説明

フッ素樹脂系芯鞘複合モノフィラメントおよび工業用織物

【課題】フッ素樹脂製モノフィラメントが有する優れた耐薬品性、防汚性などの特徴を損なうこと無く、従来のフッ素樹脂製モノフィラメントに比べて低比重化を図ることができ、これを構成素材とする工業用織物を使用する設備機器の負荷軽減を図り、製造原単位の改善を可能としたフッ素樹脂系芯鞘複合モノフィラメントならびにこれを用いた工業用織物を提供する。
【解決手段】芯部と鞘部を有する芯鞘複合モノフィラメントであって、芯部がエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(A)5〜30重量%およびポリオレフィン樹脂(B)95〜70重量%で構成された熱可塑性樹脂組成物(X)からなり、鞘部がエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(A)単独からなると共に、前記芯部と鞘部の芯鞘複合比率が、芯部50〜95重量%および鞘部50〜5重量%であり、かつ比重が1.45以下であることを特徴とするフッ素樹脂系芯鞘複合モノフィラメント。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素樹脂製モノフィラメントが有する優れた耐薬品性、防汚性などの特徴を損なうこと無く、従来のフッ素樹脂製モノフィラメントに比べて低比重化を図ることができ、これを構成素材とする工業用織物を使用する設備機器の負荷軽減を図り、製造原単位の改善を可能としたフッ素樹脂系芯鞘複合モノフィラメントならびにこれを用いた工業用織物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリアミド樹脂やポリエステル樹脂などの熱可塑性樹脂からなるモノフィラメントは、耐熱性、強度、剛性などの優れた特性を有することから、各種の産業資材用途に好ましく使用されてきた。
【0003】
また、これら産業資材用途の中でも工業用織物用途に用いられるモノフィラメントは、上述した耐熱性や強度のほか、耐薬品性、耐溶剤性や優れた防汚性などの性能が求められるようになって来ており、これら特性を備えるフッ素樹脂からなるモノフィラメンを利用した工業用織物の実用化が求められている。
【0004】
工業用織物用途に利用可能なフッ素樹脂製モノフィラメントの構成素材としては、例えば、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体樹脂(以降、ETFE樹脂という)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体樹脂(以降、PFA樹脂という)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体樹脂(以降、FEP樹脂という)およびポリフッ化ビニリデン樹脂(以降、PVdF樹脂という)などが挙げられる。
【0005】
しかしながら、フッ素樹脂製モノフィラメントからなる工業用織物は、ポリアミド樹脂やポリエステル樹脂からなるモノフィラメント製の工業用織物と比較して、フッ素樹脂が高比重であるため、工業用織物の重量が重くなり過ぎることから、織機など機械設備への負担が大きくなり、電力に代表される製造原単位の高騰を招くといった問題があった。
【0006】
これら問題の解決手段としては、従来から様々な改良が試みられており、例えば中空構造を有するフッ素繊維の製造方法(例えば、特許文献1参照)が知られているが、この場合には、重量こそ軽量化されるものの、繊維の強力低下が大きく、さらには中空構造を有しているために、使用時に繊維が潰れやすいなどの問題があった。
【0007】
また、防汚性工業用織物において、芯線と該芯線に巻き付けられた捲回部材から構成され、前記捲回部材の表面にフッ素樹脂による樹脂被膜を形成させた防汚性工業用織物(例えば、特許文献2参照)が知られているが、この場合には、工業用織物に用いるモノフィラメントを含む工業用織物用繊維の比重を小さくすることは可能であるものの、芯線に捲回部材を巻き付けたのちに、捲回部材表面に樹脂被膜を形成する製造工程を経る必要があるため、生産効率が悪く高コストとなるばかりか、織物を製織する際にフッ素樹脂被膜が芯線から剥離するという問題があることから、実用性に乏しい技術であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−47859号公報
【特許文献2】特開2008−133570号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上のような状況を鑑み、本発明は、フッ素樹脂製モノフィラメントが有する優れた耐薬品性、防汚性などの特徴を損なうこと無く、従来のフッ素樹脂製モノフィラメントに比べて低比重化を図ることができ、これを構成素材とする工業用織物を使用する設備機器の負荷軽減を図り、製造原単位の改善を可能としたフッ素樹脂系芯鞘複合モノフィラメントならびにこれを用いた工業用織物の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため本発明によれば、芯部と鞘部を有する芯鞘複合モノフィラメントであって、芯部がエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(A)5〜30重量%およびポリオレフィン樹脂(B)95〜70重量%で構成された熱可塑性樹脂組成物(X)からなり、鞘部がエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(A)単独からなると共に、前記芯部と鞘部の芯鞘複合比率が、芯部50〜95重量%および鞘部50〜5重量%であり、かつ比重が1.45以下であることを特徴とするフッ素樹脂系芯鞘複合モノフィラメントが提供される。
【0011】
なお、本発明のフッ素樹脂系芯鞘複合モノフィラメントにおいては、前記ポリオレフィン樹脂(B)がポリプロピレン樹脂であることが好ましい条件として挙げられ、この条件を満足することによって、より一層の優れた効果の発揮が期待できる。
【0012】
また、本発明の工業用織物は、前記フッ素樹脂系芯鞘複合モノフィラメントを経糸および/または緯糸の少なくとも一部に使用してなることを特徴とし、耐薬品性や防汚性に優れることから、特に工業用搬送用ベルト、不織布工程用ネットコンベア、サニタリー製品乾燥用ベルト布、乾燥機および熱処機内搬送用ベルトやフィルターなどの工業用織物原糸として極めて好適に利用され得るものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、以下に説明する通り、フッ素樹脂製モノフィラメントが有する優れた耐薬品性、防汚性などの特徴を損なうこと無く、従来のフッ素樹脂製モノフィラメントに比べて低比重化を図ることができ、これを構成素材とする工業用織物を使用する設備機器の負荷軽減を図り、製造原単位の改善を可能としたフッ素樹脂系芯鞘複合モノフィラメントならびにこれを用いた工業用織物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0015】
本発明のフッ素樹脂系芯鞘複合モノフィラメント(以下、芯鞘複合モノフィラメントと呼ぶこともある。)は、芯部と鞘部を有する芯鞘複合モノフィラメントであって、芯部がエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(A)5〜30重量%およびポリオレフィン樹脂(B)95〜70重量%で構成された熱可塑性樹脂組成物(X)からなり、鞘部がエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(A)単独からなると共に、前記芯部と鞘部の芯鞘複合比率が、芯部50〜95重量%および鞘部50〜5重量%であり、かつ比重が1.45以下であることを特徴とする。
【0016】
本発明の芯鞘複合モノフィラメントでは、芯部の一部および鞘部を構成するフッ素樹脂がETFE樹脂であることを必須とする。
【0017】
すなわち、フッ素樹脂としてPFA樹脂やFEP樹脂を使用した芯鞘複合モノフィラメントの場合は、これらフッ素樹脂の比重が2.1を超える高比重であるため、芯鞘複合モノフィラメントの比重が高くなり、芯鞘複合モノフィラメントを構成素材とする織物の軽量化が困難になるばかりか、PFA樹脂やFEP樹脂を用いた芯鞘複合モノフィラメントでは、モノフィラメントの強度が著しく低いものとなるため、工業用織物に用いるモノフィラメントとしては不十分なものとなるなどの極めて好ましくない結果を招くことに繋がっていた。
【0018】
一方、ETFE樹脂と同等の比重を有するフッ素樹脂としては、PVdF樹脂が知られているが、これを芯鞘複合モノフィラメントの芯部の一部および鞘部へ用いた場合には、PVdF樹脂自体の耐薬品性が劣るため、化学薬品等による洗浄が必要とされる用途にこの工業用織物を用いた場合に、織物の耐久性低下を招き長期的な使用が望めないという不具合があった。そればかりか、PVdF樹脂は、樹脂自体の融点が低く耐熱性に劣り、またフッ素樹脂の中では防汚性が低く、十分な防汚性能が得られないという好ましくない問題もあった。
【0019】
これに対し、本発明で使用するETFE樹脂は、その比重が1.7〜1.8程度であり、PFA樹脂やFEP樹脂に比べて低比重であるばかりか、PVdF樹脂よりも耐薬品性、耐熱性および防汚性に優れるポリマである。
【0020】
本発明の芯鞘複合モノフィラメントは、芯部を構成する熱可塑性樹脂組成物(X)を、ETFE樹脂(A)5〜30重量%とポリオレフィン樹脂(B)95〜70重量%からなる熱可塑性樹脂組成物で構成することによって、一層の軽量化を図ったことを特徴とするものである。
【0021】
また、本発明の芯鞘複合モノフィラメントは、鞘部がETFE樹脂単体から構成されているため、優れた耐薬品性、防汚性などの特徴を損なうこと保持していることをも特徴としている。
【0022】
なお、ETFE樹脂(A)8〜20重量%とポリオレフィン樹脂(B)92〜80重量%の熱可塑性樹脂組成物で芯部を構成することがより好ましい。
【0023】
ここで、芯部を構成する熱可塑性樹脂組成物(X)を構成するETFE樹脂(A)の含有量が5重量%未満の場合には、芯部と鞘部の接着性が弱まって芯鞘剥離を来たしやすくなり、逆にETFE樹脂(A)の含有量が30重量%より多いと、芯部を構成する樹脂組成物の比重が高くなり、芯鞘複合モノフィラメントの比重が大きくなるため好ましくない。
【0024】
熱可塑性樹脂組成物(X)を構成するポリオレフィン樹脂(B)としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの汎用樹脂を使用することができるが、芯鞘複合モノフィラメントの低比重化およびモノフィラメントの安定生産の観点からは、ポリプロピレン(以下、PPという)の適用が最も好ましい。
【0025】
また、本発明の芯複合モノフィラメントは、目的とする特性を阻害しない範囲であれば、例えば顔料、染料、結晶化抑制剤、相溶化剤、耐熱剤、および可逆剤などの添加剤を芯部および/または鞘部を構成する樹脂成分中に含有させることができる。
【0026】
本発明の芯鞘複合モノフィラメントは、芯部と鞘部の芯鞘複合比率が、芯部50〜95重量%および鞘部50〜5重量%であることが望ましく、さらには芯部70〜95重量%および鞘部30〜5重量%であることが好ましい。
【0027】
芯部の比率が50重量%未満では、モノフィラメントの比重が高くなり過ぎ工業用織物の軽量化が困難となり、また芯部の比率が95重量%を越えると、芯部と鞘部が剥離しやすくなるという問題が発生するため好ましくない。
【0028】
本発明の芯鞘複合モノフィラメントは、得られた芯鞘複合モノフィラメントの比重が1.45以下であることが望ましく、さらには1.30以下が好ましい。
【0029】
すなわち、本発明の芯鞘複合モノフィラメントの比重が1.45以下である場合には、芯鞘複合モノフィラメントが低比重となり、これを用いた工業用織物の重量を大幅に軽量化できることから、例えば該工業用織物を製紙用の抄紙機に用いた場合、抄紙機に掛ける負荷を軽減することが可能となり製造原単位の改善が期待できるという好ましい結果に繋がる。
【0030】
本発明の芯鞘複合ポリエステルモノフィラメントは、次のような方法によって得ることができる。
【0031】
例えば、メルトプレッシャー式またはエクストルダー式複合紡糸機などを用いて芯部および鞘部の各ポリマを計量供給し、複合紡糸用口金から各成分を溶融押出紡糸し、定法に従って、冷却、延伸および熱セットすることにより、本発明の芯鞘複合モノフィラメントを効率的に得ることができる。
【0032】
また、本発明の芯鞘複合ポリエステルモノフィラメントの断面形状はいかなる形状をも取り得るものであり、例えば丸、楕円、三角、T、Y、H、+、5葉,6葉,7葉,8葉などの多葉形状、正方形、長方形、菱形、繭型、馬蹄型などを挙げることができ、また、これらの形状を一部変更したものであってもよい。また、工業用織物への使用に際してはこれら各種断面形状のモノフィラメントを適宜組み合わせて用いることができる。さらに、耐摩耗性向上の観点からは、丸形断面が最も摩耗しにくく好ましい。
【0033】
本発明の芯鞘複合モノフィラメントの直径は、用途によって適宜選択できるが、通常は、0.01〜3mmの範囲が最も好適に利用できる。
【0034】
本発明の工業用織物とは、本発明の芯鞘複合モノフィラメントを経糸および/または緯糸の少なくとも一部に使用したものを意味し、例えば工業用搬送用ベルト、不織布工程用ネットコンベア、サニタリー製品乾燥用ベルト布、乾燥機および熱処機内搬送用ベルトやフィルターなどが挙げられ、これらの工業用織物用原糸として極めて好適に利用され得るものである。
【0035】
これらの中でも特に、活性汚泥やビール粕などの脱水や醤油絞りなどのベルトプレス工程で使用されるフィルター、セメントスラリー用フィルターおよびサニタリー製品乾燥用ベルト布などは、搬送物や搬送物中の不純物などによって引き起こされる、織物の目詰まりや汚物の付着といった問題が著しく抑制されるとともに、工業用織物自体の重量が大幅に軽量化できることから、該工業用織物を設置する機械設備の負荷の軽減を可能とし、極めて好ましい効果の発現が期待できる。
【実施例】
【0036】
以下、本発明の芯鞘複合モノフィラメントの実施例に関しさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0037】
また、上記および下記に記載の本発明の芯鞘複合モノフィラメントの物性、比重測定、芯鞘剥離性、紡糸操業性などは、下記の方法により測定した値である。
【0038】
[比重]
JIS Z8807の定義に準じて行った。すなわち、小さく切った試料片を液体中に沈め、液体の比重を変化させ、試料がちょうど液体中に浮遊するように調整し、この液体の比重を測定することにより試料の比重を求めた。
【0039】
[芯鞘剥離性]
JIS L−1095−9.10.2B法に準じて、固定されたφ1.0mmの摩擦子(硬質鋼線(SWP−A))の上に接触させた芯鞘複合モノフィラメントを、前記摩擦子の左右各55度角度で斜め下に設けたフリーローラー2個(ローラー間距離100mm)の下に掛け、別の1個のフリーローラーの上を介して、芯鞘複合モノフィラメントの一端に0.22cN/dtexの荷重をかけてセットし、その後、速度120回往復/分、往復ストローク長25mmの条件で芯鞘複合モノフィラメントを摩擦子に500回接触させて摩耗させた。
【0040】
次いで、芯鞘複合モノフィラメントと摩擦子との接触面を繊維軸方向に対し垂直方向に切り出し、KEYENCE製デジタルマイクロスコープVHX−100Fにて断面部を観察し、以下のように評価した。
○・・・芯部と鞘部に剥離がみられず、正常な芯鞘複合構造を維持していた。
×・・・鞘部に摩耗や剥離が見られ、芯部がモノフィラメント表面に露出していた。または、芯部の露出はないものの、芯部と鞘部に剥離が見られ芯鞘構造が維持できていなかった。
【0041】
[紡糸操業性]
24時間の連続紡糸を行ない、以下の基準で判定した。なお、コブ糸の回数は、コブ糸回数/紡糸押出し総ポリマ重量(トン)にて算出した。
○:原料の噛込み不良による紡糸不能状態や紡糸中の糸切れが全くない、また、モノフィラメント平均直径に対して+20%を超えるような、繊維軸方向の極短い長さの直径増大変動異常部(以下、コブ糸という)の発生が20回/トン未満であった。
×:原料の噛込み不良による紡糸不能状態になる、または紡糸中に糸切れが1回以上発生する、あるいはコブ糸が20回/トン以上発生するなど、連続操業に重篤な問題が発生した。
【0042】
[実施例1]
芯部に、ETFE樹脂(A)として旭硝子(株)製フルオンETFEC88AXP(比重:1.74)を10重量%、ポリオレフィン樹脂(B)としてチッソ(株)製PP樹脂A5014(比重:0.9)を90重量%混合した熱可塑性組成物(X)を、鞘部にETFE樹脂(A)として芯部と同一のETFE樹脂単独を用いた。芯部および鞘部に分割設置したエクストルダー型紡糸機にそれぞれ供給し、芯部および鞘部とも300℃の温度で溶融混練し、芯部と鞘部の芯鞘複合比率が90:10となるようにポリマ押出し量を調整し、孔径3.0mmの芯鞘複合口金から溶融ポリマを押出した後、ただちに50℃の温水浴中で冷却固化させ芯鞘複合構造を有する未延伸糸を得た。
【0043】
上記未延伸糸を、引き続き、90℃の温水で3.8倍に一段延伸し、次いで、160℃の熱風雰囲気下で1.18倍に二段延伸し、その後200℃の熱風雰囲気下でリラックス率0.9倍の熱セット処理を行ない、直径0.5mmの芯鞘複合モノフィラメントを得た。得られた芯鞘複合モノフィラメントの評価結果を表1に示す。
【0044】
[実施例2〜4]
芯部の熱可塑性樹脂組成物(X)を構成するETFE樹脂(A)とポリオレフィン樹脂(B)のPP樹脂との混合比率を表1に示したように変更した以外は、実施例1と同一の製造工程および製造条件にて、各々概略直径0.5mmの芯鞘複合モノフィラメントを得た。得られた芯鞘複合モノフィラメントの評価結果を表1に示す。
【0045】
[実施例5〜8]
芯部と鞘部の芯鞘複合比率を表1に示したように変更した以外は、実施例1と同一の製造工程および製造条件にて、各々概略直径0.5mmの芯鞘複合モノフィラメントを得た。得られた芯鞘複合モノフィラメントの評価結果を表1に示す。
【0046】
[比較例1]
芯部の熱可塑性樹脂組成物(X)をPP樹脂単独に変更した以外は、実施例1と同一の製造工程および製造条件にて、概略直径0.5mmの芯鞘複合モノフィラメントを得た。得られた芯鞘複合モノフィラメントの評価結果を表1に示す。
【0047】
[比較例2〜3]
芯部の熱可塑性樹脂組成物(X)を構成するETFE樹脂(A)とポリオレフィン樹脂(B)のPP樹脂との混合比率を表1に示したように変更した以外は、実施例1と同一の製造工程および製造条件にて、各々概略直径0.5mmの芯鞘複合モノフィラメントを得た。得られた芯鞘複合モノフィラメントの評価結果を表1に示す。
【0048】
[比較例4〜5]
芯部と鞘部の芯鞘複合比率を表1に示したように変更した以外は、実施例1と同一の製造工程および製造条件にて、各々概略直径0.5mmの芯鞘複合モノフィラメントを得た。得られた芯鞘複合モノフィラメントの評価結果を表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
表1の結果から明らかなように、本発明の芯鞘複合モノフィラメント(実施例1〜8)は、いずれも低比重且つ芯部と鞘部が剥離することのない、各種工業用織物用途に好適に利用可能な芯鞘複合モノフィラメントであることがわかる。
【0051】
一方、本発明の規定を満たさない芯鞘複合モノフィラメント(比較例1〜5)では、紡糸操業性や芯鞘剥離性に問題があり、また得られた芯鞘複合モノフィラメントの比重が高すぎるため、工業用織物を構成する芯鞘複合モノフィラメントとしては、いずれも好ましくないものであることが明らかである。
【0052】
すなわち、芯部の熱可塑性樹脂組成物(X)をPP樹脂単独で構成した比較例1においては、芯部と鞘部の接着性が弱くなってしまい、芯鞘剥離性が極端に悪化する結果を招いた。
【0053】
次に、芯部の熱可塑性樹脂組成物(X)を構成するETFE樹脂(A)とポリオレフィン樹脂(B)の混合比率を本発明の規定外とした比較例2では、口金から押出された溶融ポリマが太細状態の不安定な状況となり、紡糸中に糸切れが多発し製糸不能の状況となった。同様に、芯部の熱可塑性樹脂組成物(X)とポリオレフィン樹脂(B)の混合比率が本発明の規定外である比較例3では、ETFEの混合比率が高すぎ、芯鞘複合モノフィラメントの比重が大きくなってしまった。
【0054】
また、芯鞘複合比率が本発明の規定外である比較例4においては、芯鞘複合比率のバランスが悪く、芯鞘複合モノフィラメントの鞘部が薄くなりすぎたため、芯鞘剥離性が極端に劣る好ましくない結果を招いた。
【0055】
同様に、芯鞘複合比率が本発明の規定外である比較例5においては、鞘部を構成するETFE樹脂の比率が高すぎ、所望とする低比重の芯鞘複合モノフィラメントが得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0056】
以上説明したように、本発明の芯鞘複合モノフィラメントは、従来のフッ素樹脂からなるモノフィラメントに比べて、低比重化を図ることで、フッ素樹脂からなるモノフィラメントを構成素材とする工業用織物の軽量化を実現でき、これら工業用織物を使用する設備機器の負荷軽減を図り製造原単位の改善を可能とするなど、産業上の利用価値が極めて高いものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯部と鞘部を有する芯鞘複合モノフィラメントであって、芯部がエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(A)5〜30重量%およびポリオレフィン樹脂(B)95〜70重量%で構成された熱可塑性樹脂組成物(X)からなり、鞘部がエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(A)単独からなると共に、前記芯部と鞘部の芯鞘複合比率が、芯部50〜95重量%および鞘部50〜5重量%であり、かつ比重が1.45以下であることを特徴とするフッ素樹脂系芯鞘複合モノフィラメント。
【請求項2】
前記ポリオレフィン樹脂(B)がポリプロピレン樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の芯鞘複合モノフィラメント。
【請求項3】
請求項1または2に記載の芯鞘複合モノフィラメントを緯糸または経糸の少なくとも一部に使用してなることを特徴とする工業用織物。

【公開番号】特開2012−219400(P2012−219400A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−85462(P2011−85462)
【出願日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(000219288)東レ・モノフィラメント株式会社 (239)
【Fターム(参考)】