説明

フラットケーブル用難燃性積層ポリエステルフィルムおよびそれからなる難燃性フラットケーブル

【課題】難燃性、特にフラットケーブルに加工した後の難燃性および熱融着性に優れたフラットケーブル用難燃性積層ポリエステルフィルムおよびそれからなる難燃性フラットケーブルを提供する。
【解決手段】カルボキシホスフィン酸化合物またはカルボキシ亜ホスフィン酸化合物の少なくともいずれか1種に由来するリン系成分(i)を含む共重合ポリエステル層(A)、および該層(A)の片面に共重合ポリエステル層(B)を有する積層構造を有しており、該リン系成分(i)の含有量が層(A)のポリエステルの全繰り返し単位を基準として10mol%以上40mol%以下かつ層(B)の全共重合量以上であり、該層(B)を構成する共重合ポリエステルの共重合量が層(B)のポリエステルの全繰り返し単位を基準として1mol%以上15mol%以下であるフラットケーブル用難燃性積層ポリエステルフィルムによって得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフレキシブルフラットケーブル用難燃性積層フィルムおよびそれからなる難燃性フラットケーブルに関するものである。更に詳しくは、難燃性、特にフラットケーブルに加工した後の難燃性および熱融着性に優れたフレキシブルフラットケーブル用難燃性積層フィルムおよびそれからなる難燃性フラットケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電線の実装技術において、複数本の導電体を並列配置して両側から電気絶縁性樹脂でサンドイッチ状に被覆したフレキシブルフラットケーブルが、機器の小型化、軽量化のために広く用いられている。このようなフレキシブルフラットケーブルは例えば特許文献1に開示されており、低価格で折り曲げ性に優れるため、特に各種電子機器や自動車業界において、配線接続作業の効率化や機器の軽量化のために使用が検討されている。
【0003】
近年、フレキシブルフラットケーブルの用途は多岐にわたっているが、特に電気機器部材、自動車用途などに使用する場合には難燃性が要求されるようになってきている。フレキシブルフラットケーブルの難燃化方法としては、例えば特許文献2に開示されているように、基材上に難燃剤を含有する接着剤層を形成した2枚の接着フィルムの接着剤層側を対向させ、接着剤層間に配線パターンを有する導電体を挟み込んで密封する方法が開示されている。
【0004】
接着剤層に難燃剤を添加する場合、難燃剤の添加によって接着剤層の接着力が低下することがある。また、接着剤層と基材間の接着力を保持するために、基材上にプライマー処理が別途必要となることがあり、製造工程が複雑になることもあるため、より簡便な方法で難燃性と接着力を有するフレキシブルフラットケーブル被覆材が求められている。
【0005】
一方、ポリエステル樹脂の難燃化方法の1つとして、リン化合物をポリエステルに共重合化させる方法が検討されており、例えば特許文献3にはポリエチレンテレフタレートにカルボキシホスフィン酸を共重合する方法が開示されている。また特許文献4には、カルボキシホスフィン酸成分の中でも特定のカルボキシホスフィン酸成分を用いることにより、他のリン化合物を併用しなくても少量でポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートに高い難燃性を付与できることが開示されている。
【0006】
しかしながら、導電体をはさんでポリエステルフィルム基材同士を対向させ、接着剤を用いることなくフィルム基材同士を熱圧着させることができ、かつフラットケーブルの状態でも高い難燃性を有する、フラットケーブル被覆材に適したポリエステル系難燃性フィルムはいまだ提案されていない状況である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−77343号公報
【特許文献2】特開平5−303918号公報
【特許文献3】特公昭53−13479号公報
【特許文献4】特開2007−9111号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、かかる従来技術の課題を解消し、難燃性、特にフラットケーブルに加工した後の難燃性および熱融着性に優れたフラットケーブル用難燃性積層ポリエステルフィルムおよびそれからなる難燃性フラットケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、難燃性を付与する特定のリン系成分を含む共重合ポリエステル層A(難燃融着層)を有し、その片面に層Aより共重合量の少ない共重合ポリエステル層Bをさらに設けることにより、ポリエステル基材フィルムの層A面同士を対向させて導電体を挟みこみ熱融着させる際の層Bの変形度が大きくなり、フラットケーブル被覆材を導電体の形状に合わせて加工しやすくなる結果、今まで導電体と難燃融着層Aの間の残っていた空気層をなくすことができ、フィルムの状態では十分な難燃性が確認されながらフラットケーブルに成形した状態では十分でなかった難燃性を高めることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明の目的は、カルボキシホスフィン酸化合物またはカルボキシ亜ホスフィン酸化合物の少なくともいずれか1種に由来するリン系成分(i)を含む共重合ポリエステル層(A)、および該層(A)の片面に共重合ポリエステル層(B)を有する積層構造を有しており、該リン系成分(i)の含有量が層(A)のポリエステルの全繰り返し単位を基準として10mol%以上40mol%以下かつ層(B)の全共重合量以上であり、該層(B)を構成する共重合ポリエステルの共重合量が層(B)のポリエステルの全繰り返し単位を基準として1mol%以上15mol%以下であるフラットケーブル用難燃性積層ポリエステルフィルムによって達成される。
【0011】
また本発明のフラットケーブル用難燃性積層ポリエステルフィルムは、その好ましい態様として、層(B)を構成する共重合成分がカルボキシホスフィン酸化合物もしくはカルボキシ亜ホスフィン酸化合物の少なくともいずれか1種に由来するリン系成分(i)またはイソフタル酸成分の少なくともいずれか1種であること、該カルボキシホスフィン酸化合物が下記式(I)で表わされる化合物であること、
【化1】

(式中、Rは炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜18のアリール基、RおよびRは炭素数1〜18のアルキル基、アリール基、モノヒドロキシアルキル基または水素原子、Xは炭素数1〜18の2価の炭化水素基をそれぞれ表わし、R〜Rはそれぞれ同一でも異なっていてもよい)
該カルボキシ亜ホスフィン酸化合物が下記式(II)で表わされる化合物であること、
【化2】

(式中、Rは炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜18のアリール基、RおよびRは炭素数1〜18のアルキル基、アリール基、モノヒドロキシアルキル基または水素原子、Xは炭素数1〜18の2価の炭化水素基をそれぞれ表わし、R〜Rはそれぞれ同一でも異なっていてもよい)
層(A)および層(B)を構成するポリエステルの主たる成分がエチレンテレフタレートまたはエチレンナフタレンジカルボキシレートであること、フィルム全層における層(A)の厚み割合が5%以上80%以下であること、の少なくともいずれか一つを具備するものを包含する。
【0012】
本発明はまた、本発明のフラットケーブル用難燃性積層ポリエステルフィルムのA層同士が対向するように熱融着され、かかる対向するA層の間に導電体が挟み込まれてなる難燃性フラットケーブルに関するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明のポリエステルフィルムは、熱融着性に優れていることから、接着剤を用いることなく導電体を挟み込んで熱融着加工を行うことができ、同時にフラットケーブルに加工した後の難燃性に優れていることから、難燃性が求められるフラットケーブルの基材として好適に用いることができる。また難燃性に優れたフラットケーブルを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳しく説明する。
<層(A)>
本発明の難燃性積層ポリエステルフィルムは、カルボキシホスフィン酸化合物またはカルボキシ亜ホスフィン酸化合物の少なくともいずれか1種に由来するリン系成分(i)を含む共重合ポリエステル層(A)を有する。かかる層を有することにより、難燃性を有する熱融着層として、接着剤を用いることなくポリエステル基材層同士を熱融着させてフラットケーブルを作製することができ、かつフラットケーブルを難燃化することができる。
【0015】
(リン系成分(i))
難燃性を付与する成分として、共重合ポリエステル層(A)はカルボキシホスフィン酸化合物またはカルボキシ亜ホスフィン酸化合物の少なくともいずれか1種に由来するリン系成分(i)を含む。また、該リン系成分(i)の含有量は、層(A)のポリエステルの全繰り返し単位を基準として10mol%以上40mol%以下かつ層(B)の全共重合量以上である。
層A中に該リン系成分(i)を含むことにより、該リン系成分がポリエステルの共重合成分として取り込まれ、層Aを低融点化させつつ難燃性を付与することができる。すなわち、層Aの融点が層Bに対して相対的に低融点化することにより、熱融着層(以下、ヒートシール層と称することがある)として層A同士を熱融着させることができる。
【0016】
該カルボキシホスフィン酸化合物として、具体的に下記式(I)で表わされる化合物が挙げられる。
【化3】

(式中、Rは炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜18のアリール基、RおよびRは炭素数1〜18のアルキル基、アリール基、モノヒドロキシアルキル基または水素原子、Xは炭素数1〜18の2価の炭化水素基をそれぞれ表わし、R〜Rはそれぞれ同一でも異なっていてもよい)
【0017】
また、カルボキシ亜ホスフィン酸化合物として、具体的に下記式(II)で表わされる化合物が挙げられる。
【化4】

(式中、Rは炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜18のアリール基、RおよびRは炭素数1〜18のアルキル基、アリール基、モノヒドロキシアルキル基または水素原子、Xは炭素数1〜18の2価の炭化水素基をそれぞれ表わし、R〜Rはそれぞれ同一でも異なっていてもよい)
【0018】
難燃成分としてかかるリン系化合物を用いることにより、他のリン化合物を併用しなくても高い難燃性が発現し、しかもポリエステルが本来有する機械特性や耐屈曲性の低下が少ないという特徴を有する。一方、カルボキシホスフィン酸化合物またはカルボキシ亜ホスフィン酸化合物以外のリン化合物を用いた場合、同等の難燃性を得るためにはより多くの量を配合する必要があることから、機械特性や耐屈曲性の低下を伴う。
【0019】
式(I)で表わされるカルボキシホスフィン酸化合物としては、カルボキシメチルフェニルホスフィン酸、(2−カルボキシエチル)フェニルホスフィン酸、(2−カルボキシエチル)トルイルホスフィン酸、(2−カルボキシエチル)2,5−ジメチルフェニルホスフィン酸、(2−カルボキシエチル)シクロヘキシルホスフィン酸、(3−カルボキシプロピル)フェニルホスフィン酸、(4−カルボキシフェニル)フェニルホスフィン酸、(3−カルボキシフェニル)フェニルホスフィン酸、およびそれらの低級アルコールエステル、低級アルコールジエステルなど挙げられる。これらの中でも特に好ましい化合物として、下記式(III)で表わされる(2−カルボキシエチル)フェニルホスフィン酸、下記式(IV)で表わされる(3−カルボキシプロピル)フェニルホスフィン酸、2−カルボキシエチルメチルホスフィン酸エチレングリコールエステルが挙げられる。これらのカルボキシホスフィン酸化合物は少なくとも1種を用いることが好ましく、2種以上併用してもよい。
【0020】
【化5】

【化6】

【0021】
また、式(II)で表わされるカルボキシ亜ホスフィン酸化合物として、カルボキシメチルフェニル亜ホスフィン酸、(2−カルボキシエチル)フェニル亜ホスフィン酸、(2−カルボキシエチル)トルイル亜ホスフィン酸、(2−カルボキシエチル)2,5−ジメチルフェニル亜ホスフィン酸、(2−カルボキシエチル)シクロヘキシル亜ホスフィン酸、(3−カルボキシプロピル)フェニル亜ホスフィン酸、(4−カルボキシフェニル)フェニル亜ホスフィン酸、(3−カルボキシフェニル)フェニル亜ホスフィン酸およびそれらの低級アルコールエステル、低級アルコールジエステルなど挙げられる。
【0022】
これらリン系成分(i)の含有量は、層(A)のポリエステルの全繰り返し単位を基準として10mol%以上40mol%以下かつ層(B)の全共重合量以上である。また、かかるリン系成分(i)の含有量の下限値は、好ましくは12mol%、より好ましくは15mol%である。かかるリン系成分(i)の含有量の上限値は、好ましくは35mol%、より好ましくは30mol%、さらに好ましくは25mol%である。また、かかる含有量の範囲内であって、かつ層(B)の全共重合量を超える含有量であることが好ましく、より好ましくは層(B)の全共重合量より3mol%以上多く、さらに好ましくは層(B)の全共重合量より5mol%以上多く、特に層(B)の全共重合量より10mol%以上多いことが好ましい。
リン系成分(i)の含有量が下限値に満たない場合には十分な難燃性能が発現しない。またリン系成分(i)の含有量が上限値を超える場合、層(A)の溶融粘度が大きく低下してしまい、積層フィルムにした際に層(B)と相対的な溶融粘度差が大きくなり、層(A)の厚みを均一にするのが困難となる結果、熱融着性、難燃性の均一な難燃性積層ポリエステルフィルムが得られない。また、リン系成分(i)の含有量が層(B)の全共重合量より少ない範囲では、層(B)よりも低融点にならないため、層(A)を熱融着させることが困難となる。
【0023】
(共重合ポリエステル)
本発明で用いられる層(A)は、カルボキシホスフィン酸化合物またはカルボキシ亜ホスフィン酸化合物の少なくともいずれか1種に由来するリン系成分(i)を含む共重合ポリエステルを主たる成分として形成される。ここで「主たる」とは、層(A)の重量を基準として90重量%以上であり、好ましくは95重量%以上、さらに好ましくは99重量%以上である。
層(A)を構成する共重合ポリエステルの主たる構成成分は、エチレンテレフタレート(以下PETと略記することがある)またはエチレンナフタレンジカルボキシレート(以下PENと略記することがある)であることが好ましい。また、エチレンナフタレンジカルボキシレートはさらにエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートであることが好ましい。ここで「主たる」とは、層(A)のポリエステルの全繰り返し単位を基準として50mol%を超え、好ましくは55mol%以上、より好ましくは60mol%以上、特に好ましくは65mol%以上を意味する。
【0024】
層(A)を構成する共重合ポリエステルは、カルボキシホスフィン酸化合物またはカルボキシ亜ホスフィン酸化合物の少なくともいずれか1種に由来するリン系成分(i)を共重合成分としている。リン系成分(i)は、その一部は共重合成分としてポリエステルと結合していなくてもよい。具体的には、含有する全リン系成分(i)のうち80mol%〜100mol%がポリエステルの共重合成分として共重合化していることが好ましく、さらに好ましくは90mol%〜100mol%である。リン系成分(i)が上述の範囲内でポリエステルに共重合化されることにより、層(A)のポリエステル融点が低下し、熱融着性が発現する。
【0025】
共重合ポリエステルはリン系成分(i)以外の共重合成分をさらに有していてもよい。かかる共重合成分は、層Aのポリエステルの全繰り返し単位のモル数を基準として10mol%未満の範囲で用いることができ、好ましくは5mol%以下である。
【0026】
リン系成分(i)以外の共重合成分として、分子内に2つのエステル形成性官能基を有する化合物を用いることができ、例えば蓚酸、アジピン酸、フタル酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、イソフタル酸、テレフタル酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、フェニルインダンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、テトラリンジカルボン酸、デカリンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸等の如きジカルボン酸、p−オキシ安息香酸、p−オキシエトキシ安息香酸の如きオキシカルボン酸、或いはエチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、ビスフェノールスルホンのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、ジエチレングリコール、ポリエチレンオキシドグリコールのごときジオールを好ましく用いることができる。これらの共重合成分は、1種または2種以上用いてもよい。これらの共重合成分の中で、好ましい酸成分としては、イソフタル酸、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、p−オキシ安息香酸であり、好ましいジオール成分としては、トリメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ビスフェノールスルホンのエチレンオキサイド付加物である。これらの共重合成分は、モノマー成分として共重合化されたものでもよく、また他のポリエステルとのエステル交換反応により共重合化されたものでもよい。
【0027】
また、層(A)を構成するポリエステルの主成分の種類は、層(B)を構成するポリエステルの主成分と同じ種類であることが好ましい。かかる場合、フラットケーブルの熱融着時に層(A)の熱融着性と層(B)の変形度の両作用をより適切に制御することができ、また層(A)と層(B)との界面接着性がより高まる。
【0028】
本発明の共重合ポリエステルは、公知の方法を適用して製造することができる。例えば、ジオール成分、ジカルボン酸成分および共重合成分をエステル化反応させ、次いで得られる反応生成物を重縮合反応させてポリエステルとする方法で製造することができる。また、これらの原料モノマーの誘導体をエステル交換反応させ、次いで得られる反応生成物を重縮合反応させてポリエステルとする方法で製造してもよい。また、かかる溶融重合によって得られたポリエステルをチップ化し、加熱減圧下または窒素などの不活性気流中において固相重合することもできる。
【0029】
前記リン系成分(i)は、ポリエステル製造時の任意の時期に添加されるが、より好ましい添加時期は、エステル化反応あるいはエステル交換反応により得られた低重合体を重縮合反応させる時期である。
特にエステル交換反応を経由して重合を行う場合は、重縮合反応前にエステル交換触媒を失活させる目的で、通常トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリ−n−ブチルホスフェート、正リン酸等のリン化合物が通常添加されるが、本発明のリン系成分(i)をエステル交換反応の終了後、重縮合反応開始前に添加することにより、前記エステル交換反応抑制剤を添加しなくても同等の効果が得られることがある。なお、エステル交換触媒を失活させる目的で通常用いられるリン化合物を添加する場合、リン元素として100ppm以下のごく少量の範囲内で使用され、その量も極めて少量であって難燃性能を付与する目的で添加されるものではない。
【0030】
(その他成分)
本発明の難燃性積層ポリステルフィルムを構成する層(A)には、上記のポリエステル以外の樹脂成分が更に含まれていてもよい。例えばポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリフェニレンエーテルおよびフェノキシ樹脂が挙げられる。かかる樹脂は、層(A)の重量に対して10重量%以下の範囲内で用いることが好ましい。かかる樹脂を上限を超えて用いた場合、共重合ポリエステルが本来有する物理的特性を損なうことがある。
【0031】
<層(B)>
本発明の難燃性積層ポリエステルフィルムは、層(A)の片面に共重合ポリエステル層(B)を有する積層構造を有する。層(B)を構成する共重合ポリエステルの共重合量は、層(B)のポリエステルの全繰り返し単位を基準として1mol%以上15mol%以下である。また該共重合ポリエステルは、層(B)の重量を基準として95重量%以上100重量%以下の範囲で含有される。
【0032】
層(B)を構成する共重合ポリエステルの主たる構成成分は、エチレンテレフタレートまたはエチレンナフタレンジカルボキシレートであることが好ましい。また、エチレンナフタレンジカルボキシレートはさらにエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートであることが好ましい。ここで「主たる」とは、ポリエステルの全繰り返し単位のモル数を基準として85mol%以上、好ましくは90mol%以上、さらに好ましくは95mol%以上を意味する。
【0033】
また、かかる共重合ポリエステルの共重合量は、層(B)を構成するポリエステルの全繰り返し単位のモル数を基準として1mol%以上15mol%以下であり、好ましくは2mol%以上13mol%以下、さらに好ましくは3mol%以上12mol%以下である。共重合量が下限値に満たない場合、熱融着時の層(B)の変形度が小さく、得られたフラットケーブルの導電体と難燃融着層Aの間の空気層が残存するため、フィルムとしてはVTM−0レベルの難燃性を有していながらフラットケーブルとして十分な難燃性が発現しない。一方、共重合量が上限値を超える場合、層(A)よりも低融点化してしまうため層(A)に熱融着性が発現しない。
層(B)を構成する共重合成分として、層(A)で用いられる共重合ポリエステルの共重合成分の中から少なくとも1種用いることができる。それらの中でも、カルボキシホスフィン酸化合物もしくはカルボキシ亜ホスフィン酸化合物の少なくともいずれか1種に由来するリン系成分(i)またはイソフタル酸成分の少なくともいずれか1種であることが好ましい。
【0034】
層(B)を構成する共重合ポリエステルの含有量は、好ましくは97重量%以上、さらに好ましくは99重量%以上である。
層(B)を構成するポリエステルの主成分の種類は、層(A)を構成するポリエステルの主成分と同じ種類であることが好ましい。かかる場合、フラットケーブルの熱融着時に層(A)の熱融着性と層(B)の変形度の両作用をより適切に制御することができ、また層(A)と層(B)との界面接着性がより高まる。
また、層(B)に用いる共重合ポリエステルは、層(A)の共重合ポリエステルと同様の重縮合方法で得ることができる。
【0035】
<他添加剤>
本発明の難燃性積層ポリステルフィルムには、フィルムの取り扱い性を向上させるため、発明の効果を損なわない範囲で不活性粒子などが添加されていても良い。かかる不活性粒子は層(A)、層(B)のいずれの層に配合されてもよい。不活性粒子としては、例えば、周期律表第IIA、第IIB 、第IVA 、第IVBの元素を含有する無機粒子(例えばカオリン、アルミナ、酸化チタン、炭酸カルシウム、二酸化ケイ素など)、架橋シリコーン樹脂、架橋ポリスチレン、架橋アクリル樹脂粒子等の耐熱性の高いポリマーよりなる粒子が挙げられる。
不活性粒子を含有させる場合、不活性粒子の平均粒径は、0.001〜5μmの範囲が好ましく、層重量に対して0.01〜10重量%の範囲で含有されることが好ましく、さらに好ましくは0.05〜5重量%、特に好ましくは0.05〜3重量%である。
本発明の難燃性積層ポリステルフィルムには、さらに必要に応じて更に熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、離型剤、着色剤、帯電防止剤などの添加剤を、本発明の目的を損なわない範囲で配合することができる。これら添加剤は、いずれの層に配合されても構わない。
【0036】
<難燃性積層ポリエステルフィルム>
本発明の難燃性積層ポリエステルフィルムは、前述のポリエステル層(A)およびその片面に前記ポリエステル層(B)を有する積層構造を有する。
かかる積層ポリエステルフィルムにおいて、層(A)は主に難燃性、熱融着性を発現する機能を有し、層(B)は主にフィルムとしての耐熱性、屈曲性などの機械特性を維持すると同時に、熱融着時の変形度が大きい特徴を有する。
【0037】
難燃性積層ポリエステルフィルムは、フィルム厚みが5〜250μmであることが好ましく、より好ましくは8〜150μm、更に好ましくは10〜100μmの範囲である。
積層ポリエステルフィルムの厚み比は、フィルム全層における層(A)の厚み割合が5%以上80%以下であることが好ましい。層(A)の厚み割合は、より好ましくは8%以上70%以下、さらに好ましくは10%以上60%以下、特に好ましくは12%以上50%以下である。層(A)の厚み割合が下限値に満たない場合、熱融着性および難燃性が十分でないことがある。また、層(A)の厚み割合が上限値を超える場合、フィルムの機械特性が低下することがある。
本発明の難燃性積層ポリエステルフィルムの層構成は、上述の2層構成以外に、さらに3層以上の構成であってもよく、層(A)/層(B)/層(A)が例示される。かかる層数の上限は、特に制限されないが201層であることが好ましい。
【0038】
<塗膜層>
本発明において、難燃性積層ポリエステルフィルム表面に各種の機能を付与するため、少なくとも一方の面に塗膜層が形成されてもよい。塗膜層はいずれの面に形成してもよいが、熱融着性を有しない層(B)側の面に形成するのが好ましい。塗膜層を構成するバインダー樹脂としては、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂の各種樹脂を使用し得る。たとえば、ポリエステル、ポリイミド、ポリアミド、ポリエステルアミド、ポリ塩化ビニル、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、およびポリオレフィン、ならびにこれらの共重合体やブレンド物が挙げられる。中でもポリエステル、ポリイミド、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリウレタンが好ましく例示される。かかるバインダー樹脂は、更に架橋剤を加えて架橋されたものでも良い。塗膜層はコーティングによって形成されるのが好ましく、コーティング塗剤の溶媒として、トルエン、酢酸エチル、メチルエチルケトンなどの有機溶媒および混合物が使用され、また水を溶媒としてもよい。
【0039】
本発明の塗膜層は、構成成分として、さらにポリアルキレンオキサイドなどの界面活性剤および不活性粒子を含んでいてもよい。また、塗膜層を形成する成分として、本発明の目的を損ねない範囲で、上記成分以外にメラミン樹脂等の上述以外の樹脂、軟質重合体、フィラー、熱安定剤、耐候安定剤、老化防止剤、レベリング剤、帯電防止剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、染料、顔料、天然油、合成油、ワックス、乳剤、充填剤、硬化剤、難燃剤などを配合してもよい。
【0040】
ポリエステルフィルムの少なくとも片面に前記成分からなる塗膜を形成させる方法として、例えば延伸可能なポリエステルフィルムに塗膜形成成分を含む水溶液を塗布した後、乾燥、延伸し必要に応じて熱処理することにより積層することができる。
上記の延伸可能なポリエステルフィルムとは、未延伸ポリエステルフィルム、一軸延伸ポリエステルフィルムまたは二軸延伸ポリエステルフィルムであり、これらの中でもフィルムの押出方向(縦方向または長手方向)に一軸延伸した縦延伸ポリエステルフィルムが特に好ましい。
塗布方法としては、公知の任意の塗布方法が適用できる。例えばロールコート法、グラビアコート法、ロールブラッシュ法、スプレーコート法、エアーナイフコート法、含浸法およびカーテンコート法などを単独または組み合わせて用いることができる。
【0041】
<フィルム製造方法>
本発明の積層ポリエステルフィルムを製造する方法として、熱可塑性ポリエステルを溶融押出し、固化成形したシートを少なくとも一方向に延伸するフィルム製造方法が挙げられ、二方向に延伸した二軸配向フィルムであることが好ましい。
フィルム製膜方法は、公知の製膜方法を用いて製造することができ、例えば層(A)用に調整したリン系成分(i)を含む共重合ポリエステルを十分に乾燥させた後、融点〜(融点+70)℃の温度で押出機内で溶融する。同時に層(B)用に調整した共重合ポリエステルを十分に乾燥させた後、他の押出機に供給し、融点〜(融点+70)℃の温度で溶融する。続いて、両方の溶融樹脂をダイ内部で積層する方法、例えばマルチマニホールドダイを用いた同時積層押出法により、積層された未延伸フィルムが製造される。かかる同時積層押出法によると、一つの層を形成する樹脂の溶融物と別の層を形成する樹脂の溶融物はダイ内部で積層され、積層形態を維持した状態でダイよりシート状に成形される。
【0042】
次いで該未延伸フィルムを逐次または同時二軸延伸し、熱固定する方法で製造することができる。逐次二軸延伸により製膜する場合、未延伸フィルムを縦方向に60〜100℃で2.3〜5.5倍、より好ましくは2.5〜5.0倍の範囲で延伸し、次いでステンターにて横方向に80〜130℃で2.3〜5.0倍、より好ましくは2.5〜4.8倍の範囲で延伸する。
熱固定は、130〜260℃、より好ましくは150〜240℃の温度で緊張下又は制限収縮下で熱固定するのが好ましく、熱固定時間は1〜1000秒が好ましい。また同時二軸延伸の場合、上記の延伸温度、延伸倍率、熱固定温度等を適用することができる。また、熱固定後に弛緩処理を行ってもよい。
【0043】
<フラットケーブル>
本発明の難燃性積層ポリエステルフィルムはフレキシブルなフラットケーブル用に使用でき、以下の方法でフラットケーブルを作成することができる。
フラットケーブルは、導電体が電気絶縁性被覆材でサンドイッチ状に被覆されたフラットな形状のケーブルである。具体的には、本発明の難燃性積層ポリエステルフィルムを2枚用いて層(A)同士を対向させ、その間に複数本の導電体を並列配置して挟みこみ、その後層(A)の融点以上、層(B)の融点以下の温度範囲で、層(A)を溶融させた状態でプレスして熱融着させることにより、難燃性のフラットケーブルを作成することができる。
導電体としては、フラットケーブルに使用される通常の導電体を使用でき、例えば銅、メッキされた銅、銀などが挙げられる。導電体は箔状や平角状であり、所定の間隔をもって並列に配置される。
【0044】
本発明の難燃性積層ポリエステルフィルムを用いて得られたフラットケーブルは、熱融着性に優れており、しかも熱融着させる際に、層Bの変形度が大きいことによって、今まで導電体と難燃融着層Aの間の残っていた空気層をなくすことができ、その結果、フィルムの状態では十分な難燃性が確認されながら、フラットケーブルに成形した状態では十分でなかった難燃性を高めることができるため、難燃性が必要とされる使途に好適に使用できる。火災発生の危険性のある使途、例えば自動車の内部配線や電子機器として使用することができる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例により本発明を詳述するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、各特性値は以下の方法で測定した。また、実施例中の部および%は、特に断らない限り、それぞれ重量部および重量%を意味する。
【0046】
(1)固有粘度
ポリエステルチップの固有粘度([η]dl/g)は、35℃のo−クロロフェノール溶液で測定した。o−クロロフェノール溶媒に不溶の場合は、重量比が6:4のフェノール:テトラクロロエタン混合溶媒に溶解後、35℃の温度にて測定して求めることができる。
【0047】
(2)ポリエステル成分量
フィルムサンプルの各層について、H−NMR測定よりポリエステルの成分および共重合成分及び各成分量を特定した。
【0048】
(3)厚み割合
積層フィルムの各層厚みは、フィルムの小片をエポキシ樹脂(リファインテック(株)製の商品名「エポマウント」)中に包埋し、Reichert−Jung社製Microtome2050を用いて包埋樹脂ごと50nm厚さにスライスし、透過型電子顕微鏡(LEM−2000)により加速電圧100KVで測定して求めた。
得られた各層厚みをもとに、下記式(1)により厚み割合(%)を求めた。
(T(A)/T(T))×100 ・・・(1)
(式(1)中、T(A)は層(A)の厚み、T(T)は積層フィルム全体の厚みをそれぞれ表わす)
【0049】
(4)燃焼性
フィルムサンプルをUL−94VTM法に準拠して評価した。サンプルを20cm×5cmにカットし、23±2℃、50±5%RH中で48時間放置し、その後、試料下端をバーナーから10mm上方に離し垂直に保持した。該試料の下端を内径9.5mm、炎長19mmのブンゼンバーナーを加熱源とし、3秒間接炎した。VTM−0,VTM−1,VTM−2の評価基準に沿って難燃性を評価し、n=5の測定回数のうち、同じランクになった数の最も多いランクとした。
【0050】
(5)フラットケーブルの燃焼性
フィルムの間に幅3mmにカットした35μm厚みの銅箔を並べて配置し挟んでフラットケーブルサンプルを作製した。なお、熱融着条件は、層(A)の主成分がポリエチレンテレフタレートの場合は140℃、層(A)の主成分がポリエチレンナフタレートの場合は190℃、圧力は2.8kgf/cm、熱融着時間は2secであった。
作製したフラットケーブルサンプルをUL−94V法に準拠して評価した。サンプルを13mm×125mmにカットし、50±5%RH中で48時間放置し、その後、試料下端をバーナーから10mm上方に離し垂直に保持した。該試料の下端を内径9.5mm、炎長19mmのブンゼンバーナーを加熱源とし、10秒間接炎した。離炎後の自己消火性を評価した。
○: 離炎後10秒以内に消火
×: 離炎後10秒以上燃える
【0051】
(6)熱融着性(接着性)
2枚のフィルムサンプルの層(A)(リン系成分(i)を配合してなる層)同士を(5)の熱融着条件に従って熱融着させ、接着したものにつき、10mm幅×150mm長さの試料を引張り速度100mm/分で引き剥がし、ヒートシール接着強度を測定した。n=5の測定回数の平均値より、下記基準で判定した。
○: 引き剥がし強さ50g/mm以上
△: 引き剥がし強さ20g/mm以上50g/mm未満
×: 引き剥がし強さ20g/mm未満
【0052】
(7)耐屈曲性
フィルムの間に銅箔を挟んで作製したフラットケーブルサンプルを幅1.5cm×6cmに切り出し、1kgの荷重を加えて吊るし、試料を左右方向に90°繰り返し屈曲させ、試料の平角導体が断線するまでの屈曲回数を測定した。
○:屈曲回数2000回以上
△:屈曲回数1500回以上2000回未満
×:屈曲回数1500回未満
【0053】
(8)導電体周辺の空気層の有無
フラットケーブルの小片をエポキシ樹脂(リファインテック(株)製の商品名「エポマウント」)中に包埋し、Reichert−Jung社製Microtome2050を用いて包埋樹脂ごと50nm厚さにスライスし、透過型電子顕微鏡(LEM−2000)により加速電圧100KVで観察撮影した。
【0054】
[実施例1]
層(A)用に、テレフタル酸ジメチル100重量部、エチレングリコール60重量部を、エステル交換触媒として酢酸マンガン四水塩0.03重量部、滑剤として平均粒径0.5μmの炭酸カルシウム粒子を0.4重量%含有するように添加して、常法に従ってエステル交換反応をさせた。滑剤は層(A)の重量に対する配合量を示す。ついで、2−カルボキシエチルフェニルホスフィン酸を添加し、三酸化アンチモン0.024重量部を添加して、引き続き高温高真空下で常法にて重縮合反応を行い、固有粘度0.63dl/gのポリエステルを得た。得られたポリエステルは、層Aのポリエステルの全繰り返単位を基準として2−カルボキシエチルフェニルホスフィン酸量が12mol%であり、全てポリエステルと共重合化していた。得られたポリエステルを120℃ドライヤーで8時間乾燥後、押出機に投入し、250℃で溶融混練した。
一方、層(B)用に、共重合成分としてイソフタル酸を層Bのポリエステルの全繰り返単位を基準として8mol%共重合した固有粘度0.59dl/gの共重合ポリエチレンテレフタレートを170℃ドライヤーで3時間乾燥後、他方の押出機に投入し、溶融温度270℃で溶融した。
それぞれ溶融した状態で2層に積層し(厚み比率 層(A):層(B)=1:4)、かかる積層構造を維持した状態でダイスリットより押出した後、表面温度20℃に設定したキャスティングドラム上で冷却固化させて2つの層からなる未延伸フィルムを作成した。
【0055】
この未延伸フィルムを100℃に加熱したロール群に導き、長手方向(縦方向)に3.2倍で延伸し、25℃のロール群で冷却した。続いて、縦延伸したフィルムの両端をクリップで保持しながらテンターに導き、120℃に加熱された雰囲気中で長手方向に垂直な方向(横方向)に3.5倍で延伸した。その後テンタ−内で225℃の熱固定を行い、180℃で2%の弛緩後、均一に除冷して室温まで冷やし、50μm厚み(層(A):10μm,層(B):40μm)の二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性は表1の通りである。本実施例のフィルムは、フィルムの状態での難燃性、熱融着性に優れていた。さらに、銅箔を挟んで作製したフラットケーブルの状態で、導電体周辺に空気層が観察されず、フラットケーブルの状態でも難燃性に優れており、耐屈曲性も良好であった。
【0056】
[実施例2]
層(A)の共重合量を15mol%に、層(B)の共重合量を12mol%にそれぞれ変更した以外は実施例1と同様に重縮合、製膜を行い、厚み50μmの二軸延伸フィルムを得た。なお、層A中の2−カルボキシエチルフェニルホスフィン酸は全てポリエステルと共重合化していた。
得られたフィルムの特性は表1の通りである。本実施例のフィルムは、フィルムの状態での難燃性、熱融着性に優れていた。さらに、銅箔を挟んで作製したフラットケーブルの状態で、導電体周辺に空気層が観察されず、フラットケーブルの状態でも難燃性に優れており、耐屈曲性も良好であった。
【0057】
[実施例3]
層(B)用に、共重合成分を(2−カルボキシエチル)フェニルホスフィン酸とし、その共重合量を層Bのポリエステルの全繰り返し単位を基準として3mol%共重合した固有粘度0.74dl/gの共重合ポリエチレンテレフタレートを用い、厚み比率を層(A):層(B)=1:9とした以外は実施例1と同様にして厚み50μmの二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性は表1の通りである。本実施例のフィルムは、フィルムの状態での難燃性、熱融着性に優れていた。さらに、銅箔を挟んで作製したフラットケーブルの状態で、導電体周辺に空気層が観察されず、フラットケーブルの状態でも難燃性に優れており、耐屈曲性も良好であった。
【0058】
[実施例4]
層(A)の共重合量を15mol%に、層(B)の共重合量を5mol%にそれぞれ変更し、厚み比率を層(A):層(B)=1:4とした以外は実施例3と同様にして厚み50μmの二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性は表1の通りである。本実施例のフィルムは、フィルムの状態での難燃性、熱融着性に優れていた。さらに、銅箔を挟んで作製したフラットケーブルの状態で、導電体周辺に空気層が観察されず、フラットケーブルの状態でも難燃性に優れており、耐屈曲性も良好であった。
【0059】
[実施例5]
2−カルボキシエチルフェニルホスフィン酸の代わりに3−カルボキシプロピルフェニルホスフィン酸を用いた以外は実施例4と同様に重縮合、製膜を行い、厚み50μmの二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性は表1の通りである。本実施例のフィルムは、フィルムの状態での難燃性、熱融着性に優れていた。さらに、銅箔を挟んで作製したフラットケーブルの状態で、導電体周辺に空気層が観察されず、フラットケーブルの状態でも難燃性に優れており、耐屈曲性も良好であった。
【0060】
[実施例6]
2−カルボキシエチルフェニルホスフィン酸の代わりに2−カルボキシエチルフェニル亜ホスフィン酸を用いた以外は実施例4と同様に重縮合、製膜を行い、厚み50μmの二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性は表1の通りである。本実施例のフィルムは、フィルムの状態での難燃性、熱融着性に優れていた。さらに、銅箔を挟んで作製したフラットケーブルの状態で、導電体周辺に空気層が観察されず、フラットケーブルの状態でも難燃性に優れており、耐屈曲性も良好であった。
【0061】
[実施例7]
層(B)の共重合成分として、2−カルボキシエチルフェニルホスフィン酸の代わりに2−カルボキシエチルメチルホスフィン酸エチレングリコールエステルを用いた以外は実施例4と同様に重縮合、製膜を行い、厚み50μmの二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性は表1の通りである。本実施例のフィルムは、フィルムの状態での難燃性、熱融着性に優れていた。さらに、銅箔を挟んで作製したフラットケーブルの状態で、導電体周辺に空気層が観察されず、フラットケーブルの状態でも難燃性に優れており、耐屈曲性も良好であった。
【0062】
[実施例8]
層(A)用に、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル100重量部、エチレングリコール60重量部、エステル交換触媒として酢酸マンガン四水塩0.03重量部、滑剤として平均粒径0.5μmの炭酸カルシウム粒子を0.25重量%、平均粒径0.2μmの球状シリカ粒子を0.06重量%、および平均粒径0.1μmの球状シリカ粒子を0.1重量%を含有するように添加して、常法に従ってエステル交換反応をさせた。それぞれの滑剤は層(A)の重量に対する配合量を示す。ついで、2−カルボキシエチルフェニルホスフィン酸を添加し、三酸化アンチモン0.024重量部を添加して、引き続き高温高真空下で常法にて重縮合反応を行い、固有粘度0.60dl/gのポリエステルを得た。得られたポリエステルは、層Aのポリエステルの全繰り返単位を基準として2−カルボキシエチルフェニルホスフィン酸量が15mol%であり、全てポリエステルと共重合化していた。得られたポリエステルを120℃ドライヤーで8時間乾燥後、押出機に投入し、270℃で溶融混練した。
【0063】
一方、層(B)用に、層(A)と同じ種類の組成で、共重合量を3mol%に変更した固有粘度0.60dl/gの共重合ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを準備し、180℃ドライヤーで5時間乾燥後、他方の押出機に投入し、溶融温度300℃で溶融した。
それぞれ溶融した状態で2層に積層し(厚み比率 層(A):層(B)=1:4)、かかる積層構造を維持した状態でダイスリットより押出した後、表面温度60℃に設定したキャスティングドラム上で冷却固化させて2つの層からなる未延伸フィルムを作成した。
【0064】
この未延伸フィルムを140℃に加熱したロール群に導き、長手方向(縦方向)に3.2倍で延伸し、60℃のロール群で冷却した。続いて、縦延伸したフィルムの両端をクリップで保持しながらテンターに導き、150℃に加熱された雰囲気中で長手方向に垂直な方向(横方向)に3.5倍で延伸した。その後テンタ−内で225℃の熱固定を行い、180℃で2%の弛緩後、均一に除冷して室温まで冷やし、50μm厚み(層(A):10μm,層(B):40μm)の二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性は表1の通りである。本実施例のフィルムは、フィルムの状態での難燃性、熱融着性に優れていた。さらに、銅箔を挟んで作製したフラットケーブルの状態で、導電体周辺に空気層が観察されず、フラットケーブルの状態でも難燃性に優れており、耐屈曲性も良好であった。
【0065】
[比較例1]
層(B)にホモタイプのポリエチレンテレフタレート樹脂を用いた以外は実施例2と同様にして厚み50μmの二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性は表1の通りである。本実施例のフィルムは、フィルムの状態での難燃性、熱融着性に優れていた。一方、銅箔を挟んで作製したフラットケーブルの状態で、導電体周辺に空気層が観察され、フラットケーブルの状態では難燃性が十分ではなかった。
【0066】
[比較例2]
層(B)用のポリエステルとして、イソフタル酸を20mol%共重合した共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂を用いた以外は比較例1と同様にして厚み50μmの二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性は表1の通りである。本実施例のフィルムは、フィルムの状態での難燃性に優れていた。一方、層Aと層Bの融点が近くなるため、フラットケーブル作成時、測定方法の熱融着温度では層Bも溶融してしまい、ヒートシール加工を行うことができなかった。そこで層Bが溶融しない範囲で温度条件を変更したものの、層Aにヒートシール性を発現させるのに十分な温度をかけることができず熱融着が十分でなかった。
【0067】
[比較例3]
層(B)にホモタイプのポリエチレンナフタレート樹脂を用いた以外は実施例8と同様にし、厚み50μmの二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性は表1の通りである。本実施例のフィルムは、フィルムの状態での難燃性、熱融着性に優れていた。一方、銅箔を挟んで作製したフラットケーブルの状態で、導電体周辺に空気層が観察され、フラットケーブルの状態では難燃性が十分ではなかった。
【0068】
[比較例4]
層(B)用のポリエステルとして、イソフタル酸を20mol%共重合した共重合ポリエチレンナフタレート樹脂を用いた以外は比較例1と同様にして厚み50μmの二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性は表1の通りである。本実施例のフィルムは、フィルムの状態での難燃性に優れていた。一方、層Aと層Bの融点が近くなるため、フラットケーブル作成時、測定方法の熱融着温度では層Bも溶融してしまい、ヒートシール加工を行うことができなかった。そこで層Bが溶融しない範囲で温度条件を変更したものの、層Aにヒートシール性を発現させるのに十分な温度をかけることができず熱融着が十分でなかった。
【0069】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明のポリエステルフィルムは、熱融着性に優れていることから、接着剤を用いることなく導電体を挟み込んで熱融着加工を行うことができ、同時にフラットケーブルに加工した後の難燃性に優れていることから、難燃性が求められるフラットケーブルの基材として好適に用いることができ、また難燃性に優れたフラットケーブルを提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシホスフィン酸化合物またはカルボキシ亜ホスフィン酸化合物の少なくともいずれか1種に由来するリン系成分(i)を含む共重合ポリエステル層(A)、および該層(A)の片面に共重合ポリエステル層(B)を有する積層構造を有しており、該リン系成分(i)の含有量が層(A)のポリエステルの全繰り返し単位を基準として10mol%以上40mol%以下かつ層(B)の全共重合量以上であり、該層(B)を構成する共重合ポリエステルの共重合量が層(B)のポリエステルの全繰り返し単位を基準として1mol%以上15mol%以下であることを特徴とするフラットケーブル用難燃性積層ポリエステルフィルム。
【請求項2】
層(B)を構成する共重合成分がカルボキシホスフィン酸化合物もしくはカルボキシ亜ホスフィン酸化合物の少なくともいずれか1種に由来するリン系成分(i)またはイソフタル酸成分の少なくともいずれか1種である請求項1に記載のフラットケーブル用難燃性積層ポリエステルフィルム。
【請求項3】
該カルボキシホスフィン酸化合物が下記式(I)で表わされる化合物である請求項1または2に記載のフラットケーブル用難燃性積層ポリエステルフィルム。
【化1】

(式中、Rは炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜18のアリール基、RおよびRは炭素数1〜18のアルキル基、アリール基、モノヒドロキシアルキル基または水素原子、Xは炭素数1〜18の2価の炭化水素基をそれぞれ表わし、R〜Rはそれぞれ同一でも異なっていてもよい)
【請求項4】
該カルボキシ亜ホスフィン酸化合物が下記式(II)で表わされる化合物である請求項1または2に記載のフラットケーブル用難燃性積層ポリエステルフィルム。
【化2】

(式中、Rは炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜18のアリール基、RおよびRは炭素数1〜18のアルキル基、アリール基、モノヒドロキシアルキル基または水素原子、Xは炭素数1〜18の2価の炭化水素基をそれぞれ表わし、R〜Rはそれぞれ同一でも異なっていてもよい)
【請求項5】
層(A)および層(B)を構成するポリエステルの主たる成分がエチレンテレフタレートまたはエチレンナフタレンジカルボキシレートである請求項1〜4のいずれかに記載のフラットケーブル用難燃性積層ポリエステルフィルム。
【請求項6】
フィルム全層における層(A)の厚み割合が5%以上80%以下である請求項1〜5のいずれかに記載のフラットケーブル用難燃性積層ポリエステルフィルム。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のフラットケーブル用難燃性積層ポリエステルフィルムのA層同士が対向するように熱融着され、かかる対向するA層の間に導電体が挟み込まれてなる難燃性フラットケーブル。

【公開番号】特開2011−175923(P2011−175923A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−40320(P2010−40320)
【出願日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(301020226)帝人デュポンフィルム株式会社 (517)
【Fターム(参考)】