説明

フッ素樹脂系被覆定着ロールの接着耐久性を向上する方法

【課題】 フッ素系コーティング剤又はフッ素樹脂系チューブとシリコーンゴム又は金属芯金とシリコーンゴムを接着させ、長期使用しても剥離を起こしにくいフッ素樹脂系被覆ロール用液状付加硬化型シリコーンゴム組成物の硬化物からなるシリコーンゴム層を有する定着ロールを提供する。
【解決手段】 芯金と、その外周に設けられたシリコーンゴム層と、そのシリコーンゴム層の上に形成されたフッ素樹脂系層を有する定着ロールにおいて、上記シリコーンゴム層を下記(a)〜(f)成分を含有してなる液状付加硬化型シリコーンゴム組成物の硬化物にて形成することを特徴とするフッ素樹脂系被覆定着ロールの接着耐久性を向上する方法:
(a)分子鎖途中の珪素原子に結合したアルケニル基を分子中に少なくとも2個有するオルガノポリシロキサン 100重量部、
(b)珪素原子に直結した水素原子を一分子中に少なくとも2個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン
(a)成分中の珪素原子に結合したアルケニル基に対する(b)成分中の珪素原子結合水素原子のモル比が0.4〜5.0となる量、
(c)有効量の白金系触媒、
(d)乾式シリカ 0.1〜10重量部、
(e)一分子中に少なくとも3個の珪素原子に結合したアルケニル基を含有する環状ジオルガノポリシロキサン 0.05〜5重量部、及び
(f)該(e)成分以外の反応制御剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複写機、レーザービームプリンター、FAXなどに使用するフッ素樹脂系被覆定着ロール用液状付加硬化型シリコーンゴム組成物及び該組成物の硬化物からなるシリコーンゴム層を有するフッ素樹脂被覆定着ロールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複写機、レーザービームプリンター、FAXなどに使用する定着ロールにはシリコーンゴムが使用されている。これはシリコーンゴムのトナーに対する離型性、耐熱性、圧縮永久歪などが他のゴム材料に比較して優れているからである。しかしながら、最近この種の機器の高速化に伴い、トナー離型性を向上させるためにシリコーンオイル(いわゆるヒューザーオイル)をロール表面に供給するオイルヒューズが行われ、更に、高速になった際に定着に要する時間を増加させるため、定着幅(ニップ幅)を確保する目的でゴム材料の低硬度化が進んでいる。
【0003】
しかしながら、シリコーンゴムは元々シリコーンオイルと同質の材料であるので低硬度化するとヒューズされるシリコーンオイルにより膨潤するという問題が生じている。これらの問題を解決する方法として低硬度のシリコーンゴム、シリコーンゴム発泡体によって作成されたロール表面をフッ素ゴムラテックスあるいはフッ素樹脂チューブで作られた可撓性のある被膜で覆うことが行われている。この被覆により定着ロールとしての寿命は著しく向上したが、機器の高速化に伴い、シリコーンゴムとフッ素樹脂チューブあるいはフッ素ゴムラテックス又シリコーンゴムと円柱状の金属芯金との接着界面が高温及び変形によって生じる応力に長期間耐えられないのが実情である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本願発明は上記の状況に鑑み鋭意検討されたもので、その課題は、フッ素ゴムラテックスなどのフッ素系コーティング剤やPFA、PTFE、FEP等のフッ素樹脂系チューブなどからなるフッ素樹脂系被覆層(表面離型層)とシリコーンゴムまたは金属芯金とシリコーンゴムを接着させ、長期使用しても剥離を起こしにくいフッ素樹脂系被覆ロール用液状付加硬化型シリコーンゴム組成物、及び該組成物の硬化物からなるシリコーンゴム層を有する定着ロールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
即ち、本発明は、上記課題を解決する手段として、
(a)分子鎖途中の珪素原子に結合したアルケニル基を分子中に少なくとも2個有するオルガノポリシロキサン 100重量部、
(b)珪素原子に直結した水素原子を一分子中に少なくとも2個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン
(a)成分中の珪素原子に結合したアルケニル基に対する(b)成分中の珪素原子結合水素原子のモル比が0.4〜5.0となる量、
(c)有効量の白金系触媒、
(d)乾式シリカ 0.1〜10重量部、及び
(e)一分子中に少なくとも3個の珪素原子に結合したアルケニル基を含有する環状ジオルガノポリシロキサン 0.05〜5重量部
を含有してなるフッ素樹脂系被覆定着ロール用液状付加硬化型シリコーンゴム組成物を提供する。
【0006】
また、本発明は、芯金と、その外周に直接又は間接に設けられたシリコーンゴム層と、そのシリコーンゴム層の上に形成されたフッ素樹脂系層(表面離型層)を有する定着ロールにおいて、上記シリコーンゴム層が請求項1記載の液状付加硬化型シリコーンゴム組成物の硬化物であることを特徴とするフッ素樹脂系被覆定着ロールを提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明のフッ素樹脂系被覆ロール用液状付加硬化型シリコーンゴム組成物によれば、金属芯金とシリコーンゴム層とフッ素系コーティング又はフッ素樹脂系チューブからなる定着ロールにおいて、シリコーンゴム層と金属芯金及びフッ素樹脂層との間に良好な接着をもたらすことができ、得られた接着は耐久性に優れ、長期使用しても剥離を起こしにくい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明のシリコーン組成物を成分ごとに説明する。
−(a)成分:オルガノポリシロキサン−
本発明に使用される(a)成分は本組成物の主成分であり、分子鎖途中の珪素原子(即ち、オルガノポリシロキサン分子の主鎖を構成する、末端シロキサン単位を除くシロキサン連鎖の途中の珪素原子)に結合したアルケニル基(即ち、RSiO2/2又はRSiO3/2で表される2官能性シロキサン単位又は3官能性シロキサン単位(Rは後述する非置換又はハロゲン置換1価炭化水素基)のケイ素原子に結合した、いわゆる側鎖置換基としてのアルケニル基)を少なくとも2個有するオルガノポリシロキサンである。このオルガノポリシロキサンの分子構造は実質的に直鎖状であることが好ましく、但し若干分岐した分子構造を有していてもよい。
【0009】
このオルガノポリシロキサンは、一般式(1):
【0010】
【化1】

(式中、Rは非置換又はハロゲン置換の1価炭化水素基であり、Rは脂肪族不飽和二重結合を有しない非置換又はハロゲン置換の1価炭化水素基であり、Rはアルケニル基であり、nは2以上の整数であり、mは0又は1以上の整数である。)
で表されるものが好ましい。
【0011】
上記の一般式(1)中のRで表される非置換又はハロゲン置換の1価炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基などのアルキル基、ビニル基、アリル基、プロペニル基、ブテニル基等のアルケニル基、フェニル基、トリル基、キシリル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基等のアラルキル基、3−クロロプロピル基、3,3,3−トリフロロプロピル基等のハロゲン化アルキル基などの、通常、炭素数1〜12、好ましくは炭素数1〜10程度のものが例示される。Rは、これらの非置換又はハロゲン置換の1価炭化水素基の内、ビニル基、アリル基等のアルケニル基等の脂肪族不飽和二重結合を有する基を除いた非置換又はハロゲン置換の1価炭化水素基である。R及びRはこれらの中でもメチル基が好ましい。Rはビニル、アリル、プロペニル、ブテニル、ヘキセニル等の通常炭素数2〜6程度のアルケニル基である。nは2以上の整数、mは0又は1以上の整数であり、m+nは通常20〜2,000、好ましくは50〜1,000程度の整数である。また、n/(m+n)は0.001〜0.2、特に0.002〜0.1程度であることが好ましい。
【0012】
(a)成分の25℃における粘度は、1,000mPa.s(ミリパスカル・秒)以上であることが好ましく、特に1000〜1,000,000mPa.sの範囲であることが好ましい。
【0013】
(a)成分の具体例としては、例えば両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルビニルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖メチルビニルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端トリメチルシリル基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端トリメチルシリル基封鎖メチルビニルシロキサンメチルフェニルシロキサン共重合体などが挙げられる。これらは1種単独でも2種以上の組合せでも使用することができる。
【0014】
−(b)成分:オルガノハイドロジェンポリシロキサン−
本発明に使用される(b)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは分子中の珪素原子に結合した水素原子(SiH基)が(a)成分中の珪素原子に結合したアルケニル基とヒドロシリル化付加反応し、架橋剤として作用する。該オルガノハイドロジェンポリシロキサンの分子構造には特に制限はなく、従来知られている、例えば線状、環状、分岐状三次元網状などの各種構造のものを使用可能であるが、一分子中に少なくとも二個の珪素原子に直接結合した水素原子(即ち、SiH基)を含む必要がある。この(b)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、下記平均組成式(2)で示されるものが好適に使用される。
【0015】
SiO(4−b−c)/2 (2)
(Rは炭素数1〜12、好ましくは脂肪族不飽和化合を除く炭素数1〜10の非置換又は置換の一価炭素水素基、b、cはそれぞれ0.7≦b≦2.1、好ましくは1≦b≦2、0.002≦c≦1、好ましくは0.01≦c≦0.6、0.8≦b+c≦3、好ましくは1.5≦b+c≦2.6を満足する正数である。)
【0016】
このオルガノハイドロジェンポリシロキサンにおいて、水素原子以外の珪素原子に結合する置換基Rは(a)成分のオルガノポリシロキサンにおける置換基Rとして例示したものと同様の炭素数1〜12、好ましくは脂肪族不飽和結合を除く炭素数1〜10の非置換又は置換の一価炭化水素基である。
【0017】
このようなオルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、メチルハイドロジェン環状ポリシロキサン、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、(CH2HSiO1/2単位とSiO4/2単位とからなる共重合体、(CH2HSiO1/2単位と(CH3SiO1/2単位とSiO4/2単位とからなる共重合体、(CHHSiO1/2単位とSiO4/2単位と(C)SiO3/2単位とからなる共重合体などを挙げることができる。
【0018】
また、オルガノハイドロジェンポリシロキサンは、粘度が25℃において0.1〜1、000mPa・s、好ましくは0.1〜500mPa・sであることが望ましく、また分子中の珪素原子の数(あるいは重合度)が通常3〜300個、好ましくは4〜150個程度のものであればよい。
【0019】
この(b)成分の添加量は、(a)成分に含まれる珪素原子結合アルケニル基に対して(b)成分中の珪素原子に結合した水素原子(SiH基)の量が、モル比で0.4〜5.0(mol/mol)となる量であり好ましくは、0.8〜2.0の範囲とされる。このモル比が0.4より少ない場合は、架橋密度が低くなりすぎ硬化したシリコーンゴムの耐熱性が低下する恐れがある。又、5.0より多い場合には脱水素反応による発泡が起こりやすくなり、やはり耐熱性が低下する恐れがある。
【0020】
このオルガノハイドロジェンポリシロキサンの製造方法は当業者には周知であり、重合度、分子構造に応じて当業者は公知の製造方法によって容易に製造することが可能である。例えば、ごく一般的な製造方法を挙げると、オクタメチルシクロテトラシロキサン及び又はテトラメチルシクロテトラシロキサンと末端基となりうるヘキサメチルジシロキサン或いは1,3−ジハイドロ−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン単位を含む化合物とを、硫酸、トリフルオロメタンスルホン酸、メタンスルホン酸等の触媒の存在下に−10〜+40℃程度の温度で平衡化させることによって容易に得ることが出来る。
−(c)成分:白金系触媒−
【0021】
本発明に使用される(c)成分の白金系触媒は、上述した(a)成分と(b)成分及び(e)成分との硬化付加反応(ハイドロサイレーション)を促進させる作用を有する。該白金触媒としては当業者に於いてかかる付加反応を促進するものとして公知であるいずれの白金及び白金化合物をも使用することができる。例えば、白金ブラック、塩化白金酸、塩化白金酸のアルコール変性物、塩化白金酸とオレフィン、アルデヒド、ビニルシロキサン又はアセチレンアルコール類等との錯体等がある。尚、この添加量は触媒としての有効量(所謂、触媒量)であるが、希望する硬化速度に応じて適宜増減すればよい。通常は(a)成分に対して白金分として0.1〜1000ppmであり、好ましくは1〜200ppmの範囲である。
−成分(d):乾式シリカ−
成分(d)の乾式シリカ、即ち、煙霧質シリカ(ヒュームドシリカ)はシリコーンゴム硬化物に物理的強度を付与する、補強性充填剤であり、BET比表面積が50m/g以上(通常、50〜500m/g程度)であることが好ましく、100〜400m/g程度であることがより好ましい。
【0022】
本発明に使用される(d)成分の乾式シリカはフッ素樹脂又は金属芯金との接着耐久性に必須成分であり、親水性のシリカと疎水性シリカが挙げられる。親水性のシリカとしては、Aerosil130,200,300(日本アエロジル社、Degussa社製)CabosilMS−5,MS−7(Cabot社製)RheorosilQS−102,103(徳山曹達社製)NipsilLP(日本シリカ製)等が挙げられる。又疎水性シリカとしては、AerosilR−812,R−812S,R−972,R−974(Degussa社製)RheorosilMT−10(徳山曹達社製)NipsilSSシリーズ(日本シリカ製)、などが挙げられる。
【0023】
成分(d)の配合量は成分(a)のオルガノポリシロキサン100重量部にたいして0.1〜10重量部であり、好ましくは0.2〜8重量部である。0.1重量部未満では得られる硬化シリコーンゴムの基材への接着性が不十分であることが多く、10重量部を越えると硬化シリコーンゴムの圧縮永久歪が低下し易く、高温での使用においてロールとして実用的に機能しない。
−成分(e):アルケニル基含有環状ジオルガノポリシロキサン−
この(d)成分の環状ジオルガノポリシロキサンは一分子中に少なくとも3個、好ましくは4個以上の珪素原子結合アルケニル基を含有し、通常3〜20個、好ましくは4〜10個のジオルガノシロキサン単位からなるものであり、本発明の組成物を硬化して得られる硬化シリコーンゴム層と、フッ素樹脂層及び/又は金属芯金との初期接着性及び接着耐久性を安定化させる作用を有する。この環状ジオルガノポリシロキサンは、例えば、一般式(3):
【0024】
【化2】


(式中のRは独立に脂肪族不飽和二重結合を有しない非置換又はハロゲン置換の1価炭化水素基であり、Rはアルケニル基であり、mは3〜20の整数であり、nは0〜17の整数であり、但しm+mは3〜20の整数である。)
で表されるものが好ましい。
【0025】
一般式(3)において、Rである脂肪族不飽和二重結合を含まない非置換又はハロゲン置換の1価炭化水素基としては、前記Rと同様のものとすることができ、例えばメチル基、エチル基、プロピル基などのアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基等のアリール基、3−クロロプロピル基、3、3、3−トリフロロプロピル基等のハロアルキル基が例示され、特に、メチル基、フェニル基であることが好ましい。Rで表されるアルケニル基としては、前記のRと同様のものであればよく、ビニル基、アリル基、ブテニル基などが例示され、好ましくはビニル基が好ましい。mは3〜20の整数であり、好ましくは、4〜8の整数である。又、nは0〜17の整数であり、好ましくは、0〜5の整数である。上式中のm+nは3〜20の整数であり、好ましくは4〜10の整数である。
【0026】
このような成分(e)としては、1,3,5−トリメチル−1,3,5−トリビニルシクロトリシロキサン、1,3,5,7−テトラメチル−1,3,5,7−テトラビニルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7,9−ペンタメチル−1,3,5,7,9−ペンタビニルシクロペンタシロキサン等の環状メチルビニルポリシロキサンの他に、1,3,5,7,7−ペンタメチル−1,3,5−トリビニルシクロテトラシロキサンなどの環状メチルビニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、環状メチルビニルシロキサン・フェニルメチルシロキサン共重合体などが例示される。これらの環状ジオルガノシロキサンは一種単独で又は2種以上組合わせて使用してもよい。
【0027】
成分(e)の環状ジオルガノポリシロキサンは、成分(a)、(b)とともに付加硬化反応に参加し、そのとき分子中に含まれる珪素原子結合アルケニル基の内の少なくとも2個は付加反応に参加して硬化に寄与し、残るアルケニル基は接着性に関与すると考えられる。但し、本成分は液状であるため、(c)成分と併用しないと、接着活性点として、作用しにくい。
【0028】
成分(e)の配合量は(a)成分100重量部に対し0.05〜5重量部の範囲であり、0.05重量部未満の場合、フッ素樹脂層及び/又は金属芯金との接着性が不十分である恐れがあり、5重量部を越えるとシリコーンゴムに物性変化をもたらし、接着性に悪影響を与える。
−その他の成分−
本発明の組成物には本発明の作用、効果を損なわない程度において必要に応じて他の添加物を配合することができる。そのような任意に配合される成分としては、例えば下記のものが挙げられる。
【0029】
硬化物の硬度及び引張り強さなどの物理的強度や、フッ素樹脂系被覆層との接着耐久性を高めるには、用いる充填剤としては、例えば結晶性シリカ、石英などが挙げられ、これらは1種単独でも2種以上の組み合わせてもよい。このような材料の例示としては、結晶性シリカとしてはクリスタライト、Minusil Imisilが挙げられる。このような補強性充填剤の配合量は成分(a)成分100重量部にたいして300重量部以下(即ち、0〜300重量部)であればよく、通常5〜300重量部が好ましく、より好ましくは20〜200重量部である。
【0030】
硬化時間の調整を行う必要がある場合には、制御剤としてトリアリルイソシアヌレート、アルキルマレエート、アセチレンアルコール類及びそのシランもしくはシロキサン変性物、ハイドロパーオキサイド、テトラメチルエチレンジアミン、ベンゾトリアゾール及びそれらの混合物などを使用しても差し支えない。
更に珪藻土、炭酸カルシウム等の非補強性の充填剤、コバルトブルー等の無機顔料、有機染料などの着色剤、酸化セリウム、炭酸亜鉛、炭酸マンガン、酸化チタン、カーボンブラック等の耐熱性、難燃性向上剤、等の添加も可能である。
【0031】
ロールの製造に使用される金属芯金は、鉄、アルミニウム、ステンレスなどのいずれの材質のものでもよい。また、プライマー処理を施した金属芯金を使用してもよい。上記で用いるフッ素ラテックスコーテイング(例えば、ポリテトラフルオロエチレン)及びフッ素系樹脂チューブポリイミド系樹脂チューブは市販品を使用し、フッ素樹脂チューブはテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル(PFA)が好ましく、シリコーンゴムとの接触面はコロナ放電処理、ナトリウムナフタレン法、スパッタエッチング法、液体アンモニア法などにより、シリコーンゴムと接着に有利であるように処理しておくことが好ましい。更に接着耐久性を向上させるためにプライマー処理を使用してもよい。
【実施例】
【0032】
以下、実施例によりこの発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0033】
実施例1:
分子鎖両末端がトリメチルシロキシ基で封鎖され、メチルビニルシロキサン単位として側鎖ビニル基を平均約5個含有する直鎖状ジメチルシロキサンポリマー(重合度約700)を100重量部、乾式シリカ(ヒュームドシリカ)としてアエロジルR−972(デグッサ社製)を2重量部、下式(i)で表される環状メチルビニルポリシロキサン0.1重量部を均一に混合した後、下式(ii)で表される分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体3.0重量部、反応制御剤として1−エチニル−1−シクロヘキサノール0.1重量部、白金ビニルシロキサン錯体を白金原子として50ppm添加し均一になるまで良く混合し、シリコーンゴム組成物1を得た。
【0034】
【化3】

【0035】
【化4】

【0036】
このシリコーンゴム組成物1のアルミニウム及びPFA樹脂フィルムに対する120℃における剪断接着性の評価を下記方法に従って行った。
<剪断接着性評価方法>
厚み0.3mm、幅25mm、長さ100mmのアルミニウム金属シ−ト2枚1、2それぞれにプライマ−X−33−173A/B(信越化学工業製)をはけ塗りし、室温にて、90分間乾燥した。プライマーを塗布した該金属シート2枚を引っ張り剪断接着試験片作成冶具に固定し、前記シリコーンゴム組成物1を同冶具に適量流し込み、120℃恒温槽にて60分加熱硬化させ、図1に示すように被着体であるアルミニウム金属シート1と2がシリコーンゴム層3を介して接着した試験サンプルを作成した。この試験サンプルの両端4、5を反対方向に速度50mm/分のスピードで引張り、その時の接着部分のゴム層3の凝集破壊率を測定した。厚み100μ、幅25mm、長さ100mmのPFA樹脂フィルムについても、上記と同様に測定を行った。
アルミニウム及びPFA樹脂フィルムとも凝集破壊率は100%であった。
【0037】
比較例1:
実施例1において環状メチルビニルポリシロキサンを配合しない以外は実施例1と同様にしてシリコーン組成物C−1を配合し、アルミニウム及びPFA樹脂フィルムに対する剪断接着評価を実施例1と同様に測定した。アルミニウム及びPFA樹脂フィルムとも凝集破壊率は50%であった。
【0038】
比較例2:
実施例1において乾式シリカであるアエロジルR−972(デグッサ社製)を配合しない以外は実施例1と同様にしてシリコーン組成物C−2を配合し、アルミニウム及びPFA樹脂フィルムに対する剪断接着評価を実施例1と同様に測定した。アルミニウム及びPFA樹脂フィルムとも凝集破壊率は50%であった。
【0039】
比較例3:
実施例1において環状メチルビニルポリシロキサンを7重量部配合した以外は実施例1と同様にしてシリコーン組成物C−3を配合し、アルミニウム及びPFA樹脂フィルムに対する剪断接着評価を実施例1と同様に測定した。アルミニウム及びPFA樹脂フィルムとも凝集破壊率は60%であった。
【0040】
比較例4:
実施例1において乾式シリカの代わりに平均粒径が5μmである粉砕石英微粉末を30重量部を配合した以外は実施例1と同様にしてシリコーン組成物C−4を配合し、アルミニウム及びPFA樹脂フィルムに対する剪断接着評価を実施例1と同様に測定した。アルミニウム及びPFA樹脂フィルムとも凝集破壊率は50%であった。
【0041】
実施例2:
分子鎖両末端がトリメチルシロキシ基で封鎖され、メチルビニルシロキサン単位として側鎖ビニル基を平均約5個含有する直鎖状ジメチルシロキサンポリマー(重合度約700)100重量部、乾式シリカとしてアエロジルR−972(デグッサ社製)を8重量部、平均粒径が5μmである粉砕石英微粉末を30重量部、上式(i)で表される環状メチルビニルポリシロキサンを4重量部を均一に混合した後、上式(ii)で表される分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体3.0重量部、反応制御剤として1−エチニル−1−シクロヘキサノール0.1重量部、白金ビニルシロキサン錯体を白金原子として50ppm添加均一になるまで良く混合し、シリコーンゴム組成物2を得た。
【0042】
このシリコーンゴム組成物2を120℃にて、実施例1と同様にしてアルミニウム及びPFA樹脂フィルムに対する剪断接着評価を実施した。アルミニウム及びPFA樹脂フィルムとも凝集破壊率は100%であった。
【0043】
実施例3:
直径10mm×長さ300mmのアルミニウムシャフト上に付加反応型液状シリコーンゴム用プライマーNO.101A/B(信越化学工業製)を塗布した。金型内に、内面をプライマー処理した厚さ50μmのPFA樹脂チューブと上記シャフトとを同じ円状に設置し、両者の間に実施例1にて調製した液状組成物1を充填し、150℃で30分加熱硬化し、更に200℃で4時間ポストキュアーした。外径14mm×長さ250mmのPFA樹脂被覆シリコーンゴムロールを作製した。
【0044】
更に、PPC複写機に定着ロールとして組み込み、紙10万枚に複写を行ったところ、良好な複写物が得られ、シリコーンゴムとPFAチューブ及びシリコーンゴムとアルミニウム芯金の接着性は良好であることが分かった。
【0045】
比較例5:
組成物1の代りに比較例1で得た液状組成物C−1を使用した以外は実施例3と同様にして、外径14mm×長さ250mmのPFA樹脂被覆シリコーンゴムロールを作製した。
【0046】
PPC複写機に定着ロールとして組み込み、複写を行ったところ、紙3万枚を複写した時点でシリコーンゴム層とPFAチューブは剥離した。
【0047】
比較例6:
組成物1の代りに比較例2で得た液状組成物C−2を使用した以外は実施例3と同様にして、外径14mm×長さ250mmのPFA樹脂被覆シリコーンゴムロールを作製した。
【0048】
PPC複写機の定着ロールとして組み込み、複写を行ったところ、5万枚複写した時点でシリコーンゴム層とPFAチューブは剥離した。
【0049】
比較例7:
組成物1の代りに比較例4で得た液状組成物C−4を使用した以外は実施例3と同様にして、外径14mm×長さ250mmのPFA樹脂被覆シリコーンゴムロールを作製した。
更に、PPC複写機の定着ロールとして組み込み、複写を行ったところ、5万枚複写の時点でシリコーンゴム層とアルミニウム芯金は剥離した。
【0050】
実施例4:
実施例3と同様にして直径10mm×長さ300mmのアルミニウムシャフト上に実施例2で得た液状組成物2を使用し150℃で30分加熱硬化し、更に200℃で4時間ポストキュアーしてシリコーンゴム層を形成した。この硬化物表面にダイエルラテックスとシリコーンゴム用プライマーGLP−103SR(ダイキン製)を均一に塗布し、80℃/10分加熱し、更にダイエルラテックスGLS−213を均一にスプレー塗布し、300℃で1時間加熱焼成した。こうして外径14mm×長さ250mmのダイエルラテックスコーティングシリコーンゴムロールを作製した。
更に、PPC複写機の定着ロールとして組み込み、10万枚複写を行ったところ、良好な複写物が得られ、シリコーンゴムとダイエルラテックスコーティング及びシリコーンゴムとアルミニウム芯金の接着性は良好であった。
【0051】
比較例8:
実施例1において、乾式シリカとしてアエロジルR−972(デグッサ社製)12重量部を配合した以外は実施例1と同様にしてシリコーン組成物C−8を配合した。
【0052】
次に、液状組成物2の代りに組成物C−8を使用した以外は実施例4と同様にして外径14mm×長さ250mmのダイエルラテックスコーティングシリコーンゴムロールを作製した。
これをPPC複写機の定着ロールとして組み込み、1万枚複写を行ったところ、定着むらのある複写物が得られ、ロールの所々に凹みが発生し、シリコーンゴム層とダイエルラテックスコーティングとの間に一部剥離が生じた。
【0053】
比較例9:
両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖の直鎖状ジメチルシロキサンポリマー(重合度約500)100重量部、乾式シリカとして、アエロジルR−972(デグッサ社製)を2重量部と、上式(i)で表される環状メチルビニルポリシロキサン0.1重量部とを均一に混合した後、上式(ii)で表される分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体3.0重量部、反応制御剤として1−エチニル−1−シクロヘキサノール0.1重量部、白金ビニルシロキサン錯体を白金原子として50ppm添加均一になるまで良く混合し、シリコーンゴム組成物C−9を得た。
【0054】
このシリコーンゴム組成物C−9を120℃にて実施例1と同様にしてアルミニウム及びPFA樹脂フィルムに対する剪断接着評価を実施した。アルミニウム及びPFA樹脂フィルムとも凝集破壊率は60%であった。
更に、直径10mm×長さ300mmのアルミニウムシャフト上に付加反応型液状シリコーンゴム用NO.101A/B(信越化学工業製)を塗布した。金型内に、内面をプライマー処理した50μmのPFAチューブと上記シャフトとを同心円状に設置し、その両者の間に上記シリコーンゴム組成物C−9を充填し、150℃で30分加熱硬化し、更に200℃で4時間ポストキュアーした。外径14mm×長さ250mmのPFA樹脂被覆シリコーンゴムロールを作製した。
更に、PPC複写機の定着ロールとして組み込み、複写を行ったところ、3万枚複写を行った時点でシリコーンゴム層とPFAチューブとは剥離した。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】剪断接着性評価方法に使用する試験サンプル斜視図である。
【符号の説明】
【0056】
1、2:アルミニウム金属シ−ト
3:シリコーンゴム層
4,5:試験サンプルの両端

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯金と、その外周に設けられたシリコーンゴム層と、そのシリコーンゴム層の上に形成されたフッ素樹脂系層を有する定着ロールにおいて、上記シリコーンゴム層を下記(a)〜(f)成分を含有してなる液状付加硬化型シリコーンゴム組成物の硬化物にて形成することを特徴とするフッ素樹脂系被覆定着ロールの接着耐久性を向上する方法:
(a)分子鎖途中の珪素原子に結合したアルケニル基を分子中に少なくとも2個有するオルガノポリシロキサン 100重量部、
(b)珪素原子に直結した水素原子を一分子中に少なくとも2個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン
(a)成分中の珪素原子に結合したアルケニル基に対する(b)成分中の珪素原子結合水素原子のモル比が0.4〜5.0となる量、
(c)有効量の白金系触媒、
(d)乾式シリカ 0.1〜10重量部、
(e)一分子中に少なくとも3個の珪素原子に結合したアルケニル基を含有する環状ジオルガノポリシロキサン 0.05〜5重量部、及び
(f)該(e)成分以外の反応制御剤。
【請求項2】
(a)〜(f)成分を含有してなる液状付加硬化型シリコーンゴム組成物を調製し、該組成物を加熱硬化して芯金上にシリコーンゴム層を形成する請求項1に記載のフッ素樹脂系被覆定着ロールの接着耐久性を向上する方法。
【請求項3】
前記(f)成分の反応制御剤が、トリアリルイソシアヌレート、アルキルマレエート、アセチレンアルコール類及びそのシランもしくはシロキサン変性物、ハイドロパーオキサイド、テトラメチルエチレンジアミン並びにベンゾトリアゾールからなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項1又は2に記載のフッ素樹脂系被覆定着ロールの接着耐久性を向上する方法。
【請求項4】
前記(f)成分の反応制御剤が、1−エチニル−1−シクロヘキサノールである請求項1又は2に記載のフッ素樹脂系被覆定着ロールの接着耐久性を向上する方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−249234(P2007−249234A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−150402(P2007−150402)
【出願日】平成19年6月6日(2007.6.6)
【分割の表示】特願2001−107558(P2001−107558)の分割
【原出願日】平成13年4月5日(2001.4.5)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】