説明

フラックスろう付けされたアルミ熱交換器の表面処理方法

【課題】 フラックス除去工程をなくした廃水処理問題がない簡略化されたアルミ熱交換器の防錆・親水化処理方法を提供する。
【解決手段】 フラックスろう付けされたアルミ熱交換器にジルコニウム系化合物及び/又はチタニウム系化合物による防錆処理を施し、その後、下記成分を含有する親水化処理剤組成物により親水化処理する、フラックスろう付けされたアルミ熱交換器の防錆・親水化処理方法。<親水化処理剤組成物>(固形分組成):(1)ケン化度が90%以上であるポリビニルアルコール 40〜90質量%(2)ペンダント基中の0.01〜20%が、ポリオキシアルキレンエーテル基であるポリオキシアルキレン変性ポリビニルアルコール 3〜40質量%(3)上記ポリビニルアルコール及び変性ポリビニルアルコールの水酸基に反応する無機架橋剤 1〜30質量%(4)グアニジン化合物及び/又はその塩 1〜20質量%

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラックスろう付けされたアルミ熱交換器表面の防錆・親水化処理方法に関し、該表面に対し、良好な防錆・親水化効果に加えて優れた防臭効果をも付与できるものである。
【背景技術】
【0002】
自動車用エアコン等に用いられる熱交換器は、通常、熱交換の表面積をできるだけ稼ぐためにアルミニウムフィンが狭い間隔で保持され、更に、これらのフィンに冷媒を供給するためのアルミニウムチューブが入り組んで配置された複雑な構造となっている。エアコン稼働時に空気中の水分がフィン表面に凝縮水として付着するが、濡れ性の劣るフィン表面では略半球状の水滴となったり、フィン間にブリッジ状に存在することになり、吸気のスムーズな流れを妨げ、通風抵抗を増大させてしまう。このようにフィン表面の濡れ性が悪かったり、撥水性であることは熱交換効率を低下させることになる。
【0003】
さらに通常、アルミニウムやその合金は、本来耐食性に優れているが、凝縮水がフィン表面に長時間滞留すると、酸素濃淡電池を形成し、又は大気中の汚染成分が次第に付着、濃縮されて水和反応や腐食反応が促進される。この腐食生成物は、フィン表面に堆積し、熱交換特性を害するほか、冬期の暖房運転時には、白い微粉となって送風機により温風と共に排出される。
【0004】
そこで、これらの問題点を改善するため、アルミニウムフィン表面に親水性・水濡れ性、耐食性、防臭性等を付与するための種々の表面処理剤や表面処理方法が提案されている。
例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、水可溶性ナイロン、水可溶性フェノール樹脂など親水性樹脂の混合物からなる親水化処理剤(特許文献1);特定の変性ポリビニルアルコールと、リン化合物塩及び/又はホウ素化合物塩からなる親水化処理剤(特許文献2)などが挙げられる。
【0005】
一方、アルミ熱交換器は上記のように、多くのアルミニウムフィンとアルミニウムチューブを接合して組み立ててゆくものであるが、アルミニウムの表面には強固で緻密な酸化皮膜が生成しているため,機械的接合法以外のろう付け、はんだ付けなどによる接合は簡単にできず、ろう付け方法としては、真空中でろう付けするVB法(真空ろう付け法)が主に行われていた。
しかしながら、近年、酸化皮膜を効果的に除去、破壊する手段としてハロゲン系フラックスが開発され、ろう付けの管理が容易、炉が安価、ろう付け加工のコストが安価などの理由で、窒素ガス中でろう付けするNB法(ノコロック法)に代表されるフラックスろう付けが多用されるようになってきた。
ところが、Al表面にフラックスが残存するために表面状態が不均一になり、化成処理、親水化処理等の均一な表面処理ができず、耐食性、密着性等が不充分となるという問題がある。
【0006】
そのため、現在、フラックスろう付けされたアルミ熱交換器の表面処理においては、(1)フラックス除去工程、(2)化成処理工程(防錆工程)、(3)親水化処理工程が順次実施処理しているが、工程数が多い上、フラックス除去工程でハロゲン系の廃水が発生するという問題がある。また、フラックス除去工程は化成性を上げるために酸やアルカリでエッチングするものであるが、フラックスのみを除去できないため、過度なエッチングが起こってろう材(Al−Si)中のSiを露出させ、均一な化成処理ができないという問題もある。
さらには、人体への安全性の問題からCr6+フリーでの化成処理が必要とされるが、その場合、耐食性が不充分である。
【0007】
【特許文献1】特開平5−302042号公報
【特許文献2】特開2003−003282号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる状況に鑑みて、フラックス除去工程をなくすことでそれに由来する廃水処理問題がない簡略化されたアルミ熱交換器の防錆・親水化処理方法であり、結果として、充分良好な防錆・親水化処理が施され、かつ優れた防臭効果が付与されたアルミ熱交換器を得ることができる、フラックスろう付けされたアルミ熱交換器の防錆・親水化処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、種々検討した結果、フラックスろう付けされたアルミ熱交換器の防錆・親水化処理において、フラックス除去工程を省略して、フラックスろう付けされたアルミ熱交換器に直接、ジルコニウム系化合物及び/又はチタニウム系化合物による防錆処理(化成処理)を施し、その後、特定の親水性樹脂及び防錆成分を含有する親水化処理剤組成物により防錆・親水化処理することにより、上記目的を達成しうることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、フラックスろう付けされたアルミ熱交換器にジルコニウム系化合物及び/又はチタニウム系化合物による防錆処理を施し、その後、特定の親水化処理剤組成物により親水化処理するフラックスろう付けされたアルミ熱交換器の防錆・親水化処理方法を提供するものである。
上記親水化処理剤組成物は下記成分を含有する;
(1)ケン化度が90%以上であるポリビニルアルコール 40〜90質量%
(2)ペンダント基中の0.01〜20%が、ポリオキシアルキレンエーテル基であるポリオキシアルキレン変性ポリビニルアルコール 3〜40質量%
(3)上記ポリビニルアルコール及び変性ポリビニルアルコールの水酸基に反応する無機架橋剤 1〜30質量%
(4)グアニジン化合物及び/又はその塩 1〜20質量%
該親水化処理剤組成物の乾燥付着量は0.01〜5g/m2であることが好ましい。
そして、本発明は、上記方法により防錆・親水化処理された、フラックスろう付けされたアルミ熱交換器を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の防錆・親水化処理方法は、フラックス除去工程を省略しているので、簡略化されたプロセスであり、従来のフラックス除去工程に起因するハロゲン系廃水処理の問題がないという利点を有する。
また、本発明において、フラックスの存在は化成処理性を低下させるが、フラックス自体がAl母材を保護してその酸化を防止し、かつ、フラックスの欠損部等はジルコニウムあるいはチタニウムの皮膜で不動態化され、さらに、ジルコニウムあるいはチタニウムの皮膜のない部分は、その上を覆う親水化処理剤中のグアニジン化合物及び/又はその塩が防錆効果を有するため、全体として良好な防錆性が発揮される。さらには、本発明におけるポリビニルアルコール等の親水性樹脂の組成は、エアコン稼働時の結露を防止できる親水性を有し、かつAlフィンを緻密にコートできる耐水性をも具備するものであるため、優れた防臭性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明において防錆・親水化処理する対象は、フラックスろう付けされたアルミ熱交換器である。
ここで、アルミ熱交換器とは、アルミ、アルミ合金を素材とした、エバポレータ、ラジエータ、コンデンサーなどであり、特に、自動車用カーエバポレータを主要な対象とする。フラックスろう付けとは、前記の如く、アルミ熱交換器を組み立てるために、Al−Siなどのろう材でアルミニウムフィンとアルミニウムチューブなどを接合する方法であり、酸化皮膜を効果的に除去、破壊し、あるいは酸化皮膜の生成を防止するためにハロゲン系フラックスを使用して、窒素ガス中でろう付けするものである。
フラックスは水に溶かしスラリー状にし、熱交換器に付着させて用い、これを完全に乾燥させて窒素ガスでパージされたろう付け炉に挿入する。熱交換器に付着させるフラックス量は、通常、おおよそ1〜10g / m2である。
【0013】
代表的なフラックスろう付け法であるNB法において用いられる(ハロゲン系)フラックスは、「KAlF4+K3AlF6」である。NB法は、ろう付けすべき材料の少なくとも一方がAl−Siろう材からなり、さらにろう付けすべき材料の少なくとも一方に弗化系フラックスを塗布し、ろう付け温度まで炉内温度を上げて行く。約562℃でフラックスが溶融開始し、アルミニウムの酸化皮膜などが破壊され表面が活性となる。さらに温度が上昇し、約588℃になるとAl−Siろう材が溶融し、Al−Siろう材によるろう付けが起こるものである。
【0014】
本発明において、フラックスろう付けされたアルミ熱交換器を防錆・親水化処理する方法は、フラックス除去工程を省略し、ジルコニウム系化合物及び/又はチタニウム系化合物による防錆処理を施し、その後、特定の親水性樹脂及び防錆成分を含有する親水化処理剤組成物により防錆・親水化ならびに防臭処理することを特徴とする。
【0015】
本発明において防錆処理のために使用されるジルコニウム系化合物としては、フルオロジルコニウム酸、フッ化ジルコニウム等のジルコニウム化合物、およびそれらのリチウム、ナトリウム、カリウム、アンモニウム等の塩が挙げられ、これらを水に溶解して、ジルコニウムイオンを活性種とする化成処理液をつくる。また酸化ジルコニウム等のジルコニウム化合物をフッ化水素酸等フッ化物で溶解させてもよい。
また、本発明において防錆処理のために使用されるチタニウム系化合物としては、フルオロチタン酸、フッ化チタン等のチタニウム化合物、およびそれらのリチウム、ナトリウム、カリウム、アンモニウム等の塩が挙げられ、これらを水に溶解して、チタニウムイオンを活性種とする化成処理液をつくる。また酸化チタニウム等のチタニウム化合物をフッ化水素酸等フッ化物で溶解させてもよい。
さらに、本発明においては、防錆処理のために上記ジルコニウム系化合物と上記チタニウム系化合物とを併用することができる。併用する場合のジルコニウム系化合物とチタニウム系化合物の比率は、ジルコニウムイオン:チタニウムイオンが1:1〜3:1の範囲であることが好ましい。
【0016】
ジルコニウム系化合物及び/又はチタニウム系化合物を含有する化成処理液のジルコニウムイオン、チタニウムイオンの合計濃度としては10ppm〜10000ppmが好ましく、100〜1000ppmがより好ましい。
フラックスろう付けされたアルミ熱交換器の金属表面上のジルコニウム皮膜及び/又はチタニウム皮膜の量は、好ましくは1〜300mg/m2であり、より好ましくは3〜100mg/m2である。
【0017】
本発明の上記化成処理液は、pHが1〜5の範囲にあることが好ましい。pHが1未満であるとエッチング過多でジルコニウムやチタニウムの皮膜が析出せず、pHが5以上ではエッチング不足により充分なジルコニウムやチタニウムの皮膜量が得られないため、防錆性が低下する。より好ましいpH範囲は2.5〜4.5である。
【0018】
また、本発明の上記化成処理液は、上記ジルコニウム系化合物、チタニウム系化合物の他に、防錆性を向上させるために、マンガン、亜鉛、セルウム、バナジウム、3価クロム等の金属イオン、フェノール樹脂等の防錆剤;密着性向上のためのシランカップリング剤;化成反応促進のためのリン酸等が含有されていてもよい。
【0019】
本発明の上記化成処理液による化成処理方法は特に限定されず、スプレー法、浸漬法などのいずれであってもよい。その際、化成処理液の温度は10〜80℃が好ましく、より好ましくは30〜70℃である。
【0020】
本発明において、上記ジルコニウムイオン及び/又はチタニウムイオンによる化成処理(防錆処理)の後に、防錆・親水化処理のために用いられる親水化処理剤組成物は、次のような特定の親水性樹脂及び防錆成分を含有する。
【0021】
(1)ケン化度が90%以上であるポリビニルアルコール;
本発明における親水化処理剤組成物では、親水性樹脂の一つとして、ケン化度が90%以上であるポリビニルアルコールを使用する。ケン化度90%以上のポリビニルアルコールは、もとより親水性付与の性能を有するが、下記ポリオキシアルキレン変性ポリビニルアルコールに比べ耐水性が高い親水樹脂であり、Alフィンを緻密にコートでき、また樹脂の耐水性が高いため防臭性、付着臭抑制効果が高い。
ケン化度は、95%以上であることが特に好ましく、ケン化度が90%未満であると、親水性に劣る。該ポリビニルアルコールの数平均分子量は、下限1000、上限1000000の範囲内であることが好ましい。1000未満であると、造膜性に劣り、親水性や他の皮膜物性に劣り、1000000を超えると、得られる親水化処理剤の溶液の粘度が高くなり、作業性や皮膜物性に劣る。上記下限は、10000がより好ましく、上記上限は、200000がより好ましい。
本発明において、ケン化度が90%以上であるポリビニルアルコールは、親水化処理剤組成物中の40〜90質量%の範囲で用い、50〜80質量%の範囲で用いることがより好ましい。
【0022】
(2)変性度(ペンダント基中のポリオキシアルキレン基の比率)が0.01〜20%であるポリオキシアルキレン変性ポリビニルアルコール;
本発明における親水化処理剤組成物では、親水性樹脂として、上記ケン化度が90%以上であるポリビニルアルコールとともに、ペンダント基中の0.01〜20%が、下記一般式(1)
【0023】
【化1】

【0024】
〔式中、nは1〜500の整数を表し、R1 は水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表し、R2 は水素原子又はメチル基を表わす。〕で表わされるポリオキシアルキレンエーテル基であるポリオキシアルキレン変性ポリビニルアルコールを使用する。
上記ポリオキシアルキレン変性ポリビニルアルコールにおいて、ポリオキシアルキレン変性基がペンダント基中の0.1〜5%であることが好ましく、ポリオキシアルキレン基の重合度nは3〜30であることが好ましい。そして、該変性ポリビニルアルコールにおけるポリオキシアルキレン基の含有率は50〜100%であることが好ましい。
上記ポリオキシアルキレン変性ポリビニルアルコールは、ポリオキシアルキレン基の親水性ゆえに、本発明の親水化処理剤組成物において、特に親水性付与の役割を果たす。
上記ポリオキシアルキレン変性ポリビニルアルコールは、親水化処理剤組成物中の3〜40質量%の範囲で用い、5〜30%の範囲で用いることがより好ましい。
なお、ケン化度90%以上のポリビニルアルコールとポリオキシアルキレン変性ポリビニルアルコールとの配合比率は、10:1〜1:1の範囲であることが好ましく、5:1〜2:1の範囲であることがより好ましい。
【0025】
(3)上記ポリビニルアルコール及び変性ポリビニルアルコールの水酸基に反応する無機架橋剤;
本発明の親水化処理剤組成物には、上記(変性)ポリビニルアルコール、特にポリオキシアルキレン変性ポリビニルアルコールは親水性が高いため、本発明の親水化処理剤組成物の耐水性を向上させる目的で、(変性)ポリビニルアルコールの水酸基に反応する無機架橋剤を添加する。かかる無機架橋剤としては、Ca、Al、Mg、Fe、Znなどのリン酸塩、縮合リン酸塩等の化合物、二酸化珪素などのシリカ化合物、炭酸ジルコニルアンモン等ジルコニウム化合物等が挙げられる。
これら無機架橋剤は、親水化処理剤組成物中の1〜30質量%の範囲で用い、3〜20質量%の範囲で用いることがより好ましい。
なお、無機架橋剤は、上記(変性)ポリビニルアルコールの全配合量に対して、10:1〜1:3の範囲であることが好ましく、5:1〜1:2の範囲であることがより好ましい。
【0026】
(4)グアニジン化合物及び/又はその塩;
本発明における親水化処理剤組成物は、優れた防錆効果を有する下記一般式(2)で表わされるグアニジン化合物及び/又はその塩
【0027】
【化2】

【0028】
[式中、Yは、−C(=NH)−(CH2m−、−C(=O)−NH−(CH2
m−、又は−C(=S)−NH−(CH2m−を表わす。mは、0〜20の整数を表
わす。nは、正の整数を表わす。kは、0又は1を表わす。Xは、水素、アミノ基、水酸
基、メチル基、フェニル基、クロロフェニル基又はメチルフェニル基(トリル基)を表わ
す。Zは、水素、アミノ基、水酸基、メチル基、フェニル基、クロロフェニル基、メチル
フェニル基(トリル基)、又は、下記一般式(3);
【0029】
【化3】

【0030】
(式中pは整数を表す)で表され、質量平均分子量が200〜1000000である重合体を表す〕
を含有させることが特徴である。本発明において、フラックスろう付けされたアルミ熱交換器にジルコニウム系化合物及び/又はチタニウム系化合物による防錆処理を施した後、該グアニジン化合物及び/又はその塩を含む親水化処理剤組成物で処理するため、二段階の防錆処理が施されていることとなり、フラックス除去工程を省略してフラックスが残存した状態であっても、結果的に、アルミ熱交換器の全面が充分な防錆効果が得られたものとなる。
【0031】
上記グアニジン化合物及び/又はその塩としては特に限定されず、例えば、グアニジン、アミノグアニジン、グアニルチオ尿素、1,3−ジフェニルグアニジン、1,3−ジ−o−トリルグアニジン、1−o−トリルビグアニド、ポリヘキサメチレンビグアニジン、ポリヘキサエチレンビグアニジン、ポリペンタメチレンビグアニジン、ポリペンタエチレンビグアニジン、ポリビニルビグアニジン、ポリアリルビグアニジン、これらの塩等を挙げることができる。上記グアニジン化合物及び/又はその塩としては特に限定されず、例えば、リン酸塩、塩酸塩、硫酸塩、酢酸塩及びグルコン酸塩等の有機酸塩を挙げることができる。上記塩の合計量は、上記グアニジン化合物及び/又はその塩に対してモル比で下限0.01、上限100の範囲内であることが好ましい。
【0032】
上記グアニジン化合物及び/又はその塩は、質量平均分子量が下限59、上限1000000の範囲内である。一般式(2)において分子量が最小になるグアニジンの分子量が59であることから、59未満とすることはできず、100000以上であると、水溶化しないおそれがある。上記下限は、300であることがより好ましく、500であることが更に好ましい。上記上限は、100000であることがより好ましく、20000であることが更に好ましい。
【0033】
上記グアニジン化合物及び/又はその塩としては、防錆性を付与する効果が大きいことから、分子中に下記一般式(4);
【0034】
【化4】

【0035】
で表されるビグアニド構造を有するもの及び/又はその塩であることが好ましい。上記ビグアニド構造を有するグアニジン化合物及び/又はその塩としては特に限定されず、例えば、ポリヘキサメチレンビグアニジン、1−o−トリルビグアニド、グルコン酸クロルヘキシルジン、及び/又は、その塩等を挙げることができる。上記グアニジン化合物及び/又はその塩は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0036】
該グアニジン化合物及び/又はその塩は、親水化処理剤組成物の固形分中の1〜20質量%の範囲で用い、2〜10質量%の範囲で用いることがより好ましい。
【0037】
上記親水化処理剤組成物は、乾燥付着量で、アルミ熱交換器表面に0.01〜5g/m2 付着させることが好ましく、0.1〜1g/m2 付着させることがさらに好ましい。
【0038】
本発明の親水化処理剤組成物は、上記した成分を必須の固形分として含有し、溶媒中に溶解して使用される。該溶液の固形分濃度は、作業性、経済性等から好適な範囲で選択されるが、通常、1〜10質量%の溶液で使用される。
溶媒は特に限定されないが、廃液処理等の観点から水を主体とするものが好ましい。また、造膜性を向上させ、より均一で平滑な皮膜を形成するために溶剤を併用してもよい。かかる溶剤としては、塗料に一般的に用いられ、水と均一に混合することができるものであれば特に限定されず、例えばアルコール系、ケトン系、エステル系、エーテル系の有機溶剤等を挙げることができる。上記溶剤の使用量は、本発明の親水化処理剤組成物の固形分に対して、通常、0.01〜5質量%の範囲内であることが好ましい。
【0039】
本発明の親水化処理剤組成物は、更に、他の添加剤を含有するものであってもよい。上記他の添加剤としては特に限定されず、例えば、硬化剤、分散剤、顔料、シランカップリング剤、抗菌剤、界面活性剤、潤滑剤、消臭剤等を挙げることができる。
【0040】
上記硬化剤としては、特に限定されず、例えば、メラミン樹脂、ブロックイソシアネート化合物、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物、カルボジイミド化合物等を挙げることができる。
上記分散剤としては特に限定されず、界面活性剤、分散樹脂等を挙げることができる。
【0041】
上記顔料としては、例えば酸化チタン(TiO2)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、炭酸カルシウム(CaCO3)、硫酸バリウム(BaSO4)、アルミナ(Al23)、カオリンクレー、カーボンブラック、酸化鉄(Fe23、Fe34)等、酸化アルミニウム(Al23)の無機顔料や、有機顔料等の各種着色顔料等を挙げることができる。
【0042】
上記シランカップリング剤を含有させると、前記親水性樹脂と上記顔料との親和性が向上し、密着性等を向上させることができる点で好ましい。
上記シランカップリング剤としては特に限定されず、例えば、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、N−〔2−(ビニルベンジルアミノ)エチル〕−3−アミノプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。
上記抗菌剤としては特に限定されず、例えば、2−(4−チアゾニル)−ベンスイミダゾール、ジンクピリチオン等の従来公知の抗菌剤を使用することができる。
【実施例】
【0043】
以下本発明について実施例を掲げて更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。また実施例中、「%」、「部」は特に断りのない限り「質量%」、「質量部」を意味する。
【0044】
実施例1
親水化処理剤組成物の調製:
グアニジン化合物及び/又はその塩としてポリヘキサメチレンビグアニジンの酢酸塩を0.2部;親水性樹脂として、ポリビニルアルコール(ケン化度99%、数平均分子量20000)1.3部、ポリエチレンオキサイド変性ポリビニルアルコール(ケン化度99%、ポリエチレンオキサイド変性率3%、分子量2万)0.5部;及び、無機架橋剤であるシリカを0.2部配合し、イオン交換水を加えて100部とし、親水化処理剤組成物の水溶液を調製した。
【0045】
試験熱交換器の作製:
熱交換器としては、表面積が3m2である自動車用エバポレータを使用した。KAlF4及びK3AlF6のフラックスろうでろう付けされたものであり、フラックス量は、Kとして50mg/m2(フィン表面)である。
1)フルオロジルコニウム酸をジルコニウムイオンとして250ppmになるように水に溶解し、アンモニアでpH4に調整してジルコニウム化成処理液浴を得た。これを60℃に加温して、熱交換器を45秒間浸漬処理した。
2)ジルコニウム化成処理した熱交換器表面を、室温の水で30秒間水洗した。
3)次に、上記で調製した親水化処理剤組成物の水溶液の浴に、室温で10秒間浸漬した(浴固形分は約2質量%である)。
4)親水化処理浴から出た熱交換器は、エアブローすることで親水化処理剤の水溶液がその表面に25g/m2付着するように調整した(このとき親水化処理剤固形分としては約0.5g/m2付着していることとなる)。
5)コア温度が140℃×5分間維持されるよう乾燥炉中で焼付けて試験熱交換器を作成した。
【0046】
試験熱交換器の物性評価:
上記試験熱交換器について、以下に示した評価方法によって耐食性、親水性、耐久臭気および付着臭気を評価した。
この結果を表1に示す。
<耐食性>
JIS Z 2371に基づき、5%の食塩水を35℃で噴霧し、240時間後の白錆発
生面積を下記の評価基準で目視で評価した。耐食性は8点以上であることが好ましい。
10:錆、変色なし
9:錆なし、一部わずかに変色
8:錆なし、全部わずかに変色
7:白錆発生(5%以下)
6:白錆発生(10%以下)
5:白錆発生(20%以下)
4:白錆発生(40%以下)
3:白錆発生(60%以下)
2:白錆発生(80%以下)
1:全面白錆発生
【0047】
<親水性>
試験熱交換器を流水に72時間接触させた後、水滴との接触角を測定した。接触角が小さい程、親水性が高いと考えられる。接触角の測定は、自動接触角計CA−Z(協和界面化学社製)を用いて行った。
親水性は40°以下であることが好ましい。
【0048】
<耐久臭気>
試験熱交換器を水道水流水に72時間接触させた後、臭いを嗅いで6段階評価した。耐久臭気は1.5以下であることが好ましい。
0:無臭
1:やっとかすかに臭いを感じる
2:らくに臭いを感じる
3:明らかに臭いを感じる
4:強く臭いを感じる
5:非常に強く臭いを感じる
【0049】
<付着臭気>
親水化処理物を水道水流水に72時間接触させた後、50m3 の会議室に設置し、20本のたばこの煙に3時間さらした。次いで、煙のない別の50m3 の会議室に1時間放置した後、親水化処理物を上記耐久臭気の評価と同様の基準で6段階評価をした。
【0050】
実施例2
無機架橋剤の種類をリン酸アルミニウム、グアニジン化合物及び/又はその塩の種類をグルコン酸クロルヘキシジンに変えた以外は実施例1と同様に行って、表面処理した熱交換器を得た。耐食性、親水性、耐久臭気を測定し、結果を第1表に示した。
【0051】
実施例3
グアニジン化合物及び/又はその塩の種類を1−o−トリルビグアニドに変えた以外は実施例1と同様に行って、表面処理した熱交換器を得た。耐食性、親水性、耐久臭気を測定し、結果を第1表に示した。
【0052】
実施例4
無機架橋剤の種類をリン酸アルミニウムに変えた以外は実施例1と同様に行って、表面処理した熱交換器を得た。耐食性、親水性、耐久臭気を測定し、結果を第1表に示した。
【0053】
実施例5
ポリビニルアルコールの種類を分子量が5万のものに変えた以外は実施例1と同様に行って、表面処理した熱交換器を得た。耐食性、親水性、耐久臭気を測定し、結果を第1表に示した。
【0054】
実施例6
化成処理をするための化合物を、フルオロチタン酸(チタニウムイオンとして250ppm)に変えた以外は実施例1と同様に行って、表面処理した熱交換器を得た。耐食性、親水性、耐久臭気を測定し、結果を第1表に示した。
【0055】
実施例7
化成処理をするための化合物を、フルオロジルコニウム酸(ジルコニウムイオンとして250ppm)及びリン酸(100ppm)に変えた以外は実施例1と同様に行って、表面処理した熱交換器を得た。耐食性、親水性、耐久臭気を測定し、結果を第1表に示した。
【0056】
実施例8
化成処理をするための化合物を、フルオロジルコニウム酸(ジルコニウムイオンとして125ppm)及びフルオロチタン酸(チタニウムイオンとして125ppm)に変えた以外は実施例1と同様に行って、表面処理した熱交換器を得た。耐食性、親水性、耐久臭気を測定し、結果を第1表に示した。
【0057】
比較例1
熱交換器を、真空ろう付け法によるものを用いた以外は実施例1と同様に行って、表面処理した熱交換器を得た。耐食性、親水性、耐久臭気を測定し、結果を第1表に示した。
【0058】
比較例2
ジルコニウム化成処理を省略した以外は実施例1と同様に行って、表面処理した熱交換器を得た。耐食性、親水性、耐久臭気を測定し、結果を第1表に示した。
【0059】
比較例3
グアニジン化合物及び/又はその塩を用いない以外は実施例1と同様に行って、表面処理した熱交換器を得た。耐食性、親水性、耐久臭気を測定し、結果を第1表に示した。
【0060】
比較例4
ポリエチレンオキサイド変性ポリビニルアルコール(ケン化度99%、ポリエチレンオキサイド変性率3%、分子量2万)を用いない以外は実施例1と同様に行って、表面処理した熱交換器を得た。耐食性、親水性、耐久臭気を測定し、結果を第1表に示した。
【0061】
比較例5
ポリビニルアルコール(分子量が2万のもの)の配合量を0.2部とした以外は実施例1と同様に行って、表面処理した熱交換器を得た。耐食性、親水性、耐久臭気を測定し、結果を第1表に示した。
【0062】
比較例6
無機架橋剤を用いない以外は実施例1と同様に行って、表面処理した熱交換器を得た。耐食性、親水性、耐久臭気及び付着臭気を測定し、結果を第1表に示した。
【0063】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
フラックスろう付けされたアルミ熱交換器にジルコニウム系化合物及び/又はチタニウム系化合物による防錆処理を施し、その後、下記成分を含有する親水化処理剤組成物により親水化処理することを特徴とする、フラックスろう付けされたアルミ熱交換器の防錆・親水化処理方法。
<親水化処理剤組成物>(固形分組成):
(1)ケン化度が90%以上であるポリビニルアルコール 40〜90質量%
(2)ペンダント基中の0.01〜20%が、下記一般式(1)
【化1】

〔式中、nは1〜500の整数を表し、R1 は水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表し、R2 は水素原子又はメチル基を表わす。〕で表わされるポリオキシアルキレンエーテル基であるポリオキシアルキレン変性ポリビニルアルコール 3〜40質量%
(3)上記ポリビニルアルコール及び変性ポリビニルアルコールの水酸基に反応する無機架橋剤 1〜30質量%
(4)下記一般式(2)で表わされるグアニジン化合物及び/又はその塩 1〜20質量%
【化2】

[式中、Yは、−C(=NH)−(CH2m−、−C(=O)−NH−(CH2
m−、又は−C(=S)−NH−(CH2m−を表わす。mは、0〜20の整数を表
わす。nは、正の整数を表わす。kは、0又は1を表わす。Xは、水素、アミノ基、水酸
基、メチル基、フェニル基、クロロフェニル基又はメチルフェニル基(トリル基)を表わ
す。Zは、水素、アミノ基、水酸基、メチル基、フェニル基、クロロフェニル基、メチル
フェニル基(トリル基)、又は、下記一般式(3);
【化3】


(式中pは整数を表す)で表され、質量平均分子量が200〜1000000である重合体を表す〕
【請求項2】
前記親水化処理剤組成物のアルミ熱交換器表面への乾燥付着量が0.01〜5g/m2 である請求項1記載の防錆・親水化処理方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の防錆・親水化処理を施したフラックスろう付けされたアルミニウム熱交換器。

【公開番号】特開2006−69197(P2006−69197A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−222666(P2005−222666)
【出願日】平成17年8月1日(2005.8.1)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】