説明

フラーレン誘導体及びその製造方法

【課題】優れた電気的特性を有するフラーレン誘導体の提供。
【解決手段】下記式(1)で表される構造を有するフラーレン誘導体。


[式中、A環は炭素数が60以上であるフラーレン環を表す。B環及びB環は、独立して炭素数が3〜6である複素環を表す。R及びRは、独立して1価の官能基を表す。Qは2価の有機基を表し、B環及びB環が有する炭素原子と結合している。j及びkは0〜8の整数を表す。R又はRが複数個存在する場合には、R同士又はR同士は互いに異なっていてもよい。C1、C2、C3及びC4は、A環を構成する炭素原子であり、C1及びC2、C3及びC4は、それぞれA環において隣り合っている。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラーレン誘導体、該フラーレン誘導体の製造方法、フラーレン誘導体を含有する組成物及び該組成物を用いた有機光電変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
電子又は正孔(ホール)である電荷の輸送性を有する有機半導体材料は、有機薄膜太陽電池、光センサといった有機光電変換素子等への適用が検討されており、例えばフラーレン誘導体を用いた有機薄膜太陽電池が検討されている。
【0003】
このようなフラーレン誘導体としては、例えば、[6,6]−フェニルC61−酪酸メチルエステル(以下、[60]−PCBMという場合がある)が知られている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Advanced Functional Materials Vol.13 (2003) 85p
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来有機半導体材料として用いられている[60]−PCBMは、例えば光電変換効率の観点から重要である、開放端電圧といった種々の特性が十分とはいえず、新規な有機半導体材料が求められている。
また従来の[60]−PCBMの製造方法では収率が不十分なため、不可避的に生成してしまう、付加基の付加数が異なる生成物、未反応の材料を除去して高純度とすることが困難である。よって収率が高く、生産性により優れた有機半導体材料であるフラーレン誘導体の製造方法が求められている。
【0006】
そこで本発明は、有機光電変換素子の特性をより高めることができる有用かつ新規なフラーレン誘導体、及び新規なフラーレン誘導体の生産性により優れた製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、種々のフラーレン誘導体の物性、合成方法及び分離精製方法などについて鋭意研究を進めたところ、所定構造のフラーレン誘導体と、かかるフラーレン誘導体を所定の工程で製造する製造方法とにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち本発明は、下記を提供する。
[1] 下記式(1)で表される構造を有するフラーレン誘導体。
【化1】

[式(1)中、A環は炭素数が60以上であるフラーレン環を表す。B環及びB環は、独立して炭素数が3〜6である複素環を表す。R及びRは、独立して1価の官能基を表す。Qは2価の有機基を表し、B環及びB環が有する炭素原子と結合している。j及びkは、独立して0〜8の整数を表す。Rが複数個存在する場合には、R同士は互いに異なっていてもよい。Rが複数個存在する場合には、R同士は互いに異なっていてもよい。C1、C2、C3及びC4は、A環を構成する炭素原子であり、C1及びC2、C3及びC4は、それぞれA環において隣り合っている。]
[2] 下記式(2)で表される、[1]に記載のフラーレン誘導体。
【化2】

[式(2)中、A環、R、R、Q、C1、C2、C3及びC4は前記式(1)における定義と同義である。]
[3] 前記Qが式(3)で表される構造を有する、[1]又は[2]に記載のフラーレン誘導体。
【化3】

[式(3)中、R及びRは、独立して水素原子又はアルキル基を表す。cは1〜5の整数を表す。Rが複数個存在する場合には、R同士は互いに異なっていてもよい。Rが複数個存在する場合には、R同士は互いに異なっていてもよい。]
[4] 下記式(4)で表される、[1]〜[3]のいずれか1つに記載のフラーレン誘導体。
【化4】

[式(4)中、環C60は、C60フラーレン環を表す。C1、C2、C3及びC4は前記式(1)における定義と同義である。]
[5] [1]〜[4]のいずれか1つに記載のフラーレン誘導体と電子供与性化合物とを含む組成物。
[6] 電子供与性化合物が、高分子化合物である[5]に記載の組成物。
[7] 陽極及び陰極からなる一対の電極と、
一対の電極間に挟持された[1]〜[4]のいずれか1つに記載のフラーレン誘導体を含む層と
を有する有機光電変換素子。
[8] 陽極及び陰極からなる一対の電極と、
一対の電極間に挟持された[5]又は[6]に記載の組成物を含む層と
を有する有機光電変換素子。
[9] 陽極及び陰極からなる一対の電極と、
一対の電極間に挟持される活性層であって、[1]〜[4]のいずれか1つに記載のフラーレン誘導体を含む電子受容性層及び該電子受容性層に接合される電子供与性化合物を含む電子供与性層を有している前記活性層と
を有する有機光電変換素子。
[10] フラーレンと、N−メトキシメチルグリシン、N−(2−(2−メトキシエトキシ)エチル)グリシン及び[2−(2−メトキシエトキシ)エチルアミノ]酢酸からなる群から選ばれるグリシン誘導体と、5−(5−(5−ホルミルチオフェン−2−イル)チオフェン−2−イル)チオフェン−2−カルボアルデヒドとを、溶媒中で加熱還流して反応させる工程と、
溶媒を除去し、シリカゲルフラッシュカラムクロマトグラフィ及び分取薄層クロマトグラフィにより分離精製する工程と
を含む、[1]に記載のフラーレン誘導体の製造方法。
[11] グリシン誘導体が、[2−(2−メトキシエトキシ)エチルアミノ]酢酸である、[10]に記載のフラーレン誘導体の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の新規なフラーレン誘導体によれば、該フラーレン誘導体を含む層を有機薄膜太陽電池、有機光センサといった有機光電変換素子に適用することにより、例えば開放端電圧といった電気的特性を向上させ、有機光電変換素子の光電変換効率を高めることができるものと期待される。
また本発明のフラーレン誘導体の製造方法によれば、前記新規なフラーレン誘導体を極めて高い収率で得ることができる。また付加基の付加数が異なる副生物や異性体の生成を効果的に抑制することができるので、精製によるさらなる高純度化が容易である。よってかかる製造方法により製造されたフラーレン誘導体は、有機光電変換素子の電気的特性、ひいては光電変換効率のさらなる向上に大いに寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、有機光電変換素子の構成例(1)を示す概略的な断面図である。
【図2】図2は、有機光電変換素子の構成例(2)を示す概略的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。なお以下の説明において図を参照して説明する場合があるが、図には発明が理解できる程度に構成要素の形状、大きさ及び配置が概略的に示されているに過ぎず、これにより本発明が特に限定されるものではない。また複数の図に示される同様の構成成分については同一の符号を付して示し、その重複する説明を省略する場合がある。
【0012】
<フラーレン誘導体>
本発明のフラーレン誘導体は、下記式(1)で表される構造を有する。
【0013】
【化5】

【0014】
前記式(1)の構造において、R及びRは1価の官能基を表す。1価の官能基の例としては、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、ハロゲン原子、1価の複素環基、エステル構造を有する基、下記式(5)で表される基が好ましい。また、Rが複数個存在する場合には、R同士は互いに異なっていてもよい。Rが複数個存在する場合には、R同士は互いに異なっていてもよい。
【0015】
【化6】

【0016】
式(5)中、mは1〜6の整数を表し、nは1〜4の整数を表し、rは0〜5の整数を表す。mが複数個存在する場合には、複数個のmは互いに異なっていてもよい。
【0017】
前記式(1)の構造において、R及びRで表されるアルキル基は、炭素数が通常1〜20であり、好ましくは1〜12であり、より好ましくは1〜6であり、直鎖状であっても分岐状であってもよく、シクロアルキル基であってもよい。
【0018】
アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、sec−ブチル基、3−メチルブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ラウリル基が挙げられる。
【0019】
前記アルキル基中の水素原子はハロゲン原子で置換されていてもよい。水素原子がハロゲン原子で置換されたアルキル基の具体例としては、モノハロメチル基、ジハロメチル基、トリハロメチル基、ペンタハロエチル基が挙げられる。水素原子を置換するハロゲン原子としては、フッ素原子が好ましい。フッ素原子で水素原子が置換されたアルキル基の具体例としては、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロヘキシル基、パーフルオロオクチル基が挙げられる。
【0020】
前記式(1)の構造において、R及びRで表されるアルコキシ基は、炭素数が通常1〜20であり、直鎖状であっても分岐状であってもよく、シクロアルキルオキシ基であってもよい。アルコキシ基の具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、ノニルオキシ基、デシルオキシ基、3,7−ジメチルオクチルオキシ基、ラウリルオキシ基が挙げられる。
【0021】
前記アルコキシ基中の水素原子はハロゲン原子で置換されていてもよい。水素原子を置換するハロゲン原子としては、フッ素原子が好ましい。フッ素原子で水素原子が置換されたアルコキシ基の具体例としては、トリフルオロメトキシ基、ペンタフルオロエトキシ基、パーフルオロブトキシ基、パーフルオロヘキシルオキシ基、パーフルオロオクチルオキシ基が挙げられる。
【0022】
前記式(1)の構造において、R及びRで表されるアリール基は、炭素数が通常6〜60であり、置換基を有していてもよい。アリール基が有していてもよい置換基としては、炭素数が通常1〜20であり、好ましくは1〜12であり、より好ましくは1〜6である直鎖状、分岐状のアルキル基、炭素数が通常3〜20であり、好ましくは3〜12であり、より好ましくは3〜6であるシクロアルキル基、炭素数が通常1〜20であり、好ましくは1〜12であり、より好ましくは1〜6である直鎖状、分岐状のアルキル基、及び炭素数が通常3〜20であり、好ましくは3〜12であり、より好ましくは3〜6であるシクロアルキル基をその構造中に含むアルコキシ基が挙げられる。
【0023】
置換されていてもよいアリール基の具体例としては、フェニル基、C1〜C12アルコキシフェニル基(C1〜C12は、炭素数が1〜12であることを示す。なお以下の説明においても同様に、炭素原子を表すCに付された数字は炭素数を表す場合がある。)、C1〜C12アルキルフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基が挙げられ、炭素数が6〜20であるアリール基が好ましく、C1〜C12アルコキシフェニル基、C1〜C12アルキルフェニル基がより好ましい。
前記アリール基中の水素原子はハロゲン原子で置換されていてもよい。水素原子を置換するハロゲン原子としては、フッ素原子が好ましい。
【0024】
前記式(1)の構造において、R及びRで表されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
【0025】
前記式(1)の構造において、R及びRで表される1価の複素環基としては、1価の芳香族複素環基が好ましい。R及びRで表される1価の複素環基の例としては、チエニル基、ピリジル基、フリル基、ピペリジル基、キノリル基、イソキノリル基、ピロリル基が挙げられる。
【0026】
前記式(1)の構造において、R及びRで表されるエステル構造を有する基の例としては、酪酸メチル、酪酸ブチル、酪酸イソプロピル、酪酸3−エチルチエニルにおいて、エステルのアルコール側部位から水素原子を1個除去した基が挙げられる。
エステル構造を有する基の一態様としては、下記式(6)で表される基が挙げられる。
【0027】
【化7】

【0028】
式(6)中、pは0〜10の整数を表す。qは0〜10の整数を表す。
【0029】
前記式(5)の基において、mは、原料の入手しやすさの観点から、2であるのが好ましい。rは、電荷輸送性の観点から、0〜3の整数であるのが好ましい。
【0030】
前記式(1)の構造において、R及びRで表される、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、1価の複素環基中の水素原子は、アルコキシ基、アリール基、ハロゲン原子、1価の複素環基又はエステル構造を有する基で置換されていてもよい。アルキル基、アルコキシ基、アリール基、ハロゲン原子、1価の複素環基、エステル構造を有する基の具体例としては、既に説明した対応する各基と同様の基が挙げられる。
【0031】
前記式(1)の構造において、j及びkは、独立して0〜8の整数を表す。中でも、j及びkは1〜3の整数であるのが好ましい。
【0032】
前記式(1)の構造において、A環は炭素数が60以上であるフラーレン環(フラーレン骨格)を表す。A環は、原料(フラーレン)の入手しやすさの観点から、C60フラーレン環、C70フラーレン環が好ましい。C1、C2、C3及びC4は、A環(フラーレン環)を構成する炭素原子であって、A環及び後述するB環(B環及びB環)により共有されている炭素原子である。
【0033】
前記式(1)の構造において、B環及びB環それぞれは、A環の隣り合う2つの炭素原子の組(C1及びC2、並びにC3及びC4)を含んでA環に隣接するように付加された環構造である。B環及びB環の具体例としては、下記の構造を有する環B3、環B4及び環B5が挙げられる。
【0034】
【化8】

【0035】
B環としては、合成の容易さの観点から、上記環B4が好ましい。フラーレン誘導体のVoc(開放端電圧)をより高めるという観点からも、2つのB環がいずれも上記環B4であることが好ましい。なお環B3及び環B4において、隣り合ういずれか2つの炭素原子の組は、上述したようにA環を構成する(A環と共有される)炭素原子でもある。
【0036】
前記式(1)の構造において、Qは2価の有機基を表す。Qである2価の有機基としては、アルキレン基、オキサアルキレン基、アリーレン基、2価の複素環基が好ましい。
【0037】
前記式(1)で表される構造を有するフラーレン誘導体としては、下記式(2)で表される構造を有するフラーレン誘導体が好ましい。
【0038】
【化9】

【0039】
式(2)中、A環、R、R、Q、C1、C2、C3及びC4は前記式(1)で定義された対応する構造と同義である。
【0040】
2価の有機基Qの好ましい一態様は、下記式(3)で表される構造を有する基である。
【0041】
【化10】

【0042】
式(3)中、R及びRは、独立して水素原子又はアルキル基を表す。cは1〜5の整数を表す。Rが複数個存在する場合には、R同士は互いに異なっていてもよい。Rが複数個存在する場合には、R同士は互いに異なっていてもよい。
a及びRで表されるアルキル基の炭素数及び具体例は、R及びRで表されるアルキル基に関して前述した炭素数及び具体例と同じである。
【0043】
前記式(3)で表される構造を有する基としては、例えば、下記基(a)〜(e)が挙げられる。
【0044】
【化11】

【0045】
本発明のフラーレン誘導体の具体例としては、下記の構造を有する化合物(フラーレン誘導体)(A1)〜(A7)が挙げられる。
【0046】
【化12】

【0047】
上記化合物(A1)〜(A7)中、環C60はC60フラーレン環を表し、環C70はC70フラーレン環を表す。
【0048】
前記式(1)及び前記式(2)で表されるフラーレン誘導体としては、下記式(4)で表される構造を有するフラーレン誘導体が好ましい。
【0049】
【化13】

【0050】
式(4)中、環C60は、C60フラーレン環を表す。C1、C2、C3及びC4は前記式(1)における定義と同義である。
【0051】
<フラーレン誘導体の製造方法>
前記式(1)で表される構造を有するフラーレン誘導体は、例えばC60フラーレン環、C70フラーレン環(フラーレン)に、置換基Rをj個有し、置換基Rをk個有し、さらに2価の有機基QにB環及びB環を構成できる基が連結された化合物を、カルベノイド付加反応あるいは1,3−双極子付加反応等の付加反応によって付加させてB環を形成することにより製造することができる。
【0052】
フラーレンに前述の連結された化合物を付加させてB環及びB環を形成する製造方法により式(1)で表される構造を有するフラーレン誘導体を製造すれば、高収率でフラーレンに2個の環(B環及びB環)が付加したフラーレン誘導体を製造することができる。前記製造方法によれば、フラーレンに2個の環が付加したフラーレン誘導体の製造において、環の付加数が異なるフラーレン誘導体や環の付加位置が異なるフラーレン誘導体である異性体の副生を抑制することができる。
【0053】
前記式(2)で表される構造を有するフラーレン誘導体は、例えばグリシン誘導体及びビスアルデヒド化合物から生成するイミンから脱炭酸して生じるイミニウムカチオンと、フラーレンとの1,3−双極子環化付加反応(Prato反応;Accounts of Chemical Research Vol.31 1998 519-526ページ参照)により合成することができる。
【0054】
上記付加反応で用いられるグリシン誘導体としては、N−メトキシメチルグリシン、N−(2−(2−メトキシエトキシ)エチル)グリシン、[2−(2−メトキシエトキシ)エチルアミノ]酢酸などが例示される。
【0055】
これらのグリシン誘導体の使用量は、フラーレン1モルに対して、通常0.1モル〜10モルの範囲であり、好ましくは0.5モル〜3モルの範囲である。
【0056】
付加基(置換基)を付加するためのもう1つの原料であるビスアルデヒド化合物としては、例えば5−(5−(5−ホルミルチオフェン−2−イル)チオフェン−2−イル)チオフェン−2−カルボアルデヒド(5-(5-(5-formylthiophen-2-yl)thiophen-2-yl)thiophene-2-carbaldehyde)が挙げられる。
【0057】
このビスアルデヒド化合物の使用量は、フラーレン1モルに対して、通常0.1モル〜10モルの範囲であり、好ましくは0.5モル〜4モルの範囲である。
【0058】
通常、上記付加反応は溶媒中で行なわれる。上記付加反応が溶媒中で行われる場合には、溶媒としては、例えばトルエン、キシレン、ヘキサン、オクタン、クロルベンゼンなどの上記付加反応に対して不活性な溶媒が用いられる。溶媒の使用量は、フラーレンに対して通常1重量倍〜100000重量倍の範囲である。
【0059】
反応工程は、例えば溶媒中でグリシン誘導体とビスアルデヒドとフラーレンとを混合し、混合物を加熱して反応させることにより実施すればよい。反応温度は、通常50℃〜350℃の範囲である。反応時間は、通常30分間から50時間である。
【0060】
加熱による反応工程の終了後、得られた反応混合物を室温まで放冷し、溶媒をロータリーエバポレータで減圧留去して固形物を得る。得られた固形物をシリカゲルフラッシュカラムクロマトグラフィ及び分取薄層クロマトグラフィ(シリカゲル薄層クロマトグラフィ)により分離精製する。以上の工程により目的とするフラーレン誘導体を得ることができる。
【0061】
原料であるグリシン誘導体、ビスアルデヒド化合物の使用量、反応時間といった反応条件等を適宜調整し、また分離精製条件を適宜調整することにより、所望の構造を有するフラーレン誘導体を選択的に得ることができる。
【0062】
<組成物>
本発明のフラーレン誘導体は、電子受容性化合物としても電子供与性化合物としても用いることができる。特に電子受容性化合物として用いるのが好適である。また本発明のフラーレン誘導体は、特に塗布法により形成される活性層の材料として好適に用い得る。
本発明のフラーレン誘導体を含有する組成物の性状は特に限定されない。例えば塗布法に用いられる塗工用の組成物とする場合には、本発明のフラーレン誘導体を任意好適な溶媒と混合して液体状(溶液状)とすればよい。
【0063】
(第1の組成物)
詳細は後述するが、有機光電変換素子において、活性層が電子受容性化合物を含有する層(電子受容性層)と電子供与性化合物を含有する層(電子供与性層)とが接合された積層構造として構成される場合には、本発明のフラーレン誘導体を電子受容性化合物として含有し、かつ電子供与性化合物を不含とした組成物(第1の組成物)を、電子受容性層の構成成分として用いることができる。
【0064】
(第2の組成物)
本発明のフラーレン誘導体が、有機光電変換素子において、電子受容性化合物及び電子供与性化合物の双方を含有する一層の活性層に用いられる場合には、本発明の組成物(第2の組成物)は、本発明のフラーレン誘導体と電子供与性化合物とを含む。
【0065】
また前記第1の組成物及び第2の組成物は、使用態様に応じて選択された任意好適なその他の成分をさらに含んでいてもよい。
【0066】
電子受容性化合物としての本発明のフラーレン誘導体と組み合わせられる電子供与性化合物は、塗布性の観点からは、高分子化合物であることが好ましい。なお本明細書でいう高分子化合物とは、ポリスチレン換算の数平均分子量が好ましくは10以上であり、ポリスチレン換算の数平均分子量が通常10以下であり得る。
高分子化合物としては、例えば、ポリビニルカルバゾール及びその誘導体、ポリシラン及びその誘導体、側鎖又は主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体、ポリアニリン及びその誘導体、ポリチオフェン及びその誘導体、ポリピロール及びその誘導体、ポリフェニレンビニレン及びその誘導体、ポリチエニレンビニレン及びその誘導体、ポリフルオレン及びその誘導体が挙げられる。
【0067】
有機光電変換素子に用いる電子供与性化合物は、光電変換効率の観点からは、下記式(7)で表される繰り返し単位及び式(8)で表される繰り返し単位からなる群から選ばれる、重量平均分子量がおよそ5×10〜10の範囲の繰り返し単位を有する高分子化合物であることが好ましく、式(7)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物であることがより好ましい。
【0068】
【化14】

【0069】
前記式(7)で表される繰り返し単位及び式(8)で表される繰り返し単位において、R、R、R、R、R、R、R、R10、R11及びR12は、独立して水素原子、アルキル基、アルコキシ基又はアリール基を表す。
【0070】
前記式(7)で表される繰り返し単位において、R及びRがアルキル基である場合の炭素数及び具体例としては、前述の通り説明し例示したR及びRと同じアルキル基が挙げられる。R及びRがアルコキシ基である場合の炭素数及び具体例としては、前述の通り説明し例示したR及びRと同じアルコキシ基が挙げられる。R及びRがアリール基である場合の炭素数及び具体例としては、前述の通り説明し例示したR及びRと同じアリール基が挙げられる。
【0071】
前記式(7)で表される繰り返し単位において、光電変換効率の観点からは、R及びRのうちの少なくとも一方が、炭素数が1〜20であるアルキル基であることが好ましく、炭素数が4〜8のアルキル基であることがより好ましい。
前記式(7)で表される繰り返し単位からなる好適な高分子化合物としては、例えばRがHであり、RがC13であるポリ(3−ヘキシルチオフェン)ポリマー(P3HT)が挙げられる。
【0072】
前記式(8)で表される繰り返し単位において、R〜R12がアルキル基である場合の炭素数及び具体例としては、前述の通り説明し例示したR及びRと同じアルキル基が挙げられる。R〜R12がアルコキシ基である場合の炭素数及び具体例としては、前述の通り説明し例示したR及びRと同じアルコキシ基が挙げられる。R〜R12がアリール基である場合の炭素数及び具体例としては、前述の通り説明し例示したR1及びRと同じアリール基が挙げられる。
【0073】
前記式(8)で表される繰り返し単位において、モノマーの合成の行いやすさの観点から、R〜R12は水素原子であることが好ましい。また、光電変換効率の観点から、R及びRは炭素数が1〜20であるアルキル基であるか、又は炭素数が6〜20であるアリール基であることが好ましく、炭素数が5〜8であるアルキル基であるか、又は炭素数が6〜15のアリール基であることがより好ましい。
【0074】
本発明の前記第2の組成物に含まれる電子受容性物質であるフラーレン誘導体は、電子供与性化合物100重量部に対して、10重量部〜1000重量部であることが好ましく、50重量部〜500重量部であることがより好ましい。
【0075】
<有機光電変換素子>
図1及び図2を参照して、本発明の有機光電変換素子の構成例につき説明する。
図1は、有機光電変換素子の構成例(1)を示す概略的な断面図である。図2は、有機光電変換素子の構成例(2)を示す概略的な断面図である。
【0076】
本発明の有機光電変換素子は、陽極及び陰極からなる一対の電極と、該一対の電極間に挟持されたフラーレン誘導体を含む層とを有している。
この一対の電極のうち、少なくとも光が入射する側の電極、すなわち少なくとも一方の電極は、入射光を透過させる透明又は半透明の電極とされる。
【0077】
構成例(1)
図1に示すように、構成例(1)の有機光電変換素子10は、例えば陽極である第1電極32及び例えば陰極である第2電極34からなる一対の電極と、該一対の電極間に挟持されたフラーレン誘導体を含む活性層40とを備えている。第1電極32及び第2電極34の極性は素子構造に対応した任意好適な極性とすればよく、第1電極32を陰極とし、かつ第2電極34を陽極とすることもできる。
【0078】
有機光電変換素子は、通常、基板上に形成される。すなわち有機光電変換素子10は、基板20の主面上に設けられている。
【0079】
この基板20の材料は、電極を形成し、有機物を含有する層を形成する際に化学的に変化しないものであればよい。基板20の材料としては、例えば、ガラス、プラスチック、高分子フィルム、シリコン等が挙げられる。
【0080】
基板20が不透明である場合には、第1電極32と対向する、基板側とは反対側に設けられる第2電極34(すなわち基板20から遠い方の電極)が透明又は半透明であることが好ましい。
【0081】
活性層40は、第1電極32と第2電極34とに接して挟持されている。活性層40は、例えば電子受容性化合物である本発明のフラーレン誘導体と電子供与性化合物とを含有する有機層であって、光電変換機能にとって本質的な機能を有する層である。
【0082】
基板20の主面上には、第1電極32が設けられている。活性層40は、第1電極32を覆って設けられている。第2電極34は、活性層40の表面に接触させて設けられている。
【0083】
構成例(2)
図2に示すように、構成例(2)の有機光電変換素子は、第1電極32(陽極)及び第2電極34(陰極)からなる一対の電極と、前記一対の電極間に挟持される活性層40であって、本発明のフラーレン誘導体を含有する電子受容性層44、及び該電子受容性層44に接合される、電子供与性化合物を含む電子供与性層42を有している前記活性層40とを備えている。
【0084】
有機光電変換素子10は、基板20の厚み方向から見た一方の主面上に設けられている。基板20の主面上には第1電極32が設けられている。
【0085】
活性層40は、第1電極32と第2電極34との双方に接して挟持されている。構成例2の活性層40は、例えば本発明のフラーレン誘導体を電子受容性化合物として含有する電子受容性層44と電子供与性化合物とを含有する電子供与性層42とが接合された積層構造とされている。
【0086】
電子供与性層42は、第1電極32を覆って設けられている。電子受容性層44は、電子供与性層32の全面を覆って設けられている。第2電極34は、電子受容性層44の表面に接触させて設けられている。
【0087】
なお、構成例(1)及び(2)では、本発明のフラーレン誘導体を電子受容性化合物として説明したが、本発明のフラーレン誘導体を電子供与性化合物として、構成例(1)の活性層40又は構成例(2)の電子供与性層42に含有させることもできる。
【0088】
前記構成例(1)の有機光電変換素子10は、活性層40が電子受容性化合物と電子供与性化合物とを単一の層に含有する構成を備えており、ヘテロ接合界面をより多く含むため、光電変換効率がより向上するという観点から好ましい。
【0089】
有機光電変換素子10には、第1電極32及び第2電極34のうちの少なくとも一方の電極と本発明のフラーレン誘導体を含む活性層との間に付加的な層を設けてもよい。付加的な層としては、例えば、正孔又は電子を輸送する電荷輸送層(正孔輸送層、電子輸送層)が挙げられる。
【0090】
電荷輸送層を構成する材料としては、従来公知の任意好適な材料を用いることができる。電荷輸送層が電子輸送層である場合には、材料として2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナンスロリン(BCP)が例示される。電荷輸送層が正孔輸送層である場合には、材料としてポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)が例示される。
【0091】
第1電極32及び/又は第2電極34と、フラーレン誘導体を含む層との間に設けてもよい付加的な層は、バッファ層であってもよく、バッファ層として用いられる材料としては、フッ化リチウム等のアルカリ金属、アルカリ土類金属のハロゲン化物、酸化チタン等の酸化物等が挙げられる。また、無機半導体を用いる場合には、微粒子の形態で用いることもできる。
【0092】
ここで本実施の形態の有機光電変換素子のとりうる層構成の一例を以下に示す。
a)陽極/活性層/陰極
b)陽極/正孔輸送層/活性層/陰極
c)陽極/活性層/電子輸送層/陰極
d)陽極/正孔輸送層/活性層/電子輸送層/陰極
e)陽極/電子供給性層/電子受容性層/陰極
f)陽極/正孔輸送層/電子供給性層/電子受容性層/陰極
g)陽極/電子供給性層/電子受容性層/電子輸送層/陰極
h)陽極/正孔輸送層/電子供給性層/電子受容性層/電子輸送層/陰極
(ここで記号「/」は、記号「/」を挟む層同士が隣接して積層されていることを示す)
【0093】
上記層構成は、陽極が基板により近い側に設けられる形態、及び陰極が基板により近い側に設けられる形態のいずれであってもよい。
前記構成例(1)の有機光電変換素子10において、電子受容性化合物としてのフラーレン誘導体及び電子供与性化合物を含有する活性層40におけるフラーレン誘導体の割合は、電子供与性化合物100重量部に対して、10重量部〜1000重量部とすることが好ましく、50重量部〜500重量部とすることがより好ましい。
【0094】
前記構成例(1)の有機光電変換素子10において、フラーレン誘導体及び電子供与性化合物を含有する活性層40は、フラーレン誘導体と電子供与性化合物とを含む組成物を用いて製造することができる。
【0095】
有機光電変換素子10に用いられるフラーレン誘導体を含む層(活性層40、電子供与性層42、電子受容性層44)は、該フラーレン誘導体を含む有機薄膜から形成されていることが好ましい。該有機薄膜の厚さは、通常1nm〜100μmであり、好ましくは2nm〜1000nmであり、より好ましくは5nm〜500nmであり、さらに好ましくは20nm〜200nmである。
【0096】
第1電極32及び/又は第2電極34を透明又は半透明の膜(薄膜)により形成される電極とする場合の電極材料の例としては、導電性の金属酸化物、半透明の金属等が挙げられる。電極材料としては、具体的には、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、及びそれらの複合体であるインジウムスズ酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物等からなる導電性材料、NESA、金、白金、銀、銅等が用いられ、ITO、インジウム亜鉛酸化物、酸化スズが好ましい。また電極の材料として、ポリアニリン及びその誘導体、ポリチオフェン及びその誘導体等を用いてもよい。電極(第1電極32及び第2電極34)の形成方法の例としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、メッキ法等が挙げられる。
【0097】
透明又は半透明の電極と対向する他方の電極の電極材料としては、仕事関数の小さい材料が好ましい。仕事関数の小さい材料を含む電極は、透明又は半透明であってもよい。該材料としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、アルミニウム、スカンジウム、バナジウム、亜鉛、イットリウム、インジウム、セリウム、サマリウム、ユーロピウム、テルビウム、イッテルビウム等の金属、及びそれらのうち2つ以上の合金、又はそれらのうち1つ以上と、金、銀、白金、銅、マンガン、チタン、コバルト、ニッケル、タングステン、錫のうち1つ以上との合金、グラファイト又はグラファイトの層間に例えば前述の金属元素が配置された化合物(層間化合物)が用いられる。合金の例としては、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、マグネシウム−アルミニウム合金、インジウム−銀合金、リチウム−アルミニウム合金、リチウム−マグネシウム合金、リチウム−インジウム合金、カルシウム−アルミニウム合金が挙げられる。
【0098】
次に、有機光電変換素子の動作機構を説明する。透明又は半透明の電極を透過して入射した光のエネルギーが電子受容性化合物及び/又は電子供与性化合物において吸収され、電子とホールの結合した励起子を生成する。生成した励起子が移動して、電子受容性化合物と電子供与性化合物が隣接(接合)しているヘテロ接合界面に達するとヘテロ接合界面でのそれぞれのHOMOエネルギー及びLUMOエネルギーの違いにより電子と正孔とが分離し、独立に動くことができる電荷(電子及び正孔)が発生する。発生した電荷が電極に移動することにより外部へ電気エネルギー(電流)として取り出すことができる。
【0099】
<有機薄膜の製造方法>
前記有機薄膜の製造方法は、特に制限されない。製造方法としては、例えば、本発明に用いられるフラーレン誘導体を含む溶液(組成物)を調製し、この溶液を用いる成膜方法が挙げられる。
【0100】
前記溶液に用いられる溶媒は、本発明のフラーレン誘導体を溶解させるものであれば特に制限はない。溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、メシチレン、テトラリン、デカリン、ビシクロヘキシル、ブチルベンゼン、sec−ブチルベンゼン、tert−ブチルベンゼン等の炭化水素溶媒、四塩化炭素、クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロブタン、ブロモブタン、クロロペンタン、ブロモペンタン、クロロヘキサン、ブロモヘキサン、クロロシクロヘキサン、ブロモシクロヘキサン等のハロゲン化飽和炭化水素溶媒、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン等のハロゲン化不飽和炭化水素溶媒、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン等のエーテル溶媒が挙げられる。本発明のフラーレン誘導体は、通常、前記溶媒に0.1重量%以上溶解させることができる。
【0101】
前記溶液は、既に説明した高分子化合物をさらに含んでいてもよい。溶液に用いられる溶媒の具体例としては、前述と同様の溶媒が挙げられるが、高分子化合物の溶解性の観点からは、芳香族の炭化水素溶媒が好ましく、トルエン、キシレン、メシチレンがより好ましい。
【0102】
溶液を用いる成膜方法としては、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェット印刷法、ディスペンサー印刷法、ノズルコート法、キャピラリーコート法等の塗布法を用いることができ、スピンコート法、フレキソ印刷法、インクジェット印刷法、ディスペンサー印刷法が好ましい。
【0103】
有機光電変換素子は、透明又は半透明の電極を透過するように太陽光等の光を入射させることにより、活性層を挟持する電極間に光起電力を発生させ、有機薄膜太陽電池として動作させることができる。有機薄膜太陽電池を複数集積することにより有機薄膜太陽電池モジュールとして用いることもできる。
【0104】
また有機光電変換素子の電極間に電圧を印加した状態で、透明又は半透明の電極を透過するように光を照射すると、光電流が流れる。よって有機光センサとして動作させることができる。有機光センサを複数集積することにより有機イメージセンサとして用いることもできる。
【実施例】
【0105】
以下、本発明をさらに詳細に説明するために実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0106】
合成(製造)に用いた試薬および溶媒は、市販品をそのまま使用するか、乾燥剤存在下で蒸留精製して使用した。C60フラーレンはフロンティアカーボン社製の製品を使用した。NMRスペクトルはJEOL社製 MH500又はJEOL社製 ECX500を用いて測定し、テトラメチルシラン(TMS)を内部標準に使用した。赤外吸収スペクトルは島津製作所社製 FT−IR 8000を用いて測定した。MALDI−TOF MSスペクトルはBRUKER社製AutoFLEX−T2を用いて測定した。
【0107】
<実施例1>(フラーレン誘導体Aの合成)
ベンジル[2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチルアミノ]アセタート〔1〕を下記スキームに従って合成した。
【0108】
【化15】

【0109】
[第1ステップ]
Dean−Starkトラップを装着した2口フラスコにブロモ酢酸(20.8g、150mmol)、ベンジルアルコール(16.2g、150mmol)、パラ−トルエンスルホン酸(258mg、1.5mmol)、ベンゼン(300mL)を加え、120℃で24時間脱水縮合した。次に溶媒をエバポレータで減圧留去した。次いで残留物をシリカゲルフラッシュカラムクロマトグラフィ(展開溶媒;ヘキサン:酢酸エチル=10:1、5:1)により精製し、黄色油状のブロモ酢酸ベンジルエステル(34.3g、150mmol)を定量的に得た。なお展開溶媒の組成は体積比である(以下の例においても同様である)。
【0110】
Rf 0.71(ヘキサン:酢酸エチル=4:1);
1H NMR (500 MHz, ppm, CDCl3, J=Hz) δ 3.81 (s, 2H), 5.14 (s, 2H), 7.31 (s, 5H);
13C NMR (125 MHz, ppm, CDCl3) δ 25.74, 67.79, 128.27, 128.48, 128.54, 134.88, 166.91;
IR (neat, cm-1) 2959, 1751, 1458, 1412, 1377, 1167, 972, 750, 698。
【0111】
[第2ステップ]
アルゴン雰囲気下、上記第1ステップで得られたブロモ酢酸ベンジルエステル(13.7g、60mmol)のジクロロメタン(90mL)溶液を0℃に保ち、トリエチルアミン(17mL、120mmol)を加え、20分間、0℃で混合して混合液とした。次いで得られた混合液に2−(2−アミノエトキシ)エタノール(12mL、120mmol)のジクロロメタン(40mL)溶液を加え、室温で4時間攪拌して反応液とした。次に得られた反応液の有機相を3回水洗した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、エバポレータで溶媒を減圧留去した。得られた残留物をシリカゲルフラッシュカラムクロマトグラフィ(展開溶媒;酢酸エチル:メタノール=1:0(酢酸エチルのみ)、10:1、5:1)により精製し、無色油状のグリシンエステルであるベンジル[2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチルアミノ]アセタート〔1〕(12.2g、48.0mmol)を得た。収率は80%であった。
【0112】
Rf 0.48(酢酸エチル:メタノール=2:1);
1H NMR (500 MHz, ppm, CDCl3, J=Hz) δ 2.83 (t, 2H, J=5.1 Hz), 3.50 (s, 2H), 3.52 (t, 2H, J= 4.6 Hz), 3.58 (t, 2H, J= 5.0 Hz), 3.65 (t, 2H, J= 4.6 Hz), 5.11 (s, 2H), 7.28-7.30 (m, 5H);
13C NMR (125 MHz, ppm, CDCl3) δ 48.46, 50.25, 61.29, 66.38, 69.80, 72.23, 126.63, 128.12, 128.37, 135.30, 171.78;
IR (neat, cm-1) 3412, 2880, 1719, 1638, 1560, 1508, 1458, 1067, 669。
【0113】
[2−(2−メトキシエトキシ)エチルアミノ]酢酸〔2〕を下記スキームに従って合成した。
【0114】
【化16】

【0115】
[第1ステップ]
アルゴン雰囲気下、ベンジル[2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチルアミノ]アセタート〔1〕(6.58g、26mmol)のジクロロメタン(50mL)溶液を0℃に保ち、トリエチルアミン(4.3mL、31mmol)を加えた。次いで4−(N,N−ジメチルアミノ)ピリジン(DMAP)(32mg、0.26mmol)を加えて混合液とした。得られた混合液を20分間攪拌した。次に混合液にジ−tert−ブチルジカルボネート(6.77g、31mmol)のジクロロメタン(10mL)溶液を滴下して反応混合液とした。次いで反応混合液を室温で4時間攪拌後、水を入れた3角フラスコ中に注ぎ入れて反応を停止し、ジエチルエーテル抽出を3回行った。得られた有機相を乾燥後、減圧濃縮した。次いでシリカゲルフラッシュカラムクロマトグラフィ(展開溶媒;ヘキサン:酢酸エチル=3:1、2.5:1、2:1)により精製して、無色油状のベンジル{tert−ブトキシカルボニル−[2−(2−ヒドロキシ−エトキシ)エチル]アミノ}アセタート(5.83g、16.5mmol)を得た。収率は63%であった。
【0116】
Rf 0.58(酢酸エチル:メタノール=20:1);
1H NMR (500 MHz, ppm, CDCl3, J=Hz) δ 1.34 (d, 9H, J= 54.5 Hz), 2.19 (brs, 1H), 3.38-3.45 (m, 4H), 3.50-3.60 (m, 4H), 3.99 (d, 2H, J= 41.3 Hz), 5.09 (d, 2H, J= 4.1 Hz), 7.25-7.30 (m, 5H);
13C NMR (125 MHz, ppm, CDCl3) δ 27.82, 28.05, 47.90, 48.20, 49.81, 50.39, 61.23, 66.42, 69.92, 72.12, 80.08, 127.93, 128.14, 135.25, 154.99, 155.19, 169.94, 170.07;
IR (neat, cm-1) 3449, 2934, 2872, 1751, 1701, 1458, 1400, 1367, 1252, 1143;
Anal. Calcd for C18H27NO6: C, 61.17; H, 7.70; N, 3.96. Found: C, 60.01; H, 7.75; N, 4.13。
【0117】
[第2ステップ]
アルゴンガス雰囲気下、水素化ナトリウム(1.2g、24.8mmol、50% in meneral oil)のテトラヒドロフラン(THF)(10mL)溶液にベンジル{tert−ブトキシカルボニル−[2−(2−ヒドロキシ−エトキシ)エチル]アミノ}アセタート(5.83g、16.5mmol)のTHF(20mL)溶液を0℃で滴下し、0℃で20分間攪拌後、ヨードメタン(1.6mL、24.8mmol)を0℃で加えて反応混合液とした。次いで反応混合液を室温で20時間攪拌した後、アイスバスで冷却しながら水を加えて反応を停止した。エーテル抽出を3回行って、有機相を乾燥後、減圧濃縮し、シリカゲルフラッシュカラムクロマトグラフィ(展開溶媒;ヘキサン:酢酸エチル=5:1、3:1)により精製して、無色油状のベンジル{tert−ブトキシカルボニル−[2−(2−メトキシ−エトキシ)エチル]アミノ}アセタート(3.02g、8.21mmol)を得た。収率は50%であった。
【0118】
Rf 0.54(ヘキサン:酢酸エチル=1:1);
1H NMR (500 MHz, ppm, CDCl3, J=Hz) δ 1.34 (d, 9H, J= 51.8 Hz), 3.28 (d, 3H, J= 2.7 Hz), 3.37-3.46 (m, 6H), 3.52 (dt, 2H, J= 5.4Hz, 16.5 Hz), 4.02 (d, 2H, J= 34.8 Hz), 5.09 (d, 2H, J=4.5 Hz), 7.24-7.30 (m, 5H);
13C NMR (125 MHz, ppm, CDCl3) δ 24.93, 25.16, 44.68, 45.00, 46.70, 47.40, 55.78, 63.30, 67.22, 68.60, 76.95, 124.98, 125.14, 125.36, 132.49, 151.99, 152.31, 166.84, 166.96;
IR (neat, cm-1) 2880, 1751, 1701, 1560, 1458, 1400, 1366, 1117, 698, 617;
Anal. Calcd for C19H29NO6: C, 62.11; H, 7.96; N, 3.81. Found: C, 62.15; H, 8.16; N, 3.83。
【0119】
[第3ステップ]
アルゴン雰囲気下、ベンジル{tert−ブトキシカルボニル−[2−(2−メトキシ−エトキシ)エチル]アミノ}アセタート(3.02g、8.21mmol)のジクロロメタン(17mL)溶液にトリフルオロ酢酸(TFA)(9.0mL)を加え室温で7時間攪拌した。次いで10%炭酸ナトリウム水溶液を加えてpH10に調整し、ジクロロメタン抽出を行った。得られた有機相を無水硫酸マグネシウムで乾燥して、減圧濃縮することにより、黄色油状のベンジル[2−(2−メトキシ−エトキシ)エチルアミノ]アセタート(2.18g、8.19mmol)を定量的に得た。
【0120】
Rf 0.32 (酢酸エチル:メタノール=20:1);
1H NMR (500 MHz, ppm, CDCl3, J=Hz) δ 1.99 (brs, 1H), 2.83 (t, 2H, J= 5.3 Hz), 3.38 (s, 3H), 3.50 (s, 2H), 3.54 (t, 2H, J= 4.6 Hz), 3.60-3.62 (m, 4H), 5.17 (s, 2H), 7.32-7.38 (m, 5H);
13C NMR (125 MHz, ppm, CDCl3) δ 48.46, 50.66, 58.76, 66.20, 70.00, 70.44, 71.64, 128.09, 128.33, 135.44, 171.84;
IR (neat, cm-1) 3350, 2876, 1736, 1560, 1458, 1117, 1030, 698, 619;
Anal. Calcd for C14H21NO4: C, 62.90; H, 7.92; N, 5.24. Found: C, 62.28; H, 8.20; N, 5.05。
【0121】
[第4ステップ]
ベンジル[2−(2−メトキシ−エトキシ)エチルアミノ]アセタート(2.19g、8.19mmol)のメタノール(27mL)溶液に、パラジウムを10重量%担持させた活性炭(219mg)を室温で加えた。水素ガスをパージした後、水素雰囲気下、室温で7時間攪拌した。セライトパッドをしきつめたグラスフィルタでPd/Cを除去し、セライト層をメタノールで洗浄して、得られた濾液を減圧濃縮することにより、黄色油状の[2−(2−メトキシエトキシ)エチルアミノ]酢酸〔2〕(1.38g、7.78mmol)を得た。収率は95%であった。
【0122】
1H NMR (500 MHz, ppm, MeOD, J=Hz) δ 3.21 (t, 2H, J= 5.1 Hz), 3.38 (s, 3H), 3.51 (s, 2H), 3.57 (t, 2H, J= 4.4 Hz), 3.65 (t, 2H, J= 4.6 Hz), 3.73 (t, 2H, J= 5.1 Hz);
13C NMR (125 MHz, ppm, MeOD) δ 48.13, 50.49, 59.16, 67.08, 71.05, 72.85, 171.10;
IR (neat, cm-1) 3414, 2827, 1751, 1630, 1369, 1111, 1028, 851, 799;
Anal. Calcd for C7H15NO4: C, 47.45; H, 8.53; N, 7.90. Found: C, 46.20; H, 8.49; N, 7.43。
【0123】
5−(5−(5−ホルミルチオフェン−2−イル)チオフェン−2−イル)チオフェン−2−カルボアルデヒド(5-(5-(5-formylthiophen-2-yl)thiophen-2-yl)thiophene-2-carbaldehyde)〔3〕を下記スキームに従って合成した。
【0124】
【化17】

【0125】
容量30mLの2口フラスコにターチオフェン(terthiophene;分子量248.39)(250mg、1.01mmol)を加えた。フラスコ内の気体をアルゴンで置換後、N、N−ジメチルホルムアミド(DMF)(162mg、2.21mmol)及びジクロロエタン(5.0mL)を加え、得られた混合液を0℃に保ち、塩化ホスホリル(POCl3)(0.21mL、2.21mmol)を加え、50℃で6時間撹拌して反応溶液とした。室温まで放冷後、反応溶液に1M−酢酸ナトリウム水溶液を加えて反応を停止した後、ジクロロメタンで抽出を行い、有機相を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、濾過し、減圧濃縮して、シリカゲルカラムクロマトグラフィ(展開溶媒;ジクロロメタン:酢酸エチル=1:0、10:1、1:1)により精製することで、5−(5−(5−ホルミルチオフェン−2−イル)チオフェン−2−イル)チオフェン−2−カルボアルデヒド(5-(5-(5-formylthiophen-2-yl)thiophen-2-yl)thiophene-2-carbaldehyde;分子量304.41)〔3〕(38mg、0.125mmol)を得た。収率は12%であった。なお反応が途中で止まったモノカルボアルデヒド(分子量276.4)〔4〕(231mg、0.84mmol)が併せて得られた。収率は83%であった。
【0126】
フラーレン誘導体Aを下記スキームに従って合成した。
【0127】
【化18】

【0128】
5−(5−(5−ホルミルチオフェン−2−イル)チオフェン−2−イル)チオフェン−2−カルボアルデヒド(5-(5-(5-formylthiophen-2-yl)thiophen-2-yl)thiophene-2-carbaldehyde)〔3〕(21mg、0.070mmol)、[2−(2−メトキシエトキシ)エチルアミノ]酢酸〔2〕(71mg、0.40mmol)、C60フラーレン(630mg、0.88mmol)を容量100mLの2口ナスフラスコに加え、クロロベンゼン(60mL)に溶解した反応溶液を7時間加熱還流した。反応溶液を室温まで放冷後、溶媒を減圧留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィ(展開溶媒;二硫化炭素:酢酸エチル=1:0、30:1)を用いて未反応のC60フラーレンを除去し、残渣をシリカゲル薄層クロマトグラフィ(展開溶媒;トルエン:酢酸エチル=10:1)により精製した。フラーレンに2個の環が付加したフラーレン誘導体であるフラーレン誘導体A(分子量1255.40)(67mg、0.050mmol)を得た。収率は76%であった。
【0129】
<実施例2>(フラーレン誘導体Cの合成)
フラーレン誘導体(C)を下記スキームに従って合成した。
ジムロートコンデンサを装着した容量100mLの2口フラスコに、C60フラーレン(216mg、0.30mmol)と、[2−(2−メトキシエトキシ)エチルアミノ]酢酸〔2〕(89mg、0.50mmol)と、5,5−(2,1,3−ベンゾチアジアゾール−4,7−ジイル)ビス−2−チオフェンカルボキサルデヒド(5,5-(2,1,3-Benzothiadiazole-4,7-diyl)bis-2-thiophenecarboxaldehyde)〔8〕(71mg、0.20mmol)とを入れ、100mLのクロロベンゼンを加えて3時間加熱還流した。室温まで放冷後、ロータリーエバポレータで溶媒を除去し、残渣をメタノールで5回洗浄した。次いで、洗浄後の残渣をシリカゲルフラッシュカラムクロマトグラフィ(展開溶媒;二硫化炭素:酢酸エチル=1:0、10:1)、分取薄層クロマトグラフィ(展開溶媒;二硫化炭素:酢酸エチル=10:1)で精製し、フラーレン誘導体Cを113mg(0.09mmol)得た。フラーレン誘導体Cは褐色粉末として得られた。フラーレン誘導体Cの収率は43%であった。
【0130】
【化19】

【0131】
実施例1及び2から明らかなように、本発明のフラーレン誘導体の製造方法によれば、2価の有機基(Q)により互いに連結された2個の環構造(B環)が付加したフラーレン誘導体を効率よく製造することができる。本発明のフラーレン誘導体の製造方法によれば、付加基、又は原料であるビスアルデヒド化合物、グリシン誘導体の構造に起因してこれらのフラーレン環における付加位置が限定されるため、付加数の異なる副生物や異性体の生成を効果的に抑制することができる。よって本発明のフラーレン誘導体を極めて高い収率で得ることができる。従って本発明のフラーレン誘導体の製造方法は生産性において極めて優れた製造方法であり、適用される例えば有機光電変換素子の製造コストの削減に大いに寄与する。
【0132】
また本発明のフラーレン誘導体の製造方法によれば、上述したように目的とするフラーレン誘導体の収率が極めて高いため、精製によるさらなる高純度化が容易である。よってかかる製造方法により製造されたフラーレン誘導体は、有機光電変換素子の電気的特性、ひいては光電変換効率のさらなる向上に大いに寄与する。
【0133】
<比較例1>(フラーレン誘導体Bの合成)
フラーレン誘導体Bを下記スキームに従って合成した。
【0134】
【化20】

【0135】
ジムロートコンデンサを装着した2口フラスコ(200mL)にフラーレンC60(500mg、0.69mmol)、[2−(2−メトキシエトキシ)エチルアミノ]酢酸〔2〕(369mg、2.08mmol)、2−メトキシベンズアルデヒド〔5〕(2−methoxybenzaldehyde)(470mg、3.45mmol)を入れ、クロロベンゼン(100mL)を加えて3時間加熱還流した。室温まで放冷後、ロータリーエバポレータで溶媒を除去し、ついでシリカゲルフラッシュカラムクロマトグラフィ(展開溶媒;トルエン:酢酸エチル=1:0から10:0)を用いて精製した後、分取薄層クロマトグラフィ(展開溶媒;二硫化炭素:酢酸エチル=10:1)を用いて分取し、フラーレンC60(95mg、0.13mmol)、モノ付加体〔6〕(フラーレン誘導体C)(302mg、0.31mmol)、褐色粉末であるジ付加体〔7〕(フラーレン誘導体B)(237mg、0.19mmol)を得た。フラーレンに2個の環が付加したフラーレン誘導体であるフラーレン誘導体Bの収率は28%であった。
【0136】
フラーレン誘導体B:
IR (Neat, cm-1) 2864, 2827, 1489, 1460, 1425, 1284, 1244, 1179, 1109, 1048, 1026, 754, 729, 527;
MALDI-TOF-MS (matrix: SA) found 1222.3297 (calcd for C88H42N2O6: Exact Mass: 1222.3, Mol. Wt.: 1223.28. m/e: 1222.30 (100.0%), 1223.31 (95.9%), 1224.31 (46.7%), 1225.31 (15.4%), 1226.32 (3.8%)。
フラーレン誘導体C:
1H NMR (500 MHz, ppm, CDCl3, J= Hz) δ 2.77-2.82 (1H, m), 3.39 (3H, s), 3.61 (2H, t, J= 4.5 Hz), 3.69 (3H, s), 3.71-3.78 (2H, m), 3.92-4.02 (2H, m), 4.27 (1H, d, J= 9.6 Hz), 5.18 (1H, d, J=9.6 Hz), 5.73 (1H, s), 6.85 (1H, d, J=8.2 Hz), 7.01 (2H, t, J=7.5 Hz), 7.20 (1H, m), 7.94 (1H, d, J= 7.8Hz); 13C NMR (125 MHz, ppm, CDCl3) δ52.19, 54.71, 58.77, 67.45, 69.17, 70.49, 70.57, 71.96, 73.92, 75.24, 76.75, 110.67, 121.10, 125.42, 128.80, 129.74, 134.32, 135.79, 136.21, 136.31, 139.09, 139.17, 139.86, 139.96, 141.27, 141.42, 141.52, 141.69, 141.78, 141.88, 141.96, 142.00, 142.05, 142.27, 142.33, 142.36, 142.71, 142.76, 144.08, 144.13, 144.29, 144.77, 144.94, 144.97, 145.03, 145.28, 145.44, 145.59, 145.74, 145.81, 145.86, 145.90, 145.94, 146.25, 146.47, 146.96, 153.86, 153.91, 154.76, 156.72, 157.79;
IR (Neat, cm-1) 2864, 2827, 1489, 1460, 1425, 1284, 1244, 1179, 1109, 1048, 1026, 754, 729, 527; MALDI-TOF-MS (matrix: SA) found 971.1526 (calcd for C74H21NO3Exact Mass: 971.1521).
【0137】
<実施例3>(有機薄膜太陽電池の作製、評価)
電子供与体としてレジオレギュラーポリ3−ヘキシルチオフェン(アルドリッチ社製、ロット番号:09007KH)を1%(重量%)の濃度でクロロベンゼンに溶解させた。その後、フラーレン誘導体Aを電子供与体の重量に対して等倍重量となるように電子受容体として溶液に混合した。その後、吸着剤として溶液100重量部に対し1重量部のシリカゲル(和光純薬製 Wakogel C−300 粒径45〜75μm)を添加し、12時間攪拌した。次いで孔径1.0μmのテフロン(登録商標)フィルタで濾過し、塗布溶液を作製した。
【0138】
ガラス基板の一方の主面に、スパッタ法により150nmの厚みでITO膜を成膜した。ITO膜に対しオゾンUV処理による表面処理を行った。次にITO膜上に、前記塗布溶液をスピンコートにより塗布し、真空中90℃の条件で60分間ベークを行って、有機薄膜太陽電池の活性層(膜厚約100nm)を得た。その後、真空蒸着機により活性層上にフッ化リチウムを4nmの厚さで蒸着し、次いでアルミニウム(Al)を100nmの厚さで蒸着して有機薄膜太陽電池とした。蒸着工程の際の真空度は、すべて1〜9×10-3Paであった。また得られた有機薄膜太陽電池の形状は、2mm×2mmの正四角形であった。得られた有機薄膜太陽電池の開放端電圧(Voc)は、ソーラシミュレータ(分光計器製、商品名OTENTO-SUNII:AM1.5Gフィルタ、放射照度100mW/cm)を用いて一定の光を照射することにより発生する電流及び電圧を測定して求めた。結果を表1に示す。
【0139】
<比較例2>(有機薄膜太陽電池の作製、評価)
フラーレン誘導体Aを、[60]−PCBM(フロンティアカーボン社製、商品名E100、ロット番号:9B0024−A)に代えた以外は実施例3と同様にして有機薄膜太陽電池を作成し、同様の操作を行って開放端電圧を求めた。結果を表1に示す。
【0140】
【表1】

【0141】
表1から明らかなように、本発明のフラーレン誘導体(フラーレン誘導体A)を活性層に含有している実施例2の有機薄膜太陽電池は、従来技術に相当する比較例2の有機薄膜太陽電池と比較して、より高い開放端電圧が得られた。
【0142】
上述の説明から明らかなように、本発明のフラーレン誘導体を含む層を有機薄膜太陽電池、有機光センサといった有機光電変換素子の活性層として用いれば、特に光電変換効率という観点から極めて重要な特性である開放端電圧をより高めることができる。よって本発明のフラーレン誘導体は、有機光電変換素子の光電変換効率をより高めるのに大いに寄与する。
【符号の説明】
【0143】
10 有機光電変換素子
20 基板
32 第1電極
34 第2電極
40 活性層
42 電子供与性層
44 電子受容性層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される構造を有するフラーレン誘導体。
【化1】

[式(1)中、A環は炭素数が60以上であるフラーレン環を表す。B環及びB環は、独立して炭素数が3〜6である複素環を表す。R及びRは、独立して1価の官能基を表す。Qは2価の有機基を表し、B環及びB環が有する炭素原子と結合している。j及びkは、独立して0〜8の整数を表す。Rが複数個存在する場合には、R同士は互いに異なっていてもよい。Rが複数個存在する場合には、R同士は互いに異なっていてもよい。C1、C2、C3及びC4は、A環を構成する炭素原子であり、C1及びC2、C3及びC4は、それぞれA環において隣り合っている。]
【請求項2】
下記式(2)で表される、請求項1に記載のフラーレン誘導体。
【化2】

[式(2)中、A環、R、R、Q、C1、C2、C3及びC4は前記式(1)における定義と同義である。]
【請求項3】
前記Qが式(3)で表される構造を有する、請求項1又は2に記載のフラーレン誘導体。
【化3】

[式(3)中、R及びRは、独立して水素原子又はアルキル基を表す。cは1〜5の整数を表す。Rが複数個存在する場合には、R同士は互いに異なっていてもよい。Rが複数個存在する場合には、R同士は互いに異なっていてもよい。]
【請求項4】
下記式(4)で表される、請求項1〜3のいずれか一項に記載のフラーレン誘導体。
【化4】

[式(4)中、環C60は、C60フラーレン環を表す。C1、C2、C3及びC4は前記式(1)における定義と同義である。]
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のフラーレン誘導体と電子供与性化合物とを含む組成物。
【請求項6】
電子供与性化合物が、高分子化合物である請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
陽極及び陰極からなる一対の電極と、
一対の電極間に挟持された請求項1〜4のいずれか一項に記載のフラーレン誘導体を含む層と
を有する有機光電変換素子。
【請求項8】
陽極及び陰極からなる一対の電極と、
一対の電極間に挟持された請求項5又は6に記載の組成物を含む層と
を有する有機光電変換素子。
【請求項9】
陽極及び陰極からなる一対の電極と、
一対の電極間に挟持される活性層であって、請求項1〜4のいずれか一項に記載のフラーレン誘導体を含む電子受容性層及び該電子受容性層に接合される電子供与性化合物を含む電子供与性層を有している前記活性層と
を有する有機光電変換素子。
【請求項10】
フラーレンと、N−メトキシメチルグリシン、N−(2−(2−メトキシエトキシ)エチル)グリシン及び[2−(2−メトキシエトキシ)エチルアミノ]酢酸からなる群から選ばれるグリシン誘導体と、5−(5−(5−ホルミルチオフェン−2−イル)チオフェン−2−イル)チオフェン−2−カルボアルデヒドとを、溶媒中で加熱還流して反応させる工程と、
溶媒を除去し、シリカゲルフラッシュカラムクロマトグラフィ及び分取薄層クロマトグラフィにより分離精製する工程と
を含む、請求項1に記載のフラーレン誘導体の製造方法。
【請求項11】
グリシン誘導体が、[2−(2−メトキシエトキシ)エチルアミノ]酢酸である、請求項10に記載のフラーレン誘導体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−241205(P2011−241205A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−88295(P2011−88295)
【出願日】平成23年4月12日(2011.4.12)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【出願人】(504150461)国立大学法人鳥取大学 (271)
【Fターム(参考)】