説明

フッ素樹脂膜を有するめっき皮膜およびその製造方法

【課題】無電解めっき処理と同様に、複雑な形状やパイプ等の内面にも均一にコーティングでき、かつ比較的薄い膜厚であっても、高い耐蝕性を付与することができるフッ素樹脂コーティングを有する無電解めっき皮膜およびその製造方法を提供する。
【解決手段】無電解めっき皮膜または無電解複合めっき皮膜上に、膜厚が5μm以下のフッ素樹脂膜を有するめっき皮膜。前記フッ素樹脂膜を有するめっき皮膜は、中性塩水噴霧試験(JIS H8502)においてレイティングNo.8になる迄の時間が150時間以上である耐蝕性を有する。表面の少なくとも一部に上記皮膜を有する物品。無電解めっき皮膜または無電解複合めっき皮膜上に、膜厚が5μm以下のフッ素樹脂膜を有するめっき皮膜の製造方法。前記フッ素樹脂膜を、フッ素樹脂粒子をカチオン系界面活性剤で水中に分散した溶液を用いて形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素樹脂膜を有するめっき皮膜およびその製造方法に関する。特に本発明は、膜厚が比較的薄く、かつ高い耐蝕性を有するフッ素樹脂膜を有するめっき皮膜およびその製造方法に関する。さらに本発明は、上記めっき皮膜を有する物品、例えば、金属材料及びセラミックなどの非金属材料からなる物品に関する。
【背景技術】
【0002】
無電解めっき皮膜は、比較的複雑な表面形状を有する物品の表面に対しても、良好に形成でき、かつ、例えば、ニッケル−リン合金をマトリックスとするものは、耐摩耗性、摺動性を付与することから、その用途が広がっている(特許文献1、2)。また、めっきマトリックス中にフッ素樹脂粒子を分散してなる複合めっき皮膜を、ピストン、シリンダ等の摺動部品に付されることが知られている(特許文献3)。この複合めっき皮膜は、還元剤として次亜りん酸塩を用い、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)微粒子等のフッ素樹脂微粒子を分散した無電解複合ニッケル−リン合金めっき液を使用して形成される。この複合めっき皮膜も耐摩耗性、摺動性に優れる。
【0003】
また、めっき層の防汚を目的として、その表面をフッ素樹脂でライニング(コーティング)処理することも知られている(特許文献4)。あるいは、めっき層に低摩擦特性、付着防止特性等を付与する目的でも、フッ素樹脂ライニング(コーティング)処理することが知られている。フッ素樹脂のライニング(コーティング)処理は、フッ素樹脂を有機溶媒に溶解した塗料をプライマーやバインダーを使用して付着する方法が一般的である。
【特許文献1】特開平8−158058号公報
【特許文献2】特開平11−303994号公報
【特許文献3】特開2001−49449号公報
【特許文献4】特開2002−309386号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記フッ素樹脂のライニング(コーティング)処理では、均一なライニング(コーティング)を得るためには、膜厚をある程度以上の厚みにする必要があり、例えば、一般には10μm以上、通常は20〜40μm程度とする。このような事情から、5μm以下の膜厚の均一なフッ素樹脂のコーティングを形成することは困難であった。さらに、上記ライニング(コーティング)は、塗布または吹きつけにより形成するために、複雑な形状やパイプ管の内面等に均一にコーティングすることは困難であった。加えて、フッ素樹脂を有機溶媒に溶解した塗料を用いるため、有機溶媒の揮発時にコーティングにピンホールが形成し易く、高い耐蝕性を必要とする分野においては、相当に膜厚が厚いコーティングを形成する必要があった。
【0005】
そこで本発明の目的は、無電解めっき処理と同様に、複雑な形状やパイプ等の内面にも均一にコーティングでき、かつ比較的薄い膜厚であっても、高い耐蝕性を付与することができるフッ素樹脂コーティングを有する無電解めっき皮膜およびその製造方法を提供することにある。
【0006】
さらに本発明は、上記フッ素樹脂コーティングを表面に有する無電解めっき皮膜を有する物品を提供ことも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明は以下の通りである。
[1]無電解めっき皮膜または無電解複合めっき皮膜上に、膜厚が5μm以下のフッ素樹脂膜を有するめっき皮膜であって、
前記フッ素樹脂膜を有するめっき皮膜は、中性塩水噴霧試験(JIS H8502) 。においてレイティングNo.8になる迄の時間が150時間以上である耐蝕性を有することを特徴とするめっき皮膜。
[2]前記フッ素樹脂膜は、膜厚が1μm以下である[1]に記載の皮膜。
[3]前記耐蝕性は、レイティングNo.8になる迄の時間が200時間以上である[1]または[2]に記載の皮膜。
[4]前記無電解複合めっき皮膜は、無電解めっきにフッ素樹脂粒子が分散したものである[1]〜[3]のいずれかに記載の皮膜。
[5]前記フッ素樹脂粒子を構成するフッ素樹脂は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリビリニレンフルオライド(PVDE)、ポリクロロトリフルオロエチレン共重合体(PCTFE)、およびテトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)から成る群から選ばれる少なくとも1種である[4]に記載の皮膜。
[6]前記無電解めっき皮膜および無電解複合めっき皮膜のマトリックスは、Ni-P、Ni-BまたはNi-P-Bの合金皮膜である[1]〜[5]のいずれかに記載の皮膜。
[7]前記フッ素樹脂膜を構成するフッ素樹脂は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリビリニレンフルオライド(PVDE)、ポリクロロトリフルオロエチレン共重合体(PCTFE)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)から成る群から選ばれる少なくとも1種である[1]〜[6]のいずれかに記載の皮膜。
[8]表面の少なくとも一部に[1]〜[7]のいずれかに記載の皮膜を有する物品。
[9]無電解めっき皮膜または無電解複合めっき皮膜上に、膜厚が5μm以下のフッ素樹脂膜を有するめっき皮膜の製造方法であって、前記フッ素樹脂膜を、フッ素樹脂粒子をカチオン系界面活性剤で水中に分散した溶液を用いて形成することを特徴とする製造方法。
[10]前記溶液は、ノニオン系界面活性剤をさらに含有する[9]に記載の製造方法。
[11]前記溶液中に分散した前記フッ素樹脂粒子の平均粒子径が、0.1〜1.5μmである[9]または[10]に記載の製造方法。
[12]前記溶液を塗布した後、フッ素樹脂が溶融する温度以上で熱処理する[9]〜[11]のいずれか1項に記載の製造方法。
[13]前記熱処理は大気中または不活性雰囲気中で行う[9]〜[12]のいずれかに記載の製造方法。
[14][1]〜[7]のいずれかに記載の皮膜を形成するための[9]〜[13]のいずれかに記載の製造方法。
[15][8]に記載の物品を製造するための[9]〜[13]のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、無電解めっき処理と同様に、複雑な形状やパイプ等の内面にも均一にコーティングでき、かつ比較的薄い膜厚であっても、高い耐蝕性を付与することができるフッ素樹脂コーティングを有する無電解めっき皮膜、およびこのめっき皮膜を有する物品が提供される。
特に、無電解めっき皮膜が、フッ素樹脂粒子を分散した複合無電解めっき皮膜の場合、めっき皮膜中のフッ素樹脂粒子の内、表面に露出した粒子とその表面上のフッ素樹脂皮膜とが融合しており、より優れた耐蝕性等の特性を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
[めっき皮膜]
本発明のめっき皮膜は、無電解めっき皮膜または無電解複合めっき皮膜上に、膜厚が5μm以下のフッ素樹脂膜を有するめっき皮膜であって、前記フッ素樹脂膜を有するめっき皮膜は、中性塩水噴霧試験(JIS H8502)においてレイティングNo.8になる迄の時間が150時間以上である耐蝕性を有することを特徴とする。
【0010】
本発明のめっき皮膜は、無電解めっき皮膜の上にフッ素樹脂膜を有するものであり、無電解めっき皮膜は、通常の無電解めっき皮膜および無電解複合めっき皮膜であることができる。無電解複合めっき皮膜は、無電解めっきに、例えば、フッ素樹脂粒子が分散したものであることができる。フッ素樹脂粒子を構成するフッ素樹脂は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリビリニレンフルオライド(PVDE)、ポリクロロトリフルオロエチレン共重合体(PCTFE)、およびテトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)から成る群から選ばれる少なくとも1種であることができる。フッ素樹脂粒子の平均粒子径は、例えば、0.1〜1.5μmであることができ、好ましくは0.3μm〜0.5μmである。また、無電解複合めっき皮膜に含まれるフッ素樹脂粒子の量は、例えば、5〜30vol/%の範囲であることができる。フッ素樹脂粒子を含有する無電解めっき液としては、例えば、日本カニゼン社製「カニフロン」を挙げることができる。
【0011】
無電解めっき皮膜および無電解複合めっき皮膜のマトリックスは、特に制限はないが、例えば、Ni−P、Ni−BまたはNi−P−Bの合金皮膜であることができ、例えば、特許文献1に記載の合金皮膜を挙げることができる。但し、これに限られない。
【0012】
無電解めっき皮膜または無電解複合めっき皮膜上に設けられるフッ素樹脂膜は、膜厚が好ましくは2μm以下、より好ましくは1μm以下、さらに好ましくは0.7μm以下である。フッ素樹脂膜の膜厚の下限は、例えば、0.1μm、好ましくは0.2μm、より好ましくは0.3μmである。本発明のめっき皮膜が有するフッ素樹脂膜は、後述する方法で形成されるためにピンホールを有さず、そのため、膜厚薄くても高い耐蝕性を示す。上述のように、最低でも中性塩水噴霧試験(JIS H8502)においてレイティングNo.8になる迄の時間が150時間以上である。好ましくは180時間以上であり、さらに好ましくは200時間以上である。レイティングNo.8になる迄の時間の上限は、特に制限はないが、実質的には300時間程度である。
【0013】
フッ素樹脂膜を構成するフッ素樹脂は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリビリニレンフルオライド(PVDE)、ポリクロロトリフルオロエチレン共重合体(PCTFE)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)から成る群から選ばれる少なくとも1種であることができる。これらのフッ素樹脂を単独であるいは混合して使用することができる。
【0014】
本発明は、上記本発明のめっき皮膜を、表面の少なくとも一部に有する物品を包含する。そのような物品に特に制限はないが、例えば、金属材料及びセラミックなどの非金属材料からなる機械部品等であることができる。フッ素樹脂膜を有する本発明のめっき皮膜は、高い耐食性を有し、かつ初期摺動特性にも優れる。
【0015】
[めっき皮膜の製造方法]
本発明のめっき皮膜の製造方法は、無電解めっき皮膜または無電解複合めっき皮膜上に、膜厚が5μm以下のフッ素樹脂膜を有するめっき皮膜の製造方法であって、前記フッ素樹脂膜を、フッ素樹脂粒子をカチオン系界面活性剤で水中に分散した溶液を用いて形成することを特徴とする。
【0016】
上述のように、本発明のめっき皮膜が有するフッ素樹脂膜は、ピンホールを有さず、そのため、膜厚薄くても高い耐蝕性を示すものであるが、このようなフッ素樹脂膜は、フッ素樹脂粒子をカチオン系界面活性剤で水中に分散した溶液を用いて形成することによって得られる。これは、カチオン系界面活性剤の作用によりフッ素樹脂粒子が無電解めっき皮膜表面に優先的に吸着し、溶媒(主に水)が蒸発する前に、実質的なフッ素樹脂膜が形成され、溶媒が蒸発する際に、溶媒の抜け道としてピンホールが形成されず、膜厚薄くても高い耐蝕性を示す膜が形成される、という利点がある。
【0017】
カチオン系界面活性剤は、特に制限はないが、例えば、第4級アンモニウム塩(トリメチル型、ジアルキル型、ベンジル型、アミン塩型、イミダゾリン型)やフッ素系(フルオロアルキル基、パーフルオロアルキル基)であることができる。さらに、フッ素樹脂粒子をカチオン系界面活性剤で水中に分散した溶液におけるフッ素樹脂粒子およびカチオン系界面活性剤の濃度は、適宜決定できるが、例えば、0.005〜0.5ml/Lの範囲とすることができる。
【0018】
溶液中に分散したフッ素樹脂粒子の平均粒子径は、例えば、0.1〜1.5μmであることができ、好ましくは、0.3μm〜0.5μmである。フッ素樹脂粒子を構成するフッ素樹脂は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリビリニレンフルオライド(PVDE)、ポリクロロトリフルオロエチレン共重合体(PCTFE)、およびテトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)から成る群から選ばれる少なくとも1種であることができる。
【0019】
前記溶液は、ノニオン系界面活性剤をさらに含有することもできる。ノニオン系界面活性剤を含有させることで、フッ素樹脂粒子の分散を促進でき、より小さい粒子が分散した複合めっき皮膜が得られる。ノニオン系界面活性剤は、特に制限はないが、例えば、フッ素型、フェノール型(ノニル系、アルキル系、合成アルコール系、天然アルコール系、他合成疎水期系)、ポリエチレングリコール型、多価アルコール型であることができる。ノニオン系界面活性剤の前記溶液中の無含有量は、例えば、0.005〜0.5ml/Lの範囲とすることができる。
【0020】
フッ素樹脂粒子含有溶液の塗布は、例えば、めっき皮膜を形成したい物品を前記溶液に浸漬することで行うことができる。フッ素樹脂膜の膜厚は、フッ素樹脂粒子の含有量等を変化させることで、適宜、制御できる。
【0021】
フッ素樹脂粒子含有溶液に浸漬後、必要により乾燥した後、フッ素樹脂が溶融する温度以上で熱処理することが好ましい。フッ素樹脂が溶融する温度とは、塗布により成形された膜中のフッ素樹脂粒子および/または複合めっき皮膜中に含まれる、特に複合めっき皮膜表面に存在するフッ素樹脂粒子が流動化し、粒子同士が融着し始める温度を意味する。フッ素樹脂が溶融する温度は、フッ素樹脂の種類に異なるが、一般には、200℃〜350℃の範囲である。なお、熱処理時間は、処理温度およびフッ素樹脂が融着の程度等を考慮して適宜決定できるが、例えば、0.5〜1時間の範囲である。
【0022】
上記熱処理は、大気中や真空中で行うことも、あるいは不活性ガス雰囲気中で行うこともできる。不活性ガスとしては、例えば、窒素、水素、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、ラドン等を挙げることができ、熱処理を不活性ガス雰囲気中で行うことで、熱処理による無電解ニッケルめっき皮膜表面の変色(テンパー色)を抑制できる。
【0023】
本発明の製造方法を用いることで、前記本発明の皮膜を形成することができ、かつ本発明の物品を製造することもできる。
【実施例】
【0024】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
図1に比較例のサンプル表面の断面の模式図を示す。図中、1は基材であり、10は無電解ニッケルめっき層であり、11は下地無電解ニッケルめっき層、12は(フッ素樹脂含有)無電解めっき層である。12の中の粒がフッ素樹脂粒子である。図2は、本発明のサンプル表面の断面の模式図である。図1と略同様の構成であるが、(フッ素樹脂含有)無電解めっき皮膜の表面に、さらにフッ素樹脂層13を設けている。
【0025】
図3のフロチャートに示す手順により基材である鉄材料(SPCC材)へ、所定の前処理工程を行い、次いで下地無電解ニッケルめっき(3μm)を施し、その上へ無電解ニッケルめっき、およびフッ素樹脂含有無電解めっき(10μm)を成膜した。
(1)所定の前処理工程とは、アルカリ脱脂、酸洗い、電解洗浄、酸活性である。
(2)無電解ニッケルめっき(3μm)は、以下のめっき液を用いて、以下の条件で行った。日本カニゼン社製シューマー「S-300」めっき液を90℃に保持して成膜した。
(3)フッ素樹脂含有無電解めっきのめっき液としては、界面活性剤(ノニオン系とカチオン系)を使用し、平均粒子径0.3-0.5μmのフッ素樹脂を分散させたフッ素樹脂溶液(フッ素樹脂を分散量5〜40ml/L)を無電解ニッケルめっき液(シューマー「カニフロン」)に添加しためっき液を用いた。
(4)上記めっき液を88-90℃に保持し、試験片を浸漬し、フッ素樹脂含有めっき皮膜を成膜した(10μm)。フッ素樹脂粒子を含有しないめっき皮膜も10μmである。フッ素樹脂粒子を含有しないめっき皮膜は、通常の無電解ニッケルめっき液を用いた。
(5)その後、界面活性剤を使用し分散させたフッ素樹脂容液に所定の時間(2〜5分間)浸漬し、フッ素樹脂を表面に形成した。
(6)さらに、250℃〜350℃で加熱処理を施し、フッ素樹脂膜を付着させた。(PTFE・350℃/1時間処理、PFE・350℃/1時間、FEP・300℃/1時間、PCTFE・250℃/1時間)でフッ素樹脂膜の膜厚は、各々0.4μmであった。
【0026】
本発明に係るフッ素樹脂含有無電解めっき皮膜を成膜した試験片、及び比較例に係る試験片フッ素樹脂薄膜構成の耐食性試験は、表1に示す通りである。
【0027】
(塩水噴霧試験)
中性塩水噴霧試験(SST)(JIS H8502)を行った。中性塩水噴霧試験の結果を、腐食がレイティングナンバー8に達するまでの時間として示す。本発明のめっき皮膜は、フッ素樹脂膜を有さない比較例より格段に耐食性が向上していることがわかる。
【0028】
【表1】

【0029】
(摩擦係数)
表1に示す本発明および比較例の各めっき皮膜について摩擦係数を測定し、表2および図4(静摩擦係数)および5(動摩擦係数)に示す。測定は、(新東亜科学製)HEIDON-14測定機器を使用し、静摩擦係数と動摩擦係数について求めた。表2および図4、5に示す通り、本発明のめっき皮膜は、フッ素樹脂膜を有さない比較例より、静摩擦係数および動摩擦係数ともに改善した。
【0030】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明はめっき分野に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】比較例のサンプル表面の模式図である。
【図2】本発明のサンプル表面の模式図である。
【図3】成膜手順を示す。
【図4】静摩擦係数の測定結果。
【図5】動摩擦係数の測定結果。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無電解めっき皮膜または無電解複合めっき皮膜上に、膜厚が5μm以下のフッ素樹脂膜を有するめっき皮膜であって、
前記フッ素樹脂膜を有するめっき皮膜は、中性塩水噴霧試験(JIS H8502)においてレイティングNo.8になる迄の時間が150時間以上である耐蝕性を有することを特徴とするめっき皮膜。
【請求項2】
前記フッ素樹脂膜は、膜厚が1μm以下である請求項1に記載の皮膜。
【請求項3】
前記耐蝕性は、レイティングNo.8になる迄の時間が200時間以上である請求項1または2に記載の皮膜。
【請求項4】
前記無電解複合めっき皮膜は、無電解めっきにフッ素樹脂粒子が分散したものである請求項1〜3のいずれか1項に記載の皮膜。
【請求項5】
前記フッ素樹脂粒子を構成するフッ素樹脂は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリビリニレンフルオライド(PVDE)、ポリクロロトリフルオロエチレン共重合体(PCTFE)、およびテトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)から成る群から選ばれる少なくとも1種である請求項4に記載の皮膜。
【請求項6】
前記無電解めっき皮膜および無電解複合めっき皮膜のマトリックスは、Ni-P、Ni-BまたはNi-P-Bの合金皮膜である請求項1〜5のいずれか1項に記載の皮膜。
【請求項7】
前記フッ素樹脂膜を構成するフッ素樹脂は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリビリニレンフルオライド(PVDE)、ポリクロロトリフルオロエチレン共重合体(PCTFE)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)から成る群から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜6のいずれか1項に記載の皮膜。
【請求項8】
表面の少なくとも一部に請求項1〜7のいずれか1項に記載の皮膜を有する物品。
【請求項9】
無電解めっき皮膜または無電解複合めっき皮膜上に、膜厚が5μm以下のフッ素樹脂膜を有するめっき皮膜の製造方法であって、
前記フッ素樹脂膜を、フッ素樹脂粒子をカチオン系界面活性剤で水中に分散した溶液を用いて形成することを特徴とする製造方法。
【請求項10】
前記溶液は、ノニオン系界面活性剤をさらに含有する請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記溶液中に分散した前記フッ素樹脂粒子の平均粒子径が、0.1〜1.5μmである請求項9または10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記溶液を塗布した後、フッ素樹脂が溶融する温度以上で熱処理する請求項9〜11のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項13】
前記熱処理は大気中または不活性雰囲気中で行う請求項9〜12のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項14】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の皮膜を形成するための請求項9〜13のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項15】
請求項8に記載の物品を製造するための請求項9〜13のいずれか1項に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−39711(P2007−39711A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−222422(P2005−222422)
【出願日】平成17年8月1日(2005.8.1)
【出願人】(391028339)日本カニゼン株式会社 (17)
【Fターム(参考)】