説明

フッ素系潤滑剤組成物

【課題】フッ素オイルが本来有する諸特性を損なうことなく、従来よりもさらに優れた長期防錆性、耐熱性などを改善せしめたフッ素系潤滑剤組成物を提供する。
【解決手段】基油中に、一般式 CF3(CF2)nO(CF2O)p(C2F4O)q(C3F6O)rRfCONHAr (ここで、Arは2-ベンゾイミダゾール基であり、Rfは炭素数1〜2のフルオロカーボン基であり、nは0、1または2であり、p+q+r≦100である整数で、p、q、rの内の1個または2個は0であり得、CF2O基、C2F4O基およびC3F6O基は主鎖中にランダムに結合している基である)で表わされる含フッ素化合物を添加剤として含有するフッ素系潤滑剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素系潤滑剤組成物に関する。さらに詳しくは、長期防錆性および耐熱性にすぐれたフッ素系潤滑剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素系潤滑剤は、自動車、電気機器、建設機械、情報機器、産業機械、工作機械等の各種機械及びそれらを構成する各部品の潤滑に広く使われている。近年、これらの機械の高速化、小型化、高性能化、軽量化にともない、これら周辺機器の温度はますます上昇する傾向にある。また、沿岸部での機器使用時や部品の海外輸送時の錆の発生防止などの要求があり、防錆特性、耐熱特性などが求められている。
【0003】
通常、防錆性改良のためには、耐熱性のある添加剤を基油に含有せしめて、潤滑剤の性能を向上させる提案がなされている。例えば、特許文献1には、含フッ素有機リン化合物を含有させた潤滑油組成物が提案されている。かかる潤滑油組成物は、耐熱性を損なうことなく耐摩耗性、防錆性などを改善しているものであるが、近年の高まる耐熱性の要求に満足できなくなってきているのが現状である。
【0004】
特許文献2には、パーフルオロポリエーテル基を有するリン酸エステル系の化合物を含有させた潤滑油(グリース)が、また特許文献3には、リンとフルオロカーボン基との間にモノ-またはポリ-アルキレンオキシド結合基を含む、または含まないアリールホスフェートおよびホスホネート化合物を含有させた潤滑油(グリース)がそれぞれ提案されている。これらの添加剤では、含フッ素基とリン酸基とがC-O-P結合を形成しているため加水分解が起こり易く、その結果耐熱性、耐久性に劣るようになり、結果としてフッ素オイル・フッ素グリース本来の特徴である耐熱性が発揮できないことになる。
【0005】
特許文献4には、-(CF2)nO- の繰り返し単位と-CH2NRR′末端基とから構成される安定化化合物を含む磁気ディスク用潤滑剤が記載されている。得られた化合物をペルフルオロポリエーテルの添加剤として使用することにより、良好な結果をを得ることができるものの、さらに安定性を改善する必要がある。
【0006】
また、特許文献5ではピリジン環を有する化合物を利用し、安定性の改善が図られた潤滑剤が記載されている。ピリジン環を有する化合物がパーフルオロポリエーテル基油の安定性に寄与し、得られた潤滑剤は良好な性能を示しているが、近年の高まる防錆特性、耐ガス特性、分解防止特性の要求を満足させるためには、さらなる改善が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−027079号公報
【特許文献2】特開平6−136379号公報
【特許文献3】特表2002−510697号公報
【特許文献4】USP 6,083,600
【特許文献5】特開2004−346318号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、フッ素オイルが本来有する諸特性を損なうことなく、従来よりもさらに優れた長期防錆性、耐熱性などを改善せしめたフッ素系潤滑剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる本発明の目的は、基油中に、一般式
CF3(CF2)nO(CF2O)p(C2F4O)q(C3F6O)rRfCONHAr 〔I〕
(ここで、Arは2-ベンゾイミダゾール基であり、Rfは炭素数1〜2のフルオロカーボン基であり、nは0、1または2であり、p+q+r≦100である整数で、p、q、rの内の1個または2個は0であり得、CF2O基、C2F4O基およびC3F6O基は主鎖中にランダムに結合している基である)で表わされる含フッ素化合物を添加剤として含有するフッ素系潤滑剤組成物によって達成される。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るフッ素系潤滑剤組成物は、一方の末端に2-ベンゾイミダゾール基を有する含フッ素化合物を添加することにより、その低温特性、耐熱性、酸化安定性、温度-粘度特性、潤滑性、耐摩耗性、耐剥離性、低トルク性、低騒音性、初期なじみ性、漏れ・飛散防止性、にじみ防止性、せん断安定性、耐腐食性、耐スラッジ性、気孔内流通性、洗浄性、導電性、低蒸気圧性、低発塵性、低アウトガス性、耐汚染性、生分解性、耐ゴム性、耐樹脂性、耐侯性、耐水性、耐薬品性、高強度性、密着性、離型性、非粘着性等、高温耐久性を損なうことなく、防錆性、耐熱性等を大幅に改善せしめることができる。特に、防錆性については、長期の防錆を可能とする。
【0011】
フッ素系潤滑油組成物の添加剤成分として用いられる含フッ素化合物は、窒素原子を有するため、分子構造中に非共役電子対を持ち、金属表面に適正な配位能を発揮する。また,分子骨格中にアミド結合を持つことにより、金属表面との配位能をより安定化させるといった働きも併せ持っている。これらの高い配位能により、金属表面への吸着が強くなり、耐摩擦摩耗性、熱安定性、防錆性、ガスに対する金属保護能力などを発揮することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
フッ素系潤滑油の添加剤として用いられる含フッ素化合物としては、一方の分子末端が化学的に不活性なパーフルオロアルキル基であり、他方の分子末端は窒素原子を含有する複素環式化合物基である2-ベンゾイミダゾール基によって修飾された含フッ素化合物、具体的には一般式
CF3(CF2)nO(CF2O)p(C2F4O)q(C3F6O)rRfCONHAr 〔I〕
(ここで、Arは2-ベンゾイミダゾール基であり、Rfは炭素数1〜2のフルオロカーボン基であり、nは0、1または2であり、p+q+r≦100である整数で、ある程度の分布をとることが許容されるものであり、p、q、rの内の1個または2個は0であり得、CF2O基、C2F4O基およびC3F6O基は主鎖中にランダムに結合している基である)で表わされるものが用いられる。これらの含フッ素化合物は、潤滑剤組成物中約0.1〜99重量%、好ましくは約0.5〜50重量%、さらに好ましくは1〜20重量%の割合で用いられる。これより少ない割合で用いられると、防錆剤および潤滑剤としての十分な効果が得られず、一方これ以上の割合で用いられるとコストパフォーマンスに見合った性能が発揮できないばかりではなく、粘性抵抗の増加など、消費動力やトルクが大きくなる不具合を生じる可能性がある。
【0013】
この含フッ素化合物は、一般式
CF3(CF2)nO(CF2O)p(C2F4O)q(C3F6O)rRfCOF 〔II〕
で表わされる含フッ素ポリエーテルカルボン酸フロライドを、2-アミノベンゾイミダゾールと反応させることによって製造される。
【0014】
含フッ素化合物の製造に用いられるパーフルオロポリエーテル酸フロライドは、公知の方法で容易に得ることができ、一般的にはヘキサフルオロプロピレンオキサイドをフッ化セシウム触媒およびテトラグライム溶媒の存在下でオリゴマー化反応させると、一般式〔VI〕に示されるようなパーフルオロポリエーテルが得られる。

【0015】
調製が容易であるといった観点からは、ヘキサフルオロプロピレンオキサイドの数平均重合度(r)は10≦r≦25程度が好ましく、さらに好ましくはr=15程度が好ましい。また、重合度はある程度の分布を持っていてもよい。このヘキサフルオロプロピレンオキサイドオリゴマーを用いる製造方法が、最も効率よく含フッ素ポリエーテル化合物を得ることができる。
【0016】
また、分岐構造を持たないパーフルオロポリエーテル酸フロライドも、公知の方法で得ることができる。その一例として、一般式〔VII〕に示されるようなテトラフルオロエチレンオキサイドの光酸化重合によりテトラフルオロエチレンオキサイド単位とジフルオロメトキシ単位が不規則に結合したものが挙げられる。
CF3O(CF2O)p(CF2CF2O)qCF2COF 〔V〕
【0017】
なお、分岐構造を持たないパーフルオロポリエーテル酸フロライドの他の製法として、テトラフルオロオキセタンを金属フッ化物で開環重合した後、直接フッ素化により繰り返し単位部分の炭化水素メチレン基をフッ素化し、パーフルオロポリエーテル酸フロライドを得る方法もある。ただし、工程は長くなる。

【0018】
以上に例に示される如く、フルオロカーボン基Rfは炭素数1〜2のパーフルオロアルキレン基または分岐パーフルオロアルキレン基であり、例えば-CF2-、-CF2CF2-、-CF(CF3)-基などが示される。
【0019】
パーフルオロポリエーテルカルボン酸フロライドの変性に使用される2-アミノベンゾイミダゾール

としては、実際にはこれらは市販品をそのまま用いることができる。2-アミノベンゾイミダゾールは、少なくとも1個のアルキル基、ハロゲン基等で置換されていてもよい。
【0020】
これらの含フッ素ポリエーテル化合物と2-アミノベンゾイミダゾールとは、加熱撹拌しながら反応させることにより、目的物である含フッ素化合物を得ることができる。反応に際しては、反応により生じるHFを捕捉するため、主反応には関与しない三級アミンを共存させることが好ましい。反応後の除去し易さといった観点からは、好ましくはトリアルキルアミン(アルキル基は炭素数1〜12、好ましくは1〜3)、ピリジン、ジメチルアミノピリジンなどのピリジン類が用いられ、反応後の除去し易さに加えて反応性、取り扱いの容易性、価格などの観点からは、さらに好ましくはトリエチルアミン、ピリジンが用いられる。
【0021】
反応は、特に溶媒を用いなくとも目的物を得ることが可能であるが、パーフルオロポリエーテルの粘度などの理由により撹拌し難い場合などには、有機溶剤を使用して粘度を下げることもできる。有機溶剤としては、各反応成分の溶解性などを考慮して、好ましくはハイドロクロロフルオロカーボン、ハイドロフルオロカーボン、ハイドロフルオロエーテル等のフッ素系有機溶剤が用いられ、実際には旭硝子製品AK-225、3M社製品ノベックHFEなどの市販品が用いられる。
【0022】
反応温度は特に制限されないが、含フッ素ポリエーテル化合物に2-アミノベンゾイミダゾールおよびHF捕捉剤を滴下した後、好ましくは約80〜100℃、さらに好ましくは約90〜100℃に設定される。反応時にアミン化合物の酸化により反応混合物に著しい着色が生じる場合があり、そのような現象を避けるためには、滴下終了後の反応温度を段階的に昇温させる、具体的には例えば3〜5℃程度の昇温幅で48時間ごとに昇温させることが好ましい。また、不必要に長時間の反応も着色を引き起こす原因となるため、反応は24〜100時間、好ましくは48〜72時間程度行われる。
【0023】
反応後は、抽出処理により反応中に生じたアミンのHF塩などを除去するが、反応に溶媒を用いなかった場合には、抽出溶媒としてフッ素系有機溶剤が用いられる。このフッ素系有機溶剤としては、前記市販品がそのまま用いられる。なお、水溶性物質を溶解させる抽出溶媒としては、水、食塩水、低級アルコールなどが使用されるが、これらの内不純物の抽出能力、層分離能の観点からは、好ましくはメタノールが用いられる。
【0024】
含フッ素化合物防錆剤を含有する基油として用いられるフッ素油としては、一般にパーフルオロポリエーテル油が用いられる。かかるパーフルオロポリエーテルとしては、一般式
RfO(CF2O)x(C2F4O)y(C3F6O)zRf
で表わされるものが用いられ、CF2O基、C2F4O基およびC3F6O基は主鎖中にランダムに結合した基である。具体的には、例えば下記一般式(1)〜(3)で表わされるようなものが用いられ、この他一般式(4)で表わされるようなものも用いられる。なお、Rfはパーフルオロメチル基、パーフルオロエチル基、パーフルオロプロピル基等の炭素数1〜5、好ましくは1〜3のパーフルオロ低級アルキル基である。
(1) RfO[CF(CF3)CF2O]zRf
ここで、z=2〜200であり、ヘキサフルオロプロピレンの光酸化重合で生成した先駆体を完全にフッ素化することにより、あるいはフッ化セシウム触媒下にヘキサフルオロプロピレンをアニオン重合させ、得られた末端CF(CF3)COF基を有する酸フルオライド化合物フッ素ガスで処理することにより得られる。
(2) RfO(CF2O)x(CF2CF2O)yRf
ここで、x+y=3〜200、x:y=10〜90:90〜10であり、またCF2O基およびCF2CF2O基は主鎖中にランダムに結合しているものであり、テトラフルオロエチレンの光酸化重合で生成した先駆体を完全にフッ素化することによって得られる。
(3) RfO(CF2O)x[CF(CF3)CF2O]zRf
ここで、x+z=3〜200でtは0であり得、x:z=10〜90:90〜10であり、またCF2O基およびCF(CF3)CF2O基は主鎖中にランダムに結合しているものであり、ヘキサフルオロプロペンの光酸化重合で生成した先駆体を完全にフッ素化することにより得られる。
(4) F(CF2CF2CF2O)2〜100C2F5
これは、フッ化セシウム触媒の存在下に2,2,3,3-テトラフルオロオキセタンをアニオン重合させ、得られた含フッ素ポリエーテル(CH2CF2CF2O)nを紫外線照射下に約160〜300℃でフッ素ガスで処理することによって得られる。
【0025】
これらのパーフルオロポリエーテル基油は、単独であるいは混合して用いることができるが、潤滑油として用いる場合には、その動粘度(40℃)が約5〜2000mm2/秒、好ましくは約10〜1500mm2/秒であることが望ましい。動粘度がこれ以下のものは蒸発量が多く、耐熱用のグリースとして用いる場合には、JIS転がり軸受用グリース3種で規定されている蒸発量1.5%以下という条件を満さなくなり、一方これ以上の粘度を有するものは、流動点(ASTM D5853に対応するJIS K-2269準拠)が10℃以上となり、通常の方法では低温時にベアリング、ギャ、チェーン等が起動せず、それを使用可能とするには加熱する必要があり、一般的なグリースとしては使用適格を欠くようになる。
【0026】
フッ素系潤滑剤組成物中には、以上の成分の他にさらに本発明の目的が損なわれない範囲で、必要に応じて一般的な合成油を基油とした潤滑剤に使用される流動点降下剤、無灰系分散剤、金属系清浄剤、酸化防止剤、他の防錆剤、腐食防止剤、消泡剤、耐摩耗剤、油性剤等の公知の添加剤を必要に応じて添加することができる。ただし、最終製品の耐熱性、低温流動性、軸受材との相性を阻害しないために、これらの添加剤は、必要最少限とすることが望ましい。
【0027】
流動点降下剤としては、例えばジ(テトラパラフィンフェノール)フタレート、テトラパラフィンフェノールの縮合生成物、アルキルナフタレンの縮合生成物、塩素化パラフィン-ナフタレン縮合物、アルキル化ポリスチレンなどを挙げることができる。
【0028】
無灰系分散剤としては、例えばコハク酸イミド系、コハク酸アミド系、ベンジルアミン系、エステル系無灰分散剤等を挙げることができる。
【0029】
金属系清浄剤としては、例えばジノニルナフタレンスルホン酸に代表されるスルホン酸金属塩、アルキルフェノールの金属塩、サリチル酸金属塩等を挙げることができる。
【0030】
酸化防止剤としては、例えば2,6-ジ第3ブチル-4-メチルフェノール、4,4′-メチレンビス(2,6-ジ第3ブチルフェノール)等のフェノール系の酸化防止剤、アルキルジフェニルアミン(アルキル基の炭素数は4〜20)、トリフェニルアミン、フェニル-α-ナフチルアミン、フェノチアジン、アルキル化フェニル-α-ナフチルアミン、アルキル化フェノチアジン等のアミン系の酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤などが挙げられ、これらを単独または2種以上混合して用いることができる。
【0031】
防錆剤としては、例えば脂肪酸、脂肪酸石けん、アルキルスルホン酸塩、脂肪酸アミン、酸化パラフィン、アルキルポリオキシエチレンエーテル等が挙げられる。
【0032】
他の腐食防止剤としては、例えばベンゾイミダゾール、ベンゾトリアゾール、チアジアゾール等を挙げることができる。
【0033】
消泡剤としては、例えば、ジメチルポリシロキサン、ポリアクリル酸、金属石けん、脂肪酸エステル、リン酸エステル等を挙げることができる。
【0034】
耐摩耗剤としては、例えばリン酸エステル、亜リン酸エステル、リン酸エステルアミン塩等のリン系化合物、スルフィド類、ジスルフイド類等のイオウ系化合物、塩素化パラフィン、塩素化ジフェニル等の塩素系化合物およびジアルキルジチオリン酸亜鉛、ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン等の有機金属化合物等を挙げることができる。
【0035】
油性剤としては、例えば脂肪酸またはそのエステル、高級アルコール、多価アルコールまたはそのエステル、脂肪族アミン、脂肪酸モノグリセライド等が挙げられる。
【0036】
潤滑油組成物の調製は、パーフルオロポリエーテル基油に含フッ素化合物添加剤を所定量添加し、攪拌することによって行われる。得られた潤滑剤組成物は、ハイドロフルオロエーテル、ハイドロフルオロカーボン、パーフルオロカーボンなどのフッ素系溶剤に希釈した溶液(ディスパージョン)としても用いることができる。このディスパージョンは、摺動箇所に塗布後、フッ素系溶剤を気化させるといった方法により使用に供される。
【実施例】
【0037】
次に、実施例について本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0038】
参考例1
窒素シール用T字形コネクター、撹拌翼、コンデンサー、滴下ロート、温度計および加熱用マントルヒーターを取り付けたフラスコに、パーフルオロポリエーテルカルボニルフロライド
CF3CF2CF2O〔CF(CF3)CF2O〕rCF(CF3)COF
r:12(ある程度の分布を有する)
1020gを導入して撹拌した。そこに、2-アミノベンゾイミダゾール51g(372ミリモル)とトリエチルアミン9gとの混合物を室温でゆっくりと滴下し、滴下終了後に内温が92±1℃となるようにマントルヒーターの温度を調整し、さらに48時間後に内温が96±1℃となるように再調整をして、さらに24時間加熱撹拌を行った。IRスペクトルで1885cm-1のCOFのシグナルが消失したことを確認し、反応混合物にフッ素系有機溶剤(旭硝子製品AK-225)250mLを加えて撹拌して十分に溶解させた後、メンブランフィルターを用いてアミンのフッ酸塩等の不溶性成分を除去した。ろ液に上記フッ素系有機溶剤(AK-225)100mLおよびメタノール1200gを加えて十分に混合し、下層を抽出する作業を合計3回実施し、最後にエバボレーターを用いてフッ素系有機溶剤(AK−225)を滅圧下で除去し下記の含フッ素化合物A(回収量:1070g)を得た。

r:12 (F-NMRから求めたヘキサフルオロプロピレン
オキサイドの数平均重合度であり、ある程度の分布を有している)
F-NMR(acetone-d6,CFCl3)
-145.9 〜 -145.2ppm ; -OCF(CF3)CF2O-
-132.6ppm ; -CF(CF3)CONH-
-131.0ppm ; CF3CF2CF2O-
-86.1 〜 -74.9ppm ; -OCF(CF3)CF2O-,CF3CF2CF2O-
-84.1ppm ; CF3CF2CF2O-
-81.3ppm ; -OCF(CF3)CF2O-
-81.2ppm ; -CF(CF3)CONH-
H-NMR(acetone-d6,TMS)
δ7.20 ; =N-C(C)-CH=CH-
δ7.61 ; =N-C(C)-CH=CH-
【0039】
参考例2
参考例1においてパーフルオロポリエーテルカルボニルフロライドとして
CF3CF2CF2O(CF2CF2CF2O)rCF2CF2COF
r:20(ある程度の分布を有する)
500gを用い、また2-アミノベンゾイミダゾール量を18.8g(137ミリモル)、トリエチルアミン量を3.3gにそれぞれ変更して加熱撹拌反応を行った。IRスペクトルで1880cm-1(COF)のシグナルが消失したことを確認し、反応混合物にフッ素系有機溶剤(AK-225)100mLを加えて撹拌して十分に溶解させた後、メンブランフィルターを用いてアミンのフッ酸塩等の不溶性成分を除去した。ろ液に上記フッ素系有機溶剤(AK-225)100mLおよびメタノール600gを加えて十分に混合し、下層を抽出する作業を合計3回実施し、最後にエバボレーターを用いてフッ素系有機溶剤(AK−225)を滅圧下で除去し、下記の含フッ素化合物B(回収量:482g)を得た。この含フッ素化合物のNMRの同定結果は、参考例1と同様であった。

r:20(ある程度の分布を有する)
【0040】
参考例3
参考例1において、2-アミノベンズイミダゾールの代わりに4-アミノピリジン35g(372ミリモル)が用いられ、滴下終了後の内温が90±1℃、48時間後の内温が95±1℃に変更され、下記の含フッ素化合物C(回収量:998g)を得た。

r:12(ある程度の分布を有する)
【0041】
以上の参考例1〜3で得られたフッ素化合物A〜C(添加剤A〜C)および下記添加剤D〜Eについて、耐熱性の評価として重量半減温度を測定した。
〔添加剤〕
A:参考例1で得られた含フッ素化合物A
B:参考例2で得られた含フッ素化合物B
C:参考例3で得られた含フッ素化合物C
D:C3F7O[CF(CF3)CF2O]sCF(CF3)-CONH-(CH2)6-NH2
E:C3F7O[CF2CF(CF3)O]2〜6CF(CF3)(CH2)2OPO(OC2H5)2
【0042】
耐熱性の評価は、次の条件下で重量半減温度を測定した。
試験機:熱重量・示差熱分析装置(TG/DTA)
開始温度:25℃
最高温度:500℃
昇温速度:5℃/分
測定結果は、次の表1に示される。
表1
添加剤 重量半減温度(℃)
A 292
B 308
C 303
D 380
E 226
【0043】
実施例1〜11、比較例1〜6
下記基油、増稠剤および添加剤を攪拌して混合を行い、潤滑油組成物を調製した。
〔基油〕
A:RfO[CF(CF3)CF2O]sRf 動粘度(40℃)100mm2/秒
B:RfO[CF(CF3)CF2O]sRf 動粘度(40℃)400mm2/秒
C:F(CF2CF2CF2O)tRf 動粘度(40℃)100mm2/秒
D:RfO(CF2CF2O)u(CF2O)vRf 動粘度(40℃)160mm2/秒
E:RfO[CF(CF3)CF2O]s(CF2O)vRf 動粘度(40℃)230mm2/秒
得られた潤滑油組成物について、防錆試験として湿潤試験が行われた。
防錆試験(湿潤試験)
試験方法:ASTM D 1748
温度:49±1℃
湿度:95%
時間:300時間、500時間
試験片:60×80×1.2mmのSPCC-SB
評価方法:試験後に錆の発生度合いを調べ、下記基準に従って評価する
等級 錆発生度(%)
A 0
B 1〜10
C 11〜25
D 26〜50
E 51〜100
【0044】
得られた結果は、基油および添加剤の種類および混合割合と共に、次の表2に示される。
表2
基油 添加剤 防錆試験
種類 重量% 種類 重量% 300hrs 500hrs
実施例1 A 99.5 A 0.5 A A
〃 2 A 97.0 A 3.0 A A
〃 3 A 99.5 B 0.5 A A
〃 4 A 99.0 B 1.0 A A
〃 5 A 98.0 B 2.0 A A
〃 6 A 97.0 B 3.0 A A
〃 7 B 99.0 B 1.0 A A
〃 8 E 99.0 B 1.0 A A
〃 9 C 99.0 B 1.0 A A
〃 10 E 99.0 B 1.0 A A
〃 11 D 99.0 B 1.0 A A
〃 12 A 1.0 B 99.0 A A
比較例1 A 100.0 D D
〃 2 C 100.0 D D
〃 3 D 100.0 D D
〃 4 A 99.0 D 1.0 B B
〃 5 A 99.0 C 1.0 A B
〃 6 A 99.0 E 1.0 A A
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明に係る潤滑剤組成物およびグリース組成物は、潤滑剤を使用する分野、特に防錆性、耐ガス性、分解防止性が要求され、長時間安定して使用可能な潤滑剤を使用する分野で用いられる。具体的には、自動車補機、電気機器、建設機械、情報機器、産業機械、工作機械、音響映像機器、LBP等の精密/電機・電子機器、事務機器用、PC、HDD等の記録媒体、遮断機、電気接点、半導体製造装置、家電製品、クリーンルーム、ダンバー、金属加工、搬送設備、自動車工業OEM、鉄道・船舶・航空機産業、食品・薬品工業、鉄鋼、鉱業・ガラス・セメント工業、化学・ゴム・樹脂工業、フィルムテンター、製紙工業、印刷工業、木材工業、繊維・アパレル、相対運動する機械部品、内燃機関、ポンプ等の各種機械及びそれらを構成する各部品などが、この潤滑剤が適用可能なものとして例示される。
【0046】
さらに具体的には、転がり軸受、玉軸受、ローラー軸受、アンギュラ軸受、スラスト軸受、含浸軸受、鉄系軸受、銅系軸受、動圧軸受、樹脂軸受、内輪回転軸受、外輪回転軸受等の軸受、またボールネジ、直動軸受等の直動装置、減速機・増速機、ギヤ、チェーン、チェーンブッシュ、モーター等の動力伝達部品、真空ポンプ、バルブ、シール空圧機器等の油・空圧/バルブ・タップ/シール、電動工具等の工作機械、定着ローラー、スピンドル、トルクリミッター、エンジン、オルタネータ、テンションプーリー、アイドラプーリー、燃料ポンプ、オイルポンプ、吸気系・燃料、スロットル、電子制御スロットル、(排ガス循環装置等の)排気系部品、冷却系、電動ファンモータ、ファンカップリング、ウォーターポンプ、空調系、コンプレッサー、走行系、ハブベアリング、制動系、ABS、ブレーキ、操舵系、パワーステアリング、懸架系、駆動系、ボールジョイント、変速機、内・外装系(パワーウィンドゥ、ヘッドライト、ドアミラの光軸調整)、燃料電池、リニアガイド、電気接点、ATスイッチ、コンビネーションスイッチ、パワーウィンドウスイッチ等を使用する産業分野で、潤滑油またはグリースとして有効に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油中に、一般式
CF3(CF2)nO(CF2O)p(C2F4O)q(C3F6O)rRfCONHAr 〔I〕
(ここで、Arは2-ベンゾイミダゾール基であり、Rfは炭素数1〜2のフルオロカーボン基であり、nは0、1または2であり、p+q+r≦100である整数で、p、q、rの内の1個または2個は0であり得、CF2O基、C2F4O基およびC3F6O基は主鎖中にランダムに結合している基である)で表わされる含フッ素化合物を添加剤として含有するフッ素系潤滑剤組成物。
【請求項2】
基油がパーフルオロポリエーテル油である請求項1記載のフッ素系潤滑剤組成物。
【請求項3】
含フッ素化合物添加剤を0.1〜99重量%の割合で含有する請求項1記載のフッ素系潤滑剤組成物。

【公開番号】特開2010−254737(P2010−254737A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−103042(P2009−103042)
【出願日】平成21年4月21日(2009.4.21)
【出願人】(000102670)NOKクリューバー株式会社 (36)
【Fターム(参考)】