説明

フラーレン誘導体の製造方法

【課題】有機薄膜太陽電池を初めとする有機半導体に適したフラーレン誘導体を簡便かつ高収率に製造する方法を提供する。
【解決手段】塩基触媒存在下、カルボン酸エステル基を有する原料フラーレン誘導体と原料アルコールとを溶媒中でエステル交換させて、前記原料アルコールに対応するカルボン酸エステル基を有する生成物フラーレン誘導体を得るフラーレン誘導体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラーレン誘導体の製造方法に関する。さらに詳しくは、塩基性触媒を用いたエステル交換法によるカルボン酸エステル基を有するフラーレン誘導体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
2つの異種電極間に、電子供与性および電子受容性を有する有機半導体膜を配して成る有機薄膜太陽電池は、シリコンなどに代表される無機太陽電池に比べて製造工程が容易で、かつ低コストで大面積化が可能であると言う利点を有する。しかしながら、有機薄膜太陽電池は無機太陽電池と比べて光電変換効率が低いことから、実用に供することが困難であり、そのため、有機薄膜太陽電池においては、光電変換効率の向上が最大の課題の一つとなっている。
【0003】
有機薄膜太陽電池の構造はさまざまであり、ショットキー型、ヘテロpn接合型、バルクヘテロ接合型などが提案されている。特に電子供与体であるポリマーへの相溶性を高めたフェニル−C61−酪酸メチルエステル([60]PCBM)(非特許文献1)が開発されて以来、バルクヘテロ接合型有機薄膜太陽電池の研究が数多くなされている。
例えば、[60]PCBMのメチル基を他のアルキル基に変えた、[60]PCBMの類縁体が数多く合成されている。非特許文献2ではC4、C7、C8、C12の直鎖又は分岐のアルキル基に、非特許文献3ではC6、C12の直鎖のアルキル基に変更した[60]PCBM類縁体が有機薄膜太陽電池に用いられている。これらの類縁体は殆ど同一の還元電位、紫外/可視吸収特性にもかかわらず、同じポリマーを使用した有機薄膜太陽電池の光電変換効率に大きく影響を与えることが分かっている。例えば、非特許文献2では、原料である[60]PCBM(エステルはメチル基)と比較してブチル基(C4)の方が、非特許文献3ではヘキシル基(C6)の方が有機薄膜太陽電池の特性が良好であるとの結果が得られている。これらの結果には、アルキル基の違いによるフラーレン誘導体とポリマーとの相互作用への影響、フラーレン誘導体同士の結晶性の変化等が関係していると考えられる。
【0004】
また、非特許文献4においては[60]PCBMのメチル基をグリシジルエステル基にした類縁体をもちいて、有機薄膜太陽電池の光電変換層を架橋反応で固定化することにより、モルフォロジーの安定性の向上が確認できている。
特許文献1においては、ラジカル・スカベンジャー材料として、[60]PCBMのメチルエステル基をそれぞれ炭素数12、18の直鎖のアルキルエステル基、あるいはテトラエチレングリコールエステル基に変換した[60]PCBM類縁体が使われている。
【0005】
以上のように、特に有機薄膜太陽電池においては、フラーレン誘導体、特にPCBM類の置換基の変換による電池特性の制御が求められている。しかしながら、これまでのPCBM類縁体の製造方法は、製造工程が長く煩雑であったり、低収率であったり、または危険性の高い薬品を使用する必要があった。
例えば非特許文献2においては、原料である4−ベンゾイル酪酸をそれぞれアルキル基に該当するアルコールを用いてエステル化するため、全ての類縁体について、4−ベンゾイル酪酸のエステル化からフラーレンへの付加、カラム分離、異性化の製造プロセスをそれぞれのアルコールについて全て行う必要が有り、多数の類縁体を製造しようとすると非常に非効率である。
非特許文献4においては[60]PCBMを加水分解し、酸塩化物とした後、エステル化を行っている。この手法では強酸性物質を用いるほか、[60]PCBMの加水分解物は溶媒への溶解性が低く取り扱いが困難で、最終生成物の収率も低い。
特許文献1では[60]PCBMのジブチルスズオキシドを用いたエステル交換により[60]PCBM類縁体を得ているが、反応時間が3日間と非常に長く、かつ収率も50%前後と実用に適した手法ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2007−520458号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J.Org.Chem.,Vol.60,No.3,1995
【非特許文献2】J.Phys.Chem.,B2004、108、11921−11926
【非特許文献3】T.Arai et al.,The 4th World Conference on Photovoltaic Energy Conversion(May、2006)
【非特許文献4】J.Macromolecular Science,2004,Vol.41,No.12,pp1467−1487
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上のように、カルボン酸エステル基を有するフラーレン誘導体の類縁体の合成に関しては、未だに課題が多いのが実情である。
かかる状況下、本発明の目的は、有機薄膜太陽電池を初めとする有機半導体に適したフラーレン誘導体を簡便かつ高収率に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
<1> 塩基触媒存在下、カルボン酸エステル基を有する原料フラーレン誘導体と原料アルコールとを溶媒中でエステル交換させて、前記原料アルコールに対応するカルボン酸エステル基を有する生成物フラーレン誘導体を得るフラーレン誘導体の製造方法。
<2> 前記塩基触媒が、アルカリ金属アルコキシドである前記<1>に記載のフラーレン誘導体の製造方法。
<3> 前記アルカリ金属アルコキシドが、カリウムtert−ブトキシドである前記<2>に記載のフラーレン誘導体の製造方法。
<4> 前記原料フラーレン誘導体のカルボン酸エステル基が、炭素数1から4のアルキル基を有するカルボン酸エステル基である前記<1>乃至<3>のいずれかに記載のフラーレン誘導体の製造方法。
<5> エステル交換反応に、原料であるフラーレン誘導体からエステル交換反応によって脱離するアルコール分子を吸着し得る、細孔径が脱離アルコール分子よりも大きな多孔質吸着材を用いる前記<1>乃至<4>のいずれかに記載のフラーレン誘導体の製造方法。
<6> 前記多孔質吸着材が、モレキュラーシーブ4A、モレキュラーシーブ5A及びモレキュラーシーブ13Xからなる群から選択される少なくとも1種である前記<5>に記載のフラーレン誘導体の製造方法。
<7> 前記原料フラーレン誘導体のカルボン酸エステル基が、アリール(カルボン酸アルキル)エステル基である前記<1>乃至<6>のいずれかに記載のフラーレン誘導体の製造方法。
<8> 前記原料フラーレン誘導体のカルボン酸エステル基が、フェニル酪酸メチルエステル基である前記<7>に記載のフラーレン誘導体の製造方法。
<9> 前記原料アルコールが、炭素数1から12の1級または2級アルコールである前記<1>乃至<8>のいずれかに記載のフラーレン誘導体の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法を用いることにより、簡便かつ高収率で高純度のカルボン酸エステル基を有するフラーレン誘導体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、塩基触媒存在下、カルボン酸エステル基を有する原料フラーレン誘導体(以下、単に「原料フラーレン誘導体」と称す場合がある。)と原料アルコールとを溶媒中でエステル交換させて、前記原料アルコールに対応するカルボン酸エステル基を有する生成物フラーレン誘導体(以下、単に「生成物フラーレン誘導体」と称す場合がある。)を得るフラーレン誘導体の製造方法に関する。
【0013】
まず、本発明の製造方法における、原料及び生成物であるカルボン酸エステル基を有するフラーレン誘導体について説明する。
本発明において、「フラーレン誘導体」とは、フラーレンを構成する炭素原子に有機または無機の原子団が結合した化合物またはその混合物の総称をいう。例えばフラーレン骨格上に所定の置換基が付加した構造を有するもののほか、内部に金属や分子を包含しているフラーレン金属錯体を含めたもの等を広く意味するものとする。また、上記混合物としては、炭素数が同一で、付加基、置換基等の異なるフラーレン化合物の混合物、炭素数が異なり、且つ付加基、置換基等の異なるフラ−レン化合物の混合物等が挙げられる。
なお、「フラーレン」とは炭素原子が中空状の閉殻構造をなす炭素クラスターであり、当該閉殻構造を形成する炭素数は、通常60〜130の偶数である。フラーレンの具体例としては、C60、C70、C76、C78、C82、C84、C90、C94、C96のほか、これらよりも多くの炭素を有する高次の炭素クラスターを挙げることができる。なお、本明細書では、炭素数i(ここでiは任意の自然数を表す。)のフラーレン骨格を適宜、一般式「Ci」で表す。
【0014】
本発明の原料及び生成物に係る「カルボン酸エステル基を有するフラーレン誘導体」とは、上述した「フラーレン誘導体」のうち、下記の式(1)で表される部分構造がフラーレン骨格と結合しているものを言う。
【化1】

(上記式(1)中、Aはフラーレン骨格との結合部位を表し、フラーレン骨格の炭素を含んだ置換されていてもよい環状脂肪族基、又は置換されていてもよい芳香族炭化水素基、酸素原子、硫黄原子、燐原子、炭素数1以上6以下の炭素鎖を表す。mは0以上6以下の整数を表し、pは1以上3以下の整数を表し、qは1以上46以下の整数を表す。R1は炭素数1以上20以下の有機基を表す)
【0015】
なお、カルボン酸エステル基を有する原料フラーレン誘導体におけるフラーレン骨格としては、C60、C70、C76、C78、C82、C84、C90、C94、C96及びこれらよりも多くの炭素を有する高次の炭素クラスター等が挙げられる。
フラーレン骨格の炭素数は特に制限されないが、この中でもC60又はC70が好ましく、C60がより好ましい。C60又はC70はフラーレンの製造時に主生成物として得られるので、入手が容易であるという利点がある。即ち、本発明のフラーレン誘導体は、C60又はC70の誘導体であることが好ましく、C60の誘導体であることがより好ましい。また、コストの観点ではC60誘導体とC70の誘導体の混合物であることが好ましい。この場合、C60誘導体とC70の誘導体の混合比は任意であり、レジスト組成物の特徴によって好ましい範囲を決定すればよい。
【0016】
上記一般式(1)において、Aで表されるフラーレン骨格の炭素を含んだ置換されていてもよい環状脂肪族基としては、式(2)で表される環状構造から選ばれる基であることが好ましい。
【化2】


(但し、aは1以上4以下の整数を表し、2つのCfはフラーレン骨格上の炭素原子を表す。また、結合部位Aのフラーレン骨格に結合しない側の結合手は、環状脂肪族基のメチレン鎖上の一箇所に存在し、フラーレンに結合しない環状脂肪族基のメチレン鎖は他の有機基によって置換されていてもよい。なお、2つのCfは、具体的には隣接する2つの6員環の間で(6,6)結合を形成する2つの炭素原子、もしくは5員環と6員環の間で(5,6)結合を形成する2つの炭素原子である。)
【0017】
上記式(1)において、Aで表される置換されていてもよい芳香族炭化水素基としては、炭素数6〜18の2価の芳香族炭化水素基が挙げられ、好ましくはフェニレン基、ナフタレン基を表す。
上記式(1)において、Aで表される炭素数1以上6以下の炭素鎖としては、2〜4価の鎖状炭化水素鎖が挙げられるが、中でも合成の容易さの点からアルキレン鎖が好ましい。
【0018】
上記式(1)におけるR1の具体例としてはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、イソプロピル基、sec−ブチル基、iso−ブチル基、tert−ブチル基、tert−アミル基、ネオペンチル基、2−メチルブチル基、3−メチルブチル基等の直鎖又は分岐状の鎖状アルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、ノルボニル基、トリシクロデカニル基、アダマンチル基等の環状アルキル基;アリル基、クロチル基、シンナミル基等のアルケニル基;フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基等のアリール基が挙げられる。
また、後述するようにエステル交換反応で脱離したアルコールをモレキュラーシーブ等の多孔質吸着材に吸着させる場合には、分子の有効直径がモレキュラーシーブ等の多孔質吸着材の細孔径よりも小さなアルキル基が好ましい。具体的には、炭素数1〜4のアルキル基、即ちメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基が好ましく、これらの中でもメチル基が最も好ましい。
【0019】
また、R1はエステル化反応性を損なうことがなければ、更に別の置換基を有していてもよい。R1の有機基が有していてもよい置換基の例としては、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アルコキシ基、アミノ基、ハロゲン原子等が挙げられる。また、これらの置換基が更に一以上の置換基によって多重に置換されていてもよい。
【0020】
以下、カルボン酸エステル基を有する原料フラーレン誘導体の具体例を説明する。
(i)アリール(カルボン酸アルキル)エステル基を有するフラーレン誘導体
【化3】


式(3)のカルボン酸エステル基を有するフラーレン誘導体は、前記式(1)で表される部分構造において、フラーレン骨格との結合部位Aが、フラーレン骨格の隣接する2個の炭素原子を含んだ三員環(シクロプロパン環)でありp=1であるフラーレン誘導体であり、FLNはフラーレン骨格を表し、mは0以上5以下の整数を表し、qは1以上46以下の整数を表し、R1は炭素数1以上20以下の有機基を表し、R2は置換基を有してもよい炭素数6〜18の芳香族炭化水素基、チオフェニル基、ピロール基、ピロリジル基、フラン基等が挙げられる。
【0021】
(ii)マロン酸エステル基を有するフラーレン誘導体
【化4】


式(4)のマロン酸エステル基を有するフラーレン誘導体は前記式(1)で表される部分構造において、フラーレン骨格との結合部位Aが、フラーレン骨格の隣接する2個の炭素原子を含んだ三員環(シクロプロパン環)でありm=0、p=2あることを特徴とするフラーレン誘導体であり、FLNはフラーレン骨格を表し、qは1以上46以下の整数を表し、R1は同一でも異なっていてもよい炭素数1以上20以下の有機基を表す。
【0022】
式(4)のマロン酸エステル基を有するフラーレン誘導体は特許第3512412号および特開2005−263795号公報に記載されているメタノフラーレン誘導体を用いることができる。
【0023】
(iii)フラーレンとの結合部位Aが置換されていてもよい芳香族炭化水素基であるフラーレン誘導体
【化5】

式(5)は前記式(1)で表される部分構造において、フラーレン骨格との結合部位が置換基を有してもよい炭素数6〜18の芳香族炭化水素基であることを特徴とするフラーレン誘導体であり、FLNはフラーレン骨格を表し、qは1以上46以下の整数を表し、R1は同一でも異なっていてもよい炭素数1以上20以下の有機基を表す。
式(5)のフラーレン誘導体は、特開2007−217350号公報に記載された5重付加型、8重付加型、あるいは10重付加型のフラーレン誘導体を用いることができる。
【0024】
(iv)フラーレンとの結合部位Aが置換されていてもよい炭素数1以上6以下の炭素鎖であるフラーレン誘導体
【化6】

式(6)は前記式(1)で表される部分構造において、フラーレン骨格との結合部位が置換基を有してもよい炭素数1〜6の炭素基であることを特徴とするフラーレン誘導体であり、FLNはフラーレン骨格を表し、qは1以上46以下の整数を表し、R1は同一でも異なっていてもよい炭素数1以上20以下の有機基を表す。
【0025】
式(6)のフラーレン誘導体は、国際公開第2007/111226号パンフレットに記載された5重付加型のフラーレン誘導体を用いることができる。
【0026】
上記(i)〜(iv)のフラーレン誘導体の中でも、上記(i)のフラーレン誘導体が、原料フラーレン誘導体として好適である。
上記(i)のフラーレン誘導体は、上述の非特許文献1に記載されたフェニル−C61−酪酸メチルエステル([60]PCBM)や、特表2006−518110号公報に記載されたフェニル−C71−酪酸メチルエステル([70]PCBM)、特表2009−542725号公報に記載されているチオフェニル−C61−酪酸メチルエステル、非特許文献(Org.Lett.,Vol9,No.4,2007)に記載されたフェニル基の水素がメトキシ基あるいはメチルチオ基に置換した[60]PCBM、国際公開第2009/039490号パンフレットに記載された、上記式(1)で表される部分構造が複数結合、すなわちq=2〜4のbis−[60]PCBMやtris−[60]PCBM、tetra−[60]PCBMで表された化合物、ディールスアルダー−メタノフラーレン化合物、非特許文献(Mendeleev Commun.,2007,Vol.17,175−177、Adv.Funct. Mater.,2009,Vol.19,779−788)に記載された、上記(i)のフラーレン誘導体においてm=2である化合物等を好適に使用することができる。
【0027】
次いで、カルボン酸エステル基を有するフラーレン誘導体のエステル交換反応について説明する。
本発明における方法では、塩基触媒存在下、前述のカルボン酸エステル基を有する原料フラーレン誘導体と原料アルコールとを溶媒中でエステル交換させることにより、当該アルコールに対応するカルボン酸エステル基を有する生成物フラーレン誘導体を製造する。
以下、本発明における原料フラーレン誘導体及び生成物フラーレン誘導体以外の原料、触媒、溶媒について説明する。
【0028】
[1.塩基触媒]
塩基触媒を用いることにより、カルボン酸エステルのエステル交換反応における平衡が生成系寄りになることから、より高収率でエステル交換反応を進めることが可能となる。
塩基触媒としては、ナトリウムやリチウム及びカリウム等のアルカリ金属や、ナトリウム−リチウム等の2種またはそれ以上のアルカリ金属の合金、水素化ナトリウムや水素化リチウム及び水素化カリウム等のアルカリ水素化物、ブチルリチウム等のアルキル金属、リチウムメトキシドやナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムtert−ブトキシドなどのアルカリ金属アルコキシド、塩基性イオン交換樹脂などが用いられる。
中でも、取り扱いが簡便であるという観点でアルカリ金属アルコキシドが好ましく、立体障害のために求核性が低くアルコールの脱プロトンが選択的に起こるため、カリウムtert−ブトキシドが最も好ましい。
反応に使用する塩基触媒量は特に限定されないが、反応に用いるカルボン酸エステル基を有する原料フラーレン誘導体に対して通常0.001〜10当量、好ましくは0.01〜5当量、より好ましくは0.1〜1当量である。通常の使用量の範囲では、多いほどエステル交換反応の反応が速くなり、反応時間が短くなるので生産性が向上する。また、触媒の使用量は少ないほどろ過等による反応液と塩基性触媒との分離操作が容易となる。
【0029】
[2.原料アルコール]
カルボン酸エステル基を有する原料フラーレン誘導体と反応させる原料アルコールとしては、例えば、アルカノール類、アルコキシアルカノール類、アルケノキシアルカノール類、アルケノール類、フェノキシアルカノール類、シクロアルカノール類、アルキルシクロアルカノール類、シクロアルキルアルカノール類、フェノール類、フェニルアルカノール類、アルキルフェニルアルカノール類、ハロアルカノール類、シアノアルカノール類、アミノアルカノール類、チオフェニルアルカノール類等が挙げられる。中でも、アルカノール類、シクロアルカノール類、フェニルアルカノール類がより好ましく、アルカノール類が特に好ましい。
原料アルコールの炭素数は2〜20が好ましく、このようなアルコールとしては、具体的には、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、tert−ブタノール、n−ペンタノール、n−ヘキサノール、2−エチル−1−ブタノール、n−ヘプタノール、n−オクタノール、2−エチル−1−ヘキサノール、2−プロピル−1−ペンタノール、ラウリルアルコール、ステアリルアルコール、トリデカノール、ジメチルアミノエタノール、ジエチルアミノエタノール、シクロヘキサノール、シクロヘキサンメタノール、3,3,5−トリメチルシクロヘキサノール、4−tert−ブチルシクロヘキサノール、フェノール、ベンジルアルコール、1−フェニルエチルアルコール、2−フェニルエチルアルコール、フェノキシエタノール、メトキシエタノール、エトキシエタノール、ブトキシエタノール、アリルアルコール、メタリルアルコール、チオフェンメタノール、チオフェンエタノール、等が挙げられる。
反応性の観点からは炭素数2〜12のアルコールが好ましく、1級アルコール及び2級アルコールが好ましく、1級アルコールがより好ましい。
エステル交換反応において、原料アルコールの仕込み比は、任意に設定することができるが、塩基触媒下でのエステル交換反応は可逆反応であるため過剰量の原料アルコールを用いることが好ましく、例えば、原料フラーレン誘導体に対して通常1〜100当量、好ましくは5〜50当量、より好ましくは10〜30当量である。仕込み比が低いと反応性が低下し製造効率が落ちる可能性が有り、仕込み比が高すぎると、反応系における原料及び生成物フラーレン誘導体の溶解性が低下し、析出等の問題が発生する可能性がある。
【0030】
[3.反応溶媒]
反応に使用する溶媒としては、原料及び生成物フラーレン誘導体、塩基触媒、アルコールを溶解及び/又は分散させることが可能な溶媒であれば、その種類は任意である。
反応溶媒の例を挙げると、オルトジクロロベンゼン(ODCB)、クロロベンゼン、トリクロロベンゼン等のハロゲン置換芳香族溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン等の芳香族溶媒;クロロホルム、ジクロロメタン等のハロゲン炭化水素溶媒;ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、1,4−ジオキサン、メチルシクロペンチルエーテル等のエーテル溶媒などが挙げられる。中でも、フラーレンの溶解度が大きいハロゲン置換芳香族溶媒が好ましい。
なお、反応溶媒は、何れか1種のみを使用してもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
反応溶媒を使用する場合の使用量は、原料フラーレン誘導体に対して、通常1mg/mL以上、好ましくは5mg/mL以上、より好ましくは10mg/mL以上、また、通常200mg/mL以下、好ましくは150mg/mL以下、より好ましくは100mg/mL以下とすることが望ましい。反応溶媒の使用量が多過ぎると原料濃度が薄くなり、反応速度が遅くなる場合があり、少な過ぎると原料や生成物が溶解せず、反応が十分に進行しない場合がある。
なお、2種以上の反応溶媒を併用する場合には、それらの合計量が上記範囲を満たすようにすることが望ましい。
【0031】
[4.多孔質吸着材]
多孔質吸着材とは、吸着機能を有する無機系・有機系からなる各種吸着剤の総称であり、活性炭などの炭素系吸着剤、シリカゲル、アルミナゲル、ゼオライト、粘土系吸着材、メソポーラスシリカ系吸着材などの無機系吸着剤、イオン交換樹脂、キレート樹脂などの有機系吸着剤などが存在する。その中でも、本発明においては、他の吸着材と比べて細孔分布が均一であることからゼオライトを用いることが好ましい。中でも結晶構造に由来する均一な細孔径と規則的な細孔構造を有することから溶媒等の乾燥に用いられるモレキュラーシーブが好適に使用される。
モレキュラーシーブとは、対象とする各物質の大きさ(分子量)に応じてそれらを分離する性質を持った物質の総称であるが、ここでは結晶性アルミノケイ酸塩ゼオライトからなる合成ゼオライトのことをモレキュラーシーブと称する。
モレキュラーシーブは、その細孔径や形状によりいろいろなタイプがあるが、代表的なものとしては、3A、4A、5A、13Xが挙げられる。中でも、カルボン酸エステル基を有する原料フラーレン誘導体から脱離するアルコールよりも大きな細孔径を有し、かつ反応させるアルコールよりも小さな細孔径のモレキュラーシーブを使用することで、原料フラーレン誘導体より脱離するアルコールが反応系から選択的に除去され、エステル交換反応の平衡が移動し、より効率的に反応が進行するため好ましい。
具体的には、前記多孔質吸着材が、モレキュラーシーブ4A、モレキュラーシーブ5A及びモレキュラーシーブ13Xからなる群から選択される少なくとも1種であるであることが好ましい。
特にメチルエステル基を有する原料フラーレン誘導体をn−ブタノールでエステル交換する場合では、メタノールは吸着するが、n−ブタノールは吸着しないモレキュラーシーブ4Aを使用することが好ましい。
反応に使用する多孔質吸着材の量は特に限定されないが、反応に用いる原料フラーレン誘導体に対して通常0.1〜20重量倍、好ましくは0.5〜15重量倍、より好ましくは1〜10重量倍である。通常の使用量の範囲では、多いほどエステル交換反応の反応率が高まり、反応時間が短くなるので生産性が向上する。また、使用量は少ないほどろ過等による反応液と多孔質吸着材との分離操作が容易となる。
【0032】
上述の原料フラーレン誘導体、塩基触媒、アルコール及び反応溶媒、並びに、必要に応じて用いられるゼオライト等の多孔質吸着材を混合する順序や反応条件は、生成物フラーレン誘導体が製造できる限り任意である。また、反応系には、反応の進行を阻害しない限り上述したもの以外の成分を含有させてもよい。
反応時の温度条件は反応が進行する限り制限されないが、一般的には、反応系に原料フラーレン誘導体、塩基触媒、反応溶媒及びアルコールを加えた後の反応系の温度を、通常0℃以上、好ましくは15℃以上、また、通常100℃以下、好ましくは50℃以下とすることが望ましい。反応温度が高い方がエステル交換反応の進行が早くなるが、副反応による不純物の生成が促進される可能性があり、低すぎるとエステル交換反応が十分に進行しない可能性がある。
反応時間も制限されないが、一般的には、反応系に反応系に原料フラーレン誘導体、塩基触媒及びアルコールを加えた後、通常30分以上、好ましくは1時間以上、また、通常10時間以下、好ましくは5時間以下に亘って反応させることが望ましい。反応時間が短すぎると、エステル化反応の進行が不十分となり、原料フラーレン誘導体が残留し、収率や純度の低下を引き起こす可能性が有り、反応時間が長すぎると、副反応により不純物が発生し純度の低下を引き起こす可能性がある。
反応雰囲気は特に制限されず、空気雰囲気でもよいが、酸化等の副反応の進行を防ぐために、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性雰囲気中で行うのが好ましい。
なお、反応時には、攪拌等の手段を用いて、反応系が均一の状態になるように保つのが好ましい。
得られた生成物フラーレン誘導体は、必要に応じて適宜、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、シリカゲルカラムクロマトグラフィー、アルミナカラムクロマトグラフィー、再結晶、活性炭吸着等の手法で精製してもよい。収率は、上述の好ましい反応条件で行えば、フラーレンからの一貫収率として通常60%以上、好ましくは80%以上である。
【0033】
本発明に係るエステル交換法によるフラーレン誘導体の製造方法によれば、例えば、有機薄膜太陽電池を初めとする有機半導体に適したフラーレン誘導体を簡便にかつ高収率で製造することに用いることができる。
以下、フラーレン誘導体のいくつかの用途の例に関して具体的に説明するが、本発明によるフラーレン誘導体の効果が発揮できる用途に関しては、以下の記載に限定されるものではない。
【0034】
[太陽電池用途]
有機太陽電池は、シリコン系の無機太陽電池と比較して、優位な点が多数あるものの、エネルギー変換効率が低く、実用レベルに十分には達していない。この点を改良するため、最近、電子供与体である導電性高分子と、電子受容体であるフラーレン又はフラーレン誘導体とを混合した活性層を有するバルクヘテロ接合型有機太陽電池が提案されている。このバルクヘテロ接合型有機太陽電池では、導電性高分子とフラーレン誘導体とが分子レベルで混合し、その結果非常に大きな界面を作り出すことに成功し、変換効率の大幅な向上が実現されている。
バルクへテロ接合型有機太陽電池では、p型半導体との効率的な接合構造を構成するための層分離制御や、フラーレン誘導体分子の配向性・細密充填性などのモルフォロジー制御が非常に重要である。そのためには、フラーレン誘導体分子の精密な分子設計が必要であるが、本発明によれば、フラーレン誘導体の置換基を簡便かつ精密に変換することが可能であり、太陽電池の特性向上を実現することが期待できる。
【0035】
[半導体用途]
光センサー、整流素子等への応用が期待できる電界効果トランジスタの有機材料として、フラーレン及びフラーレン誘導体を使用することが研究されている。一般的に、フラーレン及びフラーレン誘導体を半導体に用いて電界効果トランジスタを作製した場合、当該電界効果トランジスタはn型のトランジスタとして機能することが知られている。
トランジスタ性能にはフラーレン誘導体分子の配向性・充填性などのモルフォロジー制御が重要とされるが、上述の通り本発明の方法によって、電界効果トランジスタの特性向上を実現することが期待できる。
【0036】
[半導体製造用途]
半導体製造等の分野では、例えば500μm以下の微細パターンを生産効率良く形成する方法としてナノインプリント法が検討されている。ナノインプリント法とは、微細パターンを有するモールドのパターンを転写層に転写する微細パターンの形成方法である。
このようなナノインプリント法は、例えば、熱可塑性重合体からなる転写層を加熱して軟化させる工程、転写層とモールドとを圧着してモールドのパターンを転写層に形成する工程、モールドを転写層から離脱させる工程を順次行う方法;硬化性単量体からなる転写層をモールドに接触させる工程、硬化性単量体を硬化させる工程、硬化性単量体の硬化物からモールドを離脱させる工程を順次行う方法;などが知られている。本発明によりフラーレン誘導体の置換基を上記熱可塑性重合体と親和性の高い置換基を導入することが可能となる。
これによって、熱可塑性重合体に対する親和性の高いフラーレン誘導体を熱可塑性重合体中に分子状に分散させることができ、高い解像度を実現することが可能である。さらに、このようなフラーレン誘導体を用いることにより、転写層の機械的強度、耐熱性及びエッチング耐性を向上させることも期待できるので、従来のナノインプリント材料の特性を大幅に改善することが可能となる。
【0037】
[低誘電率絶縁材料用途]
近年、コンピュータの中央処理装置(CPU)用回路基盤には、樹脂薄膜を層間絶縁膜とする高密度かつ微細な多層配線に適した樹脂薄膜配線が適用されるようになってきた。将来よりも高速な処理能力を有するコンピュータを実現するには、高密度かつ繊細な多層配線を活かし、更に信号の高速伝播に適した低誘電率絶縁材料の開発が求められている。
本発明によりフラーレン誘導体の置換基を上記層間絶縁膜材料と親和性の高い置換基に変換することで、より高濃度での複合化やフラーレン誘導体単独での成膜も可能となる。このとき、フラーレン誘導体は、フラーレン構造が本質的に有する高抵抗、低誘電率の性質や、複合化時のフィラーとしての機械的強度の向上効果により、従来にない優れた性能の低誘電率の層間絶縁膜の実現が期待できる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例を示して本発明を更に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら制限されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変形して実施することができる。なお、本明細書の記載において、ODCBはオルトジクロロベンゼンを表し、MS−4Aはモレキュラーシーブ4Aを表す。
【0039】
[実施例1]フェニル−C61−酪酸メチルエステル([60]PCBM)を原料フラーレン誘導体とした、フェニル−C61−酪酸n−ブチルエステル([60]PCBNB)の製造
原料フラーレン誘導体としてのフロンティアカーボン製nanom spectra E100(フェニル−C61−酪酸メチルエステル)2.0gをODCB50mLに溶解させ、原料アルコールとしてn−ブタノール1.95g(12当量)、塩基触媒としてt−ブトキシカリウム0.05g(0.2当量)、多孔質吸着材として、MS−4Aを10g(5重量倍)添加し、室温にて2時間反応させた。HPLC(高速液体クロマトグラフィー)にて反応の進行を確認したところ、[60]PCBMのエステル交換率は99.7%であった。定量ろ紙を用いた減圧ろ過でMS−4A等の固形物を除去した後、ODCBを展開溶媒としたシリカゲルカラムにて精製を行った。精製物のフラクションを36mLまで濃縮した後、メタノール150mLを加え、析出物を定量ろ紙を用いた減圧ろ過にて回収した。ろ別されたウエットケーキを減圧乾燥機で150℃にて約15時間乾燥させることにより、黒色の固体としてフェニル−C61−酪酸n−ブチルエステル([60]PCBNB)を純度99.5%、1.67gの収量(収率80%)で得た。
【0040】
〔構造解析〕
1H−NMR(CDCl3,400MHz)]
0.86ppm(t、CH3、3H)、1.24〜1.33ppm(m、CH2、2H)、1.44〜1.56ppm(m、CH2、2H)、2.07〜2.15ppm(m、CH2、2H)、2.44ppm(t、CH2、2H)、2.82〜2.86ppm(m、CH2、2H)、4.00ppm(t、CH2、2H)、7.38〜7.49ppm(m、フェニル基、3H)、7.84〜7.87ppm(m、フェニル基、2H)
以上の測定結果により、[60]PCBMのメチル基がn−ブチル基にエステル交換されていることが確認された。
【0041】
[実施例2]フェニル−C61−酪酸メチルエステル([60]PCBM)を原料フラーレン誘導体とした、フェニル−C61−酪酸エチルエステル([60]PCBEt)の製造
添加するアルコールをエタノール1.21g(12当量)としたこと以外は、実施例1と同様の方法にて反応を実施した。反応2時間後の[60]PCBMのエステル交換率は99.3%であった。黒色の固体としてフェニル−C61−酪酸エチルエステル([60]PCBEt)を純度99.4%、1.62gの収量(収率80%)で得た。
【0042】
〔構造解析〕
1H−NMR(CDCl3,400MHz)]
1.23ppm(t、CH3、3H)、2.13〜2.21ppm(m、CH2、2H)、2.49ppm(t、CH2、2H)、2.87〜2.91ppm(m、CH2、2H)、4.09〜4.14ppm(q、CH2、2H)、7.43〜7.55ppm(m、フェニル基、3H)、7.89〜7.92ppm(m、フェニル基、2H)
以上の測定結果により、[60]PCBMのメチル基がエチル基にエステル交換されていることが確認された。
【0043】
[実施例3]フェニル−C61−酪酸メチルエステル([60]PCBM)を原料フラーレン誘導体とした、フェニル−C61−酪酸n−プロピルエステル([60]PCBNP)の製造
添加するアルコールをn−プロパノール1.58g(12当量)としたこと以外は、実施例1と同様の方法にて反応を実施した。反応2時間後の[60]PCBMのエステル交換率は99.9%であった。黒色の固体としてフェニル−C61−酪酸n−プロピルエステル([60]PCBPr)を純度99.4%、1.63gの収量(収率79%)で得た。
【0044】
〔構造解析〕
1H−NMR(CDCl3,400MHz)]
0.91ppm(t、CH3、3H)、1.58〜1.67ppm(m、CH2、2H)、2.13〜2.21ppm(m、CH2、2H)、2.49ppm(t、CH2、2H)、2.88〜2.92ppm(m、CH2、2H)、4.02ppm(t、CH2、2H)、7.43〜7.55ppm(m、フェニル基、3H)、7.90〜7.92ppm(m、フェニル基、2H)
以上の測定結果により、[60]PCBMのメチル基がn−プロピル基にエステル交換されていることが確認された。
【0045】
[実施例4]フェニル−C61−酪酸メチルエステル([60]PCBM)を原料フラーレン誘導体とした、フェニル−C61−酪酸iso−ブチルエステル([60]PCBIP)の製造
添加するアルコールをiso−ブタノール1.58g(12当量)とし、MS−4Aを添加しなかったこと以外は、実施例1と同様の方法にて反応を実施した。反応2時間後の[60]PCBMのエステル交換率は96.9%であった。黒色の固体としてフェニル−C61−酪酸iso−ブチルエステル([60]PCBIB)を純度99.2%、1.21gの収量(収率58%)で得た。

【0046】
〔構造解析〕
1H−NMR(CDCl3,400MHz)]
0.9ppm(t、CH3、6H)、1.9ppm(m、CH、1H)、2.1〜2.2ppm(m、CH2、2H)、2.5ppm(t、CH2、2H)、2.9〜2.9ppm(m、CH2、2H)、3.8ppm(t、CH2、2H)、7.4〜7.6ppm(m、フェニル基、3H)、7.9ppm(m、フェニル基、2H)
以上の測定結果により、[60]PCBMのメチル基がiso−ブチル基にエステル交換されていることが確認された。
【0047】
[実施例5]フェニル−C61−酪酸メチルエステル([60]PCBM)を原料フラーレン誘導体とした、フェニル−C61−酪酸n−ヘキシルエステル([60]PCBNH)の製造
添加するアルコールをn−ヘキサノール2.69g(12当量)としたこと以外は、実施例1と同様の方法にて反応を実施した。反応2時間後の[60]PCBMのエステル交換率は99.9%であった。黒色の固体としてフェニル−C61−酪酸n−ヘキシルエステル([60]PCBNH)を純度99.1%、1.72gの収量(収率80%)で得た。
【0048】
〔構造解析〕
1H−NMR(CDCl3,400MHz)]
0.88ppm(t、CH3、3H)、1.23〜1.30ppm(m、CH2、6H)、1.55〜1.61ppm(m、CH2、2H)、2.14〜2.19ppm(m、CH2、2H)、2.50ppm(t、CH2、2H)、2.87〜2.91ppm(m、CH2、2H)、4.0ppm(t、CH2、2H)、7.45〜7.55ppm(m、フェニル基、3H)、7.90〜7.91ppm(m、フェニル基、2H)
以上の測定結果により、[60]PCBMのメチル基がn−ヘキシル基にエステル交換されていることが確認された。
【0049】
[実施例6]フェニル−C61−酪酸メチルエステル([60]PCBM)を原料フラーレン誘導体とした、フェニル−C61−酪酸2−エチルブチルエステル([60]PCBEB)の製造
添加するアルコールを2−エチル−1−ブタノール2.69g(12当量)としたこと以外は、実施例4と同様の方法にて反応を実施した。反応2時間後の[60]PCBMのエステル交換率は93.2%であった。黒色の固体としてフェニル−C61−酪酸2−エチルブチルエステル([60]PCBEB)を純度99.2%、1.27gの収量(収率59%)で得た。
【0050】
〔構造解析〕
1H−NMR(CDCl3,400MHz)]
0.80ppm(t、CH3、6H)、1.23〜1.30ppm(m、CH2、4H)、1.39〜1.49ppm(m、CH、1H)、2.08〜2.16ppm(m、CH2、2H)、2.45ppm(t、CH2、2H)、2.82〜2.96ppm(m、CH2、2H)、3.9ppm(d、CH2、2H)、7.38〜7.42ppm(m、フェニル基、3H)、7.85〜7.87ppm(m、フェニル基、2H)
以上の測定結果により、[60]PCBMのメチル基が2−エチルブチル基にエステル交換されていることが確認された。
【0051】
[実施例7]フェニル−C61−酪酸メチルエステル([60]PCBM)を原料フラーレン誘導体とした、フェニル−C61−酪酸シクロヘキシルメチルエステル([60]PCBCM)の製造
添加するアルコールをシクロヘキサンメタノール3.01g(12当量)としたこと以外は、実施例1と同様の方法にて反応を実施した。反応2時間後の[60]PCBMのエステル交換率は93.2%であった。黒色の固体としてフェニル−C61−酪酸シクロヘキシルメチルエステル([60]PCBCM)を純度99.6%、1.70gの収量(収率78%)で得た。
【0052】
〔構造解析〕
1H−NMR(CDCl3,400MHz)]
0.8〜1.0ppm(m、シクロヘキシル基、2H)、1.1〜1.30ppm(m、シクロヘキシル基、3H)、1.5〜1.8ppm(m、シクロヘキシル基、6H)、2.1〜2.3ppm(m、CH2、2H)、2.5ppm(t、CH2、2H)、2.8〜3.0ppm(m、CH2、2H)、3.9ppm(t、CH2、2H)、7.4〜7.6ppm(m、フェニル基、3H)、7.9〜8.0ppm(m、フェニル基、2H)
以上の測定結果により、[60]PCBMのメチル基がシクロヘキシルメチル基にエステル交換されていることが確認された。
【0053】
[実施例8]フェニル−C61−酪酸メチルエステル([60]PCBM)を原料フラーレン誘導体とした、フェニル−C61−酪酸n−オクチルエステル([60]PCBNO)の製造
添加するアルコールをn−オクタノール3.43g(12当量)としたこと以外は、実施例1と同様の方法にて反応を実施した。反応2時間後の[60]PCBMのエステル交換率は99.7%であった。黒色の固体としてフェニル−C61−酪酸n−オクチルエステル([60]PCBNO)を純度99.1%、1.64gの収量(収率74%)で得た。
【0054】
〔構造解析〕
1H−NMR(CDCl3,400MHz)]
0.9ppm(t、CH3、3H)、1.2〜1.40ppm(m、CH2、10H)、1.5〜1.7ppm(m、CH2、2H)、2.1〜2.3ppm(m、CH2、2H)、2.5ppm(t、CH2、2H)、2.9〜3.0ppm(m、CH2、2H)、4.0ppm(t、CH2、2H)、7.4〜7.6ppm(m、フェニル基、3H)、7.9〜8.0ppm(m、フェニル基、2H)
以上の測定結果により、[60]PCBMのメチル基がn−オクチル基にエステル交換されていることが確認された。
【0055】
[実施例9]フェニル−C61−酪酸メチルエステル([60]PCBM)を原料フラーレン誘導体とした、フェニル−C61−酪酸2−エチルヘキシルエステル([60]PCBEH)の製造
添加するアルコールを2−エチル−1−ヘキサノール3.43g(12当量)としたこと以外は、実施例1と同様の方法にて反応を実施した。反応2時間後の[60]PCBMのエステル交換率は99.8%であった。黒色の固体としてフェニル−C61−酪酸2−エチルヘキシルエステル([60]PCBEH)を純度99.5%、1.75gの収量(収率79%)で得た。
【0056】
〔構造解析〕
1H−NMR(CDCl3,400MHz)]
0.85〜0.89ppm(m、CH3、6H)、1.25〜1.33ppm(m、CH2、9H)、2.1〜2.3ppm(m、CH2、2H)、2.5ppm(t、CH2、2H)、2.9〜3.0ppm(m、CH2、2H)、4.0ppm(t、CH2、2H)、7.4〜7.6ppm(m、フェニル基、3H)、7.9〜8.0ppm(m、フェニル基、2H)
以上の測定結果により、[60]PCBMのメチル基が2−エチルヘキシル基にエステル交換されていることが確認された。
【0057】
[実施例10]フェニル−C61−酪酸メチルエステル([60]PCBM)を原料フラーレン誘導体とした、フェニル−C61−酪酸2−プロピルペンチルエステル([60]PCBPP)の製造
添加するアルコールを2−プロピル−1−ペンタノール3.43g(12当量)としたこと以外は、実施例1と同様の方法にて反応を実施した。反応2時間後の[60]PCBMのエステル交換率は94.0%であった。黒色の固体としてフェニル−C61−酪酸2−プロピルペンチルエステル([60]PCBPP)を純度99.3%、1.79gの収量(収率81%)で得た。
【0058】
〔構造解析〕
1H−NMR(CDCl3,400MHz)]
0.84ppm(t、CH3、6H)、1.17〜1.59ppm(m、CH2、8H)、1.49〜1.59ppm(m、CH、1H)、2.1〜2.2ppm(m、CH2、2H)、2.5ppm(t、CH2、2H)、2.8〜3.0ppm(m、CH2、2H)、3.9ppm(t、CH2、2H)、7.4〜7.6ppm(m、フェニル基、3H)、7.9〜8.0ppm(m、フェニル基、2H)
以上の測定結果により、[60]PCBMのメチル基が2−プロピルペンチル基にエステル交換されていることが確認された。
【0059】
[実施例11]フェニル−C61−酪酸メチルエステル([60]PCBM)を原料フラーレン誘導体とした、フェニル−C61−酪酸2−ベンジルエステル([60]PCBBn)の製造
添加するアルコールをベンジルアルコール2.85g(12当量)としたこと以外は、実施例1と同様の方法にて反応を実施した。反応2時間後の[60]PCBMのエステル交換率は99.8%であった。黒色の固体としてフェニル−C61−酪酸2−ベンジルエステル([60]PCBBn)を純度99.1%、1.73gの収量(収率81%)で得た。
【0060】
〔構造解析〕
1H−NMR(CDCl3,400MHz)]
2.1〜2.2ppm(m、CH2、2H)、2.5ppm(t、CH2、2H)、2.8〜3.0ppm(m、CH2、2H)、5.1ppm(s、CH2、2H)、7.2〜7.3ppm(m、フェニル基、5H)、7.4〜7.6ppm(m、フェニル基、3H)、7.9〜8.0ppm(m、フェニル基、2H)
以上の測定結果により、[60]PCBMのメチル基がベンジル基にエステル交換されていることが確認された。
【0061】
[実施例12]フェニル−C71−酪酸メチルエステル([70]PCBM)を原料フラーレン誘導体とした、フェニル−C71−酪酸n−ブチルエステル([70]PCBNB)の製造
原料フラーレン誘導体を、フロンティアカーボン製nanom spectra E110(フェニル−C71−酪酸メチルエステル)とし、n−ブタノールを1.73g(12当量)、t−ブトキシカリウムを0.044g(0.2当量)としたこと以外は、実施例1と同様の方法にて反応を実施した。反応2時間後の[70]PCBMのエステル交換率は99.9%であった。黒色の固体としてフェニル−C71−酪酸n−ブチルエステル([70]PCBNB)を純度99.4%、1.87gの収量(収率90%)で得た。
【0062】
〔構造解析〕
1H−NMR(CDCl3,400MHz)]
0.9ppm(t、CH3、3H)、1.2〜1.4ppm(m、CH2、2H)、1.5〜1.6ppm(m、CH2、2H)、2.1〜2.2ppm(m、CH2、2H)、2.3〜2.5ppm(m、CH2、4H)、3.9〜4.2ppm(t、CH2、2H)、7.1〜7.6ppm(m、フェニル基、3H)、7.7〜8.0ppm(m、フェニル基、2H)
以上の測定結果により、[70]PCBMのメチル基がn−ブチル基にエステル交換されていることが確認された。
【0063】
[実施例13]フェニル−C61−酪酸メチルエステル([60]PCBM)を原料フラーレン誘導体とした、フェニル−C61−酪酸2−チオフェニルエチルエステルの製造
フロンティアカーボン製nanom spectra E100(フェニル−C61−酪酸メチルエステル)2.0gをODCB50mLに溶解させ、2−チオフェンエタノール3.38g(12当量)、t−ブトキシカリウム0.05g(0.2当量)を添加し、室温にて1時間反応させた。HPLC(高速液体クロマトグラフィー)にて反応の進行を確認したところ、エステル交換率は78.5%であった。
【0064】
実施例1〜13の結果を表1にまとめて示す。
【0065】
【表1】

【0066】
[結果の評価]
特許文献1において、同様の原料フラーレン誘導体から、実施例2ではオクタデシルエステルが、実施例4ではテトラエチレングリコールエステルが、それぞれ得られたことが記載されているが、ここでの反応条件は80℃/95℃×3日間と高温・長時間であり、また、収率も低いものである、と読み取ることができる。本発明の改良効果は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の製造方法を用いることにより、簡便かつ効率良く、高純度のカルボン酸エステル基を有するフラーレン誘導体が製造できる。このようにして得られたフラーレン誘導体は、フラーレンの高い電子受容性、高いエッチング耐性、低い熱伝導率、低い電気伝導率を生かした様々な分野で用いる上で好適である。例えば、有機半導体、光導電性材料、電池用薄膜、フォトレジスト用材料、金属、プラスチック、およびセラミックス材料の摺動表面の潤滑膜用材料、耐腐食性、耐酸化性に優れた膜として熱水や化学薬品が接する工業プラント製品の保護膜材料として利用することができる。特に有機薄膜太陽電池の分野で用いるのに好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩基触媒存在下、カルボン酸エステル基を有する原料フラーレン誘導体と原料アルコールとを溶媒中でエステル交換させて、前記原料アルコールに対応するカルボン酸エステル基を有する生成物フラーレン誘導体を得ることを特徴とするフラーレン誘導体の製造方法。
【請求項2】
前記塩基触媒が、アルカリ金属アルコキシドであることを特徴とする請求項1に記載のフラーレン誘導体の製造方法。
【請求項3】
前記アルカリ金属アルコキシドが、カリウムtert−ブトキシドであることを特徴とする請求項2に記載のフラーレン誘導体の製造方法。
【請求項4】
前記原料フラーレン誘導体のカルボン酸エステル基が、炭素数1から4のアルキル基を有するカルボン酸エステル基であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のフラーレン誘導体の製造方法。
【請求項5】
エステル交換反応に、原料であるフラーレン誘導体からエステル交換反応によって脱離するアルコール分子を吸着し得る、細孔径が脱離アルコール分子よりも大きな多孔質吸着材を用いることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のフラーレン誘導体の製造方法。
【請求項6】
前記多孔質吸着材が、モレキュラーシーブ4A、モレキュラーシーブ5A及びモレキュラーシーブ13Xからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項5に記載のフラーレン誘導体の製造方法。
【請求項7】
前記原料フラーレン誘導体のカルボン酸エステル基が、アリール(カルボン酸アルキル)エステル基であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載のフラーレン誘導体の製造方法。
【請求項8】
前記原料フラーレン誘導体のカルボン酸エステル基が、フェニル酪酸メチルエステル基であることを特徴とする請求項7に記載のフラーレン誘導体の製造方法。
【請求項9】
前記原料アルコールが、炭素数1から12の1級または2級アルコールであることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載のフラーレン誘導体の製造方法。

【公開番号】特開2012−201618(P2012−201618A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−66531(P2011−66531)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】