説明

フラーレン誘導体及びその製造方法、並びにフラーレン誘導体組成物、フラーレン誘導体溶液及びフラーレン誘導体膜

【課題】エッチング耐性に優れ、高硬度な炭素膜形成に適したフラーレン誘導体を提供。
【解決手段】式(I)で示されるフラーレン誘導体。


(丸はフラーレン骨格を表し、R1は式(II)で表される基、mは1〜20の整数を表す。R2は水素原子、水酸基又は炭素数1〜30の有機基、nは0〜20の整数を表す。)


(Aは置換基を有していてもよいアリーレン基、Bは炭素原子数1〜20の二価鎖状炭化水素連結基、R3は水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基又はアリール基、もしくは置換基を有していてもよいヘテロ環状炭化水素基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規のフラーレン誘導体及びその製造方法、並びにフラーレン誘導体組成物、フラーレン誘導体溶液及びフラーレン誘導体膜に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素系材料は、ダイヤモンドや黒鉛(グラファイト)等のバルク材料として古くから利用されてきたが、近年コーティング材料や機能性薄膜材料としても注目を集めつつある。中でも、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)に代表されるアモルファス炭素系薄膜は、摩擦係数が低く平滑性および耐磨耗性に優れるため、アルミニウム加工用金型、工具等の保護膜、光学素子の保護膜、磁気ヘッドの摺動面へのコーティング等に用いられている。アモルファス炭素系薄膜の形成には、高周波プラズマ法やイオン化蒸着法等の気相成長法が主に用いられている。しかし、従来の炭素系材料は有機溶剤に不溶であり塗布等による簡便な製膜は不可能であり、これらはいずれも大型の真空機器を必要とするため、製膜コストが高くなるとともに、大面積の製膜には適していない。
また、有機溶剤へ不溶であることは、化学反応による修飾が困難で溶解性の向上や、更なる機能性の付与が出来ないことも意味している。
【0003】
一方、近年注目を集める炭素系材料にフラーレン(fullerene)がある。フラーレンは、球状の閉殻構造を有する炭素分子の総称であり、紫外線吸収特性、光導電性、光増感特性等の、分子構造に由来するユニークな性質を有しているため、有機半導体等の電子材料、機能性光学材料、従来のアモルファス系炭素薄膜に代わるコーティング材料等への幅広い応用が期待されており、基材上へのフラーレン薄膜の形成に関する検討が近年盛んに行われている。
【0004】
フラーレン薄膜を気相成長法により形成することは非常に困難であるため、溶媒キャスト法等の湿式法によるフラーレン薄膜の形成に関する検討がなされてきた(例えば、非特許文献1参照)。しかしながら、フラーレンは溶媒に対する溶解性が低い上に、対称性の高い球状の分子構造を有しているため配向性が低い。そのため、十分な膜厚を有し、フラーレン分子が規則的に配向した膜を溶媒キャスト法等の湿式法により得ることは困難である。
【0005】
フラーレンの極性を高め、溶媒に対する溶解性を高めるために、フラーレンに炭化水素類等の置換基を付加してフラーレン誘導体にする方法がある。例えば、フラーレン骨格にアリール基を付加する反応として、グリニャール(Grignard)試薬等の有機金属化合物を用いる方法(非特許文献2)や塩化アルミニウムを用いた(ヒドロアリール化)反応(非特許文献3)等が知られている。
【0006】
ところで、例えば、フォトレジスト下層膜等の実際のコーティング炭素膜は多層で使用することが多い。コーティングによる多層のフラーレン膜は、フラーレン誘導体を含む塗布液を、基板にコーティングした後に溶媒を除去して下層膜を形成し、その下層膜上に塗布液のコーティングし、溶媒の除去を行い、上層膜を形成する操作を繰り返すことによって行われる。
ここで、コーティングによってフラーレン膜を形成する場合、フラーレン誘導体はコーティング時には溶媒に対して高い溶解性を必要とするが、下層膜を形成した後に、該下層膜の上に上層膜を形成するためにさらに塗布液を塗布する際に、該塗布液の溶媒に下層膜が溶解して、二膜が混合されないように、下層膜には耐溶剤性が必要となる。
フラーレン膜に耐溶剤性を持たせる方法として、フラーレン誘導体を架橋する方法がある。
例えば、特許文献1には、反応性部位として、フェノール性水酸基を有していてもよい炭素数6〜16のアリール基を有するフラーレン誘導体を、架橋剤で置換基と架橋反応させてフラーレン誘導体を不溶化して、膜形成させる方法が開示されている。また、一般にフラーレン膜は、他の有機膜と比較して高い硬度を有するが、フラーレン誘導体同士を適度に架橋させることで、さらに硬度を高めることができる。
しかしながら、特許文献1で開示されたフラーレン誘導体では、耐溶剤性を得るためには、別途架橋剤が必要となるが、架橋剤の添加量が多くなりすぎると、フラーレン膜が架橋剤添加前よりも硬度が低下したり、炭素濃度が低下してエッチング耐性が低下したりする傾向にある。また、反射防止効果等膜性能も悪化する場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4496432号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】パベル・ヤンダ(Pavel Janda)他、「アドバンスト・マテリアルズ(Advanced Materials)」、(ドイツ)、ワイリーVCH社(WileyVCH Verlag)、1998年12月、第10巻、第17号、p.1434−1438
【非特許文献2】Angew Chem.,1992年,104巻,808頁
【非特許文献3】J.Am.Chem.Soc.,1991年,113巻,9387〜9388頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記課題に鑑みて創案されたもので、エッチング耐性、耐溶剤性に優れ、高硬度なフラーレン誘導体膜を生成することが可能なフラーレン誘導体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の反応性置換基をフラーレン骨格に結合させて得られるフラーレン誘導体が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
<1> 下記式(I)で示されるフラーレン誘導体。
【化1】

(式(I)中、
丸で示される構造はフラーレン骨格を表し、
1は下記式(II)で表される基、mは1〜20の整数を表し、mが2以上である場合は、個々のR1は相互に異なっていても同一でもよい。
2は水素原子、水酸基又は炭素数1〜30の有機基、nは0〜20の整数を表し、nが2以上である場合は、個々のR2は相互に異なっていても同一でもよい。)
【化2】

(式(II)中、Aは置換基を有していてもよいアリーレン基、Bは炭素原子数1〜20の二価鎖状炭化水素連結基、R3は水素原子又はアルコール性水酸基の保護基を表す。)
<2> フラーレン骨格が、C60、C70、C76、C82、C84、及びC90から選ばれる少なくとも1種である前記<1>に記載のフラーレン誘導体。
<3> フラーレン骨格が有する下記式(III)で表わされる部分構造における、炭素原子C1〜C10の少なくとも一つに前記置換基R1が結合した構造を、フラーレン骨格中に少なくとも1か所含む前記<1>又は<2>にフラーレン誘導体。
【化3】

(式(III)中、C1〜C10は、フラーレン骨格を構成する炭素原子を表わす。)
<4> 前記式(II)中のAが、置換基を有してもよい炭素原子数6〜18のアリーレン基である前記<1>から<3>のいずれかに記載のフラーレン誘導体。
<5> 前記式(II)中のBが、炭素原子数1〜12の直鎖状又は分岐鎖状の二価飽和炭化水素基である前記<1>から<4>のいずれかに記載のフラーレン誘導体。
<6> 前記式(II)中のBが、メチレン基である前記<5>に記載のフラーレン誘導体。
<7> 前記式(II)中のR3が、水素原子又は炭素原子数1〜10のアルコール性水酸基の保護基である前記<1>から<6>のいずれかに記載のフラーレン誘導体。
<8> 前記式(II)中のR3が、炭素原子数1〜10で炭素鎖中にエーテル結合又はチオエーテル結合を有していてもよいアルキル基、アリール基、シリルエーテル基、アシル基、アラルキル基又は環状構造を構成する原子数が5〜12であるヘテロ環状基である前記<7>に記載のフラーレン誘導体。
<9> 前記式(I)中のR2が、水素原子、水酸基又は炭素原子数1〜20のアルキル基である前記<1>から<8>のいずれかに記載のフラーレン誘導体。
<10> 式(II)中のAがフェニレン基であり、BがCH2である前記<1>に記載のフラーレン誘導体。
<11> 前記<1>から<10>のいずれかに記載のフラーレン誘導体の少なくとも1種を0.01重量%以上含むフラーレン誘導体組成物。
<12> 前記<1>から<10>のいずれかに記載のフラーレン誘導体が溶質として含有されてなるフラーレン誘導体溶液。
<13> 前記<1>から<10>のいずれかに記載のフラーレン誘導体を含むか、又は該フラーレン誘導体に由来するものであるフラーレン誘導体膜。
<14> フォトレジスト膜形成材料又はフォトレジスト下層膜形成材料である前記<13>に記載のフラーレン誘導体膜。
<15> 前記<1>から<10>のいずれかに記載のフラーレン誘導体を製造する方法であって、
以下の(1)又は(2)から選ばれる少なくとも一つの方法を用いるフラーレン誘導体の製造方法。
(1)所定の置換基又はその先駆体構造を有する芳香族化合物に基づくグリニャール試薬とフラーレンとを反応させる方法
(2)金属ハロゲン化物の存在下で、所定の置換基又はその先駆体構造を有する芳香族化合物とフラーレンとを反応させる方法
<16> 前記<1>から<10>のいずれかに記載のフラーレン誘導体を製造する方法であって、
フラーレンと、A−(B−O−R3)基を有するグリニャール試薬とを、R2−X(但しXはハロゲン原子である)で表されるハロゲン化合物の存在下で反応させるフラーレン誘導体の製造方法。
(但し、Aは置換基を有していてもよいアリール基、Bは鎖状の連結基、R3は水素原子又はアルキル基、アリール基、もしくはヘテロ環状炭化水素基であり、R2は水素原子、水酸基又は炭素数1〜30の有機基である。)
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、炭素含有率が高く(エッチング耐性が高く)、高い耐熱性を有し、かつ硬い炭素膜を与えることができるフラーレン誘導体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例2のフラーレン誘導体及び架橋性化合物A,BのTG測定の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について例示物等を示して詳細に説明するが、本発明は以下の例示物等に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。
なお、本明細書において「〜」という表現を用いる場合、その前後の数値を含む表現として用いる。
【0015】
[1.フラーレン誘導体]
[1−1.フラーレン誘導体の構造]
本発明のフラーレン誘導体は、下記式(I)で示されるフラーレン誘導体である。
【0016】
【化4】

(式(I)中、
丸で示される構造はフラーレン骨格を表し、
1は下記式(II)で表される基、mは1〜20の整数を表し、mが2以上である場合は、個々の基は相互に異なっていても同一でもよい。
2は水素原子、水酸基又は炭素数1〜30の有機基、nは0〜20の整数を表し、nが2以上である場合は、個々の基は相互に異なっていても同一でもよい。)
【化5】

(式(II)中、Aは置換基を有していてもよいアリーレン基、Bは炭素原子数1〜20の二価鎖状炭化水素連結基、R3は水素原子又はアルコール性水酸基の保護基を表す。)
【0017】
[1−1−1.フラーレン骨格]
「フラーレン」とは、閉殻構造を有する炭素クラスターである。フラーレンの炭素数は、通常60〜130の偶数である。フラーレンの具体例としては、C60、C70、C76、C78、C82、C84、C90、C94、C96及びこれらよりも多くの炭素を有する高次の炭素クラスターを挙げることができる。なお、本明細書では、炭素数i(ここでiは任意の自然数を表す。)のフラーレン骨格を適宜、一般式「Ci」で表す。
【0018】
また、「フラーレン誘導体」とは、フラーレン骨格を有する化合物又は組成物の総称である。即ち、フラーレン誘導体には、フラーレン骨格上に置換基を有したものの他、フラーレン骨格の内部に金属や化合物等を内包するもの及び他の金属原子や化合物と錯体を形成したもの等も含まれる。
【0019】
本発明に係るフラーレン誘導体が有するフラーレン骨格は制限されないが、中でもC60又はC70が好ましく、C60がより好ましい。C60及びC70はフラーレンの製造時に主生成物として得られるので、入手が容易であるという利点がある。即ち、本発明に係るフラーレン誘導体は、C60又はC70またはその混合物の誘導体であることが好ましく、C60の誘導体であることがより好ましい。
【0020】
[1−1−2.置換基R1]
本発明のフラーレン誘導体は、前述のように式(II)で表される置換基R1を少なくとも1つ含む。
【化6】

【0021】
式(II)中、Aは置換基を有していてもよいアリーレン基、Bは炭素原子数1〜20の二価鎖状炭化水素連結基、R3は水素原子又はアルコール性水酸基の保護基を表す。
【0022】
本発明のフラーレン誘導体における置換基R1は、上述のように式(II)で示され、−B−O−R3で示されるアルキロール基、又はその前駆体である基が存在する。この前駆体は、酸等を添加することにより容易に脱離し、アルキロール基を与える。そのため、本発明のフラーレン誘導体は、自己反応性置換基であるR1を有しており、分子間反応が進行し縮合物を得ることができるだけでなく、m≧2の場合は架橋性反応が進行するため架橋したフラーレン材料を得ることができる。
また、本発明のフラーレン誘導体は、本発明のフラーレン誘導体以外の、アルキロール基又はフェノール性水酸基を含む化合物と結合することもできる。特に本発明のフラーレン誘導体における置換基R1が2以上(式(I)においてn=2以上)である場合に、アルキロール基又はフェノール性水酸基を含む他のフラーレン誘導体に対する架橋剤として使用することもできる。
【0023】
式(1)において、mはフラーレン骨格に結合した置換基R1の数である。mは、1〜20であり、好ましくは2〜16、より好ましくは5〜10である。
なお、mが2以上である場合には、それぞれの置換基R1が、同一の構造でもよいし、異なる構造であってもよい。例えば1種類の化合物を原料として用いた場合は同一置換基を有する構造となり、複数の化合物混合系を原料に用いれば通常異なった構造の誘導体が得られる。目的とする用途に応じて複数の置換基を導入できる。
【0024】
以下、前記式(II)におけるA、B、R3についてより詳しく説明する。
【0025】
前記式(II)中のAが、置換基を有してもよい炭素原子数6〜18のアリーレン基であることが好ましい。
置換基を有してもよい炭素数6〜18のアリーレン基の具体的な例としては、フェニレン基、メチルフェニレン基、ジメチルフェニレン基、トリメチルフェニレン基、メトキシフェニレン基、ヒドロキシフェニレン基、ジヒドロキシフェニレン基、ヒドロキシメチルフェニレン基、エチルヒドロキシフェニレン基、ヒドロキシジメチルフェニレン基、アセチルフェニレン基、フッ化フェニレン基、クロロフェニレン基、ブロモフェニレン基、t-ブチルフェニレン基、エチルフェニレン基、ビフェニレン基、ナフチレン基、メチルナフチレン基、ヒドロキシナフチレン基、メトキシナフチレン基、アントラセニレン基、フェナントラセニレン基、ピレニレン基、等のアリーレン基が挙げられる。
この中でも、フェニレン基、ナフチレン基又はアントラセニレン基が好ましく、特にフェニレン基が好ましい。
【0026】
また、式(II)中のBが炭素原子数1〜12の直鎖状又は分岐鎖状の二価飽和炭化水素基であることが好ましい。
具体的にはメチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基等のアルキレン基;プロペニレン基、イソプロペニレン基、ブテニレン基、イソブテニレン基、ペンテニレン基、イソペンテニレン基等のアルケニレン基;プロピニレン基、ブチニレン基、ペンチニレン基、ヘプチニレン基等のアルキニレン基等が挙げられる。
この中でも、Bが、炭素原子数1〜12のアルキレン基であることが好ましく、Bがメチレン基であることが特に好ましい。
【0027】
また、前記式(II)中のR3が水素原子、又は炭素原子数1〜10のアルコール性水酸基の保護基であることが好ましい。
置換基R1において、R3で表される基が、水素原子、又は炭素原子数1〜10のアルコール性水酸基の保護基であると、酸等の添加又は加熱等により容易に脱離することができるため、その末端にはアルキロール基が生成する。
該アルキロール基は、上述のように、自己反応性を有し、分子間反応が進行し縮合物を得ることができるだけでなく、さらに置換基R1を複数(m≧2)有する場合は架橋性も持たせることができる。
【0028】
アルコール性水酸基の保護基の中でも、炭素原子数1〜10で炭素鎖中にエーテル結合又はチオエーテル結合を有していてもよいアルキル基、アリール基、シリルエーテル基、アシル基、アラルキル基又は環状構造を構成する原子数が5〜12であるヘテロ環状基であることが好ましい。
【0029】
炭素原子数1〜10で炭素鎖中にエーテル結合又はチオエーテル結合を有していてもよいアルキル基、アリール基、シリルエーテル基、アシル基、アラルキル基として、具体的には、メチル基、エチル基、メトキシメチル基、ベンジルメチル基、ベンジルオキシアルキル基、トリメチルシリル基、アセチル基、ベンゾイル基、ビバロイル基等が挙げられる。
環状構造を構成する原子数が5〜12であるヘテロ環状基として具体的には、テトラヒドロピラニル基が挙げられる。
なお、アルコール性水酸基の保護基は特に上記限定されるものではなく、公知の保護基が対象となる。例えば、THEODRA W.GREENE「PROTECTIVE GROUPS in ORGANIC SYNTHESIS」(WILLEY-INTERSCIENCE THID EDITION p23-200に記載されている保護基等も有効である。
【0030】
中でも、R3としては水素原子が好ましく、アルコール性水酸基の保護基である場合では、メチル基、ベンジル基、テトラヒドロピラニル基が好ましい。
【0031】
前記置換基R1は、フラーレン骨格を構成する任意の炭素原子に結合されていればよいが、反応性及び誘導体の有用性から、フラーレン骨格が有する下記式(III)で表わされる部分構造における、炭素原子C1〜C10の少なくとも一つに前記置換基R1が結合した構造を、フラーレン骨格中に少なくとも1か所含むことが好ましい。
【化7】

(式(III)中、C1〜C10は、フラーレン骨格を構成する炭素原子を表わす。)
【0032】
[1−1−3.置換基R2]
本発明のフラーレン誘導体は、上記置換基R1以外に、置換基R2が結合してもよい。
上述のように置換基R2は、水素原子、水酸基又は炭素数1〜30の有機基である。有機基としてはアルキル基、アルケニル基、アリル基又はアリール基等が挙げられる。また、上記式(I)に示すフラーレン骨格への結合した置換基R2の数を示すnは、0〜20の整数であり、0〜15であることが好ましい。nが2以上である場合は、個々のR2は相互に異なっていても同一でもよい。なお、n=0は、置換基R2が存在しないことを示す。
【0033】
2は水素原子又は炭素原子数1〜20(好ましく炭素原子数1〜10)のアルキル基であることが好ましい。
【0034】
上述のフラーレン誘導体の中でも、式(II)中のAがフェニレン基であり、BがCH2であるフラーレン誘導体が好ましい。
このようなフラーレン誘導体の中でも、特にフラーレン骨格がC60又はC70、mが5〜10の整数、かつR3が水素原子、メチル基又はテトラヒドロピラニル基であることが好ましい。
【0035】
[1−2.フラーレン誘導体の性質]
[1−2−1.反応性]
本発明のフラーレン誘導体は、式(II)で示される反応性の置換基R1を有すため、分子間縮合や架橋反応をすることができる。例えばフラーレンを用いた炭素膜の製造において、架橋膜を形成する際、必ずしも架橋剤を使用しなくてもよいので、炭素濃度等が低下せずフラーレンの特徴を損なうこともない。
また、本発明のフラーレン誘導体以外の、メチロール基又はフェノール性水酸基を含む化合物と縮合させることもできる。
特に本発明のフラーレン誘導体における置換基R1が2以上(式(I)においてn=2以上)である場合に、メチロール基又はフェノール性水酸基を含む他のフラーレン誘導体に対する架橋剤として使用することもできる。
【0036】
[1−2−2.溶解性]
本発明のフラーレン誘導体は、R1、R2として適当な置換基を選択することにより極性溶媒もしくは芳香族溶媒に可溶、即ち、極性溶媒もしくは芳香族溶媒に対する溶解性を高くすることができる。
なお、本明細書において、フラーレン誘導体が「極性溶媒に可溶」であるとは、フラーレン誘導体を極性溶媒に混合し、超音波照射を10分かけた後、目視で沈殿物や不溶分が検出されないことを意味する。具体的には、25℃、常圧下において、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテル−2−アセテート(以下、「PGMEA」ということがある。)又はシクロヘキサノン(以下、「CHN」ということがある)の何れかの極性溶媒に対して、極性溶媒の単位体積(1mL)あたり、フラーレン誘導体が10mg以上溶解する場合には、そのフラーレン誘導体は極性溶媒に対して可溶、即ち、極性溶媒に対する溶解性が高いと判断する。
また、本明細書において、フラーレン誘導体が「芳香族溶媒に可溶」であるとは、フラーレン誘導体を芳香族溶媒に混合し、超音波照射を10分かけた後、目視で沈殿物や不溶分が検出されないことを意味する。具体的には、25℃、常圧下において、トルエン又はキシレンの何れかの芳香族溶媒に対して、芳香族溶媒の単位体積(1mL)あたり、フラーレン誘導体が10mg以上溶解する場合には、そのフラーレン誘導体は芳香族溶媒に対して可溶、即ち、芳香族溶媒に対する溶解性が高いと判断する。
【0037】
本発明のフラーレン誘導体を極性溶媒に溶解させて用いる場合、極性溶媒の種類は、本発明のフラーレン誘導体が溶解するものであれば制限されない。極性溶媒の例としては極性有機溶媒が挙げられ、その例としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸フェニル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸フェニル、3−メトキシプロピオン酸メチル、3−エトキシプロピオン酸メチル、乳酸メチル、乳酸エチル等の直鎖状のエステル類;γ―ブチロラクトン、カプロラクトン等の環状エステル類;エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコール−1−モノエチルエーテルアセテート等のエーテルエステル類;メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソアミルケトン、メチルアミルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサン、アニソール、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール等のエーテルアルコール類;N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類;アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;ジメチルスルホキシド;等が挙げられる。また、前記エーテルアルコール類と酢酸等の酸とのエステル化合物であるエーテルエステル類(エステル類に相当。)も挙げられる。中でも、工業的な用途で用いられることが多い観点で、シクロヘキサノン、メチルアミルケトン等のケトン類及びエステル類を使用することが好ましく、中でもエステル類がより好ましく、その中でも、直鎖状のエステル類やエーテルエステル類が好ましく、特にプロピレングリコール−1−モノメチルエーテル−2−アセテート(即ち、PGMEA)、乳酸エチル等の高沸点エステル類が好ましい。
なお、極性溶媒は、何れか1種のみを用いてもよく、2種類以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても構わない。
【0038】
これらの極性溶媒は、DVD、CD等の光ディスク材料の製造、半導体集積回路の作製、半導体集積回路作製用マスクの製造、液晶用集積回路の作製、液晶画面製造用レジスト材料用等の溶媒として一般的に使用されている極性溶媒である。また、前記の極性溶媒は、特に、従来開発されているKrFエキシマレーザー、ArFエキシマレーザーに加えて、EUV(極端紫外光)やEB(電子ビーム)等の光源短波長化に適応したフォトレジスト、反射防止膜の機能を有した下層膜材料としてのフォトレジスト、ナノインプリント及び層間絶縁膜用として好適に用いられる溶媒である。したがって、前記の極性溶媒に可溶であること、即ち、前記の極性溶媒に対する溶解性が高いことは、本発明のフラーレン誘導体を、上記のような産業上広く使用されている溶媒に溶解することが可能であることを示している。また、フラーレン誘導体が前記の極性溶媒に溶解する場合、そのフラーレン誘導体は同様に他の有機溶媒に可溶である場合が多い。
【0039】
したがって、本発明のフラーレン誘導体の極性溶媒に対する溶解性が高いことは、本発明のフラーレン誘導体を、例えば、色素増感太陽電池、有機薄膜太陽電池等の有機太陽電池、有機トランジスタ、ダイオード、有機電界発光素子(有機EL素子)、非線形光学材等の有機デバイス全般;樹脂添加剤;潤滑剤;絶縁膜、リチウム二次電池、燃料電池、キャパシター等の電池における電池基材及びその添加剤、表面修飾等のコーティング材、その他セパレータ等の部材を構成する材料及び添加剤;金属、セラミクス添加剤;固体潤滑剤及び潤滑油添加剤等摺動用途への添加剤、触媒用、更には塗料、インク、医薬、化粧品、診断薬等、多方面での産業分野に適用可能であることを示している。
【0040】
また、上述の極性溶媒に対するフラーレン誘導体の好ましい溶解度の値は、フラーレン誘導体の用途によって異なる。例えば、半導体集積回路作製、半導体集積回路作製用マスクの製造、液晶用集積回路作製及び液晶画面製造用レジスト材料用途の塗膜を本発明のフラーレン誘導体を用いて形成するためには、本発明のフラーレン誘導体は上述の極性溶媒に対して、通常10mg/mL以上、好ましくは50mg/mL以上の溶解度を有することが望ましい。
【0041】
本発明のフラーレン誘導体が極性溶媒に対する高い溶解性を有する理由は定かでは無いが、本発明のフラーレン誘導体は、上記式(II)で表される置換基R1がフラーレン骨格への付加することにより、分子の対称性低下による非結晶化効果が生じているものと推察される。したがって、これらの要因により、本発明のフラーレン誘導体は予想を上回る程度に極性溶媒への高い溶解性を発現しているものと考えられる。
【0042】
一方、本発明のフラーレン誘導体を芳香族溶媒に溶解させて用いる場合、芳香族溶媒の種類は、本発明のフラーレン誘導体が溶解するものであれば制限されない。芳香族溶媒の例としては、トルエン、キシレン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、エチルベンゼン、1,2,3−トリメチルベンゼン、1,3,5−トリメチルベンゼン、1,2,4−トリメチルベンゼン、1−メチルナフタレン、1−フェニルナフタレン等の芳香族炭化水素類;クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、ブロモベンゼン、1,2,4−トリクロロベンゼン等の芳香族ハロゲン化炭化水素類;等が挙げられる。
中でも工業的に好ましいのは、ベンゼン、トルエン、キシレン、1,2,4−トリメチルベンゼン、クロロベンゼンである。
なお、芳香族溶媒は、何れか1種のみを用いてもよく、2種類以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても構わない。
【0043】
これらの芳香族溶媒は、塗料、インキ、農薬、医薬品等の一般溶剤として使用されている。したがって、前記の芳香族溶媒に可溶であること、即ち、前記の芳香族溶媒に対する溶解性が高いことは、本発明のフラーレン誘導体を、上記のような産業上広く使用されている溶媒に溶解することが可能であることを示している。
【0044】
したがって、本発明のフラーレン誘導体の芳香族溶媒に対する溶解性が高いことは、本発明のフラーレン誘導体を、例えば、塗料、インク、農薬、医薬、化粧品、診断薬等、多方面での産業分野に適用可能であることを示している。
【0045】
[1−2−3.熱的安定性]
本発明のフラーレン誘導体は、熱的安定性が非常に高い。これは、本発明のフラーレン誘導体がフラーレン骨格のπ電子共役を大量に保持しているためであり、通常の有機物では熱分解が始まる温度においても、分解することなく安定に存在することができる。そのため、通常の有機物では分解して用いることができない耐熱性を要する用途に関しても、本発明のフラーレン誘導体を好適に用いることができる。
【0046】
なお、本発明のフラーレン誘導体の熱安定性に関する評価は、高温による耐熱性試験を行ってもよいし、迅速に測定できるTG−DTA(示差熱熱重量同時測定)を用いて評価してもかまわない。なお、TG−DTAで評価する場合、流通させるガスの種類や量、パンの種類、昇温速度や測定上限温度、サンプル量等は、測定したい物性に応じて、任意に選択することができる。
【0047】
[2.フラーレン誘導体の製造方法]
本発明のフラーレン誘導体を製造する方法には制限は無く、任意の方法により製造することができる。
従来、フラーレン骨格に芳香族性を有する炭化水素基フラーレン誘導体の一般的な製造方法は既に確立されていた。例えば、非特許文献2や非特許文献3に記載されている方法等を参照することができる。本発明のフラーレン誘導体も上記文献記載の方法で製造することも可能であり、その場合の反応温度、溶媒の種類、試薬の配合順序、反応時間等の諸条件としては、上記文献に記載の条件を採用することも可能である。
【0048】
以下、本発明のフラーレン誘導体の製造方法を例示する。
ただし、以下に例示する製造方法は、本発明のフラーレン誘導体の製造方法の一例であり、本発明のフラーレン誘導体の製造方法は以下の例に限定されるものではない。
【0049】
本発明のフラーレン誘導体は、以下の(1)又は(2)から選ばれる少なくとも一つの方法を用いて合成することが好ましい。
(1)所定の置換基又はその先駆体構造を有する芳香族化合物に基づくグリニャール試薬とフラーレンとを反応させる方法
(2)金属ハロゲン化物の存在下で、所定の置換基又はその先駆体構造を有する芳香族化合物とフラーレンとを反応させる方法
【0050】
なお、合成方法(1)では、5重付加(上記式(I)においてR1、R2の付加数が、それぞれm=5、n=1であるもの)又は10重付加(上記式(I)においてR1、R2の付加数が、それぞれm=10、n=2であるもの)といった付加数に分布のないフラーレン誘導体を合成することが可能である。一方、合成方法(2)では付加数に分布があるが合成の工程数が少なく、より簡便に製造可能である。
また、本例の製造方法で使用するフラーレン誘導体の原料は、いずれも入手が容易なものである。また上述したように、本例の製造方法では原料を混合し、反応させることにより本発明のフラーレン誘導体を製造できる。したがって、本発明のフラーレン誘導体の製造方法によれば、特別な試薬や原料及び反応条件は必要とせず、また反応器の材質としても汎用のものが問題なく使用できる。
【0051】
特に、合成方法(1)における特に好適な方法として、フラーレンと、A−(B−O−R3)基を有するグリニャール試薬とを、R2−X(但しXはハロゲン原子である)で表されるハロゲン化合物の存在下で反応させる方法が挙げられる。
(但し、Aは置換基を有していてもよいアリール基、Bは鎖状の連結基、R3は水素原子又はアルキル基、アリール基、もしくはヘテロ環状炭化水素基であり、R2は水素原子、水酸基又は炭素数1〜30の有機基である。)
【0052】
以下、合成方法(1)、及び(2)について詳細に説明する。
なお、合成方法(1)及び(2)においては、フラーレン;所定の置換基又はその先駆体構造を有するグリニャール試薬;又は、金属ハロゲン化物;所定の置換基又はその先駆体構造を有する芳香族性を有する炭化水素化合物(以下、「原料炭化水素化合物」という。);を用意し、これらを反応させて、本発明のフラーレン誘導体を得る。この際、反応溶媒を用いることも可能であり、通常は当該反応溶媒中で反応を進行させる。
【0053】
[2−1.合成方法(1)]
合成方法(1)においては、フラーレン、遷移金属、グリニャール試薬(Grignard試薬)、及び、R2を導入し得る原料(以下、「R2導入剤」ということがある。)を混合し、これらを反応させて、本発明のフラーレン誘導体を得る。この際、通常は反応溶媒を用い、当該反応溶媒中で反応を進行させる。
【0054】
なお、上述の式(III)で示した部分構造において、C1に水素原子又は任意の基が結合した3重付加部分構造及び/又は5重付加部分構造を有するフラーレン誘導体の一般的な製造方法は確立されている。具体的にはC1に有機基が結合している場合は例えば特開2005−15470号公報、Chemistry Letter,2004年 、P328等に記載されている方法を参照することができる。また10重付加、8重付加、及び6重付加フラーレン誘導体の製造に関しては、例えばAngew Chem.Inc.Ed.2007,46,p2844-2847等に記載されている方法を参照することができる。
本発明のフラーレン誘導体も上記文献に記載の方法で製造することは可能であり、その場合の反応温度、溶媒種類、試薬の配合手順、反応時間の諸条件としては上記文献記載の条件を採用することが可能である。
【0055】
[2−1−1.フラーレン]
フラーレンとしては、上記[1.フラーレン誘導体]でフラーレンの具体例として挙げた各種のフラーレンを用いることができる。なお、フラーレンは何れか1種のみを使用してもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0056】
[2−1−2.遷移金属]
合成方法(1)においては、反応系に少なくとも1種の遷移金属を存在させる。
遷移金属の種類は制限されないが、長周期型周期表の第10族及び第11族に属する金属から選択される1種以上の遷移金属であることが好ましく、中でも反応性の観点から、第11族金属である銅が特に好ましい。
なお、反応系に存在させる遷移金属としては、何れか1種のみを単独で使用してもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0057】
また、これらの遷移金属としては、反応が進行すれば、遷移金属の単体を使用してもその錯体を使用してもよく、該遷移金属を含有する金属化合物(遷移金属化合物)を使用してもよい。
上記の遷移金属の単体、錯体及び金属化合物の例としては、臭化銅ジメチルスルフィド錯体、臭化銅ジブチルスルフィド錯体、ヨウ化銅ジメチルスルフィド錯体、ヨウ化銅ジブチルスルフィド錯体、塩化銅ジメチルスルフィド錯体、塩化銅ジブチルスルフィド錯体、シアン化銅、フッ化銅、塩化銅、臭化銅、ヨウ化銅、有機銅−ホスフィン錯体、フッ化銀、塩化銀、臭化銀、ヨウ化銀、フッ化金、塩化金、ヨウ化金、塩化パラジウム、臭化パラジウム、ヨウ化パラジウム、塩化ニッケル、臭化ニッケル、ヨウ化ニッケル、塩化白金、臭化白金、ヨウ化白金、ニッケルシクロオクタジエン錯体、パラジウムシクロオクタジエン錯体、白金シクロオクタジエン錯体、ニッケル−ホスフィン錯体、パラジウム−ホスフィン錯体、白金−ホスフィン錯体等が挙げられる。
中でも、反応性の観点から第11族金属でかつ1価の金属化合物及び金属錯体である臭化銅、臭化銅ジメチルスルフィド錯体が好ましい。
なお、遷移金属の単体、錯体及び金属化合物は、何れか1種のみを使用してもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0058】
反応系の遷移金属の含有量は、上記の反応が進行する限り任意であるが、フラーレンに対する比率で、通常6倍モル以上、好ましくは10倍モル以上、また、通常50倍モル以下、好ましくは20倍モル以下とすることが望ましい。遷移金属の含有量が多過ぎると製造コストが増大するうえ、フラーレン誘導体との分離が困難となる場合があり、少な過ぎると反応が完結しない場合がある。なお、2種以上の遷移金属を併用する場合には、それらの合計量が上記範囲を満たすようにすることが望ましい。
【0059】
[2−1−3.グリニャール試薬]
合成方法(1)では、反応系に少なくとも1種のグリニャール試薬を存在させる。上記の特許文献及び非特許文献に記載されている手法に従って、反応系にグリニャール試薬を共存させることにより、フラーレン骨格にR1を付加することができる。なお、グリニャール試薬は、何れか1種のみを使用してもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0060】
これらのグリニャール試薬の反応系への混合時期は、目的とするフラーレン誘導体が得られる限り制限は無い。ただし、合成方法(1)では、R2を導入する前に、付加反応を行うことが望ましい。このため、通常、R2導入剤を作用させる反応の前に、グリニャール試薬を反応系に導入するようにする。
【0061】
グリニャール試薬としては、例えば、R1−MX’で表される化合物を使用することができる。ここで、R1については上記の通り、A−(B−O−R3)基を有し、A、B、R3については、目的とする本発明のフラーレン誘導体の構造に応じて選択すればよい。
また、Mは、金属元素を表わす。Mの例としては、マグネシウム(Mg)、亜鉛(Zn)、水銀(Hg)、リチウム(Li)等が挙げられるが、中でも、マグネシウムが好ましい。
また、X’は、ハロゲン原子を表わす。X’の例としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられるが、臭素原子、ヨウ素原子が好ましく、臭素原子が特に好ましい。
【0062】
また、上記のR1−MX’において、R1が有する水酸基には、通常、保護基を導入しておき、その保護基を導入した化合物をグリニャール試薬として使用することが望ましい。 R1が有する水酸基に導入される保護基の例としては、メチル基、テトラヒドロピラニル基、シリル基等が挙げられる。なお、保護基は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
また、保護基の導入方法は保護基によって異なる。例えば、保護基がテトラヒドロピラニル基である場合は、弱酸存在下でジヒドロピランを作用させる等の手法が挙げられる。
【0063】
グリニャール試薬の使用量は、フラーレンに対する比率で、通常6倍モル以上、好ましくは10倍モル以上、また、通常50倍モル以下、好ましくは20倍モル以下とすることが望ましい。グリニャール試薬の使用量が多過ぎると製造コストが増大するうえ、反応停止に使用するR2導入剤を大量に必要とする場合があり、少な過ぎると反応が完結しない場合がある。
なお、2種以上のグリニャール試薬を併用する場合には、それらの合計量が上記範囲を満たすようにすることが望ましい。
【0064】
[2−1−4.R2導入剤]
2導入剤としては、導入する基(即ち、R2)によって、それぞれ適切なものを使用すればよい。例えば、R2が水素原子であるフラーレン誘導体を製造する場合、フラーレン骨格に水素原子を導入することができれば、このようなR2導入剤に他に制限はない。R2導入剤の例を挙げると、塩化アンモニウム水溶液、塩化水素水溶液等の酸性水溶液が挙げられる。また、酸化反応を抑制するためには、上記酸性水溶液の中に酸素が混入しないように、例えば脱気等の酸化反応抑制操作を行うことが好ましい。
【0065】
また、例えばR2が有機基であるフラーレン誘導体を製造する場合、フラーレン骨格に当該有機基を導入することができれば、R2導入剤に特に制限はない。このようなR2導入剤の例を挙げると、上記の有機基R2と脱離基Yとが結合した構造の化合物R2−Yを用いることができる。この際、脱離基Yとしては、求核置換反応の脱離基となり得る基であればその種類に制限はないが、例えば、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子X;アセトキシ基、トリフルオロアセトキシ基等のアシロキシ基;メタンスルホニルオキシ基、ベンゼンスルホニルオキシ基等のスルホニルオキシ基;等が挙げられる。
中でも、反応性及び原料調達の観点から、化合物R2−Yは、脱離基Yがハロゲン原子XであるR2−Xであることが好ましく、特にXが臭素原子、ヨウ素原子であることが好ましい。
【0066】
2導入剤は、何れか1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。ただし、単一の化合物を得るためには、何れか1種のみを単独で使用することが好ましい。
【0067】
なかでも、R2導入剤としては、反応の容易さ、生成物の安定性並びにコスト削減の観点からヨウ化メチルを、また溶解性向上の観点からアリルブロマイド、アリルアイオダイド、クロチルブロマイド、シンナミルブロマイドをそれぞれ単独で用いることが好ましい。
【0068】
2導入剤の使用量は、フラーレンに対して、通常2倍モル以上、好ましくは5倍モル以上、より好ましくは10倍モル以上、また、通常100倍モル以下、好ましくは50倍モル以下、より好ましくは30倍モル以下とすることが望ましい。R2導入剤の量が多過ぎると製造コストの点で不利となる場合があり、R2導入剤の量が少な過ぎると反応系に残存しているグリニャール試薬と反応して、反応が途中で停止し、目的とする化合物(本発明のフラーレン誘導体)が得られなくなる場合がある。なお、R2導入剤を2種以上併用する場合には、それらの合計量が上記範囲を満たすようにすることが望ましい。
【0069】
[2−1−5.反応溶媒]
本発明のフラーレン誘導体の製造方法では、少なくとも上記のフラーレン、遷移金属、グリニャール試薬及びR2導入剤を使用すればよいが、更に、通常は反応溶媒を使用する。
反応溶媒を使用する場合、上記のフラーレン、遷移金属、グリニャール試薬及びR2導入剤を好適に溶解及び/又は分散させることが可能な溶媒であれば、その種類は任意である。
【0070】
反応溶媒の例を挙げると、オルトジクロロベンゼン(ODCB)、クロロベンゼン、トリクロロベンゼン等のハロゲン置換芳香族溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン等の芳香族溶媒;クロロホルム、ジクロロメタン等のハロゲン炭化水素溶媒;ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、1,4−ジオキサン、メチルシクロペンチルエーテル等のエーテル溶媒;ピリジン、メチルピリジン、ジメチルピリジン等のピリジン溶媒等が挙げられる。中でも、フラーレンを好適に溶解させることができるハロゲン置換芳香族溶媒と、グリニャール試薬を安定に溶解させることができるエーテル溶媒との組み合わせが好ましく、具体的にはODCBとTHFとを組み合わせて用いることが好ましい。なお、反応溶媒は、何れか1種のみを使用してもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0071】
反応溶媒を使用する場合、その使用量は、フラーレンに対する比率で、通常1mg/mL以上、好ましくは5mg/mL以上、また、通常40mg/mL以下、好ましくは20mg/mL以下となる量を使用することが望ましい。反応溶媒の使用量が多過ぎると原料濃度が薄くなり、反応速度が遅くなる場合があり、少な過ぎると原料並びに生成物が溶解できず、反応が十分に進行しない場合がある。
なお、2種以上の反応溶媒を併用する場合には、それらの合計量が上記範囲を満たすようにすることが望ましい。
【0072】
また、本発明のフラーレン誘導体を製造する際、5重付加体(式(I)においてm=5)より多く付加させるには上記反応溶媒にピリジンを含むことが好ましい。フラーレン誘導体が、6重付加(式(I)においてm=6)、8重付加(式(I)においてm=8)及び10重付加(式(I)においてm=10)フラーレン誘導体である場合、上記反応溶媒にピリジンを含むことが特に好ましい。反応溶媒の総量に対するピリジンの割合は、通常5体積%以上、好ましくは10体積%以上、より好ましくは15体積%以上、また、その上限は、通常90体積%以下、好ましくは80体積%以下、より好ましくは70体積%以下であることが望ましい。即ち、ピリジンは、5重付加フラーレン誘導体より更に多重付加フラーレン誘導体を製造する際に有効であるが、その使用量が少なすぎるとピリジンを含むことにより得られる効果が十分に得られない可能性があり、多過ぎると製造コストが増大する可能性がある。
【0073】
また、本発明のフラーレン誘導体の製造に関しては、上記ピリジン以外にも塩基性添加剤を反応溶媒に混合することによって、5重付加フラーレン誘導体以上の多重付加フラーレン誘導体を安定して製造することができる。塩基性添加剤の具体例を挙げると、2−メチルピリジン、3−メチルピリジン、4−メチルピリジン、2,3−ジメチルピリジン、2,4−ジメチルピリジン、2,5−ジメチルピリジン、2,6−ジメチルピリジン、4−トリフルオロメチルピリジン、2−ジメチルアミノピリジン、3−ジメチルアミノピリジン、4−ジメチルアミノピリジン等のピリジン類、2,2−ビピリジン、2,4−ビピリジン、4,4−ビピリジン、4,4−ジメチル−2,2−ビピリジン、5,5−ジメチル−2,2−ビピリジン、6,6−ジメチル−2,2−ビピリジン等のビピリジン類、2,2,6,2−ターピリジン等のターピリジン類、テトラメチルエチレンジアミン、ペンタメチルジエチレントリアミン等の鎖状ポリアミン類等が挙げられる。なかでも、反応性の観点から、4−ジメチルアミノピリジン、2,2−ビピリジン、テトラメチルエチレンジアミンが好ましい。
なお、塩基性添加剤は、何れか1種のみを使用してもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。また、塩基性添加剤とピリジンとを、任意の比率で組み合わせて併用してもよい。
【0074】
また、塩基性添加剤の使用量は、フラーレンに対する比率で、通常5倍モル以上、好ましくは50倍モル以上、より好ましくは100倍モル以上、また通常2000倍モル以下、好ましくは1000倍モル以下、より好ましくは500倍モル以下とすることが望ましい。塩基性添加剤の使用量が多過ぎると製造コストが増大する場合があり、また、少な過ぎると、反応が完全に進行しない場合がある。
なお、2種以上の反応溶媒を併用する場合には、それらの合計量が上記範囲を満たすようにすることが望ましい。
【0075】
[2−1−6.操作及び反応条件]
上記のフラーレン、遷移金属、グリニャール試薬及びR2導入剤、並びに、必要に応じて用いられる反応溶媒、塩基性添加剤等を混合する順序、反応条件等は、本発明のフラーレン誘導体が製造できる限り任意である。また、反応系には、反応の進行を阻害しない限り上記したもの以外の成分を含有させてもよい。
【0076】
ただし、通常は、反応溶媒中に遷移金属の単体、錯体及び/又は金属化合物が懸濁している状態で、グリニャール試薬及び必要に応じて用いられる塩基性添加剤を混合した後、フラーレンを混合し、次いでR2導入剤を混合することが好ましい。この手順によれば、R2導入剤を混合する段階で、R1が付加されたフラーレン誘導体と遷移金属とが錯体構造を有する中間体を形成していると考えられるので、その段階でR2導入剤を混合することができるため、効率よく製造できる。
なお、C60誘導体及び/又はC70誘導体と銅とにより形成される中間体に関しては、例えば「季刊・化学総説43 炭素第三の同素体 フラーレンの化学」169〜170ページ等に、その推定構造が記載されている。
【0077】
反応時の温度条件は反応が進行する限り制限されないが、反応系にR2導入剤を加えた後の反応系の温度を、通常0℃以上、好ましくは15℃以上、また、通常100℃以下、好ましくは70℃以下とすることが望ましい。
反応時間も制限されないが、反応系にR2導入剤を加えた後、通常30分以上、好ましくは2時間以上、また、通常数十時間以下、好ましくは10時間以下反応させることが望ましい。
【0078】
また、R2導入剤は、通常、フラーレンの転化率が所定の数値以上になった段階で反応系中に混合するが、生成物の酸化防止のために、例えば窒素バブリング、真空脱気等の脱気操作を行なってから反応系に加えることが好ましい。
なお、製造に関する他の操作は、これまで上記の特許文献及び非特許文献等で報告されている方法を採用することが出来る。
【0079】
また、上記の反応において、グリニャール試薬としてR1の水酸基に保護基が導入された化合物を用いた場合、反応により生成する本発明のフラーレン誘導体は、通常はR1のアルコール性水酸基に保護基が導入された状態となっている(これを以下「水酸基保護フラーレン誘導体」と言うことがある。)。従って、必要に応じて、得られた水酸基保護フラーレン誘導体に対し、保護基の種類に対応した脱保護剤を作用させ、保護基を脱離させる(この反応を「脱保護反応」と言うことがある。)ことで、アルキロール基を有する本発明のフラーレン誘導体を製造することもできる。この際、脱保護剤は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0080】
例えば、保護基がメチル基である場合、脱保護剤の例としては、三臭化ホウ素、三塩化ホウ素、三塩化アルミニウム、トリメチルシリルアイオダイド等が挙げられる。中でも、反応性の観点から、三臭化ホウ素、トリメチルシリルアイオダイドが好ましい。なお、これらの脱保護剤の取扱が困難な場合は、in situで発生させる方法を用いてもよい。
これらの脱保護剤の使用量は、上記の保護基(即ち、メチル基)を脱離させることができる限り任意であるが、保護基であるメチル基に対する割合で、通常1倍モル以上、好ましくは1.2倍モル以上、より好ましくは1.4倍モル以上、また、通常10倍モル以下、好ましくは5倍モル以下、より好ましくは3倍モル以下とすることが望ましい。脱保護剤の使用量が多過ぎると、製造コストの点で不利となる場合があり、脱保護剤の使用量が少な過ぎると、反応が完結しない場合がある。なお、脱保護剤を2種以上併用する場合、それらの合計量が上記範囲を満たすようにすることが望ましい。
【0081】
また、例えば保護基がテトラヒドロピラニル基である場合、脱保護剤の例としては、パラトルエンスルホン酸、メタトルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、メタンスルホン酸、塩酸、硫酸等の酸性物質等が挙げられる。中でも、反応性の観点から、パラトルエンスルホン酸、メタンスルホン酸が好ましい。
これらの脱保護剤の使用量は、上記の保護基(即ち、テトラヒドロピラニル基)を脱離させることができる限り任意であるが、保護基であるテトラヒドロピラニル基に対する割合で、通常0.01倍モル以上、好ましくは0.03倍モル以上、また、通常2倍モル以下、好ましくは1倍モル以下とすることが望ましい。脱保護剤の使用量が多過ぎると、製造コストの点で不利となったり、得られるフラーレン誘導体への不純物の混入量が増大したりする場合があり、脱保護剤の使用量が少な過ぎると、反応時間が長くなる場合がある。なお、脱保護剤を2種以上併用する場合、それらの合計量が上記範囲を満たすようにすることが望ましい。
【0082】
上記の脱保護反応は、通常、水酸基保護フラーレン誘導体を有機溶媒に溶解又は懸濁させた状態で行なう。反応に使用する有機溶媒は、脱保護反応を阻害したり、好ましからぬ反応を生じるものでない限り、任意に選択して構わない。有機溶媒の具体例としては、クロロベンゼン、オルトジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、塩化メチレン等のハロゲン系炭化水素;トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン等の芳香族炭化水素;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール系溶媒;アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル系溶媒;等が挙げられる。これらの有機溶媒は、何れか1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0083】
水酸基保護フラーレン誘導体に対して使用する有機溶媒の量は任意であるが、有機溶媒中における水酸基保護フラーレン誘導体の濃度が、通常1mg/mL以上、好ましくは10mg/mL以上、より好ましくは15mg/mL以上、また、通常1000mg/mL以下、好ましくは500mg/mL以下、より好ましくは100mg/mL以下となるようにすることが望ましい。
【0084】
また、何れの脱保護反応に関しても、反応の進行を阻害しなければ、水酸基保護フラーレン誘導体、脱保護剤、有機溶媒等の混合順序は問わず、また、脱保護反応が進行すれば、反応条件も任意である。
ただし、その温度条件は、脱保護反応の種類によって大きく異なるが、通常0℃以上、好ましくは15℃以上、また、通常180℃以下、好ましくは120℃以下とすることが望ましい。
また、反応時間は、通常30分以上、好ましくは2時間以上、また、通常数十時間以下、好ましくは10時間以下とすることが望ましい。
【0085】
反応終了後、通常は、生成した本発明のフラーレン誘導体を反応液から常法により単離する。単離操作は、各反応の種類によって異なるが、例えば、反応液をそのままヘキサン等の貧溶媒で晶析したり、反応液に例えばイオン交換水、亜硫酸水溶液等を加えて反応を停止させ、そのまま適当な溶媒で抽出した後、分液し溶媒を留去したりすることにより、生成物を単離することができる。
【0086】
得られた本発明のフラーレン誘導体は、必要に応じて適宜、例えば高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、シリカゲルカラムクロマトグラフィー、アルミナカラムクロマトグラフィー、再結晶等の手法で精製してもよい。単離収率は、上記の好ましい反応条件で行なえば、通常60%以上、好ましくは80%以上である。
【0087】
[2−2.合成方法(2)]
合成方法(2)は、金属ハロゲン化物の存在下で、所定の置換基又はその先駆体構造を有する芳香族化合物とフラーレンとを反応させる方法である。
【0088】
[2−2−1.フラーレン]
フラーレンとしては、上記[1.フラーレン誘導体]の欄で説明した各種のフラーレンを用いることができる。なお、フラーレンは何れか1種のみを使用してもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0089】
[2−2−2.金属ハロゲン化物]
合成方法(2)では、反応系に少なくとも1種の金属ハロゲン化物を存在させる。金属ハロゲン化物の種類は制限されないが、長周期型周期表の第8族、第13族、及び第15に属する金属から選択される金属のハロゲン化物であることが好ましく、中でも、第8族及び第13族金属のハロゲン化物が好ましく、鉄及びアルミニウムのハロゲン化物が特に好ましい。
なお、反応系に存在させる金属ハロゲン化物としては、何れか1種のみを単独で使用してもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0090】
金属ハロゲン化物の例としては、塩化アルミニウム、塩化鉄、塩化ガリウム、塩化アンチモン等の金属塩化物;臭化鉄、臭化アルミニウム等の金属臭化物;フッ化アンチモン等の金属フッ化物;等が挙げられる。中でも、反応性及びコストの観点から塩化鉄、塩化アルミニウムが好ましい。
【0091】
反応系中の金属ハロゲン化物の含有量は、前記の反応が進行する限り任意であるが、フラーレンに対する比率で、通常1倍モル以上、好ましくは3倍モル以上、より好ましくは10倍モル以上、また、通常200倍モル以下、好ましくは100倍モル以下、より好ましくは30倍モル以下とすることが望ましい。金属ハロゲン化物の含有量が多過ぎると製造上コストが増大するうえ、フラーレン誘導体との分離が困難となる場合があり、少な過ぎると反応が完結しない場合がある。なお、2種以上の金属ハロゲン化物を併用する場合には、それらの合計量が上記範囲を満たすようにすることが望ましい。
【0092】
[2−2−3.原料炭化水素化合物]
合成方法(2)では、反応系に少なくとも一種の芳香族性し、かつ、アルコール性水酸基(保護されたものも含む)を有する炭素数6〜18の炭化水素化合物(原料炭化水素化合物)を存在させる。このような原料炭化水素化合物としては、置換基を有してもよく、少なくとも一つの水素原子を有するものを用いる。原料炭化水素化合物の種類は、製造しようとするフラーレン誘導体の構造に応じて適切なものを任意に選択すればよい。通常、式(I)の炭化水素基R1の結合手に水素原子が少なくとも1個結合した構造の炭化水素化合物を原料炭化水素化合物として用いる。
なお、反応系に存在させる原料炭化水素化合物としては、何れか1種のみを使用してもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0093】
原料炭化水素化合物の例としては、ベンジルアルコール、2-メチルベンジルアルコール、3-メチルベンジルアルコール、4-メチルベンジルアルコール、2,4-ジメチルベンジルアルコール、2,6-ジメチルベンジルアルコール、3,5-ジメチルベンジルアルコール、2,3,4-トリメチルベンジルアルコール、2,4,5-トリメチルベンジルアルコール、2,3,5-トリメチルベンジルアルコール、2,4,6-トリメチルベンジルアルコール、2,3,6-トリメチルベンジルアルコール、1,2-ベンゼンジメタノール、1,3-ベンゼンジメタノール、1,4-ベンゼンジメタノール、2-ヒドロキシベンジルアルコール、3-ヒドロキシベンジルアルコール、4-ヒドロキシベンジルアルコール、1,3,5-ベンゼントリメタノール、1-ナフタレンメタノール、2-ナフタレンメタノール、3-ナフタレンメタノール、2,3-ビス(ヒドロキシメチル)ナフタレン、2-(ヒドロキシメチル)アントラセン、9-(ヒドロキシメチル)アントラセン等が挙げられ、また、これら炭化水素化合物の有するアルコール性水酸基がアルコール性水酸基の保護基で保護されている化合物等が挙げられる。中でも、反応性の観点からベンジルアルコールやベンジルメチルエーテルが好ましい。
【0094】
原料炭化水素化合物の含有量は、前記の反応が進行する限り任意であるが、フラーレンに対する比率で、通常10倍モル以上、好ましくは20倍モル以上、また、通常4000倍モル以下、好ましくは100倍モル以下とすることが望ましい。原料炭化水素化合物の含有量が多過ぎると製造コストが増大するうえ、フラーレン誘導体との分離が困難となる場合があり、少な過ぎると反応が完結しない場合がある。
【0095】
[2−2−4.反応溶媒]
合成方法(2)では、例えば原料炭化水素化合物が常温で固体状態の場合等においては、更に、反応溶媒を使用してもよい。反応溶媒を使用する場合、上述のフラーレン、金属ハロゲン化物及び原料炭化水素化合物を好適に溶解及び/又は分散させることが可能な溶媒であれば、その種類は任意である。
【0096】
溶媒の例を挙げると有機溶媒が挙げられる。中でも、フラーレン誘導体が可溶である溶媒が好ましい。その例を挙げると、ハロゲン置換芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、塩素化炭化水素等が挙げられる。なお、これらは環式でもよく、非環式でもよい。
【0097】
ハロゲン置換芳香族炭化水素としては、例えば、オルトジクロロベンゼン(ODCB)、クロロベンゼン、トリクロロベンゼン等が挙げられる。
【0098】
脂肪族炭化水素は、環式、非環式のいずれも使用できる。環式脂肪族炭化水素としては、例えば、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン等の単環式脂肪族炭化水素;その誘導体であるメチルシクロペンタン、エチルシクロペンタン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、1,2−ジメチルシクロヘキサン、1,3−ジメチルシクロヘキサン、1,4−ジメチルシクロヘキサン、イソプロピルシクロヘキサン、n−プロピルシクロヘキサン、tert−ブチルシクロヘキサン、n−ブチルシクロヘキサン、イソブチルシクロヘキサン、1,2,4−トリメチルシクロヘキサン、1,3,5−トリメチルシクロヘキサン等;デカリン等の多環式脂肪族炭化水素;n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、イソオクタン、n−ノナン、n−デカン、n−ドデカン、n−テトラデカン等の非環式脂肪族炭化水素等が挙げられる。
【0099】
塩素化炭化水素としては、例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、1,2−ジクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、1−クロロナフタレン等が挙げられる。
【0100】
また、その他の有機溶媒としては、例えば、クロロホルム、ジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素;ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、1,4−ジオキサン、メチルシクロペンチルエーテル等のエーテル類(好ましくは炭素数6以上のエーテル類);ピリジン、メチルピリジン、ジメチルピリジン等のピリジン類;炭素数6以上のケトン類;炭素数6以上のエステル類;二硫化炭素;等が挙げられる。
【0101】
中でも、フラーレンを好適に溶解させることができる観点から、塩素化炭化水素及びハロゲン置換芳香族炭化水素が好ましく、1,1,2,2−テトラクロロエタン及びODCBが特に好ましい。
なお、反応溶媒は、何れか1種のみを使用してもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0102】
反応溶媒を使用する場合、その使用量は、反応溶媒中のフラーレンの濃度が、通常0.5mg/mL以上、好ましくは1.5mg/mL以上、また、通常100mg/mL以下、好ましくは50mg/mL以下となる量とすることが望ましい。反応溶媒の使用量が多過ぎると原料濃度が薄くなり、反応速度が遅くなる場合があり、少な過ぎると原料並びに生成物が十分に溶解できず、反応が完全に進行しない場合がある。
なお、2種以上の反応溶媒を併用する場合には、それらの合計量が上記範囲を満たすようにすることが望ましい。
【0103】
なお、合成方法(2)では少なくとも上述のフラーレン、金属ハロゲン物及び原料炭化水素化合物を反応させることができればよい。したがって、原料炭化水素化合物が反応温度において液体であれば原料炭化水素化合物を反応媒として用いてもよい。
【0104】
[2−2−5.操作及び反応条件]
上述のフラーレン、金属ハロゲン化物及び原料炭化水素化合物、並びに、必要に応じて用いられる反応溶媒を混合する順序及び反応条件は、本発明のフラーレン誘導体が製造できる限り任意である。また、反応系には、反応の進行を阻害しない限り上述したもの以外の成分を含有させてもよい。
例えば反応溶媒を使用する場合は、反応溶媒中にフラーレンが溶解/懸濁している状態で金属ハロゲン化物を混合した後に、原料炭化水素化合物を混合することができる。また、例えば反応溶媒を使用しない場合は、原料炭化水素化合物中にフラーレンが溶解/懸濁している状態で金属ハロゲン化物を混合することができる。
【0105】
反応時の温度条件は反応が進行する限り制限されないが、原料炭化水素化合物を混合した後の反応系の温度を、通常10℃以上、好ましくは20℃以上、また、通常150℃以下、好ましくは80℃以下とすることが望ましい。
反応時間も制限されないが、原料炭化水素化合物を混合した後、通常5分以上、好ましくは1時間以上、また、通常24時間以下、好ましくは5時間以下に亘って反応させることが望ましい。
【0106】
反応終了後、通常は、生成した本発明のフラーレン誘導体を反応液から常法により単離する。単離操作は、各反応の種類によって異なるが、例えば、反応液をそのままヘキサン等の貧溶媒で晶析して生成物を単離する方法が挙げられる。また、例えば、反応液にイオン交換水等を加えて反応を停止させ、そのまま適切な溶媒で抽出した後、分液し溶媒を留去することにより、生成物を単離する方法が挙げられる。
【0107】
得られた本発明のフラーレン誘導体は、必要に応じて、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、シリカゲルカラムクロマトグラフィー、アルミナカラムクロマトグラフィー、再結晶等の手法で精製してもよい。
なお、本発明のフラーレン誘導体は、通常、プロトン核磁気共鳴スペクトル法(以下、「1H−NMR」という場合がある。)、カーボン核磁気共鳴スペクトル法(以下、「13C−NMR」という場合がある。)、赤外線吸収スペクトル法(以下、「IR」という場合がある。)、質量分析法(以下、「MS」という場合がある。)、元素分析等の一般的な有機分析により、その構造を確認することができる。この他、フラーレン誘導体の結晶性がよい場合は、X線結晶回折法によって構造を確認できる場合もある。
【0108】
[3.フラーレン誘導体組成物]
本発明のフラーレン誘導体は、他の成分と併用して組成物とすることもできる。例えば、フェノール化合物と酸性又はアルカリ性触媒とを共存させることにより、架橋性の組成物を得ることができる。
その他、各種ポリマー、界面活性剤、触媒等を本発明の効果を損なわない範囲で含有させてもよい。
【0109】
フラーレン誘導体組成物中の本発明のフラーレン誘導体の含有量は、特に限定はないが、上述の本発明のフラーレン誘導体の少なくとも1種を0.01重量%以上、特には0.1重量%以上含むことが好ましい。
【0110】
[4.フラーレン誘導体溶液]
本発明のフラーレン誘導体溶液(以下、「本発明の溶液」ということがある。)は、本発明のフラーレン誘導体を含有する溶液である。通常は、本発明の溶液において、本発明のフラーレン誘導体は溶媒に溶解した状態で存在する。
【0111】
[4−1.溶媒]
本発明の溶液において、溶媒の種類は任意であるが、本発明のフラーレン誘導体を溶かしやすいものを用いることが好ましい。その例としては上記[1−2−2]で示した各種の有機溶媒を挙げることができる。
【0112】
本発明の溶液において、溶媒は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。したがって、前記の芳香族溶媒及び極性溶媒は、いずれも、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。また、両者を併用してもよい。
【0113】
[4−2.フラーレン誘導体]
本発明のフラーレン誘導体は、上述したとおりである。
ただし、本発明の溶液に含まれる本発明のフラーレン誘導体は、1種のみであってもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0114】
本発明の溶液における本発明のフラーレン誘導体と溶媒との比率は任意である。本発明の溶液中の本発明のフラーレン誘導体の具体的な濃度は、フラーレン誘導体の溶媒への溶解度、フラーレン誘導体膜の膜厚等により異なるため一義的に定めることは困難であるが、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1質量%以上、特に好ましくは5質量%以上であり、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下、特に好ましくは20質量%以下である。濃度が低すぎると、多量の溶媒を必要とし不経済であると共に、膜厚の大きなフラーレン誘導体膜を成膜することが困難となる傾向がある。また、濃度が高すぎると、溶液の粘性が高くなるため取り扱いが困難になり、均一な膜厚のフラーレン誘導体膜を得ることが困難になる傾向がある。
さらに、本発明の溶液において、本発明のフラーレン誘導体は全部が溶媒に完全溶解していることが好ましいが、一部溶解できずに溶液が懸濁していてもよく、或いは再分散可能であれば、沈殿していても構わない。
【0115】
[4−3.その他の成分]
本発明のフラーレン誘導体の優れた物性を大幅に損ねるものでなければ、本発明の溶液は、本発明のフラーレン誘導体及び溶媒以外にその他の成分を含有していてもよい。なお、その他の成分は1種のみを含有していてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で含有していてもよい。
【0116】
[4−4.溶液の調製方法]
本発明のフラーレン誘導体を溶媒に溶解させることができれば、本発明の溶液の調製方法に制限はなく、例えば、所定の装置で攪拌しながら溶解させる手法;超音波を照射して溶解させる手法等で調製できる。また、本発明のフラーレン誘導体及び溶媒、並びに、必要に応じて用いられるその他の成分の混合順序も、特に制限はない。
本発明の溶液は、安定性や操作性の観点から通常25℃程度で調製されるが、溶媒の沸点以下であれば、加熱しながら溶解させ、保管することができる。また、本発明のフラーレン誘導体が析出する可能性があるが、25℃以下の低温下で調製、保管することも可能である。
【0117】
上述したように、本発明のフラーレン誘導体は安価な試薬のみで簡単に製造可能である。したがって、本発明の溶液も安価な試薬のみで簡単に製造可能であり、従来と比較して少なくともコストの面で非常に有利である。
【0118】
[5.フラーレン誘導体膜]
本発明のフラーレン誘導体膜は、本発明のフラーレン誘導体を含むか、又は該フラーレン誘導体に由来するものであり、フォトレジスト膜形成材料又はフォトレジスト下層膜形成材料として好適に使用できる。
本発明のフラーレン誘導体は、単に乾燥させて形成した膜(以下、「フラーレン乾燥膜」と称す場合がある。)でも、他のポリヒドロキシスチレン等の有機膜と比べて高い硬度を有すが、さらに架橋をさせて硬度を向上させた膜(以下、「フラーレン架橋膜」と称す場合がある。)とすることができる。すなわち、本発明のフラーレン誘導体が有する上記式(II)で表される反応性の置換基R1を適当な条件にて分子間反応を行わせ、R1がm≧2の場合はフラーレン架橋膜とすることができ、フラーレン誘導体膜の強度を向上させることができるだけでなく、耐溶剤性を持たせることができる。なお、付加数が少ないと、フラーレン誘導体が一部結合している状態で、全体として架橋しているとはいえない場合もあるが、本明細書では両者を含む概念として「フラーレン架橋膜」と呼ぶ。
以下、「本発明のフラーレン誘導体膜」と記載した場合には、上記「フラーレン乾燥膜」と、「フラーレン架橋膜」の両方を意味するものとする。
【0119】
本発明のフラーレン誘導体膜は、本発明のフラーレン誘導体のみにより形成されていてもよいが、本発明のフラーレン誘導体が有する優れた物性を大幅に損ねるものでなければ、その他の成分が含有されていてもかまわない。なお、その他の成分は1種のみを含有していてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で含有していてもよい。
【0120】
特にフラーレン架橋膜の場合には、本発明のフラーレン誘導体のみ、又はフェノール基等の架橋性官能基を有するフラーレン誘導体と架橋させて形成させることが好ましい。特にフラーレン誘導体のみを架橋させることで、炭素密度が高く、高硬度で、エッチング耐性、反射防止効果等の膜性能に優れた膜となる。
なお、フラーレン架橋膜は、本発明のフラーレン誘導体のみを架橋して形成する膜だけでなく、本発明のフラーレン誘導体と、フラーレン骨格を有していない他の架橋性化合物とを架橋反応させて形成する膜も含み、本発明のフラーレン誘導体を併用することで、フェノール樹脂等の他の架橋性化合物の耐熱性や耐エッチング性を向上させることができる。
【0121】
また、本発明のフラーレン誘導体膜は同一組成の単層膜であってもよく、異なる組成を有する構成膜が2層以上積層された多層膜であってもよい。
【0122】
本発明のフラーレン誘導体膜の製造方法に制限は無い。ただし、上述したように、本発明のフラーレン誘導体が上記の溶媒(特に芳香族溶媒、エステル溶媒、ケトン溶媒、エーテル溶媒)に高い溶解性を示すことを利用して、本発明の溶液を基材上に塗布し、塗膜を乾燥させてフラーレン誘導体膜を製造することが好ましい。
【0123】
塗膜の形成後に行う乾燥としては、通常は加熱乾燥処理により行う。具体的な乾燥条件に制限は無いが、通常80〜800℃で、10秒から3000秒の範囲で加熱を行うことが好ましい。特に架橋性フラーレン誘導体膜とする場合には、通常100〜600℃で、30秒から300秒の範囲で加熱を行うことが好ましい。
本発明のフラーレン誘導体は通常の有機化合物に比べて熱安定性に優れるため、このような加熱乾燥処理においても熱分解することなく、安定な膜を形成することができる。なお、加熱は大気下や、アルゴン、窒素等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0124】
塗膜形成のための基材には制限はなく、例えば、有機被膜;シリコン基板、ポリシリコン膜、酸化シリコン膜、窒化シリコン膜等のシリコン被膜、金属配線等の無機被膜;等が挙げられる。
【0125】
本発明の溶液の塗布方法にも制限は無く、例えば、スプレー法、スピンコート法、ディップコート法、ロールコート法等を用いることができる。
【0126】
本発明のフラーレン誘導体膜は、耐熱性に優れる。これは、上述したように本発明のフラーレン誘導体が非常に高い熱的安定性を有するからである。
【0127】
また、本発明のフラーレン誘導体膜は、その成分である本発明のフラーレン誘導体が、フラーレン骨格のπ電子共役を大量に保持しているうえ、置換基とし芳香族性を有する炭化水素基が導入されているため、高いエッチング耐性が期待できる。
【0128】
本発明のフラーレン誘導体膜の膜厚は、用途によって異なり、一律に限定することはできないが、通常10nm以上、好ましくは30nm以上であり、また、通常1,000nm以下、好ましくは500nm以下、より好ましくは300nm以下である。
【0129】
[6.フラーレン誘導体、フラーレン誘導体組成物、フラーレン誘導体溶液及びフラーレン誘導体膜の用途]
本発明のフラーレン誘導体、フラーレン誘導体組成物、本発明の溶液及びフラーレン誘導体膜は、例えば、前述した任意の用途に用いることができる。以下に、いくつかの用途の例に関して具体的に説明するが、本発明の効果が発揮できる用途に関しては、以下の記載に限定されるものではない。
【0130】
[6−1.フォトレジスト用途]
従来、フォトレジストは、被膜形成成分として(メタ)アクリル系、ポリヒドロキシスチレン系またはノボラック系の樹脂等の樹脂成分と、露光により酸を発生する酸発生剤や感光剤とを組み合わせた組成物が広く用いられていた。本発明のフラーレン誘導体は、通常、フォトレジストに使用される有機溶媒への溶解度が高いことにより、特殊な溶媒を用いることなく、より高濃度でフォトレジストに複合化が可能である。また、フラーレン誘導体単独でもレジスト膜を形成することが可能であり、フォトレジスト膜形成材料又はフォトレジスト下層膜形成材料として好適に使用できる。
【0131】
このように本発明のフラーレン誘導体又は本発明の溶液は、フォトレジストの分野に用いた場合、フラーレン骨格を有する事により、超芳香族分子としての高耐熱性、高エッチング耐性を有し、エッジラフネスの低減が可能であり、高解像度のフォトレジストの再現ができる。また、本発明のフラーレン誘導体又は本発明の溶液を用いて形成したレジスト膜は本発明のフラーレン誘導体膜に相当し、反射防止膜としての機能も有することより、多層膜の一層として、特に反射防止膜や塗布型のマスク材(ハードマスク)としても優れた機能を発揮することが期待される。
【0132】
[6−2.半導体製造用途]
半導体製造等の分野では、例えば500μm以下の微細パターンを生産効率よく形成する方法としてナノインプリント法が検討されている。ナノインプリント法とは、微細パターンを有するモールドのパターンを転写層に転写する微細パターンの形成方法である。
【0133】
このようなナノインプリント法としては、例えば、熱可塑性重合体からなる転写層を加熱して軟化させる工程と、転写層とモールドとを圧着してモールドのパターンを転写層に形成する工程と、モールドを転写層から離脱させる工程とを順次行う方法;硬化性単量体からなる転写層をモールドに接触させる工程と、硬化性単量体を硬化させる工程と、硬化性単量体の硬化物からモールドを離脱させる工程とを順次行う方法;等が知られている。本発明のフラーレン誘導体は、通常、上記熱可塑性重合体や硬化性物質に使用される有機溶媒への溶解度が高いことにより、特殊な溶媒を用いることなく、上記熱可塑性重合体に高濃度で充填することが可能である。なお、フラーレン誘導体を充填された熱可塑性重合体からなる転写層は、本発明のフラーレン誘導体膜に相当する。
【0134】
このように本発明のフラーレン誘導体又は本発明の溶液をナノインプリント法に用いた場合、有機溶媒に対する本発明のフラーレン誘導体の溶解性が高いことから、本発明のフラーレン誘導体は熱可塑性重合体中での凝集が抑制され分子状分散となる。このため、高解像度を実現することが可能である。さらに、本発明のフラーレン誘導体又は本発明の溶液をナノインプリント法に用いることにより、転写層の機械的強度、耐熱性及びエッチング耐性を向上させることが可能であることから、従来のナノインプリント材料の特性を大幅に改善することが可能となる。
【0135】
[6−3.低誘電率絶縁材料用途]
近年、コンピュータの中央処理装置(CPU)用回路基盤には、樹脂薄膜を層間絶縁膜とする高密度かつ微細な多層配線に適した樹脂薄膜配線が適用されるようになってきた。将来よりも高速な処理能力を有するコンピュータを実現するには、高密度かつ繊細な多層配線を活かし、更に信号の高速伝播に適した低誘電率絶縁材料の開発が求められている。
本発明のフラーレン誘導体は、通常、上記用途に使用される有機溶媒への溶解度が高いことより、特殊な溶媒を用いることなく、より高濃度で他の材料と複合化することが可能である。また、フラーレン誘導体単独で成膜することも可能である。この際、本発明のフラーレン誘導体は、フラーレン構造が本質的に有する高抵抗、低誘電率の性質を保持しており、複合化して用いる際にはフィラーとしての機械的強度の向上効果を有することができ、これにより、従来にない優れた性能の低誘電率の層間絶縁膜の実現が可能となる。
【0136】
[6−4.太陽電池用途]
有機太陽電池は、シリコン系の無機太陽電池と比較して、優位な点が多数あるものの、エネルギー変換効率が低く、実用レベルに十分には達していない。この点を克服するため、最近、電子供与体である導電性高分子と、電子受容体であるフラーレン又はフラーレン誘導体とを混合した活性層を有するバルクヘテロ接合型有機太陽電池が提案されている。
このバルクヘテロ接合型有機太陽電池では、導電性高分子とフラーレン誘導体それぞれとが分子レベルで混じり合い、その結果非常に大きな界面を作り出すことに成功し、変換効率の大幅な向上が実現されている。
【0137】
本発明のフラーレン誘導体は、上記用途で使用される有機溶媒への溶解度が高いため、p型半導体と効率的なバルクへテロ接合構造を構成することが容易である。また、本発明のフラーレン誘導体は、本質的にn型半導体としてのフラーレンの性質は保持している。
これらのことにより、本発明のフラーレン誘導体又は本発明の溶液を用いれば、極めて高性能な有機太陽電池の実現が可能となる。さらに高溶解性を利用し、導電性高分子等の電子供与体層との層分離制御や誘導体分子の整列配向性・細密充填性等のモルフォロジー制御を可能にし、これにより特性の向上が実現できる上、デバイス設計において高い柔軟性を与える。また、製造上も通常の印刷法やインクジェットによる印刷、更にはスプレー法等により、低コストで容易に大面積化を実現する事が可能である。
【0138】
[6−5.半導体用途]
光センサー、整流素子等への応用が期待できる電界効果トランジスタの有機材料として、フラーレン及びフラーレン誘導体を使用することが研究されている。一般的に、フラーレン及びフラーレン誘導体を半導体に用いて電界効果トランジスタを作製した場合、当該電界効果トランジスタはn型のトランジスタとして機能することが知られている。
本発明のフラーレン誘導体は、上記用途で使用される有機溶媒への溶解度が高いことにより、塗布による成膜が容易であり、また、n型半導体としてのフラーレンの本質的な性質は保持している。これにより、本発明のフラーレン誘導体は、低コスト、高性能な有機半導体として期待できる。
【実施例】
【0139】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を変更しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
なお、実施例において使用する略号は次に示す通りである。
・化合物略号
THP:テトラヒドロピラニル
ODCB:o−ジクロルベンゼン
THF:テトラヒドロフラン
MeI:ヨウ化メチル
CDCl3:重水素化クロロホルム
DMSO−d6:重水素化ジメチルスルホキシド
ODS:オクタデシルシリル
・測定法略号
HPLC:高速クロマトグラフィー
NMR:核磁気共鳴
【0140】
実施例1のフラーレン誘導体[C60{4−THPOCH2−C645(−CH3)]の製造
臭化銅(I)(7.32g、51.0mmol)のTHF懸濁液(75mL)を5℃まで冷却した後、4−THPOCH2−C64Brから合成したグリニャール試薬の4−THPOCH2−C64MgBr/THF溶液(0.7mol/L;68mL)を加え、25℃まで昇温した。そこにC60(3.0g、4.17mmol)のo−ジクロルベンゼン(ODCB)溶液(135mL)を加え、2時間攪拌した。ここに、MeI(3.9mL、62.6mmol)を加えさらに8時間攪拌した。反応液を濾過し、THFを除去した後、トルエンで希釈し、シリカカラムクロマトグラフィー(展開液:トルエン及び酢酸エチル)を行った。溶液を濃縮し、2−プロパノール(500mL)で晶析を行い、100℃で真空乾燥を行うことで、実施例1のフラーレン誘導体、C60{4−THPOCH2−C645(−CH3)をオレンジ色固体(6.01g、3.56mmol、収率84.5%)の生成物として得た。
【0141】
得られた生成物を1H−NMR及びHPLCにて測定した。なお、1H−NMRはCDCL3を溶媒とし、400MHzにて測定した。また、HPLCは、0.5mg/mLのTHF溶液を調製し、以下の測定条件で測定した。
【0142】
カラム種類:ODS
カラムサイズ:150mm×4.6mmφ
溶離液:トルエン/メタノール=4/6
検出器:UV290nm
【0143】
HPLC測定の結果、保持時間4.40minに、89.9(Area%)で観測された。
【0144】
また、1H−NMRの測定結果は、以下の通りであった。
1H−NMR(CDCL3,400MHz)]
7.78ppm(d,Ph,4H),7.68ppm(d,Ph,4H),7.30ppm(t,Ph,8H),7.19ppm(d,Ph,2H),7.06ppm(d,Ph,2H),4.83〜4.80ppm(m,PhCH2,4H),4.70ppm(s,PhCH2,4H),4.6ppm(m,PhCH2,2H),4.5ppm(t,PhCH2−O−CH,4H),4.3ppm(d,PhCH2−O−CH,1H),3.9〜3.8ppm(m,THP(O−CH2),5H),3.6〜3.5ppm(m,THP(O−CH2),5H),2.0〜1.4ppm(m,C60Me+THP(CH2),33H)
【0145】
以上の結果から、得られた生成物(実施例1のフラーレン誘導体)が下記化学式で示される、表題化合物C60{4−THPOCH2−C645(−CH3)であることが確認された。
【0146】
【化8】

【0147】
実施例2のフラーレン誘導体[C60{4−HOCH2−C645(−CH3)]の製造(脱保護)
実施例1のフラーレン誘導体である、C60(4−THPOCH2−C645(−CH3)(3.04g、1.80mmol)の塩化メチレン(100mL)溶液を調製し、パラトルエンスルホン酸一水和物(0.17g、0.89mmol)を加え、室温下で5時間攪拌した。反応液に飽和重曹水(100mL)とTHF100mLを加え分液操作を行った。その後有機相が中性(pH7)になるまでイオン交換水を用いて分液操作を行った。有機相を濃縮後、濃縮液にヘキサン(500mL)を添加し晶析を行った。その後、100℃で真空乾燥を3時間行ない、表題化合物であるC60{4−HOCH2−C645(−CH3)をオレンジ色固体(2.30g、1.81mmol、収率100%)の生成物として得た。
【0148】
得られた生成物を1H−NMR及びHPLCにて測定した。なお、1H−NMRはDMSO−d6を溶媒とし、400MHzにて測定した。また、HPLCは、0.5mg/mLのTHF溶液を調製し、以下の測定条件で測定した。
【0149】
カラム種類:ODS
カラムサイズ:150mm×4.6mmφ
溶離液:トルエン/メタノール=5/95
検出器:UV290nm
【0150】
HPLC測定の結果、保持時間25.6minに、99.0(Area%)で観測された。
【0151】
また、1H−NMRの測定結果は、以下の通りであった。
1H−NMR(DMSO−d6,400MHz)]
7.73ppm(d,Ph,8H),7.43ppm(t,Ph,8H),7.06ppm(d,Ph,2H),6.99ppm(d,Ph,2H),5.26〜5.20ppm(m,OH,4H),5.03ppm(t,OH,1H),4.47ppm(t,PhCH2,8H),4.30ppm(d,PhCH2,1H),1.45ppm(s,C60Me,3H)
【0152】
以上の結果から、得られた生成物(実施例2のフラーレン誘導体)が下記化学式で示される、表題化合物C60{4−HOCH2−C645(−CH3)であることが確認された。
【0153】
【化9】

【0154】
(フラーレン誘導体膜の耐溶剤性の評価)
以下の方法で、実施例1,2のフラーレン誘導体を含むフラーレン誘導体膜を形成し、耐溶剤性の評価を行った。また、比較のため、以下の既存のフラーレン誘導体、nanom spectra H100、H200、H220、M100(フロンティアカーボン社製);H100T(H100のTHP保護体)、H220M(H220のMeO保護体)、M100T(M100のTHP保護体)、フラーレンo-クレゾール付加体、フラーレンジメチルフェノール付加体について同様の評価を行った。
上記既存のフラーレン誘導体は、以下の構造を有する、タイプH、タイプM、タイプKのフラーレン誘導体に分類できる。上記既存のフラーレン誘導体をそのタイプと、付加基、付加数を表1にまとめて示す。
【0155】
【化10】

【化11】

【化12】

【0156】
【表1】

【0157】
(フラーレン誘導体膜1)
まず、実施例1のフラーレン誘導体10重量部に対して、パラトルエンスルホン酸1水和物5重量部及びシクロヘキサノンを90重量部を添加し塗布液1を調整した。塗布液中のフラーレン誘導体、塗布液の塗布性を表2に示す。
次いで、塗布液1をシリコンウエハ上に滴下し、スピンコーターを用いて、500rpmで10秒間、その後1500rpmで40秒間回転させる条件で、シリコンウエハ上に塗布液1を塗布した。塗布液の塗布性を表2に併せて示す。
次いで、塗布液を塗布したシリコンウエハを、空気中、ホットプレート上で110℃/60秒加熱後、200℃/60秒加熱することで、シリコンウエハ上にフラーレン誘導体膜1を形成した。
【0158】
(フラーレン誘導体膜2)
実施例1のフラーレン誘導体の代わりに、実施例2のフラーレン誘導体を使用したこと以外は、同様の手法で塗布液2を作製し、フラーレン誘導体膜1と同様の製造方法でフラーレン誘導体膜2を製造した。
塗布液中のフラーレン誘導体、塗布液の塗布性を表2に併せて示す。
【0159】
(フラーレン誘導体膜3)
主剤としてフラーレン誘導体H200、架橋剤として実施例1のフラーレン誘導体を用い、H200を8重量部、実施例1のフラーレン誘導体を2重量部(フラーレン誘導体H200):(実施例1のフラーレン誘導体)=4:1(重量比))及びパラトルエンスルホン酸を5重量部にシクロヘキサノンを90重量部添加した溶液を塗布液3として使用したこと以外は、フラーレン誘導体膜1と同様の製造方法でフラーレン誘導体膜3を製造した。塗布液中のフラーレン誘導体、塗布液の塗布性を表2に併せて示す。
【0160】
(フラーレン誘導体膜4)
主剤としてフラーレン誘導体H200、架橋剤として実施例2のフラーレン誘導体を用い、H200を8重量部、実施例2のフラーレン誘導体を2重量部(フラーレン誘導体H200):(実施例2のフラーレン誘導体)=4:1(重量比))及びパラトルエンスルホン酸を5重量部にシクロヘキサノンを90重量部添加した溶液を塗布液4として使用したこと以外は、フラーレン誘導体膜1と同様の製造方法でフラーレン誘導体膜4を製造した。フラーレン誘導体膜組成、塗布液の塗布性を表2に併せて示す。
【0161】
(フラーレン誘導体膜5〜13)
実施例1のフラーレン誘導体の代わりに、比較用の既存のフラーレン誘導体H100、H200、H220、M100、H100T、H220M、M100T、o-クレゾール付加体、ジメチルフェノール付加体を使用したこと以外は同様の手法で塗布液5〜13を作製した。塗布液5〜13を用い、フラーレン誘導体膜1と同様の製造方法でフラーレン誘導体膜5〜13を製造した。フラーレン誘導体膜組成、塗布液の塗布性を表2に併せて示す。
【0162】
「膜の耐溶剤性評価」
フラーレン誘導体膜1〜13を、それぞれテトラヒドロフラン中1分浸漬させ膜の耐溶剤性(溶解性)を確認した。評価基準は、浸漬後の膜を目視で観察し膜が残ってるか否かで判断した。結果を、表2に併せて示す。

「評価基準」
◎:溶解無し
○:一部溶解
×:完全に溶解
【0163】
【表2】

【0164】
実施例1,2以外のフラーレン誘導体を用いて110℃、200℃(各々60秒)加熱処理を行った膜はテトラヒドロフラン浸漬後に膜は完全になくなっており耐溶剤性は確認されなかった。一方、実施例1又は実施例2のフラーレン誘導体単独、もしくはH200と複合化させ、110℃、200℃(各々60秒)加熱処理を行った膜についてはテトラヒドロフラン浸漬後に膜は残っており耐溶剤性の発現が確認できた。よって実施例1,2のフラーレン誘導体は酸触媒等の存在下で単独もしくはフェノール性の化合物と複合化させ200℃程度で加熱処理を行うことで自己縮合反応を含む架橋反応が進行していることが確認された。
また、300℃程度の加熱処理をおこなうと酸化等の影響により耐溶剤性が得られやすくなるが、フェノール性フラーレン誘導体のみではその効果は不十分であった。
【0165】
(熱分解速度の評価)
実施例2のフラーレン誘導体について、TG測定により熱分解速度の評価を行った。
TG測定は、エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製示差熱熱重量同時測定装置TG-DTA6200を使用して窒素雰囲気下(流速200mL/分)、昇温速度10℃/分という条件で行った。
また、比較のため、通常架橋剤として使用される以下の2種の架橋性化合物A,Bについても同様の測定を行った。

架橋性化合物A:2,4,6-トリスビスメトキシメチルアミノトリアジン
(東京化成株式会社製)、
架橋性化合物B:TM−BIP−A
(旭有機材料社製)
【0166】
【化13】

【0167】
【化14】

【0168】
TG測定の結果を、図1に示す。
架橋性化合物A,Bはいずれも200〜300℃程度で熱分解し、特に架橋性化合物Aは300℃加熱をすると重量減少量が100%となってしまうのに対して、反応性置換基を有する実施例2のフラーレン誘導体は架橋性化合物A,Bに対して耐熱性が高く、400℃まで加熱しても8%程度の重量減少量しかない。この重量減少量は分子量等から考えると実施例2のフラーレン誘導体同士が反応し、縮合反応が生じたことによるものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0169】
本発明のフラーレン誘導体は、任意の分野で使用することが可能である。中でも、本発明のフラーレン誘導体はシクロヘキサノンやPGMEA等の極性溶媒に対して高い溶解性を有し、且つ容易に製造可能であるという特徴を有することから、有機半導体薄膜、光電性膜等の機能性薄膜、電池用薄膜、金属、プラスチック、セラミックス材料の摺動表面の潤滑膜や耐腐食性、耐酸化性に優れた膜として熱水や化学薬品が接する工業プラント製品の保護膜等様々な用途に適したフラーレン誘導体膜を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で示されることを特徴とするフラーレン誘導体。
【化1】

(式(I)中、
丸で示される構造はフラーレン骨格を表し、
1は下記式(II)で表される基、mは1〜20の整数を表し、mが2以上である場合は、個々のR1は相互に異なっていても同一でもよい。
2は水素原子、水酸基又は炭素数1〜30の有機基、nは0〜20の整数を表し、nが2以上である場合は、個々のR2は相互に異なっていても同一でもよい。)
【化2】

(式(II)中、Aは置換基を有していてもよいアリーレン基、Bは炭素原子数1〜20の二価鎖状炭化水素連結基、R3は水素原子又はアルコール性水酸基の保護基を表す。)
【請求項2】
フラーレン骨格が、C60、C70、C76、C82、C84、及びC90から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載のフラーレン誘導体。
【請求項3】
フラーレン骨格が有する下記式(III)で表わされる部分構造における、炭素原子C1〜C10の少なくとも一つに前記置換基R1が結合した構造を、
フラーレン骨格中に少なくとも1か所含むことを特徴とする請求項1又は2にフラーレン誘導体。
【化3】

(式(III)中、C1〜C10は、フラーレン骨格を構成する炭素原子を表わす。)
【請求項4】
前記式(II)中のAが、置換基を有してもよい炭素原子数6〜18のアリーレン基であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のフラーレン誘導体。
【請求項5】
前記式(II)中のBが、炭素原子数1〜12の直鎖状又は分岐鎖状の二価飽和炭化水素基であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のフラーレン誘導体。
【請求項6】
前記式(II)中のBが、メチレン基であることを特徴とする請求項5に記載のフラーレン誘導体。
【請求項7】
前記式(II)中のR3が、水素原子又は炭素原子数1〜10のアルコール性水酸基の保護基であることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載のフラーレン誘導体。
【請求項8】
前記式(II)中のR3が、炭素原子数1〜10で炭素鎖中にエーテル結合又はチオエーテル結合を有していてもよいアルキル基、アリール基、シリルエーテル基、アシル基、アラルキル基又は環状構造を構成する原子数が5〜12であるヘテロ環状基であることを特徴とする請求項7に記載のフラーレン誘導体。
【請求項9】
前記式(I)中のR2が、水素原子、水酸基又は炭素原子数1〜20のアルキル基であることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載のフラーレン誘導体。
【請求項10】
式(II)中のAがフェニレン基であり、BがCH2であることを特徴とする請求項1に記載のフラーレン誘導体。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか1項に記載のフラーレン誘導体の少なくとも1種を0.01重量%以上含むことを特徴とするフラーレン誘導体組成物。
【請求項12】
請求項1から10のいずれか1項に記載のフラーレン誘導体が溶質として含有されてなることを特徴とするフラーレン誘導体溶液。
【請求項13】
請求項1から10のいずれか1項に記載のフラーレン誘導体を含むか、又は該フラーレン誘導体に由来するものであることを特徴とするフラーレン誘導体膜。
【請求項14】
フォトレジスト膜形成材料又はフォトレジスト下層膜形成材料であることを特徴とする請求項13に記載のフラーレン誘導体膜。
【請求項15】
請求項1から10のいずれか1項に記載のフラーレン誘導体を製造する方法であって、
以下の(1)又は(2)から選ばれる少なくとも一つの方法を用いることを特徴とするフラーレン誘導体の製造方法。
(1)所定の置換基又はその先駆体構造を有する芳香族化合物に基づくグリニャール試薬とフラーレンとを反応させる方法
(2)金属ハロゲン化物の存在下で、所定の置換基又はその先駆体構造を有する芳香族化合物とフラーレンとを反応させる方法
【請求項16】
請求項1から10のいずれか1項に記載のフラーレン誘導体を製造する方法であって、
フラーレンと、A−(B−O−R3)基を有するグリニャール試薬とを、R2−X(但しXはハロゲン原子である)で表されるハロゲン化合物の存在下で反応させることを特徴とするフラーレン誘導体の製造方法。
(但し、Aは置換基を有していてもよいアリール基、Bは鎖状の連結基、R3は水素原子又はアルキル基、アリール基、もしくはヘテロ環状炭化水素基であり、R2は水素原子、水酸基又は炭素数1〜30の有機基である。)

【図1】
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【公開番号】特開2013−103928(P2013−103928A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−251299(P2011−251299)
【出願日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【出願人】(000005979)三菱商事株式会社 (56)
【Fターム(参考)】