説明

フッ素系重合体および樹脂組成物

【課題】撥水撥油性、防汚性、非粘着性、離型性、滑り性、耐磨耗性、耐蝕性、電気絶縁性、反射防止特性、難燃性、帯電防止特性、耐薬品性および耐候性等に優れた表面処理剤等として使用しうる新たな重合体および該重合体を含む樹脂組成物を提供する。
【解決手段】構成単位A、構成単位B、構成単位Cおよび/または構成単位Dを含む重合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素を含有するフッ素系重合体およびその重合体を含む樹脂組成物に関し、更に重合体、樹脂組成物を含有する表面処理剤および該表面処理剤で処理された被処理物に関する。
【背景技術】
【0002】
基材表面に、撥水撥油性を有する被膜を形成し、防汚性、汚染物除去性、指紋付着防止性等の特性を付与する試みは、過去より種々なされており、電気機器、精密機械等の筐体;自動車のボディー;PDP(プラズマディスプレイパネル)やLCD(液晶ディスプレイ)の前面保護フィルム、反射防止膜、偏光板;携帯電話、携帯情報端末機器;タッチパネルシート;DVDディスク、CD−R、MO等の光ディスク;メガネレンズ、光ファイバー等の光学材料等の幅広い分野で、その技術は活用されている。
【0003】
シリコーン樹脂系の表面処理剤は、経済的観点および安全性の観点から古くから検討されている。シリコーン樹脂は、他の有機樹脂とは異なり、耐熱性、耐水性、難燃性等に優れることから、各種基材の表面処理剤として広く使われている。
【0004】
シリコーン系の表面処理剤としては、分子内にシラノール基やアルコキシル基を有する平均分子量3,000〜2,000,000の硬化性シリコーン樹脂をトルエン、キシレン等の有機溶剤に溶解させた、いわゆるシリコーンワニス;シリコーン変性されたポリウレタン、エポキシ、ポリエステル樹脂を含有するもの等様々であり、さらにその硬化形態も常温、熱、光等、選択範囲も広い。しかし、シリコーン系の処理剤では、特性として、滑り性、耐擦傷性は優れるものの撥油性が不足しており、防汚性、汚染物除去性、指紋付着防止性等の特性が求められる用途においては、十分ではない。
【0005】
フッ素系の処理剤としては、無機基材への撥水撥油性、防汚性の付与を目的とした表面処理に用いられるフルオロアルキルシラン含有のシランカップリング剤が知られている。しかし、フルオロアルキルシランは、撥水撥油性に優れるものの油脂汚れ等の除去性に関しては、フルオロポリエーテルに比べ性能が劣る。これは、フルオロポリエーテルの構造が、剛直なフルオロアルキル鎖中に酸素原子が介在することで、骨格が柔軟なものであるのに対し、フルオロアルキルシランではこのような性質を有さないことが要因である。フルオロポリエーテルは、柔軟で運動性に優れるため、表面に付着した油脂を容易に拭き取ることができる。
【0006】
このフルオロポリエーテルの防汚性を用いて、フルオロポリエーテル含有ウレタン(メタ)アクリレート化合物および(メタ)アクリルロイル等を含有する反応性シリコーンを(メタ)アクリルレート化合物に添加して、放射線硬化により、耐擦傷性、防汚性、汚染物除去性の優れた硬化被膜を得る試みがなされている(特許文献1〜3)。しかし、架橋部位である(メタ)アクリルロイル基数が1分子中に1〜2個と限定されるため、長期にわたって未反応成分がブリードアウトすることが考えられる。さらにフルオロポリエーテル含有ウレタン(メタ)アクリレート化合物および反応性シリコーン化合物の2成分をそれぞれ添加するため、特性を発現する膜表面へ配向する各成分割合の制御が難しく、そのため耐擦傷性、防汚性、汚染物除去性の制御も難しい。
【0007】
【特許文献1】特開平5−17535号公報
【特許文献2】特開2005−350404号公報
【特許文献3】特開2004−225019号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、例えば、撥水撥油性、防汚性、非粘着性、離型性、滑り性、耐磨耗性、耐蝕性、電気絶縁性、反射防止特性、難燃性、帯電防止特性、耐薬品性および耐候性等の特性のうち複数を満足する優れた表面処理剤等として使用しうる新たなフッ素系重合体および該重合体を含む樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の観点から、含フッ素ポリエーテルを有する付加重合性単量体に由来する構成単位を有し、さらに付加重合性官能基を有するケイ素化合物(オルガノポリシロキサン、フルオロアルキルシルセスキオキサン)および/または架橋性官能基を有する付加重合性単量体に由来する構成単位を同一重合体に有してもよいフッ素系重合体とすることで、本発明の課題を解決することを見出した。さらに当該フッ素系重合体を用い、プラスチックフィルム等の基材表面に被膜を形成させ、種々の特性を発現させるために、基材との密着性も重要であり、当該フッ素系重合体を基材と固定化するための処方を種々検討した。その結果、該フッ素系重合体と、マトリックス樹脂とを複合化させることによって、基材面に対する密着性に優れた、硬化被膜を得るためのフッ素系重合体組成物、当該フッ素系重合体組成物を含む表面処理剤に到達した。また、当該フッ素系重合体は、含フッ素ポリエーテルを有する付加重合性単量体に由来する構成単位に加え、ケイ素を有する付加重合性単量体および架橋性官能基を有する付加重合性単量体に由来する構成単位を同一重合体に組み込み、その際に各単量体に由来する構成単位のモル分率を制御することにより、撥水撥油性、防汚性等の特性の制御が容易に可能であり、また、架橋性官能基を有する付加重合性単量体に由来する構成単位の導入量を制御することにより、マトリックス樹脂に強固に固定化された被膜を形成でき、長期において成分のブリードアウトによる性能の低下を防止できることを見出し、本発明の完成に至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下に示される重合体、該重合体を含む樹脂組成物および該樹脂組成物を用いて作製する硬化被膜等に関する。
【0011】
<1>
構成単位A、構成単位B、構成単位Cおよび/または構成単位Dを含む重合体。
(重合体中、構成単位Aは、下記式(1)で示される含フッ素ポリエーテルを有する付加重合性単量体(A−1)に由来し、
構成単位Bは、下記式(2)および(3)で示されるケイ素を有する付加重合性単量体(B−1)から選ばれる一種以上に由来し、
構成単位Cは、環状エーテルを含む一価の官能基、ヒドロキシル、ビニルエーテル、ハロゲン化アルキル、イソシアネート、アミノおよびカルボキシルから選ばれる架橋性官能基を有する付加重合性単量体(C−1)の一種以上に由来し、
構成単位Dは、前記構成単位A、構成単位B、および構成単位Cとして用いられる付加重合性単量体以外の付加重合性単量体(D−1)に由来し、
重合体中の構成単位Aのモル分率(%)をαで表し、重合体中の構成単位Bのモル分率(%)をβで表し、重合体中の構成単位Cのモル分率(%)をγで表し、重合体中の構成単位Dのモル分率(%)をδで表し、それぞれ、0<α<100、0≦β<100、0≦γ<100、0≦δ<100、α+β+γ+δ=100を満たす。)
【化1】

式(1)において、a,b,cおよびdは、各々が0〜100であって、2≦a+b+c+d≦100を満たす整数であり;Rf1は水素、炭素数1〜16のフルオロアルキル、
炭素数2〜16のフルオロアルコキシアルキル、炭素数1〜16のアルキルまたは炭素数2〜16のアルコキシアルキルであり;X1は、(メタ)アクリロイルであり;Y1は、炭素数1〜14のアルキルであり、任意の水素がフッ素に置き換えられてもよく、該アルキルが分岐鎖を有する場合、分岐鎖の末端の炭素は水酸基に置き換えられもよい。
【化2】

式(2)において、nは1〜1,000の整数であり;Rb1〜Rb5はそれぞれ独立して、水素、任意の水素がフッ素で置き換えられてもよく、そして任意の−CH2−が−O−またはシクロアルキレンで置き換えられてもよい、炭素数が1〜30のアルキル、置換もしくは非置換の炭素数が6〜30のアリール、および置換もしくは非置換のアリールと、任意の水素がフッ素で置き換えられてもよく任意の−CH2−が−O−またはシクロアルキレンで置き換えられてもよいアルキレンとで構成される炭素数が9〜30のアリールアルキル、から独立して選択される基であり;A2は付加重合性官能基である。
【化3】

式(3)において、Rc1〜Rc7はそれぞれ独立して、任意のメチレンが酸素で置換されていてもよい、炭素数1〜20のフルオロアルキル;少なくとも1つの水素がフッ素もしくはトリフルオロメチルで置換された、炭素数6〜20のフルオロアリール;またはアリール中の少なくとも1つの水素がフッ素もしくはトリフルオロメチルで置換された、炭素数7〜20のフルオロアリールアルキルであり、A3は、付加重合性官能基である。
【0012】
<2> 式(1)において、X1は、下記式(4)、(5)および(6)に示す構造から選択され、Y1は、炭素数1〜6のアルキルであり、任意の水素がフッ素に置き換えられてもよく、該アルキルが分岐鎖を有する場合、分岐鎖の末端の炭素は水酸基に置き換えられてもよく;
式(2)におけるRb1およびRb2が、それぞれ独立して水素、フェニルまたは炭素数が1〜8であり、任意の水素がフッ素で置き換えられてもよいアルキルであり;Rb3およびRb4が、独立して炭素数が1〜20であり、任意の水素がフッ素で置き換えられてもよいアルキル、炭素数が6〜20であり、任意の水素がフッ素で置き換えられてもよいアリール、または炭素数が7〜20であり、任意の水素がフッ素で置き換えられてもよいアリールアルキルであり;Rb5が、炭素数が1〜20であり、任意の水素がフッ素で置き換えられてもよいアルキル、炭素数が6〜20であり、任意の水素がフッ素で置き換えられてもよいアリール、または炭素数が7〜20であり、任意の水素がフッ素で置き換えられてもよいアリールアルキルであり;
式(3)におけるRc1〜Rc7が、それぞれ独立して、3,3,3-トリフルオロプロピル
、3,3,4,4,4-ペンタフルオロブチル、3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロヘキシル、トリデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロオクチル、ヘプタデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロデシル、ヘンイコサフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロドデシル、ペンタコサフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロテトラデシル、(3-ヘプタフルオロイソプロポキシ)プロピル、ペンタフルオロフェニルプロピル、ペンタフルオロフェニル、またはα,α,α-トリフルオロメチルフェニルであることを特徴とする<1>記載の重合体。
【化4】

式(4)、(5)および(6)中のRa1は、水素、フッ素、メチルまたはトリフルオロメチルであり、eは2〜6の整数であり;式(6)中のRa2は、炭素数2〜14のアルキレン、炭素数6〜14の炭素数のアリーレンまたは炭素数7〜14の炭素数のアリールアルキレンである。
【0013】
<3> 式中、含フッ素ポリエーテルを有する付加重合性単量体(A−1)に由来する構成単位およびケイ素を有する付加重合性単量体(B−1)に由来する構成単位を有し、0<α<100、0<β<100、0≦γ<100、0≦δ<100、α+β+γ+δ=100を満たすことを特徴とする<1>または<2>記載の重合体。
【0014】
<4> 式(2)におけるRb1およびRb2は、それぞれ独立して、メチル、フェニルまたは3,3,3−トリフルオロプロピルであり;Rb3およびRb4は、それぞれ独立してメチルまたはフェニルであり;Rb5はメチル、エチル、プロピル、ブチル、イソブチルまたはフェニルであり;
式(3)におけるRc1〜Rc7が、それぞれ独立して、3,3,3-トリフルオロプロピル、3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロヘキシルまたはトリデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロオクチルであることを特徴とする、<1>〜<3>のいずれか1項記載の重合体。
【0015】
<5> 式(2)におけるA2、および式(3)におけるA3がラジカル重合性官能基であることを特徴とする、<1>〜<4>のいずれか1項記載の重合体。
【0016】
<6> 式(2)におけるA2、および式(3)におけるA3が(メタ)アクリルまたはスチリルを含むことを特徴とする、<1>〜<4>のいずれか1項記載の重合体。
【0017】
<7> 式(2)におけるA2、および式(3)におけるA3が、下記式(7)、(8)および(9)で示されるいずれかである<1>〜<4>のいずれか1項記載の重合体。
【化5】

式(7)において、Y2が炭素数2〜10のアルキレンであり、Rd1が水素、炭素数1〜5のアルキル、または炭素数6〜10のアリールであり、
式(8)において、Rd2は水素、炭素数1〜5のアルキル、または炭素数6〜10のアリールであり、X2は炭素数が2〜20のアルキレンであり、Yは−OCH2CH2−、−OCHCH3CH2−、または−OCH2CH(CH3)−であり、pは3以下の整数であり、
式(9)において、Y3が単結合または炭素数1〜10のアルキレンである。
【0018】
<8> 式(7)において、Y2が炭素数2〜6のアルキレンであり、Rd1が水素または炭素数1〜3のアルキルであり、
式(8)において、X2は−CH2CH2CH2−であり、Yは−OCH2CH2−であり、pは0または1であり、Rd2が水素または炭素数1〜3のアルキルであり、式(9)においてY3が単結合または炭素数1あるいは2のアルキレンである、<7>記載の重合体。
【0019】
<9> 前記付加重合性単量体(C−1)の前記架橋性官能基が、環状エーテルを含む一価の官能基であることを特徴とする、<1>〜<8>のいずれか1項記載の重合体。
【0020】
<10> 前記環状エーテルを含む一価の官能基がグリシジル、オキセタニル、エポキシシクロヘキシル、およびジオキソランから選ばれることを特徴とする、<9>記載の重合体。
【0021】
<11> <1>〜<10>のいずれか1項記載の重合体と、熱可塑性樹脂および/または硬化性樹脂とを含む樹脂組成物。
【0022】
<12> 前記硬化性樹脂が、該樹脂の構造中に少なくとも一つの環状エーテルを含む一価の官能基を有することを特徴とする<11>記載の樹脂組成物。
【0023】
<13> <1>〜<10>のいずれか1項記載の重合体または<12>もしくは<13>記載の樹脂組成物を含有する表面処理剤。
【0024】
<14> 防汚処理剤である<13>記載の表面処理剤。
【0025】
<15> 撥水撥油剤である<13>記載の表面処理剤。
【0026】
<16> 離型剤である<13>記載の表面処理剤。
【0027】
<17> 反射防止剤である<13>記載の表面処理剤。
【0028】
<18> 繊維処理剤である<13>記載の表面処理剤。
【0029】
<19> 帯電制御剤である<13>記載の表面処理剤。
【0030】
<20> <14>〜<19>のいずれか1項記載の表面処理剤で処理された被処理物。
【発明の効果】
【0031】
本発明の重合体を用いて得られる表面処理剤は、プラスチックフィルムや金属を始めとする被着体(本発明において、「被着体」とは、表面処理剤を塗布する対象物をいい、以下、「基材」と称することがある)へ良好な塗布性を有するコーティング材料として有用である。この表面処理剤を被着体へ塗布して得られる被膜は、優れた非粘着性、離型性、耐磨耗性、耐蝕性、電気絶縁性、反射防止特性、難燃性、帯電防止特性、耐薬品性、耐候性だけでなく、優れた撥水撥油性、防汚性、滑り性を発現する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本発明において、付加重合性とは、付加重合しうることを意味し、付加重合性単量体とは、付加重合しうる単量体を意味し、付加重合性官能基とは、付加重合しうる官能基を意味する。
本発明の重合体は、構成単位A、構成単位B、構成単位Cおよび/または構成単位Dを含んでおり、重合体中、構成単位Aは、下記式(1)で示される、含フッ素ポリエーテルを有する付加重合性単量体に由来し、構成単位Bは、ケイ素を有する付加重合性単量体から選ばれる一種以上に由来し、構成単位Cは、架橋性官能基を有する付加重合性単量体の一種以上に由来し、構成単位Dは、前記構成単位A、構成単位B、および構成単位Cとして用いられる付加重合性単量体以外の付加重合性単量体に由来する。重合体中の構成単位Aのモル分率(%)をαで表し、重合体中の構成単位Bのモル分率(%)をβで表し、重合体中の構成単位Cのモル分率(%)をγで表し、重合体中の構成単位Dのモル分率(%)をδで表し、それぞれ、0<α<100、0≦β<100、0≦γ<100、0≦δ<100、α+β+γ+δ=100を満たす。 本発明の重合体は、含フッ素ポリエーテルを含有する付加重合性単量体(A−1)を単独で重合させてもよいし、該付加重合性単量体(A−1)と、ケイ素を有する付加重合性単量体(B−1)および/または架橋性官能基を有する付加重合性単量体(C−1)とを共重合させて得ることもできる。
なお、本発明で得られる重合体では、上記構成単位A、構成単位B、構成単位Cおよび構成単位Dがいかなる順序で含まれていてもよい。
【0033】
<含フッ素ポリエーテルを有する付加重合性単量体(A−1)>
含フッ素ポリエーテルを有する付加重合性単量体(A−1)は、下記式(1)で示される含フッ素ポリエーテルを有する付加重合性単量体である。
【化6】

式(1)において、a,b,cおよびdは、各々が0〜100であって、2≦a+b+c+d≦100を満たす整数であり;Rf1は水素、炭素数1〜16のフルオロアルキル、炭素数2〜16のフルオロアルコキシアルキル、炭素数1〜16のアルキルまたは炭素数2〜16のアルコキシアルキルであり;X1は、(メタ)アクリロイルであり;Y1は、炭素数1〜14のアルキルであり、任意の水素がフッ素に置き換えられてもよく、該アルキルが分岐鎖を有する場合、分岐鎖の末端の炭素は水酸基に置き換えられもよく;X1は、以下の式(4)、(5)および(6)に示す構造から選択される。
【化7】

上記式(4)、(5)および(6)中、Ra1は、水素、フッ素、メチルまたはトリフルオロメチルであり、eは2〜6の整数であり;式(6)中のRa2は、炭素数2〜14のアルキレン、炭素数6〜14のアリーレンまたは炭素数7〜14のアリールアルキレンである。
【0034】
前記式(1)で示される含フッ素ポリエーテルを有する付加重合性単量体は、下記式(1−1)で示される構造中に水酸基を有するフッ素化合物と、付加重合性官能基を有する酸ハロゲン化物、または付加重合性官能基を有するイソシアナト化合物と反応させて合成することもできる。
【化8】

式(1−1)において、a,b,cおよびdは、各々が0〜100であって、2≦a+b+c+d≦100を満たす整数であり;Rf1は水素、炭素数1〜16のフルオロアルキル、炭素数2〜16のフルオロアルコキシアルキル、炭素数1〜16のアルキルまたは炭素数2〜16のアルコキシアルキルである。
【0035】
前記式(1−1)で示される化合物の具体例としては、例えば、1H,1H−パーフルオロ−3,6−ジオキサヘプタン−1−オール、1H,1H−パーフルオロ−3,6−ジオキサオクタン−1−オール、1H,1H−パーフルオロ−3,6−ジオキサデカン−1−オール、1H,1H−パーフルオロ−3,6,9−トリオキサデカン−1−オール、1H,1H−パーフルオロ−3,6,9−トリオキサウンデカン−1−オール、1H,1H−パーフルオロ−3,6,9−トリオキサトリデカン−1−オール、1H,1H−パーフルオロ−3,6,9,12−テトラオキサトリデカン−1−オール、1H,1H−パーフルオロ−3,6,9,12−テトラオキサテトラデカン−1−オール、1H,1H−パーフルオロ−3,6,9,12−テトラオキサヘキサデカン−1−オール、1H,1H−パーフルオロ−3,6,9,12,15−ペンタオキサヘキサデカン−1−オール、1H,1H−パーフルオロ−3,6,9,12,15−ペンタオキサヘプタデカン−1−オール、1H,1H−パーフルオロ−3,6,9,12,15−ペンタオキサノナデカン−1−オール、1H,1H−パーフルオロ−3,6,9,12,15,18−ヘキサオキサイコサン−1−オール、1H,1H−パーフルオロ−3,6,9,12,15,18−ヘキサオキサドコサン−1−オール、1H,1H−パーフルオロ−3,6,9,12,15,18,21−ヘプタオキサトリコサン−1−オール、1H,1H−パーフルオロ−3,6,9,12,15,18,21−ヘプタオキサペンタコサン−1−オール等を挙げることができる。これらは市場で入手でき、その具体例としては例えば、1H,1H−パーフルオロ−3,6−ジオキサヘプタン−1−オール:商品名:C5GOL:エクスフロアー社製、1H,1H−パーフルオロ−3,6,9−トリオキサデカン−1−オール:商品名:C
7GOL:エクスフロアー社製、1H,1H−パーフルオロ−3,6−ジオキサデカン−1−オール:商品名:C8GOL:エクスフロアー社製、1H,1H−パーフルオロ−3,6,9−トリオキサトリデカン−1−オール:商品名:C10GOL:エクスフロアー社製、1H,1H−パーフルオロ−3,6,9,12−テトラオキサヘキサデカン−1−オール:商品名:C12GOL:エクスフロアー社製等が挙げられる。本発明においては、1H,1H−パーフルオロ−3,6,9−トリオキサデカン−1−オールを用いることが好ましい。
【0036】
<ケイ素を有する付加重合性単量体(B−1)>
ケイ素を有する付加重合性単量体(B−1)として、ポリジメチルシロキサンに代表されるオルガノポリシロキサン(以下、シリコーンあるいはポリシロキサンと称することがある)が挙げられる。
シリコーン化合物は、撥水性、離型性、滑り性、低摩擦性、耐熱性、酸素透過性等の特異的な性質を有することから、電子材料分野をはじめとし、化粧品や医療分野等、その用途も多岐に渡っている。
例えば、重合性の官能基を有するオルガノポリシロキサンを、他の有機重合体の共重合成分もしくは重縮合成分として用いることにより、オルガノポリシロキサンの特性である耐候性、表面撥水性、潤滑性、生体適合性、ガス透過性等を容易に付与することができる。有機重合体の改質に利用できる種々の有機官能基を有するオルガノポリシロキサンは、一般に知られており、例えば、カルボキシル基を有するオルガノポリシロキサンを挙げることができる。具体的には、片末端カルボン酸変性オルガノポリシロキサンが例示でき、これは、繊維処理剤、乳化剤、無機材料の表面処理剤や、エポキシ樹脂、ポリエステル、アルキド樹脂、ウレタン樹脂等の各種樹脂の改質剤として有用である。また、このカルボキシル基の反応性を利用して種々の新たな官能基を導入することにより、種々の官能基を有するオルガノポリシロキサンを合成することができる。例えば、このカルボキシル基を、アミドあるいはエステル等とすることができる。このように片末端カルボン酸変性オルガノポリシロキサンは各種の変性シリコーンの調製に利用される。特開平10−001537号公報には、両末端カルボン酸変性ポリシロキサンのポリエステルの改質が開示され、特公平07−068424号公報には、カルボン酸変性シリコーンを用いて得られるアクリルゴム組成物の耐寒性を向上とともに、アクリルゴム組成物から得られるゴムの離型性、ロール加工性を改善が示されている。また、特開平09−059125号公報においては、カルボキシル基変性オルガノポリシロキサンで粉体を処理して得られる撥水性化粧用料用粉体が開示されている。特開平08−109263号公報では、両末端・側鎖カルボン酸変性ポリシロキサンを多価金属塩変性ポリシロキサンとし、これをゲル化剤あるいは化粧料としての応用が示されている。さらに、特開平05−139997号公報では、片末端カルボン酸変性シリコーンを用いた薬物の皮膚を通して透過、吸収を促進する経皮吸収促進剤が開示されている。
【0037】
本発明の重合体の原料として好ましく用いられる単量体である、付加重合性官能基を有するオルガノポリシロキサンは、好ましくは下記式(2)に示される分子構造を有する。
【化9】

本発明に用いられるオルガノポリシロキサンは、式(2)において、nは1〜1,000の整数であり;Rb1、Rb2、Rb3、Rb4、およびRb5は、それぞれ独立して、水素、任
意の水素がフッ素で置き換えられてもよく、そして任意の−CH2−が−O−またはシクロアルキレンで置き換えられてもよい、炭素数が1〜30のアルキル、置換もしくは非置換の炭素数が6〜30のアリール、および置換もしくは非置換のアリールと、任意の水素がフッ素で置き換えられてもよく任意の−CH2−が−O−またはシクロアルキレンで置き換えられてもよいアルキレンとで構成される炭素数が9〜30のアリールアルキル、から独立して選択される基であり;A2は付加重合性官能基である。
【0038】
さらに、本発明に用いられるオルガノポリシロキサンは、式(2)におけるRb1およびRb2が、それぞれ独立して水素、フェニルまたは炭素数が1〜8であり、任意の水素がフッ素で置き換えられてもよいアルキルであり;Rb3およびRb4が、独立して炭素数が1〜20であり、任意の水素がフッ素で置き換えられてもよいアルキル、炭素数が6〜20であり、任意の水素がフッ素で置き換えられてもよいアリール、または炭素数が7〜20であり、任意の水素がフッ素で置き換えられてもよいアリールアルキルであり;Rb5が、炭素数が1〜20であり、任意の水素がフッ素で置き換えられてもよいアルキル、炭素数が6〜20であり、任意の水素がフッ素で置き換えられてもよいアリール、または炭素数が7〜20であり、任意の水素がフッ素で置き換えられてもよいアリールアルキルであることが好ましい。
【0039】
さらに、本発明に用いられるオルガノポリシロキサンは、上記式(2)におけるRb1およびRb2は、それぞれ独立してメチル、フェニルまたは3,3,3−トリフルオロプロピルであり;Rb3およびRb4は、それぞれ独立してメチルまたはフェニルであり;Rb5はメチル、エチル、プロピル、ブチル、イソブチル、フェニル、3,3,3-トリフルオロプロピル、3,3,4,4,4-ペンタフルオロブチル、3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロヘキシル、トリデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロオクチル、ヘプタデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロデシル、ヘンイコサフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロドデシル、ペンタコサフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロテトラデシル、(3-ヘプタフルオロイソプロポキシ)プロピル、ペンタフルオロフェニルプロピル、ペンタフルオロフェニル、またはα,α,α-トリフルオロメチルフェニルであることが好ましい。
【0040】
さらに、本発明に用いられる付加重合性官能基を有するオルガノポリシロキサンは、上記式(2)において、Rb1、Rb2、Rb3およびRb4は、それぞれ同時にメチルであることが好ましい。また、上記式(2)においてA2がラジカル重合性官能基であることが好ましく、A2が(メタ)アクリルまたはスチリルを含むことがより好ましく、A2が、下記式(7)、(8)または(9)で示されるいずれかであることがさらに好ましい。
【0041】
【化10】

【0042】
式(7)において、Y2が炭素数2〜10のアルキレンであり、Rd1が水素、炭素数1
〜5のアルキル、または炭素数6〜10のアリールであり、式(8)において、Rd2は水素、炭素数1〜5のアルキル、または炭素数6〜10のアリールであり、X2は炭素数が2〜20のアルキレンであり、Yは−OCH2CH2−、−OCHCH3CH2−、または−OCH2CH(CH3)−であり、pは3以下の整数であり、式(9)において、Y3が単結合または炭素数1〜10のアルキレンである。
【0043】
本発明では、上記式(7)において、Y2が炭素数2〜6のアルキレンであり、Rd1が水素またはメチルであり、式(8)において、X2は−CH2CH2CH2−であり、Yは−OCH2CH2−であり、pは0または1であり、Rd2が水素またはメチルであり、式(9)においてY3が単結合または炭素数1あるいは2のアルキレンであることが好ましい。
本発明で好ましく用いられる付加重合性単量体(B−1)の例には、サイラプレーン FM0711(チッソ株式会社製)、サイラプレーン FM0721(チッソ株式会社製)、サイラプレーン FM0725 (チッソ株式会社製)、サイラプレーン TM0701(チッソ株式会社製)、サイラプレーン TM0701T(チッソ株式会社製)等が含まれる。
【0044】
本発明に好ましく用いられるケイ素を有する付加重合性単量体(B−1)は、付加重合性官能基を有するシルセスキオキサンであってもよい。シルセスキオキサンは、分子構造にシルセスキオキサン骨格を有する。シルセスキオキサンとは、[(R-SiO1.5n]で示される(Rは任意の置換基である)ポリシロキサンの総称である。このシルセスキオキサンの構造は、そのSi-O-Si骨格に応じて、一般的にランダム構造、ラダー構造、カゴ構造に分類される。さらに、カゴ構造はT8、T10、T12型等に分類される。その中で、本発明に使用されるフルオロシルセスキオキサンは、好ましくはT8型[(R-SiO1.58]のカゴ構造を有する。
【0045】
上記のシルセスキオキサンは、1つの付加重合性官能基を有することを特徴とする。すなわち、シルセスキオキサン[(R−SiO1.5n]のRのうちの1つが付加重合性官能基である。
上記の付加重合性官能基の例としては、末端オレフィン型または内部オレフィン型のラジカル重合性官能基を有する基;ビニルエーテル、プロペニルエーテル等のカチオン重合性官能基を有する基;およびビニルカルボキシル、シアノアクリロイル等のアニオン重合性官能基を有する基が含まれるが、好ましくはラジカル重合性官能基が挙げられる。
【0046】
上記のラジカル重合性官能基には、ラジカル重合する基であれば特に制限はなく、例えば、メタクリロイル、アクリロイル、アリル、スチリル、α-メチルスチリル、ビニル、ビニルエーテル、ビニルエステル、アクリルアミド、メタクリルアミド、N-ビニルアミド、マレイン酸エステル、フマル酸エステル、N-置換マレイミド等が含まれ、中でも(メタ)アクリルまたはスチリルを含む基が好ましい。ここに(メタ)アクリルとは、アクリルおよびメタクリルの総称であり、アクリルおよび/又はメタクリルを意味する。以下、同様とする。
【0047】
上記の(メタ)アクリルを有するラジカル重合性官能基の例には、以下の式(10)に示される基が含まれる。式(10)においてY4は、炭素数2〜10のアルキレンであり、好ましくは炭素数2〜6のアルキレンであり、さらに好ましくは炭素数3のアルキレン(プロピレン)である。またRd3は、水素、炭素数1〜5のアルキル、または炭素数6〜10のアリールであり、好ましくは水素または炭素数1〜3のアルキルであり、特に好ましくは水素またはメチルである。
【0048】
また、上記のスチリルを有するラジカル重合性官能基の例には、以下の式(11)に示される基が含まれる。式(11)においてY5は、単結合または炭素数1〜10のアルキ
レンであり、好ましくは単結合または炭素数1〜6のアルキレンであり、より好ましくは単結合または炭素数1あるいは2のアルキレンであり、特に好ましくは単結合または炭素数2のアルキレン(エチレン)である。またビニルは、ベンゼン環のいずれかの炭素に結合しており、好ましくはY5に対してパラ位の炭素に結合している。
【化11】

【0049】
前記のシルセスキオキサンは、少なくとも1つのフルオロアルキル、フルオロアリールアルキル、又はフルオロアリールを有することを特徴とする。すなわち、シルセスキオキサン(R−SiO1.5nのRの1つ以上、好ましくは前記の付加重合性官能基以外のRがすべてフルオロアルキル、フルオロアリールアルキルおよび/又はフルオロアリールである。
【0050】
上記のフルオロアルキルは、直鎖状または分岐鎖状のいずれでもよい。このフルオロアルキルの炭素数は1〜20であり、好ましくは3〜14である。さらに、このフルオロアルキルの任意のメチレンが酸素で置き換えられていてもよい。ここでメチレンとは、-CH2-、-CFH-または-CF2-を含む。つまり、「任意のメチレンが酸素で置き換えられてもよい」とは、-CH2-、-CFH-または-CF2-が-O-で置き換えられてもよいことを意味する。ただし、フルオロアルキルにおいて、2つの酸素が結合(-O-O-)していることはない。すなわちフルオロアルキルはエーテル結合を有していてもよい。また、好ましいフルオロアルキルにおいては、Siに隣接するメチレンは酸素で置き換えられることはなく、Siとは反対側の末端はトリフルオロメチルである。さらに、−CH2−または−CFH−が酸素で置き換えられるよりは、−CF2−が酸素で置き換えられる方が好ましい。かかるフルオロアルキルの好ましい具体例には、3,3,3-トリフルオロプロピル、3,3,4,4,4-ペンタフルオロブチル、3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロヘキシル、トリデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロオクチル、ヘプタデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロドデシル、ヘンイコサフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロドデシル、ペンタコサフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロテトラデシル、(3-ヘプタフルオロイソプロポキシ)プロピル等が含まれる。中でも、パーフルオロアルキルエチルが好ましく例示される。
【0051】
前記のフルオロアリールアルキルは、フッ素を含有するアリールを含むアルキルであって、その炭素数が7〜20であることが好ましく、さらに7〜10がより好ましい。含まれるフッ素はアリール中の任意の1または2以上の水素が、フッ素またはトリフルオロメチルとして置き換えられたものが好ましい。アリール部分の例にはフェニル、ナフチル等のほか、ヘテロアリールも含まれ、アルキル部分の例には、メチル、エチルおよびプロピル等が含まれる。
【0052】
また、前記のフルオロアリールは、アリール中の任意の1または2以上の水素が、フッ素またはトリフルオロメチルで置き換えられているものであり、その炭素数は6〜20であることが好ましく、より好ましくは6である。かかるアリールの例にはフェニル、ナフチル等のほか、ヘテロアリールも含まれる。具体的にはペンタフルオロフェニル等のフルオロフェニルや、トリフルオロメチルフェニルが挙げられる。
【0053】
フルオロシルセスキオキサンに含まれる前記のフルオロアルキル、フルオロアリールア
ルキル、またはフルオロアリールのうち、好ましい基はフルオロアルキルであり、より好ましくはパーフルオロアルキルエチルであり、さらに好ましくは3,3,3-トリフルオロプロピル、3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロヘキシルまたはトリデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロオクチルである。
【0054】
前述の通り、好ましいフルオロシルセスキオキサンは、T8型の構造を有し、1つの付加重合性官能基を有し、かつ1つまたは2つ以上のフルオロアルキル、フルオロアリールアルキルおよび/又はフルオロアリールを有し、下記式(3)で示される。
【0055】
【化12】

【0056】
上記の式(3)において、A3は付加重合性官能基であり、前述のラジカル重合性官能基であることが好ましく、Rc1〜Rc7はそれぞれ独立して、前述のフルオロアルキル、フルオロアリールアルキル、またはフルオロアリールであることが好ましい。Rc1〜Rc7は、それぞれ相違する基であっても、すべて同一の基であってもよい。
式(3)におけるRc1〜Rc7がそれぞれ独立して、3,3,3-トリフルオロプロピル、3,3,4,4,4-ペンタフルオロブチル、3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロヘキシル、トリデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロオクチル、ヘプタデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロデシル、ヘンイコサフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロドデシル、ペンタコサフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロテトラデシル、(3-ヘプタフルオロイソプロポキシ)プロピル、ペンタフルオロフェニルプロピル、ペンタフルオロフェニル、またはα,α,α-トリフルオロメチルフェニルであることが好ましく、Rc1〜Rc7がそれぞれ独立して、3,3,3-トリフルオロプロピル、3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロヘキシル、またはトリデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロオクチルであることがより好ましい。
なお、上記式(2)および式(3)で示される付加重合性単量体は、付加重合性単量体(B−1)として用いる際に、1種類を単独で用いてもよく、複数種を組み合わせて用いてもよい。複数種を組み合わせて用いる場合には、目的とする重合体の特定に応じて各種の組成比を適宜調整して用いることができる。
【0057】
<架橋性官能基を有する付加重合性単量体(C−1)>
本発明に好ましく用いられる架橋性官能基を有する付加重合性単量体(C−1)の前記架橋性官能基は、本発明の重合体において、本発明の重合体と、例えば、樹脂等の他の成分とを含有する組成物としたときに、この他の成分と架橋することができる官能基から決めることができる。かかる架橋性官能基の例には、ヒドロキシル、ハロゲン化アルキル、イソシアネート、アミノ、カルボキシル、ビニルエーテル、グリシジルおよびエポキシシクロヘキシル等のエポキシやオキセタニル等の環状エーテルを含む一価の官能基が挙げられる。
【0058】
前記付加重合性単量体(C−1)として、付加重合性単量体に前記架橋性官能基が導入
された化合物を用いることができる。前記付加重合性単量体(C−1)の具体例について、前記付加重合性単量体(C−1)から前記架橋性官能基を除いた部分を構成する化合物(本発明における付加重合性単量体)としては、一又は二以上の付加重合性二重結合を有する化合物が挙げられ、例えば、ビニル化合物、ビニリデン化合物およびビニレン化合物等が挙げられ、さらに具体的には、(メタ)アクリル酸誘導体およびスチレン誘導体等が挙げられる。
【0059】
さらに上記の(メタ)アクリル酸誘導体の例には、(メタ)アクリル酸および(メタ)アクリル酸エステルの他、(メタ)アクリル酸アミド、(メタ)アクリロニトリル等が挙げられる。
【0060】
前記付加重合性単量体(C−1)の具体例としては、前述の架橋性官能基を有する前述の誘導体が挙げられる。例えば、架橋性官能基として環状エーテルを含む一価の官能基を有する(メタ)アクリル酸誘導体である付加重合性単量体(C−1)には、グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ含有(メタ)アクリレート;3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート等の脂環式エポキシ含有(メタ)アクリレート;3−エチル−3−(メタ)アクリロイルオキシメチルオキセタン等のオキセタニル含有(メタ)アクリレート;4−(メタ)アクリロイルオキシメチル−2−メチル−2−エチル−1,3−ジオキソラン等のジオキソラン含有(メタ)アクリレート;等が挙げられる。
なお、上記付加重合性単量体(C−1)は、1種類を単独で用いてもよく、複数種を組み合わせて用いてもよい。複数種を組み合わせて用いる場合には、目的とする重合体の特定に応じて各種の組成比を適宜調整して用いることができる。
【0061】
<付加重合性単量体(D−1)>
本発明の重合体においては、前記の付加重合性単量体(A−1)、(B−1)および(C−1)に加え、本発明の重合体を含む樹脂組成物に含まれる樹脂との相溶性、レベリング性、共重合体中の架橋性官能基を有する基の含有量等をコントロールするため、必要に応じて前記付加重合性単量体(A−1)、(B−1)および(C−1)以外の付加重合性単量体(D−1)も任意の割合で本発明の重合体の作製時に用いることができる。
【0062】
前記付加重合性単量体(D−1)としては、例えば、1つの付加重合性二重結合を有し、活性水素を有する基を有さない(メタ)アクリル酸化合物および1つの付加重合性二重結合を有し、活性水素を有する基を有さないスチレン化合物が挙げられる。
【0063】
かかる1つの付加重合性二重結合を有し、活性水素を有する基を有さない(メタ)アクリル酸化合物の具体例には、;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−ペンチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、n−ヘプチル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;フェニル(メタ)アクリレート、トルイル(メタ)アクリレート等のアリール(メタ)アクリレート;ベンジル(メタ)アクリレート等のアリールアルキル(メタ)アクリレート;2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、3-メトキシプロピル(メタ)アクリレート、3-メトキシブチル(メタ)アクリレート等のアルコキシアルキル(メタ)アクリレート;(メタ)アクリル酸のエチレンオキサイド付加物;等が含まれる。
【0064】
上記の1つの付加重合性二重結合を有し、活性水素を有する基を有さないスチレン化合
物の具体例には、スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン、p-クロルスチレン;等が含まれる。
【0065】
さらに、任意の付加重合性単量体(D−1)として、スチレン、(メタ)アクリル酸エステル、シロキサン、およびアルキレンオキサイド(例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド)等から誘導された主鎖を有し、1つの付加重合性二重結合を有するマクロモノマーも例示される。
【0066】
付加重合性単量体(D−1)の例には、2つの付加重合性二重結合を有する化合物も含まれる。
2つの付加重合性二重結合を有する化合物の例には、1,3-ブタンジオール=ジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオール=ジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオール=ジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール=ジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコール=ジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコール=ジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコール=ジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコール=ジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸エステルネオペンチルグリコール=ジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパン=ジ(メタ)アクリレート、ビス〔(メタ)アクリロイルオキシエトキシ〕ビスフェノールA、ビス〔(メタ)アクリロイルオキシエトキシ〕テトラブロモビスフェノールA、ビス〔(メタ)アクロキシポリエトキシ〕ビスフェノールA、1,3-ビス(ヒドロキシエチル)5,5-ジメチルヒダントイン、3-メチルペンタンジオール=ジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸エステルネオペンチルグリコール化合物のジ(メタ)アクリレートおよびビス〔(メタ)アクリロイルオキシプロピル〕テトラメチルジシロキサン等のジ(メタ)アクリレート系単量体、ジビニルベンゼンが含まれる。
さらに、スチレン、(メタ)アクリル酸エステル、シロキサン、およびアルキレンオキサイド、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等から誘導された主鎖を有し、2つの重合性二重結合を有するマクロモノマーも例示される。
【0067】
付加重合性単量体(D−1)の例には、付加重合性二重結合を3つ以上有する化合物も含まれる。付加重合性二重結合を3つ以上有する化合物の例には、トリメチロールプロパン=トリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトール=トリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトール=テトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトール=モノヒドロキシペンタ(メタ)アクリレート、トリス(2-ヒドロキシエチルイソシアネート)=トリ(メタ)アクリレート、トリス(ジエチレングリコール)トリメレート=トリ(メタ)アクリレート、3,7,14-トリス[(((メタ)アクリロイルオキシプロピル)ジメチルシロキシ)]-1,3,5,7,9,11,14-ヘプタエチルトリシクロ[7.3.3.15,11]ヘプタシロキサン、3,7,14-トリス[(((メタ)アクリロイルオキシプロピル)ジメチルシロキシ)]-1,3,5,7,9,11,14-ヘプタイソブチルトリシクロ[7.3.3.15,11]ヘプタシロキサン、3,7,14-トリス[(((メタ)アクリロイルオキシプロピル)ジメチルシロキシ)]-1,3,5,7,9,11,14-ヘプタイソオクチルトリシクロ[7.3.3.15,11]ヘプタシロキサン、3,7,14-トリス[(((メタ)アクリロイルオキシプロピル)ジメチルシロキシ)]-1,3,5,7,9,11,14-ヘプタシクロペンチルトリシクロ[7.3.3.15,11]ヘプタシロキサン、3,7,14-トリス[(((メタ)アクリロイルオキシプロピル)ジメチルシロキシ)]-1,3,5,7,9,11,14-ヘプタフェニルトリシクロ[7.3.3.15,11]ヘプタシロキサン、オクタキス(3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルジメチルシロキシ)オクタシルセスキオキサンおよびオクタキス(3-(メタ)アクリロイルオキシプロピル)オクタシルセスキオキサンが含まれる。
さらに、スチレン、(メタ)アクリル酸エステル、シロキサン、およびアルキレンオキサイド、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等から誘導された主鎖を有
し、重合性二重結合を3つ以上有するマクロ単量体も例示される。
なお、上記付加重合性単量体(D−1)は、1種類を単独で用いてもよく、複数種を組み合わせて用いてもよい。複数種を組み合わせて用いる場合には、目的とする重合体の特定に応じて各種の組成比を適宜調整して用いることができる。
【0068】
<本発明の重合体>
本発明の重合体は、上記のとおり、含フッ素ポリエーテルを有する付加重合性単量体に由来する構成単位Aを有し、さらに、ケイ素を有する付加重合性単量体に由来する構成単位Bと、架橋性官能基を有する付加重合性単量体に由来する構成単位Cと、上記A、B、およびCの構成単位の由来として用いられる付加重合性単量体以外の付加重合性単量体に由来する構成単位Dとを有してもよい。本発明の重合体は、ブロック共重合等の定序性共重合体であっても、ランダム共重合体であってもよいが、ランダム共重合体であることがより好ましい。また、本発明の重合体は架橋構造を有していても、グラフト共重合体であってもよい。
【0069】
本発明の重合体において、上記構成単位Aに加え、構成単位B、構成単位Cおよび/または構成単位Dを含む場合のモル分率は、上記のとおり各構成単位のモル分率をそれぞれα、β、γ、δとし、0<α<100、0≦β<100、0≦γ<100、0≦δ<100、α+β+γ+δ=100を満たすように、(α):(β)=0.001:99.999〜99.999:0.001、(β):(γ)=0.001:99.999〜99.999:0.001、(α):(γ)=0.001:99.999〜99.999:0.001、(α):(δ)=0.001:99.999〜99.999:0.001、(β):(δ)=0.001:99.999〜99.999:0.001、(γ):(δ)=0.001:99.999〜99.999:0.001の範囲で調整すればよい。
本発明の重合体に、上記構成単位Cを導入する場合は、構成単位Cの割合を上記範囲で調整し、例えば、塗布剤として使用される際に配合するマトリックス樹脂との結合性を図る上で、マトリックス樹脂単量体との好ましい反応性が得られる程度に、架橋性官能基を有する基を含んでいればよい。
後述するように、本発明の重合体を表面処理剤として用いる場合には、本発明の重合体に上記構成単位Bと構成単位Cとを導入することが好ましく、その際の各構成単位のモル分率は、(α):(β)=1:99〜99:1、(β):(γ)=1:99〜99:1、(α):(γ)=1:99〜99:1であることが好ましい。
なお、本発明の重合体が任意の構成単位Dをさらに含む場合も、本発明の重合体に含まれる構成単位A、構成単位Bおよび構成単位Cの上記モル分率は同様であり、さらに、(α):(δ)=1:99〜99:1、(β):(δ)=1:99〜99:1、(γ):(δ)=1:99〜99:1の範囲で調整すればよい。
本発明の重合体において、各構成単位のモル分率の調整は、各構成単位の由来となる単量体の含有量を適宜調節すること等により行うことが可能である。
なお、本発明の重合体における各構成単位の存在、および各構成単位のモル分率は、1H−NMRにより測定することが可能である。
【0070】
本発明の重合体の重量平均分子量は、構成単位Bのモル分率等によって異なるが、目安として1000〜100万である。一方、本発明の重合体の分子量分布(Mw/Mn)は、目安として1.01〜2.5程度である。
【0071】
必要に応じて用いることができる、ケイ素を有する付加重合性単量体(B−1)、架橋性官能基を有する付加重合性単量体(C−1)または任意の付加重合性単量体(D−1)として複数種の単量体を用いる場合は、含フッ素ポリエーテルを有する付加重合性単量体(A−1)と、これ以外の各々の単量体の比率は、目的とする共重合体の特性を特徴付ける上記各構成単位のモル分率や分子量を調整するために適宜決定すればよい。また、簡便
性と汎用性に鑑みると、本発明の重合体の重合はラジカル共重合によって行うことが好ましい。
【0072】
付加重合は、重合開始剤を用いて行うことができる。
用いられる重合開始剤の例には、2,2'-アゾビスイソブチロニトリル、2,2'-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2'-アゾビス(2-ブチロニトリル)、ジメチル-2,2'-アゾビスイソブチレート、1,1'-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)等のアゾ化合物;ベンゾイルパーオキサイド、ラウリルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシアセテート、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシネオデカノエート等の過酸化物;およびテトラエチルチウラムジスルフィド等のジチオカルバメート;等のラジカル重合開始剤が含まれる。
【0073】
さらに重合反応の例には、リビングラジカル重合、および光重合等が含まれる。
リビングラジカル重合は、原子移動ラジカル重合;可逆的付加開裂連鎖移動;ヨウ素移動重合;イニファータ重合に代表され、以下の引用文献A〜Cに記載されている重合開始剤を用いて行うことができる。
・引用文献A: 蒲池幹治、遠藤剛監修、ラジカル重合ハンドブック、1999年8月10日発行、エヌティーエス発行)。
・引用文献B: HANDBOOK OF RADICAL POLYMERIZATION, K. Matyjaszewski, T. P. Davis, Eds., John Wiley and Sons, Canada 2002
・引用文献C: 特開2005-105265号公報
光重合は、引用文献Dに記載の化合物を光重合開始剤として用いて行うことができる。・引用文献D: フォトポリマー懇話会編、感光材料リストブック、1996年3月31日、ぶんしん出版発行)。
【0074】
用いられる光重合開始剤の具体例としては、紫外線や可視光線の照射によりラジカルを発生する化合物であれば特に限定しない。光重合開始剤として用いられる化合物としては、ベンゾフェノン、ミヒラーズケトン、4,4′-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、キサントン、チオキサントン、イソプロピルキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2-エチルアントラキノン、アセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-4′-イソプロピルプロピオフェノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、イソプロピルベンゾインエーテル、イソブチルベンゾインエーテル、2,2-ジエトキシアセトフェノン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、カンファーキノン、ベンズアントロン、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタノン-1,4-ジメチルアミノ安息香酸エチル、4-ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、4,4′-ジ(t-ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,4,4′-トリ(t-ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、2-(4′-メトキシスチリル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(3′,4′-ジメトキシスチリル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(2′,4′-ジメトキシスチリル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(2′-メトキシスチリル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(4′-ペンチルオキシスチリル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、4-[p-N,N-ジ(エトキシカルボニルメチル)]-2,6-ジ(トリクロロメチル)-s-トリアジン、1,3-ビス(トリクロロメチル)-5-(2′-クロロフェニル)-s-トリアジン、1,3-ビス(トリクロロメチル)-5-(4′-メトキシフェニル)-s-トリアジン、2-(p-ジメチルアミノスチリル)ベンズオキサゾール、2-(p-ジメチルアミノスチリル)ベンズチアゾール、2-メルカプト
ベンゾチアゾール、3,3′-カルボニルビス(7-ジエチルアミノクマリン)、2-(o-クロロフェニル)-4,4′,5,5′-テトラフェニル-1,2′-ビイミダゾール、2,2′-ビス(2-クロロフェニル)-4,4′,5,5′-テトラキス(4-エトキシカルボニルフェニル)-1,2′-ビイミダゾール、2,2′-ビス(2,4-ジクロロフェニル)-4,4′,5,5′-テトラフェニル-1,2′-ビイミダゾール、2,2′-ビス(2,4-ジブロモフェニル)-4,4′,5,5′-テトラフェニル-1,2′-ビイミダゾール、2,2′-ビス(2,4,6-トリクロロフェニル)-4,4′,5,5′-テトラフェニル-1,2′-ビイミダゾール、3-(2-メチル-2-ジメチルアミノプロピオニル)カルバゾール、3,6-ビス(2-メチル-2-モルホリノプロピオニル)-9-n-ドデシルカルバゾール、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ビス(η5-2,4-シクロペンタジエン-1-イル)-ビス(2,6-ジフルオロ-3-(1H-ピロール-1-イル)-フェニル)チタニウム、等である。これらの化合物は単独で使用してもよく、2つ以上を混合して使用することも有効である。3,3′,4,4′-テトラ(t-ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3′,4,4′-テトラ(t-ヘキシルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3′-ジ(メトキシカルボニル)-4,4′-ジ(t-ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,4′-ジ(メトキシカルボニル)-4,3′-ジ(t-ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、4,4′-ジ(メトキシカルボニル)-3,3′-ジ(t-ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン等が好ましい。
上記の付加重合において用いられる重合開始剤の量は、単量体の総モル数に対して0.01〜10mol%とすればよい。
【0075】
また前記付加重合において、連鎖移動剤を用いてもよい。連鎖移動剤を用いることで、分子量を適切に制御することができる。連鎖移動剤の例には、チオ-β-ナフトール、チオフェノール、ブチルメルカプタン、エチルチオグリコレート、メルカプトエタノール、メルカプト酢酸、イソプロピルメルカプタン、t-ブチルメルカプタン、ドデカンチオール、チオリンゴ酸、ペンタエリスリトールテトラ(3-メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラ(3-メルカプトアセテート)等のメルカプタン類;ジフェニルジサルファイド、ジエチルジチオグリコレート、ジエチルジサルファイド等のジサルファイド類;等のほか、トルエン、メチルイソブチレート、四塩化炭素、イソプロピルベンゼン、ジエチルケトン、クロロホルム、エチルベンゼン、塩化ブチル、s-ブチルアルコール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、塩化プロピレン、メチルクロロホルム、t-ブチルベンゼン、ブチルアルコール、イソブチルアルコール、酢酸、酢酸エチル、アセトン、ジオキサン、四塩化エタン、クロロベンゼン、メチルシクロヘキサン、t−ブチルアルコール、ベンゼン等が含まれる。特にメルカプト酢酸は、重合体の分子量を下げて、分子量分布を均一にさせ得る。
連鎖移動剤は単独でも、または2種以上を混合しても使用することができる。
【0076】
本発明の重合体の具体的な製造方法は、通常の付加重合体の製造方法と同様にすればよく、例えば、溶液重合法、乳化重合法、懸濁重合法、塊状重合法、塊状−懸濁重合法、超臨界CO2を用いた重合法を用いることができる。
溶液重合法による場合には、適切な溶媒中に、含フッ素ポリエーテルを有する付加重合性単量体(A−1)と、任意の単量体である、ケイ素を有する付加重合性単量体(B−1)、架橋性官能基を有する付加重合性単量体(C−1)と、付加重合性単量体(D−1)と、さらに重合開始剤、および連鎖移動剤等を溶解して、加熱または光を照射して付加重合反応させればよい。
【0077】
上記の重合反応に用いられる溶媒の例には、炭化水素系溶媒(ベンゼン、トルエン等)、エーテル系溶媒(ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジフェニルエーテル、アニソール、ジメトキシベンゼン等)、ハロゲン化炭化水素系溶媒(塩化メチレン、クロロホルム、クロロベンゼン等)、ケトン系溶媒(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソ
ブチルケトン等)、アルコール系溶媒(メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブチルアルコール、t-ブチルアルコール等)、ニトリル系溶媒(アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等)、エステル系溶媒(酢酸エチル、酢酸ブチル等)、カーボネート系溶媒(エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等)、アミド系溶媒(N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド)、ハイドロクロロフルオロカーボン系溶媒(HCFC−141b、HCFC−225)、ハイドロフルオロカーボン系溶媒(略語 HFCs;炭素数2〜6のHFCs)、パーフルオロカーボン系溶媒(パーフルオロペンタン、パーフルオロヘキサン)、脂環式ハイドロフルオロカーボン系溶媒(フルオロシクロペンタン、フルオロシクロブタン)、酸素含有フッ素系溶媒(フルオロエーテル、フルオロポリエーテル、フルオロケトン、フルオロアルコール)、芳香族系フッ素溶媒(α,α,α-トリフルオロトルエン、ヘキサフルオロベンゼン)、水が含まれる。これらを単独で使用してもよく、二種以上を併用してもよい。
用いられる溶媒の量は、単量体濃度を10〜80重量%とする量であればよい。
【0078】
反応温度は特に制限されず、目安として0〜200℃であればよく、室温〜150℃が好ましい。重合反応は、単量体の種類や、溶媒の種類に応じて、減圧、常圧または加圧下で行うことができる。
重合反応は、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行われることが好ましい。発生したラジカルが酸素と接触して失活し、重合速度が低下するのを抑制し、分子量が適切に制御された重合体を得るためである。さらに重合反応は、減圧下で溶存酸素を除去された重合系内で行われることが好ましい(減圧下で溶存酸素を除去した後、そのまま減圧下において重合反応を行ってもよい)。
【0079】
溶液中に得られた重合体は、常法により精製または単離されてもよく、その溶液のまま塗膜形成等に用いられてもよい。
本発明の重合体を精製する場合は、再沈殿操作による精製法が好ましい。この精製法は次のように行われる。まず、重合体および未反応の単量体を含む重合反応液に、重合体は溶解しないけれども未反応の単量体は溶解するような溶剤、いわゆる沈殿剤を加えて重合体のみを沈殿させる。沈殿剤の好ましい使用量は、前記の重合反応液の重量に基づいて20〜50倍である。
好ましい沈殿剤は、重合時に用いる溶剤と相溶し、重合体を全く溶解せず、未反応の単量体のみを溶解し、沸点も比較的低い溶剤である。好ましい沈殿剤の例は低級アルコール類および脂肪族炭化水素である。特に好ましい沈殿剤はメタノール、エタノール、2−プロパノール、ヘキサン、およびヘプタンである。これらは単独で使用しても、2種類以上を混合して使用してもよい。また、混合して使用する場合は、日本アルコール販売株式会社より、変性アルコールとして市販されているソルミックスAP−1、A−11等を購入して使用してもよい。そして、未反応単量体の除去効率をさらに上げるためには、再沈殿操作の繰り返し回数を多くすればよい。この方法により、重合体のみを貧溶剤中で析出させることが可能であり、濾過操作によって容易に未反応単量体と重合体とを分離することができる。
【0080】
<重合体の用途>
本発明の重合体は任意の用途に用いられるが、必要に応じて他の樹脂を組み合わせて、各種の成形加工(プレス成形、押出成形、射出成形、圧縮成形、等)によって成形して、成形品として用いることができる。
また本発明の重合体は、必要に応じて他の樹脂(以下、マトリックス樹脂ともいう)、または樹脂単量体(以下、マトリックス樹脂単量体ともいう)を組み合わせて、各種の溶媒に溶解または分散させて、表面処理剤(いわゆるコーティング剤)として用いることもできる。
表面処理剤として用いるとは、
1)本発明の重合体を単独で含む溶液または分散液をフィルム等の基材に塗布して、コーティング膜(被膜)を形成すること、
2)本発明の重合体と、他のマトリックス樹脂とを含む溶液または分散液をフィルム等の基材に塗布して、マトリックス樹脂との複合樹脂からなるコーティング膜を形成すること、および
3)本発明の重合体と、本発明の重合体に対して反応し得るマトリックス樹脂単量体(反応性マトリックス樹脂単量体)とを含む溶液または分散液をフィルム等の基材に塗布して、マトリックス樹脂単量体を硬化させることで、複合樹脂からなるコーティング膜を形成することを含む。
例えば、本発明の重合体を含む溶液(塗布溶液)を基板に塗布して乾燥させ、必要に応じて硬化させることで、基板上にコーティング膜を形成させることができる。形成されるコーティング膜は、高い撥水撥油性、防汚性を有し、低い表面自由エネルギーを有する。
【0081】
前記の通り、本発明の重合体は、前記1)のように単独で表面処理剤として用いてもよいが、前記2)のように他のマトリックス樹脂と混合させて表面処理剤として用いてもよく、前記3)のように本発明の重合体に対して反応し得るマトリックス樹脂単量体(以下、反応性マトリックス樹脂単量体ともいう)と混合させて表面処理剤として用いてもよい。
前記1)のように、本発明の重合体を単独で用いると、基板表面を直接改質することができる。
前記2)のように、本発明の重合体を他のマトリックス樹脂と混合させて用いると、その樹脂本来の特性(力学物性、表面・界面特性、相溶性等)を改質することができる。
【0082】
マトリックス樹脂は、熱可塑性樹脂、硬化性樹脂(熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂等)のいずれでもよく、これらを組み合わせた複数の種類の樹脂であってもよい。
マトリックス樹脂の例には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂、ポリ(メタ)アクリレート樹脂、超高分子量ポリエチレン、ポリ-4-メチルペンテン、シンジオタクチックポリスチレン、ポリアミド(ナイロン6:デュポン社商品名、ナイロン6,6:デュポン社商品名、ナイロン6,10:デュポン社商品名、ナイロン6,T:デュポン社商品名、ナイロンMXD6:デュポン社商品名等)、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン2,6−ナフタレンジカルボキシラート等)、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリフェニレンオキサイド、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、等)、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアリラート(Uポリマー:ユニチカ(株)商品名、ベクトラ:ポリプラスチックス(株)商品名、等)、ポリイミド(カプトン:東レ(株)商品名、AURUM:三井化学(株)商品名、等)、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、フェノール樹脂、アルキド樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂、ビスマレイミド樹脂およびシリコーン樹脂等が含まれる。
これらの樹脂を単独で用いてもよいし、複数の樹脂を組み合わせて用いてもよい。
【0083】
また前記3)のように、本発明の重合体を、反応性マトリックス樹脂単量体と混合させて用いてもよい。特に、架橋性官能基を有する基を有する本発明の重合体と、反応性マトリックス樹脂単量体とを混合させて用いると、硬化により得られる樹脂と本発明の重合体が架橋結合され、その結果、力学物性、表面・界面特性、相溶性に優れた複合樹脂を得ることができる。
具体的には、架橋性官能基を有する基を有する本発明の重合体と、反応性マトリックス樹脂単量体と、さらに必要に応じて硬化反応開始剤を含む溶液を基板に塗布し、塗膜を乾燥および硬化させることで、マトリックス樹脂との複合樹脂からなるコーティング膜(複
合膜)を基板上に形成することができる。
なお、前記2)や前記3)のように、本発明の重合体とマトリックス樹脂またはマトリックス樹脂単量体とを併用する場合には、これらを含む溶液または分散液における本発明の重合体とマトリックス樹脂またはマトリックス樹脂単量体の重量比は0.01:99.99〜80:20が好ましい。
【0084】
反応性マトリックス樹脂単量体は熱可塑性樹脂単量体、熱硬化性樹脂単量体または光硬化性樹脂単量体のいずれであってもよいが、本発明の重合体中に含まれる架橋性官能基と架橋することができる官能基を1つ以上含有するものがより好ましい。その好ましい例には、エポキシ樹脂を形成する反応性マトリックス樹脂単量体が含まれる。形成されるエポキシ樹脂は、脂肪族エポキシ樹脂および芳香族エポキシ樹脂のいずれでもよい。したがって、マトリックス樹脂単量体は、例えば、以下に示されるエポキシ樹脂を形成する単量体であり得る。
【0085】
形成されるエポキシ樹脂の例には、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ハイドロキノン、レゾルシン、ジヒドロキシナフタレン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジシクロペンタン、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)エーテル、ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)スルフィド、ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)スルホン、ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)スルホン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル−3,3’,5,5’−テトラメチエルビフェニル、ビス(ヒドロキシナフチル)メタン、および1,1’−ビナフトール、1,1’−ビス(3−t−ブチル−6−メチル−4−ヒドロキシフェニル)ブタン等を原料とするエポキシ樹脂が含まれる。
【0086】
さらに、形成されるエポキシ樹脂の例には、フェノール、o−クレゾール、カテコール等のフェノール類、ホルムアルデヒド等のアルデヒド類との反応生成物のグリシジルエーテル化物であるフェノールノボラック系エポキシ樹脂;フェノール、クレゾール、メチル−t−ブチルフェノール等のフェノール類とヒドロキシベンズアルデヒド等の芳香族アルデヒド類との縮合により得られたトリチル骨格含有ポリフェノール類のポリグリシジルエーテル;トリチル骨格含有ポリフェノール類とホルムアルデヒド類との反応生成物であるトリチル骨格含有ポリフェノール系ノボラック類のポリグリシジルエーテル;フェノール、o−クレゾール、カテコール等のフェノール類とキシリレンジクロリドや(ヒドロキシメチル)ベンゼン等類との反応生成物であるポリアラキルフェノール樹脂類のポリグリシジルエーテル;フェノール、o−クレゾール、カテコール等のフェノール類、またはヒドロキシナフタレン、ジヒドロキシナフタレン等のナフトール類と、ジシクロペンタジエンやリモネン等の不飽和脂環式炭化水素類との反応生成物のグリシジルエーテルである脂環式炭化水素含有ポリフェノール樹脂型エポキシ樹脂またはポリナフトール樹脂型エポキシ樹脂;脂環式炭化水素含有ポリフェノール樹脂類またはポリナフトール樹脂類とホルムアルデヒド類との反応生成物である脂環式水素含有ポリフェノールノボラック樹脂類またはポリナフトールノボラック樹脂類のポリグリシジルエーテル;フェノール類と芳香族カルボニル化合物との縮合反応により得られる多価フェノールのグリシジルエーテル化合物類;フルオログリシン、トリス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1,2,2−テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,3−ビス[(4−ヒドロキシフェニル)メチル]ベンゼン、1,4−ビス[(4−ヒドロキシフェニル)メチル]ベンゼン等を基
本骨格とする三価以上のフェノール類のポリグリシジルエーテル;カリックスアレーン等の環状フェノール類から誘導されるグリシジルエーテル化合物等;p−アミノフェノール、m−アミノフェノール、4−アミノメタクレゾール、6−アミノメタクレゾール、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、2,4−トルエンジアミン、2,6−トルエンジアミン、p−キシリレンジアミン、m−キシリレンジアミン、1,4−シクロヘキサンビス(メチルアミン)、1,3−シクロヘキサンビス(メチルアミン)、N,N−ジグリシジルアニリン等から誘導されるアミン系エポキシ樹脂;p−オキシ安息香酸、m−オキシ安息香酸、テレフタル酸、イソフタル酸等の芳香族カルボン酸から誘導されるグリシジルエステル系化合物;5,5−ジメチルヒダントイン等から誘導されるヒダントイン系エポキシ化合物;2,2−ビス(3,4−エポキシシクロヘキシル)プロパン、2,2−ビス[4−(2,3−エポキシプロピル)シクロヘキシル]プロパン、ビニルシクロヘキセンジオキサイド、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート等の脂環式エポキシ樹脂;ポリブタジエン等の不飽和炭化水素化合物中の二重結合を酸化して得られる脂肪族エポキシ樹脂等が含まれる。
【0087】
また、形成されるエポキシ樹脂は脂環族エポキシ樹脂であってもよい。その具体例には、少なくとも1個の脂環族環を有する多価アルコールのポリグリシジルエーテル、またはシクロヘキセンやシクロペンテン環含有化合物を酸化剤でエポキシ化することによって得られるシクロヘキサンオキサイドやシクロペンテンオキサイド含有化合物から得られるエポキシ樹脂である。
【0088】
例えば、水素添加ビスフェノールAジグリシジルエーテル、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、3,4−エポキシ−1−メチルシクロヘキシル−3,4−エポキシ−1−メチルシクロヘキサンカルボキシレート、6−メチル−3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−6−メチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、3,4−エポキシ−3−メチルシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシ−3−メチルシクロヘキサンカルボキシレート、3,4−エポキシ−5−メチルシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシ−5−メチルシクロヘキサンカルボキシレート、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル−5,5−スピロ−3,4−エポキシ)シクロヘキサン−メタジオキサン、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、ビニルシクロヘキセンジオキサイド、4−ビニルエポキシシクロヘキサン、ビス(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル)アジペート、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルカルボキシレート、メチレンビス(3,4−エポキシシクロヘキサン)、ジシクロペンタジエンジエポキサイド、エチレングリコールジ(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)エーテル、エチレンビス(3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート)、エポキシヘキサヒドロフタル酸ジオクチル、エポキシヘキサヒドロフタル酸ジ−2−エチルヘキシル、1,2:8,9ジエポキシリモネン(商品名:CEL3000、ダイセル化学株式会社)、エポキシ化3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸ビス(3−シクロヘキセニルメチル)修飾ε−カプロラクトン(商品名:エポリードGT301、ダイセル化学株式会社)、エポキシ化ブタンテトラカルボン酸テトラキス−(3−シクロヘキセニルメチル)修飾ε−カプロラクトン(商品名:エポリードGT401、ダイセル化学株式会社)、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)−1−ブタノールの1,2−エポキシ−4−(2−オキシラニル)シクロセキサン付加物(商品名:EHPE3150、ダイセル化学株式会社)、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)−1−ブタノールの1,2−エポキシ−4−(2−オキシラニル)シクロセキサン付加物と3,
4ーエポキシシクロヘキセニルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキセンカルボキシレートとの混合物(商品名:EHPE3150CE、ダイセル化学株式会社)、3,4−エポキシシクロヘキシルメチルアクリレート(商品名:サイクロマーA400、ダイセル化学株式会社)、3,4−エポキシシクロヘキシルメチルメタアクリレート(商品名:サイクロマーM100、ダイセル化学株式会社)等のモノマーから得られるエポキシ樹脂、および、エポキシ化ポリブタジエン(商品名:エポリードPB3600、ダイセル化学株式会社)、エポキシ化熱可塑性エラストマー(商品名:エポフレンド、ダイセル化学株式会社)等に代表されるエポキシ樹脂が挙げられる。
【0089】
さらに、上記エポキシ樹脂には、脂肪族多価アルコールまたはそのアルキレンオキサイド付加物のポリグリシジルエーテルから得られるエポキシ樹脂;脂肪族長鎖多塩基酸のポリグリシジルエステルから得られるエポキシ樹脂;グリシジルアクリレートまたはグリシジルメタクリレートのビニル重合により合成したホモポリマー;グリシジルアクリレート、またはグリシジルメタクリレートとその他のビニルモノマーとのビニル重合により合成したコポリマー等が挙げられる。
【0090】
上記ポリグリシジルエーテルには、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ソルビトールテトラグリシジルエーテル、ジペンタエリスリトールヘキサグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル等の多価アルコールのグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0091】
また上記ポリグリシジルエステルには、プロピレングリコール、トリメチロールプロパン、グリセリン等の脂肪族多価アルコールに、1種または2種以上のアルキレンオキサイドを付加することによって得られるポリエーテルポリオールポリグリシジルエーテル、脂肪族長鎖二塩基酸のジグリシジルエステルが挙げられる。
【0092】
さらに上記エポキシ樹脂には、脂肪族高級アルコールのモノグリシジルエーテルやフェノール、クレゾール、ブチルフェノール、またはこれらにアルキレンオキサイドを付加することによって得られるポリエーテルアルコールのモノグリシジルエーテルから得られるエポキシ樹脂;高級脂肪酸のグリシジルエステルから得られるエポキシ樹脂;エポキシ化大豆油、エポキシステアリン酸オクチル、エポキシステアリン酸ブチル、エポキシ化アマニ油、エポキシ化ポリブタジエン等から得られるエポキシ樹脂が挙げられる。
【0093】
本発明の重合体と組み合わせられるマトリックス樹脂単量体は、前述したエポキシ樹脂を形成する単量体であればよいが、さらに、以下に示される化合物であってもよい。
【0094】
即ち前記マトリックス樹脂の単量体には、トリメチレンオキサイド、3,3−ジメチルオキセタン、3,3−ジクロロメチルオキセタン等のオキセタン化合物;テトラヒドロフラン、2,3−ジメチルテトラヒドロフラン等のトリオキサン;1,3−ジオキソラン、1,3,6−トリオキサシクロオクタン等の環状エーテル化合物;β−プロピオラクトン、γ−ブチロラクトン、ε−カプロラクトン等の環状ラクトン化合物;エチレンスルフィド等のチイラン化合物;トリメチレンスルフィド、3,3−ジメチルチエタン等のチエタン化合物;テトラヒドロチオフェン誘導体等の環状チオエーテル化合物;エポキシ化合物とラクトンとの反応によって得られるスピロオルトエステル化合物;スピロオルトカーボナート化合物;環状カーボナート化合物;エチレングリコールジビニルエーテル、アルキルビニルエーテル、3,4−ジヒドロピラン−2−メチル(3,4−ジヒドロピラン−2−カルボキシレート)、トリエチレングリコールジビニルエーテル等のビニルエーテル化合物;スチレン、ビニルシクロヘキセン、イソブチレン、ポリブタジエン等のエチレン性
不飽和化合物、アミノ基、ヒドロキシル、グリシジル、オキセタニル、エポキシシクロヘキシルを有するポリジメチルシロキサン、ポリアルキレンオキサイド(ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリエチレンオキサイドとポリプロピレンオキサイドからなるブロック共重合体等)、フッ素化ポリアルキレンオキサイド(ポリフルオロエチレンオキサイド、ポリフルオロプロピレンオキサイド等)等がさらに挙げられる。
【0095】
前述の通り、本発明の重合体は、マトリックス樹脂(例えば、エポキシ樹脂)を形成する単量体とともに、硬化反応開始剤(例えば、酸発生剤)を組み合わせて用いることができる。
【0096】
硬化反応開始剤に制限はなく、例えば、活性エネルギー線照射や熱エネルギーによりカチオン重合を開始させる物質を放出することができる化合物を用いることができる。硬化反応開始剤の例には、カルボン酸、アミン、酸無水物化合物や酸発生剤等が含まれ、好ましくはルイス酸を放出するオニウム塩である複塩またはその誘導体である。
【0097】
硬化反応開始剤の代表的なものとしては、下記一般式で示される陽イオンと陰イオンの塩を挙げることができる。
[A]m+[B]m-
【0098】
上記一般式において、陽イオン[A]m+はオニウムイオンであることが好ましく、例えば、下記一般式で示される。
[(α)aQ]m+
【0099】
αは炭素数が1〜60であり、炭素原子以外の原子をいくつ含んでもよい有機基を表す。aは1〜5の整数を表す。a個のαは各々独立で、同一でも異なっていてもよい。また、少なくとも1つのαは、芳香環を有する有機基であることが好ましい。QはS、N、Se、Te、P、As、Sb、Bi、O、I、Br、Cl、F、N=Nからなる群から選ばれる原子あるいは原子団を表す。また、陽イオン[A]m+中のQの原子価をqとしたとき、m=a−qである(但し、N=Nは原子価0として扱う)。
【0100】
一方、陰イオン[B]m-は、ハロゲン化物錯体であるのが好ましく、例えば、下記一般式で示される。
[LXbm-
【0101】
Lは、ハロゲン化物錯体の中心原子である金属または半金属(Metalloid)であり、B、P、As、Sb、Fe、Sn、Bi、Al、Ca、In、Ti、Zn、Sc、V、Cr、Mn、Co等である。Xはハロゲンである。bは、3〜7の整数である。また、陰イオン[B]m-中のLの原子価をpとしたとき、m=b−pである。
【0102】
上記一般式で示される陰イオン[LXbm-には、テトラフルオロボレート(BF4)、ヘキサフルオロホスフェート(PF6)、ヘキサフルオロアンチモネート(SbF6)、ヘキサフルオロアルセネート(AsF6)、ヘキサクロロアンチモネート(SbCl6)等が挙げられる。
【0103】
また陰イオン[B]m-は、下記一般式で示されるものも好ましく用いることができる。L、X、bは上記と同様である。
[LXb-1(OH)]m-
【0104】
陰イオン[B]m-には、さらに過塩素酸イオン(ClO4-)、トリフルオロメチル亜硫酸イオン(CF3SO3-)、フルオロスルホン酸イオン(FSO3-)、トルエンスルホン
酸陰イオン、トリニトロベンゼンスルホン酸陰イオン等が挙げられる。
【0105】
本発明における硬化反応開始剤は、このようなオニウム塩の中でも、下記の(イ)〜(ハ)に例示される芳香族オニウム塩であることがさらに好ましい。これらの中から、その1種を単独で、または2種以上を混合して使用することができる。
(イ)フェニルジアゾニウムヘキサフルオロホスフェート、4−メトキシフェニルジアゾニウムヘキサフルオロアンチモネート、4−メチルフェニルジアゾニウムヘキサフルオロホスフェート等のアリールジアゾニウム塩
(ロ)ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、ジ(4−メチルフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ジ(4−t−ブチルフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロホスフェート等のジアリールヨードニウム塩
(ハ)トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、トリス(4−メトキシフェニル)スルホニウムヘキサフルオロホスフェート、ジフェニル−4−チオフェノキシフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、ジフェニル−4−チオフェノキシフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、4,4’−ビス(ジフェニルスルフォニオ)フェニルスルフィド−ビス−ヘキサフルオロアンチモネート、4,4’−ビス(ジフェニルスルフォニオ)フェニルスルフィド−ビス−ヘキサフルオロホスフェート、4,4’−ビス[ジ(β−ヒドロキシエトキシ)フェニルスルホニオ]フェニルスルフィド−ビス−ヘキサフルオロアンチモネート、4,4’−ビス[ジ(β−ヒドロキシエトキシ)フェニルスルホニオ]フェニルスルフィド−ビス−ヘキサフルオロホスフェート、4−[4’−(ベンゾイル)フェニルチオ]フェニル−ジ−(4−フルオロフェニル)スルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、4−[4’−(ベンゾイル)フェニルチオ]フェニル−ジ−(4−フルオロフェニル)スルホニウムヘキサフルオロホスフェート等のトリアリールスルホニウム塩
【0106】
さらに、本発明における硬化反応開始剤は、鉄−アレーン錯体またはアルミニウム錯体と、トリフェニルシラノール等のシラノール類との混合物であってもよい。鉄−アレーン錯体には、(η5−2,4−シクロペンタジエン−1−イル)〔(1,2,3,4,5,6−η)−(1−メチルエチル)ベンゼン〕−アイアン−ヘキサフルオロホスフェート等が含まれ、アルミニウム錯体の例には、トリス(アセチルアセトナト)アルミニウム、トリス(エチルアセトナトアセタト)アルミニウム、トリス(サリチルアルデヒダト)アルミニウム等が挙げられる。
【0107】
これらの中でも実用面の観点から、本発明における硬化反応開始剤は、芳香族ヨードニウム塩、芳香族スルホニウム塩、鉄−アレーン錯体であることが好ましい。
【0108】
硬化反応開始剤(好ましくは酸発生剤)の含有量は、例えば、マトリックス樹脂がエポキシ樹脂の場合には、本発明の重合体とエポキシ樹脂単量体が有するエポキシ基10〜500モルに対して、1モルであることが好ましい。
【0109】
本発明の重合体は溶媒に溶解または分散させて、表面処理剤として用いることができる。表面処理剤に含まれる固形分(本発明の重合体や他の樹脂等を含む)の濃度は特に制限されないが、0.01〜80重量%が好ましく、より好ましくは、0.01〜50重量%である。
【0110】
本発明の重合体を溶解または分散させる溶媒は、特に制限されないが、溶媒を20重量%以上含有することが好ましく、溶媒は一種類であっても、二種以上の組み合わせでもよい。また、本発明の重合体とマトリックス樹脂単量体とを溶媒に溶解させて使用してもよい。用いられる溶媒の例には、炭化水素系溶媒(ベンゼン、トルエン等)、エーテル系溶媒(ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジフェニルエーテル、アニソール、ジメト
キシベンゼン等)、ハロゲン化炭化水素系溶媒(塩化メチレン、クロロホルム、クロロベンゼン等)、ケトン系溶媒(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等)、アルコール系溶媒(メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブチルアルコール、t-ブチルアルコール等)、ニトリル系溶媒(アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリルなど)、エステル系溶媒(酢酸エチル、酢酸ブチル等)、カーボネート系溶媒(エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等)、アミド系溶媒(N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド)、ハイドロクロロフルオロカーボン系溶媒(HCFC−141b、HCFC−225)、ハイドロフルオロカーボン系溶媒(略語 HFCs;炭素数2〜6のHFCs)、パーフルオロカーボン系溶媒(パーフルオロペンタン、パーフルオロヘキサン)、脂環式ハイドロフルオロカーボン系溶媒(フルオロシクロペンタン、フルオロシクロブタン)、酸素含有フッ素系溶媒(フルオロエーテル、フルオロポリエーテル、フルオロケトン、フルオロアルコール)、芳香族系フッ素溶媒(α,α,α-トリフルオロトルエン、ヘキサフルオロベンゼン)、水が含まれる。
【0111】
本発明の重合体を含む溶液を基板に塗布する方法は、特に制限されないが、スピンコート法、ロールコート法、スリットコート法、ディッピング法、スプレーコート法、グラビアコート法、リバースコート法、ロッドコート法、バーコート法、ダイコート法、キスコート法、リバースキスコート法、エアナイフコート法、カーテンコート法等がある。
塗布される基板の例には、白板ガラス、青板ガラス、シリカコート青板ガラス等の透明ガラス基板;ポリカーボネート、ポリエステル、アクリル樹脂、塩化ビニール樹脂、芳香族ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド、ポリイミド等の合成樹脂製シート、フィルム;ノルボルネン系樹脂を含むシクロオレフィン系樹脂(商品名;ゼオノア、ゼオネックス、日本ゼオン株式会社、商品名;アートン、JSR株式会社)、メタクリルスチレン、ポリサルフォン、脂環式アクリル樹脂、ポリアリレート等の光学用途に用いる透明樹脂基板;アルミニウム板、銅板、ニッケル板、ステンレス板等の金属基板;その他セラミック板、光電変換素子を有する半導体基板が含まれる。
これらの基板は前処理をされていてもよく、前処理の例には、シランカップリング剤等による薬品処理、サンドブラスト処理、コロナ放電処理、紫外線処理、プラズマ処理、イオンプレーティング、スパッタリング、気相反応法、真空蒸着等が含まれる。
塗布された溶液の乾燥は、室温〜200℃の環境下で行うことができる。
塗布溶液は、前記溶媒中に本発明の重合体、および必要に応じて任意の成分を混合・溶解させることで製造される。
光重合開始剤を用いる場合は、塗布乾燥後に、活性エネルギー線源により、光または電子線を照射して硬化させることができる。
活性エネルギー線源としては特に制限はないが、用いる光重合開始剤の性質に応じて、例えば、低圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプ、カーボンアーク、キセノンアーク、気体レーザー、固体レーザー、電子線照射装置等が挙げられる。
なお、本発明の表面処理剤の具体的態様として、防汚処理剤、撥水撥油剤、離型剤、反射防止剤、繊維処理剤、帯電制御剤などが挙げられる。また、該表面処理剤を用いて処理された被処理物の具体的態様としては、上記基板等に該表面処理剤が塗布され、上記のように適宜処理が行われた剥離紙・剥離フィルム用コーティング膜、撥水撥油コーティング膜、汚れ防止コーティング膜、摺動コーティング膜、反射防止コーティング膜および絶縁コーティング膜等が挙げられる。
なお、本発明において、上記膜の厚さについては、所望により種々の厚さを採用できるが、通常は、0.01〜100μmが好ましく、0.1〜50μmが特に好ましい。
【実施例】
【0112】
<実施例>
以下において、実施例などを参照して本発明をさらに詳細に説明するが、これらの記載
により本発明の範囲が限定されることはない。なお、本実施例における重量平均分子量のデータは、ポリ(メタクリル酸メチル)を標準物質としてGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法)によって求めた。また、1H−NMR測定は、すべて重クロロホルム中で測定を行った(400MHz)。
【0113】
[製造例1]
γ-メタクリロキシプロピルヘプタ(トリフルオロプロピル)-T8-シルセスキオキサンの合成
還流冷却器、温度計および滴下漏斗を取り付けた内容積1Lの4つ口フラスコに、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン(100g)、THF(500mL)、脱イオン水(10.5g)および水酸化ナトリウム(7.9g)を仕込み、マグネチックスターラーで攪拌しながら、室温からTHFが還流する温度までオイルバスにより加熱した。還流開始から5時間撹拌を継続して反応を完結させた。その後、前記4つ口フラスコをオイルバスから引き上げ、室温で1晩静置した後、再度オイルバスにセットし固体が析出するまで定圧下で加熱濃縮した。孔径0.5μmのメンブランフィルターを備えた加圧濾過器で、析出した生成物を濾取した。次いで、得られた固形物をTHFで1回洗浄し、減圧乾燥機にて80℃、3時間、乾燥し、74gの無色粉末状の固形物を得た。
【0114】
還流冷却器、温度計および滴下漏斗を取り付けた内容積1Lの4つ口フラスコに、得られた固形物(65g)、ジクロロメタン(491g)、トリエチルアミン(8.1g)を仕込み、氷浴で3℃まで冷却した。次いでγ−メタクリロキシプロピルトリクロロシラン(21.2g)を添加し、発熱が収まったことを確認して氷浴から引き上げ、そのまま室温で一晩放置した。イオン交換水で3回水洗した後、ジクロロメタン層を無水硫酸マグネシウムで脱水し、濾過により硫酸マグネシウムを除去した。ロータリーエバポレータで粘調な固体が析出するまで濃縮し、メタノール260gを加えて粉末状になるまで攪拌した。孔径5μmの濾紙を備えた加圧濾過器を用いて粉体を濾過し、減圧乾燥器にて65℃、3時間乾燥し、41.5gの無色粉末状固体を得た。得られた固体のGPC、1H−NMRを測定し、下記式の構造を有している化合物(a−1)であることが分かった。
【化13】

【0115】
[実施例1]
重合体(A1)の合成
還流冷却器、温度計、セプタムキャップを取り付けた内容積50mLの3つ口フラスコに、下式で示されるパーフルオロ(ブトキシエトキシエトキシ)エチルメタクリレート(商品名:C10GMTCRY、油脂製品株式会社製、以下単にC10GMTCRYともいう)を7.30g、グリシジルメタクリレート(GMA)を1.70g、商品名:アサヒクリン AK−225(旭硝子株式会社製)を20.92g導入し、窒素シールした。70℃に保ったオイルバスに前記3つ口フラスコをセットして還流させ、15分間脱酸素を行った。次いで0.0590gの2,2'−アゾビス−2,4'ジメチルバレロニトリル(
ADVN)と、0.0225gのメルカプト酢酸(AcSH)とを0.7293gのAK−225に溶解させた溶液を導入し、還流温度50℃に保ったまま重合を開始した。5時間重合を継続した後、重合液を300mLの変性アルコール(ソルミックスAP-1、日本アルコール販売(株)製)に注ぎ込んで重合体を析出させた。上澄みを除去し、減圧乾燥(40℃で3時間乾燥後、60℃で3時間)させて6.47gの重合体(A1)を得た。得られた重合体のGPC分析により求めた重量平均分子量は14,100、分子量分布(Mw/Mn)は1.28であった。また重合体(A1)の1H−NMR測定より求めたモノマー成分の組成モル分率はC10GMTCRY:GMA=44.6:55.4であった。さらに、重合体(A1)中に含有すフッ素濃度は45.5重量%であった。
【化14】

【0116】
[実施例2]
重合体(A2)の合成
還流冷却器、温度計、セプタムキャップを取り付けた内容積50mLの3つ口フラスコに、パーフルオロ(ブトキシエトキシエトキシ)エチルメタクリレート(商品名:C10GMTCRY、油脂製品株式会社製)を4.44g、化合物(a−1)を3.54g、グリシジルメタクリレート(GMA)を1.03g、2−ブタノン(MEK)を20.96g導入し、窒素シールした。95℃に保ったオイルバスに前記3つ口フラスコをセットして還流させ、15分間脱酸素を行った。次いで0.0238gの2,2'−アゾビス−イソブチロニトリル(AIBN)と0.0133gのメルカプト酢酸(AcSH)とを0.3366gのMEKに溶解させた溶液を導入し、還流温度80℃に保ったまま重合を開始した。5時間重合を継続した後、重合液を300mLの変性アルコール(ソルミックスAP-1、日本アルコール販売(株)製)に注ぎ込んで重合体を析出させた。上澄みを除去し、減圧乾燥(40℃で3時間乾燥後、60℃で3時間)させて5.46gの重合体(A2)を得た。得られた重合体のGPC分析により求めた重量平均分子量は25,100、分子量分布(Mw/Mn)は1.26であった。また重合体(A2)の1H−NMR測定より求めたモノマー成分の組成モル分率は、C10GMTCRY:(a−1):GMA=36.5:20.4:43.1であった。さらに、重合体(A2)の1H−NMR測定より求めたフッ素濃度は39.8重量%であった。
【0117】
[実施例3]
重合体(A3)の合成
還流冷却器、温度計、セプタムキャップを取り付けた内容積50mLの3つ口フラスコに、パーフルオロ(ブトキシエトキシエトキシ)エチルメタクリレート(商品名:C10GMTCRY、油脂製品株式会社性)を4.85g、片末端メタクリロキシ変性ポリジメチルシロキサン(サイラプレーン FM−0721、チッソ株式会社製)を3.03g、グリシジルメタクリレート(GMA)を1.12g、商品名:アサヒクリン AK−225(旭硝子株式会社製)を20.91g導入し、窒素シールした。70℃に保ったオイルバスに前記3つ口フラスコをセットして還流させ、15分間脱酸素を行った。次いで0.0391gの2,2'−アゾビス−2,4'−ジメチルバレロニトリル(ADVN)と0.0157gのメルカプト酢酸(AcSH)とを0.4840gのAK−225に溶解させた溶液を導入し、還流温度50℃に保ったまま重合を開始した。5時間重合を継続した後、重合液を300mLの変性アルコール(ソルミックスAP-1、日本アルコール販売(株)製)に注ぎ込んで重合体を析出させた。上澄みを除去し、減圧乾燥(40℃で3時間乾燥後、60℃で3時間乾燥)させて5.24gの重合体(A3)を得た。得られた重合
体のGPC分析により求めた重量平均分子量は45,500、分子量分布(Mw/Mn)は1.34であった。また重合体(A3)の1H−NMR測定より求めたモノマー成分の組成モル分率はC10GMTCRY:サイラプレーン FM−0721:GMA=43.5:2.9:53.6であった。さらに、重合体(A3)の1H−NMR測定より求めたフッ素濃度は29.8重量%であった。
【0118】
[比較例1]
重合体(B1)の合成
還流冷却器、温度計、セプタムキャップを取り付けた内容積50mLの3つ口フラスコに、下式で示される2−(パーフルオロオクチル)エチルメタクリレート(商品名:M1820、ダイキン化成品販売株式会社製)を7.10g、グリシジルメタクリレート(GMA)を1.90g、商品名:アサヒクリン AK−225(旭硝子株式会社製)を20.91g導入し、窒素シールした。95℃に保ったオイルバスにセットして還流させ、15分間脱酸素を行った。70℃に保ったオイルバスに前記3つ口フラスコをセットして還流させ、15分間脱酸素を行った。次いで0.0391gの2,2'−アゾビス−2,4'ジメチルバレロニトリル(ADVN)と0.0663gのメルカプト酢酸(AcSH)とを0.282gのAK−225に溶解させた溶液を導入し、還流温度50に保ったまま重合を開始した。5時間重合を継続した後、重合液を300mLの変性アルコール(ソルミックスAP-1、日本アルコール販売(株)製)に注ぎ込んで重合体を析出させた。上澄みを除去し、減圧乾燥(40℃で3時間乾燥後、60℃で3時間)させて6.96gの重合体(B1)を得た。得られた重合体のGPC分析により求めた重量平均分子量は15,700、分子量分布(Mw/Mn)は1.26であった。また重合体(B1)の1H−NMR測定より求めたモノマー成分の組成モル分率は、M1820:GMA=46.7:53.3であった。さらに、重合体(B1)中のフッ素濃度は46.5重量%であった。
【化15】

【0119】
[実施例4] コーティング膜 (I−1)の調製
得られた重合体(A1)0.20g、およびEHPE3150CE(2,2−ビス(ヒドロキシメチル)−1−ブタノールの1,2−エポキシ−4−(2−オキシラニル)シクロヘキサン付加物と、(3',4'−エポキシシクロヘキサン)メチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレートとの混合物(エポキシ当量:151g/mol,ダイセル化学工業株式会社製)3.80gを、混合溶剤(2−ブタノン/AK−225=重量比55/45)36.0gに溶解させた。さらに、硬化剤としてカチオン重合開始剤0.033g(エポキシ基/カチオン重合開始剤=400/1(モル比))を加え、コーティング剤を得た。
得られたコーティング剤を、コーティングロッド(#4、R.D.スペシャリティーズ社製)を用いて、ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ:75μm 銘柄名:ルミラーT−60、東レ株式会社製)上に塗布した。得られた塗膜を、高温チャンバーで150℃で30秒間硬化と同時に乾燥させて、膜厚約0.9μmの透明なコーティング膜(I−1)を得た。得られたコーティング膜 (I−1)の樹脂固形分中のフッ素濃度は、2.28重量%であった。この「樹脂固形分中のフッ素濃度」とは、重合体(A1)の重量とEHPE3150CEの重量の総重量に対する、重合体(A1)に含まれるフッ素重量の比率を意味し、重合体(A1)とEHPE3150CEの重量比から計算した。
【0120】
[比較例2] コーティング膜 (II−1)の調製
得られた重合体(B1)0.20g、およびEHPE3150CE(2,2−ビス(ヒドロキシメチル)−1−ブタノールの1,2−エポキシ−4−(2−オキシラニル)シクロヘキサン付加物と、(3',4'−エポキシシクロヘキサン)メチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレートとの混合物(エポキシ当量:151g/mol,ダイセル化学工業株式会社製)3.80gを、混合溶剤(2−ブタノン/AK−225=重量比55/45)36.0gに溶解させた。さらに、硬化剤としてカチオン重合開始剤0.033g(エポキシ基/カチオン重合開始剤=400/1(モル比))を加え、コーティング剤を得た。
得られたコーティング剤を、コーティングロッド(#4、R.D.スペシャリティーズ社製)を用いて、ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ:75μm 銘柄名:ルミラーT−60、東レ株式会社製)上に塗布した。得られた塗膜を、高温チャンバーで150℃で30秒間硬化と同時に乾燥させて、膜厚約0.9μmの透明なコーティング膜(II−1)を得た。得られたコーティング膜 (II−1)の樹脂固形分中のフッ素濃度は、2.33重量%であった。この「樹脂固形分中のフッ素濃度」とは、重合体(B1)とEHPE3150CEの重量の総重量に対する、重合体(B1)に含まれるフッ素重量の比率を意味し、重合体(B1)とEHPE3150CEの重量比から計算した。
【0121】
[試験例1]
本発明における[実施例]および[比較例]より得られるコーティング膜の物性値は、下記の方法にて測定した。
【0122】
[滑り性]
表面性試験機 HEIDON Type:14W (新東化学株式会社製)を用いて、ASTM D 1894−3に準じて測定を行った。
【0123】
[防汚性]
油性サインペン(マジックインキ(登録商標)、黒、M500−T1、寺西化学工業株式会社)を用いて、コーティング膜の塗膜面上に1.5mm×100mmの線を引いた。目視にてマッジクインキを弾く状態を観察し、以下の評価基準に従って評価した。
評価基準
〇(弾きが良好): 点状にマジックインキを弾く
△(弾きが普通): 線状にマジックインキを弾く
×(弾きが不良): マジックインキを弾かない
表1に得られたコーティング膜の物性値および評価結果を示す。
【0124】
【表1】

【0125】
(試験例等の評価結果の考察)
表1の実施例と比較例とを比較すると、実施例4の方が、塗膜中のフッ素含有量が比較例2と同等にも拘らず、低い摩擦抵抗を発現しており、滑り性が良好であることがわかっ
た。また、マジックインキの弾きが良好であった。これは、含フッ素ポリエーテルの効果であると考えられる。
【0126】
[実施例5] コーティング膜 (III−1)の調製
得られた重合体(A2)0.002g、およびEHPE3150CE(2,2−ビス(ヒドロキシメチル)−1−ブタノールの1,2−エポキシ−4−(2−オキシラニル)シクロヘキサン付加物と、(3',4'−エポキシシクロヘキサン)メチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレートとの混合物(エポキシ当量:151g/mol,ダイセル化学工業株式会社製)3.998gを、混合溶剤(2−ブタノン/AK−225=重量比55/45)36.0gに溶解させた。さらに、硬化剤としてカチオン重合開始剤0.033g(エポキシ基/カチオン重合開始剤=400/1(モル比))を加え、コーティング剤を得た。
得られたコーティング剤を、コーティングロッド(#4、R.D.スペシャリティーズ社製)を用いて、ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ:75μm 銘柄名:ルミラーT−60、東レ株式会社製)上に塗布した。得られた塗膜を、高温チャンバーで150℃で30秒間硬化・乾燥させて、膜厚約0.9μmの透明なコーティング膜(III−1)を得た。得られたコーティング膜 (III−1)の樹脂固形分中のC10GMTCRY濃度は、0.02重量%であった。この「樹脂固形分中のC10GMTCRY濃度」とは、重合体(A2)中に含まれるC10GMTCRY成分の重量とEHPE3150CEの重量の総重量に対する、重合体(A2)に含まれるC10GMTCRY重量の比率を意味する。
【0127】
[実施例6] コーティング膜 (III−2)の調製
重合体(A2)0.004gおよびEHPE3150CE3.996gを用いた以外は、実施例と同じ手順でコーティング膜を得た。コーティング膜 (III−2)の樹脂固形分中のC10GMTCRY濃度は、0.04重量%であった。
【0128】
[実施例7] コーティング膜 (III−3)の調製
重合体(A2)0.008gおよびEHPE3150CE3.992gを用いた以外は、実施例と同じ手順でコーティング膜を得た。コーティング膜 (III−3)の樹脂固形分中のC10GMTCRY濃度は、0.08重量%であった。
【0129】
[実施例8] コーティング膜 (IV−1)の調製
得られた重合体(A1)0.001g、およびEHPE3150CE(2,2−ビス(ヒドロキシメチル)−1−ブタノールの1,2−エポキシ−4−(2−オキシラニル)シクロヘキサン付加物と、(3',4'−エポキシシクロヘキサン)メチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレートとの混合物(エポキシ当量:151g/mol,ダイセル化学工業株式会社製)3.999gを、混合溶剤(2−ブタノン/AK−225=重量比55/45)36.0gに溶解させた。さらに、硬化剤としてカチオン重合開始剤0.033g(エポキシ基/カチオン重合開始剤=400/1(モル比))を加え、コーティング剤を得た。
得られたコーティング剤を、コーティングロッド(#4、R.D.スペシャリティーズ社製)を用いて、ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ:75μm 銘柄名:ルミラーT−60、東レ株式会社製)上に塗布した。得られた塗膜を、高温チャンバーで150℃で30秒間硬化と同時に乾燥させて、膜厚約0.9μmの透明なコーティング膜(IV−1)を得た。得られたコーティング膜 (IV−1)の樹脂固形分中のC10GMTCRY濃度は、0.02重量%であった。この「樹脂固形分中のC10GMTCRY濃度」とは、重合体(A1)中に含まれるC10GMTCRY成分の重量とEHPE3150CEの重量の総重量に対する、重合体(A1)に含まれるC10GMTCRY重量の比率を意味する。
【0130】
[実施例9] コーティング膜 (IV−2)の調製
重合体(A1)0.002gおよびEHPE3150CE3.998gを用いた以外は、実施例と同じ手順でコーティング膜を得た。コーティング膜 (IV−2)の樹脂固形分中のC10GMTCRY濃度は、0.04重量%であった。
【0131】
[実施例10] コーティング膜 (IV−3)の調製
重合体(A1)0.004gおよびEHPE3150CE3.996gを用いた以外は、実施例と同じ手順でコーティング膜を得た。コーティング膜 (IV−3)の樹脂固形分中のC10GMTCRY濃度は、0.08重量%であった。
【0132】
[試験例2]
本発明における[実施例]より得られるコーティング膜の物性値は、下記の方法にて測定した。
【0133】
[接触角および表面自由エネルギー測定]
プローブ液体として、蒸留水(窒素・りん測定用、関東化学株式会社製)、およびヨウ化メチレン(99%、アルドリッチ社製)を用いて接触角を測定し、かつKaelble-Uyの理論に従って表面自由エネルギーを算出した。
表2に得られたコーティング膜の物性値および評価結果を示す。
【0134】
【表2】

【0135】
(試験例等の評価結果の考察)
上記の結果から、コーティング膜(III−1)、(III−2)および(III−3)と、コーティング膜(IV−1)、(IV−2)および(IV−3)とを、それぞれ同じ樹脂固形分中のC10GMTCRY濃度で比較すると、コーティング膜(III−1)、(III−2)および(III−3)の方が、水およびヨウ化メチレンに対する接触角が大きく、低い表面自由エネルギーの値を示していた(接触角の測定値(実測)より算出)。これは、含フッ素ポリエーテルとフルオロシルセスキオキサンを同じ共重合体中に、併用して組み込んだ効果であると考えられる。
【0136】
[実施例11] コーティング膜 (V−1)の調製
得られた重合体(A3)0.20g、およびEHPE3150CE(2,2−ビス(ヒドロキシメチル)−1−ブタノールの1,2−エポキシ−4−(2−オキシラニル)シクロヘキサン付加物と、(3',4'−エポキシシクロヘキサン)メチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレートとの混合物(エポキシ当量:151g/mol,ダイセル化学工業株式会社製)3.80gを、混合溶剤(2−ブタノン/AK−225=重量比55/45)36.0gに溶解させた。さらに、硬化剤としてカチオン重合開始剤0.0
33g(エポキシ基/カチオン重合開始剤=400/1(モル比))を加え、コーティング剤を得た。
得られたコーティング剤を、コーティングロッド(#4、R.D.スペシャリティーズ社製)を用いて、ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ:75μm 銘柄名:ルミラーT−60、東レ株式会社製)上に塗布した。得られた塗膜を、高温チャンバーで150℃で30秒間硬化と同時に乾燥させて、膜厚約0.9μmの透明なコーティング膜(V−1)を得た。得られたコーティング膜(V−1)の樹脂固形分中のフッ素濃度は、2.28重量%であった。この「樹脂固形分中のフッ素濃度」とは、重合体(A3)とEHPE3150CEの重量の総重量に対する、重合体(A3)に含まれるフッ素重量の比率を意味し、重合体(A3)とEHPE3150CEの重量比から計算した。
【0137】
[試験例3]
本発明における[実施例]および[比較例]より得られるコーティング膜の物性値は、下記の方法にて測定した。
【0138】
[滑り性]
表面性試験機 HEIDON Type:14W (新東化学株式会社製)を用いて、ASTM D 1894−3に準じて測定を行った。
【0139】
[防汚性]
油性サインペン(マジックインキ(登録商標)、黒、M500−T1、寺西化学工業株式会社)を用いて、コーティング膜の塗膜面上に1.5mm×100mmの線を引いた。目視にてマッジクインキを弾く状態を観察し、以下の評価基準に従って評価した。
評価基準
〇(弾きが良好): 点状にマジックインキを弾く
△(弾きが普通): 線状にマジックインキを弾く
×(弾きが不良): マジックインキを弾かない
【0140】
[拭取性]
さらに、線を引いたコーティング膜を室温(約20℃)で24時間放置し、紙ワイパー(キムワイプS−200(登録商標)、十条キンバリー株式会社製)でマジックインキを拭き取った。その際の拭き取りやすさ、および拭き取った後の塗膜について、以下の評価基準に従って評価を行った。
評価基準
〇(拭取性が良好): 1,2度程度で軽く拭き取れ、マジックインキの跡は残らない
△(拭取性が普通): 拭き取りにくいが、マジックインキの跡は残らない
×(拭取性が不良): 拭き取りにくく、マジックインキの跡も残る
表3に得られたコーティング膜の物性値および評価結果を示す。
【0141】
【表3】

【0142】
(試験例等の評価結果の考察)
上記の結果から、コーティング膜(V−1)と、コーティング膜(I−1)とを比較すると、(V−1)の方が、低い摩擦抵抗を発現している。コーティング膜(V−1)と、コーティング膜(I−1)とを比較すると、(V−1)の方が、マジックインキの拭き取り性に対して良好であった。これは、含フッ素ポリエーテルとポリジメチルシロキサン化合物を同じ共重合体中に、併用して組み込んだ効果であると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0143】
本発明の重合体や表面処理剤は、防汚性、撥水撥油性、スリップ性(滑り性)の向上に効果があり、具体的な用途としては、例えば、ディスプレイに用いられるプロテクトフィルムの防汚処理剤、ディスプレイ表面やタッチパネルの汚れ防止、指紋付着防止のための表面処理剤等に利用することが可能であり、諸特性と用途に多様化をもたらすことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構成単位A、構成単位B、構成単位Cおよび/または構成単位Dを含む重合体。
(重合体中、構成単位Aは、下記式(1)で示される含フッ素ポリエーテルを有する付加重合性単量体(A−1)に由来し、
構成単位Bは、下記式(2)および(3)で示されるケイ素を有する付加重合性単量体(B−1)から選ばれる一種以上に由来し、
構成単位Cは、環状エーテルを含む一価の官能基、ヒドロキシル、ビニルエーテル、ハロゲン化アルキル、イソシアネート、アミノおよびカルボキシルから選ばれる架橋性官能基を有する付加重合性単量体(C−1)の一種以上に由来し、
構成単位Dは、前記構成単位A、構成単位B、および構成単位Cとして用いられる付加重合性単量体以外の付加重合性単量体(D−1)に由来し、
重合体中の構成単位Aのモル分率(%)をαで表し、重合体中の構成単位Bのモル分率(%)をβで表し、重合体中の構成単位Cのモル分率(%)をγで表し、重合体中の構成単位Dのモル分率(%)をδで表し、それぞれ、0<α<100、0≦β<100、0≦γ<100、0≦δ<100、α+β+γ+δ=100を満たす。)
【化1】

式(1)において、a,b,cおよびdは、各々が0〜100であって、2≦a+b+c+d≦100を満たす整数であり;Rf1は水素、炭素数1〜16のフルオロアルキル、炭素数2〜16のフルオロアルコキシアルキル、炭素数1〜16のアルキルまたは炭素数2〜16のアルコキシアルキルであり;X1は、(メタ)アクリロイルであり;Y1は、炭素数1〜14のアルキルであり、任意の水素がフッ素に置き換えられてもよく、該アルキルが分岐鎖を有する場合、分岐鎖の末端の炭素は水酸基に置き換えられもよい。
【化2】

式(2)において、nは1〜1,000の整数であり;Rb1〜Rb5はそれぞれ独立して、水素、任意の水素がフッ素で置き換えられてもよく、そして任意の−CH2−が−O−またはシクロアルキレンで置き換えられてもよい、炭素数が1〜30のアルキル、置換もしくは非置換の炭素数が6〜30のアリール、および置換もしくは非置換のアリールと、任意の水素がフッ素で置き換えられてもよく任意の−CH2−が−O−またはシクロアルキレンで置き換えられてもよいアルキレンとで構成される炭素数が9〜30のアリールアルキル、から独立して選択される基であり;A2は付加重合性官能基である。
【化3】

式(3)において、Rc1〜Rc7はそれぞれ独立して、任意のメチレンが酸素で置換されていてもよい、炭素数1〜20のフルオロアルキル;少なくとも1つの水素がフッ素もしくはトリフルオロメチルで置換された、炭素数6〜20のフルオロアリール;またはアリール中の少なくとも1つの水素がフッ素もしくはトリフルオロメチルで置換された、炭素数7〜20のフルオロアリールアルキルであり、A3は、付加重合性官能基である。
【請求項2】
式(1)において、X1は、下記式(4)、(5)および(6)に示す構造から選択され、Y1は、炭素数1〜6のアルキルであり、任意の水素がフッ素に置き換えられてもよく、該アルキルが分岐鎖を有する場合、分岐鎖の末端の炭素は水酸基に置き換えられてもよく;
式(2)におけるRb1およびRb2が、それぞれ独立して水素、フェニルまたは炭素数が1〜8であり、任意の水素がフッ素で置き換えられてもよいアルキルであり;Rb3およびRb4が、独立して炭素数が1〜20であり、任意の水素がフッ素で置き換えられてもよいアルキル、炭素数が6〜20であり、任意の水素がフッ素で置き換えられてもよいアリール、または炭素数が7〜20であり、任意の水素がフッ素で置き換えられてもよいアリールアルキルであり;Rb5が、炭素数が1〜20であり、任意の水素がフッ素で置き換えられてもよいアルキル、炭素数が6〜20であり、任意の水素がフッ素で置き換えられてもよいアリール、または炭素数が7〜20であり、任意の水素がフッ素で置き換えられてもよいアリールアルキルであり;
式(3)におけるRc1〜Rc7が、それぞれ独立して、3,3,3-トリフルオロプロピル、3,3,4,4,4-ペンタフルオロブチル、3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロヘキシル、トリデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロオクチル、ヘプタデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロデシル、ヘンイコサフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロドデシル、ペンタコサフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロテトラデシル、(3-ヘプタフルオロイソプロポキシ)プロピル、ペンタフルオロフェニルプロピル、ペンタフルオロフェニル、またはα,α,α-トリフルオロメチルフェニルであることを特徴とする請求項1記載の重合体。
【化4】

式(4)、(5)および(6)中のRa1は、水素、フッ素、メチルまたはトリフルオロメチルであり、eは2〜6の整数であり;式(6)中のRa2は、炭素数2〜14のアルキレン、炭素数6〜14の炭素数のアリーレンまたは炭素数7〜14の炭素数のアリールアルキレンである。
【請求項3】
重合体中、含フッ素ポリエーテルを有する付加重合性単量体(A−1)に由来する構成単位およびケイ素を有する付加重合性単量体(B−1)に由来する構成単位を有し、0<α<100、0<β<100、0≦γ<100、0≦δ<100、α+β+γ+δ=100を満たすことを特徴とする請求項1または2記載の重合体。
【請求項4】
式(2)におけるRb1およびRb2は、それぞれ独立して、メチル、フェニルまたは3,3,3−トリフルオロプロピルであり;Rb3およびRb4は、それぞれ独立してメチルまたはフェニルであり;Rb5はメチル、エチル、プロピル、ブチル、イソブチルまたはフェニルであり;
式(3)におけるRc1〜Rc7が、それぞれ独立して、3,3,3-トリフルオロプロピル、3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロヘキシルまたはトリデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロオクチルであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項記載の重合体。
【請求項5】
式(2)におけるA2、および式(3)におけるA3が、ラジカル重合性官能基であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項記載の重合体。
【請求項6】
式(2)におけるA2、および式(3)におけるA3が、(メタ)アクリルまたはスチリルを含むことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項記載の重合体。
【請求項7】
式(2)におけるA2、および式(3)におけるA3が、下記式(7)、(8)および(9)で示されるいずれかである請求項1〜4のいずれか1項記載の重合体。
【化5】

式(7)において、Y2が炭素数2〜10のアルキレンであり、Rd1が水素、炭素数1〜5のアルキル、または炭素数6〜10のアリールであり、
式(8)において、Rd2は水素、炭素数1〜5のアルキル、または炭素数6〜10のアリールであり、X2は炭素数が2〜20のアルキレンであり、Yは−OCH2CH2−、−OCHCH3CH2−、または−OCH2CH(CH3)−であり、pは3以下の整数であり、
式(9)において、Y3が単結合または炭素数1〜10のアルキレンである。
【請求項8】
式(7)において、Y2が炭素数2〜6のアルキレンであり、Rd1が水素または炭素数1〜3のアルキルであり、
式(8)において、X2は−CH2CH2CH2−であり、Yは−OCH2CH2−であり、pは0または1であり、Rd2が水素または炭素数1〜3のアルキルであり、式(9)においてY3が単結合または炭素数1あるいは2のアルキレンである、請求項7記載の重合体。
【請求項9】
前記付加重合性単量体(C−1)の前記架橋性官能基が、環状エーテルを含む一価の官能基であることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項記載の重合体。
【請求項10】
前記環状エーテルを含む一価の官能基がグリシジル、オキセタニル、エポキシシクロヘキシル、およびジオキソランから選ばれることを特徴とする、請求項9記載の重合体。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項記載の重合体と、熱可塑性樹脂および/または硬化性樹脂とを含む樹脂組成物。
【請求項12】
前記硬化性樹脂が、該樹脂の構造中に少なくとも一つの環状エーテルを含む一価の官能基を有することを特徴とする請求項11記載の樹脂組成物。
【請求項13】
請求項1〜10のいずれか1項記載の重合体または請求項12もしくは請求項13記載の樹脂組成物を含有する表面処理剤。
【請求項14】
防汚処理剤である請求項13記載の表面処理剤。
【請求項15】
撥水撥油剤である請求項13記載の表面処理剤。
【請求項16】
離型剤である請求項13記載の表面処理剤。
【請求項17】
反射防止剤である請求項13記載の表面処理剤。
【請求項18】
繊維処理剤である請求項13記載の表面処理剤。
【請求項19】
帯電制御剤である請求項13記載の表面処理剤。
【請求項20】
請求項14〜19のいずれか1項記載の表面処理剤で処理された被処理物。

【公開番号】特開2009−7488(P2009−7488A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−170751(P2007−170751)
【出願日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【出願人】(000002071)チッソ株式会社 (658)
【Fターム(参考)】