説明

フラーレンを規則的に配列させて含有する高分子膜

【課題】 極めて凝集しやすい性質を有するフラーレンを位置選択的に局在させた高分子膜を提供する。
【解決手段】 親水性ポリマー成分及び疎水性ポリマー成分が共有結合によって結合した、分子量分布(Mw/Mn)が1.3以下であるブロック共重合体とフラーレンとから成る両親媒性高分子の高分子膜であって、該高分子膜がその膜中に一定方向に配向した該親水性ポリマー成分から成るシリンダーを有し、該フラーレンが該シリンダー部分の周辺に局在した、フラーレンを規則的に配列させて含有する高分子膜である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、フラーレンを規則的に配列させて含有する高分子膜に関し、より詳細には、両親媒性ブロック共重合体から成る高分子膜のシリンダー部分の周辺にフラーレンを規則的に配列させて含有する高分子膜に関する。
【背景技術】
【0002】
フラーレンは極めて疎水的で凝集しやすい性質を持つため、これを薄膜中で自由に配列させることは困難であった。フラーレンに高分子を導入した系やブロック共重合体の側鎖に導入した系などが報告されているが、いずれも規則的な構造体を得るには至っていないのが現状である(非特許文献1)。また高分子へのフラーレンの導入反応はその大半が、高分子を重合・精製後、改めてフラーレンの導入反応を行うという二段階の工程を経るものである。
一方、原子移動ラジカル重合法により作成した高分子を、再度重合条件と溶媒は異なるもののほぼ同じ条件下で処理することにより、フラーレンをラジカルトラップ剤として重合末端に導入した例が知られており(非特許文献2)、その高分子中にはフラーレンが凝集した塊がランダムに分散する。
また、本発明者らは既に、ナノメートル領域での相分離を示す両親媒性ブロック共重合体から成る高分子薄膜を開発した(特許文献1)。この両親媒性高分子を成膜して得られる高分子膜は高い高配向型ナノシリンダー構造を有するが、本発明者らは既に、プロトンや金属アニオンをこのシリンダー部分に局在させた異方性イオン伝導性高分子膜を開発している(特許文献2)。
【0003】
【特許文献1】特開2004-124088
【特許文献2】特開2006-273890
【非特許文献1】J. Yang, L. Li, C. Wang Macromolecules, 36, 6060-6065 (2003)
【非特許文献2】P. Ravi, S. Dai, C. H. Tan, K. C. Tam, Macromolecules, 38, 933 (2005).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
高分子の末端や側鎖にフラーレンを導入したものでも凝集構造のコントロールやミクロ相分離構造の誘起は可能である。しかしこれに規則性を持たせることは通常の高分子では非常に困難である。
本発明は、極めて凝集しやすい性質を有するフラーレンを位置選択的に局在させた高分子膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、両親媒性ブロック共重合体(特許文献1)が高信頼性のナノシリンダー構造を与えることから、これを躯体として利用することでフラーレンのような薄膜内に位置選択的に配列することが困難な分子または超分子を配列できるのではないかと考えた。
この両親媒性ブロック共重合体は、側鎖に導入した液晶ユニットの配向により、生ずるミクロ相分離構造に高い配向性を付与できる。そこでこのブロック共重合体の末端にフラーレンを導入して成膜したところ、液晶の配向に従ってドメイン選択的にフラーレンが規則配列した高分子膜を得た。
【発明の効果】
【0006】
高配向性のシリンダー型ミクロ相分離構造を構成する両親媒性ブロック共重合体の末端にフラーレンを一分子導入することにより、相分離構造内で、フラーレンを凝集させることなくドメイン選択的に配列させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
両親媒性ブロック共重合体は、原子移動ラジカル重合(ATRP)法によりPEOm-BMPを開始剤として液晶性メタクリル酸エステルモノマー(MA(Az))を重合させて合成することができる。得られた両親媒性ブロック共重合体(PEOm-b-PMA(Az)n)は、薄膜中でナノメートルサイズの高配向性シリンダー型ミクロ相分離構造を与える(特許文献1)。
本発明においては、この重合反応中にラジカルトラップ剤としてフラーレンを添加することで任意の重合度で反応を停止させ、同時にフラーレン一分子を高分子末端に位置選択的に導入した(図1)。生成する重合体は薄膜中で同様の高配向性シリンダー型ミクロ相分離構造を与え、ドメイン選択的にフラーレンを規則配列させることができる。
【0008】
本発明の高分子膜の両親媒性ブロック共重合体を合成するための液晶性メタクリル酸エステルモノマー(MA(Az))は下式で表される。
【化2】

【0009】
は水素原子又はアルキル基を表す。アルキル基としては、炭素数が1〜3のアルキル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
lは4〜30、好ましくは11〜20の整数を表す。
Cは液晶性メソゲン鎖を表し、好ましくは下式で表される。
−X−(R−Y)m−R
式中、X及びYは、それぞれ独立に、2価の芳香族基又は複素環基を表し、例えば、1,4−フェニレン、1,4−シクロヘキシレン、1,4−シクロヘキセニレン、ナフタレン−2,6−ジイル、デカヒドロナフタレン−2,6−ジイル、1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン−2,6−ジイル、1,4−ビシクロ[2.2.2]オクチレン、1,3−ジオキサン−2,5−ジイル、ピリジン−2,5−ジイル、ピラジン−2,5−ジイル、ピリダジン−3,6−ジイル、ピリミジン−2,5−ジイルであってもよい。これらの基は置換基を有していてもよい。
【0010】
は、単結合、−CHCH−、−CHO−、−OCH−、−C(=O)O−、−OC(=O)−、−C≡C−、−CH=CH−、−CF=CF−、−(CH−、−CHCHCHO−、−OCHCHCH−、−CH=CH−CHCH−、−CHCH−CH=CH−、−N=N−、−CH=CH−COO−若しくは−OCO−CH=CH−、又は−CH=CH−CO−若しくは−CO−CH=CH−を表し、好ましくは、−CH=CH−、−N=N−、又は−CH=CH−CO−若しくは−CO−CH=CH−を表す。
mは1〜4の整数、好ましくは1を表す。
は水素原子、ハロゲン、アルキル基、アルコキシ基、シアノ基、メルカプト基、ニトロ基又はアミノ基を表し、好ましくは、アルキル基又はアルコキシル基を表す。このアルキル基とアルコキシル基の炭素数は好ましくは1〜10であり、これらの基は分枝鎖を有するものであってもよい。
【0011】
本発明の両親媒性ブロック共重合体は、上記液晶性メタクリル酸エステルモノマーをラジカル重合させる際に、フラーレンをラジカルトラップ剤として導入することによって得ることができる。反応例を図1に示す。
この重合反応は、塩化銅(I)または臭化銅(I)と1,1,4,7,10,10-ヘキサメチレンテトラミンから生ずる錯体を触媒とした原子移動ラジカル重合法による。生じた銅錯体は開始剤(PEOm-BMP)の末端ハロゲンの均等開裂により生じた炭素ラジカルと錯体を形成する。錯形成反応は平衡反応であることから、反応系中のラジカル濃度は低濃度で一定となる。この錯体を形成していないフリーのラジカルがメタクリル酸エステルモノマーに付加することで、ラジカルがメタクリル酸末端に移動し、再び銅錯体と錯体を形成して反応系中のラジカル濃度を一定に保つ。このように系中のラジカル濃度を錯体形成の平衡反応によって制御しつつ、この過程を繰り返すことにより重合がリビング性を保って進行する。
この重合反応中にラジカルトラップ剤であるフラーレン類を投入すると、メタクリル酸末端のラジカルをトラップして付加し、安定なフラーレン類のラジカル種を生じ、続いて近傍に存在するハロゲンラジカルと反応して反応が停止する。
そのため反応系に投入するフラーレンの時期によって、この重合体の分子量を所望の分子量とするように制御することができる。
また、図1に示すように、フラーレンは重合体の末端とハロゲン(Br)との間に結合して重合物に取り込まれると考えられる(非特許文献2)。
反応液に導入するフラーレンの量は、開始剤に対して、1〜10当量、好ましくは1.5〜2.5当量である。
本発明で用いるフラーレンとは、C20、C36、C60、C70、C80、C84、C120、ツェッペリンなど高次フラーレンを含むフラーレン類をいう。この中で分子全体に渡って完全な対称性を有するため、反応点が均等に存在するC60が好ましい。
【0012】
この反応の結果、下式の両親媒性ブロック共重合体が得られる。
【化1】

式中、C、l及びRは上記の定義と同様である。
【0013】
Aは親水性高分子鎖を表し、例えば、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(ブチレンオキシド)、ポリ(メチレンエーテル)、ポリ(プロピレンオキシド)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸)、ポリ(アクリルアミド)、オリゴ(エチレンオキシド)やクラウンエーテルやクリプタンド又は糖鎖を側鎖に有するポリ(メタクリレート)又はポリ(アクリレート)等、好ましくはポリ(エチレンオキシド)ポリ(メチレンエーテル)等が挙げられる。これらの中でAは、一般式−COO(CHCHO)(式中、bは5〜500の整数を表す。Rはメチル基などのアルキル基を表す。)で表されるポリ(エチレンオキシド)鎖が好ましい。
Bはハロゲン原子、好ましくは、塩素原子又は臭素原子を表す。
Fはフラーレンを表す。
aは5〜500の整数を表す。
液晶性メソゲン鎖は、疎水性高分子鎖として機能し、親水性高分子鎖(A)と結合することにより、ブロック共重合体を形成する。
ブロック共重合体の分子量は、好ましくは5000〜100000、より好ましくは10000〜50000である。
なお、液晶性メソゲン鎖のRの中でビニル基を有するものは反応性に優れ、紫外線照射、電子線照射等によるビニル基間の二量化反応等により分子間で架橋し、相分離構造を固定化することができる。
共重合体中の親水性高分子鎖(A)の体積分率は10〜90%であることが好ましく、10〜50%であることがより好ましい。
【0014】
このようなブロック共重合体を溶媒に溶解させ基板上に膜を作製すると、親水性高分子鎖と疎水性高分子鎖間の斥力的相互作用に基づいてミクロ相分離構造が形成される。
このミクロ相分離構造膜は、親水性シリンダーが記膜の表面に対して略垂直方向に配向した六方最密充填のシリンダーアレイ型相分離構造となる。このシリンダーアレイ型分離構造膜においては、親水性高分子鎖成分がシリンダー部分となり、その他の部分は疎水性高分子鎖からなる。従って、親水性高分子鎖の体積分率を変えることにより、シリンダー部分の大きさや間隔を変更することが可能である。すなわち、シリンダー部分の大きさを小さくしたり、間隔を広くしたい場合には、親水性高分子鎖成分(A)の体積分率を低くし、シリンダー部分の大きさを大きくしたり、間隔を狭くしたいような場合には、親水性高分子鎖成分(A)の体積分率を高くすればよい。親水性高分子鎖成分(A)の体積分率は10〜90%の範囲で変化させることが好ましい。親水性高分子鎖成分(A)の体積分率が10%未満であると、シリンダー部分の占める割合が小さくなるため、垂直配向させてシリンダーアレイ型分離構造とするのが困難になる場合があり、一方、90%を超えると、シリンダー部分の占める割合が大きくなるため、垂直配向させてシリンダーアレイ型分離構造の形成が困難になる場合がある。
このようにして形成されるシリンダーは、径が3〜40nm、特に3〜20nm、間隔が60nm以下、特に15〜40nmの範囲であり、この範囲で自在に設計することができる。
【0015】
フラーレンは、この膜中のシリンダーの周辺部分に局在している。両親媒性ブロック共重合体は側鎖に液晶ユニットを有するため、液晶の配向によりシリンダーの向きが決まる。フラーレンは疎水性であることから親水性ドメインに入ることはない。また一方で、液晶が配向構造を形成する際に疎水性の液晶ドメインからも排除される。そのため、フラーレンは膜中のシリンダーの周辺部分に局在することとなり、フラーレンをこのシリンダーに沿って局在させることができる。
【0016】
基板上にこのブロック共重合体を塗布する方法として、ブロック共重合体を適当な溶媒に溶解させて基板上に塗布し溶媒を乾燥させる方法が一般的である。この溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロホルム、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、四塩化炭素、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、二塩化エチレン、塩化メチル等が挙げられる。溶液中のブロック共重合体の濃度は0.1〜5質量%程度が好ましい。
この塗布液にポリアルキレンオキシドを加えてもよい。このポリアルキレンオキシドの添加は、シリンダー径を大きくするのに有効であるばかりでなく、基板とスピンコート薄膜の界面で起きるエッチング反応の反応生成物を除去するために有効であると考えられる。このポリアルキレンオキシドとしては、ポリエチレンオキシド、例えば、一般式R−(OR−ORで、(式中、R、Rは水素原子またはアルキル鎖(炭素数1〜10)、Rは−C2m−(mは2〜4、好ましくは2)、nは1〜20を表す。)で表されるものが好ましい。ポリアルキレンオキシドの添加量は、ブロック共重合体の親水性高分子鎖に対するポリアルキレンオキシドの体積分率が80%以下となるような量が好ましい。
【0017】
基板上にこのブロック共重合体を塗布する方法として、スピンコート、キャスト、ディップ及びバーコート等が挙げられる。
このブロック共重合体の膜の膜厚は約30nm〜約10μmが好ましい。
一旦塗布したブロック共重合体を加熱して固化した後に、再度加熱して配向処理を行ってもよいし、基板上にこのブロック共重合体を塗布すると同時に配向処理と加熱とを同時に行ってもよい。
この加熱温度は、ブロック共重合体の融点(通常50〜150℃)の−20〜+40℃の温度範囲が好ましく、より好ましくは融点の−10〜+20℃の温度範囲である。ブロック共重合体の融点は示差走査熱量測定の方法で測定する。
【0018】
基板としては、ポリエステル、ポリイミド、雲母板、シリコンウエハ、石英板、ガラス板、各種金属板等の基板や、これらの基板表面をカーボン蒸着処理やシリル化処理等の疎水化処理を施した基板などいかなる基板を用いることが可能であるが、シリコンウエハ、石英板、ガラス板などが実用上好ましく用いられる。
また、基板はその表面が平面のものだけでなく、球や円柱等の曲面を有するものであってもよい。
【実施例】
【0019】
以下、実施例にて本発明を例証するが本発明を限定することを意図するものではない。
製造例1
本製造例では液晶性メタクリル酸エステルモノマーMA(Az)を以下のようにして合成した。
4-(ブチルフェニルアゾ)フェノール(東京化成工業社製、特級)と11-ブロモ-1-ウンデカノール(和光純薬工業社製、特級)をWilliamson法により縮合させ、11-(4-(ブチルフェニルアゾ)フェノキシ)-1-ウンデカノールを得た。得られた11-(4-(ブチルフェニルアゾ)フェノキシ)-1-ウンデカノールを塩化メタクリロイル(和光純薬工業社製、特級)とトリエチルアミン(和光純薬工業社製、特級)存在下、塩化メチレン中で反応させ、液晶性メタクリル酸エステルモノマー(MA(Az))を得た。
製造例2
本製造例ではマクロ開始剤(PEO114-BMP)を以下のようにして合成した。
アニオン重合ポリエチレンオキシド(PEO114-OH、日本油脂社製、数平均分子量=5000)とブロモイソ酪酸ブロミド(和光純薬工業社製、特級)をトリエチルアミン存在下、テトラヒドロフラン中で反応させ、PEO114-BMP(マクロ開始剤)を得た。
【0020】
実施例1
アルゴン雰囲気下、製造例2で得たマクロ開始剤65 mgと製造例1で得た液晶性メタクリル酸エステルモノマー 64 mg、塩化銅(I)(和光純薬工業製、特級)2.5 mg、1,1,4,7,10,10-ヘキサメチルトリエチレンテトラミン(アルドリッチ社製)6 mgを1,2-ジクロロベンゼン2 mLに溶解させ、80℃で攪拌した。
6時間攪拌後、側管にセットしたフラーレンC60(東京化成社製、特級)47 mgを反応溶液に投入し、さらに80℃で40時間攪拌を続けた。空気に暴露して銅錯体を失活させて反応を停止させ、室温まで冷却した後、反応溶液をテトラヒドロフランで希釈し、中性アルミナカラムを通じて銅錯体を除去し、溶媒を留去した。
生成物を熱ヘキサン中で固-液抽出することにより残留するモノマーを除き、得られた粗精製物を再びテトラヒドロフランに溶解させ、中性アルミナカラムを通じて残留するフラーレンを除去した。さらに必要に応じて分取型ゲル浸透クロマトグラフィー(日本分析工業、JAIGEL-2H, 3H クロロホルム)により精製を行った。数平均分子量(Mn)と多分散度(Mw/Mn)は、ポリスチレンを基準物質として用いたゲル浸透クロマトグラフィーにより決定した。
【0021】
実施例2〜5
同様の手法により開始剤とモノマーの比率を変えて重合した。
実施例6
同様の手法により、溶媒である1,2-ジクロロベンゼンを3 mLに、フラーレン投入までの反応時間を24時間に変えて重合を行った。
【0022】
比較例1〜2
比較のためフラーレンを投入せず、反応を停止させたサンプルを合成した。アルゴン雰囲気下でマクロ開始剤(PEO114-BMP)65 mgと液晶性メタクリル酸エステルモノマー(MA(Az))200 mg、塩化銅(I)2.5 mg、1,1,4,7,10,10-ヘキサメチルトリエチレンテトラミン 6 mgを1,2-ジクロロベンゼン(3 mL)に溶解させ、80℃でそれぞれ24時間または64時間攪拌した。空気に暴露して銅錯体を失活させて反応を停止させ、室温まで冷却した後、反応溶液をテトラヒドロフランで希釈し、中性アルミナカラムを通じて銅錯体を除去し、溶媒を留去した。生成物を熱ヘキサン中で固-液抽出することにより残留するモノマーを除き、少量のクロロホルムに溶解させ、メタノール中で再沈殿することにより精製した。数平均分子量(Mn)と多分散度(Mw/Mn)は、ポリスチレンを基準物質として用いたゲル浸透クロマトグラフィーにより決定した。
【0023】
結果を表1に示す。
【表1】

【0024】
図3に実施例6と比較例1〜2のゲル浸透クロマトグラフィーのチャートを示す。24時間後にフラーレンを投入した実施例6のサンプルと、24時間後に反応容器を開封し空気に暴露して銅錯体を失活させ、重合反応を停止した比較例1のサンプルはほぼ同様のプロファイルを示した。一方、フラーレンを投入せずに64時間反応させた比較例2のサンプルでは、総反応時間が実施例6と同じであるにも関わらず、より高分子量側へのシフトが見られた。このことから、重合反応はフラーレンにより完全に停止されていることが分かった。
図4に実施例6と比較例1のサンプルを窒素下で加熱した際の重量減少率を測定した結果を示す。フラーレンC60は600℃まで重量減少しないことから、両サンプルにおける600℃までの重量減少率の差はサンプル中に含まれるフラーレンの重量に対応する。この差から実施例6の共重合体全体に対するフラーレンの導入率は86%と算出された。
マクロ開始剤に対するモノマーの当量を変化させた実施例1〜5についても、同様に低い多分散度を保っている。なお、フラーレンの投入段階(6時間後)ではモノマーは完全に消費されていない。このことから、モノマーの当量(または濃度)に関わらずフラーレンの投入により反応が効率よく停止されることが分かった。
【0025】
実施例6と比較例1の共重合体の2重量%トルエン溶液を調製し、炭素を蒸着したマイカ基板上に3000回転/分でスピンコートすることにより、薄膜を調製した。得られた薄膜を水面に曝すことにより展開し、これを銅製のグリッドにすくい取った後、真空下で140 ℃で24時間熱処理した。これを酸化ルテニウムの蒸気に曝し、PEOドメインを選択的に染色することにより電子顕微鏡観察用のサンプルとした。観測された透過型電子顕微鏡像を図2に示す。
図2(1)は、実施例6で作成した薄膜において、モノマー(MA(Az))が重合した疎水性部分(PMA(Az))中でPEOドメインが薄膜表面に対して垂直に配向したシリンダーを形成したミクロ相分離構造を有することを示している。一方、比較例2で作製した膜を同様にして観測した透過型電子顕微鏡像を図2(2)に示す。これらはほぼ同様の規則性を持つシリンダー構造を示しており、C60の添加の有無によってその構造にほぼ変化はない。C60が凝集している場合にはこのような構造はとりえない。また、図2(1)と(2)とを比較すると、図2(1)(即ち、C60を含有するほう)はシリンダー間隔が約2nm長い。これは、実施例6で作成したPMA(Az)マトリックス内にC60が存在しているためと考えられ、C60はPMA(Az)マトリックス内でPEOドメイン(即ち、シリンダー部分)の周辺に集積しているものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
フラーレンは優れた電子受容体であるので、これを電子受容層として有機薄膜太陽電池への展開が考えられる。有機薄膜太陽電池では現在バルクへテロ接合型が注目されている。電子供与体と電子受容体の間で起こる電荷分離を効率よく起こすためには、できるだけこれらの接触界面の面積を増やす必要がある。さらに太陽電池として生じた電荷を外に取り出してやる必要があるため、電子供与層と電子受容層はそれぞれの電極まで連続した構造を作る必要がある。この二つの要件は、本発明の高分子膜がミクロ相分離構造のようなそれぞれのドメインが独立しており、さらにシリンダー構造のように膜を貫通する構造を取るため、満たされるものと考えられる。
また、フラーレンは紫外線や高圧により重合し、フラーレンポリマーを与える。本発明の高分子膜では、フラーレンがシリンダー方向に対して平行に整列しているので、これを重合させることにより、シリンダー方向に異方性を有する電気伝導体ができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】両親媒性ブロック共重合体へのフラーレン導入の反応経路の一例を示す図である。
【図2】実施例6(1)と比較例1(2)で得られたブロック共重合体から製造された薄膜の透過型電子顕微鏡像を示す図である。酸化ルテニウムによりPEOドメイン(図中の黒点)を選択的に染色し、膜の垂直方向から観察している。
【図3】実施例6と比較例1〜2のゲル浸透クロマトグラフィーのプロファイルを示す図である。
【図4】実施例6と比較例1で得られたブロック共重合体の窒素下での熱分解挙動を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性ポリマー成分及び疎水性ポリマー成分が共有結合によって結合した、分子量分布(Mw/Mn)が1.3以下であるブロック共重合体とフラーレンとから成る両親媒性ブロック共重合体の高分子膜であって、該高分子膜がその膜中に一定方向に配向した該親水性ポリマー成分から成るシリンダーを有し、該フラーレンが該シリンダー部分の周辺に局在した、フラーレンを規則的に配列させて含有する高分子膜。
【請求項2】
前記両親媒性ブロック共重合体が両親媒性ブロック共重合体を構成する液晶性メタクリル酸エステルモノマーをラジカル重合させる際に、フラーレンをラジカルトラップ剤として導入することによって得られた請求項1に記載のフラーレンを規則的に配列させて含有する高分子膜。
【請求項3】
前記両親媒性ブロック共重合体が下記一般式
【化1】

(式中、Aは親水性高分子鎖を表し、Bはハロゲン原子を表し、Fはフラーレンを表し、Rは水素原子又はアルキル基を表し、aは5〜500の整数を表し、lは4〜30の整数を表し、Cは液晶性メソゲン鎖を表す。)で表される請求項1又は2に記載の高分子膜。
【請求項4】
前記液晶性メソゲン鎖(C)が、
−X−(R−Y)m−R
(式中、X及びYはそれぞれ独立に置換基を有していてもよい2価の芳香族基又は複素環基を表し、Rは、単結合、−CHCH−、−CHO−、−OCH−、−C(=O)O−、−OC(=O)−、−C≡C−、−CH=CH−、−CF=CF−、−(CH−、−CHCHCHO−、−OCHCHCH−、−CH=CH−CHCH−、−CHCH−CH=CH−、−N=N−、−CH=CH−COO−若しくは−OCO−CH=CH−、又は−CH=CH−CO−若しくは−CO−CH=CH−を表し、Rは水素原子、ハロゲン、アルキル基、アルコキシ基、シアノ基、メルカプト基、ニトロ基又はアミノ基を表し、mは1〜4の整数を表す。)で表される請求項3に記載の高分子膜。
【請求項5】
前記親水性高分子鎖が、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(プロピレンオキシド)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸)、ポリ(アクリルアミド)、又は親水性側鎖を有するポリ(メタクリレート)若しくはポリ(アクリレート)であり、前記疎水性高分子鎖が、メソゲン側鎖、長鎖アルキル側鎖又は疎水性側鎖を有するポリ(メタクリレート)若しくはポリ(アクリレート)、ポリ(スチレン)、又はビニルポリマーである請求項3又は4に記載の高分子膜。
【請求項6】
前記フラーレンが、C20、C36、C60、C70、C80、C84、C120又はツェッペリンである請求項1〜5のいずれか一項に記載の高分子膜。
【請求項7】
前記シリンダーが前記膜の表面に対して略垂直方向に配向した請求項1〜6のいずれか一項に記載の高分子膜。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−115286(P2008−115286A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−300153(P2006−300153)
【出願日】平成18年11月6日(2006.11.6)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年5月10日 社団法人 高分子学会発行の「高分子学会年次大会予稿集 55巻1号 2006」に発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度、独立行政法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業「高信頼性ナノ相分離構造テンプレートの創製」にかかわる委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】