説明

フライアッシュを用いたブロック

【課題】本発明の目的は、未利用資源であるフライアッシュを大量に使用し、小資本でも起業できる技術で、10MPa以上の圧縮強度を持つ地球環境に親和的なブロックを提供することである。
【解決手段】主原料のフライアッシュ100重量部に対し、ポルトランドセメント及び混合セメントの少なくとも一方を0〜40重量部、消石灰及び生石灰の少なくとも一方を1〜30重量部、及びアルカリ金属又はアルカリ土類金属の硫酸塩及びアルカリ金属の水酸化物の少なくとも一方を1重量部以上含有することを特徴とするフライアッシュブロックを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は製造過程おける二酸化炭素排出量を可能な限り抑えながら、フライアッシュを最大限に利用する安価な煉瓦又はブロックを成形する技術である。
【背景技術】
【0002】
日本を初めとする多くの国々ではエネルギー及び鉄鋼産業で石炭を使用しており、これに伴い膨大な量の石炭灰が発生している。エネルギー部門を例にとり、石炭消費量を用いて石炭灰の潜在的生成量を推計すると、石炭の30%(重量比)が石炭灰になると想定した場合、2004年度の石炭灰の生成量は中国に関しては5億6100万トン、インドに関しては1億3000万トンである。石炭灰の廃棄と利用は、火力発電の依存度によって、国家的関心の高い重要分野であり続ける。石炭灰管理に関する国家的関心は、環境問題の深刻さとともに石炭灰排出の拡大によって最近数年の間に、著しく向上した。
【0003】
一方、煉瓦製造業は低品質石炭をより多く使用する伝統的なエネルギー集約産業である。また、同製造業は概して正規の組織を持たない小規模で収益性の低い産業であり、農村地帯に立地する低所得経営者によって経営されていることが多い。煉瓦製造業による石炭消費量はキルンの種類に大きく依存しており、典型的な煉瓦製造工場では煉瓦1個当たり約100gの石炭を消費する。
【0004】
煉瓦製造産業は、煉瓦の主原料である粘土の採掘による土地の劣化に加え、大量の水が必要であることなどが重要な問題として指摘される。1個の煉瓦は0.003mの肥沃な土壌を消費する。したがって、推計によると百万個の煉瓦を製造するには、4ヘクタールの土地面積と、1.18mの深さに相当する土壌を必要とし、加えて、煉瓦の原料として、良質の沖積層土壌が必要となる。煉瓦製造用のキルンを建設して煉瓦を製造することは、土壌環境を劣化させ、且つ、農民は土地使用目的を農業用から非農業用に変えなければならない。
【0005】
石炭灰は石炭燃焼火力発電所から生成するフライアッシュ及びクリンカーアッシュのような残渣を表す総称である。石炭灰の主成分は酸化珪素(SiO)とアルミナ(Al)であり、両成分で石炭灰の70〜80%を占める。フライアッシュは現在コンクリートに使われている。しかしながら、コンクリート中のフライアッシュの量は概して、セメント重量の30%以下である。その活用の目的は、主として高強度コンクリート製造とコンクリートの耐久性の向上に限られている。この程度の少量の使用のみでは、特にインドや中国のように大量の石炭を利用する経済振興国においては石炭灰の急増は避けられない現象であり、環境問題の根本的解決にはならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−90585号公報
【0007】
国内で事業化されている関連技術として、石炭灰を含むどんな粉末系廃棄物も真空押出機で真空吸引することによって脱気させ、押出成型する上記(特許文献1)の煉瓦製造技術がある。しかしながら、この技術は石炭灰のポゾラン活性を活かすことなく、機械的な力によって強度を向上させたものである。さらに、真空押出機等に対する設備費は数億円程度となり、小規模煉瓦製造業者には到底適用することができない技術である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
解決しようとする問題点はフライアッシュを大量に用いた場合、成形体の圧縮強度が低くなり、真空押出又はオートクレーブによる養生などの非経済的且つエネルギー多消費型の製造方法を活用しないとブロックの目標圧縮強度である10MPaを満たすことをできない点である。本発明はフライアッシュを大量に用いながら真空押出又はオートクレーブによる養生することなく、10MPa以上の圧縮強度を持つブロックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の発明は、主原料のフライアッシュ100重量部に対し、ポルトランドセメント及び混合セメントの少なくとも一方を0〜40重量部、消石灰及び生石灰の少なくとも一方を1〜30重量部、及びアルカリ金属又はアルカリ土類金属の硫酸塩及びアルカリ金属の水酸化物の少なくとも一方を1重量部以上含有することを特徴とするフライアッシュブロックである。
【0010】
請求項2の発明は、混合セメントが、高炉セメント、フライアッシュセメント及びシリカセメントの中のいずれかであることを特徴とする請求項1に記載したフライアッシュブロックである。
【0011】
請求項3の発明は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の硫酸塩が、硫酸ナトリウム又は硫酸カリウム又は硫酸マグネシウム又は硫酸カルシウムであることを特徴とする請求項1又は2に記載したフライアッシュブロックである。
【0012】
請求項4の発明は、アルカリ金属の水酸化物が、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムであることを特徴とする請求項1又は2に記載したフライアッシュブロックである。
【0013】
請求項5の発明は、請求項1から4のいずれかに記載の組成物を混合した後、真空吸引による脱気しつつ押し出し成型することなく、ブロックとして成形され100℃以下の蒸気養生することで硬化させることを特徴とするフライアッシュブロックである。
【0014】
請求項6の発明は、「セメント及び消石灰及び生石灰から排出された二酸化炭素排出量/強度の係数」が6g/MPa以下であることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載したフライアッシュブロックである。
【発明の効果】
【0015】
本発明のフライアッシュブロックは、フライアッシュを最大限に利用するとともに内包エネルギーが低い原料で最大の圧縮強度を持つ安価なブロックを得ることができるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施例にかかるフライアッシュブロック製造方法を示すフローチャートである。
【図2】二酸化炭素排出量/強度係数(g/MPa)と圧縮強度(MPa)の関係をプロットして示すグラフである。
【図3】圧縮強度(MPa)と成型圧力(MPa)の関係をプロットして示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
上記に鑑み、本発明の主要な課題は以下のノルマを果たす煉瓦又はブロック製造方法を提供することである:
(a)フライアッシュを大量に使用し、圧縮強度において10MPaを超える高強度煉瓦を製造すること
(b)高度技術者なしの小規模企業でも操作ができる簡単な技術を利用すること
(c)煉瓦製造におけるエネルギー消費を低減すること
(d)内包エネルギーの低い原料を利用すること
(e)煉瓦の価格を下げること
【0018】
本発明は、煉瓦製造において大量のフライアッシュを使用する。即ち、煉瓦中のフライアッシュの含有量が最低でもセメントの2.5倍以上となる煉瓦製造技術を提供する。本発明の技術によるフライアッシュ使用量を他産業と比較してみると、一般的なコンクリート産業においてはフライアッシュの含有量はセメントの0.3倍に留まる。
【0019】
本発明では、バインダーとしてのセメントの使用量を最小にする一方、安価な生石灰や消石灰のような他のバインダーの使用量を最大にする煉瓦製造技術を提供する。これは、ポルトランドセメントの価格が消石灰の約3倍にものぼる煉瓦を大量に製造する国々や地域にとっては有効な技術である。
【0020】
さらに、本発明は、ポルトランドセメント及び生石灰あるいは消石灰の両者の使用によって大量の二酸化炭素が排出される結果となるため、できるだけ多くの高炉セメントを用いることにする。バインダーとして使用する高炉セメントの量を多くすることは、所要の混合比(表1)に関する環境適合性の相対尺度となるパラメータ、即ち、二酸化炭素排出量/強度係数を小さくすることになる。実施例3は、本発明で得られた最も優れた混合比である。二酸化炭素排出量/強度係数を可能な限り低く、特に、6g/MPa未満(図2)にするのが望ましい。二酸化炭素排出量/強度係数の数式は下記のとおりである。
【0021】
【数1】

ここで、Iは二酸化炭素排出量/強度係数(g/MPa)であり、mはポルトランドセメントの重量(g)であり、0.798はポルトランドセメントの二酸化炭素排出量(g/g)であり、mは高炉セメントの重量(g)であり、0.481は高炉セメントの二酸化炭素排出量(g/g)であり、mは生石灰又は消石灰の重量(g)であり、0.748は生石灰又は消石灰の二酸化炭素排出量(g/g)であり、σは圧縮強度(MPa)である。
【0022】
フライアッシュ煉瓦の圧縮強度は混合比を一定のまま成形圧力を増加することによって大きくなる。本発明の実施例に示す全ての煉瓦あるいはブロックは10MPaで加圧した。図3には、実施例3の混合比を用いて生成した煉瓦の場合、成形圧力が圧縮強度に与える影響を示す。
【0023】
プレス成形以外にも煉瓦を成型する方法がいくつかある。これらの成型方法としては、押し出し成型、真空押し出し成型などがある。
【0024】
蒸気養生以外にも煉瓦を養生する方法がいくつかある。これらの養生方法には、オートクレーブ法、水中養生、熱水中養生、及び常温・湿度養生法がある。先行技術では、オートクレーブ法が煉瓦製造の一般的な養生法である。しかしながら、オートクレーブ法は多くの小企業にとっては賄いきれない設備費を必要とし、市場への浸透を阻んでいる。したがって、本発明では、高価な圧力室を用いず、低コストで屋外でも実施できる蒸気養生を採用する。
【0025】
本発明は又、24時間内で煉瓦製造が可能な技術を提供する。従来の煉瓦製造法あるいは先行技術である特開2004−90585号では、本発明のような短時間での製造は達成できない。また、伝統的な焼成粘土煉瓦は出荷までに、天日乾燥に7日、焼成及び冷却に7日、合わせて14日を要している。
【0026】
本発明では、2種類の必須添加剤、即ち、アルカリ金属の硫酸塩とアルカリ土類金属の硫酸塩、及び、アルカリ金属の水酸化物を提供する。アルカリ金属の硫酸塩には、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム等が含まれる。アルカリ土類金属の硫酸塩には、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム等が含まれる。アルカリ金属の水酸化物には水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が含まれる。水に対する溶解度が高いこれらの安価な化合物の使用を推奨する。したがって、硫酸ナトリウム等の使用が望ましい。
【0027】
本発明では、フライアッシュが先行技術の特開2004−90585号のように骨材としてのみ使用するのではなく、反応性混和材として効果的に利用できる技術を提供する。したがって、比重が1.95以上及び比表面積が2500cm/g以上の高品質フライアッシュを使用するのが望ましいが、本発明では、これに該当しないフライアッシュの使用を排除するものではない。
【0028】
本発明は、先行技術と比較して最もエネルギー効率の良い技術を提供する。本煉瓦製造方法はオートクレーブを使用せず、小資本で起業できるため、零細企業が事業を実施できる範囲にある。
【0029】
本発明は、先行技術と比較すると工程が最も簡単である。本発明の煉瓦製造方法は、真空吸引のような操作や、高度な高温キルン等のような焼成方法は不要であり、小資本でも起業できるため、零細企業に適合する。
【0030】
以下、本発明を実施するための形態について実施例及び比較例を用い、本発明の製品がノルマを十分に達成していることを明らかにする。
【実施例1〜6】
【0031】
表1に示すように、材料を配合し、パドルミキサーで材料を混合した。実施例1及び2はポルトランドセメントを、実施例3〜5は高炉セメントを用いた。実施例6はセメント類を使用せず水酸化カルシウムを用いた場合である。次に各混合物を金型に入れ、圧縮成形によって幅112mm、長さ225mm、高さが90mmのブロックとして成型した。成型圧力は10MPaとした。次いで、ブロックは80℃−90%の相対湿度で8時間蒸気養生した(図1)。
【0032】
そのブロックを幅40mm、長さ40mm、高さが40mmのブロックに切り出し得られた6個の試験体の圧縮強度試験はJIS R 5201に準じて行った。6本の試験体の平均圧縮強度を表1に示す。
【0033】
それぞれの実施例の原材料から排出される「見掛けの二酸化炭素排出量」を計算し得られた結果を表1に示す。「見掛けの二酸化炭素排出量」は、セメントおよび水酸化カルシウムのみの排出量から計算されたものであり、他の原料による比較的少量の二酸化炭素排出量は無視している。見掛けの二酸化炭素排出量を計算するために、二酸化炭素の排出係数としてポルトランドセメントには0.798g/g、高炉セメントには0.481g/g、水酸化カルシウムには0.748g/gを用いた。
【0034】
【表1】

【比較例1〜2】
【0035】
表2に示すように、材料を配合し、パドルミキサーで材料を混合した。比較例1は無添加剤で、比較例2は水酸化カルシウムを無添加した場合である。次に該混合物を金型に入れ、圧縮成形によって幅112mm、長さ225mm、高さが90mmのブロックとして成型した。成型圧力は10MPaとした。次いで、ブロックは80℃−90%の相対湿度で8時間蒸気養生した(図1)。
【0036】
そのブロックを幅40mm、長さ40mm、高さが40mmのブロックに切り出し得られた6個の試験体の圧縮強度試験はJIS R 5201に準じて行った。6本の試験体の平均圧縮強度を表2に示す。
【0037】
それぞれの比較例の原材料から排出される「見掛けの二酸化炭素排出量」を計算し得られた結果を表2に示す。「見掛けの二酸化炭素排出量」は、セメントおよび水酸化カルシウムのみの排出量から計算されたものであり、他の原料による比較的少量の二酸化炭素排出量は無視している。見掛けの二酸化炭素排出量を計算するために、二酸化炭素の排出係数としてポルトランドセメントには0.798g/g、高炉セメントには0.481g/g、水酸化カルシウムには0.748g/gを用いた。
【0038】
【表2】

【0039】
実施例1〜6の結果から明らかになったように、特許請求の範囲内に配合を設置すると、二酸化炭素排出量/強度係数が可能な限り低くなり、即ち6g/MPa以下となるともに、10MPaの圧縮強度のターゲットを満足する環境適合性の相対尺度となる煉瓦又はブロックを得ることができる。なお、実施例(表1)を比較例の結果(表2)と比較すると、本発明の必須混合物が圧縮強度及び環境適合性に与える効果が明らかになる。
【0040】
本発明でいう「フライアッシュブロック」とは、煉瓦、ブロック、空洞ブロック、スラブ、普通タイル、外壁タイル、内壁タイル、床タイル、モザイクタイル、異形タイル、ノンスリップタイル、瓦等の部材を意味する。
【0041】
上記の実施例をその広い発明概念を逸脱しない範囲で変更可能であることは当業者には理解されるであろう。したがって、本発明は、開示した特定の実施例に限定されず、添付の特許請求の範囲で定義するような本発明の主旨と範囲内での変更を包含するものと理解されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主原料のフライアッシュ100重量部に対し、ポルトランドセメント及び混合セメントの少なくとも一方を0〜40重量部、消石灰及び生石灰の少なくとも一方を1〜30重量部、及びアルカリ金属又はアルカリ土類金属の硫酸塩及びアルカリ金属の水酸化物の少なくとも一方を1重量部以上含有することを特徴とするフライアッシュブロック。
【請求項2】
混合セメントが、高炉セメント、フライアッシュセメント及びシリカセメントの中のいずれかであることを特徴とする請求項1に記載したフライアッシュブロック。
【請求項3】
アルカリ金属又はアルカリ土類金属の硫酸塩が、硫酸ナトリウム又は硫酸カリウム又は硫酸マグネシウム又は硫酸カルシウムであることを特徴とする請求項1又は2に記載したフライアッシュブロック。
【請求項4】
アルカリ金属の水酸化物が、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムであることを特徴とする請求項1又は2に記載したフライアッシュブロック。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の組成物を混合した後、真空吸引による脱気しつつ押し出し成型することなく、ブロックとして成形され100℃以下の蒸気養生することで硬化させることを特徴とするフライアッシュブロック。
【請求項6】
「セメント及び消石灰及び生石灰から排出された二酸化炭素排出量/強度の係数」が6g/MPa以下であることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載したフライアッシュブロック。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−246333(P2011−246333A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−133398(P2010−133398)
【出願日】平成22年5月24日(2010.5.24)
【出願人】(510163341)株式会社シャクティリサーチ (1)
【Fターム(参考)】