説明

フッ素系(メタ)アクリル樹脂、そのフッ素系樹脂組成物、そのフッ素系樹脂フィルムおよびフッ素系樹脂積層アクリル系樹脂フィルム

【課題】 本発明は、フッ素系(メタ)アクリル樹脂の耐加熱分解性を改善し、フィルム外観が美麗で、自動車内装部材にも使用し得る、耐薬品性などフィルム諸物性のバランスを有する、フッ素系(メタ)アクリル樹脂単層および多層フィルムを提供することを主な目的とする。
【解決手段】
JIS K7199に準拠した条件下(ダイス温度230℃、剪断速度24sec-1、キャピラリーダイ径1mm、滞留時間1時間)にて測定した、滞留時間10分時における溶融粘度に対する滞留時間1時間時における溶融粘度の下記式に表される溶融粘度低下率が20%より小さい、フッ素系(メタ)アクリル樹脂(A)。
溶融粘度低下率=
(滞留時間10分時における溶融粘度−滞留時間1時間時における溶融粘度)/(滞留時間10分時における溶融粘度) × 100 (%)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素系(メタ)アクリル樹脂、そのフッ素系樹脂組成物、フッ素系樹脂フィルムおよびフッ素系樹脂積層アクリル系樹脂フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用部材等のプラスチック成形分野において近年、環境保護、環境管理上、塗装・メッキ工程で大気中に排出される有害物質の法的規制が厳しくなる中、これらの加飾代替品や部材の保護用として耐候性、透明性また印刷適正の観点から、特にアクリル加飾フィルムや保護フィルムの使用が拡大傾向である。このような保護フィルムや加飾フィルムは、基材の表面に接着させて使用されるため、基材の表面に施した印刷や模様などが鮮明に見える透明性に加えて、インサート、インモールド成形時の耐折曲げ割れ性、表面硬度、場合によっては耐応力白化性等の諸物性を高度にバランスさせることが要求される。
【0003】
さらにフィルムに直接印刷を施す場合があるため、印刷に使用される塗料等に含まれる化学物質に対する耐性はもちろんのこと、とりわけ自動車内装部材においては、人の接触に起因する皮脂、汗に含まれる乳酸成分や、夏場や高温地域において日焼け防止剤、例えばコパトーン(登録商標)など人が常用する化成品等が内装部材に付着することによる基材の劣化が問題となる場合が増加しており、これらに対する耐性も新たに要求されている。
【0004】
上記の耐薬品性に関する要求を満足する為に、一般的に耐薬品性に優れていることで知られているフッ素系樹脂とメタクリル系樹脂組成物とが積層された多層フィルムや、フッ素系樹脂による表面ハードコート処理を施したメタクリル系樹脂フィルムにより耐薬品性の改善が試みられている。その中でも特にフッ素樹脂として、溶融フィルム成形が可能であるフッ化ビニリデン系樹脂をメタクリル系樹脂に積層したフィルムを塗装代替としてプラスチック成形品の表面に加飾する方法が注目されている。
【0005】
一方で耐薬品性が改善するというメリットがあるにも関わらず、フッ化ビニリデン系樹脂は結晶性樹脂であるため、結晶相形成により透明性が低下するなど、損なわれてしまう要求特性があった。これら相反する物性を両立するべく、フィルムの薄膜化(特許文献1)、フッ化ビニリデン樹脂のメタクリル樹脂との混合(特許文献2)、フィルム加工時の成形条件(押出成形温度、吐出速度、押出機内滞留時間)の制御(特許文献3)といった検討がなされているが、これらの方法は要求される透明性を、特に自動車内外装部材においては、充分に満たすことが困難である。
加えて、フッ化ビニリデン系樹脂はメタクリル系樹脂に比べ弾性率が低く、自動車内外装部材に要求される表面強度についても充分に満たすことができない。
【0006】
上記課題を解決するべく、適切温度に調整した金属ロールでフィルムを挟み込むことにより、透明性、表面平滑性に優れたフッ化ビニリデン樹脂フィルムを得る方法も検討されているが、工程が増えることで、新たな設備導入や既存設備の改造が必要となる場合もあり、経済面で好ましくなく、また二次成形の際に透明性が低下する課題が依然として残っている(特許文献4参照)。
【0007】
さらに、フッ素系(メタ)アクリル樹脂は従来からフッ化ビニリデン樹脂以外のフッ素系樹脂として透明性良好な非晶性樹脂として公知であるも(特許文献5)、溶融押出によりフィルムを作成するには知見が少ないことに加え、加熱溶融で分解劣化しやすく成形品として用いるには課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭57-187248号公報
【特許文献2】特開平5−50566号公報
【特許文献3】特開平6−80794号公報
【特許文献4】国際公開WO2006/016618号パンフレット
【特許文献5】特開2009−302034号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、フッ素系(メタ)アクリル樹脂の耐加熱分解性を改善し、フィルム外観が美麗で、自動車内装部材にも使用し得る、耐薬品性などフィルム諸物性のバランスを有する、フッ素系(メタ)アクリル樹脂単層および多層フィルムを提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するべく、本発明者らが鋭意検討した結果、フッ素系(メタ)アクリル樹脂の、滞留時間10分時の溶融粘度に対する滞留時間1時間時の溶融粘度の溶融粘度低下率が特定値よりも小さいと、溶融押出成形時にフッ素系(メタ)アクリル樹脂組成物からの発泡や分解物のダイスからの析出が抑制され、発泡、析出物よる凸凹表面の発生が抑えられ本来の透明性を有したフィルムを製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、JIS K7199に準拠した条件下(ダイス温度230℃、剪断速度24sec-1、キャピラリーダイ径1mm、滞留時間1時間)にて測定した、滞留時間10分時における溶融粘度に対する滞留時間1時間時における溶融粘度の下記式(1)に表される溶融粘度低下率が20%より小さい、フッ素系(メタ)アクリル樹脂(A)に関する。
溶融粘度低下率=
(滞留時間10分時における溶融粘度−滞留時間1時間時における溶融粘度)/(滞留時間10分時における溶融粘度) × 100 (%) 式(1)
【0012】
本発明のフッ素系(メタ)アクリル樹脂(A)は、含フッ素アルキル(メタ)アクリレートポリマー成分を80〜100重量%含有することが好ましい。
【0013】
本発明のフッ素系(メタ)アクリル樹脂(A)は、フッ素アルキル(メタ)アクリレートポリマー成分が、含フッ素アルキル(メタ)アクリレート80〜100重量%およびアルキルエステルのアルキル鎖炭素数が1〜8のアルキルアクリレート20〜0重量%を含む単量体成分の重合体であることが好ましい。
【0014】
本発明のフッ素系(メタ)アクリル樹脂(A)は、溶融粘度が、JIS K7199に基づく、ダイス温度220℃、剪断速度122sec-1、キャピラリーダイ径1mmの条件下において300〜4000Pa・secであることが好ましい。
【0015】
本発明の上記フッ素系(メタ)アクリル樹脂(A)は、ポリフッ化ビニリデンを含むフッ素系樹脂組成物(B)としてもよい。
【0016】
本発明のフッ素系樹脂組成物(B)は、ポリフッ化ビニリデンの含有量が、フッ素系(メタ)アクリル樹脂(A)100重量部に対し0.1〜15重量部であることが好ましい。
【0017】
本発明のフッ素系樹脂組成物(B)は、JIS K7199に基づく、ダイス温度220℃、剪断速度122sec-1、キャピラリーダイ径1mmの条件下における溶融粘度が300〜4000Pa・secであることが好ましい。
【0018】
本発明のフッ素系(メタ)アクリル樹脂(A)またはフッ素系樹脂組成物(B)は溶融成形してフィルムとして用いてもよい。
【0019】
本発明のフッ素系(メタ)アクリル樹脂(A)またはフッ素系樹脂(B)は溶融成形してフィルムとして用いる場合、抗酸化剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤、無機系顔料、有機系染料、アクリル系艶消し剤、マイカ系フィラー、ガラス系フィラー、抗菌剤、脱臭剤または滑剤からなる群より選ばれるすくなくとも1種の添加剤を含有することが好ましい。
【0020】
本発明のフッ素系(メタ)アクリル樹脂(A)またはフッ素系樹脂組成物(B)を成形してなるフッ素系樹脂フィルム層は、アクリル系樹脂(C)を成形してなるフィルム層の少なくとも片面に積層してもよい。
【0021】
本発明のフッ素系(メタ)アクリル樹脂(A)またはフッ素系樹脂組成物(B)を成形してなるフッ素系樹脂フィルム層に積層するアクリル系樹脂(C)は、メタクリル酸メチル50〜100重量%、およびその他の単量体0〜50重量%の単量体を重合してなる重合体を含むことが好ましい。
【0022】
本発明のフッ素系(メタ)アクリル樹脂(A)またはフッ素系樹脂組成物(B)を成形してなるフッ素系樹脂フィルム層に積層するアクリル系樹脂(C)は、アクリル系弾性体グラフト共重合体(c−1)5〜100重量%およびメタクリル系重合体(c−2)0〜95重量%を含むアクリル系樹脂組成物[(c−1)および(c−2)の合計量が100重量%]であって、アクリル系弾性体グラフト共重合体(c−1)が、アクリル酸アルキルエステル50〜99.9重量%、共重合可能な他のビニル系単量体0〜49.9重量%および共重合可能な1分子当たり2個以上の非共役二重結合を有する多官能性単量体0.1〜10重量%からなる単量体混合物(c−1a)を重合してなる少なくとも一層のアクリル酸エステル系架橋弾性体5〜85重量部の存在下に、メタクリル酸アルキルエステル50〜100重量%および共重合可能な他のビニル系単量体0〜50重量%からなる単量体混合物(c−1b)を95〜15重量部共重合してなる[(c−1a)および(c−1b)の合計量が100重量部]ものであり、メタクリル系重合体(c−2)が、メタクリル酸アルキルエステル80〜100重量%および共重合可能な他のビニル系単量体0〜20重量%からなる単量体混合物を共重合してなるものであることが好ましい。
【0023】
本発明のフッ素系(メタ)アクリル樹脂(A)またはフッ素系樹脂組成物(B)を成形してなるフッ素系樹脂フィルム層に積層するアクリル系樹脂(C)は、メチルエチルケトン可溶分の還元粘度(重合体0.1gをクロロホルム100mlに溶解し、25℃にて測定)が0.2〜0.8dl/gであることが好ましい。
【0024】
本発明のフッ素系樹脂積層アクリルフィルムは、全体の厚みが30〜300μmであり、かつ、フッ素系樹脂フィルム層の厚みが1〜30μmであることが好ましい。
【0025】
本発明のフッ素系樹脂積層アクリル系樹脂フィルムは、JIS K6714に準じた温度23℃±2℃、湿度50%±5%、フィルム膜厚75μmの条件下における曇価(ヘイズ)が2.0以下であることが好ましい。
【0026】
本発明のフッ素系(メタ)アクリル樹脂(A)またはフッ素系樹脂(B)、およびアクリル系樹脂(C)の少なくとも一方は、抗酸化剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤、無機系顔料、有機系染料、アクリル系艶消し剤、マイカ系フィラー、ガラス系フィラー、抗菌剤、脱臭剤または滑剤からなる群より選ばれるすくなくとも1種の添加剤を含有することが好ましい。
【0027】
本発明のフッ素系樹脂フィルムまたはフッ素系樹脂積層アクリル系フィルムは、他の部材に積層して成形品として用いてもよい。
【発明の効果】
【0028】
本発明のフッ素系(メタ)アクリル樹脂によれば、溶融成形等における耐加熱分解性に優れ、発泡やダイライン等が抑制され、フィルム外観が美麗なフッ素系樹脂フィルムおよびフッ素系樹脂積層アクリル系樹脂フィルムが得られる。ここで言う耐加熱分解性とは溶融押出等で樹脂に熱履歴を加えた際に発生する樹脂の解重合や発泡、それらに伴う一般的に目脂と呼ばれるものが、ダイスリップから析出すること等の発生しにくさを表す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明のフッ素系(メタ)アクリル樹脂(A)は、JIS K7199に準拠した条件下(ダイス温度230℃、剪断速度24sec-1、キャピラリーダイ径1mm、滞留時間1時間)にて測定した、滞留時間10分時における溶融粘度に対する滞留時間1時間時における溶融粘度の下記式(1)に表される溶融粘度低下率が、20%より小さいものであることを特徴とする。
溶融粘度低下率=
(滞留時間10分時における溶融粘度−滞留時間1時間時における溶融粘度)/(滞留時間10分時における溶融粘度) × 100 (%) 式(1)
【0030】
上記溶融粘度低下率を満たすフッ素化(メタ)アクリル樹脂(A)によれば、溶融成形等における溶融成形等における耐加熱分解性に優れ、発泡や分解物析出によるダイライン等が抑制され、フィルム外観が美麗なフッ素系樹脂フィルムおよびフッ素系樹脂積層アクリル系樹脂フィルムを実現できる。
【0031】
滞留時間の設定については実際の押出機での滞留時間より大幅に長く設定してあるが、これは粘度測定に用いるキャピラリーレオメーターがピストン運動によるせん断であるのに対し、押出機はスクリュー回転によるせん断であり、実際の押出機では大幅に過酷な条件下に晒されることを想定したことによるものである。滞留10分後を樹脂本来の溶融粘度と想定し、1時間後の溶融粘度を実際の押出機で熱履歴を受けた際の溶融粘度と想定している。1時間後の樹脂のストランド形状が押出機で熱履歴を受けた樹脂の分解状態とある程度相関していることを想定している。
【0032】
上記溶融粘度低下率は、20%より小さいことが必要であるが、自動車内装分野等に用いるフィルムは外観要求が厳しいことから、10%以下であることがより好ましい。溶融粘度低下率値が20%以上であると、例えばフィルム溶融成形等の加熱時に発泡や、分解物の目脂等によるダイラインなどが発生しフィルムの概観、透明性に大きく影響する。なお、溶融成形などの場合では、現実的には成形加工時に激しい熱履歴を受けることから粘度低下を避けることは難しく、5%程度の溶融粘度低下率が発生することもある。
ここでの「(メタ)アクリル」とは、メタクリルおよび/またはアクリルを示すものとする。
【0033】
本発明のフッ素化(メタ)アクリル樹脂(A)としては、耐薬品性の観点から、主として含フッ素アルキル(メタ)アクリレートポリマー成分を含有していることが好ましい。具体的には80〜100重量%含有することが好ましく、耐薬品性に加えて耐加熱分解性および表面硬度の観点から、85〜99重量%がより好ましく、90〜99重量%が更に好ましい。
【0034】
ここで言う「含フッ素アルキル(メタ)アクリレートポリマー成分」としては、含フッ素アルキル(メタ)アクリレート(共)重合体、つまり、含フッ素アルキル(メタ)アクリレート樹脂および/または含フッ素アルキル(メタ)アクリレート共重合体を使用できる。
【0035】
含フッ素アルキル(メタ)アクリレートポリマーとしては、公知のものを使用できるが、その具体例としては、トリフルオロメチルメタクリレート、トリフルオロメチルアクリレート、2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート、2,2,2−トリフルオロエチルアクリレート、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロピルメタクリレート、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロピルアクリレート、パーフルオロエチルメチルメタクリレート、パーフルオロプロピルメチルアクリレート、パーフルオロプロピルメチルメタクリレート、パーフルオロブチルメチルアクリレート、パーフルオロブチルメチルメタクリレート、パーフルオロペンチルメチルアクリレート、パーフルオロペンチルメチルメタクリレート、パーフルオロヘキシルメチルアクリレート、パーフルオロヘキシルメチルメタクリレート、パーフルオロヘプチルメチルアクリレート、パーフルオロヘプチルメチルメタクリレート、パーフルオロオクチルメチルアクリレート、パーフルオロオクチルメチルメタクリレート、パーフルオロノニルメチルアクリレート、パーフルオロノニルメチルメタクリレート、パーフルオロデシルメチルアクリレート、パーフルオロデシルメチルメタクリレート、パーフルオロウンデシルメチルアクリレート、パーフルオロウンデシルメチルメタクリレート、パーフルオロドデシルメチルアクリレート、パーフルオロドデシルメチルメタクリレート、パーフルオロトリデシルメチルアクリレート、パーフルオロトリデシルメチルメタクリレート、パーフルオロテトラデシルメチルアクリレート、ポリパーフルオロテトラデシルメチルメタクリレート、2−(トリフルオロメチル)エチルアクリレート、2−(トリフルオロメチル)エチルメタクリレート、2−(パーフルオロエチル)エチルアクリレート、2−(パーフルオロエチル)エチルメタクリレート、2−(パーフルオロプロピル)エチルアクリレート、2−(パーフルオロプロピル)エチルメタクリレート、2−(パーフルオロブチル)エチルアクリレート、2−(パーフルオロブチル)エチルメタクリレート、2−(パーフルオロペンチル)エチルアクリレート、2−(パーフルオロペンチル)エチルメタクリレート、2−(パーフルオロヘキシル)エチルアクリレート、2−(パーフルオロヘキシル)エチルメタクリレート、2−(パーフルオロヘプチル)エチルアクリレート、2−(パーフルオロヘプチル)エチルメタクリレート、2−(パーフルオロオクチル)エチルアクリレート、2−(パーフルオロオクチル)エチルメタクリレート、2−(パーフルオロノニル)エチルアクリレート、2−(パーフルオロノニル)エチルメタクリレート、(パーフルオロトリデシル)エチルアクリレート、2−(パーフルオロトリデシル)エチルメタクリレート、2−(パーフルオロテトラデシル)エチルアクリレート、2−(パーフルオロテトラデシル)エチルメタクリレートなどの含フッ素アルキル(メタ)アクリレートを用いたポリマーが挙げられる。
【0036】
これらの中でも、フィルム状成形体とした時の透明性、アクリル系樹脂(C)層との密着性の点から、トリフルオロメチルメタクリレート、2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート、2,2,2−トリフルオロエチルアクリレート、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロピルメタクリレート、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロピルメタクリレート、2−(トリフルオロメチル)エチルアクリレート、2−(トリフルオロメチル)エチルメタクリレートを用いたポリマーが好ましい。
【0037】
上記含フッ素アルキル(メタ)アクリレートは、他の共重合可能なモノマー種と共重合してもよい。共重合可能なモノマー種としては、例えば、上記含フッ素アルキル(メタ)アクリレート樹脂のモノマー種、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル等のメタクリル酸エステル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸ペンチル、アクリル酸へキシル、アクリル酸へプチル、アクリル酸2−エチルへキシル等のアクリル酸エステル、塩化ビニル、臭化ビニル等のハロゲン化ビニル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル誘導体、塩化ビニリデン、弗化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン、アクリル酸、アクリル酸ナトリウム、アクリル酸カルシウム等のアクリル酸およびその塩、アクリル酸β−ヒドロキシエチル、アクリル酸ジメチルアミノエチル、アクリル酸グリシジル、アクリルアミド、N−メチロ−ルアクリルアミド等のアクリル酸アルキルエステル誘導体、メタクリル酸、メアクリル酸ナトリウム、メタアクリル酸カルシウム等のメタクリル酸およびその塩、メタクリルアミド、メタクリル酸β−ヒドロキシエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸グリシジル等のメタクリル酸アルキルエステル誘導体等、無水マレイン酸、メチルマレイミド、フェニルマレイミド等の酸無水物類やイミド類が挙げられる。これらの単量体は2種以上が併用されてもよい。
【0038】
これらの中でも、耐加熱分解性、共重合が容易である点より、アクリル酸エステルが好ましく、アクリル酸アルキルエステルがより好ましい。なかでも、アルキル基の炭素数が1〜8であるものが好ましく、直鎖状でも分岐状でもよい。更には、アルキル基の炭素数が1〜4であるものが耐薬品性および硬度の観点から特に好ましい。
【0039】
含フッ素アルキル(メタ)アクリレートポリマー成分は、耐薬品性および耐加熱分解性の観点から含フッ素アルキル(メタ)アクリレート80〜100重量%および前記他の共重合可能なモノマー種0〜20重量%からなる単量体成分を重合してなる重合体であることが好ましい。より好ましくは、含フッ素アルキル(メタ)アクリレート85〜99重量%および他の共重合可能なモノマー種1〜15重量%である。他の共重合可能なモノマー種としては、好ましくはアルキルエステルのアルキル鎖炭素数が1〜8のアクリル酸エステルが0.1重量%〜10重量%、より好ましくは1重量%〜6重量%含有されることにより、含フッ素アルキル(メタ)アクリレートの耐加熱分解性がより向上し、表面硬度等のフィルム特性のバランスを奏することができる。含フッ素アルキル(メタ)アクリレートが80重量%未満では、フィルムの表面硬度、耐薬品性、上記の人が常用する化成品等に対する耐汚染性が低下する傾向がある。
【0040】
含フッ素系(メタ)アクリルポリマー成分は、紫外線遮蔽性能、紫外線遮蔽性能保持率、成形加工時にブリードし難い点から、一般式(1)で示される紫外線吸収剤を共重合してもよい。
【0041】
【化1】

【0042】
(式中、XはHまたはハロゲン、R1はH、メチルまたは炭素数4〜6のt−アルキル基、R2は直鎖または枝分かれ鎖状の炭素数2〜10のアルキレン基、R3はHまたはメチルである。)
【0043】
一般式(1)で示される紫外線吸収剤としては、後述のアクリル樹脂で挙げられるものが同様に適用することができる。
【0044】
含フッ素アルキル(メタ)アクリレートポリマー成分の製造方法は、一般的に使用される方法であれば特に限定されず、公知の乳化重合法、乳化−懸濁重合法、懸濁重合法、塊状重合法、溶液重合法または分散重合が適用可能である。中でもモノマーの高い疎水性および後処理の簡便性の観点から懸濁重合による製造が好ましい。
【0045】
具体的には、含フッ素アルキル(メタ)アクリレート等を含む重合性単量体、分散安定剤、分散安定助剤、油溶性のラジカル重合開始剤およびイオン交換水を重合容器に仕込んで、合一防止に必要な剪断を与えるための攪拌下で重合を行うのが好ましい。
【0046】
分散安定剤としては、例えば、ゼラチン、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマー、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム等のポリアクリル酸塩類、アルギン酸ナトリウム等のアルギン酸ナトリウム塩類、ポリビニルアルコールまたはポリビニルアルコール部分ケン化物等の水溶性高分子、リン酸三カルシウム、酸化チタン、炭酸カルシウム、二酸化ケイ素等の無機物などが例示できる。これらの分散安定剤のうち、特にポリビニルアルコール、ポリビニルアルコール部分ケン化物、ヒドロキシプロピルセルロース、リン酸三カルシウムが好ましく用いられる。これらの分散安定剤は、単独で使用してもよいし、二種類以上を併用してもよい。分散安定剤の使用量は、例えば、重合性単量体100重量部に対して0.1〜60重量部、好ましくは0.1〜30重量部、分散剤残渣が少ない方がフィルムの透明性に寄与するという観点から、特に好ましくは0.1〜5重量部である。
【0047】
油溶性のラジカル開始剤としては、例えばベンゾイルパーオキサイド、o−メトキシベンゾイルパーオキサイド、o−クロロベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2、2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピネ−ト)、1、1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス[N−(2−プロペニル)−2−メチルプロピオンアミド、1−[(1−シアノ−1−メチルエチル)アゾ]ホルムアミド、2、2’−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)、2、2’−アゾビス(N−シクロへキシル−2−メチルプロピオンアミド)、2、2’−アゾビス(1−イミノ−1−ピロリジノ−2−メチルプロパン)ジヒドロクロリド等のアゾ系化合物等が例示される。これらのラジカル重合開始剤のうち、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2、2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)等の十時間半減期温度が他と比較して中程度の取り扱い容易なものが好ましく用いられる。これらのラジカル重合開始剤は単独で使用してもよいし、二種類以上を併用してもよい。ラジカル重合開始剤の使用量は、例えば、重合性単量体100重量部に対して0.1〜5重量部、好ましくは0.1〜2重量部、重合開始剤残渣が少ない方がフィルムの透明性に寄与するという観点から、0.1〜1部がより好ましい。また油溶性ラジカル重合開始剤は、予め重合性単量体に溶解させておくことが好ましい。
【0048】
更に必要により、重合性単量体の液滴の分散安定化のために、界面活性剤を添加してもよい。使用できる界面活性剤としては、例えばドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ジアルキルスルホコハク酸エステルナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム等のアニオン界面活性剤やポリエチレングリコールノニルフェニルエーテルなどのノニオン界面活性剤等が挙げられる。これらの界面活性剤は、単独で使用してもよいし、二種類以上を併用してもよい。界面活性剤の使用量は、例えば、重合性単量体100重量部に対して0.05〜2重量部程度である。
【0049】
必要に応じて、水相重合の禁止剤を、例えば、亜硝酸ナトリウム等を添加しても良い。
【0050】
懸濁重合によりポリマー粒子を生成させる方法としては、反応開始に先立って、重合性単量体、分散安定剤、油溶性のラジカル重合開始剤およびイオン交換水の混合物を攪拌による剪断力により、モノマー油滴を所望の大きさに調整する方法が好ましい。
【0051】
この場合、30μm以下の微小なモノマー油滴を形成するためには、ホモミキサー、ホモディスパー、ホモジナイザー、ラインミキサー等の各種の分散手段を使用するのが好ましい。モノマー油滴の大きさは、分散手段の回転速度などによる剪断力の調整により、制御することが可能である。
【0052】
このようにして調製されたモノマー油滴(重合性モノマー分散液)を、通常ラジカル重合開始剤の10時間半減期温度まで昇温し、重合反応を行うことにより、ポリマー粒子懸濁液が得られる。例えば、ラジカル開始剤としてラウロイルパーオキサイドを用いる場合には55℃以上に、2,2'−アゾビスイソブチロニトリルを用いる場合は65℃以上に昇温して、ラジカル重合を行う。
【0053】
重合により得られた含フッ素アルキル(メタ)アクリレートポリマー成分は、重合反応液から脱水操作や必要によっては塩析等の各種後処理操作過程を経た後に、粉体(微粒子)として取り出して使用される。
【0054】
得られる含フッ素アルキル(メタ)アクリレートポリマー成分の微粒子(以下、「フッ素系樹脂微粒子」と称することがある)は、平均粒子径が0.5〜200μmであるのが好ましく、1〜100μmがより好ましい。
【0055】
なお、本発明における含フッ素アルキル(メタ)アクリレートポリマー成分の微粒子の平均粒子径は、日機装株式会社製 Microtrac粒度分布測定装置MT3000を使用し、ラテックスまたはスラリー状態で光散乱法を用いて測定した値である。
【0056】
フッ素系樹脂微粒子の形状は、特に限定されないが、球形、回転楕円体などであることが好ましい。
【0057】
本発明において含フッ素アルキル(メタ)アクリレートポリマー成分は一種または2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0058】
本発明のフッ素系(メタ)アクリル樹脂(A)には、含フッ素アルキル(メタ)アクリレートポリマー成分が主として含有されることが好ましいが、本発明の効果を損なわない範囲で公知のフッ素系樹脂を含有させてもよい。
【0059】
本発明のフッ素系(メタ)アクリル樹脂(A)の溶融粘度は、300〜4000Pa・secであることが好ましく、300〜3000Pa・secがより好ましく、300〜2000Pa・secであることがさらに好ましい。フッ素系(メタ)アクリル樹脂(A)の溶融粘度が300Pa・sec未満では、幅方向に均一に展開しにくい傾向がある。4000Pa・sec超では、流れ方向に均一に展開し難く、また薄膜化が困難になりアクリル系樹脂(C)層との界面にムラが発生、密着不良やダイライン等の外観不良が生じやすい傾向にある。
【0060】
この溶融粘度(Pa・sec)は、JIS K7199に従い、溶融粘度測定装置(東洋精機製作所製、キャピログラフ1D)を使用して、ダイス温度220℃、せん断速度122sec-1、キャピラリーダイ径1mmの条件にて測定した値である。
【0061】
本発明のフッ素系樹脂組成物(B)は、上述のフッ素系(メタ)アクリル樹脂(A)および、ポリフッ化ビニリデンを含有する。本発明のフッ素系樹脂組成物(B)は、フッ素系(メタ)アクリル樹脂(A)の上記効果を維持しつつ、より耐加熱分解性・耐日焼け止め剤性や耐溶剤性などの耐薬品性に優れる。
【0062】
ポリフッ化ビニリデンとしては公知の物が使用できる。その含有量はフィルム物性の観点、例えば透明性の点において、フッ素系(メタ)アクリル樹脂(A)100重量部に対し、ポリフッ化ビニリデンを0.1〜15重量部が好ましく、0.1〜10重量部がより好ましい。
【0063】
本発明のフッ素系樹脂組成物(B)は、溶融粘度が、300〜4000Pa・secであることが好ましく、300〜3000Pa・secがより好ましく、300〜2000Pa・secであることがさらに好ましい。フッ素系(メタ)アクリル樹脂(A)の溶融粘度が300Pa・sec未満では、幅方向に均一に展開しにくい傾向がある。4000Pa・sec超では、流れ方向に均一に展開し難く、また薄膜化が困難になりアクリル系樹脂(C)層との界面にムラが発生、密着不良やダイライン等の外観不良が生じやすい傾向にある。
【0064】
この溶融粘度(Pa・sec)は、JIS K7199に従い、溶融粘度測定装置(東洋精機製作所製、キャピログラフ1D)を使用して、ダイス温度220℃、せん断速度122sec-1、キャピラリーダイ径1mmの条件にて測定した値である。
【0065】
フッ素系樹脂組成物(B)には、耐候性(特に紫外線防御性能)、コスト、成形性および積層対象物との接着性の点から、後述のアクリル系樹脂(C)を添加しても良い。また、本発明の効果を損なわない範囲で、公知のフッ素系樹脂を添加してもよい。
【0066】
フッ素系樹脂組成物(B)には、意匠性付与のために公知の光拡散剤を添加しても良い。含フッ素アルキル(メタ)アクリレートポリマーの架橋重合体粒子や後述するアクリル系樹脂、特にアクリル酸エステルやメタクリル酸エステルの架橋重合体粒子が分散性の点で良い。
【0067】
フッ素系樹脂組成物(B)には、着色の為に無機系顔料または有機系染料を、熱や光に対する安定性を更に向上させるために抗酸化剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤などを、意匠性を付与する為にアクリル系艶消し剤やマイカ、ガラス等のフィラーを、あるいは、抗菌、脱臭剤、滑剤等の添加剤を添加してもよい。これらは単独または2種以上組み合わせて添加してもよい。
【0068】
本発明のフッ素系樹脂フィルムは、上記フッ素系(メタ)アクリル樹脂(A)またはフッ素系樹脂組成物(B)を用いて成形される。本発明のフッ素系樹脂フィルムは、溶融成形等における発泡やダイライン等が抑制されフィルム外観が美麗であり、透明性、表面硬度、耐薬品性、特に人の接触に由来する乳酸、日焼け止め剤等の人が常用する化成品などに対する耐汚染性を奏することが出来るため、例えばインサート、インモールド成形を経る自動車内装部材に適用可能である。
【0069】
ここで、フッ素系(メタ)アクリル樹脂(A)を用いてフッ素系樹脂フィルムを成形する場合、フッ素樹脂組成物(B)に添加してもよい添加剤を同様にフッ素系(メタ)アクリル樹脂(A)にも添加してもよい。
【0070】
フッ素樹脂フィルムは、一般的な方法により製造することが可能であり、押出機の先端に取り付けたTダイ等からフィルム状に溶融押出して製造する方法が挙げられる。使用する押出機としては、単軸押出機、2軸押出機のどちらを用いても良い。ただし、2軸押出機を使用する場合には、吐出量制御の為に、定量フィーダーを使用して原料樹脂を供給することが好ましく、樹脂圧力制御、製膜精度の点から、押出機とダイスとの間にギアポンプを介して樹脂を押し出すことが好ましい。
【0071】
本発明のフッ素系樹脂フィルムの厚みは、成形性、透明性の観点から、30〜300μmであることが好ましく、30〜200μmであることがより好ましい。
【0072】
本発明のフッ素系樹脂積層アクリル系樹脂フィルムは、アクリル系樹脂(C)を用いたフィルム層の少なくとも片面に、フッ素系(メタ)アクリル樹脂(A)またはフッ素系樹脂組成物(B)を用いたフィルム層が積層されてなる。本発明のフッ素樹脂積層アクリル系樹脂フィルムは、フッ素系(メタ)アクリル樹脂(A)またはフッ素系樹脂組成物(B)を用いたフィルム層は、発泡やダイライン等が抑制されることにより外観が美麗となる。また、アクリル系樹脂(C)の優れた特性を生かしつつ、透明性、表面硬度、耐薬品性、特に人の接触に由来する乳酸成分系や日焼け止め剤を始めとする人が常用する化成品の耐汚染性に優れたバランスを奏することが出来る。
【0073】
メタクリル系樹脂(C)としては、公知のメタクリル系樹脂を使用出来る。硬度、成形性の観点から、メタクリル酸メチル50〜100重量%、およびその他の単量体0〜50重量%の単量体を重合してなる重合体を含むことが好ましい。その他の単量体としては、後述(C−1b)に使用される共重合可能な他のビニル系単量体が同様に好ましく使用できる。
【0074】
本発明のメタクリル系樹脂(C)は、耐折り曲げ割れ性、耐折り曲げ白化性に優れる点から、アクリル系弾性体グラフト共重合体(c−1)、または、表面硬度に優れる点からアクリル系弾性体グラフト共重合体(c−1)およびメタクリル系重合体(c−2)を含有する樹脂組成物が好ましい。
【0075】
メタクリル系樹脂(C)には、それぞれ重合して得られたアクリル系弾性体グラフト共重合体(c−1)とメタクリル系重合体(c−2)をラテックス状あるいはパウダー、ビーズ、ペレット等の形態で混合して得たものを使用出来る。
【0076】
メタクリル系樹脂(C)には、同一の反応機でアクリル系グラフト共重合体(c−1)を製造した後、メタクリル系重合体(c−2)を続けて製造したものも使用出来る。
【0077】
アクリル系弾性体グラフト共重合体(c−1)としては、アクリル酸エステル系架橋弾性体[アクリル酸エステルを主成分とした架橋弾性体]の存在下に、メタクリル酸エステル50〜100重量%および共重合可能な他のビニル系単量体0〜50重量%からなる単量体混合物(c−1b)を共重合して得られるものが好ましい。
【0078】
アクリル酸エステル系架橋弾性体には、アクリル酸エステル、必要に応じて共重合可能な他のビニル系単量体、および、共重合可能な1分子あたり2個以上の非共役二重結合を有する多官能性単量体からなる単量体混合物(c−1a)を重合させてなるものを好ましく使用できる。単量体および多官能性単量体を全部混合(1段重合)して使用してもよく、また、単量体および多官能性単量体の組成を変化させて2回以上(2段重合以上)に分けて使用してもよい。
【0079】
アクリル酸エステル系架橋弾性体におけるアクリル酸エステルとしては、重合性やコストの点より、アクリル酸アルキルエステルが好ましく、アルキル基の炭素数1〜12のものを用いることができる。好ましい単量体の具体例としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸n−オクチル等があげられる。これらは、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0080】
アクリル酸エステル系架橋弾性体におけるアクリル酸エステル量は、単量体混合物(c−1a)100重量%において50〜99.9重量%が好ましく、70〜99.9重量%がより好ましく、80〜99.9重量%が最も好ましい。アクリル酸エステル量が50重量%未満では、耐衝撃性が低下し、引張破断時の伸びが低下し、フィルム切断時にクラックが発生しやすくなる傾向がある。アクリル酸エステル量が100重量%では単量体混合物(c−1b)が共重合せず硬質グラフト層が形成されにくくなる傾向がある。
【0081】
アクリル酸エステル系架橋弾性体における共重合可能な他のビニル系単量体としては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル等のメタクリル酸アルキルエステル(アルキル基の炭素数が1〜12であるものが好ましく、直鎖状でも分岐状でもよい)、塩化ビニル、臭化ビニル等のハロゲン化ビニル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル誘導体、塩化ビニリデン、弗化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン、アクリル酸、アクリル酸ナトリウム、アクリル酸カルシウム等のアクリル酸およびその塩、アクリル酸β−ヒドロキシエチル、アクリル酸ジメチルアミノエチル、アクリル酸グリシジル、アクリルアミド、N−メチロ−ルアクリルアミド等のアクリル酸アルキルエステル誘導体、メタクリル酸、メタクリル酸ナトリウム、メタクリル酸カルシウム等のメタクリル酸およびその塩、メタクリルアミド、メタクリル酸β−ヒドロキシエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸グリシジル等のメタクリル酸アルキルエステル誘導体、無水マレイン酸、N−アルキルマレイミド、フェニルマレイミド等の酸無水物誘導体などが挙げられる。これらは単独で使用してもよいし、2種以上が併用されてもよい。これらのうちでも、耐候性、透明性の点より、メタクリル酸エステルが特に好ましい。
【0082】
アクリル酸エステル系架橋弾性体における共重合可能な他のビニル系単量体の量は、単量体混合物(c−1a)100重量%において0〜49.9重量%が好ましく、0〜30重量%がより好ましく、0〜20重量%が最も好ましい。他のビニル系単量体の量が49.9重量%を超えると、耐衝撃性が低下し、引張破断時の伸びが低下し、フィルム切断時にクラックが発生しやすくなる場合がある。
【0083】
アクリル酸エステル系架橋弾性体における共重合可能な1分子あたり2個以上の非共役二重結合を有する多官能性単量体としては、通常使用されるものでよく、例えば、アリルメタクリレート、アリルアクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、ジアリルフタレート、ジアリルマレート、ジビニルアジペート、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、トリメチルロールプロパントリメタクリレート、テトロメチロールメタンテトラメタクリレート、ジプロピレングリコールジメタクリレートおよびこれらのアクリレート類などを使用することができる。これらの多官能性単量体は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0084】
アクリル酸エステル系架橋弾性体における共重合可能な1分子あたり2個以上の非共役二重結合を有する多官能性単量体の量は、アクリル酸エステル系架橋弾性体の平均粒子径と共に、応力白化、引張破断時の伸びあるいは透明性に大きく影響する。
【0085】
本発明のアクリル酸エステル系架橋弾性体における多官能性単量体の配合量は、単量体混合物(c−1a)100重量%において0.1〜10重量%が好ましく、1.0〜4重量%がより好ましい。多官能性単量体の配合量が0.1〜10重量%であれば、耐折り曲げ割れ性、耐折り曲げ白化性および成形時における樹脂の流動性の観点から好ましい。多官能性単量体の配合量が10重量%以上では耐折り曲げ性やフィルムの透明性等が低下する場合がある。
【0086】
アクリル系弾性体グラフト共重合体(c−1)は、アクリル酸エステル系架橋弾性体の存在下に、メタクリル酸エステル50〜100重量%および共重合可能な他のビニル系単量体0〜50重量%からなる単量体混合物(c−1b)を共重合させて得られるものが好ましい。より好ましくは、アクリル酸エステル系架橋弾性体5〜85重量部の存在下に、メタクリル酸アルキルエステル50〜100重量%および共重合可能な他のビニル系単量体0〜50重量%からなる単量体混合物(c−1b)95〜15重量部を少なくとも1段階以上で共重合させることにより得られるものである。ただし、単量体混合物(c−1a)および単量体混合物(c−1b)の合計量が100重量部を満たすものとする。
【0087】
単量体混合物(c−1b)中のメタクリル酸アルキルエステルの配合量は、硬度、剛性の点で、80重量%以上が好ましく、85重量%がより好ましく、90重量%がさらに好ましい。共重合可能な他のビニル系単量体としては、上記アクリル酸エステル系架橋弾性体に使用したものや、アルキル基の炭素数が1〜12であるアクリル酸アルキルエステルが使用可能である。具体例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸n−オクチル等があげられる。これらの単量体は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0088】
この際、単量体混合物(c−1b)(グラフト共重合組成)においては、アクリル酸エステル系架橋弾性体にグラフト反応せずに、未グラフトの重合体となる成分(フリーポリマー)が生じる。この成分(フリーポリマー)は、メタクリル系重合体(c−2)の一部または全部を構成するものとして使用できる。
【0089】
アクリル系弾性体グラフト共重合体(c−1)の一部[(c−1a)およびグラフトされた(c−1b)]は、メチルエチルケトンに不溶となる。
【0090】
アクリル酸エステル系架橋弾性体に対するグラフト率は、30〜250%が好ましく、50〜230%がより好ましく、70〜220%がさらに好ましい。グラフト率が30%未満では耐折曲げ白化性が低下したり、また、透明性が低下したり、引張破断時の伸びが低下してフィルム切断時にクラックが発生しやすくなる傾向がある。250%超では、フィルム成形時の溶融粘度が高くなりフィルムの成形性が低下する傾向がある。
【0091】
アクリル系弾性体グラフト共重合体(c−1)の製造方法は、特に限定されず、公知の乳化重合法、乳化−懸濁重合法、懸濁重合法、塊状重合法、溶液重合法または分散重合法が適用可能であるが、樹脂構造の調整幅が大きいといった観点から乳化重合法が特に好ましい。
【0092】
アクリル系弾性体グラフト共重合体(c−1)の平均粒子径dは、100nm超400nm以下が好ましく、100nm超350nm以下がより好ましく、100nm超300nm以下がさらに好ましい。アクリル系弾性体グラフト共重合体(c−1)の平均粒子径が100nm以下では、フィルムの耐衝撃性および耐折曲げ割れ性が低下する傾向がある。400nmを超えるとフィルムの透明性が低下する傾向にある。
【0093】
ここでのアクリル系弾性体グラフト共重合体(c−1)の平均粒子径は、日機装株式会社製 Microtrac粒度分布測定装置MT3000を使用し、ラテックス状態で光散乱法を用いて測定した値である。
【0094】
アクリル系樹脂(C)中のアクリル酸エステル系架橋弾性体の平均粒子径d(nm)と、アクリル酸エステル系架橋弾性体に用いられる多官能性単量体の量w(重量%)とは、フィルムの応力白化、引張破断時の伸び、あるいは透明性に大きく影響する為、関係式:0.02d≦w≦0.06dを満たすものであることが好ましく、0.02d≦w≦0.05dを満たすものであることがより好ましい。多官能性単量体の量wが、上記範囲であれば応力白化が生じ難い、耐衝撃性が低下し難い、引張破断時の伸びが低下し難くフィルム切断時にクラックが生じ難い、透明性が低下し難い、フィルム成形性が良好といった利点を奏する。
【0095】
アクリル系樹脂(C)中のアクリル酸エステル系架橋弾性体の平均粒子径dは50〜200nmが好ましく、50〜160nmがより好ましく、50〜120nmがさらに好ましく、60〜120nmが特に好ましい。アクリル酸エステル系架橋弾性体の平均粒子径dが50nm以上であれば、耐衝撃性および引張破断時の伸びが低下しにくく、フィルム切断時にクラックが生じにくくなり、200nm以下であれば、応力白化が生じにくく、透明性、特に真空成形後の透明性(加熱前後の透明性保持)を確保することができるため、好ましい。
【0096】
アクリル酸エステル系架橋弾性体の平均粒子径dは、得られるフィルムから凍結超薄切片法により試料調整した後、透過型電子顕微鏡(日本電子(株)製 JEM1200EX)を用いて、加速電圧80kVにて40000倍で観察した写真を基に測定した値である。
【0097】
アクリル系樹脂(C)のメチルエチルケトン可溶分の還元粘度は重合体0.1gをクロロホルム100mlに溶解し25℃にて測定する条件下で、0.2〜0.8dl/gが好ましく、0.2〜0.7dl/gがより好ましく、0.2〜0.6dl/gがさらに好ましい。上記範囲であれば、得られるフィルムの引張破断時の伸びが低下し難くフィルムを切断する際にクラックが発生し難い。またフィルムの成形性が良好といった利点を有する。
【0098】
ここでのメチルエチルケトン可溶分の還元粘度は、アクリル系樹脂(C)をメチルエチルケトンに溶解させた後、ISO1628−1に基づき、標準粘度管を使用し、25℃の恒温室にて溶液、溶媒の流下時間を測定し、これらの値と溶液濃度を用いて算出した値である。
【0099】
アクリル系弾性体グラフト共重合体(c−1)は、一般式(1)で示される紫外線吸収剤を共重合してなるものが、紫外線遮蔽性能、紫外線遮蔽性能保持率、成形加工時にブリードし難い点から、さらに好ましい。
【0100】
【化2】

【0101】
(式中、XはHまたはハロゲン、R1はH、メチルまたは炭素数4〜6のt−アルキル基、R2は直鎖または枝分かれ鎖状の炭素数2〜10のアルキレン基、R3はHまたはメチルである。)
【0102】
一般式(1)で示す紫外線吸収剤としては、例えば、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メタクリロイルオキシエチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾ-ル類であり、2−(2’−ヒドロキシ−5’−アクリロイルオキシエチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾ-ル、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メタクリロイルオキシエチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾ-ル、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メタクリロイルオキシエチルフェニル)−5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾ-ル、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メタクリロイルオキシプロピルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾ-ル、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メタクリロイルオキシエチル−3’−t−ブチルフェニル)12H−ベンゾトリアゾ-ル等が挙げられる。これらのうちでは、コストおよび取り扱い性から、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メタクリロイルオキシエチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾ-ルが好ましい。
【0103】
一般式(1)で示す紫外線吸収剤の共重合比率は、アクリル系弾性体グラフト共重合体(c−1)100重量部に対して、0.01〜30重量部が好ましく、0.01〜25重量部がより好ましく、0.01〜20重量部がさらに好ましく、0.05〜20重量部が特に好ましい。一般式(1)で示す紫外線吸収剤の共重合比率が0.01重量部未満では、得られるフィルムの耐候性を上げる効果が生じ難い傾向にあり、30重量部を超えると、フィルムの耐衝撃性および耐折曲げ割れ性を上げる効果が生じ難い傾向にある。
【0104】
一般式(1)で示す紫外線吸収剤の共重合は、アクリル系弾性体グラフト共重合体(c−1)のいずれの層において共重合されていても構わないが、アクリル酸エステル系架橋弾性体およびメタクリル酸エステル系共重合体(c−1b)に共重合されていることが好ましく、紫外線吸収剤はアクリル系弾性体グラフト共重合体(c−1)全体に均一に共重合されることがより好ましい。
【0105】
一般式(1)で示す紫外線吸収剤の共重合方法も特に限定されず、アクリル系弾性体グラフト共重合体(c−1)の製造中に共重合することが好ましい。
【0106】
アクリル酸エステル系架橋弾性体の重合における開始剤としては、公知の有機系過酸化物、無機系過酸化物、アゾ化合物などの開始剤を使用することができる。具体的には、t−ブチルハイドロパ−オキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパ−オキサイド、スクシン酸パ−オキサイド、パ−オキシマレイン酸t−ブチルエステル、クメンハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ホルムアルデヒドスルホキシ酸ソーダ、還元糖、アスコルビン酸等の有機系過酸化物や、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、2価の鉄塩等の無機系過酸化物、さらにアゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物も使用される。これらは単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。これらの開始剤は、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ナトリウムホルムアルデヒドスルフォキシレート、アスコルビン酸、ヒドロキシアセトン酸、硫酸第一鉄、硫酸第一鉄とエチレンジアミン四酢酸2ナトリウムの錯体などの還元剤と組み合わせた通常のレドックス型開始剤として使用してもよい。
【0107】
これらの中でも、重合安定性、粒子径制御の点から、2価の鉄塩等の無機系還元剤および/またはホルムアルデヒドスルホキシル酸ソーダ、還元糖、アスコルビン酸等の有機系還元剤と組み合わせたレドックス系開始剤を使用するのが好ましい。
【0108】
有機系過酸化物は、重合系にそのまま添加する方法、単量体に混合して添加する方法、乳化剤水溶液に分散させて添加する方法など、公知の添加法で添加することができる。透明性の点から、単量体に混合して添加する方法あるいは乳化剤水溶液に分散させて添加する方法が好ましい。
【0109】
乳化重合に使用される界面活性剤にも特に限定はなく、通常の乳化重合用の界面活性剤であれば使用することができる。例えば、アルキルスルフォン酸ナトリウム、アルキルベンゼンスルフォン酸ナトリウム、ジオクチルスルフォコハク酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、脂肪酸ナトリウム等の陰イオン性界面活性剤や、アルキルフェノール類、脂肪族アルコール類とプロピレンオキサイド、エチレンオキサイドとの反応生成物等の非イオン性界面活性剤等が挙げられる。これらの界面活性剤は単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。更に要すれば、アルキルアミン塩等の陽イオン性界面活性剤を使用してもよい。
【0110】
得られたアクリル系弾性体グラフト共重合体(c−1)ラテックスは、通常の凝固、洗浄および乾燥の操作により、または、スプレ−乾燥、凍結乾燥などによる処理により、樹脂組成物が分離、回収される。
【0111】
メタクリル系重合体(c−2)は、メタクリル酸エステル系重合体、またはメタクリル酸エステルと共重合可能な他のビニル系単量体との共重合体を使用出来る。好ましくは、メタクリル酸エステルを80〜100重量%および共重合可能な他のビニル系単量体0〜20重量%からなる単量体混合物を共重合してなるものを使用出来る。
【0112】
得られるフィルムの硬度、剛性の観点から、メタクリル酸エステルの配合量は85重量%以上がより好ましく、90重量%以上がさらに好ましい。
【0113】
上記メタクリル酸エステルとしては、メタクリル酸アルキルエステルが好ましく、容易に入手できる点で、メタクリル酸メチルがより好ましい。
【0114】
メタクリル系重合体(c−2)における共重合可能な他のビニル系単量体としては、前記アクリル系弾性体グラフト共重合体(c−1)に使用したものがあげられる。これらの単量体は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0115】
メタクリル系重合体(c−2)を、アクリル系弾性体グラフト共重合体(c−1)と別個に重合することも可能である。その場合も重合方法は特に限定されず、公知の乳化重合法、乳化−懸濁重合法、懸濁重合法、塊状重合法または溶液重合法が適用可能である。
【0116】
メタクリル系重合体(c−2)の平均粒子径は、100〜500μmが好ましく、100〜300μmがより好ましい。メタクリル系重合体(c−2)の平均粒子径が100μm未満では、耐衝撃性、耐折曲げ割れ性、耐薬品性が低下する傾向があり、500μm超では、透明性が低下する傾向がある。
【0117】
メタクリル系重合体(c−2)の平均粒子径は、日機装株式会社製 Microtrac粒度分布測定装置MT3000を使用し、ラテックス状態で光散乱法を用いて測定した値である。
【0118】
メタクリル系重合体(c−2)の重合における開始剤としては、上述したアクリル酸エステル系架橋弾性体(c−1a)の重合における開始剤と同様の、公知の有機系過酸化物、無機系過酸化物、アゾ化合物などの開始剤を使用することができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0119】
有機系過酸化物は、重合系にそのまま添加する方法、単量体に混合して添加する方法、乳化剤水溶液に分散させて添加する方法など、公知の添加法で添加することができるが、透明性の点から、単量体に混合して添加する方法が好ましい。
【0120】
懸濁重合に使用される分散剤としては、一般的に懸濁重合に用いられる分散剤、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド等の高分子分散剤、リン酸カルシウム、ハイドロキシアパタイト、ピロリン酸マグネシウム等の難水溶性無機塩があげられる。難水溶性無機塩を用いる場合には、α−オレフィンスルフォン酸ソーダ、ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ等のアニオン性界面活性剤を併用すると、分散安定性が増すので効果的である。また、これらの分散剤は得られる樹脂粒子の粒子径を調整するために、重合中に1回以上追加することもある。
【0121】
アクリル系樹脂(C)中のアクリル酸系エステル架橋弾性体の含有量は、5〜100重量%が好ましく、5〜45重量%がより好ましく、10〜30重量%がさらに好ましい。ただし、アクリル系弾性体グラフト共重合体(c−1)およびメタクリル系重合体(c−2)の合計量が100重量%であるものとする。アクリル系弾性体グラフト共重合体(C−1)の含有量が5重量%以上であれば、得られるフィルムの引張破断時の伸びが低下し難く、フィルムを切断する際にクラックが発生し難く、また応力白化が発生し難くなる傾向がある。5〜45重量%では、さらに得られるフィルムの硬度、剛性が良好となる傾向がある。
【0122】
本発明のフッ素系樹脂積層アクリル系樹脂フィルムの製造方法としては、一般的な方法により製造することが可能であり、ドライラミネート法、ウェットラミネート法、ホットメルトラミネート法、加熱プレスラミネート法、Tダイ等でフィルム状に溶融押出しながらラミネートする押出ラミネート法、ダイ内またはマルチスロット法のようなダイ外で溶融接着する共押出法が挙げられる。アクリル系樹脂(C)のフィルム層と、フッ素系(メタ)アクリル樹脂(A)またはフッ素系樹脂組成物(B)のフィルム層との接着性確保、多層フィルム製造時のフィルムの熱履歴制御の容易さの点から、共押出法が最も好ましい。
【0123】
共押出法としてはTダイ内にて接着される方法が好ましく、この場合に使用される好ましい製造設備としては、Tダイは通常の単層マニホールドダイを使用し、その流入部に併合流層を形成する部分(フィードブロック)を設けるフィードブロック式積層設備、樹脂がTダイス内の各々の層毎にマニホールドを経て合流点に至りリップ部より吐出されるマルチマニホールド式積層設備、層形成のプロセスはマルチマニホールドダイに類似しており、ダイ全般に渡ってマニホールドを内臓したプレートを設け、ダイボディにはプレートを内臓する凹みが設けられており、その中に単位プレートを積層したプレートパックを挿入したスタックプレート式積層設備、等が挙げられる。
【0124】
共押出法に使用される押出機としては、単軸押出機、2軸押出機のどちらを用いても良い。ただし、2軸押出機を使用する場合には、吐出量制御の為に、定量フィーダーを使用して原料樹脂を供給することが好ましく、樹脂圧力制御、製膜精度の点から、押出機とダイスとの間にギアポンプを介して樹脂を押し出すことが好ましい。
【0125】
共押出法は、積層フィルムを成形する際に、押出機のシリンダーおよび押出機先端に設置されたダイス部の温度調節を、150〜270℃で行うことが好ましい。設定温度を150℃未満とすると、樹脂が未溶融となり、均一に混練され難いため、成形性が低下する傾向にあり、270℃より高いと、押出機内でのせん断発熱もあるため、樹脂温度が必要以上に上昇し、樹脂の分解が促進され、成形品の品質が低下する傾向にある。
【0126】
必要に応じて、フィルムを成形する際、フィルム両面をロールまたは金属ベルトに同時に接触させることにより、特にガラス転移温度以上の温度に加熱したロールまたは金属ベルトに同時に接触させることにより、表面性のより優れたフィルムを得ることも可能であり、目的に応じて、二軸延伸などによるフィルムの改質も可能である。
【0127】
本発明のフッ素系樹脂積層アクリル系樹脂フィルムは、全体の厚みが、30〜300μmであることが好ましく、30〜200μmであることがより好ましい。フッ素系樹脂積層アクリル系樹脂フィルム全体の厚みが30μm未満では、フィルムの成形加工性が低下すると共に、フィルム巻取り時にシワが入り易くなる傾向があり、300μmを超えると、フィルムの透明性が低下し、さらに2次加工性が低下する傾向にある。
【0128】
本発明のフッ素系樹脂積層アクリル系樹脂フィルムにおける、フッ素系樹脂フィルム層の厚みは、1〜30μmであることが好ましく、5〜30μmであることがより好ましく、5〜20μmがさらに好ましい。フッ素系樹脂フィルム層の厚みが1μm未満では、十分な耐候性、耐薬品性、耐汚染性が得られず成形性も低下する傾向にあり、30μmを超えると、コスト的に不利になると同時にフィルムの透明性が低下、および成形性が低下してダイライン等の外観不良が生じやすくなる傾向にある。
【0129】
本発明においては、本発明の効果を損なわない範囲で、積層化のためにフッ素系樹脂フィルム層とアクリル系樹脂(C)のフィルム層との間に適した接着剤、あるいは接着性樹脂を用いた接着層を設けてもよい。
【0130】
接着剤、接着性樹脂としては公知のものが使用可能であり、(メタ)アクリル酸アルキルエステル系樹脂、またはこれらの共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、ポリイソプレンゴム、ポリイソブチレンゴム等のゴム類や、ポリビニルエーテル系、シリコーン系、マレイミド系、シアノアクリレート系樹脂、塩化ビニリデンやフッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン樹脂やこれらと含フッ素アルキル(メタ)アクリレートポリマー成分を含むフッ素系(メタ)アクリル樹脂、(メタ)アクリル酸アルキルエステル系樹脂との混合物などが挙げられる。耐候性、透明性の観点から、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体を主成分とする共重合体である(メタ)アクリル酸アルキルエステル系樹脂が好ましい。これらは単独で使用しても良く、架橋剤、粘着付与剤を配合して、粘着剤組成物として用いても良い。
【0131】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル系樹脂は、アクリル酸またはメタクリル酸のアルキルエステルであって、特に限定されるものではないが、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ラウリル等が挙げられる。
【0132】
接着層を設ける方法は、上記フッ素系樹脂積層アクリル系樹脂フィルムの成形方法と同様の方法を用いることが出来る。
【0133】
本発明のフッ素系樹脂積層アクリル系樹脂フィルムは、自動車内装部材に使用した際の外観の観点から、曇価(ヘイズ)が2.0以下であることが好ましく、1.5以下がより好ましい。
【0134】
ここでの曇価(ヘイズ)は、JIS K6714に準拠し、温度23℃±2℃、湿度50%±5%の条件下における、厚み 75μmでの測定値である。
【0135】
本発明のフッ素系樹脂フィルム、およびフッ素系樹脂積層アクリル系樹脂フィルムの用途としては、車輌用途、建材用途が好ましい用途として挙げられる。具体例としては、インストルメントパネル、コンソールボックス、メーターカバー、ドアロックペゼル、ステアリングホイール、パワーウィンドウスイッチベース、センタークラスター、ダッシュボード等の自動車内装用途、ウェザーストリップ、バンパー、バンパーガード、サイドマッドガード、ボディーパネル、スポイラー、フロンリル、ストラットマウント、ホイールキャップ、センターピラー、ドアミラー、センターオーナメント、サイドモール、ドアモール、ウインドモール等、窓、ヘッドランプカバー、テールランプカバー、風防部品等の自動車外装用途、AV機器や家具製品のフロントパネル、ボタン、エンブレム、表面化粧材等の用途、携帯電話等のハウジング、表示窓、ボタン等の用途、さらには家具用外装材用途、壁面、天井、床等の建築用内装材用途、サイディング等の外壁、塀、屋根、門扉、破風板等の建築用外装材用途、窓枠、扉、手すり敷居、鴨居等の家具類の表面化粧材用途、各種ディスプレイ、レンズ、ミラー、ゴーグル、窓ガラス等の光学部材用途、あるいは電車、航空機、船舶等の自動車以外の各種乗り物の内外装用途等に利用することが可能である。
【0136】
前記用途の中でも特に車輌内外装部材に積層する場合は、積層後の部材表面がフッ素系樹脂フィルム層、部材との接着層がアクリル系樹脂(C)フィルム層であることが好ましく、積層方法としては特に制限されるものではないが、特公昭63−6339号、特公平4−9647号、特開平7−9484号、特開平8−323934号、特開平10−279766号等公報に記載の方法と同様な、フィルムインモールド成形法またはフィルムインサート成形法により製造することが好ましい。すなわち、真空成形等により予め形状を付与した、または、付与しなかったフィルムを、射出成形金型間に挿入し、フィルムを挟んだ状態で金型を閉じ型締めし、基材樹脂の射出成形を行うことにより、射出された基材樹脂成形体の表面にフィルムを溶融一体化させることが好ましい。その際、樹脂温度、射出圧力等の射出条件は、基材樹脂の種類等を勘案して適宜設定される。
【実施例】
【0137】
次に、本発明を実施例に基づき、さらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0138】
下記製造例、実施例及び比較例中の「部」及び「%」は、それぞれ「重量部」及び「重量%」を表す。
【0139】
なお、以下の実施例および比較例で測定した物性の各測定方法は、次のとおりである。
【0140】
(アクリル酸エステル系架橋弾性体粒子の粒径測定方法)
得られたフィルムを、透過型電子顕微鏡(日本電子製JEM−1200EX)にて、加速電圧80kV、RuO4染色超薄切片法で撮影し、得られた写真からアクリル酸エステル系架橋弾性体粒子画像を無作為に100個選択し、それらの粒子径の平均値を求めた。
【0141】
(フッ素系(メタ)アクリル樹脂(A)およびアクリル系弾性体グラフト共重合体(c−1)の粒径測定方法)
日機装株式会社製 Microtrac粒度分布測定装置MT3000を使用し、ラテックス状態で光散乱法を用いて測定した。懸濁重合にて樹脂を作成した場合はスラリー状態にて、日機装株式会社製 Microtrac粒度分布計9210SRA/9220FRAを用いて測定した。
【0142】
(透明性の評価)
得られたフィルムの透明性は、JIS K6714に準じて、温度23℃±2℃、湿度50%±5%の条件下にて、曇価(ヘイズ)を測定した。
【0143】
(耐薬品性の評価)
<耐キシレン性>
得られたフィルム上にキシレンを一滴(0.02g)垂らし、フィルムの変化を目視で評価した。
○:変化が全く認められない。
△:微小な滴下跡が認められる。
×:表面の劣化が酷く、滴下跡がはっきり認められる。
【0144】
(耐汚染性の評価)
<耐日焼け止め剤性[耐コパトーン(登録商標)性](試験法1)>
得られたフィルム上に日焼け止め剤(コパトーン ウォーター・ベイビーズ・ローションSPF50)を少量塗布し、その上にガーゼを押し当て、500gの加重をかける。そのまま室温で1時間放置した後、オーブンで54℃、64℃、74℃で1時間加熱した後、付着した日焼け止め剤をガーゼでふき取り、フィルムを水洗し、目視で塗布部の変化を観測した。
○:変化が認められない。
△:微小な塗布跡が認められる。
×:表面の劣化が酷く、塗布跡がはっきり認められる。
【0145】
<耐日焼け止め剤性[耐コパトーン(登録商標)性](試験法2)>
得られたフィルム上に日焼け止め剤(コパトーン ウォーター・ベイビーズ・ローションSPF50)を一滴(0.005g)滴下し、2×3cmの範囲に刷毛を用いて延ばし、70℃、80℃、90℃で24時間放置した後、付着した日焼け止め剤をガーゼでふき取り、フィルムを水洗、目視で塗布部の変化を観測した。
○:変化が認められない。
△:微小な塗布跡が認められる。
×:表面の劣化が酷く、塗布跡がはっきり認められる。
【0146】
<耐乳酸性の評価>
得られたフィルム上に10%乳酸水溶液を一滴垂らし、80℃の温度条件化で24時間放置後、フィルムを水洗し、フィルムの変化を目視で評価した。
○:変化が全く認められない。
△:微小なピンホール状の溶解跡が認められる。
×:表面の劣化が酷く、溶解跡がはっきり認められる。
【0147】
(耐折り曲げ割れ性の評価)
得られたフィルムを1回180度折り曲げて、折り曲げ部の変化を目視で評価した。
○:割れが認められない。
△:僅かに割れが発生する。
×:フィルムが割れ、完全に破断する。
【0148】
(耐折り曲げ白化性の評価)
得られたフィルムを1回180度折り曲げて、折り曲げ部の変化を目視で評価した。
○:白化が認められない。
△:光を透過した時に僅かに白化が認められる。
×:白化が認められる。
【0149】
(表面硬度の評価)
得られたフィルムの表面硬度は、JIS K5600−5−4に従い、鉛筆硬度を測定して評価した。
【0150】
(成形性の評価)
<フィルム連続成形性の評価:(評価法1)>
フィルム成形を2時間連続して行い、その運転状況を観察し、以下の基準により評価を行った。
○:フィルムの厚みが均一で、フィルムが破断せずに成形できる。
×:フィルムの厚みが不均一、またはフィルム破断が発生する。
【0151】
<積層フィルム成形性の評価:(評価法2)>
積層フィルム成形を行い、その外観性を観察し、以下の基準により評価を行った。
○:表面層樹脂の展開性が均一であり、メルトフラクチャーによる界面ムラがない。
×:表面層樹脂の展開性が不均一であり、メルトフラクチャーによる界面ムラが発生する。
【0152】
(フィルムの耐熱性評価)
<耐熱老化性の評価>
得られたフィルムを、80℃の恒温槽にて168時間放置し、フィルムの状態を目視で評価、および透明性についてJIS K6714に準じて、温度23℃±2℃、湿度50%±5%の条件下にて、曇価(ヘイズ)を測定した。
○:変化が全く認められない。
△:熱によるフィルムの変形が僅かに認められる。
×:フィルムが白化、または熱により表面荒れや変形が発生する。
【0153】
<溶融粘度低下率>
得られたフッ素系(メタ)アクリル樹脂(A)またはフッ素系樹脂組成物(B)をJIS K7199に準拠した条件下(ダイス温度230℃、剪断速度24sec-1、キャピラリーダイ径1mm、滞留時間1時間)で測定した溶融粘度値が、対応する同じダイス温度、剪断速度、滞留時間10分の条件下で測定した溶融粘度と比した際の低下率(%)を下記式(1)から算出した。
溶融粘度低下率=
滞留時間(滞留時間10分時の溶融粘度−滞留時間1時間時の溶融粘度)/(滞留時間10分時の溶融粘度) × 100 (%) 式(1)
【0154】
(表層フッ素樹脂の耐熱性評価)
<溶融押出成形時の外観評価>
得られた、フッ素系(メタ)アクリル系樹脂(A)、フッ素系樹脂組成物(B)またはアクリル系樹脂(C)の各ペレットについて、Tダイ付40mmφ単軸押出機を用いて、シリンダ設定温度180〜240℃にて吐出量10kg/hrにて溶融混練し、ダイス温度240℃にて、厚み125μmの単層樹脂フィルムまたは積層樹脂フィルムを得る際に、ダイスリップでの樹脂の発泡、および発泡や分解物によるリップ付着物由来のフィルムダイラインを目視にて評価した。
○:発泡やリップ付着物によるフィルムのダイラインが殆ど認められない。
△:発泡やフィルムダイラインが多少認められる。
×:発泡やフィルムダイラインが発生しフィルム外観が不良。
【0155】
(製造例1)
<含フッ素アルキル(メタ)アクリレートポリマー(a−1)>
分散容器に、脱イオン水300部、ポリビニルアルコール2部を入れた。これとは別に、2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート94部、メチルアクリレート6部およびラウリルパーオキサイド1部からなる単量体溶液を調製し、上記の分散容器に加えた。得られた混合液に対してホモミキサーを用いて分散処理を行い、液滴径を100nmに調整した分散液を得た。
【0156】
この分散液を撹拌機、温度計、環流冷却器及び窒素導入口を備えた8L重合反応機に注入し、窒素気流下70℃で撹拌しながら、液温80〜90℃にて3時間の重合反応を行った。
【0157】
得られたポリマー粒子の分散液を濾過、洗浄、乾燥することにより、含フッ素アルキル(メタ)アクリレートポリマー(a−1)として、ポリ(2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート)の球状有機微粒子粉体(平均粒子径100μm)を得た。
【0158】
<フッ素系(メタ)アクリル樹脂(A−1)>
得られた含フッ素アルキル(メタ)アクリレートポリマー(a−1)100部を使用し、シリンダ温度を200℃に温度調整した40mmφ単軸押出機(大阪精機工作(株)製)を使用し、スクリュー回転数75rpm、吐出量10kg/時間にて溶融混練を行い、ストランド状に引き取り、水槽にて冷却後、ペレタイザーを用いて切断して、フッ素系(メタ)アクリル樹脂の樹脂ペレット(A−1)を製造した。
【0159】
得られたフッ素系(メタ)アクリル樹脂(A−1)の溶融粘度低下率は11%であった。
【0160】
(製造例2)フッ素系(メタ)アクリル樹脂(A−2)
製造例1において、メチルアクリレート6部の代わりにブチルアクリレート6部を使用するようにした以外は、製造例1と同様の操作にて含フッ素アルキル(メタ)アクリレートポリマー(a−2)を得て、フッ素系(メタ)アクリル樹脂の樹脂ペレット(A−2)を製造した。
【0161】
得られたフッ素系(メタ)アクリル樹脂(A−2)の溶融粘度低下率は10%であった。
【0162】
(製造例3)フッ素系(メタ)アクリル樹脂(A−3)
製造例1において、メチルアクリレート6部の代わりに2―エチルへキシルアクリレート6部を使用するようにした以外は、製造例1と同様の操作にて含フッ素アルキル(メタ)アクリレートポリマー(a−3)を得て、フッ素系(メタ)アクリル樹脂の樹脂ペレット(A−3)を製造した。
【0163】
得られたフッ素系(メタ)アクリル樹脂(A−3)の溶融粘度低下率は10%であった。
【0164】
(製造例4)フッ素系(メタ)アクリル樹脂(A−4)
製造例1においてメチルアクリレート6部の代わりに、アクリル酸ラウリル6部を使用するようにした以外は、製造例1と同様の操作にて含フッ素アルキル(メタ)アクリレートポリマー(a−4)を得て、フッ素系(メタ)アクリル樹脂の樹脂ペレット(A−4)を製造した。
【0165】
得られたフッ素系(メタ)アクリル樹脂(A−4)の溶融粘度低下率は13%であった。
【0166】
(製造例5)フッ素系(メタ)アクリル樹脂(A−5)
製造例1において2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート94部およびメチルアクリレート6部の代わりに、2、2、2−トリフルオロエチルメタクリレート75部、アクリル酸ブチル25部を使用するようにした以外は、製造例1と同様の操作にて含フッ素アルキル(メタ)アクリレートポリマー(a−5)を得て、フッ素系(メタ)アクリル樹脂の樹脂ペレット(A−5)を製造した。
【0167】
得られたフッ素系(メタ)アクリル樹脂(A−5)の溶融粘度低下率は10%であった。
【0168】
(比較製造例1)フッ素系(メタ)アクリル樹脂(A−6)
製造例1において、2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート94部およびメチルアクリレート6部の代わりに、2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレートのみを100部を使用するようにした以外は、製造例1と同様の操作にて含フッ素アルキル(メタ)アクリレートポリマー(a−6)を得て、フッ素系(メタ)アクリル樹脂の樹脂ペレット(A−6)を製造した。
【0169】
得られたフッ素系(メタ)アクリル樹脂(A−6)の溶融粘度低下率は40%であった。
【0170】
(比較製造例2)フッ素系(メタ)アクリル樹脂(A−7)
製造例1において2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート94部およびメチルアクリレート6部の代わりに、2、2、2−トリフルオロエチルメタクリレート95部、メチルメタクリレート5部を使用するようにした以外は、製造例1と同様の操作にて含フッ素アルキル(メタ)アクリレートポリマー(a−7)を得て、フッ素系(メタ)アクリル樹脂の樹脂ペレット(A−7)を製造した。
【0171】
得られたフッ素系(メタ)アクリル樹脂(A−7)の溶融粘度低下率は41%であった。
【0172】
(製造例6)アクリル系樹脂(C−1)
<アクリル系弾性体グラフト共重合体(c1−1)>
攪拌機付き8L重合装置に、以下の物質を仕込んだ。
脱イオン水 200部
ジオクチルスルフォコハク酸ナトリウム 0.25部
ソディウムホルムアルデヒドスルフォキシレ−ト 0.15部
エチレンジアミン四酢酸−2−ナトリウム 0.001部
硫酸第一鉄 0.00025部
【0173】
重合機内を窒素ガスで充分に置換し実質的に酸素のない状態とした後、内温を60℃にし、下記単量体混合物(c1−1a)30部および2−(2’−ヒドロキシ−5’−メタクリロイルオキシエチルフェニル)−2−H−ベンゾトリアゾール(大塚化学(株)製、RUVA−93)0.5部からなる混合物を10重量部/時間の割合で連続的に添加し、添加終了後、さらに0.5時間重合を継続し、アクリル酸エステル系架橋弾性体粒子(平均粒子径d=60nm)を得た。重合転化率は99.5%であった。
単量体混合物(c1−1a):
・ビニル系単量体混合物(アクリル酸ブチル(BA)90%およびメタクリル酸メチル(MMA)10%) 100部
・アリルメタクリレート(AlMA) 1部
・クメンハイドロパーオキサイド(CHP) 0.2部
【0174】
その後、ジオクチルスルフォコハク酸ナトリウム0.05重量部を仕込んだ後、内温を60℃にし、ビニル系単量体混合物(BA10%およびMMA90%)100部、ターシャリードデシルメルカプタン(t−DM)0.5部およびCHP0.5部からなる単量体混合物(c1−1b)70部を10部/時間の割合で連続的に添加し、さらに1時間重合を継続し、アクリル系弾性体グラフト共重合体(c1−1)(平均粒子径=180μm)を得た。重合転化率は98.2%であった。得られたラテックスを塩化カルシウムで塩析、凝固し、水洗、乾燥して樹脂粉末(c1−1)を得た。
【0175】
<メタクリル系重合体(c1−2)>
メタクリル系重合体(c1−2)として、メタクリル酸メチル/アクリル酸メチル共重合体(住友化学(株)製、スミペックスLG、ビーズ状物)を使用した。
【0176】
<アクリル系樹脂(C−1)>
上記の如く得られたアクリル系弾性体グラフト共重合体(c1−1)70部およびメタクリル系重合体(c1−2)30部を、ヘンシェルミキサーを用いて混合した後、シリンダ温度を200℃〜260℃に温度調整した40mmφ単軸押出機(大阪精機工作(株)製)を使用し、スクリュー回転数90rpm、吐出量15kg/時間にて溶融混練を行い、ストランド状に引き取り、水槽にて冷却後、ペレタイザーを用いて切断して、アクリル系樹脂の樹脂ペレット(C−1)を製造した。
【0177】
(製造例7)アクリル系樹脂(C−2)
<アクリル系弾性体グラフト共重合体(c2−1)>
攪拌機、温度計、窒素ガス導入管、モノマー供給管、還流冷却器を備えた8リットル重合機に以下の物質を仕込んだ。
水(イオン交換水) 200部
ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート 0.15部
硫酸第一鉄・2水塩 0.0015部
エチレンジアミン四酢酸−2−ナトリウム 0.006部
ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム 0.0015部
【0178】
重合器内を窒素ガスで十分に置換して実質的に酸素のない状態とした後、内温を60℃にし、ビニル系単量体混合物(BA84%、MMA8%およびスチレン(ST)8%)100部、AlMA 1部およびCHP 0.1部からなる単量体混合物(c2−1a)50部を15部/時間の割合で連続的に添加し、添加終了後、さらに1時間重合を継続し、アクリル酸エステル系架橋弾性体粒子(平均粒子径d=210nm)を得た。重合転化率は98.5%であった。
【0179】
その後、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム0.05部を仕込んだ後、内温を60℃にし、ビニル系単量体混合物(MMA90%およびBA10%)100部、t−DM0.2部およびCHP0.1部からなる単量体混合物(c2−1b)50部を10部/時間の割合で連続的に添加し、さらに1時間重合を継続し、アクリル系弾性体グラフト共重合体(c2−1)(平均粒子径=200μm)を得た。重合転化率は99.0%であった。得られたラテックスを塩化カルシウムで塩析、凝固し、水洗、乾燥して樹脂粉末(c2−1)を得た。
【0180】
<メタクリル系重合体(c2−2)>
メタクリル系重合体(c2−2)として、メタクリル酸メチル/アクリル酸メチル共重合体(住友化学(株)製、スミペックスEX、ビーズ状物)を使用した。
【0181】
<アクリル系樹脂(C−2)>
上記の如く得られたアクリル系弾性体グラフト共重合体(c2−1)25部およびメタクリル系重合体(c2−2)75部、紫外線吸収剤としてチヌビン234(チバジャパン製)1.0部を、ヘンシェルミキサーを用いて混合した後、シリンダ温度を240℃に温度調整した以外は、製造例6と同様にして、アクリル系樹脂の樹脂ペレット(C−2)を製造した。
【0182】
(比較製造例3)
製造例1において、含フッ素アルキル(メタ)アクリレートポリマー(a−1)100部の代わりにポリフッ化ビニリデン(SOLVAY社製、SOLEF−1008)100部を用い、シリンダ温度を260℃に変更した以外は、製造例1と同様の方法にて、ポリフッ化ビニリデンの樹脂ペレットを製造した。
【0183】
(比較製造例4)
製造例1において、含フッ素アルキル(メタ)アクリレートポリマー(a−1)100部の代わりにエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(旭硝子(株)製、フルオンETFE AH−2000)100部を用いた以外は、製造例1と同様の方法にて、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体の樹脂ペレットを製造した。
【0184】
(製造例8)フッ素樹脂(B−1)
製造例1において、含フッ素アルキル(メタ)アクリレートポリマー(a−1)100部の代わりに、含フッ素アルキル(メタ)アクリレートポリマー(a−1)100部とポリフッ化ビニリデン10部との混合物を使用した以外は、製造例1と同様の操作にてフッ素系樹脂の樹脂ペレット(B−1)を製造した。
【0185】
(製造例9)フッ素樹脂(B−2)
製造例2において、含フッ素アルキル(メタ)アクリレートポリマー(b−2)の代わりに、含フッ素アルキル(メタ)アクリレートポリマー(b−2)100部とポリフッ化ビニリデン0.1部との混合物を使用した以外は、製造例2と同様の操作にてフッ素系樹脂の樹脂ペレット(B−2)を製造した。
【0186】
<フッ素樹脂単層フィルムの作製1>
(実施例1)
製造例1で得られたフッ素系(メタ)アクリル樹脂の樹脂ペレット(A−1)を、Tダイ付40mmφ単軸押出機を用いて、シリンダ設定温度180〜240℃にて吐出量10kg/hrにて溶融混練し、ダイス温度240℃にて、厚み125μmの単層樹脂フィルムを得た。
【0187】
得られたフィルムに関する評価結果を表1に示す。
【0188】
(実施例2)
製造例2で得られたフッ素系(メタ)アクリル樹脂の樹脂ペレット(A−2)を使用した以外は、実施例1と同様の操作にて、厚み125μmの単層樹脂フィルムを得た。
【0189】
得られたフィルムに関する評価結果を表1に示す。
【0190】
(実施例3)
製造例3で得られたフッ素系(メタ)アクリル樹脂の樹脂ペレット(A−3)を使用した以外は、実施例1と同様の操作にて、厚み125μmの単層樹脂フィルムを得た。
【0191】
得られたフィルムに関する評価結果を表1に示す。
【0192】
(実施例4)
製造例4で得られたフッ素系(メタ)アクリル樹脂の樹脂ペレット(A−4)を使用した以外は、実施例1と同様の操作にて、厚み125μmの単層樹脂フィルムを得た。
【0193】
得られたフィルムに関する評価結果を表1に示す。
【0194】
(実施例5)
製造例5で得られたフッ素系(メタ)アクリル樹脂の樹脂ペレット(A−5)を使用した以外は、実施例1と同様の操作にて、厚み125μmの単層樹脂フィルムを得た。
【0195】
得られたフィルムに関する評価結果を表1に示す。
【0196】
表1に示される通り、本発明のフッ素系樹脂単層フィルムは、耐加分解性の向上により押出成形時の発泡発生が抑制され、それによりフィルム外観が優れ透明性を有することが比較例1〜4との比較で判る。耐薬品性、耐乳酸性、日焼け止め剤に対する耐汚染性、透明性、および表面硬度の優れたバランスを奏し、自動車内外装部材に最適なフィルムも得られることが分かる。
【0197】
(比較例1)
比較製造例1で得られたフッ素系(メタ)アクリル樹脂の樹脂ペレット(A−6)を使用した以外は、実施例1と同様の操作にて、厚み125μmの単層樹脂フィルムを得た。
【0198】
得られたフィルムに関する評価結果を表1に示す。
【0199】
(比較例2)
比較製造例2で得られたフッ素系(メタ)アクリル樹脂の樹脂ペレット(A−7)を使用した以外は、実施例1と同様の操作にて、厚み125μmの単層樹脂フィルムを得た。
【0200】
得られたフィルムに関する評価結果を表1に示す。
【0201】
(比較例3)
製造例6で得られたアクリル系樹脂の樹脂ペレット(C−1)を用いた以外は、実施例1と同様の操作にてアクリル系樹脂単層フィルムを得た。
【0202】
得られたフィルムに関する評価結果を表1に示す。
【0203】
アクリル酸エステル系架橋弾性体を使用しているため耐折り曲げ性や成形性は良好であるが、耐日焼け止め溶剤性が著しく悪く、例えば自動車内外装部材においては不適であることが分かる。
【0204】
(比較例4)
比較製造例3で得られたポリフッ化ビニリデンの樹脂ペレットを用いた以外は、実施例1と同様の操作にてポリフッ化ビニリデン単層フィルムを得た。
【0205】
得られたフィルムに関する評価結果を表1に示す。
【0206】
(比較例5)
比較製造例4で得られたエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体の樹脂ペレットを用いた以外は、実施例1と同様の操作にてエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体単層フィルムを得た(温度条件は最適化した)。
【0207】
得られたフィルムに関する評価結果を表1に示す。
【0208】
比較例4、5ともに含フッ素系オレフィン樹脂であることから耐薬品性は良好であるものの、結晶性樹脂であるためフィルムの透明性が低く、自動車内外装部材としては不適であることが判る。
【0209】
<フッ素系樹脂積層アクリル系樹脂フィルムの作製1>
(実施例6)
製造例6で得られたアクリル系樹脂の樹脂ペレット(C−1)をベース樹脂とし、製造例1で得られたフッ素系(メタ)アクリル樹脂の樹脂ペレット(A−1)を表面層樹脂として、以下の共押出方法により、厚み125μm(ベース樹脂層110μmおよび表層樹脂層15μm)の積層フィルムを得た。
【0210】
共押出に用いるTダイとしては、2種2層Tダイ(フィードブロック方式)を使用した。アクリル系樹脂(C)側の押出機としては、40mmφ単軸押出機を用い、シリンダ設定温度200〜260℃にて吐出量5〜15kg/hrにて溶融混練し、他方、フッ素系(メタ)アクリル樹脂(A)側の押出機としては、32mmφ単軸押出機を用い、シリンダ設定温度180〜240℃にて吐出量0.5〜3kg/hrにて溶融混練し、ダイス温度240℃に設定された上記ダイ中に溶融樹脂を投入して、積層フィルムを得た。
【0211】
得られたフィルムに関する評価結果を、表1に示す。
【0212】
(実施例7)
実施例6において、表面層樹脂を、製造例2で得られたフッ素系(メタ)アクリル樹脂の樹脂ペレット(A−2)に変更した以外は、実施例6と同様の操作により、積層フィルムを得た。
【0213】
得られたフィルムに関する評価結果を、表1に示す。
【0214】
表1に示されるように、本発明のフッ素系樹脂積層アクリル系樹脂フィルムは、透明性、耐薬品性、日焼け止め剤に対する耐汚染性、耐乳酸性および表面硬度に優れたバランスを有することがわかる。中でも、比較例6および7との比較から、本発明のフッ素樹脂積層アクリル系フィルムが、透明性および表面硬度に優れた効果があることは明らかである。さらに、本発明のフッ素樹脂積層アクリル系フィルムでは、比較例1に示される、アクリル系樹脂単層フィルムの、優れた耐折り曲げ割れ性および耐折り曲げ白化性が維持されることも判る。
【0215】
(実施例8)
実施例6において、ベース樹脂を、製造例7で得られたアクリル系樹脂の樹脂ペレット(C−2)に変更した以外は、実施例6と同様の操作により、積層フィルムを得た。
【0216】
得られたフィルムに関する評価結果を、表1に示す。
【0217】
表1に示されるように、本発明のフッ素樹脂積層アクリル系樹脂フィルムは、アクリル系樹脂(A)を変えたとしても、透明性、表面強度、耐薬品性、および耐汚染性に優れることが判る。
【0218】
(比較例6)
実施例6において、表面層樹脂を比較製造例3で得られたポリフッ化ビニリデンの樹脂ペレットに変更した以外は、実施例6と同様の操作により、積層フィルムを得た。
【0219】
得られたフィルムに関する評価結果を、表1に示す。
【0220】
(比較例7)
実施例6において、表面層樹脂を比較製造例4で得られたエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体の樹脂ペレットに変更した以外は、実施例6と同様の操作により、積層フィルムを得た。
【0221】
得られたフィルムに関する評価結果を、表1に示す。
【0222】
【表1】

【0223】
表1に示される通り、比較例1および2のフッ素系樹脂フィルムは樹脂が分解しやすく、発泡やダイラインが発生しやすいことが判る。樹脂の加熱分解しやすさについては溶融粘度低下率と相関があり、粘度低下を抑制することで自動車内装用途にも使用し得る外観良好なフィルムが作成できることが分かる。
【0224】
比較例3においては著しく耐日焼け止め性が悪く、比較例4〜7においては樹脂の粘度低下率は良好であるが、フィルムの透明性や表面硬度に劣ることが判る。
【0225】
本発明のフッ素樹脂積層アクリル系樹脂フィルムは、アクリル系樹脂単層フィルムが有する優れた耐折り曲げ割れ性、耐折り曲げ白化性を損なうことがなく、インサート、インモールド成形等の二次成形が必要となる自動車内装材等に非常に好適であることは明白である。
【0226】
<フッ素樹脂単層フィルムの作製3>
(実施例9)
製造例8で得られたフッ素系樹脂の樹脂ペレット(B−1)を用いた以外は、実施例1と同様の操作にてフッ素系樹脂単層フィルムを得た。
【0227】
得られたフィルムに関する評価結果を表2に示す。
【0228】
表2に示されるように、本発明のフッ素系樹脂を使用すると、従来は分解しやすいとされていたフッ素(メタ)アクリル樹脂の加熱分解(溶融粘度低下)を抑制することにより、フィルム押出成形の際の発泡や目脂発生によるダイラインも良好である。加えて、高温条件下での耐日焼け止め剤性および耐熱老化性が向上し、自動車内装部材にも好適であることが分かる。さらに、ポリフッ化ビニリデンの添加にも関わらず、優れた透明性を維持できることもわかる。
【0229】
<フッ素樹脂積層アクリル系樹脂フィルムの作製2>
(実施例10)
実施例6において、表面層樹脂に、フッ素系(メタ)アクリル樹脂の樹脂ペレット(A−1)の代わりに製造例10で得られたフッ素系樹脂の樹脂ペレット(B−1)を使用するようにした以外は、実施例6と同様の操作により、積層フィルムを得た。
【0230】
得られたフィルムに関する評価結果を、表1に示す。
【0231】
表2に示されるように、本発明のフッ素系樹脂積層アクリル系フィルムでは、耐加熱分解性が改善されているためフィルム成形時にフィルム外観を悪化させる発泡や目脂によるダイラインが発生しにくいことがわかる。更にはフッ素系樹脂にポリフッ化ビニリデンを添加しているにも関わらず、比較例5のアクリル系樹脂フィルムが有する透明性を維持できることがわかる。また本発明のフッ素樹脂積層アクリル系フィルムは表面硬度、耐薬品性、耐汚染性のバランスにも優れ、自動車内装部材にも好適であることがわかる。
【0232】
(実施例11)
実施例6において、表面層樹脂に、フッ素系(メタ)アクリル樹脂の樹脂ペレット(A−1)の代わりに製造例9で得られたフッ素系樹脂の樹脂ペレット(B−2)を使用し、共押出に用いるTダイを2種2層Tダイ(スタックプレート方式)にした以外は、実施例6と同様の操作により、積層フィルムを得た。
【0233】
得られたフィルムに関する評価結果を、表2に示す。
【0234】
ポリフッ化ビニリデンの含有量が0.1部であるにも関わらず、耐熱老化性が向上していることがわかる。
【0235】
(実施例12)
実施例10において、積層フィルムの厚みをベース樹脂層95μmおよび表層樹脂層30μmに変更した以外は、実施例10と同様の操作により、積層フィルムを得た。
【0236】
得られたフィルムに関する評価結果を、表2に示す。
【0237】
表面層(フッ素系樹脂フィルム層)の厚みに因らず、透明性が維持されており、表面硬度、耐薬品性、耐汚染性のバランスに優れていることが判る。
【0238】
【表2】

【0239】
表2に示される結果から、本発明のフッ素系樹脂は、ポリフッ化ビニリデンを含有しつつも、曇価が0.5〜1.0%という優れた透明性、表面硬度Fを維持することができることがわかる。高温での耐日焼け止め剤性に優れ、耐熱老化性で曇価の上昇率が低減されることもわかる。さらにはフッ素系樹脂の溶融粘度低下率を小さくすることで溶融押出の際の発泡やダイライン抑制など、耐加熱分解性にも優れていることが判る。よって、曇価1%以下という高い透明性、表面硬度が要求される自動車内外装部材にも本発明のフッ素樹脂積層アクリル系樹脂フィルムは適用出来る。
【0240】
以上のように、本発明にかかるフッ素樹脂積層アクリル系樹脂フィルムは、優れた透明性、耐折り曲げ割れ、耐折り曲げ白化性、表面硬度等のアクリル系樹脂が有する優れた特性を維持しながら、耐薬品性、特に人の皮脂・汗に含まれる乳酸成分や日焼け止め剤等の人が常用する化成品に対する耐汚染性の優れたバランスを実現することができる。また、本発明のフッ素系樹脂(B)によれば、高い透明性を有しながら、かつ、耐熱性を向上させることもできる。よって、本発明のフッ素樹脂積層アクリル系樹脂フィルムは、これら特性につき厳しい基準を満たすことが要求される車輌内外装部材への適用も可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
JIS K7199に準拠した条件下(ダイス温度230℃、剪断速度24sec-1、キャピラリーダイ径1mm、滞留時間1時間)にて測定した、滞留時間10分時における溶融粘度に対する滞留時間1時間時における溶融粘度の下記式(1)に表される溶融粘度低下率が20%より小さい、フッ素系(メタ)アクリル樹脂(A)。
溶融粘度低下率=
(滞留時間10分時における溶融粘度−滞留時間1時間時における溶融粘度)/(滞留時間10分時における溶融粘度) × 100 (%) 式(1)
【請求項2】
含フッ素アルキル(メタ)アクリレートポリマー成分を80〜100重量%含有する、請求項1に記載のフッ素系(メタ)アクリル樹脂(A)。
【請求項3】
含フッ素アルキル(メタ)アクリレートポリマー成分が、含フッ素アルキル(メタ)アクリレート80〜100重量%およびアルキルエステルのアルキル鎖炭素数が1〜8のアルキルアクリレート20〜0重量%を含む単量体成分の重合体である、請求項1または2に記載のフッ素系(メタ)アクリル樹脂(A)。
【請求項4】
フッ素系(メタ)アクリル樹脂(A)の溶融粘度が、JIS K7199に基づく、ダイス温度220℃、剪断速度122sec-1、キャピラリーダイ径1mmの条件下において300〜4000Pa・secである、請求項1〜3のいずれかに記載のフッ素系(メタ)アクリル樹脂(A)。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のフッ素系(メタ)アクリル樹脂(A)およびポリフッ化ビニリデンを含む、フッ素系樹脂組成物(B)。
【請求項6】
ポリフッ化ビニリデンの含有量が、フッ素系(メタ)アクリル樹脂(A)100重量部に対し0.1〜15重量部である、請求項5に記載のフッ素系樹脂組成物(B)。
【請求項7】
JIS K7199に基づく、ダイス温度220℃、剪断速度122sec-1、キャピラリーダイ径1mmの条件下における溶融粘度が300〜4000Pa・secである、請求項5〜6のいずれかに記載のフッ素系樹脂組成物(B)。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれかに記載のフッ素系(メタ)アクリル樹脂(A)または請求項5〜7のいずれかに記載のフッ素系樹脂組成物(B)を成形してなるフッ素系樹脂フィルム。
【請求項9】
フッ素系(メタ)アクリル樹脂(A)またはフッ素系樹脂(B)の少なくとも一方は、抗酸化剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤、無機系顔料、有機系染料、アクリル系艶消し剤、マイカ系フィラー、ガラス系フィラー、抗菌剤、脱臭剤または滑剤からなる群より選ばれるすくなくとも1種の添加剤を含有する、請求項8に記載のフッ素系樹脂フィルム。
【請求項10】
請求項1〜4のいずれかに記載のフッ素系(メタ)アクリル樹脂(A)または請求項5〜7のいずれかに記載のフッ素系樹脂組成物(B)を成形してなるフッ素系樹脂フィルム層が、アクリル系樹脂(C)を成形してなるフィルム層の少なくとも片面に積層されている、フッ素系樹脂積層アクリル系樹脂フィルム。
【請求項11】
アクリル系樹脂(C)が、メタクリル酸メチル50〜100重量%、およびその他の単量体0〜50重量%の単量体を重合してなる重合体を含む、請求項10に記載のフッ素樹脂系積層アクリル系樹脂フィルム。
【請求項12】
アクリル系樹脂(C)が、アクリル系弾性体グラフト共重合体(c−1)5〜100重量%およびメタクリル系重合体(c−2)0〜95重量%を含むアクリル系樹脂組成物[(c−1)および(c−2)の合計量が100重量%]であって、
アクリル系弾性体グラフト共重合体(c−1)が、アクリル酸アルキルエステル50〜99.9重量%、共重合可能な他のビニル系単量体0〜49.9重量%および共重合可能な1分子当たり2個以上の非共役二重結合を有する多官能性単量体0.1〜10重量%からなる単量体混合物(c−1a)を重合してなる少なくとも一層のアクリル酸エステル系架橋弾性体5〜85重量部の存在下に、メタクリル酸アルキルエステル50〜100重量%および共重合可能な他のビニル系単量体0〜50重量%からなる単量体混合物(c−1b)を95〜15重量部共重合してなる[(c−1a)および(c−1b)の合計量が100重量部]ものであり、メタクリル系重合体(c−2)が、メタクリル酸アルキルエステル80〜100重量%および共重合可能な他のビニル系単量体0〜20重量%からなる単量体混合物を共重合してなるものである、請求項10〜11のいずれかに記載のフッ素系樹脂積層アクリル系樹脂フィルム。
【請求項13】
アクリル系樹脂(C)のメチルエチルケトン可溶分の還元粘度(重合体0.1gをクロロホルム100mlに溶解し、25℃にて測定)が0.2〜0.8dl/gである、請求項10〜12のいずれかに記載のフッ素樹脂積層アクリル系樹脂フィルム。
【請求項14】
全体の厚みが30〜300μmであり、かつ、フッ素系樹脂フィルム層の厚みが1〜30μmである、請求項10〜13のいずれかに記載のフッ素系樹脂積層アクリル系樹脂フィルム。
【請求項15】
JIS K6714に準じた温度23℃±2℃、湿度50%±5%、フィルム膜厚75μmの条件下における曇価(ヘイズ)が2.0以下である、請求項10〜14のいずれかに記載のフッ素系樹脂積層アクリル系樹脂フィルム。
【請求項16】
フッ素系(メタ)アクリル樹脂(A)またはフッ素系樹脂(B)、およびアクリル系樹脂(C)の少なくとも一方は、抗酸化剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤、無機系顔料、有機系染料、アクリル系艶消し剤、マイカ系フィラー、ガラス系フィラー、抗菌剤、脱臭剤または滑剤からなる群より選ばれるすくなくとも1種の添加剤を含有する、請求項10〜15のいずれかに記載のフッ素系樹脂積層アクリル系フィルム。
【請求項17】
請求項8または9に記載のフッ素系樹脂フィルムを積層してなる成形品。
【請求項18】
請求項10〜16のいずれかに記載のフッ素系樹脂積層アクリル系樹脂フィルムを積層してなる成形品。

【公開番号】特開2011−168681(P2011−168681A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−33011(P2010−33011)
【出願日】平成22年2月17日(2010.2.17)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】