説明

フッ素系カルボン酸ジエステル、潤滑剤、ならびに磁気記録媒体および磁気記録媒体の製造方法

【課題】 潤滑剤として有用な化合物であって、酸性度が低く、高温高湿下で磁性金属と接触させても錆を発生させない化合物を提供する。
【解決手段】 一般式(a):
【化1】


(式中、R、R、R、Rはそれぞれ水素、脂肪族アルキル基または脂肪族アルケニル基を示し、RおよびRのいずれか一方が水素であり、RおよびRのいずれか一方が水素であり、mは1から6の整数であり、nは1から5の整数であり、p、qは0から30の整数であり、rは1〜12の整数である)で示されるフッ素系カルボン酸ジエステルであり、この化合物を用いて、例えば磁気記録媒体の潤滑剤層を形成すれば、潤滑性に加えて耐蝕性の点においても優れた磁気記録媒体が得られる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は高精度な潤滑性が要求される精密機械もしくは精密部品等に使用する潤滑剤、界面活性剤、離型剤および防錆剤等として有用な新規な含フッ素化合物、当該含フッ素化合物を含む界面活性剤および潤滑剤、ならびに当該潤滑剤を使用する磁気記録媒体およびその磁気記録媒体の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、磁気記録の分野においては、記録・再生機器のデジタル化、小型化および使用時間の長時間化等の高性能化に伴い、それに適した高密度磁気記録媒体の開発が活発に行なわれている。最近では塗布型磁気記録媒体に代わって、短波長記録に極めて有利な金属薄膜型磁気記録媒体が実用化されている。一般に、金属薄膜型磁気記録媒体とは、非磁性支持体上に、記録層として強磁性金属薄膜から成る磁性層を設けたテープおよびディスク等をいう。また、高密度磁気記録媒体の記録・再生に用いられる磁気記録媒体システムとしては、例えば、デジタルビデオデッキやハードディスクドライブが挙げられる。
【0003】デジタルビデオテープに代表される金属薄膜型磁気記録媒体においては、磁性層は極めて良好な表面性を有する、すなわち磁性層の面の粗度が小さい。そのため、磁性層と磁気ヘッドとの接触面積が増えるので、磁性層は信号の記録・再生の過程において磁気ヘッドと高速摺動する間に大きな摩擦力を受けて磨耗されやすい。磁性層の磨耗は、磁気記録媒体の走行耐久性あるいはスチル耐久性等に大きな影響を与えるため、これを低減させることは金属薄膜型磁気記録媒体の研究開発において大きな課題となっている。
【0004】そこで磁性層表面に潤滑剤層を設けることによって磨耗を低減し、走行耐久性およびスチル耐久性を改善しようとする試みがなされている。潤滑剤層を設ける場合、磁気記録媒体と磁気ヘッドとのスペーシングロスによる出力低下を極力抑えて高出力化を図るべく、磁性層表面の潤滑剤層は僅か数nmの厚さで潤滑特性を発揮することが求められている。
【0005】また、一般的なハードディスクドライブにおいてはCSS(コンタクト・スタート・ストップ)方式が採用されている。CSS方式とは、高密度磁気記録媒体であるハードディスクが停止している状態では磁気ヘッドがディスクに接触し、起動時にハードディスクが高速回転し始めると、これに伴って発生する空気流により磁気ヘッドがディスク表面から浮上し、この状態で記録・再生が行われる方式である。そして、停止時にディスクの回転が減速され、再び磁気ヘッドはハードディスクと接触するようになる。
【0006】このCSS方式においてはディスクの運転停止時あるいは起動開始時に磁気ヘッドがハードディスク表面を擦って走行するので、そのときに加わる摩擦力が大きな問題となっている。ハードディスクドライブの信頼性を保つにはCSS走行試験後の媒体の摩擦係数が初期と同じであることが望まれる。しかし、表面平坦性が高い、すなわち粗度の小さな磁気ディスクでは、この要求を満たすことは難しい。また、ハードディスクが高速で回転している際に、ヘッドと媒体とが衝突する、いわゆるヘッドクラッシュも解決すべき課題の1つである。そして、ヘッドクラッシュが発生する要因の一つとして、磁気記録媒体が適当な保護膜および潤滑剤層を有していないことが挙げられる。
【0007】さらに、高記録密度化に伴い、MRヘッドまたはGMRヘッドの搭載ならびにコンタクト記録方式の採用等、新たな技術への対応を考えていく必要がある。そのためには磁気記録媒体の潤滑特性をより向上させる必要がある。
【0008】そこで、磁気記録媒体に適した潤滑剤が広く検討されている。その1つとしてフッ素系化合物がある。フッ素系化合物は優れた潤滑特性を示すため、各種フッ素系化合物の使用が提案されている。中でもパーフルオロポリエーテルは、他のフッ素系化合物よりも潤滑性能や表面保護作用の点で優れているために幅広く用いられている。パーフルオロポリエーテルが優れた潤滑特性を示す理由として、分子内に酸素を含むエーテル結合が存在するために、同じ分子量のフルオロアルカン等と比較して粘度が低く、また、幅広い温度領域で粘度特性が変化しないこと等が挙げられる。さらに、パーフルオロポリエーテルは、反応性が低く化学的に不活性である、蒸気圧が低い、熱的安定性が高い、耐薬品性に優れ化学的安定性が高い、表面エネルギーが低い、ならびに撥水性が高いという特徴を有する。これらの特徴はいずれも潤滑剤として使用するうえで有利なものである。
【0009】極性基を有する市販のパーフルオロポリエーテルを潤滑剤層に含む磁気記録媒体は既に提案され、あるいは実用化されている。金属薄膜型磁気記録媒体用の潤滑剤としては、例えば、下記の化学式(x)で示されるパーフルオロポリエーテル系カルボン酸が市販されている。
【化2】


【0010】
【発明が解決しようとする課題】磁気記録媒体が具えるべき特性の1つとして耐蝕性がある。耐蝕性は、具体的には、高温高湿下に磁気記録媒体を放置したときの磁気記録媒体表面(潤滑剤層表面)における錆の発生状況によって評価される。
【0011】錆の発生は、保護膜としてダイヤモンドライクカーボン(DLC)から成る炭素膜を磁性層上に形成することによって有効に抑制される。DLC膜が磁性層表面を被覆して、磁性層を外気から遮断するためである。しかし、DLC膜の上に潤滑剤層を形成した場合、潤滑剤層中の潤滑剤の種類によっては、錆がより発生しやすい場合がある。それは、DLC膜の一部において膜が途切れ、その部分で潤滑剤と磁性層とが接触して反応することによる。一般に潤滑剤の酸性度が高いほど、錆はより発生しやすい。
【0012】磁気記録媒体の耐蝕性もまた、潤滑性能と同様に、より改善が望まれる磁気記録媒体の性能の1つである。しかしながら、上記のような極性基を有するパーフルオロポリエーテルは一般に酸性度が高いため、これを使用することは耐蝕性の点において好ましくない。一方、極性基を有しないパーフルオロポリエーテルを使用すれば、錆の発生は抑制されるが、極性基を有するものと比較して潤滑性は低下する。このように、耐蝕性と潤滑特性を両立させることは一般に困難である。
【0013】本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、酸性度の低いフルオロポリエーテル系カルボン酸を提供すること、電磁変換特性を損なうことなく、優れた耐蝕性および潤滑性を有する実用信頼性の高い磁気記録媒体を得ることを可能にする潤滑剤を提供すること、ならびに当該潤滑剤を用いた磁気記録媒体およびその製造方法を提供することを課題をする。
【0014】
【課題を解決するための手段】第一の要旨において、本発明は特定の構造を有する合フッ素化合物を提供する。かかる化合物は、一般式(a)で示される。
【0015】
【化3】


(式中、R、R、R、Rはそれぞれ水素、脂肪族アルキル基または脂肪族アルケニル基を示し、RおよびRのいずれか一方が水素であり、RおよびRのいずれか一方が水素であり、mは1から6の整数であり、nは1から5の整数であり、p、qは0から30の整数であり、rは1〜12の整数である)
【0016】本発明の含フッ素化合物は、一分子中に2個のカルボキシル基と、2個のエステル結合を有し、フルオロエーテルもしくはフルオロポリエーテル鎖を有する。この構造により、本発明の化合物が潤滑剤、特に磁気記録媒体の潤滑剤層用の潤滑剤に含まれる場合、その磁気記録媒体は優れた潤滑特性および耐蝕性を示す。したがって、本発明はまた、上記本発明の化合物を、潤滑剤を構成する化合物として提供するものである。
【0017】第二の要旨において、本発明は、上記本発明の化合物を少なくとも1種含んで成る潤滑剤を提供する。本発明の潤滑剤は、特に金属薄膜型磁気記録媒体の潤滑剤層を構成するのに適している。
【0018】第三の要旨において、本発明は、非磁性支持体の上に磁性層として形成された強磁性金属膜、磁性層の上に形成された保護膜および保護膜の上に形成された潤滑剤層を有する磁気記録媒体であって、潤滑剤層が本発明のフッ素系カルボン酸ジエステルを少なくとも1種含む磁気記録媒体を提供する。
【0019】第四の要旨において、本発明は、上記本発明の磁気記録媒体の製造方法を提供する。本発明の磁気記録媒体の製造方法は、その潤滑剤層の形成工程に特徴を有し、それ以外の工程は従来の磁気記録媒体の製造方法で用いられている工程を使用することができる。本発明の製造方法における潤滑剤層の形成工程は、炭化水素系溶媒とアルコール系溶媒との混合有機溶媒に、潤滑剤層を構成する化合物(即ち、潤滑剤)を溶解して調製した塗布液を保護膜上に塗布する工程を含むことを特徴とする。炭化水素系溶媒とアルコール系溶媒とを組み合わせた混合溶媒を使用することにより、塗布ムラが極めて少ない均一な薄い潤滑剤層が形成され得る。したがって、本発明の磁気記録媒体の製造方法によれば、優れた潤滑性能を有する実用信頼性の高い磁気記録媒体を得ることが可能である。
【0020】第五の要旨において、本発明は、上記本発明のフッ素系カルボン酸ジエステルを少なくとも1種含む界面活性剤を提供する。本発明のフッ素系カルボン酸ジエステルは、親水基であるカルボキシル基を2個有し、これが界面に強固に吸着するとともに、長い含フッ素鎖が表面に配向することにより低表面エネルギー面を形成するため、優れた界面活性効果を示す。
【0021】
【発明の実施の形態】本発明のフルオロポリエーテル系カルボン酸は一般式(a)で示され、同一分子内に2個のカルボキシル基と、2個のエステル結合と、フルオロエーテルもしくはフルオロポリエーテル鎖を有する。
【0022】
【化4】


【0023】一般式(a)において、R、R、R、Rはそれぞれ水素、脂肪族アルキル基または脂肪族アルケニル基を示し、RおよびRのいずれか一方が水素であり、RおよびRのいずれか一方が水素である。したがって、一般式(a)で示される化合物には、■Rが水素であってRが脂肪族アルキル基または脂肪族アルケニル基であり、Rが脂肪族アルキル基または脂肪族アルケニル基であってRが水素である化合物、■Rが脂肪族アルキル基または脂肪族アルケニル基であってRが水素であり、Rが水素であってRが脂肪族アルキル基または脂肪族アルケニル基である化合物、■Rが脂肪族アルキル基または脂肪族アルケニル基であってRが水素であり、Rが脂肪族アルキル基または脂肪族アルケニル基であってRが水素である化合物、および■Rが水素であってRが脂肪族アルキル基または脂肪族アルケニル基であり、Rが水素であってRが脂肪族アルキル基または脂肪族アルケニル基である化合物、ならびに■R〜Rがすべて水素である化合物が含まれる。
【0024】脂肪族アルキル基または脂肪族アルケニル基の炭素数は、好ましくは1〜22であり、より好ましくは8〜18である。
【0025】一般式(a)において、mは1から6の整数であり、nは1から5の整数であり、pおよびqはそれぞれ0から30の整数である。mはより好ましくは、2〜5の整数である。nはより好ましくは1〜4の整数である。(m、n)の好ましい組合せは(2,1)または(1,2)である。pはより好ましくは2〜6の整数であり、qはより好ましくは2〜6の整数である。rは1〜12の整数である。
【0026】一般式(a)において−(OC2m(OC2n−で示される部分が1種のオキシフルオロアルキレンのみから成る場合、一般式(a)においてq=0であるとし、一般式(a)で示される化合物は(OC2m)のみを含むものとする。この場合、mは、好ましくは2である。
【0027】pおよびqがともに0である場合、一般式(a)で示される化合物は、1つのエーテル結合を含むから、いわゆるフルオロエーテルを含む。p≠0かつq=0である場合、あるいはpおよびqがともに1以上の整数である場合、一般式(a)で示される化合物においてエーテル結合の数は2以上となり、当該化合物はフルオロポリエーテル鎖を含むこととなる。
【0028】一般式(a)において−(OC2m(OC2n−で示される部分は、2種のオキシフルオロアルキレン単位が共重合している部分に相当する。pおよびqは共重合体中の各オキシフルオロアルキレン単位の数を示す。オキシフルオロアルキレン単位(OC2m)とオキシフルオロアルキレン単位(OC2n)とから成る共重合体は、p個の(OC2m)のブロックとq個の(OC2n)のブロックとから成るブロック共重合体もしくは他のブロック共重合体、ランダム共重合体、または交互共重合体であってよい。したがって、一般式(a)は、−(OC2m(OC2n−で示される部分がブロック共重合体、ランダム共重合体および交互共重合体であるものを含む。
【0029】一般式(a)で示される化合物は、フッ素原子が結合した炭素とカルボキシル基との間に−(CH−およびエステルが存在するために、例えば先の式(x)で示される化合物と比較して、その酸性度が低い。したがって、この化合物を少なくとも1種含む潤滑剤が磁気記録媒体の潤滑剤層に含まれる場合には、錆の発生が有効に防止され、優れた耐蝕性が磁気記録媒体に付与される。また、この化合物は、潤滑剤層において、両末端のカルボキシル基が磁気記録媒体の保護膜(特に炭素膜)に強固に付着して、表面にフルオロエーテルまたはフルオロポリエーテルを露出させるので、優れた潤滑特性を磁気記録媒体に付与する。
【0030】一般式(a)で示される化合物は、アルキル無水コハク酸、アルケニル無水コハク酸、または無水コハク酸と、フロロアルキレンオキサイド基を有するフロロアルキルジアルコールとを混合加熱撹拌することによって製造される。ここで、フルオロアルキレンオキサイド基(即ち、オキシフルオロアルキレン基)とは、−O−R−もしくは−R−O−(−R−はフルオロアルキレン基、例えばパーフルオロアルキレン基)を指す。加熱温度は60〜120℃であり、好ましくは80〜100℃である。加熱温度が60℃未満であると多くの未反応物が残る傾向にある。一方、加熱温度が100℃を越えると副生成物が生成される傾向にある。
【0031】使用できるアルキル無水コハク酸、アルケニル無水コハク酸、または無水コハク酸としては、メチル無水コハク酸、エチル無水コハク酸、ブチル無水コハク酸、プロピル無水コハク酸、ヘキシル無水コハク酸、ヘプチル無水コハク酸、オクチル無水コハク酸、ノニル無水コハク酸、デシル無水コハク酸、ウンデシル無水コハク酸、ドデシル無水コハク酸、トリデシル無水コハク酸、テトラデシル無水コハク酸、ペンタデシル無水コハク酸、ヘキサデシル無水コハク酸、ヘプタデシル無水コハク酸、オクタデシル無水コハク酸、ノナデシル無水コハク酸、イコシル無水コハク酸、または無水コハク酸がある。フロロアルキレンオキサイド基を有するフロロアルキルジアルコールとしては、Fomblin Z dol(商品名;Ausimont社製)等がある。
【0032】混合加熱攪拌は、好ましくは適当な溶媒の存在下で実施される。溶媒は、例えば、ノルマルヘプタン、ノルマルオクタン、またはヘキサフルオロキシレンである。
【0033】得られた混合物から、減圧蒸留により溶媒を除去し、残留を有機溶媒で抽出して、目的化合物を分離する。分離した化合物は、赤外分光分析(IR)、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)および有機質量分析(FD−MS)により同定することができる。
【0034】一般式(a)において、RおよびRの組合せと、RおよびRの組合せが同一である化合物を得るには、1種類のアルキル無水コハク酸、アルケニル無水コハク酸または無水コハク酸と、フロロアルキレンオキサイド基を有するフロロアルキルジアルコールとを、2:1(モル比)の割合で混合加熱攪拌する。
【0035】一般式(a)において、RおよびRの組合せと、RおよびRの組合せが異なる化合物は、1種類のアルキル無水コハク酸、アルケニル無水コハク酸または無水コハク酸と、フロロアルキレンオキサイド基を有するフロロアルキルジアルコールとを、1:1(モル比)の割合で混合加熱攪拌して得られた生成物を、別の種類のアルキル無水コハク酸、アルケニル無水コハク酸または無水コハク酸と1:1(モル比)の割合で混合加熱攪拌することにより得られる。
【0036】一般に、生成物は先に説明した■〜■の構造の化合物を含む。■〜■の構造の化合物は互いに構造異性の関係にある。■〜■の構造の化合物を含む混合物は、上述の溶媒抽出の後、例えばカラムクロマトグラフィーにより各化合物に単離できる。■〜■の構造の化合物が混合されたものは分離することなく、潤滑剤または界面活性剤として使用することができる。
【0037】このようにして得られる本発明のフッ素系カルボン酸ジエステルは潤滑剤を構成する材料として有用である。そして、本発明のフッ素系カルボン酸ジエステルを少なくとも1種含んで成る本発明の潤滑剤は、例えば、磁気記録媒体の潤滑剤層を構成するのに適している。本発明の潤滑剤は、本発明のフッ素系カルボン酸ジエステルを1種のみ含むものであってよく、あるいは2種以上含む組成物であってもよい。
【0038】本発明の潤滑剤は、本発明のフッ素系カルボン酸ジエステルのみで構成されてもよいが、それ以外に他の潤滑剤、防錆剤および極圧剤等が適宜含まれて成る組成物であってもよい。その場合、本発明のフッ素系カルボン酸ジエステルの占める割合は、組成物の全量に対して40重量%以上であることが好ましく、60重量%以上であることがより好ましい。本発明のフッ素系カルボン酸ジエステルの占める割合が40重量%未満であると、例えばこの組成物で磁気記録媒体の潤滑剤層を形成した場合、良好な耐蝕性を磁気記録媒体に付与することができない場合がある。
【0039】本発明の磁気記録媒体は、非磁性支持体の上に磁性層として形成された強磁性金属膜、磁性層の上に形成された保護膜および保護膜の上に形成された潤滑剤層を有する磁気記録媒体であって、潤滑剤層が本発明の潤滑剤を含むものである。すなわち、潤滑剤層は、一般式(a)で示される本発明のフッ素系カルボン酸ジエステルを少なくとも1種含んで成る潤滑剤を含有する。潤滑剤層中に含まれる本発明のフッ素系カルボン酸ジエステルの量は、潤滑剤層の表面1m2当たり0.05〜100mgであることが好ましく、0.1〜50mgであることがより好ましい。潤滑剤層にこのような少量のフッ素系カルボン酸ジエステルを均一に存在させるために、本発明の磁気記録媒体の潤滑剤層は次の方法で形成することが望ましい。
【0040】潤滑剤層は、常套の材料および手段を用いて非磁性支持体の上に強磁性金属薄膜および保護膜をこの順に形成した後、保護膜上に形成する。潤滑剤層の形成工程は、炭化水素系溶媒とアルコール系溶媒との混合溶媒に本発明の潤滑剤を溶解して調製した塗布液を保護膜上に塗布する工程、ならびに塗布した塗布液を乾燥して混合溶媒を蒸発させる工程を含む。最終的に混合溶媒が蒸発することにより、保護膜上には溶媒に溶解した潤滑剤が残って潤滑剤層を形成する。従って、塗布液を厚く塗布しても、溶媒が蒸発することにより、保護膜上には均一で非常に薄い潤滑剤層、すなわち少量の潤滑剤が保護膜を均一に被覆した潤滑剤層が形成される。
【0041】本発明で使用できる炭化水素系溶媒は、例えば、トルエン、ヘキサン、へプタン、オクタン、ノナン、キシレンおよびケトン等である。本発明で使用できるアルコール系溶媒は、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコールおよびブチルアルコール等の低級アルコールである。混合有機溶媒は、具体的には、トルエンとイソプロピルアルコールの混合溶媒、ヘキサンとイソプロピルアルコールの混合溶媒、またはヘプタンとイソプロピルアルコールの混合溶媒であることが好ましい。アルコール系溶媒の割合が大きすぎると塗布ムラが生じやすく、一方、炭化水素系溶媒の割合が大きすぎるとコスト面で不利であるため、両者は、混合割合が重量比で1:9〜9:1の範囲、好ましくは3:7〜7:3の範囲となるように混合して使用することが好ましい。
【0042】塗布液の濃度および塗布厚は、溶媒が蒸発した後に保護膜上に形成される潤滑剤層が所望の厚さになるように塗布する。一般には、潤滑剤の濃度が100〜10000ppmである塗布液を、10〜100μmの厚さとなるように塗布することが好ましい。
【0043】上記混合溶媒を用いて潤滑剤層を形成する方法としては、バーコーティング法、グラビアコーティング法、リバースロールコーティング法、ダイコーティング法、ディップコーティング法およびスピンコーティング法等の湿式塗布法または有機蒸着法があり、いずれの方法を採用してもよい。
【0044】塗布液を塗布した後、乾燥処理して有機溶媒を蒸発させると、保護膜上に潤滑剤層が形成される。乾燥処理は、加熱あるいは自然乾燥によって実施することができる。そして、最終的に得られる潤滑剤層の厚さは3〜5nm程度とすることが好ましい。ただし、潤滑剤の組成に応じて潤滑剤層の厚さの最適範囲が存在するため、潤滑剤層の厚さは必ずしもこの範囲に限定されるものではない。
【0045】このように、所定の混合有機溶媒を用いることにより、塗布ムラのない均一な厚さの潤滑剤層が得られ、しかも溶媒が最終的に蒸発した後には数nmという非常に薄い潤滑剤層を形成することができる。その結果、優れた潤滑性能を有する実用信頼性の高い磁気記録媒体が得られる。
【0046】先に述べたとおり、本発明の磁気記録媒体は、潤滑剤層以外の層に関しては、常套の材料および手段を採用して形成することができる。
【0047】例えば、非磁性支持体は、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、芳香族ポリアミド、もしくは芳香族ポリイミドからなるフイルム;ポリ塩化ビニルもしくはポリ塩化ビニリデン等のビニル系樹脂からなるフィルム;ポリカーボネート、ガラス、セラミック、アルミニウムもしくは銅等の金属、アルミニウム合金もしくはチタン合金等の軽金属、または単結晶シリコン等から成る基板;あるいは紙であってよい。非磁性支持体としてアルミニウム合金から成る基板またはガラス基板等の剛性の大きい基板を使用する場合には、アルマイト処理等により基板表面に酸化被膜やNi−P被膜等を形成してその表面を硬くしてもよい。
【0048】非磁性支持体の強磁性金属薄膜が形成される表面(即ち、磁性層と接する側の面)には、実用信頼性と良好なRF出力値とを両立するために、直径50〜700nm、高さ5〜70nmの突起形成処理が施されていることが望ましい。突起は、具体的には、例えば、SiOまたはZnO等の無機物質から成る超微粒子、あるいはイミド等の有機物質から成る超微粒子を非磁性支持体の表面に分散し固着させることにより形成される。あるいは、突起はそのような微粒子を含む高分子材料をフィルムに成形することにより形成される。
【0049】本発明の磁気記録媒体において、磁性層は強磁性金属薄膜である。磁性層に適した強磁性金属としては、Fe系金属、Co系金属、およびNi系金属がある。本発明においてはCo系金属で磁性層を形成することが特に好ましい。ここで、「Co系金属」とは、コバルト、およびコバルトを主成分として好ましくは50原子%以上含む合金をいう。「Fe系金属」および「Ni系金属」も同様である。
【0050】強磁性金属薄膜は、具体的には、Fe、CoおよびNi、ならびにCo−Ni、Co−Fe、Co−Cr、Co−Cu、Co−Pt、Co−Pd、Co−Sn、Co−Au、Fe−Cr、Fe−Co−Ni、Fe−Cu、Ni−Cr、Fe−Co−Cr、Co−Ni−Cr、Co−Pt−CrおよびFe−Co−Ni−Cr等の合金から選択される1または複数の材料で形成される。強磁性金属薄膜は酸素を含んでいてよく、酸素はこれらの金属または合金の酸化物の形態で含まれていてよい。強磁性金属薄膜は、単層膜の形態であってもよく、あるいは多層膜の形態であってもよい。
【0051】強磁性金属薄膜はイオンプレーティング法、スパッタリング法または電子ビーム蒸着法等で形成することができる。強磁性金属薄膜を酸素雰囲気下で形成すれば、強磁性金属薄膜に酸素が含まれることとなる。強磁性金属薄膜の厚さは一般に30nm〜300nmである。
【0052】保護膜は、好ましくは炭素膜である。炭素膜は、ビッカース硬度が約2.45×10N/mm(約2500kg/mm)と高く、磁気記録媒体のダメージを潤滑剤層と共に防止する。実用信頼性と出力とのバランスを考慮すれば、その厚さは1〜20nmであることが好ましい。
【0053】炭素膜は、炭化水素ガスのみ、もしくは炭化水素ガスと不活性ガスとの混合ガスを用いたプラズマCVD法により形成されるグラファイト状カーボンまたはダイヤモンドライクカーボンであることが好ましい。ダイヤモンドライクカーボンは適度な硬度を有し、磁気ヘッドを損傷することなく磁気記録媒体の損傷を抑制し得ることから、最も好ましい材料である。
【0054】炭素膜は、具体的には、真空容器中に炭化水素ガスまたは炭化水素ガスとアルゴン等の不活性ガスの混合ガスを導入し、容器内の圧力を0.13〜130Paに保った状態で真空容器内部で放電を発生させ、炭化水素ガスのプラズマを発生させることにより、強磁性金属薄膜上に形成する。放電形式は外部電極方式および内部電極方式のいずれでもよく、放電周波数は実験的に決めることができる。また、非磁性支持体側に配置される電極に0KVから−3KVの電圧を印加することによって、炭素膜の硬度を増大させることができ、また、炭素膜と強磁性金属薄膜との密着性を向上させることができる。炭化水素ガスとしては、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタンまたはベンゼン等を用いることができる。
【0055】なお、硬質の炭素膜を形成するためには、放電エネルギーを大きくすることが望ましく、併せて非磁性支持体の温度を高温に維持することが望ましい。例えば、放電エネルギーは、交流電流、例えば高周波電流と直流電流を重畳して実効値を600V以上にすることが望ましい。
【0056】本発明においては、炭素膜の表層部に含窒素プラズマ重合膜を形成し、潤滑剤層が炭素膜の含窒素プラズマ重合膜上に形成されていることが好ましい。含窒素プラズマ重合により炭素膜の表層部にアミノ基が存在することとなり、その結果、潤滑剤層と炭素膜との間の付着強度がより大きくなり、磁気記録媒体の耐久性がより向上することとなる。そして、潤滑剤層に特定の含フッ素化合物等を含有させることと相俟って、電磁変換特性が損なわれることなく優れた潤滑性能を有する走行耐久性、スチル耐久性および耐蝕性が向上した実用信頼性の高い磁気記録媒体が得られる。
【0057】含窒素プラズマ重合膜は、真空容器中にプロピルアミン、ブチルアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミンもしくはテトラメチレンジアミン等のアミン化合物をガス化して導入し、容器内の圧力を0.13〜130Paに保った状態で、真空容器内部に高周波放電を生じさせて形成する。含窒素プラズマ重合膜を形成することにより上記特定の含フッ素化合物を含む潤滑剤の化学吸着力が向上し、その結果、潤滑剤層と炭素膜との間の付着強度が向上する。含窒素プラズマ重合膜の膜厚は3nm未満が適当であり、これよりも含窒素プラズマ重合膜が厚い場合には炭素膜の保護効果が低下する。なお、炭素膜の表層部に含窒素プラズマ重合膜を形成する方法は、米国特許第5540957号および第5637393号に開示されており、この引用によりこれらの特許に開示された内容は本明細書の一部を構成する。
【0058】本発明の磁気記録媒体は、非磁性支持体の磁性層が形成された面とは反対の面にバックコート層を有してよい。バックコート層は、ポリウレタン、ニトロセルロース、ポリエステル、カーボンおよび炭酸カルシウム等から選ばれる1つもしくは複数の材料により形成される層であってよく、あるいは、金属、金属酸化物または合金から成る薄膜であってよい。バックコート層の厚さは約50〜500nmとすることが好ましい。
【0059】
【実施例】次に、本発明の具体的な実施例について説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0060】(実施例1)
[化合物(a1)の合成]下記の化学式(a1)で示される化合物を合成した。
【0061】
【化5】


【0062】化学式(a1)で示される化合物は、一般式(a)においてRおよびRがが炭素数1のメチル基で、RおよびRが水素であり、m=2、n=1、p=3、q=4、r=1である。
【0063】化学式(a1)で示される化合物の製造方法を説明する。出発原料は化学式(b1)で示されるメチル無水コハク酸23.0g(0.20モル)と化学式(c1)で示されるFomblin Z dol(商品名;Ausimont社製)200.0g(0.10モル)である。
【0064】
【化6】


【0065】
【化7】


【0066】上記の原料とノルマルオクタン500mlとを撹拌翼を備えた1リットルのフラスコに投入し、80℃にて24時間攪拌して反応させた。反応終了後、ノルマルオクタンを留去し、反応混合物をアセトンに溶解し、−10℃に冷却して未反応のメチル無水コハク酸を除去した。さらに、反応混合物をメタノールに溶解して同様の処理を実施し、未反応のFomblin Z dolを除去して透明液体223gを得た。この透明液体はIR、GPCおよびFD−MSにより、出発原料および副生成物を含まない化学式(a1)で示される化合物であることが確認された。この化合物の赤外スペクトルを図1に示す。
【0067】IR;酸無水物の1,775cm-1の吸収ピークおよびアルコールの3,330cm-1の吸収ピーク消滅、カルボン酸の1,705cm-1、エステルの1,760cm-1の吸収ピーク出現。
GPC;Fomblin Z dol、メチル無水コハク酸検出されず。
FD−MS;m/e 2,230に主ピーク有り。
【0068】上記においては、化学式(a1)のみを得られた生成物として示しているが、上記の方法で製造した生成物は、それに加えて、下記化学式(a1’)で示されるRおよびRがメチル基で、RおよびR3が水素である化合物、下記化学式(a1”)で示されるRおよびRがメチル基で、RおよびRが水素である化合物、および下記化学式(a1''')で示されるRおよびRがメチル基で、RおよびRが水素である化合物を含む混合物として得られる。IR、GPCおよびMSは化学式(a1)で示される化合物を単離して測定したものである。
【0069】
【化8】


【0070】
【化9】


【0071】
【化10】


【0072】化学式(a1’)、(a1”)および(a''')で示される化合物もまた、化学式(a1)で示される化合物と同じ性質を有し、潤滑剤として有用である。化学式(a1)、(a1’)、(a1”)および(a''')で示される化合物は、互いに構造異性の関係にある。これらの化合物は上記の製造方法に従って製造した場合に、生成物中に含まれる。これらの化合物は、それぞれ単離して潤滑剤として使用してよい。あるいは、化学式(a1)、(a1’)、(a1”)および(a''')で示される化合物を分離することなく、生成物(即ち構造異性体を含む混合物)をそのまま潤滑剤として使用してよい。
【0073】[化合物(a2)〜(a4)の合成]メチル無水コハク酸に代えて、化学式(b2)、(b3)、(b4)で示される化合物をそれぞれ用い、化学式(a1)で示される化合物の製造方法と同じ方法で、化学式(a2)、(a3)、(a4)で示される化合物を製造した。下記の化学式(a2)および(a4)で示される化合物は、実際の合成においては構造異性体とともに得られる。
【0074】
【化11】


【0075】
【化12】


【0076】
【化13】


【0077】
【化14】


【0078】
【化15】


【0079】
【化16】


【0080】[化合物(a5)〜(a7)の合成]化学式(c1)で示されるフルオロアルキレンオキサイド基を有するジアルコールに代えて、化学式(c2)、(c3)、(c4)で示される化合物をそれぞれ用い、化学式(a1)で示される化合物の製造方法と同じ方法で、化学式(a5)、(a6)、(a7)で示される化合物を製造した。
【0081】
【化17】


【0082】
【化18】


【0083】
【化19】


【0084】
【化20】


【0085】
【化21】


【0086】
【化22】


【0087】実施例2〜5において、本発明の磁気記録媒体の実施例を説明する。
【0088】(実施例2)非磁性支持体として、表面に粒状突起を有するポリエステルフィルムを用意した。具体的には、■シリカ微粒子を含む高分子材料をフィルムに成形することにより形成された勾配のゆるやかな突起(平均高さ7nm、直径1μm)を100μm当たり数個有し、かつ■直径15nmのシリカコロイド粒子が紫外線硬化エポキシ樹脂でポリエステルフィルム表面に固着されて形成された急峻な突起を1mm当り1×10個有するポリエステルフィルムを使用した。本実施例で使用したポリエステルフィルムは、重合触媒の残さに由来する微粒子によってフィルム表面に形成される比較的大きな突起の数が極めて少ないものであった。
【0089】ポリエステルフィルムの粒状突起が形成された面に、連続真空斜め蒸着法によりCoから成る強磁性金属薄膜(膜厚100nm)を微量の酸素の存在下で形成した。強磁性金属薄膜中の酸素含有量は原子分率で5%であった。
【0090】次に、強磁性金属薄膜の上に、プラズマCVD法によってダイヤモンドライクカーボンから成る厚さ5nmの保護膜を形成した。保護膜は、真空容器中にヘキサンガスとアルゴンガスとを4:1の比(圧力比)で混合したガスを導入し、トータルガス圧を39Paに保ちながら、周波数20KHz、電圧1500Vの交流と1000Vの直流を重畳し、これを放電管内の電極に印加することにより形成した。さらに、炭素膜上にプロピルアミンガスを導入し、6.5Paの圧力を保った状態で10KHzの高周波プラズマ処理を行ない、炭素膜の表層部に厚さ2.5nmの含窒素プラズマ重合膜を形成した。
【0091】続いて、この保護膜上に実施例1で製造した化学式(a1)で示されるフッ素系カルボン酸ジエステルを、イソプロピルアルコールとトルエンとの混合有機溶媒(重量比1:1)に溶解して塗布液を調製した。本実施例においては、化学式(a1)で示される化合物とともに生成された化学式(a1’)および(a1”)で示される構造異性体を含むものを分離することなく潤滑剤として使用した(以下の実施例においても同じ)。
【0092】調製した塗布液をリバースロールコータを用いて湿式塗布法で塗布した後、乾燥処理して溶媒を蒸発させた。最終的に保護膜上には、潤滑剤を表面1mあたり10mg含有する潤滑剤層が形成された。
【0093】これを所定幅に裁断して磁気テープを作製した。この磁気テープを50℃、80%RHの環境下で10日間放置し、保存後のテープ表面状態を光学顕微鏡で観察した。また、化合物(a1)の酸性度を、化合物(a1)をメタノールに溶解し、PH試験紙の色の変化を調べることにより簡易的に測定した。
【0094】(実施例3)化学式(a1)で示される化合物に代えて化学式(a2)で示される化合物を使用して、実施例2と同じ方法で磁気テープを作製して同様の試験を行った。この実施例では、化合物(a2)の酸性度を測定した。
【0095】(実施例4)化学式(a1)で示される化合物に代えて、化学式(a1)で示される化合物と公知の潤滑剤C1733COOC24817を重量比で1:1の割合で混合した混合物を用いて潤滑剤層を形成したことを除いては、実施例2と同じ方法で磁気テープを作製して同様の試験を行った。
【0096】(実施例5)化学式(a1)で示される化合物に代えて、化学式(a1)で示される化合物と市販の潤滑剤であるパーフルオロポリエーテル(Fomblin Z DOL,平均分子量2000:Ausimont社製)を重量比で2:1の割合で混合した混合物を用いて潤滑剤層を形成したことを除いては、実施例2と同じ方法で磁気テープを作製して同様の試験を行った。
【0097】実施例2〜5の試験結果を表1に示す。表中の比較例1および2は、潤滑剤としてそれぞれ下記化学式(x1)および(y1)で示される化合物を使用して作製した磁気テープの試験結果である。
【0098】
【化23】


【0099】
【化24】


【0100】
【表1】


【0101】表1に示すように、本発明のフッ素系カルボン酸ジエステルを含む潤滑剤で潤滑剤層を形成した磁気テープ試料については、50℃、80%RHの環境下で10日間放置した後もテープ表面に錆が発生せず、各実施例の磁気テープはいずれも耐蝕性に優れていた。一方、公知の潤滑剤のみで潤滑剤層を形成した磁気テープは、表面に錆が発生し、高温高湿下での保存に耐え得るものでなかった。
【0102】実施例2〜5は、化学式(a1)および(a2)で示される化合物、ならびに化学式(a1)で示される化合物と公知の潤滑剤との混合物を潤滑剤として、潤滑剤層を形成した磁気記録媒体である。潤滑剤として、上記化学式(a3)〜(a7)で示される化合物、またはこれらの化合物と公知の潤滑剤との混合物で潤滑剤層を形成した磁気記録媒体もまた、同様に優れた耐蝕性を示す。
【0103】
【発明の効果】本発明のフッ素系カルボン酸ジエステルは、両末端にカルボキシル基を有するにもかかららず、その酸性度が低いことを特徴とする。この化合物はまた、フルオロポリエーテルを分子中に含むため、優れた潤滑性能を呈する。したがって、本発明の潤滑剤は、様々な機械、装置もしくは部品の潤滑剤として有用なものである。本発明の化合物はまた、界面活性剤としても有用なものである。
【0104】したがって、本発明の潤滑剤が、非磁性支持体上に強磁性金属薄膜、保護膜および潤滑剤層がこの順に設けられて成る磁気記録媒体の潤滑剤層に含まれる本発明の磁気記録媒体は、高温高湿の環境下に保存しても錆が発生しにくく、優れた耐蝕性を示す。この磁気記録媒体は、特にデジタルビデオテープレコーダやHDDで用いるのに適している。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施例1で合成した化学式(a1)で示されるフッ素系カルボン酸ジエステルの赤外分光分析の結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 一般式(a):
【化1】


(式中、R、R、R、Rはそれぞれ水素、脂肪族アルキル基または脂肪族アルケニル基を示し、RおよびRのいずれか一方が水素であり、RおよびRのいずれか一方が水素であり、mは1から6の整数であり、nは1から5の整数であり、p、qは0から30の整数であり、rは1〜12の整数である)で示されるフッ素系カルボン酸ジエステル。
【請求項2】 潤滑剤用の請求項1に記載のフッ素系カルボン酸ジエスエル。
【請求項3】 請求項1に記載のフッ素系カルボン酸ジエスエルを少なくとも1種含んでなる潤滑剤。
【請求項4】 請求項1に記載のフッ素系カルボン酸ジエスエルを少なくとも1種含んでなる界面活性剤。
【請求項5】 非磁性支持体の上に磁性層として形成された強磁性金属膜、磁性層の上に形成された保護膜および保護膜の上に形成された潤滑剤層を有する磁気記録媒体であって、潤滑剤層が請求項1に記載のフッ素系カルボン酸ジエステルを少なくとも1種含む磁気記録媒体。
【請求項6】 保護膜がダイヤモンドライクカーボンである請求項5に記載の磁気記録媒体。
【請求項7】 保護膜が表層部に含窒素プラズマ重合膜を有する炭素膜であり、潤滑剤層が炭素膜の含窒素プラズマ重合膜上に形成されていることを特徴とする請求項5または請求項6に記載の磁気記録媒体。
【請求項8】 請求項5〜7のいずれか1項に記載の磁気記録媒体の製造方法であって、保護膜の上に潤滑剤層を形成する工程が、炭化水素系溶媒とアルコール系溶媒との混合有機溶媒に潤滑剤を溶解して調製した塗布液を保護膜の上に塗布する工程を含むことを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項9】 炭化水素系溶媒とアルコール系溶媒との混合割合が重量比で1:9〜9:1の範囲内にあることを特徴とする請求項8に記載の磁気記録媒体の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2002−241349(P2002−241349A)
【公開日】平成14年8月28日(2002.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2001−38375(P2001−38375)
【出願日】平成13年2月15日(2001.2.15)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】