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フラビンアデニンジヌクレオチドまたはその塩を有効成分として含有する角膜上皮細胞死の抑制剤
説明

フラビンアデニンジヌクレオチドまたはその塩を有効成分として含有する角膜上皮細胞死の抑制剤

【課題】紫外線照射によって誘発される角膜上皮細胞死を抑制する薬剤を探索すること。
【解決手段】フラビンアデニンジヌクレオチドまたはその塩は、紫外線照射によって誘発される角膜上皮細胞の生細胞数の低下を顕著に抑制することから、紫外線照射によって誘発される角膜上皮細胞死の抑制剤となりうる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD:Flavin Adenine Dinucleotide)またはその塩(以下、これらを総称して「FAD等」ともいう)を有効成分として含有する角膜上皮細胞死の抑制剤であって、該角膜上皮細胞死が紫外線照射によって誘発される、抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
角膜は外界と直接接している組織であり、常時、種々のストレスに曝露されている。外的ストレスの一種である紫外線には、紫外線A波(波長:320nm以上400nm未満)、紫外線B波(波長:290nm以上320nm未満)および紫外線C波(波長:200nm以上290nm未満)の3種が知られている。日本眼科紀要, 57, 734−738(2006)(非特許文献1)には、紫外線B波(以下、「UV−B」ともいう)および紫外線C波(以下、「UV−C」ともいう)は角膜上皮で吸収されること、および、UV−Cはオゾン層において吸収されるので問題とはならない一方、臨床的に問題になるのはUV−Bであることが記載されている。
【0003】
また、Exp. Eye Res., 90(2), 216−22(2010)(非特許文献2)には、UV−Bによって角膜上皮細胞のアポトーシス(細胞死)が誘発されることが開示されており、実際、前記非特許文献1には、UV−Bが角膜上皮損傷、角膜浮腫・混濁などを導くことが開示されている。
【0004】
一方、FADは細胞の酸化還元に直接関与する補酵素型ビタミンBであり、角膜の酵素呼吸代謝を促進することが知られている。さらに、フラビタン(登録商標)点眼液0.05% 添付文書(非特許文献3)には、FADの二ナトリウム塩はビタミンB欠乏または代謝障害が関与すると推定される角膜炎に対して有用であることが記載されている。
【0005】
しかしながら、FADが紫外線によって誘発される角膜上皮細胞死に及ぼす影響については全く明らかとなっておらず、むしろ、国際公開第99/43347号(特許文献1)には、FADの二ナトリウム塩を含有するフラビタン(登録商標)点眼液が角膜上皮障害を誘発する眼科用剤として例示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第99/43347号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】日本眼科紀要, 57, 734−738(2006)
【非特許文献2】Exp. Eye Res., 90(2), 216−22(2010)
【非特許文献3】フラビタン(登録商標)点眼液0.05% 添付文書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上のように、紫外線照射によって誘発される角膜上皮細胞死を抑制する薬剤を探索することは興味深い課題である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、紫外線照射によって誘発される角膜上皮細胞死を抑制する薬物を探索するため鋭意研究を行ったところ、フラビンアデニンジヌクレオチド二ナトリウム塩(以下、「本化合物」ともいう)が顕著な細胞死抑制効果を有することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、フラビンアデニンジヌクレオチドまたはその塩(FAD等)を有効成分として含有する角膜上皮細胞死の抑制剤であって、該角膜上皮細胞死が紫外線照射によって誘発される、抑制剤(以下、「本剤」ともいう)である。
【0011】
また、本発明の他の態様は、FAD等を有効成分として含有する角膜上皮細胞死の抑制剤であって、該角膜上皮細胞死が紫外線B波照射によって誘発される、抑制剤である。
【0012】
また、本発明の他の態様は、FAD等の濃度が0.01〜1%(w/v)である、本剤である。
【0013】
また、本発明の他の態様は、FAD等の濃度が0.05%(w/v)である、本剤である。
【0014】
また、本発明の他の態様は、投与形態が点眼投与である、本剤である。
また、本発明の他の態様は、剤形が点眼剤である、本剤である。
【発明の効果】
【0015】
後述するように、本化合物を含むFAD等は、紫外線照射によって誘発される角膜上皮細胞の生細胞数の低下を顕著に抑制することから、紫外線照射によって誘発される角膜上皮細胞死の抑制剤となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】UV−B照射前に角膜上皮細胞を本化合物で処置した場合の生存率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
フラビンアデニンジヌクレオチドは、下記式(1)で示される化合物である。
【0018】
【化1】

【0019】
フラビンアデニンジヌクレオチドの塩としては、医薬として許容される塩であれば特に制限はなく、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸などの無機酸との塩、酢酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、クエン酸、酒石酸、アジピン酸、グルコン酸、グルコヘプト酸、グルクロン酸、テレフタル酸、メタンスルホン酸、乳酸、馬尿酸、1,2−エタンジスルホン酸、イセチオン酸、ラクトビオン酸、オレイン酸、パモ酸、ポリガラクツロン酸、ステアリン酸、タンニン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、硫酸ラウリルエステル、硫酸メチル、ナフタレンスルホン酸、スルホサリチル酸などの有機酸との塩;臭化メチル、ヨウ化メチルなどとの四級アンモニウム塩;臭素イオン、塩素イオン、ヨウ素イオンなどのハロゲンイオンとの塩;リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属との塩;カルシウム、マグネシウムなどのアルカリ土類金属との塩;鉄、亜鉛などとの金属塩;アンモニアとの塩;トリエチレンジアミン、2−アミノエタノール、2,2−イミノビス(エタノール)、1−デオキシ−1−(メチルアミノ)−2−D−ソルビトール、2−アミノ−2−(ヒドロキシメチル)−1,3−プロパンジオール、プロカイン、N,N−ビス(フェニルメチル)−1,2−エタンジアミンなどの有機アミンとの塩などが挙げられる。
【0020】
フラビンアデニンジヌクレオチドの塩としてはナトリウム塩が好ましく、特に、下記式(2)で示されるフラビンアデニンジヌクレオチド二ナトリウム塩が好ましい。
【0021】
【化2】

【0022】
また、フラビンアデニンジヌクレオチドまたはその塩(FAD等)は、水和物または溶媒和物の形態をとっていてもよい。
【0023】
フラビンアデニンジヌクレオチドに幾何異性体または光学異性体が存在する場合は、当該異性体またはその塩も本発明の範囲に含まれる。また、フラビンアデニンジヌクレオチドにプロトン互変異性体が存在する場合には、当該互変異性体またはその塩も本発明の範囲に含まれる。
【0024】
フラビンアデニンジヌクレオチドまたはその塩(水和物または溶媒和物の形態をとる場合を含む)に、結晶多形および結晶多形群(結晶多形システム)が存在する場合には、それらの結晶多形体および結晶多形群(結晶多形システム)も本発明の範囲に含まれる。ここで、結晶多形群(結晶多形システム)とは、それら結晶の製造、晶出、保存などの条件および状態(なお、本状態には製剤化した状態も含む)により、結晶形が変化する場合の各段階における個々の結晶形およびその過程全体を意味する。
【0025】
フラビンアデニンジヌクレオチドまたはその塩は有機合成化学の分野における通常の方法に従って製造できる。また、Sigma社などにより市販されているものを用いることもできる。
【0026】
本発明おいて、「紫外線照射によって誘発される角膜上皮細胞死の抑制」とは、紫外線照射によって誘発される角膜上皮細胞の生細胞数の低下を抑制することを意味するのみならず、該生細胞数の低下(すなわち、角膜上皮細胞死)を伴う角膜上皮損傷、角膜浮腫・混濁などを予防または治療することをも意味する。
【0027】
本発明において、「紫外線」とは、紫外線A波(波長:320nm以上400nm未満)、紫外線B波(波長:290nm以上320nm未満)および紫外線C波(波長:200nm以上290nm未満)の3種を意味する。背景技術の項で説明したように、角膜上皮細胞死を誘発するものとして臨床的に問題になるのは「紫外線B波(UV−B)」であることが知られている。
【0028】
本剤は、FAD等に、他の有効成分および医薬として許容される添加剤を混合し、汎用されている技術を用いて配合眼科用剤として製剤化することもできるし、また、FAD等に、医薬として許容される添加剤を加え、汎用されている技術を用いて単独眼科用剤として製剤化することもできる。なお、我が国では、0.05%(w/v)の濃度の本化合物を有効成分として含有する「フラビタン(登録商標)点眼液0.05%」などの点眼液が市販されている。
【0029】
本発明において、本剤は眼局所に投与される。本剤の投与形態としては、例えば、点眼投与(眼軟膏の点入も含むものとする)、結膜下投与、結膜嚢内投与、テノン嚢下投与などが挙げられるが、点眼投与が特に好ましい。
【0030】
本剤の剤形は、眼局所投与に用いられるものであれば特に限定はされないが、例えば、点眼剤、眼軟膏、注射剤、貼布剤、ゲル、挿入剤などが挙げられ、中でも点眼剤が好ましい。なお、これらは当該分野で汎用されている通常の技術を用いて調製することができる。さらに、本治療剤は、これらの製剤の他に眼内インプラント用製剤やマイクロスフェアーなどのDDS(ドラッグデリバリーシステム)化された製剤にすることもできる。
【0031】
点眼剤は、塩化ナトリウム、塩化カリウム、濃グリセリンなどの等張化剤;リン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、イプシロン−アミノカプロン酸などの緩衝化剤;ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート、ステアリン酸ポリオキシル40、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油などの界面活性剤;クエン酸ナトリウム、エデト酸ナトリウムなどの安定化剤;ベンザルコニウム塩化物、パラベンなどの防腐剤などから必要に応じて選択して用い、調製することができ、pHは眼科製剤に許容される範囲内にあればよいが、通常4〜8の範囲内が好ましい。
【0032】
眼軟膏は、白色ワセリン、流動パラフィンなどの汎用される基剤を用い、調製することができる。
【0033】
注射剤は、塩化ナトリウムなどの等張化剤;リン酸ナトリウムなどの緩衝化剤;ポリオキシエチレンソルビタンモノオレートなどの界面活性剤;メチルセルロースなどの増粘剤などから必要に応じて選択して用い、調製することができる。
【0034】
挿入剤は、生体分解性ポリマー、例えばヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシビニルポリマー、ポリアクリル酸などの生体分解性ポリマーを本化合物とともに粉砕混合し、この粉末を圧縮成型することにより、調製することができ、必要に応じて、賦形剤、結合剤、安定化剤、pH調整剤などを用いることができる。
【0035】
眼内インプラント用製剤は、生体分解性ポリマー、例えば、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸・グリコール酸共重合体、ヒドロキシプロピルセルロースなどの生体分解性ポリマーを用い、調製することができる。
【0036】
本剤の用量は、剤型、投与すべき患者の症状の軽重、年齢、体重、医師の判断などに応じて適宜変えることができるが、例えば、点眼剤を選択した場合には、0.005〜5%(w/v)、好ましくは0.01〜1%(w/v)、より好ましくは0.02〜0.5%(w/v)、さらに好ましくは0.05%(w/v)の濃度のFAD等を含有する本剤を1回に1〜2滴点眼する。
【0037】
なお、上述のFAD等の濃度は、フラビンアデニンジヌクレオチド(フリー体)の濃度でもありうるし、フラビンアデニンジヌクレオチドの塩の濃度でもありうる。
【0038】
本剤の用法は、剤型、投与すべき患者の症状の軽重、年齢、体重、医師の判断などに応じて適宜変えることができるが、例えば、剤形として点眼剤を選択した場合には、1日1〜10回、好ましくは1日2〜8回、より好ましくは1日3〜6回に分けて眼局所に投与することができる。
【0039】
以下に、薬理試験および製剤例の結果を示すが、これらの例は本発明をよりよく理解するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0040】
[薬理試験]
紫外線(UV−B)照射前に角膜上皮細胞をFADで処置した場合に、紫外線照射による生細胞数の低下が抑制されるか否かを評価した。
【0041】
(試験方法)
SV40不死化ヒト角膜上皮細胞(HCE−T:理化学研究所、バイオリソースセンター、Cell No.:RCB2280)を96ウェルプレートに播種(1×10個/ウェル)し、10%FBS含有DMEM/F−12培地で1日培養した。翌日、前記10%FBS含有DMEM/F−12培地を0.0125%(w/v)もしくは0.05%(w/v)フラビンアデニンジヌクレオチド二ナトリウム塩含有PBS、0.5%(w/v)コンドロイチン硫酸エステルナトリウム含有PBS、またはPBSに交換した後、37℃で60分間培養した(以下、それぞれ、「0.0125% FAD群」、「0.05% FAD群」、「0.5% CS群」または「基剤群」ともいう)。その後、角膜上皮細胞にUV−B照射(80mJ/cm)を約1分間行った。各群の培地を再度10%FBS含有DMEM/F−12培地に交換してから、37℃で24時間培養した後、CellTiter96(登録商標) AQueous One Solution Cell Proliferation Assay(Promega社製、カタログ番号:G3580)を用いて生細胞数を測定し、下記式1に従って、生存率を算出した。なお、本試験で用いたフラビンアデニンジヌクレオチド二ナトリウム塩およびコンドロイチン硫酸エステルナトリウムは、それぞれ協和発酵バイオ株式会社および株式会社マルハニチロ食品から購入した。
【0042】
[式1]
生存率(%)=(各群の生細胞数/UV−B非照射群の生細胞数)×100
(結果)
試験結果を図1に示す。なお、図1中、値は平均値±標準誤差を示す(N=3)。
【0043】
(考察)
図1から明らかなように、UV−B照射前に角膜上皮細胞を本化合物で前処置しておいた場合、濃度依存的な角膜上皮細胞死の抑制作用が確認された。一方で、紫外線を浴びた角膜表面を保護することが知られているコンドロイチン硫酸エステルナトリウム(バイシン(登録商標)UV添付文書参照)で処置した群では、同作用は確認されなかった。すなわち、FADは紫外線照射によって誘発される角膜上皮細胞死を抑制することが示された。
【0044】
[製剤例]
製剤例を挙げて本発明の薬剤をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの製剤例にのみ限定されるものではない。
【0045】
(処方例1)
点眼剤(FAD濃度:0.05%(w/v)) 100ml中
フラビンアデニンジヌクレオチド二ナトリウム塩 0.05g
塩化ナトリウム 0.9g
リン酸水素ナトリウム水和物 適量
滅菌精製水 適量
滅菌精製水にフラビンアデニンジヌクレオチド二ナトリウム塩およびそれ以外の上記成分を加え、これらを十分に混合して点眼剤を調製する。フラビンアデニンジヌクレオチド二ナトリウム塩の添加量を変えることにより、FAD濃度が0.005%(w/v)、0.01%(w/v)または0.1%(w/v)である点眼剤を調製できる。
【0046】
(処方例2)
眼軟膏(FAD濃度:0.05%(w/w)) 100g中
フラビンアデニンジヌクレオチド二ナトリウム塩 0.05g
流動パラフィン 10mg
白色ワセリン 適量
均一に溶融した白色ワセリンおよび流動パラフィンにフラビンアデニンジヌクレオチド二ナトリウム塩を加え、これらを十分に混合して後に徐々に冷却することで眼軟膏を調製する。フラビンアデニンジヌクレオチド二ナトリウム塩の添加量を変えることにより、FAD濃度が0.005%(w/w)、0.01%(w/w)または0.1%(w/w)である眼軟膏を調製できる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
フラビンアデニンジヌクレオチドまたはその塩は、紫外線照射によって誘発される角膜上皮細胞の生細胞数の低下を顕著に抑制することから、紫外線照射によって誘発される角膜上皮細胞死の抑制剤となることが期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フラビンアデニンジヌクレオチドまたはその塩を有効成分として含有する角膜上皮細胞死の抑制剤であって、該角膜上皮細胞死が紫外線照射によって誘発される、抑制剤。
【請求項2】
紫外線が紫外線B波である、請求項1に記載の抑制剤。
【請求項3】
フラビンアデニンジヌクレオチドまたはその塩の濃度が0.01〜1%(w/v)である、請求項1または2に記載の抑制剤。
【請求項4】
フラビンアデニンジヌクレオチドまたはその塩の濃度が0.05%(w/v)である、請求項1または2に記載の抑制剤。
【請求項5】
投与形態が点眼投与である、請求項1または2に記載の抑制剤。
【請求項6】
剤形が点眼剤である、請求項5に記載の抑制剤。



【図1】
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【公開番号】特開2013−82696(P2013−82696A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−212575(P2012−212575)
【出願日】平成24年9月26日(2012.9.26)
【出願人】(000177634)参天製薬株式会社 (177)
【Fターム(参考)】