説明

フラットケーブル用被覆材およびそれを使用したフラットケーブル

【課題】ハロゲン系難燃剤およびアンチモン系難燃助剤を用いずに、難燃性、耐熱性、耐久性、耐ブロッキング性、加工適性等に優れ、かつ自然環境にも優しいフラットケーブル用被覆材を提供する。
【解決手段】フィルム状基材、アンカーコート層およびヒートシール層が、この順で積層されてなるフラットケーブル用被覆材であって、前記ヒートシール層が、難燃剤を主成分とするフィラー成分70〜30質量%と、ポリエステル系樹脂を主成分とする樹脂成分30〜70質量%と、を少なくとも含んでなる樹脂組成物による被膜からなり、前記難燃剤として、ホスフィン酸金属塩からなる非ハロゲン系難燃剤が、前記樹脂組成物全体に対して5〜40質量%含まれてなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラットケーブル用被覆材に関し、更に詳しくは、ハロゲン系難燃剤およびアンチモン系難燃助剤を含有しなくても、難燃性、耐熱性、耐久性、耐ブロッキング性、加工適性等に優れるフラットケーブル用被覆材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンピュータ、液晶表示装置、携帯電話、プリンター、自動車、カーナビ、家電製品、複写機、その他等の電子機器では、電子部品同士などの電気的な接続や、種々の配線のためにフラットケーブルが使用されている。フラットケーブルは、電子機器の狭い筐体内を引き回され、電子部品の移動に伴って摺動されたり、かつ、電子部品の発熱に伴う高温の環境下で使用される。このために、フラットケーブルを被覆しているフラットケーブル用被覆材は、摺動に対する柔軟性、高温に対する耐熱性、および難燃性が要求される。また、使用後に廃棄処理となったときに、環境破壊の元凶となる成分を含まないことも要求される。
【0003】
このようなフラットケーブル用被覆材として、特開平8−60108号公報(特許文献1)には、ポリイミドフィルムとリン変性飽和ポリエステル共重合体からなる接着層による非ハロゲンの難燃性フラットケーブルが提案されている。また、特開平9−221642号公報(特許文献2)や特開平9−279101号公報(特許文献3)には、熱可塑性ポリエステル樹脂とリン系難燃剤を含有する粘着層による非ハロゲンの難燃性フラットケーブルが提案されている。さらに、特開2001−89736号公報(特許文献4)には、ポリエステル系樹脂とポリ燐酸系難燃剤と非ポリ燐酸系窒素含有有機難燃剤からなる非ハロゲン系の難燃性熱接着剤を用いた被覆材が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−60108号公報
【特許文献2】特開平9−221642号公報
【特許文献3】特開平9−279101号公報
【特許文献4】特開2001−89736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記したフラットケーブルは、いずれも、フィルム状基材として、ポリエステル系フィルムまたはポリイミド系フィルムが用いられており、ポリエステル系フィルムは単独では難燃性が不足し、ポリイミド系フィルムでは価格が高価であるという問題がある。また、接着層(粘着層)中にアンチモン系の難燃剤を含有するフラットケーブル用被覆材においては、フラットケーブル用被覆材を用いたフラットケーブルが電子機器とともに使用後廃棄された後に、何らかの要因で難燃剤が環境に漏洩したり、人体に取り込まれて健康を害する恐れがあるという欠点がある。
【0006】
近年、地球レベルで環境を保護するために、有害物質は使用規制される傾向にあり、フラットケーブルに使用する材料についても、有害物質の使用を極力避けるべきである。例えば、ハロゲン系難燃剤であるデカブロモジフェニルエーテル(DBDPO)は、燃焼条件によっては、ダイオキシン関連物質が生成する恐れがあり、その使用規制が望まれている。また、難燃助剤である三酸化アンチモンは、皮膚や粘膜に対する刺激性があり劇物に指定されている。
【0007】
本発明者らは、今般、リン系難燃剤であるホスフィン酸金属塩の難燃性に着目し、ポリエステル系樹脂とホスフィン酸金属塩とを所定の割合で含有させることにより、ハロゲン系難燃剤およびアンチモン系難燃助剤を用いずに、難燃性、耐熱性、耐久性、耐ブロッキング性、加工適性等に優れ、かつ自然環境にも優しいフラットケーブル用被覆材を実現できる、との知見を得た。本発明はかかる知見に基づくものである。
【0008】
したがって、本発明の目的は、ハロゲン系難燃剤およびアンチモン系難燃助剤を用いずに、難燃性、耐熱性、耐久性、耐ブロッキング性、加工適性等に優れ、かつ自然環境にも優しいフラットケーブル用被覆材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によるフラットケーブル用被覆材は、フィルム状基材、アンカーコート層およびヒートシール層が、この順で積層されてなるフラットケーブル用被覆材であって、
前記ヒートシール層が、難燃剤を主成分とするフィラー成分70〜30質量%と、ポリエステル系樹脂を主成分とする樹脂成分30〜70質量%と、を少なくとも含んでなる樹脂組成物による被膜からなり、
前記難燃剤として、ホスフィン酸金属塩からなる非ハロゲン系難燃剤が、前記樹脂組成物全体に対して5〜40質量%含まれてなることを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明の態様においては、前記ホスフィン酸金属塩が、ホスフィン酸アルミニウム塩であることが好ましい。
【0011】
また、本発明の態様においては、前記ポリエステル系樹脂が、ガラス転移点が−20℃〜30℃のポリエステル系樹脂組成物を樹脂成分の全質量に対して80〜99質量%と、ガラス転移点が30℃〜120℃のポリエステル系樹脂組成物を樹脂成分の全質量に対して1〜20質量%とを含んでなることが好ましい。
【0012】
また、本発明の態様においては、前記ポリエステル系樹脂が、平均分子量2500〜10000のポリエステル系高分子可塑剤を、樹脂成分の全質量に対して5質量%未満含んでなることが好ましい。
【0013】
また、本発明の態様においては、前記ポリエステル系樹脂が、イソシアネート基、ブロックイソシアネート基およびカルボジイミド基からなる群から選択される少なくとも1種以上の官能基を有する多官能性化合物を、樹脂成分の全質量に対して5質量%未満含んでなることが好ましい。
【0014】
また、本発明の態様においては、前記フィルム状基材が、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリアミドフィルム、ポリフェニレンサルファイドフィルム、ポリアラミドフィルム、およびポリイミドフィルムからなる群から選択されることが好ましい。
【0015】
また、本発明の態様においては、前記アンカーコート層が、前記多官能性化合物と、ポリエステル系樹脂と、ポリウレタン系樹脂とを含んでなるアンカーコート剤による被膜からなることが好ましい。
【0016】
また、本発明の別の態様であるフラットケーブルは、複数の導電体を同一平面内で配列した導電体列を、一対の被覆材で挟持したフラットケーブルであって、
前記被覆材が、請求項1〜7のいずれか一項に記載のフラットケーブル被覆材であり、前記フラットケーブル被覆材のヒートシール層どうしが対向するように、前記導電体列が一対の前記フラットケーブル被覆材で挟持されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、リン系難燃剤であるホスフィン酸金属塩の難燃性に着目し、ポリエステル系樹脂とホスフィン酸金属塩とを所定の割合で含有させることにより、ハロゲン系難燃剤およびアンチモン系難燃助剤を用いずに、難燃性、耐熱性、耐久性、耐ブロッキング性、加工適性等に優れ、かつ自然環境にも優しいフラットケーブル用被覆材を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明によるフラットケーブル用被覆材の一実施形態の層構成を示す模式的断面図である。
【図2】本発明によるフラットケーブル用被覆材を用いたフラットケーブルの一実施形態の構成を示す模式的概略図である。
【図3】図2のAA断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<フラットケーブル用被覆材>
以下、本発明によるフラットケーブル用被覆材は、フィルム状基材、アンカーコート層およびヒートシール層が、この順で積層された層構成を有する。以下、図面を参照しながら、本発明によるフラットケーブル用被覆材を詳細に説明する。
【0020】
図1は、本発明によるフラットケーブル用被覆材の一実施形態の層構成を示す模式的断面図である。本発明によるフラットケーブル用被覆材10は、図1に示すように、フィルム状基材11と、フィルム上基材11上に形成されたアンカーコート層12と、そのアンカーコート層上に形成されたヒートシール層13とを備えて構成されている。
【0021】
フィルム状基材11は、機械的強度に優れ、耐熱性、耐薬品性、耐溶剤性、屈曲性、絶縁性等に富むようなフィルム状の材料であれば、特に制限なく用いることができ、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系フィルム、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610等のポリアミド系フィルム、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド等のポリイミド系フィルム、フッ素系フィルム、ポリエーテルスルフォン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルサルファイド、ポリアリレート、ポリエステルエーテル、全芳香族ポリアミド、ポリアラミド、ポリプロピレンフィルム、ポリカ−ボネートフィルムなどが適用できる。通常はポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリアルキレンテレフタレートを好適に使用できる。
【0022】
フィルム状基材は、未延伸フィルムまたは延伸フィルムのいずれでも使用できるが、フラットケーブル用被覆材の強度を向上させる目的で延伸フィルムが好ましく用いられる。このような延伸フィルムとしては、一軸方向または二軸方向に延伸したフィルムが、特に二軸延伸フィルムが好適である。
【0023】
また、基材フィルムの表面は、必要に応じて、例えば、コロナ処理、プラズマー処理、オゾン処理、その他の前処理が施されていても良い。基材フィルムの厚さは、通常は5μm〜200μm程度であり、10μm〜100μmが好適である。厚さが5μm未満であると機械的強度が不足し、また、後記するプライマー層やヒートシール層などを形成する適性が減ずる。一方、厚さが200μm以上では可撓性が不足し、摺動性が悪化する。本発明においては、基材フィルムの厚みを上記の範囲とすることにより、フラットケーブル用被覆材に、必要とされる強度を付与することができるとともに、良好な可撓性を付与することができる。
【0024】
フィルム状基材11上に形成されるアンカーコート層12は、基材フィルム11に、後記するヒートシール層13を強固に接着させて、電子機器への使用時の摺動に耐えて、層間の剥離などを抑制して、絶縁性、耐久性を向上させるためのものである。アンカーコート層12は、後記するアンカーコート剤をフィルム状基材11上に塗布して被膜を形成することにより設けることができる。このようなアンカーコート剤としては、例えば、イソシアネート基、ブロックイソシアネート基、カルボジイミド基等の官能基を有する多官能性化合物(硬化剤)と、ポリエステル系樹脂と、ポリウレタン系樹脂とを含むものを好適に使用することができる。ポリエステル系樹脂としては、ガラス転移点が20℃〜120℃、好ましくは30℃〜100℃のポリエステル系樹脂を好適に使用することができる。
【0025】
ガラス転移点が20℃〜120℃、好ましくは30℃〜100℃のポリエステル系樹脂としては、例えば、テレフタル酸などの芳香族飽和ジカルボン酸の一種または複数と、飽和2価アルコールの一種または複数とを縮重合して生成される熱可塑性のポリエステル系樹脂が好適に使用できる。また、ポリウレタン系樹脂としては、例えば、多官能イソシアネートと、ヒドロキシール基含有化合物との、反応で生成するポリウレタン系樹脂が好適に使用できる。
【0026】
アンカーコート剤に含まれる多官能性化合物(硬化剤)としては、イソシアネート基、ブロックイソシアネート基、および/またはカルボジイミド基を有する化合物が好ましく用いられ、例えば、2、4−トリレンジイソシアネート、2、6−トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4、4’−ジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、イソフォロンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルジイソシアネートおよびヘキサメチレンジイソシアネート等の多官能イソシアネート、これらのイソシアナートのポリオール変性物、カルボジイミド変性物、これらのイソシアネートをアルコール、フェノール、ラクタム、アミン等でマスクしたブロック型イソシアネートなどが挙げられる。
【0027】
また、ポリエチレンイミン系化合物、有機チタン系化合物、イソシアネート系化合物、ウレタン系化合物、ポリブタジエン系化合物などを主成分とするアンカーコート剤を併用して用いてもよい。
【0028】
アンカーコート剤に含まれるポリエステル系樹脂とポリウレタン系樹脂との配合比は質量基準で、ポリエステル系樹脂/ポリウレタン系樹脂の比が、0.7/0.3〜0.3/0.7程度が好ましい。また、上記した多官能性化合物(硬化剤)の添加量は、ポリエステル系およびポリウレタン系樹脂の反応基に対して、1〜10倍の反応基に相当する量が好ましい。フィルム状基材上に塗布するアンカーコート剤としては、上記した各成分が固形分として2〜60質量%含まれるように、有機溶剤で希釈したものが使用される。
【0029】
アンカーコート層は、上記したアンカーコート剤の希釈液をフィルム状基材の表面に塗布して被膜を形成し、乾燥させて希釈剤を除去することにより形成することができる。アンカーコート剤の希釈液を塗布する方法としては、ロールコート、リバースロールコート、グラビアコート、リバースグラビアコート、バーコート、ロッドコート、キスコート、ナイフコート、ダイコート、コンマーコート、フローコート、スプレーコートなどの方法を採用できる。希釈剤の除去は、30℃〜70℃の温度でエージングすることにより行う。アンカーコート層12の厚さは、通常は0.05μm〜10μm程度、好ましくは0.1μm〜5μm程度である。
【0030】
ヒートシール層13は、上記したアンカーコート層12上に設けられるものであり、柔軟性に富み、かつ、アンカーコート層12と後記する導電体21とのヒートシール性を有していることが必要である。このようなヒートシール層13としては、一対のフラットケーブル被覆材の間に金属などの導電体21を挟持させる際に、導電体21をヒートシール層13上に仮固定でき、かつ、加熱ロールまたは加熱板などによる加熱加圧により軟化して溶融して、導電体21とヒートシール層とが相互に強固に熱融着するような導電体21との密着性に優れていることが必要であるとともに、フラットケーブル被覆材のヒートシール層13どうしを熱融着させた後に、ヒートシール層中に空隙を発生させずに導電体21を埋め込むことができることも必要である。
【0031】
本発明においては、ヒートシール層13が、難燃剤を主成分とするフィラー成分が70〜30質量%、および、ポリエステル系樹脂を主成分とする樹脂成分が30〜70質量%の割合で含む樹脂組成物による被膜からなる。難燃性の性能からはフィラー成分が多いほど良いが、フィラー成分が70質量%を超えると、ヒートシール層を形成加工する際に成膜することができず、また、必要な接着性能が得られない。一方、フィラー成分が30質量%未満であると、難燃性が不十分となるだけでなく、フラットケーブル被覆材の耐熱性が不十分となる。
【0032】
本発明においては、フィラー成分中に、ホスフィン酸金属塩からなる非ハロゲン系難燃剤が含まれてなり、ホスフィン酸金属塩からなる非ハロゲン系難燃剤が、樹脂組成物全体に対して5〜40質量%含まれてなるものである。難燃性の性能からは、難燃剤成分が多いほど良いが、難燃剤が多いと合成樹脂成分が少なくなって、ヒートシール層を形成加工する際に成膜することができず、また、必要な接着性能が得られない。また、難燃剤成分が少なすぎると、難燃効果が小さく着火時に燃え尽きてしまう。難燃剤の添加量としては5〜40質量%が好適である。
【0033】
本発明においては、ホスフィン酸金属塩からなる非ハロゲン系難燃剤として、下記の化学構造のものを好適に使用することができる。
【化1】

(式中、RおよびRは、それぞれ独立して、線状または分岐状のC1〜C6のアルキル基もしくはフェニル基を表し、Mは、カルシウム、アルミニウム、または亜鉛イオンを表し、mは2または3である。)
【0034】
上記した難燃剤としては、特許第3044209号公報に記載されているホスフィン酸金属塩を好適に使用することができ、アルミニウム塩、カルシウム塩、および亜鉛塩のなかでも、難燃性の観点からは、アルミニウム塩が最適である。
【0035】
また、本発明においては、上記した難燃剤と、必要に応じて難燃助剤とを組み合わせることにより、より効果を奏することを見出した。難燃助剤としては、水和金属化合物を使用することができ、単独でも、二種以上を組み合わせて使用してもよい。難燃助剤の配合量は、少ないと難燃性の向上効果が得られず、多過ぎるとヒートシール層13の形成加工性が低下する。従って、ヒートシール層13に用いられる難燃助剤の種類および組合せ、およびその配合比は適宜、適性となるように決定することが極めて重要である。
【0036】
難燃助剤として用いられる水和金属化合物としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化ジルコニウム、水酸化カルシウム、水酸化チタン、水酸化亜鉛などが挙げられるが、難燃性に優れ、コストの点でも有利な水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムが好適である。また、水和金属化合物は、単独でも複数種を組み合わせても使用することもできる。
【0037】
ヒートシール層の樹脂成分としては、導電体21とのヒートシール性、および難燃剤の混入のし易さから、ポリエステル系樹脂が主成分として含まれる。ポリエステル系樹脂は、ガラス転移点が−20℃〜30℃と比較的低く柔軟性に富むポリエステル樹脂を主成分とし、ガラス転移点が30℃〜120℃と比較的高く耐熱性に富むポリエステル樹脂を配合する構成が好適である。このように二種のポリエステル樹脂を併用することにより、柔軟でかつ耐熱性に優れるフラットケーブル被覆材が得られる。これら二種のポリエステル樹脂の配合割合は、ガラス転移点が−20℃〜30℃のポリエステル系樹脂組成物を樹脂成分の全質量に対して80〜99質量%と、ガラス転移点が30℃〜120℃のポリエステル系樹脂組成物を樹脂成分の全質量に対して1〜20質量%とを含んでなることが好ましい。また、非晶性のポリエステル系樹脂と結晶性のポリエステル系樹脂を、適宜、配合して使用しても良い。
【0038】
本発明においては、ヒートシール層の樹脂成分として、上記したリエステル系樹脂以外にも他の樹脂を含んでいてもよく、例えば、アイオノマー樹脂、酸変性ポリオレフィン系樹脂、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリビニールエーテル樹脂、シリコーン樹脂、ゴム系樹脂などを含んでいてもよい。
【0039】
また、本発明においては、平均分子量2500〜10000のポリエステル系高分子可塑剤を、樹脂成分の全質量に対して5質量%未満含んでなることが好ましい。このような可塑剤を含むことにより、ヒートシール層の導電体への密接着性や導電体のヒートシール層中への埋まり込み性等が向上する。可塑剤を5質量%以上含む場合、可塑剤の一部がヒートシール層の表面に析出(ブリードアウト)するなどして、シール不良の発生原因となる場合がある。
【0040】
上記したポリエステル系高分子可塑剤としては、例えば、アジピン酸、アゼライン酸、セバチン酸、フタル酸等のジカルボン酸類と、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、およびその他の二価または三価のアルコール類と、1塩基酸等の組み合わせからなる常温で液体のポリエステル系可塑剤が挙げられ、より好ましくは、平均分子量が2,500〜10,000程度のものを使用することができる。平均分子量が2,500未満のポリエステル系可塑剤では、密接着性等については維持できるものの、可塑剤の移行性や抽出性等に問題がある場合があり、また、フラットケーブルの長期間の耐久安定性(経時的変化)に問題がある場合がある。一方、平均分子量が10,000を超えるポリエステル系可塑剤では、可塑剤としての本来の機能が失われる場合がある。
【0041】
また、本発明においては、ヒートシール層中に、上記した多官能性化合物からなる硬化剤を添加してもよい。硬化剤を添加することにより、より一層、接着性および密着性に優れ、かつ機械的強度に優れるフラットケーブル用被覆材とすることができる。このような硬化剤は、樹脂組成物に対して5質量%未満で添加されることが好ましい。
【0042】
ヒートシール層には、本発明の効果に影響のない範囲で、さらに種々の添加剤、例えば、酸化防止剤、金属腐食防止剤、着色剤(顔料、染料)、ブロッキング防止剤、樹脂と難燃剤との間の凝集力を上昇させる各種カップリング剤、架橋剤、架橋助剤、充填剤、帯電防止剤、難燃触媒が適宜添加されていてもよい。例えば、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、炭酸マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化亜鉛等の体質顔料または白色顔料、その他の無機化合物の粉末、ガラスフリット、フッ素系樹脂粉末、ポリオレフィン系樹脂粉末、その他等を使用することができる。酸化チタンまたは酸化亜鉛等は、炭酸マグネシウム、酸化アルミニウム等のものと比較して、その粒子径が小さいことから、フラットケーブル用被覆材をロ−ル状の製品形態で在庫中でのブロッキング防止剤としての機能をも奏するという利点を有している。上記したような無機系フィラーの粒子の大きさとしては、一次粒子として、約0.01μないし15μ位である。
【0043】
ヒートシール層は、上記した各成分を含む樹脂組成物を、アンカーコート層上に塗布した被膜を乾燥させることにより形成することができる。このような樹脂組成物としては、上記した各成分と、トルエン、酢酸エチル、アルコ−ル類、メチルエチルケトン等の溶剤、希釈剤等とを混練して可溶化ないし分散化させたものを好適に使用することができる。樹脂組成物の塗布は、例えばロールコート、リバースロールコート、グラビアコート、リバースグラビアコート、バーコート、ロッドコート、キスコート、ナイフコート、ダイコート、コンマーコート、フローコート、スプレーコートなどのコ−ティング方式を採用することができる。
【0044】
ヒートシール層は、上記した樹脂組成物を塗布した後、乾燥させて被膜とすることにより形成することができる。ヒートシール層13の厚さは、15〜150μm(乾燥時)程度である。
【0045】
<フラットケーブル>
図2は、本発明によるフラットケーブルの一例の構成を示す模式的な概略図である。図3は、図2のAA断面図である。本発明のフラットケーブル1は、複数の導電体21を同一平面内で配列した導電体列を、一対のフラットケーブル被覆材10で挟持して両面から被覆したものである。本発明においては、フラットケーブル用被覆材10として、上記したフラットケーブル用被覆材を使用することができる。
【0046】
上記のような構造を有するフラットケーブルは、一対のフラットケーブル被覆材10を準備し、一方の被覆材のヒートシール層上に、複数の導電体を同一平面内で配列した導電体列を仮固定し、前記導電体列が仮固定されたヒートシール層と、他方のヒートシール層とが対向するように、被覆材どうしを重ね合わせて積層体を形成し、前記積層体を加熱することにより製造される。この加熱によりヒートシール層が熱融着し、導電体列がヒートシール層中に埋め込まれて一体化したフラットケーブルが製造される。
【0047】
ヒートシール層を熱融着する際には、加熱とともに加圧してもよい。また、加熱温度は、100〜300℃程度、好ましくは150〜250℃である。加熱時間は1〜240分間、好ましくは10〜60分間である。加熱工程は、被覆材どうしを重ね合わせて積層体としたものを一旦巻き取ってロール状とした後に、ロール状の形態で加熱してもよく、また、長尺状の積層体を所望の長さに切断して枚葉状の形態として加熱してもよい。
【実施例】
【0048】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0049】
実施例1
<アンカーコート剤の調製>
ガラス転移点40℃のポリエステル樹脂とポリオ−ル系ウレタン樹脂(固形分質量比1:1、水酸基価=10mgKOH/g)をメチルエチルケトンートルエン=1/1からなる混合溶剤に溶解させてA液を調製したートリレンジイソシアネートとヘキサメチレンジイソシアネートとをメチルエチルケトンートルエン=1/1からなる混合溶剤に溶解させてB液を調製した。次に、上記で調製したA液とB液とをフィルム状基材に塗布する直前に混合してアンカーコート剤を調製した(OH基/NCO基=1/3)。
【0050】
<ヒートシール層形成用樹脂組成物の調製>
樹脂成分として、ガラス転移点5℃のポリエステル樹脂40質量%とガラス転移点70℃のポリエステル樹脂4.5質量%とを使用し、また、難燃剤成分として、平均粒径2〜3μmに微粒子化したホスフィン酸アルミニウムパウダー15質量%とその他のフィラー成分(水酸化アルミニウム、酸化チタンとシリカ)40質量%を使用し、更に、多官能性化合物(硬化剤)としてイソシアネート系アダクト体0.5質量%を使用し、それらをメチルエチルケトンートルエン=1/1からなる混合溶剤に溶解分散させてヒートシール層形成用樹脂組成物を調製した。
【0051】
<フラットケ−ブル用被覆材の作製>
フィルム状基材として、厚さ25μmの2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを使用し、まず、その2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの表面に、上記で得られたアンカーコート剤をグラビアロ−ルコート方式により、膜厚0.5g/m2(乾燥状態)になるように塗布し、次いで、乾燥してアンカーコート層を形成した。次に、形成したアンカーコート層の上に、上記で得られたヒートシール層形成用樹脂組成物をダイコ−タ−にて、膜厚30.0g/m(乾燥状態)になるように塗布し、次いで、乾燥してヒートシール層を形成して、本発明にかかるフラットケ−ブル用被覆材を作製した。
【0052】
<フラットケ−ブルの製造>
上記のようにして得られたフラットケ−ブル用被覆材を使用し、まず、巾60cm、長さ100cmからなる2枚のフラットケ−ブル用被覆材を、そのヒートシール層の面が対向するように重ね合わせ、次いで、その層間に、巾×厚さが0.8mm×50μmである導電体を等間隔に複数本挟み込みこんで導電体列とした積層体を作製した。その積層体を、150℃に加熱した金属ロ−ルとゴムロ−ルとの間を3m/minのスピ−ドで通して加熱加圧することによりヒートシール層を熱融着させ、フラットケ−ブルを製造した。
【0053】
実施例2〜8、および比較例1〜4
ヒートシール層形成用樹脂組成物について、下記の表1および2に示す材料を表に示す数値からなる使用量(質量%)にて使用した以外は、実施例1と同様にしてフラットケ−ブル用被覆材を作製し、実施例1と同様にしてフラットケ−ブルを製造した。なお、比較例3のヒートシール層形成用樹脂組成物を用いてフラットケ−ブル用被覆材を作製しようとしたところ、ヒートシール層の成膜が困難であった。
【0054】
【表1】

【0055】
【表2】

【0056】
上記の表1および2において、Tgはガラス転移点を意味し、PESはポリエステル樹脂を意味する。高分子可塑剤としてはポリエステル系可塑剤を使用し、その他フィラーは水酸化アルミニウム、酸化チタン、シリカの合計を表し、多官能性化合物(硬化剤)としてはイソシアネート系アダクト体を使用した。
【0057】
上記の実施例1〜8、および比較例1〜4のフラットケーブル用被覆材ならびにフラットケーブルについて、下記に示す項目について試験して評価した。なお、比較例3のフラットケーブル用被覆材は、上記したようにヒートシール層の成膜が困難であったため、下記の各評価を行うことができなかった。
(1)難燃性
フラットケーブル1の難燃性をUL規格VW−1燃焼試験で評価した。合格を「◎」、不合格の場合を「×」で表わした。
【0058】
(2)導電体シール性
フラットケーブル用被覆材10のヒートシール層13の面と、厚さ100μmの銅箔とをヒートシーラーで接着後(温度170℃、圧力3kg/cm、時間3秒間)、引張試験機で剥離強度(N/巾10mm)を測定した。5N以上かつ破材を「◎」とし、5N以上かつシートシール層13の凝集剥離を「○」、5N以下を「×」とした。
【0059】
(3)耐熱性
136℃のオーブンに168hr放置し、耐熱試験前後の引張破断強伸度を測定した。耐熱試験前に比べて90%以上の引張破断強伸度を保った場合を「◎」、80%以上の引張破断強伸度を保った場合を「○」、引張破断強伸度が80%以下に低下した場合を「×」とした。
【0060】
(4)伝導体埋まり込み性
フラットケ−ブル1について、巾方向と平行にカッタ−にて切断し、その断面を光学顕微鏡にて観察し、導体回りに気泡などが存在し、導体の埋まり込みが不十分な部分があるか否かを調べて評価した。完全に埋まり込んでいる状態を「◎」、導体回りに埋まらない部分が50μm未満であるレベルを「○」、導体回りに50μm以上の埋まり込まない部分が存在している状態を「×」とした。
評価結果は、下記の表3および表4に示される通りであった。
【0061】
【表3】

【0062】
【表4】

【0063】
上記の表3からも明らかなように、実施例1ではすべての項目において良好であった。実施例2では、高分子可塑剤を添加しなかったが、ポリエステル樹脂を増量することによりすべての項目で良好となった。実施例3では、実施例2と同様可塑剤を添加せず、ポリエステル樹脂の増量もしなかったところ、シール強度は5N以上を示したものの、シートシール層13の凝集剥離であった。実施例4では、多官能性化合物(硬化剤)を添加しなかったところ、耐熱性が若干低下した。また、実施例5では、Tgの高いポリエステル樹脂を添加しないと実施例1のものと比較して耐熱性が劣っていた。実施例6では、Tgの高いポリエステル樹脂を入れ過ぎると、実施例1のものと比較して膜が硬くなり過ぎて導電体の埋まり込み性が不十分であった。また、実施例7では、実施例1と比較して可塑剤の添加量が多すぎるため可塑剤の一部が表面に析出(ブリードアウト)し、シール性が不十分であった。実施例8では、実施例1のものと比較して、硬化剤の添加量が多すぎるため膜が硬くなり、導電体の埋まり込み性が不十分であった。
【0064】
一方、比較例1では、上記の表4に示されるように、難燃剤の添加量を減らし過ぎると難燃性が不合格となった。比較例2では、難燃剤を入れ過ぎるとシール阻害を起こし、シール強度が不合格となった。比較例3では、フィラー成分であるホスフィン酸アルミニウムとその他のフィラー成分の合計含有量が70質量%を超えるため、成膜が困難であった。また、比較例4では、フィラー成分の合計含有量が30質量%未満であるため、難燃性が不十分なだけでなく、耐熱性も不十分であった。
【符号の説明】
【0065】
1 フラットケーブル
10 フラットケーブル用被覆材
11 フィルム状基材
12 アンカーコート層
13 ヒートシール層
21 導電体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルム状基材、アンカーコート層およびヒートシール層が、この順で積層されてなるフラットケーブル用被覆材であって、
前記ヒートシール層が、難燃剤を主成分とするフィラー成分70〜30質量%と、ポリエステル系樹脂を主成分とする樹脂成分30〜70質量%と、を少なくとも含んでなる樹脂組成物による被膜からなり、
前記難燃剤として、ホスフィン酸金属塩からなる非ハロゲン系難燃剤が、前記樹脂組成物全体に対して5〜40質量%含まれてなることを特徴とする、フラットケーブル用被覆材。
【請求項2】
前記ホスフィン酸金属塩が、ホスフィン酸アルミニウム塩である、請求項1に記載のフラットケーブル用被覆材。
【請求項3】
前記ポリエステル系樹脂が、ガラス転移点が−20℃〜30℃のポリエステル系樹脂組成物を樹脂成分の全質量に対して80〜99質量%と、ガラス転移点が30℃〜120℃のポリエステル系樹脂組成物を樹脂成分の全質量に対して1〜20質量%とを含んでなる、請求項1または2に記載のフラットケーブル用被覆材。
【請求項4】
前記ポリエステル系樹脂が、平均分子量2500〜10000のポリエステル系高分子可塑剤を、樹脂成分の全質量に対して5質量%未満含んでなる、請求項1〜3のいずれか一項に記載のフラットケーブル用被覆材。
【請求項5】
前記ポリエステル系樹脂が、イソシアネート基、ブロックイソシアネート基およびカルボジイミド基からなる群から選択される少なくとも1種以上の官能基を有する多官能性化合物を、樹脂成分の全質量に対して5質量%未満含んでなる、請求項1〜4のいずれか一項に記載のフラットケーブル用被覆材。
【請求項6】
前記フィルム状基材が、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリアミドフィルム、ポリフェニレンサルファイドフィルム、ポリアラミドフィルム、およびポリイミドフィルムからなる群から選択される、請求項1〜5のいずれか一項に記載のフラットケーブル用被覆材。
【請求項7】
前記アンカーコート層が、前記多官能性化合物と、ポリエステル系樹脂と、ポリウレタン系樹脂とを含んでなるアンカーコート剤による被膜からなる、請求項5または6に記載のフラットケーブル用被覆材。
【請求項8】
複数の導電体を同一平面内で配列した導電体列を、一対の被覆材で挟持したフラットケーブルであって、
前記被覆材が、請求項1〜7のいずれか一項に記載のフラットケーブル被覆材であり、前記フラットケーブル被覆材のヒートシール層どうしが対向するように、前記導電体列が一対の前記フラットケーブル被覆材で挟持されていることを特徴とする、フラットケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−43746(P2012−43746A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−186414(P2010−186414)
【出願日】平成22年8月23日(2010.8.23)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】