説明

フッ素系重合体および樹脂組成物

【課題】フッ素を有するシルセスキオキサンを含む重合体を提供し、この重合体を表面改質剤として利用すること、好ましくはマトリックス樹脂の表面改質剤として利用することである。
【解決手段】1つの付加重合性官能基を有するフルオロシルセスキオキサン(a)と、付加重合性官能基を有するオルガノポリシロキサン(c)との付加共重合体、または、1つの付加重合性官能基を有するフルオロシルセスキオキサンと、付加重合性官能基を有するオルガノポリシロキサン(c)と、付加重合性単量体(b)との付加共重合体を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素を含む重合体に関する。具体的には、その少なくとも一部の構成単位が、フルオロシルセスキオキサン骨格を含む構成単位であるフッ素系重合体およびこれを含んでなるフッ素系重合体組成物、当該フッ素系重合体組成物を含む表面処理剤に関する。
さらに本発明は、フッ素系重合体組成物を含む表面処理剤により得られる被膜であって、撥水撥油性、汚防性、非粘着性、離型性、滑り性、耐磨耗性、耐蝕性、電気絶縁性、反射防止特性、難燃性、帯電防止特性、耐薬品性、耐候性を有する硬化被膜に関する。
【背景技術】
【0002】
シルセスキオキサンは特異な構造を有するポリシロキサンであって、興味が持たれる化合物である。例えば、優れた耐熱性や耐候性が得られるので、熱可塑性樹脂用の改質剤、層間絶縁膜、封止材料、難燃剤、塗料添加剤などとしての利用が期待されている。
そのため、シルセスキオキサンに種々の官能基を導入する試みがなされており、フッ素を含む基を導入されたシルセスキオキサンも報告されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、シルセスキオキサンを有する重合体が報告されている(例えば、特許文献2参照)。このシルセスキオキサンを有する重合体は、有機または無機重合体とブレンドすることによって、熱的特性および機械的特性が好ましく制御された重合体組成物を提供すると報告されている。またシルセスキオキサンを有する重合体が、液晶性を有する場合があるとも報告されている。さらに、含フッ素シルセスキオキサン重合体およびその製造方法が報告されている(例えば特許文献3参照)。この含フッ素シルセスキオキサン重合体は、繊維の撥水撥油剤や防汚加工剤、難燃化剤、半導体用封止剤又は半導体用絶縁膜に好適に用いられることが報告されている。
【0004】
近年、ポリジメチルシロキサンを主成分としたシリコーン樹脂系粘着剤は、耐熱性、耐寒性、耐水性、耐候性、再粘着性、電気絶縁性等に優れ、さらに、一般の有機系粘着剤では粘着が困難であるポリイミド、ポリアミド、ポリテトラフルオロエチレン、シリコーンゴム等に対する粘着性が優れているため、各種用途の粘着剤として広く用いられている。また、シリコーン樹脂系粘着剤は、アクリル系粘着剤のような皮膚刺激性がなく、また無毒性である為、近年、絆創膏などの医療用粘着テープとしても用いられている。例えば、救急絆創膏等の感圧粘着テープ用途が開示されている(特許文献4、特許文献5、特許文献6)。
【0005】
しかしながら、これらのシリコーン樹脂系粘着剤は、表面張力が低く、非常に粘着力が強いため、従来の硬化性シリコーン樹脂からなる離型剤では離型性が不十分である。特に、ポリジメチルシロキサンを主成分とする粘着剤を用いた粘着テープや粘着ラベルの粘着剤面に離型紙を貼付して使用前に長期間保存すると、粘着テープ(又はラベル)としての用をなさなくなる場合がある。それは、捲回した粘着テープから巻き出す際の下層テープの背面から巻き出すテープ部分の粘着剤層を剥離しつつ巻き出す際、あるいは粘着剤面から離型紙を剥離する際に、剥離力が著しく増大し、時には粘着剤層間での破壊を起こすからである。
【0006】
そこで、シリコーン樹脂系粘着剤用のセパレーターに用いられる離型剤としては、(ポリフルオロ)アルキルビニル単量体と、分子中にエチレン性不飽和結合およびケイ素官能性基を有するシラン単量体との共重合体(特許文献7)や、フッ化ビニリデンおよび/ま
たはテトラフルオロエチレンとエチレン性不飽和結合を有する他のフッ素含有単量体との共重合体および上記公報に用いられた共重合体とを含有する組成物(特許文献8)が開示されている。
【0007】
しかしながら、これらの特許文献7および特許文献8のいずれの公報に開示された共重合体も、それ自体が高価である。さらに、それらの共重合体は炭化水素のような通常の有機溶媒には溶解しないためフロン系溶媒に溶解させて塗工する必要がある。該フロン系溶媒は揮発してオゾン層の破壊をもたらすので、それらの共重合体の使用は好ましくない。そのため、通常の有機溶媒に溶解する離型剤を用いることが望まれている。また、特許文献7に開示された共重合体は、プラスチックフィルム等の基材に対する接着性及び塗膜強度が十分ではなく、離型材層そのものが使用条件によっては剥脱し易いという問題点がある。
【0008】
本発明者らは、上記の観点から、種々の離型成分を探索した結果、フルオロシルセスキオキサンとオルガノポリシロキサンを必須成分とするフッ素系重合体がシリコーン樹脂系粘着剤に対する離型性に優れていることを見出した。さらに当該フッ素系重合体を用い、プラスチックフィルム、ガラス、金属等の基材表面に被膜を形成させ、離型機能を発現させるためには、この離型成分の離型性を損なうことなく基材との密着性を向上させることも重要であることが判った。当該剥離成分を基材と固定化するための処方を種々検討した結果、フルオロシルセスキオキサンとオルガノポリシロキサンに加え、架橋性官能基を有する重合性単量体を含んでなるフッ素系重合体と架橋性官能基を有するマトリックス樹脂とを複合化させることによって、基材面によく密着し、且つアクリル系などの一般的な粘着剤や剥離成型用樹脂、またシリコーン樹脂に対しても良好な離型性を発現することを見出し、硬化被膜を得るためのフッ素系重合体組成物、当該フッ素系重合体組成物を含む表面処理剤に到達したものである。当該表面処理剤より得られる硬化被膜は、良好な離型特性だけでなく、良好な撥水・撥油性、滑り性、耐汚染性、電気絶縁性、透明性、耐薬品性、耐熱性等の特性も有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−123698号公報
【特許文献2】米国特許第5484867号明細書
【特許文献3】特開2005−272506号公報
【特許文献4】特開平7−052326号公報
【特許文献5】特公平7−008554号公報
【特許文献6】特開平3−200885号公報
【特許文献7】特開昭61−228078号公報
【特許文献8】特開平2−281063号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、フッ素を有するシルセスキオキサンを含む重合体を提供することを課題とする。さらに、シルセスキオキサンを含む重合体の新たな用途を見出すことを課題とする。新たな用途とは、例えば、前記フッ素を有するシルセスキオキサンを含む重合体を表面改質剤として利用すること、好ましくはマトリックス樹脂の表面改質剤として利用することである。さらに好ましくは、プラスチックフィルム等の基材の表面に離型材層を形成してなる硬化被膜において、離型材層の原料である、フッ素系重合体組成物を含む表面処理剤に、環境を大きく害するフロン系溶媒を使用しないことである。また、該硬化被膜が基材によく密着することである。さらに、該硬化被膜を一般の有機系粘着剤では粘着が困難であるポリイミド、ポリアミド、ポリテトラフルオロエチレン、シリコーンゴム等の被着体
に対する粘着性が優れたシリコーン樹脂系粘着剤を使用した感圧粘着テープに貼り付け、加熱処理した後でも粘着剤面から剥離する際の剥離力の上昇が小さく、粘着剤層との剥離力が安定した離型性を発現させることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明は以下に示される重合体に関する。
[1] 1つの付加重合性官能基を有するフルオロシルセスキオキサン(a)と、付加重合性官能基を有するオルガノポリシロキサン(c)との付加共重合体、または、1つの付加重合性官能基を有するフルオロシルセスキオキサン(a)と、付加重合性官能基を有するオルガノポリシロキサン(c)と、付加重合性単量体(b)との付加共重合体。
[2] 前記フルオロシルセスキオキサン(a)が、下記式(I)で示されることを特徴とする、[1]に記載の重合体。
【0012】
【化1】

【0013】
[式(I)において、
f1〜Rf7はそれぞれ独立して、
任意のメチレンが酸素で置き換えられていてもよい、炭素数1〜20の、直鎖状もしくは分岐鎖状のフルオロアルキル;
少なくとも1つの水素がフッ素もしくはトリフルオロメチルで置き換えられた、炭素数6〜20のフルオロアリール;または
アリール中の少なくとも1つの水素がフッ素もしくはトリフルオロメチルで置き換えられた、炭素数7〜20のフルオロアリールアルキルを示し、
1は、付加重合性官能基を示す。]
【0014】
[3] 式(I)におけるRf1〜Rf7がそれぞれ独立して、3,3,3-トリフルオロプロピル、3,3,4,4,4-ペンタフルオロブチル、3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロヘキシル、トリデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロオクチル、ヘプタデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロデシル、ヘンイコサフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロドデシル、ペンタコサフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロテトラデシル、(3-ヘプタフルオロイソプロポキシ)プロピル、ペンタフルオロフェニルプロピル、ペンタフルオロフェニル、またはα,α,α-トリフルオロメチルフェニルを示すことを特徴とする、[2]に記載の重合体。
[4] 式(I)におけるRf1〜Rf7がそれぞれ独立して、3,3,3-トリフルオロプロピル、または3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロヘキシルを示すことを特徴とする、[3]に記載の重合体。
[5] オルガノポリシロキサン(c)が下記式(IV)であることを特徴とする[1]〜[4]のいずれかに記載の重合体。
【0015】
【化2】

【0016】
[式(IV)において、nは1〜1,000の整数であり;R1、R2、R3、R4、およびR5は、それぞれ、水素、炭素数が1〜30であり、任意の水素がフッ素で置き換えられてもよく、そして任意の−CH2−が−O−またはシクロアルキレンで置き換えられてもよいアルキル、置換もしくは非置換のアリール、および置換もしくは非置換のアリールと、任意の水素がフッ素で置き換えられてもよく任意の−CH2−が−O−またはシクロアルキレンで置き換えられてもよいアルキレンとで構成されるアリールアルキル、から独立して選択される基であり;A2は付加重合性官能基である。]
【0017】
[6] 式(IV)におけるR1およびR2が、それぞれ独立して水素、フェニルまたは炭素数が1〜8で任意の水素がフッ素で置き換えられてもよいアルキルであり;
3およびR4が、独立して炭素数が1〜20であり任意の水素がフッ素で置き換えられてもよいアルキル、炭素数が6〜20であり任意の水素がフッ素で置き換えられてもよいアリール、または炭素数が7〜20であり任意の水素がフッ素で置き換えられてもよいアリールアルキルであり;
5が、炭素数が1〜20であり任意の水素がフッ素で置き換えられてもよいアルキル、
炭素数が6〜20であり任意の水素がフッ素で置き換えられてもよいアリール、または炭素数が7〜20であり任意の水素がフッ素で置き換えられてもよいアリールアルキルである[5]に記載の重合体。
[7] 式(IV)におけるR1およびR2は、それぞれ独立してメチル、フェニルまたは3,3,3−トリフルオロプロピルであり;
3およびR4は、それぞれ独立してメチルまたはフェニルであり;
5はメチル、エチル、プロピル、ブチル、イソブチル、またはフェニルである[6]に記載の重合体。
[8] R1、R2、R3およびR4は、それぞれ同時にメチルである[7]に記載の重合体。
[9] 式(I)におけるA1、および式(IV)におけるA2が付加重合性官能基であることを特徴とする、[2]〜[8]のいずれかに記載の重合体。
[10] 式(I)におけるA1、および式(IV)におけるA2がラジカル重合性官能基であることを特徴とする、[9]に記載の重合体。
[11] 式(I)におけるA1、および式(IV)におけるA2が(メタ)アクリルまたはスチリルを含むことを特徴とする、[10]に記載の重合体。
[12] 式(I)におけるA1が、下記式(V)または(VII)で示されるいずれかであり、
式(IV)におけるA2が、下記式(V)、(VI)または(VII)で示されるいずれかである[11]に記載の重合体。
【0018】
【化3】

【0019】
[式(V)において、Y3が炭素数2〜10のアルキレンを示し、R6が水素、または炭素数1〜5の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル、または炭素数6〜10のアリールであり、式(VI)において、R7は水素、または炭素数1〜5の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル、または炭素数6〜10のアリールであり、X1は炭素数が2〜20のアルキレンであり、Yは−OCH2CH2−、−OCH(CH3)CH2−,または−OCH2CH(CH3)−であり、pは0〜3の整数であり、式(VII)において、Y4が単結合または炭素数1〜10のアルキレンを示す。]
【0020】
[13] 式(V)において、Y3が炭素数2〜6のアルキレンを示し、R6が水素または炭素数1〜3のアルキルを示し、
式(VII)において、X1は−CH2CH2CH2−を示し、Yは−OCH2CH2−を示し、pは0または1を示し、R7が水素または炭素数1〜3のアルキルを示し、式(VII)においてY4が単結合または炭素数1あるいは2のアルキレンを示す、[12]に記載の重合体。
[14] 付加重合性単量体(b)は、架橋性官能基を有する付加重合成単量体及び架橋性官能基を有さない単量体から選ばれる少なくとも1種以上である、[1]〜[13]のいずれかに記載の重合体。
[15] 付加重合性単量体(b)が架橋性官能基を有する付加重合性単量体である[1]〜[13]のいずれかに記載の重合体。
[16] 架橋性官能基を有する付加重合性単量体がラジカル重合性官能基を有し、且つ同一分子内において1つ以上のヒドロキシル、グリシジル、オキセタニル、エポキシシクロヘキセニル、ハロゲン化アルキル、ブロックドイソシアナト、イソシアナト、アミノまたはカルボキシルを有する化合物である、[15]に記載の重合体。
[17] 架橋性官能基を有する付加重合性単量体におけるラジカル重合性官能基が(メタ)アクリルまたはスチリルである、[16]に記載の重合体。
[18] [1]〜[17]のいずれかに記載の重合体と、熱可塑性樹脂および/または熱硬化性樹脂とを含む重合体組成物。
[19] [1]〜[17]のいずれかに記載の重合体と、熱硬化性樹脂とを含む重合体組成物。
[20] 熱硬化性樹脂がヒドロキシル、グリシジル、オキセタニル、エポキシシクロヘキセニル、ハロゲン化アルキル、ブロックドイソシアナト、イソシアナト、アミノまたはカルボキシルを有する化合物である、[19]に記載の重合体組成物。
[21] 熱硬化性樹脂がグリシジル、オキセタニル、またはエポキシシクロヘキセニルを有する化合物である[20]に記載の重合体組成物。
[22] [1]〜[21]のいずれかに記載の重合体あるいは重合体組成物を含有する
表面処理剤。
[23] [22]に記載の表面処理剤により得られるコーティング膜。
[24] [22]に記載の表面処理剤により得られる剥離用コーティング膜。
[25] [22]に記載の表面処理剤により得られる撥水・撥油用コーティング膜。
[26] [22]に記載の表面処理剤により得られる汚れ防止コーティング膜。
[27] [22]に記載の表面処理剤により得られる摺動コーティング膜。
[28] [22]に記載の表面処理剤により得られる反射防止コーティング膜。
[29] [22]に記載の表面処理剤により得られる絶縁コーティング膜。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、フルオロシルセスキオキサンを含む新たな重合体を提供する。また、シルセスキオキサン化合物の新たな用途、例えばコーティング材料としての用途、およびマトリックス樹脂の改質剤としての用途を提供する。さらに、シルセスキオキサン化合物とオルガノポリシロキサンから成る共重合体の表面処理剤としての用途、及び該表面処理剤から得られる被膜としての用途を提供する。前記表面処理剤は、環境を害するフロン系溶媒を使用せず、プラスチックフィルム、ガラスおよび金属を始めとする被着体(以下基材と称することがある)へ良好な塗布性を有するコーティング材料として有用である。この表面処理剤を被着体へ塗布して得られる被膜は、優れた撥水撥油性、汚防性、非粘着性、離型性、滑り性、耐磨耗性、耐蝕性、電気絶縁性、反射防止特性、難燃性、帯電防止特性、耐薬品性、耐候性を発現する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施例5で得られた重合体A5の1H−NMRスペクトルチャートである。
【図2】実施例8で得られた重合体A8の1H−NMRスペクトルチ ャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の重合体は、1つの付加重合性官能基を有するフルオロシルセスキオキサン(a)の付加重合体、または他の付加重合性単量体(b)との付加共重合体である。さらに本発明は、1つの付加重合性官能基を有するフルオロシルセスキオキサン(a)と、付加重合性官能基を有するオルガノポリシロキサン(c)との付加共重合体、または、1つの付加重合性官能基を有するフルオロシルセスキオキサン(a)と、付加重合性官能基を有するオルガノポリシロキサン(c)と、付加重合性単量体(b)との付加共重合体に関するものである。
【0024】
<フルオロシルセスキオキサン(a)>
本発明の重合体の原料単量体である、1つの付加重合性官能基を有するフルオロシルセスキオキサン(a)(以下、「シルセスキオキサン(a)」とも称する)は、その分子構造にシルセスキオキサン骨格を有する。シルセスキオキサンとは、[(R-SiO1.5n]で示される(Rは任意の置換基である)ポリシロキサンの総称である。このシルセスキオキサンの構造は、そのSi-O-Si骨格に応じて、一般的にランダム構造、ラダー構造、カゴ構造に分類される。さらに、カゴ構造はT8、T10、T12型などに分類される。その中で、本発明に使用されるフルオロシルセスキオキサン(a)は、好ましくはT8型[(R-SiO1.58]のカゴ構造を有する。
【0025】
上記のフルオロシルセスキオキサン(a)は、1つの付加重合性官能基を有することを特徴とする。すなわち、シルセスキオキサン[(R−SiO1.5n]のRのうちの1つが付加重合性官能基である。
【0026】
上記の付加重合性官能基の例としては、末端オレフィン型または内部オレフィン型のラジカル重合性官能基を有する基;ビニルエーテル、プロペニルエーテルなどのカチオン重
合性官能基を有する基;およびビニルカルボキシル、シアノアクリロイルなどのアニオン重合性官能基を有する基が含まれるが、好ましくはラジカル重合性官能基が挙げられる。
【0027】
上記のラジカル重合性官能基には、ラジカル重合する基であれば特に制限はなく、例えばメタクリロイル、アクリロイル、アリル、スチリル、α-メチルスチリル、ビニル、ビニルエーテル、ビニルエステル、アクリルアミド、メタクリルアミド、N-ビニルアミド、マレイン酸エステル、フマル酸エステル、N-置換マレイミドなどが含まれ、中でも(メタ)アクリルまたはスチリルを含む基が好ましい。ここに(メタ)アクリルとは、アクリルおよびメタクリルの総称であり、アクリル及び/又はメタクリルを意味する。以下、同様とする。
【0028】
上記の(メタ)アクリルを有するラジカル重合性官能基の例には、以下の式(II)に示される基が含まれる。式(II)においてY1は、炭素数2〜10のアルキレン、好ましくは炭素数2〜6のアルキレン、さらに好ましくは炭素数3のアルキレン(プロピレン)を示す。またXは、水素または炭素数1〜3のアルキルを、好ましくは水素またはメチルを示す。
【0029】
また、上記のスチリルを有するラジカル重合性官能基の例には、以下の式(III)に示される基が含まれる。式(III)においてY2は、単結合または炭素数1〜10のアルキレン、好ましくは単結合または炭素数1〜6のアルキレン、より好ましくは単結合または炭素数2のアルキレン(エチレン)を示す。またビニルは、ベンゼン環のいずれかの炭素に結合しており、好ましくはY2に対してパラ位の炭素に結合している。
【0030】
【化4】

【0031】
前記のフルオロシルセスキオキサン(a)は、少なくとも1つのフルオロアルキル、フルオロアリールアルキル、又はフルオロアリールを有することを特徴とする。すなわち、シルセスキオキサン(R−SiO1.5nのRの1つ以上、好ましくは前記の付加重合性官能基以外のRがすべてフルオロアルキル、フルオロアリールアルキル及び/又はフルオロアリールである。
【0032】
上記のフルオロアルキルは、直鎖状または分岐鎖状のいずれでもよい。このフルオロアルキルの炭素数は1〜20であり、好ましくは3〜14である。さらに、このフルオロアルキルの任意のメチレンが酸素で置き換えられていてもよい。ここでメチレンとは、-CH2-、-CFH-または-CF2-を含む。つまり、「任意のメチレンが酸素で置き換えられてもよい」とは、-CH2-、-CFH-または-CF2-が-O-で置き換えられてもよいことを意味する。ただし、フルオロアルキルにおいて、2つの酸素が結合(-O-O-)していることはない。すなわちフルオロアルキルはエーテル結合を有していてもよい。また、好ましいフルオロアルキルにおいては、Siに隣接するメチレンは酸素で置き換えられることはなく、Siとは反対側の末端はCF3である。さらに、−CH2−または−CFH−が酸素で置き換えられるよりは、−CF2−が酸素で置き換えられる方が好ましい。かかるフルオロアルキルの好ましい具体例には、3,3,3-トリフルオロプロピル、3,3,4,4,
4-ペンタフルオロブチル、3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロヘキシル、トリデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロオクチル、ヘプタデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロドデシル、ヘンイコサフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロドデシル、ペンタコサフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロテトラデシル、(3-ヘプタフルオロイソプロポキシ)プロピルなどが含まれる。中でも、パーフルオロアルキルエチルが好ましく例示される。
【0033】
前記のフルオロアリールアルキルは、フッ素を含有するアリールを含むアルキルであって、その炭素数が7〜20であるのが好ましく、さらに7〜10がより好ましい。含まれるフッ素はアリール中の任意の1または2以上の水素が、フッ素またはトリフルオロメチルとして置き換えられたものが好ましい。アリール部分の例にはフェニル、ナフチルなどのほか、ヘテロアリールも含まれ、アルキル部分の例には、メチル、エチルおよびプロピルなどが含まれる。
【0034】
また、前記のフルオロアリールは、アリール中の任意の1または2以上の水素が、フッ素またはトリフルオロメチルで置き換えられているものであり、その炭素数は6〜20であることが好ましく、より好ましくは6である。かかるアリールの例にはフェニル、ナフチルなどのほか、ヘテロアリールも含まれる。具体的にはペンタフルオロフェニルなどのフルオロフェニルや、トリフルオロメチルフェニルが挙げられる。
【0035】
フルオロシルセスキオキサン(a)に含まれる前記のフルオロアルキル、フルオロアリールアルキル、またはフルオロアリールのうち、好ましい基はフルオロアルキルであり、より好ましくはパーフルオロアルキルエチルであり、さらに好ましくは3,3,3-トリフルオロプロピルまたは3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロヘキシルである。
【0036】
前述の通り、好ましいフルオロシルセスキオキサン(a)は、T8型の構造を有し、1つの付加重合性官能基を有し、かつ1つまたは2つ以上のフルオロアルキル、フルオロアリールアルキル及び/又はフルオロアリールを有し、以下の構造式(I)で表わされる。
【0037】
【化5】

【0038】
上記の式(I)において、A1は前述のラジカル重合性官能基であることが好ましく、Rf1〜Rf7はそれぞれ独立して、前述のフルオロアルキル、フルオロアリールアルキル、またはフルオロアリールであることが好ましい。Rf1〜Rf7は、それぞれ相違する基であっても、すべて同一の基であってもよい。
【0039】
<付加重合性単量体(b)>
付加重合性単量体には、架橋性官能基を有するものと架橋性官能基を有さないものがあ
る。前記の架橋性官能基を有する付加重合性単量体(b)は、1つまたは2つ以上の付加重合性二重結合を有する化合物であればよく、例えば、ビニル化合物、ビニリデン化合物、ビニレン化合物のいずれでもよく、さらに具体的には、(メタ)アクリル酸化合物またはスチレン化合物などが例示される。
【0040】
上記の(メタ)アクリル酸化合物の例には、(メタ)アクリル酸および(メタ)アクリル酸エステルの他、(メタ)アクリル酸アミド、(メタ)アクリロニトリルなどが含まれる。
【0041】
前記の付加重合性単量体(b)の(メタ)アクリル酸化合物の例として架橋性官能基を有する(メタ)アクリレートがある。かかる架橋性官能基の例には、グリシジルおよびエポキシシクロヘキシルなどのエポキシ、オキセタニル、イソシアナト、酸無水物、カルボキシル、ならびにヒドロキシルなどが含まれるが、好ましくはグリシジルなどのエポキシやオキセタニルである。上記の架橋性官能基を有する(メタ)アクリレートの具体例には、(メタ)アクリル酸、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;グリシジル(メタ)アクリレートなどのエポキシ含有(メタ)アクリレート;3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレートなどの脂環式エポキシ含有(メタ)アクリレート;3-エチル-3-(メタ)アクリロイルオキシメチルオキセタンなどのオキセタニル含有(メタ)アクリレート;2-(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート;γ-(メタクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシラン;(メタ)アクリレート-2-アミノエチル、2-(2-ブロモプロピオニルオキシ)エチル(メタ)アクリレート、2-(2-ブロモイソブチリルオキシ)エチル(メタ)アクリレート;1-(メタ)アクリロキシ-2-フェニル-2-(2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジニルオキシ)エタン、1-(4-((4-(メタ)アクリロキシ)エトキシエチル)フェニルエトキシ)ピペリジン、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル(メタ)アクリレート、2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル(メタ)アクリレート;などが含まれる。
【0042】
上記の1つの付加重合性二重結合を有するスチレン化合物の例には、架橋性官能基を有するスチレン化合物がある。かかる架橋性官能基の具体例には、グリシジルなどのエポキシ、オキセタニル、ハロ、アミノ、イソシアナト、酸無水物、カルボキシル、ヒドロキシル、チオール、シロキシなどが含まれる。
架橋性官能基を有するスチレン化合物の例には、o-アミノスチレン、p-スチレンクロロスルホン酸、スチレンスルホン酸およびその塩、ビニルフェニルメチルジチオカルバメート、2-(2-ブロモプロピオニルオキシ)スチレン、2-(2-ブロモイソブチリルオキシ)スチレン、1-(2-((4-ビニルフェニル)メトキシ)-1-フェニルエトキシ)-2,2,6,6-テトラメチルピペリジンや、下記式に示される化合物が含まれる。
【0043】
【化6】

【0044】
前記の付加重合性単量体(b)に加え、離型性能、エポキシ樹脂との相溶性、レベリング性、共重合体中の架橋性官能基量などをコントロールするため、必要に応じて前記付加重合性単量体以外の付加重合性単量体(b)も併用することができる。
【0045】
架橋性官能基を有さない付加重合性単量体(b)としては、1つの付加重合性二重結合を有し、架橋性官能基を有さない(メタ)アクリル酸化合物及び1つの付加重合性二重結合を有し、架橋性官能基を有さないスチレン化合物が挙げられる。かかる(メタ)アクリル酸化合物の具体例には、;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−ペンチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、n−ヘプチル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート;フェニル(メタ)アクリレート、トル
イル(メタ)アクリレートなどのアリール(メタ)アクリレート;ベンジル(メタ)アクリレートなどのアリールアルキル(メタ)アクリレート;2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、3-メトキシプロピル(メタ)アクリレート、3-メトキシブチル(メタ)アクリレートなどのアルコキシアルキル(メタ)アクリレート;(メタ)アクリル酸のエチレンオキサイド付加物;などが含まれる。
【0046】
上記の1つの付加重合性二重結合を有し、架橋性官能基を有さない(メタ)アクリル酸化合物の具体例には、さらに、トリフルオロメチルメチル(メタ)アクリレート、2-トリフルオロメチルエチル(メタ)アクリレート、2-パーフルオロエチルエチル(メタ)アクリレート、2-パーフルオロエチル-2-パーフルオロブチルエチル(メタ)アクリレート、パーフルオロエチル(メタ)アクリレート、トリフルオロメチル(メタ)アクリレート、ジパーフルオロメチルメチル(メタ)アクリレート、2-パーフルオロメチル-2-パーフルオロエチルエチル(メタ)アクリレート、2-パーフルオロヘキシルエチル(メタ)アクリレート、2-パーフルオロデシルエチル(メタ)アクリレート、および2-パーフルオロヘキサデシルエチル(メタ)アクリレートなどのフルオロアルキル(メタ)アクリレートなどが含まれる。
【0047】
さらに、1つの付加重合性二重結合を有し、架橋性官能基を有さない(メタ)アクリル酸化合物の例には、シルセスキオキサン骨格を有する(メタ)アクリル酸化合物がある。かかるシルセスキオキサン骨格を有する(メタ)アクリル酸化合物の具体例には、3-(3,5,7,9,11,13,15-ヘプタエチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イル)プロピル(メタ)アクリレート、3-(3,5,7,9,11,13,15-ヘプタイソブチル-ペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イル)プロピル(メタ)アクリレート、3-(3,5,7,9,11,13,15-ヘプタイソオクチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イル)プロピル(メタ)アクリレート、3-(3,5,7,9,11,13,15-ヘプタシクロペンチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イル)プロピル(メタ)アクリレート、3-(3,5,7,9,11,13,15-ヘプタフェニルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イル)プロピル(メタ)アクリレート、3-[(3,5,7,9,11,13,15-ヘプタエチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イルオキシ)ジメチルシリル]プロピル(メタ)アクリレート、3-[(3,5,7,9,11,13,15-ヘプタイソブチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イルオキシ)ジメチルシリル]プロピル(メタ)アクリレート、3-[(3,5,7,9,11,13,15-ヘプタイソオクチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イルオキシ)ジメチルシリル]プロピル(メタ)アクリレート、3-[(3,5,7,9,11,13,15-ヘプタシクロペンチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イルオキシ)ジメチルシリル]プロピル(メタ)アクリレート、3-[(3,5,7,9,11,13,15-ヘプタフェニルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イルオキシ)ジメチルシリル]プロピル(メタ)アクリレートなどが含まれる。
上記の1つの付加重合性二重結合を有し、架橋性官能基を有さないスチレン化合物の具体例には、スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン、p-クロルスチレン;などが含まれる。
【0048】
上記の1つの付加重合性二重結合を有し、架橋性官能基を有さないスチレン化合物の例としては、さらに、シルセスキオキサンを含むスチレン化合物が含まれる。かかるシルセスキオキサンを含むスチレン誘導例には、1-(4-ビニルフェニル)-3,5,7,9,11,13,15-ヘプタエチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン、1-(4-ビニルフェニル)-3,5,7,9,11,13,15-ヘプタイソブチルペ
ンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン、1-(4-ビニルフェニル)-3,5,7,9,11,13,15-ヘプタイソオクチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン、1-(4-ビニルフェニル)-3,5,7,9,11,13,15-ヘプタシクロペンチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン、および1-(4-ビニルフェニル)-3,5,7,9,11,13,15-ヘプタフェニルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサンなどの、4-ビニルフェニル基を有するオクタシロキサン(T8型シルセスキオキサン);および、3-(3,5,7,9,11,13,15-ヘプタエチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イル)エチルスチレン、3-(3,5,7,9,11,13,15-ヘプタイソブチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イル)エチルスチレン、3-(3,5,7,9,11,13,15-ヘプタイソオクチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イル)エチルスチレン、3-(3,5,7,9,11,13,15-ヘプタシクロペンチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタオクタシロキサン-1-イル)エチルスチレン、3-(3,5,7,9,11,13,15-ヘプタフェニルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イル)エチルスチレン、3-((3,5,7,9,11,13,15-ヘプタエチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イルオキシ)ジメチルシリル)エチルスチレン、3-((3,5,7,9,11,13,15-ヘプタイソブチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イルオキシ)ジメチルシリル)エチルスチレン、3-((3,5,7,9,11,13,15-ヘプタイソオクチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イルオキシ)ジメチルシリル)エチルスチレン、3-((3,5,7,9,11,13,15-ヘプタシクロペンチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イルオキシ)ジメチルシリル)エチルスチレン、および3-((3,5,7,9,11,13,15-ヘプタフェニルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イルオキシ)ジメチルシリル)エチルスチレンなどの、4-ビニルフェニルエチル基を有するオクタシロキサン(T8型シルセスキオキサン);などが含まれる。
【0049】
さらに、前記付加重合性単量体以外の付加重合性単量体(b)として、スチレン、(メタ)アクリル酸エステル、シロキサン、及びアルキレンオキサイド、例えばエチレンオキサイド、プロピレンオキサイドなどから誘導された主鎖を有し、一つの重合性二重結合を有するマクロ単量体も例示される。
【0050】
付加重合性単量体(b)の例には、二つの付加重合性二重結合を有する化合物も含まれる。
二つの付加重合性二重結合を有する化合物の例には、1,3-ブタンジオール=ジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオール=ジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオール=ジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール=ジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコール=ジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコール=ジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコール=ジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコール=ジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸エステルネオペンチルグリコール=ジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパン=ジ(メタ)アクリレート、ビス〔(メタ)アクリロイルオキシエトキシ〕ビスフェノールA、ビス〔(メタ)アクリロイルオキシエトキシ〕テトラブロモビスフェノールA、ビス〔(メタ)アクロキシポリエトキシ〕ビスフェノールA、1,3-ビス(ヒドロキシエチル)5,5-ジメチルヒダントイン、3-メチルペンタンジオール=ジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸エステルネオペンチルグリコール化合物のジ(メタ)アクリレートおよびビス〔(メタ)アクリロイルオキシプロピル〕テトラメチルジシロキサン等のジ(メタ)アクリレート系単量体、ジビニルベンゼンが含まれる。
さらに、スチレン、(メタ)アクリル酸エステル、シロキサン、及びアルキレンオキサイド、例えばエチレンオキサイド、プロピレンオキサイドなどから誘導された主鎖を有し、二つの重合性二重結合を有するマクロ単量体も例示される。
【0051】
付加重合性単量体(b)の例には、付加重合性二重結合を三つ以上有する化合物も含まれる。付加重合性二重結合を三つ以上有する化合物の例には、トリメチロールプロパン=トリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトール=トリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトール=テトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトール=モノヒドロキシペンタ(メタ)アクリレート、トリス(2-ヒドロキシエチルイソシアネート)=トリ(メタ)アクリレート、トリス(ジエチレングリコール)トリメレート=トリ(メタ)アクリレート、3,7,14-トリス[(((メタ)アクリロイルオキシプロピル)ジメチルシロキシ)]-1,3,5,7,9,11,14-ヘプタエチルトリシクロ[7.3.3.15,11]ヘプタシロキサン、3,7,14-トリス[(((メタ)アクリロイルオキシプロピル)ジメチルシロキシ)]-1,3,5,7,9,11,14-ヘプタイソブチルトリシクロ[7.3.3.15,11]ヘプタシロキサン、3,7,14-トリス[(((メタ)アクリロイルオキシプロピル)ジメチルシロキシ)]-1,3,5,7,9,11,14-ヘプタイソオクチルトリシクロ[7.3.3.15,11]ヘプタシロキサン、3,7,14-トリス[(((メタ)アクリロイルオキシプロピル)ジメチルシロキシ)]-1,3,5,7,9,11,14-ヘプタシクロペンチルトリシクロ[7.3.3.15,11]ヘプタシロキサン、3,7,14-トリス[(((メタ)アクリロイルオキシプロピル)ジメチルシロキシ)]-1,3,5,7,9,11,14-ヘプタフェニルトリシクロ[7.3.3.15,11]ヘプタシロキサン、オクタキス(3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルジメチルシロキシ)オクタシルセスキオキサンおよびオクタキス(3-(メタ)アクリロイルオキシプロピル)オクタシルセスキオキサンが含まれる。
さらに、スチレン、(メタ)アクリル酸エステル、シロキサン、及びアルキレンオキサイド、例えばエチレンオキサイド、プロピレンオキサイドなどから誘導された主鎖を有し、重合性二重結合を三つ以上有するマクロ単量体も例示される。
【0052】
付加重合性単量体(b)は、好ましくは(メタ)アクリル酸化合物であり、より好ましくは(メタ)アクリル酸エステルであり、さらに好ましくは(メタ)アクリル酸の、低級アルキル(例えば炭素数1〜3)エステルや、架橋性官能基を有するエステルなどである。
【0053】
付加重合性単量体(b)の少なくとも一部を、架橋性官能基を有する付加重合性単量体とすることで、架橋性官能基を導入された本発明の重合体を得ることができる。架橋性官能基を導入された本発明の重合体は、後述するように、マトリックス樹脂の表面改質剤として用いることができる。
【0054】
<オルガノポリシロキサン(c)>
ポリジメチルシロキサンに代表されるオルガノポリシロキサン(以下シリコーンあるいはポリシロキサンと称することがある)は、撥水性、離型性、滑り性、低摩擦性、耐熱性、酸素透過性などの特異的な性質を有することから、電子材料分野をはじめとし、化粧品や医療分野など、その用途も多岐に渡っている。
たとえば重合性の官能基を有するオルガノポリシロキサンを、他の有機重合体の共重合成分もしくは重縮合成分として用いることにより、オルガノポリシロキサンの特性である耐候性、表面撥水性、潤滑性、生体適合性、ガス透過性などを容易に付与することができる。有機重合体の改質のために、種々の有機官能基を有するオルガノポリシロキサンが知られている。たとえば、カルボキシル基を有するオルガノポリシロキサン、すなわち片末端カルボン酸変性オルガノポリシロキサンは、繊維処理剤、乳化剤、無機材料の表面改質剤や、エポキシ樹脂、ポリエステル、アルキド樹脂、ウレタン樹脂などの各種樹脂の改質
剤として有用である。また、このカルボキシル基の反応性を利用して種々の新たな官能基を導入することにより、種々の官能基を有するオルガノポリシロキサンを合成することができる。たとえば、このカルボキシル基を、アミドあるいはエステルなどとすることができる。このように片末端カルボン酸変性オルガノポリシロキサンは各種の変性シリコーンの調製に利用される。特開平10−001537には、両末端カルボン酸変性ポリシロキサンのポリエステルの改質が開示され、特公平07−068424には、カルボン酸変性シリコーンを用いて得られるアクリルゴム組成物の耐寒性を向上ととともに、アクリルゴム組成物から得られるゴムの離型性、ロール加工性を改善が示されている。また、特開平09−059125においては、カルボキシル基変性オルガノポリシロキサンで粉体を処理して得られる撥水性化粧用料用粉体が開示されている。特開平08−109263では、両末端・側鎖カルボン酸変性ポリシロキサンを多価金属塩変性ポリシロキサンとし、これをゲル化剤あるいは化粧料としての応用が示されている。さらに、特開平05−139997では、片末端カルボン酸変性シリコーンを用いた薬物の皮膚を通して透過、吸収を促進する経皮吸収促進剤が開示されている。
本発明の重合体の原料単量体である、付加重合性官能基を有するオルガノポリシロキサンは、好ましくは下記式(IV)に示される分子構造を有する。
【0055】
【化7】

【0056】
本発明に用いられるオルガノポリシロキサン(c)は、上記式(IV)において、nは1〜1,000の整数であり;R1、R2、R3、R4、およびR5は、それぞれ、水素、炭素数が1〜30であり、任意の水素がフッ素で置き換えられてもよく、そして任意の−CH2−が−O−またはシクロアルキレンで置き換えられてもよいアルキル、置換もしくは非置換のアリール、および置換もしくは非置換のアリールと、任意の水素がフッ素で置き換えられてもよく任意の−CH2−が−O−またはシクロアルキレンで置き換えられてもよいアルキレンとで構成されるアリールアルキル、から独立して選択される基であり;A2は付加重合性官能基であることが好ましい。
【0057】
さらに、本発明に用いられるオルガノポリシロキサン(c)は、上記式(IV)におけるR1およびR2が、それぞれ独立して水素、フェニルまたは炭素数が1〜8で任意の水素がフッ素で置き換えられてもよいアルキルであり;
3およびR4が、独立して炭素数が1〜20であり任意の水素がフッ素で置き換えられてもよいアルキル、炭素数が6〜20であり任意の水素がフッ素で置き換えられてもよいアリール、または炭素数が7〜20であり任意の水素がフッ素で置き換えられてもよいアリールアルキルであり;
5が、炭素数が1〜20であり任意の水素がフッ素で置き換えられてもよいアルキル、炭素数が6〜20であり任意の水素がフッ素で置き換えられてもよいアリール、または炭素数が7〜20であり任意の水素がフッ素で置き換えられてもよいアリールアルキルであることが好ましい。
【0058】
さらに、本発明に用いられるオルガノポリシロキサン(c)は、上記式(IV)におけるR1およびR2は、それぞれ独立してメチル、フェニルまたは3,3,3−トリフルオロ
プロピルであり;
3およびR4は、それぞれ独立してメチルまたはフェニルであり;
5はメチル、エチル、プロピル、ブチル、イソブチル、またはフェニルであることが好ましい。
【0059】
さらに、本発明に用いられるオルガノポリシロキサン(c)は、上記式(IV)において、R1、R2、R3およびR4は、それぞれ同時にメチルであることが好ましい。また、上記式(IV)においてA2が付加重合性官能基であることが好ましく、A2がラジカル重合性官能基であることが好ましく、A2が(メタ)アクリルまたはスチリルを含むことが好ましく、A2が、下記式(V)、(VI)または(VII)で示されるいずれかであることが好ましい。
【0060】
【化8】

【0061】
[式(V)において、Y3が炭素数2〜10のアルキレンを示し、R6が水素、または炭素数1〜5の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル、または炭素数6〜10のアリールであり、式(VI)において、R7は水素、または炭素数1〜5の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル、または炭素数6〜10のアリールであり、X1は炭素数が2〜20のアルキレンであり、Yは−OCH2CH2−、−OCH(CH3)CH2−,または−OCH2CH(CH3)−であり、pは0〜3の整数であり、式(VII)において、Y4が単結合または炭素数1〜10のアルキレンを示す。]
【0062】
本発明では、上記式(V)において、Y3が炭素数2〜6のアルキレンを示し、R6が水素または炭素数1〜3のアルキルを示し、式(VI)において、X1は−CH2CH2CH2−を示し、Yは−OCH2CH2−を示し、pは0または1を示し、R7が水素または炭素数1〜3のアルキルを示し、式(V)においてY4が単結合または炭素数1あるいは2のアルキレンを示すことが好ましい。
【0063】
本発明で好ましく用いられるオルガノポリシロキサンの例には、サイラプレーン FM0711(チッソ株式会社製)、サイラプレーン FM0721(チッソ株式会社製)、サイラプレーン FM0725 (チッソ株式会社製)、サイラプレーン TM0701(チッソ株式会社製)、サイラプレーン TM0701T(チッソ株式会社製)などが含まれる。
【0064】
<付加重合体>
本発明の重合体は、シルセスキオキサン(a)の付加重合体または、他の付加重合性単量体(b)との付加共重合体であり、共重合体である場合は、ブロック共重合などの定序
性共重合体であっても、ランダム共重合体であってもよいが、好ましくはランダム共重合体である。シルセスキオキサン(a)とオルガノポリシロキサン(c)の付加共重合体、または他の付加重合性単量体(b)との付加共重合体についても、ブロック共重合などの定序性共重合体であっても、ランダム共重合体であってもよいが、好ましくはランダム共重合体である。また、本発明の重合体は架橋構造を有していたり、グラフト共重合体であってもよい。
【0065】
本発明の重合体は、少なくともシルセスキオキサン(a)由来の構造単位(以下、構造単位(a))を含み、かつ単量体(b)由来の構造単位(以下、構造単位(b))を含むことが好ましい。
本発明の重合体における、構造単位(a)と構造単位(b)のモル比率は任意であり、(a):(b)=100:0〜0.001:99.999であればよい。後述するように、本発明の重合体を表面改質剤として用いる場合には、(a):(b)=50:50〜0.001:99.999であることが好ましい。十分な表面改質能を発揮するためには、構造単位(a)をある程度含むことが必要であるが、溶媒への溶解性を得るためには構造単位(a)の含有率を上記範囲とすることが好ましい。
また、本発明の重合体は、少なくともシルセスキオキサン(a)由来の構造単位とオルガノポリシロキサン(c)由来の構造単位(以下、構造単位(c))を含み、かつ単量体(b)由来の構造単位を含むことが好ましい。本発明の重合体における、構造単位の(a)と構造単位(c)及び構造単位(b)のモル比率は任意であり、(a):(b)=0.001:99.999〜99.999:0.001、(b):(c)=0.001:99.999〜99.999:0.001、(a):(c)=0.1:99.9〜99.9:0.1であれば良い。後述するように、本発明の共重合体を表面処理剤として用いる場合には、(a):(b)=30:70〜60:40、(b):(c)=85:15〜99:1、(a):(c)=80:20〜95:5であることが好ましい。
【0066】
また、本発明の重合体に含まれるフッ素原子含有率は0.001〜60重量%であることが好ましい。
【0067】
本発明の重合体の重量平均分子量は、構造単位(a)の含有率などによって異なるが、目安として1300〜100万である。構造単位(a)の含有率が高いと、分子量は小さくなる傾向がみられる。一方、本発明の重合体の分子量分布(Mw/Mn)は、目安として1.01〜2.5程度である。
【0068】
また本発明の重合体に含まれる構造単位(b)のうち、架橋性官能基を有する付加重合性単量体由来の構造単位の割合は特に制限されず、上記の共重合体を塗布剤として使用する際に配合するマトリックス樹脂であるエポキシ系樹脂との結合性を図る上で、マトリックス樹脂単量体との好ましい反応性が得られる程度の、架橋性官能基を含んでいればよい。
【0069】
本発明の重合体は、フルオロシルセスキオキサン(a)、および必要に応じて他の付加重合性単量体(b)を単量体原料として、それらを付加重合させることで得ることができる。
単量体原料に含まれるシルセスキオキサン(a)と、他の付加重合性単量体(b)のモル比率は、目的とする重合体に応じて適宜決定すればよい。また他の付加重合性単量体(b)に含まれる、架橋性官能基を有する付加重合性単量体の割合も、目的とする重合体に応じて適宜選択すればよい。
また、本発明の重合体は、フルオロシルセスキオキサン(a)と、オルガノポリシロキサン(c)と、必要に応じて他の付加重合性単量体(b)とを単量体原料として、それらを付加重合させることで得ることができる。単量体原料に含まれるシルセスキオキサン(
a)、オルガノポリシロキサン(c)と、他の付加重合性単量体(b)のモル比率は、目的とする重合体に応じて適宜決定すればよい。また他の付加重合性単量体(b)に含まれる、架橋性官能基を有する付加重合性単量体あるいは架橋性官能基を有さない付加重合性単量体の割合も、目的とする重合体に応じて適宜選択すればよい。架橋性官能基を有する付加重合性単量体(b)として複数種の単量体を用いる場合は、各々の単量体の比率は、目的とする共重合体の特性に応じて適宜決定すればよい。また上記の他の付加重合性単量体(b)に含まれる架橋性官能基を有する付加重合性単量体(b)の割合も、目的とする共重合体の特性に応じて適宜選択すればよい。そして簡便性と汎用性に鑑みると、ラジカル共重合が好ましい。
【0070】
付加重合は、重合開始剤を用いて行うことができる。
用いられる重合開始剤の例には、2,2'-アゾビスイソブチロニトリル、2,2'-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2'-アゾビス(2-ブチロニトリル)、ジメチル-2,2'-アゾビスイソブチレート、1,1'-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)などのアゾ化合物;ベンゾイルパーオキサイド、ラウリルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシアセテート、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシネオデカノエートなどの過酸化物;およびテトラエチルチウラムジスルフィドなどのジチオカルバメート;などのラジカル重合開始剤が含まれる。
【0071】
さらに重合反応の例には、リビングラジカル重合、および光重合などが含まれる。
リビングラジカル重合は、原子移動ラジカル重合;可逆的付加開裂連鎖移動;ヨウ素移動重合;イニファータ重合に代表され、以下の引用文献A〜Cに記載されている重合開始剤を用いて行うことができる。
・引用文献A: 蒲池幹治、遠藤剛監修、ラジカル重合ハンドブック、1999年8月10日発行、ネヌティーエス発行)。
・引用文献B: HANDBOOK OF RADICAL POLYMERIZATION, K. Matyjaszewski, T. P. Davis, Eds., John Wiley and Sons, Canada 2002
・引用文献C: 特開2005-105265
【0072】
光重合は、引用文献Dに記載の化合物を光重合開始剤として用いて行うことができる。・引用文献D: フォトポリマー懇話会編、感光材料リストブック、1996年3月31日、ぶんしん出版発行)。
用いられる光重合開始剤の具体例としては、紫外線や可視光線の照射によりラジカルを発生する化合物であれば特に限定しない。光重合開始剤(D)として用いられる化合物としては、ベンゾフェノン、ミヒラーズケトン、4,4′-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、キサントン、チオキサントン、イソプロピルキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2-エチルアントラキノン、アセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-4′-イソプロピルプロピオフェノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、イソプロピルベンゾインエーテル、イソブチルベンゾインエーテル、2,2-ジエトキシアセトフェノン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、カンファーキノン、ベンズアントロン、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタノン-1,4-ジメチルアミノ安息香酸エチル、4-ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、4,4′-ジ(t-ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,4,4′-トリ(t-ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、2-(4′-メトキシスチリル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(3′,4′-ジメトキシスチリル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(2′,4′-ジメトキシスチリ
ル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(2′-メトキシスチリル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(4′-ペンチルオキシスチリル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、4-[p-N,N-ジ(エトキシカルボニルメチル)]-2,6-ジ(トリクロロメチル)-s-トリアジン、1,3-ビス(トリクロロメチル)-5-(2′-クロロフェニル)-s-トリアジン、1,3-ビス(トリクロロメチル)-5-(4′-メトキシフェニル)-s-トリアジン、2-(p-ジメチルアミノスチリル)ベンズオキサゾール、2-(p-ジメチルアミノスチリル)ベンズチアゾール、2-メルカプトベンゾチアゾール、3,3′-カルボニルビス(7-ジエチルアミノクマリン)、2-(o-クロロフェニル)-4,4′,5,5′-テトラフェニル-1,2′-ビイミダゾール、2,2′-ビス(2-クロロフェニル)-4,4′,5,5′-テトラキス(4-エトキシカルボニルフェニル)-1,2′-ビイミダゾール、2,2′-ビス(2,4-ジクロロフェニル)-4,4′,5,5′-テトラフェニル-1,2′-ビイミダゾール、2,2′-ビス(2,4-ジブロモフェニル)-4,4′,5,5′-テトラフェニル-1,2′-ビイミダゾール、2,2′-ビス(2,4,6-トリクロロフェニル)-4,4′,5,5′-テトラフェニル-1,2′-ビイミダゾール、3-(2-メチル-2-ジメチルアミノプロピオニル)カルバゾール、3,6-ビス(2-メチル-2-モルホリノプロピオニル)-9-n-ドデシルカルバゾール、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ビス(η5-2,4-シクロペンタジエン-1-イル)-ビス(2,6-ジフルオロ-3-(1H-ピロール-1-イル)-フェニル)チタニウム、等である。これらの化合物は単独で使用してもよく、2つ以上を混合して使用することも有効である。3,3′,4,4′-テトラ(t-ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3′,4,4′-テトラ(t-ヘキシルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3′-ジ(メトキシカルボニル)-4,4′-ジ(t-ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,4′-ジ(メトキシカルボニル)-4,3′-ジ(t-ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、4,4′-ジ(メトキシカルボニル)-3,3′-ジ(t-ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノンなどが好ましい。
【0073】
上記の付加重合において用いられる重合開始剤の量は、単量体の総モル数に対して0.01〜10mol%とすればよい。
【0074】
また前記付加重合において、連鎖移動剤を用いてもよい。連鎖移動剤を用いることで、分子量を適切に制御することができる。連鎖移動剤の例には、チオ-β-ナフトール、チオフェノール、ブチルメルカプタン、エチルチオグリコレート、メルカプトエタノール、メルカプト酢酸、イソプロピルメルカプタン、t-ブチルメルカプタン、ドデカンチオール、チオリンゴ酸、ペンタエリスリトールテトラ(3-メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラ(3-メルカプトアセテート)などのメルカプタン類;ジフェニルジサルファイド、ジエチルジチオグリコレート、ジエチルジサルファイドなどのジサルファイド類;などのほか、トルエン、メチルイソブチレート、四塩化炭素、イソプロピルベンゼン、ジエチルケトン、クロロホルム、エチルベンゼン、塩化ブチル、s-ブチルアルコール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、塩化プロピレン、メチルクロロホルム、t-ブチルベンゼン、ブチルアルコール、イソブチルアルコール、酢酸、酢酸エチル、アセトン、ジオキサン、四塩化エタン、クロロベンゼン、メチルシクロヘキサン、t−ブチルアルコール、ベンゼンなどが含まれる。特にメルカプト酢酸は、重合体の分子量を下げて、分子量分布を均一にさせ得る。
連鎖移動剤は単独でも、または2種以上を混合しても使用することができる。
【0075】
本発明の重合体の具体的な製造方法は、通常の付加重合体の製造方法と同様にすればよく、例えば、溶液重合法、乳化重合法、懸濁重合法、塊状重合法、塊状−懸濁重合法、超臨界CO2を用いた重合法を用いることができる。
溶液重合法による場合には、適切な溶媒中に、フルオロシルセスキオキサン(a)、ならびに必要に応じて単量体(b)、さらに重合開始剤、および連鎖移動剤などを溶解して
、加熱または光を照射して付加重合反応させればよい。又は、適切な溶媒中に、フルオロシルセスキオキサン(a)、オルガノポリシロキサン(c)ならびに必要に応じて単量体(b)、さらに重合開始剤、および連鎖移動剤などを溶解して、加熱または光を照射して付加重合反応させればよい。
【0076】
上記の重合反応に用いられる溶媒の例には、炭化水素系溶媒(ベンゼン、トルエンなど)、エーテル系溶媒(ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジフェニルエーテル、アニソール、ジメトキシベンゼンなど)、ハロゲン化炭化水素系溶媒(塩化メチレン、クロロホルム、クロロベンゼンなど)、ケトン系溶媒(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなど)、アルコール系溶媒(メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブチルアルコール、t-ブチルアルコールなど)、ニトリル系溶媒(アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリルなど)、エステル系溶媒(酢酸エチル、酢酸ブチルなど)、カーボネート系溶媒(エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなど)、アミド系溶媒(N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド)、ハイドロクロロフルオロカーボン系溶媒(HCFC−141b、HCFC−225)、ハイドロフルオロカーボン(HFCs)系溶媒(炭素数2〜4、5および6以上のHFCs)、パーフルオロカーボン系溶媒(パーフルオロペンタン、パーフルオロヘキサン)、脂環式ハイドロフルオロカーボン系溶媒(フルオロシクロペンタン、フルオロシクロブタン)、酸素含有フッ素系溶媒(フルオロエーテル、フルオロポリエーテル、フルオロケトン、フルオロアルコール)、芳香族系フッ素溶媒(α,α,α-トリフルオロトルエン、ヘキサフルオロベンゼン)、水が含まれる。これらを単独で使用してもよく、二種以上を併用してもよい。
用いられる溶媒の量は、単量体濃度を10〜80重量%とする量であればよい。
反応温度は特に制限されず、目安として0〜200℃であればよく、室温〜150℃が好ましい。重合反応は、単量体の種類や、溶媒の種類に応じて、減圧、常圧または加圧下で行うことができる。
【0077】
重合反応は、窒素、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気下で行われることが好ましい。発生したラジカルが酸素と接触して失活し、重合速度が低下するのを抑制し、分子量が適切に制御された重合体を得るためである。さらに重合反応は、減圧下で溶存酸素を除去された重合系内で行われることが好ましい(減圧下で溶存酸素を除去した後、そのまま減圧下において重合反応を行ってもよい)。
【0078】
溶液中に得られた重合体は、常法により精製または単離されてもよく、その溶液のまま塗膜形成などに用いられてもよい。
【0079】
<重合体の用途>
本発明の重合体は任意の用途に用いられるが、必要に応じて他の樹脂を組み合わせて、各種の成形加工(プレス成形、押出成形、射出成形、圧縮成形、など)によって成形して、成形品として用いることができる。
【0080】
また本発明の重合体は、必要に応じて他の樹脂、または樹脂単量体を組み合わせて、各種の溶媒に溶解または分散させて、表面改質剤(いわゆるコーティング材料)として用いることもできる。表面改質剤として用いるとは、
1)本発明の重合体を単独で含む溶液または分散液を固体に塗布して、コーティング膜を形成すること、
2)本発明の重合体と、他のマトリックス樹脂とを含む溶液または分散液を固体に塗布して、マトリックス樹脂との複合樹脂からなるコーティング膜を形成すること、および
3)本発明の重合体と、マトリックス樹脂単量体とを含む溶液または分散液を固体に塗布して、マトリックス樹脂単量体を硬化させることで、複合樹脂からなるコーティング
膜を形成することを含む。
【0081】
例えば、本発明の重合体を含む溶液(塗布溶液)を基板に塗布して乾燥させ、必要に応じて硬化させることで、基板上にコーティング膜を形成させることができる。形成されるコーティング膜は、高い撥水・撥油性を有し、低い表面自由エネルギーを有する。
この高い撥水性および撥油性、ならびに低い表面自由エネルギーは、形成されるコーティング膜の表面に、フルオロシルセスキオキサン骨格上のフッ素原子が偏在するために発現されると考えられる。
【0082】
オルガノポリシロキサンを含む重合体を含む表面処理剤においても、基板に塗布して乾燥させ、必要に応じて硬化させることで、上記と同様に基板上へコーティング膜を形成させることができる。形成されるコーティング膜は、撥水撥油性、汚防性、非粘着性、離型性、滑り性、耐磨耗性、耐蝕性、電気絶縁性、反射防止特性、難燃性、帯電防止特性、耐薬品性、耐候性を発現する。
これらの特性は、フルオロシルセスキオキサンの優れた表面配向性によって、同一重合体の分子内に存在するオルガノポリシロキサンがコーティング膜の表面に効率良く偏在するために発現されると考えられる。
【0083】
前記の通り、本発明の重合体は、前記1)のように単独で表面改質剤として用いてもよいが、前記2)のように他のマトリックス樹脂と混合させて表面改質剤として用いてもよく、前記3)のようにマトリックス樹脂を形成する単量体(以下、マトリックス樹脂単量体ともいう)と混合させて表面改質剤として用いてもよい。
【0084】
前記2)のように、本発明の重合体を他のマトリックス樹脂と混合させて用いると、その樹脂本来の特性(力学物性、表面・界面特性、相溶性など)を改質することができる。
マトリックス樹脂の例には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂、ポリ(メタ)アクリレート樹脂、超高分子量ポリエチレン、ポリ-4-メチルペンテン、シンジオタクチックポリスチレン、ポリアミド(ナイロン6:デュポン社商品名、ナイロン6,6:デュポン社商品名、ナイロン6,10:デュポン社商品名、ナイロン6,T:デュポン社商品名、ナイロンMXD6:デュポン社商品名など)、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン2,6−ナフタレンジカルボキシラート、など)、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリフェニレンオキサイド、フッ素樹脂(ポリテトラフロロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、など)、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアリラート(Uポリマー:ユニチカ(株)商品名、ベクトラ:ポリプラスチックス(株)商品名、など)、ポリイミド(カプトン:東レ(株)商品名、AURUM:三井化学(株)商品名、など)、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、フェノール樹脂、アルキド樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂、ビスマレイミド樹脂およびシリコーン樹脂などが含まれる。
これらの樹脂を単独で用いてもよいし、複数の樹脂を組み合わせて用いてもよい。
【0085】
また前記3)のように、本発明の重合体を、マトリックス樹脂単量体と混合させて用いてもよい。特に、架橋性官能基を有する本発明の重合体と、マトリックス樹脂単量体とを混合させて用いると、硬化により得られる樹脂と本発明の重合体が架橋結合され、その結果、力学物性、表面・界面特性、相溶性に優れた複合樹脂を得ることができる。
具体的には、架橋性官能基を有する本発明の重合体と、マトリックス樹脂を形成する単量体と、さらに必要に応じて硬化反応開始剤(例えば酸発生剤)を含む溶液を基板に塗布し、塗膜を乾燥および硬化させることで、マトリックス樹脂との複合樹脂からなるコーティング膜(複合膜)を基板上に形成することができる。
形成される複合膜は、高い撥水・撥油性を有し、低い表面自由エネルギーを有する。これは複合膜の表面層に、本発明の重合体に含まれるフルオロシルセスキオキサンのフッ素原子が偏在するためであると考えられる。
【0086】
マトリックス樹脂単量体の好ましい例には、エポキシ樹脂を形成する単量体が含まれる。形成されるエポキシ樹脂は、脂肪族エポキシ樹脂および芳香族エポキシ樹脂のいずれでもよい。したがって、マトリックス樹脂単量体は、例えば以下に示されるエポキシ樹脂を形成する単量体であり得る。
【0087】
形成されるエポキシ樹脂の例には、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ハイドロキノン、レゾルシン、ジヒドロキシナフタレン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジシクロペンタン、4,4′-ジヒドロキシベンゾフェノン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)エーテル、ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)スルフィド、ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)スルホン、ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)スルホン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、4,4′-ジヒドロキシビフェニル-3,3′,5,5′-テトラメチエルビフェニル、ビス(ヒドロキシナフチル)メタン、および1,1′-ビナフトール、1,1′-ビス(3-t-ブチル-6-メチル-4-ヒドロキシフェニル)ブタンなどを原料とするエポキシ樹脂が含まれる。
【0088】
さらに、形成されるエポキシ樹脂の例には、フェノール、o-クレゾール、カテコール等のフェノール類、ホルムアルデヒド等のアルデヒド類との反応生成物のグリシジルエーテル化物であるフェノールノボラック系エポキシ樹脂;
フェノール、クレゾール、メチル-t-ブチルフェノール等のフェノール類とヒドロキシベンズアルデヒド等の芳香族アルデヒド類との縮合により得られたトリチル骨格含有ポリフェノール類のポリグリシジルエーテル;
トリチル骨格含有ポリフェノール類とホルムアルデヒド類との反応生成物であるトリメチル骨格含有ポリフェノール系ノボラック類のポリグリシジルエーテル;
フェノール、o-クレゾール、カテコール等のフェノール類とキシリレンジクロリドや(ヒドロキシメチル)ベンゼン等類との反応生成物であるポリアラキルフェノール樹脂類のポリグリシジルエーテル;
フェノール、o-クレゾール、カテコール等のフェノール類、又はヒドロキシナフタレン、ジヒドロキシナフタレン等のナフトール類と、ジシクロペンタジエンやリモネン等の不飽和脂環式炭化水素類との反応生成物のグリシジルエーテルである脂環式炭化水素含有ポリフェノール樹脂型エポキシ樹脂又はポリナフトール樹脂型エポキシ樹脂;
脂環式炭化水素含有ポリフェノール樹脂類又はポリナフトール樹脂類とホルムアルデヒド類との反応生成物である脂環式水素含有ポリフェノールノボラック樹脂類又はポリナフトールノボラック樹脂類のポリグリシジルエーテル;
フェノール類と芳香族カルボニル化合物との縮合反応により得られる多価フェノールのグリシジルエーテル化合物類;
フロログリシン、トリス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1,2,2-テトラキス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、1,3-ビス[(4-ヒドロキシフェニル)メチル]ベンゼン、1,4-ビス[(4-ヒドロキシフェニル)メチル]ベンゼン等を基本骨格とする三価以上のフェノール類のポリグリシジルエーテル;
カリックスアレーン等の環状フェノール類から誘導されるグリシジルエーテル化合物等;
p-アミノフェノール、m-アミノフェノール、4-アミノメタクレゾール、6-アミノメタクレゾール、4,4′-ジアミノジフェニルメタン、3,3′-ジアミノジフェニルメタン、4,4′-ジアミノジフェニルエーテル、3,4′-ジアミノジフェニルエーテル、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2-ビス(4-アミノフェノキシフェニル)プロパン、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、2,4-トルエンジアミン、2,6-トルエンジアミン、p-キシリレンジアミン、m-キシリレンジアミン、1,4-シクロヘキサンビス(メチルアミン)、1,3-シクロヘキサンビス(メチルアミン)、N,N-ジグリシジルアニリン等から誘導されるアミン系エポキシ樹脂;
p-オキシ安息香酸、m-オキシ安息香酸、テレフタル酸、イソフタル酸等の芳香族カルボン酸から誘導されるグリシジルエステル系化合物;
5,5-ジメチルヒダントイン等から誘導されるヒダントイン系エポキシ化合物;
2,2-ビス(3,4-エポキシシクロヘキシル)プロパン、2,2-ビス[4-(2,3-エポキシプロピル)シクロヘキシル]プロパン、ビニルシクロヘキセンジオキサイド、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート等の脂環式エポキシ樹脂;
ポリブタジエン等の不飽和炭化水素化合物中の二重結合を酸化して得られる脂肪族エポキシ樹脂等が含まれる。
【0089】
また、形成されるエポキシ樹脂は脂環族エポキシ樹脂であってもよい。その具体例には、少なくとも1個の脂環族環を有する多価アルコールのポリグリシジルエーテル、またはシクロヘキセンやシクロペンテン環含有化合物を酸化剤でエポキシ化することによって得られるシクロヘキサンオキサイドやシクロペンテンオキサイド含有化合物から得られるエポキシ樹脂である。
例えば、水素添加ビスフェノールAジグリシジルエーテル、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、3,4-エポキシ-1-メチルシクロヘキシル-3,4-エポキシ-1-メチルシクロヘキサンカルボキシレート、6-メチル-3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-6-メチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、3,4-エポキシ-3-メチルシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシ-3-メチルシクロヘキサンカルボキシレート、3,4-エポキシ-5-メチルシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシ-5-メチルシクロヘキサンカルボキシレート、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル-5,5-スピロ-3,4-エポキシ)シクロヘキサン−メタジオキサン、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、ビニルシクロヘキセンジオキサイド、4-ビニルエポキシシクロヘキサン、ビス(3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキシルメチル)アジペート、3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキシルカルボキシレート、メチレンビス(3,4-エポキシシクロヘキサン)、ジシクロペンタジエンジエポキサイド、エチレングリコールジ(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)エーテル、エチレンビス(3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート)、エポキシヘキサヒドロフタル酸ジオクチル、エポキシヘキサヒドロフタル酸ジ-2-エチルヘキシル、1,2:8,9ジエポキシリモネン (商品名:CEL3000、ダイセル化学株式会社)、エポキシ化3-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸ビス(3-シクロヘキセニルメチル)修飾ε-カプロラクトン (商品名:エポリードGT301、ダイセル化学株式会社)、エポキシ化ブタンテトラカルボン酸テトラキス-(3-シクロヘキセニルメチル)修飾ε-カプロラクトン (商品名:エポリードGT401、ダイセル化学株式会社)、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)-1-ブタノールの1,2-エポキシ-4-(2-オキシラニル)シクロセキサン付加物 (商品名: EHPE3150、ダイセル化学株式会社)、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)-1-ブタノールの1,2-エポキシ-4-(2-オキシラニル)シクロセキサン付加物と3,4ーエポキシシクロヘキセニルメチル-3',4'-エポキシシクロヘキセンカルボキシレートとの混合物 (商品名: EHPE3150CE、ダイセル化学
株式会社)、3,4-エポキシシクロヘキシルメチルアクリレート (商品名:サイクロマーA400、ダイセル化学株式会社)、3, 4-エポキシシクロヘキシルメチルメタアクリレート (商品名:サイクロマー M100、ダイセル化学株式会社)、エポキシ化ポリブタジエン (商品名:エポリードPB3600、ダイセル化学株式会社)、エポキシ化熱可塑性エラストマー (商品名:エポフレンド、ダイセル化学株式会社)などに代表されるエポキシ樹脂が挙げられる。
【0090】
さらに、上記エポキシ樹脂の例には、脂肪族多価アルコールまたはそのアルキレンオキサイド付加物のポリグリシジルエーテルから得られるエポキシ樹脂;脂肪族長鎖多塩基酸のポリグリシジルエステルから得られるエポキシ樹脂;グリシジルアクリレートまたはグリシジルメタクリレートのビニル重合により合成した単独重合体;グリシジルアクリレート、またはグリシジルメタクリレートとその他のビニル単量体とのビニル重合により合成した共重合体などが含まれる。
上記ポリグリシジルエーテルの具体例には、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセリンのトリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンのトリグリシジルエーテル、ソルビトールのテトラグリシジルエーテル、ジペンタエリスリトールのヘキサグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールのジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールのジグリシジルエーテルなどの多価アルコールのグリシジルエーテルなどが含まれる。
また上記ポリグリシジルエステルの具体例には、プロピレングリコール、トリメチロールプロパン、グリセリンなどの脂肪族多価アルコールに、1種または2種以上のアルキレンオキサイドを付加することによって得られるポリエーテルポリオールのポリグリシジルエーテル、脂肪族長鎖二塩基酸のジグリシジルエステルが含まれる。
【0091】
さらに上記エポキシ樹脂の例には、脂肪族高級アルコールのモノグリシジルエーテルやフェノール、クレゾール、ブチルフェノール、またはこれらにアルキレンオキサイドを付加することによって得られるポリエーテルアルコールのモノグリシジルエーテルから得られるエポキシ樹脂;高級脂肪酸のグリシジルエステルから得られるエポキシ樹脂;エポキシ化大豆油、エポキシステアリン酸オクチル、エポキシステアリン酸ブチル、エポキシ化アマニ油、エポキシ化ポリブタジエンなどから得られるエポキシ樹脂が含まれる。
【0092】
本発明の重合体と組み合わせられるマトリックス樹脂単量体は、前述したエポキシ樹脂を形成する単量体であればよいが、さらに、以下に示される化合物であってもよい。
トリメチレンオキサイド、3,3-ジメチルオキセタン、3,3-ジクロロメチルオキセタン等のオキセタン化合物;テトラヒドロフラン、2,3-ジメチルテトラヒドロフラン等のトリオキサン;1,3-ジオキソラン、1,3,6-トリオキサシクロオクタン等の環状エーテル化合物;β-プロピオラクトン、γ-ブチロラクトン、ε-カプロラクトン等の環状ラクトン化合物;エチレンスルフィド等のチイラン化合物;トリメチレンスルフィド、3,3-ジメチルチエタン等のチエタン化合物;テトラヒドロチオフェン化合物等の環状チオエーテル化合物;エポキシ化合物とラクトンとの反応によって得られるスピロオルトエステル化合物;スピロオルトカーボナート化合物;環状カーボナート化合物;エチレングリコールジビニルエーテル、アルキルビニルエーテル、3,4-ジヒドロピラン-2-メチル(3,4-ジヒドロピラン-2-カルボキシレート)、トリエチレングリコールジビニルエーテル等のビニルエーテル化合物;スチレン、ビニルシクロヘキセン、イソブチレン、ポリブタジエン等のエチレン性不飽和化合物、アミノ基、ヒドロキシル、グリシジル、オキセタニル、エポキシシクロヘキシルを有するポリジメチルシロキサン、ポリアルキレンオキサイド(ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリエチレンオキサイドとポリプロピレンオキサイドからなるブロック共重合体など)、フッ素化ポリアルキレンオキサイド(ポリフルオロエチレンオキサイド、ポリフルオロプロピレンオキサイドなど)を用いても良い。
【0093】
前述の通り、架橋性官能基を有する本発明の重合体は、マトリックス樹脂(例えばエポキシ樹脂)を形成する単量体とともに、硬化反応開始剤(例えば酸発生剤)を組み合わせて用いることができる。
硬化反応開始剤に制限はなく、活性エネルギー線照射や熱エネルギーによりカチオン重合を開始させる物質を放出することができる化合物であればよい。硬化反応開始剤の例には、カルボン酸、アミン、酸無水物化合物や酸発生剤などが含まれ、好ましくはルイス酸を放出するオニウム塩である複塩またはその化合物である。
【0094】
硬化反応開始剤の代表的なものとしては、下記一般式で示される陽イオンと陰イオンの塩を挙げることができる。
[A]m+[B]m-
【0095】
上記式において、陽イオン[A]m+はオニウムイオンであることが好ましく、例えば下記式で示される。
[(α)aQ]m+
αは炭素数が1〜60であり、炭素原子以外の原子をいくつ含んでもよい有機基である。aは1〜5の整数である。a個のαは各々独立で、同一でも異なっていてもよい。また、少なくとも1つのαは、芳香環を有する有機基であることが好ましい。
QはS、N、Se、Te、P、As、Sb、Bi、O、I、Br、Cl、F、N=Nからなる群から選ばれる原子あるいは原子団である。
また、陽イオン[A]m+中のQの原子価をqとしたとき、m=a−qである(但し、N=Nは原子価0として扱う)。
【0096】
一方、陰イオン[B]m-は、ハロゲン化物錯体であるのが好ましく、例えば下記式で示される。
[LXbm-
Lはハロゲン化物錯体の中心原子である金属または半金属(Metalloid)であり、B、P、As、Sb、Fe、Sn、Bi、Al、Ca、In、Ti、Zn、Sc、V、Cr、Mn、Coなどである。Xはハロゲン原子である。bは3〜7なる整数である。
また、陰イオン[B]m-中のLの原子価をpとしたとき、m=b−pである。
上記一般式で示される陰イオン[LXbm-の具体例には、テトラフルオロボレート(BF4)、ヘキサフルオロフォスフェート(PF6)、ヘキサフルオロアンチモネート(SbF6)、ヘキサフルオロアルセネート(AsF6)、ヘキサクロロアンチモネート(SbCl6)などが含まれる。
【0097】
また陰イオン[B]m-は、下記式で示されるものも好ましく用いることができる。L、X、bは上記と同様である。
[LXb-1(OH)]m-
【0098】
陰イオン[B]m-の例には、さらに過塩素酸イオン(ClO4-、トリフルオロメチル亜硫酸イオン(CF3SO3-、フルオロスルホン酸イオン(FSO3-、トルエンスルホン酸陰イオン、トリニトロベンゼンスルホン酸陰イオンなども含まれる。
【0099】
本発明における硬化反応開始剤は、このようなオニウム塩の中でも、下記の(イ)〜(ハ)に例示される芳香族オニウム塩であることがさらに好ましい。これらの中から、その1種を単独で、または2種以上を混合して使用することができる。
(イ)フェニルジアゾニウムヘキサフルオロホスフェート、4-メトキシフェニルジアゾニウムヘキサフルオロアンチモネート、4-メチルフェニルジアゾニウムヘキサフルオロホスフェートなどのアリールジアゾニウム塩
(ロ)ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、ジ(4-メチルフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ジ(4-t-ブチルフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロホスフェートなどのジアリールヨードニウム塩
(ハ)トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、トリス(4-メトキシフェニル)スルホニウムヘキサフルオロホスフェート、ジフェニル-4-チオフェノキシフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、ジフェニル-4-チオフェノキシフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、4,4'-ビス(ジフェニルスルフォニオ)フェニルスルフィド-ビス-ヘキサフルオロアンチモネート、4,4'-ビス(ジフェニルスルフォニオ)フェニルスルフィド-ビス-ヘキサフルオロホスフェート、4,4'-ビス[ジ(β-ヒドロキシエトキシ)フェニルスルホニオ]フェニルスルフィド-ビス-ヘキサフルオロアンチモネート、4,4'-ビス[ジ(β-ヒドロキシエトキシ)フェニルスルホニオ]フェニルスルフィド-ビス-ヘキサフルオロホスフェート、4-[4'-(ベンゾイル)フェニルチオ]フェニル-ジ-(4-フルオロフェニル)スルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、4-[4'-(ベンゾイル)フェニルチオ]フェニル-ジ-(4-フルオロフェニル)スルホニウムヘキサフルオロホスフェートなどのトリアリールスルホニウム塩
【0100】
さらに、本発明における硬化反応開始剤は、鉄アレーン錯体またはアルミニウム錯体と、トリフェニルシラノールなどのシラノール類との混合物であってもよい。
鉄アレーン錯体の例には、(η5-2,4-シクロペンタジエン-1-イル)〔(1,2,3,4,5,6-η)-(1-メチルエチル)ベンゼン〕-アイアン-ヘキサフルオロホスフェートなどが含まれ、アルミニウム錯体の例には、トリス(アセチルアセトナト)アルミニウム、トリス(エチルアセトナトアセタト)アルミニウム、トリス(サリチルアルデヒダト)アルミニウムなどが含まれる。
【0101】
これらの中でも実用面の観点から、本発明における硬化反応開始剤は、芳香族ヨードニウム塩、芳香族スルホニウム塩、鉄−アレーン錯体であることが好ましい。
【0102】
硬化反応開始剤(好ましくは酸発生剤)の含有量は、例えばマトリックス樹脂がエポキシ樹脂の場合には、本発明の重合体とエポキシ樹脂単量体が有するエポキシ基10〜500モルに対して、1モルであることが好ましい。
【0103】
前述の通り、本発明の重合体は溶媒に溶解または分散させて、表面改質剤として用いることができる。表面改質剤に含まれる固形分(本発明の重合体や他の樹脂などを含む)の濃度は特に制限されないが、1〜50重量%であればよい。
【0104】
本発明の重合体を溶解または分散させる溶媒は、特に制限されないが、50〜200℃の沸点を有する化合物を20重量%以上含有することが好ましい。溶媒に含まれる、50〜200℃の沸点を有する化合物は、一種類であっても、二種以上の組み合わせでもよい。
【0105】
50〜200℃の沸点を有する化合物の例には、水;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール;メチルエチルケトンなどのケトン;酢酸ブチル、プロピオン酸ブチル、乳酸エチル、オキシ酢酸メチル、オキシ酢酸エチル、オキシ酢酸ブチル、メトキシ酢酸メチル、メトキシ酢酸エチル、メトキシ酢酸ブチル、エトキシ酢酸メチル、エトキシ酢酸エチル、3-オキシプロピオン酸メチル、3-オキシプロピオン酸エチル、3-メトキシプロピオン酸メチル、3-メトキシプロピオン酸エチル、3-エトキシプロピオン酸メチル、3-エトキシプロピオン酸エチル、2-オキシプロピオン酸メチル、2-オキシプロピオン酸エチル、2-オキシプロピオン酸プロピル、2-メトキシプロピオン酸メチル、2-メトキシプロピオン酸エチル、2-メトキシプロピオン酸プロピル、2-エトキシプロピオン酸メチル、2-エトキシプロピオン酸エチル、2-オキシ-2-メチルプロピ
オン酸メチル、2-オキシ-2-メチルプロピオン酸エチル、2-メトキシ-2-メチルプロピオン酸メチル、2-エトキシ-2-メチルプロピオン酸エチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、ピルビン酸プロピル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、2-オキソブタン酸メチル、2-オキソブタン酸エチルなどの脂肪族エステル;ジオキサンなどの環状エーテル;シクロヘキサノン、シクロペンタノンなどのケトン;トルエン、キシレンなどの芳香族;γ-ブチロラクトンなどの環状エステル;N,N-ジメチルアセトアミドなどが含まれる。
【0106】
さらに、50〜200℃の沸点を有する化合物の例には、グリコールまたはその誘導体が含まれる。グリコールの例には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,4-ブタンジオールなどが含まれる。
グリコール化合物の例には、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、などのグリコールモノエーテル;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、などのグリコールモノエーテルアセテート;ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテルなどのグリコールジメチルエーテル;などが含まれる。
【0107】
これらのうち、塗布溶液の溶媒の好ましい例には、塗布均一性を高めるという点で、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、3-メトキシプロピオン酸メチル、3-エトキシプロピオン酸エチル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、および乳酸エチルが含まれる。さらに、人体への安全性を考慮すると、溶媒の好ましい例には、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、3-メトキシプロピオン酸メチル、3-エトキシプロピオン酸エチル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、および乳酸エチルが含まれる。
また、前記塗布溶液を、スリットコーター(大型基板へ塗布するために好ましく使用される)で基板などに塗布する場合には、その塗布均一性を高めるという点で、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートとジエチレングリコールメチルエチルエーテルの混合溶媒;3-メトキシプロピオン酸メチルとジエチレングリコールメチルエチルエーテルの混合溶媒;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートと3-メトキシプロピオン酸メチルとジエチレングリコールメチルエチルエーテルの混合溶媒を用いることが好ましい。
【0108】
本発明の重合体を含む溶液を基板に塗布する方法は、特に制限されないが、スピンコート法、ロールコート法、スリットコート法、ディッピング法、スプレーコート法、グラビアコート法、リバースコート法、ロッドコート法、バーコート法、ダイコート法、キスコート法、リバースキスコート法、エアナイフコート法、カーテンコート法などがある。
塗布される基板の例には、白板ガラス、青板ガラス、シリカコート青板ガラスなどの透明ガラス基板;ポリカーボネート、ポリエステル、アクリル樹脂、塩化ビニール樹脂、芳香族ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド、ポリイミドなどの合成樹脂製シート、フィルムまたは基板;アルミニウム板、銅板、ニッケル板、ステンレス板などの金属基板;その他
セラミック板、光電変換素子を有する半導体基板が含まれる。
これらの基板は前処理をされていてもよく、前処理の例には、シランカップリング剤などによる薬品処理、サンドブラスト処理、コロナ放電処理、紫外線処理、プラズマ処理、イオンプレーティング、スパッタリング、気相反応法、真空蒸着などが含まれる。
塗布された溶液の乾燥は、室温〜200℃の環境下で行うことができる。
【0109】
塗布溶液は、前記溶媒中に本発明の重合体、および必要に応じて任意の成分を混合・溶解させることで製造される。
【0110】
得られる複合樹脂における本発明の重合体の含有率は、特に制限はないが、0.01〜10重量%であることが好ましい。複合樹脂におけるフッ素含有率を適切に制御するためである。また、複合樹脂中のフッ素濃度は、0.05〜10重量%、好ましくは0.1〜5重量%であることが好ましい。
該複合樹脂からなる皮膜は、高い撥水性や撥油性を有し、低い表面自由エネルギーを有する。
【0111】
次に本発明のコーティング膜を得るためのフッ素系重合体組成物、当該フッ素系重合体組成物を含む表面処理剤、及び該表面処理剤より得られるコーティング膜について説明する。
本発明の表面処理剤は、エポキシ系樹脂を形成する原料組成物に対して、フルオロシルセスキオキサン(a)と、オルガノポリシロキサン(c)と、必要に応じて配合する架橋性官能基を有する付加重合性単量体(b)との共重合体をフッ素原子として0.01〜5重量%含むコーティング液をブレンドすることによって得られる。
【0112】
前記のエポキシ系樹脂を形成する組成物から形成されるエポキシ樹脂としては、脂肪族エポキシ樹脂および芳香族エポキシ樹脂のいずれでもよい。かかるエポキシ樹脂を形成する主単量体には、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ハイドロキノン、レゾルシン、ジヒドロキシナフタレン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジシクロペンタン、4,4′-ジヒドロキシベンゾフェノン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)エーテル、ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)スルフィド、ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)スルホン、ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)スルホン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、4,4′-ジヒドロキシビフェニル-3,3′,5,5′-テトラメチルビフェニル、ビス(ヒドロキシナフチル)メタン、および
1,1′-ビナフトール、1,1′-ビス(3-t-ブチル-6-メチル-4-ヒドロキシフェニル)ブタンなどが含まれる。
【0113】
さらに、形成されるエポキシ樹脂の例には、フェノール、о-クレゾール、カテコール等のフェノール類、ホルムアルデヒド等のアルデヒド類との反応生成物のグリシジルエーテル化物であるフェノールノボラック系エポキシ樹脂;
フェノール、クレゾール、メチル-t-ブチルフェノール等のフェノール類とヒドロキシベンズアルデヒド等の芳香族アルデヒド類との縮合により得られたトリチル骨格含有ポリフェノール類のポリグリシジルエーテル;
トリチル骨格含有ポリフェノール類とホルムアルデヒド類との反応生成物であるトリメチル骨格含有ポリフェノール系ノボラック類のポリグリシジルエーテル;
フェノール、o-クレゾール、カテコール等のフェノール類とキシリレンジクロリドや
(ヒドロキシメチル)ベンゼン等類との反応生成物であるポリアラキルフェノール樹脂類のポリグリシジルエーテル;
フェノール、o-クレゾール、カテコール等のフェノール類、又はヒドロキシナフタレン、ジヒドロキシナフタレン等のナフトール類と、ジシクロペンタジエンやリモネン等の不飽和脂環式炭化水素類との反応生成物のグリシジルエーテルである脂環式炭化水素含有ポリフェノール樹脂型エポキシ樹脂又はポリナフトール樹脂型エポキシ樹脂;
脂環式炭化水素含有ポリフェノール樹脂類又はポリナフトール樹脂類とホルムアルデヒド類との反応生成物である脂環式水素含有ポリフェノールノボラック樹脂類又はポリナフトールノボラック樹脂類のポリグリシジルエーテル;
フェノール類と芳香族カルボニル化合物との縮合反応により得られる多価フェノールのグリシジルエーテル化合物類;
フロログリシン、トリス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1,2,2-テトラキス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、1,3-ビス[(4-ヒドロキシフェニル)メチル]ベンゼン、1,4-ビス[(4-ヒドロキシフェニル)メチル]ベンゼン等を基本骨格とする三価以上のフェノール類のポリグリシジルエーテル;
カリックスアレーン等の環状フェノール類から誘導されるグリシジルエーテル化合物;
p-アミノフェノール、m-アミノフェノール、4-アミノメタクレゾール、6-アミノメタクレゾール、4,4′-ジアミノジフェニルメタン、3,3′-ジアミノジフェニルメタン、4,4′-ジアミノジフェニルエーテル、3,4′-ジアミノジフェニルエーテル、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2-ビス(4-アミノフェノキシフェニル)プロパン、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、2,4-トルエンジアミン、2,6-トルエンジアミン、p-キシリレンジアミン、m-キシリレンジアミン、1,4-シクロヘキサンビス(メチルアミン)、1,3-シクロヘキサンビス(メチルアミン)、N,N-ジグリシジルアニリン等から誘導されるアミン系エポキシ樹脂;
p-オキシ安息香酸、m-オキシ安息香酸、テレフタル酸、イソフタル酸等の芳香族カルボン酸から誘導されるグリシジルエステル系化合物;
5,5-ジメチルヒダントイン等から誘導されるヒダントイン系エポキシ化合物;
2,2-ビス(3,4-エポキシシクロヘキシル)プロパン、2,2-ビス[4-(2,3-エポキシプロピル)シクロヘキシル]プロパン、ビニルシクロヘキセンジオキサイド、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート等の脂環式エポキシ樹脂;
ポリブタジエン等の不飽和炭化水素化合物中の二重結合を酸化して得られる脂肪族エポキシ樹脂等が含まれる。
【0114】
また、形成されるエポキシ樹脂は脂環族エポキシ樹脂であってもよい。その具体例には、少なくとも1個の脂環族環を有する多価アルコールのポリグリシジルエーテル、またはシクロヘキセンやシクロペンテン環含有化合物を酸化剤でエポキシ化することによって得られるシクロヘキサンオキサイドやシクロペンテンオキサイド含有化合物から得られるエポキシ樹脂である。
【0115】
例えば、水素添加ビスフェノールAジグリシジルエーテル、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、3,4-エポキシ1-メチルシクロヘキシル-3,4-エポキシ1-メチルシクロヘキサンカルボキシレート、6-メチル-3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-6-メチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、3,4-エポキシ3-メチルシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシ3-メチルシクロヘキサンカルボキシレート、3,4-エポキシ5-メチルシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシ5-メチルシクロヘキサンカルボキシレート、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル-5,5-スピロ-3,4-エポキシ)シクロヘキサン−メタジオキサン、
ビス(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、ビニルシクロヘキセンジオキサイド、4-ビニルエポキシシクロヘキサン、ビス(3,4-エポキシ6-メチルシクロヘキシルメチル)アジペート、3,4-エポキシ6-メチルシクロヘキシルカルボキシレート、メチレンビス(3,4-エポキシシクロヘキサン)、ジシクロペンタジエンジエポキサイド、エチレングリコールジ(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)エーテル、エチレンビス(3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート)、エポキシヘキサヒドロフタル酸ジオクチル、エポキシヘキサヒドロフタル酸ジ-2-エチルヘキシルなどから得られるエポキシ樹脂が挙げられる。
【0116】
さらに、形成されるエポキシ樹脂の例には、脂肪族多価アルコールまたはそのアルキレンオキサイド付加物のポリグリシジルエーテルから得られるエポキシ樹脂;脂肪族長鎖多塩基酸のポリグリシジルエステルから得られるエポキシ樹脂;グリシジルアクリレートまたはグリシジルメタクリレートのビニル重合により合成した単独重合体;グリシジルアクリレート、またはグリシジルメタクリレートとその他のビニル単量体とのビニル重合により合成した共重合体などが含まれる。
【0117】
上記ポリグリシジルエーテルの具体例には、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセリンのトリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンのトリグリシジルエーテル、ソルビトールのテトラグリシジルエーテル、ジペンタエリスリトールのヘキサグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールのジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールのジグリシジルエーテルなどの多価アルコールのグリシジルエーテルなどが含まれる。
【0118】
また上記ポリグリシジルエステルの具体例には、プロピレングリコール、トリメチロールプロパン、グリセリンなどの脂肪族多価アルコールに、1種または2種以上のアルキレンオキサイドを付加することによって得られるポリエーテルポリオールのポリグリシジルエーテル、脂肪族長鎖二塩基酸のジグリシジルエステルが含まれる。
【0119】
さらに形成されるエポキシ樹脂の例には、脂肪族高級アルコールのモノグリシジルエーテルやフェノール、クレゾール、ブチルフェノール、またはこれらにアルキレンオキサイドを付加することによって得られるポリエーテルアルコールのモノグリシジルエーテルから得られるエポキシ樹脂;高級脂肪酸のグリシジルエステルから得られるエポキシ樹脂;エポキシ化大豆油、エポキシステアリン酸オクチル、エポキシステアリン酸ブチル、エポキシ化アマニ油、エポキシ化ポリブタジエンなどから得られるエポキシ樹脂が含まれる。
【0120】
形成されるエポキシ樹脂と共重合体との配合比は特に制限されないが、過剰な共重合体の使用は、費用効率の面で好ましくない。従ってコーティング膜中の共重合体の含有濃度は、フッ素原子として0.01〜5重量%となるように配合するのが好ましく、さらにフッ素原子として0.01〜3重量%となるように配合するのが実用的である。
【0121】
本発明のコーティング膜を得るためのフッ素系重合体組成物、当該フッ素系重合体組成物を含む表面処理剤には、本発明の効果に悪影響を及ぼさない範囲において、他の添加剤、例えば、顔料、染料、酸化防止剤、劣化防止剤、充填剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤及び/又は電磁波防止剤を含んでいてもよい。
【0122】
当該表面処理剤に用いられる硬化反応開始剤は、上記の酸発生剤が好ましく選択され、その含有量は、共重合体とエポキシ樹脂形成用原料組成物が有するエポキシ基10〜500molに対して、1molであることが好ましい。
【0123】
本発明のコーティング膜を形成するのに使用されるコーティング液は、前記のエポキシ
樹脂を形成する原料組成物、共重合体を溶媒に溶解および/または分散させて得られる。かかる溶媒としては、特に制限されないが、50〜200℃の沸点を有する化合物を20重量%以上含有することが好ましい。溶媒に含まれる50〜200℃の沸点を有する化合物は、一種類であっても、二種以上の組み合わせでもよい。
【0124】
上記の50〜200℃の沸点を有する化合物の例には、水;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール;メチルエチルケトンなどのケトン;酢酸ブチル、プロピオン酸ブチル、乳酸エチル、オキシ酢酸メチル、オキシ酢酸エチル、オキシ酢酸ブチル、メトキシ酢酸メチル、メトキシ酢酸エチル、メトキシ酢酸ブチル、エトキシ酢酸メチル、エトキシ酢酸エチル、3-オキシプロピオン酸メチル、3-オキシプロピオン酸エチル、3-メトキシプロピオン酸メチル、3-メトキシプロピオン酸エチル、3-エトキシプロピオン酸メチル、3-エトキシプロピオン酸エチル、2-オキシプロピオン酸メチル、2-オキシプロピオン酸エチル、2-オキシプロピオン酸プロピル、2-メトキシプロピオン酸メチル、2-メトキシプロピオン酸エチル、2-メトキシプロピオン酸プロピル、2-エトキシプロピオン酸メチル、2-エトキシプロピオン酸エチル、2-オキシ-2-メチルプロピオン酸メチル、2-オキシ-2-メチルプロピオン酸エチル、2-メトキシ-2-メチルプロピオン酸メチル、2-エトキシ-2-メチルプロピオン酸エチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、ピルビン酸プロピル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、2-オキソブタン酸メチル、2-オキソブタン酸エチルなどの脂肪族エステル;ジオキサンなどの環状エーテル;シクロヘキサノン、シクロペンタノンなどのケトン;トルエン、キシレンなどの芳香族;γ-ブチロラクトンなどの環状エステル;N,N-ジメチルアセトアミドなどが含まれる。
【0125】
さらに、50〜200℃の沸点を有する化合物の例には、グリコールまたはその誘導体が含まれる。グリコールの例には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,4-ブタンジオールなどが含まれる。
上記のグリコール化合物の例には、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、などのグリコールモノエーテル;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、などのグリコールモノエーテルアセテート;ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテルなどのグリコールジメチルエーテル;ハイドロクロロフルオロカーボン系溶媒(HCFC−141b、HCFC−225)、ハイドロフルオロカーボン(HFCs)系溶媒(炭素数2〜4、5および6以上のHFCs)、パーフルオロカーボン系溶媒(パーフルオロペンタン、パーフルオロヘキサン)、脂環式ハイドロフルオロカーボン系溶媒(フルオロシクロペンタン、フルオロシクロブタン)、酸素含有フッ素系溶媒(フルオロエーテル、フルオロポリエーテル、フルオロケトン、フルオロアルコール)、芳香族系フッ素溶媒(α,α,α-トリフルオロトルエン、ヘキサフルオロベンゼン)などが含まれる。
【0126】
上記のように、溶媒としてフロン系有機溶媒を使用することもできるが、環境的配慮に鑑みると、非フロン系有機溶媒であることが好ましい。汎用的には、例えば、MEK(2−ブタノン)、CHN(シクロヘキサノン)、MMP(3−メトキシプロピオン酸メチル)、IPA(2−プロパノール)を含む群から選ばれた2種以上の混合溶媒が好適に使用
でき、具体的には、MEK、MMP及びIPAの混合溶媒、あるいはMEK、CHN、MMP及びIPAの混合溶媒が挙げられる。それらの配合比は上記エポキシ樹脂の種類および共重合体の種類、レベリング性の改善など必要に応じて適宜調整するのが好ましい。
【0127】
上記の混合溶媒において、塗布均一性を高めるという点で、さらに、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、3-メトキシプロピオン酸メチル、3-エトキシプロピオン酸エチル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、乳酸エチル等を配合するのが好ましい。中でも、人体への安全性を考慮すると、溶媒の好ましい例には、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、3-メトキシプロピオン酸メチル、3-エトキシプロピオン酸エチル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、乳酸エチル等を配合するのが好ましい。
【0128】
本発明においては、上記のコーティング液には、エポキシ樹脂形成用原料組成物、共重合体、硬化開始剤、溶媒の他に、必要により且つ本発明を阻害しない範囲で、任意の成分を混合・溶解させることができる。以上のようにして得られるコーティング液の不揮発成分の濃度は特に制限されないが、通常、1〜50重量%とされ、実用的には、5〜20重量%程度であることが好ましい。
【0129】
上記のコーティング液を前記の基材に塗布する方法は、特に制限されないが、スピンコート法、ロールコート法、スリットコート法、ディッピング法、スプレーコート法、グラビアコート法、リバースコート法、ロッドコート法、バーコート法、ダイコート法、キスコート法、リバースキスコート法、エアナイフコート法、カーテンコート法などがある。
【0130】
上記の離型剤溶液の塗布量は、通常、焼成後のコーティング膜の厚さが0.1〜20μmとなるように設定される。なお、実用的な焼成後のコーティング膜の厚さは0.3〜3μm程度である。
【0131】
この離型剤溶液の塗布後の焼成条件は、上記のエポキシ樹脂の硬化条件および基材の耐熱性を考慮して設定され、焼成温度は通常120〜200℃、実用的には130〜180℃とされる。焼成時間は設定された焼成後のコーティング膜の厚さ、基材の種類、基材の厚みおよび焼成温度により加減されるが、通常プラスチックフィルムを使用した場合、15〜120秒とされる。例えば焼成温度が160℃で、設定された焼成後のコーティング膜の膜厚が1μm、基材として厚み75μmのポリエチレンテレフタレートフィルムを使用した場合、焼成時間は45〜60秒で十分である。基材として厚み1mm程度のガラス板、ステンレス板を使用した場合、焼成温度が160℃で、設定された焼成後のコーティング膜の膜厚が1μmで、焼成時間は10〜15分で十分である。なお、本発明のコーティング膜の用途としては、剥離用コーティング膜、撥水・撥油コーティング膜、汚れ防止コーティング膜、摺動コーティング膜、反射防止コーティング膜及び絶縁コーティング膜等が挙げられる。
【0132】
<実施例>
以下において、実施例などを参照して本発明をさらに詳細に説明するが、これらの記載により本発明の範囲が限定されることはない。なお、本実施例における重量平均分子量のデータは、ポリ(メタクリル酸メチル)を標準物質としてGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法)によって求めたものである。
【0133】
[製造例1]
γ-メタクリロキシプロピルヘプタ(トリフルオロプロピル)-T8-シルセスキオキサンの合成
還流冷却器、温度計および滴下漏斗を取り付けた内容積1Lの4つ口フラスコに、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン(100g)、THF(500mL)、脱イオン水(10.5g)および水酸化ナトリウム(7.9g)を仕込み、マグネチックスターラーで攪拌しながら、室温からTHFが還流する温度までオイルバスにより加熱した。還流開始から5時間撹拌を継続して反応を完結させた。その後、フラスコをオイルバスから引き上げ、室温で1晩静置した後、再度オイルバスにセットし固体が析出するまで定圧下で加熱濃縮した。
析出した生成物を、孔径0.5μmのメンブランフィルターを備えた加圧濾過器を用いて濾取した。次いで、得られた固形物をTHFで1回洗浄し、減圧乾燥機にて80℃、3時間乾燥を行い、74gの無色粉末状の固形物を得た。
【0134】
還流冷却器、温度計及び滴下漏斗を取り付けた内容積1Lの4つ口フラスコに、得られた固形物(65g)、ジクロロメタン(491g)、トリエチルアミン(8.1g)を仕込み、氷浴で3℃まで冷却した。次いでγ−メタクリロキシプロピルトリクロロシラン(21.2g)を添加し、発熱が収まったことを確認して氷浴から引き上げ、そのまま室温で一晩熟成した。イオン交換水で3回水洗した後、ジクロロメタン層を無水硫酸マグネシウムで脱水し、濾過により硫酸マグネシウムを除去した。ロータリーエバポレータで粘調な固体が析出するまで濃縮し、メタノール260gを加えて粉末状になるまで攪拌した。5μmの濾紙を備えた加圧濾過器を用いて粉体を濾過し、減圧乾燥器にて65℃、3時間乾燥を行い、41.5gの無色粉末状固体を得た。得られた個体のGPC、1H−NMR測定を行い、下記式の構造を有している化合物(a-1)であることが分かった。
【0135】
【化9】

【0136】
[実施例1] 重合体(A1)の合成
重合性組成物の調製
耐熱ガラス製アンプルに、化合物(a-1)、メチルメタクリレート、2,2'-アゾビスイソブチロニトリル、α,α,α-トリフルオロトルエンを導入し、液体窒素を用いて速やかに冷却した。その後、油回転ポンプが装着された真空装置にて凍結真空脱気(圧力:1.0Pa)を3回行ない、真空の状態を保持したまま、ハンドバーナーを用いて速やかにアンプルを封じた。
アンプルに封じた化合物(a-1)とメチルメタクリレートのモル比率は、(a-1):メタクリレート=2:98とし;α,α,α-トリフルオロトルエンの量は、化合物(a-1)とメチルメタクリレートの総重量に対して30重量%とし;2,2'-アゾビスイソブチロニトリルの量は化合物(a-1)とメチルメタクリレートの総モル数に対して0.0
05mol%とした。
【0137】
重合
この封管された耐熱ガラス製アンプルを、60℃の恒温振とう浴中にセットして、5時間重合させ、粘ちょうな溶液を得た。重合終了後、n−ヘプタンを再沈溶媒として投入し、重合体を沈澱させた。上澄みを除去し、減圧乾燥(80℃、3時間)させて重合体(A1)を得た。重合体(A1)の、化合物(a-1)由来の構造単位とメチルメタクリレート由来の構造単位のモル比率、およびGPC分析により求めた重量平均分子量は表2に示す通りであった。
【0138】
[実施例2〜6] 重合体(A2)〜(A6)の合成
アンプルに封じた化合物(a-1)とメチルメタクリレートの仕込単量体組成を、表1に示す通りに変更した以外は、実施例1と同様に重合性組成物を調製し、重合を行った。得られた重合体(A2)〜(A6)中の、化合物(a-1)由来の構造単位とメチルメタクリレート由来の構造単位の単量体組成、および重量平均分子量は表2に示す通りであった。
【0139】
[実施例7] 重合体(A7)の合成
アンプルに封じたメチルメタクリレートを0にしたこと以外は、実施例1と同様に重合性組成物を調製し、重合を行った。得られた重合体(A7)の重量平均分子量は表2に示す通りであった。
【0140】
[比較例1]
重合体(B1)の合成
アンプルに封じた化合物(a-1)を0にしたこと以外は、実施例1と同様に重合性組成物を調製し、重合を行った。得られた重合体(B1)の重量平均分子量は表2に示す通りであった。
【0141】
【表1】

【0142】
【表2】

【0143】
[試験例1〜7および比較試験例1] コーティング膜の調製
得られた重合体(A1)〜(A7)および(B1)のそれぞれを、2-アセトキシ-1-メトキシプロパンに溶解させ、重合体の濃度を4重量%とした。得られた溶液を、スピンコーター(スピンナー1H−III型、協栄セミコンダクター株式会社製)を用いて、ガラス基板(コーニングガラス#1737,0.7T)上に、回転数:2500rpm、回転時間:50秒の条件にて塗布した。得られた基板を、180℃のホットプレート上で30分間乾燥させて、透明なコーティング膜を得た。
得られた基板について、FACE接触角計(画像処理式)CA-X型(協和界面化学株式会社製)を用い、プローブ液体として、蒸留水(窒素・りん測定用、関東化学株式会社製)およびヨウ化メチレン(99%、アルドリッチ社製)を用いて、接触角(度)を測定し、Kaelble-Uyの理論に従って表面自由エネルギー(mN/m)を算出した(表3)。
【0144】
【表3】

【0145】
表3に示されたように、重合体(A1)〜(A7)のいずれを用いた場合にも、(B1)を用いた場合と比較して、コーティング膜の撥水・撥油性が高く、表面自由エネルギーが低い値を示した。
【0146】
[試験例1−2〜7−2]
<溶解性試験>
得られた重合体(A1)〜(A6)および(A7)に、それぞれ2-ブタノン、トルエンおよび2−アセトキシ−1−メトキシプロパンを加え、重合体の濃度が10重量%になるような溶液を調製した。重合体(A1)〜(A6)および(A7)の2-ブタノン、トルエンおよび2−アセトキシ−1−メトキシプロパンに対する溶解性は、目視にて以下の評価基準に従って評価を行った(表4)。
+++: 容易に溶解し、無色透明である。
++ : 溶解するが、淡白色である。
+ : 重合体の不溶解物がみられる。
【0147】
<加工性試験>
(コーティング膜の調製)
得られた重合体(A1)〜(A6)および(A7)のそれぞれを、2−ブタノンに溶解させ、重合体の濃度が5重量%であるコーティング液を得た。得られたコーティング液を、コーティングロッド(#4、R.D.スペシャリティーズ社製)を用いて、ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ:188μm 銘柄名:ルミラ−188−T60、東レ株式会社製)上に塗布した。コーティングロッド(#4)を使用した時のウェット膜厚は9μmである。得られた塗膜を、150℃の高温チャンバーで60秒間硬化・乾燥させて、膜厚約0.45μmのコーティング膜を得た。膜厚は下記の式に従い、コーティングロッド(#4)を使用した時のウェット膜厚とコーティング液中の樹脂固形分より算出した。
膜厚 (μm) = (コーティングロッドを使用した時のウェット膜厚) × (コーティング液中の樹脂固形分重量%) / 100
得られたコーティング膜の加工性は、目視にて以下の評価基準に従って評価を行った(表4)。
+++: 塗膜全体が透明である。
++ : 塗膜に若干のはじき、スジムラがみられる。
+ : 塗膜全体にはじき、スジムラがみられる。
【0148】
<基材密着性試験>
得られたコーティング膜面にアクリル系粘着テープ(日東電工 No.31B)を貼り合わせ、2kgの圧着ローラーで圧着した後、アクリル系粘着テープを引き剥がした。アクリル系粘着テープ引き剥がした跡のコーティング膜面を観測し、基材密着性の評価を行った。得られたコーティング膜の基材密着性は、目視にて以下の評価基準に従って評価を行った(表4)。
+++: 密着している。
+ : 密着していない。
<表面自由エネルギー測定>
得られたコーティング膜面および密着性試験後のアクリル系粘着剤テープを引き剥がした跡のコーティング膜面について、FACE接触角計(画像処理式)CA-X型(協和界面化学株式会社製)を用い、プローブ液体として、蒸留水(窒素・りん測定用、関東化学株式会社製)およびヨウ化メチレン(99%、アルドリッチ社製)を用いて、接触角(度)を測定し、Kaelble-Uyの理論に従って表面自由エネルギー(mN/m)を算出した。密着性試験前後の表面自由エネルギーの変化で、密着性の確認を行った(表4)。
【0149】
【表4】

【0150】
上記結果から、溶解性、加工性は、重合体製造時におけるフルオロシルセスキオキサンの含有量が増加するに伴い低下する傾向となり、単独重合体では悪い結果となった。基材密着性については、単独重合体の場合、密着性試験後はコーティング膜が基材から剥離し、密着性試験後の表面自由エネルギーが高くなった。またフルオロシルセスキオキサンの単独重合体とフルオロシルセスキオキサンを含む共重合体では、同等の表面自由エネルギーを示す結果となった。以上のことから、フルオロシルセスキオキサンを含む共重合体はフルオロシルセスキオキサンの単独重合体と同等の撥水・撥油性を有すると共に、高い溶解性、加工性、基材密着性を発現することが明らかとなった。
【0151】
[実施例8] 重合体(A8)の合成
還流冷却器、温度計、滴下漏斗およびアルゴンバブリング用のシリンジ付きのセプタムキャップを取り付けた内容積200mLの四つ口フラスコに、化合物(a-1)(15.3g)、メチルメタクリレート(13.6g)、グリシジルメタクリレート(1.1g)、α,α,α−トリフルオロトルエン(69.7g)を入れて、アルゴンシールした。同時にシリンジよりアルゴンを吹き込み、脱酸素を行った。
充分に脱酸素した後、2,2'-アゾビスイソブチロニトリル(0.2565g)とメルカプト酢酸(0.0288g)を入れ、60℃のオイルバスにセットして重合を行った。8時間重合した後、重合体組成物を2Lのn-ヘプタンに注ぎ込んで重合体を析出させた。上澄みを除去し、減圧乾燥(80℃、3時間)させて26.2gの重合体(A8)を得た。
重合体(A8)の、GPC分析により求めた重量平均分子量は91,900であり、Mw/Mnは1.62であった。また重合体(A8)の、1H−NMR測定により求めた単量体成分の組成モル比率は、化合物(a-1):メチルメタクリレート:グリシジルメタクリレート=7.1:88.0:4.9であった。さらに重合体(A8)の、1H−NMR測定により求めたフッ素濃度は15.57重量%であった。
【0152】
[比較例2] 重合体(B2)の合成
還流冷却器、温度計、滴下漏斗およびアルゴンバブリング用のシリンジ付きのセプタムキャップを取り付けた内容積100mLの四つ口フラスコに、2,2,2-トリフルオロエチルメタクリレート(10.1g)、メチルメタクリレート(4.2g)、グリシジルメタクリレート(0.8g)、α,α,α-トリフルオロトルエン(34.8g)を入れ、アルゴンシールした。同時にシリンジよりアルゴンを吹き込み、脱酸素を行った。
充分に脱酸素した後、2,2'-アゾビスイソブチロニトリル(0.1756g)とメルカプト酢酸(0.0197g)を入れ、60℃のオイルバスにセットして重合を行った。8時間重合した後、重合体組成物を1Lのn-ヘプタンに注ぎ込んで重合体を析出させた。上澄みを除去し、減圧乾燥(80℃、3時間)させて、8.2gの重合体(B2)を得た。
重合体(B2)の、GPC分析により求めた重量平均分子量は65,100であり、Mw/Mnは1.76であった。また重合体(B2)の、1H−NMR測定により求めた単量体成分の組成モル比率は、2,2,2-トリフルオロエチルメタクリレート:メチルメタクリレート:グリシジルメタクリレート=58.1:36.9:5.0であった。さらに重合体(B2)の、1H−NMRから求めたフッ素濃度は、23.37重量%であった。
【0153】
[試験例8] コーティング膜の調製
重合体(A8)(0.05g)、およびネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル(4.95g)を、2-ブタノン(45g)に溶解させた。さらに、硬化剤としてサンエイドSI−60(三新化学工業株式会社製)(0.2391g)を加えて(エポキシ基/サンエイドSI−60=99/1(モル比)、エポキシ量:45.79mmol)、コーティング剤を得た。
得られたコーティング剤の樹脂固形分中のフッ素濃度は、0.16重量%であった。「樹脂固形分中のフッ素濃度」とは、重合体(A8)とネオペンチルグリコールジグリシジルとの総重量に対する、重合体(A8)に含まれるフッ素の重量の比率を意味し、重合体(A8)とネオペンチルグリコールジグリシジルエーテルの重量比から計算した。
得られたコーティング液を、スピンコーター(スピンナー1H−III型、協栄セミコンダクター株式会社製)を用いて、ガラス基板(コーニングガラス#1737,0.7T)上に、回転数:2500rpm、回転時間:50秒の条件にて塗布した。得られた塗膜を、150℃の高温チャンバーで1分間硬化・乾燥させて、透明なコーティング膜を得た。
プローブ液体として、蒸留水(窒素・りん測定用、関東化学株式会社製)、およびヨウ化メチレン(99%、アルドリッチ社製)を用いた接触角を測定し、かつKaelble-Uyの理論に従って表面自由エネルギーを算出した(表5)。
【0154】
[試験例9] コーティング膜の調製
重合体(A8)(0.25g)、およびネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル(4.75g)を、2-ブタノン(45g)に溶解させた。さらに、硬化剤としてサンエイドSI−60(三新化学工業株式会社製)(0.2297g)を加えて(エポキシ基/サンエイドSI−60=99/1(モル比)、エポキシ量:44.00mmol)、コーティング剤を得た。
得られたコーティング剤の樹脂固形分中のフッ素濃度は、0.78重量%であった。
得られたコーティング液を用いて、試験例8と同様にしてコーティング膜を調製し、接触角および表面エネルギーを算出した(表5)。
【0155】
[試験例10] コーティング膜の調製
重合体(A8)(0.50g)、およびネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル(4.50g)を、2-ブタノン(45g)に溶解させた。さらに、硬化剤としてサンエイドSI−60(三新化学工業株式会社製)(0.2180g)を加えて(エポキシ基/サンエイドSI−60=99/1(モル比)、エポキシ量:41.74mmol)、コーティング剤を得た。
得られたコーティング剤の樹脂固形分中のフッ素濃度は、1.56重量%であった。
得られたコーティング液を用いて、試験例8と同様にしてコーティング膜を調製し、接触角および表面エネルギーを算出した(表5)。
【0156】
[試験例11] コーティング膜の調製
重合体(A8)(1.00g)、およびネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル(4.00g)を、2-ブタノン(45g)に溶解させた。さらに、硬化剤としてサンエイドSI−60(三新化学工業株式会社製)(0.1946g)を加えて(エポキシ基/サンエイドSI−60=99/1(モル比)、エポキシ量:37.26mmol)、コーテ
ィング剤を得た。
得られたコーティング剤の樹脂固形分中のフッ素濃度は、3.11重量%であった。
得られたコーティング液を用いて、試験例8と同様にしてコーティング膜を調製し、接触角および表面エネルギーを算出した(表5)。
【0157】
[試験例12] コーティング膜の調製
重合体(A8)(1.50g)、およびネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル(3.50g)を、2-ブタノン(45g)に溶解させた。さらに、硬化剤としてサンエイドSI−60(三新化学工業株式会社製)(0.1711g)を加えて(エポキシ基/サンエイドSI−60=99/1(モル比)、エポキシ量:32.77mmol)、コーティング剤を得た。
得られたコーティング剤の樹脂固形分中のフッ素濃度は、4.67重量%であった。
得られたコーティング液を用いて、試験例8と同様にしてコーティング膜を調製し、接触角および表面エネルギーを算出した(表5)。
【0158】
[比較試験例2]
重合体(B2)(0.05g)、およびネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル(4.95g)を、2-ブタノン(45g)に溶解させた。さらに、硬化剤としてサンエイドSI−60(三新化学工業株式会社製)(0.2391g)を加えて(エポキシ基/サンエイドSI−60=99/1(モル比)、エポキシ量:45.80mmol)、コーティング剤を得た。
得られたコーティング剤の樹脂固形分中のフッ素濃度は、0.23重量%であった。
得られたコーティング液を用いて、試験例8と同様にしてコーティング膜を調製し、接触角および表面エネルギーを算出した(表5)。
【0159】
[比較試験例3]
重合体(B2)(0.25g)、およびネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル(4.75g)を、2-ブタノン(45g)に溶解させた。さらに、硬化剤としてサンエイドSI−60(三新化学工業株式会社製)(0.2299g)を加えて(エポキシ基/サンエイドSI−60=99/1(モル比)、エポキシ量:44.02mmol)、コーティング剤を得た。
得られたコーティング剤の樹脂固形分中のフッ素濃度は、1.17重量%であった。
得られたコーティング液を用いて、試験例8と同様にしてコーティング膜を調製し、接触角および表面エネルギーを算出した(表5)。
【0160】
[比較試験例4]
重合体(B2)(0.50g)、およびネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル(4.50g)を、2-ブタノン(45g)に溶解させた。さらに、硬化剤としてサンエイドSI−60(三新化学工業株式会社製)(0.2182g)を加えて(エポキシ基/サンエイドSI−60=99/1(モル比)、エポキシ量:41.79mmol)、コーティング剤を得た。
得られたコーティング剤の樹脂固形分中のフッ素濃度は、2.34重量%であった。
得られたコーティング液を用いて、試験例8と同様にしてコーティング膜を調製し、接触角および表面エネルギーを算出した(表5)。
【0161】
[比較試験例5]
重合体(B2)(1.00g)、およびネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル(4.00g)を、2-ブタノン(45g)に溶解させた。さらに、硬化剤としてサンエイドSI−60(三新化学工業株式会社製)(0.1950g)を加えて(エポキシ基/サンエイドSI−60=99/1(モル比)、エポキシ量:37.34mmol)、コーテ
ィング剤を得た。
得られたコーティング剤の樹脂固形分中のフッ素濃度は、4.67重量%であった。
得られたコーティング液を用いて、試験例8と同様にしてコーティング膜を調製し、接触角および表面エネルギーを算出した(表5)。
【0162】
[比較試験例6]
得られた重合体(B2)(1.50g)、およびネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル(3.50g)を、2-ブタノン(45g)に溶解させた。さらに、硬化剤としてサンエイドSI−60(三新化学工業株式会社製)(0.1718g)を加えて(エポキシ基/サンエイドSI−60=99/1(モル比)、エポキシ量:32.90mmol)、コーティング剤を得た。
得られたコーティング剤の樹脂固形分中のフッ素濃度は、7.01重量%であった。
得られたコーティング液を用いて、試験例8と同様にしてコーティング膜を調製し、接触角および表面エネルギーを算出した(表5)。
【0163】
[比較試験例7]
ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル(5.00g)を、2-ブタノン(45g)に溶解させた。さらに、硬化剤としてサンエイドSI−60(三新化学工業株式会社製)(0.2173g)を加えて(エポキシ基/サンエイドSI−60=99/1(モル比)、エポキシ量:46.00mmol)、コーティング剤を得た。
得られたコーティング液を用いて、試験例8と同様にしてコーティング膜を調製し、接触角および表面エネルギーを算出した(表5)。
【0164】
【表5】

【0165】
表5に示されたように、フッ素濃度が0の場合(比較試験例7)と比較すると、試験例8〜12、および比較試験例2〜6で得られたコーティング膜は、撥水・撥油性とも高く、表面自由エネルギーが低いことがわかる。これらは、コーティング膜を形成する硬化樹脂に含まれるフッ素原子の効果によるものと考えられる。
さらに、比較試験例2〜6を比較すると、試験例8〜12で得られたコーティング膜は、その膜を形成する硬化樹脂に含まれるフッ素濃度が同程度であるにもかかわらず、撥水・撥油性とも高いこと、特に撥水性が高いことがわかる。また、表面自由エネルギーも低いことがわかる。これらは、硬化樹脂に含まれるフルオロシルセスキオキサンの効果によ
るものと考えられる。
【0166】
[実施例9] 重合体(A9)の合成
<重合>
還流冷却器、温度計、滴下漏斗およびアルゴンバブリング用のシリンジ付きのセプタムキャップを取り付けた内容積5Lの四つ口フラスコに、化合物(a−1)を760.68g、グリシジルメタクリレート(GMA)を60.77g、3−エチル−3−オキセタニルメチルメタクリレート(OXE−30)を55.13g、3,4−エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレート(M100)を25.16g、片末端メタクリロキシ基変性ジメチルシリコーン(FM0721、分子量約6,300)を498.26g、2−ブタノン(MEK)を1394.31g導入し、窒素シールした。95℃のオイルバスにセットして還流させ、10分間脱酸素を行った。次いで3.6469gの2,2'−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)と2.0459gのメルカプト酢酸(AcSH)を51.24gのMEKに溶解させた溶液を導入し、還流温度に保ったまま重合を開始した。3時間重合した後、3.6459gのAIBNを32.82gのMEKに溶解させた溶液を導入し、さらに2時間重合を継続した。重合終了後、重合体組成物に変性アルコール(ソルミックスAP−1、日本アルコール販売(株)製)を1.4L加えた後、28LのソルミックスAP−1に注ぎ込んで重合体を析出させた。上澄みを除去し、減圧乾燥(80℃、5時間)させて1035gの重合体(A9)を得た。得られた重合体のGPC分析により求めた重量平均分子量は39,000、分子量分布は1.50であった。また重合体(A9)の1H−NMR測定より求めた単量体成分の組成モル分率は化合物(a−1):GMA:OXE−30:M100:FM0721=40.8:25.2:19.2:9.0:5.8であった。さらに、重合体(A9)の1H−NMR測定より求めたフッ素濃度は17.05重量%であった。
【0167】
[比較例3] 重合体(B3)の合成
<重合>
還流冷却器、温度計、滴下漏斗およびアルゴンバブリング用のシリンジ付きのセプタムキャップを取り付けた内容積50mlの四つ口フラスコに、2−(パーフルオロブチル)エチルメタクリレート(M−1420)を4.53g、GMAを1.33g、OXE−30を1.21g、M100を0.55g、FM0721を4.27g、メチルメタクリレート(MMA)を0.10g、MEKを17.93g導入し、アルゴンシールした。95℃のオイルバスにセットして還流させ、10分間脱酸素を行った。次いで0.0441gのAIBNと0.0247gのAcSHを0.6195gのMEKに溶解させた溶液を導入し、還流温度に保ったまま重合を開始した。3時間重合した後、0.0441gのAIBNを0.3968gのMEKに溶解させた溶液を導入し、さらに2時間重合を継続した。重合終了後、重合体組成物にソルミックスAP−1を15mL加えた後、300mLのソルミックスAP−1に注ぎ込んで重合体を析出させた。上澄みを除去し、減圧乾燥(80℃、3時間)させて6.8gの重合体(B1)を得た。得られた重合体のGPC分析により求めた重量平均分子量は53,500、分子量分布は1.70であった。また、重合体(B3)の1H−NMR測定より求めた単量体成分の組成モル分率はM−1420:GMA:OXE−30:M100:FM0721:MMA=42.5:27.0:18.5:7.8:2.2:2.0であった。さらに、重合体(B3)の1H−NMR測定より求めたフッ素濃度は19.67重量%であった。
【0168】
[試験例13] コーティング膜の調製
得られた重合体(A9)を0.24g、および3,4―エポキシシクロヘキセニルメチル―3,4―エポキシシクロヘキセンカルボキシレート(セロキサイド2021、エポキシ当量:131g/mol,ダイセル化学工業株式会社製)3.76gを、混合溶媒(2−ブタノン/シクロヘキサノン/2−プロパノール/3−メトキシプロピオン酸メチル=重
量比50/20/15/15)36.0gに溶解させた。さらに、硬化剤としてカチオン重合開始剤0.065g(エポキシ基/カチオン重合開始剤=228/1(モル比)、エポキシ量:28.7mmol)を加え、コーティング剤を得た。
得られたコーティング剤の樹脂固形分中のフッ素濃度は、1.04重量%であり、樹脂固形分中のシリコーン濃度は、2.33重量%であった。「樹脂固形分中のフッ素濃度」および「樹脂固形分中のシリコーン濃度」とは、重合体(A9)とセロキサイド2021との総重量に対する、重合体(A9)に含まれるフッ素およびシリコーン重量の比率を意味し、重合体(A9)とセロキサイド2021の重量比から計算した。
得られたコーティング液を、コーティングロッド(#4、R.D.スペシャリティーズ社製)を用いて、ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ:75μm 銘柄名:ルミラ-T−60、東レ株式会社製)上に塗布した。得られた塗膜を、150℃の高温チャンバーで30秒間硬化・乾燥させて、膜厚約0.9μmの透明なコーティング膜を得た。
【0169】
[試験例14] コーティング膜の調製
得られた重合体(A9)を0.24g、およびネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル(SR−NPG、エポキシ当量:145g/mol,坂本薬品工業株式会社製)3.76gを、混合溶媒2−ブタノン/2−プロパノール=重量比70/30)36.0gに溶解させた。さらに、硬化剤としてカチオン重合開始剤0.135g(エポキシ基/カチオン重合開始剤=100/1(モル比)、エポキシ量:25.9mmol)を加え、コーティング剤を得た。
得られたコーティング剤の樹脂固形分中のフッ素濃度は、1.04重量%であり、樹脂固形分中のシリコーン濃度は、2.33重量%であった。「樹脂固形分中のフッ素濃度」および「樹脂固形分中のシリコーン濃度」とは、重合体(A9)とSR−NPGとの総重量に対する、重合体(A9)に含まれるフッ素およびシリコーン重量の比率を意味し、重合体(A9)とSR−NPGの重量比から計算した。
得られたコーティング液を、コーティングロッド(#4、R.D.スペシャリティーズ社製)を用いて、ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ:75μm 銘柄名:ルミラ-T−60、東レ株式会社製)上に塗布した。得られた塗膜を、150℃の高温チャンバーで30秒間硬化・乾燥させて、膜厚約0.9μmの透明なコーティング膜を得た。
【0170】
[比較試験例8] コーティング膜の調製
得られた重合体(B3)を0.24g、3,4―エポキシシクロヘキセニルメチル―3,4―エポキシシクロヘキセンカルボキシレート(セロキサイド2021、エポキシ当量:131g/mol,ダイセル化学工業株式会社製)3.76gを、混合溶媒(2−ブタノン/シクロヘキサノン/2−プロパノール/3−メトキシプロピオン酸メチル=重量比50/20/15/15)36.0gに溶解させた。さらに、硬化剤としてカチオン重合開始剤0.065g(エポキシ基/カチオン重合開始剤=228/1(モル比)、エポキシ量:28.7mmol)を加え、コーティング剤を得た。得られたコーティング剤の樹脂固形分中のフッ素濃度は、1.22重量%であり、樹脂固形分中のシリコーン濃度は、2.33重量%であった。
得られたコーティング液を、コーティングロッド(#4、R.D.スペシャリティーズ社製)を用いて、ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ:75μm 銘柄名:ルミラ-T−60、東レ株式会社製)上に塗布した。得られた塗膜を、150℃の高温チャンバーで30秒間硬化・乾燥させて、膜厚約0.9μmの透明なコーティング膜を得た。
【0171】
[比試験較例9] コーティング膜の調製
得られた重合体(B3)を0.24g、およびネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル(SR−NPG、エポキシ当量:145g/mol,坂本薬品工業株式会社製)3.76gを、混合溶媒(2−ブタノン/2−プロパノール=重量比70/30)36.0gに溶解させた。さらに、硬化剤としてカチオン重合開始剤0.135g(エポキシ基/カ
チオン重合開始剤=100/1(モル比)、エポキシ量:25.9mmol)を加え、コーティング剤を得た。
得られたコーティング剤の樹脂固形分中のフッ素濃度は、1.22重量%であり、樹脂固形分中のシリコーン濃度は、2.33重量%であった。
得られたコーティング液を、コーティングロッド(#4、R.D.スペシャリティーズ社製)を用いて、ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ:75μm 銘柄名:ルミラ-T−60、東レ株式会社製)上に塗布した。得られた塗膜を、150℃の高温チャン
バーで30秒間硬化・乾燥させて、膜厚約0.9μmの透明なコーティング膜を得た。
【0172】
[試験例15]
本発明における[試験例13]、[試験例14]、[比較試験例8] および[比較試験例9]より得られるコーティング膜の物性値は、下記の方法にて測定した。
1)剥離力試験
フィルム離形層面にアクリル系粘着テープ(日東電工 No.31B)およびシリコーン系粘着テープ(テラオカ No.640S)を貼り合わせ、2kgの圧着ローラーで圧着し、圧着から24時間後の離形層と粘着層との剥離力を引っ張り試験機にて測定した。2)剥離力試験 (耐熱)
フィルム離形層面にアクリル系粘着テープ(日東電工 No.31B)およびシリコーン系粘着テープ(テラオカ No.640S)を貼り合わせ、2kgの圧着ローラーで圧着し、圧着から30分間室温で放置した。つぎに130℃の高温チャンバー内にて1時間熱履歴を加えた後、30分間放冷し、離形層と粘着層との剥離力を引っ張り試験機にて測定した。
3)残留接着力測定
アクリル系粘着テープ(日東電工 No.31B テープ幅:25mm)をテフロン(登録商標、縦100mm×横100mm×厚さ2mm)板に貼り合わせ、2kgの圧着ローラーで一往復圧着後、SUS板(材質:SUS 304、縦100mm×横100mm×厚さ1mm)を圧着させたテープ上に置き、さらに2kgの分銅を置くことで、1cm2当り20gの荷重が掛かるようにした。つぎに70℃の高温チャンバー内にて20時間、熱履歴を加えた後、30分間放冷し、荷重を掛け、熱履歴を加えたアクリル系粘着テープ(日東電工 No.31B)をSUS板(SUS 304)に貼り直し、2kgの圧着ローラーで一往復圧着した。圧着から30分後の剥離力を基礎接着力(f0)とした。前記アクリル系粘着テープをフィルム離形層面に貼り合わせ、2kgの一往復圧着ローラーで圧着し、SUS板(材質:SUS 304、縦100mm×横100mm×厚さ1mm)を圧着させたテープ上に置き、さらに2kgの分銅をのせ、1cm2当り20gの荷重がかかるようにした。つぎに70℃の高温チャンバー内にて20時間、熱履歴を加えた後、30分間放冷し、荷重を掛け、熱履歴を加えたアクリル系粘着テープ(日東電工 No.31B テープ幅:25mm)をSUS板(SUS 304)に貼り直し、2kgの一往復圧着ローラーで圧着した。圧着から30分後の剥離力を残留接着力(f)とした。得られた基礎接着力と残留接着力から下記式を用いて残留接着力を求めた。
残留接着率 (%) = ( f / f0 )× 100
4)接触角および表面自由エネルギー測定
プローブ液体として、蒸留水(窒素・りん測定用、関東化学株式会社製)、およびヨウ化メチレン(99%、アルドリッチ社製)を用いた接触角を測定し、かつKaelble-Uyの理論に従って表面自由エネルギーを算出した。
表6に得られたコーティング膜の物性値を示す。
5)ラブオフ試験
コーティング膜を指の腹で10回往復し、塗膜の脱落の有無を評価した(表6)。
6)耐溶剤性
コーティング膜を2−プロパノールを含浸させた脱脂綿にて10回往復し、塗膜の脱落の有無を評価した(表6)。
【0173】
【表6】

【0174】
(試験例等の評価結果の考察)
試験例13と比較試験例8とを比較すると、フルオロシルセスキオキサン化合物を含む試験例13の方が、塗膜中のシリコーン含有量は同等であり、フッ素濃度は低いにも拘わらず、離型特性が優れ、特に対アクリル系粘着テープにおける加熱後、対シリコーン系粘着テープにおける室温および加熱後で、著しく優れた離型特性を発現していることが分かる。
試験例14と比較試験例9とを比較しても、フルオロシルセスキオキサン化合物を含む試験例14の方が、塗膜中のシリコーン含有量は同等であり、フッ素濃度は低いにも拘わらず、離型特性が優れ、特に対アクリル系粘着テープにおける加熱後、対シリコーン系粘着テープにおける室温および加熱後で、著しく優れた離型特性を発現していることが分かる。
よってフルオロシルセスキオキサン化合物は、従来のフルオロアルキルメタクリレートを使用するよりも、オルガノポリシロキサンの離型特性を強化させる効果があることが分かる。またマトリックス樹脂であるエポキシ化合物の種類が異なった場合でも、フルオロシルセスキオキサンのオルガノポリシロキサンの離型特性を強化させる効果があることが分かる。
試験例14と比較試験例9における耐溶剤性試験の結果、明らかに試験例14の方が耐溶剤性に優れており、これもコーティング膜中に含まれるフルオロシルセスキオキサン化合物の効果によるものと考えられる。
表6に示されたように、フルオロシルセスキオキサン化合物を含まない場合(比較試験例8、9)と比較すると、試験例13、14で用いたコーティング膜は、撥水撥油性、汚防性、非粘着性、離型性、耐薬品性を有することがわかる。これらは、コーティング膜に含まれるフルオロシルセスキオキサン化合物の効果によるものと考えられる。
本願のシルセスキオキサンとオルガノポリシロキサンとの共重合体と有機樹脂とを含む樹脂組成物を含有する表面処理剤から得られるコーティング膜は、耐薬品性が強化され、永久膜としても優れている。
【0175】
[比較例4]
重合体(B4)の合成
<重合>
還流冷却器、温度計、滴下漏斗およびアルゴンバブリング用のシリンジ付きのセプタムキャップを取り付けた内容積50mlの四つ口フラスコに、GMAを0.52g、OXE−30を0.47g、M100を0.22g、FM0721を4.27g、MMAを6.52g、MEKを17.92g導入し、窒素シールした。95℃のオイルバスにセットして還流させ、10分間脱酸素を行った。次いで0.05gのAIBNと0.03gのAcSHを0.70gのMEKに溶解させた溶液を導入し、還流温度に保ったまま重合を開始した。3時間重合した後、0.05gのAIBNを0.45gのMEKに溶解させた溶液を導入し、さらに2時間重合を継続した。重合終了後、重合体組成物にソルミックスAP−1を15mL加えた後、300mLのソルミックスAP−1に注ぎ込んで重合体を析出させた。上澄みを除去し、減圧乾燥 (80℃、3時間)させて6.69gの重合体 (B4)を得た。得られた重合体のGPC分析により求めた重量平均分子量は36,300、分子量分布は1.79であった。また、重合体 (B4)の1H−NMR測定より求めた単量体成分の組成モル分率はGMA:OXE−30:M100:FM0721:MMA=4.5:3.8:1.4:1.1:89.2であった。
【0176】
[実施例10]
コーティング液(C−1)の調製
得られた重合体(A9)を0.24g、およびEHPE3150CE(2,2−ビス(ヒドロキシメチル)−1−ブタノールの1,2−エポキシ−4−(2−オキシラニル)シクロヘキサン付加物と (3'4'−エポキシシクロヘキサン)メチル3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート の混合物、エポキシ当量:151g/mol,ダイセル化学工業株式会社製)3.76gを、混合溶媒(2−ブタノン/シクロヘキサノン/2−プロパノール/3−メトキシプロピオン酸メチル=重量比50/20/15/15)36.0gに溶解させた。さらに、硬化剤としてカチオン重合開始剤0.03g(エポキシ基/カチオン重合開始剤=398/1(モル比)、エポキシ量:25.0mmol)を加え、コーティング液(C−1)を得た。
コーティング液(C−1)の樹脂固形分中のフッ素濃度は、1.04重量%であり、樹脂固形分中のシリコーン濃度は、2.33重量%であった。「樹脂固形分中のフッ素濃度」および「樹脂固形分中のシリコーン濃度」とは、重合体 (A9)とEHPE3150CEとの総重量に対する、重合体 (A9)に含まれるフッ素およびシリコーン重量の比率を意味し、重合体(A9)とEHPE3150CEの重量比から計算した(表7)。
【0177】
[比較例5]
コーティング液(D-1)の調製
得られた重合体(B3)を0.24g、およびEHPE3150CE(2,2−ビス(ヒドロキシメチル)−1−ブタノールの1,2−エポキシ−4−(2−オキシラニル)シクロヘキサン付加物と (3'4'−エポキシシクロヘキサン)メチル3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレートの混合物、エポキシ当量:151g/mol,ダイセル化学工業株式会社製)3.76gを、混合溶媒(2−ブタノン/シクロヘキサノン/2−プロパノール/3−メトキシプロピオン酸メチル=重量比50/20/15/15)36.0gに溶解させた。さらに、硬化剤としてカチオン重合開始剤0.03g(エポキシ基/カチオン重合開始剤=398/1(モル比)、エポキシ量:25.3mmol)を加え、コーティング液(D-1)を得た。
得られたコーティング液(D-1)の樹脂固形分中のフッ素濃度は、1.22重量%であり、樹脂固形分中のシリコーン濃度は、2.33重量%であった。「樹脂固形分中のフッ素濃度」および「樹脂固形分中のシリコーン濃度」とは、重合体(B3)とEHPE3150CEとの総重量に対する、重合体 (B3)に含まれるフッ素およびシリコーン重量の比率を意味し、重合体(B3)とEHPE3150CEの重量比から計算した(表7)。
【0178】
[比較例6]
コーティング液(D-2)の調製
得られた重合体(B4)を0.24g、およびEHPE3150CE(2,2−ビス(ヒドロキシメチル)−1−ブタノールの1,2−エポキシ−4−(2−オキシラニル)シクロヘキサン付加物と (3'4'−エポキシシクロヘキサン)メチル3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレートの混合物、エポキシ当量:151g/mol,ダイセル化学工業株式会社製)3.76gを、混合溶媒(2−ブタノン/シクロヘキサノン/2−プロパノール/3−メトキシプロピオン酸メチル=重量比50/20/15/15)36.0gに溶解させた。さらに、硬化剤としてカチオン重合開始剤0.03g(エポキシ基/カチオン重合開始剤=398/1(モル比)、エポキシ量:25.3mmol)を加え、コーティング液 (D−2)を得た。
得られたコーティング液(D-2)の樹脂固形分中のフッ素濃度は、0重量%であり、樹脂固形分中のシリコーン濃度は、2.33重量%であった。「樹脂固形分中のフッ素濃度」および「樹脂固形分中のシリコーン濃度」とは、重合体(B4)とEHPE3150CEとの総重量に対する、重合体 (B4)に含まれるフッ素およびシリコーン重量の比率を意味し、重合体(B4)とEHPE3150CEの重量比から計算した(表7)。
【0179】
【表7】

【0180】
[実施例11]
コーティング液(C−1)を、コーティングロッド(#4、R.D.スペシャリティーズ社製)を用いて、ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ:75μm 銘柄名:ルミラ-75−T60、東レ株式会社製)上に塗布した。コーティングロッド(#4)を使用した時のウェット膜厚は9μmである。得られた塗膜を、150℃の高温チャンバーで30秒間硬化・乾燥させて、膜厚約0.9μmの透明なコーティング膜を得た。膜厚は下記の式に従い、コーティングロッド(#4)を使用した時のウェット膜厚とコーティング液中の樹脂固形分より算出した。
膜厚 (μm) = (コーティングロッドを使用した時のウェット膜厚) × (コーティング液中の樹脂固形分重量%) / 100
【0181】
[比較例7]
コーティング液(C−1)の代わりにコーティング液(D−1)を用いた以外は、実施例11と同じ手順で理論膜厚約0.9μmの透明なコーティング膜を得た。
【0182】
[実施例12]
コーティング液(C−1)を、コーティングロッド(#4、R.D.スペシャリティーズ社製)を用いて、ステンレス板(SUS304、縦130mm×横70mm×厚さ0.5mm)上に塗布した。コーティングロッド(#4)を使用した時のウェット膜厚は9μmである。得られた塗膜を、150℃の高温チャンバーで30秒間硬化・乾燥させて、膜厚約0.9μmの透明なコーティング膜を得た。膜厚は下記の式に従い、コーティングロッド(#4)を使用した時のウェット膜厚とコーティング液中の樹脂固形分より算出した。
膜厚 (μm) = (コーティングロッドを使用した時のウェット膜厚) × (コー
ティング液中の樹脂固形分重量%) / 100
【0183】
[比較例8]
コーティング液(C−1)の代わりにコーティング液(D−1)を用いた以外は、実施例12と同じ手順で理論膜厚約0.9μmの透明なコーティング膜を得た。
【0184】
[比較例9]
コーティング液(C-1)の代わりにコーティング液(D−2)を用いた以外は、実施例12と同じ手順で理論膜厚約0.9μmの透明なコーティング膜を得た。
【0185】
[実施例13]
コーティング液(C-1)を、コーティングロッド(#4、R.D.スペシャリティーズ社製)を用いて、ガラス基板(コーニングガラス#1737、縦130mm×横70mm×厚さ0.7mm)上に塗布した。コーティングロッド(#4)を使用した時のウェット膜厚は9μmである。得られた塗膜を、150℃の高温チャンバーで30秒間硬化・乾燥させて、膜厚約0.9μmの透明なコーティング膜を得た。膜厚は下記の式に従い、コーティングロッド(#4)を使用した時のウェット膜厚とコーティング液中の樹脂固形分より算出した。
膜厚 (μm) = (コーティングロッドを使用した時のウェット膜厚) × (コーティング液中の樹脂固形分重量%) / 100
【0186】
[比較例10]
コーティング液(C−1)の代わりにコーティング液(D−1)を用いた以外は、実施例13と同じ手順で理論膜厚約0.9μmの透明なコーティング膜を得た。
【0187】
[比較例11]
コーティング液(C−1)の代わりにコーティング液(D−2)を用いた以外は、実施例13と同じ手順で理論膜厚約0.9μmの透明なコーティング膜を得た。
【0188】
[試験例16]
本発明における実施例11、比較例7、実施例12、比較例8、実施例13、および比較例10より得られるコーティング膜の物性値は、下記の方法にて測定した。
1)剥離力試験
離形層面にアクリル系粘着テープ (日東電工 No.31B)およびシリコーン系粘着テープ(テラオカ No.640S)を貼り合わせ、2kgの圧着ローラーで圧着し、圧着から24時間後の離形層と粘着層との剥離力を引っ張り試験機にて測定した。
2)剥離力試験(耐熱)
離形層面にアクリル系粘着テープ(日東電工 No.31B)およびシリコーン系粘着テープ(テラオカ No.640S)を貼り合わせ、2kgの圧着ローラーで圧着し、圧着から30分間室温で放置した。つぎに130℃の高温チャンバー内にて1時間熱履歴を加えた後、30分間放冷し、離形層と粘着層との剥離力を引っ張り試験機にて測定した。3)残留接着力測定
アクリル系粘着テープ(日東電工 No.31B テープ幅:25mm)をテフロン(登録商標、縦100mm×横100mm×厚さ2mm)板に貼り合わせ、2kgの圧着ローラーで一往復圧着後、SUS板(材質:SUS 304、縦100mm×横100mm×厚さ1mm)を圧着させたテープ上に置き、さらに2kgの分銅を置くことで、1cm2当り20gの荷重が掛かるようにした。つぎに70℃の高温チャンバー内にて20時間、熱履歴を加えた後、30分間放冷し、荷重を掛け、熱履歴を加えたアクリル系粘着テープ(日東電工 No.31B)をSUS板(SUS 304)に貼り直し、2kgの圧着ローラーで一往復圧着した。圧着から30分後の剥離力を基礎接着力(f0)とした。前
期アクリル系粘着テープを離形層面に貼り合わせ、2kgの一往復圧着ローラーで圧着し、SUS板(材質:SUS 304、縦100mm×横100mm×厚さ1mm)を圧着させたテープ上に置き、さらに2kgの分銅をのせ、1cm2当り20gの荷重がかかるようにした。つぎに70℃の高温チャンバー内にて20時間、熱履歴を加えた後、30分間放冷し、荷重を掛け、熱履歴を加えたアクリル系粘着テープ(日東電工 No.31B
テープ幅:25mm)をSUS板(SUS 304)に貼り直し、2kgの一往復圧着ローラーで圧着した。圧着から30分後の剥離力を残留接着力(f)とした。得られた基礎接着力と残留接着力から下記式を用いて残留接着力を求めた。
残留接着率 (%) = ( f / f0 )× 100
4)接触角および表面自由エネルギー測定
プローブ液体として、蒸留水(窒素・りん測定用、関東化学株式会社製)、およびヨウ化メチレン(99%、アルドリッチ社製)を用いた接触角を測定し、かつKaelble-Uyの理論に従って表面自由エネルギーを算出した。
5)ラブオフ試験
コーティング膜を指の腹で10回往復し、塗膜の脱落の有無を評価した。
6)耐溶剤性
コーティング膜をアセトンを含浸させた脱脂綿にて10回往復し、塗膜の脱落の有無を評価した。
実施例11および比較例7、実施例12および比較例8、実施例13および比較例10より得られるコーティング膜の物性値およびそれらのコーティング膜を用いた試験結果を、それぞれ表8、9、10に示す。
【0189】
【表8】

【0190】
【表9】

【0191】
【表10】

【0192】
(試験例等の評価結果の考察)
表8中の実施例11と比較例7とを比較すると、フルオロシルセスキオキサン化合物を含む実施例11の方が、比較例7と比較してシリコーン含有量は同等であり、フッ素濃度は低いにも拘わらず、離型特性が優れ、特に対アクリル系粘着テープにおける加熱後、対シリコーン系粘着テープにおける室温および加熱後で、著しく優れた離型特性を発現していることが分かる。
表9、10の実施例12、13と比較例8、10とを比較すると、フルオロシルセスキオキサン化合物を含む実施例12、13の方が、比較例8、10と比較してシリコーン含有量は同等であり、フッ素濃度は低いにも拘わらず、離型特性が優れている。
表8、9、10より、基材の種類(ポリエチレンテレフタレートフィルム、ステンレス板およびガラス板)に拘わらず、フルオロシルセスキオキサン化合物を含む実施例11、実施例12および実施例13は、優れた離形特性を発現することが分かる。
表8、9、10に示されたように、フルオロシルセスキオキサン化合物を含まない場合(比較例7、8、10)と比較すると、実施例11、12、13で用いたコーティング膜は、撥水撥油性、非粘着性、離型性、耐薬品性を有することが分かる。これらは、コーティング膜に含まれるフルオロシルセスキオキサン化合物の効果によるものと考えられる。
本願のシルセスキオキサンとオルガノポリシロキサンとの共重合体と有機樹脂とを含む樹脂組成物を含有する表面処理剤から得られるコーティング膜は、耐薬品性が強化され、永久膜としても優れている。
【0193】
[試験例17]
本発明における実施例12、比較例9、実施例13および比較例11より得られるコーティング膜の物性値は、下記の方法にて測定した。
[表面硬度]
表面性試験機 HEIDON Type:14W (新東化学株式会社製)を用いて、JIS K5400に準じて測定を行った。
[密着性]
塗膜に1mm間隔で縦横それぞれ11本の切れ目を付け、100個のマス目を作り、市販のセロハンテープ(セロテープ(登録商標)、CT24、ニチバン社製)をよく密着させ、90度手前方向に急激に剥がした際の、コーティング膜が剥離せずに残存した碁盤目の個数を表した。なお、この方法はJIS K5400に準拠している。
[滑り性]
表面性試験機 HEIDON Type:14W (新東化学株式会社製)を用いて、ASTM D 1894−3に準じて測定を行った。
[耐汚染性]
油性サインペン(マジックインキ(登録商標)、黒、M500−T1、寺西化学工業株式会社)および油性サインペン(マジックインキ(登録商標)、赤、M500−T2、寺西化学工業株式会社)を用いて、塗膜上に1.5mm×100mmの線を引いた。室温で24時間放置し、紙ワイパー(キムワイプS−200(登録商標)、十条キンバリー株式会社製)で拭き取った。その際の拭き取りやすさ、及び拭き取った後の塗膜について、以下の評価基準に従って評価を行った。
+++: 軽く拭き取れる
++ : 拭き取りにくいが、あとが残らない
+ : 拭き取りにくくあとも残る
表11、12に得られたコーティング膜の物性値及び評価結果を示す。
【0194】
【表11】

【0195】
【表12】

【0196】
(試験例等の評価結果の考察)
表11、12の実施例12、13と比較例9、11とを比較すると、実施例12、13の方が、塗膜中のシリコーン含有量が比較例9、11と同等にも拘らず、マジックインキの拭き取り性に対して良好であった。実施例12、13と比較例9、11とを比較すると、実施例12、13の方が、塗膜中のシリコーン含有量が比較例9、11と同等にも拘らず、低い摩擦抵抗を発現している。これらは、コーティング膜に含まれるフルオロシルセスキオキサン化合物の効果によるものと考えられる。
本願のシルセスキオキサンとオルガノポリシロキサンとの共重合体と有機樹脂とを含む樹脂組成物を含有する表面処理剤から得られるコーティング膜は、基材に対して良好な密着性を有し、基材表面に汚防性、滑り性を付与することができることが分かる。
【0197】
[実施例14]
コーティング膜の調製
コーティング液(C−1)をスピンコーター(スピンナー1H−III型、協栄セミコンダクター株式会社製)を用いて、ガラス基板(合成石英ガラス、縦26mm×横28mm
×厚さ0.7mm、株式会社ビードレックス社製)上に、回転数:2000rpm、回転時間:30秒の条件にて塗布した。塗布された基板を、150℃の高温チャンバーで30分間硬化・乾燥させて、透明なコーティング膜を得た。カッターナイフを用いてコーティング膜を基板上から切り取り、表面プロファイラー(alpha−step 200、TENCOR INSTRUMENS社製)で膜厚測定を行った。塗膜の膜厚は、0.51μmであった。
[比較例12]
コーティング膜の調製
コーティング液(C-1)の代わりにコーティング液(D−1)を用いた以外は、実施例14と同じ手順でコーティング膜を得た。塗膜の膜厚は、0.51μmであった。
[試験例18]
本発明における実施例11、比較例7、実施例14および比較例12より得られるコーティング膜の物性値は、下記の方法にて測定した。
[曇度]
ヘイズメーター(NDH2000、日本電色工業株式会社製)を用いて、JIS K7105に準拠して曇度の測定を行った。
[透過率測定]
紫外可視分光光度計(V−560、日本分光株式会社)を用いて、400〜700nmの波長範囲で透過率の測定を行った。
[屈折率測定]
高速分光エリプソメーター M−200U(ジェー・エー・ウーラム社製)を用いて、測定波長633nmでコーティング膜の屈折率の測定を行った。
[反射率測定]
分光色彩計(SPECTRO PHOTOMETER SD5000、日本電色工業株式会社製)を用いて、測定波長550nmでのコーティング膜の反射率の測定を行った。表13、14に得られたコーティング膜の物性値を示す。
【0198】
【表13】

【0199】
【表14】

【0200】
(試験例等の評価結果の考察)
表13の実施例11と比較例7および基材であるポリエチレンテレフタレートフィルムとを比較すると、フルオロシルセスキオキサン化合物を含む実施例11の方が、ヘイズ値が低く、透過率が上昇している。特に400〜700nmの波長領域では、透過率が数%上昇している。
表13の実施例11と比較するとフルオロシルセスキオキサンを含有する実施例11の方が、フッ素含有量が少ないにも拘らず、屈折率の値が小さいことが分かる。これは、コーティング膜に含まれるフルオロシルセスキオキサン化合物の効果によるものと考えられる。
よってフルオロシルセスキオキサン化合物は、従来のフルオロアルキルメタクリレートを使用するよりも、透過率を上昇させ、屈折率を下げる効果があることが分かる。
表14の実施例14と比較例12を比較すると、フルオロシルセスキオキサン化合物を含む実施例14の方が、透過率が高いことが分かる。
よってフルオロシルセスキオキサン化合物は、従来のフルオロアルキルメタクリレートを使用するよりも、基材の持つ高透明性を損なうことなく、基材表面へ良好な撥水撥油性、汚防性、滑り性、非粘着性を付与することができる。
【0201】
[実施例15]
コーティング膜の調製
表面抵抗測定用サンプルは、コーティング液(C−1)をスピンコーター(スピンナー1H−III型、協栄セミコンダクター株式会社製)を用いて、シリコンウェハー(4インチ片面ミラーウェハー:体積抵抗率9.6〜11.3Ω・cm、三菱マテリアル株式会社製)上に、回転数:1500rpm、回転時間:30秒の条件にて塗布した。塗布された基板を、150℃の高温チャンバーで30分間硬化・乾燥させて、透明なコーティング膜を得た。カッターナイフを用いてコーティング膜を基板上から切り取り、表面プロファイラー(alpha−step 200、TENCOR INSTRUMENS社製)で膜厚測定を行った。塗膜の膜厚は、0.49μmであった。
体積抵抗および比誘電率測定用サンプルは、コーティング液(C−1)をスピンコーター(スピンナー1H−III型、協栄セミコンダクター株式会社製)を用いて、シリコンウェハー(4インチ片面ミラーウェハー:体積抵抗率≦0.02Ω・cm、三菱マテリアル株式会社製)上に、回転数:1500rpm、回転時間:30秒の条件にて塗布した。塗布された基板を、150℃の高温チャンバーで30分間硬化・乾燥させて、透明なコーティング膜を得た。カッターナイフを用いてコーティング膜を基板上から切り取り、表面プロファイラー(alpha−step 200、TENCOR INSTRUMENS社製)で膜厚測定を行った。塗膜の膜厚は、0.49μmであった。
【0202】
[比較例13]
コーティング膜の調製
コーティング液(C-1)の代わりにコーティング液(D−1)を用いた以外は、実施例14と同じ手順でコーティング膜を得た。表面抵抗測定用サンプルの膜厚は、0.48μmであり、体積抵抗および比誘電率測定用サンプルの膜厚は、0.47μmであった。
【0203】
[試験例19]
本発明における実施例15および比較例13より得られるコーティング膜の物性値は、下記の方法にて測定した。
[表面抵抗率試験]
Hiresta-UP MCP-HT450(三菱化学株式会社製)を用いて、三菱化学 MCC−A法に準拠して表面抵抗率の測定を行った。
[体積抵抗率試験]
Hiresta-UP MCP-HT450(三菱化学株式会社製)を用いて、三菱化学 MCC−A法に準拠して体積抵抗率の測定を行った。
[誘電率試験]
LCR meter HP4263B(アジレント・テクノロジー株式会社製)を用いて、周波数が1kHzおよび100kHzでの比誘電率の測定を行った。precision LCR meter HP4284A(アジレント・テクノロジー株式会社製)を用いて、周波数が1MHzでの比誘電率の測定を行った。
表15に得られた塗膜の物性値を示す。
【0204】
【表15】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つの付加重合性官能基を有するフルオロシルセスキオキサン(a)と、付加重合性官能基を有するオルガノポリシロキサン(c)との付加共重合体、または、1つの付加重合性官能基を有するフルオロシルセスキオキサン(a)と、付加重合性官能基を有するオルガノポリシロキサン(c)と、付加重合性単量体(b)との付加共重合体。
【請求項2】
前記フルオロシルセスキオキサン(a)が、下記式(I)で示されることを特徴とする、請求項1に記載の重合体。
【化1】

[式(I)において、
f1〜Rf7はそれぞれ独立して、
任意のメチレンが酸素で置き換えられていてもよい、炭素数1〜20の、直鎖状もしくは分岐鎖状のフルオロアルキル;
少なくとも1つの水素がフッ素もしくはトリフルオロメチルで置き換えられた、炭素数6〜20のフルオロアリール;または
アリール中の少なくとも1つの水素がフッ素もしくはトリフルオロメチルで置き換えられた、炭素数7〜20のフルオロアリールアルキルを示し、
1は、付加重合性官能基を示す。]
【請求項3】
式(I)におけるRf1〜Rf7がそれぞれ独立して、3,3,3-トリフルオロプロピル、3,3,4,4,4-ペンタフルオロブチル、3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロヘキシル、トリデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロオクチル、ヘプタデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロデシル、ヘンイコサフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロドデシル、ペンタコサフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロテトラデシル、(3-ヘプタフルオロイソプロポキシ)プロピル、ペンタフルオロフェニルプロピル、ペンタフルオロフェニル、またはα,α,α-トリフルオロメチルフェニルを示すことを特徴とする、請求項2に記載の重合体。
【請求項4】
式(I)におけるRf1〜Rf7がそれぞれ独立して、3,3,3-トリフルオロプロピル、または3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロヘキシルを示すことを特徴とする、請求項3に記載の重合体。
【請求項5】
オルガノポリシロキサン(c)が下記式(IV)であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の重合体。
【化2】

[式(IV)において、nは1〜1,000の整数であり;R1、R2、R3、R4、およびR5は、それぞれ、水素、炭素数が1〜30であり、任意の水素がフッ素で置き換えられてもよく、そして任意の−CH2−が−O−またはシクロアルキレンで置き換えられてもよいアルキル、置換もしくは非置換のアリール、および置換もしくは非置換のアリールと、任意の水素がフッ素で置き換えられてもよく任意の−CH2−が−O−またはシクロアルキレンで置き換えられてもよいアルキレンとで構成されるアリールアルキル、から独立して選択される基であり;A2は付加重合性官能基である。]
【請求項6】
式(IV)におけるR1およびR2が、それぞれ独立して水素、フェニルまたは炭素数が1〜8で任意の水素がフッ素で置き換えられてもよいアルキルであり;
3およびR4が、独立して炭素数が1〜20であり任意の水素がフッ素で置き換えられてもよいアルキル、炭素数が6〜20であり任意の水素がフッ素で置き換えられてもよいアリール、または炭素数が7〜20であり任意の水素がフッ素で置き換えられてもよいアリールアルキルであり;
5が、炭素数が1〜20であり任意の水素がフッ素で置き換えられてもよいアルキル、炭素数が6〜20であり任意の水素がフッ素で置き換えられてもよいアリール、または炭素数が7〜20であり任意の水素がフッ素で置き換えられてもよいアリールアルキルである請求項5に記載の重合体。
【請求項7】
式(IV)におけるR1およびR2は、それぞれ独立してメチル、フェニルまたは3,3,3−トリフルオロプロピルであり;
3およびR4は、それぞれ独立してメチルまたはフェニルであり;R5はメチル、エチル、プロピル、ブチル、イソブチル、またはフェニルである請求項6に記載の重合体。
【請求項8】
1、R2、R3およびR4は、それぞれ同時にメチルである請求項7に記載の重合体。
【請求項9】
式(I)におけるA1、および式(IV)におけるA2が付加重合性官能基であることを特徴とする、請求項2〜8のいずれか一項に記載の重合体。
【請求項10】
式(I)におけるA1、および式(IV)におけるA2がラジカル重合性官能基であることを特徴とする、請求項9に記載の重合体。
【請求項11】
式(I)におけるA1、および式(IV)におけるA2が(メタ)アクリルまたはスチリルを含むことを特徴とする、請求項10に記載の重合体。
【請求項12】
式(I)におけるA1が、下記式(V)または(VII)で示されるいずれかであり、
式(IV)におけるA2が、下記式(V)、(VI)または(VII)で示されるいずれかである請求項11に記載の重合体。
【化3】

[式(V)において、Y3が炭素数2〜10のアルキレンを示し、R6が水素、または炭素数1〜5の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル、または炭素数6〜10のアリールであり、式(VI)において、R7は水素、または炭素数1〜5の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル、または炭素数6〜10のアリールであり、X1は炭素数が2〜20のアルキレンであり、Yは−OCH2CH2−、−OCH(CH3)CH2−,または−OCH2CH(CH3)−であり、pは0〜3の整数であり、式(VII)において、Y4が単結合または炭素数1〜10のアルキレンを示す。]
【請求項13】
式(V)において、Y3が炭素数2〜6のアルキレンを示し、R6が水素または炭素数1〜3のアルキルを示し、
式(VI)において、X1は−CH2CH2CH2−を示し、Yは−OCH2CH2−を示し、pは0または1を示し、R7が水素または炭素数1〜3のアルキルを示し、式(VII)においてY4が単結合または炭素数1あるいは2のアルキレンを示す、請求項12に記載の重合体。
【請求項14】
付加重合性単量体(b)は、架橋性官能基を有する付加重合性単量体及び架橋性官能基を有さない単量体から選ばれる少なくとも1種以上である、請求項1〜13のいずれか一項に記載の重合体。
【請求項15】
付加重合性単量体(b)が架橋性官能基を有する付加重合性単量体である、請求項1〜13のいずれか一項に記載の重合体。
【請求項16】
架橋性官能基を有する付加重合性単量体がラジカル重合性官能基を有し、且つ同一分子内において1つ以上のヒドロキシル、グリシジル、オキセタニル、エポキシシクロヘキセニル、ハロゲン化アルキル、ブロックドイソシアナト、イソシアナト、アミノまたはカルボキシルを有する化合物である、請求項15に記載の重合体。
【請求項17】
架橋性官能基を有する付加重合性単量体におけるラジカル重合性官能基が(メタ)アクリルまたはスチリルである、請求項16に記載の重合体。
【請求項18】
請求項1〜17のいずれか一項に記載の重合体と、熱可塑性樹脂および/または熱硬化性樹脂とを含む重合体組成物。
【請求項19】
請求項1〜17のいずれか一項に記載の重合体と、熱硬化性樹脂とを含む重合体組成物。
【請求項20】
熱硬化性樹脂がヒドロキシル、グリシジル、オキセタニル、エポキシシクロヘキセニル、ハロゲン化アルキル、ブロックドイソシアナト、イソシアナト、アミノまたはカルボキシルを有する化合物である、請求項19に記載の重合体組成物。
【請求項21】
熱硬化性樹脂がグリシジル、オキセタニル、またはエポキシシクロヘキセニルを有する化合物である請求項20に記載の重合体組成物。
【請求項22】
請求項1〜21のいずれか一項に記載の重合体又は重合体組成物を含有する表面処理剤。
【請求項23】
請求項22に記載の表面処理剤により得られるコーティング膜。
【請求項24】
請求項22に記載の表面処理剤により得られる剥離用コーティング膜。
【請求項25】
請求項22に記載の表面処理剤により得られる撥水・撥油用コーティング膜。
【請求項26】
請求項22に記載の表面処理剤により得られる汚れ防止コーティング膜。
【請求項27】
請求項22に記載の表面処理剤により得られる摺動コーティング膜。
【請求項28】
請求項22に記載の表面処理剤により得られる反射防止コーティング膜。
【請求項29】
請求項22に記載の表面処理剤により得られる絶縁コーティング膜。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−41545(P2012−41545A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−220818(P2011−220818)
【出願日】平成23年10月5日(2011.10.5)
【分割の表示】特願2006−264776(P2006−264776)の分割
【原出願日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【出願人】(311002067)JNC株式会社 (208)
【Fターム(参考)】