしており、フィブリル化したフッ素樹脂系繊維がフィブリル化していないフッ素樹脂系繊維に絡合して被覆しており、さらに該フィブリル化したフッ素樹脂系繊維の表面に触媒粒子の少なくとも一部が露出していることから、対象ガスや物質との接触面積が著しく大きくなっていること、フィブリル化した繊維がフィブリル化していない繊維に絡合して被覆していることで、繊維の脱落がほとんどないこと、対象ガスの無害化を促進する触媒が繊維の表面に露出しているので、対象ガスとの接触が極めて高効率で進むこと、等の理由から、フィルター用途に好適に用いることができる。
【0046】
フィルター用途に用いる時には、本発明のフッ素樹脂系繊維を織物や編み物としても用いることができるし、不織布の状態にして使用することもできる。あるいはまた、樹脂製の容器に本発明のフッ素樹脂系繊維を充填して使用することもできる。
【0047】
図1は、少なくとも一部がフィブリル化した構造を有する、触媒粒子を含有する2本のフッ素樹脂系繊維の一例を示す模式図である。フッ素樹脂系繊維の長さ方向に沿って繊維の分割本数に分布があり、多くフィブリル化した部分、例えば図中2の部分では触媒粒子の露出が多くなるので、触媒分解効果を高くできるものであり、かつ、多くフィブリル化した部分、例えば図中1については、フィブリル化していないフッ素樹脂系繊維に絡合し、繊維構造物としてみたときの強度低下を抑制できることを模式的に示したものである。
【実施例】
【0048】
以下、実施例により本発明のフッ素樹脂系繊維構造物についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0049】
[測定方法]
(1)破裂強力
JIS L 1913(1998)に記載の方法により測定した。
【0050】
(2)触媒活性性能
光触媒製品協議会の定める光触媒性能評価試験法の、ガスバッグA法に準拠して、アセトアルデヒドの分解実験を評価した。評価として、紫外線照射開始後2時間でのアセトアルデヒド除去率が70%以上であれば○(マル)、70%未満であれば×(バツ)とした。
【0051】
(3)触媒粒子の露出状態
電子顕微鏡を用いて倍率3000倍で繊維表面を撮影し、触媒粒子の露出状態を確認した。画面範囲内(30μm×40μm)で繊維に10ヶ所以上の触媒粒子が観察される場合を○(マル)、10ヶ所未満の触媒粒子が観察される場合には△(サンカク)とした。触媒を含まない繊維については、無しと記載した。
【0052】
[実施例1]
分散剤としてアルキルアリルポリエーテルアルコールを用いて純水に分散させたPTFE系樹脂を60%含有するディスパージョン(A)と、粒径が60nmの二酸化チタン粒子40重量%を水60重量%に分散した二酸化チタンのスラリー(B)と、マトリックス液としてビスコース(C)とを、A:B:C=60:35:5の割合で混合し、24時間攪拌して原液を得た。この原液を口金から湿式で紡出し、凝固繊維を得た。この凝固繊維を380℃に加熱したロールに接触させて8倍に延伸することで、総繊度470dtex、フィラメント数60本のフッ素樹脂系繊維を得た。得られたフッ素樹脂系繊維をカットして繊維長が70mmの短繊維とし、通常のカード装置に通してウェブ状に成形した。しかる後に18MPaの高圧水流処理を0.5m/分の速度で5回処理することで、少なくとも一部がフィブリル化した構造を有し、繊維構造物の表面が該フィブリルによって被覆されている構造を有する、触媒粒子を含有するフッ素樹脂系繊維からなる繊維構造物を得た。得られたフッ素樹脂系繊維からなる繊維構造物における触媒粒子の露出状態を確認したところ、フィブリル化したフッ素樹脂系繊維の表面に触媒粒子が多数露出していたものであった。
【0053】
得られた繊維構造物の性能を表1に示す。
【0054】
[実施例2]
実施例1に記載の方法で、高圧水流処理の圧力を25MPaに変更した他は、実施例1と同様の方法によって、少なくとも一部がフィブリル化した構造を有し、繊維構造物の表面が該フィブリルによって被覆されている構造を有する、触媒粒子を含有するフッ素樹脂系繊維からなる繊維構造物を得た。得られたフッ素樹脂系繊維からなる繊維構造物における触媒粒子の露出状態を確認したところ、フィブリル化した部分に触媒粒子が実施例1よりも更に多数露出していたものであった。
【0055】
得られた繊維構造物の性能を表1に示す。
【0056】
[比較例1]
実施例1で得られたフッ素樹脂系繊維をカットして繊維長が70mmの短繊維とし、さらに市販の低融点バインダー繊維(東レ製T9611−4.4T×51mm)を重量比で20%混合し、通常のカード装置に通してウェブ状に成形した。しかる後に130℃のカレンダー加工を実施して低融点バインダー繊維を融着結合して一体化し、フッ素樹脂系繊維からなる繊維構造物を得た。
【0057】
得られた繊維構造物の性能を表1に示す。繊維構造物は、触媒粒子を含有するフッ素樹脂系繊維からなる繊維構造物ではあるものの、フッ素樹脂系繊維がフィブリル化した構造を有さず、フッ素樹脂系繊維表面の触媒粒子はフッ素樹脂で被覆されているため、触媒活性性能を有さないものであった。また、低融点バインダーによる融着で一体化しているのみであり、フィブリル化した繊維同士の絡合が存在しないことから、破裂強力の低い繊維構造物であった。
【0058】
[比較例2]
分散剤としてアルキルアリルポリエーテルアルコールを用いて純水に分散させたPTFE系樹脂を60%含有するディスパージョン(A)と、マトリックス液としてビスコース(B)とを、A:B=85:15の割合で混合し、24時間攪拌して原液を得た。この原液を口金から湿式で紡出し、凝固繊維を得た。この凝固繊維を380℃に加熱したロールに接触させて9倍に延伸することで、総繊度440dtex、フィラメント数60本のフッ素樹脂系繊維を得た。
【0059】
得られたフッ素樹脂系繊維をカットして繊維長が70mmの短繊維とし、通常のカード装置に通してウェブ状に成形した。しかる後にニードルパンチ処理により絡合一体化し、触媒粒子を含有しないフッ素樹脂系繊維からなる繊維構造物を得た。
【0060】
得られた繊維構造物の性能を表1に示す。繊維構造物は、フィブリル化したフッ素樹脂系繊維を有さず、かつ、触媒粒子を含有しないフッ素樹脂系繊維からなる繊維構造物であったため、破裂強力も低く、触媒活性性能も有さないものであった。
【0061】
[比較例3]
比較例1で得られたフッ素樹脂系繊維をカットして繊維長が70mmの短繊維とし、通常のカード装置に通してウェブ状に成形した。しかる後に6MPaの高圧水流処理を0.5m/分の速度で3回処理し、フッ素樹脂系繊維からなる繊維構造物を得た。
【0062】
得られたフッ素樹脂系繊維からなる繊維構造物の性能を表1に示す。繊維構造物は、触媒粒子を含有しないフッ素樹脂系繊維からなる繊維構造物であり、フィブリル化した構造も有さないものであった。従って、触媒活性性能が無く、破裂強力も低いものであった。
【0063】
【表1】

【0064】
表1の結果から明らかなように、実施例のフッ素樹脂系繊維からなる繊維構造物は少なくとも一部がフィブリル化した構造を有し、繊維構造物の表面が該フィブリルによって被覆されている構造を有するので、比較例の繊維構造物に比べて高い破裂強力を有していた。また、触媒活性性能においても、実施例の繊維構造物のみが性能が○(マル)であった。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、優れた触媒分解効果を持つとともに、繊維強力の高いフッ素樹脂系繊維構造物を得ることができることから、NOxやSOx等の酸性ガスを集塵するフィルター、自動車から排出される浮遊状粒子物質のフィルター等に好適に用いることができる。その応用範囲は、これらに限られるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】少なくとも一部がフィブリル化した構造を有する、触媒粒子を含有するフッ素樹脂系繊維からなる繊維構造物の一例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0067】
1 フィブリル
2 フィブリルから露出した触媒粒子
3 未フィブリル化の丸断面フッ素樹脂系繊維部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一部がフィブリル化した構造を有する、触媒粒子を含有するフッ素樹脂系繊維からなる繊維構造物であって、該繊維構造物の表面が、該フィブリルによって被覆されている形態を有しており、かつ、該フィブリルは、該触媒粒子の少なくとも一部が露出していることを特徴とするフッ素樹脂系繊維構造物。
【請求項2】
該繊維構造物が被覆されている形態が、該フィブリル同士が絡合して被覆されている形態である請求項1に記載のフッ素樹脂系繊維構造物。
【請求項3】
該触媒粒子が、金属酸化物を含むことを特徴とする、請求項1に記載のフッ素樹脂系繊維構造物。
【請求項4】
該触媒粒子が、金属酸化物と吸着粒子とを含むものであることを特徴とする、請求項1に記載のフッ素樹脂系繊維構造物。
【請求項5】
該金属酸化物が、二酸化チタンであることを特徴とする、請求項3または4に記載のフッ素樹脂系繊維構造物。
【請求項6】
該二酸化チタンの平均粒径が10nm〜100nmの範囲内にあることを特徴とする、請求項5に記載のフッ素樹脂系繊維構造物。
【請求項7】
該吸着粒子が、炭素で構成されているものであることを特徴とする、請求項4に記載のフッ素樹脂系繊維構造物。
【請求項8】
該構造物が、編織物および不織布から選ばれた少なくとも1種である請求項1〜7のいずれかに記載のフッ素樹脂系繊維構造物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載のフッ素樹脂系繊維構造物により構成されていることを特徴とするフィルター。
【請求項10】
フッ素樹脂のディスパージョンと触媒粒子、さらにマトリックス液とを混合して分散する工程と、該混合液を紡出して繊維化する工程と、該繊維を焼成して炭素化しつつ延伸する工程とで、フッ素樹脂系繊維を製造した後、該フッ素樹脂系繊維で繊維構造物を構成した後、該繊維構造物に物理的衝撃を与えて、該フッ素樹脂系繊維をフィブリル化し、かつ、このフィブリルで該繊維構造物の表面を被覆することを特徴とするフッ素樹脂系繊維構造物の製造方法。
【請求項11】
フッ素樹脂のパウダーと触媒粒子、ワックス状潤滑剤とを混合して分散する工程と、該混合体を押し出し成型加工して延伸する工程とで、フッ素樹脂系繊維を製造した後、該フッ素樹脂系繊維で繊維構造物を構成した後、該繊維構造物に物理的衝撃を与えて、該フッ素樹脂系繊維をフィブリル化し、かつ、このフィブリルで該繊維構造物の表面を被覆することを特徴とするフッ素樹脂系繊維構造物の製造方法。
【請求項12】
該物理的衝撃が、高圧水流処理である請求項10または11に記載のフッ素樹脂系繊維構造物の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−177344(P2007−177344A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−374076(P2005−374076)
【出願日】平成17年12月27日(2005.12.27)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】