説明

フラットケーブル及びそれを用いたケーブルハーネス

【課題】電線の幅方向に対して伸縮機能を有し、身体や衣服などに配線されたときの配線部分の動きに対する追従性を向上させたフラットケーブル及びそれを用いたケーブルハーネスを提供する。
【解決手段】並列に配置された複数本の電線11と、電線11の並列方向に沿って複数本の電線11間を縫うように織り込まれた繊維部材12と、を備え、電線11は、線状体13と、線状体13の外周に複数本の素線14が巻き付けられてなる内部導体15と、内部導体15の外周に形成された絶縁体16と、を有し、繊維部材12は、ポリウレタン弾性繊維からなるフラットケーブルである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、身体装着機器、衣服装着機器内配線用のフラットケーブル及びそれを用いたケーブルハーネスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、医療技術の進化に伴い、人体の脈動や心拍をセンサ(ICチップ)で感知して人体の生理特性を測量し、これを健康管理や診断に活用することがなされている。人体の脈動や心拍を正確に感知するためには、センサと計測機器とを繋ぐ配線材を身体や衣服などに配線して人体と接触させる身体装着機器や衣服装着機器などがある。
【0003】
このような用途に用いられる配線材としては、例えば、伸縮性芯部の外周に設けられた導体部と、導体部の外周に設けられた弾性樹脂からなる第一外部被覆層と、第一外部被覆層の外周に設けられた繊維からなる第二外部被覆層とを有する伸縮電線がある(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−82050号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
身体装着機器や衣服装着機器内などへ配線される配線材は、身体や衣服などの配線部分の動きに応じて配線材の長手方向に対してだけでなく、長手方向に直交する方向に対しても引っ張られたり曲げられたりする。しかし、特許文献1に記載された伸縮電線では、電線の長手方向に対してのみに伸縮するものである。このため、電線の長手方向への引張りなどに対しては電線が追従でき、張力に対して比較的良好な耐性を有するが、電線の幅方向(外径方向)への引張りなどに対しては電線が追従することができず、張力に対する耐性が不十分であった。これにより、電線の幅方向に張力が加わった場合に配線した部分から配線材が剥がれたり脱落したりすることがあった。
【0006】
そこで、本発明の目的は、電線の幅方向に対して伸縮機能を有し、身体や衣服などに配線されたときの配線部分の動きに対する追従性を向上させたフラットケーブル及びそれを用いたケーブルハーネスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的を達成するために創案された本発明は、並列に配置された複数本の電線と、前記電線の並列方向に沿って前記複数本の電線間を縫うように織り込まれた繊維部材と、を備え、前記電線は、線状体と、前記線状体の外周に複数本の素線が巻き付けられてなる内部導体と、前記内部導体の外周に形成された絶縁体と、を有し、前記繊維部材は、ポリウレタン弾性繊維からなるフラットケーブルである。
【0008】
前記繊維部材は、前記電線に織り込まれた状態で伸縮すると良い。
【0009】
前記繊維部材は、モノフィラメントからなると良い。
【0010】
前記繊維部材は、初期モジュラスが5cN/dtex以上30cN/dtex以下であると良い。
【0011】
前記線状体は、抗張力繊維からなると良い。
【0012】
前記線状体は、伸縮性を有する繊維からなると良い。
【0013】
前記線状体は、繊度が150dtex以上、250dtex以下であると良い。
【0014】
前記内部導体は、引張張力が20N以上であると良い。
【0015】
前記絶縁体は、ふっ素樹脂からなると良い。
【0016】
また本発明は、前記フラットケーブルと、前記フラットケーブルの端末部分に接続されたコネクタと、を有するケーブルハーネスである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、電線の幅方向に対して伸縮機能を有し、身体や衣服などに配線されたときの配線部分の動きに対する追従性を向上させたフラットケーブル及びそれを用いたケーブルハーネスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施の形態に係るフラットケーブルを用いたケーブルハーネスを示す平面図である。
【図2】電線の構造を示す断面図である。
【図3】図1のケーブルハーネスの作用を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0020】
図1は、本実施の形態に係るフラットケーブルを用いたケーブルハーネスを示す平面図である。
【0021】
図1に示すように、本実施の形態に係るフラットケーブル10は、並列に配置された複数本の電線11と、電線11の並列方向(電線11の長手方向に対して略直交する方向)に沿って複数本の電線11間を縫うように織り込まれた繊維部材12と、を備える。
【0022】
電線11は、図2に示すように、抗張力繊維や伸縮性を有する繊維などからなる線状体13と、線状体13の外周に複数本の素線14が横巻されてなる内部導体15と、内部導体15の外周に形成されたエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)などのふっ素樹脂からなる絶縁体16と、を有する。
【0023】
線状体13に用いられる抗張力繊維としては、例えば、アラミドなどのポリアミド繊維、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリエステル繊維などが挙げられる。
【0024】
また、線状体13に用いられる伸縮性を有する繊維としては、例えば、ポリウレタン系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマーなどの熱可塑性エラストマーや、シリコーンゴム、エチレンプロピレンゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴムなどの合成ゴム、天然ゴム、及びこれらの合成ゴムや天然ゴムとからなる複合ゴムなどからなる繊維が挙げられる。この伸縮性を有する繊維は、50%伸長時の伸長回復率が80%以上であることが好ましい。なお、伸長回復率は、「JIS L 1096」に準拠した方法により得られる。
【0025】
線状体13として抗張力繊維を用いた場合、電線の長手方向に加わる張力などに対する耐性を高めることができる。また、線状体13として伸縮性を有する繊維を用いた場合、電線の長手方向に対して伸縮機能を持たせることができ、配線部分の動きに対する追従性を高めるのに有効である。
【0026】
これら線状体13を構成する繊維は、繊度が150dtex以上、250dtex以下であることが好ましい。このような線状体13を使用することで、内部導体15に引張り張力がかかりにくくなる。
【0027】
また、内部導体は、身体や衣類に配線されたときの張力によって断線などが発生しないようにすることを考慮すると、引張強度が20N以上であることが好ましい。なお、内部導体に用いる素線14の材料としては、銅線やアルミ線などが挙げられる。複数本の素線14を線状体13に横巻することで、内部導体15が柔らかく可撓性に富むようになり、繰り返し回転、折り曲げ、捻りに耐えるようになる。
【0028】
絶縁体16に用いられるふっ素樹脂の材料としては、例えば、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などが挙げられる。特に、折り曲げに強く、クラックが生じにくく、耐酸性や耐アルカリ性に優れたETFEからなる絶縁体16を用いることで、0.03mm以上0.07mm以下の厚さの薄肉な絶縁体16とすることができ、その結果、フラットケーブル10の厚さを最小限に薄くしながら機械的又は化学的耐性(例えば、洗剤に対する耐性)を維持することが可能になる。
【0029】
電線11の外径は、身体や衣類などに配線されることを考慮すると、0.40mm以下であることが好ましい。
【0030】
繊維部材12は、複数本の電線11間をフラットケーブル10の長手方向の一端から他端(図示左側から右側)まで幅方向の一側から他側(図示下側から上側)へジグザグに往復しながら、複数本の電線11を長手方向でフラット状に固定するように織り込まれる。
【0031】
このとき、繊維部材12は、フラットケーブル10の幅方向(電線11の並列方向)の中央部において、1本の電線11を1ユニットとして縫うように織り込まれると良い。なお、フラットケーブル10の幅方向の中央部とは、フラットケーブル10の中心軸上に限られず、その近傍も含まれる。
【0032】
このような構成とすることにより、フラットケーブル10の全ての電線11が繊維部材12に縛られ幅方向に伸縮機能を持つようになり、複数本の電線11が互いに寄せ合うことで均一な配線ピッチで配置され、フラットケーブル10の幅を小さくすることができる。
【0033】
繊維部材12は、フラットケーブル10の全長に亘って織り込まれるが、機器側と接続するためのコネクタ17の取り付けを容易にするために、フラットケーブル10の長手方向の両端部の繊維部材12は除去される。なお、繊維部材12は、その先端部を引っ張ることのみで電線11から分離することができる。このため、繊維部材12を溶剤に溶解させるなどの作業をすることなしに除去することができ、コネクタの取り付けなどを手間をかけずに行うことができる。
【0034】
このフラットケーブル10は、複数本の電線11を並列に配置し、複数本の電線11間に繊維部材12を縫うように織り込んで製造されるが、繊維部材12として、ポリウレタン弾性繊維(例えば、旭化成せんい株式会社製のロイカ(登録商標))を用いる点が特徴の1つである。
【0035】
このポリウレタン弾性繊維は、伸度が500%以上900%以下、300%伸長時の伸長回復率が90%以上、300%伸長するための初期モジュラスが5cN/dtex以上30cN/dtex以下であり、伸度が非常に高く初期モジュラスが低い繊維であることが好ましい。また、フラットケーブル10自体の強度向上や小型・薄型化の点から、繊維部材12はモノフィラメントからなることが好ましい。
【0036】
なお、300%伸長時の伸長回復率は、JIS L 1096に準拠した測定方法により得られる。また、300%伸長するための初期モジュラスは、引張試験機を用いて、温度20℃、湿度65%の条件下で、試料長5cmの試験糸を50cm/分の速度で伸長したときの300%モジュラスにより得られる。
【0037】
このような繊維部材12にポリウレタン弾性繊維を用いることにより、電線11間に繊維部材12を織り込む際、繊度が非常に細い(例えば、17〜20dtex程度)繊維を用い、当該繊維を伸長(例えば、300%程度に伸長)させた状態(このときの繊維部材12の外径は0.025mm以下程度)で複数本の電線11間を縫うように織り込むことが可能になる。また、繊維部材12を電線11間に織り込んだ後に、繊維の伸長が回復する(元に戻る)ときの力(伸長回復力)が複数本の電線11を互いに寄り合わせるように作用する。このとき、電線11の外径が小さくても、伸長回復力によって電線11に小曲りなどが発生するようなストレスを与えることなく電線11同士を互いに寄り合わせることができる。これにより、隣接する電線11間の距離(配列ピッチ)を電線11にストレスを与えることなく狭めることができ、フラットケーブル10の幅を従来よりも小さくすることができる。そのため、電線11にうねりや断線を発生させることなく繊維部材12を織り込むことが可能になる。
【0038】
また、上述したポリウレタン弾性繊維を繊維部材12に用いることで、繊維部材12を織り込んだ後に繊維部材12の収縮のみによって複数の電線11同士が束ねられてケーブル自体の断面形状が自然と丸形状になってしまうことがなく、ケーブルを屈曲などさせるための力を外部から印加しない状態では、ケーブル自体の形状をフラット状に保持することができる。
【0039】
また、繊維部材12にポリウレタン弾性繊維を用いたことにより、伸長されて外径が0.025mm以下程度と非常に細くなった状態の繊維部材12を織り込むことができる。これにより、フラットケーブル10自体の厚さを薄くすることができ、フラットケーブル10の折り曲げが容易に行える。
【0040】
また、繊維部材12は織り込まれた後もなお伸長しろを有しているため、フラットケーブル10は電線11の幅方向に対しても伸縮機能を有し、電線11の幅方向への引張りなどに対して電線11が追従することができる。よって、フラットケーブル10では、電線11の幅方向に張力が加わった場合に配線した部分からフラットケーブル10が剥がれたり脱落したりすることはない。
【0041】
更に、ポリウレタン弾性繊維からなる繊維部材12は、織り込まれた後も電線11の並列方向へ織り込まれた状態で伸長させることができるため、フラットケーブル10をその幅方向に伸縮させる機能を付与することができる。これにより、図3に示すように、フラットケーブル10の幅方向に50%以上の伸縮率を付与することができるため、人体の動きによって幅方向に伸縮したり、引張られたりする衣類内にフラットケーブル10を配線することが可能になる。また、フラットケーブル10の幅方向に伸縮性を付与することができるため、人体の動きに伴う折り曲げ、洗濯時に与えられる繰り返し回転、折り曲げ、捻りによって加えられる応力を、フラットケーブル10の幅方向に効果的に逃がすことができるという効果も得られる。その結果、フラットケーブル10を折り曲げなどさせたときに電線11がフラットケーブル10の幅方向に移動することができるので、電線11にかかる応力が緩和され、電線11の断線などを防止することができる。
【0042】
なお、繊維部材12を300%伸長するための初期モジュラスが5cN/dtex以上30cN/dtex以下と低いことで、繊維部材12を織り込むときに電線11へ負荷をかけることなく織り込むことができる。
【0043】
初期モジュラスが5cN/dtex未満であると、繊維部材12を織り込むときの電線11を締め付ける力が弱くなり、綺麗な形状のフラットケーブル10を製造することができなくなってしまい、繊維部材12を織り込んだ後に繊維部材12の形状を綺麗に整えるための工程を別途設ける必要が生じ、製造コストの上昇を招いてしまう。
【0044】
また、初期モジュラスが30cN/dtexを超えると、繊維部材12を織り込むときの電線11を締め付ける力が強くなり、繊維部材12を織り込む際に電線11がうねるように変形したり断線したりしてしまい、電線11の電気特性の低下を招いてしまう虞がある。
【0045】
このような理由から、繊維部材12を300%伸長するための初期モジュラスが5cN/dtex以上30cN/dtex以下と低いことが好ましい。
【0046】
また、ポリウレタン弾性繊維からなる繊維部材12は、摩擦係数が大きく、且つ300%程度伸長された状態で複数本の電線11間に織り込まれるため、電線11を繊維部材12でしっかりと拘束することができ、フラットケーブル10を折り曲げたときに電線11が滑ることによる位置ズレが起こりにくい。従って、電線11の配線ピッチが安定し、フラットケーブル10を曲げたときに複数本の電線11同士の位置ズレが少ないため、フラットケーブル10全体が高いバネ性を持ち、電線11がキンクしにくく電気特性も安定する。
【0047】
以上要するに、並列に配置された複数本の電線と、電線の並列方向に沿って複数本の電線間を縫うように織り込まれた繊維部材と、を備え、電線は、線状体と、線状体の外周に複数本の素線が巻き付けられてなる内部導体と、内部導体の外周に形成された絶縁体と、を有し、繊維部材は、ポリウレタン弾性繊維からなるフラットケーブルとすることにより、電線の幅方向に対しても伸縮機能を有し、身体や衣服などに配線されたときの配線部分の動きに対する追従性を向上させたフラットケーブルを提供することができる。
【0048】
また、フラットケーブル10の端末部分にコネクタ17を接続することで、電線の幅方向に対しても伸縮機能を有し、身体や衣服などに配線されたときの配線部分の動きに対する追従性を向上させた図1に示したようなケーブルハーネス100が得られる。
【0049】
本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0050】
10 フラットケーブル
11 電線
12 繊維部材
13 線状体
14 素線
15 内部導体
16 絶縁体
17 コネクタ
100 ケーブルハーネス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
並列に配置された複数本の電線と、前記電線の並列方向に沿って前記複数本の電線間を縫うように織り込まれた繊維部材と、を備え、
前記電線は、線状体と、前記線状体の外周に複数本の素線が巻き付けられてなる内部導体と、前記内部導体の外周に形成された絶縁体と、を有し、
前記繊維部材は、ポリウレタン弾性繊維からなることを特徴とするフラットケーブル。
【請求項2】
前記繊維部材は、前記電線に織り込まれた状態で伸縮する請求項1に記載のフラットケーブル。
【請求項3】
前記繊維部材は、モノフィラメントからなる請求項1又は2に記載のフラットケーブル。
【請求項4】
前記繊維部材は、初期モジュラスが5cN/dtex以上30cN/dtex以下である請求項1〜3のいずれかに記載のフラットケーブル。
【請求項5】
前記線状体は、抗張力繊維からなる請求項1〜4のいずれかに記載のフラットケーブル。
【請求項6】
前記線状体は、伸縮性を有する繊維からなる請求項1〜4のいずれかに記載のフラットケーブル。
【請求項7】
前記線状体は、繊度が150dtex以上、250dtex以下である請求項5又は6に記載のフラットケーブル。
【請求項8】
前記内部導体は、引張張力が20N以上である請求項1〜7のいずれかに記載のフラットケーブル。
【請求項9】
前記絶縁体は、ふっ素樹脂からなる請求項1〜8のいずれかに記載のフラットケーブル。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載のフラットケーブルと、前記フラットケーブルの端末部分に接続されたコネクタと、を有することを特徴とするケーブルハーネス。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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