説明

フッ素系グラフト共重合体及びその用途

【課題】撥水・撥油性及び耐汚染性等のフッ素特性と、基材密着性及び塗膜強度等とを高度にバランス化した性能を発揮するグラフト共重合体およびこれを用いたコーティング剤並びに当該コーティング剤を用いてなるキャリアを提供することを課題とする。
【解決手段】主鎖がフッ素系重合体からなり、0.7〜3.0meq/gの架橋性官能基を有する重合体を側鎖とする特定のグラフト共重合体を含むコーティング剤、並びに該コーティング剤を被覆してなるキャリア。
上記グラフト共重合体はさらに主鎖をなすフッ素系重合体中に該重合体あたり1〜10個相当量の架橋性官能基を有することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素系グラフト共重合体およびこれを用いてなるコーティング剤に関する。さらに詳しくは、特定のフッ素系グラフト共重合体を含んでなる、十分な基材密着性及び塗膜強度等を有し、かつ撥水・撥油性及び耐汚染性等の良好なコーティング剤、並びに耐久性及び耐トナー汚染性に優れる乾式電子写真キャリアに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、撥水・撥油性並びに耐汚染性を付与するコーティング剤として、フッ素系重合体を含むコーティング剤が用いられており、当該フッ素系重合体としては、パーフルオロ(メタ)アクリレートと、これ以外のラジカル重合性単量体とのランダム共重合体が知られている。ここで、高い撥水・撥油性並びに耐汚染性を得るためには共重合体中のパーフルオロ(メタ)アクリレートの含有量が十分高いものであることを要するが、このような共重合体を含むコーティング剤を使用する際には塗膜強度や基材への密着性が劣るという問題があるため、実際には共重合体中のパーフルオロ(メタ)アクリレートの含有量をあまり高めることができず、撥水・撥油性並びに耐汚染性は満足できるレベルには至っていない。
【0003】
これに対し、パーフルオロ(メタ)アクリレートの含有量を少なくしつつ、高い撥水・撥油性並びに耐汚染性を示す共重合体を得る手段として、パーフルオロ(メタ)アクリレート単位からなる重合体を枝、または幹セグメントとするグラフト共重合体及びこれを用いた塗料が提案されている。
例えば、特許文献1では枝セグメントとして非フッ素系重合体、幹セグメントとしてパーフルオロ(メタ)アクリレートを必須の重合体成分とするグラフト共重合体が開示されている。また、特許文献2及び3には、パーフルオロ(メタ)アクリレートを必須構成成分とする重合体を枝セグメントとするグラフト共重合体、並びにこれを用いたコーティング剤が開示されている。
【0004】
また、フッ素系重合体を含むコーティング剤が用いられる用途の一つとして電子写真キャリア用コーティング剤を挙げることができる。
電子写真などの静電現像においては、感光体上に形成された静電潜像の荷電部にトナー粒子が付着して像が形成される。この際の現像方法は湿式現像法と乾式現像法に大きく分類され、前者では現像剤として高絶縁性液体中にアクリル樹脂やアルキッド樹脂などの樹脂と着色剤や極性制御剤などから調整したトナー粒子を分散させたものが用いられている。
一方、後者における乾式現像剤にはトナーとキャリアを含む二成分系のもの、及びトナーのみを主成分とする一成分系のものがあるが、中でも二成分系の現像剤は耐久性や画質等が良好であることからプリンターや複写機において広く用いられている。
【0005】
上記二成分系現像剤ではキャリア粒子とトナー粒子とを混合攪拌することによりトナー粒子が荷電を帯び、これが感光体上の静電潜像に付着して現像される。キャリア粒子としては鉄粉、フェライト粉末、ガラスビーズ又はプラスチックビーズ等のコア材粒子表面を絶縁性樹脂で被覆したものが一般に用いられるが、長期間使用した際には被覆層の剥離又は欠損による摩擦帯電性の不安定化、並びにトナー成分がキャリア表面に付着固化すること等により画質が低下するいわゆるカブリ等の現象を招く場合がある。このため、キャリアに対しては長期間に渡りトナーとの間に安定した摩擦帯電性を確保するような耐久性、及び耐トナー汚染性といった特性が要求される。
上記課題に対して表面エネルギーの低いフッ素系重合体を含む各種キャリア用コーティング剤が検討されており、例えば特許文献4では特定のフッ素系単量体を含む単量体からなる重合体を含む組成物を被覆してなるキャリアが開示されている。また、特許文献5及び6にはフッ素含有樹脂と架橋剤からなるキャリア用コーティング剤の使用により、キャリアコーティング層の剥がれ等が抑制され耐久性が向上することが記載されている。更に、特許文献7及び8には特定のフッ素系グラフト共重合体により耐久性及び耐トナー汚染性を向上したコーティング剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−228534号公報
【特許文献2】特開平9−67417号公報
【特許文献3】特開2000−44635号公報
【特許文献4】特開昭61−120169号公報
【特許文献5】特開昭60−60659号公報
【特許文献6】特開平10−232514号公報
【特許文献7】特開昭60−202451号公報
【特許文献8】特開2005−315907号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1〜3に開示されるフッ素系グラフト共重合体を用いたコーティング剤では、撥水・撥油性及び耐汚染性等のフッ素による特性と、基材密着性及び塗膜強度等との両立の点で改良の余地があり、耐久性の点でも十分なレベルには至らないものであった。
【0008】
また、キャリア用コーティング剤に関しても、特許文献4に開示されるキャリア用コーティング剤はコーティング層自体の強度やコア材との密着性が劣るために使用とともにコーティング層の削れや剥がれが生じ、耐久性の点で十分なものではなかった。また、特許文献5及び6に開示されるキャリア用コーティング剤では、架橋性官能基の導入や架橋構造の形成がフッ素の特性である帯電性及び耐汚染性等を阻害するため、結果として帯電量と塗膜強度とを高度にバランス化できないという問題があった。一方、特許文献7及び8に開示されるようなキャリア用コーティング剤もまた塗膜強度の点では十分でなく、長期間或いは高ストレス後のコーティング層の劣化は大きいものであった。
【0009】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、撥水・撥油性及び耐汚染性等のフッ素特性と、基材密着性及び塗膜強度等とを高度にバランス化した性能を発揮するグラフト共重合体およびこれを用いたコーティング剤を提供するものである。さらには、優れた耐久性及びキャリア表面への耐トナー汚染性を両立したキャリア用コーティング剤、並びにこれを用いてなるキャリアを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、主鎖がフッ素系重合体からなり、側鎖に架橋性官能基を有する特定のグラフト共重合体を含むコーティング剤の使用が有効であることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
本発明は以下の通りである。
〔1〕主鎖がフッ素系重合体からなり、側鎖に架橋性官能基を有することを特徴とするフッ素系グラフト共重合体。
〔2〕上記側鎖中の架橋性官能基の導入量が0.7〜3.0meq/gの範囲であることを特徴とする上記〔1〕に記載のフッ素系グラフト共重合体。
〔3〕上記フッ素系重合体を構成する単量体として、下記一般式(1)で表されるビニル単量体が含まれることを特徴とする上記〔1〕または〔2〕記載のフッ素系グラフト共重合体。
【化1】

〔式中、R1は水素原子またはメチル基、Zは水素原子またはフッ素原子、mは1〜4のいずれかの整数、nは1〜20のいずれかの整数を示す。〕
〔4〕上記フッ素系グラフト共重合体が、フッ素原子含有単量体、末端に重合性不飽和官能基を有しかつ架橋性官能基を含有するマクロモノマー及びその他の単量体を含む単量体混合物を共重合することにより得られることを特徴とする上記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のフッ素系グラフト共重合体。
〔5〕上記主鎖を形成する重合体が、該重合体あたり1〜10個相当量の架橋性官能基を有することを特徴とする上記〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載のフッ素系グラフト共重合体。
〔6〕上記主鎖に配される架橋性官能基がω位に架橋性官能基を持つ炭素数10以上の単量体に由来すること特徴とする上記〔5〕に記載のフッ素系グラフト共重合体。
〔7〕側鎖及び主鎖に配される架橋性官能基が水酸基であることを特徴とする上記〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載のフッ素系グラフト共重合体。
〔8〕上記〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載のフッ素系グラフト共重合体を含むコーティング剤。
〔9〕上記フッ素系グラフト共重合体に加え、さらに架橋剤を含んでなる上記〔8〕に記載のコーティング剤。
〔10〕上記〔8〕または〔9〕のいずれかに記載のコーティング剤を用いてなる乾式電子写真用キャリア。
【発明の効果】
【0012】
本発明のフッ素系グラフト共重合体は、グラフト構造を有することにより各種基材に対する良好な密着性と撥水・撥油性及び耐汚染性といったフッ素特性との両立を図ることができるため、コーティング剤として有用である。また、側鎖に配された架橋性官能基により架橋を施すことで強靭なコーティング層が得られる。
また、当該フッ素系グラフト共重合体をキャリア用コーティング剤として用いた場合、長期に渡る使用においてもコーティング層の削れや剥がれ等がなく絶縁性が確保され、安定した摩擦帯電性を発揮することができる。また、表面エネルギーの低いフッ素系セグメントを主鎖に配し、架橋に関与する上記側鎖と明確に区分けすることによって、フッ素の特性である耐汚染性を効果的に示すことが可能となった。この結果として、耐久性及び耐トナー汚染性を高度にバランス化可能なキャリア用コーティング剤が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、特定の構造を有するフッ素系グラフト共重合体およびこれを用いてなるコーティング剤に関するものであり、さらにはキャリア用コーティング剤及びこれを用いてなるキャリアに関する。
以下、本発明について詳しく説明する。尚、本願明細書においては、アクリル酸又はメタクリル酸を、(メタ)アクリル酸と表す。
【0014】
本発明におけるグラフト共重合体は、フッ素系重合体からなる主鎖及び架橋性官能基を有する重合体である側鎖とからなる。ここで、「フッ素系重合体」とはフッ素原子を含有する重合体を指し、フッ素原子含有ビニル単量体を構成単量体とすることにより得られる。この他にも、例えばカルボキシル基を導入した重合体に含フッ素エポキシ化合物を反応させる等、反応性官能基を導入した重合体にフッ素を含む反応剤を反応させる方法によっても得ることができる。これらのうち、フッ素原子含有単量体を構成単量体とすることによりフッ素系重合体を得る方法が、目的とする重合体が高純度で簡便に得られることから好ましい。
【0015】
上記フッ素原子含有ビニル単量体としては特に制限はなく、例えばトリフルオロメチル(メタ)アクリレート、ペンタフルオロエチル(メタ)アクリレート、ヘプタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、ノナフルオロブチル(メタ)アクリレート、ウンデカフルオロペンチル(メタ)アクリレート、トリデカフルオロヘキシル(メタ)アクリレート、ペンタデカフルオロヘプチル(メタ)アクリレート、及び下記一般式(1)で表される単量体等の(メタ)アクリロイル型単量体;モノフルオロエチレン、ジフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン等のフルオロエチレン類;フッ化ビニリデン、フッ化ビニル、ヘキサフルオロプロピレン等が挙げられるが、共重合性及び取扱いの容易さ等から(メタ)アクリロイル型単量体が好ましく、入手のし易さ及びコストの点から下記一般式(1)で表される単量体が更に好ましい。
【化1】

〔式中、R1は水素原子またはメチル基、Zは水素原子またはフッ素原子、mは1〜4のいずれかの整数、nは1〜20のいずれかの整数を示す。〕
【0016】
上記一般式(1)におけるZについてはフッ素の特性が顕著となることからフッ素原子であることが好ましく、mについては入手し易さの点からm=1もしくは2が好ましい。nについては1〜20のものを用いることができるが、nが小さいとフッ素特性が十分に発揮されない場合があり、nが大きすぎると溶剤への溶解性や他の配合物との相溶性が低下する場合がある。これらの観点からn=4〜10が好ましく、n=6〜8が更に好ましい。ただし、n=8のものは化合物の安全性の観点では若干懸念される。
上記した好ましいフッ素原子含有ビニル単量体の実例としては、商品名でケミノックスFAAC−4、ケミノックスFAAC−6、ケミノックスFAMAC−4、ケミノックスFAMAC−6(以上、ユニマテック社製)、R−1110、R−1210、R−1420、R−1620、R−5210、R−5410、R−5610、M−1110、M−1210、M−1420、M−1620、M−5210、M−5410、M−5610(以上、ダイキン社製)、ライトアクリレートFA−108(共栄社化学社製)、ビスコート−3F、ビスコート−3FM、ビスコート−4F、ビスコート−8F、ビスコート−8FM(以上、大阪有機化学工業社製)等が挙げられる。これらのうちでも、フッ素の特性が現れ易く耐久性も高くなる傾向があることからメタクリレート型よりもアクリレート型の方が好ましい。
上記フッ素原子含有ビニル単量体を使用することにより表面エネルギーの低いコーティング層を与えるコーティング剤が得られ、耐汚染性に優れたものとすることができる。
【0017】
本発明のグラフト共重合体を構成するフッ素系重合体(主鎖)を構成する単量体混合物におけるフッ素原子含有ビニル単量体の割合は主鎖を構成する全単量体に対して30〜95質量%が好ましく、50〜80質量%が更に好ましい。フッ素原子含有ビニル単量体が30質量%未満の場合は帯電性能や耐トナー汚染性等のフッ素の特性が十分発現されず、95質量%を超える場合はコーティング層の強度および耐久性が不十分となる場合がある。
【0018】
本発明におけるグラフト共重合体は架橋性官能基を含む重合体からなる側鎖を有する。
該架橋性官能基を含む重合体(側鎖)は架橋性官能基含有ビニル単量体を構成単量体とすることにより得られ、その具体的な例としては(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル及び(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル等の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートにε−カプロラクトンを付加させた化合物〔例えばダイセル化学工業(株)製商品名プラクセルFM2D、プラクセルFM3、プラクセルFM5、プラクセルFA1DDM、プラクセルFA2D、プラクセルFA10L等〕等の水酸基含有単量体;(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸およびイタコン酸等のカルボキシル基含有単量体;N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミドおよびN−イソブトキシメチル(メタ)アクリルアミド等のN−メチロール基又はN−アルコキシメチル基含有化合物;(メタ)アクリル酸グリシジル等のエポキシ基含有単量体等が挙げられる。
また、上記とは別に水酸基含有不飽和単量体を共重合した後に、二塩基酸無水物、例えば無水コハク酸、無水マレイン酸または無水フタル酸等を付加反応させることにより架橋性官能基としてカルボキシル基を導入することも可能である。
更に、例えば重合体にエポキシ基を導入した後に(メタ)アクリル酸等の重合性不飽和結合を有するカルボン酸化合物を付加させる等、官能基が導入された重合体に対して該官能基と反応可能な官能基及び重合性ビニル基の双方を有する化合物を反応させることにより架橋性官能基として(メタ)アクリロイル基等の重合性ビニル基を導入することもできる。
上記架橋性官能基の中でも製造上の安定性、架橋反応の制御のし易さ、架橋後の塗膜物性等の観点から水酸基及び(メタ)アクリロイル基が好ましく、水酸基が特に好ましい。
【0019】
架橋性官能基を側鎖に導入したグラフト共重合体に対し必要に応じて後記する架橋剤を添加した後、熱または活性エネルギー線等のエネルギーを与えて架橋することにより強靭なコーティング層が得られるため、長期に渡る使用においてもコーティング層の削れや剥がれ等がなく耐久性の高い塗膜が得られるようになる。
ここで、架橋性官能基をグラフト共重合体の側鎖に導入することは本発明の課題を解決する上で重要である。仮に耐久性付与のために必要な量の架橋性官能基を主鎖に導入した場合、同じく主鎖に配されたフッ素セグメントのコーティング層表層への配向が妨げられるためにフッ素による特性(撥水・撥油性、帯電性能及び耐トナー汚染性等)が損なわれ、耐久性との両立が困難なものとなる。本発明ではフッ素特性を発現するためのフッ素系重合体と耐久性を確保するための架橋性官能基含有重合体を各々主鎖および側鎖として別々に配したグラフト共重合体とすることによりフッ素による特性と耐久性との両立が可能になったものと推定される。
【0020】
側鎖重合体中の架橋性官能基の導入量は0.7〜3.0meq/gの範囲であることが好ましく、1.0〜2.5meq/gの範囲がより好ましい。架橋性官能基の導入量が0.7meq/g未満の場合はコーティング剤の耐久性が十分でなく、3.0meq/gを超える場合はコーティング層表面が汚染されやすくなる。
尚、上記導入量は単量体の仕込み比率から求められる。
【0021】
側鎖を形成する重合体は、側鎖自身のガラス転移温度(以下、「Tg」という)が30℃以上であることが好ましく、60℃以上であることがより好ましい。Tgが30℃未満の場合はコーティング層が軟質となり耐トナー汚染性が悪化する場合がある。
上記側鎖を形成する重合体のTgは示差走査熱量計(DSC)により測定することができる他、「POLYMER HANDBOOK 第4版」(John Wiley & Sons,Inc.発行)に記載された各単独重合体のTgを元にして、以下の式(1)に示す計算によって求められる値を用いても良い。
【0022】
【数1】

上記の式中、
Tg:重合体のTg
W(a):重合体における単量体(a)からなる構造単位の重量分率
W(b):重合体における単量体(b)からなる構造単位の重量分率
W(c):重合体における単量体(c)からなる構造単位の重量分率
Tg(a):単量体(a)の単独重合体のガラス転移温度
Tg(b):単量体(b)の単独重合体のガラス転移温度
Tg(c):単量体(c)の単独重合体のガラス転移温度
【0023】
側鎖を形成する重合体を構成する他の単量体としては、例えば(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルおよび(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸オクタデシル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;スチレン、α−メチルスチレンおよびp−メチルスチレン等のスチレン誘導体;(メタ)アクリロニトリル;(メタ)アクリルアミド等が挙げられ、これらの内の1種又は2種以上を使用することができる。
これらの中でもメタクリル酸メチル及び/又はメタクリル酸イソボルニルの使用が側鎖全体のTgが高くなるために好ましく、特にメタクリル酸メチルの場合は強靭なコーティング層が得られるために好ましい。
【0024】
側鎖を形成する重合体の好ましい重量平均分子量(以下、「Mw」という)は3,000〜20,000であり、より好ましくは5,000〜10,000である。Mwが3,000未満の場合は密着性及びフッ素の特性が劣る傾向があり、20,000を超える場合はコーティング層の耐久性が劣る場合がある。これはグラフト構造を有さない主鎖成分のみのポリマーが増加することによるものと推察される。
【0025】
本発明のグラフト共重合体は上記の通りフッ素系重合体からなる主鎖、及び架橋性官能基を有する重合体である側鎖とからなり、主鎖と側鎖の比率は主鎖が10〜70質量%に対して側鎖が30〜90質量%であることが好ましく、より好ましくは主鎖が15〜60質量%に対して側鎖が40〜85質量%であり、更に好ましくは主鎖が20〜50質量%に対して側鎖が50〜80質量%である。
主鎖が10質量%未満(側鎖が90質量%を超える)の場合はフッ素の特性が損なわれる傾向があり、主鎖が70質量%を超える(側鎖が30質量%未満)場合はコーティング層の密着性及び耐久性が劣る場合がある。
【0026】
グラフト共重合体のMwは10,000〜100,000が好ましく、15,000〜50,000がより好ましい。Mwが10,000未満の場合はコーティング層の強度が劣るために耐久性が不十分となり、Mwが100,000を超える場合は溶液の粘度が高くなるため塗工適性が不十分となる場合があり、例えばキャリアコーティング剤として用いた際にはキャリア表面へ均一に塗布するために多量の希釈溶剤を用いてコーティング剤の粘度を低減する必要がある。塗布が均一になされない場合にはコーティング層がトナーなどにより汚染され易くなる。
【0027】
グラフト共重合体の製法について特に制限はなく、フッ素系重合体を主鎖とし、架橋性官能基を有する重合体を側鎖とするグラフト共重合体を製造し得る方法であればいずれの方法で製造しても良い。
【0028】
上記したグラフト共重合体の製造方法としては、例えば、
(i)末端に重合性不飽和官能基を有し、かつ架橋性官能基を含有するマクロモノマーの
存在下にフッ素原子含有ビニル単量体を含む単量体混合物を共重合してグラフト共重合体を得る方法(マクロモノマー法);
(ii)重合体セグメント中にアゾ基やパーオキサイド基等の重合開始基を有し、かつフッ
素原子を含有する重合体の存在下に架橋性官能基含有単量体を含む単量体混合物を共重合してグラフト共重合体を得る方法。
(iii)官能基を含有する重合体に対し、該官能基と反応可能な官能基を有する1種又は2種以上の重合体を反応させることによりグラフト共重合体を得る方法。
【0029】
上記した製法のうちでも、上記(i)のマクロモノマー法が、グラフト共重合体を効率
よく製造できる点から好ましい。
また、該マクロモノマーにおける末端重合性不飽和官能基は、共重合性の観点から(メタ)アクリロイル基又はスチリル基が好ましく、中でも(メタ)アクリロイル基が特に好ましい。
【0030】
本発明のグラフト共重合体は、フッ素系重合体からなる主鎖及び架橋性官能基を有する重合体による側鎖とから構成される。該構成であることにより製造時の安定性及びフッ素の特性を十分示すキャリア用コーティング剤とすることができる。これとは逆に架橋性官能基を主鎖とし、フッ素系重合体を側鎖とするグラフト共重合体の場合は製造安定性が十分でない場合があり、特に上記マクロモノマー法による場合にはフッ素系樹脂とアクリル樹脂との相溶性が低いことに起因して液分離等の問題を生じやすい。
【0031】
本発明のグラフト共重合体の主鎖を構成するフッ素系重合体は該重合体(主鎖)あたり1〜10個相当量の架橋性官能基(以下、主鎖中の平均官能基数という場合がある)を有することが好ましく、2〜6個相当量を有することがより好ましい。主鎖に上記量の官能基が導入されることにより、コーティング層の耐久性が一段と向上する。
本発明のグラフト共重合体を製造するに当たり上記したように各種公知の方法を採用し得るが、いずれの方法においてもグラフト構造を有さない主鎖成分のみの重合体(フッ素系リニアポリマー)が少量生成する。該フッ素系リニアポリマーは塗膜化された際の強靭性が十分でなく、長期使用時にはコーティング層から脱離し得るために耐久性の悪化を招く場合がある。フッ素特性を損なわない範囲で主鎖に上記量の架橋性官能基を導入することにより、該フッ素系リニアポリマーも少量の架橋性官能基を有することとなり、コーティング層におけるマトリックス成分に結合されるために耐久性が向上するものと推察される。
【0032】
主鎖中の平均官能基数(Fm)は以下の式(2)により計算値として求められる。
【数2】

ここで、各記号の意味は以下の通り。
m:主鎖中の平均官能基数
m:グラフトポリマー製造時に使用した架橋性官能基含有単量体(マクロモノマーを 除く)の質量
m:上記架橋性官能基含有単量体の分子量
GP:グラフトポリマーを構成する全単量体の質量(マクロモノマーを含む)
MnGP:グラフトポリマーの数平均分子量
【0033】
上記主鎖中の平均官能基数が1個以上であることにより耐久性が一層向上する。一方、10個を超えるとフッ素の特性が妨げられる場合があり、撥水・撥油性、帯電性能及び耐トナー汚染性等の低下が懸念される。
【0034】
主鎖に導入される架橋性官能基は上記した側鎖に導入される官能基と同様の官能基を使用することができるが、側鎖に導入された架橋性官能基と同種類の官能基を導入することが好ましい。主鎖及び側鎖に導入された架橋性官能基の種類が別種の場合はそれぞれに対応する架橋剤を配合する必要性が生じる場合もあり、操作が煩雑となる。
また、側鎖の際と同様に製造上の安定性、架橋反応の制御のし易さ、架橋後の塗膜物性等の観点から水酸基、カルボキシル基及び(メタ)アクリロイル基が好ましく、水酸基が特に好ましい。
【0035】
上記の主鎖に導入される架橋性官能基は、ω位に架橋性官能基を有する炭素数10以上の単量体に由来するものであることが好ましい。例えばヒドロキシエチル(メタ)アクリレートにε−カプロラクトンを付加させた化合物がこれに該当し、具体例としては商品名でプラクセルFA1DDM、プラクセルFA2D、プラクセルFA3D、プラクセルFA10L、プラクセルFM2D、プラクセルFM3及びプラクセルFM5(いずれもダイセル社製)等が挙げられる。この他にもポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート及びポリエチレン/ポリプロピレンブロック体の(メタ)アクリレート化物等のポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート類、ω−カルボキシ−ポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート(例えば、東亞合成社製、商品名「アロニックスM−5300」)等が挙げられ、これらの内の1種又は2種以上を使用することができる。
これらの化合物により主鎖に架橋性官能基が導入された場合は主鎖から離れた位置に架橋点が存在し、比較的フッ素セグメントの表面配向を妨げにくいために好適である。
【0036】
上記したω位に架橋性官能基を有する炭素数10以上の単量体の中でも、分子内にカプロラクトン由来の構造を有するものであるヒドロキシエチル(メタ)アクリレートにε−カプロラクトンを付加させた化合物及びω−カルボキシ−ポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレートが撥水・撥油性及び耐久性がより良好となることから好ましい。さらには、官能基が水酸基であるω−カルボキシ−ポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレートがより好ましい。
また、重合性不飽和基としては、摩擦耐久性及び耐汚染性が良好となる点からアクリレート型が好ましい。
【0037】
本発明のグラフト共重合体の主鎖を構成するフッ素系重合体は、上記フッ素原子含有ビニル単量体および架橋性官能基以外にも、フッ素の特性を損なわない範囲で他のビニル単量体を共重合させることができる。
該共重合可能なビニル単量体としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルおよび(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸オクタデシル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;スチレン、α−メチルスチレンおよびp−メチルスチレン等のスチレン誘導体;(メタ)アクリロニトリル;(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノメチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド等のアミノアルキル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
上記のうちで(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸イソボオルニル及びスチレン誘導体がコーティング層の強靭性が向上する点で好ましい。
【0038】
上記したとおり、本発明のコーティング剤では必要に応じてグラフト共重合体に加えてさらに架橋剤を使用することができる。用いる架橋剤は導入された架橋性官能基と架橋反応し得るものであれば特に限定はされないが、例えばエポキシ系、イソシアネート系、アミノ樹脂系、ヒドラジド系、カルボジイミド系及びオキサゾリン系等の架橋剤から選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも反応性及び制御のし易さ等からイソシアネート系の架橋剤が好ましい。架橋剤の添加量はグラフト共重合体の架橋性官能基量に対して0.1〜10当量の範囲で用いることが好ましく、より好ましくは0.2〜5当量であり、さらに好ましくは0.5〜2当量である。
架橋反応は例えば80〜200℃程度の加熱下条件で実施することができるが、使用する架橋性官能基及び架橋剤の種類に応じて適宜設定される。
【0039】
イソシアネート系架橋剤は分子内に2個以上のイソシアネート基を有するものであれば種々のものが使用可能であり、具体的な例としては、p−フェニレンジイソシアネート、4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、4,4'−ジフェニレンジイソシアネート、1,5−オクチレンジイソシアネート、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイネシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、1,3−シクロペンタンジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、4,4'−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、メチル2,4−シクロヘキサンジイソシアネート、メチル2,6−シクロヘキサンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、1,4−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、1,3−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、イソホロンジイソシアネート及びカルボジイミド変性4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート等が挙げられる。
これらの中でも、ヘキサメチレンジイソシアネート及びイソホロンジイソシアネート等の脂肪族イソシアネートが、コーティング層の耐汚染性の点から好ましい。
【0040】
エポキシ系架橋剤も分子内に2個以上のエポキシ基を有する化合物であれば特に制限なく使用が可能である。具体的な例としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ系樹脂、ビスフェノールZ型エポキシ樹脂及び水添ビスフェノール型エポキシ樹脂等のビスフェノール型のエポキシ樹脂;エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ジグリシジルアニリン、ジグリシジルアミン、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシレンジアミン及び1,3−ビス(N,N’−ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサンなどを挙げることができる。
【0041】
アミノ樹脂系架橋剤としては、アルキルエーテル化メラミン、アルキルエーテル化尿素樹脂及びアルキルエーテル化ベンゾグアナミン等が挙げられる。これらのうち、アルキルエーテル化メラミンとしては、ヘキサメトキシメチロールメラミン、ヘキサブトキシメチロールメラミン等の完全アルキルエーテル化メラミンもしくはアルキルエーテル化度が5以下の部分アルキルエーテル化メラミン等が使用できる。また、アルキルエーテル化メラミンの2量体、3量体等の多量体も使用できる。
【0042】
架橋性官能基が重合性ビニル基の場合は、必要に応じて光重合開始剤を添加することにより活性エネルギー線硬化型のコーティング剤とすることができる。
光重合開始剤を配合する場合において、該光重合開始剤としてはベンゾインとそのアルキルエーテル類、アセトフェノン類、アントラキノン類、チオキサントン類、ケタール類、ベンゾフェノン類、キサントン類、アシルホスフィンオキシド類及びα−ジケトン類等が挙げられ、これらの中でもベンゾフェノン類及びチオキサントン類のものが重合速度が速い点で好ましい。光重合開始剤の使用量は本発明のグラフト共重合体100質量部に対して0.01〜10質量部が好ましい。
また、活性エネルギー線による感度を向上させるため、光増感剤を併用することもできる。該光増感剤としては、安息香酸系及びアミン系光増感剤等が挙げられ、これらは2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0043】
活性エネルギー線としては可視光線、紫外線、X線及び電子線等が挙げられ、安価な装置を使用できることから紫外線を使用することが好ましい。紫外線を使用する際の光源としては、超高圧、高圧、中圧又は低圧水銀灯、メタルハライド灯、キセノンランプ、無電極放電ランプ及びカーボンアーク灯等が挙げられ、数秒乃至数分間照射すれば良い。
【0044】
本発明のコーティング剤には、さらに単独でコーティング層を形成可能なフッ素非含有のバインダー成分を配合することができる。配合されるバインダーとしては、公知汎用の各種ポリマー及びオリゴマー等を用いることができるが、本発明のグラフト共重合体と同種の架橋性官能基を有するアクリル系ポリマーを配合するのが特に好ましい。
配合量としては、グラフト共重合体の重量1(固形分)に対し、バインダー成分の配合量を5(固形分)以下にすることが好ましく、2以下にするのがより好ましい。バインダー成分の配合量が5を超える場合にはコーティング層中のフッ素濃度が薄まるため、フッ素特性が損なわれる。
【0045】
本発明のコーティング剤は、フッ素の特性及びコーティング層の耐久性を損なわない範囲で塗膜強度向上及び堆積低効率調整の目的でシリカや酸化チタン等を配合することもできる。
【0046】
このようにして得られるコーティング剤をキャリア表面にコーティングすることにより、電子写真や静電印刷等におけるキャリアとして好適に用いることができる。
キャリアの芯材としては鉄粉、フェライト粉末、ガラスビーズ又はプラスチックビーズ等が挙げられる。芯材の粒子径は20〜70μmが望ましく、形状は球状でも非球状でも良い。
【0047】
本発明のコーティング剤は上記キャリアの芯材表面に0.05〜20μmの範囲、好ましくは0.1〜5μmの厚みでコーティングされる。この際従来より公知のコーティング方法を採用することができ、例えばスプレードライヤー、流動床、加熱型ニーダー等を使用してキャリア芯材表面にコーティング層を形成後、加熱、活性エネルギー線照射または放置することにより本発明のキャリアが得られる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。以下の記載において「部」は質量部を意味し、「%」は質量%を意味する。
また、各例において得られたマクロモノマー、グラフト共重合体、コーティング剤及びキャリアについては、以下の物性及び性質を測定することにより評価した。
(1)マクロモノマー及びグラフト共重合体の特性
a)固形分
測定サンプル約1gを秤量(a)し、次いで、通風乾燥機155℃、30分間乾燥後の残分を測定(b)し、以下の式より算出した。測定には秤量ビンを使用した。その他の操作については、JIS K 0067−1992(化学製品の減量及び残分試験方法)に準拠した。
[固形分(%)]=(b/a)×100
【0049】
b)分子量
試料をテトラヒドロフラン(以下、「THF」という)に溶解して濃度0.2%の溶液を調整した後、該溶液100μLをカラム(東ソー社製、「TSK−GEL MULTIPORE HXL−M」(4本))に注入し、カラム温度40℃でTHFを流速1.0mL/分でカラムに通してカラムに吸着した成分を溶離させるゲル浸透クロマトグラフ(GPC法)により測定した。数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)は分子量が既知のポリスチレンを標準物質と用いてあらかじめ作成しておいた検量線から算出した。
【0050】
c)Tg
示差走査熱量計「DSC5200」(セイコーインスツルメンツ社製)を用い、窒素雰囲気下で昇温速度が20℃/分の条件により、Tgを測定した。なお、測定に用いたサンプル量は5〜10mgとした。
【0051】
(2)コーティング剤の特性
a)接触角
自動接触角測定装置「OCA−20」(Dataphysics社製)を用い、各試験用塗膜サンプルに対する純水、n−ヘキサデカンの接触角をそれぞれ測定した。
その後、塗膜サンプル上にナイロンたわしをのせ、ラビングテスター(大英科学精器製作所製、学振型染色物摩擦堅牢度試験機)で2kgの荷重をかけて50往復の摩擦試験を行い、上記と同様に純水、n−ヘキサデカンの接触角を測定した。また、摩擦耐久性の指標として[試験後の接触角/試験前の接触角]を算出した。
【0052】
b)鉛筆硬度
各試験用塗膜サンプルについてJIS K 5600−5−4(引っかき硬度(鉛筆法))に準じて鉛筆引っ掻き試験を実施し、塗膜が傷つかない最大の硬度を測定した。
【0053】
c)密着性
各試験用塗膜サンプルについてJIS K 5600−5−6(付着性(クロスカット法))に準じて碁盤目剥離試験を実施し、碁盤目25ピース中の剥離されなかったピース数を記録した。
【0054】
d)耐マジック汚染性
各試験用サンプルに対して黒色マジックインキで線を引き、1時間後にペーパータオルでインキのふき取りを行った。その際のインキのふき取り易さを以下の基準に従い評価した。
◎:軽い力でふき取ることができ、痕跡が残らない
○:やや強い力をかければふき取ることができるが、僅かな痕跡が残る
△:強い力をかければふき取ることができるが、明らかな痕跡が残る
×:ほとんどふき取ることができない
【0055】
e)耐粉体汚染性
各試験塗膜サンプル板を2枚用意し、当該サンプル板間にカーボン粉末(三菱化学社製、商品名「MA100」)を挟み込み、一定の力でこすり付けを行った。その後ペーパータオルでカーボン粉末のふき取りを行い、以下の基準に従いそのふき取り易さを評価した。
○:完全にふき取ることができる
△:ふき取り後に痕跡が残る
×:ふき取り後に明確にカーボン粉末の跡が確認できる
【0056】
f)耐候性
各試験用塗膜サンプルをメタリングウェザーメーター「DAIPLA METAL WEATHER KU−R5NCI−A」(ダイプラ・ウィンテス社製)を使用して100時間の耐候性試験を行った。その後塗膜の表面を観察し、以下の基準に従い評価した。
○:試験前と比較して外観上の差異が認められない
△:試験前と比較して塗膜表面の光沢が低下している
×:塗膜に凹凸や剥がれが確認される
【0057】
(3)キャリアの特性
a)トナー帯電量
コーティング層を有するキャリア98部と市販のトナー(京セラミタ社製、KM−C2630マゼンタトナー、ポリエステル系)2部とをターブラーミキサーにて1時間攪拌混合して初期の現像剤を作製した。ここからトナーを抜き取り、帯電量を東芝ブローオフ帯電量測定装置TB−200により測定し、これを初期のトナー帯電量とした。
さらに強制劣化試験として、200mLのガラス容器にコーティング層を有するキャリアを100g入れ、ペイントコンディショナー(RED DEVIL製)で12時間振とうした。この強制劣化後のキャリアを98部と市販のトナー(京セラミタ社製、KM−C2630マゼンタトナー、ポリエステル系)2部とをターブラーミキサーにて1時間合して強制劣化後の現像剤を作製した。ここからトナーを抜き取り、帯電量を東芝ブローオフ帯電量測定装置TB−200により測定し、これを強制劣化後のトナー帯電量とした。
【0058】
b)帯電保持率
下記式に基づいて算出した。
[帯電保持率(%)]=([強制劣化後のトナー帯電量]/[初期のトナー帯電量])×100
【0059】
c)耐トナー汚染性
初期および強制劣化後の現像剤からキャリアを抜き取り、走査型電子顕微鏡(日本電子製JSM−6330F)で観察し、以下の基準に基づいて評価した。
◎:キャリア上のコーティング層にトナー付着物等の汚染がほとんど認められない
○:キャリア上のコーティング層にトナー付着物等の汚染が少量認められる
△:キャリア上のコーティング層にトナー付着物等の汚染が相当量認められる
×:キャリア上のコーティング層がトナー付着物等により激しく汚染されている
【0060】
d)コーティング層剥がれ
強制劣化後のキャリアを走査型電子顕微鏡(日本電子製JSM−6330F)で観察し、以下の基準に基づいて評価した。
○:キャリア上のコーティング層の剥がれが認められない
△:キャリア上のコーティング層の剥がれが少量観察される
×:キャリア上のコーティング層の剥がれが数多く観察される
【0061】
e)フッ素濃度変化
初期および強制劣化後のキャリアをカーボンテープ上に均一に付着させ、蛍光X線分析装置ZSX−100e型(リガク製、X線源:Rhターゲット30kV×80mA、分光結晶:RX−35)を用いて両者のフッ素ピーク強度を比較して以下の基準に基づいて評価した。
○:強制劣化後のフッ素ピーク強度が強制劣化前の90%以上を保持
△:強制劣化後のフッ素ピーク強度が強制劣化前の60%以上90%未満
×:強制劣化後のフッ素ピーク強度が強制劣化前の60%未満
−:初期からほぼフッ素のピークが観測されない
【0062】
<マクロモノマーの製造>
合成例1:マクロモノマーAの製造
攪拌機、滴下ロート、還流冷却器、窒素ガス導入管および温度計を備えたガラス製フラスコに、単量体として2−ヒドロキシエチルメタクリレート(以下、「HEMA」という)25部及びメタクリル酸メチル(以下、「MMA」という)75部、連鎖移動剤として3−メルカプトプロピオン酸(以下、「MPA」という)2.5部、及び重合溶剤として酢酸ブチル(以下、「BAC」という)80部を仕込み、窒素気流下で90℃に加熱攪拌した。別容器にてBAC20部に2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)(日本ファインケム社製、商品名「ABN−E」)1.0部を添加、溶解して重合開始剤溶液を調整し、フラスコ内溶液を90℃に保ったままこの重合開始剤溶液を3時間かけてフラスコへ滴下した。さらに3時間加熱攪拌を継続することにより重合を完結させ、片末端にカルボキシル基を有する重合体を得た。
窒素気流を空気バブリングに切り替えて、引き続き同じフラスコ内にメトキシフェノール0.02部、テトラブチルアンモニウムブロミド1.0部、グリシジルメタクリレート(以下、「GMA」という)3.5部を加えて110℃で8時間加熱した後に室温まで冷却し、BACを添加して固形分を50%に調整することにより片末端にメタクリロイル基を有するマクロモノマーAのBAC溶液を得た。
得られたマクロモノマーAの分子量を測定したところ、数平均分子量(Mn)=3,900、重量平均分子量(Mw)=7,100であった。また、このマクロモノマーAは架橋性官能基として1.81meq/g相当の水酸基を有し、計算Tgは88℃であった。
【0063】
合成例2〜6:マクロモノマーB〜Fの製造
単量体、連鎖移動剤およびGMAを表1に示す通り用いた以外は合成例1と同様の操作を行い、マクロモノマーB〜FのBAC溶液を得た。
得られたマクロモノマーB〜Fの物性値について表1に示す。
【0064】
合成例7:マクロモノマーGの製造
合成例1においてGMAを添加して110℃で8時間加熱した後、さらに無水コハク酸19部を加えて3時間加熱した以外は合成例1と同様の操作により、片末端にメタクリロイル基を有し架橋性官能基としてカルボキシル基を持つマクロモノマーGのBAC溶液を得た。
得られたマクロモノマーGの物性値について表1に示す。
【0065】
合成例8:マクロモノマーHの製造
攪拌機、滴下ロート、還流冷却器、窒素ガス導入管および温度計を備えたガラス製フラスコに、単量体としてN−ブトキシメチルメタクリルアミド(MRCユニテック社製、商品名「NBMM」25部及びMMA75部、連鎖移動剤としてMPA2.5部、及び重合溶剤としてBAC80部を仕込み、窒素気流下で80℃に加熱攪拌した。別容器にてBAC20部に2,2’−アゾビス(2,4’−ジメチルバレロニトリル)(和光純薬社製、商品名「V−65」)1.0部を添加、溶解して重合開始剤溶液を調整し、フラスコ内溶液を80℃に保ったままこの重合開始剤溶液を3時間かけてフラスコへ滴下した。さらに3時間加熱攪拌を継続することにより重合を完結させ、片末端にカルボキシル基を有する重合体を得た。
窒素気流を空気バブリングに切り替えて、引き続き同じフラスコ内にメトキシフェノール0.02部、テトラブチルアンモニウムブロミド1.0部、GMA3.5部を加えて90℃で20時間加熱した後に室温まで冷却し、BACを添加して固形分を50%に調整することにより、片末端にメタクリロイル基を有し架橋性官能基としてN−ブチロール基を持つマクロモノマーHのBAC溶液を得た。
得られたマクロモノマーHの物性値について表1に示す。
【0066】
合成例9:マクロモノマーIの製造
攪拌機、滴下ロート、還流冷却器、窒素ガス導入管および温度計を備えたガラス製フラスコに、単量体としてGMA25部及びMMA75部、連鎖移動剤として2−メルカプトエタノール(以下、「MTG」という)2.0部、及び重合溶剤としてBAC80部を仕込み、窒素気流下で90℃に加熱攪拌した。別容器にてBAC20部にABN−E1.0部を添加、溶解して重合開始剤溶液を調整し、フラスコ内溶液を90℃に保ったままこの重合開始剤溶液を3時間かけてフラスコへ滴下した。さらに3時間加熱攪拌を継続することにより重合を完結させ、片末端に水酸基を有する重合体を得た。
窒素気流を空気バブリングに切り替えて、引き続き同じフラスコ内にメトキシフェノール0.02部、ジオクチルスズジラウレート(日東化成社製、商品名「ネオスタンU−810」)0.01部、2−イソシアナトエチルメタクリレート(昭和電工社製、商品名「カレンズMOI」)4.0部を加えて110℃で3時間加熱した後に室温まで冷却し、BACを添加して固形分を50%に調整することにより、片末端にメタクリロイル基を有し官能基としてエポキシ基を持つマクロモノマーIのBAC溶液を得た。
得られたマクロモノマーIの物性値について表1に示す。
【0067】
合成例10:マクロモノマーJの製造
単量体、連鎖移動剤およびGMAを表1に示す通り用いた以外は合成例1と同様の操作を行い、片末端にメタクリロイル基を有し架橋性官能基を持たないマクロモノマーJのBAC溶液を得た。
得られたマクロモノマーJの物性値について表1に示す。
【0068】
【表1】

【0069】
表1で用いた化合物の詳細を以下に示す。
HEMA:2−ヒドロキシエチルメタクリレート
NBMM:N−n−ブトキシメチルメタクリルアミド
GMA:グリシジルメタクリレート
MMA:メチルメタクリレート
EHMA:2−エチルヘキシルメタクリレート
MPA:3−メルカプトプロピオン酸
MTG:2−メルカプトエタノール
カレンズMOI:2−イソシアナトエチルメタクリレート(昭和電工社製)
【0070】
<グラフト共重合体の製造>
製造例1:グラフト共重合体A1の製造
攪拌機、滴下ロート、還流冷却器、窒素ガス導入管および温度計を備えたガラス製フラスコに、上記で得られたマクロモノマーAのBAC溶液を120部(固形分として60部)、パーフルオロヘキシルアクリレート(ユニマテック社製、商品名「ケミノックスFAAC−6」)30部、2−ヒドロキシエチルアクリレートのε−カプロラクトン2mol付加物(ダイセル社製、商品名「プラクセルFA2D」)10部、及びメチルイソブチルケトン(以下、「MIBK」という)70部を仕込み、窒素気流下で90℃に加熱攪拌した。別容器にてBAC20部にABN−E2.2部を添加、溶解して重合開始剤溶液を調整し、フラスコ内溶液を90℃に保ったままこの重合開始剤溶液を3時間かけてフラスコへ滴下した。さらに3時間加熱攪拌を継続することにより重合を完結させ、グラフト共重合体A1を得た。
得られたグラフト共重合体A1の分子量を測定したところ、数平均分子量(Mn)=13,000、重量平均分子量(Mw)=27,000であった。また、このグラフト共重合体1は主鎖中にも架橋性官能基として0.73meq/g相当の水酸基を有する。
【0071】
製造例2〜8、10〜28:グラフト共重合体A2〜A8、A10〜A28の製造
主鎖を構成する単量体及び側鎖となるマクロモノマーを表2−1〜表2−4に示す通り用いた以外は製造例1と同様の操作を行い、グラフト共重合体A2〜A8並びにA10〜A28を得た。
得られたグラフト共重合体A2〜A8並びにA10〜A28の物性値について表2−1〜表2−4に示す。
【0072】
製造例9:グラフト共重合体A9の製造
攪拌機、滴下ロート、還流冷却器、窒素ガス導入管および温度計を備えたガラス製フラスコに、上記で得られたマクロモノマーIのBAC溶液を120部(固形分として60部)、ケミノックスFAAC6 30部、GMA7部、MMA3部及びMIBK70部を仕込み、窒素気流下で90℃に加熱攪拌した。別容器にてBAC20部にABN−E2.2部を添加、溶解して重合開始剤溶液を調整し、フラスコ内溶液を90℃に保ったままこの重合開始剤溶液を3時間かけてフラスコへ滴下した。さらに3時間加熱攪拌を継続することにより重合を完結させた。
窒素気流を空気バブリングに切り替えて、引き続き同じフラスコ内にメトキシフェノール0.05部、テトラブチルアンモニウムブロミド0.5部、アクリル酸11.5部を加えて90℃で12時間加熱することにより、側鎖及び主鎖にアクリロイル基を有するグラフト共重合体A9を得た。
得られたグラフト共重合体A9の物性値について表2−1に示す。
【0073】
【表2−1】

【0074】
【表2−2】

【0075】
【表2−3】

【0076】
【表2−4】

【0077】
表2−1〜2−4で用いた化合物の詳細を以下に示す。
FAAC−6:パーフルオロヘキシルエチルアクリレート
(ユニマテック社製、商品名「ケミノックスFAAC6」)
FAMAC−6:パーフルオロヘキシルエチルメタクリレート
(ユニマテック社製、商品名「ケミノックスFAMAC6」)
FAAC−4:パーフルオロブチルエチルアクリレート
(ユニマテック社製、商品名「ケミノックスFAAC4」)
FA−108:パーフルオロオクチルエチルアクリレート
(共栄社化学社製、商品名「ライトアクリレートFA−108」)
3FM:トリフルオロメチルメチルメタクリレート
(大阪有機化学工業社製、商品名「ビスコート−3FM」)
HEA:2−ヒドロキシエチルアクリレート
HEMA:2−ヒドロキシエチルメタクリレート
M5300:ω−カルボキシ−ポリカプロラクトン(n≒2)モノアクリレート
(東亞合成社製、商品名「アロニックスM−5300」)
AA:アクリル酸
NBMA:N−n−ブトキシメチルアクリルアミド
GMA:グリシジルメタクリレート
FA1DDM:HEAのカプロラクトン1mol付加物
(ダイセル化学社製、商品名「プラクセルFA1DDM」)
FA2D:HEAのカプロラクトン2mol付加物
(ダイセル化学社製、商品名「プラクセルFA2D」)
FA3D:HEAのカプロラクトン3mol付加物
(ダイセル化学社製、商品名「プラクセルFA3D」)
AE−200:ポリエチレングリコールモノアクリレート
(日油社製、商品名「ブレンマーAE−200」)
MMA:メチルメタクリレート
【0078】
比較製造例1〜8:共重合体B1〜B8の製造
単量体及びマクロモノマーを表3に示す通り用いた以外は製造例1と同様の操作を行い、(リニア)共重合体B1〜B4並びに(グラフト)共重合体B5〜B8を得た。
得られた共重合体B1〜B8の物性値について表3に示す。
【0079】
【表3】

【0080】
実施例1
製造例1で得られたグラフト共重合体A1を固形分で100部、架橋剤としてコロネートHX(日本ポリウレタン社製、イソシアネート系架橋剤)27.3部(グラフト共重合体の架橋性官能基量と当量)及び硬化促進触媒としてネオスタンU−810 0.01部(対グラフトポリマー100ppm)を混合し、固形分10%になるようにメチルエチルケトンで希釈してコーティング液を調整した。
このコーティング液をバーコーターNo.12を用いてアロジン処理アルミ試験板「A5052P」(TP技研社製)上に塗布した後、通風乾燥機にて120℃で30分間乾燥・架橋することにより試験用塗膜サンプルA1を得た。
塗膜サンプルA1に関し、コーティング剤の各種特性評価を行った結果を表5−1及び表5−2に示す。
【0081】
また、上記コーティング液を平均粒径35μmのCu−Zn系フェライト粉末5kgの表面上に流動床型被覆装置によって被覆し、さらに150℃で1時間加熱乾燥することにより厚さ2μmのコーティング層を有するキャリアA1を得た。
このキャリアA1に関し、トナー帯電量等を測定した。結果を表6に示す。
また、このキャリアA1を98部と市販のトナー(京セラミタ社製、KM−C2630マゼンタトナー、ポリエステル系)2部とをターブラーミキサーにて1時間攪拌混合して現像剤を作製し、トナーの帯電量を測定したところ30.2μc/gであった。さらに強制劣化試験として、200mLのガラス容器にキャリアA1(トナー含まず)を100g入れ、ペイントコンディショナー(RED DEVIL製)で12時間振とうした。強制劣化後のキャリアA1を98部と市販のトナー(京セラミタ社製、KM−C2630マゼンタトナー、ポリエステル系)2部とをターブラーミキサーにて1時間合して現像剤を作製し、トナーの帯電量を測定したところ29.8μc/gであった。その他、耐トナー汚染性、コーティング層剥がれ及びフッ素濃度変化の結果と併せて表6に示す。
【0082】
実施例2〜7、10〜28
共重合体、架橋剤及び硬化促進剤を表4に示す通り用いた以外は実施例1と同様の操作により塗膜サンプルおよびキャリアを得た。
各塗膜サンプルの評価結果を表5−1及び表5−2に、各キャリアの評価結果を表6に示す。
【0083】
実施例8
共重合体及び硬化促進剤を表4に示す通り用いた以外は実施例1と同様の操作により塗膜サンプルA8およびキャリアA8を得た。
塗膜サンプルA8の評価結果を表5−1及び表5−2に、キャリアA8の評価結果を表6に示す。
【0084】
実施例9
製造例A9で得られたグラフト共重合体9を固形分で100部及びIRGACURE907(BASF社製、光重合開始剤)混合し、固形分10%になるようにメチルエチルケトンで希釈してコーティング液を調整した。実施例1と同様の操作によりアルミ試験板および芯材にコーティングした後、80W/cm高圧水銀灯により500mJ/cm2の紫外線を照射することにより塗膜サンプルA9およびキャリアA9を得た。
塗膜サンプルA9の評価結果を表5−1及び表5−2に、キャリアA9の評価結果を表6に示す。
【0085】
実施例29
製造例1で得られたグラフト共重合体A1を固形分で33部と比較製造例1で得られたリニア共重合体B1を固形分で67部を混合し、ここに架橋剤としてコロネートHX(日本ポリウレタン社製、イソシアネート系架橋剤)27.3部(共重合体混合物の架橋性官能基量と当量)及び硬化促進触媒としてネオスタンU−810 0.01部(対共重合体混合物100ppm)を混合し、固形分10%になるようにメチルエチルケトンで希釈してコーティング液を調整した。このコーティング液を実施例1と同様の操作によりアルミ試験板および芯材にコーティングした後に加熱することにより、塗膜サンプルA29およびキャリアA29を得た。
塗膜サンプルA29の評価結果を表5−1及び表5−2に、キャリアA29の評価結果を表6に示す。
【0086】
比較例1、3〜5、7、8
共重合体、架橋剤及び硬化促進剤を表4に示す通り用いた以外は実施例1と同様の操作により塗膜サンプルおよびキャリアを得た。
各塗膜サンプルの評価結果を表5−1及び表5−2に、各キャリアの評価結果を表6に示す。
比較例2、6
共重合体を表4に示す通り使用し、架橋剤及び硬化促進剤を用いなかった以外は実施例1と同様の操作により塗膜サンプルおよびキャリアを得た。
各塗膜サンプルの評価結果を表5−1及び表5−2に、各キャリアの評価結果を表6に示す。
【0087】
【表4】

【0088】
表4で用いた化合物の詳細を以下に示す。
jER828:エポキシ樹脂、三菱化学社製
DBU:ジアザビシクロウンデセン
キャタリスト296−9:リン酸系触媒、三井サイテック社製
【0089】
【表5−1】

【0090】
【表5−2】

【0091】
本発明によるグラフト共重合体を含むコーティング剤を用いた実施例1〜29では、いずれも撥水・撥油性及び耐汚染性等のフッ素による特性と基材密着性及び塗膜強度等との両立の点で良好なバランスを有するものであった。
中でも、架橋性官能基に関して言えば、水酸基を有する実施例1〜6はその他の官能基を有する実施例7〜9に比較して耐マジック汚染性や耐粉体汚染性といった耐汚染性においてより良好な結果を示している。さらに接触角についても全般に高い値を示しており、撥水・撥油性の点でも優れていることが判る。
【0092】
また、主鎖に官能基を持たない実施例16に比較して、主鎖に架橋性官能基を導入した他の実施例はn−ヘキサデカンの摩擦試験前後における接触角の比が高く、良好な摩擦耐久性を有することが示された。
さらに、主鎖に近い位置に官能基を有する実施例19及び20に比較して、比較的主鎖から遠い位置に官能基が配された実施例1、21及び22では、n−ヘキサデカン接触角や耐マジック汚染性等の点で優れており、より効果的にフッ素の特性が示されている結果が示されている。
【0093】
【表6】

【0094】
本発明によるキャリアを評価した実施例1〜27及び29ではいずれも良好な帯電性及び耐トナー汚染性を示した。かつ強制劣化後においてもその性能に顕著な低下は見られず、良好なレベルが維持される結果が得られた。電子顕微鏡及び蛍光X線分析によるコーティング層の観察からも強制劣化による変化が少なく、優れた耐久性を有することが支持された。
【0095】
側鎖に導入された架橋性官能基量が異なる実施例1〜3の結果を比較すると、官能基量の多い実施例1及び2では電子顕微鏡観察及び蛍光X線分析の結果からより良好な耐久性を有することが示唆された。
【0096】
実施例16と例えば実施例1等との比較からは、主鎖に架橋性官能基を少量導入することにより、耐久性が一段と向上することが判る。さらに、主鎖に導入された架橋性官能基としては、主鎖に近い位置に官能基が導入された実施例19及び20に比較して、ω位に架橋性官能基を有する炭素数10以上の単量体に由来する実施例21〜23は、同程度の官能基量であるにもかかわらず耐トナー汚染性が良好であり、フッ素の特性を良好に発揮することが示された。
主鎖に導入される架橋性官能基の量についてみると、官能基量の多い実施例18に比較して、実施例1及び実施例17では主鎖あたりの官能基導入量が1〜10個の範囲とすることにより耐トナー汚染性において良好な結果が示されており、フッ素の特性を有効に発揮できることが確認された。
【0097】
これに対してリニアポリマーからなるキャリア用コーティング剤である比較例1〜4では帯電性能および/又は耐トナー汚染性が十分でない。
また、フッ素系重合体を主鎖とするグラフトポリマーであっても架橋性官能基が導入されていない比較例6では耐久性が大きく劣り、主鎖のみに官能基を導入した比較例7においても電子顕微鏡観察及び蛍光X線分析によれば耐久性が不十分である結果が得られた。
比較例8は側鎖に架橋性官能基を有するグラフトポリマーであるものの、主鎖にフッ素が導入されていないものであり、帯電性能及び耐トナー汚染性が劣悪な結果となることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明のグラフト共重合体は、撥水・撥油性及び耐汚染性等のフッ素による特性と基材密着性及び塗膜強度等との両立の点で良好なバランスを有するコーティング剤として有用である。特に、インクジェットプリンターのインク吐出部、並びに感光体、ゴムロール、キャリア及びその他内部部品等の複写機周辺部材のコーティング剤として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主鎖がフッ素系重合体からなり、側鎖に架橋性官能基を有することを特徴とするフッ素系グラフト共重合体。
【請求項2】
上記側鎖中の架橋性官能基の導入量が0.7〜3.0meq/gの範囲であることを特徴とする請求項1に記載のフッ素系グラフト共重合体。
【請求項3】
上記フッ素系重合体を構成する単量体として、下記一般式(1)で表されるビニル単量体が含まれることを特徴とする請求項1または2記載のフッ素系グラフト共重合体。
【化1】

〔式中、R1は水素原子またはメチル基、Zは水素原子またはフッ素原子、mは1〜4のいずれかの整数、nは1〜20のいずれかの整数を示す。〕
【請求項4】
上記フッ素系グラフト共重合体が、フッ素原子含有単量体、末端に重合性不飽和官能基を有しかつ架橋性官能基を含有するマクロモノマー及びその他の単量体を含む単量体混合物を共重合することにより得られることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のフッ素系グラフト共重合体。
【請求項5】
上記主鎖を形成する重合体が、該重合体あたり1〜10個相当量の架橋性官能基を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のフッ素系グラフト共重合体。
【請求項6】
上記主鎖に配される架橋性官能基がω位に架橋性官能基を持つ炭素数10以上の単量体に由来すること特徴とする請求項5に記載のフッ素系グラフト共重合体。
【請求項7】
側鎖及び主鎖に配される架橋性官能基が水酸基であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のフッ素系グラフト共重合体。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のフッ素系グラフト共重合体を含むコーティング剤。
【請求項9】
上記フッ素系グラフト共重合体に加え、さらに架橋剤を含んでなる請求項8に記載のコーティング剤。
【請求項10】
請求項8または9のいずれかに記載のコーティング剤を用いてなる乾式電子写真用キャリア。

【公開番号】特開2012−184400(P2012−184400A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−10627(P2012−10627)
【出願日】平成24年1月23日(2012.1.23)
【出願人】(000003034)東亞合成株式会社 (548)
【Fターム(参考)】