説明

フナクイムシのセルラーゼとその遺伝子

【課題】フナクイムシの新規セルラーゼと、このセルラーゼ遺伝子を提供する。
【解決手段】フナクイムシTeredo navalisから単離精製されたセルラーゼと、このセルラーゼをコードし、特定な配列からなる塩基配列を含むポリヌクレオチド。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明はフナクイムシのセルラーゼとこのセルラーゼ遺伝子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
植物細胞壁の主要な構成成分であるセルロースは、地球上に最も多く存在する炭水化物である。セルラーゼ等の酵素によりグルコースに加水分解され、さらに発酵を経てエタノールに変換することが可能であるため、新たなエネルギー資源として期待されている。酵母を利用してグルコースからエタノールを産生するアルコール発酵の技術は既に実用化されていることから、さらに効率よくエタノールを得るためには、活性の高いセルラーゼとそれを大量に生産する技術の開発が望まれている。
【0003】
セルラーゼの大量生産のための技術として、セルラーゼ遺伝子を大腸菌等の微生物に導入し、この微生物にセルラーゼを産生させる技術が提案されている(例えば、特許文献1)。
【0004】
このような遺伝子工学的なセルラーゼの製造に使用するセルラーゼ遺伝子としては主に微生物由来のものが知られている。例えば、特許文献1のフミコーラ・インソレンス(Humicola insolens)、バチルス(Bacillus)属微生物(例えば、特許文献2など)、ラクトバクター(Lactobacter)属微生物(特許文献3)、シロアリ共生原生動物(特許文献4)などのセルラーゼ遺伝子が知られている。また、シロアリそれ自体のセルラーゼ遺伝子(特許文献5)も知られている。
【0005】
さらに、海洋生物であるヤマトシジミCorbicula japonica(非特許文献1)や、ロブスターの一種であるCherax quadricarinatus(非特許文献2)に由来するセルラーゼ遺伝子も報告されている。また、樹木のセルロースを分解してその中に生息するフナクイムシの近縁種である穿孔性二枚貝Psiloteredo headiの共生細菌Teredinobacter turnerdeから単離されたセルラーゼは比活性および熱安定性が高いことも報告されている(非特許文献3)。
【特許文献1】特開平8-56663号公報
【特許文献2】特開2005-287441号公報
【特許文献3】特開2008-48675号公報
【特許文献4】特開2003-70475号公報
【特許文献5】特開平11-46764号公報
【非特許文献1】Sakamoto et al., 2007, Fish. Sci. 73, 675-683
【非特許文献2】Byrne et al., 1999, Gene, 239, 317-324
【非特許文献3】Freer et al., 2001, ACC Symp. Ser. 769, 39-54
【非特許文献4】Sakamoto et al., 2009, Comp. Biochem. Physiol. 152B, 390-396
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
セルラーゼは複数のセルロース分解酵素の総称で、それぞれの酵素の存在比によってセルロース分解活性が大きく変化することが知られている。
【0007】
前記のとおり、フナクイムシの近縁種である穿孔性二枚貝Psiloteredo headiの共生細菌に由来するセルラーゼは優れたセルロース分解活性を有することから、フナクイムシそれ自体のセルラーゼも高い活性を有することが期待される。
【0008】
そこで本願発明は、フナクイムシの新規セルラーゼと、このセルラーゼ遺伝子、およびこの遺伝子を利用する手段を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明は、前記の課題を解決するものとして以下を提供する。
(1)フナクイムシTeredo navalisから単離精製されたセルラーゼ。
(2)フナクイムシTeredo navalisのセルラーゼをコードし、配列番号1の塩基配列を含むポリヌクレオチド。
(3)フナクイムシTeredo navalisの全RNAから、配列番号2と配列番号3のそれぞれの塩基配列からなるプライマーセットを用いてPCR増幅することによって得られる前記(2)のポリヌクレオチド。
(4)前記(2)のポリヌクレオチドを保有する発現ベクター。
(5)前記(4)の発現ベクターが導入された形質転換体細胞。
(6)前記(5)の形質転換体細胞が産生する組換えセルラーゼ。
【発明の効果】
【0010】
本願発明によって、新規のフナクイムシ・セルラーゼを等品質かつ大量に製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】フナクイムシTeredo navalisの粗抽出液のグルコース生産量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<実施例1>
フナクイムシTeredo navalisの粗抽出液を調製し、そのセルラーゼ活性を測定した。
【0013】
フナクイムシ(約0.2g、10個体)を、1mLの50 mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.5)中でホモジナイズし、遠心分離(12,000×g、5分間、4℃)し、粗抽出液を得た。
【0014】
この粗抽出液5μLに200μLの50 mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.5)と2% Carboxymethyl cellulose(CMC)を加え、37℃で振盪しながら1、5、10、30および60分間インキュベートし、反応溶液を95℃で3分間加温して反応を止めた。この溶液に、0.1M NaOH中に溶解した2.7 mMのテトラゾリウムブルー溶液1 mLを加え、沸騰水中で正確に5分間処理後、660nmの吸光度を測定し、グルコース量を決定した。
【0015】
結果は図1に示したとおりである。フナクイムシ全体の粗抽出液によるグルコース量は時間経過と共に増加した。37℃で60分間のインキュベーション条件でのグルコース量は、5.0±0.15μmol/mg protein(4.9から5.2μmol/mg proteinの範囲)であった。この結果は、ヤマトシジミの粗抽出液によるグルコース生産量(非特許文献1)が同一インキュベーション条件で約0.1μmol/mg protein以下であるのに比べ、遙かに高い活性である。
<実施例2>
フナクイムシTeredo navalisのセルラーゼ遺伝子を単離した。
【0016】
フナクイムシから、ISOGEN(Nippon Gene)を用いて全RNAを抽出し、SuperScript III逆転写酵素(Invitogen)を用いてcDNAを合成した。
【0017】
PCRプライマーは、非特許文献4に示されたものを用いた。具体的には以下のプライマーセットである。
GHF45-F2:5’-AARGGNGCNTGYGGNTG-3’(配列番号2)
GHF45-R1:5’-TCCCANGTNGYYTCNGGRTT-3’(配列番号3)
PCRの反応条件は以下のとおりである。
【0018】
滅菌水で100倍に希釈したcDNA 1μLに、10 pmolのフォワードおよびリバースプライマー、2μLの10 x Ex Taq緩衝液、2μL の2.5 mM dNTPおよび1 UのEx Taq DNAポリメラーゼ(タカラバイオ株式会社)を加え、滅菌水で全量を20μLとし混合した。混合液を96℃で3分間変性させた後、96℃で20秒, 40℃から50℃で30秒、72℃で60秒のサイクルを25回行った。
【0019】
その結果、400から1000塩基対程度の大きさの複数のDNA断片が得られた。これらのうち34の増幅産物について塩基配列を決定したところ、3つが同じ塩基配列(配列番号1)を示し、他生物種のセルラーゼと約50%のアミノ酸同一率の配列をコードしていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フナクイムシTeredo navalisから単離精製されたセルラーゼ。
【請求項2】
フナクイムシTeredo navalisのセルラーゼをコードし、配列番号1の塩基配列を含むポリヌクレオチド。
【請求項3】
フナクイムシTeredo navalisの全RNAから、配列番号2と配列番号3のそれぞれの塩基配列からなるプライマーセットを用いてPCR増幅することによって得られる請求項2のポリヌクレオチド。
【請求項4】
請求項2のポリヌクレオチドを保有する発現ベクター。
【請求項5】
請求項4の発現ベクターが導入された形質転換体細胞。
【請求項6】
請求項5の形質転換体細胞が産生する組換えセルラーゼ。

【図1】
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【公開番号】特開2011−92187(P2011−92187A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−215568(P2010−215568)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(391042782)日本エヌ・ユー・エス株式会社 (4)
【Fターム(参考)】