説明

フマル酸エステル系ブロック重合体及びその製造方法

【課題】新規なフマル酸エステル系ブロック共重合体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】フマル酸ジエステルよりなる重合体セグメント(A)及び(メタ)アクリル酸誘導体よりなる重合体セグメント(B)を含むことを特徴とするブロック共重合体、及び交換連鎖機構によるリビングラジカル重合法による製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フマル酸エステル系ブロック共重合体及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
透明性プラスチックは、各種光学レンズ類、光ファイバー、更には、偏光フィルムや位相差フィルム、拡散フィルム、導光板などのディスプレイ関連材料として幅広く使用されている。
透明性プラスチックには、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチルなどのビニル系ポリマー、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルスルフォンなどの縮合系ポリマーが使用されている。しかしながらビニル系ポリマーは一般に耐熱性が低く、縮合系ポリマーは透明性や複屈折など光学特性に課題がある。エチレン−ノルボルネン共重合体、ノルボルネン開環重合体の水素添加物などの環状ポリオレフィンは良好な光学特性を有する100℃から150℃程度の耐熱をもつプラスチックであるが、更なる耐熱性向上が求められている。
フマル酸エステル系重合体は、芳香族構造を含まないため良好な光学特性を有する。また1,2−ジ置換エチレン構造よりなり比較的剛直な分子構造を持つため200℃以上の高い耐熱性を示す(例えば非特許文献1、特許文献1〜3参照)。フマル酸エステル系重合体は、熱可塑性を有しないため注型重合や溶液キャスト法によりレンズやフィルムに加工されている。また、これらフマル酸エステル系重合体の柔軟性や伸度といった機械強度の改善、他樹脂との接着性や密着性などの改良のため、これらフマル酸エステルと他のビニル系モノマーとのランダム共重合体が検討されている(例えば特許文献4参照)。しかしながら、このようなランダム共重合体はフマル酸エステル系重合体の剛直性を低下させるなど、本来の特性を低下させるという問題がある。一方、ブロック共重合体は本来の重合体の特性を維持し新しい特性を付与できるため興味深い重合体である。
ブロック共重合体の製造方法としてはリビングアニオン重合法が一般的であり、スチレン−ブタジエンブロック共重合体やスチレン−イソプレンブロック共重合体などが工業的に製造されている。リビングラジカル重合法についても、近年いくつかの方法が報告されている(例えば非特許文献2〜3、特許文献5〜7参照)。これまで開発されているリビングラジカル重合法としては、ニトロキシドラジカルなどの安定ラジカルを用いるリビングラジカル重合法(NMP)、原子移動ラジカル重合法(ATRP)、可逆連鎖移動触媒重合法(RTCP)、有機テルル化合物などを用いるリビングラジカル重合法(TERP)、可逆的付加−開裂連鎖移動重合法(RAFT)などがある。しかしながら、これらリビングラジカル重合により上記のような比較的剛直なフマル酸エステル重合体セグメントを含むブロック共重合体、特に柔軟なセグメントを持つ重合体とのブロック共重合体は報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公平5−40281号公報
【特許文献2】特開昭60−192714号公報
【特許文献3】特開2005−97544号公報
【特許文献4】特開2000−143741号公報
【特許文献5】国際公開第2008/139980号
【特許文献6】国際公開第2004/014848号
【特許文献7】特表2007−515538号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】高分子学会予稿集30巻832頁(1981年)
【非特許文献2】日本ゴム協会誌第82巻第3号135頁(2009年)
【非特許文献3】日本ゴム協会誌第82巻第8号363頁(2009年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、新規なフマル酸エステル系ブロック共重合体及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、フマル酸ジエステルと、(メタ)アクリル酸誘導体とを重合体セグメントの構成モノマーとして、交換連鎖機構によるリビングラジカル重合法によりフマル酸ジエステルよりなる重合体セグメントと、(メタ)アクリル酸誘導体よりなる重合体セグメントを含むブロック共重合体の製造が可能となり上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、フマル酸ジエステルよりなる重合体セグメント(A)及び(メタ)アクリル酸誘導体よりなる重合体セグメント(B)を含むことを特徴とするフマル酸エステル系ブロック共重合体及びその製造方法に関するものである。
【0007】
以下、本発明のフマル酸ジエステルよりなる重合体セグメント(A)及び(メタ)アクリル酸誘導体よりなる重合体セグメント(B)を含むことを特徴とするフマル酸エステル系ブロック共重合体及びその製造方法について詳細に説明する。
本発明のフマル酸エステル系ブロック共重合体は、剛直なフマル酸ジエステルよりなる重合体セグメント(A)及び柔軟な(メタ)アクリル酸誘導体よりなる重合体セグメント(B)を含むことを特徴とする。
フマル酸ジエステルよりなる重合体セグメント(A)は、特に下記一般式(1)で示されるフマル酸ジエステルよりなる重合体であることが好ましい。
【0008】
【化1】

〔式中、R、Rは、C〜C12のアルキル基、シクロアルキル基を示す。〕
【0009】
一般式(1)におけるR、Rは、C〜C12のアルキル基、シクロアルキル基であり、RとRは同一のアルキル基あるいはシクロアルキル基でも、異なるアルキル基でも、異なるシクロアルキル基でも、異なるアルキル基とシクロアルキル基の組み合わせでもよい。C〜C12のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ヘキシル基、2−エチルヘキシル基等が挙げられ、C〜C12のシクロアルキル基としては、例えばアダマンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられ、その中でも、イソプロピル基、シクロヘキシル基、t−ブチル基、アダマンチル基が好ましい。
【0010】
具体的な一般式(1)で示されるフマル酸ジエステルとしては、例えばフマル酸ジメチル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジイソプロピル、フマル酸ジブチル、フマル酸ジイソブチル、フマル酸ジ−s−ブチル、フマル酸ジ−t−ブチル、フマル酸ジアダマンチル、フマル酸ジヘキシル、フマル酸ジシクロヘキシル、フマル酸ジ−2−エチルヘキシル等が挙げられ、その中でも、剛直な重合体セグメントをあたえることからフマル酸ジイソプロピル、フマル酸ジシクロヘキシル、フマル酸ジ−t−ブチル、フマル酸ジアダマンチルが好ましい。また、これらは1種または2種以上含まれていてもよい。
【0011】
(メタ)アクリル酸誘導体よりなる重合体セグメント(B)は、特に下記一般式(2)で示される(メタ)アクリル酸誘導体よりなる重合体であることが好ましい。
【0012】
【化2】

〔式中、Rは水素、あるいはメチル基を、Rは、C〜Cのアルコキシ基、アルールオキシ基、ヒドロキシル基又はC〜Cの(ジ)アルキルアミノ基を示す。〕
【0013】
一般式(2)におけるRは水素、あるいはメチル基であり、Rは、C〜Cのアルコキシ基、アリールオキシ基、ヒドロキシ基又はC〜Cの(ジ)アルキルアミノ基であり、C〜Cのアルコキシ基としては、例えばメトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、ブトキシ基、ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、ドデシルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基等が挙げられ、アリールオキシ基としては、例えばフェノキシ基、ベンジルオキシ基等が挙げられ、C〜Cの(ジ)アルキルアミノ基としては、例えばジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等が挙げられ、特にエトキシ基、ブトキシ基、ヘキシルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基が好ましい。
【0014】
具体的な一般式(2)で示される(メタ)アクリル酸誘導体としては、例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸オクチル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸−2−エチルヘキシル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル等の(メタ)アクリルエステル;アクリル酸、メタクリル酸、ジメチルアクリルアミド、ジエチルアクリルアミド、ジメチルメタクリルアミド、ジエチルメタクリルアミド等が挙げられ、特に、柔軟な重合体セグメントをあたえることから、(メタ)アクリル酸エステル、特にアクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸−2−エチルヘキシルが好ましい。また、これらは1種または2種以上含まれていてもよい。
【0015】
本発明のフマル酸エステル系重合体は、フマル酸ジエステル重合体よりなるセグメント(A)及び(メタ)アクリル酸誘導体よりなる重合体セグメント(B)を含むブロック共重合体であり、本発明の範囲を超えない限り、他の重合体を含有していてよく、他の重合体としては、例えばスチレン、α−メチルスチレン等のスチレン類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;アクリロニトリル;メタクリロニロリル;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;N−メチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等の重合体より選ばれる1種又は2種以上を挙げることができる。
【0016】
本発明のブロック共重合体は、フマル酸ジエステルよりなる重合体セグメント(A)及び(メタ)アクリル酸誘導体よりなる重合体セグメント(B)を含むブロック共重合体であり、その配列としては、セグメント(A)−セグメント(B)のジブロック構造、又はセグメント(A)−セグメント(B)−セグメント(A)、若しくは、セグメント(B)−セグメント(A)−セグメント(B)のトリブロック構造であることが好ましい。セグメント(A)とセグメント(B)のモル比率は核磁気共鳴測定装置により求めることができ、50/50〜95/5の範囲が好ましい。
【0017】
本発明のブロック共重合体は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下、GPC)により測定した溶出曲線より得られる標準ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)が10,000〜1,000,000、特に50,000〜500,000であることが好ましい。
【0018】
本発明のブロック共重合体は特定のリビングラジカル重合により製造できる。これまで開発されているリビングラジカル重合としては、ニトロキシドラジカルなどの安定ラジカルを用いるリビングラジカル重合法(NMP)、原子移動ラジカル重合法(ATRP)、可逆連鎖移動触媒重合法(RTCP)、有機テルル化合物などを用いるリビングラジカル重合法(TERP)、可逆的付加−開裂連鎖移動重合法(RAFT)などがある。これらの方法を反応機構的に分類すると安定ラジカル効果を利用する方法と交差連鎖機構を利用する方法に大別できる。NMP、ATRPは前者であり、RTCP、TERP、RAFTは後者である。これらリビングラジカル重合法のいずれの方法によっても、これまでフマル酸ジエステルのリビングラジカル重合は報告されていない。本発明のフマル酸ジエステル系ブロック共重合体は、フマル酸ジエステルと、(メタ)アクリル酸誘導体とを重合体セグメントの構成モノマーとして、交差連鎖機構を利用したリビングラジカル重合法により特異的に製造されることを見出した。特に、本発明のフマル酸ジエステル系ブロック共重合体は、上記一般式(1)で表されるフマル酸ジエステルと、上記一般式(2)で示される(メタ)アクリル酸誘導体とを重合体セグメントの構成モノマーとして製造することが好ましい。
【0019】
RTCPでは、アゾ系あるいは過酸化物系ラジカル開始剤と共に、典型元素であるゲルマニウム、スズ、リン、N−ヨードこはく酸イミド等の窒素あるいは酸素化合物を触媒として用い、ヨウ素(I)存在下で(メタ)アクリル酸誘導体を重合した後、フマル酸ジエステルを重合することで本発明のブロック共重合体は製造できる。
【0020】
また、TERPでは、アゾ系あるいは過酸化物系ラジカル開始剤と、有機テルル、有機アンチモンあるいは有機ビスマス化合物の存在下で(メタ)アクリル酸誘導体を重合した後、フマル酸ジエステルを重合することで本発明のブロック共重合体は製造できる。
【0021】
有機テルル、有機アンチモンあるいは有機ビスマスの中でも特に有機テルルが好ましい。
有機テルル化合物としては、下記一般式(3)、(4)で示される有機テルルが好ましい。
【0022】
【化3】

〔式中、R及びRは、水素原子又はC〜Cのアルキル基を示す。Rは、アリール基、置換アリール基、芳香族ヘテロ環基、オキシカルボニル基又はシアノ基を示す。Rは、C〜Cのアルキル基を示す。〕
【0023】
【化4】

〔式中、R及びR10は、C〜Cのアルキル基、C〜C12のアリール基、置換アリール基、芳香族ヘテロ環基、オキシカルボニル基又はシアノ基を示す。〕
【0024】
一般式(3)におけるR及びRで示される基は、水素原子又はC〜Cのアルキル基であり、C〜Cのアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基等のC〜Cの直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基を挙げることができる。これらの置換基は同じであっても異なっていてもよい。
【0025】
で示される基は、アリール基、置換アリール基、芳香族ヘテロ環基、オキシカルボニル基又はシアノ基であり、アリール基としては、例えばフェニル基、ナフチル基等、置換アリール基としては、例えば置換基を有しているフェニル基、置換基を有しているナフチル基等、芳香族ヘテロ環基としては、例えばピリジル基、フリル基、チエニル基等を挙げることができる。上記置換基を有しているアリール基の置換基としては、例えば、ハロゲン原子、水酸基、アルコキシ基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基、カルボニル基、スルホニル基、トリフルオロメチル基等を挙げることができる。また、これら置換基は、1個又は2個置換しているのがよく、パラ位若しくはオルト位が好ましい。
【0026】
オキシカルボニル基としては、例えばカルボキシル基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基、sec−ブトキシカルボニル基、ter−ブトキシカルボニル基、n−ペントキシカルボニル基、フェノキシカルボニル基等を挙げることができる。好ましいオキシカルボニル基としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基がよい。
【0027】
具体的な一般式(3)で示される有機テルル化合物としては、例えば(メチルテラニル−メチル)ベンゼン、(1−メチルテラニル−エチル)ベンゼン、(2−メチルテラニル−プロピル)ベンゼン、2−メチルテラニル−2−メチルプロピオン酸メチル、2−メチルテラニル−2−メチルプロピオン酸エチル、2−メチルテラニルプロピオニトリル、2−メチル−2−メチルテラニルプロピオニトリル等が挙げられる。
【0028】
一般式(4)におけるR、R10は、C〜Cのアルキル基、C〜C12のアリール基、芳香族ヘテロ環基、オキシカルボニル基又はシアノ基であり、C〜Cのアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、ブチル基、ヘキシル基等が挙げられ、C〜C12のアリール基としては、例えばフェニル基、ベンジル基等が挙げられ、芳香族ヘテロ環基、オキシカルボニル基としては前記R及びRと同一のものを挙げることができる。具体的な一般式(4)で示される有機テルル化合物としては、特に、ジフェニルジテルリドが好ましく用いられる。
【0029】
RAFTでは、アゾ系あるいは過酸化物系ラジカル開始剤と、ジチオカルボニル化合物の存在下で(メタ)アクリル酸誘導体を重合した後、フマル酸ジエステルを重合することで本発明のブロック共重合体は製造できる。
【0030】
上記リビングラジカル重合は公知の方法、例えば塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、沈殿重合法、乳化重合法のいずれも採用可能である。
【0031】
リビングラジカル重合法を行う際のアゾ系あるいは過酸化物系ラジカル開始剤としては、例えばベンゾイルパーオキサイド、ラウリルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシベンゾエート等の過酸化物系ラジカル開始剤;2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−ブチロニトリル)、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、ジメチル−、2,2’−アゾビスイソブチレート、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)等のアゾ系ラジカル開始剤が挙げられる。
【0032】
そして、溶液重合法、懸濁重合法、沈殿重合法、乳化重合法において使用可能な溶媒として特に制限はなく、例えばベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族溶媒;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール系溶媒;シクロヘキサン;ジオキサン;テトラヒドロフラン;アセトン;メチルエチルケトン;ジメチルホルムアミド;酢酸イソプロピル;水等が挙げられ、これらの混合溶媒も挙げられる。
【0033】
また、ラジカル重合を行う際の重合温度は、重合開始剤の分解温度に応じて適宜設定することができ、一般的には30〜150℃の範囲で行うことが好ましい。
【0034】
本発明のブロック共重合体は、熱安定性を高めるために酸化防止剤が配合されていることが好ましい。該酸化防止剤としては、例えばヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、その他酸化防止剤が挙げられ、これら酸化防止剤はそれぞれ単独又は併用して用いてもよい。そして、相乗的に酸化防止作用が向上することからヒンダード系酸化防止剤とリン系酸化防止剤を併用して用いることが好ましく、その際には例えばヒンダード系酸化防止剤100重量部に対して、リン系酸化防止剤を100〜500重量部で混合して使用することが特に好ましい。また、酸化防止剤の添加量としては、本発明のブロック共重合体100重量部に対して、0.01〜10重量部が好ましく、特に0.5〜1重量部の範囲であることが好ましい。
【0035】
さらに、紫外線吸収剤として、例えばベンゾトリアゾール、ベンゾフェノン、トリアジン、ベンゾエートなどの紫外線吸収剤を必要に応じて配合してもよい。
本発明のブロック共重合体は、発明の主旨を超えない範囲で、その他高分子、界面活性剤、高分子電解質、導電性錯体、無機フィラー、顔料、帯電防止剤、アンチブロッキング剤、滑剤等を配合してもよい。
【発明の効果】
【0036】
本発明は剛直なセグメントと柔軟なセグメントからなる新規なフマル酸ジエステル系ブロック共重合体およびその製造方法に関するものであり各種光学材料に有用である。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
なお、実施例により示す諸物性は、以下の方法により測定した。
〜重合体の解析〜
共重合体の組成は核磁気共鳴測定装置(日本電子製、商品名JNM−GX270)を用い、プロトン核磁気共鳴分光(H−NMR)スペクトル分析より求めた。
〜数平均分子量の測定〜
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)装置(東ソー製、商品名C0−8011(カラムGMHHR−Hを装着))を用い、テトラヒドロフランを溶媒として、40℃で測定し、標準ポリスチレン換算値として求めた。
【0038】
実施例1 RTCP法によるフマル酸ジイソプロピル重合体セグメント及びメタクリル酸ベンジル重合体セグメントを含むブロック共重合体の合成
メタクリル酸ベンジル(BzMA:和光純薬製)17.7mmolと、ラジカル重合開始剤である2,2’−アゾビス(2,4−メチルバレロニトリル)(AMVN:和光純薬製)0.567mmol、沃素(I:和光純薬製)0.284mmol、N−ヨードこはく酸イミド(NIS:東京化成製)2.8×10−2mmolをパイレックス(登録商標)製のガラスアンプルに仕込み、凍結−脱気−融解を繰り返し、溶存酸素を除去した後、40℃で6.5時間重合した。得られた重合体を再沈殿精製した。収率61%であり、得られた重合体の数平均分子量は4,700であった。
精製したポリメタクリル酸ベンジル790mgに、フマル酸ジイソプロピル(DiPF:和光純薬製)51.3mmol、ラジカル重合開始剤である2,2’−アゾビスイソ酪酸ジメチル(MAIB:和光純薬製)8.87×10−2mmol、NIS1.2×10−2mmolをパイレックス製のガラスアンプルに仕込み、凍結−脱気−融解を繰り返し、溶存酸素を除去した後、80℃で1.5−4.5時間重合をおこなった。重合結果を表1に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
重合時間4.5時間で得られた重合体を再沈殿精製した数平均分子量は23,200であり分子量が増加していることから、フマル酸ジイソプロピル重合体セグメント及びメタクリル酸ベンジル重合体セグメントを含むフマル酸エステル系ブロック共重合体の生成が確認できた。H−NMRより求めたフマル酸ジイソプロピルとメタクリル酸ベンジルの組成比は93:7であった。
【0041】
実施例2 RTCP法によるフマル酸ジイソプロピル重合体セグメント及びメタクリル酸−2−エチルヘキシル重合体セグメントを含むブロック共重合体の合成
メタクリル酸−2−エチルヘキシル(EHMA:和光純薬製)8.9mmolとラジカル重合開始剤である2,2’−アゾビス(2,4−メチルバレロニトリル)(AMVN:和光純薬製)0.27mmol、沃素(I:和光純薬製)0.13mmol、N−ヨードこはく酸イミド(NIS:東京化成製)6.4×10−3mmolをパイレックス製のガラスアンプルに仕込み、凍結−脱気−融解を繰り返し、溶存酸素を除去した後、65℃で2.5時間重合した。得られた重合体を再沈殿精製した。収率68.4%であり、得られた重合体の数平均分子量は6,500であった。
精製したポリメタクリル酸−2−エチルヘキシル1.66gに、DiPF76.1mmol、MAIB9.3×10−2mmol、NIS1.6×10−2mmolをパイレックス製のガラスアンプルに仕込み、凍結−脱気−融解を繰り返し、溶存酸素を除去した後、80℃で2.0−6.0時間重合をおこなった。重合結果を表2に示す。
【0042】
【表2】

【0043】
重合時間6.0時間で得られた重合体を再沈殿精製した数平均分子量は45,000であり分子量が増加していることから、フマル酸ジイソプロピル重合体セグメント及びメタクリル酸−2−エチルヘキシル重合体セグメントを含むフマル酸エステル系ブロック共重合体の生成が確認できた。H−NMRより求めたフマル酸ジイソプロピルとメタクリル酸−2−エチルヘキシルの組成比は79:11であった。
【0044】
実施例3 TERP法によるフマル酸ジイソプロピル重合体セグメント及びアクリル酸−tertブチル重合体セグメントを含むブロック共重合体の合成
フマル酸ジイソプロピル(DiPF:和光純薬製)5.13mmolとラジカル重合開始剤である2、2‘−アゾビスイソ酪酸ジメチル(MAIB:和光純薬製)0.107mmol、ジフェニルジテルリド5.27×10−2mmolをパイレックス製のガラスアンプルに仕込み、凍結−脱気−融解を繰り返し、溶存酸素を除去した後、100℃で3.1時間重合をおこなった。得られた重合体を再沈殿精製した。収率39.8%であり、得られた重合体の数平均分子量は3,600であった。
精製したポリフマル酸ジイソプロピル283mgに、アクリル酸tert−ブチル7.58mmolをパイレックス製のガラスアンプルに仕込み、凍結−脱気−融解を繰り返し、溶存酸素を除去した後、100℃で6.8−10.0時間重合をおこなった。重合結果を表3に示す。
【0045】
【表3】

【0046】
ポリフマル酸ジイソプロピルにアクリル酸tert−ブチルを加え重合し、数平均分子量が増大していることから、フマル酸ジイソプロピル重合体セグメント及びアクリル酸tert−ブチル重合体セグメントを含むフマル酸エステル系ブロック共重合体の生成が確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フマル酸ジエステルよりなる重合体セグメント(A)及び(メタ)アクリル酸誘導体よりなる重合体セグメント(B)を含むことを特徴とするフマル酸エステル系ブロック共重合体。
【請求項2】
フマル酸ジエステルよりなる重合体セグメント(A)が下記一般式(1)で示されるフマル酸ジエステルの重合体であることを特徴とする請求項1に記載のフマル酸エステル系ブロック共重合体。
【化1】

〔式中、R、Rは、C〜C12のアルキル基、シクロアルキル基を示す。〕
【請求項3】
(メタ)アクリル酸誘導体よりなる重合体セグメント(B)が下記一般式(2)で示される(メタ)アクリル酸誘導体よりなる重合体であることを特徴とする請求項1又は2に記載のフマル酸エステル系ブロック共重合体。
【化2】

〔式中、Rは水素、あるいはメチル基を、Rは、C〜Cのアルコキシ基、アルールオキシ基、ヒドロキシル基又はC〜Cの(ジ)アルキルアミノ基を示す。〕
【請求項4】
(メタ)アクリル酸誘導体よりなる重合体セグメント(B)が(メタ)アクリル酸エステルよりなる重合体であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のフマル酸エステル系ブロック共重合体。
【請求項5】
セグメント(A)−セグメント(B)のジブロック構造、又はセグメント(A)−セグメント(B)−セグメント(A)、若しくは、セグメント(B)−セグメント(A)−セグメント(B)のトリブロック構造であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のフマル酸エステル系ブロック共重合体。
【請求項6】
ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した数平均分子量(Mn)が10,000〜1,000,000であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のフマル酸エステル系ブロック共重合体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のフマル酸エステル系ブロック共重合体の製造方法であって、フマル酸ジエステルと、(メタ)アクリル酸誘導体とを重合体セグメントの構成モノマーとして、交換連鎖機構を利用したリビングラジカル重合法により製造することを特徴とするフマル酸エステル系ブロック共重合体の製造方法。
【請求項8】
上記一般式(1)で表されるフマル酸ジエステルと、上記一般式(2)で示される(メタ)アクリル酸誘導体とを重合体セグメントの構成モノマーとすることを特徴とする請求項7記載のフマル酸エステル系ブロック共重合体の製造方法。
【請求項9】
交換連鎖機構を利用したリビングラジカル重合法が、可逆連鎖移動触媒重合法(RTCP)、有機テルルを用いた重合法(TERP)及び可逆的付加−開裂連鎖移動重合法(RAFT)より選ばれる重合方法であることを特徴とする請求項7又は8に記載のブロック共重合体の製造方法。
【請求項10】
交換連鎖機構を利用したリビングラジカル重合法が、アゾ系あるいは過酸化物系ラジカル開始剤を用いるとともに、ゲルマニウム、スズ、リン、窒素あるいは酸素化合物を触媒として用い、ヨウ素(I)の存在下で(メタ)アクリル酸誘導体を重合した後、フマル酸ジエステルを重合する可逆連鎖移動触媒重合法(RTCP)であることを特徴とする請求項7〜9のいずれかに記載のブロック共重合体の製造方法。
【請求項11】
交換連鎖機構を利用したリビングラジカル重合法が、アゾ系あるいは過酸化物系ラジカル開始剤と、有機テルル、有機アンチモンあるいは有機ビスマス化合物の存在下で(メタ)アクリル酸誘導体を重合した後、フマル酸ジエステルを重合する有機テルルを用いた重合法(TERP)であることを特徴とする請求項7〜9のいずれかに記載のブロック共重合体の製造方法。
【請求項12】
交換連鎖機構を利用したリビングラジカル重合法が、アゾ系あるいは過酸化物系ラジカル開始剤と、ジチオカルボニル化合物存在下で(メタ)アクリル酸誘導体重合した後、フマル酸ジエステルを重合する可逆的付加−開裂連鎖移動重合法(RAFT)であることを特徴とする請求項7〜9のいずれかに記載のブロック共重合体の製造方法。

【公開番号】特開2012−21101(P2012−21101A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−161114(P2010−161114)
【出願日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【出願人】(506122327)公立大学法人大阪市立大学 (122)
【Fターム(参考)】