説明

フッ素置換基を持つ不斉触媒と光学活性化合物の製造方法

【課題】 高い光学純度の光学活性中間体を、常に、より工業的利便性の高く、安価に製造することが可能な不斉合成触媒を提供する。
【解決手段】
一般式(1)
【化1】


(式中、R1およびR2は同一又は異なって、水素原子またはC1〜6の直鎖若しくは分岐のアルキル基を示し、Rf1、Rf2およびRf3は同一又は異なって、C4〜6のペルフルオロアルキル基を示す。ただし、R1とR2はC2〜10のアルキル基で閉環していてもよい。)
で表される不斉合成触媒活性を持つジオキソラン誘導体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はペルフルオロアルキル基を持つ新規光学活性ジオキソラン誘導体、及びその製造法に関するもので、医農薬分野を含む有機合成分野において、広く用いられている光学活性化合物の製造に用いる不斉合成触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
光学活性化合物の製造方法として、ラセミの化合物からの光学分割、不斉酸化、不斉還元、アルデヒドやカルボニル化合物へのエナンチオ選択的付加反応等があげられる。
【0003】
これらの製造方法に用いられる触媒として、非特許文献1、2、3では、不斉合成用配位子2,2-dimethyl-α, α, α’,α’-tetraphenyl-1,3-dioxolane-4,5-dimethanol(以下TADDOL)誘導体が開示され、さらにTADDOL誘導体及び金属アルコキシド、及び溶媒からなる不斉合成用触媒溶液を利用し、種々の光学活性化合物の製造方法についても開示されている。
【0004】
また、本特許発明者らは非特許文献4において、ペルフルオロクチル基を含有するジオキソラン誘導体が不斉合成触媒として利用できることを開示している。
【非特許文献1】Angew. Chem., Int. Ed. 2001, vol.40, 92-138p D. Seebach, A. K. Beck, A. Heckel,
【非特許文献2】Angew. Chem., Int. Ed. 1991, vol.30, 99-101p B. Schmidt, D. Seebach,
【非特許文献3】Organic Letters (2006)vol.8 No. 3 427pp A. K. Mandal, J. S. Schneekloth,
【非特許文献4】Organic Letters (2007)vol.9 No.10 1927pp I. Kumadaki, A. Ando,
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、医農薬分野を含む有機合成分野において、光学活性化合物は広く用いられ、多くの医薬品中間体として用いられている。このような光学活性中間体の光学純度要求は、製品の安全性の保証から厳しく、常に、より工業的利便性の高い、安価な製造方法の開発が望まれている。
【0006】
従来の光学活性化合物を製造技術では、TADDOL誘導体を含め、一般に不斉合成用配位子、および錯体、触媒はその安定性や有機溶剤への溶解度から、その回収は困難か新規に製造するより回収コストや環境負荷が高くなるため、その全量を光学活性化合物の製造の度に、新たに長い製造工程によって製造しなければならならない。
【0007】
また、TADDOL誘導体は、予め金属アルコキシドと錯体を形成させるなど、あらかじめ不斉合成触媒溶液を調整する必要があるため、その使用は簡単とは言い難い。
【0008】
さらにこのように調整されたTADDOL誘導体を含有する不斉合成触媒溶液とアルキル金属を用いた不斉合成例は数多いが、ジメチル亜鉛との反応は、非特許文献2では、記載しておらず,メチル基の導入にはメチルリチウムやヨウ化メチルマグネシウムを用いている。また、非特許文献3においては不斉収率が低いと報告されている。これは従来のTADDOL誘導体を含有する不斉合成触媒溶液では、光学活性純度を上げることができなかったためと考えられる。
【0009】
一方、ペルフルオロクチル基を含有するジオキソラン誘導体は水、有機溶剤への溶解度が著しく低く、その製造、及びこれを用いた反応には大量の溶媒が必要となる。このため、工業的な利用という点からは、汎用性があるとは言い難い。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意検討を重ねた結果、ペルフルオロブチル基、またはペルフルオロヘキシル基を有するジオキソラン誘導体が、不斉合成触媒としての活性、及び水に対する不溶性を維持したまま、有機溶剤に対する溶解度を改善できることを発見した。
【0011】
これにより、ペルフルオロクチル基を含有するジオキソラン誘導体ではなしえなかった不斉合成触媒としての工業的汎用性を付与することができ、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明は以下の発明を要旨とするものである。
【0013】
(1) 一般式(1)
【0014】
【化1】

【0015】
(式中、R1およびR2は同一又は異なって、水素原子またはC1〜6の直鎖若しくは分岐のアルキル基を示し、Rf1、Rf2およびRf3は同一又は異なって、C4〜6のペルフルオロアルキル基を示す。ただし、R1とR2はC2〜10のアルキル基で閉環していてもよい。)
で表される不斉合成触媒活性を持つジオキソラン誘導体。
【0016】
(2) 一般式(1)で表されるジオキソラン誘導体が、一般式(2)
【0017】
【化2】

【0018】
(式中、*は不斉炭素原子を示し、R、R、Rf、RfおよびRfは前記定義に同じ。)
で表される光学活性ジオキソラン誘導体である(1)に記載されたジオキソラン誘導体。
【0019】
(3) 一般式(3)
【0020】
【化3】

【0021】
(式中、R1およびR2は同一又は異なって、水素原子またはC1〜6の直鎖若しくは分岐のアルキル基を示し、Rf1、Rf2およびRf3は同一又は異なって、C4〜6のペルフルオロアルキル基を示す。ただし、R1とR2はC2〜10のアルキル基で閉環していてもよい。)
で表される不斉合成触媒活性を持つジオキソラン誘導体の前駆体。
【0022】
(4) 一般式(3)で表されるジオキソラン誘導体の前駆体が、一般式(4)
【0023】
【化4】

【0024】
(式中、*は不斉炭素原子を示し、R、R、Rf、RfおよびRfは前記定義に同じ。)で表される光学活性体である(3)の前駆体。
【0025】
(5) (2)に記載の一般式(2)で表される光学活性ジオキソラン誘導体、金属アルコキシド及び溶剤からなる不斉合成触媒溶液。
【0026】
(6) 金属アルコキシドがチタンアルコキシドである(5)に記載の不斉合成触媒溶液。
【0027】
(7) 一般式(5)
【0028】
【化5】

【0029】
(式中、R1,R2は同一又は異なって、水素原子またはC1〜6の直鎖若しくは分岐のアルキル基を示し、R1とR2でC2〜10のアルキル基で閉環していてもよい。R3及びR4は同一または異なって、C1〜3のアルキル基である)
で表される酒石酸誘導体と一般式(6)
RfI (6)
(式中、RfはC4〜6のペルフルオロアルキル基を示す。)
で表されるペルフルオロアルキルアイオダイドを、アルキル金属又はアルキル金属ハロゲン化物を用いて反応させ、一般式(3)
【0030】
【化6】

【0031】
(式中、R1,R2は前記定義に同じ、Rf1、Rf2およびRf3は同一又は異なって、C4〜6のペルフルオロアルキル基を示す。)
で表される不斉合成触媒活性を持つジオキソラン誘導体の前駆体を得た後、還元剤を用いて還元することを特徴とする一般式(1)
【0032】
【化7】

【0033】
(式中、R1、R2、Rf1、Rf2およびRf3は前記定義に同じ。)
で表される不斉合成触媒活性を持つジオキソラン誘導体の製造方法。
【0034】
(8) 一般式(7)
【0035】
【化8】

【0036】
(式中、*は不斉炭素原子を示し、R1,R2は同一又は異なって、水素原子またはC1〜6の直鎖若しくは分岐のアルキル基を示し、R1とR2でC2〜10のアルキル基で閉環していてもよい。R3及びR4は同一または異なって、C1〜3のアルキル基である。)
で表される酒石酸誘導体と一般式(6)
RfI (6)
(式中、RfはC4〜6のペルフルオロアルキル基を示す。)
で表されるペルフルオロアルキルアイオダイドを、アルキル金属又はアルキル金属ハロゲン化物を用いて反応させ、一般式(4)
【0037】
【化9】

【0038】
(式中、*は不斉炭素原子を示し、R1,R2は前記定義に同じ、Rf1、Rf2およびRf3は同一又は異なって、C4〜6のペルフルオロアルキル基を示す。)
で表される不斉合成触媒活性を持つジオキソラン誘導体の前駆体を得た後、還元剤を用いて還元することを特徴とする一般式(2)
【0039】
【化10】

【0040】
(式中、R1、R2、Rf1、Rf2およびRf3は前記定義に同じ。)
で表される不斉合成触媒活性を持つジオキソラン誘導体の製造方法。
【0041】
(9)(1)または(2)に記載の不斉合成触媒活性を持つジオキソラン誘導体、または(5)又は(6)に記載の不斉合成触媒溶液を用い、一般式(8)
【0042】
【化11】

【0043】
(式中、R5は、直鎖若しくは分岐しているアルキル基、アルケニル基、フェニル基、ベンジル基、置換基を持つ芳香環又は複素環を示す)で表すアルデヒドに、アルキル金属を作用させ、一般式(9)
【0044】
【化12】

【0045】
(式中、*は不斉炭素原子、R6は、C1〜10の直鎖若しくは分岐を持つアルキル基、C1〜10のシクロアルキル基、C1〜10の分岐を持つシクロアルキル基、芳香環、置換基を持つ芳香環、複素環または置換基を持つ複素環を示し、Rは前記定義に同じ)で表される光学活性化合物を製造する光学活性化合物の製造方法。
【0046】
(10)(2)に記載の一般式(2)で示される光学活性ジオキソラン誘導体、または(6)に記載の不斉合成触媒溶液を用い、ジメチル亜鉛を(9)に記載の一般式(8) で示される化合物に作用させ、(9)に記載の一般式(9)で表される光学活性化合物を製造する光学活性化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0047】
本発明は、医農薬中間体として、有用な光学活性化合物の製造方法において、化学的に安定で再使用が可能であり、かつ高い収率かつ光学純度を達成できる、特にジメチル亜鉛をメチル基の導入剤として用いることができる不斉合成用触媒を提供する。
【0048】
さらに、この不斉合成触媒を用いた、より効率的な工業的利用価値が高く、環境負荷の小さい製造プロセスによる光学活性化合物の製造方法を提供する。
【0049】
一般式(I) で表されるジオキソラン誘導体は分子内にペルフルオロアルキル基を含有するため、反応溶液を後処理後、容易にフルオラス溶媒により分離することができ、しかも回収した一般式(I) で表されるジオキソラン誘導体は再使用することもできる。このため、従来の不斉合成触媒とは異なり、光学活性化合物の製造毎に触媒を製造する必要がないため、環境負荷を軽減することが可能である。また、本触媒は従来の不斉合成触媒と異なり、光学分割を必要としないため、その合成は非常に容易であり、この点からも環境負荷の低減、さらには触媒の製造コストの低減に繋がる。
【0050】
また、本触媒は従来品より広い触媒活性を持ち、従来の不斉合成触媒溶液では難しいとされたジメチル亜鉛をアルキル基の導入剤として使用することも可能である。
【0051】
さらに、本発明に関わる触媒は、触媒活性を落とすことなく、ペルフルオロアルキル基の炭素鎖長を調節する、または2位のアルキル基の長さや形状を調整することで、水、有機溶剤の分配率、さらには相互に溶解性のない有機溶剤:有機溶剤の分配率を変化させることが出来るため、その応用範囲は広く、有機化学分野全般で使用することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0052】
本発明を更に詳細に説明する。
【0053】
一般式(I) で表されるジオキソラン誘導体、または一般式(2)で表されるその光学活性体(以下、ジオキソラン誘導体と記載)は、R1及びR2は、同一又は異なって、水素原子またはC1〜6の直鎖、または分岐アルキル基、またはR1とR2でC2〜10のアルキル基で閉環していても良く、具体的には水素、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、1,1-ジメチルプロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、t-ブチル基、2-メチルブチル基、2,3-ジメチルブチル基、n-ペンチル基、2-メチルペンチル基、n-ヘキシル基であり、またはR1とR2でシクロプロピル基、メチルシクロプロピル基、シクロブチル基、メチルシクロブチル基、シクロペンチル基、メチルシクロペンチル基、シクロヘキシル基、メチルシクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基で閉環している。好ましくはメチル基、エチル基、n-プロピル基であり、またはR1とR2でシクロペンチル基、シクロヘキシル基で閉環している。
【0054】
Rf1、Rf2、Rf3は同一又は異なる、C4〜6のペルフルオロアルキル基であり、具体的にはノナフルオロブチル基、2-トリフルオロメチル-ヘキサフルオロプロピル基、ウンデカフルオロペンチル基、2-トリフルオロメチル-デカフルオロペンチル基、トリデカフルオロヘキシル基である。好ましくはノナフルオロブチル基、トリデカフルオロヘキシル基である。
【0055】
このようなジオキソラン誘導体は次の製造方法により、製造される。
一般式(5)
【0056】
【化13】

【0057】
(式中、R1、R2、R3、R4は上述と同じ)で表される酒石酸誘導体(以下酒石酸誘導体と記載)と一般式(6)
RfI (6)
(式中、RfはC4〜6のペルフルオロアルキル基)で表されるペルフルオロアルキルアイオダイド(以下RfIと記載)を、溶媒中でアルキル金属、又はアルキル金属ハロゲン化物を用いて反応させることで
一般式(3)
【0058】
【化14】

【0059】
(式中、R1およびR2は同一又は異なって、水素原子またはC1〜6の直鎖、または分岐アルキル基、またはR1とR2でC2〜10のアルキル基で閉環していても良く、Rf1、Rf2、Rf3は同一又は異なって、C4〜6のペルフルオロアルキル基を示す。)で表されるジオキソラン誘導体前駆体(以下、ジオキソラン前駆体と記載)が得られる。
【0060】
ここで用いるアルキル金属、又はアルキル金属ハロゲン化物は、酒石酸誘導体とペルフルオロアルキルアイオダイドの反応を促進できる化合物であれば特に限定されないが、好ましくはメチルリチウムや臭化エチルマグネシウムが用いられる。
【0061】
溶媒は、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等のエーテル系溶媒、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等の非プロトン性極性溶媒等が挙げられる。好ましくはテトラヒドロフラン、ジエチルエーテルである。
【0062】
反応の具体例は、以下の通りである。
【0063】
すべて同じRf基を導入する場合は、アルキル金属、又はアルキル金属ハロゲン化物2.7〜8.0当量、好ましくは3.3〜4.5当量を溶媒に溶かし,十分に冷却した後,あらかじめ溶媒に溶解させておいたRfIを、2.7〜8.0当量、好ましくは3.3〜4.5当量を、ゆっくりと加え、次に,あらかじめ溶媒に溶解させておいた一般式(6) で表される化合物をゆっくりと加え、攪拌することで容易に得られる。
【0064】
異なるRf基を導入する場合は、アルキル金属、又はアルキル金属ハロゲン化物を最も長い炭素長のRf基を、導入する官能基数の0.9〜1.5当量、好ましくは1.0〜1.2当量を溶媒に溶かし,十分に冷却した後,あらかじめ溶媒に溶解させておいたRfIを、導入する官能基数の0.9〜1.5当量、好ましくは1.0〜1.2当量を、ゆっくりと加え、次に,あらかじめ溶媒に溶解させておいた一般式(6) で表される化合物をゆっくりと加え、攪拌する、その後この操作を繰り返すことでRf基の異なるジオキソラン誘導体を容易に得られる。
【0065】
次に、このようにして得られたジオキソラン前駆体に還元剤を作用させる事で、ジオキソラン誘導体を得ることができる。

この際使用する還元剤は特に限定されないが、例えば水素化リチウムアルミニウム、水素化ジイソブチルアルミニウム、ビットライド、水素化ホウ素ナトリウムなどが挙げられる。特に好ましくは水素化ホウ素ナトリウムが挙げられる。

溶媒は適宜使用可能であり、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等のエーテル系溶媒、メタノール、エタノール等のアルコール系溶媒であれば特に限定されない。好ましくはテトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、メタノールが挙げられる。

反応温度は、特に限定しないが-40℃〜40℃、好ましくは-30℃〜30℃である。また、初期発熱を抑え、反応を円滑に進めるため、反応初期反応温度を低く抑え、反応の進行に伴い、反応温度を高くしていくなどの方法を用いることも効果的である。
【0066】
還元の選択性を上げるため、ルイス酸を加えても良い。添加する場合、その種類は特に限定されないが、好ましくは塩化セリウム(III)が用いられる。
【0067】
反応の具体例は、ルイス酸1.0〜3.0当量と前駆体を溶媒に溶かし、室温で良く攪拌し、この溶液に還元剤1.0〜5.0当量、好ましくは2〜4当量を少量ずつ加えて、反応が終了するまで攪拌することで、一般式(1) で表されるジオキソラン誘導体、特にジオキソラン前駆体が光学活性体の場合、その光学活性体が得られる。
【0068】
次にこのようにして得られたジオキソラン誘導体は、不斉合成用触媒として使用され、以下のアルキル化反応により、光学活性化合物を製造することができる。
【0069】
ジオキソラン誘導体を反応に用いる溶媒に溶解させた後、金属アルコキサイドを加え、攪拌し、ジオキソラン誘導体を含む不斉合成触媒溶液を調整する。これに、アルキル金属を加え、攪拌する。その後、
一般式(8)
【0070】
【化15】

【0071】
(式中、R5は、直鎖若しくは分岐しているアルキル基、アルケニル基、フェニル基、ベンジル基、置換基を持つ芳香環又は複素環を示す)で表すアルデヒドに作用させることで、
一般式(9)
【0072】
【化16】

【0073】
(式中、*は不斉炭素原子、R6は、C1〜10の直鎖若しくは分岐を持つアルキル基、C1〜10のシクロアルキル基、C1〜10の分岐を持つシクロアルキル基、芳香環、置換基を持つ芳香環、複素環または置換基を持つ複素環を示し、Rは前記定義に同じ)で表される光学活性化合物を得ることができる。
【0074】
ここで用いられる金属アルコキサイドは、チタンアルコキサイドであり、テトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトラ-iso-プロポキシチタン、テトラ-n-プロポキシチタン、テトラ-tert-プロポキシチタン、テトラ-n-ブトキシチタン、テトラ-iso-ブトキシチタン、テトラ-tert-ブトキシチタンが挙げられる。好ましくはテトラ-iso-プロポキシチタンである。
【0075】
また、アルキル金属は、ジメチル亜鉛、ジエチル亜鉛、ジイソプロピル亜鉛、ジフェニル亜鉛などのジアルキル亜鉛類、ジメチルマグネシウム、ジエチルマグネシウム、ジイソプロピル亜鉛、ジフェニルマグネシウムなどのジアルキルマグネシウム類、ジメチル亜鉛、ジエチル亜鉛、ジイソプロピル亜鉛、ジフェニル亜鉛などのジアルキル亜鉛類、トリエトキシアルミニウム、トリ−n−プロポキシアルミニウム、トリ−iso−プロポキシアルミニウム、トリ−n−ブトキシアルミニウム、トリ−iso−ブトキシアルミニウム、トリ−sec−ブトキシアルミニウム、モノ−sec−ブトキシ−ジ−iso−プロポキシアルミニウムなどのトリアルキルアルミニウム類、メチルリチウム、エチルリチウム、イソプロピルリチウム、ジフェニルリチウムなどのジアルキルリチウム類などが挙げられる。
【0076】
反応時用いる溶媒は、ヘキサン、ヘプタンなどの炭化水素系溶媒、トルエン、キシレンなどの芳香族溶媒などの無極性溶媒が好ましく、特にヘキサン、ヘプタン、トルエンが好ましい。
【0077】
反応温度は特に限定されないが、一般に-20℃以下で行われる。好ましくは-30℃以下で行う。
【0078】
反応に用いたジオキソラン誘導体は、一般に5版 実験化学講座 1 基礎編 実験・情報の基礎 日本化学会 編(丸善)に記載されている抽出操作等を行うことで、反応液から容易に回収することが出来る。
【0079】
回収に用いる溶媒は、ジクロロメタン、クロロホルムなどの塩素系溶媒、ないしジエチルエーテルやジイソプロピルエーテルなどの非水溶性のエーテル類、ペルフルオロヘキサン、ペルフルオロオクタン等のフルオラス溶媒が挙げられる。好ましくはペルフルオロヘキサン、ペルフルオロオクタン等のフルオラス溶媒である。
【0080】
反応の具体的な説明は以下の通りである。
【0081】
ジオキソラン誘導体溶液に新たに蒸留したチタンアルコキサイド 1.0〜3.0当量、好ましくは1.5〜2.5当量 を加え,常温で攪拌後, アルキル金属1.0〜6.0当量、好ましくは1.5〜4.5当量を加えさらに攪拌する.この混合物を所定の反応温度0℃以下、好ましくは-20℃以下に冷却後,相当するアルデヒド1.0〜3.0当量、好ましくは1.5〜2.5当量をゆっくりと加える.混合物を同温度で攪拌を続けることで、目的化合物が得られる。
【0082】
ジオキソラン誘導体回収は、反応後,反応液から水溶性の含有物を分離した後,溶媒を留去し,ジクロロメタンを加え、または溶媒を留去せず、そのままジクロロメタンとフルオラス溶媒を加えて抽出操作を行うことで、本特許に関わるジオキソラン誘導体をフルオラス層に回収することができる。
【0083】
実施例
以下に実施例を挙げて、本特許を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。
【0084】
(実施例1〜2)
ジオキソラン誘導体の製造方法の一般的操作は下記の通り。実施例1、2では、対応する酒石酸誘導体を用い、対応する炭素数のRfIを用いた以外、すべて同じ手法で、実施した。
【0085】
EtMgBr (20 mmol) をEt2O (130 mL)に溶かし、-65 °Cで激しく攪拌下に,RfI(20 mmol) のEt2O溶液をゆっくりと加えた後、45分かけて−40 ℃まで温度を上げる。この混合物に、一般式(6)に表される化合物(5 mmol) の Et2O溶液をゆっくりと加え、さらに温度を −30 ℃まで上げ、この温度でさらに3時間激しく攪拌する。
【0086】
反応を飽和NH4Clで停止させ、有機層を分離し、水層をさらにEt2Oで3回抽出した。有機層を合して無水MgSO4で乾燥後、溶媒を留去すると、黄色油状物が得られる。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:10% Et2O 含有ヘキサン)で精製すると、淡黄色油状物が得られる。これをさらにヘキサンから再結晶すると対応する前駆体が得られる。
【実施例1】
【0087】
1-((4R,5R)-2,2-ジメチル-5-(1-ヒドロキシ-1,1-ビス(ペルフルオロブチル)メチル-1,3-ジオキソラン-4-イル)ペルフルオロペンタン-1-オンの製造
【0088】
【化17】

【0089】
R1=R2=Me、RfI=C4F9Iの時、収率67%.
[α]D+6.20(c 1.36, エーテル).
1H NMR (CDCl3, 400 MHz) δ: 5.31 (1H, d, J = 6.4 Hz), 5.15 (1H, d, J = 5.6 Hz), 3.78 (1H, s, disappeared with D2O), 1.55 (3H, s) 1.32 (3H, s).
IR (KBr) cm-1: 3600, 1750.
MS m/z: 813 (M-1-). HRMS Calcd. for C19H8F27O4: 812.9991 (M-1-). Found: 812.9999.
【実施例2】
【0090】
1-((4R,5R)-2,2-ジメチル-5-(1-ヒドロキシ-1,1-ビス(ペルフルオロヘキシル)メチル-1,3-ジオキソラン-4-イル)ペルフルオロヘプタン-1-オン の製造
【0091】
【化18】

【0092】
R1=R2=Me、RfI=C6F13Iの時、収率 63%.
[α]D +4.00 (c 1.15, エーテル).
1H NMR (CDCl3, 600 MHz, 55 ℃) δ: 5.30 (1H, d, J = 6.3 Hz), 5.15 (1H, d, J = 6.3 Hz), 3.75 (1H, s, disappeared with D2O), 1.53 (3H, s) 1.32 (3H, s).
IR (KBr) cm-1: 3600, 1760.
MS m/z: 1113 (M-1-). HRMS Calcd. for C25H8F39O4: 1112.9800 (M-1-). Found: 1112.9800.
【0093】
(実施例3〜5)
ジオキソラン誘導体の製造方法の一般的操作は下記の通り。実施例3〜5では、対応する酒石酸誘導体を用い、対応する炭素数のRfIを用いた以外、すべて同じ手法で、実施した。
【0094】
CeCl3.7H2O (2 mmol) と一般式(3)の表されたジオキソラン誘導体前駆体(1 mmol) の混合物をMeOH (15 mL ) とEt2O (3 mL) の混合溶媒中室温で30分攪拌した後、この混合物を−30 ℃に冷却する。この溶液にNaBH4 (4 mmol) を少量ずつ加えた後、ゆっくりと室温まで温度を上げ、さらに室温で3時間攪拌する.過剰のNaBH4 をアセトンで分解した後、飽和NH4Clを加えてEt2Oで抽出する。Et2O 層を無水MgSO4で乾燥後、溶媒を留去すると油状物質が得られ、これをフラッシュカラムクロマトグラフィーで精製する。必要に応じてさらに再結晶を行っても良い。このようにして、ジオキソラン誘導体は無色結晶として、一般式(1)の表されたジオキソラン誘導体が得られる。
【実施例3】
【0095】
(α’S,2R,3S)-α,α,α’-トリス(ペルフルオロブチル)-1,4-ジオキサスピロ[4.5]デカン-2,3-ジメタノールの製造
【0096】
【化19】

【0097】
R1/R2=シクロヘキシル、RfI=C4F9Iの時、
Mp 68-70 ℃.
[α]D−14.5 (c 0.74, Et2O).
1H NMR (CDCl3 , 600MHz, 55 ℃) δ: 4.79 (1H, d, J = 8.0 Hz), 4.62 (1H, d, J = 8.0 Hz), 4.36-4.29 (1H, m), 3.82 (1H, s, disappeared with D2O), 2.77 (1H, d, J =12.6 Hz, disappeared with D2O), 1.73-1.38 (10H, m).
IR (KBr) cm-1: 3500.
MS m/z: 857 (M+1+). HRMS Calcd. for C22H16F27O4: 857.0617 (M+1+). Found: 857.0609.
【実施例4】
【0098】
(α’S,4R,5S) -2,2-ジメチル-α,α,α’-トリス(ペルフロブチル)-1,3-ジオキソラン-4,5-ジメタノールの製造
【0099】
【化20】

【0100】
R1=R2=Me、RfI=C4F9Iの時、収率62%.
Mp 56-57 ℃.
[α]D−1.62 (c 0.73, エーテル).
1H NMR (CDCl3 , 400 MHz) δ: 4.74 (1H, d, J = 8.0 Hz), 4.60 (1H, d, J = 8.0 Hz), 4.37-4.28 (1H, m), 3.81 (1H, s, disappeared with D2O), 2.88 (1H, d, J =12.6 Hz, disappeared with D2O), 1.52 (3H, s) 1.50 (3H, s).
IR (KBr) cm-1: 3500.
MS m/z: 817 (M+1+). HRMS Calcd. for C19H12F27O4: 817.0304 (M+1+). Found: 817.0296.
【実施例5】
【0101】
(α’S,4R,5S)-2,2-ジメチル-α,α,α’-トリス(ペルフルオロへキシル)-1,3-ジオキソラン-4,5-ジメタノール の製造
【0102】
【化21】

【0103】
R1=R2=Me、RfI=C6F13Iの時、収率 = 63%. Mp 64 ℃. [α]D −1.51 (c 0.73, エーテル). 1H NMR (CDCl3 , 600 MHz, 55 ℃) δ: 4.75 (1H, d, J = 8.0 Hz), 4.62 (1H, d, J = 8.0 Hz), 4.35-4.28 (1H, m), 3.76 (1H, s, disappeared with D2O), 2.81 (1H, d, J =10.33 Hz, disappeared with D2O), 1.52 (3H, s) 1.50 (3H, s). IR (KBr) cm-1: 3500. MS m/z: 1117 (M+1+). HRMS Calcd. for C25H12F39O4: 1117.0113 (M+1+). Found: 1117.0111.
【0104】
(実施例6〜18)
ジオキソラン誘導体を用いたアルデヒドへのアルキル付加反応の一般操作を下に記載した。
【0105】
実施例6〜20は用いた生成物に対応したアルデヒド、アルキル金属を用いること、ジオキソラン誘導体を変える以外、すべて下記手順に従い、実施した。
【0106】
ジオキソラン誘導体(0.06 mmol) の無水ヘキサン溶液に新たに蒸留したTi(iPrO)4(1.22 mmol) を加え、室温で30分攪拌後、アルキル亜鉛 (2.44 mmol) を加えさらに15分間攪拌する。この混合物を−35 ℃ に冷却後、相当するアルデヒド (1.02 mmol) をゆっくりと加える。混合物を同温度で攪拌を続け,反応の進行をガスクロマトグラフィーで確認する。原料アルデヒドのピークが認められなくなったならば、飽和NH4Clで反応を止め、ガラスフィルターで濾過後、生成物を抽出し、フラッシュカラムクロマトグラフィーで精製する。
【0107】
反応後、有機層をいったん分離して、溶媒を留去する。つぎに、ジクロロメタンとペルフルオロヘキサン(FC-72)各1 mLを加えて振盪後、FC-72層を分離し、さらにジクロロメタン層をFC-72で同様に抽出すると、ジクロロメタン層から生成物が、FC-72層からジオキソラン誘導体が回収する。
【0108】
一般式(1)において、R1=R2= Me、Rf1 =Rf2= Rf3 = C4F9であるジオキソラン誘導体を用いた実施例を表1に示した。
【0109】
【表1】

【0110】
一般式(1)において、R1=R2= Me、Rf1 =Rf2= Rf3 = C6F13であるジオキソラン誘導体を用いた実施例を表2に示した。
【0111】
【表2】

【実施例6】
【0112】
一般式(1)において、R1,R2= シクロヘキサン、Rf1 =Rf2= Rf3 = C4F9であるジオキソラン誘導体を用いた実施例を表3に示した。
【0113】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明の不斉合成触媒活性を持つジオキソラン誘導体により光学活性化合物が容易に製造できるので、医農薬分野を含む有機合成分野において有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】

(式中、R1およびR2は同一又は異なって、水素原子またはC1〜6の直鎖若しくは分岐のアルキル基を示し、Rf1、Rf2およびRf3は同一又は異なって、C4〜6のペルフルオロアルキル基を示す。ただし、R1とR2はC2〜10のアルキル基で閉環していてもよい。)
で表される不斉合成触媒活性を持つジオキソラン誘導体。
【請求項2】
一般式(1)で表されるジオキソラン誘導体が、一般式(2)
【化2】

(式中、*は不斉炭素原子を示し、R、R、Rf、RfおよびRfは前記定義に同じ。)
で表される光学活性ジオキソラン誘導体である請求項1に記載されたジオキソラン誘導体。
【請求項3】
一般式(3)
【化3】

(式中、R1およびR2は同一又は異なって、水素原子またはC1〜6の直鎖若しくは分岐のアルキル基を示し、Rf1、Rf2およびRf3は同一又は異なって、C4〜6のペルフルオロアルキル基を示す。ただし、R1とR2はC2〜10のアルキル基で閉環していてもよい。)
で表される不斉合成触媒活性を持つジオキソラン誘導体の前駆体。
【請求項4】
一般式(3)で表されるジオキソラン誘導体の前駆体が、一般式(4)
【化4】

(式中、*は不斉炭素原子を示し、R、R、Rf、RfおよびRfは前記定義に同じ。)で表される光学活性体である請求項3記載の前駆体。
【請求項5】
請求項2に記載の一般式(2)で表される光学活性ジオキソラン誘導体、金属アルコキシド及び溶剤からなる不斉合成触媒溶液。
【請求項6】
金属アルコキシドがチタンアルコキシドである請求項5に記載の不斉合成触媒溶液。
【請求項7】
一般式(5)
【化5】

(式中、R1,R2は同一又は異なって、水素原子またはC1〜6の直鎖若しくは分岐のアルキル基を示し、R1とR2でC2〜10のアルキル基で閉環していてもよい。R3及びR4は同一または異なって、C1〜3のアルキル基である)
で表される酒石酸誘導体と一般式(6)
RfI (6)
(式中、RfはC4〜6のペルフルオロアルキル基を示す。)
で表されるペルフルオロアルキルアイオダイドを、アルキル金属又はアルキル金属ハロゲン化物を用いて反応させ、一般式(3)
【化6】

(式中、R1,R2は前記定義に同じ、Rf1、Rf2およびRf3は同一又は異なって、C4〜6のペルフルオロアルキル基を示す。)
で表される不斉合成触媒活性を持つジオキソラン誘導体の前駆体を得た後、還元剤を用いて還元することを特徴とする一般式(1)
【化7】

(式中、R1、R2、Rf1、Rf2およびRf3は前記定義に同じ。)
で表される不斉合成触媒活性を持つジオキソラン誘導体の製造方法。
【請求項8】
一般式(7)
【化8】

(式中、*は不斉炭素原子を示し、R1,R2は同一又は異なって、水素原子またはC1〜6の直鎖若しくは分岐のアルキル基を示し、R1とR2でC2〜10のアルキル基で閉環していてもよい。R3及びR4は同一または異なって、C1〜3のアルキル基である。)
で表される酒石酸誘導体と一般式(6)
RfI (6)
(式中、RfはC4〜6のペルフルオロアルキル基を示す。)
で表されるペルフルオロアルキルアイオダイドを、アルキル金属又はアルキル金属ハロゲン化物を用いて反応させ、一般式(4)
【化9】

(式中、*は不斉炭素原子を示し、R1,R2は前記定義に同じ、Rf1、Rf2およびRf3は同一又は異なって、C4〜6のペルフルオロアルキル基を示す。)
で表される不斉合成触媒活性を持つジオキソラン誘導体の前駆体を得た後、還元剤を用いて還元することを特徴とする一般式(2)
【化10】

(式中、R1、R2、Rf1、Rf2およびRf3は前記定義に同じ。)
で表される不斉合成触媒活性を持つジオキソラン誘導体の製造方法。
【請求項9】
請求項1または2に記載の不斉合成触媒活性を持つジオキソラン誘導体、または請求項5または6に記載の不斉合成触媒溶液を用い、一般式(8)
【化11】

(式中、R5は、直鎖若しくは分岐しているアルキル基、アルケニル基、フェニル基、ベンジル基、置換基を持つ芳香環又は複素環を示す)で表すアルデヒドに、アルキル金属を作用させ、一般式(9)
【化12】

(式中、*は不斉炭素原子、R6は、C1〜10の直鎖若しくは分岐を持つアルキル基、C1〜10のシクロアルキル基、C1〜10の分岐を持つシクロアルキル基、芳香環、置換基を持つ芳香環、複素環または置換基を持つ複素環を示し、Rは前記定義に同じ)で表される光学活性化合物を製造する光学活性化合物の製造方法。
【請求項10】
請求項2に記載の一般式(2)で示される光学活性ジオキソラン誘導体、または請求項6に記載の不斉合成触媒溶液を用い、ジメチル亜鉛を請求項9に記載の一般式(8) で示される化合物に作用させ、請求項9に記載の一般式(9)で表される光学活性化合物を製造する光学活性化合物の製造方法。

【公開番号】特開2009−40748(P2009−40748A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−209401(P2007−209401)
【出願日】平成19年8月10日(2007.8.10)
【出願人】(591180358)東ソ−・エフテック株式会社 (91)
【出願人】(503420833)学校法人常翔学園 (62)
【Fターム(参考)】