説明

フッ素系中空繊維の製造方法

【課題】比重が他の繊維と比べ高いポリテトラフルオロエチレンからなり、中空を有する繊維を、中空繊維用口金を用いずに効率的に製造できる中空繊維製造方法を提供する。
【解決手段】ポリテトラフルオロエチレン分散液とセルロースもしくはその誘導体を含有するマトリックス剤とからなる混合液であって、ポリテトラフルオロエチレンとセルロースもしくはその誘導体との重量比が10:90〜50:50である紡糸原液を、酸性水溶液の凝固浴にて湿式紡糸することにより中空を有するフッ素系未焼成繊維1を製造した後、該未焼成繊維を330〜400℃で焼成させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦係数が低く、摺動性に優れ、電気抵抗が高く、耐薬品性、耐候性、耐熱性に優れたポリテトラフルオロエチレンからなる繊維であって軽量性及び捲縮加工性に優れたポリテトラフルオロエチレン中空繊維を製造するための方法に関するものである。即ち、本発明は、軽量化や、取り扱い性及び捲縮加工性の向上のために有効なポリテトラフルオロエチレン中空繊維を効率的に製造するための方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEという)からなるフッ素系繊維は、耐熱性、耐薬品性、電気特性あるいは低摩擦係数などに優れており、広く産業資材用途に用いられ、特に、石炭・石油火力発電所やごみ焼却場で使用されるバグフィルターに利用されている。
【0003】
PTFEは不溶解性であり、また加熱溶融時には非常に高い溶融粘度を持っているために通常の乾式紡糸や湿式紡糸や溶融紡糸を行うことができない。そこで、PTFE繊維は、スプリット剥離法、ペースト押出法、またはマトリックス法により生産されている。
【0004】
しかし上記したスプリット剥離法やペースト押出法では、製法上によりどうしても扁平断面形状となり、その形状・繊度もランダムで不均一となるため、フェルト加工時にネップが発生しやすく生産が困難であるという欠点があった。
また、セルロース系のマトリックス剤と共に湿式紡糸するマトリックス法によると、丸断面状の繊維となり、かつ繊度バラツキが小さいのでフェルト加工時にネップ発生といった問題がなく、加工性に優れている。
【0005】
しかしながら、PTFEは比重が2.3と他の繊維と比べ2倍近く重いので、その丸断面繊維から得られたフェルト地は重く、フィルター取り付け時や加工時における作業者の負担が大きく、また、フィルターを取り付ける設備の強度を増すなどの対応が必要となる。
また、PTFE繊維は比重が大きいために、特に軽量さが求められる衣料用などには利用されていない。
【0006】
そこで、特許文献1では、PTFE繊維を軽量化させるために中空フッ素繊維を製造する方法が提案されている。この文献に記載された製法は、マトリックス法による紡糸において複数のスリットを有する特殊な中空用口金を用い、C型断面や中空断面の繊維を紡出し、酸性凝固浴中で凝固させ、焼成させる方法であるので、特殊な口金が必要であり、また、紡糸の酸性凝固浴中において生じる空隙は紡糸や加工の工程途中において潰れ易いので、中空率の低い偏平断面糸となり易く、捲縮加工し難く、収率が低くなるという問題があった。
【特許文献1】特開2005−248378号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の主たる目的は、上記した従来の中空断面を有するPTFE繊維の問題を解消し、PTFE中空繊維を容易に効率的に製造できる方法を提供することであり、さらに、特に高中空率と丸断面を維持した中空PTFE繊維を製造できるようにすることである。そして、他の繊維よりも比重が大きいPTFE繊維でも高中空率の中空断面繊維とすることにより軽くし、取り扱い性を改善し、さらに、捲縮加工性を高め、捲縮性良好でフェルト加工を容易化することを別の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した目的を達成するために、本発明は次の構成からなる。
【0009】
PTFE分散液とセルロースもしくはその誘導体を含有するマトリックス剤とからなる混合液であって、PTFEとセルロースもしくはその誘導体との重量比が10:90〜50:50である紡糸原液を、酸性水溶液の凝固浴にて湿式紡糸することにより中空を有するフッ素系未焼成繊維を製造するフッ素系未焼成中空繊維の製造方法。ここで、上記紡糸原液の粘度は0.5〜5Pas・sであることが好ましい。
【0010】
また、PTFEとセルロースもしくはその誘導体からなり、それら重量比が10:90〜50:50である繊維であって、繊維中に中空があり、かつ、中空率が5〜50%であるフッ素系未焼成中空繊維。ここで、上記PTFEの粒子径が30〜500nmであり、そのポリマー分子量が80万〜800万であることが好ましい。
【0011】
さらに、上記記載の方法によって製造されたフッ素系未焼成中空繊維又は上記記載のフッ素系未焼成中空繊維を、330℃〜400℃で焼成されるフッ素系中空繊維の製造方法。
さらにまた、上記記載の方法によって製造されたフッ素系中空繊維であって、炭素成分含有量が重量比0〜15%であり、かつ中空率が10〜75%であるフッ素系中空繊維。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、中空糸用の特殊紡糸口金を用いずにマトリックス法によって中空断面を有するPTFE繊維を安定して製造することができる。また、本発明によると、所望の中空率の丸断面PTFE中空繊維を製造できるので、軽量化し取り扱い性の向上を図ると共に、捲縮加工性が良好であり、捲縮性良好でフェルト加工し易い捲縮PTFE中空繊維とすることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明では、中空断面を有するフッ素系中空繊維を製造するために次の方法を採用する。
【0014】
PTFE分散液とセルロースもしくはその誘導体を含有するマトリックス剤とからなる混合液であって、PTFEとセルロースもしくはその誘導体との重量比が10:90〜50:50である紡糸原液を、酸性水溶液の凝固浴にて湿式紡糸することにより中空を有するフッ素系未焼成繊維を製造した後、該未焼成繊維を330〜400℃で焼成させる。この焼成の後に延伸を行ない機械的物性を向上させてもよいし、さらに捲縮処理を行ってもよいし、さらに所定長に切断して短繊維としてもよい。
【0015】
本発明で用いるPTFEは、ポリテトラフルオロエチレンの単独重合体でもよいし、その本来の優れたポリマ特性を阻害しない範囲内の成分が共重合されたポリテトラフルオロエチレン系共重合体(PTFE誘導体)でもよい。そのポリマー分子量は80万〜800万が好ましく、さらには100万〜500万が好ましく、特に150万〜500万が好ましい。
【0016】
また、紡糸原液の調製には、このPTFEを水中に分散(懸濁)させたPTFE分散液が用いられる。分散液中のPTFEの粒子径は30〜500nmが好ましく、さらには50〜450nmが好ましく、特に100〜500nmが好ましい。また、分散液中のPTFEの濃度は30〜70wt%程度が好ましい。分散液中には、PTFEの分散状態を安定させるために界面活性剤が含有されていてもよい。
【0017】
また、マトリックス剤の「セルロースもしくはその誘導体」(以下、セルロース類と総称する)としては、ビスコースを用いることが好ましい。また、セルロース誘導体としては、ポリヒドロキシプロピルセルロースやヒドロキシエチルセルロースが例示される。
【0018】
ビスコースとしては、通常レーヨン製造に使用されるものが使用できる。例えば、セルロース類の濃度が5〜20wt%程度、アルカリ濃度が1〜15wt%程度のビスコースを用いればよい。
【0019】
本発明のマトリックス紡糸法では、紡糸原液として、ポリテトラフルオロエチレン分散液とセルロースもしくはその誘導体を含有するマトリックス剤とからなる混合液であって、かつ、ポリテトラフルオロエチレンとセルロースもしくはその誘導体との重量比が10:90〜50:50であるものを用いる。その重量比は、好ましくは20:80〜50:50であり、さらに好ましくは30:70〜50:50である。
【0020】
口金から吐出し繊維状とする湿式紡糸を行うためには、紡糸原液の粘度を10℃において0.5〜5Pasの範囲とすることが好ましい。粘度が低過ぎる場合には、口金から吐出しても繊維形状とすることが困難である。逆に、粘度が高過ぎると、口金からの吐出のための圧力(パック圧)を相当に高くする必要があり、紡糸原液の詰まりや液漏れが生じ易くなり、紡糸困難性が増す。
【0021】
口金から吐出された糸は、凝固浴(酸性水溶液)中にて凝固される。この酸性水溶液としては、硫酸等の無機酸やその無機塩を含有する水溶液で用いられ、例えば、硫酸濃度が
5〜20wt%程度の硫酸水溶液が用いられる。
【0022】
凝固された糸は、次いで、水浴中やアルカリ水溶液浴中を通過させることにより、精練され、酸成分が除去されて未焼成糸となる。本発明によると、未焼成糸は中空を有する中空繊維となり、その中空率は5〜50%程度である。
【0023】
本発明の場合、口金から吐出された後に凝固される過程において、繊維中に中空が形成されるのであるが、その理由は次のとおりと考えられる。
【0024】
従来のマトリックス法によるPTFE繊維の製造方法では、PTFE分散液を製糸化できるようにするために必要な量のみのマトリックス剤を紡糸基材として紡糸原液中に含有させていたので、マトリックス剤(セルロース類)を含有する紡糸原液として、マトリックス剤の割合が極めて少なく(例えば5〜20%)、PTFEの割合が極めて高い(例えば95〜80%)組成のものが使用されていた。このようにPTFEが極めて高い割合で含まれ、マトリックス剤が極めて低い割合で含まれる結果、紡糸原液中や吐出された未焼成繊維中において、PTFEのポリマー粒子を包み込むようにマトリックス剤が存在し、マトリックス剤はPTFE粒子同士の接着剤として機能していた。
【0025】
そのため、吐出されたPTFE繊維中のPTFE粒子は、凝固酸浴中で凝固された際に繊維中で移動することなく、PTFE粒子間同士がマトリックス剤で固定され接着されている未焼成糸が得られる。この未焼成糸を高温で焼成することで、PTFEが大勢を占めるフッ素系繊維が得られる。また、この紡糸原液では、水についでPTFE粒子が混合液の大半を占めている。そのため、凝固酸浴中で凝固される途中において、糸の内部まで酸が浸透し、酸とセルロース誘導体との反応は糸全体で起こり、丸断面の未焼成糸が得られる。
【0026】
他方、本発明の場合では、紡糸原液中におけるマトリックス剤の割合を、従来に比し著しく高くしている。この結果、紡糸原液中における水の量は、PTFEの量に比し著しく多くなっている。ここで、水が多いことでセルロース誘導体と酸との反応が通常より早く進行し糸の表面が早く固化し、セルロース化され糸化されるので、糸中に存在するセルロース誘導体の多くが糸表面側に集中してくる。このため、糸表面側の粘度が高くなって糸表面側へと移動したPTFE粒子が固定され、さらに糸表面側へと次々に引き寄せられ吸い取られて固定されていく。
【0027】
また、糸中に存在するPTFEの相対的な量が少ないので、特に粒径が小さいPTFE粒子では、凝固酸浴中で凝固される際の移動の障害が少なく、PTFE自体の摩擦係数が少ないので、糸中をさらに移動し易くなっている。この結果、セルロース誘導体が集中する糸表面側へとさらにPTFE自体が連れられて集まる。さらに、水分の多いマトリックス剤も糸化の進行に伴って糸表面側へと吸い寄せられる。
【0028】
これら現象が凝固酸浴中での凝固に伴って進行する結果、糸中央に水分と空気の混じった空間(中空ないし、中空に近い極めて粗の空間)が生じてきて、結果として、中空を有する中空糸が形成されていく。
この中空を有するPTFEとセルロースからなる未焼成糸は、中空率を5〜50%とすることができ、好ましくは10〜35%、さらに好ましくは20〜35%とすることができる。
【0029】
この中空を有する未焼成糸を、その中空を押しつぶすことなく乾燥焼成することにより、中空を有するフッ素系中空繊維を得ることが出来る。このフッ素系中空繊維は、必要に応じ、加熱延伸し、さらに300℃条件化で再加熱焼成することにより、中空を有するフッ素系中空繊維とすることができる。
【0030】
中空を有する未焼成糸の乾燥焼成は、加熱空気中で、所定の弛緩率の状態で焼成熱処理することにより行われる。その焼成温度は330〜400℃が好ましく、さらに好ましくは350〜380℃である。この焼成により未焼成糸中に存在するマトリックス剤のセルロース誘導体が炭化され除去される。焼成して得られたPTFE中空繊維の一例についての断面写真(SEM写真)を図1に示す。この図1において、繊維中央に中空部分2が形成されている。
【0031】
この乾燥焼成の後に必要に応じて行う加熱延伸や再加熱焼成は、通常の条件で行えばよい。
【0032】
このようにして得られる、本発明によるフッ素系中空焼成繊維は、炭素成分含有量が重量比0〜15%、好ましくは0〜10%、さらに好ましくは0〜5%であり、また、中空率は10〜75%、好ましくは20〜60%で、さらに好ましくは30〜50%とすることができる。
【0033】
本発明で得られるフッ素中空繊維は、内部に空隙(中空)を有するため、丸断面のフッ素性繊維や、フィルム割繊といったフッ素繊維より大幅に軽くすることができる。そのため、これを用いたバグフィルターを軽くすることができ、持ち運び性が容易となり、運搬に対するコストが削減でき、トラック運送時のCO排出抑制に寄与できる。
【0034】
また、軽量化によって、ゴミ焼却場や石炭・石油発電所などにおいて使用されるバグフィルターを設置する設備自体を軽量化することができ、投資費用の削減に寄与できる。
【0035】
さらには、中空繊維であるが故に、繊維の製造段階において、捲縮を付与する工程において、繊維の横方向から、熱や力を受けることで、容易に自己捲縮がかかり易い。この結果、フッ素繊維のからなるフェルトの製造工程において、繊維同士が絡まりやすくなるので、製造が容易となる。その結果、中空繊維からなるフッ素繊維は、軽量かつ強度の高いフェルトを製造でき、バグフィルター利便性を高めたものとなる。
【実施例】
【0036】
以下実施例により、本発明を具体的に説明する。本発明において、各特性は以下のように測定することができる。
【0037】
<繊維の中空率>
包埋法により繊維の横断面写真を撮影する。その上でそれぞれの横断面写真において、繊維の直径(D)と、繊維内に存在する中空部の直径(E)とを測定し下記式で中空率を求める。
空中率(%)=[((E/2)×(E/2)×π)/((D/2)×(D/2)×π)]×100
【0038】
<包埋法>
サンプル糸を成形枠にやや張力を加え、セロハン粘着テープで固定する。他方、200℃で加熱してパラフィンとステアリン酸の混合物を溶融させ、130℃に昇温したらエチルセルロースを少量ずつ加え、攪拌しながら1時間保温して泡を抜く。これを100℃まで落とした後、成形枠に流し込む。冷却・固化させた後、適当な大きさのブロックに切り分ける。ミクロトームを用いて、ブロックから切片( 厚さ7μm程度)を切り出し、スライドグラスの上に載せる。このとき、スライドグラス上にアルブメンを薄く塗り延ばしておく(アルブメンは卵の白身とグリセリン等量、防腐剤としてサリチル酸ソーダ1wt%添加したもの)。70℃に保った乾燥機に20分放置して熱処理を行い乾燥させた後、酢酸イソアミル浴に約1時間浸し、脱包埋を行ない、その後風乾する。スライドグラスの上に流動パラフィンを一滴つけ、空気が入らないようにカバーグラスを静かに載せ、顕微鏡を用いて写真を撮影する。
【0039】
<紡糸原液の粘度>
PTFE分散液とセルロース系マトリックス剤とを混合した紡糸原液について、B型粘度計を用いて、10℃の時の粘度を測定する。
【0040】
<分子量>
PTFEの分子量は、米国特許第3067262号明細書で示されている融点と分子量の関係、により、島津製作所製の自動示差走査熱量計 DSC−60Aにて測定した融点を用い、分子量=200/(685(1/融点(°K)−1/600))に従って算出されたデータに基づき算出する。
【0041】
<粒子径>
JIS K 6891準拠にもとづく光拡散法により測定する。
【0042】
<炭素成分含有率(含炭率)>
加熱する前にフッ素系繊維の重量を測り加熱前重量とする。そのフッ素系繊維を加熱炉内に入れ300度にて1週間加熱した後に放冷する。放冷後のフッ素系繊維の重量を測り加熱後重量とする。下記式にて含炭率を求める。
含炭率(%)=[(加熱前重量−加熱後重量)/(加熱前重量)]×100
【0043】
[実施例1]
PTFE分子量が350万で粒子径が80nmであるPTFE50wt%水分散液と、ビスコース(セルロース濃度10wt%)とを、溶液重量比60:700で混合することにより、10℃粘度が1.5Pasの紡糸原液を調製した。この紡糸原液中のPTFEとセルロース類との乾燥重量比は30:70であった。
【0044】
この紡糸原液を300Hの口金から、10%硫酸水溶液(温度10℃)中に紡出した後、水浴中で酸を置換し、未焼成糸を製造した。得られたフッ素系未焼成糸は、単糸の略中央に中空部分が存在し、その中空率は25%であり、単糸繊度は30.5dtexであった。
【0045】
得られたフッ素系未焼成中空繊維糸を、390℃で焼成した後、20m/minで10倍に延伸し、フッ素系中空繊維糸とした。得られたフッ素系中空繊維糸は、単糸繊度が3.5dtexで、中空率が23%で、炭素含有量が4.8%であった。
【0046】
[実施例2]
PTFE分子量が90万で粒子径が280nmであるPTFE40wt%水分散液と、ビスコース(セルロース濃度10wt%)とを、溶液重量比37.5:850で混合することにより、10℃粘度が0.8Pasの紡糸原液を調製した。この紡糸原液中のPTFEとセルロース類との乾燥重量比は15:85であった。
【0047】
この紡糸原液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして未焼成中空繊維糸を製造した。得られたフッ素系未焼成中空繊維糸は、単糸の略中央に中空部分が存在し、その中空率は40%で、単糸繊度は28.5dtexであった。
この未焼成中空繊維糸を実施例1と同様にして焼成し延伸しフッ素系中空繊維糸とした。得られたフッ素系中空繊維糸は、単糸繊度が2.6dtexで、中空率が38%で、炭素含有量が3.8%であった。
【0048】
[実施例3]
PTFE分子量が750万で粒子径が480nmであるPTFE40wt%水分散液と、ビスコース(セルロース濃度15wt%)とを、溶液重量比125:333で混合することにより、10℃粘度が0.6Pasの紡糸原液を調製した。この紡糸原液中のPTFEとセルロース類との乾燥重量比は50:50であった。
【0049】
この紡糸原液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして未焼成中空繊維糸を製造した。得られたフッ素系未焼成中空繊維糸は、単糸の略中央に中空部分が存在し、その中空率は8%で、単糸繊度は50dtexであった。
この未焼成中空繊維糸を実施例1と同様にして焼成し延伸しフッ素系中空繊維糸とした。得られたフッ素系中空繊維糸は、単糸繊度が5.5dtexで、中空率が7%で、炭素含有量が4.6%であった。
【0050】
[実施例4]
PTFE分子量が480万で粒子径が300nmであるPTFE60wt%水分散液と、ビスコース(セルロース濃度20wt%)とを、溶液重量比67:300で混合することにより、10℃粘度が3.5Pasの紡糸原液を調製した。この紡糸原液中のPTFEとセルロース類との乾燥重量比は40:60であった。
【0051】
この紡糸原液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして未焼成中空繊維糸を製造した。得られたフッ素系未焼成中空繊維糸は、単糸の略中央に中空部分が存在し、その中空率は18%で、単糸繊度は55dtexであった。
この未焼成中空繊維糸を、350℃で焼成した後、20m/minで10倍に延伸しフッ素系中空繊維糸とした。得られたフッ素系中空繊維糸は、単糸繊度が5.2dtexで、中空率が17%で、炭素含有量が12.5%であった。
【0052】
[比較例1]
PTFE分子量が780万で粒子径が300nmであるPTFE70wt%水分散液と、ビスコース(セルロース濃度10wt%)とを、溶液重量比129:100で混合することにより、10℃粘度が30Pasの紡糸原液を調製した。この紡糸原液中のPTFEとセルロース類の乾燥重量比は90:10であった。
【0053】
この紡糸原液を用い、180Hの口金から紡出したこと以外は、実施例1と同様にして未焼成中空繊維糸を製造した。得られたフッ素系未焼成繊維糸には、単糸中に中空が存在せず(中空率が0%)、単糸繊度は7.5dtexであった。
得られたフッ素系未焼成繊維糸1を実施例1と同様にして焼成し延伸しフッ素系繊維糸とした。得られたフッ素系繊維糸は、中空が存在せず、単糸繊度が3.5dtexで、炭素含有量は2.5%であった。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明で得られる中空断面を有するPTFE繊維を用いるとPTFE繊維製品を軽量化することができる。例えば、本発明の中空PTFE繊維を用いて製造されるフィルターは軽量化され、ゴミ焼却場や火力発電所などの設備全体の構造をシンプル化でき、かつ運搬に負担が軽減される。さらに、本発明の軽量化された中空PTFE繊維は、衣料用途への展開も可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明により製造されたPTFE中空繊維(焼成糸)の一例を示す断面写真(SEM写真)である。
【符号の説明】
【0056】
1:中空フッ素繊維の横断面
2:その中空部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリテトラフルオロエチレン分散液とセルロースもしくはその誘導体を含有するマトリックス剤とからなる混合液であって、ポリテトラフルオロエチレンとセルロースもしくはその誘導体との重量比が10:90〜50:50である紡糸原液を、酸性水溶液の凝固浴にて湿式紡糸することにより中空を有するフッ素系未焼成繊維を製造することを特徴とするフッ素系未焼成中空繊維の製造方法。
【請求項2】
紡糸原液の粘度(10℃)が0.5〜5Pas・sであることを特徴とする請求項1記載のフッ素系未焼成中空繊維の製造方法。
【請求項3】
ポリテトラフルオロエチレンとセルロースもしくはその誘導体からなり、それら重量比が10:90〜50:50である繊維であって、繊維中に中空があり、かつ、中空率が5〜50%であることを特徴とするフッ素系未焼成中空繊維。
【請求項4】
ポリテトラフルオロエチレンの粒子径が30〜500nmであり、そのポリマー分子量が80万〜800万であることを特徴とする請求項3記載のフッ素系未焼成中空繊維。
【請求項5】
請求項1もしくは2に記載の方法によって製造されたフッ素系未焼成中空繊維又は請求項3もしくは4に記載のフッ素系未焼成中空繊維を、330〜400℃で焼成させることを特徴とするフッ素系中空繊維の製造方法。
【請求項6】
請求項5記載の方法によって製造されたフッ素系中空繊維であって、炭素成分含有量が重量比0〜15%であり、かつ中空率が10〜75%であることを特徴とするフッ素系中空繊維。

【図1】
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